(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】焼成層状食品用バター
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220614BHJP
A21D 2/34 20060101ALI20220614BHJP
A21D 13/16 20170101ALI20220614BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/34
A21D13/16
(21)【出願番号】P 2018066853
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 清孝
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-267112(JP,A)
【文献】特表2015-512271(JP,A)
【文献】特開2001-238598(JP,A)
【文献】特開2001-252015(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050488(WO,A1)
【文献】特開2005-210957(JP,A)
【文献】特表2013-531479(JP,A)
【文献】特開昭64-063032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D,A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
13℃における硬度が50kPa以上150kPa以下、13℃における弾性が0.7MPa以上2.0MPa以下、20℃における損失正接Tan(δ)が0.45以上0.6以下であることを特徴とする焼成層状食品用バター。
【請求項2】
バターを低温で静置する工程と、バターを前記低温工程の温度よりも高温で静置する工程と、を含み、低温静置工程と高温静置工程とを交互に1回以上繰り返すことを特徴とする
焼成層状食品用バターの製造方法
であって、
低温で静置する工程が、バターのみかけのSFCが50%以上60%以下となる温度帯で低温静置する工程であり、
高温で静置する工程が、バターのみかけのSFCが11.5%以上25%以下となる温度帯で高温静置する工程である、
前記製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の焼成層状食品用バター
又は請求項2に記載の製造方法により製造された焼成層状食品用バターを原材料として用いることを特徴とする焼成層状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成層状食品用バター、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロワッサンやパイ等の焼成層状食品は広く食されていることから、これまでにいくつかの焼成層状食品用のバターに関する発明が開示されている。
引用文献1は、クロワッサン、パイ、デニッシュなどのペーストリー食品の製造に使用するのに適した広い温度域における可塑性・伸展性を有し、かつ、得られるペーストリー食品の浮きが良好かつ、口溶け等食感も良好な実質的にトランス酸を含有しないロールイン用可塑性油中水型乳化物及び当該ロールイン用可塑性油中水型乳化物を用いたペーストリー食品を提供することを目的とし、可塑性油中水型乳化物中、ラウリン系ハードバターを5~50重量%、パーム油起源の非選択的エステル交換油脂3~50重量%、乳脂肪を1%以上含有し、油相の固体脂含有量(以下、単にSFCということがある)が10℃で40%以上、35℃で10%以下で実質的にトランス酸を含まないことを特徴とするロールイン用可塑性油中水型乳化物を解決手段として開示している。
引用文献2は、作業性がよく、食感が非常にソフトで口溶け良好なクロワッサン、デニッシュ等の層状膨化食品が得られるシート状油中水型乳化油脂組成物、及びその製造法を提供することを課題とし、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、カカオバター代用脂10~50重量%、ラウリン系油脂5~20重量%を含有し、且つ硬化油及びエステル交換油を一切使用しないことを特徴とするシート状油中水型乳化油脂組成物を解決手段として開示している。
しかしながら、本願の提供する解決手段はいずれの文献にも開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-193974号公報
【文献】特許第4459134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロワッサンやパイ等の焼成層状食品を作る際、生地とバターは、10℃から20℃程度の室温で折り込まれることが多いため、この温度帯でバターは生地と同様に良く伸びることが好ましいが、バターが硬すぎると充分に伸びずにバターが生地中に偏在し、生地同士が合一してしまい、最終的にきれいな層が得られず、食感の悪い焼成層状食品となる。逆にバターが軟らかすぎても、折りたたむ時にバターが生地の間からはみ出してしまい、硬い場合と同様、充分に層が出る焼成層状食品が得られず食感が悪くなってしまう。
また、バターが生地に折り込まれる際には、弾性が低値である、所謂、腰が弱いバターでは、折り込まれ過ぎて、生地とバターが合一してしまうため適度な弾性が求められる。一方で、バターと生地の折り込みを続けると、生地の昇温によるバターのダレ(軟化)、それによる生地とバターの層の結着などが生じる。この結着も食感の悪い焼成層状食品の原因となるため、バターには、昇温に対する保形性も求められる。
したがって、層状焼成食品の製造に用いられるバターは、適度な硬度があること、展延性があること、弾性があること、及び保形性があることが求められることから、本発明は、適度な硬度、展延性、弾性、保形性を有する新規なバターとその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、焼成層状食品に適したバターについて鋭意検討した結果、適度な硬度、展延性、弾性、保形性を有する新規なバター及びその製造方法を発明した。より具体的には、本願は以下に記載の解決手段を提供するものである。
(1)13℃における硬度が50kPa以上150kPa以下、13℃における弾性が0.7MPa以上2.0MPa以下、20℃における損失正接Tan(δ)が0.45以上0.6以下であることを特徴とする焼成層状食品用バター。
(2)焼成層状食品用バターの製造方法であって、バターを低温で静置する工程と、バターを前記低温工程の温度よりも高温で静置する工程と、を含み、低温静置工程と高温静置工程とを交互に1回以上繰り返すことを特徴とする前記製造方法。
(3)(1)に記載の焼成層状食品用バターを原材料として用いることを特徴とする焼成層状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、適度な硬度、展延性、弾性、及び保形性を有する新規なバターとその製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の焼成層状食品用バターは以下のような特徴を有するものである。
(焼成層状食品用バターの硬度)
本発明の焼成層状食品用バターは、13℃で50kPa以上、150kPa以下の硬度を有する。硬度が50kPaより低いバターは、柔らかすぎて折り込まれる際に生地からはみ出しやすくなる。一方、硬度が150kPaを超えるバターは、硬すぎて充分に伸びずにバターが生地中に偏在しやすくなる。焼成層状食品用のバターの硬度は以下のとおり測定することができる。
焼成層状食品用バターを直径20mm×高さ10mmの円柱状に切り出し、13℃に設定した恒温機に1時間静置した後に、テクスチャーアナライザー(英弘精機)を用いて、直径30mmのプランジャーで圧縮速度がせん断速度0.08s-1にて圧縮し、破断するまでの荷重を測定し、破断した際の応力を算出し、硬度とする。
【0008】
(焼成層状食品用バターの弾性)
本発明の焼成層状食品用バターは、13℃で0.7MPa以上の弾性を有する。圧縮弾性率が0.7MPaより低いバターは所謂腰が弱いバターとなり、折りパイの際に生地とバターが合一しやすくなる。圧縮弾性率が2.0MPaを超えるバターは弾性が高すぎて、折りパイの際に、生地と共に伸び辛くなるため好ましくは0.7MPa以上2.0MPa以下である。焼成層状食品用のバターの弾性は以下のとおり測定することができる。
焼成層状食品用バターを直径20mm×高さ10mmの円柱状に切り出し、13℃に設定した恒温機に1時間静置した後に、テクスチャーアナライザーを用いて、直径30mmのプランジャーで、圧縮し破断するまでの荷重を測定する。その後、破断する前の応力曲線が線形変化をする曲線の傾きを最大圧縮弾性率(MPa)とする。
【0009】
(焼成層状食品用バターの保形性)
本発明の焼成層状食品用バターは、測定温度20℃での損失正接Tan(δ)が0.45以上、且つ0.6以下である。損失正接Tan(δ)が0.6より高いとバターは生地の昇温によるバターのダレ、それによる生地とバターの層の結着が生じやすくなる。また、Tan(δ)が0.45未満であるバターは、保形性が高すぎて生地と適度に折りたたむことが困難となる。焼成層状食品用のバターの保形性は以下のとおり測定することができる。
焼成層状食品用バターを6℃設定の低温室内で、直径20mm、且つ厚さ3mmに切り出した後、動的粘弾性計MCR302(Anton Paar社)にサンプルセットし、0℃で5分間保持する。その後、歪み0.01%、角周波数1rad/s の条件で0℃から40℃までの貯蔵弾性率G’ 、損失弾性率G’’を測定し、この条件での測定結果から、測定温度20℃での損失正接Tan(δ)を算出する。
【0010】
(焼成層状食品用バターの展延性指標)
本発明の焼成層状食品用バターは、上述の硬度、弾性、及び保形性の条件を満たすこと、且つ実際の折りパイ評価において、焼成層状食品用バターが生地と共に非常によく伸び、割れヒビ共にもなく、良好な展延性を示すこと、若しくは割れずに生地と共に伸びており、許容範囲の展延性であることを特徴とする。即ち、上述の硬度、弾性、及び保形性の条件を満たしていれば、実際の折りパイ時に重要な要素である展延性を満たすことになり、これらが展延性の指標となる。
【0011】
(焼成層状食品用バターの原材料と製造工程)
本発明の焼成層状食品用バターは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令において「生乳、牛乳又は特別牛乳から得られた脂肪粒を練圧したもの」と定義されるものである。よって、以下に示す保温工程以外は定法に準じてバターを製造すればよい。
保温工程以外のバターの製造工程の一態様を以下に示す。
脂肪率を40%程度に調整したクリームを殺菌後、冷却し、エージングを行なう。その後、チャーニング、バターミルクの排出、冷水での水洗いワーキングをしてバターを製造する。
【0012】
(保温工程)
本発明の焼成層状食品用バターの保温工程は、定法に従って製造したバターを、みかけのSFCが50%以上となる温度帯、好ましくは55%、さらに好ましくは60%となる温度帯で低温静置し、その後、みかけのSFCが25%以下となる温度帯で、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下に相当する温度帯で高温静置する。1回の高温静置と、1回の低温静置と、で1サイクルの保温工程とする。保温工程は高温静置を最初に行なってもよく、低温静置を最初に行なってもよい。
保温工程の回数は1サイクル以上であればよく、2サイクル以上が好ましく、3サイクル以上がより好ましく、4サイクル以上が最も好ましい。
このような高温静置と低温静置を繰り返すことによるバターへの作用は、高温静置によりバター中の乳脂の結晶が溶融し、低温静置により再結晶化することで緻密な結晶ネットワークが再構築されるものと考えられる。したがって、低温静置の温度設定、高温静置の温度設定、サイクル数を変更することで、所望の硬度、弾性、保形性を有するバターを製造することが可能である。
高温静置は、10℃以上30℃以下に設定すればよく、15℃以上25℃以下が好ましく、20℃以上25℃以下がさらに好ましい。
低温静置は、-50℃以上15℃以下に設定すればよく、-30℃以上10℃以下が好ましく、-10℃以上10℃以下がさらに好ましい。
高温静置と低温静置の温度は上記した範囲内において適宜設定すればよいが、高温静置と低温静置の差が5℃以上となるように設定するのが好ましく、7℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましい。
高温静置及び低温静置の時間は、焼成層状食品用バターの中心温度がその所定の温度に達するまでの時間以上とすればよい。
保温工程処理後のバターは、使用するまで-18℃以下で凍結保存することができる。また、-18℃以下で凍結保存したバターを解凍した後に保温工程に供することもできる。さらに、-18℃以下で凍結保存したバターを解凍後、混練、成型した後に保温工程に供することもできる。
本発明の製造方法によれば、上述の保温工程を付加するだけで、バターの組成を変えることなく、焼成層状食品に適したバターを製造することができる。
【0013】
(SFCの測定方法)
本発明における、みかけの固体脂含量(SFC)は次のように測定することができる。5℃の低温室下で、試料をガラス管に充填して、5℃から45℃までの所定温度に調温した恒温水槽に15分間保持後、Minispec(Bruker社)を用いて測定する。測定は低温側から5℃刻みで行う。
【0014】
(焼成層状食品用バターの使用方法)
本発明の焼成層状食品用バターは、焼成層状食品の原材料として特段の制約等なく使用することができる。
本発明の焼成層状食品用バターは、13℃において50kPa以上150kPa以下の硬度、13℃において0.7MPa以上の弾性、測定温度20℃での損失正接Tan(δ)が0.45以上、且つ0.6以下という物性を有するため、クロワッサンやパイ等の焼成層状食品を作る際に展延性がよく、生地とバターの合一が抑制され、生地の昇温によるバターのダレ(軟化)とそれによる生地とバターの層の結着が抑制されるという焼成層状食品の原材料として適した特徴を有するものである。また、焼成層状食品用バターはその他のバターと風味を異としないため、焼成層状食品に好ましいバター風味を付与するとともに、焼成層状食品のすだち及び浮き(比容積)も良好なものとするものである。
本発明のバターの焼成層状食品への配合量は、使用される食品の種類により異なるが、20~40重量%などが挙げられる。本発明のバターは従来のバターの組成を変えることなく物性値を変えることができたものであるから、従来の食品における配合量と同様の配合量にすることができる。
【実施例】
【0015】
以下の実施例等により本発明の実施形態をより具体的に記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
〔実施例1〕本発明の焼成層状食品用バターの製造(1)
1.焼成層状食品用バターの製造方法
定法に準じてバターを製造した。脂肪率40%に調整したクリームを65℃30分間で殺菌した後、10℃以下に冷却し、約8時間エージングを行った。その後、バッチ式バター製造機へクリームを送液し、チャーニングを行った。その後、バターミルクを排出後、冷水を用いて水洗いワーキングしバターを製造した。この時のバター温度は13℃であった。
製造したバターを異なる形態に成型した。縦×横×高さがそれぞれ、20cm×30×1cm(実施例品1)、33cm×30cm×20cm(実施例品2)、6.5cm×6cm×12cm(実施例品3)、6cm×3cm×12cm(実施例品4)に成形した。
成型したバターを次に示す保温工程に供した。バターをみかけのSFCが約60%となる1℃で8時間保持し、次いで、みかけのSFCが約11.5%となる25℃で8時間保持した。この保持温度サイクル処理を6回行い、実施例品1、2、3、4を製造した。その後、-18℃で冷凍し保管した。
2.焼成層状食品用バターの評価
凍結解凍後に実施例品1、2、3、4のバターの硬さ、弾性、保形性、及び展延性を評価した。
また、実施例品1、2、3、4を用いてクロワッサンを試作し、その風味、食感、すだち、及び総合評価を評価した。
これらの結果を表2、3に示す。
硬さ、弾性、保形性の評価方法は、前述のとおりであり、展延性、すだち、浮きの評価方法を以下に示す。
【0017】
(1)焼成層状食品用バターの展延性の評価方法
本発明の焼成層状食品用バターの展延性は、折りパイ時において生地と共に伸びることをいう。展延性は、以下の折パイ試験により評価することができる。折りパイ評価は、バターを製造した日から30日後に行った。
試験日の前日に焼成層状食品用バターを13℃の恒温機に静置してテンパリングする。表1のパイ原料をフードミキサーを用いて攪拌速度、低速3分間、中速5分間捏ね上げて得られた生地を等分して厚さ2cmから3cm角の正方形に成形し、13℃になるまで恒温機で保持する。焼成層状食品用バターを生地で包み、麺棒を用いて対角線に押さえ、焼成層状食品用バターを生地へロールインする。その後、三つ折、四つ折、三つ折、三つ折の順に折りたたみを行いそれぞれの折りたたみ工程間で、パイローラーMR120(正城機械株式会社)を用いて、20mmから5mmまで5段階で生地を薄く引き伸ばし、この際のバターとドウの状態を評価する。
【0018】
(2)すだち及び浮き(比容積)の評価方法
前記5mmまで引き伸ばした生地を10cm×10cm角の正方形にカットし、四隅と中央に切れ目を入れ、オーブンCOMPO(三幸機械株式会社)の設定温度を上面210℃、下面200℃とし13分間焼成した。焼成した翌日、重量、そしてノギスを用いて、高さ、上面の縦横、下面の縦横を測定し、体積、比容積、上辺変形率、下辺変形率を算出した。体積は、菜種置換法による実測を行った。
【0019】
【0020】
〔実施例2〕本発明の焼成層状食品用バターの製造(2)
実施例1から保温工程の条件を変更して本発明の焼成層状食品用バターの製造を行った。
1.焼成層状食品用バターの製造方法
定法に準じて、バターを製造した。脂肪率40%に調整したクリームを75℃3分間、殺菌した後、10℃以下に冷却し、約8時間エージングを行った。その後、連続式バター製造機へクリームを送液し、チャーニング、及びワーキングを行い、バターを製造した。この時、装置内は、450hPaとなるように減圧処理を行い、脱泡した。この時の出口のバター温度は15℃であった。
連続製造機出口に設置したノズル形状を変更し、形態の異なる、即ち、縦横高さがそれぞれ、20cm×30×1cm(実施例品5)、33cm×30cm×20cm(実施例品6)、6.5cm×6cm×12cm(実施例品7)に成形した。
成型したバターを保温工程に供した。すなわち、バターをみかけのSFCが約55%となる5℃で8時間保持し、次いで、みかけのSFCが約19%となる25℃で8時間保持した。この保持温度サイクル処理を2回行い、実施例品5、6、7を製造した。その後、10℃以下で冷蔵保管した。
2.焼成層状食品用バターの評価
実施例品5,6,7のバターの硬さ、弾性、保形性、及び展延性を評価した。展延性の評価には表1に示す生地を用いてパイを製菓した。また、実施例品5,6,7を用いたパイの風味、食感、浮き、すだち、及び総合評価を評価した。結果を表2、3に示す。
【0021】
【0022】
【0023】
〔官能評価の基準〕
ドウの作業性の評価基準
◎:生地と共に非常によく伸び、割れヒビ共にもなく、良好な展延性を示す
〇:割れずに生地と共に伸びており、許容範囲の展延性である
△:伸びが悪く、僅かに割れがみられて展延性が劣る
×:伸びが悪く、割れが発生する
風味の評価基準
◎:目的とした風味が充分に付与されている
〇:目的とした風味が付与されている
△:目的とした風味がある程度付与されている
×:目的とした風味が付与されていない
食感の評価基準
◎:目的とした食感が充分付与されている
〇:目的とした食感が付与されている
△:目的とした食感がある程度付与されている
×:目的とした食感が付与されていない
浮きの評価基準
◎:良好な「浮き」を示している
〇:層状食品らしい「うき」を形成している
△:「浮き」が著しく弱い
×:層状食品らしい「浮き」がみられない
すだちの評価基準
◎:内層がきれいな「層」を形成している
〇:層状食品らしい「すだち」を形成している
△:「すだち」は観察できるが著しく弱い
×:「すだち」がみられない
官能評価の総合評価
◎:◎が3個以上
〇:〇が3個以上
△:△が3個以上
×:×が3個以上
【0024】
〔比較例1〕
それぞれ実施例品1、2、3、4と同様に製造し、それぞれ同様の大きさに成形した(比較例品1、2、3、4)。実施例のような、保温工程処理は行わず保存した。保存温度は-18℃以下の冷凍とした。また、硬さ、弾性、保形性および展延性、を測定した。そのバターの物性値と当該バターを用いた生地の作業性、及び、当該バターを用いた焼成層状食品の風味、食感、すだち、及び総合評価結果をそれぞれ表4、5に示す。
【0025】
〔比較例2〕
それぞれ実施例品5、6、7と同様に製造し、それぞれ同様の大きさに成形した(比較例品5、6、7)。実施例のような、保温工程処理は行わず、保存温度は10℃以下の冷蔵とした。また、硬さ、弾性、保形性、および展延性を測定した。そのバターの物性値と当該バターを用いた生地の作業性、及び、当該バターを用いた焼成層状食品の風味、食感、すだち、及び総合評価結果を表4、5に示す。
【0026】
【0027】
【0028】
(考察)
以上から、実施例品はいずれも13℃において50kPa以上、150kPa以下という適度な硬度、13℃において0.7MPa以上、2.0MPa以下という適度な弾性、測定温度20℃での損失正接Tan(δ)が0.45以上、0.6以下の適度な保形性を有していた。
このような実施例品を用いてクロワッサンやパイ等の焼成層状食品を製造した時、生地(ドウ)の作業性が良好であるだけでなく、それを使用した焼成層状食品の風味、食感、浮き、すだちが顕著に良好であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の新規なバターは、適度な硬度、展延性、弾性、保形性を有するものであるから焼成層状食品の原材料として適しており、本バターを使用すれば、作業が良好であり、風味、食感、浮き、すだちなどの良好な焼成層状食品を提供することが可能である。