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▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】鉱業用途の選択的抽出フィルム
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/24 20060101AFI20220617BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20220617BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/30 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20220617BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220617BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220617BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220617BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20220617BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20220617BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20220617BHJP
   C08K 5/32 20060101ALI20220617BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B01D61/24
C22B3/20
C22B23/00 102
B01D71/10
B01D71/12
B01D71/26
B01D71/28
B01D71/30
B01D71/38
B01D71/42
B01D71/68
C02F1/44 Z
C08L101/00
C08K5/17
C08K5/521
C08K5/12
C08K5/32
C08L27/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019533232
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2017084063
(87)【国際公開番号】W WO2018115268
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】10201610826W
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(31)【優先権主張番号】17157793.5
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨーク リム リム
(72)【発明者】
【氏名】ナタリア ウィジョジョ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード グラント マクーン
(72)【発明者】
【氏名】ナタリア エメリヤノヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ バウス
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0324625(US,A1)
【文献】特表2001-520312(JP,A)
【文献】国際公開第99/019523(WO,A1)
【文献】特公昭59-034651(JP,B2)
【文献】YILDIZ Y,SELECTIVE EXTRACTION OF COBALT IONS THROUGH POLYMER INCLUSION MEMBRANE CONTAINING 以下備考,DESALINATION AND WATER TREATMENT,英国,TAYLOR & FRANCIS,2014年12月24日,VOL:57, NR:10,PAGE(S):4616 - 4623,https://www.researchgate.net/publication/280180840
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
C22B 1/00-61/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B01D 11/00-12/00
15/00-15/42
C02F 1/20- 1/26
1/30- 1/38
1/58- 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子膜であって、該高分子膜の全重量を基準としてそれぞれ、以下:
i)セルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、ベースポリマー(B).0~3.0重量%と、
ii)2-ニトロフェニルオクチルエーテル(2-NPOE)、2-ニトロフェニルペンチルエーテル(2-NPPE)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルおよびそれらの混合物からなる群から選択される、可塑剤(P)少なくとも8重量%と、
iii)第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択される、抽出剤(E)少なくとも2重量%と、
iv)リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される、改質剤(M)少なくとも6重量%と
を含む、高分子膜であって、
前記高分子膜は、前記ベースポリマー(B)と前記抽出剤(E)とを、0.1~0.7の範囲にある重量比w(B)/w(E)で含み、
ここでそれぞれ、w(B)は、前記高分子膜の全重量を基準とした前記ベースポリマー(B)の全量(重量%)であり、w(E)は、前記高分子膜の全重量を基準とした前記抽出剤(E)の全量(重量%)である、前記高分子膜。
【請求項2】
前記ベースポリマー(B)は、ポリ塩化ビニル(PVC)である、請求項記載の高分子膜。
【請求項3】
前記高分子膜は、前記抽出剤(E)と前記可塑剤(P)とを、重量比w(E)/w(P)が1.6未満の状態で含み、ここでそれぞれ、w(E)は、前記高分子膜の全重量を基準とした前記抽出剤(E)の全量(重量%)であり、w(P)は、前記高分子膜の全重量を基準とした前記可塑剤(P)の全量(重量%)である、請求項1または2記載の高分子膜。
【請求項4】
前記抽出剤(E)は、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、N,N-ジオクチル-1-オクタンアミン(Alamine 336(登録商標))、トリ-n-オクチルアミン(Alamine 308(登録商標))またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載の高分子膜。
【請求項5】
前記改質剤(M)は、トリフェニルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリ-sec-ブチルホスフェート、トリ-tert-ブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、トリ-n-ヘキシルホスフェートおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載の高分子膜。
【請求項6】
コバルトを他の金属から分離する方法であって、
a)請求項1からまでのいずれか1項記載の高分子膜によって離隔された第1のチャンバと第2のチャンバとを備えた容器を提供するステップと、
b)コバルトおよび/またはその少なくとも1つの塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む組成物を、前記第1のチャンバに供給するステップと、
c)チオシアン酸および/またはその塩を、前記第1のチャンバ内のステップb)の前記組成物に加えるステップと、
d)任意に、前記第1のチャンバ内のステップc)で得られた前記組成物に、pH緩衝剤を加えるステップと、
e)前記第2のチャンバにストリッピング溶液(S)を供給するステップと
を含む、方法。
【請求項7】
前記ストリッピング溶液(S)は、アンモニア(NH)とトリエタノールアミン(TEA)とを:2~:1の範囲のモル比で含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
ステップc)でチオシアン酸アンモニウム(NHSCN)を施与する、請求項または記載の方法。
【請求項9】
i)前記pH緩衝剤は、酢酸および酢酸アンモニウムを含み、かつ/または
ii)ステップd)で得られる組成物のpH値は、2~6の範囲にある、
請求項からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記コバルト塩は、塩化コバルト(II)(CoCl)、臭化コバルト(II)(CoBr)、ヨウ化コバルト(II)(CoI)、フッ化コバルト(II)(CoF)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、亜硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)およびそれらの混合物から選択される、請求項からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記コバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩は、塩化ニッケル(II)(NiCl)、臭化ニッケル(II)(NiBr)、ヨウ化ニッケル(II)(NiI)、フッ化ニッケル(II)(NiF)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、亜硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)およびそれらの混合物から選択される、請求項から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
コバルトおよび/またはその塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む組成物からコバルトおよび/またはその塩を抽出するための選択的抽出フィルムとしての、請求項1からまでのいずれか1項記載の高分子膜の使用。
【請求項13】
前記組成物は、水性組成物である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
前記組成物は、鉱石、浸出液または廃棄物組成物である、請求項12記載の使用。
【請求項15】
前記コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩は、ニッケルおよび/またはその塩である、請求項12記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高分子膜、特にコバルト(II)イオンを選択的に抽出するためのポリマー包含膜(PIM)、および前記高分子膜を用いてコバルト(II)イオンを抽出する方法に関する。
【0002】
発明の背景
遷移金属コバルトは、特殊合金、鋼および触媒に広く用いられており、したがって、産業および研究にとって重要な資源である。大半の用途において、高純度コバルト化合物の使用は非常に重要である。しかし、コバルトは通常、ニッケルおよび銅の採鉱および製錬のコバルト副生成物を還元することによって得られ、その際、原料にはしばしばこれらの金属が随伴する。したがって、高純度のコバルト化合物を得るためには、コバルトをニッケルおよび銅から分離する必要がある。
【0003】
これに関して、当技術分野において、選択的抽出剤と錯化剤とを含有する高分子膜の適用が周知である。そのような高分子膜は通常、機械的強度を提供するためのベースポリマーと、該膜を通るイオンのキャリアとして作用する抽出剤と、弾性のための可塑剤とを含有する。一般的に使用されている高分子膜は、例えば支持液膜(SLM)およびポリマー包含膜(PIM)であり、後者は、使用後の膜の再含浸が不要であることから特に有利である。SLMは再含浸を必要とし、したがって再使用が不可であるため、工業プロセスにおけるSLMの適用は魅力的でない。
【0004】
コバルトとニッケルの分離に関しては、Yildizら(Destillation and Water Treatment 2016, 57, 4616-4623)により、可塑剤2-ニトロフェニルペンチルエーテル(NPPE)25重量%と、改質剤トリブチルホスフェート(TBP)25重量%と、抽出剤トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))25重量%とを含有するセルローストリアセテート(CTA)膜を用いることで、良好な選択性が達成されることが見出された。
【0005】
しかし、分離プロセスの有効性および実現可能性に関して、金属イオンがかなりの高流量で膜を通過することもまた望ましい。ターゲット金属としてのコバルトに注目すると、コバルト(II)イオンの抽出に現在適用されている高分子膜は、膜を通るコバルト(II)イオンの流量に関して欠点を示す。商業用途の文脈では、流量が可能な限り高くあるべきであることは明らかである。
【0006】
したがって、選択性を高水準に維持しつつ流量を増加させてコバルトをニッケルから分離するのに適用可能な高分子膜が、当技術分野において必要とされている。
【0007】
したがって本発明の目的は、高いコバルト流量でコバルトをニッケルから分離する高分子膜を提供することである。
【0008】
発明の概要
上記および他の目的は、本発明の主題によって解決される。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、高分子膜であって、該高分子膜の全重量を基準としてそれぞれ、以下:
i)ベースポリマー(B)約5.0~約33.0重量%と、
ii)任意に、可塑剤(P)少なくとも約18重量%と、
iii)抽出剤(E)少なくとも約22重量%と、
iv)改質剤(M)少なくとも約26重量%と
を含む高分子膜が提供される。
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、ベースポリマー(B)約5.0~約33.0重量%と、任意に可塑剤(P)少なくとも約18重量%と、抽出剤(E)少なくとも約22重量%とを含む高分子膜を、ニッケルからのコバルトの分離に適用することによって、コバルトとニッケルとの間の選択性が損なわれることなくコバルト流量が増加することを見出した。
【0011】
本発明のさらなる態様によれば、高分子膜は、ベースポリマー(B)と抽出剤(E)とを、重量比w(B)/w(E)が1.3未満の状態で含み、ここでそれぞれ、w(B)は、高分子膜の全重量を基準としたベースポリマー(B)の全量(重量%)であり、w(E)は、高分子膜の全重量を基準とした抽出剤(E)の全量(重量%)である。
【0012】
比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあることが特に好ましい。
【0013】
本発明のさらなる態様によれば、ベースポリマー(B)は、セルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンまたはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0014】
ベースポリマー(B)がポリ塩化ビニル(PVC)であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の一態様によれば、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、ベースポリマー(B)は、ポリ塩化ビニルである。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択される。
【0019】
本発明の一態様によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0020】
本発明の別の態様によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択され、改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0021】
本発明の一態様によれば、ベースポリマー(B)は、ポリ塩化ビニル(PVC)であり、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択され、改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0022】
ベースポリマー(B)がポリ塩化ビニル(PVC)であり、上記で定められた重量比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)が第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択され、改質剤(M)がリン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択されることが特に好ましい。
【0023】
本発明の他の態様によれば、可塑剤(P)は、2-ニトロフェニルオクチルエーテル(2-NPOE)、2-ニトロフェニルペンチルエーテル(2-NPPE)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(Hexamoll(登録商標)Dinch(登録商標))およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、抽出剤(E)は、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、N,N-ジオクチル-1-オクタンアミン(Alamine 336)、トリ-n-オクチルアミン(Alamine 308)またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0025】
本発明の一態様によれば、改質剤(M)は、トリフェニルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリ-sec-ブチルホスフェート、トリ-tert-ブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、トリ-n-ヘキシルホスフェートおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0026】
本発明の他の態様によれば、高分子膜は、抽出剤(E)と可塑剤(P)とを、重量比w(E)/w(P)が1.6未満の状態で含み、ここでそれぞれ、w(E)は、高分子膜の全重量を基準とした抽出剤(E)の全量(重量%)であり、w(P)は、高分子膜の全重量を基準とした可塑剤(P)の全量(重量%)である。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、コバルトを他の金属から分離する方法であって、
a)上記の高分子膜によって離隔された第1のチャンバと第2のチャンバとを備えた容器を提供するステップと、
b)コバルトおよび/またはその少なくとも1つの塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む組成物を、前記第1のチャンバに供給するステップと、
c)チオシアン酸および/またはその塩を、前記第1のチャンバ内のステップb)の前記組成物に加えるステップと、
d)任意に、前記第1のチャンバ内のステップc)で得られた前記組成物に、pH緩衝剤を加えるステップと、
e)前記第2のチャンバにストリッピング溶液(S)を供給するステップと
を含む方法が提供される。
【0028】
本発明のさらなる態様によれば、ストリッピング溶液(S)は、アンモニア(NH)とトリエタノールアミン(TEA)を2:1~1:2の範囲のモル比で含む。
【0029】
ステップc)でチオシアン酸アンモニウム(NHSCN)を施与することが特に好ましい。
【0030】
本発明の他の態様によれば、pH緩衝剤は、酢酸および酢酸アンモニウムを含み、かつ/またはステップd)で得られる組成物のpH値は、2~6の範囲にある。
【0031】
本発明のさらに別の態様によれば、コバルト塩は、塩化コバルト(II)(CoCl)、臭化コバルト(II)(CoBr)、ヨウ化コバルト(II)(CoI)、フッ化コバルト(II)(CoF)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、亜硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)およびそれらの混合物から選択される。
【0032】
コバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩が、塩化ニッケル(II)(NiCl)、臭化ニッケル(II)(NiBr)、ヨウ化ニッケル(II)(NiI)、フッ化ニッケル(II)(NiF)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、亜硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)およびそれらの混合物から選択されることが特に好ましい。
【0033】
本発明はさらに、コバルトおよび/またはその塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む組成物からコバルトおよび/またはその塩を抽出するための選択的抽出フィルムとしての、上記の高分子膜の使用に関する。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、該組成物は、金属および/または金属塩の混合物を含有する水性組成物などの水性組成物である。
【0035】
本発明の別の実施形態によれば、該組成物は、鉱石、浸出液または廃棄物組成物である。
【0036】
別の実施形態では、コバルトまたはコバルト塩を分離する方法は、鉱業および/または廃棄物リサイクル産業に適用される。
【0037】
コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩が、ニッケルおよび/またはその塩であることが特に好ましい。
【0038】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0039】
発明の詳細な説明
高分子膜であって、該高分子膜の全重量を基準としてそれぞれ、以下:
i)ベースポリマー(B)約5.0~約33.0重量%と、
ii)任意に、可塑剤(P)少なくとも約18重量%と、
iii)抽出剤(E)少なくとも約22重量%と、
iv)改質剤(M)少なくとも約26重量%と
を含む高分子膜が提供される。
【0040】
本発明者らは、驚くべきことに、ベースポリマーと、任意に可塑剤と、抽出剤と、改質剤とを上述の量で含む高分子膜をコバルトとニッケルとの分離に用いることによって、コバルト流量が増加した状態でコバルトへの完全な選択性が達成されることを見出した。
【0041】
本明細書で使用する場合に、「高分子膜」という用語は、イオン性金属化合物に対して透過性である高分子材料を含むフィルムに関する。一実施形態では、「高分子膜」とは、「ポリマー包含膜」である。
【0042】
本明細書で使用する場合に、「可塑剤」という用語は添加剤に関し、好ましくはかなりの高誘電率であり(例えば、ε=15超、20超または22超である)、それにより材料の、特に高分子材料の粘度が増大することを特徴とする添加剤に関する。
【0043】
本明細書で使用する場合に、「抽出剤」という用語は、1つ以上の化合物を、該化合物を含む混合物から抽出するのに使用される物質に関する。抽出剤の選択は、抽出すべき化合物の溶解性に依存する。したがって、特定の化合物の抽出には、極性が類似している抽出剤を適用することが好ましい。
【0044】
本明細書で使用する場合に、「流量」という用語は、特定の期間中に単位面積当たりに高分子膜を通過する金属(例えば、コバルト)または金属塩(コバルト塩)の量に関する。
【0045】
測定可能な単位に関する「約」という用語は、該測定可能な単位の通常の偏差を指す。「約」という用語は、示された数値の±15%、好ましくは±10%、より好ましくは±5%の偏差を意味し得るものと理解されるべきである。
【0046】
上記で概説したように、ベースポリマー、可塑剤、抽出剤および改質剤を特定の量で含有する高分子膜を適用した場合に、コバルト流量が増加することが判明した。
【0047】
したがって、本発明による高分子膜は、該高分子膜の全重量を基準として、ベースポリマー(B)約5.0~約33.0重量%、より好ましくは約10.0~約25.0重量%、さらにより好ましくは約12.0~約20.0重量%、例えば約13.0~約16.0重量%と、任意に可塑剤(P)少なくとも約18.0重量%、より好ましくは約18.0~約30.0重量%、さらにより好ましくは約20.0~約28.0重量%、例えば約22.0~約26.0重量%と、抽出剤(E)少なくとも約22.0重量%、より好ましくは約22.0~約35.0重量%、さらにより好ましくは約25.0~約32.0重量%、例えば約29.0~約31.0重量%と、改質剤(M)少なくとも約26.0重量%、より好ましくは約27.0~約33.0重量%、さらにより好ましくは約29.0~約32.0重量%とを含む。
【0048】
本発明による高分子膜は、酸化防止剤、紫外線安定剤または軟化剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
したがって、本発明による高分子膜が、該高分子膜の全重量を基準として、ベースポリマー(B)約5.0~約33.0重量%、より好ましくは約10.0~約25.0重量%、さらにより好ましくは約12.0~約20.0重量%、例えば約13.0~約16.0重量%と、任意に可塑剤(P)少なくとも約18.0重量%、より好ましくは約18.0~約30.0重量%、さらにより好ましくは約20.0~約28.0重量%、例えば約22.0~約26.0重量%と、抽出剤(E)少なくとも約22.0重量%、より好ましくは約22.0~約35.0重量%、さらにより好ましくは約25.0~約32.0重量%、例えば約29.0~約31.0重量%と、改質剤(M)少なくとも約26.0重量%、より好ましくは約27.0~約33.0重量%、さらにより好ましくは約29.0~約32.0重量%と、添加剤0.0~約10.0重量%とを含み、さらに好ましくはこれらからなることが好ましい。
【0050】
本発明の高分子膜が、該高分子膜の全重量を基準として、ベースポリマー(B)約15.0重量%と、可塑剤(P)約25.0重量%と、抽出剤(E)約30.0重量%と、改質剤(M)約30.0重量%とからなることが特に好ましい。
【0051】
本発明の高分子膜のベースポリマー(B)は、コバルト(II)イオンに対して透過性でありかつ十分な機械的強度を提供するいずれの高分子材料であってもよい。さらに、ベースポリマー(B)は、可塑剤(P)、抽出剤(E)および改質剤(M)を受容している。
【0052】
ベースポリマー(B)は好ましくは、グルコース、塩化ビニル、エチレン、C~C10α-オレフィン、スチレン、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、芳香族スルホン、ブタジエンまたはイソプレン、ビスフェノール、ビスフェノールAおよび/もしくはジハロゲンジフェニルスルホンのホモポリマーまたはコポリマーである。
【0053】
したがって、ベースポリマー(B)は、セルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンまたはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0054】
より好ましくはベースポリマーは、セルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテートおよびポリ塩化ビニル(PVC)から選択される。
【0055】
ベースポリマー(B)がポリ塩化ビニル(PVC)であることが特に好ましい。
【0056】
さらに、本発明の高分子膜が、該高分子膜の全重量を基準として、ベースポリマー(B)約5.0~約33.0重量%、より好ましくは約10.0~約25.0重量%、さらにより好ましくは約12.0~約20.0重量%、例えば約13.0~約16.0重量%を含むことが好ましい。該高分子膜がベースポリマー(B)約15重量%を含むことが特に好ましい。
【0057】
さらに、本発明による高分子膜は、可塑剤(P)を含んでいてもよい。可塑剤の添加は、高分子材料の分野、特にポリ塩化ビニル材料の分野における通例の慣習である。可塑剤は、ポリマーの粘度を適合させるために適用される。したがって、高分子膜に関して、可塑剤(P)は、微細構造、したがって膜の透過性を決定づけるポリマー鎖間の分子間力に対して大きな影響を及ぼす。
【0058】
本発明によれば、可塑剤(P)は、エーテル基、エステル基またはヒドロキシル基などの酸素含有官能基を含む有機化合物である。
【0059】
したがって可塑剤(P)は、2-ニトロフェニルオクチルエーテル(2-NPOE)、2-ニトロフェニルペンチルエーテル(2-NPPE)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0060】
これに加えて、またはこれに代えて、可塑剤(P)が比誘電率εを有することが好ましい。特に、可塑剤(P)がかなり高い誘電率εを特徴とすることが好ましい。したがって、可塑剤(P)が、少なくとも18、より好ましくは少なくとも20、さらにより好ましくは少なくとも22、例えば18~30の範囲の誘電率εを有することが好ましい。
【0061】
可塑剤が2-ニトロフェニルペンチルエーテル(2-NPPE)であることが特に好ましい。
【0062】
可塑剤(P)は高分子膜の粘度に影響を与えるため、コバルト(II)イオンの移動度も高分子膜中の可塑剤(P)の全量によって決まる。
【0063】
したがって、本発明の高分子膜が、該高分子膜の全重量を基準として、可塑剤(P)少なくとも18.0重量%、より好ましくは18.0~30.0重量%、さらにより好ましくは20.0~28.0重量%、例えば22.0~26.0重量%を含むことが好ましい。本発明の高分子膜が可塑剤(P)25.0重量%を含むことが特に好ましい。
【0064】
ベースポリマー(B)および可塑剤(P)に加えて、本発明の高分子膜は、抽出剤(E)をさらに含む。
【0065】
高分子膜中に抽出剤(E)が存在することで、膜を通じたコバルト(II)イオンの輸送が促進される。したがって、抽出剤(E)がイオン性化合物であり、該化合物は、イオン性コバルト種と相互作用するが、高分子膜への抽出剤(E)の溶解性を改善するために非極性部分をも含むことが好ましい。
【0066】
したがって、抽出剤(E)が相間移動触媒であることが好ましい。
【0067】
特に、本発明の抽出剤(E)が、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物であることが好ましい。
【0068】
好ましくは、抽出剤(E)は、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、N,N-ジオクチル-1-オクタンアミン(Alamine 336(登録商標))、トリ-n-オクチルアミン(Alamine 308(登録商標))またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0069】
抽出剤(E)がトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))であることが特に好ましい。
【0070】
上記で概説したように、抽出剤(E)によって、高分子膜を通じたコバルトの輸送が促進される。したがって、高分子膜中の抽出剤(E)の量はコバルト流量に大きな影響を及ぼし、コバルト流量は、抽出剤(E)の量と共に増加する。しかし、抽出剤濃度が比較的高いと高分子膜の粘度も増加し、これは一方でコバルト流量の減少を招く。
【0071】
したがって、本発明による高分子膜は、該高分子膜の全重量を基準として、抽出剤(E)を少なくとも約22.0重量%、より好ましくは約22.0~約35.0重量%、さらにより好ましくは約25.0~約32.0重量%、例えば約29.0~約31.0重量%含む。高分子膜が抽出剤(E)を約30重量%含むことが特に好ましい。
【0072】
本発明の高分子膜は、改質剤(M)をさらに含む。改質剤は、高分子膜からストリッピング溶液(S)へのコバルト抽出の効率を高めるために適用され、その結果、改質剤(M)の存在によってコバルト流量も増大する。
【0073】
本発明の高分子膜について、適切な改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルである。特に改質剤は、トリフェニルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリ-sec-ブチルホスフェート、トリ-tert-ブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、トリ-n-ヘキシルホスフェートおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0074】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、改質剤は、トリ-n-ブチルホスフェート(TBP)である。
【0075】
加えて、本発明の高分子膜が、該高分子膜の全重量を基準として、改質剤(M)を少なくとも約26.0重量%、より好ましくは約27.0~約33.0重量%、さらにより好ましくは約29.0~約32.0重量%含むことが好ましい。該高分子膜が改質剤(M)を約30.0重量%含むことが特に好ましい。
【0076】
本発明による高分子膜が、ベースポリマー(B)と抽出剤(E)とを、重量比w(B)/w(E)が約1.3未満の状態で含むことが好ましく、ここでそれぞれ、w(B)は、高分子膜の全重量を基準としたベースポリマー(B)の全量(重量%)であり、w(E)は、高分子膜の全重量を基準とした抽出剤(E)の全量(重量%)である。
【0077】
より好ましくは、ベースポリマー(B)と抽出剤(E)との重量比w(B)/w(E)は、約0.1以上1.2未満の範囲にあり、さらにより好ましくは約0.2~約0.8の範囲にあり、例えば約0.4~約0.7の範囲にある。重量比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあることが特に好ましい。
【0078】
先行する段落に加えて、またはそれに代えて、本発明による高分子膜は、抽出剤(E)と可塑剤(P)とを、重量比w(E)/w(P)が1.6未満の状態で含むことが好ましく、ここでそれぞれ、w(E)は、高分子膜の全重量を基準とした抽出剤(E)の全量(重量%)であり、w(P)は、高分子膜の全重量を基準とした可塑剤(P)の全量(重量%)である。
【0079】
より好ましくは、抽出剤(E)と可塑剤(P)との重量比w(E)/w(P)は、約0.5以上1.6未満の範囲にあり、さらにより好ましくは約0.8~約1.4の範囲にあり、さらにより好ましくは約1.1~約1.3の範囲にある。
【0080】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は約0.1~約0.7の範囲にあり、かつベースポリマー(B)はポリ塩化ビニルである。
【0081】
本発明の別の特に好ましい実施形態によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、かつ抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択される。
【0082】
上記で定められた重量比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあり、かつ抽出剤(E)がトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))であることが特に好ましい。
【0083】
本発明の別の特に好ましい実施形態によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、かつ改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0084】
上記で定められた重量比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあり、かつ改質剤(M)がトリ-n-ブチルホスフェート(TBP)であることが特に好ましい。
【0085】
本発明の別の特に好ましい実施形態によれば、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は、約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択され、かつ改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0086】
上記で定められた重量比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)がトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))であり、かつ改質剤(M)がトリ-n-ブチルホスフェート(TBP)であることが特に好ましい。
【0087】
本発明の別の特に好ましい実施形態によれば、ベースポリマー(B)はポリ塩化ビニル(PVC)であり、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択され、かつ改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0088】
ベースポリマー(B)がポリ塩化ビニル(PVC)であり、抽出剤(E)がトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))であり、かつ改質剤(M)がトリ-n-ブチルホスフェート(TBP)であることが特に好ましい。
【0089】
本発明の別の特に好ましい実施形態によれば、ベースポリマー(B)はポリ塩化ビニル(PVC)であり、上記で定められた重量比w(B)/w(E)は約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)は、第三級アミンまたは第四級アンモニウム化合物から選択され、かつ改質剤(M)は、リン酸の芳香族エステルまたはリン酸の脂肪族エステルから選択される。
【0090】
ベースポリマー(B)がポリ塩化ビニル(PVC)であり、上記で定められた重量比w(B)/w(E)が約0.1~約0.7の範囲にあり、抽出剤(E)がトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336(登録商標))であり、かつ改質剤(M)がトリ-n-ブチルホスフェート(TBP)であることが特に好ましい。
【0091】
本発明の高分子膜の厚さが、25μm未満、より好ましくは15μm未満、さらにより好ましくは12μm未満であることが好ましい。
【0092】
上記で概説したように、本発明は、コバルトを他の金属から分離する方法にも関する。
【0093】
本発明の方法によれば、コバルト(II)イオンとコバルト以外のさらなる金属イオンとを含有する供給溶液からコバルト(II)イオンが選択的に抽出される。前記供給溶液は、第1の反応器チャンバに供給される。この第1の反応器チャンバは、上記の高分子膜によって第2の反応器チャンバから離隔されている。コバルト(II)イオンが該高分子膜を通って第2の反応器チャンバへと選択的に入るのに対して、コバルト(II)以外の金属イオンは、第1の反応器チャンバ内に残る。第2の反応器チャンバには、膜からのコバルト(II)イオンの抽出を促進するストリッピング溶液(S)が収容されている。
【0094】
本明細書で使用する場合に、「選択性」という用語は、本発明の抽出方法によって得られるコバルト塩の純度の程度に関する。一実施形態では、「選択的」とは、コバルト以外の任意の金属が、5.0重量%以下、3.0重量%以下、1.5重量%以下、1.0重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下または0.1重量%以下の量で存在することを意味する。
【0095】
したがって、本発明の方法は、以下:
a)上記の高分子膜によって離隔された第1のチャンバと第2のチャンバとを備えた容器を提供するステップと、
b)コバルトおよび/またはその少なくとも1つの塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む組成物を、前記第1のチャンバに供給するステップと、
c)チオシアン酸および/またはその塩を、前記第1のチャンバ内のステップb)の前記組成物に加えるステップと、
d)任意に、前記第1のチャンバ内のステップc)で得られた前記組成物に、pH緩衝剤を加えるステップと、
e)前記第2のチャンバにストリッピング溶液(S)を供給するステップと
を含む。
【0096】
ステップb)による少なくとも1つのコバルト塩が、コバルト(II)塩であることが好ましい。
【0097】
特に、ステップb)で施与される少なくとも1つのコバルト塩が、塩化コバルト(II)(CoCl)、臭化コバルト(II)(CoBr)、ヨウ化コバルト(II)(CoI)、フッ化コバルト(II)(CoF)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、亜硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)およびそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0098】
より好ましくは、少なくとも1つのコバルト塩は、塩化コバルト(II)(CoCl)および硫酸コバルト(II)(CoSO)から選択される。
【0099】
少なくとも1つのコバルト塩が硫酸コバルト(II)(CoSO)であることが特に好ましい。
【0100】
好ましくは、ステップb)の組成物は、少なくとも1つのコバルト塩を、少なくとも10ppm、より好ましくは少なくとも100ppm、さらにより好ましくは少なくとも400ppm含む。ステップb)の組成物が少なくとも1つのコバルト塩を10~10,000ppm含むことが特に好ましい。
【0101】
該組成物は、コバルトまたはコバルト塩以外の少なくとも1つの他の金属または金属塩をさらに含み、該金属または金属塩からコバルトまたはコバルト塩を分離すべきである。コバルト以外のさらなる金属の塩がニッケルの塩であることが好ましい。特に、該ニッケルの塩は、好ましくは、塩化ニッケル(II)(NiCl)、臭化ニッケル(II)(NiBr)、ヨウ化ニッケル(II)(NiI)、フッ化ニッケル(II)(NiF)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、亜硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)およびそれらの混合物から選択される。
【0102】
より好ましくは、ニッケル塩は、塩化ニッケル(II)(NiCl)および硫酸ニッケル(II)(NiSO)から選択される。
【0103】
ニッケル塩が硫酸ニッケル(II)(NiSO)であることが特に好ましい。
【0104】
好ましくは、ステップb)の組成物は、コバルト以外の金属の少なくとも1つのさらなる金属塩を、少なくとも10ppm、より好ましくは少なくとも600ppm、さらにより好ましくは少なくとも800ppm含む。ステップb)の組成物が、コバルト以外の金属の少なくとも1つのさらなる金属塩を、800~1200ppm含むことが特に好ましい。
【0105】
本発明の好ましい実施形態によれば、ステップb)の組成物は、コバルトおよび/またはその少なくとも1つの塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを、1:0.01~1:1000の比、より好ましくは1:0.5~1:500の比、さらにより好ましくは1:1~1:100の比、例えば1:1.5~1:10の比で含む。
【0106】
ステップb)で得られる組成物が、コバルトおよび/またはその少なくとも1つの塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む水溶液であることが好ましい。
【0107】
本発明の方法のステップc)により、チオシアン酸および/またはその塩がステップb)の組成物に加えられる。
【0108】
前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸アンモニウム(NHSCN)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、チオシアン酸カリウム(KSCN)、チオシアン酸カルシウム(Ca(SCN))、チオシアン酸マグネシウム(Mg(SCN))およびそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0109】
チオシアン酸塩がチオシアン酸アンモニウム(NHSCN)であることが特に好ましい。
【0110】
さらに、チオシアン酸および/またはその塩をステップb)の組成物に加えた結果、ステップc)で得られる生成される組成物が、チオシアン酸および/またはその塩を少なくとも1.0mol/L、より好ましくは少なくとも1.2mol/L、さらにより好ましくは少なくとも1.5mol/Lの濃度で含むことが好ましい。
【0111】
高分子膜を通じたコバルト(II)イオンの輸送効率は、供給溶液のpH値によっても決まる。
【0112】
したがって、反応器の第1のチャンバ内でステップc)の後に得られる組成物に、pH緩衝剤を加えることができる。
【0113】
pH緩衝剤が、有機酸または無機酸およびそれらの塩の組成物であることが好ましい。特に、有機酸または無機酸は、酢酸、ギ酸、炭酸、リン酸、クエン酸またはそれらの混合物から選択される。
【0114】
pH緩衝剤が酢酸と酢酸アンモニウムとの混合物であることが特に好ましい。好ましくは、酢酸と酢酸ナトリウムとのモル比は、約1:2~約2:1の範囲にある。
【0115】
好ましくは、ステップc)で得られた組成物にpH緩衝剤を加えることで、第1の反応器チャンバ内でステップd)で得られた生成された組成物のpH値は、約2~約6の範囲、より好ましくは約3~約5の範囲となる。ステップd)におけるpH値が約4の値に調整されることが特に好ましい。
【0116】
本発明の方法のステップe)によれば、ストリッピング溶液(S)が反応器の第2のチャンバに供給される。
【0117】
本明細書で使用する場合に、「ストリッピング溶液」という用語は、高分子膜からコバルトを抽出するのに適用可能な組成物に関する。
【0118】
したがって、ストリッピング溶液(S)を適用することで、高分子膜から第2の反応器チャンバへとコバルト(II)イオンが抽出される。
【0119】
本発明の好ましい実施形態によれば、ストリッピング溶液(S)は、高分子膜からコバルト(II)イオンを抽出し得る化合物を含む。ストリッピング溶液(S)が強力な錯化化合物を提供することで、高分子膜がコバルト(II)イオンを放出することが必要である。したがって、ストリッピング溶液が塩基であることが好ましい。
【0120】
特に、ストリッピング溶液(S)は、アンモニア(NH)、トリエタノールアミン(TEA)、炭酸ナトリウム(NaCO)またはそれらの混合物と溶媒とを含む。
【0121】
ストリッピング溶液がアンモニア(NH)およびトリエタノールアミン(TEA)を含むことが特に好ましい。特に、ストリッピング溶液が、アンモニア(NH)とトリエタノールアミン(TEA)とを約1:2~約2:1の範囲のモル比で含むことが好ましい。
【0122】
さらに、ストリッピング溶液(S)のための溶媒が、水、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエンまたはそれらの混合物から選択されることが好ましい。溶媒が水であることが特に好ましい。
【0123】
これに加えて、またはこれに代えて、ストリッピング溶液(S)が、8~14、より好ましくは10~14、さらにより好ましくは10~12のpHを示すことが好ましい。
【0124】
ストリッピング溶液(S)が本発明の方法のステップe)の後に含む、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩が、50ppm以下、より好ましくは25ppm以下、さらにより好ましくは10ppm以下であることが好ましい。
【0125】
本発明はさらに、コバルトおよび/またはその塩と、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩とを含む組成物からコバルトおよび/またはその塩を分離するための、本発明の高分子膜の使用に関する。
【0126】
特に、本発明の膜は、組成物、好ましくは水性鉱石または浸出貴液のような鉱業で発生する水性組成物からコバルト(II)イオンを分離するために使用される。本発明の膜は、リサイクル産業において、コバルト(II)イオンを含有する廃液からコバルト(II)イオンを再抽出するためにさらに使用される。
【0127】
これに関して、分離プロセス後に得られるコバルトまたはその塩が含む、コバルト以外の少なくとも1つのさらなる金属および/またはコバルト以外のさらなる金属の少なくとも1つの塩が、約10.0重量%以下、より好ましくは約5.0重量%以下、さらにより好ましくは約2.0重量%以下であることが好ましい。
【0128】
コバルト以外の金属の少なくとも1つのさらなる金属塩がニッケルであることが特に好ましい。
【0129】
本発明の範囲および重要性については、本発明の特定の実施形態の例示を意図しかつ非限定的である以下の実施例をもとにより理解されるであろう。
【0130】
実施例
選択性およびコバルト流量を調べるために、以下の試験を行った。
【0131】
高分子膜の製造
以下の実施例で使用される高分子膜は、以下の化合物を含む:
ポリ塩化ビニル(PVC)
2-ニトロフェニルペンチルエーテル(2-NPPE)
トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336)
トリブチルホスフェート(TBP)。
【0132】
高分子膜M1を製造するために、0.28gのPVC、0.42mLの2-NPPE、0.63mLのAliquat 336および0.56mLのTBPを、45mLのTHFに溶解させる。得られた溶液15mLをキャスティングリングに注ぎ入れ、THFを一晩蒸発させる。得られたフィルムを剥離し、試験装置の2つのチャンバの間に取り付ける。
【0133】
高分子膜M2を製造するために、3.3gのPVC、5.5gの2-NPPE、6.6gのAliquat 336および6.6gのTBPを、60mLのTHFに溶解させる。得られた溶液5mLをスキージで抜き取り、THFを一晩蒸発させる。得られたフィルムを剥離し、試験装置の2つのチャンバの間に取り付ける。
【0134】
供給溶液およびストリップ溶液の製造
13.0gのチオシアン酸アンモニウムを蒸留水に溶解させることによって、供給溶液を得る。次いで、0.45gの硫酸Ni(II)六水和物および0.24gの硫酸Co(II)七水和物を加える。続いて酢酸アンモニウム水性緩衝液を加えることで、得られる組成物の最終体積を100mLとする。こうして得られた供給溶液は、pH4である。
【0135】
100mLの蒸留水中に12.08gの水酸化アンモニウム(28~30%)および15.22gのトリエタノールアミンを溶解させることによって、ストリップ溶液を得る。
【0136】
コバルト流量の測定
膜を通るコバルトの流量を測定するために、テフロン容器の試験装置を適用する。この容器は2つの等しいチャンバに分かれており、これらのチャンバはそれぞれの高分子膜M1またはM2によって離隔されている。これらのチャンバは、メカニカルスターラーを備えている。
【0137】
高分子膜M1を通るコバルトの流量を測定するために、38mLの供給溶液および38mLのストリップ溶液を試験装置の各チャンバに入れ、600rpmで撹拌する。20分後、40分後、1時間後、2時間後および3時間後に各溶液の試料2.0mLを取り出し、原子発光分光(ICP-OES)分析にかける。
【0138】
濃度分析によって、ストリップ溶液中にはニッケルが検出され得ず、また高分子膜M1を使用した場合の供給溶液からストリップ溶液へのコバルト流量J(Co)が7.3×10-5mol/msであることが明らかとなった。
【0139】
高分子膜M2を通るコバルトの流量を測定するために、100mLの供給溶液および100mLのストリップ溶液を試験装置の各チャンバに入れ、600rpmで撹拌する。3時間後および6時間後に各溶液の試料10mLを取り出し、原子吸光分光(AAS)分析にかける。
【0140】
濃度分析によって、ストリップ溶液中にはニッケルが検出され得ず、また供給溶液からストリップ溶液へのコバルト流量J(Co)が2.5×10-4mol/msであることが明らかとなった。