(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】光輝性発現構造及び光輝性発現構造を用いた潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
B42D 25/324 20140101AFI20220615BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20220615BHJP
B42D 25/337 20140101ALI20220615BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20220615BHJP
【FI】
B42D25/324
B41M3/14
B42D25/337
B42D25/378
(21)【出願番号】P 2018190562
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】田原 健児
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196818(JP,A)
【文献】特開2017-056576(JP,A)
【文献】特開2014-208402(JP,A)
【文献】特開2004-209646(JP,A)
【文献】特開2011-126028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/00-25/485
B41M 1/00- 3/18
B41M 7/00- 9/04
G09F 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に、光輝性蒲鉾状要素が規則的に所定のピッチで複数形成された光輝性蒲鉾状要素群を有し、
前記光輝性蒲鉾状要素群は、光輝性インキによって形成された蒲鉾形状の光反射要素が複数配置された光反射層と、前記光反射要素の上に光透過性の有色インキによって形成された光透過着色要素が複数配置された光透過着色層から成り、
前記光反射層の60°光沢度が32以上であり、
前記光透過着色層は、前記光反射層より60°光沢度が低く、かつ、その差が20以下であることを特徴とする光輝性発現構造。
【請求項2】
前記光輝性蒲鉾状要素は、明度L*が210以上で、かつ、彩度C*abが前記光反射層のみの彩度C*abより3以上高いことを特徴とする請求項1記載の光輝性発現構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の前記光輝性発現構造によって潜像画像を有する画像領域が形成された潜像印刷物であって、
前記画像領域は、第1の方向に沿って所定のピッチ及び画線幅の前記光輝性蒲鉾状要素が万線状に配列された第1の光輝性蒲鉾状要素群と、前記第1の方向と異なる第2の方向に沿って前記所定のピッチ及び画線幅の前記光輝性蒲鉾状要素が万線状に配列された第2の光輝性蒲鉾状要素群から成り、
前記潜像印刷物を拡散反射光下で観察した場合、前記第1の光輝性蒲鉾状要素群及び前記第2の光輝性蒲鉾状要素群は同じ濃度として視認され、正反射光下で観察した場合、
前記第1の光輝性蒲鉾状要素群と
前記第2の光輝性蒲鉾状要素群に反射光量の差が生じ、前記潜像画像が視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の前記光輝性発現構造によって潜像画像を有する画像領域が形成された潜像印刷物であって、
前記画像領域は、前記光輝性蒲鉾状要素群の上に、正反射光下で前記光輝性蒲鉾状要素群と異なる色彩を有し、基画像を分割及び/又は圧縮した潜像要素が複数配置された潜像要素群が形成されて成り、
前記潜像印刷物を正反射光下で観察した場合、前記光輝性蒲鉾状要素群と前記潜像要素群の表面からの色彩に差が生じることで前記潜像画像が視認され、更には正反射光下において前記潜像印刷物の観察角度を異ならせて観察すると、前記潜像画像が変化して視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項5】
請求項1又は2記載の前記光輝性発現構造によって潜像画像を有する画像領域が形成された潜像印刷物であって、
前記画像領域は、前記潜像画像の基となる基画像の形状で形成された前記光輝性蒲鉾状要素群の上に、正反射光下で前記光輝性蒲鉾状要素群と異なる色彩を有し、前記基画像を分割又は分割圧縮した潜像要素が複数配置された潜像要素群が形成されて成り、
前記潜像要素は、前記基画像の形状で形成された前記光輝性蒲鉾状要素群の範囲内において、特定の方向に沿って形状を異ならせて形成されて成り、
前記潜像印刷物を正反射光下で視認した場合、前記光輝性蒲鉾状要素群と前記潜像要素群の表面からの色彩に差が生じることで前記潜像画像が視認され、更には正反射光下において前記潜像印刷物の観察角度を異ならせて観察すると、前記潜像画像が前記光輝性蒲鉾状要素群の範囲内において前記所定の方向に沿って変化して視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、高い明度と彩度を有し、かつ、耐久性に優れた蒲鉾状形状を有する画線である光輝性発現構造及び光輝性発現構造を用いた潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポ-ト、有価証券、身分証明書等に代表されるセキュリティ製品は、偽造や改ざんがされにくいことが求められるため、さまざまな偽造防止技術が採用されている。これらの代表例としては、目視によって真偽判別が可能な技術としてホログラムが公知である。ホログラムは、観察角度を変化させることで複数の画像が出現する画像のチェンジ効果を有することから、人目を引きやすく高い偽造防止効果が得られる。
【0003】
しかし、ホログラムは、印刷によって形成できる従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の印刷技術と比較して製造工程が複雑であるため、製造コストが高く、適用できる製品が限定されていた。
【0004】
そこで、本出願人は、鏡面光沢性を有する蒲鉾状画線を規則的に一定ピッチ及び一定の画線幅で形成し、画像部と背景部で画線の配列方向を変化させることで、拡散反射光下では一様の明度を有する画像として観察されるが、正反射光下では、潜像部と背景部から発生する反射光量の差によって、潜像画像が出現する真偽判別可能な印刷物について出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1の印刷物は、蒲鉾状画線の表面から強い鏡面光沢性を生じさせることで、観察角度によって潜像部と背景部から発生する反射光量に差異が発生することを利用しているため、強い反射光量を得ることが必須である。そのため、光輝性材料を蒲鉾状画線の表面に配向させるための撥水撥油処理が必要であり、コストが高くなるとともに、画線の表面に形成された光輝性顔料は、耐摩擦性等の堅ろう性に課題があった。
【0006】
そこで、本出願人は、光輝性顔料を含む蒲鉾状画線を形成する紫外線硬化型スクリーン印刷用光輝性インキ組成物として、多官能の少なくとも一つの紫外線硬化性オリゴマーと少なくとも一つの紫外線硬化性モノマーを有する光重合性化合物、光重合開始剤及び光輝性顔料を少なくとも有する紫外線硬化型スクリーン印刷用光輝性インキ組成物であって、光輝性顔料よりも更に表層にシリコーン系化合物及び/又はフッ素系化合物を含有した紫外線硬化型スクリーン印刷用光輝性インキ組成物について出願している(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、本出願人は、蒲鉾状画線を用いた特殊潜像画像体として、光を強く反射する基材上に反射光量を異ならせる潜像要素を形成し、更にその上に光透過性の蒲鉾状要素を形成することで、蒲鉾状要素に入射した光源が下層に形成された光を強く反射する基材表面からの反射光量と、その上層に形成された潜像要素からの反射光量を選択的に観察させることで、画像のチェンジ効果や画像が動的に変化を付与することができる特殊潜像画像形成体について出願している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-209646号公報
【文献】特許第6186620号公報
【文献】特許第6300101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の紫外線硬化型スクリーン印刷用光輝性インキ組成物は、蒲鉾状画線表面からの高い明度と彩度を得ることはできるが、再現できる色相は光輝性顔料の色相に限られるため、潜像画像の視認性に限界があった。
【0010】
また、特許文献3の特殊潜像形成体は、高い明度差を得るために、光を強く反射する基材を用意するか、又は基材表面に高い反射光を得る反射層を形成する必要があるため、基材が限定されるか、又は反射層を別に形成する必要があることから、コスト又は製造工程上の課題が残されていた。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決することを目的としたものであり、高いチェンジ効果や動的効果が得られるとともに、色彩表現豊かで、かつ、潜像画像の視認性に優れた潜像印刷物を形成できる光輝性発現構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光輝性発現構造は、基材上の少なくとも一部に、光輝性蒲鉾状要素が規則的に所定のピッチで複数形成された光輝性蒲鉾状要素群を有し、光輝性蒲鉾状要素群は、光輝性インキによって形成された蒲鉾形状の光反射要素が複数配置された光反射層と、光反射要素の上に光透過性の有色インキによって形成された光透過着色要素が複数配置された光透過着色層から成り、光反射層の60°光沢度が32以上であり、光透過着色層は、光反射層より60°光沢度が低く、かつ、その差が20以下であることを特徴とする光輝性発現構造である。
【0013】
また、本発明の光輝性発現構造は、光輝性蒲鉾状要素の高さが3μm~50μmであり、明度L*が210以上で、かつ、彩度C*abが前記光反射層のみの彩度C*abより3以上高いことを特徴とする光輝性発現構造である。
【0014】
また、本発明の光輝性発現構造によって潜像画像が形成された潜像印刷物の画像領域は、第1の方向に沿って所定のピッチ及び画線幅の光輝性蒲鉾状要素が万線状に配列された第1の光輝性蒲鉾状要素群と、第1の方向と異なる第2の方向に沿って前述した所定のピッチ及び画線幅の光輝性蒲鉾状要素が万線状に配列された第2の光輝性蒲鉾状要素群から成り、潜像印刷物を拡散反射光下で観察した場合、第1の光輝性蒲鉾状要素群及び第2の光輝性蒲鉾状要素群は同じ濃度として視認され、正反射光下で観察した場合、第1の光輝性蒲鉾状要素群と第2の光輝性蒲鉾状要素群に反射光量の差が生じ、潜像画像が視認されることを特徴とする潜像印刷物である。
【0015】
また、本発明の光輝性発現構造によって潜像画像を有する画像領域が形成された潜像印刷物であって、画像領域は、光輝性蒲鉾状要素群の上に、正反射光下で光輝性蒲鉾状要素群と異なる色彩を有し、基画像を分割及び/又は圧縮した潜像要素が複数配置された潜像要素群が形成されて成り、潜像印刷物を正反射光下で観察した場合、光輝性蒲鉾状要素群と潜像要素群の表面からの色彩に差が生じることで潜像画像が視認され、更には正反射光下において潜像印刷物の観察角度を異ならせて観察すると、潜像画像が変化して視認されることを特徴とする潜像印刷物である。
【0016】
さらに、本発明の光輝性発現構造によって潜像画像を有する画像領域が形成された潜像印刷物であって、画像領域は、潜像画像の基となる基画像の形状で形成された光輝性蒲鉾状要素群の上に、正反射光下で光輝性蒲鉾状要素群と異なる色彩を有し、基画像を分割又は分割圧縮した潜像要素が複数配置された潜像要素群が形成されて成り、潜像要素は、基画像の形状で形成された光輝性蒲鉾状要素群の範囲内において、特定の方向に沿って形状を異ならせて形成されて成り、潜像印刷物を正反射光下で視認した場合、光輝性蒲鉾状要素群と潜像要素群の表面からの色彩に差が生じることで潜像画像が視認され、更には正反射光下において潜像印刷物の観察角度を異ならせて観察すると、潜像画像が光輝性蒲鉾状要素群の範囲内において所定の方向に沿って変化して視認されることを特徴とする潜像印刷物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光輝性発現構造は、従来技術で形成していた蒲鉾状画線と異なり、明度及び彩度が高く、かつ、任意の有色によって形成された光輝性蒲鉾状要素群を形成できる。そのため、特許文献1、3等の印刷物に適用した場合、潜像画像の視認性が高く、かつ、滑らかな動的画像又はチェンジ画像を視認できるとともに、色彩表現に優れた潜像画像を有する潜像印刷物を提供することができる。また、光反射層を光透過着色層が保護する役目を果たすため、光反射特性を維持することができ、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】光反射層と光透過着色層の関係の一例を示す図。
【
図4】光輝性蒲鉾状要素の配置角度によって視認される反射光を説明する図。
【
図5】光輝性発現構造の光学特性に関する発現原理を示す図。
【
図6】光輝性蒲鉾状要素から反射光が発現する原理を示す図。
【
図8】光反射層自体に着色顔料を配合した比較例を示す図。
【
図9】基材上に光透過着色層を形成し、その上に光反射層を形成した比較例を示す図。
【
図10】本発明の光輝性発現構造を応用した1つ目の潜像印刷物の一例を示す図。
【
図11】本発明の光輝性発現構造を応用した2つ目の潜像印刷物の一例を示す図。
【
図12】光反射層上に形成される、光透過着色層及び潜像要素群の関係を示す図。
【
図14】光輝性蒲鉾状要素と潜像要素の位置関係を示す図。
【
図15】本発明の光輝性発現構造を応用した3つ目の潜像印刷物の一例を示す図。
【
図16】実施例1から4まで、比較例1及び2の光輝性発現構造に用いたスクリーンインキ及びオフセットインキの構成及び視認性の評価結果を示す図。
【
図17】実施例5及び比較例3の光輝性発現構造に用いたスクリーンインキ及びオフセットインキの構成及び視認性の評価結果を示す図。
【
図18】実施例6、比較例4及び5の光輝性発現構造に用いたスクリーンインキ及びオフセットインキの構成及び視認性の評価結果を示す図。
【
図19】実施例7及び比較例6の光輝性発現構造に用いたスクリーンインキ及びオフセットインキの構成及び視認性の評価結果を示す図。
【
図20】実施例1、比較例1、7及び8の光輝性発現構造に用いたスクリーンインキ及びオフセットインキの構成及び視認性の評価結果を示す図。
【
図21】実施例8の潜像印刷物において観察条件によって視認される潜像画像を示す図。
【
図22】実施例9の潜像印刷物において観察条件によって視認される潜像画像を示す図。
【
図23】実施例10の潜像印刷物において観察条件によって視認される潜像画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0020】
(第一の実施形態)
第一の実施の形態における光輝性発現構造(1)の構成について、
図1を用いて説明する。光輝性発現構造(1)は、基材(2)上に光輝性蒲鉾状要素(3)を形成してなる構成である。基材(2)は、印刷が可能であれば特に制限はなく、上質紙、コート紙、フィルム等が用いられる。光輝性蒲鉾状要素(3)の高さ(T1)は、3μmから50μmまでであり、より好ましくは、5μmから30μmまでである。3μm以下では、要素表面が十分な蒲鉾状の曲面を有する形状とならず、観察角度による光沢度差が視認しづらいためである。また、50μm以上では、印刷適性が劣るためである。要素の幅(W1)は、50μmから1000μmまでであり、より好ましくは、100μmから600μmまでである。50μm以下では、光輝性蒲鉾状要素(3)の高さを3μm以上とすることが難しく、1000μm以上では、光輝性蒲鉾状要素(3)が蒲鉾状の曲面を有する形状ではなく台形に近づくため、観察角度による光沢度差が視認しづらいためである。なお、本発明における蒲鉾状とは、断面が曲線で構成された部分を備えていれば、
図1に示す断面形状に限定されるものではなく、半円形状、半楕円形状等の画線であってもよい。
【0021】
光輝性蒲鉾状要素(3)の明度L*及び彩度C*abは、縦20mm×横40mmの領域に高さ20μm程度の一様な光反射層(4)を形成し、該反射層上に縦20mm×横40mm、高さ1μm程度の一様な光透過着色層(5)を形成した領域を変角分光測色機(村上色彩技術研究所製_GCMS-4型)にて、入射光45°に対する反射光45°における値とした。この際、明度L*は210以上であることを要する。明度L*が210以下では、光沢感のある視認性が得られないためである。さらに、彩度C*abは、光反射層のみの彩度C*abより3以上となることを要する。3以下では、色相が鮮やかになったように視認できないからである。
【0022】
光輝性蒲鉾状要素(3)の構成について
図2を用いて説明する。
図2(a)に示すように光輝性蒲鉾状要素(3)は、表面光沢を有する光反射層(4)と、光反射層(4)の上層に光を透過する光透過着色層(5)を積層した構成である。
【0023】
(光反射層)
光反射層(4)は、光輝性インキをスクリーン印刷やフレキソ印刷により形成することができる。より表面光沢を高めるには、紫外線硬化型インキをスクリーン印刷することが望ましく、より光輝性を高めるためには、
図2(b)に示すように光輝性顔料(14)を配合することができる。光輝性顔料としては、鱗片状パール顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等、公知の鱗片状光輝性顔料を使用することができる。
【0024】
光反射層(4)の光反射特性は、縦20mm×横40mmの領域に高さ20μm程度の一様な光反射層(4)を形成し、該領域を光沢度計(BYK製_マイクロトリグロス)にて測定した60°の光沢度において、32以上であることを要する。光沢度が32未満では、十分な光輝感が得られないためである。
【0025】
(光透過着色層)
光透過着色層(5)は、着色インキをオフセット印刷、インクジェット印刷やグラビア印刷等により形成することができる。着色インキは、紫外線硬化型、酸化重合型等いずれのインキも用いることができる。
【0026】
光透過着色層(5)の光透過特性は、縦20mm×横40mmの領域に高さ20μm程度の一様な光反射層(4)を形成し、該光反射層(4)上に縦20mm×横40mm、高さ1μmm程度の一様な光透過着色層(5)を形成した領域を光沢度計(BYK製_マイクロトリグロス)にて測定した60°の値と、光反射層(4)の光沢度の値の差で設定するものであり、光沢度差は20以下、より好ましくは10以下であることを要する。光沢度差が20より上では、光透過性が弱く明度が落ち、十分な光沢感が得られないためである。
【0027】
次に、光反射層(4)と光透過着色層(5)の関係について
図3を用いて説明する。説明上、光反射層(4)の形状を楕円形として説明する。
図3(a)のように基材(2)上に光反射層(4)を形成し、光反射層(4)と同じ形状で光透過着色層(5)を形成する構成や、
図3(b)のように光透過着色層(5)に有意画像を形成する構成、
図3(c)のように光反射層(4)と異なる形状で光透過着色層(5)を形成する構成、
図3(d)のように複数の異なる色相で光透過着色層(5)を形成する構成等が挙げられる。
【0028】
次に、光輝性蒲鉾状要素(3)の配置角度によって発生する反射光の差について、
図4を用いて説明する。
図4に示すように光輝性蒲鉾状要素(3)に対し、観察位置及び光源位置を一定とした場合、光輝性蒲鉾状要素(3)は、画線形状の特性から異なる角度で配置した場合に反射光の発現方向が異なる。光源(6)と観察位置(7)に対して垂直な方向の画線角度を0°とした場合、反射光は0°の方向に発現する。一方、光源と観察位置(7)に対して平行な方向の画線角度を90°とした場合、反射光は90°の方向に発現するため、各々の角度で配置した光輝性蒲鉾状要素(3)からの反射光量は相対的に異なって観察される。
【0029】
図5は、光輝性蒲鉾状要素(3)を観察する位置を固定し、光輝性蒲鉾状要素(3)に対する光源(6)の位置を移動させて観察した場合の反射光の関係を説明する図である。
図5に示すように、光輝性蒲鉾状要素(3)に対し観察位置を固定し、光源位置を位置Aから位置Bに滑らかに変化させた場合、光輝性蒲鉾状要素(3)の曲面を反射光が滑らかに移動する。
【0030】
図6は、光輝性蒲鉾状要素(3)に入射した光源が反射する状態を示す図である。
図6(b)は、
図6(a)の破線部分を拡大した図であり、説明上、水平面として示す。入射光(L0)に対して反射光(L1)は、光透過着色層(5)を透過して光反射層(4)の表面部分で反射したものであり、反射光(L2)は、光反射層(4)に存在する光輝性顔料(14)に入射した光が反射したものであり、反射光(L3)は、光透過着色層(5)の表面から反射する反射光である。反射光(L1、L2、L3)の和により高い明度(L*210以上)が得られ、かつ、反射光(L1)は光反射層(4)からの反射光が光透過着色層(5)を通過することにより、高い彩度を有し、加えて光輝性顔料(14)を配合した場合には、光輝性顔料(14)からの彩度の高い反射光L2が得られるため、彩度C*abが、光反射層(4)のみの彩度C*abより3以上と大きくなる。また、光輝性顔料(14)を含む光反射層(4)上に光透過着色層(5)を積層しているため、光輝性顔料(14)の脱離を防止する効果も奏する。
【0031】
図7は、光透過着色層(5)を有さない比較例を示す図である。入射光(L0)に対し、反射光(L1)は光反射層(4´)の表面で反射する反射光であり、反射光(L2)は、光輝性顔料(14)からの反射光である。光反射層(4´)では、表面反射により層表面からの強い反射光L1(60°の光沢度32以上)が得られることに比べ、光反射層(4´)内部の光輝性顔料(14)からの反射光L2は弱くなる。このためL1≫L2の関係となり、L1は彩度を有さないため、全体として彩度の低い反射光が視認される。
【0032】
図8は、光反射層(4´´)自体に着色顔料を配合した比較例を示す図である。入射光(L0)に対し、反射光(L1)は、光反射層(4´´)表面で反射する反射光であり、反射光(L2)は、光輝性顔料(14)からの反射光である。光反射層(4´´)では、表面反射により層表面からの強い反射光L1(60°の光沢度32以上)が得られることに比べ、光反射層(4´´)内部の光輝性顔料(14)からの反射光L2は、着色顔料によって阻害されることで弱くなる。また、光反射層(4´´)は、内部に着色顔料を含有するが、着色顔料及び光輝性顔料(14)が存在するため、光透過性に乏しく、光反射層(4´´)の下層である基材表面から強い反射光は得られないため、光反射層(4´´)を強い反射光が通過することがないため、高い彩度が得られない。
【0033】
図9は、基材(2)上に光透過着色層(5´)を形成し、その上に光反射層(4´´´)を形成した比較例を示す図である。入射光(L0)に対し、反射光(L1)は、光反射層(4´´´)表面で反射した反射光であり、反射光(L2)は、光輝性顔料(14)からの反射光であり、反射光(L3)は、光透過着色層(5´)からの反射光を示すものである。光反射層(4´´´)では、表面反射により層表面からの強い反射光(L1)(60°の光沢度32以上)が得られることに比べ、光反射層(4´´´)内部の光輝性顔料(14)からの反射光(L2)は弱くなる。また、光反射層(4´´´)の下層に光透過着色層(5´)を有しているため、光透過着色層(5´)を強い反射光が通過することがないため、高い彩度が得られない。
【0034】
以上、本発明の光輝性蒲鉾状要素(3)から高い明度と彩度を有する反射光が得られる発現原理について説明したが、この光輝性蒲鉾状要素(3)を用いることで、極めて視認性の高いチェンジ画像や動的変化を奏する潜像印刷物(8)を提供することができる。
【0035】
次に、本発明の光輝性発現構造(1)を応用した潜像印刷物(8)の例について、
図10を用いて説明する。
図10は、基材(2)上に2つの光輝性蒲鉾状要素群(9)が形成されたものである。各光輝性蒲鉾状要素群(9)は、同じ方向に沿って形成された光輝性蒲鉾状要素(3)が集合した構成であり、配列方向の異なる2つの光輝性蒲鉾状要素群(9-1、9-2)が形成される。
【0036】
各光輝性蒲鉾状要素群(9-1、9-2)は、異なる角度に沿って形成された複数の光輝性蒲鉾状要素(3)が集合した構成であるが、同じピッチ及び画線幅の光輝性蒲鉾状要素(3)で形成されているため、
図4で説明したように、観察角度によって一様の濃度として視認された各々の光輝性蒲鉾状要素群(9)に明暗差が生じ、画像がチェンジして視認できる。この潜像印刷物(8)の構成は、比較例の光反射層(4´、4´´、4´´´)でも一定の効果は得られるが、本発明の光輝性発現構造(1)を用いることで、高い明度と彩度を有するチェンジ画像を観察することができる。これらの相乗効果により視認性の高い潜像印刷物(8)を提供することができる。
【0037】
次に、2つ目の応用例として、観察角度によって潜像画像が動的に視認される潜像印刷物(8´)の例について、
図11を用いて説明する。
図11(a)に示すように、基材(2)上に光反射層(4)を形成し、光反射層(4)上に光透過着色層(5)を積層し、更に光透過着色層(5)上に潜像要素(10)を積層した構成である。また、
図11(b)に示すように、基材(2)上に光反射層(4)を形成し、光反射層(4)上に潜像要素(10)を積層し、更に潜像要素(10)に光透過着色層(5)を積層した構成でも、同様の効果が得られる。
【0038】
光反射層(4)と光透過着色層(5)の関係について、
図12を用いて説明する。説明上、光反射層(4)の形状を楕円形として説明する。
図12(a)に示すように、基材(2)上に光反射層(4)を形成し、光反射層(4)と同じ形状で光透過着色層(5)を形成し、更に光反射層(4)及び光透過着色層(5)と異なる形状で潜像要素群(11)を形成する構成や、
図12(b)に示すように、光反射層(4)上に光透過着色層(5)と潜像要素群(11)を同じ形状で形成する構成等が挙げられる。潜像要素群(11)は、複数の潜像要素(10)が集合した形態である。
【0039】
図13を用いて潜像要素群(11)の構造について説明する。潜像要素群(11)は、レンチキュラーレンズを利用した画像チェンジ、アニメーション、立体視等の効果を発現するための合成画線である。一例として、
図13(a)に示す桜模様を基画像(12)とし、S1方向に動いて視認できるアニメーション効果を発現するように作製した合成画線(13)を
図13(b)に示す。この合成画像(13)を形成する各々の潜像要素(10)が、本発明の光輝性発現構造(1)を構成する光輝性蒲鉾状要素(3)上に形成されることで、動的変化を創出するものである。なお、特許第5138719号に記載の基画像を圧縮して形成した潜像要素群(11)とした場合(図示せず)であっても、本発明の光輝性発現構造(1)を用いることで視認性の高い動的効果を得ることが可能である。
【0040】
図14は、光輝性蒲鉾状要素(3)と潜像要素(10)の位置関係を説明する図である。光輝性蒲鉾状要素(3)は、一定ピッチ(P1)及び幅(W1)で形成された領域に、光輝性蒲鉾状要素(3)と同じ画線ピッチ(P1)で合成された潜像要素(10)を平行に積層して形成される構造である。すなわち、一つの光輝性蒲鉾状要素(3)に一つの潜像要素(10)が対応して積層される。
【0041】
前述したように、光輝性蒲鉾状要素(3)上に潜像要素(10)を形成することで、光輝性蒲鉾状要素(3)の表面が露出した領域と、潜像要素(10)が積層された領域では、大きな明暗差と色差が生じるため、観察角度によって光輝性蒲鉾状要素(3)が有する蒲鉾状の曲面に入射する光の位置が変化することで、光輝性蒲鉾状要素(3)上に形成した潜像要素(10)が選択される位置が変化し、動的な潜像画像が視認される。この構成に本発明の光輝性発現構造(1)を用いることで、高い明度と彩度を有し、かつ、動的変化を奏する潜像印刷物(8´)を提供することができる。
【0042】
次に、3つ目の応用例として、観察角度によって輪郭領域(15)に存在する潜像画像が動的に変形して視認される潜像印刷物(8´´)の例について、
図15を用いて説明する。
図15(a)に示すように、3つ目の応用例は、基画像(12)の輪郭領域(15)内に潜像画像が形成される構成であり、
図15(b)に示すように、基画像を分割圧縮し、更には第1の方向(S1)に沿って潜像要素(10´)を変形させて形成している。
【0043】
潜像要素(10´)の形成位置及び光透過着色層(5)との積層順については、前述した2つ目の応用例と同様であり、光反射層(4)の上でもよいし、光反射層(4)上に形成された光透過着色層(5)上に形成しても十分な潜像画像の動的変化効果が得られる。また、潜像要素(10´)と光輝性蒲鉾状要素(3)との関係も2つ目の潜像印刷物(8´)と同様であり、一つの光輝性蒲鉾状要素(3)に一つの潜像要素(10´)が対応して積層される。
【0044】
この潜像印刷物(8´´)を拡散反射光下で観察した場合、光輝性蒲鉾状要素(3)と潜像要素(10´)表面に反射光量の差が生じないため、光輝性蒲鉾状要素(3)のみが観察されるが、正反射光下で潜像印刷物(8´´)を観察した場合、輪郭領域(15)内に潜像印刷物(8´´)が観察され、更に、潜像印刷物(8´´)の観察角度を変化させて視認した場合、輪郭領域(15)内で潜像画像が動的に変形して視認(図示せず)される。
【0045】
本発明の光輝性発現構造(1)の実施例について、図面を用いて説明するが、本発明の光輝性発現構造(1)は、これらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲であれば、何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図16は、実施例及び比較例の光輝性発現構造(1)に用いた光反射層(4)用のスクリーンインキ及び光透過着色層(5)用のオフセットインキの条件を示したものであり、
図16(a)は、光輝性発現構造(1)を作製するためのスクリーンインキ及びオフセットインキの条件を示したものである。
【0047】
実施例1から4までの光輝性発現構造(1)は、基材(2)上に各実施例のスクリーンインキを用いて印刷した後、UV照射(メタルハライドランプ)で硬化させて光反射層(4)を作製した。その後、光反射層(4)上にオフセット印刷にて光透過着色層(5)を重ね刷りした後、UV照射(メタルハライドランプ)で硬化させて実施例1から4までの光輝性発現構造(1)を作製した。
【0048】
実施例及び比較例に用いた基材は、表面光沢度が、光沢度計(BYK製_マイクロトリグロス)にて85°光沢度が8.2であり、Beck式平滑性が145秒である上質紙を用いた。また、光反射層(4)を形成するスクリーン印刷については、250線のポリメッシュのスクリーン版面を用い、スクリーンインキは30℃において粘度が1.0Pa・sの紫外線硬化樹脂に、インキ全量中にアルミベースの金属反射顔料であるクロマシャインGD20-X(東洋アルミニウム製)を6重量%配合したインキとした。紫外線硬化型樹脂は、ウレタン系オリゴマー、アクリレートモノマー、光重合開始剤としてイルガキュア184(BASF)を主成分とし、その他消泡剤等の助剤を添加した混合樹脂を用いた。光反射層の画線設計は、画線1本の画線幅400μmとし、50本の画線が間隔125μmを空けて集合したライン図柄構成とした。
【0049】
光透過着色層(5)は、ドライオフセット版面を用いて印刷した。各実施例に用いたオフセットインキは紫外線硬化型のオフセットインキを用い、画線設計は、光反射層(4)上を覆うベタ印刷として形成した。
【0050】
実施例1は、前述した光反射層(4)上に、
図15(a)に示す有色紫外線硬化型インキであるUVLカートン紅(T&K製)を用いて、光反射層(4)を全て覆うようにドライオフセット印刷によりベタ印刷で光透過着色層(5)を形成した。実施例1の光輝性蒲鉾状要素(3)の画線高さは、20μmであった。
【0051】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様に光反射層(4)上に有色紫外線硬化型インキによる光透過着色層(5)を形成する構成であり、オフセットインキとして
図16(a)に示すUVLカートンイエローを用いて光透過着色層(5)を形成した。実施例2の光輝性蒲鉾状要素(3)の画線高さは、実施例1と同様に20μmであった。
【0052】
(実施例3)
実施例3は、実施例1及び2と同様に光反射層(4)上に有色紫外線硬化型インキによる光透過着色層(5)を形成する構成であり、オフセットインキとして
図16(a)に示すUVLカートン藍を用いて光透過着色層(5)を形成した。実施例3の光輝性蒲鉾状要素(3)の画線高さは、実施例1及び2と同様に20μmであった。
【0053】
(実施例4)
実施例4は、実施例1から3までと同様に光反射層(4)上に有色紫外線硬化型インキによる光透過着色層(5)を形成する構成であり、オフセットインキとして
図16(a)に示すUVLVECTAグリーンを用いて光透過着色層(5)を形成した。実施例4の光輝性蒲鉾状要素(3)の画線高さは、実施例1から3までと同様に20μmであった。
【0054】
(比較例1)
比較例1は、実施例1から4までで用いた光反射層(4)をそのままの状態で用いる構成とした。比較例1の光輝性蒲鉾状要素(3)の画線高さは、19μmであった。
【0055】
(比較例2)
比較例2は、実施例1から4までと同様に光反射層(4)上に有色紫外線硬化型インキによる光透過着色層(5)を形成する構成であり、オフセットインキとして
図16(a)に示すUVLパントン黄緑(T&K製)を用いて光透過着色層(5)を形成した。比較例2の光輝性蒲鉾状要素(3)の画線高さは、20μmであった。
【0056】
図16(b)に、光反射層(4)の光沢度、光透過着色層(5)の光沢度差、光輝性蒲鉾状要素(3)の明度、彩度の測定結果及び光輝性発現構造(1)の視認性を評価した結果を示す。光輝性発現構造(1)の視認性評価は、光源(6)、観察位置(7)を一定とし、基材(2)を傾けた際の光輝性蒲鉾状要素(3)の光輝感を目視評価したものである。評価の記載は、「○は、明度及び彩度が高く光輝感が視認できる。」「×は、明度又は彩度が低く光輝感が不十分である。」とする。
【0057】
実施例1から4までの光輝性蒲鉾状要素(3)は、各測定値(光沢度、光沢度差、明度、彩度)が規定範囲内であり、光輝感のある光輝性発現構造(1)であった。一方、比較例1は、光透過着色層(5)を有していないため、光輝性蒲鉾状要素(3)の彩度が低く、光輝感の劣る光輝性発現構造(1)となった。また、比較例2は、光透過着色層(5)の光沢度差が20以上となり、光透過性が不十分であったため、光輝性蒲鉾状要素(3)の明度が210以下となり、光輝感に劣る光輝性発現構造(1)となった。
【0058】
(実施例5)
実施例5の光輝性発現構造(1)について、
図17を用いて説明する。実施例5の光輝性発現構造(1)は、
図17(a)に示すスクリーンインキによって光反射層(4)を形成し、オフセットインキによって光透過性着色層(5)を形成したものである。実施例5では、実施例1から4までと異なる色相を有する光輝性顔料クロマシャインGR20-X(東洋アルミニウム製)を6重量%配合したスクリーンインキを用いたが、光反射層(4)の形成方法については、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
(比較例3)
比較例3は、実施例5で用いた光反射層(4)をそのままの状態で用いる構成とした。
【0060】
図16(b)に、光反射層(4)の光沢度、光透過着色層(5)の光沢度差、光輝性蒲鉾状要素(3)の明度、彩度の測定結果及び光輝性発現構造(1)の視認性を評価した結果を示す。光輝性発現構造(1)の視認性評価は、光源(6)、観察位置(7)を一定とし、基材(2)を傾けた際の光輝性蒲鉾状要素(3)の光輝感を目視評価したものである。評価の記載は、「○は、明度及び彩度が高く光輝感が視認できる。」「×は、明度又は彩度が低く光輝感が不十分である。」とする。
【0061】
実施例5においては、各測定値(光沢度、光沢度差、明度、彩度)が規定範囲内であり、光輝感のある光輝性発現構造(1)であった。一方、比較例3は、光透過着色層(5)を有していないため、光輝性蒲鉾状要素(3)の彩度が低く、光輝感の劣る光輝性発現構造(1)となった。
【0062】
(実施例6)
次に、実施例6の光輝性発現構造(1)について、
図18を用いて説明する。実施例6の光輝性発現構造(1)は、
図18(a)に示すスクリーンインキによって光反射層(4)を形成し、実施例1と同様のオフセットインキによって光透過性着色層(5)を形成したものである。実施例6では、
図18(a)に示す光透過性2色性パール顔料であるカラーストリームT10-02(東洋アルミニウム製)を12.5重量%配合したスクリーンインキを用いたが、光反射層(4)の形成方法については、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
(比較例4)
比較例4は、実施例6で用いた光反射層(4)をそのままの状態で用いる構成とした。
【0064】
(比較例5)
比較例5は、実施例6のスクリーンインキに用いた光透過性2色性パール顔料であるカラーストリームT10-02(東洋アルミニウム製)の配合量を18重量%としたスクリーンインキを用いて光反射層(4)を形成し、比較例4と同様に、光透過着色層(5)を形成しない構成とした。
【0065】
図18(b)に、光反射層(4)の光沢度、光透過着色層(5)の光沢度差、光輝性蒲鉾状要素(3)の明度、彩度の測定結果及び光輝性発現構造(1)の視認性を評価した結果を示す。光輝性発現構造(1)の視認性評価は、光源(6)、観察位置(7)を一定とし、基材(2)を傾けた際の光輝性蒲鉾状要素(3)の光輝感を目視評価したものである。評価の記載は、「○は、明度及び彩度が高く光輝感が視認できる。」「×は、明度又は彩度が低く光輝感が不十分である。」とする。
【0066】
実施例6においては、各測定値(光沢度、光沢度差、明度、彩度)が規定範囲内であり、光輝感のある光輝性発現構造(1)であった。一方、比較例4は、光透過着色層(5)を有していないため光輝性蒲鉾状要素(3)の彩度が低く、光輝感の劣る光輝性発現構造(1)となった。また、比較例5は、比較例4に比べ光輝性顔料の配合割合を増やすことによって、光輝性蒲鉾状要素(3)の彩度を上げることはできたが、顔料成分が多いため、光反射層(4)の表面反射を阻害してしまい、明度が210以下となり、光輝感に劣る光輝性発現構造(1)となった。
【0067】
(実施例7)
次に、実施例7の光輝性発現構造(1)について、
図19を用いて説明する。実施例7の光輝性発現構造(1)は、
図19(a)に示すスクリーンインキによって光反射層(4)を形成し、実施例1と同様のオフセットインキによって光透過性着色層(5)を形成したものである。実施例7では、
図19(a)に示すように、スクリーンインキに光輝性顔料を配合しない構成としたが、光反射層(4)の形成方法については、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
(比較例6)
比較例6は、実施例7で用いた光反射層(4)をそのままの状態で用いる構成とした。
【0069】
図19(b)に、光反射層(4)の光沢度、光透過着色層(5)の光沢度差、光輝性蒲鉾状要素(3)の明度、彩度の測定結果及び光輝性発現構造(1)の視認性を評価した結果を示す。光輝性発現構造(1)の視認性評価は、光源(6)、観察位置(7)を一定とし、基材(2)を傾けた際の光輝性蒲鉾状要素(3)の光輝感を目視評価したものである。評価の記載は、「○は、明度及び彩度が高く光輝感が視認できる。」「×は、明度若しくは/及び彩度が不十分である。」とする。
【0070】
実施例7においては、各測定値(光沢度、光沢度差、明度、彩度)が規定範囲内であり
光輝感のある光輝性発現構造(1)であった。一方、比較例6は、光透過着色層(5)を有していないため、光輝性蒲鉾状要素(3)の彩度が低く、光輝感の劣る光輝性発現構造(1)となった。
【0071】
図20では、本発明の形態と層構成の異なる形態について説明する。
図20(a)に光輝性発現構造(1)を作製するためのスクリーンインキ及びオフセットインキの条件を示す。
図20(a)中の実施例1は、本発明の構成である
図6に示す形態である。比較例1は、
図7に示す光透過着色層(5)を有さない構成である。比較例7は、
図8に示すように光透過着色層(5)を有さないが、実施例2と同じ色相になるようにスクリーンインキ中に、オフセットインキを混合したインキで光反射層(4)を形成した形態である。比較例8は、
図9に示す光透過着色層(5)上に光反射層(4)を積層した形態である。
【0072】
図20(b)に、光反射層(4)の光沢度、光透過着色層(5)の光沢度差、光輝性蒲鉾状要素(3)の明度、彩度の測定結果及び光輝性発現構造(1)の視認性を評価した結果を示す。光輝性発現構造(1)の視認性評価は、光源(6)、観察位置(7)を一定とし、基材(2)を傾けた際の光輝性蒲鉾状要素(3)の光輝感を目視評価したものである。評価の記載は、「○は、明度及び彩度が高く光輝感が視認できる。」「×は、明度又は彩度が低く光輝感が不十分である。」とする。
【0073】
前述した実施例1と比較例1の説明は省略する。比較例7は、比較例1と同様に光透過着色層(5)を有していないため、光輝性蒲鉾状要素(3)の彩度が低く、光輝感の劣る光輝性発現構造(1)となった。比較例8は、光透過着色層(5)が光反射層(4)の下層にあり、本発明の構造と異なるため、彩度が低く、光輝感の劣る光輝性発現構造(1)となった。
【0074】
以上のことから、明度と彩度の優れた光輝性発現構造(1)を用いることで、画像のチェンジ効果や動的に視認される潜像印刷物(8、8´、8´´)の発現効果を向上させることができるため、偽造抑止力の高い潜像印刷物(8、8´、8´´)を提供するには、本発明の光輝性発現構造(1)の構成が必須であることがわかる。
【0075】
(実施例8)
次に、実施例1の光輝性発現構造(1)を用いて作製した潜像印刷物(8)について説明する。実施例8の潜像印刷物(8)は、
図3(a)に示すように、光反射層(4)の全面に光透過着色層(5)を形成した光輝性蒲鉾状要素(3)を用いたものであり、
図10に示す異なる方向に配置した光輝性蒲鉾状要素群(9-1、9-2)のように星型の潜像画像(17)を形成したものである。
【0076】
図21は、実施例8の潜像印刷物(8)を異なる条件で観察した場合の効果を示すものであり、
図21(a)に示すように、潜像印刷物(8)に対して光源(6)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(8)の観察角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察においては、異なる角度に配置された光輝性蒲鉾状要素群(9-1、9-2)は同一濃度の紅色の可視画像(16)として視認されるが、
図21(b)のように光源(6)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(8)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察においては、異なる方向に配置した光輝性蒲鉾状要素群(9-1、9-2)からの反射光量が異なって観察されることで、高い明度と彩度を有する星型の潜像画像(17)が視認された。なお、比較例1の光輝性蒲鉾状要素群(9)、すなわち、光反射層(4)をそのまま用いて同様の構成の潜像印刷物(8)を作製した場合と比較して、明度及び彩度の高い潜像画像(17)が視認された。
【0077】
(実施例9)
次に、二つ目の応用例である潜像印刷物(8´)の実施例について説明する。実施例9では、実施例2の光輝性発現構造(1)を用い、かつ、
図11(a)に示す積層順、
図12(a)及び
図13に示す構成の潜像印刷物(8´)を作製した。
【0078】
図22は、実施例9の潜像印刷物(8´)を異なる条件で観察した場合の効果を示すものであり、
図22(a)に示すように、潜像印刷物(8´)に対して光源(6)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(8´)の観察角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察においては、光輝性蒲鉾状要素(3)表面と、光輝性蒲鉾状要素(3)状に形成された潜像要素(10)表面からの反射光に変化は生じないため、黄色の蒲鉾状画線が一様の濃度の可視画像(16)として観察されるが、
図22(b)のように光源(6)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(8´)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察においては、光輝性蒲鉾状要素(3)表面と、光輝性蒲鉾状要素(3)状に形成された潜像要素(10)表面からの反射光に差異が発生することで、潜像画像(17)が出現し、更に、
図22(c)のように正反射光下の観察において、
図23(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、潜像画像(17)が動的に視認された。なお、比較例1の光輝性蒲鉾状要素群(9)、すなわち、光反射層(4)をそのまま用いて同様の構成の潜像印刷物(8´)を作製した場合と比較して、正反射光下で視認される潜像画像(17)の視認効果、動的効果が大幅に向上していることを確認した。
【0079】
(実施例10)
次に、三つ目の応用例である潜像印刷物(8´´)の実施例について説明する。実施例10では、実施例3の光輝性発現構造(1)を用い、かつ、
図11(a)に示す積層順、
図12(b)及び
図15に示す構成の潜像印刷物(8´´)を作製した。
【0080】
図23は、実施例10の潜像印刷物(8´´)を異なる条件で観察した場合の効果を示すものであり、
図23(a)に示すように、潜像印刷物(8´´)に対して光源(6)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(8´)の観察角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察においては、光輝性蒲鉾状要素(3)表面と、光輝性蒲鉾状要素(3)状に形成された潜像要素(10)表面からの反射光に変化は生じないため、光反射層(4)上に形成された藍色の光透過着色層(5)、すなわち潜像画像(17)の輪郭となる可視画像(16)が観察されるが、
図23(b)のように光源(6)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(8´´)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察においては、光輝性蒲鉾状要素(3)表面と、光輝性蒲鉾状要素(3)状に形成された潜像要素(10)表面からの反射光に差異が発生することで、潜像画像(17)が出現し、更に、
図23(c)のように正反射光下の観察において、
図23(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、輪郭領域(15)に存在する潜像画像(17)が動的に小さく変形して視認された。なお、比較例1の光輝性蒲鉾状要素群(9)、すなわち、光反射層(4)をそのまま用いて同様の構成の潜像印刷物(8´´)を作製した場合と比較して、正反射光下で視認される潜像画像(17)の視認効果、動的な変形効果が大幅に向上していることを確認した。
【符号の説明】
【0081】
1 光輝性発現構造
2 基材
3 光輝性蒲鉾状要素
3-1、3-2、3-n 光輝性蒲鉾状要素
4、4´、4´´、4´´´ 光反射層
5、5´ 光透過着色層
6、6´ 光源
7 観察位置
8、8´、8´´ 潜像印刷物
9 光輝性蒲鉾状要素群
9-1、9-2、9-n 光輝性蒲鉾状要素群
10、10´ 潜像要素
11 潜像要素群
12 基画像
13 合成画線
14 光輝性顔料
15 輪郭領域
16 可視画像
17 潜像画像
T1 画線高さ
P1 画線ピッチ
W1 画線幅
L0 入射光
L1、L2、L3 反射光