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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】補強繊維、及びこれを用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/333 20060101AFI20220616BHJP
   F16L 11/08 20060101ALI20220616BHJP
   C08F 16/06 20060101ALI20220616BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20220616BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
D06M15/333
F16L11/08 A
C08F16/06
C08F8/00
C08J5/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019561621
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018047123
(87)【国際公開番号】W WO2019131467
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2017253834
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 徹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正博
(72)【発明者】
【氏名】立花 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】竹本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】小林 利章
(72)【発明者】
【氏名】川井 弘之
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-63383(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182567(WO,A1)
【文献】特開平11-21726(JP,A)
【文献】特公昭46-32498(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
C08J5/04-5/24
C08C19/00-19/44
C08F6/00-301/00
F16L9/00-11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の少なくとも一部に接着成分を有する親水性繊維からなる補強繊維であって、該接着成分が分子内に反応性炭素-炭素二重結合及び反応性炭素-炭素三重結合から選ばれる1種以上の多重結合を有するビニルアルコール系重合体を含む補強繊維。
【請求項2】
前記親水性繊維が、ポリビニルアルコール系繊維、再生セルロース系繊維、及び疎水性繊維の表面を親水化処理した繊維から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の補強繊維。
【請求項3】
前記疎水性繊維がポリエステル系繊維である、請求項2に記載の補強繊維。
【請求項4】
前記補強繊維が、単糸繊度が0.1dtex以上、30dtex以下のマルチフィラメントである、請求項1~3のいずれかに記載の補強繊維。
【請求項5】
JIS L 1013:2010に従って測定した前記補強繊維の初期引張抵抗度が70cN/dtex以上である、請求項1~4のいずれかに記載の補強繊維。
【請求項6】
前記多重結合の少なくとも一部が前記ビニルアルコール系重合体の側鎖に存在する、請求項1~5のいずれかに記載の補強繊維。
【請求項7】
前記ビニルアルコール系重合体が、前記多重結合を有する多重結合含有化合物により変性したものであり、該多重結合含有化合物が、前記多重結合を有するアルデヒド、該アルデヒドのアセタール化体、前記多重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、該カルボン酸の酸無水物、前記多重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、該ジカルボン酸の酸無水物、及び前記多重結合を有するアミン化合物から選ばれる1種以上である、請求項1~6のいずれかに記載の補強繊維。
【請求項8】
前記繊維表面の少なくとも一部に前記接着成分からなる接着層を有する、請求項1~7のいずれかに記載の補強繊維。
【請求項9】
前記繊維が前記接着成分を原料の一部として含有する、請求項1~8のいずれかに記載の補強繊維。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の補強繊維を用いた成形体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の補強繊維及びゴムを用いた成形体。
【請求項12】
前記成形体がゴムホースである請求項10又は11に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムとの接着性に優れる補強繊維、及びこれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、タイヤ、コンベアベルト、及びホース(例えば、自動車用オイルブレーキホース)等の工業用ゴム製品は、ビニロン及びレーヨン等の合成繊維や綿等の天然繊維を用いて補強されている。これらの製品において、ゴムが有する優れた物理的特性(例えば、高強度及び高弾性率)等を十分に発揮させるためには、繊維とゴムとを強固に接着させる必要がある。従来、かかる方法として、レゾルシン・ホルマリン樹脂とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を用いる方法が広く知られている(特許文献1及び2)。
【0003】
しかしながら、ホルマリンは発がん性の疑いがあり、レゾルシンは環境ホルモンの疑いがあることから代替材料の開発が望まれている。具体的に、特許文献3には、ゴムの加硫に用いられる加硫剤と反応する不飽和炭素結合及びエポキシ基を有する接着化合物を含む接着剤を用いる技術が提案されている。また、特許文献4には、(ブロックド)イソシアネート化合物及び/又はアミン系硬化剤(A)と、エポキシ化合物(B)と、ゴムラテックス(C)と、を含み、レゾルシン及びホルマリンを含まない有機繊維コード用接着剤組成物を用いた接着方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭54-4976号公報
【文献】特開昭58-2370号公報
【文献】特開2011-111563号公報
【文献】国際公開第2010/125992号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載された接着剤を用いた方法は、従来のレゾルシン・ホルマリン樹脂とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を用いた方法に比べて、接着性が劣っており、特許文献4に記載された接着剤を用いた方法は、従来のレゾルシン・ホルマリン樹脂とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を用いた方法と同等かそれ以上の接着力を有するものの、有機繊維コードの表面に接着剤層を形成した後、実質的には高温(180℃及び240℃)によって加熱処理する必要があった。補強繊維としてしばしば用いられるPVA系繊維やPET系繊維といった有機繊維をかかる方法で処理した場合、劣化によって補強繊維としての性能が落ちる危険性があった。従来のレゾルシン・ホルマリン樹脂とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を用いた方法と同程度の接着力を有しながら、汎用的な樹脂が劣化しない温度で接着層の形成及び熱処理が可能な方法が求められていた。
【0006】
本発明の課題は、前記従来の問題を鑑みてなされたものであって、レゾルシン及びホルマリンを含有しない接着成分を用いた補強繊維であって、ゴムとの接着性に優れる補強繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記従来の課題を解決するために鋭意検討した結果、反応性炭素-炭素二重結合及び反応性炭素-炭素三重結合から選ばれる1種以上の多重結合を有するビニルアルコール系重合体を用いることにより、レゾルシン及びホルマリンを使用しなくても、ゴムとの接着性に優れる補強繊維が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下[1]~[2]に関する。
[1]繊維表面の少なくとも一部に接着成分を有する親水性繊維からなる補強繊維であって、該接着成分が分子内に反応性炭素-炭素二重結合及び反応性炭素-炭素三重結合から選ばれる1種以上の多重結合を有するビニルアルコール系重合体を含む補強繊維。
[2]前記[1]に記載の補強繊維を用いた成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、レゾルシン及びホルマリンを含有しない接着成分を用いた補強繊維であって、ゴムとの接着性に優れる補強繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[補強繊維]
本発明の補強繊維は、繊維表面の少なくとも一部に接着成分を有する親水性繊維からなる補強繊維であって、該接着成分が、分子内に反応性炭素-炭素二重結合及び反応性炭素-炭素三重結合から選ばれる1種以上の多重結合を有するビニルアルコール系重合体を含むものである。本発明によれば、前記多重結合を有するビニルアルコール系重合体が親水性の繊維表面の少なくとも一部に存在しているため、前記多重結合とゴム等とが反応し結合を形成するため、優れた接着力を有する補強繊維を得ることができる。
なお、本発明において「反応性炭素-炭素二重結合」とは、熱又は光等の外部エネルギーにより他の成分と反応し得る炭素-炭素二重結合を意味し、通常、芳香族環に含まれる炭素-炭素二重結合は含まず、脂肪族炭素-炭素二重結合を指す。「反応性炭素-炭素三重結合」についても同様の意味を示す。
【0011】
<接着成分>
本発明において用いる接着成分は、分子内に反応性炭素-炭素二重結合及び反応性炭素-炭素三重結合から選ばれる1種以上の多重結合を有するビニルアルコール系重合体を含むものであれば特に制限はない。前記ビニルアルコール系重合体としては、主鎖に前記多重結合が存在するものであってもよく、側鎖に前記多重結合が存在するものであってもよいが、接着力をより向上させる観点から、前記多重結合の少なくとも一部が前記ビニルアルコール系重合体の側鎖に存在するものが好ましい。本発明によれば、前記多重結合がゴムと加硫により共有結合を形成することにより接着性を発現していると考えられることから、前記多重結合がビニルアルコール系重合体の主鎖ではなく、側鎖に存在した方が補強繊維とゴムとの接着性が良好になる。前記ビニルアルコール系重合体の各側鎖が有する多重結合の数は特に限定されず、例えば1~5個等である。
【0012】
前記多重結合の少なくとも一部が側鎖に存在するビニルアルコール系重合体において、ビニルアルコール系重合体の主鎖から多重結合までの距離は、主鎖と側鎖とを結合する酸素又は炭素原子から数えて、側鎖の多重結合を構成する炭素原子までの原子数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましく、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、13以下が更に好ましく、10以下がより更に好ましい。側鎖の多重結合を構成する炭素原子までの原子数が多いほど、ビニルアルコール系重合体の主鎖からの多重結合までの距離が遠くなり、多重結合とゴムとの反応が生じやすくなるため補強繊維とゴムとの接着性が向上する。このような観点から、多重結合が側鎖の末端に存在することも好ましい。また、多重結合の近傍の立体障害を小さくし、ゴムと反応しやすくする観点から、多重結合が存在する側鎖は、分岐鎖ではなく直鎖状であることも好ましい。
一方、側鎖の多重結合を構成する炭素原子までの原子数が、前記上限値以下であると、ビニルアルコール系重合体の水等への溶解性が高くなり、取り扱い性が向上する。
【0013】
側鎖に前記多重結合の少なくとも一部が存在するビニルアルコール系重合体を得る方法としては、例えば、前記多重結合を有する多重結合含有化合物でポリビニルアルコールを変性することにより得る方法(以下「製造方法(1)」ともいう)、ビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合した後、けん化することで得られる、分子内にラクトン環構造を有するポリビニルアルコールを多重結合を有するアミン化合物、特に反応性炭素-炭素二重結合を有するアミン化合物で変性することにより得る方法(以下「製造方法(2)」ともいう)、二重結合を2つ以上有する単量体とビニルアルコール系化合物とを共重合することにより得る方法(以下「製造方法(3)」ともいう)が挙げられる。中でも、前記多重結合を有する多重結合含有化合物でポリビニルアルコールを変性することにより得る方法(製造方法(1))が好ましい。各製造方法の詳細については後述する。
【0014】
前記多重結合含有化合物に特に制限はないが、好ましくは炭素数が3~30、より好ましくは3~20、更に好ましくは5~15、より更に好ましくは5~10である化合物が好ましい。多重結合含有化合物の炭素数が前記下限値以上であると、得られるビニルアルコール系重合体の主鎖からの多重結合までの距離が遠くなり、多重結合とゴムとの反応が生じやすくなるため補強繊維とゴムとの接着性が向上する。一方、多重結合含有化合物の炭素数が前記上限値以下であると、得られるビニルアルコール系重合体の水等への溶解性が高くなり、取り扱い性が向上する。なお、多重結合の近傍の立体障害を小さくし、ゴムと反応しやすくする観点から、多重結合含有化合物は分岐鎖を有しない化合物が好ましく、また、ゴムとの反応性の観点から、多重結合が化合物の末端に存在することが好ましい。
【0015】
前記多重結合含有化合物中の多重結合の数は特に限定されず、例えば1~5個等である。なお、前記多重結合含有化合物は、例えば、水酸基、ニトロ基、及び芳香族基等の置換基を有していてもよい。
【0016】
前記多重結合含有化合物の具体例としては、前記多重結合を有するアルデヒド、該アルデヒドのアセタール化体、前記多重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、該カルボン酸の酸無水物、前記多重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、該ジカルボン酸の酸無水物、及び前記多重結合を有するアミン化合物から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0017】
なお、本発明において用いる接着成分は、人体に有害なレゾルシン-ホルムアルデヒド成分を含まなくてもゴムとの接着性に優れる補強繊維を得ることができる。したがって、前記接着成分において、前記レゾルシン-ホルムアルデヒド成分の含有量は前記ビニルアルコール系重合体100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下が更に好ましく、1質量部以下がより更に好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。
【0018】
〔製造方法(1)において用いる多重結合含有化合物〕
製造方法(1)において用いる多重結合化合物としては、例えば、前記多重結合を有するアルデヒド、該アルデヒドのアセタール化体、前記多重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、該カルボン酸の酸無水物、前記多重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、及び該ジカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
【0019】
前記多重結合を有するアルデヒドのうち、反応性炭素-炭素二重結合を有するアルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、3-ブテナール、2-メチル-2-ブテナール、2-メチル-3-ブテナール、2,2-ジメチル-3-ブテナール、3-メチル-2-ブテナール、3-メチル-3-ブテナール、2-ペンテナール、2-メチル-2-ペンテナール、3-ペンテナール、3-メチル-4-ペンテナール、4-ペンテナール、4-メチル-4-ペンテナール、2-ヘキセナール、3-ヘキセナール、4-ヘキセナール、5-ヘキセナール、7-オクテナール、10-ウンデセナール、2-エチルクロトンアルデヒド、3-(ジメチルアミノ)アクロレイン、ミリストレインアルデヒド、パルミトレインアルデヒド、オレインアルデヒド、エライジンアルデヒド、バクセンアルデヒド、ガドレインアルデヒド、エルカアルデヒド、ネルボンアルデヒド、リノールアルデヒド、シトロネラール、シンナムアルデヒド、及びバニリン等の炭素数3~30のアルケナール、好ましくは炭素数3~25のアルケナール;
2,4-ペンタジエナール、2,4-ヘキサジエナール、2,6-ノナジエナール、及びシトラール等の炭素数5~30のアルカジエナール、好ましくは炭素数5~25のアルカジエナール;
リノレンアルデヒド、エレオステアリンアルデヒド等の炭素数7~30のアルカトリエナール、好ましくは炭素数7~25のアルカトリエナール;
ステアリドンアルデヒド、アラキドンアルデヒド等の炭素数9~30のアルカテトラエナール、好ましくは炭素数9~25のアルカテトラエナール;
エイコサペンタエンアルデヒド等の炭素数11~30のアルカペンタエナール、好ましくは炭素数11~25のアルカペンタエナール;等の不飽和アルデヒド等が挙げられる。
なお、前記アルデヒドにおいてシス-トランス異性体が存在するものは、シス体及びトランス体の両方を含む。これらのアルデヒドは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記多重結合を有するアルデヒドのアセタール化体のうち、反応性炭素-炭素二重結合を有するアルデヒドのアセタール化体としては、前記アルデヒドのアセタール化体、具体的には2-メチル-3-ブテナールのアセタール化体である3-(1,3-ジオキサラン-2-イル-)-3-メチル-1-プロペン、3-メチル-3-ブテナールのアセタール化体である3-(1,3-ジオキサラン-2-イル)-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。
【0021】
前記多重結合を有するアルデヒド及び該アルデヒドのアセタール化体のうち、反応性炭素-炭素三重結合を有するアルデヒド及びアセタール化体としては、プロピオルアルデヒド、2-ブチン-1-アール、及び2-ペンチン-1-アール等の炭素-炭素三重結合を有するアルデヒド、及び該アルデヒドのアセタール化体等が挙げられる。
【0022】
前記多重結合を有するアルデヒドの中でも、反応性炭素-炭素二重結合を有するアルデヒド及び該アルデヒドのアセタール化体が好ましく、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、3-ブテナール、2-メチル-2-ブテナール、2-メチル-3-ブテナール、2,2-ジメチル-3-ブテナール、3-メチル-2-ブテナール、3-メチル-3-ブテナール、2-ペンテナール、2-メチル-2-ペンテナール、3-ペンテナール、3-メチル-4-ペンテナール、4-ペンテナール、4-メチル-4-ペンテナール、2-ヘキセナール、3-ヘキセナール、4-ヘキセナール、5-ヘキセナール、7-オクテナール、2-エチルクロトンアルデヒド、3-(ジメチルアミノ)アクロレイン、2,4-ペンタジエナール、及びこれらのアルデヒドのアセタール化体から選ばれる1種以上が好ましい。中でもゴムとの反応性が良好なことから、炭素数3~25のアルデヒド及び該アルデヒドのアセタール化体が好ましく、5-ヘキセナール、7-オクテナール、及びこれらのアルデヒドのアセタール化体から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0023】
前記多重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、及び該カルボン酸の酸無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のナトリウム塩、(メタ)アクリル酸のカリウム塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシルブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシルブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシルブチル、(メタ)アクリル酸ビニル、2-(トリフルオロメチル)アクリル酸、2-トリフルオロメチルアクリル酸メチル、2-トリフルオロメチルアクリル酸エチル、2-トリフルオロメチルアクリル酸プロピル、2-トリフルオロメチルアクリル酸2ブチル、2-トリフルオロメチルアクリル酸2-ヒドロキシルエチル、2-トリフルオロメチルアクリル酸ビニル、けい皮酸メチル、けい皮酸ビニル、クロトン酸メチル、クロトン酸ビニル、3-メチル-3-ブテン酸メチル、3-メチル-3-ブテン酸ビニル、4-ペンテン酸メチル、4-ペンテン酸ビニル、2-メチル-4-ペンテン酸メチル、2-メチル-4-ペンテン酸ビニル、5-ヘキセン酸メチル、5-ヘキセン酸ビニル、3,3-ジメチル-4-ペンテン酸メチル、3,3-ジメチル-4-ペンテン酸ビニル、7-オクテン酸メチル、7-オクテン酸ビニル、trans-3-ペンテン酸メチル、trans-3-ペンテン酸ビニル、trans-4-デセン酸メチル、trans-4-デセン酸ビニル、3-メチル-3-ブテン酸エチル、4-ペンテン酸エチル、2-メチル-4-ペンテン酸エチル、5-ヘキセン酸エチル、3,3-ジメチル-4-ペンテン酸エチル、7-オクテン酸エチル、trans-3-ペンテン酸エチル、trans-4-デセン酸エチル、10-ウンデセン酸メチル、10-ウンデセン酸ビニル、(メタ)アクリル酸無水物、2-(トリフルオロメチル)アクリル酸無水物、けい皮酸無水物、クロトン酸無水物、3-メチル-3-ブテン酸無水物、4-ペンテン酸無水物、2-メチル-4-ペンテン酸無水物、5-ヘキセン酸無水物、3,3-ジメチル-4-ペンテン酸無水物、7-オクテン酸無水物、trans-3-ペンテン酸無水物、trans-4-デセン酸無水物、3-メチル-3-ブテン酸無水物、4-ペンテン酸無水物、2-メチル-4-ペンテン酸無水物、及び10-ウンデセン酸無水物等の反応性炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、及び該カルボン酸の酸無水物;
プロピオール酸、プロピオール酸メチル、プロピオール酸エチル、プロピオール酸ビニル、テトロール酸、テトロール酸メチル、テトロール酸エチル、及びテトロール酸ビニル等の反応性炭素-炭素三重結合を有するカルボン酸及び該カルボン酸のエステル化体が挙げられる。
【0024】
前記多重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、及び該ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、マレイン酸、マレイン酸ナトリウム塩、マレイン酸カリウム塩、マレイン酸メチル、マレイン酸ジメチル、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸メチル、イタコン酸ジメチル、無水イタコン酸、ハイミック酸、ハイミック酸メチル、ハイミック酸ジメチル、及び無水ハイミック酸等の反応性炭素-炭素二重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、及び該ジカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
【0025】
前記多重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、該カルボン酸無水物、前記多重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、及び該ジカルボン酸の酸無水物としては、反応性炭素-炭素二重結合を有する化合物が好ましく、中でも、ポリビニルアルコールとの反応性が良好であることから、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシルブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシルブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシルブチル、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸無水物、2-(トリフルオロメチル)アクリル酸無水物、けい皮酸無水物、クロトン酸無水物、3-メチル-3-ブテン酸無水物、4-ペンテン酸無水物、2-メチル-4-ペンテン酸無水物、5-ヘキセン酸無水物、3,3-ジメチル-4-ペンテン酸無水物、7-オクテン酸無水物、trans-3-ペンテン酸無水物、trans-4-デセン酸無水物、3-メチル-3-ブテン酸無水物、4-ペンテン酸無水物、2-メチル-4-ペンテン酸無水物、マレイン酸、マレイン酸メチル、マレイン酸ジメチル、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸メチル、イタコン酸ジメチル、無水イタコン酸、及び無水ハイミック酸から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0026】
〔製造方法(2)において用いる多重結合含有化合物〕
製造方法(2)において用いる多重結合化合物としては、例えば、反応性炭素-炭素二重結合を有するアミン化合物が挙げられる。
反応性炭素-炭素二重結合を有するアミン化合物としては、例えば、アリルアミン、3-ブテニルアミン、4-ペンテニルアミン、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、7-オクテニルアミン、オレイルアミン、2-メチルアリルアミン、4-アミノスチレン、4-ビニルベンジルアミン、2-アリルグリシン、S-アリルシステイン、α-アリルアラニン、2-アリルアニリン、ゲラニルアミン、ビガバトリン、4-ビニルアニリン、及び4-ビニロキシアニリン等の反応性炭素-炭素二重結合を有するアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、該アミン化合物としては、ゴムとの反応性が良好なことから、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、及び7-オクテニルアミンから選ばれる1種以上が好ましい。
【0027】
〔製造方法(3)において用いる多重結合含有化合物〕
製造方法(3)において用いる多重結合化合物としては、例えば、二重結合を2つ以上有する単量体が挙げられる。
二重結合を2つ以上有する単量体としてはペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン、及びデカジエン等のジエン化合物;グリセリンジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、エチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、及びペンタエリスリトールジアリルエーテル等のジアリルエーテル化合物、グリセリントリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、及び1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等のトリアリルエーテル化合物、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等のテトラアリルエーテル化合物のようなアリルエーテル基を含有する単量体;炭酸ジアリル、コハク酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、及びアジピン酸ジアリル等カルボン酸ジアリルのようなアリルエステル基を含有する単量体;ジアリルアミン、及びジアリルメチルアミン等のジアリルアミン化合物、トリアリルアミン等のアリルアミノ基を含有する単量体;ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等のジアリルアンモニウム塩のようなアリルアンモニウム基を含有する単量体;イソシアヌル酸トリアリル;1,3-ジアリル尿素;リン酸トリアリル;ジアリルジスルフィド等;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物、トリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート化合物、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート化合物、グルコースペンタ(メタ)アクリレート等のペンタ(メタ)アクリレート化合物のようなアクリレート基を含有する単量体;アリル(メタ)アクリレートブタジエンのようなビニルアクリレート等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、前記二重結合を2つ以上有する単量体としては、取り扱い性が良好なことから、ペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン、デカジエン、グリセリンジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、エチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、炭酸ジアリル、コハク酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル等カルボン酸ジアリル、ジアリルアミン、ジアリルメチルアミン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びブタンジオールジ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0029】
<多重結合含有量>
前記ビニルアルコール系重合体の全構造単位に対する前記多重結合含有化合物に由来する構造単位の合計の含有量(以下、「多重結合含有量」ともいう)は0.01モル%以上、30モル%以下であることが好ましい。前記多重結合含有量が30モル%以下であると、ビニルアルコール系重合体とゴムとの接着性を向上させつつ、接着成分と親水性繊維との接着性も維持することができる。すなわち、前記多重結合含有量が30モル%を超えると、ビニルアルコール系重合体とゴムとの接着性を向上させることができるものの、接着成分と親水性繊維との接着に寄与する水素結合を形成する水酸基の量が少なくなるため接着成分と親水性繊維との接着性が低下する。また、ビニルアルコール系重合体が水に溶けにくくなるため、取り扱い性が悪化する。前記観点から、前記ビニルアルコール系重合体の全構造単位に対する前記多重結合含有化合物に由来する構造単位の合計の含有量は、好ましくは0.05モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上、より更に好ましくは0.3モル%以上、より更に好ましくは0.4モル%以上、より更に好ましくは0.5モル%以上であり、そして、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下、より更に好ましくは10モル%以下、より更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは3モル%以下、より更に好ましくは2モル%以下、より更に好ましくは1モル%以下である。
なお、多重結合含有量はH-NMRスペクトルにより求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0030】
ビニルアルコール系重合体は、前記多重結合含有化合物に由来する構造単位及びビニルアルコール単位の他に、その他の構造単位を含んでいてもよい。その他の構造単位としては、ポリビニルアルコールの原料となる酢酸ビニル等のビニルエステル単量体と共重合可能なエチレン不飽和単量体に由来する構成単位が挙げられる。
前記エチレン不飽和単量体としては、例えば、エチレン、1-ブテン、及びイソブチレン等のオレフィン;アクリル酸及びその誘導体;メタクリル酸及びその誘導体;アクリルアミド及びその誘導体;メタクリルアミド及びその誘導体;マレイン酸及びその誘導体;無水マレイン酸及びその誘導体;等が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニルアルコール系重合体が前記エチレン性不飽和単量体に由来する他の構造単位を含有する場合、その含有量は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下が更に好ましい。
【0031】
ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は特に制限されないが、取り扱い性の観点から、4000以下が好ましく、3500以下がより好ましく、3000以下が更に好ましく、そして、接着性を向上させる観点から、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1500以上が更に好ましい。
ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は、例えばJIS K 6726に準拠した方法により測定できる。
【0032】
<ビニルアルコール系重合体の製造方法>
ビニルアルコール系重合体の製造方法に特に制限はないが、前記製造方法(1)~(3)により製造することが好ましく、前記製造方法(1)により製造することがより好ましい。
〔製造方法(1)〕
製造方法(1)は、反応性炭素-炭素二重結合及び反応性炭素-炭素三重結合から選ばれる1種以上の多重結合を有する多重結合含有化合物によりポリビニルアルコールを変性することにより得る方法であり、具体的には、ポリビニルアルコールと前記多重結合含有化合物とを反応させ、ポリビニルアルコールをアセタール化又はエステル化する方法である。
【0033】
ポリビニルアルコールをアセタール化する方法としては、前記多重結合含有化合物から選ばれる1種以上とポリビニルアルコールとを酸触媒存在下で反応させ、その後塩基性物質で中和することによりビニルアルコール系重合体の水溶液を得る方法等が挙げられる。
【0034】
前記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、及びリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
酸触媒を使用する場合、その使用量は、ポリビニルアルコール100質量部に対して、0.01~20質量部程度が好ましい。
【0035】
前記中和に用いる塩基性物質としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、モノエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、及びモノイソプロパノールアミン等の第一級アルカノールアミン;ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、及びブチルメタノールアミン等の第二級アルカノールアミン;トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、及びジメチルエタノールアミン等の第三級アルカノールアミン等の有機アミン類等を挙げることができる。
【0036】
一方、ポリビニルアルコールをエステル化する方法としては、前記多重結合を有するカルボン酸、該カルボン酸の塩、該カルボン酸のエステル化体、該カルボン酸の酸無水物、前記多重結合を有するジカルボン酸、該ジカルボン酸の塩、該ジカルボン酸のエステル化体、及び該ジカルボン酸の酸無水物から選ばれる1種以上とポリビニルアルコールとをエステル化触媒存在下で反応させる方法等が挙げられる。
【0037】
ビニルアルコール系重合体の製造に用いるエステル化触媒としては、上記の酸触媒に加え、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び炭酸水素塩;リン酸二水素カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩及びリン酸水素塩;四ホウ酸ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、マグネシウムメトキシド等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド化合物;水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、テトラメチルアンモニウムメチルカーボネート、メチルトリn-オクチルメチルカーボネート等のアンモニウム塩;水酸化テトラメチルホスホニウム、テトラメチルホスホニウムメチルカーボネート等のホスホニウム塩;n-ブチルアミン、アニリン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン等のアミン化合物;ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族複素環式化合物;塩化亜鉛、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、アセチルアセトン亜鉛(II)、オキソ[ヘキサ(トリフルオロアセタト)]テトラ亜鉛等の亜鉛系化合物;塩化鉄、酢酸鉄、アセチルアセトン鉄(III)、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン鉄(II)等の鉄系化合物;塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、ランタンアルコキシド、アセチルアセトンランタン(III)等のランタン系化合物
等が挙げられる。
エステル化触媒を使用する場合、その使用量は、ポリビニルアルコール100質量部に対して、0.01~20質量部程度が好ましい。
【0038】
前記製造方法において、原料となる多重結合含有化合物の使用量は、ポリビニルアルコール100質量部に対して、例えば、0.01~20質量部が好ましく、0.05~15質量部がより好ましく、0.1~10質量部が更に好ましい。
【0039】
〔製造方法(2)〕
製造方法(2)は、ビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合した後、けん化することで得られる、分子内にラクトン環構造を有するポリビニルアルコールを、多重結合を有する化合物、特に反応性炭素-炭素二重結合を有するアミン化合物で変性する方法であり、具体的には、分子内にラクトン環構造を有するポリビニルアルコールを前記アミン化合物によりアミド化する方法である。
具体的なアミド化方法としては、ラクトン環構造を有するポリビニルアルコールと前記反応性炭素-炭素二重結合を有するアミン化合物とを混合し、加熱して反応させる方法等が挙げられる。
【0040】
〔製造方法(3)〕
製造方法(3)は、二重結合を2つ以上有する単量体とビニルアルコール系化合物とを共重合することで得る方法である。二重結合を2つ以上有する単量体とビニルアルコール系化合物との共重合方法について特に制限はなく、一般的な共重合体の製造方法を採用することができる。
【0041】
<親水性繊維>
本発明の補強繊維は、繊維表面の少なくとも一部に接着成分を有する親水性繊維からなるものである。親水性繊維を用いることにより補強繊維とゴムとの接着性を向上させることができる。
本発明に用いることができる親水性繊維としては、合成繊維、天然繊維、及び再生繊維等を挙げることができる。親水性繊維は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
親水性の合成繊維としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸、及びアミノ基のような親水性官能基、及び/又は、アミド結合のような親水性結合を有する熱可塑性樹脂で構成される合成繊維を挙げることができる。
このような熱可塑性樹脂の具体例は、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂〔ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9C(ノナンジアミンとシクロヘキサンジカルボン酸からなるポリアミド)等の脂肪族ポリアミド;ポリアミド9T(ノナンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド)等の芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成される半芳香族ポリアミド;ポリパラフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから合成される全芳香族ポリアミド等〕、ポリアクリルアミド系樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂、及びポリアミド系樹脂が好ましい。親水性の合成繊維は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの親水性の合成繊維は、親水性をより高めるべく、後述する親水化処理をさらに施してもよい。
【0043】
親水性の天然繊維としては、クラフトパルプ等の木材パルプや木綿パルプ、ワラパルプ等の非木材パルプ等の天然セルロース繊維が挙げられる。
親水性の再生繊維としては、レーヨン、リヨセル、キュプラ、及びポリノジック等の再生セルロース繊維が挙げられる。
これらの天然繊維、及び再生繊維は、それぞれ、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの親水性の天然繊維は、親水性をより高めるべく、後述する親水化処理をさらに施してもよい。
【0044】
親水性繊維は、少なくとも表面が親水性を有していればよく、例えば、疎水性樹脂の表面を親水化処理した繊維や、疎水性樹脂を芯部とし、鞘部を親水性樹脂とした芯鞘型複合繊維等であってもよい。鞘部を構成する親水性樹脂の例については、親水性の合成繊維についての記述が引用される。疎水性樹脂からなる疎水性繊維としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、及び全芳香族ポリエステ系繊維等が挙げられ、これらの中でもポリエステル系繊維が好ましい。
【0045】
親水化処理は、化学的又は物理的に繊維表面に親水性官能基を付与する処理であれば特に限定はされないが、例えば、前記疎水性樹脂からなる繊維をイソシアネート基、エポキシ基、及びヒドロキシ基等の親水性官能基を含む化合物により修飾する方法や、電子線照射により表面を改質する方法等で行うことができる。
【0046】
本発明に用いられる親水性繊維としては、補強繊維として用いられる観点から、合成繊維及び再生繊維が好ましく、中でもポリビニルアルコール系樹脂を原料とするポリビニルアルコール系繊維、再生セルロース繊維、疎水性繊維の表面を親水化処理した繊維が好ましく、ポリビニルアルコール系繊維が特に好ましい。
本発明においては、親水性繊維を用いることにより接着成分であるビニルアルコール系重合体と親水性繊維とが強い親和効果を発現し、接着成分と繊維が強固に結びつくことから、被補強体に対する接着力をより優れたものとすることができる。
なお、ポリビニルアルコール系繊維としては、本発明の補強繊維を自動車用ホース、特に自動車用ブレーキオイルホースに好適に用いる観点から、株式会社クラレから商品名「ビニロン」として市販されており、単繊維繊度が0.1~30dtex程度のものを好適に用いることができる。
【0047】
<補強繊維の製造方法>
本発明の補強繊維は、繊維表面の少なくとも一部に接着成分を有するものであれば特に制限はないが、繊維表面の少なくとも一部に前記接着成分からなる接着層を有する補強繊維、及び繊維が前記接着成分を原料の一部として含有する補強繊維が好ましい。以下、前記2種の補強繊維の製造方法について説明する。
【0048】
繊維表面の少なくとも一部に前記接着成分からなる接着層を有する補強繊維の製造方法としては、浸漬、ロールコーター、ノズル(スプレー)塗布、及び刷毛塗り等から選ばれる1種以上の方法により前記親水性繊維に対して前記接着成分を付着させた後、100~180℃程度で0.1秒~2分程度加熱乾燥させることにより製造することができる。
【0049】
親水性繊維に対して接着成分を付着させる場合、接着成分の他に溶媒として、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、メタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、及び酢酸エチル等を用いてもよい。また、必要に応じて、酸、アルカリ、硬化剤、分散剤、及び油剤等を接着成分と一緒に混合して溶解又は分散させてもよい。溶媒を用いる場合、その使用量は、接着成分と溶媒との合計中、好ましくは50~99.9質量%、より好ましくは60~99.5質量%、更に好ましくは70~99.0質量%である。
【0050】
親水性繊維に付着させる接着成分の付着量、すなわち、補強繊維中の接着成分の量は、補強繊維とゴムとの接着性を向上させる観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、製造コストと効果とのバランスの観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0051】
本発明の補強繊維は、前述のとおり親水性繊維の表面に前記接着成分からなる接着層を設けることにより製造してもよいが、前記接着成分を原料の一部として含有する繊維として製造してもよい。
前記繊維が前記接着成分を原料の一部として含有する場合の接着成分以外の原料について特に制限はないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド、及びこれらの混合物が挙げられ、中でも、接着成分との混合のし易さ、及び補強繊維の強度の観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0052】
前記繊維が前記接着成分を原料の一部として含有する場合、繊維原料中の前記接着成分の含有量は、補強繊維とゴムとの接着性を向上させる観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、製造コストと効果とのバランスの観点から、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。
【0053】
前記繊維が前記接着成分を原料の一部として含有する場合、繊維原料中の多重結合の含有量は、原料を構成する重合体の全ての構成単位に対する前記多重結合含有化合物に由来する構造単位の量として換算して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.03モル%以上、更に好ましくは0.08モル%以上、より更に好ましくは0.1モル%以上、より更に好ましくは0.12モル%以上であり、そして、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下、より更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは3モル%以下、より更に好ましくは2モル%以下である。
【0054】
前記接着成分を原料の一部として含有する繊維として製造する場合の繊維の製造方法に特に制限はなく、一般的な合成繊維の製造方法にしたがって製造することができる。例えば、重合度1500以上及び鹸化度99モル%以上のポリビニルアルコール及び前記接着成分を、水又は有機溶媒に溶解又は半溶融させて、湿式、乾式又は乾湿式紡糸する方法が挙げられる。
【0055】
<補強繊維の物性>
前記補強繊維は単糸繊度が0.1dtex以上、30dtex以下のマルチフィラメントであることが好ましい。単糸繊度は0.1dtex未満であってもよいが工業的に製造することが難しいことから0.1dtex以上が好ましい。一方、単糸繊度が30dtex以下であると、補強繊維とした場合における繊維の表面積が大きくなるため、ゴムとの接着性が向上する。前記観点から、本発明の補強繊維は、単糸繊度が好ましくは0.3dtex以上、より好ましくは0.5dtex以上、更に好ましくは1dtex以上であり、そして、好ましくは20dtex以下、より好ましくは15dtex以下、更に好ましくは10dtex以下であるマルチフィラメントであることが好ましい。
【0056】
本発明の補強繊維について、JIS L 1013:2010に従って測定した初期引張抵抗度が70cN/dtex以上であることが好ましい。本発明の補強繊維の初期引張抵抗度が前記下限値以上であると、補強繊維とゴムとを接着した際の補強強度が向上する。前記観点から、本発明の初期引張抵抗度は、100cN/dtex以上が好ましく、130cN/dtex以上がより好ましく、160cN/dtex以上が更に好ましく、190cN/dtex以上がより更に好ましく、200cN/dtex以上がより更に好ましい。本発明の初期引張抵抗度の上限値に特に制限はないが、通常、1000cN/dtex以下である。
【0057】
本発明の補強繊維は、例えば、後述するとおりゴムに接着する繊維、及び混ぜ込む補強繊維として使用できる。また、セメントやコンクリート等に混ぜ込む補強繊維として使用することもできる。
【0058】
[成形体]
本発明の成形体は前記補強繊維を用いたものであれば特に限定されない。中でも、本発明の補強繊維がゴムとの優れた接着性を有することから、特に補強繊維とゴムとを用いた成形体が好ましい。
補強繊維及びゴムを用いた成形体は、例えば自動車用タイヤ、コンベアベルト、ゴムホース、タイミングベルト、及び防振ゴム等のゴム製品の部材として使用することができ、中でも、ゴムホース、防振ゴムとして用いることがより好ましい。
前記ゴムホースとしては、種々の用途における各種流体の輸送を目的に使用することができ、例えば、自動車用の流体輸送用ホースに好適であり、特に、自動車用の液体燃料用ホース、自動車用のブレーキオイルホース、及び冷媒用ホースに用いることが好ましく、自動車用のブレーキオイルホースに用いることがより好ましい。
【0059】
本発明の補強繊維及びゴムを用いた成形体を構成するゴムは、ゴム成分に通常ゴム業界で用いられる配合剤を配合してなるものが好ましい。ゴム成分としては、特に限定はされないが、例えば、NR(天然ゴム)、IR(ポリイソプレンゴム)、BR(ポリブタジエンゴム)、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、EPM(エチレン-プロピレン共重合体ゴム)EPDM(エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム)、IIR(ブチルゴム)、CR(クロロプレンゴム)等が挙げられ、これらの中でも、NR、IR、BR、SBR、EPDM、CRを用いることが好ましく、EPDMを用いることがより好ましい。また、これらのゴム成分は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明の補強繊維及びゴムを用いた成形体において、前記補強繊維は、繊維束、織物又は編み物の形状でゴムに接着する事によって製造してもよい。また、補強繊維を短繊維にカットし、ゴムに混ぜ込む事によって成形体を製造することもできる。
【実施例
【0061】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例等により何ら限定されない。
<ビニルアルコール系重合体の製造>
・下記一般式(1a)で表される構造単位を有するビニルアルコール系重合体(A)の製造
【0062】
【化1】
【0063】
製造例1
還流冷却管、及び温度計を備え付けた三つ口フラスコに、アセトニトリル193g、7-オクテナール(OEL)1.07gを加え、マグネティックスターラーで攪拌しながらポリビニルアルコール(けん化度99モル%、平均重合度1700)50gを徐々に添加した。水39.5g、47質量%硫酸16.5gの混合溶液を滴下漏斗から5分間かけて滴下し、30℃に昇温して5時間反応を行った。1モル/L水酸化ナトリウム水溶液をpHが8になるまで加えた後、ろ過により固形物を取り出し、アセトニトリルと水の重量比9:1の混合溶媒で5回洗浄を行った後、120℃、圧力0.005MPaで6時間乾燥させ、ビニルアルコール系重合体(A)を得た。H-NMRにより二重結合含有量を定量した結果、ビニルアルコール系重合体(A)の二重結合含有量は、0.62モル%であった。
【0064】
・下記一般式(1b)で表される構造単位を有するビニルアルコール系重合体(B)の製造
【0065】
【化2】
【0066】
製造例2
7-オクテナール1.07gを3-(1,3-ジオキサラン-2-イル)-2-メチル-1-プロペン1.82gに変更したこと以外は製造例1と同様にしてビニルアルコール系重合体(B)を合成した。H-NMRにより二重結合含有量を定量した結果、ビニルアルコール系重合体(B)の二重結合含有量は、1.1モル%であった。
【0067】
・下記一般式(1c)で表される構造単位を有するビニルアルコール系重合体(C)の製造
【0068】
【化3】
【0069】
製造例3
還流冷却管、及び温度計を備え付けた三つ口フラスコに、ジメチルスルホキシド(超脱水)(DMSO)を36質量部、ポリビニルアルコール(けん化度99モル%、平均重合度1700)9質量部を加え、攪拌しながら100℃に昇温することで均一溶液を得た。そこへ、メタクリル酸メチル(MMA)を6.0質量部、フェノチアジンを0.1質量部加え、均一になるまで攪拌した。均一になった後、エステル交換触媒として酢酸ナトリウムを0.17質量部加え、4時間反応させた後、室温に放冷した。反応溶液にDMSOを100質量部加え希釈した後、1000質量部のメタノールに滴下することで、ビニルアルコール系重合体を析出させた。析出させたビニルアルコール系重合体を1000質量部のメタノールで2回洗浄したのち、40℃で真空乾燥させ、ビニルアルコール系重合体(C)を得た。H-NMRにより二重結合含有量を定量した結果、ビニルアルコール系重合体(C)の二重結合含有量は、2.8モル%であった。
【0070】
H-NMR測定条件>
装置名:超伝導核磁気共鳴装置(日本電子株式会社の「Lambda500」)
観測周波数 :500MHz
溶媒 :DMSO-d6
ポリマー濃度 :4質量%
測定温度 :80℃
積算回数 :600回
パルス遅延時間:3.836秒
サンプル回転速度:10Hz~12Hz
パルス幅(90°パルス):6.75μsec
【0071】
<解析方法>
得られたH-NMRスペクトルにおいて、炭素-炭素二重結合を形成する炭素に結合している水素に相当するピーク(通常、4.5~6.5ppmで観察される)、ビニルアルコール単位の水酸基が結合したメチン水素に相当するピーク(通常、3.0~4.0で観察される)、及びビニルアルコール単位のメチレン水素に相当するピーク(通常、1.0~2.0で観察される)から、ビニルアルコール系重合体に含まれる二重結合含有量を測定した。
二重結合含有量[モル%]=[(二重結合のモル数)/(全構成単位のモル数)]×100
【0072】
<接着成分付着量の測定>
30mあたりの繊維重量(A)を予め測定しておき、接着成分を付着させた後の同一長さの繊維重量(B)を測定することで、差分としての以下の計算式の通り接着成分の付着量を計算した。
接着成分付着量=[(B-A)/A]×100(質量%)
【0073】
<実施例1~3>
実施例1~3として、繊維表面の少なくとも一部に接着成分からなる接着層を有する補強繊維を製造し、以下のとおり評価した。
前述のとおり製造したビニルアルコール系重合体(A)~(C)からなる接着成分2.0gを、それぞれ水98.0gに溶解させた。この溶液に対してポリビニルアルコール系繊維であるビニロン繊維(株式会社クラレ製「クラロン1239」、1330dtex)を浸漬した後、ローラーで搾液した。次いで、得られた繊維を120℃で30秒間乾燥し、更に140℃で30秒間熱処理した。このようにして接着成分を付着させたビニロンを撚り数80T/mで撚って繊維コードを作製した。
なお、実施例1~3における接着成分の付着量は表1に記載のとおりに調整した。
【0074】
<比較例1>
接着成分としてポリビニルアルコール(けん化度99モル%以上、平均重合度1700)を用いたこと、及び接着成分の付着量を表1に記載のとおりに調整したこと以外は実施例1~3と同様の方法で繊維コードを作製した。
【0075】
<比較例2>
接着成分としてポリビニルアルコール(けん化度94.5モル%以上、平均重合度1700)を用いたこと、及び接着成分の付着量を表1に記載のとおりに調整したこと以外は実施例1~3と同様の方法で繊維コードを作製した。
【0076】
<比較例3>
接着成分として下記方法にて調製したRFLを用いたこと、及び接着成分の付着量を表1に記載のとおりに調整したこと以外は実施例1~3と同様の方法で繊維コードを作製した。
【0077】
<RFL液の組成>
A液 水 :300部
レゾルシン : 22部
ホルムアルデヒド(濃度37%) : 33部
水酸化ナトリウム水溶液(濃度10%): 7部
上記A液を25℃の温度で6時間熟成した。
【0078】
B液 SBRラテックス(濃度40%) : 43部
ビニルピリジン変性SBRラテックス(濃度40%):244部
上記B液を熟成済みのA液と混合した後、25℃の温度で16時間熟成してRFL液を製造した。
【0079】
<接着力の評価>
前述の方法により接着成分を付着させた繊維コードを、繊維コード同士が重ならないようにスダレ状にマスキングテープ上に並べて固定した後、これとEPDM未加硫ゴム(幅25.4mm、長さ240mm)とを重ね合わせた(繊維とEPDM未加硫ゴムとの重ね合わせた部分の長さは190mmであった)。次いで、加圧下150℃、圧力20kg/cmの条件で30分間プレス加硫することにより接着力評価用シートを作成した。
【0080】
<初期引張抵抗度の測定>
得られた接着力評価用シートの初期引張抵抗度を測定機(インストロン3365)を使用してJIS L 1013:2010に従って測定した。剥離速度50mm/minで200mm動かして剥離試験を行い、繊維コードとゴムとを剥離した。
チャートに現れる最初のピークから10mmと最後のピークから10mmを除いた範囲で現れる多数のピークから最高点5点と最低点5点を取り出して平均した値を繊維とゴムの初期引張抵抗度とした。なお、ピーク同士が2mm以上離れているもののみから値を採取した。結果を表1に示す。
初期引張抵抗度の評価結果は、数値が大きい方が補強繊維とゴムとの接着力が大きいことを示す。
【0081】
<ゴム接着力の測定>
得られた接着力評価用シートについて、繊維コードをゴムからT型剥離させるときに要した力(N/25.4mm)を測定し、ゴム接着力として評価した。結果を表1に示す。
ゴム接着力の評価結果は、数値が大きいほど補強繊維とゴムとの接着力が大きいことを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
<実施例4>
実施例4として、繊維が接着成分を原料の一部として含有する補強繊維を以下のとおり製造し、評価した。
製造例1と同様の方法で製造した多重結合(二重結合)含有量が0.27モル%のOEL変性PVAとPVA単独重合体(粘度平均重合度:1700、鹸化度:99モル%以上)とを1対1の割合で混合して固形分濃度が16重量%になるように水に浴解した。更にOEL変性PVAとPVA単独重合体の合計100質量部に対してホウ酸を2質量部の割合で添加して原液を作製した。
次いで、水酸化ナトリウム20g/L、及び硫酸ナトリウム320g/Lの割合で水に浴解した70℃の凝固浴(一浴)中へ該原液を湿式紡糸し、ローラー延伸、中和、湿熱延伸、水洗、乾燥した。
次いで、240℃で乾熱延伸を行ってボビンに巻取ることによりPVA系繊維(2000dTex)を得た。得られた繊維を80T/mで撚糸して繊維コードを作製した。
【0084】
<比較例4>
OEL変性PVAを用いず、PVA単独重合体のみを用いて固形分濃度12重量%になるよう原液を作製したこと以外は実施例4と同様にしてPVA繊維からなる繊維コードを得た。
【0085】
<ゴム接着力>
実施例4及び比較例4で得られた繊維コードについて、前記と同様の方法でゴム接着力を評価した。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例及び比較例の結果より明らかなように、本発明の補強繊維はレゾルシン・ホルマリン樹脂とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を用いることなく、ゴムとの接着性に優れる補強繊維を得ることができる。