(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220616BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
(21)【出願番号】P 2021074878
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2020135118
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】網谷 圭二
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-021003(JP,A)
【文献】特開2011-186085(JP,A)
【文献】特開2017-027013(JP,A)
【文献】特開2011-215216(JP,A)
【文献】特開2005-266325(JP,A)
【文献】特開2017-142347(JP,A)
【文献】特開2001-337224(JP,A)
【文献】特開2012-073563(JP,A)
【文献】特開2014-119501(JP,A)
【文献】特開2006-272615(JP,A)
【文献】特開2002-040256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤工程、染色工程および架橋工程を含む偏光フィルムの製造方法であって、
前記架橋工程において、ポリビニルアルコール系フィルムに、N個の延伸処理(Nは2以上の整数)が施され、
前記N個の延伸処理は、式(1)および式(2)を満たす範囲内で実施する、
偏光フィルムの製造方法。
α=(a-b)/a・・・(1)
0.28≦αmax≦0.42・・・(2)
(式(1)において、aは、n番目(nは1~Nまでのいずれかの整数)の延伸処理前の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における厚みの平均値[μm]を表し、bは前記n番目の延伸処理後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における厚みの平均値[μm]を表し、前記幅方向の厚みの平均値は、前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における中央部の厚みと両端部の厚みの平均値である。
式(2)において、αmaxは、前記N個の延伸処理に対して求められたN個のαの最大値である。)
【請求項2】
前記N個の延伸処理それぞれにおける延伸倍率は、1.001以上4.00以下である、
請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記N個の延伸処理それぞれでは、各延伸処理の前後に配置されたニップロールにより前記ポリビニルアルコール系フィルムを延伸する、
請求項1または2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記N個の延伸処理が式(1)および式(2)を満たすか否かを監視する監視工程を有する、
請求項1~3の何れか一項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記N個の延伸処理のそれぞれを、下記式(3)を満たす範囲で実施する、
請求項1~
4の何れか一項に記載の偏光フィルムの製造方法。
0.1≦Δa/Δb≦1.1・・・(3)
(式(3)中、Δaは、前記n番目の延伸処理前における前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における中央部および両端部における厚みの最大値と最小値との差を表し、Δbは、前記n番目の延伸処理後における前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における中央部および両端部における厚みの最大値と最小値との差を表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、ポリビニルアルコール系フィルムに延伸処理の他、たとえば、染色処理、架橋処理、乾燥処理などを施すことによって製造される(たとえば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリビニルアルコール系フィルムに延伸処理を施す場合、ポリビニルアルコール系フィルムが延伸されることによってポリビニルアルコール系フィルムの厚みが薄くなる。そのため、偏光フィルムの製造中にポリビニルアルコール系フィルムが破断する場合があったり、より多くの色ムラが生じ外観が悪化する場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、安定した工程で良好な外観を有する偏光フィルムを製造可能な偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、膨潤工程、染色工程および架橋工程を含む偏光フィルムの製造方法であって、上記架橋工程において、ポリビニルアルコール系フィルムに、N個の延伸処理(Nは1以上の整数)が施され、上記N個の延伸処理は、式(1)および式(2)を満たす範囲内で実施する。
α=(a-b)/a・・・(1)
0.28≦αmax≦0.42・・・(2)
(式(1)において、aは、n番目(nは1~Nまでにいずれかの整数)の延伸処理前の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における厚みの平均値[μm]を表し、bは上記n番目の延伸処理後の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における厚みの平均値[μm]を表し、上記幅方向の厚みの平均値は、上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における中央部の厚みと両端部の厚みの平均値である。式(2)において、αmaxは、上記N個の延伸処理に対して求められたN個のαの最大値である。)
【0007】
この場合、N個の延伸処理が上記式(1)および式(2)を満たす範囲で実施される。そのため、安定した工程で良好な外観を有する偏光フィルムを製造可能である。
【0008】
上記N個の延伸処理それぞれにおける延伸倍率は、1.001以上4.00以下であってもよい。
【0009】
上記N個の延伸処理それぞれでは、各延伸処理の前後に配置されたニップロールにより上記ポリビニルアルコール系フィルムを延伸してもよい。この場合、たとえば、各延伸処理の前後に配置されたニップロールの回転速度差によって、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸処理できる。
【0010】
上記N個の延伸処理のそれぞれを、下記式(3)を満たす範囲で実施してもよい。
0.1≦Δa/Δb≦1.1・・・(3)
(式(3)中、Δaは、上記n番目の延伸処理前における上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における厚みの最大値と最小値との差を表し、Δbは、上記n番目の延伸処理後における上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向における厚みの最大値と最小値との差を表す)
【0011】
式(3)を更に満たすように、N個の延伸処理を行うことよって、上記ポリビニルアルコール系フィルムの破断が一層抑制され得る。更に色ムラやスジなどの欠陥がより生じにくいので、一層良好な外観を有する偏光フィルムを製造し易い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定した工程で良好な外観を有する偏光フィルムを製造可能な偏光フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、フィルムの幅方向における厚みの測定位置を説明するための図面である。
【
図3】
図3は、フィルムの厚み測定方法の一例を説明するための図面である。
【
図4】
図4は、実施例1~実施例4および比較例1~比較例6の条件および厚み測定結果を示す図表である。
【
図5】
図5は、実施例1~実施例4および比較例1~比較例6の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法の一例を説明する模式図である。
【0016】
本実施形態では、長尺のポリビニルアルコール系フィルム2(以下、単に「フィルム2」と称す)を搬送しながら、搬送中のフィルム2に、膨潤処理、染色処理、架橋処理、延伸処理、洗浄処理及び乾燥処理を施すことにより、偏光フィルム4を製造する。
【0017】
フィルム2に直線偏光特性が付与されると、フィルム2は偏光フィルム4として機能する。以下、説明の便宜のため、断らない限り、偏光フィルムの製造における全ての処理が終了した後のフィルム2を偏光フィルム4と称し、全ての処理が完了する前のフィルムをフィルム2と称す。
【0018】
フィルム2の材料は、偏光フィルムの製造に使用される公知のポリビニルアルコール系樹脂であればよく、ケン化されたポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。ケン化度の範囲は、80.0~100.0モル%であることが好ましく、90.0~99.5モル%であることがより好ましく、93.0~99.5モル%であることがさらに好ましい。ケン化度とは、式:ケン化度(モル%)=(水酸基の数)/(水酸基の数+酢酸基の数)×100で定義される数値であり、JIS K 6726(1994)で規定されている方法で求めることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、100~10000が好ましく、1000~10000がより好ましい。平均重合度は、JIS K 6726(1994)によって定められた方法によって求められる数値である。
【0019】
フィルム2の長尺方向の長さは、たとえば、1000m以上である。フィルム2の長尺方向の長さが1000m以上である場合、フィルム2の長尺方向の長さは、たとえば、30000m以下であり、好ましくは20000m以下である。フィルム2の幅方向(長尺方向に直交する方向)の長さL(
図2参照)の例は、1300mm~5000mmである。上述した複数の処理が施される前のフィルム2(後述する原反ロール6を構成するフィルム2)の厚みの例は、10μm~100μmである。フィルム2は、溶融押出法、溶剤キャスト法等で製造され得る。フィルム2は購入されたフィルムや事前に延伸や積層等の処理を行ったフィルムでもよい。
図1では、フィルム2を原反ロール6として準備し、原反ロール6から繰り出されたフィルム2に上述した複数の処理を施して偏光フィルム4を得る場合を図示している。フィルム2が上記方法(溶融押出法、溶剤キャスト法等)で製造される場合、例えば、上記方法(溶融押出法、溶剤キャスト法等)によって製造されたフィルム2を連続的に搬送して、その搬送中に上記複数の処理を行ってもよい。
【0020】
図1に示した形態に基づいて、偏光フィルム4の製造方法の一例を説明する。まず、偏光フィルム4の製造装置10の概略を説明する。製造装置10は、複数のニップロール11と、複数のガイドロール12と、膨潤処理部13
1と、染色処理部13
2と、架橋処理部13
3と、洗浄処理部13
4と、乾燥処理部13
5とを備える。
【0021】
複数のニップロール11及び複数のガイドロール12は、フィルム2の搬送機構を構成する。複数のニップロール11及び複数のガイドロール12が適宜配置されることによって、フィルム2の搬送経路が構成されている。
【0022】
ニップロール11は、2つのロールによってフィルム2を挟み且つ押圧することによって、上記2つのロールの回転力をフィルム2に付与する機能を有する。ニップロール11は、フィルム2の搬送方向を変更する機能も有する。
【0023】
ガイドロール12は、フィルム2を支持するとともに、フィルム2の搬送方向を変更する機能を有する。
【0024】
膨潤処理部131は、フィルム2に膨潤処理を行う部分である。膨潤処理部131は、膨潤処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。膨潤処理部131が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に膨潤処理が行われる。本実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。
【0025】
上記膨潤処理は、フィルム2の表面の異物除去、フィルム2中の可塑剤除去、後工程での易染色性の付与、フィルム2の可塑化などの目的で行われる。膨潤処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつフィルム2の極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定され得る。膨潤処理部131では、フィルム2を、例えば、温度10℃~50℃、好ましくは15℃~40℃の処理液に浸漬することにより、膨潤処理が行われる。膨潤処理の時間は、5秒~300秒程度であり、好ましくは20秒~120秒程度である。膨潤処理部131における処理液の例は水である。そのため、膨潤処理は、フィルム2の水洗処理も兼ねることができる。
【0026】
染色処理部132は、フィルム2に染色処理を行う部分である。染色処理部132は、染色処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。染色処理部132が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に染色処理が行われる。本実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。
【0027】
本実施形態における染色処理部132が有する処理液は、二色性色素の水溶液であり、染色処理では、フィルム2を二色性色素で染色する。通常の二色性色素による染色処理は、フィルム2に二色性色素を吸着させるなどの目的で行われる。処理条件はこのような目的が達成できる範囲で、かつフィルム2の極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で所望の光学特性に応じて決定される。染色に使用される二色性色素の例は、ヨウ素及び二色性染料である。
【0028】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、例えば10℃~50℃、好ましくは15℃~40℃の温度で、かつ、水100重量部に対して、ヨウ素を0.003重量部~0.2重量部及びヨウ化カリウムを 0.1重量部~10重量部含む水溶液中に、10秒~600秒間、好ましくは30秒~300秒間、フィルム2を浸漬することにより、染色処理が行われる。ヨウ化カリウムに代えて他のヨウ化物、例えば、ヨウ化亜鉛を用いてもよい。他のヨウ化物をヨウ化カリウムと併用してもよい。さらに、ヨウ化物以外の化合物、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。水100重量部に対し、ヨウ素を0.003重量部以上含んでいる処理液であれば、染色用の処理液とみなすことができる。
【0029】
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合は、例えば20℃~80℃、好ましくは30℃~60℃の温度で、かつ、水100重量部に対して二色性染料を0.001重量部~0.1重量部含む水溶液中に、10秒~600秒間、好ましくは20秒~300秒間、フィルム2を浸漬することにより、染色処理が行われる。使用する二色性染料の水溶液は、染色助剤などを含有していてもよく、硫酸ナトリウムの如き無機塩、界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料は1種類だけ用いてもよいし、所望される色相に応じて2種類以上の二色性染料を併用することもできる。
【0030】
架橋処理部133は、フィルム2に架橋処理を行う部分である。架橋処理部133は、架橋処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。架橋処理部133が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に架橋処理が行われる。本実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。
【0031】
架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整(フィルム2が青味がかるのを防止する等)などの目的で行う処理である。
【0032】
架橋処理部133で使用する処理液は、例えば、水100重量部に対してホウ酸を約1重量部~10重量部含有する水溶液である。染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、架橋処理部133で使用する処理液は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100重量部に対して、例えば1重量部~30重量部である。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。ヨウ化物以外の化合物、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を共存させてもよい。
【0033】
架橋処理部133での架橋処理においては、その目的によって、ホウ酸及びヨウ化物の濃度、並びに処理液の温度、処理時間、ロール間距離などを適宜変更することができる。
【0034】
例えば、架橋処理の目的が架橋による耐水化であり、フィルム2に対し、膨潤処理、染色処理及び架橋処理をこの順に施す場合、処理液の架橋剤含有液は、例えば、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3~10/1~20/100の水溶液である。必要に応じ、ホウ酸に代えてグリオキザール又はグルタルアルデヒド等の他の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と他の架橋剤を併用してもよい。フィルム2を浸漬するときの処理液の温度は、通常50℃~70℃程度であり、好ましくは53℃~65℃であり、フィルム2の浸漬時間は、通常10秒~600秒程度、好ましくは20秒~300秒、より好ましくは20秒~200秒である。膨潤処理前に予め延伸したフィルム2に対して染色処理及び架橋処理をこの順に施す場合、処理液の温度は、通常50℃~85℃程度、好ましくは55℃~80℃である。
【0035】
架橋処理の目的が色相調整であり、例えば、二色性色素としてヨウ素を用いた場合、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1~5/3~30/100の架橋剤含有液を処理液として使用できる。フィルム2を浸漬するときの処理液の温度は、通常10~45℃程度であり、フィルム2の浸漬時間は、通常1~300秒程度、好ましくは2~100秒である。
【0036】
洗浄処理部134は、架橋処理後のフィルム2に洗浄処理を行う部分である。洗浄処理部134は、洗浄処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。洗浄処理部134が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に洗浄処理が行われる。本実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。洗浄処理における処理液としては、水、ヨウ化カリウムを含む水溶液、ホウ酸を含む水溶液が挙げられる。処理液の温度は、通常2℃~40℃程度であり、処理時間(浸漬時間)は、通常2秒~120秒程度である。
【0037】
乾燥処理部13
5は、フィルム2に乾燥処理を行う部分である。本実施形態において乾燥処理部13
5は、乾燥装置である。乾燥処理部13
5には、洗浄処理部13
4で洗浄処理されたフィルム2が搬入され、フィルム2が乾燥処理部13
5内を通過する間に、フィルム2を乾燥させる。本実施形態では、乾燥処理部13
5の前後に配置されたニップロール11によって、乾燥処理部13
5内でフィルム2を乾燥するフィルムの搬送経路が形成されている。乾燥処理部13
5内に、フィルム2を支持及び搬送するために、ガイドロール12が適宜配置されてもよい。乾燥処理部13
5による乾燥は、約40℃~100℃の温度に保たれた乾燥処理部13
5の中で、約30秒~約600秒行われる。
図1では、乾燥処理部13
5を模式的に示している。乾燥処理部13
5は、フィルム2に付着した水分を乾燥できれば特に限定されず、偏光フィルムの製造において、通常、使用される公知のものでよい。
【0038】
上記製造装置10を用いて偏光フィルムを製造する場合、まず、原反ロール6からフィルム2を繰り出す。繰り出されたフィルム2を、複数のニップロール11及び複数のガイドロール12で形成される搬送経路に沿って、フィルム2の長尺方向に搬送する。搬送速度の例は、1m/分~60m/分であってもよく、1.5m/分~50m/分であってもよい。フィルム2の搬送経路には、原反ロール6側から、膨潤処理部131、染色処理部132、架橋処理部133、洗浄処理部134及び乾燥処理部135が設けられている。したがって、搬送経路に沿ってフィルム2を搬送することによって、フィルム2に、膨潤処理(膨潤工程)、染色処理(染色工程)、架橋処理(架橋工程)、洗浄処理(洗浄工程)及び乾燥処理(乾燥工程)が施される。更に、偏光フィルムの製造方法では、上記架橋工程において、フィルム2に、N個の延伸処理(Nは1以上の整数)が実施される。上述した複数の処理がフィルム2に施されることによって、フィルム2に直線偏光特性が付与され、偏光フィルム4が得られる。偏光フィルム4の厚みは、たとえば、2μm~50μmである。好ましくは5μm~40μmである。
【0039】
上記N個の延伸処理を説明する。N個の延伸処理は、式(1)及び式(2)を満たす範囲内で実施する。
α=(a-b)/a・・・(1)
0.28≦αmax≦0.42・・・(2)
式(1)において、aは、n番目(nは1~Nまでのいずれかの整数)の延伸処理前のフィルム2の幅方向における厚みの平均値[μm]を表し、bはn番目の延伸処理後のフィルム2の幅方向における厚みの平均値[μm]を表す。
幅方向の厚みの平均値は、
図2に示したようにフィルム2の幅方向における中央部の厚みと両端部の厚みの平均値である。
図2は、フィルム2の幅方向における厚みの測定位置を説明するための図面であり、フィルム2の長尺方向に直交する断面を模式的に示している。
図2に例示したように、上記中央部の厚みは、フィルム2の幅方向において、中央の位置より5%以下の範囲内(
図2においてハッチングで示した領域A1内)にある1地点における厚みでよく、上記両端部それぞれの厚みも、フィルム2の幅方向において、一対の縁より5%以下の範囲内(
図2においてハッチングで示した領域A2および領域A3)にある1地点における範囲の厚みでよい。
式(2)において、αmaxは、N個の延伸処理に対して求められたN個のαの最大値である。
【0040】
N個の延伸処理それぞれにおける延伸倍率は、たとえば、1.001以上4.00以下であり、1.01以上3.00以下であってもよく、好ましくは1.05以上2.50以下である。N個の延伸処理それぞれは、各延伸処理の前後に配置されたニップロール11を用いて実施できる。延伸処理は、延伸処理の前後に配置されたニップロール11の回転速度差を利用することによって実施され得る。各延伸処理に寄与するニップロール11は延伸処理部として機能する。
【0041】
図1に示した架橋処理部13
3で実施する架橋処理(架橋工程)とともに、延伸処理を実施する場合において延伸処理の一例を説明する。この場合、架橋処理部13
3の前後に配置されたニップロール11を利用して延伸処理を実施する。式(1)におけるaは、位置x1におけるフィルム2の幅方向に沿った厚みの平均値[μm]であり、式(1)におけるbは、位置x2におけるフィルム2の幅方向に沿った厚みの平均値[μm]である。説明の便宜のため、
図1に示したように、一つの延伸処理に寄与する2つのニップロール11のうち上流側のニップロール11をニップロール11
UPと称し、下流側のニップロール11をニップロール11
DOWNと称す。位置x1は、フィルム2がニップロール11
UPを通過した後の位置である。位置x2は、フィルム2がニップロール11
DOWNを通過した後の位置である。
【0042】
図3を参照して、一つの延伸処理において式(1)で示されるαの算出方法を説明する。αを算出するために、製造装置10は、一対の厚み測定部30と、算出部40とを有してもよい。
【0043】
一対の厚み測定部30のうちの一方の厚み測定部(以下、「厚み測定部30UP」と称す)は、延伸処理前のフィルム2が厚みを測定し、他方の厚み測定部30(以下、「厚み測定部30DOWN」と称す)は、延伸処理後のフィルム2の厚みを測定する。
【0044】
例えば、厚み測定部30UPおよび厚み測定部30DOWNそれぞれは、3つの厚み計31を有する。3つの厚み計31は、フィルム2の中央部及び両端部の厚みを測定可能に、フィルム2の幅方向に沿って配置されている。厚み計31は、フィルム2の厚みを測定できれば限定されない。厚み計31は、たとえば非接触式の厚み計(たとえば光学式の厚み計)である。厚み計31として、たとえばキーエンス社の分光干渉変位タイプ多層膜厚測定器(たとえば、SI-T80等)を使用できる。厚み測定は、厚み計を、フィルム2の幅方向(搬送方向と直交する方向)に移動させながら測定する方法(トラバース式)で行ってもよい。
【0045】
位置x1にて厚みを測定し、その後、位置x1で厚みを測定したフィルム箇所が位置x2に搬送された時点で厚みを測定してもよいし、位置x1での厚みの測定と位置x2での厚みの測定とを同じタイミングで(すなわち同時に)測定してもよい。「同じタイミング」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で若干のズレが生じていてもよい。搬送速度にもより、特に限定されないが、上記位置x1での測定時と位置x2の測定時との時間差は、1分以内程度であってもよく、30秒以内であってもよく、20秒以内であってもよく、10秒以内であってもよい。
【0046】
算出部40は、厚み測定部30UPおよび厚み測定部30DOWNの結果に基づいて、式(1)中のα(=(a-b)/a)を算出する。算出部40は、厚み測定部30UPおよび厚み測定部30DOWNの結果に基づいて、aおよびbを算出した後、それらを利用してαを算出してもよいし、式(1)にaおよびbを算出する式を組み込み、直接αを算出してもよい。
【0047】
ここでは、架橋工程で延伸処理を1回実施する場合を例にして、延伸処理およびαの算出方法を説明したが、架橋工程で複数回の延伸処理を実施してもよい。具体的には、フィルム2の搬送経路のうち架橋工程を実施する領域において、3個以上のニップロール11が配置されていてもよい。この場合、架橋工程を実施する領域に配置された3個以上のニップロール11のうち隣接する2つのニップロール11間でそれぞれ延伸処理が実施され得る。複数回の延伸処理をする場合、隣接する2つの延伸処理のうち上流側の延伸処理後のフィルム2の厚みを、下流側の延伸処理前のフィルム2の厚みとして使用してもよい。複数回の延伸処理をする場合、算出部40は、各延伸処理に対応する一対の厚み測定部30UPおよび厚み測定部30DOWNに対して共通のものを使用してもよい。或いは、各延伸処理に対応する一対の厚み測定部30UPおよび厚み測定部30DOWNに対して一つの算出部40が配置されてもよい。
【0048】
偏光フィルムを製造する場合、N個の延伸処理それぞれに対して得られたαのうち最大のαmaxが式(2)を満たすように延伸処理を実施する。以下、各延伸処理に対応するαの算出(α算出のための厚みの測定を含む)およびαmaxの取得までの一連の工程を「監視工程」と称する場合がある。
【0049】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法では、式(1)および式(2)を満たすようにフィルム2にN個の延伸処理が実施される。そのため、フィルム2を原反ロール6から繰り出して搬送しながら連続的に偏光フィルム4を製造していても、フィルム2が破断しにくく、更に、製造された偏光フィルム4における色ムラを抑制できるので、製造された偏光フィルム4は、良好な外観を有する。すなわち、本実施形態の偏光フィルムの製造方法では、良好な外観を有する偏光フィルム4を安定して製造できる。
【0050】
偏光フィルム4の色ムラは、次のように評価され得る。暗室内で偏光フィルム4を直線偏光フィルタに対してクロスニコル状態に配置した後、偏光フィルム4をバックライトで照明する。このように照明された偏光フィルム4に色ムラの状態(色ムラが生じていない状態も含む)を評価する。直線偏光フィルタは、偏光フィルム4に対してバックライト側およびバックライトと反対側(観察側)のどちらに配置されてもよい。
【0051】
偏光フィルムの製造方法が、N個の延伸処理が式(1)および式(2)を満たすか否かをリアルタイムで監視する監視工程を有する形態では、N個の延伸処理が式(1)および式(2)を満たさない場合、たとえば、偏光フィルム4の製造を中断できる。製造を中断した場合には、αmaxが式(2)を満たすように、偏光フィルム4の製造条件のうち延伸状態に寄与する条件(たとえば、延伸倍率、フィルム2が浸漬される処理液の温度および浸漬時間など)の調整を行えばよい。また、例えばαmaxが式(2)を満たすように製造条件を調整しながら製造を継続することもできる。これよって、偏光フィルム4を製造中におけるフィルム2の破断を防止したり、不良品となる偏光フィルム4の製造を抑制したりできる。そのため、安定した工程で偏光フィルム4を製造できる。更に、品質の安定した偏光フィルム4を均一に製造し易い。更にまた、偏光フィルム4の材料コストを低減できる。更に、良品の偏光フィルム4を効率的に製造できるので、偏光フィルム4の製造歩留まりが向上する。
【0052】
通常、高い光学特性を有する偏光フィルムの製造において、延伸処理を複数行う場合が多い。よって、偏光フィルム4の製造において複数回の延伸処理を行う場合、高い光学特性を維持しながら、前述したように安定した工程で良好な外観を有する偏光フィルム4を製造可能である。
【0053】
偏光フィルムの製造方法では、製造された偏光フィルム4における色ムラを抑制する観点からN個の延伸処理それぞれを、式(3)を更に満たすように実施してもよい。
0.1≦Δa/Δb≦1.1・・・(3)
式(3)中、Δaは、n番目の延伸処理前におけるフィルム2の幅方向における厚みの最大値と厚みの最小値との差を表し、Δbは、n番目の延伸処理後におけるフィルム2の幅方向における厚みの最大値と厚みの最小値との差を表す。
【0054】
上記ΔaおよびΔbは、n番目の延伸処理前のフィルム2およびn番目の延伸処理後のフィルム2それぞれの幅方向の厚み分布を取得することによって算出され得る。厚み分布は、たとえば、
図3に示した厚み計31を、フィルム2の幅方向に沿って厚み分布取得に適した個数配置することによって取得され得る。トラバース方式で厚みを測定することによって、厚み分布を取得してもよい。
【0055】
偏光フィルムの製造方法が、前述した監視工程を有する場合、監視工程で式(1)および式(2)が満たされているか否かを監視するとともに、式(3)を満たすか否かを監視すればよい。式(3)が満たされていない場合、式(3)を満たすように、延伸処理に寄与する条件を調整する。たとえば、延伸処理に寄与するニップロール11の設置状態、フィルム2の搬送状態等を調整する。監視工程で式(1)および式(2)が満たされているか否かを監視する場合には、厚み分布を取得するために測定した幅方向の厚みの測定結果を利用して式(1)および式(2)が満たされているか否かを監視すればよい。
【0056】
N個の延伸処理が式(3)を更に満たすように実施されている場合、各延伸処理の前後においてフィルム2の幅方向の厚みの変動の影響を更に低減できる。その結果、偏光フィルム4の製造中においてフィルム2が一層破断しにくい。更に、フィルム2に色ムラやスジなどの欠陥が生じにくいので、良好な外観を有する偏光フィルム4を一層製造し易い。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲が含まれることが意図されるとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。たとえば、延伸処理における延伸方法は、フィルム2を延伸できれば2つのニップロール11を利用した方法に限定されない。延伸処理は、湿式の延伸方法に限らず、乾式の延伸方法が採用されてもよい。架橋工程における上記N個の延伸処理(式(1)および式(2)を満たす延伸処理)の他、他の工程(たとえば、膨潤工程、染色工程など)でも延伸処理が施されてもよい。上記実施形態及び種々の変形例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。また、偏光フィルムを製造するために、フィルム2には、少なくとも膨潤処理、染色処理、架橋処理および延伸処理が施されていればよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に説明する。以下の説明でも偏光フィルムを製造するためのフィルムを「フィルム2」と称す。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0059】
(実施例1)
<偏光フィルムの製造>
長尺のフィルム2として厚み75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ株式会社製ポバールフィルムVF-PS#7500、重合度2,400、ケン化度99.9モル%以上)を用いて、以下の方法で偏光フィルムを作製した。
【0060】
フィルム2が巻かれた原反ロールからフィルム2を繰り出し、30℃の純水に、フィルム2が弛まないように緊張状態を保ったまま浸漬し、フィルム2を十分に膨潤させた(膨潤工程)。次にヨウ素とヨウ化カリウムを含む水溶液に浸漬しつつ原反からの積算延伸倍率が2.4倍になるまで一軸延伸を行った(染色工程)後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/4.2/100の56℃水溶液に浸漬しつつ、1.75倍一軸延伸を行った(第1架橋工程:原反からの積算延伸倍率が4.2倍)。次いで同一組成、温度の水溶液に浸漬しつつ、1.3倍一軸延伸を行った(第2架橋工程:原反からの積算延伸倍率が5.5倍)。続いて、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で9/2.9/100の40℃水溶液に浸漬しながら1.05倍一軸延伸した(第3架橋工程:原反からの積算延伸倍率が5.7倍)後、5℃の純水に浸漬し(洗浄工程)、70℃で3分乾燥して(乾燥工程)、偏光フィルムを得た。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断は発生しなかった。
【0061】
上記偏光フィルムの製造において、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で行った合計3個の延伸処理が上記実施形態で説明した架橋工程におけるN個の延伸処理であった。以下、上記第1架橋工程で使用した水溶液を水溶液Aと称する。
【0062】
<厚み測定>
偏光フィルムの製造中、非接触式厚み測定器(キーエンス社製SI―T80)を用いて、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の「初期厚み」は、偏光フィルム製造のために用意したフィルム2の厚み(膨潤処理前のフィルム2の厚み)であり、各工程における「厚み」は、上記3箇所の厚みの平均値であった。
図4に示した各工程の「厚み」は、同じタイミングで取得された厚みであった。
【0063】
<αの算出及びαmaxの特定>
式(1)に基づいて、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するαを算出した。第1架橋工程で実施された延伸処理に対応するα(以下「α1」と称す)は、式(1)のaおよびbとして染色工程後のフィルム2の厚みおよび第1架橋工程後のフィルム2の厚みを使用して算出した。同様に、第2架橋工程で実施された延伸処理に対応するα(以下「α2」と称す)は、式(1)のaおよびbとして第1架橋工程後のフィルム2の厚みおよび第2架橋工程後のフィルム2の厚みを使用して算出した。同様に、第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα(以下「α3」と称す)は、式(1)のaおよびbとして第2架橋工程後のフィルム2の厚みおよび第3架橋工程後のフィルム2の厚みを使用して算出した。算出されたα1、α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0064】
<Δa/Δbの算出>
上記厚み測定で説明したように、染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後において得られたフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所の測定結果のうち最大値と最小値の差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出した。算出結果は、
図4に示したとおりであった。
図4に示した差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を用いて第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するΔa/Δbを算出した。以下、Δa/Δbをβと称す。
【0065】
第1架橋工程で実施された延伸処理に対応するΔa/Δb(以下、「β1」と称す)は、ΔaおよびΔbとして染色工程後の差Δt1および第1架橋工程後の差Δt2を使用して算出した。同様に、第2架橋工程で実施された延伸処理に対応するΔa/Δb(以下、「β2」と称す)は、ΔaおよびΔbとして第3架橋工程後の差Δt2および第2架橋工程後の差Δt3を使用して算出した。同様に、第1架橋工程で実施された延伸処理に対応するΔa/Δb(以下、「β3」と称す)は、ΔaおよびΔbとして第2架橋工程後の差Δt3および第3架橋工程後の差Δt4を使用して算出した。算出結果は、
図5に示したとおりであった。
【0066】
<色ムラの評価>
製造された偏光フィルムを暗室内で直線偏光フィルタに対してクロスニコル状態に配置した。その後、6000cd/m2のバックライトを、上記直線偏光フィルタを介して偏光フィルムに照射し、偏光フィルムの色ムラを目視観察した。そして、目視による官能検査で色ムラのレベル(強度)を「1」、「2」、「3」の3段階で判定した。評価「1」は最もムラが弱いことを示しており、評価「3」は最もムラが強いことを示しており、評価「2」は、評価「1」と評価「3」の中間を示している。上記官能検査では、色ムラのレベル(強度)に応じて定められたレベル見本サンプルと比較することによって色ムラを上記のように3段階で評価した。実施例1で製造した偏光フィルムは評価「1」であった。
【0067】
(実施例2)
<偏光フィルムの製造>
フィルム2として厚み30μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ株式会社製 ポバールフィルムVF-PE#3000、重合度2,400、ケン化度99.9モル%以上)を用いた点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを得た。偏光フィルムの製造中にフィルムの破断は発生しなかった。
【0068】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0069】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0070】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0071】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。実施例2で製造した偏光フィルムの評価結果は「1」であった。
【0072】
(実施例3)
<偏光フィルムの製造>
第1架橋工程および第2架橋工程における水溶液Aの温度を58℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断は発生しなかった。
【0073】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0074】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0075】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0076】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。実施例3で製造した偏光フィルムの評価結果は「1」であった。
【0077】
(実施例4)
<偏光フィルムの製造>
第1架橋工程および第2架橋工程における水溶液Aの温度を62℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断は発生しなかった。
【0078】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0079】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0080】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0081】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。実施例4で製造した偏光フィルムの評価結果は「2」であった。
【0082】
(比較例1)
<偏光フィルムの製造>
第1架橋工程および第2架橋工程においてヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比を12/2/100とした水溶液を用いた点以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断は発生しなかった。比較例1の第1架橋工程および第2架橋工程において使用した水溶液を水溶液Bと称す。
【0083】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0084】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0085】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0086】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例1で製造した偏光フィルムの評価結果は「3」であった。
【0087】
(比較例2)
<偏光フィルムの製造>
第1架橋工程および第2架橋工程においてヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/6.5/100である水溶液を用いた点以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。比較例2の第1架橋工程および第2架橋工程において使用した上記水溶液を水溶液Cと称す。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が頻発し、安定して偏光フィルムを得ることができなかった。比較例2では、フィルム2の破断が生じた場合、原反ロールから再度フィルム2を繰り出し、次の破断が生じるまで偏光フィルムの製造を継続した。
【0088】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0089】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0090】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0091】
<色ムラの評価>
フィルム2の破断が生じるまでに製造された偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例2において製造された偏光フィルムの評価結果は「1」であった。
【0092】
(比較例3)
<偏光フィルムの製造>
フィルム2として実施例2で使用したポリビニルアルコールフィルムを用いた点と、水溶液Bを用いて第1架橋工程および第2架橋工程を実施した点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断は発生しなかった。
【0093】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0094】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0095】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0096】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例3で製造した偏光フィルムの評価結果は「3」であった。
【0097】
(比較例4)
フィルム2として実施例2で使用したポリビニルアルコールフィルムを用いた点と、水溶液Cを用いて第1架橋工程および第2架橋工程を実施した点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が頻発し、安定して偏光フィルムを得ることができなかった。比較例4では、フィルム2の破断が生じた場合、原反ロールから再度フィルム2を繰り出し、次の破断が生じるまで偏光フィルムの製造を継続した。
【0098】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0099】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0100】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0101】
<色ムラの評価>
フィルム2の破断が生じるまでに製造された偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例4において製造された偏光フィルムの評価結果は「1」であった。
【0102】
(比較例5)
第1架橋工程および第2架橋工程における水溶液Aの温度を50℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が頻発し、安定して偏光フィルムを得ることができなかった。比較例5では、フィルム2の破断が生じた場合、原反ロールから再度フィルム2を繰り出し、次の破断が生じるまで偏光フィルムの製造を継続した。
【0103】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0104】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0105】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0106】
<色ムラの評価>
フィルム2の破断が生じるまでに製造された偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例5において製造された偏光フィルムの評価結果は「1」であった。
【0107】
(比較例6)
第1架橋工程および第2架橋工程における水溶液Aの温度を45℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が頻発し、安定して偏光フィルムを得ることができなかった。比較例6では、フィルム2の破断が生じた場合、原反ロールから再度フィルム2を繰り出し、次の破断が生じるまで偏光フィルムの製造を継続した。
【0108】
<厚み測定>
実施例1と同様にして、各工程の前後でフィルム幅方向における中央部および両端部の3箇所で搬送中のフィルム2の厚みを測定した。染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程それぞれにおける処理後のフィルム2の厚みの測定結果は
図4に示したとおりであった。
図4中の各工程の厚みが平均厚みであることは実施例1の場合と同様である。
【0109】
<αの算出及びαmaxの特定>
実施例1と同様にして、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するα1,α2およびα3を算出した。算出されたα1,α2およびα3と、それらのうちの最大値であるαmaxは
図5に示したとおりであった。
【0110】
<β(=Δa/Δb)の算出>
実施例1と同様にして、差Δt1、差Δt2、差Δt3および差Δt4を算出するとともに、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理に対応するβ1,β2およびβ3を算出した。算出結果は、
図4および
図5に示したとおりであった。
【0111】
<色ムラの評価>
フィルム2の破断が生じるまでに製造された偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例6において製造された偏光フィルムの評価結果は「2」であった。
【0112】
[総合評価]
図5に示したように、実施例1~実施例4のαmaxに基づけば、実施例1~実施例4では、第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理は、式(1)および式(2)を満たしながら実施された。そして、実施例1~実施例4では、偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が生じなかった。すなわち、実施例1~実施例4では、安定して偏光フィルムを製造できた。更に、実施例1~実施例4で製造された偏光フィルムにおいて、色ムラの評価では評価「1」または評価「2」であった。
一方、比較例1~比較例6のαmaxに基づけば、比較例1~比較例6における第1架橋工程、第2架橋工程および第3架橋工程で実施された延伸処理は、式(1)および式(2)を満たしていなかった。比較例1,3では、偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が生じなかったが、色ムラの評価は評価「3」であった。比較例2,4~6では、偏光フィルムの製造中にフィルム2の破断が生じ、安定して偏光フィルムを製造できなかった。
したがって、実施例1~実施例4および比較例1~比較例6の結果より、式(1)および式(2)を満たすようにN個の延伸処理を実施することによって、色ムラが抑制された偏光フィルム、すなわち良好な外観を有する偏光フィルムを安定して製造可能であることが理解され得る。
【0113】
更に、実施例1~実施例4におけるΔa/Δbの結果を比較すれば、N個の延伸処理に対して算出された全てのΔa/Δbが式(3)を満たす場合、色ムラが一層抑制されていることが理解し得る。
【符号の説明】
【0114】
2…フィルム(ポリビニルアルコール系フィルム)、4…偏光フィルム、11…ニップロール。