IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-pH・酸化還元電位調整水の製造装置 図1
  • 特許-pH・酸化還元電位調整水の製造装置 図2
  • 特許-pH・酸化還元電位調整水の製造装置 図3
  • 特許-pH・酸化還元電位調整水の製造装置 図4
  • 特許-pH・酸化還元電位調整水の製造装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】pH・酸化還元電位調整水の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/68 20060101AFI20220614BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20220614BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C02F1/68 520B
C02F1/58 H
C02F1/68 510A
C02F1/68 530K
C02F1/68 530L
C02F1/68 540D
B01D61/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020189189
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078489
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】顔 暢子
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特許第6299912(JP,B2)
【文献】特許第6299913(JP,B2)
【文献】特開2019-147112(JP,A)
【文献】特開2009-219995(JP,A)
【文献】特開2000-216130(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045975(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/250495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/20
C02F 1/68
C02F 1/58
C02F 9/00
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水にpH調整剤と酸化還元電位調整剤とを添加して所望とするpH及び酸化還元電位の調整水を製造するpH・酸化還元電位調整水の製造装置であって、
超純水供給ラインに過酸化水素除去機構を設け、
この過酸化水素除去機構の後段にpH調整剤添加機構と酸化還元電位調整剤添加機構とを備え、
前記pH調整剤添加機構及び/又は酸化還元電位調整剤添加機構の後段に脱気機構と、該脱気機構の後段に不活性ガス溶解機構と、を有
製造されるpH及び酸化還元電位調整水のpHが0~5であり、酸化還元電位が-0.4~+0.4Vであり、さらに溶存酸素濃度が50ppb以下であるpH・酸化還元電位調整水を製造し、
pH・酸化還元電位調整水の洗浄対象が、一部もしくは全面にモリブデンが露出する半導体材料である、pH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項2】
前記pH・酸化還元電位調整水のpH及び酸化還元電位を監視するための洗浄水質監視機構と、該洗浄水質監視機構の測定値に基づき前記pH調整剤添加機構と酸化還元電位調整剤添加機構を制御する制御手段とを備える、請求項1に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項3】
前記洗浄水質監視機構が不活性ガス濃度測定手段を有し、前記制御手段が該洗浄水質監視機構の測定値に基づき不活性ガス溶解機構を制御可能である、請求項2に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項4】
前記pH調整剤が、塩酸、硝酸、酢酸及びCOガスから選ばれた1種又は2種以上であり、前記酸化還元電位調整剤がシュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウム及び水素ガスから選ばれた1種又は2種以上であり、前記不活性ガスが、窒素、アルゴン及びヘリウムから選ばれた1種又は2種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項5】
前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が液体であり、前記pH調整剤添加機構又は酸化還元電位調整剤添加機構が、液体のpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を供給するポンプ、または液体のpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を貯留したタンクから不活性ガスにより供給する加圧押出手段により押し出し供給される、請求項1~4のいずれか1項に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項6】
前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が気体であり、前記pH調整剤添加機構又は酸化還元電位調整剤添加機構が、気体透過性膜モジュールあるいは直接的気液接触装置によるガス溶解手段である、請求項1~5のいずれか1項に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項7】
前記不活性ガス溶解機構が、気体透過性膜モジュールあるいは直接的気液接触装置によるガス溶解手段である、請求項1~6のいずれか1項に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子産業分野等で洗浄水・リンス水などとして使用されるpH・酸化還元電位調整水の製造装置に関し、特に一部または全面にモリブデンなどのクロム族元素が露出している半導体ウェハの洗浄・リンス水工程で、ウェハの帯電やクロム族元素の腐食溶解を最小化することの可能な洗浄水を製造するpH・酸化還元電位調整水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の等の製造工程では、半導体用ウェハ表面を清浄に保つため、洗浄水として超純水を用い、ウェハ表面を洗浄するリンス工程がある。このリンス工程で用いる超純水は、その純度が高いほど比抵抗値が高くなるが、比抵抗値の高い超純水を用いることで、洗浄時に静電気が発生しやすくなり、絶縁膜の静電破壊や微粒子の再付着を招く。そのため、超純水に微量の炭酸ガスやアンモニアを溶解させて洗浄水の比抵抗を低下させる方法が一般的に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、超純水は、その製造過程で生成する過酸化水素を含有している。また、一般的に超純水や超純水に炭酸ガスなどを溶解させた洗浄水は、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)製配管を通し洗浄機に送られるが、PFA製配管はガス透過性が高く、洗浄機のノズル出口での洗浄水中の溶存酸素濃度は超純水製造設備出口もしくは洗浄水製造装置出口よりも高くなる。そのため、超純水や洗浄水中には過酸化水素だけでなく、溶存酸素も含まれている。このような超純水もしくは洗浄水を用い、ウェハ表面の一部もしくは全面にモリブデンのようなクロム族元素が露出するウェハを洗浄した場合、超純水もしくは洗浄水中に含まれる過酸化水素と溶存酸素によりウェハ表面に露出するクロム族元素が腐食し、半導体性能が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、従来は、例えばウェハ表面にモリブデンのようなクロム族元素が露出している半導体用ウェハの洗浄水として、超純水にアンモニアを微量溶解した希薄アンモニア溶液や、超純水にCOを溶解させた炭酸水を洗浄水として用いている。しかしながら、洗浄水のpHはその添加物質の種類によって変化するため、アルカリ性を示す希薄アンモニア水を洗浄水とした場合には、半導体用ウェハの帯電防止は可能だが、クロム族元素(モリブデン)の腐食溶解が発生する、という問題がある。また、酸性を示す炭酸水は、超純水に炭酸ガスを溶解し製造するため、超純水製造過程で生成する過酸化水素を含有している。さらに、製造された炭酸水はガス透過性を持つPFA製配管を通し送液されるため、洗浄機ノズル出口の炭酸水中溶存酸素濃度は製造装置出口よりも数10ppb程度高くなる。また、洗浄水が洗浄機ノズルを出ると大気にさらされることになるため、ウェハに接触するまでに洗浄水の溶存酸素濃度は大きく上昇する。そのため、炭酸水のモリブデンの溶解抑制効果は不十分であり、より溶解抑制効果のある洗浄水の開発が期待されている。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、洗浄水のpH・酸化還元電位のコントロールだけでなく、洗浄水中に含まれる過酸化水素や、洗浄水送液中に増加する溶存酸素濃度を限りなく低い濃度に抑えることでウェハの帯電防止が可能であり、さらに半導体用ウェハの一部もしくは全面にクロム族元素(モリブデン)が露出するウェハ表面のリンス工程において、金属の溶解を最小限に抑制することの可能なpH・酸化還元電位調整水の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み本発明は、超純水にpH調整剤と酸化還元電位調整剤とを添加して所望とするpH及び酸化還元電位の調整水を製造するpH・酸化還元電位調整水の製造装置であって、超純水供給ラインに過酸化水素除去機構を設け、この過酸化水素除去機構の後段にpH調整剤添加機構と酸化還元電位調整剤添加機構とを備え、前記pH調整剤添加機構及び/又は酸化還元電位調整剤添加機構の後段に脱気機構と、該脱気機構の後段に不活性ガス溶解機構とを有する、pH・酸化還元電位調整水の製造装置を提供する(発明1)。
【0007】
かかる発明(発明1)によれば、超純水供給ラインから超純水を過酸化水素除去機構に通水することにより、超純水中に微量含まれる過酸化水素を除去することで酸化還元電位を低下させ、続いて所望とするpHとなるようにpH調整剤を添加するとともに酸化還元電位調整剤を添加してpH・酸化還元電位調整水を調製する。この際、pH調整剤添加機構あるいは酸化還元電位調整剤添加機構の後段に脱気機構を設けることで、洗浄水としてのpH・酸化還元電位調整水の溶存ガスを極力排除し、その後pH・酸化還元電位調整水に不活性ガスを溶解することで、pH・酸化還元電位調整水の性状を安定化することができる。これらにより、ウェハの帯電防止に加え、ウェハ表面の一部もしくは全面に露出するモリブデンなどのクロム族元素の溶解を極力抑制可能なpH・酸化還元電位調整水を製造することができる。
【0008】
上記発明(発明1)においては、前記pH・酸化還元電位調整水のpH及び酸化還元電位を監視するための洗浄水質監視機構と、該洗浄水質監視機構の測定値に基づき前記pH調整剤添加機構と酸化還元電位調整剤添加機構を制御する制御手段とを備えることが好ましい(発明2)。
【0009】
かかる発明(発明2)によれば、洗浄水質監視機構でのpH・酸化還元電位調整水のpH及び酸化還元電位の測定結果に基づいて、pH及び酸化還元電位を、例えばモリブデンなどのクロム族元素の腐食が生じないものとなるように制御手段によりpH調整剤及び酸化還元電位調整剤の添加量を制御することで、原水中の溶存過酸化水素の影響を排除して、所望とするpH及び酸化還元電位の調整水を製造することができる。
【0010】
上記発明(発明1,2)においては、前記洗浄水質監視機構が不活性ガス濃度測定手段を有し、前記制御手段が該洗浄水質監視機構の測定値に基づき不活性ガス溶解機構を制御可能であることが好ましい(発明3)。
【0011】
かかる発明(発明3)によれば、洗浄水質監視機構でのpH・酸化還元電位調整水の不活性ガス濃度の測定結果に基づいて、不活性ガス濃度が所望の範囲となるように制御手段により不活性ガスの溶解量を制御することで、pH・酸化還元電位調整水の性状を安定化することができる。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、前記pH調整剤が、塩酸、硝酸、酢酸及びCOガスから選ばれた1種又は2種以上であり、前記酸化還元電位調整剤がシュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウム及び水素ガスから選ばれた1種又は2種以上であり、前記不活性ガスが、窒素、アルゴン及びヘリウムから選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい(発明4)。
【0013】
かかる発明(発明4)によれば、これらを適宜選択することで、pH・酸化還元電位調整水のpH、酸化還元電位を所望の値に調整し、不活性ガスを選択することで洗浄水の安定化することができる。
【0014】
上記発明(発明1~4)においては、前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が液体であり、前記pH調整剤添加機構又は化還元電位調整剤添加機構が、液体のpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を供給するポンプ、または液体のpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を貯留したタンクから不活性ガスにより押し出し供給する加圧押出手段により供給されることが好ましい(発明5)。
【0015】
かかる発明(発明5)によれば、液体としてのpH調整剤及び酸化還元電位調整剤の微量添加を安定して制御することができ、所望とするpH及び酸化還元電位の調整水を製造することができる。
【0016】
上記発明(発明1~5)においては、前記pH調整剤又は酸化還元電位調整剤が気体であり、前記pH調整剤添加機構又は化還元電位調整剤添加機構が、気体透過性膜モジュールあるいは直接的気液接触装置によるガス溶解手段であることが好ましい(発明6)。
【0017】
かかる発明(発明6)によれば、気体としてのpH調整剤及び酸化還元電位調整剤の微量な溶解を安定して制御することができ、所望とするpH及び酸化還元電位の調整水を製造することができる。
【0018】
上記発明(発明1~6)においては、前記不活性ガス溶解機構が、気体透過性膜モジュールあるいは直接的気液接触装置によるガス溶解手段であることが好ましい(発明7)。
【0019】
かかる発明(発明7)によれば、不活性ガスを効率良く溶解することができる。
【0020】
上記発明(発明1~7)においては、製造されるpH及び酸化還元電位調整水のpHが0~5であり、酸化還元電位が-0.4~+0.4Vであり、さらに溶存酸素濃度が50ppb以下であることが好ましい(発明8)。
【0021】
かかる発明(発明8)によれば、上記範囲内でpH・酸化還元電位を調整することで、モリブデンなどのクロム族元素が露出している半導体ウェハを洗浄対象とするのに好適なpH・酸化還元電位調整水を製造する装置とすることができる。
【0022】
上記発明(発明1~8)においては、pH・酸化還元電位調整水の洗浄対象が、一部もしくは全面にクロム族元素が露出する半導体材料であることが好ましい(発明9)。特に前記クロム族元素がモリブデンである場合に好適である(発明10)。
【0023】
かかる発明(発明9,10)によれば、モリブデンなどのクロム族元素等の遷移金属の種類に応じて、該遷移金属の腐食を抑制可能なpH及び酸化還元電位を有するpH・酸化還元電位調整水を調整することができるので、これらクロム族元素が露出した半導体材料の洗浄に好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のpH・酸化還元電位調整水の製造装置によれば、超純水中に微量含まれる過酸化水素を除去することで酸化還元電位を低下させ、続いて所望とするpH及び酸化還元電位に調整し、さらに脱気機構を設けることで、洗浄水としてのpH・酸化還元電位調整水の溶存ガスを極力排除し、その後pH・酸化還元電位調整水に不活性ガスを溶解しているので、pH・酸化還元電位調整水の性状を安定化することができる。これらにより、ウェハの帯電防止に加え、ウェハ表面の一部もしくは全面に露出するモリブデンなどのクロム族元素の更なる溶解抑制を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第一の実施形態によるpH・酸化還元電位調整水の製造装置を示す概略図である。
図2】本発明の第二の実施形態によるpH・酸化還元電位調整水の製造装置を示す概略図である。
図3】実施例1~4及び参考例1における洗浄水の相違によるモリブデンの溶解速度を示すグラフである。
図4】実施例5~7及び参考例2における洗浄水の過酸化水素濃度の相違による各pHでのモリブデンの溶解速度との関係を示すグラフである。
図5】実施例8,9における洗浄水の溶存酸素濃度の相違による各pHでのモリブデンの溶解速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第一の実施形態>
以下、本発明のpH・酸化還元電位調整水の製造装置の第一の実施形態について添付図面を参照にして詳細に説明する。
【0027】
〔pH・酸化還元電位調整水の製造装置〕
図1は、第一の実施形態のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を示しており、図1においてpH・酸化還元電位調整水の製造装置1は、超純水Wの供給ライン2に過酸化水素除去機構たる白金族金属担持樹脂カラム3を設け、この後段にpH調整剤添加機構としてのpH調整剤タンク4がポンプ4Bを備えた供給管4Aを介して設けられているとともに、酸化還元電位調整剤添加機構としての酸化還元電位調整剤タンク5がポンプ5Bを備えた供給管5Aを介して設けられている。また、pH調整剤タンク4及び酸化還元電位調整剤タンク5の後段には脱気機構としての膜式脱気装置6を備え、この膜式脱気装置膜6の気相側には真空ポンプ(VP)6Aが接続している。さらに、膜式脱気装置6の後段には、不活性ガス溶解機構としてのガス溶解膜7が配置されていて、このガス溶解膜7の気相室側は、不活性ガスとしてのNガス源に接続している。そして、供給ライン2のガス溶解膜7の下流側には、pH計測手段としてのpH計と酸化還元電位計測手段としてのORP計と不活性ガス濃度測定手段とを備えた洗浄水質監視機構(図示せず)が設けられており、この洗浄水質監視機構は図示しない制御手段に接続されている。この制御手段は洗浄水質監視機構の計測値に基づいてpH調整剤タンク4のポンプ4B、酸化還元電位調整剤タンク5のポンプ5B及びガス溶解膜7を制御可能となっている。
【0028】
<超純水>
本実施形態において、原水となる超純水Wとは、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものが好適である。
【0029】
<過酸化水素除去機構>
本実施形態においては、過酸化水素除去機構として白金族金属担持樹脂カラム3を使用することが好ましい。
【0030】
(白金族金属)
本実施形態において、白金族金属担持樹脂カラムに用いる白金族金属担持樹脂に担持する白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。こられの白金族金属は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもでき、2種以上の合金として用いることもでき、あるいは、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので好適に用いることができる。また、これらの金属のナノオーダーの微粒子も特に好適に用いることができる。
【0031】
(担体樹脂)
白金族金属担持樹脂カラム3において、白金族金属を担持させる担体樹脂としては、イオン交換樹脂を用いることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂を特に好適に用いることができる。白金系金属は、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定に担持されて剥離しにくいものとなる。アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。OH形アニオン交換樹脂は、樹脂表面がアルカリ性となり、過酸化水素の分解を促進する。
【0032】
<pH調整剤注入機構及び酸化還元電位調整剤注入機構>
本実施形態において、これらの注入装置としては特に制限はなく、一般的な薬剤注装置を用いることができる。pH調整剤または酸化還元電位調整剤が液体の場合には、本実施形態のようにポンプ4B,5Bを設ければよく、このポンプ4B,5Bとしては、ダイヤフラムポンプなどを用いることができる。また、密閉容器にpH調整剤または酸化還元電位調整剤をNガスなどの不活性ガスとともに入れておき、不活性ガスの圧力によりこれらの薬剤を押し出す加圧押出式ポンプも好適に用いることができる。また、pH調整剤または酸化還元電位調整剤が気体の場合には、気体溶解膜モジュールやエゼクター等の直接的な気液接触装置を用いることができる。
【0033】
<pH調整剤>
本実施形態において、pH調整剤タンク4から注入するpH調整剤としては特に制限はなく、pH7未満に調整する場合には、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの液体及びCOガスなどのガス体を用いることができる。また、pH7以上に調整する場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はTMAH等を用いることができる。例えば、モリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄水としてpH・酸化還元電位調整水を用いる場合には、酸性(pH7未満)とするのが好ましい。したがって、この場合には、pH調整剤として、例えば塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの液体及びCOガスなどのガス体を用いることが好ましい。
【0034】
<酸化還元電位調整剤>
本実施形態において、酸化還元電位調整剤タンク5から注入する酸化還元電位調整剤としては特に制限はないが、酸化還元電位を高く(+側)調整する場合には、過酸化水素水などの液体や、オゾンガス、酸素ガスなどのガス体を用いることが好ましい。また、酸化還元電位を低く調整する場合にはシュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウムなどの液体や、水素などのガス体を用いることが好ましい。例えば、酸化還元電位調整剤をモリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄水として用いる場合には、これらの材料の溶出を抑制するために酸化還元電位を低く(-側)調整するのが好ましい。したがって、この場合には、酸化還元電位調整剤として、例えばシュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウム及び水素ガスを用いることが好ましい。
【0035】
<膜式脱気装置>
本実施形態において、膜式脱気装置6としては、脱気膜の一方の側(液相側)にpH・酸化還元電位調整水W2を流し、他方の側(気相側)を真空ポンプ(VP)6Aで吸気することで、溶存酸素などの溶存ガスを、脱気膜を透過させて気相室側に移行させて除去する構成のものを用いることができる。脱気膜は、酸素、窒素、蒸気等のガスは通過するが水は透過しない膜であれば良く、例えば、シリコンゴム系、ポリテトラフルオロエチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等がある。この脱気膜としては市販の各種のものを用いることができる。
【0036】
<ガス溶解膜>
本実施形態において、ガス溶解膜7としては、ガス溶解膜の一方の側(液相側)にpH・酸化還元電位調整水W2を流し、他方の側(気相側)にNガスを供給することで、pH・酸化還元電位調整水W2に不活性ガスを溶解する。なお、不活性ガスとしては、Nガスに限らず、アルゴン及びヘリウムなども好適に用いることができる。
【0037】
〔pH・酸化還元電位調整水の製造方法〕
上述したような構成を有する本実施形態のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を用いた高純度のpH・酸化還元電位調整水の製造方法について以下説明する。
【0038】
一般的に超純水Wには数十ppb程度の過酸化水素が含まれているため、洗浄水の酸化還元電位を精度よくコントロールするためには、超純水W中の過酸化水素を除去しておく必要がある。そこで、まず、原水としての超純水Wを供給ライン2から白金族金属担持樹脂カラム3に供給する。この白金族金属担持樹脂カラム3では白金族金属の触媒作用により、超純水W中の過酸化水素を分解除去する、すなわち過酸化水素除去機構として機能する。
【0039】
次にこの超純水Wに対し、pH調整剤タンク4からポンプ4Bにより供給管4Aを介してpH調整剤を注入してpH調整水W1を調製し、続いて酸化還元電位調整剤タンク5からポンプ5Bにより供給管5Aを介して酸化還元電位調整剤を注入してpH・酸化還元電位調整水W2を調製する。ここで、モリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄水とする場合、pH調整剤及び酸化還元電位調整剤は、調整水W2のpHが0~5で、酸化還元電位が-0.4~+0.4Vとなるように注入量を制御すればよい。
【0040】
なお、モリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄用の調整水W2を上記pH及び酸化還元電位を上記範囲とする理由は以下のとおりである。すなわち、ある電位-pH条件下の水溶液中で金属がどのような状態の化学種が最も安定かを示したモリブデンのプールベ図によると、モリブデンはアルカリ条件下では、水溶液のpHおよび酸化還元電位の違いによらず溶解することが分かる。一方、酸性条件下では、水溶液のpHおよび酸化還元電位の違いによって溶解・不動態化といった挙動が異なることを読み取ることができる。しかしながら、本発明者は、pHおよび過酸化水素濃度を変化させたモリブデン膜付きウェハの浸漬試験から、pHが小さい程モリブデンの溶解は起こりにくいことを見出した。さらに、酸性条件下であっても過酸化水素濃度が高くなる(酸化還元電位が高くなる)ほど、モリブデンの溶解量は増加することがわかった。また、処理液中の溶存酸素によってもモリブデンの溶解が促進されることがわかった。これらの結果より、酸性条件下であっても酸化還元電位を最適な値にコントロールする必要があると言える。以上により、ウェハの一部または全面に露出した遷移金属、特にクロム族元素(モリブデン)の腐食溶解を最小化するには、洗浄液のpHだけでなく、酸化還元電位も最適な値になるようpH調整剤と酸化還元電位調整剤の濃度を両方にコントロールし、かつ洗浄水の溶存酸素濃度を可能な限り低減させ、かつ増加させずにpH・酸化還元電位調整水を供給する必要がある。
【0041】
続いて、このpH・酸化還元電位調整水W2を膜式脱気装置6に供給する。膜式脱気装置6では、疎水性気体透過膜により構成された液相室及び気相室の液相室側にpH・酸化還元電位調整水W2を流すとともに、気相室を真空ポンプ(VP)6Aで減圧することにより、pH・酸化還元電位調整水W2中に含まれる溶存酸素等の溶存ガスを疎水性気体透過膜を通して気相室に移行させることで除去する。これによりpH・酸化還元電位調整水W2の溶存酸素濃度を非常に低いレベルにまで低減した脱気調整水を得ることができる。このようにpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を直接脱気せずにpH・酸化還元電位調整水W2とした後脱気することにより、これらの薬剤を真空脱気する際の薬液漏えいなどのリスクを低減することができる。そして、最後にガス溶解膜7からNガスを供給して、脱気調整水の性状を安定化することにより安定化させたpH・酸化還元電位調整水(安定化調整水)W3を製造することができる。
【0042】
この安定化調整水W3は、ガス溶解膜7の後の供給ライン2に設けられた洗浄水質監視機構により、pH、酸化還元電位を測定し、所望とするpH及び酸化還元電位であるか否かが監視される。安定化調整水W3は、超純水Wの供給量のわずかな変動によってもpH及び酸化還元電位が変動するので、安定化調整水W3が所望とするpH及び酸化還元電位となるように制御装置により、pH調整剤タンク4のポンプ4B、酸化還元電位調整剤タンク5のポンプ5Bを制御することで、pH調整剤及び還元電位調整剤の注入量を制御可能となっている。また、不活性ガス濃度測定手段により、安定化調整水W3の不活性ガス濃度が所定値になっていることを確認する。このような制御装置によるpH及び酸化還元電位の制御は、PI制御やPID制御などのフィードバック制御の他、周知の方法により制御することができる。
【0043】
<第二の実施形態>
次に、本発明のpH・酸化還元電位調整水の製造装置の第二の実施形態について添付図面を参照にして詳細に説明する。第二の実施形態のpH・酸化還元電位調整水の製造装置は、基本的には前述した第一の実施形態と同じ構成を有するので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0044】
〔pH・酸化還元電位調整水の製造装置〕
図2は、第二の実施形態のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を示しており、図2において、pH・酸化還元電位調整水の製造装置1は、超純水Wの供給ライン2に過酸化水素除去機構たる白金族金属担持樹脂カラム3を設け、この後段に酸化還元電位調整剤タンク5がポンプ5Bを備えた供給管5Aを介して設けられている。また、酸化還元電位調整剤タンク5の後段に膜式脱気装置6が設けられていて、この膜式脱気装置膜6の気相側には真空ポンプ(VP)6Aが接続している。さらに、膜式脱気装置6の後段には、ガス溶解膜7が配置されていて、このガス溶解膜7の気相室側は、不活性ガスとしてのNガス源と、pH調整剤としての炭酸ガス(CO)源に接続している。そして、ガス溶解膜7の後の供給ライン2には、pH計測手段としてのpH計と酸化還元電位計測手段としてのORP計と不活性ガス濃度測定手段とを備えた洗浄水質監視機構(図示せず)が設けられており、この洗浄水質監視機構は図示しない制御手段に接続されている。この制御手段は洗浄水質監視機構の計測値に基づいて酸化還元電位調整剤タンク5のポンプ5B及びガス溶解膜7を制御可能となっている。
【0045】
<ガス溶解膜>
本実施形態において、ガス溶解膜7としては、ガス溶解膜の一方の側(液相側)に超純水Wを流し、他方の側(気相側)にNガスと炭酸ガス(CO)を供給することで、洗浄水に不活性ガスと炭酸ガスを溶解する。ここで、Nガスと炭酸ガスとの分圧を調整することにより、洗浄水への炭酸ガスの溶解量、すなわちpHを調整することが可能となっている。
【0046】
〔pH・酸化還元電位調整水の製造方法〕
上述したような構成を有する本実施形態のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を用いた高純度の調整水の製造方法について以下説明する。
【0047】
まず、原水としての超純水Wを供給ライン2から白金族金属担持樹脂カラム3に供給する。この白金族金属担持樹脂カラム3では白金族金属の触媒作用により、超純水W中の過酸化水素を分解除去する、すなわち過酸化水素除去機構として機能する。
【0048】
次にこの超純水Wに対し、酸化還元電位調整剤タンク5からポンプ5Bにより供給管5Aを介して酸化還元電位調整剤を注入して酸化還元電位調整水W4を調製する。ここで、モリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄水とする場合、酸化還元電位が-0.4~+0.4Vとなるように注入量を制御すればよい。
【0049】
続いて、この酸化還元電位調整水W4を膜式脱気装置6に供給する。膜式脱気装置6では、疎水性気体透過膜により構成された液相室及び気相室の液相室側にpH・酸化還元電位調整水W2を流すとともに、気相室を真空ポンプ(VP)6Aで減圧することにより、酸化還元電位調整水W4中に含まれる溶存酸素等の溶存ガスを疎水性気体透過膜を通して気相室に移行させることで除去する。これにより酸化還元電位調整水W4の溶存酸素濃度を非常に低いレベルにまで低減することができる。
【0050】
そして、最後にガス溶解膜7からNガスと炭酸ガスとを溶解して酸化還元電位調整水W4のpHを調整するとともに安定化を図ることにより、安定化したpH・酸化還元電位調整水(安定化調整水)W5を得ることができる。ここで、モリブデンなどのクロム族元素が露出しているウェハの洗浄水とする場合、pH調整剤としての炭酸ガスは、安定化調整水W5のpHが0~5となるようにNガスと炭酸ガスとの供給分圧を制御すればよい。
【0051】
この安定化調整水W3は、供給ライン2に設けられた洗浄水質監視機構により、pH、酸化還元電位を測定し、所望とするpH及び酸化還元電位であるか否かが監視される。そして、超純水Wの供給量のわずかな変動によってもpH及び酸化還元電位が変動するので、安定化調整水W5が所望とするpH及び酸化還元電位となるように制御装置により、酸化還元電位調整剤タンク5のポンプ5Bと、ガス溶解膜7への供給ガス量及び分圧を制御することで、還元電位調整剤の注入量及び炭酸ガスの溶解量を制御可能となっている。また、このような制御装置によるpH及び酸化還元電位の制御は、PI制御やPID制御などのフィードバック制御の他、周知の方法により制御することができる。このようにpH調整剤や酸化還元電位調整剤がガスの場合には、最後段のガス溶解膜7において溶解することで、PFA製配管などを流通する場合でも、ガスの濃度の変動を最小限に抑制することができる。
【0052】
以上、本発明について添付図面を参照にして上記実施形態に基づき説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、第二の実施形態においては、pH調整剤としてガス体である炭酸ガス(CO)を用いたので、膜式脱気装置6の後段のガス溶解膜7においてpH調整剤を溶解させたが、酸化還元電位調整剤としてガス体(例えば水素ガス)を用いる場合には、同様に膜式脱気装置6の後段のガス溶解膜7において溶解させるように構成してもよい。また、pH・酸化還元電位調整水の供給ライン2には、流量計、温度計、圧力計、気体濃度計等のその他の計器類を任意の場所に設けることができる。さらに、pH調整剤タンク4及び酸化還元電位調整剤タンク5に薬液流量調整バルブを設けてもよい。
【実施例
【0053】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0054】
(処理液のpHがモリブデンの溶解に与える影響確認試験)
[実施例1]
300mmΦのPVD法によるモリブデン(Mo)膜付きウェハから20mm×20mmの角形の試験片を切り出した。この試験片を超純水に塩酸を溶解した塩酸水溶液(塩酸濃度:100ppm、溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放)、pH約2)に室温にて20分間浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解量を算出した。結果を図3に示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、試験片を超純水にアンモニア(NHOH)を溶解したアンモニア水溶液(アンモニア濃度:10ppm、溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放)、pH約10)に室温にて20分間浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解量を算出した。結果を図3にあわせて示す。
【0056】
[実施例3]
実施例1において、試験片を超純水に水酸化ナトリウム(NaOH)を溶解した水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:1000ppm、溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放)、pH約12)に室温にて20分間浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解量を算出した。結果を図3にあわせて示す。
【0057】
[実施例4]
実施例1において、試験片を超純水に過酸化水素(H)を溶解した過酸化水素水溶液(過酸化水素濃度:10ppm、溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放)、pH約6)に室温にて20分間浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解量を算出した。結果を図3にあわせて示す。
【0058】
[参考例1]
実施例1において、試験片を超純水(溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放))に室温にて20分間浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解量を算出した。結果を図3にあわせて示す。
【0059】
図3から明らかなように、処理液によらず試験片には浸漬直後に3~4nm程度のモリブデンの溶解が発生することがわかった。この浸漬直後のモリブデンの溶解量が処理液の液性の違いによらずほぼ同等であることから、これはHOにのみ溶解するモリブデン化合物が溶解するためであると考えられる。
【0060】
(モリブデンの溶解速度のpH、酸化剤濃度の依存性の検証試験)
[実施例5]
300mmΦのPVD法によるモリブデン(Mo)膜付きウェハから20mm×20mmの角形の試験片を切り出した。この試験片を超純水に過酸化水素(H)を溶解したpHを種々変動させた過酸化水素水溶液(過酸化水素濃度:80ppm、溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放))に室温にて20分間それぞれ浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解速度を算出した。この溶解速度とpHの関係を図4に示す。
【0061】
[実施例6]
実施例5において、過酸化水素濃度を100pmとしてpHを種々変動させた過酸化水素水溶液に試験片を室温にて20分間それぞれ浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解速度を算出した。この溶解速度とpHの関係を図4に示す。
【0062】
[実施例7]
実施例5において、過酸化水素濃度を1000pmとしてpHを種々変動させた過酸化水素水溶液に試験片を室温にて20分間それぞれ浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解速度を算出した。この溶解速度とpHの関係を図4に示す。
【0063】
[参考例2]
実施例5において、pHを種々変動させた超純水(溶存酸素濃度:約8ppm(大気開放))に試験片を室温にて20分間それぞれ浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解速度を算出した。この溶解速度とpHの関係を図4に示す。
【0064】
図4より明らかな通り、処理液のpHによらず、過酸化水素濃度が高くなるほどモリブデンの溶解速度が速くなることがわかる。さらに、処理液中の過酸化水素濃度が等しい場合、モリブデンの溶解速度は酸性溶液中よりもアルカリ溶液中の方で速くなる傾向が確認できた。これらの結果よりモリブデンは水溶液中で下記(1)~(3)式の反応を経て溶解すると考えられる。
【0065】
Mo + 2H → MoO + 4H + 4e ・・・(1)
MoO + HO → MoO + 2H + 2e ・・・(2)
MoO + HO → HMoO + H ・・・(3)
【0066】
これらの結果より、酸化剤の存在下(酸化還元電位調整剤がプラス側)ではpHによらずモリブデンの溶解が促進することが分かる。一方、酸化剤が存在しない場合(参考例2)においても、アルカリ条件下では酸性条件下に比べモリブデンの溶解速度が速くなっている。これは処理液への大気溶解によって増加した処理液の溶存酸素が酸化剤として働き、モリブデンを酸化溶解したためと考えられる。
【0067】
(モリブデンの溶解速度の処理液の溶存酸素濃度の依存性の検証試験)
[実施例8]
溶存酸素濃度約8ppmでpHの異なる実施例1~4の処理液におけるモリブデンの溶解速度を算出した。この溶解速度とpHの関係を図5に示す。
【0068】
[実施例9]
実施例8において、各処理液を脱気して溶存酸素濃度を約30ppbとしたものに試験片を室温にて20分間浸漬した際の処理液中のモリブデン濃度の経時変化をICP-MSにより分析し、モリブデンの溶解量を計測し、この算出結果に基づいてモリブデンの溶解速度を算出した。この溶解速度とpHの関係を図5に示す。
【0069】
図5から明らかなとおり、処理液中の溶存酸素濃度が低くなると、処理液のpHによらずモリブデンの溶解速度が低下することがわかる。このことから、モリブデンの溶解防止には、処理液中の過酸化水素だけでなく溶存酸素の除去も重要であると言える。
【0070】
これら実施例1~9により、半導体用ウェハの一部もしくは全面にクロム族元素(モリブデン)が露出するウェハ表面の洗浄水は、pHを管理すること、酸化剤(酸化還元電位調整剤)濃度を管理すること、及び溶存酸素濃度を低く維持することの全てが必要であり、このような洗浄水の製造装置としては、これら全てを制御可能な本発明のpH・酸化還元電位調整水の製造装置が好適であると言える。
【符号の説明】
【0071】
1 pH・酸化還元電位調整水の製造装置
2 供給ライン
3 白金族金属担持樹脂カラム(過酸化水素除去機構)
4 pH調整剤タンク
4A 供給管
4B ポンプ
5 酸化還元電位調整剤タンク
5A 供給管
5B ポンプ
6 膜式脱気装置
6A 真空ポンプ(VP)
7 ガス溶解膜
W 超純水
W1 pH調整水
W2 pH・酸化還元電位調整水
W3 pH・酸化還元電位調整水(安定化調整水)
W4 酸化還元電位調整水
W5 pH・酸化還元電位調整水(安定化調整水)
図1
図2
図3
図4
図5