(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ、及び、シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/324 20060101AFI20220617BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20220617BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20220617BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
H01L21/324 X
H01L21/322 Y
C30B33/02
C30B29/06 B
(21)【出願番号】P 2020108627
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】須藤 治生
(72)【発明者】
【氏名】石川 高志
(72)【発明者】
【氏名】泉妻 宏治
(72)【発明者】
【氏名】松村 尚
(72)【発明者】
【氏名】青木 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 悦生
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032810(JP,A)
【文献】特開2008-207991(JP,A)
【文献】特開2013-143504(JP,A)
【文献】特開2010-040587(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208582(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/016586(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 21/322
C30B 33/02
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度が0.5×10
18
/cm
3
以上、1.5×10
18
/cm
3
以下の単結晶シリコンのインゴットをスライスしたチョクラルスキーウェーハ(1)であって、
表面から深さ300nmまでの表面層(2)における酸素濃度が
2.5×10
18
/cm
3
以上であるシリコンウェーハ。
【請求項2】
表面から深さ30μmまでの領域において、サイズ15nm以上のボイド欠陥の密度が1×10
6/cm
3以下であり、かつ、球形換算での直径が15nm以上の酸素析出物の密度が1×10
6/cm
3以下である請求項
1に記載のシリコンウェーハ。
【請求項3】
深さ100μmから厚み中心までの空孔濃度が1×10
12/cm
3以上である請求項1
又は2に記載のシリコンウェーハ。
【請求項4】
前記単結晶シリコンの空孔濃度C
Vと格子間シリコン原子濃度C
Iの濃度差C
V-C
Iが、-2.0×10
12/cm
3以上、6.0×10
12/cm
3以下の範囲内である請求項1から
3のいずれか1項に記載のシリコンウェーハ。
【請求項5】
酸素濃度が0.5×10
18
/cm
3
以上、1.5×10
18
/cm
3
以下のチョクラルスキー法で育成された単結晶シリコンのインゴットをスライスして得られたシリコンウェーハ(1)に対し、酸化性雰囲気下において、1315℃以上1375℃以下の範囲内の最高温度に5秒以上30秒以下の間保持した後に、前記最高温度から1100℃まで50℃/秒以上150℃/秒以下の冷却速度で冷却し、前記冷却後に、酸素濃度が
2.5×10
18
/cm
3
以上となる深さまで表
面を除去
し、表面から深さ300nmまでの表面層(2)における酸素濃度を2.5×10
18
/cm
3
以上とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記最高温度が1325℃以上1350℃以下の範囲内である請求項
5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記酸化性雰囲気が酸素雰囲気であって、その酸素分圧が1%以上100%以下の範囲内である請求項
5又は6に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項8】
800℃以上1000℃以下の範囲内で1時間以上4時間以下の範囲内で熱処理を行い、深さ100μmから厚み中心までの領域内に、球形換算での直径が15nm以上の酸素析出物を1×10
8/cm
3以上の密度で形成した請求項
5から7のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記酸化性雰囲気での熱処理によって、深さ100μmから厚み中心までの空孔濃度が1×10
12/cm
3以上となるよう空孔を導入する請求項
5から8のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項10】
前記単結晶シリコンの空孔濃度C
Vと格子間シリコン原子濃度C
Iの濃度差C
V-C
Iが、-2.0×10
12/cm
3以上、6.0×10
12/cm
3以下の範囲内となるよう空孔及び格子間シリコン原子を導入する請求項
5から9のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表層に半導体デバイスが形成されるシリコンウェーハ、及び、そのシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ等の半導体デバイスのリーク電流の抑制等を目的として、従来の平面構造に代わって、ピラーやフィン等の三次元構造が形成された半導体デバイスの開発が近年進められている。この半導体デバイスは、チョクラルスキー法で育成されたシリコンインゴットをスライスしたウェーハの表面にシリコンのエピタキシャル層を形成したエピタキシャルウェーハを使用するのが一般的である。
【0003】
ところが、デバイス構造がナノレベルまで微細化されるのに伴って、シリコンからなるピラーやフィン等を熱酸化してその表面にゲート酸化膜を形成する工程において、ピラーやフィン等からシリコン原子が放出されるシリコンミッシング現象が顕著となっている。このシリコンミッシング現象が生じると、ピラーやフィン等の芯部が細くなって倒壊したり、芯部とゲート酸化膜の境界面に凹凸が生じて電気抵抗が大きくなったりする問題があった。
【0004】
本願の発明者は、例えば下記特許文献1に示すように、これまでの実験結果から、ウェーハの表面近傍の酸素濃度が高いほどシリコンミッシング現象を低減し得るという結論に至り、表面層の酸素濃度が低いエピタキシャルウェーハに代えてポリッシュドウェーハを用い、その表面の酸素濃度を高めることを試みた。表面の酸素濃度を高める手法としては、例えば下記特許文献2に示すように、酸素含有雰囲気下における急速昇降温熱処理によってウェーハの表面層に格子間酸素原子を導入する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際特許出願2019/017326号公報
【文献】特開2013-143504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構成においては、ウェーハの表面層の酸素濃度が約1×1018/cm3程度の一般的なウェーハの中では比較的高酸素濃度のものを使用することで、シリコンミッシング現象の一定の抑制効果は確認できたが、まだ改良の余地が残されている。特許文献2に記載の方法によると、ウェーハ表面からの酸素の内方拡散によって、表面から所定深さに酸素濃度のピークが形成される一方で、表面近傍には降温中の酸素の外方拡散に伴う酸素濃度の相対的に低い領域が形成される。一般的に、半導体デバイスはウェーハの表面層に形成されるため、酸素の外方拡散の影響を受けたシリコンミッシング現象により、三次元構造のデバイスの製造に適さないという問題が依然として残る。
【0007】
そこで、この発明は、微細な三次元構造を有する半導体デバイスの製造に適したシリコンウェーハ、及び、そのシリコンウェーハの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
シリコンからなるチョクラルスキーウェーハであって、
バルク層の酸素濃度が、0.5×1018/cm3以上であり、
表面から深さ300nmまでの表面層における酸素濃度が2×1018/cm3以上であるシリコンウェーハを構成した。
【0009】
バルク層の酸素濃度を上記の範囲とすることにより、この格子間酸素によって、ウェーハ製造プロセス及びデバイス製造プロセスにおけるスリップ転位の発生を防止することができる。しかも、表面層の酸素濃度を上記の範囲とすることによって、シリコンミッシング現象を効果的に抑制でき、ピラーやフィン等の倒壊等を防止することができる。
【0010】
前記構成においては、表面から深さ300nmまでの表面層における酸素濃度が2.5×1018/cm3以上とするのが好ましい。
【0011】
表面層の酸素濃度を上記の範囲とすると、シリコンミッシング現象の抑制効果を一層高めることができる。
【0012】
前記構成においては、表面から深さ30μmまでの領域において、サイズ15nm以上のボイド欠陥の密度が1×106/cm3以下であり、かつ、球形換算での直径が15nm以上の酸素析出物の密度が1×106/cm3以下とするのが好ましい。
【0013】
上記サイズ以上のボイド欠陥の密度を上記の範囲とすると、このボイド欠陥に起因して、三次元立体構造としたピラーやフィン等のゲート酸化膜の耐圧特性が低下するのを防止することができる。さらに、上記直径以上の酸素析出物の密度を上記の範囲とすると、この酸素析出物からのスリップ転位の発生に起因して局所的にウェーハが変形し、三次元構造体の形状精度が低下するのを防止することができる。
【0014】
前記構成においては、深さ100μmから厚み中心までの空孔濃度が1×1012/cm3以上とするのが好ましい。
【0015】
空孔濃度を上記の範囲とすると、デバイス製造プロセス中に上記の深さ領域に酸素析出物が形成される。この酸素析出物は、金属不純物のゲッタリング効果を有するため、デバイス形成領域における電気特性を向上することができる。
【0016】
前記構成においては、前記単結晶シリコンの空孔濃度CVと格子間シリコン原子濃度CIの濃度差CV-CIが、-2.0×1012/cm3以上、6.0×1012/cm3以下の範囲内とするのが好ましい。
【0017】
ここで、濃度差CV-CIが負のときは格子間シリコン原子が優勢に残留し、正のときは空孔が優勢に残留していることを意味する。濃度差CV-CIの範囲を上記のように限定する、すなわち、一般的に無欠陥領域と呼ばれるシリコンウェーハを用いると、格子間酸素濃度を過飽和状態としたウェーハ表面直下の領域において、シリコン単結晶の育成時に導入されたGrown-in欠陥が残留するのを防止することができる。この濃度差CV-CIの値は、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと固液界面近傍(シリコンの融点から約1350℃までの温度範囲)における温度勾配Gの比V/Gを制御することによって調節することが可能である。
【0018】
また、この発明においては、
チョクラルスキー法で育成された単結晶シリコンのインゴットをスライスして得られたシリコンウェーハに対し、酸化性雰囲気下において、1315℃以上1375℃以下の範囲内の最高温度に5秒以上30秒以下の間保持した後に、前記最高温度から1100℃まで50℃/秒以上150℃/秒以下の冷却速度で冷却し、前記冷却後に、酸素濃度が2×1018/cm3以上となる深さまで表面層を除去するシリコンウェーハの製造方法を構成した。
【0019】
上記の温度範囲で所定時間の間保持することによって、ピラーやフィン等の三次元立体構造においてシリコンミッシング現象を効果的に防止することができる過飽和の格子間酸素(2×1018/cm3以上)を導入することができる。また、上記の冷却速度の範囲内で冷却することにより、冷却中における格子間酸素の外方拡散を極力抑制することができる。さらに、上記の深さまで表面層を除去することにより、表面のデバイス形成領域に高酸素領域が露出し、シリコンミッシング現象の抑制効果を確実に発揮させることができる。
【0020】
前記構成においては、前記最高温度が1325℃以上1350℃以下の範囲内とするのが好ましい。
【0021】
上記の温度範囲で保持することにより、熱応力に起因するスリップを抑制しつつ、シリコンミッシング現象を効果的に防止することができる過飽和の格子間酸素を確実に導入することができる。
【0022】
前記構成においては、前記酸化性雰囲気が酸素雰囲気であって、その酸素分圧が1%以上100%以下の範囲内とするのが好ましい。
【0023】
酸素分圧を上記の範囲内とすると、シリコンウェーハに格子間酸素を効果的に導入することができる。
【0024】
前記構成においては、800℃以上1000℃以下の範囲内で1時間以上4時間以下の範囲内で熱処理を行い、深さ100μmから厚み中心までの領域内に、球形換算での直径が15nm以上の酸素析出物を1×108/cm3以上の密度で形成するのが好ましい。
【0025】
上記の温度及び時間の範囲内で熱処理を行うことにより、上記の直径及び密度の酸素析出物をシリコンウェーハ内に確実に導入して、金属不純物のゲッタリング効果を付与することができる。
【0026】
前記構成においては、前記酸化性雰囲気での熱処理によって、深さ100μmから厚み中心までの空孔濃度が1×1012/cm3以上となるよう空孔を導入するのが好ましい。
【0027】
空孔濃度を上記の範囲とすると、既述の通り、デバイス製造プロセス中に上記の深さ領域に酸素析出物が形成され、この酸素析出物による金属不純物のゲッタリング効果によって、デバイス形成領域における電気特性を向上することができる。
【0028】
前記構成においては、前記単結晶シリコンの空孔濃度CVと格子間シリコン原子濃度CIの濃度差CV-CIが、-2.0×1012/cm3以上、6.0×1012/cm3以下の範囲内となるよう空孔及び格子間シリコン原子を導入するのが好ましい。
【0029】
前記単結晶シリコンにおける空孔と格子間シリコンの濃度差CV-CIの範囲を、-2.0×1012/cm3以上、6.0×1012/cm3以下に限定することにより、既述の通り、格子間酸素濃度を過飽和状態としたウェーハ表面直下の領域において、シリコン単結晶の育成時に導入されたGrown-in欠陥が残留するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0030】
上記のこの発明によると、微細な三次元構造を有する半導体デバイスの製造に適したシリコンウェーハ、及び、そのシリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】この発明に係るシリコンウェーハの断面構造を模式的に示す図
【
図2】
図1に示すシリコンウェーハの酸素濃度プロファイルを示す図
【
図3】
図1に示すシリコンウェーハの空孔濃度プロファイルを示す図
【
図4】急速昇降温熱処理の終了後における酸素濃度プロファイル(シミュレーション結果)を示す図
【
図5】表層を研磨した後の酸素濃度プロファイル(シミュレーション結果)を示す図
【
図6】酸素濃度プロファイルのシミュレーション結果と実測結果の対比を示す図
【
図7】急速昇降温熱処理の最高温度と酸素濃度の関係を示す図
【
図8】急速昇降温熱処理の最高温度と空孔濃度の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明に係るシリコンウェーハ(以下、ウェーハ1と称する。)の断面構造を
図1に、
図1に示すウェーハ1の酸素濃度プロファイルを
図2に、空孔濃度プロファイルを
図3にそれぞれ示す。このウェーハ1は、チョクラルスキー法で育成された単結晶シリコンインゴットをスライスしたチョクラルスキーウェーハに対し後述する所定の熱処理等を施したものであって、主に、ピラーやフィン等の三次元構造が形成された半導体デバイスに用いられる。このウェーハ1は、表面から深さ300nmまでの領域である表面層2と、この表面層2よりも深い領域であるバルク層3とを有している。なお、
図1においては、表面から約150μmの深さまでの領域のみを示している。
【0033】
このチョクラルスキーウェーハは、チョクラルスキー法で育成したシリコンインゴットをスライスした上で、表面改質のための所定の熱処理を行ったものである。このシリコンインゴットは、育成時に使用する石英ルツボから溶出した酸素を格子間酸素として結晶内に含んでいる。この格子間酸素は、上記の熱処理によってウェーハの表面から外方拡散するが、表面層2には所定量の格子間酸素が残留している。このように、表面層2に格子間酸素が存在する点において、チョクラルスキーウェーハの表面に化学蒸着法(CVD法)によってシリコンをエピタキシャル成長させた、表面層に格子間酸素がほとんど存在しないエピタキシャルウェーハと相違する。
【0034】
表面層2は、三次元構造が形成されるデバイス領域である。すなわち、デバイスは、ウェーハ1の表面から深さ300nmの領域内に形成される。この表面層2における格子間酸素濃度は、2×1018/cm3以上とされ、より好ましくは2.5×1018/cm3以上とされる。この格子間酸素は、後述するように、酸素雰囲気下における急速昇降温熱処理によって導入される。この酸素濃度が高いほど、三次元構造を形成する際におけるシリコンミッシング現象を低減する効果が高まるが、その濃度を2×1018/cm3以上とすることで、デバイス形成に悪影響を与えない程度の所定の低減効果が発揮される。この格子間酸素濃度は、シリコンにおける酸素の平衡濃度(固溶度)の上限である4×1018/cm3まで高めることができる。
【0035】
バルク層3は、表面層2よりもウェーハ1の厚さ方向に深い領域、すなわち、ウェーハ1の深さ300nmよりもさらに深い領域に位置する。このバルク層3における格子間酸素濃度は、0.5×1018/cm3以上とされる。この酸素濃度が高いほど、ウェーハ製造熱処理やデバイス製造熱処理の際に発生したスリップ転位を固着する効果が高まるが、その濃度を0.5×1018/cm3以上とすることで、ウェーハ1の局所的な変形を生じない程度の所定の効果が発揮される。その一方で、バルク層3における格子間酸素濃度は、1.5×1018/cm3以下とするのが好ましい。このように格子間酸素濃度の範囲を限定すると、表面層2とバルク層3の界面近傍で酸素析出物の異常析出が抑制され、ラッチアップ現象等のデバイス特性に係る不具合を防止することができる。
【0036】
ウェーハ1の表面から深さ30μmまでの領域においては、ボイド欠陥の密度が1×106/cm3以下とされる。このボイド欠陥は、シリコンインゴットの育成時に結晶内に導入された空孔が凝集することによって生じる空洞欠陥である。デバイスの形成領域にボイド欠陥が存在すると、三次元構造体のゲート酸化膜の耐圧特性を悪化させる虞がある。このボイド欠陥は、ウェーハ製造時における急速昇降温熱処理の高温保持に伴って、耐圧特性に影響を与えない程度に縮小又は消滅するが、その一部が結晶内に残存することがある。急速昇降温熱処理後のボイド欠陥の密度を上記の範囲とすると、耐圧特性に対するボイド欠陥の影響を極力抑制することができる。上記の密度に制御されるボイド欠陥のサイズは、例えば、5nm以上、あるいは、10nm以上のように適宜決めることができるが、特に、15nm以上とするのが好ましい。
【0037】
また、ウェーハ1の表面から深さ30μmまでの領域においては、酸素析出物の密度が1×106/cm3以下とされる。この酸素析出物は、バルク層3の深い領域(例えば、数10μm以上)に存在すると、金属不純物のゲッタリング源として有効に作用する一方で、表面層2の近傍に存在すると、スリップ転位源となって三次元構造体の形状精度に悪影響を与えることがある。急速昇降温熱処理後の酸素析出物の密度を上記の範囲とすると、形状精度に対する酸素析出物の影響を極力抑制することができる。上記の密度に制御される酸素析出物のサイズは、球形換算での直径が例えば5nm以上、あるいは、10nm以上のように適宜決めることができるが、特に、15nm以上とするのが好ましい。
【0038】
この酸素析出物の形状は、球形のみならず板状であることも多い。例えば、その形状がアスペクト比(厚み/対角長)β=0.01の正方形板状とすると、例えば、球形換算で直径15nmは板状換算で対角長が約56nmとなり、この約56nm以上の対角長の板状酸素析出物の密度を1×106/cm3以下とすればよい。
【0039】
バルク層3においては、深さ100μmからウェーハ1の厚み中心までの空孔濃度が1×1012/cm3以上とされる。空孔は、格子間酸素との複合体(空孔酸素複合体VOX)として存在すると考えられている。この空孔(空孔酸素複合体)によってデバイス製造プロセス中のバルク層3における酸素析出物の形成が促進され、金属不純物の高いゲッタリング効果が確保される。この空孔濃度を5×1012/cm3以上とすることにより、一層高いゲッタリング効果を確保することができる。
【0040】
このウェーハ1の出発材料となるシリコンインゴットは特に限定されないが、ここでは、空孔濃度CVと格子間シリコン原子濃度CIの濃度差CV-CIが、-2.0×1012/cm3以上、6.0×1012/cm3以下の範囲内(ニュートラル領域)のシリコンインゴットが使用されている。濃度差CV-CIが上記の範囲の場合、結晶の育成時にボイド欠陥が導入されない、又は、導入されたとしてもそのサイズが非常に小さく、急速昇降温熱処理によってボイド欠陥がデバイス形成領域に存在しない高品質なウェーハ1を容易に製造することができる。
【0041】
なお、濃度差CV-CIが、1.3×1013/cm3以上、5.6×1012/cm3以下の範囲内(V-rich結晶)や3.5×1012/cm3以上、1.1×1013/cm3以下の範囲内(Low COP結晶)であっても、急速昇降温熱処理の最高温度及び保持時間を適宜変更することによって、ボイド欠陥を消滅させることは可能である。
【0042】
次に、
図1に示すウェーハ1の製造方法について説明する。このウェーハ1として、チョクラルスキー法で育成された単結晶シリコンインゴットをスライスして得られた鏡面ウェーハを用いる。まず、この鏡面ウェーハに対し、酸素分圧100%の酸素雰囲気下において急速昇降温熱処理を行った。この急速昇降温熱処理の昇温速度は、25℃/秒以上、75℃/秒以下の範囲内とし、最高温度に近付くにつれてその昇温速度を段階的に低下させた。また、最高温度は1350℃、最高温度での保持時間は15秒、冷却速度は120℃/秒とした。
【0043】
この急速昇降温熱処理の最高温度での保持に伴って、ウェーハ1の表面に酸化膜が形成され、この酸化膜とシリコンの界面から格子間酸素が過飽和に導入される。この格子間酸素は、ウェーハ1の厚み方向中心に向かって内方拡散する。その一方で、ウェーハ1の冷却中に格子間酸素はウェーハ1の表面に向かって外方拡散して、その表面近傍の酸素濃度は低下する。その結果、
図4に示すように、急速昇降温熱処理後の酸素濃度プロファイルは、ウェーハ1の表面からある深さ位置(本例では約1μm)において最も高くなり、ウェーハ1の厚み方向中心に向かうほど、あるいは、表面に向かうほど低下する分布を示す。
【0044】
次に、酸素濃度が2×10
18/cm
3以上となる深さまで、ウェーハ1の表面を研磨によって除去した。これによって、
図5に示すように、急速昇降温熱処理によって導入された高酸素濃度の領域が表面から深さ300nmまでの範囲に形成される。この酸素濃度が高いほど、三次元構造を形成する際におけるシリコンミッシング現象を低減する効果が高まり、特にこの酸素濃度を2.5×10
18/cm
3以上とすることにより、高い低減効果が発揮される。この酸素濃度は、急速昇降温熱処理の最高温度が高いほど、最高温度での保持時間が長いほど、又は、冷却速度が大きいほど高くなる傾向がある。
【0045】
上記においては、熱処理時における酸素濃度等の分布をシミュレーションによって導出したが(
図2~
図5参照)、その酸素濃度シミュレーションの精度を検証した。
図6に示すように、このシミュレーション結果とSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)による酸素濃度の実測結果を比較したところ、シミュレーション結果と実測結果はほぼ一致しており、シミュレーションによって実測結果を精度よく予測できることが確認できた。
【0046】
急速昇降温熱処理を行った後の酸素濃度のピーク値、及び、空孔濃度のピーク値と急速昇降温熱処理における最高温度の関係を
図7及び
図8に示す。各データ値の黒丸が酸素濃度1.1×10
18/cm
3に、エラーバーの下端が酸素濃度0.5×10
18/cm
3に、エラーバーの上端が酸素濃度1.5×10
18/cm
3にそれぞれ対応している。この最高温度が1315℃以上、1375℃以下の温度範囲内において、バルク層3の酸素濃度にかかわらず、シリコンミッシング現象の抑制に効果的な酸素濃度(2×10
18/cm
3以上)、及び、空孔濃度(1×10
12/cm
3以上)を達成することができた。この最高温度が1315℃を下回ると十分な酸素濃度及び空孔濃度を確保することができず、1375℃を超えるとスリップの問題が顕著となる虞がある。また、この最高温度を1325℃以上、1350℃以下とすることにより、酸素濃度及び空孔濃度を確実に上記の濃度範囲内とすることができるとともにスリップの発生を確実に抑制することができる。
【0047】
急速昇降温熱処理における酸化性雰囲気を酸素雰囲気とする場合、酸素分圧を100%とするのがウェーハ1への格子間酸素の導入効率の点で好ましいが、1%以上100%以下の範囲内で適宜変更することができる。なお、酸化性雰囲気は酸素雰囲気に限定されず、ウェーハ1に格子間酸素を導入することができる限りにおいて変更することができる。
【0048】
さらに、急速昇降温熱処理を行った上で表面を除去したウェーハ1に対し、アルゴン雰囲気下において800℃1時間の熱処理を行った。この熱処理によって、ウェーハ1の深さ100μmから厚み中心までの領域内に、球形換算での直径が15nm以上の酸素析出物が、1×108/cm3以上の密度で導入される。これにより、酸素析出物をウェーハ内に確実に導入して、金属不純物のゲッタリング効果を付与することができる。この酸素析出物の形成は、急速昇降温熱処理によってウェーハ1内に導入された空孔(空孔酸素複合体)によって促進されることが分かっており、この酸素析出物の形成領域は、空孔濃度(空孔酸素複合体濃度)が1×1012/cm3以上の領域に対応している。
【0049】
この熱処理の温度は、急速昇降温熱処理によって導入された空孔(空孔酸素複合体)にほとんど影響を与えない、800℃以上1000℃以下の温度範囲内、かつ、1時間以上4時間以下の時間範囲内で行うのが好ましい。
【0050】
このウェーハ1の製造方法において出発材料となるシリコンインゴットは特に限定されないが、ここでは、空孔濃度CVと格子間シリコン原子濃度CIの濃度差CV-CIが、-2.0×1012/cm3以上、6.0×1012/cm3以下の範囲内(ニュートラル領域)のチョクラルスキー法で育成された単結晶シリコンインゴットが使用されている。濃度差CV-CIを上記の範囲内に限定することにより、急速昇降温熱処理によってボイド欠陥がデバイス形成領域に存在しない高品質なウェーハ1を容易に製造することができる。
【0051】
上記において説明したウェーハ1およびその製造方法はあくまでも例示であって、微細な三次元構造を有する半導体デバイスの製造に適したシリコンウェーハ1、及び、そのシリコンウェーハ1の製造方法を提供する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、その構成に変更を加えることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 シリコンウェーハ(ウェーハ)
2 表面層
3 バルク層