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特許7090344セロトニン3受容体アゴニストによる疼痛の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】セロトニン3受容体アゴニストによる疼痛の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4545 20060101AFI20220617BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20220617BHJP
   A61P 25/04 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61P29/02
A61P25/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019526985
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024404
(87)【国際公開番号】W WO2019004292
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017125874
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌一
(72)【発明者】
【氏名】山本 雪子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027757(WO,A1)
【文献】特開平07-145122(JP,A)
【文献】Molecular Pain, 2014, Vol.10, Article ID 35 (p.1-18)
【文献】Eur J Pharmacol., 2001, Vol.424, p.45-52
【文献】第27 回日本生物学的精神医学会・第35 回日本神経精神薬理学会合同年会プログラム講演抄録, 2005, p.253(P-2-66)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4545
A61P 29/02
A61P 25/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性疼痛を予防または治療するための、セロトニン3受容体アゴニストおよび医薬的に許容される担体を含む医薬組成物であって、セロトニン3受容体アゴニストが下記式(I):
【化1】
[式中、
mは1~4の整数であり;
は水素原子、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、医薬組成物(ただし、髄腔内投与用組成物を除く)
【請求項2】
慢性疼痛が中枢機能障害性疼痛である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
慢性疼痛が情動成分に由来する疼痛を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
がそれぞれ独立してハロゲン原子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
各Rが塩素原子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
mが1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩が下記式(I’):
【化2】
[式中、Rは前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
セロトニン3受容体アゴニストが下記式:
【化3】
で示される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
慢性疼痛および急性疼痛を予防または治療するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロトニン3受容体アゴニストを用いた慢性疼痛の予防または治療のための医薬および慢性疼痛の予防または治療方法に関する。本発明はまた、セロトニン3受容体アゴニストを用いた慢性疼痛および急性疼痛の予防または治療のための医薬ならびに慢性疼痛および急性疼痛の予防または治療方法に関する。さらに本発明は、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する工程を含む、慢性疼痛を予防または治療するための化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先進国において多くの人々が慢性疼痛に苦しんでおり、社会的な問題となっている。慢性疼痛の例として、原因となる疾患や障害が特定できる慢性筋骨格痛等や、原因となる異常が見られない中枢機能障害性疼痛等が知られている(非特許文献1)。このうち、中枢機能障害性疼痛は中枢神経系で痛みが感作され、患部の損傷や炎症が治癒した後でも強い痛みを継続的に感じる。一方、国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain; IASP)は、痛みを「実際に組織損傷が起こったか、あるいは組織損傷の可能性があるとき、またはそのような損傷を表す言葉によって述べられる不快な感覚と情動体験」と定義している。すなわち、脳が痛みを感じる場合、痛みは、痛覚を伝える知覚成分と、不安、恐怖、嫌悪等の感情に影響される情動成分に分けることができると考えられている。中枢機能障害性疼痛は痛みの情動成分に起因する部分が大きいと考えられている。しかしながら、中枢機能障害性疼痛の詳細なメカニズムは未だ解明されておらず、オピオイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)等の既存の疼痛治療剤では十分な治療効果が得られていない。また、オピオイドによる依存症や、非ステロイド性抗炎症薬による胃腸障害等の副作用の問題もある。
【0003】
一方、下記式で示される化合物(SR57227A;化合物名:1-(6-クロロピリジン-2-イル)ピペリジン-4-アミン;以下「化合物A」とも称する)等が知られており、当該化合物等がセロトニン3受容体アゴニストであることも知られている(特許文献1および2)。
【化1】
しかしながら、当該化合物等のセロトニン3受容体アゴニストが慢性疼痛の予防または治療に有効であることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭56-36481号公報
【文献】特開平7-145166号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】痛みの集学的診療:痛みの教育コアカリキュラム 第4章「痛みと脳」(編集:日本疼痛学会 痛みの教育コアカリキュラム編集委員会)真興交易(株)医書出版部;p.43-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術における課題を解決すべくなされたものであり、慢性疼痛の予防または治療のための医薬および慢性疼痛の予防または治療方法を提供する。本発明はまた、慢性疼痛および急性疼痛の予防または治療のための医薬ならびに慢性疼痛および急性疼痛の予防または治療方法を提供する。さらに本発明は、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する工程を含む、慢性疼痛を予防または治療するための化合物のスクリーニング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、セロトニン3受容体アゴニストが慢性疼痛の予防または治療効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の[1]~[10]に関する。
[1]
慢性疼痛を予防または治療するための、セロトニン3受容体アゴニストおよび医薬的に許容される担体を含む医薬組成物;
[2]
慢性疼痛が中枢機能障害性疼痛である、上記[1]に記載の医薬組成物;
[3]
慢性疼痛が情動成分に由来する疼痛を含む、上記[1]または[2]に記載の医薬組成物;
[4]
セロトニン3受容体アゴニストが下記式(I):
【化2】
[式中、
mは1~4の整数であり;
は水素原子、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の医薬組成物;
[5]
がそれぞれ独立してハロゲン原子である、上記[4]に記載の医薬組成物;
[6]
各Rが塩素原子である、上記[4]に記載の医薬組成物;
[7]
mが1である、上記[4]~[6]のいずれか1つに記載の医薬組成物;
[8]
式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩が下記式(I’):
【化3】
[式中、Rは前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、上記[4]~[7]のいずれか1つに記載の医薬組成物;
[9]
セロトニン3受容体アゴニストが下記式:
【化4】
で示される化合物である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の医薬組成物;
[10]
慢性疼痛および急性疼痛を予防または治療するための、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の医薬組成物;ならびに
[11]
セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する工程を含む、慢性疼痛を予防または治療するための化合物のスクリーニング方法。
【0009】
また、本発明は、以下の[12]~[17]に関する。
[12]
慢性疼痛を予防または治療するための、セロトニン3受容体アゴニスト;
[13]
慢性疼痛および急性疼痛を予防または治療するための、セロトニン3受容体アゴニスト;
[14]
セロトニン3受容体アゴニストを投与することを含む、慢性疼痛を予防または治療する方法;
[15]
セロトニン3受容体アゴニストを投与することを含む、慢性疼痛および急性疼痛を予防または治療する方法;
[16]
慢性疼痛を予防または治療するための医薬の製造における、セロトニン3受容体アゴニストの使用;ならびに
[17]
慢性疼痛および急性疼痛を予防または治療するための医薬の製造における、セロトニン3受容体アゴニストの使用。
【0010】
さらに、本発明は、以下の[18]~[21]に関する。
[18]
急性疼痛を予防または治療するための、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩および医薬的に許容される担体を含む医薬組成物;
[19]
急性疼痛を予防または治療するための、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩;
[20]
式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩を投与することを含む、急性疼痛を予防または治療する方法;ならびに
[21]
急性疼痛を予防または治療するための医薬の製造における、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有効成分として用いられるセロトニン3受容体アゴニストは、既存の疼痛治療剤とは異なるセロトニン3受容体をターゲットとしているため、オピオイドや非ステロイド性抗炎症薬等の従来の疼痛治療剤では十分な効果が得られていない慢性疼痛を予防または治療する効果を有する。また、本発明の有効成分として用いられるセロトニン3受容体アゴニストは、中枢機能障害性疼痛を予防または治療する効果を有する。また、本発明の有効成分として用いられるセロトニン3受容体アゴニストは、知覚成分に由来する疼痛に対する予防または治療効果に加え、情動成分に由来する疼痛を予防または治療する効果がある。このため、本発明は、既存の疼痛治療剤では十分な予防または治療効果が得られていない慢性疼痛に対する予防または治療薬および予防または治療方法を提供することができる。さらに、本発明の有効成分として用いられるセロトニン3受容体アゴニストは、急性疼痛を予防または治療する効果をも有する。また、本発明によれば、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定することで、慢性疼痛を予防または治療するための化合物をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】化合物Aおよび既存薬による疼痛治療効果を示す。「F」はホルマリンのみを投与した群、「F-化合物A」はホルマリン投与前に化合物A(5mg/kg)を投与した群、「F-フェンタニル」はホルマリン投与前にフェンタニル(0.05mg/kg)を投与した群、および「F-フルボキサミン」はホルマリン投与前にフルボキサミン(10mg/kg)を投与した群を示す。図中、*はp<0.05(vs.F(ホルマリン投与群))を示す。
図2】情動成分に由来する痛みを示す。痛み条件群はテスト期day4においてday1、2と同じ条件下にさらされた群を示し、コントロール群はテスト期day4においてday1、2と異なる新規環境にさらされた群を示す。図中、*はp<0.05(vs.痛み条件群)を示す。
図3】化合物Aおよび既存薬の情動成分に由来する痛みに対する治療効果を示す。それぞれ、ビヒクル投与群、化合物A(5mg/kg)投与群、化合物A(10mg/kg)投与群、フェンタニル(0.05mg/kg)投与群、またはフルボキサミン(10mg/kg)投与群を示す。図中、*はp<0.05(vs.ビヒクル投与群)を示す。
図4】化合物Aの行動量への影響を示す。それぞれ、ビヒクル投与群、化合物A(5mg/kg)投与群、および化合物A(10mg/kg)投与群を示す。
図5】phase1(ホルマリン投与後0~5分)における化合物Aによる急性疼痛治療効果を示す。それぞれ、ビヒクル投与群、化合物A(1mg/kg)投与群、化合物A(5mg/kg)投与群、または化合物A(10mg/kg)投与群を示す。図中、*はp<0.05(vs.ビヒクル投与群)を示す。
図6】phase2(ホルマリン投与後5~30分)における化合物Aによる急性疼痛治療効果を示す。図中、*はp<0.05(vs.ビヒクル投与群)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における各基の定義は、特に明記しない限り、自由に組み合わせることができる。
【0014】
本明細書で用いられている用語「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0015】
本明細書で用いられている用語「慢性疼痛」は長期間持続する疼痛であり、当該技術分野で通常用いられている意味を有し、限定されるものではないが、神経障害性疼痛(例えば糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛等)、侵害受容性疼痛(例えば関節リウマチ等)、および中枢機能障害性疼痛(例えば線維筋痛症等)等を含む。1つの実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、中枢機能障害性疼痛の予防または治療に用いられる。本明細書において中枢機能障害性疼痛とは、原因となるような構造的な異常が見られない痛みの病態を指す。
【0016】
本明細書で用いられている用語「急性疼痛」は原因が明確で、原因となった創傷等が修復する過程で基本的には改善する疼痛であり、当該技術分野で通常用いられている意味を有し、限定されるものではないが、侵害受容性疼痛(例えば外傷痛、術後痛等)を含む。
【0017】
また、疼痛は、侵害刺激の痛覚に起因する知覚成分と、侵害刺激を経験または学習することに起因し、不安、恐怖、嫌悪等の感情により増強される情動成分に分けることができると考えられている(非特許文献1等)。本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、知覚成分に由来する疼痛に対する予防または治療効果に加え、情動成分に由来する疼痛に対しても効果を有し、該疼痛の予防または治療に特に有用である。本明細書において、情動成分による疼痛とは、機械的および化学的な刺激によって引き起こされるのではなく、不安等によって引き起こされる痛みを示す。1つの実施態様では、慢性疼痛は知覚成分に由来する疼痛を含む。別の実施態様では、慢性疼痛は情動成分に由来する疼痛を含む。別の実施態様では、慢性疼痛は知覚成分に由来する疼痛および情動成分に由来する疼痛を含む。
【0018】
本明細書における疼痛の「予防」および疼痛を「予防すること」とは、疼痛を発症する恐れがある対象において、疼痛を未然に防ぐことを指す。
【0019】
本明細書における疼痛の「治療」および疼痛を「治療すること」とは、疼痛を発症している対象において、疼痛を軽減、緩和、改善、または部分的もしくは完全に排除すること等を指す。
【0020】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、セロトニン3受容体に結合してセロトニンと同様の作用をもたらす物質であり、限定されるものではないが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容される塩を挙げることができる。
【0021】
1つの実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、下記式(I):
【化5】
[式中、
mは1~4の整数であり;
は水素原子、ハロゲン原子、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0022】
mは1~4の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、とりわけ好ましくは1である。
【0023】
におけるハロゲン原子としては、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0024】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基およびトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0025】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメトキシ基が好ましく、メトキシ基およびトリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0026】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチルチオ基が好ましく、メチルチオ基およびトリフルオロメチルチオ基が特に好ましい。
【0027】
1つの実施態様では、Rはそれぞれ独立してハロゲン原子であり、好ましくは、各Rは塩素原子である。
【0028】
別の実施態様では、mは1である。別の実施態様では、Rはハロゲン原子であり、mは1である。
【0029】
別の実施態様では、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式(I’):
【化6】
[式中、Rは前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0030】
好ましい実施態様では、式(I)で示される化合物は下記式:
【化7】
で示される化合物(すなわち化合物A(SR57227A、化合物名:1-(6-クロロピリジン-2-イル)ピペリジン-4-アミン))である。
【0031】
別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、下記式(II):
【化8】
[式中、
nは1~4の整数であり;
は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択される]で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0032】
nは1~4の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、とりわけ好ましくは1である。
【0033】
におけるハロゲン原子としては、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0034】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基およびトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0035】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメトキシ基が好ましく、メトキシ基およびトリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0036】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチルチオ基が好ましく、メチルチオ基およびトリフルオロメチルチオ基が特に好ましい。
【0037】
1つの実施態様では、Rはそれぞれ独立して水素原子またはハロゲン原子であり、好ましくは、Rはそれぞれ独立して水素原子または塩素原子である。
【0038】
別の実施態様では、nは1である。別の実施態様では、Rは水素原子またはハロゲン原子であり、nは1である。
【0039】
別の実施態様では、式(II)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式(II’):
【化9】
[式中、Rは前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0040】
好ましい実施態様では、式(II)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式:
【化10】
で示される化合物(化合物名:m-クロロフェニルビグアニド塩酸塩;以下「化合物B」とも称する);または下記式:
【化11】
で示される化合物(化合物名:1-フェニルビグアニド塩酸塩;以下「化合物C」とも称する)である。
【0041】
別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、下記式(III):
【化12】
[式中、
oは1~4の整数であり;
は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択され;
は水素原子および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基からなる群から選択される]で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0042】
oは1~4の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、とりわけ好ましくは1である。
【0043】
におけるハロゲン原子としては、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0044】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基およびトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0045】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメトキシ基が好ましく、メトキシ基およびトリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0046】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチルチオ基が好ましく、メチルチオ基およびトリフルオロメチルチオ基が特に好ましい。
【0047】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0048】
1つの実施態様では、Rはそれぞれ独立して水素原子またはハロゲン原子であり、好ましくは、Rはそれぞれ独立して水素原子または塩素原子である。
【0049】
別の実施態様では、Rは水素原子またはメチル基である。
【0050】
別の実施態様では、oは1である。別の実施態様では、Rは水素原子またはハロゲン原子であり、Rは水素原子またはメチル基であり、oは1である。
【0051】
別の実施態様では、式(III)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式(III’):
【化13】
[式中、Rは前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0052】
好ましい実施態様では、式(III)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式:
【化14】
で示される化合物(化合物名:N-メチルキパジン二マレイン酸塩;以下「化合物D」とも称する);または下記式:
【化15】
で示される化合物(化合物名:キパジン二マレイン酸塩;以下「化合物E」とも称する)である。
【0053】
別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、下記式(IV):
【化16】
[式中、
pは1~4の整数であり;
およびRは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択され;
は水素原子および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基からなる群から選択される]で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0054】
pは1~4の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、とりわけ好ましくは1である。
【0055】
およびRにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0056】
およびRにおける1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基およびトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0057】
およびRにおける1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメトキシ基が好ましく、メトキシ基およびトリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0058】
およびRにおける1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチルチオ基が好ましく、メチルチオ基およびトリフルオロメチルチオ基が特に好ましい。
【0059】
における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0060】
1つの実施態様では、Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、およびシアノ基からなる群からそれぞれ独立して選択され、好ましくは、各Rはヒドロキシ基である。
【0061】
別の実施態様では、Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基からなる群から選択され、好ましくはメチル基である。
【0062】
別の実施態様では、Rは水素原子またはメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0063】
別の実施態様では、pは1である。別の実施態様では、Rはハロゲン原子、ヒドロキシ基、およびシアノ基からなる群から選択され、Rは水素原子、ハロゲン原子、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基からなる群から選択され、Rは水素原子またはメチル基であり、pは1である。
【0064】
別の実施態様では、式(IV)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式(IV’):
【化17】
[式中、R、R、およびRは前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0065】
好ましい実施態様では、式(IV)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式:
【化18】
で示される化合物(化合物名:2-メチル-5-ヒドロキシトリプタミン塩酸塩;以下「化合物F」とも称する)である。
【0066】
別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、下記式(V):
【化19】
[式中、
qは1~4の整数であり;
およびRは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基からなる群からそれぞれ独立して選択され;
10は水素原子および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基からなる群から選択される]で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0067】
qは1~4の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、とりわけ好ましくは1である。
【0068】
およびRにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0069】
およびRにおける1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基およびトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0070】
およびRにおける1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメトキシ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメトキシ基が好ましく、メトキシ基およびトリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0071】
およびRにおける1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチルチオ基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチルチオ基が好ましく、メチルチオ基およびトリフルオロメチルチオ基が特に好ましい。
【0072】
10における1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基としては、1~3個のフッ素原子で置換されていてもよいメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0073】
1つの実施態様では、Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、およびシアノ基からなる群からそれぞれ独立して選択され、好ましくは、各Rは水素原子である。
【0074】
別の実施態様では、Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、および1~3個のハロゲン原子で置換されていてもよいメチル基からなる群から選択され、好ましくは水素原子である。
【0075】
別の実施態様では、R10は水素原子またはメチル基であり、好ましくはメチル基である。
【0076】
別の実施態様では、qは1である。別の実施態様では、Rは水素原子またはヒドロキシ基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、R10は水素原子またはメチル基であり、qは1である。
【0077】
別の実施態様では、式(V)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式(V’):
【化20】
[式中、R、R、およびR10は前記と同一意味を有する]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【0078】
好ましい実施態様では、式(V)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、下記式:
【化21】
で示される化合物(RS56812塩酸塩;化合物名:(R)-N-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクト-3-イル)-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-2-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-2-オキソアセトアミド塩酸塩;以下「化合物G」とも称する)である。
【0079】
1つの実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、式(I)、(II)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、式(I’)、(II’)、(III’)、(IV’)、または(V’)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、式(I’)、(II’)、(IV’)、または(V’)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、化合物A、B、C、D、E、F、またはGである。別の実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、化合物A、B、C、F、またはGである。
【0080】
好ましい実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。より好ましい実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、式(I’)で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である。さらに好ましい実施態様では、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、化合物Aである。
【0081】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物は、分子内に不斉炭素原子を有する場合、当該不斉炭素原子に基づく複数の立体異性体(すなわち、ジアステレオマー異性体、光学異性体)として存在し得るが、本発明の有効成分はこれらの内のいずれか1個の立体異性体およびその混合物をいずれも包含する。
また、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物は、幾何異性体としてシスおよびトランス異性体を含み得て、更に分子内に軸不斉を有する場合には軸不斉に基づく異性体を含み得て、これらの内のいずれか1個の異性体またはその混合物をいずれも包含する。
【0082】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物は、同位元素(例えば、H、H、13C、14C、15N、18F、32P、35S、125I等)等で標識された化合物および重水素変換体を包含する。
【0083】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物は、遊離の形でも、また医薬的に許容される塩の形でも存在することができる。医薬的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、二マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩等の酸付加塩;リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、およびアルミニウム塩等の金属塩;ならびにアンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩、トリエタノールアミン塩、およびトリエチルアミン塩等の塩基付加塩等が挙げられる。
【0084】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩は、その分子内塩や付加物、それらの溶媒和物あるいは水和物、共結晶等をいずれも含む。
【0085】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩は、その1種または2種以上をそのまま患者に投与してもよいが、必要に応じて、本発明の有効成分と医薬的に許容される担体を混合し、当業者に周知な形態の製剤として提供することができる。
【0086】
その様な担体としては、賦形剤(例えば、マンニトール、ソルビトールの如き糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプンの如きデンプン誘導体;または、結晶セルロースの如きセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムの如きステアリン酸金属塩;またはタルク等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムの如きセルロース誘導体等)、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンの如きパラオキシ安息香酸エステル類;またはクロロブタノール、ベンジルアルコールの如きアルコール類等)、pH調整剤(例えば、塩酸、硫酸またはリン酸等の無機酸、酢酸、コハク酸、フマル酸またはリンゴ酸等の有機酸、あるいはこれらの塩等)、ならびに希釈剤(例えば、注射用水等)等の通常使用される医薬製剤用担体を、単独または2種以上を混合して配合することができる。
【0087】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩は、必要に応じて上記の担体と混合した後、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、溶液製剤、懸濁液製剤、もしくは乳化液製剤等の剤形で経口投与することができ、または坐剤、注射剤、静脈内点滴剤、もしくは吸入製剤等の剤形で非経口投与することができる。
【0088】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩は、上記の剤形に製剤化した後、患者、例えばヒトまたは動物、好ましくはヒトに投与される。
【0089】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩の投与量および投与回数は、疼痛の重篤度、患者の年齢、体重、性別、薬物の種類、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、有効成分は、例えば非経口的には皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、または直腸内等に、1回の投与当たり、約0.1~100mg/kg体重、好ましくは約1~50mg/kg体重、特に好ましくは約3~30mg/kg体重、また経口的には約1~1000mg/kg体重、好ましくは約10~500mg/kg体重、特に好ましくは約30~300mg/kg体重投与される。また、投与回数は、1日当たり1回または複数回、例えば1日当たり1~3回、1~2回、または1回であってよい。
【0090】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニスト、例えば式(I)、(II)、(III)、(IV)、または(V)のいずれかで示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩は、好ましくはその1種、例えば化合物A、B、C、D、E、F、またはGが単独で投与されるが、必要に応じて、本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストの2種以上を組み合わせて投与してもよく、さらに他の薬物、例えば他の疼痛治療剤と組み合わせて投与してもよい。そのような他の疼痛治療剤としては、オピオイド、例えばコデイン、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、レミフェンタニル、メペリジン、ブプレノルフィン、ペンタゾシン、ペチジン、ブトルファノール、トラマドール、ナロキソン;非ステロイド性抗炎症薬、例えばアスピリン、エテンザミド、ジフルニサル、ロキソニン、イブプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、およびインドメタシン;ならびにプレガバリンおよびフルボキサミン、またはその医薬的に許容し得る塩等を挙げることができる。
【0091】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストが2種以上組み合わせて用いられる場合、または、他の薬物と組み合わせて用いられる場合、各薬物は同時に投与されてもよく、逐次的に投与されてもよく、または別々に投与されてもよい。また、各薬物は、2種以上の薬物を含む合剤として製剤化されてもよく、または、各薬物が別々の組成物として製剤化されてもよい。
【0092】
本発明の有効成分であるセロトニン3受容体アゴニストは、市販されているものを用いてもよく、または、公知の方法に従って製造してもよい。例えば、式(I)で示される化合物またはその医薬的に許容し得る塩は、特許文献1または2に記載の方法で製造することができる。また、化合物A、B、C、D、E、F、またはGは市販のものを用いることもできる。
【0093】
さらに本発明は、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する工程を含む、慢性疼痛を予防または治療するための化合物のスクリーニング方法に関する。
本発明のスクリーニング方法は、例えば化合物ライブラリーについてセロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する工程を含む。
化合物ライブラリーは、公知のものであってもなくてもいずれでもよい。公知の化合物ライブラリーとしては、既に食品(例えば、米国食品医薬品局(FDA))または医薬品(例えば、欧州医薬品審査庁(EMEA))の承認を得た化合物を集めた化合物ライブラリー(例えば、PRESTWICK CHEMICALライブラリー)(これは、特許期間が満了した化合物を集めたものである)、および未だそれら食品または医薬品の承認を得ていない化合物を集めた化合物ライブラリー等が挙げられる。
また、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する方法として、細胞(アフリカツメガエルの卵母細胞やHEK293細胞等)にセロトニン3受容体のサブユニットであるA、またはAおよびBのcDNAを細胞に発現させ、電気生理学的に細胞内に流入する電流を計測する方法(Nakamura Y et. al., Biochem Biophys Res Commun. 415(2) (2011) 416-20)やfluorescent membrane-potential sensitive dyeを使用して蛍光強度を計測することによって細胞内に流入する電流を計測する方法(Lummis S et.al., Neuropharmacology 73 (2013) 241-246)等が挙げられる。いずれの方法等においても、化合物を細胞に投与することで得られる応答を調べることにより、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定することができる。
本発明のスクリーニング方法は、測定したセロトニン3受容体アゴニスト活性に基づいて化合物を選別する工程をさらに含んでもよい。
本発明のスクリーニング方法で得られた化合物は、セロトニン3受容体アゴニスト活性を有するため、慢性疼痛の予防または治療に用いることができる。
【0094】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0095】
下記の実験1~5は、文献(M Nakamura-Kitamura et.al. Brain Research 1406(2011),8-17;M Nakamura-Kitamura et.al. Pain Research 27(2012),153-164)記載の方法に、少しの修正を加えて行った。
5週齢の雄性ddYマウス(日本SLC)を実験に使用した。触覚、視覚、感覚等、外的感覚・知覚刺激としての環境文脈は黒色円筒形ポリプロピレン製ボックス(直径9.5cm、高さ7cm、底に円形シャーレ直径8.5cm)および半透明ポリプロピレン製ボックス(縦14cm x 横9.5cm x 高さ5cm、床に網状プレート)の2種類を使用した。
day0にマウスを実験室に移動し、黒色円筒形ボックスに1匹ずつ入れ、30分間の順化を行った。
【0096】
実験1:化合物Aおよび既存薬による疼痛治療効果
(実験方法)
day1に、疼痛誘発物質であるホルマリン(0.67%、20μL)投与30分前に、疼痛治療剤として化合物A(5mg/kg)、もしくはフルボキサミン(10mg/kg)、またはホルマリン投与15分前にフェンタニル(0.05mg/kg)をマウスに腹腔内注射した。なお、実験1~5における各薬物はいずれも、5%DMSOを含む生理食塩水に溶解したものを用いた。その後マウスを黒色円形ボックスに入れ、ホルマリンを左足裏に投与し、投与足の足舐め行動(licking)や噛みつき行動(biting)を5分間計測した。マウスが痛みを感じると足舐め行動や噛みつき行動を行うため、これらの時間を測定することで各薬物の疼痛治療効果を評価することができる。なお、ホルマリンのみを投与した群(F)は17匹、ホルマリン投与前に化合物A(5mg/kg)を投与した群(F-化合物A)は7匹、ホルマリン投与前にフェンタニル(0.05mg/kg)を投与した群(F-フェンタニル)は7匹、およびホルマリン投与前にフルボキサミン(10mg/kg)を投与した群(F-フルボキサミン)は11匹のマウスを用いた。
【0097】
(結果)
化合物Aは、ホルマリンによる足舐め行動や噛みつき行動を有意に抑制することができた。特に、化合物Aは、フルボキサミン等の既存薬よりも少ない用量で、これらの既存薬よりも優れた疼痛治療効果を示した(図1)。
【0098】
実験2:情動成分に由来する痛み
(実験方法)
day1にマウスを黒色円形ボックス(痛み条件群)または半透明ボックス(コントロール群)に入れ、5分後、各群のマウスに音刺激を与え(3000Hz、75dB、5sec、1sec/1sec、on/off、System3 音響システム、バイオリサーチセンター)、直ちにホルマリン(0.67%、20μL)を各群のマウスの左足裏に注射した(27ゲージニードル)。day2に各マウスをday1と同じボックスに入れ、音刺激を与えた後、ホルマリン注射をday1と逆の右足裏に与えた。
【0099】
テスト期day4に、痛み条件群とコントロール群の各マウスを黒色円形ボックスに入れた。5分後、痛み条件群にのみ音刺激を与えた。その後直ちに、各マウスに、ホルマリンの代わりに生理食塩水を左足裏に注射し、投与していない右足裏の足舐め行動や噛みつき行動を5分間計測した。痛み条件群(テスト期day4において、day1、2と同じ条件下で生理食塩水を注射された群)は条件付けに由来する痛み、すなわち、day1、2で痛みを経験および学習したことによる痛みを感じる。一方、コントロール群(テスト期day4において、day1、2と異なる新規環境で生理食塩水を注射された群)は、新規環境にさらされているため、day1、2の条件付けに由来する痛みはない。なお、痛み条件群は36匹、およびコントロール群は15匹のマウスを用いた。
【0100】
(結果)
痛み条件群はコントロール群よりも足舐め行動や噛みつき行動の秒数が有意に増加していた(図2)。この差を情動成分に由来する痛みの指標とし、以下の実験3で情動成分に由来する痛みの治療効果を評価した。
【0101】
実験3:化合物Aおよび既存薬の情動成分に由来する痛みの治療効果
(実験方法)
day1にマウスを黒色円形ボックス(痛み条件群)に入れ、5分後、各マウスに音刺激を与え(3000Hz、75dB、5sec、1sec/1sec、on/off、System3 音響システム、バイオリサーチセンター)、直ちにホルマリン(0.67%、20μL)をマウスの左足裏に注射した(27ゲージニードル)。day2に各マウスをday1と同じボックスに入れ、音刺激を与えた後、ホルマリン注射をday1と逆の右足裏に与えた。
【0102】
テスト期day4に、各マウスに、生理食塩水投与30分前に、ビヒクル(5%DMSOを含む生理食塩水)、化合物A(5mg/kgもしくは10mg/kg)、もしくはフルボキサミン(10mg/kg)、または生理食塩水投与15分前にフェンタニル(0.05mg/kg)を腹腔内注射した。その後、各マウスを黒色円形ボックスに入れた。5分後、痛み条件群に音刺激を与えた。その後直ちに、各マウスに、ホルマリンの代わりに生理食塩水を左足裏に注射し、投与していない右足裏の足舐め行動や噛みつき行動を5分間計測した。各薬物についてビヒクル投与群との差を計算し、情動成分に由来する痛みに対する治療効果を評価した。なお、ビヒクル投与群は36匹、化合物A(5mg/kg)投与群は7匹、化合物A(10mg/kg)投与群は3匹、フェンタニル(0.05mg/kg)投与群は3匹、およびフルボキサミン(10mg/kg)投与群は7匹のマウスを用いた。
【0103】
(結果)
化合物Aは5mg/kgおよび10mg/kgのいずれの濃度においても、情動成分に由来する痛みに対して非常に強い治療効果を示した。また、各既存薬と比較しても、有意に優れた治療効果を示した(図3)。さらに、化合物B、C、F、およびGについても類似の方法で実験を行い、情動成分に由来する痛みに対して治療効果を示すことを確認することができた。
【0104】
実験4:化合物Aの行動量への影響
(実験方法)
化合物Aの行動量に対する影響を検討するため、マウスに化合物A(5mg/kgもしくは10mg/kg)またはビヒクル(5%DMSOを含む生理食塩水)を腹腔内投与し、30分後にsupermex(室町機械)を用いてマウスの行動量を5分間計測した。なお、ビヒクル投与群は7匹、化合物A(5mg/kg)投与群は7匹、および化合物A(10mg/kg)投与群は6匹のマウスを用いた。
【0105】
(結果)
化合物Aの5mg/kgおよび10mg/kgの腹腔内投与による行動量への影響は認められなかった(図4)。すなわち、化合物Aはマウスの行動量自体を抑制するものではないことが立証された。従って、化合物Aによる足舐め行動や噛みつき行動の抑制効果は、化合物Aによる疼痛治療効果によるものであることが立証された。
【0106】
実験5:化合物Aによる急性疼痛治療効果
(実験方法)
ホルマリン(0.67%、20μL)投与30分前にビヒクル(5%DMSOを含む生理食塩水)、化合物A(1mg/kg)、化合物A(5mg/kg)、または化合物A(10mg/kg)をマウスに腹腔内注射した。その後マウスを黒色円形ボックスに入れ、ホルマリンを足底に投与後、投与足の足舐め行動および噛みつき行動を計測した。0~5分の足舐め行動および噛みつき行動をphase1、ならびに5~30分の足舐め行動および噛みつき行動をphase2とした。phase2では、5分毎の足舐め行動および噛みつき行動の時間の平均値を算出した。なお、phase1ではビヒクル投与群は8匹、化合物A(1mg/kg)投与群(化合物A(1))は6匹、化合物A(5mg/kg)投与群(化合物A(5))は8匹、および化合物A(10mg/kg)投与群(化合物A(10))は8匹のマウスを用い、phase2ではビヒクル投与群は7匹、化合物A(1mg/kg)投与群(化合物A(1))は8匹、化合物A(5mg/kg)投与群(化合物A(5))は8匹、および化合物A(10mg/kg)投与群(化合物A(10))は7匹のマウスを用いた。
【0107】
(結果)
化合物Aは、ホルマリンによる足舐め行動や噛みつき行動を、用量依存的かつ有意に抑制することができた(図5および図6)。すなわち、化合物Aは、急性疼痛に対しても優れた疼痛治療効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の有効成分として用いられるセロトニン3受容体アゴニストは、従来の疼痛治療剤では十分な効果が得られていない慢性疼痛の予防または治療効果を有する。また、本発明の有効成分として用いられるセロトニン3受容体アゴニストは、情動成分に由来すると考えられる疼痛に対しても優れた予防または治療効果を有する。このため、本発明は、慢性疼痛に対する優れた予防または治療薬および予防または治療方法を提供することができる。本発明はまた、慢性疼痛および急性疼痛に対する優れた予防または治療薬および予防または治療方法を提供することができる。さらに本発明は、セロトニン3受容体アゴニスト活性を測定する工程を含む、慢性疼痛を予防または治療するための化合物のスクリーニング方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6