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特許7088797タングステン溶解抑制剤、ならびにこれを用いた研磨用組成物および表面処理組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】タングステン溶解抑制剤、ならびにこれを用いた研磨用組成物および表面処理組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220614BHJP
   C11D 7/34 20060101ALI20220614BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20220614BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220614BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220614BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220614BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C11D7/34
C11D7/22
C09G1/02
H01L21/304 622D
H01L21/304 622C
H01L21/304 622X
H01L21/304 622Q
B24B37/00 H
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018178726
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050700
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-120189(JP,A)
【文献】特表2006-506809(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063757(WO,A1)
【文献】特開2005-268667(JP,A)
【文献】特開2011-159658(JP,A)
【文献】国際公開第2018/055986(WO,A1)
【文献】特開2014-194016(JP,A)
【文献】特開2015-137350(JP,A)
【文献】特開2007-173370(JP,A)
【文献】特表2006-519490(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020878(WO,A1)
【文献】特開2007-301721(JP,A)
【文献】特開2011-181948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C11D 7/00-7/60
C09G 1/00-1/18
H01L 21/304
B24B 37/00-37/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含
前記スルホン酸化合物またはその塩は、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のカリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のリチウム塩、および下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である:
【化1】

前記式(1)中、
およびY は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~R は、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R ~R のうち、4個以上はスルホン酸(塩)基である、
タングステン溶解抑制剤。
【請求項2】
窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩と、分散媒を含
前記スルホン酸化合物またはその塩は、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のカリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のリチウム塩、および下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である:
【化2】

前記式(1)中、
およびY は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~R は、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R ~R のうち、4個以上はスルホン酸(塩)基である、
ングステン溶解抑制剤組成物
【請求項3】
窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩と、
分散媒と、
砥粒と、
を含み、
前記スルホン酸化合物またはその塩は、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のカリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のリチウム塩、および下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である:
【化3】

前記式(1)中、
およびY は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~R は、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R ~R のうち、4個以上はスルホン酸(塩)基であり、
タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、
ングステンを含む材料の溶解抑制する機能を有する、研磨用組成物。
【請求項4】
酸化剤を含有しない、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
アニオン性官能基またはその塩の基を有し、重量平均分子量が1,000以上である高分子化合物をさらに含む、請求項3または4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記分散媒が水を含み、pHが7未満である、請求項3~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩と、分散媒と、砥粒とを混合することを含
前記スルホン酸化合物またはその塩は、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のカリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のリチウム塩、および下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である:
【化4】

前記式(1)中、
およびY は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~R は、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R ~R のうち、4個以上はスルホン酸(塩)基である、
タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記研磨用組成物は、酸化剤を含有しない、請求項7に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項3~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、または、
請求項7または8に記載の製造方法によって研磨用組成物を製造した後、得られた研磨用組成物を用いて、
タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法。
【請求項10】
請求項9に記載の研磨方法によって、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨することを含む、半導体基板の製造方法。
【請求項11】
窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩と、
分散媒と、
を含み、
前記スルホン酸化合物またはその塩は、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のカリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のリチウム塩、および下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である:
【化5】

前記式(1)中、
およびY は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~R は、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R ~R のうち、4個以上はスルホン酸(塩)基であり、
タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理する用途で使用される、
ングステンを含む材料の溶解抑制する機能を有する、表面処理組成物。
【請求項12】
砥粒を実質的に含有しない、請求項11に記載の表面処理組成物。
【請求項13】
アニオン性官能基またはその塩の基を有し、重量平均分子量が1,000以上である高分子化合物をさらに含む、請求項11または12に記載の表面処理組成物。
【請求項14】
酸化剤を実質的に含有しない、請求項11~13のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項15】
酸化剤を含有しない、請求項11~14のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項16】
前記分散媒が水を含み、pHが7未満である、請求項11~15のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項17】
窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩と、分散媒とを混合することを含
前記スルホン酸化合物またはその塩は、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のカリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸のリチウム塩、および下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である:
【化6】

前記式(1)中、
およびY は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~R は、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R ~R のうち、4個以上はスルホン酸(塩)基である、
タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物の製造方法。
【請求項18】
前記表面処理組成物は、酸化剤を含有しない、請求項17に記載の表面処理組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項11~16のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて、または、
請求項17または18に記載の製造方法によって表面処理組成物を製造した後、得られた表面処理組成物を用いて、
タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法。
【請求項20】
前記表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理である、請求項19に記載の表面処理方法。
【請求項21】
請求項19または20に記載の表面処理方法によって、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理することを含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン溶解抑制剤、ならびにこれを用いた研磨用組成物および表面処理組成物に関する。また、本発明は、研磨用組成物および表面処理組成物の製造方法、表面処理方法および研磨方法、半導体基板の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
かようなCMPに用いられる研磨用組成物として、特許文献1には、タングステンプラグのリセス(タングステンを過剰に研磨してしまう現象)を抑制しうる酸化剤フリーの研磨用組成物が開示されている。
【0004】
また、研磨工程後の研磨対象物には、不純物(残渣、異物)が多量に残留している。不純物としては、例えば、上記CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、更には各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。研磨済研磨対象物表面の汚染は、研磨済研磨対象物を使用する製品の欠陥となり、また性能低下や信頼性低下の原因となりうる。例えば、半導体基板の表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、研磨工程後に洗浄工程を導入し、研磨済研磨対象物の表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄に用いられる洗浄用組成物として、特許文献2には、有機アミン、第3球アンモニウムヒドロキシド、キレート剤および水を含む、pHが7.0~14.0の洗浄用組成物が開示されている。当該文献には、この洗浄用組成物によって、タングステンの腐食を抑制しつつ、研磨粒子由来のパーティクル残渣や、金属残渣を良好に除去しうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-42131号公報
【文献】特開2011-159658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の研磨用組成物でタングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する場合や、特許文献2の洗浄用組成物でタングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を洗浄する場合、タングステンを含む層の腐食(溶解)抑制効果が十分ではないという問題がある。そして、かような腐食が製品の欠陥や性能低下、信頼性低下等の原因となる。
【0008】
そこで本発明は、特定の化合物を、タングステンを含む材料に接触させることによって、タングステンを含む材料の溶解を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の手段によって解決されうる;
窒素原子を含み、分子量が1000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含む、タングステン溶解抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の化合物を、タングステンを含む材料に接触させることによって、タングステンを含む材料の溶解を抑制しうる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0012】
また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。(メタ)アクリル酸等の(メタ)を含む化合物等も同様に、名称中に「メタ」を有する化合物と「メタ」を有さない化合物の総称である。
【0013】
<タングステン溶解抑制剤>
本発明の一形態は、窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含む、タングステン溶解抑制剤に関する。
【0014】
本発明者らは、上記課題が解決されうるメカニズムを以下のように推測している。
【0015】
上記タングステンを含む材料の溶解は、当該材料が、研磨用組成物中や表面処理組成物中に含まれる水と水和物(W A-)を形成して、溶解しやすくなることに起因する。本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤は、分子内に窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩(本明細書において、単に「含窒素スルホン酸化合物」とも称する)を含むため、当該含窒素スルホン酸化合物がタングステンを含む材料に吸着して、当該材料の表面を保護する。具体的には、当該含窒素スルホン酸化合物は、その分子内に有する窒素原子によってタングステンを含む材料の表面に配位する。そして、これらの窒素原子が安定して配位することで、スルホン酸基(-SOH)またはその塩の基と共に、タングステンを含む材料は、その表面において不溶性の錯体を形成する。その結果、タングステンを含む材料の水和を抑制し、含窒素スルホン酸化合物がタングステンを含む材料の溶解を抑制するインヒビター(溶解抑制剤)として機能する。
【0016】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0017】
[タングステンを含む材料]
本明細書において、「タングステンを含む」とは、タングステン元素を含むことを表し、タングステン元素は、タングステン単体、タングステンを含む合金またはタングステン含有化合物のいずれの形態で含まれていてもよい。これらの中でも、タングステン単体や、タングステンを主成分とする、すなわち合金を構成する金属中におけるタングステンの質量の割合が最も大きい合金(タングステン合金)であることが好ましく、タングステン単体であることがより好ましい。
【0018】
また、タングステンを含む材料は、処理対象となる面がタングステンを含む形態であれば、いかなる態様であってもよいが、単一層または積層構造からなる平面状部材であるタングステンを含む層が好ましく、当該層を含む基板がより好ましく、当該層を含む半導体基板がさらに好ましい。
【0019】
タングステンを含む材料の好ましい例としては、タングステンを含む構成部分のみからなる層から構成される基板、タングステンを含む構成部分のみからなる層と、他の層(例えば、支持層や他の機能層)とを含む基板、タングステンを含む構成部分およびタングステンを含まない他の組成からなる構成部分を含む層から構成される基板、タングステンを含む構成部分およびタングステンを含まない他の組成からなる構成部分を含む層と、他の層(例えば、支持層や他の機能層)を含む基板等が挙げられる。
【0020】
処理対象となる面がタングステンを含む構成部分およびタングステンを含まない他の組成からなる構成部分を含む層である場合、他の組成からなる構成部分は、特に制限されないが、ケイ素を含む材料からなる構成部分、またはタングステン以外の金属、もしくはこれを含む合金からなる構成部分であることが好ましい。
【0021】
ケイ素を含む材料としては、特に制限されないが、例えば、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)等が挙げられる。ケイ素-酸素結合を有する材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化ケイ素、BD(ブラックダイヤモンド:SiOCH)、FSG(フルオロシリケートグラス)、HSQ(水素シルセスキオキサン)、CYCLOTENE、SiLK、MSQ(Methyl silsesquioxane)等が挙げられる。ケイ素-ケイ素結合を有する研磨対象物としては、特に制限されないが、例えば、ポリシリコン、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金等が挙げられる。
【0022】
なお、酸化ケイ素から構成される部分としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)や、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0023】
タングステン以外の金属もしくはこれを含む合金からなる構成部分を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、およびこれらの合金等が挙げられる。
【0024】
[窒素原子を含むスルホン酸化合物またはその塩]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤は、窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩(含窒素スルホン酸化合物)を必須に含む。含窒素スルホン酸化合物は、上述のように、タングステンを含む材料の溶解の抑制に寄与する。すなわち、含窒素スルホン酸化合物は、タングステンを含む材料の溶解等を抑制する溶解抑制剤(インヒビター)として機能する。なお、本明細書においては、かような機能の付与を目的として使用される化合物を、タングステン溶解抑制剤化合物とも称する。
【0025】
また、含窒素スルホン酸化合物は、タングステンを含む材料の表面粗さの増大(平均表面粗さRaの値の増大)の抑制にも寄与しうる。タングステンを含む材料の表面粗さの増大は、粒界腐食に起因すると考えられる。これに対し、上述のように、含窒素スルホン酸化合物のインヒビターとしての効果により、タングステンを含む材料の溶解が抑制されることで、同時にタングステンを含む材料の粒界における溶解が抑制される。その結果、タングステンを含む材料表面の平滑性が良好に維持されうる。
【0026】
含窒素スルホン酸化合物は、窒素原子および1以上のスルホン酸(塩)基を有する化合物であれば、特に制限されない。本明細書において、スルホン酸(塩)基とは、スルホン酸基(-SOH)またはその塩の基(スルホン酸塩基、-SO、ここでMは、有機または無機の陽イオンである)を表す。すなわち、含窒素スルホン酸化合物は、スルホン酸基の少なくとも一部または全部が塩の形態であってもよい。
【0027】
含窒素スルホン酸化合物の一分子内の窒素原子数は、1以上であれば特に制限されないが、タングステンを含む材料に配位しやすいという観点や、タングステンを含む材料の溶解抑制効果の観点から、2以上であることが好ましい。一方、窒素原子数は、特に制限されないが、処理後のタングステンを含む材料から含窒素スルホン酸化合物自体を除去することが容易になるという観点から、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましく、3以下であることが特に好ましい。
【0028】
含窒素スルホン酸化合物のスルホン酸(塩)基の数は、1以上であれば特に制限されないが、不溶性の錯体を形成しやすいという観点から、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。一方、含窒素スルホン酸化合物のスルホン酸(塩)基の数は、処理後における含窒素スルホン酸化合物の除去の容易性の観点から、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましく、5以下であることが特に好ましい。
【0029】
含窒素スルホン酸化合物の分子量は、1,000未満である。分子量が1,000を超えると、分子量が大きくなることで含窒素スルホン酸化合物の吸着速度が低下してタングステンの溶解抑制速度が遅くなり、タングステン抑制効果が十分に得られないからである。また、含窒素スルホン酸化合物の分子量は、特に制限されないが、処理後における含窒素スルホン酸化合物の除去の容易性の観点から、その分子量が900以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、700以下であることがさらに好ましく、600以下であることが特に好ましい。一方、含窒素スルホン酸化合物の分子量の下限値は特に制限されないが、タングステンを含む材料の溶解抑制効果の観点から、120以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、300以上であることがさらに好ましく、350以上であることが特に好ましい。なお、含窒素スルホン酸化合物の分子量は、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)法、HPLC-タンデム四重極質量分析法などの質量分析(MS)法;高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等を用いて評価することができる。分子構造が明確である場合、原子量の総和より算出することができる。
【0030】
ここで、含窒素スルホン酸化合物が塩(部分塩を含む)の状態である場合は、上記分子量は塩の状態での分子量を表すものとする。
【0031】
含窒素スルホン酸化合物は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい:
【0032】
【化1】
【0033】
前記式(1)中、
およびYは、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、スルホン酸(塩)基または置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R~Rのうち、1個以上はスルホン酸(塩)基またはスルホン酸(塩)基で置換されたアルキル基である。
【0034】
上記式(1)中、YおよびYとしての、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基としては、特に制限はなく、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基等がある。これらのうち、炭素数1以上4以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基がより好ましい。さらに、タングステンの溶解抑制効果や、入手容易性という観点から、炭素数1または2のアルキレン基、すなわち、メチレン基、エチレン基がより好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0035】
上記式(1)中のnは、(-Y-N(R)-)の数を表し、0以上4以下の整数であることが好ましい。タングステンの溶解抑制効果の向上や、入手容易性という観点から、nは、0以上2以下の整数であることがより好ましく、0または1であることがさらに好ましい。なお、nが2以上の場合、n個の(-Y-N(R)-)は、同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
上記式(1)中、R~Rとしての、置換されているかまたは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基としては、特に制限はなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これらのうち、置換されているかまたは非置換の炭素数1以上4以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、置換されているかまたは非置換の炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましい。さらに、タングステンの溶解抑制効果や、入手容易性という観点から、メチル基、エチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
ここで、アルキル基について「置換されているかまた(もしく)は非置換の」とは、アルキル基の一以上の水素原子が他の置換基で置換されていても、置換されていなくてもよいことを意味する。ここで、置換基としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子(F);塩素原子(Cl);臭素原子(Br);ヨウ素原子(I);ホスホン酸基(-PO)またはその塩の基;リン酸基(-OPO)またはその塩の基;スルホン酸基(-SOH)またはその塩の基;アミノ基(-NH、-NHRまたは-NRR’、ここで、RおよびR’はそれぞれ独立して炭化水素基、好ましくは炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表す)またはその塩の基;チオール基(-SH);シアノ基(-CN);ニトロ基(-NO);ヒドロキシ基(-OH);炭素数1以上10以下の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等);炭素数6以上30以下のアリール基(例えば、フェニル基、ビフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基);炭素数3以上20以下のシクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基)などが挙げられる。
【0038】
上記式(1)中、R~Rのうち、1個以上はスルホン酸(塩)基またはスルホン酸(塩)基で置換されたアルキル基である。「スルホン酸(塩)基で置換されたアルキル基」とは、一以上のスルホン酸(塩)基で置換された炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であって、例えば、スルホ-メチル基、スルホ-エチル基、スルホ-n-プロピル基、スルホ-イソプロピル基、スルホ-n-ブチル基、スルホ-イソブチル基、スルホ-sec-ブチル基、スルホ-tert-ブチル基、またはこれらの塩の基等が挙げられる。これらの中でも、1個のスルホン酸(塩)基で置換された炭素数1以上4以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、1個のスルホン酸基で置換された炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましい。さらに、タングステンの溶解抑制効果や、入手容易性という観点から、スルホ-メチル基、スルホ-エチル基またはこれらの塩の基がさらに好ましく、スルホ-メチル基またはその塩の基が特に好ましい。
【0039】
上記式(1)中、R~Rのうち、スルホン酸(塩)基またはスルホン酸(塩)基で置換されたアルキル基の数は、1個以上であれば特に制限されないが、タングステンを含む材料の溶解抑制効果の観点から、2個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましい。さらに、タングステンの溶解抑制効果の観点から、R~Rの全てが、スルホン酸(塩)基またはスルホン酸(塩)基で置換された炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることがさらに好ましく、R~Rおよびn個のRの全てが、スルホン酸(塩)基またはスルホン酸(塩)基で置換された炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが特に好ましく、R~Rおよびn個のRの全てが、スルホン酸(塩)基であることが最も好ましい。
【0040】
含窒素スルホン酸化合物の好ましい例としては、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、2-アミノエタンスルホン酸(アミノエチルスルホン酸)、エチレンジアミン四エチレンスルホン酸、エチレンジアミン四メチレンスルホン酸(エチレンジアミンテトラ(メチレンスルホン酸))、エチレンジアミン四スルホン酸、ジエチレントリアミン五エチレンスルホン酸、ジエチレントリアミン五メチレンスルホン酸(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンスルホン酸))、ジエチレントリアミン五スルホン酸、トリエチレンテトラミン六エチレンスルホン酸、トリエチレンテトラミン六メチレンスルホン酸、トリエチレンテトラミン六スルホン酸、プロパンジアミン四エチレンスルホン酸、およびプロパンジアミン四メチレンスルホン酸、プロパンジアミン四スルホン酸ならびにこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、タングステンを含む材料の溶解抑制効果や、入手容易性等を考慮すると、エチレンジアミン四エチレンスルホン酸、エチレンジアミン四メチレンスルホン酸(エチレンジアミンテトラ(メチレンスルホン酸))、エチレンジアミン四スルホン酸、ジエチレントリアミン五エチレンスルホン酸、ジエチレントリアミン五メチレンスルホン酸(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンスルホン酸))、ジエチレントリアミン五スルホン酸、トリエチレンテトラミン六エチレンスルホン酸、トリエチレンテトラミン六メチレンスルホン酸、トリエチレンテトラミン六スルホン酸、プロパンジアミン四エチレンスルホン酸、およびプロパンジアミン四メチレンスルホン酸、プロパンジアミン四スルホン酸ならびにこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩がより好ましく、エチレンジアミン四スルホン酸、ジエチレントリアミン五スルホン酸、およびトリエチレンテトラミン六スルホン酸、ならびにこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩がさらに好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る含窒素スルホン酸化合物は、上記に例示した含窒素スルホン酸化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0041】
なお、含窒素スルホン酸化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0042】
タングステン溶解抑制剤は、含窒素スルホン酸化合物と、含窒素スルホン酸化合物以外の成分とを含む組成物(本明細書において、単に「タングステン溶解抑制剤組成物」とも称する)であってもよい。
【0043】
タングステン溶解抑制剤がタングステン溶解抑制剤組成物である場合、含窒素スルホン酸化合物の含有量は、特に制限されないが、タングステン溶解抑制剤組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。この範囲であると、タングステンを含む材料の溶解抑制効果が向上する。また、含窒素スルホン酸化合物の含有量は、タングステン溶解抑制剤組成物の総質量に対して、100質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。この範囲であると、処理後における含窒素スルホン酸化合物の除去の容易性が向上する。
【0044】
以下、タングステン溶解抑制剤組成物に含まれうる、含窒素スルホン酸化合物以外の各成分について説明する。
【0045】
[分散媒]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、分散媒(溶媒)をさらに含むことが好ましい。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。
【0046】
分散媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0047】
分散媒としては、特に制限されないが、水を含むことが好ましい。分散媒中の水の含有量は、特に制限されないが、分散媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、水のみであることがさらに好ましい。水は、洗浄対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0048】
また、分散媒は、各成分の分散性または溶解性を向上させることができる場合、有機溶媒であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が好ましく用いられる。有機溶媒を用いる場合、水と有機溶媒とを混合し、得られた混合溶媒中に各成分を添加し分散または溶解してもよいし、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0049】
[研磨用組成物]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、分散媒を含んでいれば、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物となりうる。すなわち、本発明の他の一形態は、本発明の一形態に係るタングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、分散媒(好ましくは水)を含むタングステン溶解抑制剤である、研磨用組成物に関する。言い換えれば、当該形態は、含窒素スルホン酸化合物と、分散媒(好ましくは水)とを含み、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物に関する。かような本発明に係る研磨用組成物は、高い研磨速度を維持しつつ、タングステン溶解抑制効果に優れ、また、研磨後の研磨対象物表面における欠陥数をより低減することができる。
【0050】
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、タングステン溶解抑制効果および研磨用組成物としての効果を阻害しない範囲で、含窒素スルホン酸化合物および分散媒以外の成分を含んでいてもよい。この場合、本発明の好ましい一形態としては、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、後述する砥粒と、分散媒(好ましくは水)とを含む本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤組成物である、研磨用組成物が挙げられる。言い換えれば、当該形態は、含窒素スルホン酸化合物と、分散媒(好ましくは水)と、後述する砥粒とを含み、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物である。
【0051】
[表面処理組成物]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、分散媒を含んでいれば、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物となりうる。すなわち、本発明の他の一形態は、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理する用途で使用される、分散媒(好ましくは水)を含む本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤である、表面処理組成物に関する。言い換えれば、当該形態は、含窒素スルホン酸化合物と、分散媒(好ましくは水)とを含み、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理する用途で使用される、表面処理組成物に関する。かような本発明に係る表面処理組成物は、タングステン溶解抑制効果に優れ、研磨済研磨対象物表面における欠陥数をより低減することができる。
【0052】
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、タングステン溶解抑制効果を阻害しない範囲で、含窒素スルホン酸化合物および任意に用いられる分散媒以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0053】
以下、本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)に含まれうる含窒素スルホン酸化合物および分散媒以外の成分について説明する。
【0054】
[アニオン性高分子分散剤]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、アニオン性官能基またはその塩の基を有し、重量平均分子量が1,000以上である高分子化合物(本明細書において、「アニオン性高分子分散剤」とも称する)をさらに含んでいてもよい。
【0055】
特に、本発明の一形態に係る研磨用組成物および本発明の一形態に係る表面処理組成物は、アニオン性高分子分散剤をさらに含むことが好ましい。分散剤は、界面活性能により表面張力を低下させ、処理後の表面における欠陥数を低減させる機能を有する。
【0056】
なお、本明細書において、アニオン性官能基とは、カウンターイオンが解離してアニオンとなる(アニオン化する)官能基を意味する。
【0057】
本発明者らは、アニオン性高分子分散剤によって処理後の表面における欠陥数を低減しうるメカニズムを以下のように推測している。
【0058】
アニオン化したアニオン性官能基と、親水性の残渣との親和性により、アニオン性高分子分散剤は、アニオン化したアニオン性官能基を残渣側およびその反対側の両側に向けてその周囲に吸着する。また、アニオン性官能基以外の部分(すなわち、アニオン性高分子分散剤のポリマー鎖部分)と、疎水性の残渣との親和性により、アニオン性高分子分散剤は、アニオン化したアニオン性官能基を残渣とは反対側に向けてその周囲に吸着し、ミセルを形成する。よって、このアニオン性高分子分散剤に吸着された残渣が研磨用組成物中や表面処理組成物中に溶解または分散することで、残渣が効果的に除去される。さらに、アニオン性高分子分散剤は、研磨対象物や表面処理対象物の表面がカチオン性である場合、アニオン化したアニオン性官能基をその表面側およびその反対側の両側に向けて、その表面に吸着する。また、アニオン性高分子分散剤は、研磨対象物や表面処理対象物の表面がカチオン性ではない場合、アニオン化したアニオン性官能基をその表面とは反対側に向けて、その表面上に吸着する。その結果、これらの表面は、アニオン化したアニオン性官能基に覆われた状態となり、親水性となる。そして、これらの表面と、アニオン性高分子分散剤に吸着された残渣との間では静電的な反発が発生することとなり、またアニオン性高分子分散剤の吸着が生じ難い一部の疎水性の一部との間でも疎水性相互作用が生じにくくなり、残渣の付着が抑制される。
【0059】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0060】
アニオン性高分子分散剤が有するアニオン性官能基またはその塩の基としては、特に制限されないが、例えば、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、カルボン酸(塩)基(カルボキシル基またはその塩の基)等が挙げられる。
【0061】
すなわち、アニオン性高分子分散剤としては、例えば、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、カルボン酸(塩)基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する高分子化合物等が挙げられるが、これらの中でも、処理後の表面における欠陥数の低減効果の観点から、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基またはホスホン酸(塩)基を有する高分子化合物が好ましく、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物であることが特に好ましい。
【0062】
ここで、アニオン性高分子分散剤は、カルボン酸(塩)基と、カルボン酸(塩)基以外のアニオン性官能基またはその塩の基を有していてもよい。アニオン性高分子分散剤の一分子が有する、アニオン性官能基またはその塩の基の総数に対する、カルボン酸(塩)基の数の割合(%)は、特に制限されないが、50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましく、0%であることが最も好ましい(下限0%)。
【0063】
なお、アニオン性高分子分散剤の一分子が有する、アニオン性官能基またはその塩の基の総数に対する、カルボン酸(塩)基の数の割合は公知の方法により求めることができる。特に、アニオン性高分子分散体が(共)重合体である場合は、アニオン性高分子分散剤の一分子が有する、アニオン性官能基またはその塩の基の総数に対する、カルボン酸(塩)基の数の割合(%)は、下記式により求めることができる。
【0064】
【数1】
【0065】
前述のように、特に好ましいアニオン性高分子分散剤は、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物(本明細書において、単に「スルホン酸基含有高分子」とも称する。)である。ここで、アニオン性高分子分散剤におけるスルホン酸(塩)基の定義は、前述の含窒素スルホン酸化合物で説明したものと同様である。
【0066】
スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基を複数有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。スルホン酸基含有高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をスルホン化して得られる高分子化合物や、スルホン酸(塩)基を有する単量体を(共)重合して得られる高分子化合物等が挙げられる。これら高分子が有するスルホン酸基の少なくとも一部または全部は、塩の形態であってもよい。これらの中でも、スルホン酸変性ポリビニルアルコール(スルホン酸基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸基含有変性ポリビニルアルコール)、ポリスチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有ポリスチレン(スルホン酸基含有変性ポリスチレン)、スルホン酸変性ポリ酢酸ビニル(スルホン酸基含有ポリ酢酸ビニル、スルホン酸基含有変性ポリ酢酸ビニル)、スルホン酸基含有ポリエステル(スルホン酸基含有変性ポリエステル)、(メタ)アクリル酸-スルホン酸基含有モノマーの共重合体等の(メタ)アクリル基含有モノマー-スルホン酸基含有モノマーの共重合体、およびこれらの誘導体等、ならびにこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩が好ましく、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基含有ポリスチレン、および(メタ)アクリル基含有モノマー-スルホン酸基含有モノマーの共重合体、ならびにこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩がより好ましく、ポリスチレンスルホン酸またはそのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩がさらに好ましい。
【0067】
アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は、1,000以上である。分子量が1,000未満であると、処理後の表面における残渣除去が十分に得られないからである。また、アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。この理由は、残渣の除去性が向上するからであると推測される。また、アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、25,000以下であることがさらに好ましく、15,000以下であることが特に好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。この理由は、処理後におけるスルホン酸基含有高分子の除去の容易性が向上するからであると推測される。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0068】
アニオン性高分子分散剤としては、合成品を用いても、市販品を用いていてもよい。
【0069】
なお、アニオン性高分子分散剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0070】
アニオン性高分子分散剤の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物または表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさら好ましく、0.25質量%以上であることが特に好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。この理由は、残渣の除去性が向上するからであると推測される。また、アニオン性高分子分散剤の含有量は、研磨用組成物または表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。この理由は、処理後におけるアニオン性高分子分散剤自体の除去の容易性が向上するからであると推測される。
【0071】
本発明の一形態に係る研磨用組成物および本発明の一形態に係る表面処理組成物において、上記含窒素スルホン酸化合物と、アニオン性高分子分散剤との含有量比は、特に制限されないが、タングステン溶解抑制効果を向上させるとの観点から、アニオン性高分子分散剤の含有量(質量部)に対する含窒素スルホン酸化合物の含有量(質量部)(含窒素スルホン酸化合物の含有量(質量部)/アニオン性高分子分散剤の含有量(質量部))は、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、1.5以上であることが更に好ましい。また、本発明の一形態に係る研磨用組成物および本発明の一形態に係る表面処理組成物において、上記含窒素スルホン酸化合物と、アニオン性高分子分散剤との含有量比は、欠陥数の低減効果を向上させるとの観点から、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
【0072】
[砥粒]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、砥粒をさらに含んでいてもよい。
【0073】
特に、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒を含むことが好ましい。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨し、研磨速度を向上させる機能を有する。
【0074】
砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。なかでも、入手が容易であること、またコストの観点から、シリカが好ましく、ヒュームドシリカまたはコロイダルシリカがより好ましく、コロイダルシリカがさらに好ましい。
【0075】
また、砥粒は表面修飾されていてもよい。表面修飾された砥粒としては、表面に有機酸を固定化したシリカ(有機酸修飾されたシリカ)であることが好ましく、表面に有機酸を固定化したヒュームドシリカまたはコロイダルシリカがより好ましく、表面に有機酸を固定化したコロイダルシリカがさらに好ましい。有機酸としては、特に制限されないが、例えばスルホン酸、カルボン酸、リン酸等が挙げられる。これらの中でもスルホン酸またはカルボン酸が好ましく、スルホン酸がより好ましい。有機酸を砥粒の表面へ導入する方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0076】
砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがより好ましい。この範囲であると、研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて、シリカ粒子の形状が真球であると仮定して算出することができる。
【0077】
水中の砥粒の平均二次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、研磨速度が向上する。また、水中の砥粒の平均二次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減する。なお、砥粒の平均二次粒子径の値は、レーザー光を用いた光散乱法で測定した砥粒の比表面積に基づいて算出することができる。
【0078】
砥粒としては、合成品を用いても、市販品を用いていてもよい。
【0079】
なお、砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0080】
本発明の一形態に係る研磨用組成物における砥粒の含有量の下限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%超であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、研磨速度が向上する。また、本発明の一形態に係る研磨用組成物における砥粒の含有量の上限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、処理後の表面における欠陥数がより低減し、またコストを削減することができる。
【0081】
本発明の一形態に係る研磨用組成物において、砥粒と、上記含窒素スルホン酸化合物との含有量比は、特に制限されないが、研磨速度を向上させるとの観点から、含窒素スルホン酸化合物の含有量(質量部)に対する砥粒の含有量(質量部)(砥粒の含有量(質量部)/含窒素スルホン酸化合物の含有量(質量部))は、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、1.5以上であることが更に好ましい。また、本発明の一形態に係る研磨用組成物において、砥粒と、上記含窒素スルホン酸化合物とのとの含有量比は、タングステン溶解抑制効果を向上させるとの観点から、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
【0082】
また、本発明の一形態に表面処理組成物は、砥粒を含んでいてもよい。砥粒は、表面処理対象物の残渣を機械的に除去する機能を有する場合がある。
【0083】
ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、砥粒が残渣の原因となる場合もあるため、その含有量はできる限り少ないことが好ましく、砥粒を実質的に含有しないことが特に好ましい。なお、本明細書において、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物の総質量に対して、砥粒の含有量が0.01質量%以下である場合をいう。
【0084】
[pH調整剤]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。
【0085】
特に、本発明の一形態に係る研磨用組成物および本発明の一形態に係る表面処理組成物は、pH調整剤をさらに含むことが好ましい。pH調整剤は、主として表面処理組成物のpHを調整する目的で添加される。
【0086】
pH調整剤は、pH調整機能を有する化合物であれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、酸、アルカリおよびこれらの塩等が挙げられるが、これらの中でも特に酸が好ましい。また、アルカリ、および酸またはアルカリの塩は、特に制限されないが、酸と併用されることが好ましく、酸と併用され。全体としてpHを低下させるために用いられることが特に好ましい。これらは、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。
【0087】
本明細書において、酸には、前述の含窒素スルホン酸化合物やアニオン性高分子分散剤は含まれないものとする。すなわち、含窒素スルホン酸化合物やアニオン性高分子分散剤は、ここで述べる添加剤としての酸とは異なるものとして取り扱う。
【0088】
酸としては、無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。これらの中でも、マレイン酸または硝酸であることがより好ましく、マレイン酸であることがさらに好ましい。
【0089】
アルカリとしては、特に制限されないが、例えば、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、テトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン等が挙げられる。
【0090】
酸またはアルカリの塩としては、特に制限されないが、例えば、上記例示した酸またはアルカリの炭酸塩、炭酸水素塩、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩等が挙げられる。
【0091】
なお、pH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0092】
pH調整剤の含有量は、特に制限されないが、タングステン溶解抑制剤組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさら好ましい。この範囲であると、優れたpH調整機能を得ることができる。なお、上記の好ましい含有量の範囲は、タングステン溶解抑制剤組成物が研磨用組成物である場合や、表面処理組成物である場合についても同様である。研磨用組成物の用途や、表面処理組成物の用途においては、処理後の表面における欠陥数がより低減する。この理由は、タングステン溶解抑制効果が向上するからであり、また、研磨済研磨対象物や表面処理対象物の表面および残渣の表面を正電荷に帯電させる効果が向上して前述のアニオン性高分子分散剤の吸着の容易性が向上するからであると推測される。また、pH調整剤の含有量は、タングステン溶解抑制剤組成物(研磨用組成物、表面処理組成物)の総質量に対して、0.5質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。この範囲であると、優れたpH調整機能を得つつ、コストを削減することができる。なお、上記の好ましい含有量の範囲は、タングステン溶解抑制剤組成物が研磨用組成物である場合や、表面処理組成物である場合についても同様である。
【0093】
[酸化剤]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、酸化剤をさらに含んでいてもよい。
【0094】
特に、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、酸化剤を含みうる。酸化剤は、一般的に、研磨対象物の表面を酸化させることで、研磨速度を向上させる機能や、研磨後の研磨対象物の表面品質を向上させる機能等、研磨用組成物の処方および研磨対象物の種類に応じて、特定の研磨特性を向上させる機能を有する。
【0095】
酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素が好ましい。なお、酸化剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0096】
本発明の一形態に係る研磨用組成物において、酸化剤の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい(下限0質量%)。
【0097】
ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において、「酸化剤を実質的に含有しない」とは、タングステン溶解抑制剤の総質量に対して、酸化剤の含有量が0.0001質量%以下である場合をいう。なかでも、0.00002質量%以下であることが特に好ましく、全く含まないことが最も好ましい(下限0質量%)。この理由は、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、表面処理組成物の用途においては、酸化剤が残渣の原因となる場合があるからである。
【0098】
[他の成分]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記説明した以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0099】
特に、本発明の一形態に係る研磨用組成物および本発明の一形態に係る表面処理組成物は、使用目的に応じた所望の機能を付与するため、他の成分をさらに含みうる。
【0100】
他の成分としては、特に制限されず、例えば、濡れ剤、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、溶存ガス、還元剤等の公知の研磨用組成物や表面処理組成物に用いられる成分を適宜選択しうる。ただし、特に、表面処理組成物の用途においては、目的とする機能を発現するための必要となる成分以外の成分は、残渣の原因となる場合があるため、その含有量はできる限り少ないことが好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0101】
[pH]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)のpHは、特に制限されないが、7未満であることが好ましく、6未満であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましく、3以下であることが特に好ましく、2.5以下であることが最も好ましい。pHが7未満、すなわち酸性領域であると、タングステンを含む材料の溶解抑制効果が向上する。この理由は、含窒素スルホン酸化合物が有する窒素原子によるタングステンを含む材料への配位が生じ易くなり、当該材料の表面における不溶性の錯体形成がより促進されて、タングステン水和物の形成がより抑制されるからであると推測される。なお、上記の好ましい含有量の範囲は、タングステン溶解抑制剤組成物が研磨用組成物である場合や、表面処理組成物である場合についても同様である。研磨用組成物の用途や、表面処理組成物の用途においては、残渣の除去性が向上する。この理由は、研磨済研磨対象物や表面処理対象物の表面および残渣の表面を正電荷に帯電させる効果が向上し、前述のスルホン酸基含有高分子の吸着の容易性が向上するからであると推測される。また、本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤組成物のpHは、pHは、特に制限されないが、1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、pH調整剤の使用量をより低減でき、コストを削減することができる。また、砥粒を含む場合は、砥粒の分散安定性が向上する。これより、本発明の好ましいタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解剤組成物)の一例は、分散媒を含み、当該分散媒が水を含み、pHが7未満である。なお、上記の好ましい含有量の範囲は、タングステン溶解抑制剤組成物が研磨用組成物である場合や、表面処理組成物である場合についても同様である。よって、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、分散媒を含み、当該分散媒が水を含み、pHが7未満であることが好ましい。また、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、分散媒を含み、当該分散媒が水を含み、pHが7未満であることが好ましい。
【0102】
[溶解抑制効果]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤は、タングステンを含む材料の溶解抑制効果が高いほど好ましい。具体的には、本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤300mLを300rpmで攪拌した状態で、タングステンウェハ(大きさ:32mm×32mm)を60℃で10分間浸漬してエッチングした際に、エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)の差が5Å以下であることが好ましい(下限0Å)。
【0103】
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)が研磨用組成物の用途で用いられる場合、本発明の一形態に係る研磨用組成物における上記エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)の差は、4.5Å以下であることがより好ましく、3.9Å以下であることがさらに好ましく、3.3Å以下であることがよりさらに好ましく、3.0Å以下であることが特に好ましく、2.5Å以下であることが最も好ましい(下限0Å)。
【0104】
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)が表面処理組成物の用途で用いられる場合、本発明の一形態に係る表面処理組成物における上記エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)の差は、2.5Å以下であることがより好ましく、1.7Å以下であることがさらに好ましく、1.5Å以下であることがよりさらに好ましく、1.3Å以下であることが特に好ましく、1.2Å以下であることが最も好ましい(下限0Å)。
【0105】
[欠陥低減効果]
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)を用いてタングステンを含む材料の処理を行った後、タングステンを含む材料の表面における欠陥数は、少ないほど好ましい。ここで、欠陥とは、タングステンを含む材料の腐食(溶解)による表面の傷や荒れ、および表面に残存する残渣等の表面の乱れを表す。
【0106】
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)が研磨用組成物の用途で用いられる場合、処理後のタングステンを含む材料の表面における欠陥数は、185個以下であることが好ましく、110個以下であることがより好ましく、50個以下であることがさらに好ましく、35個以下であることが特に好ましい(下限0個)。
【0107】
本発明の一形態に係るタングステン溶解抑制剤(タングステン溶解抑制剤組成物)が表面処理組成物の用途で用いられる場合、処理後のタングステンを含む材料の表面における欠陥数は、100個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましく、20個以下であることがさらに好ましく、15個以下であることが特に好ましい(下限0個)。
【0108】
なお、上記欠陥の数は、実施例に記載の方法により研磨処理または表面処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0109】
<タングステン溶解抑制剤組成物、研磨用組成物および表面処理組成物の製造方法>
本発明の他の一形態は、上記の含窒素スルホン酸化合物と、含窒素スルホン酸化合物以外の成分とを混合することを含む、タングステン溶解抑制剤組成物の製造方法に関する。含窒素スルホン酸化合物以外の成分は、分散媒を含むことが好ましい。タングステン溶解抑制剤組成物が研磨用組成物である場合や、表面処理組成物である場合についても同様である。
【0110】
研磨用組成物の製造方法としては、上記の含窒素スルホン酸化合物と、分散媒とを混合することを含む、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物の製造方法であることが好ましい。また、研磨用組成物の製造方法としては、上記の含窒素スルホン酸化合物と、分散媒と、砥粒とを混合することを含む、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物の製造方法であることが特に好ましい。
【0111】
また、表面処理組成物の製造方法としては、上記の含窒素スルホン酸化合物と、分散媒とを混合することを含む、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物の製造方法であることが特に好ましい。
【0112】
各成分を混合する際の混合方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。また混合温度は特に制限されないが、一般的には10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0113】
なお、タングステン溶解抑制剤組成物の製造方法における、上記の含窒素スルホン酸化合物を含む各成分の好ましい態様(種類、特性、構造、含有量等)は、上記各成分の説明と同様である。また、製造されるタングステン溶解抑制剤組成物の好ましい特性をはじめとする種々の特徴についても、上記タングステン溶解抑制剤の説明と同様である。
【0114】
<溶解抑制方法>
本発明の他の一形態は、上記のタングステン溶解抑制剤を、タングステンを含む材料に接触させることによって、タングステンを含む材料の溶解を抑制する、タングステン溶解抑制方法に関する。
【0115】
タングステンを含む材料にタングステン溶解抑制剤を接触させる方法、装置、条件としては、特に制限されず、公知の方法、装置、条件を適宜用いることができる。
【0116】
<研磨方法>
本発明の他の一形態は、上記の研磨用組成物を用いて、または、上記の製造方法によって研磨用組成物を製造した後、得られた研磨用組成物を用いて、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法に関する。
【0117】
研磨装置、研磨条件としては、特に制限されず、公知の装置、条件を適宜用いることができる。
【0118】
研磨装置は、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0119】
研磨条件は、特に制限されず、研磨用組成物および研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。研磨荷重については、特に制限されないが、一般的には、単位面積当たり0.1psi以上10psi以下であることが好ましく、0.5psi以上8psi以下であることがより好ましく、1psi以上6psi以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、高い研磨速度を得つつ、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。定盤回転数およびキャリア回転数は、特に制限されないが、一般的には、それぞれ、10rpm以上500rpm以下であることが好ましく、20rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上200rpm以下であることがさらに好ましい。定盤回転数およびキャリア回転数は、同一であっても異なっていてもよいが、定盤回転数がキャリア回転数よりも大きいことが好ましい。研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。研磨用組成物の供給量(研磨用組成物の流量)は、研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。研磨時間は、目的とする研磨結果が得られるよう適宜設定すればよく特に制限されないが、一般的には、5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0120】
研磨終了後の研磨済研磨対象物は、水による洗浄を行った後に、スピンドライヤやエアブロー等により表面に付着した水滴を払い落として、表面を乾燥させてもよい。
【0121】
<表面処理方法>
本発明の他の一形態は、上記の表面処理組成物を用いて、または、上記の製造方法によって表面処理組成物を製造した後、得られた表面処理組成物を用いて、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物(表面処理対象物)を表面処理することを含む、表面処理方法に関する。
【0122】
本明細書において、表面処理とは、表面処理対象物の表面における残渣を低減する処理をいい、広義の洗浄を行う処理を表す。
【0123】
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣としては、特に制限されないが、例えば、有機物残渣、砥粒由来のパーティクル残渣、研磨対象物由来の残渣、これら2種以上の混合物からなる残渣等が挙げられる。有機物残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程もしくは任意に設けてもよいリンス研磨工程において使用したパッから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物もしくはリンス研磨工程において用いられるリンス研磨用組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。残渣数は、KLA TENCOR社製ウェーハ欠陥検査装置SP-2により確認することができる。また、残渣の種類によって色および形状が大きく異なることから、残渣の種類は、SEM観察によって目視にて判断することができる。また、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。
【0124】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、表面処理組成物を表面処理対象物に直接接触させる方法により行われる。表面処理方法、表面処理装置、表面処理条件としては、特に制限されず、公知の方法、装置、条件を適宜用いることができる。
【0125】
表面処理方法は、リンス研磨処理による方法、または洗浄処理による方法が好ましく、リンス研磨処理による方法がより好ましい。
【0126】
本明細書において、リンス研磨処理とは、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。リンス研磨処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨済研磨対象物を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとを相対摺動させる処理が挙げられる。
【0127】
リンス研磨装置、リンス研磨条件としては、特に制限されず、公知の装置、条件を適宜用いることができる。
【0128】
リンス研磨装置は、例えば、前述の研磨方法で説明したものと同様の研磨装置や研磨パッドを使用することができる。また、リンス研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加えて、表面処理組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。
【0129】
リンス研磨条件は、特に制限されず、表面処理組成物および研磨済研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。リンス研磨荷重については、特に制限されないが、一般的には、基板の単位面積当たり0.1psi以上10psi以下であることが好ましく、0.5psi以上8psi以下であることがより好ましく、1psi以上6psi以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、高い残渣除去効果を得つつ、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。定盤回転数およびキャリア回転数は、特に制限されないが、一般的には、それぞれ、10rpm以上500rpm以下であることが好ましく、20rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上200rpm以下であることがさらに好ましい。定盤回転数およびキャリア回転数は、同一であっても異なっていてもよいが、定盤回転数がキャリア回転数よりも大きいことが好ましい。表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。表面処理組成物の供給量(表面処理組成物の流量)は、研磨済研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。リンス研磨処理時間は、目的とする残渣除去効果が得られるよう適宜設定すればよく特に制限されないが、一般的には、5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0130】
本明細書において、洗浄処理とは、研磨済研磨対象物(表面処理対象物)が研磨定盤(プラテン)上から取り外された状態で行われる、主に表面処理組成物による化学的作用により表面処理対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。洗浄処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、または、最終研磨に続いてリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外し、研磨済研磨対象物を表面処理組成物と接触させる処理が挙げられる。表面処理組成物と研磨済研磨対象物との接触状態において、研磨済研磨対象物の表面に摩擦力(物理的作用)を与える手段をさらに用いてもよい。
【0131】
洗浄処理方法、洗浄処理装置、洗浄処理条件としては、特に制限されず、公知の方法、装置、条件を適宜用いることができる。
【0132】
洗浄処理方法は、特に制限されないが、研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、必要に応じて超音波処理を行う方法や、研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物の表面をブラシで擦る方法等が挙げられる。
【0133】
洗浄装置は、特に制限されず公知の装置を適宜用いることができる。
【0134】
洗浄条件は、特に制限されず、研磨用組成物および研磨済研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。
【0135】
本発明の一形態に係る表面処理方法の前、後またはその両方において、水による洗浄を行ってもよい。その後、研磨済研磨対象物の表面に付着した水滴を、スピンドライヤやエアブロー等により払い落として乾燥させてもよい。
【0136】
<半導体基板の製造方法>
本発明の他の一形態は、上記のタングステン溶解抑制剤を、タングステンを含む材料に接触させることによって、タングステンを含む材料の溶解を抑制することを含む、半導体基板の製造方法に関する。すなわち、当該形態は、処理対象物である半導体基板の形成に用いられるタングステンを含む基板材料に対して、これらのタングステン溶解抑制剤を適用することを含む、半導体基板の製造方法である。
【0137】
半導体基板の製造方法は、本発明の一形態に係る研磨用組成物を用いる場合、上記の研磨方法によって、タングステンを含む層を有する研磨対象物を研磨すること(研磨工程)を含むことが好ましい。なお、当該製造方法において、その他の工程については、公知の半導体基板の製造方法に採用されうる工程を適宜採用することができる。
【0138】
半導体基板の製造方法は、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる場合、上記の表面処理方法によって、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理すること(表面処理工程)を含むことが好ましい。なお、当該製造方法において、その他の工程については、公知の半導体基板の製造方法に採用されうる工程を適宜採用することができる。
【実施例
【0139】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0140】
<表面処理組成物>
[表面処理組成物の調製]
(表面処理組成物A-1の調製)
pH調整剤であるマレイン酸と、分散媒である水(脱イオン水)とを、マレイン酸の含有量が表面処理組成物の総質量に対して0.01質量%となる量で混合することにより、表面処理組成物A-1を調製した。当該表面処理組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2.1であった。
【0141】
(表面処理組成物A-2の調製)
アニオン性高分子分散剤であるポリスチレンスルホン酸(Mw=10,000)と、pH調整剤であるマレイン酸と、水(脱イオン水)とを、ポリスチレンスルホン酸の含有量が表面処理組成物の総質量に対して0.5質量%となり、マレイン酸の含有量が表面処理組成物の総質量に対して0.01質量%となる量で混合することにより、表面処理組成物A-2を調製した。当該表面処理組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2.1であった。
【0142】
(表面処理組成物A-3~A-19の調製)
下記表1に記載のタングステン溶解抑制剤化合物と、pH調整剤であるマレイン酸と、水(脱イオン水)とを、タングステン溶解抑制剤化合物の含有量が表面処理組成物の総質量に対して1質量%となり、マレイン酸の含有量が表面処理組成物の総質量に対して0.01質量%なる量で混合することにより、表面処理組成物A-3~A-19をそれぞれ調製した。これらの表面処理組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは全て2.1であった。
【0143】
(表面処理組成物A-20~A-22の調製)
下記表1に記載のタングステン溶解抑制剤化合物と、アニオン性高分子分散剤であるポリスチレンスルホン酸(Mw=10,000)と、pH調整剤であるマレイン酸と、水(脱イオン水)とを、タングステン溶解抑制剤化合物の含有量が表面処理組成物の総質量に対して1質量%となり、ポリスチレンスルホン酸の含有量が表面処理組成物の総質量に対して0.5質量%となり、マレイン酸の含有量が表面処理組成物の総質量に対して0.01質量%となる量で混合することにより、表面処理組成物A-20~A-22をそれぞれ調製した。これらの表面処理組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは全て2.1であった。
【0144】
(タングステン溶解抑制剤化合物の分子量)
タングステン溶解抑制剤化合物の分子量は、原子量の総和より算出した。
【0145】
(アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量の測定)
アニオン性高分子分散剤であるポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、NGAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0146】
各表面処理組成物の処方を表1に示す。
【0147】
[タングステン溶解抑制効果の評価]
タングステン層の溶解抑制効果の指標として、下記操作によりエッチング試験を行った。すなわち、各表面処理組成物300mLを300rpmで攪拌したサンプル容器に、タングステンウェハ(大きさ:32mm×32mm)を60℃で10分間浸漬することで行なった。浸漬後、タングステンウェハを純水で30秒洗浄し、エアーガンによるエアブロー乾燥で乾燥させた。エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)を、手動シート抵抗器(VR-120、株式会社日立国際電気製)によって測定した。エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)の差をタングステンエッチング量(Å)として算出した。タングステンエッチング量が小さいほど、タングステン溶解抑制効果が高いことを意味する。これらの結果を表2に示す。
【0148】
[欠陥数の評価]
(CMP工程)
半導体基板である、CVD法でTEOSウェーハ上に成膜されたタングステン(W)層を有する基板(以下、W基板とも称する)について、研磨用組成物M(組成;スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で作製、一次粒子径30nm、二次粒子径60nm)4質量%、硫酸アンモニウム1質量%、濃度30質量%のマレイン酸水溶液0.018質量%、溶媒:水)を使用し、下記の条件にてW層を有する側の基板表面の研磨を行った。ここで、W基板は、300mmウェーハを使用した;
-研磨装置および研磨条件-
研磨装置:荏原製作所社製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:63rpm
ヘッド回転数:57rpm
研磨用組成物Mの供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0149】
(リンス研磨処理工程)
上記CMP工程にてW層を有する側の基板表面を研磨した後、研磨済W基板を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済W基板を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、W層を有する側の基板表面について、それぞれ下記のリンス研磨処理を行った;
-リンス研磨装置およびリンス研磨条件-
研磨装置:荏原製作所社製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:63rpm
ヘッド回転数:57rpm
表面処理組成物A-1~A-22の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:300mL/分
リンス研磨処理時間:60秒間。
【0150】
(水洗工程)
上記得られたリンス研磨処理済の各研磨済W基板について、リンス研磨後、洗浄部にて、PVAブラシを用いて脱イオン水(DIW)を掛けながら、60秒間洗浄した。その後、30秒間スピンドライヤにて乾燥させた。
【0151】
(欠陥数の測定)
上記得られた水洗工程後の各研磨済W基板について、0.13μm以上の欠陥数を測定した。欠陥数の測定にはKLA TENCOR社製ウェーハ欠陥検査装置SP-2を使用した。測定は、研磨済W基板の片面(W層を有する側の基板表面)の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について測定を行った。欠陥数が少ないほど、タングステンの溶解に起因して生じる表面の傷や荒れ、または表面に残存する残渣数が少なく、表面の乱れが小さいことを意味する。これらの結果を表2に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
表1および表2に示すように、本発明に係る表面処理組成物A-15、およびA-17~A-22、ならびに参考例に係る表面処理組成物A-14、およびA-16は、窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含み、顕著なタングステン溶解抑制効果を示すこと、またこれらを用いて表面処理をすることで欠陥数が顕著に低減されることが確認された。一方、本発明の範囲外である、窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含まない表面処理組成物A-1~A-13は、タングステン溶解抑制効果は小さく、また欠陥数が低減されず、使用する化合物によっては却って欠陥数が増加する場合もあり、十分な効果が得られないことが確認された。
【0155】
<研磨用組成物>
[研磨用組成物の調製]
(研磨用組成物B-1の調製)
砥粒であるコロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)と、アニオン性高分子分散剤であるポリスチレンスルホン酸(Mw=10,000)と、pH調整剤であるマレイン酸と、分散媒である水(脱イオン水)とを、砥粒の含有量が研磨用組成物の総質量に対して2質量%となり、ポリスチレンスルホン酸の含有量が研磨用組成物の総質量に対して0.5質量%となり、マレイン酸の含有量が研磨用組成物の総質量に対して0.01質量%となる量で混合することにより、研磨用組成物B-1を調製した。当該研磨用組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2.1であった。
【0156】
(研磨用組成物B-2の調製)
砥粒であるコロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)と、pH調整剤であるマレイン酸と、分散媒である水(脱イオン水)とを、砥粒の含有量が研磨用組成物の総質量に対して2質量%となり、マレイン酸の含有量が研磨用組成物の総質量に対して0.01質量%となる量で混合することにより、研磨用組成物B-2を調製した。当該研磨用組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2.1であった。
【0157】
(研磨用組成物B-3~B-19の調製)
砥粒であるコロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)と、下記表3に記載のタングステン溶解抑制剤化合物と、アニオン性高分子分散剤であるポリスチレンスルホン酸(Mw=10,000)と、pH調整剤であるマレイン酸と、酸化剤である過酸化水素と、分散媒である水(脱イオン水)とを、砥粒の含有量が研磨用組成物の総質量に対して2質量%となり、タングステン溶解抑制剤化合物の含有量が研磨用組成物の総質量に対して1質量%となり、ポリスチレンスルホン酸の含有量が研磨用組成物の総質量に対して0.5質量%となり、マレイン酸の含有量が研磨用組成物の総質量に対して0.01質量%となり、過酸化水素の含有量が研磨用組成物の総質量に対して1質量%となる量で混合することにより、研磨用組成物B-3~B-19をそれぞれ調製した。これらの研磨用組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは全て2.1であった。
【0158】
(研磨用組成物B-20~B-22の調製)
砥粒であるコロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)と、下記表3に記載のタングステン溶解抑制剤化合物と、pH調整剤であるマレイン酸と、分散媒である水(脱イオン水)とを、砥粒の含有量が研磨用組成物の総質量に対して2質量%となり、タングステン溶解抑制剤化合物の含有量が研磨用組成物の総質量に対して1質量%となり、マレイン酸の含有量が研磨用組成物の総質量に対して0.01質量%となる量で混合することにより、研磨用組成物B-20~B-22をそれぞれ調製した。これらの研磨用組成物(液温:25℃)のpHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは全て2.1であった。
【0159】
(タングステン溶解抑制剤化合物の分子量)
タングステン溶解抑制剤化合物の分子量は、原子量の総和より算出した。
【0160】
(アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量の測定)
アニオン性高分子分散剤であるポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、上記表面処理組成物におけるアニオン性高分子分散剤の重量平均分子量の測定と同様の装置および条件によって測定した。
【0161】
[研磨速度の評価]
(CMP工程)
半導体基板である、CVD法でTEOSウェーハ上に製膜されたW層を有する基板(W基板)について、上記得られた各研磨用組成物を使用し、それぞれ下記の条件にてW層を有する側の基板表面の研磨を行った。ここで、W基板は、300mmウェーハを使用した;
-研磨装置および研磨条件-
研磨装置:荏原製作所社製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:63rpm
ヘッド回転数:57rpm
研磨用組成物B-1~B-22の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0162】
(研磨速度の評価)
CMP工程前後のW基板の厚み(膜厚)を光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)によって測定した。CMP工程前後のW基板の厚み(膜厚)の差を求め、研磨時間で除し、単位を整えることによって、研磨速度(Å/min)を算出した。これらの結果を表4に示す。
【0163】
[タングステン溶解抑制効果の評価]
タングステン層の溶解抑制効果の指標として、下記操作によりエッチング試験を行った。すなわち、各研磨用組成物300mLを300rpmで攪拌したサンプル容器に、W基板(大きさ:32mm×32mm)を60℃で10分間浸漬することで行なった。浸漬後、タングステンウェハを純水で30秒洗浄し、エアーガンによるエアブロー乾燥で乾燥させた。エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)を、手動シート抵抗器(VR-120、株式会社日立国際電気製)によって測定した。エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)の差をタングステンエッチング量(Å)として算出した。タングステンエッチング量が小さいほど、タングステン溶解抑制効果が高いことを意味する。これらの結果を表4に示す。
【0164】
[欠陥数の評価]
(欠陥数の測定)
上記得られたCMP工程後の各研磨済W基板について、0.13μm以上の欠陥数を測定した。欠陥数の測定にはKLA TENCOR社製ウェーハ欠陥検査装置SP-2を使用した。測定は、研磨済W基板の片面(W層を有する側の基板表面)の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について測定を行った。欠陥数が少ないほど、タングステンの溶解に起因して生じる表面の傷や荒れ、または表面に残存する残渣数が少なく、表面の乱れが小さいことを意味する。これらの結果を表4に示す。
【0165】
【表3】
【0166】
【表4】
【0167】
表3および表4に示すように、本発明に係る研磨用組成物B-15、およびB-17~B-22、ならびに参考例に係る表面処理組成物B-14、およびB-16は、窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含み、研磨速度を維持しつつ、顕著なタングステン溶解抑制効果を示すこと、またこれらを用いて研磨をすることで欠陥数が顕著に低減されることが確認された。一方、本発明の範囲外である、窒素原子を含み、分子量が1,000未満である、スルホン酸化合物またはその塩を含まない研磨用組成物B-1~B-13は、タングステン溶解抑制効果は小さく、欠陥数が低減されず、また使用する化合物によっては却って研磨速度が低下する場合や、欠陥数が増加する場合もあり、十分な効果が得られないことが確認された。