(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】静電型デバイスを製造する製造方法
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
H02N1/00
(21)【出願番号】P 2019106231
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2021-03-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(1)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、(2)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業/微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出/MEMS振動発電素子の製作と評価に関する研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】年吉 洋
(72)【発明者】
【氏名】本間 浩章
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523846(JP,A)
【文献】特開2013-250133(JP,A)
【文献】特表2010-512548(JP,A)
【文献】特開2010-011547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
B81B 3/00
B81C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の基板に形成された固定部、可動部および前記可動部を弾性支持する弾性支持部と、
前記基板の表裏両面の内の一方の面において、前記固定部および前記弾性支持部が互いに分離した状態で陽極接合されている第1のガラスパッケージと、
前記表裏両面の内の他方の面において前記固定部および前記弾性支持部が互いに分離した状態で陽極接合され、前記第1のガラスパッケージとの間に前記可動部が配置される密閉空間を形成する第2のガラスパッケージと、を備え、
前記固定部および前記可動部の少なくとも一部にエレクトレットが形成されていて、
前記第2のガラスパッケージには、前記固定部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第1の電極と、前記弾性支持部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第2の電極とが形成されている、静電型デバイス
を製造する製造方法であって、
前記固定部、前記可動部および前記弾性支持部を前記基板に一体状態で形成し、
前記第1のガラスパッケージに前記基板を積層し、
前記第1のガラスパッケージと前記基板との間に陽極接合用電圧を印加して、前記固定部および前記弾性支持部を前記第1のガラスパッケージに陽極接合し、
前記基板をエッチングして前記固定部と前記弾性支持部とを互いに分離し、
前記第1のガラスパッケージが陽極接合された前記基板に前記第2のガラスパッケージを積層し、
前記弾性支持部と前記第2のガラスパッケージとの間に陽極接合用電圧を印加し、かつ、前記弾性支持部と前記固定部との間にエレクトレット化用電圧を印加して、前記固定部および前記弾性支持部を前記第2のガラスパッケージに陽極接合すると共に前記エレクトレットを形成し、
前記固定部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第1の電極と、前記可動部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第2の電極とを形成する、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の
製造方法において、
前記固定部には固定電極が形成され、
前記可動部には前記固定電極と対向する可動電極が形成され、
前記固定電極および前記可動電極の少なくとも一方に前記エレクトレットが形成され、
前記固定電極および前記可動電極が配置される前記密閉空間は真空状態とされ
る、
製造方法。
【請求項3】
請求項
1又は請求項2に記載の製造方法において、
前記固定部および前記弾性支持部と前記第2のガラスパッケージとの陽極接合は、真空状態において行われる、製造方法。
【請求項4】
請求項
1から3
までのいずれか一項に記載の製造方法において、
前記第1のガラスパッケージを、第1のガラス基板に被分割領域を介して非分離状態で複数形成し、
前記第2のガラスパッケージを、第2のガラス基板に被分割領域を介して非分離状態で複数形成し、
前記固定部、前記可動部および前記弾性支持部を含む機能要素を、同一の基板に被分割領域を介して非分離状態で複数形成し、
前記第1および第2のガラスパッケージが陽極接合された前記基板を前記被分割領域において分割する、製造方法。
【請求項5】
請求項1
から4までのいずれか一項に記載の
製造方法において、
前記固定部、前記可動部および前記弾性支持部から成るデバイス構成要素が、複数一体に形成されている基板と、前記基板を真空パッケージングする第1および第2のガラスパッケージと、を有する静電型デバイス中間体
に個片化処理を施す、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型デバイス、静電型デバイス中間体およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境振動からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の一つとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動素子を用いて発電を行う手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。振動発電素子自体は、圧電素子や静電容量型素子を備え、それを環境振動の周波数で振動させると、その周波数に等しい周波数とその整数倍の周波数の交流電力を発生する素子である。振動発電素子は、微小振動への応答性向上、エレクトレット劣化防止のためチップ全体を真空パッケージに入れる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、振動発電素子は外部振動により変形する構造を有しているので周囲に空間を設けなければならず、振動発電素子が形成されたチップ全体をパッケージに収納していた。このように、振動発電素子チップを形成後に振動発電素子とは別に形成されたパッケージに振動発電素子チップを収納する構成であるため、パッケージを含む振動発電素子が大型化すると共に、コストアップを招く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による静電型デバイスは、同一の基板に形成された固定部、可動部および前記可動部を弾性支持する弾性支持部と、前記基板の表裏両面の内の一方の面において、前記固定部および前記弾性支持部が互いに分離した状態で陽極接合されている第1のガラスパッケージと、前記表裏両面の内の他方の面において前記固定部および前記弾性支持部が互いに分離した状態で陽極接合され、前記第1のガラスパッケージとの間に前記可動部が配置される密閉空間を形成する第2のガラスパッケージと、を備え、前記固定部および前記可動部の少なくとも一部にエレクトレットが形成されていて、前記第2のガラスパッケージには、前記固定部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第1の電極と、前記弾性支持部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第2の電極とが形成されている。
本発明の第2の態様による製造方法は、前記固定部、前記可動部および前記弾性支持部を前記基板に一体状態で形成し、前記第1のガラスパッケージに前記基板を積層し、前記第1のガラスパッケージと前記基板との間に陽極接合用電圧を印加して、前記固定部および前記弾性支持部を前記第1のガラスパッケージに陽極接合し、前記基板をエッチングして前記固定部と前記弾性支持部とを互いに分離し、前記第1のガラスパッケージが陽極接合された前記基板に前記第2のガラスパッケージを積層し、前記弾性支持部と前記第2のガラスパッケージとの間に陽極接合用電圧を印加し、かつ、前記弾性支持部と前記固定部との間にエレクトレット化用電圧を印加して、前記固定部および前記弾性支持部を前記第2のガラスパッケージに陽極接合すると共に前記エレクトレットを形成し、前記固定部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第1の電極と、前記可動部と接続され前記第2のガラスパッケージの外表面に露出する第2の電極とを形成する。
本発明の第3の態様による静電型デバイス中間体は、前記静電型デバイスの前記固定部、前記可動部および前記弾性支持部から成るデバイス構成要素が、複数一体に形成されている基板と、前記基板を真空パッケージングする第1および第2のガラスパッケージと、を有する。
本発明の第4の態様による製造方法は、前記静電型デバイス中間体に個片化処理を施して前記静電型デバイスを製造する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、静電型デバイスの小型化およびコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】
図3は、
図1において第2ガラスパッケージを取り除いた場合の平面図を示したものである。
【
図21】
図21は、ウェハレベルで複数の振動発電素子を一括形成する場合の、Si基板と下側のガラス基板との陽極接合工程を説明する図である。
【
図22】
図22は、ウェハレベルで複数の振動発電素子を一括形成する場合の、上側のガラス基板の陽極接合工程を説明する図である。
【
図23】
図23は、ウェハレベルで複数の振動発電素子を一括形成する場合の、ダイシングによる分離工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1,2は静電型デバイスである振動発電素子1の一例を示す図であり、
図1は振動発電素子1の平面図であり、
図2はA-A断面を示す図である。振動発電素子1は、第1ガラスパッケージ10と、第1ガラスパッケージ10上に設けられた固定部11、可動部12および弾性支持部13を備えている。固定部11、可動部12および弾性支持部13はSi基板200に形成されており、固定部11および弾性支持部13の固定領域13aはガラス基板で形成された第1ガラスパッケージ10上に陽極接合される。さらにSi基板200上には第2ガラスパッケージ14が陽極接合されている。なお、
図1の平面図では、固定部11、可動部12および弾性支持部13は第2ガラスパッケージ14の下に隠れているので、それらを破線で示した。
【0009】
第2ガラスパッケージ14には、固定部11に接続している電極141と、弾性支持部13に接続している電極142とが形成されている。電極141は第2ガラスパッケージ14を貫通して固定部11に接続されている。一方、電極142は、第2ガラスパッケージ14を貫通して弾性支持部13の固定領域13aに接続されている。
【0010】
第1ガラスパッケージ10の内周面の中央部には凹部101が形成されている。第2ガラスパッケージ14には、凹部101と対向する位置に凹部140が形成されている。弾性支持部13によって弾性支持されている可動部12は、凹部140と凹部101との間の密閉空間Sに配置されている。密閉空間Sは真空状態とされている。なお、第2ガラスパッケージ14は、
図1の凹部140を示す矩形破線の外側の領域が、固定部11および固定領域13aに陽極接合されている。
【0011】
図3は、
図1の振動発電素子1の第2ガラスパッケージ14を取り除いた場合の平面図を示したものである。
図3に示すように、左右一対の固定部11には複数の櫛歯電極110がそれぞれ形成されている。一対の固定部11間に配置された可動部12にも、複数の櫛歯電極120が形成されている。櫛歯電極120は、櫛歯電極110と噛合するように対向配置されている。
【0012】
可動部12は4組の弾性支持部13により支持されており、振動発電素子1に外力が加わると、可動部12が図示左右方向(x方向)に振動する。各弾性支持部13は、第1ガラスパッケージ10上に固定された固定領域13a、および、固定領域13aと可動部12とを連結する弾性部13bを備えている。
【0013】
図2に示したように固定部11,可動部12および弾性支持部13はSi基板200から形成され、櫛歯電極110,120の表面にはSiO
2膜202が形成されている。SiO
2膜202はカリウム等のアルカリ金属のイオンを含んでおり、このSiO
2膜202にエレクトレットが形成される。櫛歯電極110,120の少なくとも一方にはエレクトレットが形成されており、可動部12が図示左右に振動して櫛歯電極110と櫛歯電極120との噛合量が変化することで発電が行われる。発電された電力は電極141,142を介して出力される。
【0014】
固定部11と固定領域13aとは分離溝g1により互いに分離されており、固定部11と弾性支持部13および可動部12とは電気的に絶縁されている。なお、
図3に示す分離溝g2は、左右一対の固定部11を電気的に分離するためのものである。
【0015】
(振動発電素子1の製造方法)
図4~
図20は、振動発電素子1の製造手順の一例を示す図である。
図4に示す第1の工程では、Si基板200の表裏両面にLP-CVDによりSiN膜201を成膜する。
図5は第2の工程を説明する図であり、
図5(a)は平面図、
図5(b)はA-A断面図である。第2の工程では、表面側のSiN膜201をドライエッチングによりエッチングして、電極141,142が形成される穴(後述する
図14(a)の穴111,131)を形成するためのパターンP1,P2と、分離溝g1、g2を形成するためのパターンP3,P4とを形成する。
【0016】
図6,7は第3の工程を説明する図であり、
図6は平面図を示し、
図7(a)はA-A断面図、
図7(b)はC-C断面図、
図7(c)はB-B断面図を示す。第3の工程では、Si基板200の表面側に固定部11,可動部12および弾性支持部13を形成するためのAlマスクパターン(不図示)を形成し、そのAlマスクパターンを用いたDeep-RIEによりSi基板200およびSiN膜201を貫通するようにエッチングする。このエッチングにより、固定部11,可動部12および弾性支持部13における
図6の図示領域Dに含まれる構造を形成する。具体的には、櫛歯電極110、210が形成されている部分の固定部11および可動部12、弾性支持部13を形成する。
図6の領域Dは、
図2の凹部140が対向する領域を示している。
【0017】
図8は第4の工程を説明する図であり、
図8(a)はA-A断面図を、
図8(b)はC-C断面図を、
図8(c)はB-B断面図を示す。第4の工程では、分離溝g1,g2を形成するためのエッチングをDeep-RIEにより行う。分離溝g1,g2は、パターンP3,P4(
図5参照)の位置に形成される。ただし、第4の工程では分離溝g1,g2で完全に分離させず、基板裏面側からSi基板200全体が一体に保たれる程度の深さまでエッチング(いわゆる、ハーフエッチング)する。
【0018】
図9は第5の工程を説明する図であり、
図9(a)は平面図を、
図9(b)はA-A断面図を示す。第5の工程では、Si基板200の露出面にカリウム等のアルカリ金属のイオンを含むSiO
2膜202を形成する。
【0019】
図10は第6の工程を説明する図であり、
図10(a)は平面図を、
図10(b)はA-A断面図を示す。第6の工程では、まず、CF
4ガスを用いたRIEにより、基板裏面側のSiN膜201を除去する。同様に、基板表面側のSiN膜201を除去する。
【0020】
図11は第7の工程を説明する図であり、
図11(a)は平面図を、
図11(b)は断面図を示す。第7の工程では、第1ガラスパッケージ10を形成するためのガラス基板300に凹部101を形成する。凹部101の底面と枠部103の端面との段差寸法H1は、振動する可動部12が干渉しない寸法(例えば、数十μm)に設定される。ガラス基板300には、陽極接合に用いられるガラス基板(例えば、ナトリウム含有のガラス基板)が用いられる。
【0021】
図12は第8の工程を説明する図であり、
図12(a)は平面図を、
図12(b)は断面図を示す。第8の工程では、第1ガラスパッケージ10の裏面側にアルミ蒸着膜等のメタル層102aを形成する。なお、裏面側のメタル層102aは、陽極接合プロセス時の電界をガラス基板300全面に分散させるために形成したものである。しかし、メタル層102aが無くても陽極接合は可能なため、メタル層102aは必須ではない。
【0022】
図13に示す第9の工程では、固定部11、可動部12および弾性支持部13が形成されたSi基板200(
図10参照)の裏面側に、
図12に示したガラス基板から成る第1ガラスパッケージ10を陽極接合する。ヒータ40上に第1ガラスパッケージ10を載置し、その第1ガラスパッケージ10の上に固定部11、可動部12および弾性支持部13が形成されたSi基板200を積層する。ヒータ40の温度は、ガラス基板中におけるナトリウムイオンの熱拡散が十分活発になる温度(例えば、500℃以上)に設定される。陽極接合用電圧、すなわち、ヒータ40を基準とするSi基板200の電圧V1は、例えば、400V以上に設定される。
【0023】
シリコン基板(Si基板200)とガラス基板(第1ガラスパッケージ10)とを陽極接合する場合には、シリコン基板とガラス基板との積層体を加熱しつつ、シリコン基板側を陽極として積層体に数百V程度の直流電圧を印加する。ガラス基板内のナトリウムイオンがマイナス電位側へ移動し、ガラス基板とシリコン基板との接合面のガラス基板側にSiO-の空間電荷層(ナトリウムイオンが欠乏した層)が形成される。その結果、静電引力によりガラス基板とシリコン基板とが接合される。
【0024】
図14は第10の工程を説明する図であり、
図14(a)はA-A断面図を、
図14(b)はC-C断面図を、
図14(c)はB-B断面図を示す。第10の工程では、第1ガラスパッケージ10に陽極接合されたSi基板200をDeep-RIEにより途中までエッチングすることにより、
図8に示す非貫通の分離溝g1、g2をSi基板200の表裏に貫通した状態とする。これにより、固定部11と可動部12を弾性支持する弾性支持部13とが完全に分離される。また、このエッチングにより、分離溝g1、g2が貫通状態となるだけではなく、電極141,142が形成される穴111、131も形成される。
【0025】
図15は第11の工程を説明する図であり、
図15(a)はA-A断面図を、
図15(b)はC-C断面図を、
図15(c)はB-B断面図を示す。第11の工程では、固定部11、可動部12および弾性支持部13が形成されたSi基板200の表面側に形成されたアルカリ金属のイオンを含むSiO
2膜202(
図14参照)を、ドライエッチングにより除去する。
【0026】
図16は第12の工程を説明する図であり、断面図を示す。第12の工程では、第2ガラスパッケージ14を形成するためのガラス基板301の表面側にアルミ蒸着膜等のメタル層102bを形成する。メタル層102bは、
図12に示した第1ガラスパッケージ10のメタル層102aの場合と同様の目的で形成されるものである。ガラス基板301には、ガラス基板300と同様に陽極接合に用いられるガラス基板(例えば、ナトリウム含有のガラス基板)が用いられる。
【0027】
図17は第13の工程を説明する図であり、
図17(a)は断面図を示し、
図17(b)は
図17(a)に示す基板の裏面側を示す図である。第13の工程では、第2ガラスパッケージ14を形成するためのガラス基板301に凹部140を形成する。凹部140の底面と枠部143の端面との段差寸法H2は、振動する可動部12が干渉しない寸法(例えば、数十μm)に設定される。
【0028】
図18は第14の工程を説明する図であり、
図18(a)は平面図を、
図18(b)は断面図を示す。第14の工程では、
図17に示した第2ガラスパッケージ14に、電極141,142を形成するための貫通孔144a,144bをサンドブラストにより形成する。
【0029】
図19に示す第15の工程では、
図15に示した固定部11、可動部12および弾性支持部13が形成されたSi基板200と第1ガラスパッケージ10とを陽極接合した構成物Eの上に、
図18に示した第2ガラスパッケージ14を陽極接合する。さらに、この陽極接合と同時に、櫛歯電極110,120のエレクトレット化も行われる。
【0030】
図19に示すように、ヒータ40上に第1ガラスパッケージ10を下側にして構成物Eを載置し、構成物EのSi基板200の上に
図18に示した第2ガラスパッケージ14を積層する。そして、ヒータ40を基準とする弾性支持部13および可動部12の電圧はV2に設定され、ヒータ40を基準とする固定部11の電圧はV3に設定される。Si基板200と第2ガラスパッケージ14との陽極接合と、櫛歯電極110,120のエレクトレット化とを同時に行うためには、第2ガラスパッケージ14とSi基板200との間には陽極接合に必要な電圧V2が印加され、可動部12と固定部11との間にはエレクトレット化に必要な電圧(V3-V2)が印加される。例えば、V2=400V、V3=700Vに設定される。ヒータ40の温度は、陽極接合およびエレクトレット化に必要な温度(例えば、500℃以上)に設定される。
【0031】
図19に示す陽極接合作業は真空チャンバ内で行われる。その結果、陽極接合後の凹部140と凹部101との間の密閉空間Sは真空状態とされる。
【0032】
図20に示す第16の工程では、
図19のように陽極接合した後に、第1ガラスパッケージ10の下面に形成されたメタル層102aおよび第2ガラスパッケージ14の上面に形成されたメタル層102bを、ウェットエッチングにより除去する。
図20に示すように、固定部11の穴111は第2ガラスパッケージ14の貫通孔144aと連通しており、弾性支持部13の固定領域13aは第2ガラスパッケージ14の貫通孔144bと連通している。
【0033】
次いで、第17の工程では、
図20に示す穴111,131および貫通孔144a,144bの領域にスパッタや蒸着等により金属膜を形成することにより、
図3に示した電極141,142を形成する。穴111および貫通孔144aの領域に電極141が形成され、穴131および貫通孔144bの領域に電極142が形成される。以上のようにして、振動発電素子1が完成する。
【0034】
なお、上述した説明では、一つの振動発電素子1の図を用いて製造方法を説明したが、実際には、
図21~23に示すように、ウェハレベルで複数の振動発電素子1を一括形成し、それをダイシング加工して個々の振動発電素子1に分離する。
【0035】
図21に示すSi基板200は、上述した第6の工程の
図10(b)に対応するものであり、ガラス基板300は第8の工程の
図12(b)に対応するものである。Si基板200の要素形成領域F1~F3には固定部11、可動部12および弾性支持部13がそれぞれ形成されており、ガラス基板300の領域F1~F3には凹部101がそれぞれ形成されている。各要素形成領域F1~F3は被分割領域Jによってそれぞれ分離されている。Si基板200とガラス基板300とは、
図13に示す第9の工程と同様に陽極接合される。陽極接合後、上述した第10の工程と同様の処理を行って、非貫通の分離溝g1、g2をSi基板200の表裏に貫通した状態とすると共に、電極141,142が形成される穴111、131を形成する(
図22参照)。
【0036】
図22に示す工程では、陽極接合されたSi基板200およびガラス基板300のSi基板200側に、ガラス基板301が陽極接合される。Si基板200の各要素形成領域F1~F3には、振動発電素子のデバイス構成要素である固定部11、可動部12および弾性支持部13がそれぞれ形成されている。ガラス基板301の各要素形成領域F1~F3には、第2ガラスパッケージ14の凹部140および貫通孔144a,144bがそれぞれ形成されている。Si基板200とガラス基板301とは、
図19に示す第15の工程と同様に陽極接合される。さらに、この陽極接合と同時に、櫛歯電極110,120(付図示)のエレクトレット化も行われる。
【0037】
図23(a)に示す工程では、
図22のガラス基板300に形成されていたメタル層102aおよびガラス基板301に形成されていたメタル層102bをウェットエッチングにより除去し、その後、穴111および貫通孔144aの領域に電極141を形成し、穴131および貫通孔144bの領域に電極142を形成する。
図23(b)に示す工程では、Si基板200およびガラス基板300,301が一体とされた基板(すなわち、静電型デバイス中間体)をダイシングにより被分割領域Jにおいて分割し、個別の振動発電素子1にそれぞれ分離する。このように、複数の振動発電素子1を一括で形成した後にダイシング加工により分離することで、生産のスループット向上が図れ、コスト低減を図ることができる。
【0038】
上述した実施の形態の作用効果をまとめると以下のようになる。
(1)静電型デバイスである振動発電素子1は、
図1~3に示すように、同一のSi基板200に形成された固定部11、可動部12および可動部12を弾性支持する弾性支持部13と、Si基板200の表裏両面の内の一方の面において、固定部11および弾性支持部13が互いに分離した状態で陽極接合されている第1ガラスパッケージ10と、表裏両面の内の他方の面において固定部11および弾性支持部13が互いに分離した状態で陽極接合され、第1ガラスパッケージ10との間に可動部12が配置される密閉空間Sを形成する第2ガラスパッケージ14と、を備え、固定部11および可動部12の少なくとも一部にエレクトレットが形成されていて、第2ガラスパッケージ14には、固定部11と接続され第2ガラスパッケージ14の外表面に露出する電極141と、弾性支持部13と接続され第2ガラスパッケージ14の外表面に露出する電極142とが形成されている。
【0039】
同一のSi基板200から形成される固定部11、可動部12および弾性支持部13の固定領域13aの一方の面に第1ガラスパッケージ10を陽極接合すると共に、他方の面に第2ガラスパッケージ14を陽極接合することで、第1ガラスパッケージ10および第2ガラスパッケージ14は固定部11および弾性支持部13を分離した状態で支持する支持台として機能すると共に、可動部12が配置される密閉空間Sを有するパッケージとしても機能する。この構成の場合、
図19で説明したような第2ガラスパッケージ14の陽極接合とエレクトレット化とを同時に行うことが可能であり、また、第1ガラスパッケージ10が支持台とパッケージとを兼用しているので、高スループットおよびコスト低減を図ることができる。
【0040】
また、第1ガラスパッケージ10および第2ガラスパッケージ14の縁領域が固定部11および固定領域13aに陽極接合されて密閉空間Sが封止される構造であるので、第2ガラスパッケージ14に電極141、142を形成することで、
図1の平面図におけるガラスパッケージ10,14の大きさ(すなわち面積)を、振動発電素子1の機能要素(固定部11、可動部12および弾性支持部13)が占める面積と同一とすることができる。
【0041】
なお、上述した振動発電素子1では、固定部11,可動部12および弾性支持部13をSi基板200により形成し、固定部11および弾性支持部13をガラス基板により形成されたガラスパッケージ10,14でパッケージする構成とした。そのため、高価なSOI基板を用いて形成される静電型デバイスに比べてコスト低減を図ることができる。上述した説明では基板200をシリコン基板としたが、電気伝導性を有し、ガラス基板との線膨張係数が十分に一致すれば、シリコン基板に限らずその他のガラス基板やシリコン薄膜を成膜したガラス基板などを用いても良い。
【0042】
(2)上述した静電型デバイスは振動発電素子1であって、固定部11には櫛歯電極110が固定電極として形成され、可動部12には櫛歯電極110と対向する櫛歯電極120が可動電極として形成され、櫛歯電極110および櫛歯電極120の少なくとも一方にエレクトレットが形成され、ガラスパッケージ10,14の間に形成される密閉空間Sは真空状態とされ、固定部11に対する可動部12の変位により櫛歯電極110と櫛歯電極120との静電容量が変化して発電を行う。
【0043】
上述のようなガラスパッケージ10,14を採用することで、振動発電素子1の小型化を図れる。さらに、櫛歯電極110および櫛歯電極120が真空状態の密閉空間S内に配置されるので、エレクトレットの劣化防止を図ることができる。また、可動部12は真空状態の密閉空間S内で振動するので、可動部12が空気のような気体中で振動する場合と比べ、粘性抵抗による振動の減衰を防止することができる。
【0044】
(3)上述した静電型デバイスを製造するための静電型デバイス製造方法では、固定部11、可動部12および弾性支持部13をSi基板200に一体状態で形成し、第1ガラスパッケージ10にSi基板200を積層し、第1ガラスパッケージ10とSi基板200との間に陽極接合用電圧(
図13の電圧V1)を印加して、固定部11および弾性支持部13を第1ガラスパッケージ10に陽極接合し、Si基板200をエッチングして固定部11と弾性支持部13とを互いに分離し、第1ガラスパッケージ10が陽極接合されたSi基板200に第2ガラスパッケージ14を積層し、弾性支持部13と第2ガラスパッケージ14との間に陽極接合用電圧(
図19の電圧V2)を印加し、かつ、弾性支持部13と固定部11との間にエレクトレット化用電圧(
図19の電圧=V3-V2)を印加して、固定部11および弾性支持部13を第2ガラスパッケージ14に陽極接合すると共にエレクトレットを形成し、固定部11と接続され第2ガラスパッケージ14の外表面に露出する電極141と、可動部12と接続され第2ガラスパッケージ14の外表面に露出する電極142とを形成する。
【0045】
第2ガラスパッケージ14の陽極接合とエレクトレット化とを同時に行うことができるので、高スループットを達成することができ、コスト低減を図ることができる。
【0046】
(4)また、固定部11および弾性支持部13と第2ガラスパッケージ14との陽極接合を真空状態で行うことで、櫛歯電極110、120が配置される密閉空間Sは真空状態とされ、エレクトレットの劣化防止を図ることができる。
【0047】
さらに、
図21~23に示したように、第1ガラスパッケージ10をガラス基板300に被分割領域Jを介して非分離状態で複数形成し、第2ガラスパッケージ14をガラス基板301に被分割領域Jを介して非分離状態で複数形成し、固定部11、可動部12および弾性支持部13を含む機能要素を、同一のSi基板200に被分割領域Jを介して非分離状態で複数形成し、第1および第2ガラスパッケージ10,14が陽極接合されたSi基板200を被分割領域Jにおいて分割する。このように、複数の振動発電素子1を一括で形成した後にダイシング加工により分離することで、生産のスループット向上が図れ、コスト低減を図ることができる。
【0048】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、上述した実施の形態では、静電型デバイスである振動発電素子1を例に説明したが、振動発電素子1に限らず、特許文献1に記載のようなアクチュエータやセンサ等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…振動発電素子、10…第1ガラスパッケージ、11…固定部、12…可動部、13…弾性支持部、13a…固定領域、13b…弾性部、14…第2ガラスパッケージ、40…ヒータ、110,120…櫛歯電極、141,142…電極、200…Si基板、300,301…ガラス基板、F1~F3…要素形成領域、J…被分割領域、S…密閉空間