(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20220615BHJP
B42D 25/23 20140101ALI20220615BHJP
B42D 25/24 20140101ALI20220615BHJP
B42D 25/29 20140101ALI20220615BHJP
B42D 25/324 20140101ALI20220615BHJP
G07D 7/207 20160101ALN20220615BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/23
B42D25/24
B42D25/29
B42D25/324
G07D7/207
(21)【出願番号】P 2019034260
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-056641(JP,A)
【文献】特開2017-007228(JP,A)
【文献】特開2016-203459(JP,A)
【文献】特開2014-180795(JP,A)
【文献】特開2018-024105(JP,A)
【文献】特開2018-024104(JP,A)
【文献】国際公開第2016/102366(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00-3/18
B42D 15/02
B42D 25/00-25/485
G07D 7/00-7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、前記基材側から色彩層、蒲鉾状要素群、潜像要素群の順に積層して形成された印刷画像を備え、
前記蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を有し、盛り上がりを有する有色の蒲鉾状要素が規則的に所定のピッチで複数配列されて成り、
前記潜像要素群は、前記蒲鉾状要素と正反射光下で色相が異なる有色の色彩を有し、かつ、基画像の輪郭線から成る画像を分割又は分割圧縮した潜像要素が規則的に前記所定のピッチで複数配列されて成り、
前記色彩層は、所定の色彩を有し、かつ、前記基画像の輪郭線から成る画像を分割又は分割圧縮した形状の色彩要素が規則的に前記所定のピッチで複数配列された色彩要素群と、前記色彩要素群と色彩が異なり、かつ、前記色彩要素群と隣接して配置された色彩背景部から成り、
前記潜像要素群は、前記色彩要素群と重畳した位置で、かつ、前記蒲鉾状要素上及び複数の前記蒲鉾状要素間に存在する非蒲鉾状要素部上に形成され、
拡散反射光下で前記印刷画像を観察すると、前記非蒲鉾状要素部に形成された前記色彩要素及び前記潜像要素が合成された第一のカラー画像が視認され、
正反射光下における特定の観察角度で前記印刷画像を観察すると、前記蒲鉾状要素上に形成された前記潜像要素と前記色彩要素が合成された第二のカラー画像が視認され、更には正反射光下において前記印刷画像の観察角度を異ならせて観察すると、前記第二のカラー画像が動いて視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
基材の少なくとも一部に、前記基材側から色彩層、蒲鉾状要素群、潜像要素群の順に積層して形成された印刷画像を備え、
前記蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を有し、盛り上がりを有する有色の蒲鉾状要素が規則的に所定のピッチで複数配列されて成り、
前記潜像要素群は、前記蒲鉾状要素と正反射光下で色相が異なる透明又は半透明で、かつ、基画像を分割又は分割圧縮した潜像要素が規則的に前記所定のピッチで複数配列されて成り、
前記色彩層は、所定の色彩を有し、かつ、前記基画像を分割又は分割圧縮した形状の色彩要素が規則的に前記所定のピッチで複数配列された色彩要素群と、前記色彩要素群と色彩が異なり、かつ、前記色彩要素群と隣接して配置された色彩背景部と、前記色彩要素と前記色彩背景部の隣接部分における色彩の境目に、隣接する前記色彩要素及び/又は前記色彩背景部よりも淡い色彩か、又は白色の縁取り部から成り、
前記潜像要素群は、前記色彩要素群と重畳した位置に形成され、
拡散反射光下で前記印刷画像を観察すると、複数の前記蒲鉾状要素間に存在する非蒲鉾状要素部上に形成された前記色彩要素及び前記縁取り部が合成された第一のカラー画像が視認され、
正反射光下における特定の観察角度で前記印刷画像を観察すると、前記潜像要素と前記色彩要素が合成された第二のカラー画像が視認され、更には正反射光下において前記印刷画像の観察角度を異ならせて観察すると、前記第二のカラー画像が動いて視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項3】
前記基画像を圧縮する前記色彩要素の縮率は、前記潜像要素の縮率より下げたことを特徴とする請求項1又は2記載の潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、拡散反射光下における可視画像の優れた表現性と、正反射光下の動画的な視覚効果と豊かな色彩表現を両立させた、高い真偽判別性と偽造抵抗力を備えた潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の画像が切り替わる画像のチェンジ効果や、画像が動いて見える動画効果は、人目を引きやすく、偽造することが困難であることから、近年、セキュリティ印刷物の真偽判別要素として用いられる傾向にある。これらの効果を備えた代表的な技術はホログラムであり、チェンジ効果や動画効果を有する様々な形態で、銀行券、パスポート等の高度なセキュリティが要求されるセキュリティ印刷物にも貼付され、広く用いられている。
【0003】
一方、ホログラム以外にも、パララックスバリア、レンチキュラー等の公知技術を用い、僅かな角度変化で複数の画像が切り替わる画像のチェンジ効果や、画像が動いて見える動画効果を備えた真偽判別要素も既に存在している。
【0004】
しかし、ホログラムは、銀行券を代表とする各種セキュリティ印刷物に用いられているものの、一般的な印刷物と比較すると、製造工程の複雑さと高い製造コストに大きな問題がある。また、パララックスバリア又はレンチキュラーを用いた真偽判別要素は、クリア層かレンズが必要となることから、基材がほぼプラスティックに限定される上、印刷物には一定の厚み(少なくとも150μm程度)が必要となり、厚さに制限のある印刷物には用いることができず、一定の厚みが許されるプラスティック製カード以外には採用されない傾向にある。
【0005】
以上の問題を解決するため、本出願人は、高光沢で盛り上がりを有した蒲鉾状要素群の上に透明な潜像要素群を重ね合わせて形成する技術であって、潜像要素群の中の複数の潜像画像が観察角度に応じて動いて視認される偽造防止技術や、潜像画像がチェンジして視認される効果を実現した偽造防止技術を既に出願している(例えば、特許文献1から特許文献4まで参照)。この技術は、蒲鉾状要素に特定の角度で光が入射した場合に、蒲鉾状要素群の画線表面のうち、入射光と直交する角度を成す画線表面のみが強く光を反射する現象を利用することで、光を反射した画線表面に重ねられた潜像要素群の一部の潜像画像のみが反射光量や色彩の違いによって可視化されるものである。また、パララックスバリアやレンチキュラーの10分の1程度の厚さで形成することが可能であって、製造技術も従来からある製版技術と印刷技術を活用することで容易に実施可能であり、かつ、一般的な印刷物と同じコストで、ホログラムと同様なチェンジ効果や動画効果を備えた印刷画像を形成することができるという優れた特徴を有する。
【0006】
また、前述した技術を応用し、正反射光下において豊かな色彩変化を生じさせることを目的とした技術が存在する(例えば、特許文献5参照)。これらは、特許文献1から特許文献4までに記載された技術とは異なり、蒲鉾状要素群及び潜像要素群の下に着色インキによって形成した色彩層を配することによって、正反射光下において出現する潜像画像に複雑で多彩な色変化を実現した技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許4682283号公報
【文献】特許5131789号公報
【文献】特許5200284号公報
【文献】特許6032429号公報
【文献】特願2018-10577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1から特許文献5までに記載の技術は、反射層や盛り上がりを有する蒲鉾状要素の画線表面の一部が光を強く反射し、光を反射した画線表面に重ねられた潜像要素の一部が反射率や色彩の違いによってサンプリングされることで潜像画像が出現する技術である。これらの技術のうち、特許文献1から特許文献4までに記載の技術では、正反射時に出現する潜像画像の色彩は、基本的に蒲鉾状要素中に含まれた機能性材料の光学特性によって決定される。そのため、多くの場合、ラメ調やメタリック調のギラギラとした色彩表現となり、自然な色彩を表現することが難しかった。特に、彩度の高い自然な色彩を表現することは困難であった。
【0009】
また、これらの技術において、通常、反射層や蒲鉾状要素群中の機能性材料が表現できる色彩は1色のみであり、基本的には潜像要素によってもう1色を表現することが限界であって、2色を超える色相の異なる複雑な色彩を表現することは困難であった。
【0010】
また、特許文献4に記載の技術は、着色した潜像画線群と同じく着色した蒲鉾状画線群を重ね合わせて二つの画線を干渉させることによって、拡散反射光下においても潜像画線群の一部をサンプリングし、潜像画線群の一部を拡散反射光下で視認できる構成とした形態である。本技術は、特許文献1から特許文献3までに記載の技術とは異なり、拡散反射光下において印刷画像中に基画像(潜像画像として出現する画像の基になった画像)に近い画像が可視化されて出現することを特徴とする。
【0011】
しかし、特許文献1から特許文献3までに記載の技術と同様に、潜像画線群に付与できる色彩は、蒲鉾状画線群の色彩と潜像画線群の色彩の2色に限定され、それ以上の色彩を付与することは不可能であるという問題があった。仮に、蒲鉾状画線群の下の基材に色彩を配することで色数を増やしたとしても、正反射光下の動画効果が発揮されるのは、潜像画線群の色彩に対してのみであり、それ以外の色彩は動く効果が生じない、単なる修飾要素としての背景の色彩に過ぎないという問題があった。
【0012】
一方、特許文献5に記載の技術においては、特許文献1から特許文献4までに記載の技術と異なり、特殊な材料を用いることなく、正反射光下において出現する動画効果を備えた潜像画像に対して、2色を超える複数の異なる色相の色彩を付与することが可能となった。しかし、正反射光下で出現する潜像画像を多色化できる一方で、拡散反射光下においては、色彩層がそのまま視認される。
【0013】
特許文献5に記載の技術における色彩層とは、インテグラルフォトグラフィ方式の積層画像か、又はパラパラ漫画方式の多重画像に色を付与した画像であり、不明瞭な画像となる。その上、特許文献5に記載の技術の構成では、拡散反射光下では、色彩層にぼかし、拡大縮小、回転又は透明化等の処理を行い、基画像をさらに把握しづらい構成とし、拡散反射光下では意味不明で、かつ、不明瞭な画像であることを強調し、逆に不明瞭だった画像の中から正反射時に潜像画像が鮮明な形で出現するインパクトを重視した技術である。そのため、特許文献5に記載の技術は、正反射光下における色彩表現や潜像画像の表現には優れるものの、拡散反射光下で観察した場合には、印刷画像は、基画像が何であるか把握できない程度に不鮮明であって、観察者には意味不明な画像として認識されてしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、動画効果を損なうことなく、正反射光下で出現する潜像画像に複数の色相の異なる豊かな色彩を付与することが可能であって、さらに拡散反射光下においても基画像に近い有意味な画像が認識でき、従来技術のように不明瞭な画像として認識されることのない潜像印刷物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、基材側から色彩層、蒲鉾状要素群、潜像要素群の順に積層して形成された印刷画像を備え、蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を有し、盛り上がりを有する有色の蒲鉾状要素が規則的に所定のピッチで複数配列されて成り、潜像要素群は、蒲鉾状要素と正反射光下で色相が異なる有色の色彩を有し、かつ、基画像の輪郭線から成る画像を分割又は分割圧縮した潜像要素が規則的に所定のピッチで複数配列されて成り、色彩層は、所定の色彩を有し、かつ、基画像の輪郭線から成る画像を分割又は分割圧縮した形状の色彩要素が規則的に所定のピッチで複数配列された色彩要素群と、色彩要素群と色彩が異なり、かつ、色彩要素群と隣接して配置された色彩背景部から成り、潜像要素群は、色彩要素群と重畳した位置で、かつ、蒲鉾状要素上及び複数の蒲鉾状要素間に存在する非蒲鉾状要素部上に形成され、拡散反射光下で印刷画像を観察すると、非蒲鉾状要素部に形成された色彩要素及び潜像要素が合成された第一のカラー画像が視認され、正反射光下における特定の観察角度で印刷画像を観察すると、蒲鉾状要素上に形成された潜像要素と色彩要素が合成された第二のカラー画像が視認され、更には正反射光下において印刷画像の観察角度を異ならせて観察すると、第二のカラー画像が動いて視認されることを特徴とする潜像印刷物である。
【0016】
また、本発明の潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、基材側から色彩層、蒲鉾状要素群、潜像要素群の順に積層して形成された印刷画像を備え、蒲鉾状要素群は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を有し、盛り上がりを有する有色の蒲鉾状要素が規則的に所定のピッチで複数配列されて成り、潜像要素群は、蒲鉾状要素と正反射光下で色相が異なる透明又は半透明で、かつ、基画像を分割又は分割圧縮した潜像要素が規則的に所定のピッチで複数配列されて成り、色彩層は、所定の色彩を有し、かつ、基画像を分割又は分割圧縮した形状の色彩要素が規則的に所定のピッチで複数配列された色彩要素群と、色彩要素群と色彩が異なり、かつ、色彩要素群と隣接して配置された色彩背景部と、色彩要素と色彩背景部の隣接部分における色彩の境目に、隣接する前記色彩要素及び色彩背景部よりも淡い色彩か、又は白色の縁取り部から成り、潜像要素群は、色彩要素群と重畳した位置に形成され、拡散反射光下で印刷画像を観察すると、複数の蒲鉾状要素間に存在する非蒲鉾状要素部上に形成された色彩要素及び縁取り部が合成された第一のカラー画像が視認され、正反射光下における特定の観察角度で印刷画像を観察すると、潜像要素と色彩要素が合成された第二のカラー画像が視認され、更には正反射光下において印刷画像の観察角度を異ならせて観察すると、第二のカラー画像が動いて視認されることを特徴とする潜像印刷物である。
【0017】
また、本発明の潜像印刷物における基画像を圧縮する色彩要素の縮率は、潜像要素の縮率より下げたことを特徴とする潜像印刷物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の潜像印刷物は、拡散反射光下において、潜像要素群と色彩層のうち、少なくとも一つが蒲鉾状要素群と干渉することで、潜像要素群又は色彩層の一部がサンプリングされ、輪郭を有した基画像に近い画像が可視化される。この輪郭は、単独では複数の色彩が配された不明瞭な画像としか認識できない色彩層に対して、色彩層の色彩の境目に沿って現れる。この輪郭によって色彩層の色彩の境目を強調し、色彩層の画像情報を補完する働きを成す。
【0019】
以上のように、拡散反射光下において、この輪郭と色彩が合成され、基画像が表す有意情報を容易に把握可能な第一のカラー画像として出現することによって、観察者は、より明瞭な画像を認識できる。これは、引用文献5に記載の技術と層構造の構成を共有するものの、本発明に求める効果と色彩層の設計思想は真逆である。
【0020】
また、本発明の潜像印刷物は、色彩層の画像を色分けすることによって、数多くの色彩で画像を表現できる。拡散反射光下で出現する第一のカラー画像と、正反射光下で出現する第二のカラー画像の両方に対して、複数の色彩で自由に彩ることができ、正反射光下においては、潜像画像として出現する輪郭が動いた場合には、複数の異なる色相の色彩も輪郭とともに同期して動いて見えることから、従来技術では困難であった動画的な視覚効果と複雑な色彩表現を両立させることが可能となった。
【0021】
さらに、本発明の潜像印刷物は、複数の色相の異なる色彩を表現するために、従来の技術のように蒲鉾状要素群に対して機能性材料を用いる必要がなく、市販されている一般的な着色インキで形成した色彩要素群で複数の色相の異なる豊かな色彩を表現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本発明の潜像印刷物の蒲鉾状要素群を示す図。
【
図5】本発明の潜像印刷物の潜像要素群の構成の一例を示す図。
【
図8】拡散反射光下において潜像要素が輪郭として可視化される原理を示す説明図。
【
図9】従来の技術と比較した第一のカラー画像の見え方を示す図。
【
図10】色彩層に対して縁取り線により輪郭を付与する構成の一例を示す図。
【
図11】拡散反射光下において色彩層が輪郭として可視化される原理を示す説明図。
【
図12】従来の技術と比較した第一のカラー画像の見え方を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0024】
(第一の実施の形態)
第一の実施の形態として、本発明における潜像印刷物(1)の基本的な構成について、
図1から
図9までを用いて説明する。
図1に、本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を有して成る。基材(2)は、印刷画像(3)が形成可能な面を備えていればよく、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。印刷画像(3)の色彩については、透明であってはならないが、不透明であればいかなる色彩でもよい。
【0025】
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、色彩層(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)を備えて成る。第一の実施の形態において、拡散反射光下で出現する可視画像及び正反射光下で出現する潜像画像の輪郭は、潜像要素群(6)中に含まれ、色彩に関する主たる色情報は、色彩層(4)の中に含まれる。第一の実施の形態では、拡散反射光下において出現する輪郭は、蒲鉾状要素群(5)と潜像要素群(6)が干渉することで出現する。
【0026】
まず、
図3に示す蒲鉾状要素群(5)について説明する。第一の実施の形態における蒲鉾状要素群(5)は、一定の画線幅の直線であり、一定の盛り上がりを有した蒲鉾のような形状を有する蒲鉾状要素(7)が、規則的に配列されて成る。本発明において、「規則的に配列する」とは、特定形状の要素が所定のピッチで特定の方向に複数配列されている状態をいう。第一の実施の形態においては、一定の画線幅(W1)を有した蒲鉾状要素(7)が、画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配列されて成り、連続する蒲鉾状要素(7)と蒲鉾状要素(7)が存在しない非蒲鉾状要素部(16)が交互に複数存在する蒲鉾状要素群(5)として形成される。
【0027】
なお、第一の実施の形態において蒲鉾状要素群(5)は、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線の集合によって構成された例について説明するが、本発明における蒲鉾状要素群(5)の形状は、画線の形状に限定されるものではなく、非蒲鉾状要素部(16)は、蒲鉾状要素群(5)内において、蒲鉾状要素(7)が存在しない領域を非蒲鉾状要素部(16)という。
【0028】
蒲鉾状要素群(5)を構成する蒲鉾状要素(7)は、目視できる色濃度を有する有色として形成する必要がある。本発明においては、蒲鉾状要素(7)は透明であってはならない。なお、色彩は、完全な透明でなければ、すりガラスのような曇った半透明や、ステンドグラスのような着色された着色透明であってもよく、これらの色彩を有色と定義する。
【0029】
また、蒲鉾状要素(7)は、光透過性を有していても、有さなくてもよいが、後述する潜像要素群(6)が、その下に存在する色彩層(4)を一定程度隠蔽してしまうため、色彩層(4)による色彩表現を重視する場合には、光透過性を有することが望ましい。ただし、蒲鉾状要素群(5)を構成する各蒲鉾状要素(7)と蒲鉾状要素(7)の間には、必ず画線や画素のない非蒲鉾状要素部(16)が存在するため、蒲鉾状要素(7)がいかなる色彩を有し、光透過性を有していなかった場合でも、色彩層(4)を完全に隠蔽することがない。
【0030】
これに加え、色彩層(4)は、蒲鉾状要素群(5)が重なることで一部が選択的にサンプリングされて、よりシャープな画像として視認される。このサンプリングの効果は、蒲鉾状要素(7)の色濃度が高く、かつ、光透過性がない方が高くなる。このため、色彩表現をより重視する場合には、色濃度が低く、光透過性を有していることが望ましく、第一のカラー画像や第二のカラー画像の鮮明さを重視する場合には、色濃度が高く、光透過性を有さない構成とすることが望ましい。
【0031】
第一の実施の形態のように、蒲鉾状要素群(5)と潜像要素群(6)が干渉することで輪郭を形成した潜像画像が出現する形態において、蒲鉾状要素群(5)は、潜像要素群(6)と同じか、それ以上の反射濃度を有していることが望ましい。これは、蒲鉾状要素群(5)と潜像要素群(6)が重なって干渉した場合に、潜像要素群(6)の一部をサンプリングして輪郭を鮮明に生じさせるために望ましい条件である。また、色彩層(4)における色彩の境目よりも濃い反射濃度を有していることが望ましい。いずれにしても、蒲鉾状要素(7)は、潜像要素群(6)や色彩層(4)の一部をサンプリングするために、少なくとも目視可能な程度の濃度を有している必要がある。
【0032】
蒲鉾状要素(7)は、樹脂を含んだ材料によって構成される必要がある。ここでいう樹脂とは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキ用のワニス成分に当たる、一定の光沢を有した樹脂を指す。すき入れやエンボス等によって基材(2)に直接凹凸を形成する構成では本発明の必須要件を満たさない。なお、本発明は、蒲鉾状要素(7)によるレンズ効果を利用するものではないため、樹脂の屈折率等に配慮する必要はない。
【0033】
蒲鉾状要素(7)は、正反射時に明度が上昇する明暗フリップフロップ性か、又は色相が変化するカラーフリップフロップ性のいずれか一方の光学特性を備える必要がある。蒲鉾状要素(7)の正反射光下時に生じる反射光の高低や色相変化時の色差の大きさは、潜像画像の階調表現域の高低に直結するため、蒲鉾状要素(7)の反射光量や色相変化時の色差は、大きいことが望ましい。
【0034】
明暗フリップフロップ性は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキ用のワニスを用いれば、容易に備えることができる光学特性である。また、カラーフリップフロップ性を付与するためには、特殊な機能性材料をインキに配合する必要であり、これらの機能性材料としては、パール顔料、メタリック顔料、ガラスフレーク、エフェクト顔料等が存在し、機能性インキとしてはOVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)、コレステリック液晶インキ等が存在する。ただし、本発明の色彩表現は、カラーフリップフロップ性による色彩変化に依存しない効果であるため、必ずしも優れたカラーフリップフロップ性は必要なく、パーフルオロアルキルリン酸処理等の撥水及び撥油処理を施す必要はない。基本的に蒲鉾状要素群(5)には、明暗フリップフロップ性があれば十分な色彩表現が可能である。
【0035】
蒲鉾状要素(7)の画線の盛り上がりの高さは、特に制限するものではないが、流通適性を考えると1mmを超える高さを有することは望ましくない。また、蒲鉾状要素(7)をインキによって形成する場合であって、皮膜の厚さが3μmを下回る場合は、潜像画像の動画効果が低くなる場合がある。よって、蒲鉾状要素(7)をインキ皮膜によって形成する場合には、3μm以上1mm以下であることが望ましい。
【0036】
蒲鉾状要素群(5)を形成する場合、一定の盛り上がり高さが形成できるのであれば、その手段は特に限定しない。印刷で形成する場合、スクリーン印刷、凹版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等が適当である一方で、オフセット印刷、凸版印刷等は不向きである。また、インクジェットやレーザープリンターで厚盛りにインキを盛って蒲鉾状要素群(5)を形成しても何ら問題はない。以上が蒲鉾状要素群(5)の説明である。
【0037】
続いて、潜像要素群(6)について、
図4を用いて説明する。ここでは、潜像要素群(6)に含まれる二つの桜を表す画像のうち、右下にある潜像要素群(6B)を中心にして説明する。潜像要素群(6)は、拡散反射光下時及び正反射光下時に出現する可視画像及び潜像画像の基となる、基画像(8)を特開2016-203459号公報に記載の方法で加工することで形成する。具体的には、基画像(8)に対して、第一の方向(S1方向)に一定の幅で基画像(8)を切り出し、特定の縮率で第一の方向(S1方向)に圧縮することで、一つの潜像要素(9)を作製する。基画像(8)を切り出す位置を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)にずらしながら、切り出しから圧縮を繰り返して潜像要素(9)を順番に作製し、それぞれの潜像要素(9)を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に並べることで潜像要素群(6)を作製することができる。第一の実施の形態では、
図4に示す桜の花びらを基画像(8)として潜像要素群(6)を作製した。
【0038】
潜像要素群(6)は、一定の画線幅(W2)の潜像要素(9)が、蒲鉾状要素群(5)と同じ第一の方向(S1方向)に、蒲鉾状要素群(5)と同じピッチ(P1)で、規則的に配列されて成る。それぞれ隣り合う潜像要素(9)は、互いに形状が異なる。なお、左上の潜像要素群(6A)と右下の潜像要素群(6B)の違いは、潜像要素群(6B)の位置を基準として、第一の方向(図中S1方向)に、「P1の倍数+P1の2分の1」だけ離れた位置に配置していることである。「P1の2分の1」だけ第一の方向(S1方向)に位相をずらして配置することで、蒲鉾状要素群(5)の山と谷に対する位置関係が反転するため、動画効果が生じた場合に動きの方向が逆転する効果を得ることができる。なお、上下方向にも位相がずれているのは、単なるデザイン上の配慮であって、技術的必要事項ではない。これらの潜像要素群(6A、6B)の動的効果については後述するが、正反射光下で傾けた場合、左上の潜像要素群(6A)から生じる潜像画像(14A-1)は、右下の潜像要素群(6B)から生じる潜像画像(14A-2)に対して移動方向が逆方向となる。
【0039】
潜像要素群(6B)及び潜像要素群(6A)の具体的な作製方法は、特開2016-203459号公報に記載の方法を用いればよいが、潜像画像の動きや構成をより単純化したい場合には、特許第5200284号公報に記載の方法を用いればよい。なお、特許第5200284号公報に記載の方法を更に発展させたのが、特開2016-203459号公報に記載の方法である。
【0040】
本実施の形態における基画像(8)は、
図4に示した「桜の花びら」である。本第一の実施の形態では、その基画像(8)に対して、桜の花びらの輪郭と色彩の境目をなぞった輪郭線(15)から成る画像を対象とし、この輪郭線(15)から成る画像を基準に潜像要素群(6)を構成している。これは、拡散反射光下と正反射光下で周囲に対する輪郭線(15)のコントラストを高め、かつ、基画像(8)の内部の色差を鮮やかに表現するための工夫である。すなわち、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)との干渉によって、色彩層(4)の色彩の境目に沿って輪郭線(15)のみが出現する構成とすることで、輪郭線(15)のコントラストを高める一方で、基画像(8)内部の色彩は、色彩層(4)に配した鮮やかな色彩によって表現される。このため、従来では不可能であった鮮やかな色彩で潜像画像を表現するにも関わらず、暗い輪郭線(15)によって潜像画像と周りの背景とのコントラストを維持することができる。
【0041】
なお、デザイン上、色彩表現を重視しないのであれば、従来技術と同様に、
図5(a)に表すように輪郭線(15)の内部を輪郭線(15)よりも淡い色彩でポジ状に塗りつぶしたり、
図5(b)に表すように輪郭線(15)の外部を輪郭線(15)よりも淡い色彩でネガ状に塗り潰したり、
図5(c)に示すような輪郭線(15)の周囲をぼかす表現を用いて潜像要素群(6)を構成しても問題ない。色彩表現よりも、潜像画像のコントラストを重視する場合には有効な方法の一つである。
【0042】
ただし、潜像要素群(6)の中に塗り潰す領域を設ける場合には、潜像要素群(6)に一定の光透過性が必要であり、下地を完全に隠蔽しない特性が必要となる。本技術で重要なことは、少なくとも輪郭線(15)を強調して用いて潜像要素群(6)を表現することであり、輪郭線(15)と接する内部、あるいは外部の塗り潰しやぼかし等は、ユーザーの望む表現に応じて用いればよい。
【0043】
第一の実施の形態のように、蒲鉾状要素群(5)と潜像要素群(6)の干渉によって拡散反射光下において輪郭線(15)を生じさせる形態においては、潜像要素群(6)は少なくとも目視可能な色彩を有する必要があり、輪郭線(15)を目視できる濃度にするためには、少なくともベタで印刷した場合の反射濃度が0.1を超える必要がある。
【0044】
また、本発明は、強い光が入射した場合に、蒲鉾状要素(7)から生じる強い反射光を潜像要素(9)が抑制することで潜像画像が発現する構成である。このため、一定の視認性を得るためには、正反射光下において、潜像要素(9)と蒲鉾状要素(7)との間には少なくともΔEで10以上の色差が必要である。多くの場合、蒲鉾状要素(7)は高光沢な構成となることから、潜像要素(9)は相対的に低光沢であることが望ましい。すなわち、正反射光下時に蒲鉾状要素(7)の明度が高く、潜像要素(9)の明度が低い構成とすることが望ましい。そのため、潜像要素群(6)を印刷する場合、透明なマットなインキを用いることが望ましい。
【0045】
潜像要素群(6)は、蒲鉾状要素群(5)と異なり、盛り上がり高さは不要であることから、生産性の高いオフセット印刷、凸版印刷等で形成してもよい。また、インクジェットやレーザープリンターで形成することもできる。プリンターで潜像要素群(6)を形成する場合には、一枚一枚付与された潜像画像を可変印刷として施すことが可能であり、住民票、パスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、潜像要素群(6)の説明である。
【0046】
続いて、色彩層(4)について説明する。
図6に色彩層(4)を示す。色彩層(4)に含まれる色彩は、拡散反射光下及び正反射光下で出現する潜像画像を彩る色彩となる。色彩層(4)は、少なくとも一部が基材(2)と異なる色彩で着色されている必要があり、また、それぞれの色彩の少なくとも一部は、色相が異なっていることが望ましい。
【0047】
色彩層(4)は、潜像要素群(6)と同じ基画像(8)から構成された色彩要素群(4A-1、4A-2)と、その背景となる色彩背景部(4B)を有する。また、色彩層(4)は、色彩要素群(4A-1、4A-2)の輪郭を基準として色分けされている必要がある。これは、
図4に示すように潜像要素群(6)が輪郭で構成されていても、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)に示すように、ポジ又はネガで構成されていても同様である。
【0048】
図6に表す色彩層(4)は、左上の桜を現した色彩要素群(4A-1)の花びらが桃色、花中心の五角形が黄色で塗り潰され、右下の桜を現した色彩要素群(4A-2)の花びらが白色、花中心の五角形が黄色で塗り潰され、背景画像となる色彩背景部(4B)が水色で塗りつぶされている。色彩層(4)において、それぞれの色彩で色分けされた境界を「色彩の境目」と呼ぶ。以下に、色彩層(4)の具体的な画線構成について説明する。
【0049】
色彩層(4)は、基本的には、潜像要素群(6)と同じ方法で構成する。すなわち、基画像(8)に対して、第一の方向(S1方向)に一定の幅で基画像(8)を切り出し、特定の縮率で第一の方向(S1方向)に圧縮することで、一つの色彩要素(10)を作製する。基画像(8)を切り出す位置を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)にずらしながら、切り出しから圧縮を繰り返して色彩要素(10)を順番に作製し、それぞれの色彩要素(10)を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に並べ、背景となる色彩背景部(4B)に配置することで色彩層(4)を作製することができる。
【0050】
それぞれ色彩要素(10)の色彩は、基画像(8)の段階で付与してもよいし、色彩層(4)を構成した段階で付与してもよい。基本的には、潜像要素群(6A、6B)に対応して色分けされた色彩要素群(4A-1、4A-2)となり、背景となる色彩背景部(4B)が配置されたものが色彩層(4)である。なお、色彩層(4)内の色彩要素群(4A-1、4A-2)の配置位置と、対応する潜像要素群(6A、6B)の配置位置は、重畳した場合に同じ位置となることが望ましく、少なくとも第一の方向(S1方向)の中心位置は同じであることが重要である。
【0051】
効果の説明において具体的に記述するが、本発明の潜像印刷物(1)の効果とは、拡散反射光下において、色彩の境目に沿って輪郭線(15)が配された色彩豊かな可視画像(13)を視認することができ、また、正反射光下において、拡散反射光下と同様に、色彩の境目に沿って輪郭線(15)が配された色彩豊かな潜像画像(14)を視認することができ、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(14)が動いて見えることである。
【0052】
ここで、拡散反射光下において観察者に視認される画像を第一のカラー画像とし、正反射光下において視認される画像を第二のカラー画像とする。第一のカラー画像は、色彩層(4)が蒲鉾状要素群(5)によってサンプリングされた色彩と、かつ、潜像要素群(6)や色彩層(4)が蒲鉾状要素群(5)によってサンプリングされた輪郭線(15)が合成されて可視化された画像であり、第二のカラー画像は、色彩層(4)が蒲鉾状要素群(5)によってサンプリングされた色彩と、潜像要素群(6)が蒲鉾状要素群(5)によってサンプリングされた輪郭線(15)が合成されて可視化された画像である。第一のカラー画像と第二のカラー画像とは、基本的にはほぼ同じ画像であるが、輪郭線(15)の出現位置は必ずしも同じではなく、基本的に輪郭線(15)や色彩の境目は第二のカラー画像の方がより鮮明であるという違いがある。
【0053】
なお、本明細書において、第二のカラー画像中で基画像(8)を基に、潜像要素群(6)から生じる動画効果を有する画像を潜像画像(14)と呼び、第一のカラー画像中で、第二のカラー画像の潜像画像(14)に当たる画像を可視画像(13)と呼ぶ。本発明においては、第一のカラー画像中の可視画像(13)が、基画像(8)を連想できる程度に鮮明化されていることが大きな効果の一つである。
【0054】
正反射光下において輪郭線(15)に沿って複数の色彩で色分けされた潜像画像(14A-1、14A-2)が動いて見える効果は、潜像要素群(6)から生じる光の明暗によって表現された輪郭線(15)と一緒に、色彩層(4)の中の色彩の境目が完全に同期して動くことによって生じる。色彩層(4)の中の色彩の境目が潜像要素群(6)から生じた輪郭線(15)と同期して動く効果を得るため、それぞれの色彩の境目は、上に重なる潜像要素群(6)の輪郭と近い形状で塗り分ける必要がある。
【0055】
正反射光下での動画効果を重視する場合、最も望ましいのは、上に重なる潜像要素群(6)の輪郭と色彩の境目を一致させる構成である。潜像要素群(6)の輪郭と関係しない部分を色分けして色彩の境目を設けてもよいが、その部分は正反射光下においても単に色分けされただけの領域となり、その色彩の境目において動画効果は生じない。また、仮に、デザイン上の理由があれば、潜像要素群(6)の輪郭線(15)に当たる部分でも色彩の境目を設けず、あえて色分けしない部分を設けてもよい。ただし、その部分は、正反射光下においても単一の色彩の輪郭線(15)のみが視認され、複数の異なった色彩は表現できない。
【0056】
第一の実施の形態における色彩層(4)の色彩の境目は、上に重なる潜像要素群(6)の輪郭線(15)と完全に一致した構成としているが、これに限定するものではない。潜像要素群(6)の輪郭線(15)とは若干異なる構成で色彩の境目を形成した場合でも、本発明の効果である動画効果が生じる構成が存在する。このような本発明の効果が生じる色彩の境目を含んだ色彩層(4)の中の色彩配置を「潜像要素群(6)の輪郭線(15)と形状相関性の高い色彩配置」と定義する。ここでいう色彩配置とは、色彩の境目における色彩の微細な塗り分けの形状や位置関係だけでなく、色彩層(4)全体における全ての色彩の塗り分けの形状や位置関係を含む。色彩層(4)と潜像要素群(6)の輪郭が形状相関性の高い色彩配置となる構成については、特願2018-10577号公報に記載のとおりである。
【0057】
ただし、特願2018-10577号公報に記載の技術は、色彩層(4)に含まれる基画像(8)を拡散反射光下でカモフラージュして背景の中に溶け込ませて不明瞭な画像とすることを意図して構成しているため、色彩層(4)の基画像(8)の存在を目立たなくする処理方法として、ぼかし、拡大縮小、回転、透明化等の処理を適用できるとしているが、これらの処理を本発明の潜像印刷物(1)の色彩層(4)に用いることは適さない。本発明の目的は、基画像(8)を含めた第一のカラー画像を拡散反射光下において、より鮮明に見せることであり、特願2018-10577号公報の色彩層(4)のぼかし等に関わる処理は、本発明にとっては逆効果となるため、望ましくない。
【0058】
逆に、これらの処理に変わって、本発明において用いるべき第一のカラー画像をより鮮明に見せるための処理として、色彩要素(10)の縮率を下げる処理が存在する。第一の実施の形態と後述する第二の実施の形態に共通することであるが、拡散反射光下における第一のカラー画像に輪郭線(15)を加えて情報補完するだけでなく、よりシャープに表現したいと考える場合は、色彩層(4)の各色彩要素(10)の縮率を下げる(切り出した基画像(8)を強く圧縮しない)ことで対応することができる。本来、潜像要素(9)と色彩要素(10)の縮率は同じであることが、正反射光下の動画効果を高める上で望ましい構成である。ただし、カラーが移動する効果は錯覚から生じるものであり、潜像要素(9)と色彩要素(10)の縮率は必ずしも同じである必要はない。潜像要素(9)と色彩要素(10)の縮率が異なる場合、色彩を含む動画効果は若干低下する傾向はあるものの、ある一定程度の動画効果は維持される。逆に、潜像要素(9)の縮率を下げると、ダイレクトに正反射光下での動画効果の低下につながるため、潜像要素(9)の縮率は可能な限り高く保つ(強く圧縮する)ことが望ましい。
【0059】
基本的には、色彩要素(10)は、潜像要素(9)の縮率の3倍程度まで縮率を下げてもカラーの動画効果は生じる。それ以上に縮率を下げれば、動画効果は大きく低下するものの、色彩層(4)は、基画像(8)に近いシャープな画像となるため、正反射光下の動画効果よりも、拡散反射光下の第一のカラー画像の鮮明さを求める場合には、潜像要素(9)の縮率よりも、相対的に色彩要素(10)の縮率を下げることで、色彩層(4)をよりシャープに表現でき、結果として第一のカラー画像の鮮明さを向上させることができる。
【0060】
本発明の潜像印刷物(1)においては、拡散反射光下における第一のカラー画像を鮮明にすることが最大の課題であるため、色彩要素(10)の切り出した基画像(8)に対する圧縮の強さは、潜像要素(9)の基画像(8)に対する圧縮の強さと少なくとも同じか、より小さく設計することが望ましい。この潜像要素(9)の基画像(8)に対して圧縮を弱くする処理は、潜像要素(9)一つ一つに含まれる基画像(8)の情報を少なくすることで画像をシャープにする処理であり、特願2018-10577号公報に記載の色彩層(4)や色彩要素群(4A-1、4A-2)全体に縮小を施す処理とは根本的に異なる。
【0061】
続いて、色彩層(4)の色彩制限について説明する。実際には、印刷画像(3)における色彩制限であるが、印刷画像(3)の主たる色は、色彩層(4)によって決定されるため、色彩層(4)の色彩設計の段階において、色彩の境目に適用する色彩について考慮する必要がある。色彩の境目において、色差が大きすぎる色彩同士を隣接し、隣り合う色彩として配置した場合、本発明の効果は生じないか、その効果が著しく低下する。色彩層(4)における隣り合う色彩の大きすぎる色差は、潜像要素群(6)が生み出す明暗のコントラストを打ち消してしまうため、本発明の効果を消失させるか、大きく低下させる働きを成す。例えば、極めて濃い赤と完全な白を色彩の境目で隣り合わせた場合、いかに潜像要素群(6)や色彩層(4)の構成で工夫を凝らしたとしても、本発明の効果は生じない。そのため、色彩の境目で隣り合う色彩は、一定の色差の範囲に収める必要がある。
【0062】
具体的な数値としては、印刷画像(3)として完成した状態における色彩の境目の色差がΔEで30以下である必要がある。より具体的には、色彩層(4)の色彩の境目で隣り合う色彩の上に、蒲鉾状要素群(5)が重なり、潜像要素群(6)が重なり、印刷画像(3)として完成した状態で、印刷画像(3)の下部に色彩の境目で隣り合う色彩を印刷画像(3)上から測定した場合の、それぞれの色差がΔEで30以下である必要がある。
【0063】
本技術においては、蒲鉾状要素群(5)は着色されており、潜像要素群(6)も着色されている場合がある。蒲鉾状要素群(5)や潜像要素群(6)の色彩の影響を受け、色彩層(4)単体での色彩の境目で隣り合う色彩の色差と、印刷画像(3)となった場合の色彩は大きく異なるため、本発明においては、印刷画像(3)となった場合の色彩の境目で隣り合う色彩によって定義する。
【0064】
印刷画像(3)上から測定して隣り合う色彩が色差ΔEで30を超える色差を含んだ構成となった場合、いかなる材料を用いたとしても、本発明の効果は生じない。一般的な印刷用紙を用いて印刷によって蒲鉾状要素群(5)を形成する場合は、印刷画像(3)上の色彩の境目で隣り合う色彩の色差ΔEを30以下で形成することで本発明の効果が生じ得る。
【0065】
ただし、印刷画像(3)の中に含まれる色彩であっても、色彩の境目で隣接して隣り合っていなければ、色差ΔEが30を超えていても問題ない。本発明の色彩層(4)の色彩設計において重要なのは、印刷画像において色彩の境目で隣接して隣り合っている色彩間の色差ΔEが30を超えないことである。このため、徐々に色彩が変化するグラデーションを有効に活用すれば、隣り合う色彩間の色差を小さくすることができ、印刷画像(3)中に表現できる色彩表現域を拡大できることはいうまでもない。以上が、色彩層(4)の色彩制限に関する説明である。
【0066】
色彩層(4)は、潜像要素群(6)と同様に、生産性の高いオフセット印刷、凸版印刷等で形成してもよい。また、インクジェットやレーザープリンターで形成することもできる。プリンターで形成する場合には、一枚一枚付与された潜像画像を可変印刷として施すことが可能であり、住民票やパスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、色彩層(4)の説明である。
【0067】
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の積層順について説明する。基材(2)をベースにして、まず、色彩層(4)を形成し、その上に蒲鉾状要素群(5)、さらにその上に潜像要素群(6)を密着させて形成する。以上が、本発明の潜像印刷物(1)の積層順である。
【0068】
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について、
図7を用いて説明する。
図7(a)に示すように、光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察において、観察者(12)からは、色分けされた色彩層(4)からサンプリングされた色彩とともに、色彩層(4)の色彩の境目に沿って潜像要素群(6)の一部が可視化された輪郭線(15)が表す第一のカラー画像が視認できる。
【0069】
続いて、
図7(b)に示すように、光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度がほぼ同じである、いわゆる正反射光下の観察において、観察者(12)からは、色彩層(4)からサンプリングされた色彩とともに、色彩層(4)の色彩の境目に沿って潜像要素群(6)の一部が可視化された輪郭線(15)が表す第二のカラー画像が出現したことを確認できる。具体的には、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-1)と白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-2)が水色の色彩背景部(4B)の中に視認できる。
【0070】
また、
図7(c)に示すように、正反射光下の観察において、
図7(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-1)と白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-2)の第一の方向(S1方向)の位相が変化して見える。
図7(b)から
図7(c)への位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(14A-1、14A-2)が逆方向にスムーズに移動する動画的効果が生じる。
【0071】
以上のような効果が生じる原理について説明する。まず、
図7(a)に示すような拡散反射光下において第一のカラー画像が視認される原理について説明する。潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)は着色されているものの、それぞれの蒲鉾状要素(7)と蒲鉾状要素(7)の間には、画線の存在しない非蒲鉾状要素部(16)が存在するため、拡散反射光下及び正反射光下のいずれの観察環境においても、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)の下に必ず存在する色彩層(4)が表す色彩の一部が強調されて視認される。この場合、色彩層(4)は、蒲鉾状要素群(5)の非蒲鉾状要素部(16)によって一定のピッチ(P1)でサンプリングされた状態となり、色彩層(4)単体と比較して、より基画像(8)に近いシャープな画像となる。
【0072】
これに加え、拡散反射光下においては、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)のペアか、又は蒲鉾状要素群(5)と色彩層(4)のペアの少なくとも一方のペアの要素同士が互いに干渉することで、潜像要素群(6)及び/又は色彩層(4)の一部の情報のみが一定のピッチ(P1)でサンプリングされて輪郭線(15)が出現する。第一の実施の形態の例では、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)のペアが干渉し、輪郭線(15)が出現する形態であるため、この形態について
図8を用いて具体的に説明する。
【0073】
第一の実施の形態においては、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)の二つの要素群はともに着色されており、蒲鉾状要素群(5)の上に潜像要素群(6)が重畳して重なり合っている。そして、隣り合う蒲鉾状要素(7)と蒲鉾状要素(7)との間には、画線の存在しない非蒲鉾状要素部(16)が存在し、その非蒲鉾状要素部(16)には、基材(2)又は色彩層(4)が露出している。潜像要素群(6)のうち、蒲鉾状要素(7)の上に重なった部分は、蒲鉾状要素(7)の高い濃度によってその存在がカモフラージュされ、完全に不可視となるか、コントラストが大きく低下する。
【0074】
一方、潜像要素群(6)のうち、蒲鉾状要素(7)の上には重ならず、非蒲鉾状要素部(16)に重なった部分は、基材(2)又は色彩層(4)との濃度差に応じて相対的に強く可視化される。盛り上がり高さを有して着色された蒲鉾状要素(7)は、一定の光遮断性を有するため、潜像要素群(6)が、蒲鉾状要素(7)に重なった部分は相対的にコントラストが低下し、重なっていない部分は相対的にコントラストが高くなり、結果として、蒲鉾状要素群(5)の非蒲鉾状要素部(16)が存在する潜像要素群(6)のサンプリングが成され、基画像(8)に近い形で輪郭線(15)が可視化される。
【0075】
また、同時に色彩層(4)も蒲鉾状要素(7)と干渉し、非蒲鉾状要素部(16)によってサンプリングされ、基画像(8)により近い画像へと変化する。以上のように、色彩層(4)と潜像要素群(5)の一部の画像がサンプリングされることによって、複数の色彩とその色彩の境目に輪郭線(15)を伴った可視画像(13A-1、13A-2)が色彩背景部(4B)の中で可視化された第一のカラー画像が視認される。
【0076】
また、
図7(b)及び
図7(c)に示すような正反射光下では、色彩層(4)は、蒲鉾状要素群(5)の非蒲鉾状要素部(16)によって一定のピッチ(P1)でサンプリングされるとともに、特許文献1から特許文献5までに記載の従来技術と同様に盛り上がりを有する蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面のみが光を強く反射し、その上に重なった潜像要素(9)の情報がサンプリングされ、強い光の明暗(潜像要素(9)がない部位は明、潜像要素(9)がある部位は暗)を生じ、潜像要素群(6)全体として輪郭線(15)で構成された潜像画像(14A-1、14A-2)を可視化する。
図7(b)及び
図7(c)に示すように、正反射光下で角度を変化させると、蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面の位置が変化するため、サンプリングされる潜像画像(14A-1、14A-2)の情報が変化し、結果として輪郭線(15)の位置が変化して視認される。
【0077】
また、明暗で構成された輪郭線(15)の移動に伴って、色彩層(4)に配された桃色、黄色、白といった色彩も色彩背景部(4B)の青色の中を移動して視認される。なお、蒲鉾状要素群(5)の下にある色彩層(4)の色彩の境目も潜像画像(14A-1、14A-2)の輪郭と同期して動いて視認される効果については、観察者(12)の錯覚であり、光学的に生じる現象ではない。この現象については、特願2018-10577号公報に記載のとおりである。
【0078】
以上のように、第一のカラー画像と第二のカラー画像の色彩は、色彩層(4)が非蒲鉾状要素部(16)によって一定のピッチ(P1)でサンプリングされることで可視化されたものであるが、第一のカラー画像の輪郭線(15)は、潜像要素群(6)が非蒲鉾状要素部(16)によってサンプリングされて生じたものであり、第二のカラー画像の潜像画像(14A-1、14A-2)の輪郭線(15)は、潜像要素群(6)が蒲鉾状要素(7)の正反射光下によってサンプリングされて生じたものである。このため、第一のカラー画像と第二のカラー画像には、輪郭線(15)の出現位置や画線の濃さ等に必ず違いが生じる。
【0079】
図9は、拡散反射光下における輪郭線(15)がある場合とない場合の比較例として、画像ソフトで擬似的に本発明の効果を比較したものである。
図9(a)は、本発明の拡散反射光下の第一のカラー画像であり、色彩の境目に沿って輪郭線(15)があるために、一見して桜の花びらを表す画像があることがわかる。一方、
図9(b)は、従来技術(引用文献5)の特願2018-10577号公報に記載の技術を用いて、蒲鉾状要素群(5)を着色して構成した第一のカラー画像を示すものであり、
図9(c)は、特願2018-10577号公報に記載の技術を用いて、蒲鉾状要素群(5)を透明なインキで構成した第一のカラー画像を示したものである。
図9(a)に示す第一のカラー画像は、
図9(b)及び
図9(c)の第一のカラー画像と比較すると、明瞭である。以上のように、本発明の効果である輪郭線(15)の存在によって、従来の技術と比較して第一のカラー画像が表すイメージを明確に伝えることが可能となった。以上が、第一の実施の形態の説明である。
【0080】
(第二の実施の形態)
次に、第二の実施の形態における潜像印刷物(1)について説明する。第一の実施の形態では、拡散反射光下において、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(5)が干渉することで輪郭線(15)が出現する形態について説明してきたが、第二の実施の形態における潜像印刷物(1)は、色彩層(4)と蒲鉾状要素群(5)が干渉することで輪郭線(15)が出現する形態である。
【0081】
第二の実施の形態において、第一の実施の形態と異なる点は、色彩層(4)の画線構成と、潜像要素群(5)が目視不可能な程度に物体色を有さず、拡散反射光下において透明であるか、印刷画像(3)となった場合に目視不可能な程度の濃度しかなく、蒲鉾状要素群(5)と反射濃度が異なること、潜像要素(9)が必ずしも輪郭を形成するものではなく、ベタ状の印刷でもよいことに限られる。その他の構成である基材(2)、印刷画像(3)及び蒲鉾状要素群(5)については、第一の実施の形態と同じである。
【0082】
第二の実施の形態における色彩層(4)について、
図10(a)に示す。比較として、第一の実施の形態における色彩層(4)を
図10(b)に示す。第二の実施の形態においては、色彩層(4)の色彩の境目に沿って白や淡い色彩で縁取り部(17)を形成する。縁取り部(17)の幅は、視認性と消失効果を保つ観点から、0.05mm以上0.3mm以下とすることが望ましい。
【0083】
第二の実施に形態においては、色彩層(4)の縁取り部(17)が蒲鉾状要素群(5)によってサンプリングされることで輪郭線(15)となる。第一の実施の形態では、第一のカラー画像の複雑な色彩自体は色彩層(4)から生じ、輪郭線(15)は潜像要素群(6)から生じるものであったが、第二の実施の形態では、第一のカラー画像の色彩及び輪郭線(15)の双方が色彩層(4)から生じる。
【0084】
図11に示すように、拡散反射光下において、色彩層(4)に施した縁取り部(17)のうち、蒲鉾状要素(7)と重なった部分は目視上不可視か、又は目立たなくなり、非蒲鉾状要素部(16)と重なった部分は、サンプリングされて白い輪郭線(15)となる。なお、正反射光下においては、潜像要素群(6)が蒲鉾状要素群(5)によってサンプリングされ、第一の実施の形態と同様に黒色か灰色の輪郭線(15)として出現する。
【0085】
第二の実施の形態の縁取り部(17)は、色彩の境目で隣り合う色彩よりも淡い色彩、具体的には白色か、それに近い淡い色彩であることが望ましい。第一の実施の形態のように隣接する色彩よりも濃い色の縁取り部(17)を構成することは望ましくない。これは、第一の実施の形態において、拡散反射時と正反射時に出現する第一のカラー画像及び第二のカラー画像の輪郭線(15)は、いずれも潜像要素群(6)由来の輪郭線(15)であり、同じ画線から生じるものであるため、互いに親和性が高く、それぞれ本来出現してはいけない状況での隠ぺい効果が高い(第一のカラー画像が出現している場合、第二のカラー画像の輪郭線(15)は見えない。その一方、第二のカラー画像が出現している場合、第一のカラー画像の輪郭線(15)は見えない)。そのため、濃い色彩を用いても充分な消失効果を得ることができる。
【0086】
また、仮に、第一のカラー画像の輪郭線(15)と第二のカラー画像の輪郭線(15)が重なって同時に出現した場合でも、潜像要素群(6)のサンプリング位置の違いのみから生じるものであることから、観察者(12)には、輪郭線(15)がわずかにかすれている様に見えるか、又は輪郭線(15)が濃くなったという印象を与える程度の影響しか生じない。
【0087】
しかし、第二の実施の形態において、第一のカラー画像の輪郭線(15)は、色彩層(4)に由来するものであり、第二のカラー画像の輪郭線(15)は、潜像要素群(6)に由来するものであって、別々の要素から生じたものであり、それぞれ本来出現してはいけない状況での隠蔽効果は高くない。そのため、色彩の境目で隣り合う色彩よりも濃度の高い色彩で縁取り部(17)を構成すると、正反射光下で消失せずに、第二のカラー画像の輪郭線(15)とともに第一のカラー画像の輪郭線(15)が出現してしまう場合がある。
【0088】
第二のカラー画像の輪郭線(15)と第一のカラー画像の輪郭線(15)は、別々の要素に由来する画線であり、必ずしも出現位置が同じになるとは限らない。その場合、二つの輪郭線(15)がそれぞれ別の輪郭線(15)として視認されてしまうおそれがある。このため、正反射光下において、蒲鉾状要素群(5)の明度上昇によって、カモフラージュされて消失したように認識されやすい白や淡い色彩を用いることが望ましい。
【0089】
拡散反射光下における輪郭線(15)がある場合とない場合の比較例として、画像ソフトで擬似的に本発明の効果と比較した。
図12(a)は、本発明の拡散反射光下の第一のカラー画像であり、特に、桃色の花びらには色彩の境目に沿って白い輪郭線(15)(色彩層(4)の縁取り部(17))があるために、一見して桜の花びらを表す画像があることがわかる。
【0090】
一方、
図12(b)は、従来技術(引用文献5)の特願2018-10577号公報に記載の技術を用いて、蒲鉾状要素群(5)を着色して構成した第一のカラー画像を示すものであり、
図12(c)は、特願2018-10577号公報に記載の技術を用いて、蒲鉾状要素群(5)を透明なインキで構成した第一のカラー画像を示すものである。
図12(a)に示す第一のカラー画像は、
図12(b)及び
図12(c)の第一のカラー画像と比較すると明瞭である。以上のように、本発明の効果である輪郭線(15)の存在によって、従来の技術と比較して第一のカラー画像が表す基画像(8)を含めたイメージを明確に伝えることが可能となった。以上が第二の実施の形態の説明である。
【0091】
加えて、本実施の形態の説明において潜像要素群(6)と色彩層(4)に適用したのは、特開2016-203459号公報に記載の動画効果が生じる構成であるが、本発明の効果とそれを実現するための構成は、これに限定されるものではない。動画効果を実現する構成としては、より単純な特許第5200284号公報の構成を用いてもよい。これは、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を生じさせる画線構成である。また、連続的なチェンジ効果を主体としてパラパラ漫画方式で動画効果を実現する構成を適用することもできる。例えば、特許第4682283号公報や特開2016-221889号公報に記載の技術のように、相互に関連性のある図柄を次々にチェンジさせることで動画効果を実現する構成を適用することもできる。
【0092】
ただし、本発明において生じる、色彩層(4)の色彩の境目が動いて見える効果は、表面反射や屈折によって画像が実際にサンプリングされているわけではなく、錯覚によって生じる現象であることから、無条件にこれらの技術の画線構成に転用できるものではない。例えば、「A」から「B」に潜像画像がチェンジする効果に同期して色彩層(4)の色彩の境目が動いて見える効果を付与することは、困難である。これは、劇的で鮮明な潜像画像の変化に対して、錯覚が働きづらいためである。
【0093】
また、同じ動画効果であっても、モアレマグニフィケーション(モアレ拡大現象)を利用して動画効果を生じさせる特許第4844894号公報や特許第5131789号公報の画線構成を用いて、色彩層(4)の色彩の境目が動いて見える効果を実現することも同様に難しい。モアレ拡大現象は、潜像要素群(6)の構成が第一の方向(S1方向)に非常に長い帯状の構成となるため、正反射光下で出現した潜像画像が背景の色彩と同化しやすく、本発明の効果である色彩の境目がぼやけて、色彩の違いを知覚しづらいためである。
【0094】
本発明の効果が高く発揮できるのは、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果と、パラパラ漫画方式のチェンジ効果を応用した動画効果である。特に、潜像画像の動きの幅を過剰に大きく設計しないことが本発明の効果を高める上で重要である。色彩層(4)を用いて、パラパラ漫画方式で動画効果を実現するには、特願2018-10577号公報に記載の方法を用いればよい。
【0095】
また、本実施の形態の説明において蒲鉾状要素群(5)を構成するそれぞれの要素を画線で形成したが、これに限定するものではない。蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を画線ではなく画素とした場合の構成については、特許第4660775号公報、特許第4682283号公報、特許第5200284号公報、特許第6075244号公報及び特許第6120082号公報に記載の構成を用いればよい。
【0096】
また、蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を直線ではなく、曲線で形成する場合には、特許第6032423号公報、特許第6112357号公報の構成を用いればよい。また、より特殊な効果を実現するのであれば、特開2016-203459号公報、特開2016-210149号公報、特開2016-221889号公報及び特開2017-56577号公報等を用いてもよい。これに伴って色彩層(4)は、潜像要素群(6)が表すそれぞれの要素の輪郭線(15)に沿って色彩の境目で色分けした構成とすればよい。
【0097】
以上のように、色彩層(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)の形状については、限定されるものではなく、従来の蒲鉾状要素群(5)の上に潜像要素群(6)を重ねて潜像画像を発現させる技術で用いられていた構成をそのまま用いることができる。
【0098】
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、「異なる色彩」とは、色相、明度又は彩度のうちの少なくともいずれか一つが異なるか、2つ以上が異なることをいう。また、本発明における色差とは、CIE1976L*a*b*表色系のΔEで定義するものとする。CIE1976L*a*b*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある二色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L*a*b*表色系での色差は、二色のL*の差、a*の差及びb*の差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。なお、本明細書においては、白、灰、黒等の無彩色も一つの色として考える。
【0099】
また、本明細書中でいう正反射とは、物質に、ある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質に、ある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色の強い光を発する。また、正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
【0100】
本発明における画線とは、印刷画像を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線、破線等を指し、画素とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等を指す。
【実施例】
【0101】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した潜像印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0102】
本発明の実施例については、実施の形態で説明した潜像印刷物(1)の例を用いて説明する。具体的には、第一の実施の形態と同様に、
図1から
図7までを用いて説明する。
図1に、本実施例の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に白、桃色、黄色、水色の色彩から成る印刷画像(3)を有して成る。基材(2)には、一般的な微塗工紙(グラディオスCC 日本製紙製)を用いた。
【0103】
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、白、桃色、黄色、水色の色彩から成る色彩層(4)の上に着色された蒲鉾状要素群(5)が重なり、更にその上に潜像要素群(6)が重なり合わさって成る。
【0104】
図3に、蒲鉾状要素群(5)を示す。蒲鉾状要素群(5)は、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状要素(7)が、第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置されて成る。
【0105】
図4に、潜像要素群(6)を示す。潜像要素群(6)は、第一の潜像要素群(6A)及び第二の潜像要素群(6B)を含んで成る。基画像(8)は桜の花びらとして、インテグラルフォトグラフィ方式の圧縮画線によって潜像要素群(6)を構成した。基画像(8)から潜像要素(9)に圧縮した縮率は4%(数値が小さいほど基画像がより圧縮された状態となる。)とした。第一の潜像要素群(6A)の第一の方向(S1方向)の位置を基準として、第二の潜像要素群(6B)の第一の方向(S1方向)の位置は、「P1の倍数(12mm)+P1の2分の1(0.2mm)」分にあたる、12.2mm位相をずらして配置した。
【0106】
図6に色彩層(4)を示す。基画像(8)から色彩要素(10)へ圧縮した縮率は10%とした。本実施例では、ぼかし等の処理は施さず、色彩の境目に沿ってそのまま色分けした。第一の実施の形態と同様に、左上の桜を現した色彩要素群(4A-1)の花びらを桃色、花中心の五角形を黄色で塗りつぶし、右下の桜を現した色彩要素群(4A-2)の花びらを白色、花中心の五角形を黄色で塗りつぶし、その他の色彩背景部(4B)を水色で塗りつぶした。印刷画像(3)、蒲鉾状要素群(5)潜像要素群(6)、色彩層(4)のその他の具体的な構成は、実施の形態と同様である。
【0107】
まず、基材(2)上に、色彩層(4)をカラーレーザープリンターで印刷した。プリンターは、RICOH製IPSIOを使用した。桃色は、マゼンタ25%イエロー10%とし、黄色は、イエロー25%ブラック10%とし、水色はシアン15%ブラック5%、白は印刷せず、基材(2)の色彩をそのまま用いた。
【0108】
続いて、蒲鉾状要素群(5)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で形成した。使用したのは、透明なスクリーンインキ(UVTUB-000 帝国インキ製造株式会社製)に黒色の顔料(カーボンブラック)を0.2%配合した濃い灰色のインキである。このインキを用いて色彩層(4)の上に印刷した。それぞれの蒲鉾状要素(7)の高さは、約15μmであった。さらに、潜像要素群(6)をウェットオフセット印刷によって低光沢な灰色インキ(UVL 特練 P420C マットグレー T&K TOKA製)を用いて、蒲鉾状要素群(5)の上に形成した。
【0109】
実施例の潜像印刷物(1)の効果について、
図7を用いて説明する。
図7(a)のように拡散反射光下において、観察者(12)からは、輪郭線(15)に沿って桃色と黄色で色分けされた桜を表す可視画像(13A-1)と、輪郭線(15)に沿って白色と黄色で色分けされた桜を表す可視画像(13A-2)が第一のカラー画像として視認できた。この第一のカラー画像は、一見して、二つの桜の花びらを表した画像であることが容易に認識できる鮮明さを有していた。
【0110】
続いて、
図7(b)のような正反射光下の観察において、観察者(12)には、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-1)と、白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-2)が水色の背景とともに第二のカラー画像として視認できた。また、
図7(b)の観察角度からやや角度を変えて観察すると、
図7(c)に示すように、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-1)と、白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(14A-2)の第一の方向の位相が変化した。
図7(b)から
図7(c)への位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(14A-1、14A-2)が逆方向にスムーズに移動する動画的効果が生じることを確認した。
【符号の説明】
【0111】
1 潜像印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 色彩層
4A-1、4A-2 色彩要素群
4B 色彩背景部
5 蒲鉾状要素群
6、6A、6B 潜像要素群
7 蒲鉾状要素
8 基画像
9 潜像要素
10 色彩要素
11 光源
12 観察者
13 可視画像
13A-1、13A-2 輪郭線を伴った可視画像
14 潜像画像
14A-1、14A-2 輪郭線を伴った潜像画像
15 輪郭線
16 非蒲鉾状要素部
17 縁取り部