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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ソホロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/12 20060101AFI20220617BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C12P19/12
C12N15/56
C12N15/63 Z
C12N9/24
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/31 ZNA
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019513665
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2018016001
(87)【国際公開番号】W WO2018194092
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2017082216
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 将博
(72)【発明者】
【氏名】田口 速男
(72)【発明者】
【氏名】清水 久佳
(72)【発明者】
【氏名】中井 博之
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-154985(JP,A)
【文献】Conserved hypothetical protein [Parabacteroides distasonis ATCC 8503],Database Genbank, Accession No. ABR44770.1 [online] <URL : https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ABR4,2014年01月31日
【文献】XU, Jian et al.,Evolution of symbiotic bacteria in the distal human intestine,PLOS BIOLOGY,2007年,Vol.5, No.7,e156
【文献】REESE, Elwyn T. et al.,β-D-1,2-GLUCANASES IN FUNGI,Canadian Journal of Microbiology,1961年,Vol.7, No.3,p.309-317
【文献】田中信清 ほか,新規1,2-β-グルカン分解酵素の単離同定及び機能解析,日本農芸化学会2015年度大会講演要旨集,2015年03月05日,2E32p05
【文献】ABE, Koichi et al.,Biochemical and structural analyses of a bacterial endo-β-1,2-glucanase reveal a new glycoside hydr,Journal of Biological Chemistry,2017年03月07日,Vol.292, No.18,p.7487-7506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラバクテロイデス・ディスタソニス由来のエキソ-β-1,2-グルカナーゼを直鎖β-1,2-グルカンに作用させる工程を含むソホロースの製造方法であって、前記エキソ-β-1,2-グルカナーゼが以下の酵素学的性質を有するソホロースの製造方法
(i)基質特異性及び作用特性
直鎖β-1,2-グルカンにエキソ的に作用してソホロースを生成する。
(ii)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5。
(iii)至適温度
pH6.5の条件下で、40℃。
(iv)安定pH
30℃、1時間の条件下で、pH5.5~10で安定。
(v)温度安定性
pH6.5、1時間の条件下で、30℃まで安定。
【請求項2】
下記(a)~(d)から選択されるいずれか1種であるエキソ-β-1,2-グルカナーゼを直鎖β-1,2-グルカンに作用させる工程を含むソホロースの製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1において1~18番目のアミノ酸残基を欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質。
(c)前記(a)又は(b)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質。
(d)前記(a)又は(b)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
前記エキソ-β-1,2-グルカナーゼがパラバクテロイデス・ディスタソニス由来である請求項2に記載のソホロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソホロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロース系バイオマスを原料としてバイオエタノールを製造する際に、トリコデルマ(Trichoderma)属菌が生産するセルラーゼが広く利用されている。トリコデルマ属菌によるセルラーゼの生産効率を向上させるためには、セルラーゼ生産を誘導する成分を培地に添加する必要がある。従来、セルラーゼ生産の誘導効果に優れた成分として、ソホロースが知られている。
【0003】
ソホロースは、2分子のグルコースがβ-1,2結合した希少二糖類であり、天然にはごく僅かしか存在しない。そこで、ソホロースを製造する方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アスペルギルス(Aspergillus)属菌に由来するβ-グルコシダーゼをグルコースに作用させ、ソホロースを製造する方法が開示されている。
非特許文献1には、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)に由来するβ-1,2-オリゴグルカンホスホリラーゼをグルコース及びグルコース-1-リン酸に作用させ、ソホロースを製造する方法が開示されている。
特許文献2には、アクレモニウム(Acremonium)属菌に由来するエンド型のβ-1,2-グルカナーゼをβ-1,2-グルカンに作用させ、ソホロースを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-212883号公報
【文献】特開平2-49583号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Nakajima et al.,PLoS One,9(3),e92353(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来の方法では、目的とするソホロース以外に他のオリゴ糖が多く生成してしまい、ソホロースの収率が低いという問題があった。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、エキソ-β-1,2-グルカナーゼを用いたソホロースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> パラバクテロイデス・ディスタソニス由来のエキソ-β-1,2-グルカナーゼを直鎖β-1,2-グルカンに作用させる工程を含むソホロースの製造方法であって、前記エキソ-β-1,2-グルカナーゼが以下の酵素学的性質を有するソホロースの製造方法
(i)基質特異性及び作用特性
直鎖β-1,2-グルカンにエキソ的に作用してソホロースを生成する。
(ii)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5。
(iii)至適温度
pH6.5の条件下で、40℃。
(iv)安定pH
30℃、1時間の条件下で、pH5.5~10で安定。
(v)温度安定性
pH6.5、1時間の条件下で、30℃まで安定。
【0021】
> 下記(a)~(d)から選択されるいずれか1種であるエキソ-β-1,2-グルカナーゼを直鎖β-1,2-グルカンに作用させる工程を含むソホロースの製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1において1~18番目のアミノ酸残基を欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質。
(c)前記(a)又は(b)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質。
(d)前記(a)又は(b)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質。
【0022】
> 前記エキソ-β-1,2-グルカナーゼがパラバクテロイデス・ディスタソニス由来である<>に記載のソホロースの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、エキソ-β-1,2-グルカナーゼを用いたソホロースの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】組換えBDI_3064タンパク質の分子量をゲル濾過クロマトグラフィーにより算出した結果を示す図である。
図2】組換えBDI_3064タンパク質の分子量をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した結果を示す図である。
図3】直鎖β-1,2-グルカン又は環状β-1,2-グルカンに組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図4】組換えBDI_3064タンパク質のpH依存性及びpH安定性を示す図である。
図5】組換えBDI_3064タンパク質の温度依存性及び温度安定性を示す図である。
図6A】Sop3に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図6B】Sop4に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図6C】Sop5に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図6D】Sop6に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図7A】Lam2に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図7B】Lam3に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図7C】Lam4に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図8A】Cel2に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図8B】Cel3に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図8C】Cel4に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図9】Gen2に組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図10A】Sop5Rに組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図10B】Sop6Rに組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際の反応液を薄層クロマトグラフィーに供した結果を示す図である。
図11】直鎖β-1,2-グルカンに組換えBDI_3064タンパク質を作用させた際のソホロースの反応収率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
アミノ酸配列の記載は左側がN末端側であり、アミノ酸残基は当分野で周知の1文字表記(例えば、グリシン残基であれば「G」)又は3文字表記(例えば、グリシン残基であれば「Gly」)を用いて表記する。
【0026】
<エキソ-β-1,2-グルカナーゼ>
本実施形態の第1の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼは、直鎖β-1,2-グルカンに作用してソホロースを生成するものである。第1の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼの起源は特に制限されず、いかなる起源であってもよい。一例としては、パラバクテロイデス・ディスタソニス(Parabacteroides distasonis)由来のエキソ-β-1,2-グルカナーゼが挙げられる。
【0027】
第1の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼのより詳細な酵素学的性質は、例えば、以下のとおりである。
(i)基質特異性及び作用特性
直鎖β-1,2-グルカンにエキソ的に作用してソホロースを生成する。
(ii)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5。
(iii)至適温度
pH6.5の条件下で、40℃。
(iv)安定pH
30℃、1時間の条件下で、pH5.5~10で安定。
(v)温度安定性
pH6.5、1時間の条件下で、30℃まで安定。
【0028】
また、本実施形態の第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼは、下記(a)~(d)から選択されるいずれか1種である。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1において1~18番目のアミノ酸残基を欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質。
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質。
(d)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質。
【0029】
第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼの起源は特に制限されず、いかなる起源であってもよい。一例としては、パラバクテロイデス・ディスタソニス由来のエキソ-β-1,2-グルカナーゼが挙げられる。
【0030】
上記(a)のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質であり、配列番号2の塩基配列からなる遺伝子によりコードされている。以下、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を「BDI_3064タンパク質」とも記す。
【0031】
BDI_3064タンパク質のより詳細な酵素学的性質は以下のとおりである。
(i)基質特異性及び作用特性
直鎖β-1,2-グルカンにエキソ的に作用してソホロースを生成する。
(ii)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5。
(iii)至適温度
pH6.5の条件下で、40℃。
(iv)安定pH
30℃、1時間の条件下で、pH5.5~10で安定。
(v)温度安定性
pH6.5、1時間の条件下で、30℃まで安定。
【0032】
上記(b)のタンパク質は、配列番号1において1~18番目のアミノ酸残基を欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質である。配列番号1の1~18番目のN末端領域は、シグナルペプチド予測サーバーSignalP4.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP-4.0/)によりシグナルペプチドと判定される。したがって、上記(b)のタンパク質は、全長タンパク質からシグナルペプチドを除いた成熟タンパク質に対応すると考えられる。
【0033】
上記(c)のタンパク質は、上記(a)又は(b)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質である。アミノ酸残基が置換、欠失、又は付加される位置は、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性が維持される限り特に制限されない。また、置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性が維持される限り特に制限されない。置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、例えば、1~70個であってもよく、1~55個であってもよく、1~40個であってもよく、1~25個であってもよく、1~10個であってもよい。
【0034】
任意のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換する場合、通常、置換前後でアミノ酸側鎖の性質が保存されていることが好ましい。アミノ酸側鎖の性質によってアミノ酸を分類する場合、例えば、親水性アミノ酸(D、E、K、R、H、S、T、N、Q);疎水性アミノ酸(A、G、V、I、L、F、Y、W、M、C、P);酸性アミノ酸(D、E);塩基性アミノ酸(K、R、H);脂肪族側鎖を有するアミノ酸(A、G、V、I、L);芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(F、Y、W);硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(M、C);等に分類することができる(括弧内のアルファベットはアミノ酸の一文字表記を示す)。
【0035】
上記(d)のタンパク質は、上記(a)又は(b)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、エキソ-β-1,2-グルカナーゼ活性を有するタンパク質である。上記(a)又は(b)のアミノ酸配列との配列同一性は、92%以上であってもよく、94%以上であってもよく、96%以上であってもよく、98%以上であってもよい。
【0036】
なお、「配列同一性」とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントした場合の配列間の一致性を意味し、例えば、BLASTプログラム(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Blast/cgi)を使用して算出することができる。
【0037】
<ポリヌクレオチド>
本実施形態に係るポリヌクレオチドは、上述した第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼをコードするものである。
【0038】
本実施形態に係るポリヌクレオチドは、DNA、RNA、DNA/RNAキメラのいずれであってもよい。また、本実施形態に係るポリヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。一本鎖の場合、第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼをコードするセンス鎖であってもよく、センス鎖に対して相補的な配列を有するアンチセンス鎖であってもよい。二本鎖の場合、二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA及びRNAハイブリッドのいずれであってもよい。
【0039】
<発現ベクター>
本実施形態に係る発現ベクターは、本実施形態に係るポリヌクレオチドを含むものである。本実施形態に係る発現ベクターは、本実施形態に係るポリヌクレオチドをベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより作製することができる。
【0040】
ベクターの種類としては、プラスミドベクター、ウイルスベクター等があり、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドベクター、枯草菌由来のプラスミドベクター、酵母由来のプラスミドベクター等が挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、SV40ベクター等が挙げられる。
【0041】
プロモーターとしては、trpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター等があり、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。
【0042】
本実施形態に係る発現ベクターは、必要に応じて、エンハンサー、選択マーカー等を、それぞれ機能可能な態様で含んでいてもよい。
【0043】
<形質転換体>
本実施形態に係る形質転換体は、本実施形態に係る発現ベクターが導入されたものである。
【0044】
発現ベクターが導入される宿主としては、細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等がある。細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属菌、バチルス(Bacillus)属菌等が挙げられる。哺乳動物細胞としては、COS-7細胞、CHO細胞、CV-1細胞等が挙げられる。
宿主に発現ベクターを導入する方法としては、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法等が挙げられる。
【0045】
<エキソ-β-1,2-グルカナーゼの製造方法>
本実施形態に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼの製造方法は、本実施形態に係る形質転換体を培養し、培養物から上述した第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを回収する工程を含むものである。
【0046】
形質転換体を培養する培地及び培養条件は特に制限されず、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。培養物から第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを回収する方法は特に制限されず、任意の方法を採用することができる。例えば、形質転換体を破砕した溶解液又は培養液をクロマトグラフィー(アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)、限外濾過膜分離、逆浸透膜分離などに供することで、第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを精製し、回収することができる。なお、第2の態様に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを回収する際には、必要に応じて結晶化を行ってもよい。結晶化方法としては、濃縮、温度低下、溶媒添加(エタノール、メタノール、アセトン等)などが挙げられる。
【0047】
<ソホロースの製造方法>
本実施形態に係るソホロースの製造方法は、本実施形態に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを直鎖β-1,2-グルカンに作用させる工程を含むものである。
【0048】
基質となる直鎖β-1,2-グルカンの重合度は特に制限されない。反応速度の観点から、直鎖β-1,2-グルカンの平均重合度(平均DP)は、4以上であることが好ましい。
【0049】
基質となる直鎖β-1,2-グルカンの調製方法は特に制限されず、任意の方法を採用することができる。
例えば、無機リン酸の存在下、スクロースホスホリラーゼ及びβ-1,2-オリゴグルカンホスホリラーゼをスクロース及びグルコースに作用させることで、直鎖β-1,2-グルカンを得ることができる(K. Abe et al.,J. Appl. Glycosci.,62(2),47-52(2015))。
また、アセトバクター(Acetobacter)属菌の培養上清に含まれる直鎖β-1,2-グルカンをエタノール沈殿により回収し、脱塩することによっても、直鎖β-1,2-グルカンを得ることができる(A. Amemura et al.,J. Gen. Microbiol.,131,301-307(1985))。
【0050】
本実施形態に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼの使用形態は特に制限されず、菌体抽出液、精製酵素、組換え酵素等の種々の使用形態を採用することができる。また、本実施形態に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを固定化したバイオリアクターカラムを用いて、固定化酵素リアクターとして反応を行うことも可能である。
【0051】
本実施形態に係るエキソ-β-1,2-グルカナーゼを直鎖β-1,2-グルカンに作用させる条件は特に制限されない。ソホロースの収率を向上させる観点から、pHはpH5.5~7.0の範囲が好ましく、温度は25~35℃の範囲が好ましい。
【0052】
生成したソホロースは、クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)、限外濾過膜分離、逆浸透膜分離などに供することで、精製し、回収することができる。なお、ソホロースを回収する際には、必要に応じて結晶化を行ってもよい。結晶化方法としては、濃縮、温度低下、溶媒添加(エタノール、メタノール、アセトン等)などが挙げられる。
【0053】
以上のようにして製造されたソホロースは、例えば、トリコデルマ属菌によるセルラーゼの生産効率を向上させるために利用することができる。また、ソホロースは、良質な甘味を示すことに加え、動物はβ-1,2-グリコシド結合を切断する酵素を持たないため、ほぼノンカロリーである。このため、製造されたソホロースを、ダイエット食品等の甘味料として利用することもできる。また、製造されたソホロースを、糖含有分子を製造する際の材料として利用することもできる。さらに、製造されたソホロースを用いて、未知の有用機能を探索することもできる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
以下の実施例で使用する直鎖β-1,2-グルカン、環状β-1,2-グルカン、重合度nのβ-1,2-グルコオリゴ糖(以下、「Sopn」とも記す。)、及びSopnの還元末端をアルコール化したSopnRは、それぞれ次のようにして合成した。
【0056】
平均重合度25及び77の直鎖β-1,2-グルカンは、リステリア・イノキュア由来のβ-1,2-オリゴグルカンホスホリラーゼを用いて、既報に従って合成した(K. Abe et al.,J. Appl. Glycosci.,62(2),47-52(2015);M. Nakajima et al.,PLoS One,9(3),e92353(2014))。
【0057】
環状β-1,2-グルカンは、以下のように合成した。
まず、リゾビウム・レグミノサルム・トリフォリイ(Rhizobium reguminosarum trifolii)(NBRC(IFO)13338)を500mLの培地(0.5w/v% マンニトール、0.1w/v% 酵母エキス、0.1w/v% MgSO、0.07w/v% KHPO、0.01w/v% KHPO)に播種し、25℃で培養した。培地を遠心分離(15000rpm、10分間)して培養上清を回収した後、濃縮した。次いで、アセトンを終濃度30v/v%となるように加えて上清を回収し、さらにアセトンを終濃度90v/v%となるよう加えて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を水に溶解した後、精製イオン交換樹脂(アンバーライトMB-4、オルガノ(株))で脱塩し、ゲル濾過クロマトグラフィー(カラム:XK100(GE Healthcare)、担体:HW-40F(東ソー(株)))に供した。環状β-1,2-グルカンを含む画分を回収し、凍結乾燥して300μLの水に再溶解した。
【0058】
得られた環状β-1,2-グルカンは、直鎖β-1,2-グルカンに作用するが環状β-1,2-グルカンには作用しないβ-1,2-グルコシダーゼ(KEGG遺伝子ID:BT_3567)によって分解されず、エンド-β-1,2-グルカナーゼによって分解されることを確認した。
【0059】
Sopnは、リステリア・イノキュア由来のβ-1,2-オリゴグルカンホスホリラーゼを用いて、既報に従って合成した(M. Nakajima et al.,PLoS One,9(3),e92353(2014))。
【0060】
SopnRは、Sopnを水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)で処理することにより合成した。より具体的には、10w/v% Sopn溶液(40μL)に1M NaBH(20μL)を加え、室温で5分間以上静置した。この溶液に3M 酢酸(15μL)を加えた後、2-プロパノールを1mL加えて氷上に5分間静置し、生成した沈殿物を遠心分離(15000rpm、4分間)により回収した。沈殿物を少量の水に溶解した後、2-プロパノールを1mL加え、得られた沈殿物を風乾することにより、SopnRを得た。
【0061】
<実施例1:組換えBDI_3064タンパク質の製造>
まず、パラバクテロイデス・ディスタソニス(DSM20701)のゲノムDNA(Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)を鋳型として、PCR法によりBDI_3064遺伝子を増幅した。PCR用酵素としては、KOD-Plus-(東洋紡(株))を用いた。フォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列は以下のとおりである。塩基配列中の下線部は、制限酵素NdeI及びXhoIの認識部位を示す。
フォワードプライマー:5’-CAGCTTGCATATGGTGGAGAAACCTTAC-3’(配列番号3)
リバースプライマー:5’-GCACTCGAGTTTTATGGATTGAATCTTTTG-3’(配列番号4)
【0062】
得られたPCR増幅産物は、High PCR Product Purification kit(Roche Applied Science)を用いて精製した。
【0063】
次いで、pET30aベクター(Novagen)の制限酵素NdeI及びXhoIの切断部位にPCR増幅産物を挿入(ライゲーション)し、発現ベクターを得た。ライゲーション用キットとしては、Ligation high Ver.2(東洋紡(株))を用いた。
【0064】
得られた発現ベクターにより発現されるタンパク質(組換えBDI_3064タンパク質)のアミノ酸配列を配列番号5に示し、塩基配列を配列番号6に示す。配列番号5のC末端側の8個のアミノ酸残基(LeuGluHisHisHisHisHisHis)は、pET30aベクターに由来するタグペプチド部分である。
【0065】
次いで、得られた発現ベクターを大腸菌Rosetta 2(DE3)に導入して形質転換し、形質転換体を得た。この形質転換体を30μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に播種し、37℃で培養した。培地の波長600nmにおけるOD値が0.8に達するまで培養した後、イソプロピル-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.1mMとなるように加え、20℃で一晩培養した。
【0066】
次いで、培養後の形質転換体を遠心分離(5000rpm、10分間)により回収し、300mM NaClを含む50mM MOPSバッファー(pH7.0)で懸濁した。懸濁した形質転換体を超音波破砕した後、遠心分離(15000rpm、15分間)して上清を回収した。回収した上清を、平衡バッファー(50mM MOPSバッファー(pH7.0)、300mM NaCl)により平衡化したHisTrap FF crudeカラム(GE Healthcare)にアプライし、洗浄バッファー(50mM MOPSバッファー(pH7.0)、300mM NaCl、10mM イミダゾール)で洗浄した。洗浄後、10~300mMのイミダゾールの直線濃度勾配により、目的の組換えBDI_3064タンパク質を溶出させた。その後、Amicon Ultra 30,000 molecular weight cut-off(Merck Millipore)を用いて組換えBDI_3064タンパク質を濃縮し、50mM MOPSバッファー(pH7.0)にバッファー交換した。
【0067】
なお、以降の実験において、組換えBDI_3064タンパク質のタンパク質濃度は、組換えBDI_3064タンパク質の理論モル吸光係数(187855M-1・cm-1)を用いて、波長280nmにおける吸光度に基づいて算出した。
【0068】
<実施例2:組換えBDI_3064タンパク質の分子量の測定>
実施例1においてHisTrap FF crudeカラムにより精製した組換えBDI_3064タンパク質を、UnoQカラム(Bio-Rad)により精製した。そして、UnoQカラムにより精製した組換えBDI_3064タンパク質1.0mgを、平衡バッファー(20mM MESバッファー(pH6.5)、150mM NaCl)により平衡化したSuperdex200(Hiload 16/60、GE Healthcare)にアプライし、ゲル濾過クロマトグラフィーにより組換えBDI_3064タンパク質の分子量を測定した。標準タンパク質としては、オボアルブミン(45kDa)、コンアルブミン(75kDa)、アルドラーゼ(158kDa)、フェリチン(440kDa)、及びサイログロブリン(669kDa)を用いた。
【0069】
ゲル濾過クロマトグラフィーの結果を図1に示す。図1において、横軸は分配係数(Kav)を示し、縦軸は分子量(log10(Da))を示す。図1に示すとおり、組換えBDI_3064タンパク質の分子量は約114kDaと算出された。この結果から、組換えBDI_3064タンパク質は単量体であることが分かる。
【0070】
次いで、精製前の粗タンパク質、HisTrap FF crudeカラムによる精製後のタンパク質、UnoQカラムによる精製後のタンパク質、及びゲル濾過クロマトグラフィーによる分離後のタンパク質について、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ゲル濃度:11w/v%)により分子量を測定した。
【0071】
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図2に示す。図2において、Mは分子量マーカー(Precision Plus Protein unstained standards(Bio-Rad))を示し、レーン1は精製前の粗タンパク質を示し、レーン2はHisTrap FF crudeカラムによる精製後のタンパク質を示し、レーン3はUnoQカラムによる精製後のタンパク質を示し、レーン4はゲル濾過クロマトグラフィーによる分取後のタンパク質を示す。図2に示すとおり、組換えBDI_3064タンパク質の分子量は約80kDaであった。
【0072】
<実施例3:組換えBDI_3064タンパク質の作用特性の確認>
平均重合度25の直鎖β-1,2-グルカン及び環状β-1,2-グルカンのそれぞれを基質として、以下のように組換えBDI_3064タンパク質の作用特性を確認した。
【0073】
まず、0.2w/v% 直鎖β-1,2-グルカン又は0.2w/v% 環状β-1,2-グルカンを含む20mM MESバッファー(pH6.5)中に組換えBDI_3064タンパク質を終濃度0.625mg/mLとなるように添加し、30℃で反応させた(反応液50μL)。反応開始から0分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、5時間後に反応液を5μLずつサンプリングし、各サンプルを100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0074】
次いで、各サンプルを薄層クロマトグフィー(TLC)に供した。具体的には、各サンプルをTLCシリカゲル60 F254プレート(Merck)に1.0μLずつスポットし、風乾させた後、展開液(アセトニトリル:水=3:1(体積比))により展開した。次いで、プレートを5w/v% 硫酸を含むエタノール溶液に浸漬した後、糖が検出されるまでオーブンで熱した。
【0075】
薄層クロマトグフィーの結果を図3に示す。図3において、Mは25mMのSop2を0.4μLスポットしたものである。図3に示すとおり、直鎖β-1,2-グルカンを基質とした場合には時間経過に従って遊離したSop2の量が増加したが、環状β-1,2-グルカンを基質とした場合にはSop2が遊離しなかった。この結果から、組換えBDI_3064タンパク質は、直鎖β-1,2-グルカンを2糖ずつエキソ的に分解するエキソ-β-1,2-グルカナーゼであることが分かる。
【0076】
<実施例4:組換えBDI_3064タンパク質のpH及び温度プロフィールの確認>
組換えBDI_3064タンパク質のpH及び温度プロフィールは、以下のような手順で確認した。まず、組換えBDI_3064タンパク質によりSop4を分解し、分解産物をアーモンド由来β-グルコシダーゼ(オリエンタル酵母工業(株))で分解する。アーモンド由来β-グルコシダーゼは、Sop2にのみ作用しグルコースまで分解するが、重合度nが3以上のSopnには作用しない。このため、組換えBDI_3064タンパク質により生成したSop2のみがグルコースまで分解される。生成したグルコースをGOPOD(グルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ)法で定量することにより反応速度を決定し、この反応速度を酵素活性とする。
【0077】
pH依存性を確認する際には、3mM Sop4、3.25μg/mL 組換えBDI_3064タンパク質、及び20mM 各種バッファー(クエン酸バッファー(pH3.0~5.5)、MESバッファー(pH5.5~6.5)、MOPSバッファー(pH6.5~7.5)、HEPPSOバッファー(pH7.5~8.5)、ビシンバッファー(pH8.5~9.0))を混合した反応液を30℃で15分間反応させた後、100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0078】
pH安定性を確認する際には、3.25μg/mL 組換えBDI_3064タンパク質及び20mM 各種バッファー(クエン酸バッファー(pH3.0~5.5)、MESバッファー(pH5.5~6.5)、MOPSバッファー(pH6.5~7.5)、HEPPSOバッファー(pH7.5~8.5)、ビシンバッファー(pH8.5~9.0))を混合した混合液を30℃で1時間インキュベートした。そして、3mM Sop4、20mM MESバッファー(pH6.5)、及びインキュベート後の混合液(反応液の1/10量)を混合した反応液を30℃で15分間反応させた後、100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0079】
温度依存性を確認する際には、3mM Sop4、3.25μg/mL 組換えBDI_3064タンパク質、及び20mM MESバッファー(pH6.5)を混合した反応液を各温度で15分間反応させた後、100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0080】
温度安定性を確認する際には、3.25μg/mL 組換えBDI_3064タンパク質及び20mM MESバッファー(pH6.5)を混合した混合液を各温度で1時間インキュベートした。そして、3mM Sop4、20mM MESバッファー(pH6.5)、及びインキュベート後の混合液(反応液の1/10量)を混合した反応液を30℃で15分間反応させた後、100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0081】
そして、反応停止後の溶液と、1.0mg/mL アーモンド由来β-グルコシダーゼを含む200mM 酢酸バッファー(pH5.0)とを等量混合し、50℃で2時間インキュベートした。このインキュベート後の溶液とGOPOD試薬(Megazyme)とを1:6の体積比で混合し、45℃で20分間インキュベートした。反応後、波長510nmにおける吸光度を測定することによりグルコース濃度を定量し、酵素活性を評価した。
【0082】
組換えBDI_3064タンパク質のpH依存性及びpH安定性の結果を図4に示す。図4において、実線はpH依存性を示し、破線はpH安定性を示す。図4に示すとおり、組換えBDI_3064タンパク質は、30℃、1時間の条件下で、pH5.5~10で安定であった。至適pHは、30℃の条件下で、pH6.5であった。
【0083】
また、組換えBDI_3064タンパク質の温度依存性及び温度安定性の結果を図5に示す。図5において、実線は温度安定性を示し、破線は温度依存性を示す。図5に示すとおり、組換えBDI_3064タンパク質の至適温度は、pH6.5の条件下で、40℃であった。また、組換えBDI_3064タンパク質は、pH6.5、1時間の条件下で、30℃まで安定であった。
【0084】
<実施例5:組換えBDI_3064タンパク質の各種多糖に対する基質特異性の確認>
各種多糖、0.1mg/mL 組換えBDI_3064タンパク質、及び50mM MESバッファー(pH6.5)を混合した反応液を30℃で24時間反応させた後、100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。多糖としては、平均重合度25の直鎖β-1,2-グルカン、リケナン、ラミナリン、アラビノガラクタン、パキマン、カルボキシメチル化カードラン(CM-カードラン)、カルボキシメチル化パキマン(CM-パキマン)、グルコマンナン、タマリンドキシログルカン、ポリガラクツロン酸、カルボキシメチルセルロース(CM-セルロース)、ヒドロキシエチルセルロース、及びアラビナンを用いた。そして、直鎖β-1,2-グルカンを基質とした場合にはGOPOD法により酵素活性を測定し、その他の多糖を基質とした場合にはPAHBAH(p-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド)法により酵素活性を測定した。
【0085】
直鎖β-1,2-グルカンに対する比活性を100%としたときの、各多糖に対する相対活性(%)を下記表1に示す。表1において、「N.D.」は相対活性が0.2%未満であることを示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1の結果から、組換えBDI_3064タンパク質は、各種多糖の中でも直鎖β-1,2-グルカンに対して高い基質特異性を示すことが分かる。
【0088】
<実施例6:組換えBDI_3064タンパク質の各種オリゴ糖に対する基質特異性の確認>
まず、0.2w/v% 各種オリゴ糖、0.325mg/mL 組換えBDI_3064タンパク質、及び50mM MESバッファー(pH6.5)を混合した反応液を30℃で反応させた。オリゴ糖としては、Sop3、Sop4、Sop5、Sop6、ラミナリビオース(Lam2)、ラミナリトリオース(Lam3)、ラミナリテトラオース(Lam4)、セロビオース(Cel2)、セロトリオース(Cel3)、セロテトラオース(Cel4)、及びゲンチオビオース(Gen2)を用いた。Sop4、Sop5、Sop6を基質とした場合には、反応開始から0分後、2.5分後、5分後、7.5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後に反応液をサンプリングし、各サンプルを100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。その他のオリゴ糖を基質とした場合には、反応開始から0時間後、1時間後、6時間後、24時間後に反応液をサンプリングし、各サンプルを100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0089】
次いで、各サンプルを薄層クロマトグフィー(TLC)に供した。具体的には、各サンプルをTLCシリカゲル60 F254プレート(Merck)に1.0μLずつスポットし、風乾させた後、展開液(アセトニトリル:水=3:1(体積比))により展開した。次いで、プレートを5w/v% 硫酸を含むエタノール溶液に浸漬した後、糖が検出されるまでオーブンで熱した。
【0090】
薄層クロマトグフィーの結果を図6A図9に示す。図6A図6Dにおいて、MはマーカーとしてのSopn(n=1~7)を示し、プレート上の数字はSopnの重合度である。図7A図7Cにおいて、MはマーカーとしてのLam2、Lam3、Lam4、及びグルコース(Glc)を示す。図8A図8Cにおいて、MはマーカーとしてのCel2、Cel3、Cel4、及びGlcを示す。図9において、MはマーカーとしてのGen2及びGlcを示す。図6A図9に示すとおり、組換えBDI_3064タンパク質は、各種オリゴ糖の中でもSopnに対して、特に重合度が4以上のSopnに対して高い基質特異性を示した。
【0091】
<実施例7:組換えBDI_3064タンパク質の反応速度論的解析>
0.25~4.0mMのSop4に対して3.3μg/mLの組換えBDI_3064タンパク質を30℃にて反応させた。分解産物をアーモンド由来β-グルコシダーゼで分解し、生成したグルコースをGOPOD法で定量し、Sop2当量に変換した。反応速度論量は、データ解析プログラム(KaleidaGraph ver.3.51、(株)ヒューリンクス)にて、実験値を下記式(1)のミカエリス-メンテン式にフィッティングすることにより算出した。式(1)中、Kはミカエリス定数を示し、kcatは触媒活性を示し、[S]は基質濃度を示し、[E]は全酵素濃度を示す。
【0092】
【数1】
【0093】
0.3~4mMのSop5、及び0.05~0.5mMの直鎖β-1,2-グルカン(平均重合度77)に対しても同様に組換えBDI_3064タンパク質を反応させ、反応速度論量を算出した。反応速度論量の算出結果を下記表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2の結果から、重合数が少ないほどkcat/Kの値が大きく、反応が速くなることが分かる。
【0096】
<実施例8:組換えBDI_3064タンパク質の分解方向の確認>
まず、0.2w/v% Sop5R又はSop6R、組換えBDI_3064タンパク質、及び50mM MESバッファー(pH6.5)を混合した反応液を30℃で反応させた。組換えBDI_3064タンパク質の濃度は、Sop5Rについては6.5μg/mL、Sop6Rについては33μg/mLとした。反応開始から0分後、2.5分後、5分後、7.5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後に反応液をサンプリングし、各サンプルを100℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止させた。
【0097】
次いで、各サンプルを薄層クロマトグフィー(TLC)に供した。具体的には、各サンプルをTLCシリカゲル60 F254プレート(Merck)に1.0μLずつスポットし、風乾させた後、展開液(アセトニトリル:酢酸:2-プロパノール:水=17:4:4:3(体積比))により2回展開した。次いで、プレートを5w/v% 硫酸を含むエタノール溶液に浸漬した後、糖が検出されるまでオーブンで熱した。
【0098】
薄層クロマトグフィーの結果を図10A及び図10Bに示す。図10A及び図10Bにおいて、M1はマーカーとしてのSopn(n=1~7)を示し、M2はマーカーとしてのSopnR(n=2、4、6、8)を示し、M3はマーカーとしてのSopnR(n=3、5、7、9)を示し、プレート上の数字はSopn又はSopnRの重合度である。図10A及び図10Bに示すとおり、Sop5Rを基質とした場合とSop6Rを基質とした場合とのいずれも、共通の生成物としてSop2が確認された。この結果から、組換えBDI_3064タンパク質は、直鎖β-1,2-グルカンを非還元末端側から2糖ずつエキソ的に分解することが分かる。
【0099】
<実施例9:組換えBDI_3064タンパク質を用いたソホロースの製造(1)>
平均重合度25の直鎖β-1,2-グルカンと組換えBDI_3064タンパク質とを反応させた際のソホロースの反応収率を、1.5mLチューブスケール(反応液量1mL)で求めた。
【0100】
まず、0.34w/v% 直鎖β-1,2-グルカン、3.25μg/mL 組換えBDI_3064タンパク質、及び20mM MESバッファー(pH6.5)を混合した反応液1mLを30℃で反応させた。反応中に反応液の一部をサンプリングし、サンプルを100℃で5分間加熱して酵素反応を停止させた後、10倍希釈した。次いで、希釈後の反応液と1.0mg/mL アーモンド由来β-グルコシダーゼを含む200mM 酢酸バッファー(pH5.0)とを等量混合し、50℃で2時間インキュベートを行った後、グルコース濃度をGOPOD法で定量した(このときのグルコース濃度を「第1のグルコース濃度」という)。また、希釈後の反応液と200mM 酢酸バッファー(pH5.0)とを等量混合した混合液中のグルコース濃度をGOPOD法で定量した(このときのグルコース濃度を「第2のグルコース濃度」という)。そして、第1のグルコース濃度から第2のグルコース濃度を減算した値に基づいて、ソホロース濃度を算出した。
【0101】
ソホロースの反応収率の測定結果を図11に示す。図11に示すとおり、反応開始から約12時間の段階で、ソホロースの反応収率は約90%という極めて高い値を示し、副産物としてのグルコースは殆ど生成しなかった。
【0102】
<実施例10:組換えBDI_3064タンパク質を用いたソホロースの製造(2)>
平均重合度25の直鎖β-1,2-グルカンと組換えBDI_3064タンパク質とを500mLスケールで反応させ、ソホロースを製造した。
【0103】
まず、0.34w/v% 直鎖β-1,2-グルカン、0.15mg/mL 組換えBDI_3064タンパク質、及び5mM リン酸バッファー(pH6.5)を混合した反応液500mLを30℃で反応させた。40時間後、反応液を100℃で5分間加熱して酵素反応を停止させた。
【0104】
次いで、反応液をフィルター(Millex-GP、孔径0.22μm、Merck Millipore)に通すことにより沈殿したタンパク質を除去し、その後、精製イオン交換樹脂(アンバーライトMB-4、オルガノ(株))で脱塩した(この時点で凍結乾燥すると1.7g)。脱塩後の反応液を濃縮した後、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー(カラム:XK100(GE Healthcare)、担体:HW-40F(東ソー(株)))に供し、ソホロースを含む画分を回収した。回収した液を凍結乾燥したところ、ソホロースの収量は1.2gであった。
【0105】
2017年4月18日に出願された日本出願2017-082216の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11
【配列表】
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