(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20220616BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
A01G31/00 604
(21)【出願番号】P 2017249689
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】594156020
【氏名又は名称】エスペックミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】西浦 芳史
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙治
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-202009(JP,A)
【文献】実開昭56-015373(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培するための養液を貯留する貯留部と、
上記貯留部から供給された上記養液により上記植物を栽培する栽培部と、
上記栽培部内に上記栽培部内の底から間隔をあけて配置され、上記植物が搭載される植物搭載部と、
上記貯留部の内部と上記栽培部の内部とを連通する連通部と、
上記貯留部から上記連通部を介して上記栽培部の内部に流入した上記養液を吸い込んで上記貯留部に戻す液ポンプと
を備え、
上記液ポンプの吸込口は、上記栽培部内の底から所定の高さに配置され、
上記植物搭載部の底面は、上記栽培部内の底から上記所定の高さよりも高い位置にあり、
上記液ポンプの運転時に上記栽培部内の上記養液を吸い込んで上記貯留部に戻すことにより、上記栽培部内の液面が上記貯留部内の液面よりも低くなり、
上記液ポンプが運転中に停止すると、上記貯留部から上記養液が上記連通部を介して上記栽培部の内部に流入して、上記栽培部内の液面が上記貯留部内の液面と同じになるまで上昇すると共に、
上記植物搭載部は、上記液ポンプの停止により上記栽培部内の液面が上昇した上記養液に浮くように構成されていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
請求項1に記載の植物栽培装置において、
上記液ポンプは、上記吸込口から吸い込んだ上記養液およびその養液と共に吸い込んだ空気を上記貯留部内の上記養液中に戻すことを特徴とする植物栽培装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の植物栽培装置において、
上記貯留部内に上記栽培部が配置されていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の植物栽培装置において、
上記栽培部内の上記養液に空気を供給するエアポンプを備え、
上記エアポンプは、上記栽培部内の液面が上記液ポンプの運転中の液面よりも高い所定の液面高さ以上のときに作動することを特徴とする植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物栽培装置としては、養液を流すベッド本体と、ベッド本体の上面開口を覆う蓋部材と、養液が溜められた液槽と、傾斜したベッド本体の一端部に液槽からの養液を供給する給液部と、ベッド本体の他端部から流出した養液を液槽に戻す返液部とを備えたものがある(例えば、特開2017-112894号公報(特許文献1)参照)。
【0003】
上記植物栽培装置では、ベッド本体を緩やかに傾斜させて、ベッド本体内の底の傾斜面に養液を薄膜状に流し、蓋部材の植栽孔で保持された植物の根の一部(下側)を薄膜状の養液に浸す薄膜型水耕(NFT:Nutrient Film Technique)により植物を栽培する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の植物栽培装置では、酸素を根から直接吸収させるので空気を供給するエアポンプの必要がなく、また根全体を養液に浸さないので養液量を少なくすることができる。
【0006】
しかしながら、上記植物栽培装置では、液槽から養液をベッド本体に供給する給液部の液ポンプが、停電や故障により停止すると、ベッド本体内の底部を流れる養液がなくなって植物の根の全てが空気に曝されて乾燥するので、短時間で植物が萎れてしまうという問題がある。
【0007】
そこで、この発明の課題は、薄膜型水耕で養液を供給する液ポンプが停止しても、湛液型水耕(DFT:Deep Flow Technique)に切り換えて植物栽培を継続できる植物栽培装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一態様に係る植物栽培装置は、
植物を栽培するための養液を貯留する貯留部と、
上記貯留部から供給された上記養液により上記植物を栽培する栽培部と、
上記栽培部内に上記栽培部内の底から間隔をあけて配置され、上記植物が搭載される植物搭載部と、
上記貯留部の内部と上記栽培部の内部とを連通する連通部と、
上記貯留部から上記連通部を介して上記栽培部の内部に流入した上記養液を吸い込んで上記貯留部に戻す液ポンプと
を備え、
上記液ポンプの吸込口は、上記栽培部内の底から所定の高さに配置され、
上記植物搭載部の底面は、上記栽培部内の底から上記所定の高さよりも高い位置にあり、
上記液ポンプの運転時に上記栽培部内の上記養液を吸い込んで上記貯留部に戻すことにより、上記栽培部内の液面が上記貯留部内の液面よりも低くなり、
上記液ポンプが運転中に停止すると、上記貯留部から上記養液が上記連通部を介して上記栽培部の内部に流入して、上記栽培部内の液面が上記貯留部内の液面と同じになるまで上昇すると共に、
上記植物搭載部は、上記液ポンプの停止により上記栽培部内の液面が上昇した上記養液に浮くように構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、液ポンプの吸込口が栽培部内の底から所定の高さに配置され、植物搭載部の底面が栽培部内の底から上記所定の高さよりも高い位置にあるので、例えば、液ポンプの吸込口を栽培部内の底から所定の高さ1cmに配置すると、液ポンプの運転時に、栽培部内の養液を液ポンプの吸込口から吸い込んで貯留部に戻すことにより、貯留部から養液が連通部を介して栽培部の内部に流入して液ポンプの吸込口まで流れる薄膜状の養液流が形成される。このとき、連通部を介して栽培部の内部に流入する養液量よりも液ポンプの吐出量を大きくすることにより、栽培部内の液面は貯留部内の液面よりも低くなると共に、栽培部内の養液の流れは深さがほぼ1cmとなり、所定の高さ1cmよりも高い位置にある植物搭載部の底面の下側で植物の根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸されて、薄膜型水耕による植物栽培が行われる。そして、停電や故障などにより液ポンプが運転中に停止すると、貯留部内の液面が栽培部内の液面よりも高くなっているので、水圧差により貯留部から養液が連通部を介して栽培部の内部に流入して、栽培部内の液面が貯留部内の液面と同じになるまで上昇する。これによって、液ポンプの停止により栽培部内の液面が上昇した養液に植物搭載部が浮いて、植物搭載部に搭載された植物の根の大部分が養液に浸される湛液型水耕に切り換わる。したがって、薄膜型水耕で養液を供給する液ポンプが停止しても、湛液型水耕に切り換えて植物栽培を継続できる。
【0010】
なお、停電が復帰したり故障が直ったりすると、液ポンプの運転が再開され、栽培部内の養液を液ポンプにより貯留部に戻すことにより、貯留部から養液が連通部を介して栽培部の内部に流入しつつ栽培部内の液面が下がり、液ポンプの吸込口の位置がほぼ液面となる薄膜状の養液流が形成される。これにより、植物の根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸される薄膜型水耕による植物栽培を再び行うことができる。
【0011】
また、一実施形態の植物栽培装置では、
上記液ポンプは、上記吸込口から吸い込んだ上記養液およびその養液と共に吸い込んだ空気を上記貯留部内の上記養液中に戻す。
【0012】
上記実施形態によれば、液ポンプは、吸込口から吸い込んだ養液およびその養液と共に吸い込んだ空気を貯留部内の養液中に戻すので、貯留部内の養液中に空気を混入させて、養液中の溶存酸素濃度を増加させることができる。これにより、養液に浸った植物の根の
部分にも十分な酸素を供給できる。
【0013】
また、一実施形態の植物栽培装置では、
上記貯留部内に上記栽培部が配置されている。
【0014】
上記実施形態によれば、貯留部内に栽培部を配置することによって、栽培部を貯留部の側方に配置した場合に比べて、設置スペースを有効に利用できる。
【0015】
また、一実施形態の植物栽培装置では、
上記栽培部内の上記養液に空気を供給するエアポンプを備え、
上記エアポンプは、上記栽培部内の液面が上記液ポンプの運転中の液面よりも高い所定の液面高さ以上のときに作動する。
【0016】
上記実施形態によれば、液ポンプが運転中に停止して、栽培部内の液面が上昇し、上昇する液面が液ポンプの運転中の液面よりも高い所定の液面高さ以上になると、エアポンプが作動して栽培部内の養液に空気を供給する。これにより、植物搭載部に搭載された植物の根の大部分が養液に浸される湛液型水耕に切り換わっても、エアポンプにより養液中に空気を混入させて養液中の溶存酸素濃度を保ち、根の酸素吸収を維持できる。
【0017】
また、この発明の一態様に係る植物栽培装置は、
植物を栽培するための養液を貯留する貯留部と、
上記貯留部から供給された上記養液により上記植物を栽培する栽培部と、
上記栽培部内に上記栽培部内の底から間隔をあけて配置され、上記植物が搭載される植物搭載部と、
上記貯留部から上記栽培部内の一方の側に供給された上記養液を、上記栽培部内の他方の側から吸い込んで上記貯留部に戻す液ポンプと
を備え、
上記液ポンプの吸込口は、上記栽培部内の底から所定の高さに配置され、
上記植物搭載部の底面は、上記栽培部内の底から上記所定の高さよりも高い位置にある。
【0018】
上記構成によれば、液ポンプの吸込口が栽培部内の底から所定の高さに配置され、植物搭載部の底面が栽培部内の底から上記所定の高さよりも高い位置にあるので、例えば、液ポンプの吸込口を栽培部内の底から所定の高さ1cmに配置すると、液ポンプの運転時に、栽培部内の養液を液ポンプの吸込口から吸い込んで貯留部に戻すことにより、貯留部から養液が栽培部内の一方の側に供給されて栽培部内の他方の側の液ポンプの吸込口へ流れる薄膜状の養液流が形成される。このとき、連通部を介して栽培部の内部に流入する養液量よりも液ポンプの吐出量を大きくすることにより、栽培部内の液面は貯留部内の液面よりも低くなると共に、栽培部内の養液の流れは深さがほぼ1cmとなり、所定の高さ1cmよりも高い位置にある植物搭載部の底面の下側で植物の根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸されて、薄膜型水耕による植物栽培を簡単な構成で行うことができる。
【0019】
また、一実施形態の植物栽培装置では、
上記栽培部は、上記栽培部内の底面が略水平になるように設置される。
【0020】
上記実施形態によれば、栽培部内の底面が略水平になるように栽培部が設置されるので、栽培部を緩やかに傾斜させて設置する場合に比べて、安定した設置が容易にできる。
【発明の効果】
【0021】
以上より明らかなように、この発明によれば、薄膜型水耕で養液を供給する液ポンプが運転中に停止すると、貯留部から養液が連通部を介して栽培部の内部に流入して、栽培部内の液面が貯留部内の液面と同じになるまで上昇すると共に、液ポンプの停止により栽培部内の液面が上昇した養液に植物搭載部が浮くので、液ポンプが停止しても、湛液型水耕(DFT:Deep Flow Technique)に切り換えて植物栽培を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1はこの発明の第1実施形態の植物栽培装置の全体構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は上記植物栽培装置の構成の一部を示すブロック図である。
【
図4】
図4は上記植物栽培装置の要部の拡大模式図である。
【
図5】
図5は上記植物栽培装置の液ポンプが停止したときの構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は変形例の植物栽培装置の全体構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は変形例の植物栽培装置の液ポンプが停止したときの構成を示す模式図である。
【
図8】
図8はこの発明の第2実施形態の植物栽培装置の全体構成を示す模式図である。
【
図9】
図9は上記植物栽培装置の液ポンプが停止したときの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の植物栽培装置を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
図1はこの発明の第1実施形態の植物栽培装置の全体構成を示す模式図であり、
図2は上記植物栽培装置の上面図である。
【0025】
この第1実施形態の植物栽培装置は、
図1,
図2に示すように、植物Pを栽培するための養液(水と肥料を混ぜた混合液)を貯留する貯留部1と、貯留部1から供給された養液により植物Pを栽培する栽培部2と、植物Pが搭載される植物搭載部3と、貯留部1の内部と栽培部2の内部とを連通する連通部4と、貯留部1から連通部4を介して栽培部2の内部に流入した養液を吸い込んで貯留部1に戻す液ポンプ5と、液ポンプ5の吐出側に一端が接続され、他端が貯留部101内に配置された戻り配管6とを備える。上記連通部4は、栽培部2の側壁の底2a側に設けられた貫通孔である。
【0026】
上記貯留部1は、上面が開口する直方体形状の箱形容器であり、貯留部1の底1aが略水平になるように設置されている。
【0027】
また、上記栽培部2は、上面が開口する直方体形状の箱形容器であり、栽培部2の底2aが略水平になるように、栽培部2の大部分が貯留部1内に配置されている。また、栽培部2は、底2aが貯留部1の底1aよりも所定間隔あけて上方に位置するように貯留部1に固定されている。
【0028】
また、植物搭載部3は、栽培部2内の底2aから間隔をあけて配置されている。また、植物搭載部3は、発泡樹脂製の長方形状のフロート板31と、フロート板31の底面31bから下方に向かって立設された発泡樹脂製の支持体32,32とを有する。上記フロート板31と支持体32,32の材料は、発泡樹脂に限らず、養液に浮く材料であればよい。なお、支持体32,32の底部には、フロート板31の長手方向に沿って溝や貫通孔を設けて、連通部4側から液ポンプ5側への養液の流路を確保している。
【0029】
また、植物搭載部3のフロート板31の中央に設けられた植栽孔31aに、植物Pが植栽されたキャリア10を差し込んでいる。このキャリア10としては、一般的に水耕栽培に使用されるキャリアであればよく、ウレタン、ロックウール、綿状素材、スポンジなどが用いられる。
【0030】
植物搭載部3のフロート板31の底面31bが貯留部1の底1aから所定の底面高さH1(
図4に示す)の位置になるように、支持体32,32によりフロート板31を支持している。所定の底面高さH1は、液ポンプ5の吸込口5aの栽培部2内の底2aから所定の高さH2(
図4に示す)よりも高く、かつ、薄膜型水耕において植物Pの根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸されるように設定される。
【0031】
なお、上記植物栽培装置は、
図1に示すように、植物Pのキャリア10の上側の部分を除いて不透水性と遮光性および可撓性を有するシート20により貯留部1と栽培部2を覆っている。このシート20により貯留部1内および栽培部2内の養液の蒸発を抑制する。
【0032】
また、液ポンプ5の吸込口5aへの植物Pの根の侵入を防ぐ防根シート(図示せず)を、栽培部2内の液ポンプ5の吸込口5aまたは植物Pの根を覆うように配置している。防根シートには、目の細かいメリヤス生地などを用いる。
【0033】
図3は上記植物栽培装置の構成の一部を示すブロック図である。
【0034】
図3に示すように、液ポンプ5は、交流電圧源30からの交流電圧(例えばA100V(60Hz))が電源スイッチSW1を介して印加される。
【0035】
また、上記植物栽培装置は、エアポンプ40と、直流電圧源BTと、フロートスイッチSW2とを備えている。エアポンプ40は、直流電圧源BTからの直流電圧(例えばDC12V)がフロートスイッチSW2を介して印加される。
【0036】
上記植物栽培装置において、電源スイッチSW1オンして液ポンプ5の運転を開始すると、液ポンプ5の運転時に栽培部2内の養液を吸い込んで貯留部1に戻すことにより、貯留部1の養液が連通部4と栽培部2および液ポンプ5を介して循環する。
【0037】
上記構成の植物栽培装置において、液ポンプ5の吸込口5aが栽培部2内の底2aから所定の高さH2(
図4に示す)になるように、液ポンプ5を栽培部2内に配置している。
【0038】
<液ポンプの運転時>
液ポンプ5の運転時に、栽培部2内の養液を液ポンプ5の吸込口5aから吸い込んで貯留部1に戻すことにより、貯留部1から養液が連通部4を介して栽培部2の内部に流入して液ポンプ5の吸込口5aまで流れる薄膜状の養液流が形成される。
【0039】
連通部4を介して栽培部2の内部に流入する養液量よりも液ポンプ5の吐出量を大きくすることにより、栽培部2内の液面は貯留部1内の液面よりも低くなると共に、栽培部2内の養液の流れは、薄膜状で深さがほぼ1cmとなり、所定の高さH2よりも高い位置にある植物搭載部3の底面31bの下側で植物Pの根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸されて、薄膜型水耕による植物栽培が行われる。
【0040】
栽培部2内を流れる薄膜状の養液の深さは、栽培する植物Pの品種に応じて適宜設定すると共に、植物Pの成長する根の形態に合わせて、水中根と空中根との割合が最適になるように植物搭載部3の支持体32,32の高さを調整する。
【0041】
<液ポンプの運転停止>
液ポンプ5の運転中は、貯留部1内の液面が栽培部2内の液面よりも高くなっているので、停電や故障などにより液ポンプ5が運転中に停止すると、水圧差により貯留部1から養液が連通部4を介して栽培部2の内部に流入して、
図5に示すように栽培部2内の液面が貯留部1内の液面と同じになるまで上昇する。これによって、液ポンプ5の停止により栽培部2内の養液の液面が上昇して、植物搭載部3に搭載された植物Pの根の大部分が養液に浸される湛液型水耕に切り換わる。ここで、栽培部2内の養液の液面上昇によって植物搭載部3は浮き上がり、植物Pの茎や葉が養液に浸ることはない。
【0042】
したがって、この第1実施形態の植物栽培装置によれば、薄膜型水耕で養液を供給する液ポンプ5が停止しても、湛液型水耕に切り換えて植物栽培を継続することができる。
【0043】
また、液ポンプ5の運転停止により栽培部2内の液面が上昇して、栽培部2内の液面が所定の液面高さH3(
図4に示す)以上になったとき、フロートスイッチSW2がオンして、エアポンプ40の運転を開始する。これにより、薄膜型水耕において、貯留部1内の養液中に空気を混入させ、養液中の溶存酸素濃度を増加させる。
【0044】
ここで、所定の液面高さH3は、液ポンプ5の運転時の液面よりも高く、かつ、栽培部2内の液面が貯留部1内の液面と同じになったときの液面高さよりも低い位置に設定されている。
【0045】
<液ポンプの運転再開>
なお、停電が復帰したり故障が直ったりすると、液ポンプ5の運転が再開され、栽培部2内の養液を液ポンプ5により貯留部1に戻す。貯留部1から養液が連通部4を介して栽培部2の内部に流入する養液量よりも液ポンプ5の吐出量が大きいので、栽培部2内の液面が徐々に下がり、液ポンプ5の吸込口5aの位置がほぼ液面となる薄膜状の養液流が形成される。このとき、栽培部2内の液面が所定の液面高さH3(
図4に示す)よりも低くなったとき、フロートスイッチSW2がオフして、エアポンプ40が停止する。
【0046】
このようにして、液ポンプ5の運転再開により、植物Pの根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸される薄膜型水耕による植物栽培を再び行うことができる。
【0047】
なお、上記植物栽培装置は、定期的に養液の成分濃度の調整を行う養液調整装置や、貯留部1内の養液の温度を管理する温度管理装置などを備えてもよい。
【0048】
上記構成の植物栽培装置では、液ポンプ5の運転により植物Pの根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸される薄膜型水耕で植物栽培が行われる。そして、貯留部1内の液面が栽培部2内の液面よりも高くなっているので、停電や故障などにより液ポンプ5が運転中に停止すると、水圧差により貯留部1から養液が連通部4を介して栽培部2の内部に流入して、栽培部2内の液面が貯留部1内の液面と同じになるまで上昇する。また、液ポンプ5の停止により栽培部2内の液面が上昇した養液に植物搭載部3が浮いて、植物搭載部3に搭載された植物Pの根の大部分が養液に浸される湛液型水耕に切り換わる。したがって、薄膜型水耕で養液を供給する液ポンプ5が停止しても、湛液型水耕に切り換えて植物栽培を継続することができる。
【0049】
また、上記液ポンプ5は、吸込口5aから吸い込んだ養液およびその養液と共に吸い込んだ空気を貯留部1内の養液中に戻すので、貯留部1内の養液中に空気を混入させて、養液中の溶存酸素濃度を増加させることができる。これにより、養液に浸った植物Pの根の部分にも十分な酸素を供給できる。
【0050】
また、上記貯留部1内に栽培部2を配置することによって、栽培部2を貯留部1の側方に配置した場合に比べて、設置スペースを有効に利用できる。
【0051】
また、上記液ポンプ5が運転中に停止して、栽培部2内の液面が上昇し、その液面が所定液面以上になると、エアポンプ40が作動して栽培部2内の養液に空気を供給するので、植物搭載部3に搭載された植物Pの根の大部分が養液に浸される湛液型水耕に切り換わっても、養液中の溶存酸素濃度が保たれ、根の酸素吸収を維持できる。
【0052】
なお、上記第1実施形態の植物栽培装置は、直流電圧源BTを充電する手段(太陽光発電など)を備えてもよいし、直流電圧源BTの代わりに無停電電源を備えてもよい。
【0053】
また、上記第1実施形態では、植物搭載部3のフロート板31に、植物Pが植栽されたキャリア10を1つ配置したが、例えば、植物搭載部3のフロート板31に、植物Pが植栽された複数のキャリア10をフロート板31の長手方向に沿って配置してもよく、植栽する植物の品種やサイズに応じてキャリア10を適宜配置してよい。
【0054】
なお、
図6,
図7に示す変形例のように、植物搭載部3の発泡樹脂製の支持体32,32自体が養液に浮く構成としてもよい。
図6は液ポンプ5の運転時の薄膜型水耕の状態を示し、
図7は液ポンプ5の停止時の湛液型水耕の状態を示す。
【0055】
〔第2実施形態〕
図8はこの発明の第2実施形態の植物栽培装置の全体構成を示す模式図である。この第2実施形態の植物栽培装置は、貯留部101と連通部104を除いて第1実施形態の植物栽培装置と同一の構成をしており、同一構成部に同一参照番号を付している。
【0056】
この第2実施形態の植物栽培装置は、
図8に示すように、植物Pを栽培するための養液(水と肥料を混ぜた混合液)を貯留する貯留部101と、貯留部101から供給された養液により植物Pを栽培する栽培部2と、植物Pが搭載される植物搭載部3と、貯留部101の内部と栽培部2の内部とを連通する連通部104と、貯留部101から連通部104を介して栽培部2の内部に流入した養液を吸い込んで貯留部101に戻す液ポンプ5と、液ポンプ5の吐出側に一端が接続され、他端が貯留部101内に配置された戻り配管6とを備える。上記連通部104は、貯留部101と栽培部2とを接続する配管やホースなどである。
【0057】
上記貯留部101は、上面が開口する直方体形状の箱形容器であり、貯留部101の底101aが略水平になるように設置されている。
【0058】
また、上記栽培部2は、上面が開口する直方体形状の箱形容器であり、栽培部2の底2aが略水平になるように、貯留部101の側方に配置されている。
【0059】
また、植物搭載部3は、栽培部2内の底2aから間隔をあけて配置されている。また、植物搭載部3は、発泡樹脂製の長方形状のフロート板31と、フロート板31の底面31bから下方に立設された発泡樹脂製の支持体32,32とを有する。植物搭載部3のフロート板31の中央に設けられた植栽孔31aに、植物Pが植栽されたキャリア10を差し込む。
【0060】
<液ポンプの運転時>
液ポンプ5の運転時に、栽培部2内の養液を液ポンプ5の吸込口5aから吸い込んで貯留部101に戻すことにより、貯留部101から養液が連通部104を介して栽培部2の内部に流入して液ポンプ5の吸込口5aまで流れる薄膜状の養液流が形成される。
【0061】
連通部4を介して栽培部2の内部に流入する養液量よりも液ポンプ5の吐出量を大きくすることにより、栽培部2内の液面は貯留部101内の液面よりも低くなると共に、栽培部2内の養液の流れは、薄膜状で深さがほぼ1cmとなり、植物Pの根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸される薄膜型水耕による植物栽培が行われる。
【0062】
<液ポンプの運転停止>
上記液ポンプ5の運転中は、貯留部101内の液面が栽培部2内の液面よりも高くなっているので、停電や故障などにより液ポンプ5が運転中に停止すると、水圧差により貯留部101から養液が連通部104を介して栽培部2の内部に流入して、
図9に示すように栽培部2内の液面が貯留部101内の液面と同じになるまで上昇する。これによって、液ポンプ5の停止により栽培部2内の養液の液面が上昇して、植物搭載部3に搭載された植物Pの根の大部分が養液に浸される湛液型水耕に切り換わる。ここで、栽培部2内の養液の液面上昇によって植物搭載部3は浮き上がり、植物Pの茎や葉が養液に浸ることはない。
【0063】
したがって、この第2実施形態の植物栽培装置によれば、薄膜型水耕で養液を供給する液ポンプ5が停止しても、湛液型水耕に切り換えて植物栽培を継続することができる。
【0064】
上記液ポンプ5の運転停止により栽培部2内の液面が上昇して、栽培部2内の液面が所定の液面高さH3(
図4に示す)以上になったとき、フロートスイッチSW2(
図2に示す)がオンして、エアポンプ40(
図2に示す)の運転を開始する。これにより、薄膜型水耕において、貯留部1内の養液中に空気を混入させて、養液中の溶存酸素濃度を増加させる。
【0065】
<液ポンプの運転再開>
なお、停電が復帰したり故障が直ったりすると、液ポンプ5の運転を再開し、栽培部2内の養液を液ポンプ5により貯留部101に戻す。貯留部101から養液が連通部104を介して栽培部2の内部に流入する養液量よりも液ポンプ5の吐出量が大きいので、栽培部2内の液面が徐々に下がり、液ポンプ5の吸込口5aの位置がほぼ液面となる薄膜状の養液流が形成される。このとき、栽培部2内の液面が所定の液面高さH3(
図4に示す)よりも低くなったとき、フロートスイッチSW2がオフして、エアポンプ40の運転を停止する。
【0066】
また、この発明の一態様に係る植物栽培装置は、
植物Pを栽培するための養液を貯留する貯留部1,101と、
上記貯留部1,101から供給された上記養液により上記植物Pを栽培する栽培部2と、
上記栽培部2内に配置され、上記植物Pが搭載される植物搭載部3と、
上記貯留部1,101から上記栽培部2内の一方の側に供給された上記養液を、上記栽培部2内の他方の側から吸い込んで上記貯留部1,101に戻す液ポンプ5と
を備え、
上記液ポンプ5の吸込口5aは、上記栽培部2内の底2aから所定の高さH2に配置され、
上記植物搭載部3の底面31bは、上記栽培部2内の底2aから上記所定の高さH2よりも高い位置にある。
【0067】
上記構成によれば、液ポンプ5の吸込口5aが栽培部2内の底2aから所定の高さH2に配置され、植物搭載部3の底面31bが栽培部2内の底2aから所定の高さH2よりも高い位置にあるので、例えば、液ポンプ5の吸込口5aを栽培部2内の底2aから1cmの高さに配置すると、液ポンプ5の運転時に、栽培部2内の養液を液ポンプ5の吸込口5aから吸い込んで貯留部1,101に戻すことにより、貯留部1,101から養液が栽培部2内の一方の側に供給されて栽培部2内の他方の側の液ポンプ5の吸込口5aへ流れる薄膜状の養液流が形成される。このとき、連通部を介して栽培部の内部に流入する養液量よりも液ポンプの吐出量を大きくすることにより、栽培部2内の液面は貯留部1,101内の液面よりも低くなると共に、栽培部2内の養液の流れは深さがほぼ1cmとなり、所定の高さH2の1cmよりも高い位置にある植物搭載部3の底面31bの下側で植物Pの根の一部(下側)が薄膜状の養液に浸されて、薄膜型水耕による植物栽培を簡単な構成で行うことができる。
【0068】
従来の薄膜型水耕による植物栽培では、栽培部内の底面を緩やかに傾斜させるため、栽培部を支持するための支持部材などを別に用意して傾斜角度をつけて栽培部を設置しなければならず、構成が複雑になると共に、安定した設置を行うことが容易でない。
【0069】
これに対して、この発明の植物栽培装置では、栽培部2の底2aが略水平になるように設置すればよく、安定した設置が簡単にできると共に、高さ方向の設置スペースを従来よりも低くできる。また、エジェクタなどを用いることなく、液ポンプ5により貯留部1内の養液中に空気を混入させて、養液中の溶存酸素濃度を増加させることができる。
【0070】
上記第1,第2実施形態では、貯留部1,101に1つの栽培部2を備えた植物栽培装置について説明したが、1つの貯留部に複数の栽培部を備えたものでもよい。この場合、複数の栽培部は、貯留部の側方かつ貯留部に対して水平方向に並んで配置される。
【0071】
また、上記第1,第2実施形態では、植物Pのキャリア10の上側の部分を除いて不透水性と遮光性を有するシート20により貯留部1と栽培部2を覆ったが、貯留部1と栽培部2などを密閉された温室などに収納して、温室内の環境などを管理するようにしてもよい。
【0072】
また、上記第1,第2実施形態では、液ポンプ5を栽培部2内に配置したが、液ポンプ自体を栽培部の外側に配置し、液ポンプの吸込側をホースなどで接続し、そのホースの先端である吸込口が栽培部内の底から所定の高さに配置されるようにしてもよい。
【0073】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記第1,第2実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
1,101…貯留部
2…栽培部
3…植物搭載部
4,104…連通部
5…液ポンプ
6…戻り配管
10…キャリア
20…シート
31…フロート板
32…支持体
40…エアポンプ
P…植物
SW1…電源スイッチ
SW2…フロートスイッチ