(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン(lithium ion)二次電池用セパレータ(separator)及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/457 20210101AFI20220614BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20220614BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20220614BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20220614BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220614BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220614BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220614BHJP
【FI】
H01M50/457
H01M50/451
H01M50/46
H01M50/426
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2020007516
(22)【出願日】2020-01-21
(62)【分割の表示】P 2013265970の分割
【原出願日】2013-12-24
【審査請求日】2020-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】梶田 篤史
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-123988(JP,A)
【文献】特開2013-020769(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157902(WO,A1)
【文献】特開2007-280781(JP,A)
【文献】特開2011-100635(JP,A)
【文献】特開2011-131470(JP,A)
【文献】国際公開第2007/066768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と、
前記多孔質膜の少なくとも一方の表面に形成され、無機粒子が層全体の80体積%~
96体積%を占める無機粒子層と、
前記無機粒子層の表面に形成され、前記無機粒子層と一体化された多孔質の樹脂層と、を備え、
前記樹脂層は、フッ素樹脂からなるリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記無機粒子層は、前記多孔質膜の両面に形成されていることを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記無機粒子は、金属酸化物粒子を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項4】
TD、MDの熱収縮率がいずれも10%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを備えることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IT技術の発展等で容量やエネルギー(energy)密度の観点からリチウムイオン電池がよく利用されている。更なる連続使用時間の延長等の要求で容量・エネルギー密度を向上させる検討が各社で行われている。とりわけ、形状の自由度と軽さの点から、アルミ(Aluminium)箔に各種樹脂をラミネート(laminate)したフィルム(film)で電池素子を包み込むラミネートタイプのリチウムイオン電池においてその要求は大きい。
【0003】
しかしながら、従来の円筒タイプや角型の金属缶に挿入された電池と比較しラミネートタイプの電池は素子の拘束が大気圧に依るため、形状の変化を起こしやすいことが欠点として挙げられる。特に、充放電に伴うガス発生や電極の形状変化に伴い、セパレータと各電極とが分離する、すなわち正極-負極間の距離が変化する場合がある。この場合、Li挿入―脱離反応が不均一となり電池の寿命が著しく短くなるなどの問題が生じる。また、エネルギー密度が向上することで、短絡等発生時の発熱も大きくなる。
【0004】
そこで、セパレータと各電極との分離が抑制するために、セパレータに電解液で膨潤する樹脂を予め塗工する技術が提案されている。また、セパレータの耐熱性を向上させるために、無機粒子層をセパレータ表面に形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂をセパレータに塗工する技術では、セパレータの耐熱性を向上させることができず、無機粒子層をセパレータ表面に形成する技術では、セパレータと各電極との分離を抑制することができなかった。
【0007】
そこで、これらの問題を同時に解決することを目的として、電解液に膨張する樹脂及び無機粒子を混合させたスラリー(Slurry)をセパレータに塗工し、乾燥させる技術が提案されている。
【0008】
しかし、この技術では、無機粒子が少なすぎると十分な耐熱性が得られなく、かといって無機粒子の量を増やすと同じ厚みを目標とした場合、樹脂の量が減少してしまい、形状安定性は保てなくなってしまうという問題点が顕在化している。
【0009】
このため、特許文献1では、無機粒子の濃度に勾配をもたせた技術が提案されている。しかし、この技術でも、無機粒子を含む樹脂層の表面に無機粒子が多数存在しているので、各電極とセパレータとの結着力が十分ではない。また、特許文献1には、熱収縮への言及がないので、耐熱性の観点からも十分な効果が得られないと推測される。このように、セパレータと電極とが分離する問題、及びセパレータの耐熱性の問題を同時に解決することができる技術は未だ提案されていないのが実情である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、セパレータと電極との分離を抑制し、かつ、セパレータの耐熱性を向上することが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、多孔質膜と、多孔質膜の少なくとも一方の表面に形成され、無機粒子が層全体の80体積%以上を占める無機粒子層と、無機粒子層の表面に形成され、無機粒子層と一体化された多孔質の樹脂層と、を備えるリチウムイオン二次電池用セパレータが提供される。
【0012】
この観点によれば、無機粒子層によってセパレータの耐熱性が向上する。さらに、樹脂層は無機粒子層の表面に形成されるので、樹脂層の表面には無機粒子はほとんど存在しない。したがって、セパレータとリチウムイオン二次電池の電極との結着力が向上する。すなわち、セパレータと電極との分離が抑制される。さらに、樹脂層は無機粒子層と一体化されているので、樹脂層と無機粒子層との剥離が抑制される。したがって、この点でもセパレータと電極との分離が抑制される。さらに、樹脂層は多孔質体なので、リチウムイオン二次電池の電解液が樹脂層に含浸される。したがって、リチウムイオン二次電池の導電性が確保される。このように、本観点によるセパレータは、従来のリチウムイオン二次電池と同等以上の特性(例えばサイクル特性)を確保しつつ、セパレータと電極との分離を抑制し、セパレータの耐熱性を向上することができる。
【0013】
ここで、無機粒子層は、多孔質膜の両面に形成されていてもよく、この場合、セパレータの耐熱性がより向上する。
【0014】
また、樹脂層は、フッ素(Fluorine)樹脂を含んでいてもよく、この場合、セパレータと電極との結着力がより向上する。
【0015】
また、無機粒子は、金属酸化物粒子を含んでいてもよく、この場合、セパレータの耐熱性がより向上する。
【0016】
また、TD、MDの熱収縮率がいずれも10%以下であってもよく、この場合、セパレータの耐熱性がより向上する。
【0017】
本発明の他の観点によれば、上記のリチウムイオン二次電池用セパレータを備えることを特徴とする、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0018】
この観点によりリチウムイオン二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池と同等以上の特性を確保しつつ、セパレータと電極との分離を抑制し、セパレータの耐熱性を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、セパレータと電極との分離を抑制し、かつ、セパレータの耐熱性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】リチウムイオン二次電池の内部構成を概略的に示す側断面図である。
【
図2】表面処理層の詳細構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、
図1に基づいて、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。
【0022】
リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ40と、非水電解液とを備える。リチウムイオン二次電池10の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば4.3V(vs.Li/Li+)以上5.0V以下、特に4.5V以上5.0V以下となる。リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。即ち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、ボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0023】
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム(aluminium)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成される。
【0024】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、結着剤とをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物であるが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiaMnxCoyNizO2(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnxCoyNizO2(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5O4となる。
【0025】
導電剤は、例えばケッチェンブラック(Ketjenblack)、アセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0026】
結着剤は、例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、エチレンプロピレンジエン(ethylene-propylene-diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(cellulose nitrate)等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0027】
正極活物質層22は、例えば、以下の製法により作製される。すなわち、まず、正極活物質、導電剤、及び結着剤を乾式混合することで正極合剤を作製する。ついで、正極合剤を適当な有機溶媒に分散させることで正極合剤スラリー(slurry)を形成し、この正極合剤スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで正極活物質層が形成される。
【0028】
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。負極活物質層32は、リチウムイオン二次電池の負極活物質層として使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、負極活物質層32は、負極活物質を含み、結着剤をさらに含んでいてもよい。負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素もしくはスズもしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、及びLi4Ti5O12等の酸化チタン系化合物等が考えられる。ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。負極活物質としては、これらの他に、例えば金属リチウム等が挙げられる。結着剤は、正極活物質層22を構成する結着剤と同様のものでもある。正極活物質と結着剤との質量比は特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池で採用される質量比が本実施形態でも適用可能である。
【0029】
負極活物質層32は、例えば、以下の製法により作製される。すなわち、まず、負極活物質、及び結着剤を乾式混合することで負極合剤を作製する。ついで、負極合剤を適当な溶媒に分散させることで負極合剤スラリー(slurry)を形成し、この負極合剤スラリーを集電体31上に塗工し、乾燥、圧延することで負極活物質層32が形成される。
【0030】
セパレータ40は、多孔質膜40aと、表面処理層40b、40cとを含む。多孔質膜は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の多孔質膜として使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。多孔質膜としては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。多孔質膜を構成する樹脂としては、例えばポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(Polyester)系樹脂、PVDF、フッ化ビニリデン(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)-ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等を挙げることができる。
【0031】
表面処理層40bは、
図2に示すように、無機粒子層40b-1と、樹脂層40b-2とを備える。無機粒子層40b-1は、セパレータ40に耐熱性を付与する層であり、多孔質膜40aの表面に形成される。無機粒子層40b-1は、多数の無機粒子と、バインダとを含む。無機粒子は、リチウムイオン二次電池の耐熱性を向上させるためのものであればどのようなものであってもよい。無機粒子は、具体的にはセラミック粒子であり、より具体的には、金属酸化物粒子である。金属酸化物粒子としては、例えばアルミナ粒子、ベーマイト粒子等が挙げられる。
【0032】
バインダの種類も特に制限はなく、リチウムイオン二次電池のバインダとして使用できるものであればどのようなものであってもよい。バインダを構成する樹脂としては、例えばポリオレフィン等が挙げられる。
【0033】
無機粒子は、無機粒子層40b-1全体の80体積%以上を占める。これにより、セパレータ40の耐熱性が向上する。無機粒子の占有率の上限値は特に制限はない。ただし、無機粒子の占有率が高過ぎると無機粒子層40b-1がもろくなる可能性があるので、占有率は例えば96体積%以下であることが好ましい。
【0034】
樹脂層40b-2は、セパレータ40と正極20との結着力を強化する層であり、無機粒子層40b-1の表面に形成される。樹脂層40b-2を構成する樹脂は、リチウムイオン二次電池のバインダとして使用される樹脂であればよい。樹脂層40b-2を構成する樹脂の好ましい例はフッ素樹脂である。この場合、セパレータ40と正極20との結着力が特に強化される。
【0035】
また、樹脂層40b-2は、多孔質体であり、空孔内に非水電解液が含浸される。また、樹脂層40b-2は、無機粒子層40b-1と一体化されている。具体的には、樹脂層40b-2は、無機粒子層40b-1の表面の無機粒子間の隙間に入り込んでいる。これにより、樹脂層40b-2は、無機粒子層40b-1と強固に結合される。
【0036】
セパレータ40は、例えば以下の方法により作製される。すなわち、無機粒子及びバインダを含む塗工液(スラリー)を多孔質体40aの表面に塗工し、乾燥する。これにより、多孔質体40aの表面に無機粒子層40b-1を形成する。ついで、樹脂層を構成する樹脂が溶解した塗工液を無機粒子層40b-1上に塗工する。これにより、無機粒子層40b-1の表面に塗工層を形成する。塗工層は液体なので、無機粒子間の隙間に深く侵入する。ついで、塗工層を樹脂が溶解しない液体(例えば水)に晒す。例えば、塗工層及び無機粒子層を含む多孔質体40aを水槽内に浸漬する。あるいは、塗工層及び無機粒子層40b-1を含む多孔質体40aに水ミストを噴射する。これにより、塗工層内の溶媒が水に置換されるので、樹脂が多孔質体として析出する。さらに、塗工層はすでに無機粒子間に深く侵入しているので、多孔質体である樹脂は無機粒子間に深く侵入している。これにより、無機粒子層40a-1と一体化し、かつ多孔質化した樹脂層40b-2が形成される。
【0037】
表面処理層40cも表面処理層40bと同様の構成を有するので、説明を省略する。表面処理層40b、40cのいずれかは省略されてもよい。また、多孔質膜40aの両面のうち、表面処理層が形成されない面には、上述した樹脂層40b-2だけ形成してもよい。この場合、表面処理層が形成されない面と電極との結着力を確保することができる。
【0038】
非水電解液は、従来からリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ-ブチロラクトン(butyrolactone)、γ-バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)またはその誘導体;1,3-ジオキサン(dioxane)、1,4-ジオキサン(dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(Dioxolane)またはその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6,LiPF6-x(CnF2n+1)x[但し、1<x<6,n=1or2],LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li2B10Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN(CF3SO2)(C4F9SO2),LiC(CF3SO2)3,LiC(C2F5SO2)3,(CH3)4NBF4,(CH3)4NBr,(C2H5)4NClO4,(C2H5)4NI,(C3H7)4NBr,(n-C4H9)4NClO4,(n-C4H9)4NI,(C2H5)4N-maleate,(C2H5)4N-benzoate,(C2H5)4N-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.8~1.5mol/L程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することができる。
【0040】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0041】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。正極20は、以下のように作製される。まず、正極活物質、導電剤、及び結着剤を混合したものを、溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP))に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体21上に形成(例えば塗工)し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗工の方法は、特に限定されない。塗工の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコータ(gravure coater)法等が考えられる。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス(press)機により正極活物質層22をプレスする。これにより、正極20が作製される。
【0042】
負極30も、正極20と同様に作製される。まず、負極活物質、及び結着剤を混合したものを、溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン、水)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体31上に形成(例えば塗工)し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。次いで、プレス機により負極活物質層32をプレスする。これにより、負極30が作製される。
【0043】
表面処理層40bは、以下の方法により作製される。すなわち、無機粒子及びバインダを含む塗工液(スラリー)を多孔質体40aの表面に塗工し、乾燥する。これにより、多孔質体40aの表面に無機粒子層40b-1を形成する。ついで、樹脂層を構成する樹脂が溶解した塗工液を無機粒子層40b-1上に塗工する。これにより、無機粒子層40b-1の表面に塗工層を形成する。塗工層は液体なので、無機粒子間の隙間に深く侵入する。ついで、塗工層を樹脂が溶解しない液体(例えば水)に晒す。これにより、塗工層内の溶媒が水に置換されるので、樹脂が多孔質体として析出する。さらに、塗工層はすでに無機粒子間に深く侵入しているので、多孔質体である樹脂は無機粒子間に深く侵入している。これにより、無機粒子層40a-1と一体化し、かつ多孔質化した樹脂層40b-2が形成される。表面処理層40cも同様の方法により形成される。
【0044】
次いで、セパレータ40を正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に上記組成の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
(無機粒子層の作製)
無機粒子としてアルミナ(スミコランダムAA03<住友化学>)94質量部と、バインダとしてポリエチレン水分散体(ケミパールS100<三井化学>)5質量部、及びCMC(2200<ダイセル化学>)1質量%とを混合し、当該混合物にイオン交換水を加え超音波分散機で分散し塗工液とした。塗工液中の固形分の質量%は、塗工液の総質量に対して20質量%となった。
【0046】
ついで、厚さ7μmのポリエチレン多孔質膜(E07BLS<東レBSF>)に、グラビアコータを用いて上記塗工液を塗工した後乾燥させた。これにより、無機粒子層を形成した。無機粒子層の乾燥後の膜厚は9μmであった。なお、アルミナとバインダとを上記の質量比で混合した場合、アルミナの無機粒子層内の占有率は90体積%となる。なお、実施例1ではポリエチレン多孔質膜の片面にのみ形成した。
【0047】
(樹脂層の形成:水槽で凝固)
樹脂としてPVdF(KF9300<クレハ>)をNMPに加え撹拌して完全に溶解させることで、塗工液を作製した。樹脂の塗工液中の濃度は塗工液の総質量に対して5質量%であった。次に、ディップコータ(Dip coater)を用い無機粒子層が形成されたポリエチレン多孔質膜上の両面に塗布し、水浴で凝固させた後乾燥させた。これにより、樹脂層をポリエチレン多孔質膜の両面に形成した。樹脂層の乾燥後の膜厚(すなわち、セパレータの総厚)は12μmであった。したがって、実施例1では、ポリエチレン多孔質膜の一方の表面に表面処理層を形成し、他方の表面に樹脂層を形成した。
【0048】
(130℃熱収縮評価)
セパレータをTD×MD=60mm×80mmとなるように切り出し、TD/MD方向にノギスを用いて50mmの間隔で印を入れた。ついで、セパレータを二つ折りにしたアルミ箔の間にはさみ、130℃の恒温槽中に15分静置した。セパレータを取り出した後、TD/MDそれぞれの印の間隔をノギスで読み取り、次式にしたがって熱収縮率を算出した。
収縮率(%)=(1-(50-加熱後の間隔)/50)×100)
【0049】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(正極の作製)
固溶体酸化物Li1.20Mn0.55Co0.10Ni0.15O296質量部、ケッチェンブラック2質量部、PVDF2質量部をNMPに分散させることで正極合剤スラリーを形成した。ついで、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔上に均一に塗工することで塗工層を形成し、塗工層を80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥し、アルミニウム箔とともに圧延した。ついで、塗工層を100℃で6時間真空乾燥した。これにより、アルミニウム箔上に正極活物質層を形成した。すなわち、正極を形成した。正極活物質層の充填密度は3.0g/cm3であった。
【0050】
(負極の作製)
炭素材(人造黒鉛)、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)、及びSBR(スチレンブタジエンゴム)を97.5:1:1.5の質量比で混合することで負極合剤を作製した。ついで、負極合剤を溶媒である水に分散させることで、負極合剤スラリーを得た。
【0051】
ついで、この負極合剤スラリーを、負極集電体としての厚み8μmの銅箔に塗工することで塗工層を形成し、塗工層を乾燥した。ついで、塗工層を銅箔とともに圧延した。これにより、集電体上に負極活物質層を形成した。すなわち、負極を作製した。集電体上の負極活物質層の充填密度は1.60g/cm3であった。上記、正極・負極及び本発明のセパレータから、幅25mmのラミネートセルを作製した。電解液として、1.5MのLiPF6 エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネート=10/70/20混合溶液(体積比)を注入し、減圧下で封止しテストラミネートセルとした。これを85℃に加熱したヒートプレス機で60sec挟み込み、サンプルとした。
【0052】
(負荷特性)
出来上がったラミネートセルを、0.2Cで4.2VまでCC充電し、その後0.05CまでCV充電した。
【0053】
このセルを0.5Cで放電させこのときの放電容量をC1とした。さらに同様に充電を行い、1.0Cで放電させ、このときの容量をC2とした。C1に対するC2維持率を負荷特性とした。負荷特性の評価は、TOSCAT3000 東洋システム株式会社を用いて行われた。
負荷特性=C2/C1×100
【0054】
(接着性評価:電極残存率)
このラミネートセルを解体し、手でセパレータと電極を引き剥がした。セパレータと電極の接着性があると、電極合材がセパレータに転写する。それぞれの負極版をデジタルカメラで撮影し、負極合材が銅箔上に残存している割合を算出し接着性の指標とした。
【0055】
(最表面の状態)
セパレータの最表面をSEMで観察し、樹脂と無機粒子の存在を目視判断した。
【0056】
(実施例2)
無機粒子層のアルミナの占有率を80体積%に変更した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0057】
(実施例3)
無機粒子の種類をベーマイトにした以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0058】
(実施例4)
樹脂層を以下の処理により形成した他は、実施例1と同様の処理を行った。
(樹脂層の形成:水ミスト噴霧)
樹脂としてPVdF(KF9300<クレハ>)をNMPに加え撹拌して完全に溶解させることで、塗工液を作製した。樹脂の塗工液中の濃度は塗工液の総質量に対して5質量%であった。
【0059】
次に、ディップコータを用い無機粒子層が形成されたポリエチレン多孔質膜上の両面に塗布し、超音波によって発生させた水のミストを塗布面に当てたのち、乾燥させた。これにより、樹脂層を形成した。樹脂層の乾燥後の膜厚は12μmであった。
【0060】
(実施例5)
無機粒子層を厚さ7μmのポリエチレン多孔質膜の両面に塗布しセパレータの総厚を10μmとした以外は実施例1と同様の処理を行った。したがって、実施例5では、ポリエチレン多孔質膜の両面に表面処理層を形成した。
【0061】
(比較例1)
無機粒子の比率を70体積%にした以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0062】
(比較例2)
無機粒子としてアルミナ(スミコランダムAA03<住友化学>)と、バインダとしてPVdF(KF9300<クレハ>)とを混合し、当該混合物にNMPを加え超音波分散機で分散し塗工液とした。ついで、塗工液をディップコータを用いポリエチレン多孔質膜上の両面に塗布し、水浴で凝固させた後乾燥させた。これにより、ポリエチレン多孔質膜の両面に無機粒子分散樹脂層を形成した。無機粒子分散樹脂層は、本実施形態の樹脂層に無機粒子を分散させた層である。なお、アルミナの無機粒子分散樹脂層全体に対する占有率は80体積%とした。
【0063】
(比較例3)
樹脂層の形成処理を以下の方法に変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。
(樹脂層の形成:そのまま乾燥)
樹脂としてPVdF(KF9300<クレハ>)をNMPに加え撹拌して完全に溶解させることで、塗工液を作製した。樹脂の塗工液中の濃度は塗工液の総質量に対して5質量%であった。
【0064】
次に、ディップコータを用い無機粒子層が形成されたポリエチレン多孔質膜上の両面に塗布し、乾燥させた。これにより、樹脂層を形成した。樹脂層の乾燥後の膜厚は11μmであった。したがって、比較例3では、樹脂層が無機粒子層と一体化されていない。また、樹脂層は多孔質体にもなっていない。
【0065】
実施例1~5及び比較例1~3の評価を表1に示す。
【0066】
【0067】
実施例1~5では、表面処理層の最内層、すなわち無機粒子層の無機粒子率が高く、また、最表面、すなわち樹脂層には樹脂しか観察されない。結果、熱収縮が小さく且つ接着性に優れる結果が得られた。また、実施例1~5においては負荷特性が高くリチウムイオン二次電池としての特性にも優れることが確認された。
【0068】
これに対し、比較例1では、表面処理層の最表面は樹脂だけが観察されるが、最内層の無機粒子率が低く熱収縮が大きくなった。また、比較例2では、無機粒子比率は80体積%と高いものの、最表面にも無機粒子が観察され、結果接着性に劣った。比較例3では、樹脂層を相分離させずに乾燥だけ行ったため、フィルム状の樹脂層が形成され透過性が著しく低下した。すなわち、比較例3では熱収縮は低く良好であるが、樹脂層がフィルム化しているため電解液が含浸出来ずセル作成ができなかった。よって負荷特性の評価、接着性の評価が出来なかった。
【0069】
また、実施例1~5及び比較例1、3の各セパレータにメンディングテープを貼り付けた後、メンディングテープを引き剥がした。この結果、実施例1~5及び比較例1では、樹脂層と無機粒子層が一体となってポリエチレン多孔質膜から剥がれた。これに対し、比較例3では、樹脂層だけが剥がれた(無機粒子層はポリエチレン微多孔質膜に残った)。これにより、本実施形態により処理によって樹脂層及び無機粒子層が一体化していることが確認された。
【0070】
したがって、本実施形態によれば、熱収縮率が低く且つ電極と接着性に優れ、形状維持能力が高くかつ安全性に優れたラミネートタイプのリチウムイオン二次電池を提供できる。
【0071】
すなわち、本実施形態によれば、無機粒子層40b-1によってセパレータ40の耐熱性が向上する。さらに、樹脂層40b-2は無機粒子層40b-1の表面に形成されるので、樹脂層40b-2の表面には無機粒子はほとんど存在しない。したがって、セパレータ40とリチウムイオン二次電池の正極20、負極30との結着力が向上する。すなわち、セパレータ40と正極20、負極30との分離が抑制される。さらに、樹脂層40b-2は無機粒子層40b-1と一体化されているので、樹脂層40b-2と無機粒子層40b-1との剥離が抑制される。したがって、この点でもセパレータ40と正極20、負極30との分離が抑制される。さらに、樹脂層40b-2は多孔質体なので、リチウムイオン二次電池10の電解液が樹脂層40b-2に含浸される。したがって、リチウムイオン二次電池10の導電性が確保される。このように、セパレータ40aは、従来のリチウムイオン二次電池と同等以上の特性(例えばサイクル特性)を確保しつつ、セパレータ40と正極20、負極30との分離を抑制し、セパレータ40の耐熱性を向上することができる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0073】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
21 集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 集電体
32 負極活物質層
40 セパレータ
40a 多孔質膜
40b、40c 表面処理層
40b-1 無機粒子層
40b-2 樹脂層