(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】車両用トルクセンサ
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
(21)【出願番号】P 2018241288
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃之
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤司
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-52679(JP,A)
【文献】特許第2652313(JP,B2)
【文献】米国特許第5394760(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定する車両用トルクセンサであって、
回転軸から予め設定された距離だけ隔てて絶縁電線を前記回転軸の周囲に巻き付けて構成される複数の検出コイルと、
前記複数の検出コイルにおける前記回転軸の軸方向側の端面である側面部の少なくとも一部を覆う電磁波の透過を抑制する材料から形成されたコイルシールド部と、
前記複数の検出コイルにおけるインダクタンスの変化を検出することにより、前記回転軸に付与されたトルクを測定する測定部と、
前記複数の検出コイルの外周側に配置され、中空円筒状に形成された磁性体を有する磁性リングと、
前記絶縁電線に対して電気的に接続される電線が接続される端子部と、
前記端子部の周囲を覆う導電性を有する材料から形成された端子シールド部と、
を備え、
前記磁性リングの外周側には、電磁波の透過を許容する材料を有する部材が配置されている
トルクセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用トルクセンサであって、
前記コイルシールド部は、前記側面部に接して配置される
トルクセンサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用トルクセンサであって、
前記コイルシールド部は、前記側面部において前記絶縁電線が配置された領域の全てを覆う
トルクセンサ。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載の車両用トルクセンサであって、
前記電磁波の透過を許容する材料を有する部材は、非金属材料からなる
トルクセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定する車両用トルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、磁歪式のトルクセンサにおいて、電磁ノイズを低減する目的で、回転軸の周囲に配置された検出コイルの外周側を、シールド部で覆う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のトルクセンサでは、シールド部に生じる磁界によって、トルクセンサのヒステリシス誤差が大きくなる虞があるという問題があった。
本開示の一側面は、磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定する車両用トルクセンサにおいて、電磁ノイズを低減しつつ、ヒステリシス誤差を抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定する車両用トルクセンサであって、複数の検出コイルと、測定部と、コイルシールド部と、磁性リングと、を備える。
複数の検出コイルは、回転軸から予め設定された距離だけ隔てて絶縁電線を回転軸の周囲に巻き付けて構成される。コイルシールド部は、磁場の透過を抑制する材料から形成され、複数の検出コイルにおける回転軸の軸方向側の端面である側面部の少なくとも一部を覆う。測定部は、複数の検出コイルにおけるインダクタンスの変化を検出することにより、回転軸に付与されたトルクを測定する。磁性リングは、複数の検出コイルの外周側に配置され、中空円筒状に形成された磁性体を有する。磁性リングの外周側には、磁場の透過を許容する材料を有する部材が配置されている。
【0006】
このような構成によれば、複数の検出コイルの側面部をシールド部で覆うことによって電磁ノイズを低減することができる。また、このような構成によれば、磁性リングの外周側は、磁場の透過を遮断する部材で覆われることがなく、外周側の磁場の透過を遮断する部材によって生じる磁界を抑制できるので、トルクセンサのヒステリシス誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】トルクセンサを回転軸に取り付けた際の断面図である。
【
図5】端子シールド部を装着したトルクセンサの斜視図である。
【
図6】樹脂モールド後のトルクセンサの斜視図である。
【
図8】トルクとセンサ感度との関係を示すグラフである。
【
図9】トルクとヒステリシス誤差との関係を示すグラフである。
【
図10】トルクとセンサ感度のばらつきの程度との関係を示すグラフである。
【
図12】実施形態のトルクセンサにおいて、トルクモータを作動させるときに発生する磁場の影響を示すグラフである。
【
図13】参考例のトルクセンサにおいて、トルクモータを作動させるときに発生する磁場の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1-1.トルクセンサの全体構成]
図1は、本開示の一態様のトルクセンサ1の分解斜視図である。
図2、
図3は、組み付け後のトルクセンサ1の斜視図である。
図4は、トルクセンサ1を回転軸2に取り付けた際の断面図である。
【0009】
図4に示すように、トルクセンサ1は、磁歪特性を有する回転軸2の周囲に取り付けられ、車両に搭載された任意の回転軸2に付与された回転トルクを測定する磁歪式のセンサである。
【0010】
図1~
図4に示すように、トルクセンサ1は、磁歪式トルクセンサ用コイル5と、コイルシールド部6,7と、磁性リング8と、端子保持部9と、複数の端子部50と、を備える。なお、
図1においては、端子保持部9および端子部50の記載を省略する。
【0011】
磁歪式トルクセンサ用コイル5は、ボビン20と、ボビン20に巻き付けられた絶縁電線にて構成される第1検出コイル30および第2検出コイル35(以後「検出コイル30,35」とも表記する。)とを備える。
【0012】
回転軸2は、磁歪特性を有する材料から構成され、円柱状、換言すれば棒状に形成されている。磁歪特性を有する材料としては、例えば、ニッケル、鉄-アルミニウム合金、鉄-コバルト合金等が挙げられる。
【0013】
なお、回転軸2に用いる材料としては、圧縮時に透磁率が低下し引張時に透磁率が増加する正磁歪材料、圧縮時に透磁率が増加し引張時に透磁率が低下する負磁歪材料のどちらを用いても構わない。回転軸2は、例えば、パワートレイン系のトルク伝達に用いられるシャフト、あるいは車両のエンジンのトルク伝達に用いられるシャフト等を採用できる。
【0014】
ボビン20は、磁性リング8の中空部に挿入されている。ボビン20における回転軸2の軸方向Lに沿う両側面側には、コイルシールド部6,7が配置されている。言い換えると、ボビン20はコイルシールド部6,7に挟み込まれるように磁性リング8に固定されている。
【0015】
図4に示すように、トルクセンサ1では、ボビン20の内壁と回転軸2との間に隙間が形成されている。隙間を形成することにより、トルクセンサ1は回転軸2に接触しないように構成されている。ボビン20は、回転軸2に対して所定の距離Δdだけ離間して設けられ、かつ、回転軸2と同軸に設けられる。
【0016】
さらに、トルクセンサ1は、ハウジング等の固定部材に固定されているため、回転軸2の回転に伴って回転しないように構成される。
ボビン20の外周面には、軸方向Lに対して±45度傾斜するように絶縁電線が巻き付けられることで検出コイル30,35が形成される。回転軸2にトルクが付与された際の透磁率の変化は軸方向Lに対して±45度の方向で最も大きくなる。そのため、絶縁電線の軸方向Lに対する傾斜を±45度にしている。ただし、絶縁電線を巻き付ける角度は、軸方向Lに対して±45度に限られず、任意の角度であってもよい。
【0017】
本実施の形態では、検出コイル30,35をボビン20の外周面に形成している。そのため、ボビン20は、検出コイル30,35で生じた磁束に与える影響が金属材料よりも小さい材料、例えば樹脂を用いて形成されたものを用いることが好ましい。
【0018】
磁性リング8は、磁性体、例えば、圧粉磁心等の強磁性体からなり、中空円筒状に形成されている。磁性リング8の中空部には検出コイル30,35を設けたボビン20が挿入され、磁性リング8は、ボビン20の外周面を覆うように配置される。
【0019】
磁性リング8の内径は、ボビン20の外径と概ね同じ寸法であり、ボビン20の外径よりも若干大きく形成される。磁性リング8は、検出コイル30,35で生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する役割を果たす。
【0020】
ここで、トルクセンサ1において回転軸2を中心とする複数の検出コイル30,35の外周側であって磁性リング8の外周側には、樹脂部材(樹脂モールド)62が配置される。樹脂部材62は、合成樹脂等を材料とし、磁場の透過を許容する。なお、磁性リング8の外周側には、樹脂部材62に限らず、磁場の透過を許容する材料、例えば空気等の非金属が配置されてもよい。
【0021】
なお、「磁場の透過を許容する材料から形成された部材」には、電磁波の透過が許容される範囲で、金属(磁場の透過を抑制する材料の一例)が含まれていてもよい。具体的には、検出コイル30,35の感度やヒステリシス誤差等の特性が変化しない範囲で、金属などの電磁波の透過を抑制する材料が含まれていてもよい。
【0022】
端子保持部9は、コイルシールド部6,7のうちの一方側のコイルシールド部6に接して配置される。より具体的には、コイルシールド部6におけるボビン20とは反対側の面に端子保持部9が配置される。端子保持部9は、磁性リング8の外径と略一致する外径と、ボビン20の内径と略一致する内径とを有するリング状に構成される。端子保持部9には、複数の端子部50が接続され、複数の端子部50は端子保持部9に保持される。本実施形態では、2つの端子部50が端子保持部9に保持される。ただし、端子保持部9に保持される端子部50の数は、1つでもよいし、3以上の複数であってもよい。端子保持部9は、絶縁性を有する材料、例えば樹脂から形成されたものである。
【0023】
端子部50は、導電性を有する材料、例えば金属材料から形成されたものであり、端子保持部9の外周側に突出して配置される。端子部50は、複数の検出コイル30,35を構成する絶縁電線に対して電気的に接続される。
【0024】
コイルシールド部6,7は、検出コイル30,35を外部の電磁ノイズから保護する(電磁ノイズ(磁場及び電場)を遮蔽する)機能を有する。コイルシールド部6,7は、複数の検出コイル30,35における回転軸の軸方向L側の端面である側面部30A,30Bに接して配置される。
【0025】
本実施形態のコイルシールド部6,7は、例えば導電性を有する材料であるアルミニウムを材料として形成されたものである。なお、コイルシールド部6,7は、例えばアルミニウムと他の金属材料との合金から形成されてもよい。コイルシールド部6,7は、電磁ノイズを遮蔽する機能を有する物質であれば、どのような物質で構成されていてもよい。
【0026】
一方側のコイルシールド部6は、検出コイル30,35の側面部30Aのみの全てを覆う。すなわち、一方側のコイルシールド部6は、磁性リング8の内径に概ね一致する外径と、ボビン20において検出コイル30,35の絶縁電線が配置される配置面20Aに概ね一致する内径と、を有するリング状に構成される。
【0027】
他方側のコイルシールド部7は、検出コイル30,35の側面部30Bの全て、ボビン20の端面、および、磁性リング8の端面を覆う。すなわち、他方側のコイルシールド部7は、磁性リング8の外径に概ね一致する外径と、ボビン20の内径に概ね一致する内径とを有するリング状に構成される。
【0028】
[1-2.トルクセンサの周辺構成]
トルクセンサ1は、端子部50が後述する測定部41と電気的に接続される。端子部50と測定部41とは、
図5、
図6に示すように、シールド線53にて接続される。ただし、端子部50とシールド線53との間は、シールド線53から延びる絶縁電線52を介して接続される。
【0029】
絶縁電線52は、シールド線53を構成するものであって、被覆付きの導線である。絶縁電線52は、導体とこの導体を覆う絶縁被覆とからなる。シールド線53は、複数の絶縁電線52(本実施形態では4本の絶縁電線52)の周囲を、電磁ノイズを遮蔽する構造(例えば、SUS編組)とシースで覆ったものである。シールド線53から延びる絶縁電線52は、シールド線53から上述の電磁ノイズを遮蔽する構造とシースとが取り除かれて露出した絶縁電線52の部分のことである。
【0030】
本実施形態では、電磁ノイズに対する耐性を向上させるために端子部50およびシールド線53から延びる絶縁電線52の周囲に、端子シールド部60を備える。
端子シールド部60は、電磁ノイズを遮蔽する機能を有するアルミニウム、アルミニウム合金等の金属製とされる。端子シールド部60は、
図5に示すように、少なくとも端子部50の周囲を覆い、本実施形態では端子部50から絶縁電線52の部位の周囲を覆う。
【0031】
端子シールド部60が配置された状態のトルクセンサ1は、
図6に示すように、樹脂モールドされることによって、トルクセンサ1の全体が樹脂部材62にて覆われる。ただし、樹脂部材62から外側に向かってシールド線53が延びるように構成される。
【0032】
このように樹脂モールドされたトルクセンサ1は、回転軸2に配置されるとともに、測定部41に接続されて使用される。
[1-3.測定部の構成]
図7に示すように、トルクセンサ1は、第1検出コイル30と第2検出コイル35のインダクタンスの変化を検出することにより、回転軸2に付与されたトルクを測定する測定部41を備えている。以下、第1検出コイル30を構成する一対のコイルのインダクタンスをL1、L4、第2検出コイル35を構成する一対のコイルのインダクタンスをL2、L3とする。
【0033】
測定部41は、ブリッジ回路42と、発信器43と、電圧測定回路44と、トルク演算部45と、を備える。ブリッジ回路42は、検出コイル30,35を順次環状に接続して構成される。
【0034】
発信器43は、検出コイル30,35間の接点aと検出コイル30,35間の接点bとの間に交流電圧を印加する。電圧測定回路44は、検出コイル30,35間の接点cと検出コイル30,35間の接点d間の電圧を検出する。
【0035】
トルク演算部45は、電圧測定回路44で測定した電圧を基に回転軸2に付与されたトルクを演算する。測定部41では、回転軸2にトルクが付与されない状態では、検出コイル30,35のインダクタンスL1~L4は等しくなり、電圧測定回路44で検出される電圧は略0となる。
【0036】
ここで、回転軸2にトルクが付与されると、軸方向Lに対して+45度の方向の透磁率が減少または増加し、軸方向Lに対して-45度方向の透磁率が増加または減少する。よって、発信器43から交流電圧を印加した状態で回転軸2にトルクが付与されると、第1検出コイル30ではインダクタンスが減少または増加し、第2検出コイル35ではインダクタンスが増加または減少する。その結果、電圧測定回路44で検出される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に、トルク演算部45が回転軸2に付与されたトルクを演算する。
【0037】
各層の検出コイル30,35は巻き付け方向が異なる以外は全く同じ構成であるから、
図7のようなブリッジ回路42を用いることで、温度による各検出コイル30,35のインダクタンスへの影響をキャンセルすることが可能であり、精度よく回転軸2に付与されたトルクを検出することができる。また、トルクセンサ1では、第1検出コイル30でインダクタンスが増加または低下すれば、必ず第2検出コイル35ではインダクタンスが低下または増加するため、
図7のようなブリッジ回路42を用いることで、検出感度をより向上させることができる。
【0038】
[1-4.実験結果]
本実施形態のトルクセンサ1が良好な特性を有することを実験によって確認した。
図8はトルクとセンサ感度との関係を示すグラフ、
図9はトルクとヒステリシス誤差との関係を示すグラフ、
図10はトルクとセンサ感度のばらつきの程度との関係を示すグラフである。
【0039】
なお、ヒステリシス誤差とは、相対往復誤差(Relative reversibility error)、すなわち、負荷を増加させた場合と減少させた場合とで得られる特性曲線の差異を表す。ヒステリシス誤差の値は、小さいほうが好ましい。
【0040】
本実験では、
図4に示すように、本実施形態のトルクセンサ1を含む種々のトルクセンサを、樹脂製の固定台、或いはアルミニウム製の固定台65に搭載し、トルクセンサ内に回転軸2を貫通配置した。そして、回転軸2にトルクを加えることで、センサ感度、ヒステリシス誤差、センサ感度のばらつきを測定した。固定台65は、トルクセンサの外周側を取り囲みつつトルクセンサを保持する。アルミニウム製の固定台は、トルクセンサの外周側をアルミニウムで覆うものであり、樹脂製の固定台は、トルクセンサの外周側を樹脂で覆うものである。
【0041】
本実験では、樹脂製の固定台を用いて本実施形態のコイルシールド部6,7を備えないトルクセンサを「センサ固定台(樹脂)」と表記し、アルミニウム製の固定台を用いて本実施形態と同様のアルミニウム製のコイルシールド部6,7を備えるトルクセンサを「センサ固定台(Al)+側面Alシールド」と表記する。また、アルミニウム製の固定台を用いて圧粉磁心によるシールド部を備えるトルクセンサを「センサ固定台(Al)+側面圧粉磁心シールド」と表記し、樹脂製の固定台を用いて本実施形態のトルクセンサ1を保持した構成を「樹脂固定台+側面シールド」と表記する。
【0042】
また、「樹脂固定台+側面シールド」については、回転軸2に加えるトルクが±300Nmである場合のみを測定し、「センサ固定台(樹脂)」、「センサ固定台(Al)+側面Alシールド」、および「センサ固定台(Al)+側面圧粉磁心シールド」については、回転軸2に加えるトルクが±50Nm、±150Nm、および±300Nmである場合について測定した。
【0043】
センサ感度については、
図8に示すように、いずれのトルク、トルクセンサであっても、概ね5.6mV/Nmの出力が得られた。すなわち、側面シールド部の有無はセンサ感度にほとんど影響を与えないことが分かる。
【0044】
ヒステリシス誤差については、
図9に示すように、トルクが大きくなるにつれて誤差が大きくなる傾向があることが得られた。回転軸2に加えるトルクが±300Nmである場合では、本実施形態のトルクセンサ1である「樹脂固定台+側面シールド」が「センサ固定台(樹脂)」よりもヒステリシス誤差が小さくなった。すなわち、検出コイル30,35の側面を覆うコイルシールド部6,7によりヒステリシス誤差が小さくなる(有効である)ことが分かる。また、回転軸2に加えるトルクが±300Nmである場合では、本実施形態のトルクセンサ1である「樹脂固定台+側面シールド」のヒシテリス誤差は、「センサ固定台(Al)+側面Alシールド」と同等であった。このことより、磁性リング8の外周にシールド部を設ける必要性が低いことが分かる。
【0045】
センサ感度のばらつきの程度については、
図10に示すように、本実施形態のコイルシールド部6,7を備える「樹脂固定台+側面シールド」および「センサ固定台(Al)+側面Alシールド」が、他の構成よりもばらつきが小さく、良好な結果が得られた。
【0046】
次に、トルクモータを作動させるときに発生する磁場の影響を、
図11に示す計測装置70を用いて測定した。トルクモータは、回転軸2を回転駆動させる電動モータであり、回転軸2にトルクを加えるものである。トルクセンサ1から1m程度の距離にトルクモータを配置した。計測装置70は、
図11に示すように、トルク計71と、接続部72と、駆動検出回路73と、ADボード74と、演算部75とを備える。
【0047】
トルク計71は、トルクモータから回転軸2に加えられるトルクを測定するセンサである。接続部72は、シールド線53にて伝送される信号を駆動検出回路73に送るための経路の一部である。接続部72は、例えば、コネクタを組み付けて構成される。
【0048】
駆動検出回路73は、前述の測定部41と同様に、トルクセンサ1にて検出された信号に基づいて回転軸2に加わるトルクを検出する。ADボード74は、周知のアナログ・デジタル変換器の機能を有する。ADボード74は、トルク計71からのアナログ信号をデジタル信号に変換するとともに、駆動検出回路73からのアナログ信号をデジタル信号に変換し、演算部75に送る。
【0049】
演算部75は、パーソナルコンピュータ等の周知の演算装置として構成される。演算部75は、トルク計71が測定するトルク、およびトルクセンサ1が測定するトルクを時系列に沿って出力する。
【0050】
このような計測装置70を用いて、トルクモータの電源を投入した状態であり、かつトルクモータを駆動させない状態(トルクモータから回転軸2にトルクを加えない状態)のトルクセンサからの出力を調べた。トルクモータへの電源投入は、測定開始から約9秒後である。測定開始の約9秒後から約30秒までの間は、トルクモータの電源を投入し、かつ、トルクモータを駆動させない状態とされている。トルクモータの電源を投入した状態とは、いつでもトルクモータを作動可能なスタンバイ状態、例えば、励磁式のトルクモータに、励磁電流のみを流した状態を示す。
【0051】
本実験において本実施形態のトルクセンサ1では、
図12に示すように、トルクモータの電源投入前後で、トルクセンサ1からの出力に大きな変動がなく、出力は概ね±20mV未満で安定した。一方で、本実施形態のコイルシールド部6,7を備えない比較例のトルクセンサでは、
図13に示すように、トルクモータの電源投入後には、トルクセンサ1から-80mV程度の出力が発生した。すなわち、比較例のトルクセンサでは、トルクモータにて発生する磁場の影響により、回転軸2にトルクが加えられていないにも拘らずトルクが加えられたときと同様の出力が発生した。
【0052】
これらの結果より、検出コイル30,35の側面を覆うコイルシールド部6,7が、トルクモータから発生した電磁ノイズを遮蔽するのに有効であり、かつ検出コイル30,35の外周にシールド部を設ける必要性が低いことが分かる。
【0053】
[1-5.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)本開示の一態様は、磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定するトルクセンサ1であって、複数の検出コイル30,35と、測定部41と、コイルシールド部6,7と、磁性リング8と、を備える。
【0054】
複数の検出コイル30,35は、回転軸から予め設定された距離だけ隔てて絶縁電線を回転軸の周囲に巻き付けて構成される。コイルシールド部6,7は、電磁波の透過を抑制する材料から形成され、複数の検出コイル30,35における回転軸の軸方向L側の端面である側面部30A,30Bの少なくとも一部を覆う。測定部41は、複数の検出コイル30,35におけるインダクタンスの変化を検出することにより、回転軸に付与されたトルクを測定する。磁性リング8は、複数の検出コイルの外周側に配置され、中空円筒状に形成された磁性体を有する。磁性リング8の外周側には、電磁波の透過を許容する材料を有する部材が配置されている。
【0055】
このような構成によれば、複数の検出コイル30,35の側面部30A,30Bをシールド部で覆うことによって、検出コイル30,35が電磁ノイズにより受ける影響を低減することができる。また、このような構成によれば、磁性リング8の外周側は、電磁波の透過を遮断する部材にて覆われることがないので、トルクセンサのヒステリシス誤差を抑制することができる。
【0056】
また、このような構成によれば、磁性リング8を備えるので、検出コイル30,35に生じた磁束が外部に漏れることが抑制でき、センサ感度の低下を抑制することができる。
【0057】
(1b)本開示の一態様では、コイルシールド部6,7は、側面部30A,30Bに接して配置されてもよい。
このような構成によれば、コイルシールド部6,7が側面部30A,30Bに接して配置されるので、電磁ノイズが検出コイル30,35に侵入することをより抑制することができる。
【0058】
(1c)本開示の一態様では、コイルシールド部6,7は、側面部30A,30Bにおいて絶縁電線が配置された領域の全てを覆ってもよい。
このような構成によれば、コイルシールド部6,7が側面部30A,30Bにおいて絶縁電線が配置された領域の全てを覆うので、電磁ノイズが検出コイル30,35に侵入することをより抑制することができる。
【0059】
(1d)本開示の一態様は、端子部50と、金属製の端子シールド部60と、を更に備えてもよい。端子部50は、絶縁電線に対して電気的に接続される電線が接続される。端子シールド部60は、端子部50の周囲を覆う。
【0060】
このような構成によれば、金属製の端子シールド部60を備えるので、端子部50に電磁ノイズが侵入することを抑制することができる。
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0061】
(2a)上記実施形態では、コイルシールド部6,7は、側面部30A,30Bに接して配置されたが、これに限定されるものではない。例えば、コイルシールド部6,7は、側面部30A,30Bから所定距離だけ離して配置されてもよい。
【0062】
(2b)上記実施形態では、コイルシールド部6,7は、側面部30A,30Bにおいて絶縁電線が配置された領域の全てを覆うように構成したが、これに限定されるものではない。例えば、コイルシールド部6,7は、側面部30A,30Bにおいて絶縁電線が配置された領域の少なくとも一部を覆っていればよい。
【0063】
(2c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0064】
(2d)上述したトルクセンサの他、当該トルクセンサを備えるシステムなど、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0065】
1…トルクセンサ、2…回転軸、5…磁歪式トルクセンサ用コイル、6…コイルシールド部、7…コイルシールド部、8…磁性リング、9…端子保持部、20…ボビン、20A…配置面、30…第1検出コイル、30A,30B…側面部、35…第2検出コイル、41…測定部、50…端子部、52…絶縁電線、53…シールド線、60…端子シールド部、62…樹脂部材、65…固定台、70…計測装置。