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特許7090300免疫グロブリン精製方法及び免疫グロブリン精製装置、並びに免疫グロブリン製造方法及び免疫グロブリン製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】免疫グロブリン精製方法及び免疫グロブリン精製装置、並びに免疫グロブリン製造方法及び免疫グロブリン製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20220617BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20220617BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K16/00
B01J20/06 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020568123
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001499
(87)【国際公開番号】W WO2020153254
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019010358
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 且也
(72)【発明者】
【氏名】永田 夫久江
(72)【発明者】
【氏名】笠原 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】廣部 由紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0007530(US,A1)
【文献】特開2017-047365(JP,A)
【文献】Journal of Chromatography A, 1999,Vol.831, pp.63-72
【文献】Protein Expression and Purification, 2004, Vol.37, pp.399-408
【文献】Journal of Chromatography A, 2000, Vol.890, pp.15-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/22
C07K 16/00
C12M 1/00
B01J 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリン精製方法であって、
pH6.1以上pH8.0以下の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着工程と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、pH6.0以上pH8.0以下の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離工程と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン精製方法。
【請求項2】
前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする請求項1に記載の免疫グロブリン精製方法。
【請求項3】
前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の免疫グロブリン精製方法。
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
免疫グロブリン精製装置であって、
pH6.1以上pH8.0以下の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着部と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、pH6.0以上pH8.0以下の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離部と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン精製装置。
【請求項5】
前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする請求項4に記載の免疫グロブリン精製装置。
【請求項6】
前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の免疫グロブリン精製装置。
【化2】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項7】
免疫グロブリン製造方法であって、
pH6.1以上pH8.0以下の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着工程と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、pH6.0以上pH8.0以下の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離工程と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン製造方法。
【請求項8】
前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする請求項7に記載の免疫グロブリン製造方法。
【請求項9】
前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の免疫グロブリン製造方法。
【化3】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項10】
免疫グロブリン製造装置であって、
pH6.1以上pH8.0以下の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着部と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、pH6.0以上pH8.0以下の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離部と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン製造装置。
【請求項11】
前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする請求項10に記載の免疫グロブリン製造装置。
【請求項12】
前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10又は11に記載の免疫グロブリン製造装置。
【化4】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫グロブリン精製方法及び免疫グロブリン精製装置、並びに免疫グロブリン製造方法及び免疫グロブリン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンは、治療薬、体外診断薬として有用であり、今後も益々需要が高まることが予測されている。このような用途に使用するためには免疫グロブリンを高純度で精製できる技術の開発が必要である。免疫グロブリンの精製には一般にプロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーが用いられている(例えば、特許文献1参照)。プロテインAはIgGに結合特性を示す、Staphyrococal aureusの菌体膜より分離されたタンパク質である。プロテインAは、種々の動物由来の免疫グロブリンと特異的に結合する性質があり、かつ単位タンパク質あたりの免疫グロブリンの結合量が多いため、このプロテインAを固定化した担体を用いるアフィニティークロマトグラフィーが工業スケールの抗体精製プロセスに使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-47365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このプロテインAを用いるアフィニティークロマトグラフィーは、吸着した免疫グロブリンを溶出する方法としてpH4以下の酸性溶液を使用するため、抗体の高次構造が変化し、更に会合、凝集へと進行するおそれがある。
また、細胞培養の段階で免疫グロブリンの凝集体も発現しており、これら免疫グロブリンの重合体(凝集体)を含む不純物は、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーで除去するのは困難であった。
そこで、上記の問題を解決するため、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製した後、イオン交換クロマトグラフィーや、疎水性相互作用クロマトグラフィーを組み合わせた方法が通常用いられている。
しかし、従来のイオン交換クロマトグラフィーでは、免疫グロブリンの単量体のみを分離できる条件の範囲が狭いため、免疫グロブリンの回収率が低いという課題があった。また、疎水性相互作用クロマトグラフィーでは、免疫グロブリンの回収率が低く、しかも、長時間を要するため、免疫グロブリンの精製コストが高いという課題があった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、抗体特性を失活させず、かつ免疫グロブリンの回収率が高い免疫グロブリン精製方法及び免疫グロブリン精製装置、並びに免疫グロブリン製造方法及び免疫グロブリン製造装置を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕免疫グロブリン精製方法であって、
中性の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着工程と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、中性の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離工程と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン精製方法。
【0006】
〔2〕前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする〔1〕に記載の免疫グロブリン精製方法。
【0007】
〔3〕前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の免疫グロブリン精製方法。
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0008】
〔4〕免疫グロブリン精製装置であって、
中性の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着部と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、中性の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離部と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン精製装置。
【0009】
〔5〕前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする〔4〕に記載の免疫グロブリン精製装置。
【0010】
〔6〕前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする〔4〕又は〔5〕に記載の免疫グロブリン精製装置。
【化2】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
〔7〕免疫グロブリン製造方法であって、
中性の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着工程と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、中性の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離工程と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン製造方法。
【0012】
〔8〕前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする〔7〕に記載の免疫グロブリン製造方法。
【0013】
〔9〕前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする〔7〕又は〔8〕に記載の免疫グロブリン製造方法。
【化3】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0014】
〔10〕免疫グロブリン製造装置であって、
中性の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる吸着部と、
前記多孔質ジルコニア粒子に吸着した前記免疫グロブリンを、中性の脱離液にて前記多孔質ジルコニア粒子から脱離させる脱離部と、を備えることを特徴とする免疫グロブリン製造装置。
【0015】
〔11〕前記脱離液は、リン酸緩衝液であることを特徴とする〔10〕に記載の免疫グロブリン製造装置。
【0016】
〔12〕前記脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする〔10〕又は〔11〕に記載の免疫グロブリン製造装置。
【化4】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の免疫グロブリン精製方法は、中性の緩衝液の中で免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させ、中性の脱離液にて免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子から脱離させるから、免疫グロブリンの抗体特性が失活しない。また、本発明の免疫グロブリン精製方法は、免疫グロブリンの回収率が高い。
本発明の免疫グロブリン精製方法において、脱離液がリン酸緩衝液である場合には、免疫グロブリンの回収率が高い。
本発明の免疫グロブリン精製方法において、脱離液が一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む場合には、免疫グロブリンの回収率が高い。
本発明の免疫グロブリン精製装置は、中性の緩衝液の中で免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させ、中性の脱離液にて免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子から脱離させるから、免疫グロブリンの抗体特性が失活しない。また、本発明の免疫グロブリン精製装置は、免疫グロブリンの回収率が高い。
本発明の免疫グロブリン精製装置において、脱離液がリン酸緩衝液である場合には、免疫グロブリンの回収率が高い。
本発明の免疫グロブリン精製装置において、脱離液が一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む場合には、免疫グロブリンの回収率が高い。
本発明の免疫グロブリン製造方法は、中性の緩衝液の中で免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させ、中性の脱離液にて免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子から脱離させるから、免疫グロブリンの抗体特性が失活しない。また、本発明の免疫グロブリン製造方法は、免疫グロブリンの製造効率が高い。
本発明の免疫グロブリン製造方法において、脱離液がリン酸緩衝液である場合には、免疫グロブリンの製造効率が高い。
本発明の免疫グロブリン製造方法において、脱離液が一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む場合には、免疫グロブリンの製造効率が高い。
本発明の免疫グロブリン製造装置は、中性の緩衝液の中で免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させ、中性の脱離液にて免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子から脱離させるから、免疫グロブリンの抗体特性が失活しない。また、本発明の免疫グロブリン精製装置は、免疫グロブリンの製造効率が高い。
本発明の免疫グロブリン製造装置において、脱離液がリン酸緩衝液である場合には、免疫グロブリンの製造効率が高い。
本発明の免疫グロブリン製造装置において、脱離液が一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む場合には、免疫グロブリンの製造効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)の推定担持構造を示す模式図である。
図2】免疫グロブリン精製装置を説明するブロック図である。
図3】免疫グロブリン製造装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0020】
1.免疫グロブリン精製方法
本発明の免疫グロブリン精製方法は、吸着工程と、脱離工程とを備えている。
(1)吸着工程
吸着工程は、中性の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させる工程である。
(1.1)中性の緩衝液
中性の緩衝液は、pH6.1以上pH8.0以下の緩衝液が好ましく、pH6.5以上pH7.5以下の緩衝液がより好ましく、pH6.6以上pH7.4以下の緩衝液が更に好ましい。緩衝液を構成する緩衝剤は、使用するpHに応じて当業者が通常用いる緩衝剤の中から適宜選択すればよく、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)が例示できる。中性の緩衝液の濃度は特に限定されないが、0.1mM以上200mM以下が好ましく、1mM以上100mM以下がより好ましく、5mM以上20mM以下が更に好ましい。
免疫グロブリンの抗体特性を維持させるという観点から、中性の緩衝液がリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であることが特に好ましい。
なお、中性の緩衝液の温度は、特に限定されず、通常4℃以上50℃以下で用いられる。
【0021】
(1.2)免疫グロブリン
免疫グロブリンは、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEのいずれであってもよい。IgG、IgD、IgEは単量体、IgAは単量体または2量体、IgMは5量体または6量体で存在しており、10nm~30nm程度の大きさである。
【0022】
(1.3)多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子は、特に限定されないが、以下の多孔質ジルコニア粒子が好ましい。すなわち、多孔質ジルコニア粒子は、D50、D90、及び全細孔容積が下記の範囲内であることが好ましい。
なお、多孔質ジルコニア粒子は、個々の粒子が相互に独立した形態の他、複数の粒子が凝集した凝集体の形態であってもよい。
【0023】
(1.3.1)D50、D90、及び全細孔容積
多孔質ジルコニア粒子は、BET法により測定された孔径分布において、累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径D50が3.20nm以上6.50nm以下であることが好ましく、累積細孔容積が全細孔容積の90%となる細孔径D90が10.50nm以上100.00nm以下であることが好ましい。細孔径D50は、3.35nm以上6.30nm以下であることがより好ましく、3.50nm以上5.00nm以下であることが更に好ましい。細孔径D90は、10.80nm以上50.00nm以下であることがより好ましく、11.00nm以上30.00nm以下であることが更に好ましい。
多孔質ジルコニア粒子は、全細孔容積が0.10cm/gより大きいことが好ましい。全細孔容積は、0.15cm/gより大きいことがより好ましく、0.30cm/gより大きいことが更に好ましい。なお、全細孔容積の上限値は、特に限定されないが、通常10.00cm/gである。
D50、D90、及び全細孔容積が上記範囲内であると、吸着する免疫グロブリンの選択特異性が高くなる。なお、D90を100.00nm以下とすることで、免疫グロブリンの非凝集体が選択的に吸着されやすくなる。免疫グロブリンの非凝集体は10nm~30nm程度の大きさであり、他方、免疫グロブリンの凝集体は100nm程度の大きさである。よって、D90を100.00nm以下とすることで、免疫グロブリンの凝集体の吸着を避けて、免疫グロブリンの非凝集体のみが吸着されやすくなる。
【0024】
なお、孔径分布と細孔容積は、例えば、細孔分布測定装置(マイクロメリティックス 自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII 島津製作所))を用いて測定できる。
ここで、D50、D90の算出方法について説明する。
まず、D50の算出方法を説明する。孔径分布のデータから、累積細孔容積50%を挟んで、累積細孔容積50%に最も近い2点であるA,Bの累積細孔容積(X(%))及び細孔径(Y(nm))を読み取る。具体的には、A(Xa(%)、Ya(nm))、B(Xb(%)、Yb(nm))を読み取る(但し、Xa>Xb, Ya>Ybである)。そして、これらの値を用いて下記式(1)によりD50が求められる。

式(1)
D50=log(Xb)+((log(Xa)-log(Xb))*[(50-(Yb))/((Ya)-(Yb))]
同様にして、D90を求める。すなわち、まず、孔径分布のデータから、累積細孔容積90%を挟んで、累積細孔容積90%に最も近い2点であるC,Dの累積細孔容積(X(%))及び細孔径(Y(nm))を読み取る。具体的には、C(Xc(%)、Yc(nm))、D(Xd(%)、Yd(nm))を読み取る(但し、Xc>Xd, Yc>Ydである)。そして、これらの値を用いて下記式(2)によりD90が求められる。

式(2)
D90=log(Xd)+((log(Xc)-log(Xd))*[(90-(Yd))/((Yc)-(Yd))]
【0025】
(1.3.2)粒子径
多孔質ジルコニア粒子の粒子径は特に限定されないが、一次粒子は、通常10nm~100nmであり、好ましくは、10nm~50nmであり、更に好ましくは10nm~30nmである。一次粒子は、凝集体を形成することで、50nm~1000nmのサイズの二次粒子を形成している。一次粒子径が、この範囲内であると、多孔質ジルコニア粒子の比表面積が大幅に増大するため、免疫グロブリンの吸着量が増加する傾向にある。
【0026】
(1.3.3)キレート剤が担持された多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子は、表面に、キレート剤が担持されていてもよい。キレート剤を担持することで、免疫グロブリン吸着の選択性がより高まる。
キレート剤は、特に限定されない。キレート剤は、下記一般式(2)で表される化合物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DETPA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DETPPA)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、塩としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム等)の塩が好適に例示される。
【0027】
【化5】

(一般式(2)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0028】
一般式(2)のRにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
また、R~Rにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
【0029】
キレート剤は、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、一般式(2)で表される化合物が好ましい。一般式(2)で表される化合物の中でも、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA;N,N,N’,N’-Ethylenediaminetetrakis(methylenephosphonic Acid))が特に好ましい。
【0030】
キレート剤の担持量は、特に限定されない。キレート剤の担持量は、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、ジルコニア1mgあたり、0.01μg~10μgであることが好ましく、0.02μg~5μgであることがより好ましく、0.05μg~3μgであることが更に好ましい。
なお、キレート剤の担持量は、TG-DTA(熱重量示差熱分析)の重量減少から算出できる。
【0031】
キレート剤の担持態様は、明らかではないが、ジルコニウム原子に、キレート剤に由来する配位子が結合しているものと推測される。例えば、キレート剤がエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸の場合には、図1の構造であると推測される。
【0032】
(1.3.4)多孔質ジルコニア粒子の製造方法
多孔質ジルコニア粒子の製造方法は、特に限定されない。多孔質ジルコニア粒子は、例えば、次の方法によって製造できる。ジルコンを原料として、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl・8HO)溶液を得る。そして、加水分解反応により、Zr(OH)微粒子とし、これを焼成して、多孔質ジルコニア粒子とする。
【0033】
(1.4)多孔質ジルコニア粒子の量と、中性の緩衝液の量との関係
吸着工程における多孔質ジルコニア粒子の量と、中性の緩衝液の量との関係は特に限定されない。例えば、多孔質ジルコニア粒子1mgに対して、中性の緩衝液を10μL以上300μL以下の割合で用いることができる。
【0034】
(2)脱離工程
脱離工程は、多孔質ジルコニア粒子に吸着した免疫グロブリンを、中性の脱離液にて多孔質ジルコニア粒子から脱離(溶出)させる工程である。
(2.1)中性の脱離液
中性の脱離液は、pH6.0以上pH8.0以下の脱離液が好ましく、pH6.5以上pH7.5以下の脱離液がより好ましく、pH6.8以上pH7.2以下の脱離液が更に好ましい。
脱離液は、リン酸緩衝液が好ましい。リン酸緩衝液として、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を好適に使用できる。
【0035】
脱離液の濃度は、特に限定されず、脱離液の種類に応じて適宜選択される。
例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いる場合には、免疫グロブリンの回収率を向上させる観点から、50mM以上200mM以下が好ましく、60mM以上150mM以下がより好ましく、70mM以上130mM以下が更に好ましい。なお、吸着工程において、中性の緩衝液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用い、かつ、脱離工程において、脱離液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いる場合には、免疫グロブリンの回収率を向上させる観点から、両者の濃度が次の関係となることが好ましい。すなわち、脱離工程のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の方が、吸着工程のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)よりも濃度が高いことが好ましい。
【0036】
脱離液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0037】
【化6】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0038】
一般式(1)のRにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
また、R~Rにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
【0039】
免疫グロブリンの回収率を向上させる観点から、一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の中でも、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA;N,N,N’,N’-Ethylenediaminetetrakis(methylenephosphonic Acid))、及びその塩のうちの少なくとも1種が好ましい。
【0040】
一般式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の濃度(2種以上の場合は合計濃度)は、免疫グロブリンの回収率を向上させる観点から、0.1mM以上10mM以下が好ましく、0.5mM以上8mM以下がより好ましく、2mM以上6mM以下が更に好ましい。
なお、脱離液の温度は、特に限定されず、通常4℃以上50℃以下で用いられる。
【0041】
(2.2)多孔質ジルコニア粒子の量と、脱離液の量との関係
脱離工程における多孔質ジルコニア粒子の量と、脱離液の量との関係は特に限定されない。例えば、多孔質ジルコニア粒子1mgに対して、脱離液を10μL以上300μL以下の割合で用いることができる。
【0042】
2.免疫グロブリン精製装置
本発明の免疫グロブリン精製装置1は、吸着部と、脱離部とを備えている。図2には、吸着部及び脱離部として機能する吸着脱離部3を備えた免疫グロブリン精製装置1の一例が示されている。吸着脱離部3は、例えば2つの開口を有する筒状部を有し、ここに多孔質ジルコニア粒子4が充填されている。また、この免疫グロブリン精製装置1は、中性の緩衝液(吸着液)を入れるための吸着液容器5と、中性の脱離液を入れるための脱離液容器7と、吸着脱離部3から排出された液体を回収するための回収容器9とを備えている。吸着工程(吸着プロセス)では、吸着液容器5から、免疫グロブリンを含む中性の緩衝液(吸着液)がポンプによって吸着脱離部3に供給されて、多孔質ジルコニア粒子4に免疫グロブリンが吸着される。脱離工程(脱離プロセス)では、脱離液容器7から、中性の脱離液がポンプによって吸着脱離部3に供給されて、多孔質ジルコニア粒子4に吸着された免疫グロブリンが脱離(溶出)される。吸着液と脱離液との切り替えは、切替部11によって行われる。
なお、免疫グロブリン精製装置1において、「中性の緩衝液」、「免疫グロブリン」、「多孔質ジルコニア粒子」、「中性の脱離液」の用語については、「1.免疫グロブリン精製方法」における説明をそのまま適用する。
【0043】
3.免疫グロブリン製造方法
本発明の免疫グロブリン製造方法は、吸着工程と、脱離工程とを備えている。
なお、免疫グロブリン製造方法において、「吸着工程」、「脱離工程」については、「1.免疫グロブリン精製方法」における説明をそのまま適用する。
【0044】
本発明の免疫グロブリン製造方法では、吸着工程に用いる免疫グロブリン(原料免疫グロブリン)よりも純度を高めた免疫グロブリンを製造できる。原料免疫グロブリンは、例えば、血液中、組織液中から分離して取得してもよく、生合成、化学合成してもよく、さらに培養工程を経てもよく、公知の方法で取得される。本発明の免疫グロブリン製造方法は、原料免疫グロブリンの取得工程を備えていてもよい。
【0045】
4.免疫グロブリン製造装置
本発明の免疫グロブリン製造装置21は、吸着部と、脱離部とを備えている。図3には、吸着部及び脱離部として機能する吸着脱離部23を備えた免疫グロブリン製造装置21の一例が示されている。吸着脱離部23は、例えば2つの開口を有する筒状部を有し、ここに多孔質ジルコニア粒子24が充填されている。また、この免疫グロブリン製造装置21は、中性の緩衝液(吸着液)を入れるための吸着液容器25と、中性の脱離液を入れるための脱離液容器27と、吸着脱離部23から排出された液体を回収するための回収容器29とを備えている。吸着工程(吸着プロセス)では、吸着液容器25から、免疫グロブリンを含む中性の緩衝液(吸着液)がポンプによって吸着脱離部23に供給されて、多孔質ジルコニア粒子24に免疫グロブリンが吸着される。脱離工程(脱離プロセス)では、脱離液容器27から、中性の脱離液がポンプによって吸着脱離部23に供給されて、多孔質ジルコニア粒子24に吸着された免疫グロブリンが脱離(溶出)される。吸着液と脱離液との切り替えは、切替部31によって行われる。
なお、免疫グロブリン製造装置21において、「中性の緩衝液」、「免疫グロブリン」、「多孔質ジルコニア粒子」、「中性の脱離液」の用語については、「1.免疫グロブリン精製方法」における説明をそのまま適用する。
本発明の免疫グロブリン製造装置21では、吸着部に用いる免疫グロブリン(原料免疫グロブリン)よりも純度を高めた免疫グロブリンを製造できる。原料免疫グロブリンは、例えば、血液中、組織液中から分離して取得してもよく、生合成、化学合成してもよく、さらに培養工程を経てもよく、公知の方法で取得される。本発明の免疫グロブリン製造装置21は、原料免疫グロブリンの取得部を備えていてもよい。
【実施例
【0046】
本発明を更に具体的に説明する。
1.実験A
(1)多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子には、表1に記載の多孔質ジルコニア粒子を用いた。
なお、試験例1~9は、中性の緩衝液であるPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を吸着液として用いているが、試験例10は、酸性のHEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)溶液を用いている。
【0047】
【表1】
【0048】
表1において、「PCS140(SD)」は、新日本電工株式会社製の多孔質ジルコニア粒子である。
表1において、「PCS140(SD)-P(0.00125M)」は、新日本電工株式会社製の多孔質ジルコニア粒子(PCS140(SD)、原料)を、0.00125MのEDTPA溶液で処理して得られたEDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子である。
表1において、「PCS140(SD)-P(0.0025M)」は、新日本電工株式会社製の多孔質ジルコニア粒子(PCS140(SD)、原料)を、0.0025MのEDTPA溶液で処理して得られたEDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子である。これらの略称については、以下の表2~3も同様である。
なお、「PCS140(SD)-P(0.00125M)」の調製は以下のように行った。予め100℃で2時間、脱気乾燥した多孔質ジルコニア粒子(PCS140(SD))250mgに対し、0.00125MのEDTPA溶液を10mL加え、15分脱気後、17時間、攪拌及び/又は振とうした。その後、更に、4時間還流した後、純水で洗浄し、凍結乾燥して、PCS140(SD)-P(0.00125M)を得た。
「PCS140(SD)-P(0.0025M)」の調製も「PCS140(SD)-P(0.00125M)」と同様に行った。すなわち、「0.00125MのEDTPA溶液」の代わりに「0.0025MのEDTPA溶液」を用いた以外は、「PCS140(SD)-P(0.00125M)」の場合と同様にして「PCS140(SD)-P(0.0025M)」を調製した。
なお、EDTPAの担持量は、TG-DTA(熱重量示差熱分析)の重量減少から算出した。すなわち、EDTPA担持の多孔質ジルコニア粒子を10mg程度秤量し、常温~1000℃までの重量変化を測定しつつ、示差熱分析(TG-DTA;Thermo plus TG8120,リガク)を行った。200℃~600℃での重量減少量から算出した結果、多孔質ジルコニア粒子1mgあたり0.06μg~2.20μgのEDTPAを担持していた。
【0049】
(2)吸着評価
<試験例1~9>
表1に記載の各種多孔質ジルコニア粒子を用いて、タンパク質の吸着性を評価した。
各多孔質ジルコニア粒子について、IgG、HAS(Albumin from human serum)、Trf(Transferrin human)の3種のタンパク質に対して、それぞれ次の試験を実施した。
スピッツに500μLの吸着液を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、タンパク質の液(500μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、12,000回転で10分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のタンパク質の質量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。初めに加えたタンパク質の質量と、未吸着のタンパク質の質量との差分を吸着されたタンパク質の質量とした。初めに加えたタンパク質の質量に対する、吸着されたタンパク質の質量の割合を吸着率(%)として算出した。
<試験例10>
試験例10は、試験例1~9と同様の操作にて、投入するタンパク質の液に750μg/500μLを用い、これを500μL加えて、実施した。試験例10は、タンパク質の投入量以外は、試験例1~9と同様に実施した。
【0050】
(3)試験結果
試験結果を表1に併記する。
(3.1)吸着液の種類の影響
吸着液の種類が、タンパク質の吸着性に与える影響について検討する。
ここでは、試験例1~3、10の結果を比較検討する。IgGの吸着率は、試験例1~3が試験例10よりも高いことが分かる。この結果から、吸着液に中性の緩衝液を用いた場合には、IgGの吸着率が向上することが確認できる。
次に、試験例1、10の結果からIgGの選択性について考察する。試験例10では、IgGの他にも、HAS、Trfが吸着されることが確認される。試験例10では、IgGの吸着率は31.7%であり、HASの吸着率は72.7%であり、Trfの吸着率は60.2%である。試験例10では、このように、IgGの吸着率に対して、HASの吸着率及びTrfの吸着率が高く、IgG吸着の選択性が低い。
他方、試験例1では、IgGの他にも、HAS、Trfが吸着されるが、IgGの吸着率に対して、HASの吸着率及びTrfの吸着率が少なく、IgG吸着の選択性が高い。
これらの結果から、吸着液に中性の緩衝液を用いることで、IgG吸着の選択性を高め、効率的にIgGを吸着できることが分かる。そして、この吸着されたIgGを脱離してIgGを回収するのであるから、結局のところ、吸着液に中性の緩衝液を用いることで、効率的にIgGが吸着することは、IgGの回収率を高めることになる。
【0051】
(3.2)キレート剤担持の効果
多孔質ジルコニア粒子にキレート剤を担持することが、タンパク質の吸着性に与える影響について検討する。
EDTPAを担持していない多孔質ジルコニア粒子を用いた試験例1と、EDTPAを担持した多孔質ジルコニア粒子を用いた試験例2~3の結果を比較する。試験例1に比べて、試験例2~3では、IgGの吸着率に対して、HASの吸着率及びTrfの吸着率がより低く、IgGの吸着選択性が高まっている。よって、多孔質ジルコニア粒子にキレート剤を担持することで、IgGの選択性が更に向上し、IgGの回収率が更に高まる。
【0052】
(3.3)吸着液の濃度の影響
吸着液の濃度が、タンパク質の吸着性に与える影響について検討する。
ここでは、試験例4~6の結果を比較検討する。IgGの吸着率は、吸着液の濃度が10mMの試験例4が最も高いことが分かる。
この結果から、吸着液の濃度を5mM以上20mM以下とすることで、IgGの吸着率が上がり、IgGの回収率が高まることが確認できる。
【0053】
(3.4)吸着液のpHの影響
吸着液のpHが、タンパク質の吸着性に与える影響について検討する。
ここでは、試験例7~9の結果を比較検討する。IgGの吸着率は、吸着液のpHが7.0の試験例8が最も多いことが分かる。
この結果から、吸着液のpHを6.6以上7.4以下とすることで、IgGの吸着率が上がり、IgGの回収率が高まることが確認できる。
【0054】
2.実験B
(1)多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子には、表2に記載のEDTPAを担持した多孔質ジルコニア粒子(PCS140(SD)-P(0.0025M))を用いた。
【0055】
【表2】
【0056】
(2)吸着脱離評価
(2.1)吸着評価
スピッツに500μLの吸着液を入れて、この液にEDTPAを担持した多孔質ジルコニア粒子(PCS140(SD)-P(0.0025M))3mgを加えた。EDTPAを担持した多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、IgGの液(500μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、14,000回転で5分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のIgGの質量を、SDS-PAGE(Sodium dodecyl sulfate-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、ATTO製Image Analysis SoftwareCS Analyzer 4)により定量した。初めに加えたIgGの質量と、未吸着のIgGの質量との差分を吸着されたIgGの質量とした。初めに加えたIgGの質量に対する、吸着されたIgGの質量の割合を吸着率(%)として算出した。
【0057】
(2.2)脱離評価
上述の吸着評価後、表2に記載の各種脱離液を用いて、IgGの脱離を評価した。
IgGの脱離は、次のようにして行った。すなわち、上述の吸着評価後、上澄み溶液を除去し、上澄み溶液を除去したスピッツに、表2記載の各脱離液500μLを入れ、再度懸濁して、IgGを脱離(溶離)させた。
次に、スピッツを、14,000回転で5分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。多孔質ジルコニア粒子から脱離して上澄み溶液に出てきたIgGの質量を、SDS-PAGE(Sodium dodecyl sulfate-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、ATTO製Image Analysis SoftwareCS Analyzer 4)により定量した。このようにして求めたIgGの質量を回収したIgGの質量とした。
そして、初めに加えたIgGの質量に対する、回収したIgGの質量の割合を回収率(%)として算出した。なお、回収率(%)の算出方法は、試験Cでも同様である。
【0058】
(3)試験結果
試験結果を表2に併記する。
酸性の脱離液を用いた試験例17に比べて、中性の脱離液を用いた試験例11~16は、回収率が高いことが確認できる。
【0059】
3.実験C
(1)多孔質ジルコニア粒子
多孔質ジルコニア粒子には、表3に記載の多孔質ジルコニア粒子を用いた。なお、「Rhinophase-AB」は、Zir Chrom Seperations Inc.製の多孔質ジルコニア粒子である。
【0060】
【表3】
【0061】
(2)吸着脱離評価
(2.1)試験例18-19
表3に記載の多孔質ジルコニア粒子を用い、IgG(300μg/500μL)のヤギの血清500μLを用いたこと以外は、試験例11と同様に吸着脱離評価をした。
(2.2)試験例20-21
表3に記載の多孔質ジルコニア粒子を用い、吸着液として20mM MES(2-(N-Morpholino)ethanesulfonic acid)、4M EDTPA、50mM NaClの溶液を用い、脱離液として20mM MES、4M EDTPA、2M NaClの溶液を用いた以外は、試験例11と同様に吸着脱離評価をした。なお、試験例20-21は、従来技術であるRhinophase-ABの標準精製プロセスである。
【0062】
(3)試験結果
試験結果を表3に併記する。
まず、試験例18、20の結果を比較検討する。試験例18は、吸着液及び脱離液がいずれも中性の緩衝液である。他方、試験例20は、吸着液及び脱離液がいずれも酸性の緩衝液である。吸着率は、吸着液が中性である試験例18が69.8%、吸着液が酸性である試験例20が63.8%であり、両者で大差はない。しかし、回収率は、試験例18が69.8%、試験例20が30.3%となっており、試験例18は試験例20よりも回収率が著しく高い。
次に、試験例19、21の結果を比較検討する。試験例19は、吸着液及び脱離液がいずれも中性の緩衝液である。他方、試験例21は、吸着液及び脱離液がいずれも酸性の緩衝液である。吸着率は、試験例19が26.5%、試験例21が45.5%であり、試験例21の吸着率が高いことが分かる。しかし、回収率は、試験例19が14.6%、試験例21が6.5%となっており、試験例19は試験例21よりも回収率が著しく高い。
以上の結果から、脱離液に中性の緩衝液を用いると、多孔質ジルコニア粒子に吸着されたIgGが脱離し易くなり、回収率が向上することが分かる。
なお、試験例18の吸着率と、回収率に着目すると、吸着率が69.8%、回収率が69.8%となっており、多孔質ジルコニア粒子に吸着されたIgGは、ほぼ全量脱離していることも分かる。
【0063】
4.実施例の効果
中性の緩衝液の中で、免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子に吸着させ、中性の脱離液にて免疫グロブリンを多孔質ジルコニア粒子から脱離させる免疫グロブリン精製方法は、免疫グロブリンの回収率が高い。しかも、この免疫グロブリン精製方法では、酸溶液やアルカリ溶液を用いないため、免疫グロブリンの抗体特性が失活しない。
【0064】
<他の実施形態(変形例)>
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
(1)上述の説明では、免疫グロブリン精製装置1、免疫グロブリン製造装置21の一例を説明したが、免疫グロブリン精製装置1、免疫グロブリン製造装置21の構成は、吸着液、脱離液の種類、装置のスケール等に応じて適宜変更することができる。
(2)上述の説明では、吸着脱離部3は、筒状部を備えることとしたが、筒状部を備えなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の免疫グロブリン精製方法は、免疫グロブリン(抗体)の精製に好適に用いられる。
本発明の免疫グロブリン製造方法は、免疫グロブリン(抗体)の製造に好適に用いられる。
本発明の免疫グロブリン精製装置は、免疫グロブリン(抗体)の精製に好適に用いられる。
本発明の免疫グロブリン製造装置は、免疫グロブリン(抗体)の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0066】
1 …免疫グロブリン精製装置
3 …吸着脱離部
4 …多孔質ジルコニア粒子
5 …吸着液容器
7 …脱離液容器
9 …回収容器
11…切替部
21…免疫グロブリン製造装置
23…吸着脱離部
24…多孔質ジルコニア粒子
25…吸着液容器
27…脱離液容器
29…回収容器
31…切替部
図1
図2
図3