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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】モータ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/06 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
H02K15/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021177008
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592053103
【氏名又は名称】株式会社林工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】特許業務法人プロウィン特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶田 効
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】児玉 保久
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-312214(JP,A)
【文献】特開2011-234531(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111864954(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部とスロットが形成された固定子を有するモータ装置の製造方法であって、
1本の導線で連続した複数の巻線を巻回する連続巻回工程と、
連続した前記巻線が前記スロットの並び順となるように前記巻線を前記スロットに挿入する挿入工程と、
前記導線における前記巻線の間の中継点を電気接点部に電気的に接続する接続工程とを備えることを特徴とするモータ装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置の製造方法であって、
前記接続工程では、前記中継点を前記電気接点部に抵抗溶接することを特徴とするモータ装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置の製造方法であって、
前記導線における前記巻線と前記中継点の間に、絶縁性材料で構成された補強部材を設ける補強工程を備えることを特徴とするモータ装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置の製造方法であって、
前記連続巻回工程では、一つの前記巻線を仮巻部に巻回した後に、前記導線の前記中継点を折返部で折り返して、次の前記巻線を巻回することを特徴とするモータ装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ装置の製造方法であって、
前記仮巻部は、先入部と後入部を備えており、前記巻線は前記先入部と前記後入部に交互に巻回し、
前記挿入工程では、前記先入部に巻回された前記巻線を前記スロットに挿入した後に、前記後入部に巻回された前記巻線を前記スロットに挿入することを特徴とするモータ装置の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のモータ装置の製造方法であって、
前記折返部を前記電気接点部として用いることを特徴とするモータ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置の製造方法に関し、特に、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータのモータ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源として用いられている。また、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータも提案されている(例えば特許文献1を参照)。また、複数の相を備えた多相巻線を複数系統備えたモータ装置も提案されている。
【0003】
図10は、従来の6相巻線を2系統備えたモータ装置の駆動回路を簡略化して示す回路図である。図10に示すように、従来のモータ装置は、第1系統の6相巻線としてA1相コイル、B1相コイル、C1相コイル、D1相コイル、E1相コイルおよびF1相コイルを有し、第2系統の6相巻線としてA2相コイル、B2相コイル、C2相コイル、D2相コイル、E2相コイルおよびF2相コイルを有している。また、A1相コイルとA2相コイル、B1相コイルとB2相コイル、C1相コイルとC2相コイル、D1相コイルとD2相コイル、E1相コイルとE2相コイル、およびF1相コイルとF2相コイルは、それぞれ並列接続されると共に、A-F相が直列接続されている。
【0004】
また、F相コイルとA相コイルの間、A相コイルとB相コイルの間、B相コイルとC相コイルの間、C相コイルとD相コイルの間、D相コイルとE相コイルの間、およびE相コイルとF相コイルの間は、それぞれスイッチインバータ部のA相スイッチからF相スイッチに接続され、各スイッチがオンの場合には電位Va~Vfが供給される。このようなモータ装置では、スイッチインバータ部のA相スイッチからF相スイッチが順次オン/オフ切り替えされることで、各コイルの両端に印加される電位差によって電流が流れ、回転子が回転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-103957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来のモータ装置では、2系統の対応する各相(例えばA1相とA2相)は固定子の対向するティース(突極)に巻回され、コイルの両端が並列接続される。そのため2系統の6相巻線では、合計12本の配線が固定子の外周で引き回されて直並列に接続されることになり、結線作業が煩雑化するという問題があった。固定子のティース数を増加させて、2系統以上の6相巻線を巻回する場合にはさらに配線数が増加し、結線作業がさらに煩雑化してしまう。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、複数系統の多相巻線を固定子のティース部に巻回する際に、結線作業を容易に行うことが可能なモータ装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置の製造方法は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ装置の製造方法であって、1本の導線で複数の巻線を連続して巻回する連続巻回工程と、連続した前記巻線が前記スロットの並び順となるように前記巻線を前記スロットに挿入する挿入工程と、前記導線における前記巻線の間の中継点を電気接点部に電気的に接続する接続工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような本発明のモータ装置の製造方法では、連続した巻線14がスロットの並び順となるように挿入し、中継点を電気接点部に電気的に接続するため、巻線間の接続が不要となり、巻線間における導線の取り回しと結線作業が容易となる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記接続工程では、前記中継点を前記電気接点部に抵抗溶接する。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記導線における前記巻線と前記中継点の間に、絶縁性材料で構成された補強部材を設ける補強工程を備える。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記連続巻回工程では、一つの前記巻線を仮巻部に巻回した後に、前記導線の前記中継点を折返部で折り返して、次の前記巻線を巻回する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記仮巻部は、先入部と後入部を備えており、前記巻線は前記先入部と前記後入部に交互に巻回し、前記挿入工程では、前記先入部に巻回された前記巻線を前記スロットに挿入した後に、前記後入部に巻回された前記巻線を前記スロットに挿入する。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記折返部を前記電気接点部として用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、複数系統の多相巻線を固定子のティース部に巻回する際に、結線作業を容易に行うことが可能なモータ装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係るモータ装置におけるモータ部10の構成を示す図であり、図1(a)は回路図であり、図1(b)はモータ部10の構造例を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部の接続を示す等価回路図である。
図3】第1実施形態に係るモータ装置におけるスイッチインバータ部の制御を示すタイミングチャートであり、図3(a)はスイッチインバータ部の各相スイッチに印加される信号を示し、図3(b)は各系統の各相コイルに流れる電流を示している。
図4】第1実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。
図5】第1実施形態に係るモータ装置の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。
図7】第3実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。
図8】第3実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式斜視図である。
図9】第4実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。
図10】従来の6相巻線を2系統備えたモータ装置の駆動回路を簡略化して示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るモータ装置におけるモータ部10の構成を示す図であり、図1(a)は回路図であり、図1(b)はモータ部10の構造例を示す模式図である。図1に示した例では、モータ装置は10極12スロットのスイッチトリラクタンスモータを構成している。
【0018】
図1(a)(b)に示すように本実施形態のモータ部10は、回転子(ロータ)11と、回転子11の周囲に配置された固定子(ステータ)12を備えている。また、回転子11には、外周に沿って強磁性体からなるロータティース(突極)が配置されている。また固定子12は、コアバック部とその内周に突出して形成された複数のティース部13を備えている。また、各ティース部13に巻線(コイル)14が、A1相巻線~F1相巻線、A2相巻線~F2相巻線として巻回されている。A1相巻線~F1相巻線は、それぞれ1/6周期の差で配置されており第1系統の6相巻線(2つの3相巻線)を構成している。同様に、A2相巻線~F2相巻線は、それぞれ1/6周期の差で配置されており第2系統の6相巻線(2つの3相巻線)を構成している。
【0019】
図1(b)では、回転子11が10個のロータティースを備え、固定子12が12個のティース部13を備えた10極12スロットのスイッチトリラクタンスモータの例を示している。モータ部10の極数Pとスロット数Sは、10極12スロットには限定されないが、P:S=5:6の比率となっている。また、ティース部13への各相の巻回方法も集中巻きに限定されず分布巻きであってもよい。
【0020】
コアバック部は、回転子11の外側に回転子11の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部13が等間隔に突出して形成されている。コアバック部には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0021】
ティース部13は、コアバック部の内周面から回転子11に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部13は同じ長さと形状で形成されると共に等間隔に配置されており、各ティース部13の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部13およびスロットには、巻線14が巻回されており、巻線14に電流が流れることでティース部13に磁界が発生する。
【0022】
第1系統の6相巻線A1~F1と第2系統の6相巻線A2~F2は、それぞれ隣接したティース部13に順に巻回されて環状に直列接続されている。つまり、固定子12のティース部13には、6個の相(n=6)が隣接して直列接続された6相巻線が、2系統(m=2)環状に直列接続されている。また、第1系統と第2系統の対応するA1~F1とA2~F2の各相は、固定子12において180度異なるティース部13に巻回されている。
【0023】
図2は、本実施形態に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部の接続を示す等価回路図である。図2に示すように、本実施形態のスイッチインバータ部は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に6つのスイッチA相~F相が並列に接続されている。スイッチA相,C相,E相は、下流側に逆接続ダイオードが直列接続され、スイッチB相,D相,F相は、上流側に逆接続ダイオードが直列接続されている。これにより、合計6個のスイッチ(スイッチA相~スイッチF相)と6個の逆接続ダイオードで三相非対称型のスイッチインバータ部が構成されている。各スイッチは、それぞれドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースが接地電圧側(下流側)に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に逆接続された等価回路となる。また、各スイッチはスイッチ制御部(図示省略)によって動作が制御される。
【0024】
図1および図2に示したように、モータ部10の巻線A1と巻線B1の間、および巻線A2と巻線B2の間はスイッチB相と逆接続ダイオードの間に接続されている。また、モータ部10の巻線B1と巻線C1の間、および巻線B2と巻線C2間はスイッチC相と逆接続ダイオードの間に接続されている。また、モータ部10の巻線C1と巻線D1の間、および巻線C2と巻線D2間はスイッチD相と逆接続ダイオードの間に接続されている。また、モータ部10の巻線D1と巻線E1の間、および巻線D2と巻線E2間はスイッチE相と逆接続ダイオードの間に接続されている。また、モータ部10の巻線E1と巻線F1の間、および巻線E2と巻線F2間はスイッチF相と逆接続ダイオードの間に接続されている。また、モータ部10の巻線F1と巻線A1の間、および巻線F2と巻線A2の間はスイッチA相と逆接続ダイオードの間に接続されている。つまり、第1系統および第2系統の各系統において互いに対応する巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2の各相は、それぞれスイッチインバータ部における同じ相に電気的に接続される。
【0025】
したがって、巻線A1,A2の両端には、スイッチA相のソース側電位Vaと、スイッチB相のドレイン側電位Vbが印加される。同様に、巻線B1,B2の両端には、スイッチB相のドレイン側電位Vbと、スイッチC相のソース側電位Vcとが印加される。同様に、巻線C1,C2の両端には、スイッチC相のソース側電位Vcと、スイッチD相のドレイン側電位Vdが印加される。同様に、巻線D1,D2の両端には、スイッチD相のドレイン側電位Vdと、スイッチE相のソース側電位Veが印加される。同様に、巻線E1,E2の両端には、スイッチE相のソース側電位Veと、スイッチF相のドレイン側電位Vfが印加される。同様に、巻線F1,F2の両端には、スイッチF相のドレイン側電位Vfと、スイッチA相のソース側電位Vaが印加される。
【0026】
図1および図2に示したように、本実施形態のモータ装置では、環状に直列接続された各相の巻線A1~F1,A2~F2の中間(中継点)をスイッチインバータ部に接続する。これにより、各相の巻線A1~F1,A2~F2に電流を供給するための配線を固定子12の外部に引き回す必要がなくなり、結線作業を容易に行うことが可能となる。
【0027】
図3は、本実施形態に係るモータ装置におけるスイッチインバータ部の制御を示すタイミングチャートであり、図3(a)はスイッチインバータ部の各相スイッチに印加される信号を示し、図3(b)は各系統の各相コイルに流れる電流を示している。図3(a)の横軸は電気角(度)を示し、縦軸は各スイッチに印加されるオン信号とオフ信号を示している。図3(b)の横軸は電気角(度)を示し、縦軸は各巻線を流れる電流を示している。図3(b)においては、各系統の対応する巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2とをそれぞれA~Fとして代表して示している。
【0028】
図3(a)に示したように、A相~F相の各スイッチには、オン信号とオフ信号が180度(π)ずつ交互に印加される。また、A相~F相のオン信号とオフ信号は、それぞれ60度(π/6)ずつ位相がずれている。また、A相とD相、B相とE相、C相とF相は位相が180度(π)異なって互いに反転した信号が印加されている。換言すると、A相~F相の各スイッチには、A相、C相、E相と、B相、D相、F相の2つの三相交流信号が印加されている。したがって、巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2は、スイッチA相~F相で制御されることで、それぞれ2つの三相モータを備えた合計6相を有するモータとして機能する。
【0029】
図3(b)に示したように、巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2を流れる電流は、スイッチインバータ部のA相~F相のオン信号よりも30度(π/6)だけ位相が進んだものとなる。また、A相とD相、B相とE相、C相とF相は位相が180度(π)異なって互いに反転した電流が流れる。このとき、コイルである巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2は環状に直列に接続されており、各巻線の間がスイッチインバータ部の各スイッチに接続されているため、スイッチインバータ部の電源電位+Vからオン状態の各スイッチと巻線を経て、他のオン状態のスイッチを経て接地電位に電流が流れる。これにより、巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2には60度ずつ位相が異なる電流が順に流れてティース部13に磁界が発生し、回転子11を回転させることができる。
【0030】
次に、モータ装置の製造方法について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。本実施形態では、複数の巻線14は一本の導線によって連続して巻回していき、一つの巻線14を巻回した後に導線を切断せず、そのまま中継点を経て次の巻線14を巻回していく。図1および図4に示した例では12本のティース部13を備えて、各ティース部13の間のスロットも12箇所に設けられており、ティース部13のA1~F2に対応する各スロットに、連続した12個の巻線14が隣り合うように挿入される。また、各巻線14から延長された導線の中継点は、電気接点部20a~20fと接触しており、抵抗溶接や半田付け等によって電気接点部20a~20fと各中継点が電気的に接続されている。ここで導線とは、導電性材料の周囲を絶縁材料で被覆した被覆電線である。
【0031】
図5は、本実施形態に係るモータ装置の製造方法の工程を示すフローチャートである。ステップS1の連続巻回工程では、1本の導線で複数の巻線14を連続して巻回する。ここで巻線14の数は限定されず、ティース部の個数nに対応した数の巻線を連続して巻回する。図1図4に示した例では、ティース部13とスロットの数が12であるため、巻線14の個数n=12である。各巻線14を巻回するため、一つの巻線から次の巻線14に至るまで導線が延長されており、二つの巻線14の間には中継点が設けられる。巻線14の巻回方法としては、仮巻き用の治具(仮巻部)を別途用意して、仮巻部上で全ての巻線14を巻回した後にステップS2に移行するとしてもよく、仮巻部上で一つの巻線14を巻回した度にステップS2に移行するとしてもよい。
【0032】
ステップS2の挿入工程では、連続した巻線14がスロットの並び順A1~F2となるように巻線14をスロットに挿入する。このとき、ステップS1において仮巻部上で全ての巻線14を巻回した場合には、複数のスロットに全ての巻線14を一括または順次に挿入する。また、ステップS1において巻線14を一つずつ巻回する場合には、ティース部13のA1~F2に対応する各スロットに巻線14を巻回する度に挿入し、全てのスロットに巻線14が挿入されるまでステップS1とステップS2を繰り返す。全ての個数の巻線14の巻回と挿入が完了した後に、ステップS3に移行する。
【0033】
ステップS3の接続工程では、導線における巻線14の間の中継点を電気接点部20a~20fに電気的に接続する。ここで、電気接点部20a~20fは、連続巻回工程で巻線14の巻回作業で用いた仮巻部の一部を用いるとしてもよい。また、コアバック部の外部に別途設けられたバスバーや電極端子を電気接点部20a~20fとして用いるとしてもよい。具体的な電気的接続方法は限定されないが、各巻線14に対応した中継点と電気接点部20a~20fを接触させた状態で、抵抗溶接や半田付けを用いることで電気的接続を確保することができる。中継点と電気接点部20a~20fを電気的に接続した後にステップS4に移行する。
【0034】
ステップS4の補強工程では、導線における巻線14と中継点の間に、絶縁性材料で構成された補強部材を設ける。補強部材を構成する材質は限定されず、絶縁性樹脂や絶縁性接着剤等の従来公知のものを用いることができる。また、補強部材の形状や形態も限定されず、モータ部10の外周に取り回しされた導線を部分的に絶縁テープで固定するとしてもよく、導線に部分的に絶縁性樹脂を塗布して固めるとしてもよい。本実施形態では補強工程で補強部材を設ける例を示したが、導線と中継点の機械的強度が確保できる場合には、補強工程を省略するとしてもよい。
【0035】
図4に示した例では、一つの巻線14を仮巻部に巻回した後に、巻線14から延長された導線の中継点を折返部で折り返して、次の巻線14を巻回している。これにより複数の巻線14を一括して仮巻部に巻回しながら、中継点を巻線14から延長した位置で保持することができる。また、折返部としてバスバーや端子部となる部材を用い、折返部をそのまま電気接点部20a~20fとして使用するとしてもよい。折返部を電気接点部20a~20fとして用いることで、中継点に電気接点部20a~20fを接触させる作業を連続巻回工程と同時に実施できるため工程の簡略化を図ることができる。
【0036】
上述したように、本実施形態のモータ装置の製造方法では、連続した巻線14がスロットの並び順となるように挿入し、中継点を電気接点部20a~20fに電気的に接続するため、巻線14間の接続を別途行う必要が無く、巻線14間における導線の取り回しと結線作業が容易となる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図6を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。本実施形態では、中継点を折返部で折り返さず、巻線14の間で導線が最短となるようにして、中継点が巻線14に近い位置に設けられている点が第1実施形態と異なっている。図6は、本実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。
【0038】
本実施形態の連続巻回工程では、図6に示すように、連続する巻線14の間隔が最短となるように導線を延長し、複数の巻線14を巻回する。また挿入工程では、ティース部13のA1~F2に対応する各スロットに、連続した12個の巻線14が隣り合うように挿入される。このとき、巻線14の間隔はスロットの間隔と略同程度とされているため、中継点は隣接するティース部13の中間に位置している。接続工程では、別途用意した電気接点部20a~20fを中継点に接触させ、両者が接触した位置を抵抗溶接や半田付けすることで、電気接点部20a~20fと中継点を電気的に接続する。接続工程での他の電気的接続例としては、弾性体により電気端子で中継点を挟持するワニグリップなどを用いるとしてもよい。
【0039】
本実形態のモータ装置の製造方法でも、巻線14間の導線を短くすることで、電気接点部20a~20fと中継点の電気的な接続を容易に実施することができるため、巻線14間における導線の取り回しと結線作業が容易となる。
【0040】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図7および図8を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。本実施形態では、複数の巻線14を先入群と後入群の二つのグループに区分して、挿入工程を2段階で実施する点が第1実施形態とは異なっている。
【0041】
図7は、本実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。図7に示すように、複数の巻線14は1本の導線を連続して巻回して構成されているが、各巻線14はそれぞれ交互に先入群30aと後入群30bとにグループ分けされている。図7に示した例ではティース部13のA1,C1,E1,A2,C2,E2に対応するスロットに挿入される巻線14が先入群30aとされ、B1,D1,F1,B2,D2,F2に対応するスロットに挿入される巻線14が後入群30bとされている。
【0042】
図8は、本実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式斜視図である。図8に示すように、仮巻部として先入部31aと後入部31bを二つ用意しておき、先入部31aのアーム32aに先入群30aの巻線14を巻回し、後入部31bのアーム32bに後入群30bの巻線14を巻回する。ここで複数の巻線14は、先入群30aと後入群30bに交互に連続して巻回され、各巻線14の間は導線の中継点を経由する必要がある。そこで本実施形態の連続巻回工程では折返部30cを用意しておき、一つの巻線14をアーム32aまたはアーム32bに巻回した後に、アーム32cまで導線を延長して中継点で折返し、次のアーム32bまたはアーム32aで巻線14の巻回を継続する。これにより、先入群30aと後入群30bに巻線14をグループ分けしながら、中継点を経由して全ての巻線14を一本の導線で連続して巻回することができる。
【0043】
挿入工程では、最初に先入部31aに巻回された巻線14を対応するスロットに挿入し、その後に後入部31bに巻回された巻線14を対応するスロットに挿入する。図1(b)に示したように、ティース部13はA1~F2までが順に並んで配置されているため、先入群30aと後入群30bの巻線14を対応するスロットに挿入する際には、ティース部13を一つ空けた間隔でそれぞれの巻線14を挿入することとなる。これにより、10極12スロットのような多数のスロットを備えて、スロット同士の間隔が狭いモータ部10を製造する際にも、巻線14の挿入作業を容易に行うことが可能となる。
【0044】
本実施形態では、複数の巻線14を二つのグループに区分して、挿入工程を2回に分割した例を示したが、グループの区分をさらに細分化して挿入工程の分割数を増加させてもよい。ただし、区分するグループ数と挿入工程の分割数を増加させると、一度の挿入動作でスロットに挿入できる巻線14の数が減少するため、挿入工程全体での作業時間が増加する。したがって、一つのグループには最低でも二つの巻線14が含まれていることが好ましい。
【0045】
図8に示した例では、仮巻部である先入部31aと後入部31bに交互に巻線14を巻回し、各巻線14から延長された導線の中継点を折返部30cのアーム32cで折り返している。これにより複数の巻線14を一括して先入部31aと後入部31bに巻回しながら、中継点は巻線14から延長した位置まで延長される。したがって、先入群30aと後入群30bをそれぞれスロットに挿入する際には、延長された導線の長さだけ別グループから離れた位置まで挿入対象の巻線14を移動することができ、作業効率が向上する。また、折返部のアーム32cとしてバスバーや端子部となる部材を用い、電気接点部20a~20fとして使用することで、中継点に電気接点部20a~20fを接触させる作業を連続巻回工程と同時に実施できるため工程の簡略化を図ることができる。
【0046】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について図9を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。図9は、本実施形態に係るモータ装置の製造方法を示す模式図である。本実施形態では補強工程において、導線における巻線14と中継点の間に、絶縁性材料で構成された補強部材40を設ける。
【0047】
図9に示した例では、ティース部13間のスロットに全ての巻線14を挿入した後に補強部材40を設けている。この場合には、巻線14、ティース部13、電気接点部20a~20fおよび中継点の位置関係が定まった後に、巻線14と中継点の間に補強部材40を設けるため、より確実に導線の補強をして断線や破損を抑制することができる。補強工程は、接続工程よりも前に実施するとしてもよく、後に実施するとしてもよい。
【0048】
また補強工程は、図8に示した仮巻部に巻線14を巻回した状態で、挿入工程の前に実施するとしてもよい。この場合には、挿入工程で巻線14をスロットに挿入する作業時に、中継点を含む導線の絡まりや他部材との接触による断線を抑制することができる。
【0049】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
10…モータ部
11…回転子
12…固定子
13…ティース部
14…巻線
20a~20f…電気接点部
30a…先入群
30b…後入群
30c…折返部
31a…先入部
31b…後入部
32a~32c…アーム
40…補強部材
【要約】
【課題】複数系統の多相巻線を固定子のティース部に巻回する際に、結線作業を容易に行うことが可能なモータ装置の製造方法を提供する。
【解決手段】回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ装置の製造方法であって、1本の導線で複数の巻線を連続して巻回する連続巻回工程(S1)と、連続した前記巻線が前記スロットの並び順となるように前記巻線を前記スロットに挿入する挿入工程(S2)と、導線における巻線の間の中継点を電気接点部に電気的に接続する接続工程(S3)とを備えるモータ装置の製造方法。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10