(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】生体適合性材料
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20220617BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220617BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20220617BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220617BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220617BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220617BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220617BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20220617BHJP
A61P 29/02 20060101ALN20220617BHJP
A61P 1/02 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/06
A61K47/44
A61K47/26
A61K47/14
A61K47/02
A61L26/00
A61P29/02
A61P1/02
(21)【出願番号】P 2020539358
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032179
(87)【国際公開番号】W WO2020045133
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2018161928
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019090566
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】冨川 晴貴
(72)【発明者】
【氏名】高久 浩二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 幸介
(72)【発明者】
【氏名】細川 隆史
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011293(JP,A)
【文献】特開2002-332248(JP,A)
【文献】特開昭61-186307(JP,A)
【文献】ACS Appl. Mater. Interfaces,2013年,Vol. 5,P. 10418-10422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量100万以上のアルギン酸塩と、アルミニウム化合物と、カルボキシビニルポリマーと、油性基材とを含み、水を実質的に含まない生体適合性材料。
【請求項2】
糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項3】
前記糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種が、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロースおよびラクトースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の生体適合性材料。
【請求項4】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムおよびアルギン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項5】
前記アルギン酸塩の重量平均分子量が200万以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項6】
前記アルギン酸塩の重量平均分子量が300万以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項7】
前記アルギン酸塩の重量平均分子量が400万以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項8】
前記アルギン酸塩が粒子状であり、前記アルギン酸塩の粒子の平均粒径が50μm以上300μm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項9】
前記アルギン酸塩の平均粒径が110μm以上200μm未満である、請求項8に記載の生体適合性材料。
【請求項10】
前記アルミニウム化合物が乳酸アルミニウムである、請求項1~9のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項11】
前記アルミニウム化合物の含有量が、前記生体適合性材料の全質量に対して、0.1質量%~5.0質量%である、請求項1~10のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項12】
前記アルミニウム化合物の含有量が、前記生体適合性材料の全質量に対して、1.0質量%~4.5質量%である、請求項1~11のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項13】
前記カルボキシビニルポリマーの0.5質量%濃度水溶液のpH7.5での粘度が20000cP以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項14】
前記アルギン酸塩の含有量が、前記生体適合性材料の全質量に対して、5.0質量%~35.0質量%である、請求項1~13のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項15】
前記アルギン酸塩の含有量が、前記生体適合性材料の全質量に対して、10.0質量%~30.0質量%である、請求項1~14のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項16】
前記カルボキシビニルポリマーの含有量に対する前記アルギン酸塩の含有量の比の値が0.5~5.5である、請求項1~15のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項17】
前記カルボキシビニルポリマーの含有量に対する前記アルギン酸塩の含有量の比の値が1.0~5.5である、請求項1~16のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項18】
前記油性基材が、ゲル化炭化水素を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項19】
前記油性基材の含有量に対する、前記アルギン酸塩の含有量の比の値が、0.20~0.50である、請求項1~18のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項20】
生体保護用である、請求項1~19のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項21】
粘膜保護剤である、請求項1~20のいずれか1項に記載の生体適合性材料。
【請求項22】
口腔粘膜保護剤である、請求項21に記載の生体適合性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
がん患者においては、がん治療が口の粘膜に影響して口内炎が起こりやすい。例えば、抗がん剤治療では、口内炎を起こしやすい薬剤の投与を受けたとき、頭頸部がん(頭から首の範囲のがん)の放射線治療では、口の粘膜に放射線が直接当たったときに口内炎が必発である。口内炎の痛みは強く、食事を口からとることもできないほどである。
【0003】
口内炎の対症療法としては、患部に直接貼り付ける貼付剤(例えば、アフタシール(R)25μg,大正富山医薬品株式会社製;有効成分 トリアムシノロンアセトニド)、患部に塗り付ける軟膏剤(例えば、デキサルチン口腔用軟膏,日本化薬社製;有効成分 デキサメタゾン)、および患部に吹き付ける噴霧剤(例えば、サルコート(R)カプセル外用50μg,帝人ファーマ社製;有効成分 ベクロメタゾンプロピオン酸エステル)などがある。
【0004】
しかし、これらの治療剤は免疫抑制剤であるステロイドを有効成分とするため、がん患者にとって望ましいものとはいえない。
【0005】
また、食事を口から摂る際に、患部に貼り付けた貼付剤が剥がれたり、患部に塗布した軟膏剤または噴霧剤が失われたりして、口内炎の痛みを抑制することができない。
【0006】
このような口内炎の痛みを抑制できる生体適合性材料が望まれている。
【0007】
例えば、特許文献1には、「モノ脂肪酸ポリエチレングリコールおよびトリ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンのうち炭素数が18である脂肪酸を分子内に有する化合物からなる群から選ばれる一種以上とグリチルレチン酸およびその誘導体からなる群より選ばれる一種以上を含有することを特徴とする外用組成物。」が記載されている(請求項1)。
【0008】
また、特許文献2には、「カルボキシビニルポリマー並びにトラガントガム、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナンおよびアルギン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする口腔内付着フィルム製剤。」が記載されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-144490号公報
【文献】特開2016-011293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載された外用組成物は、口腔粘膜に適用して含水させた際の引っ掻き耐性(摩擦を加えた際の粘膜への残存性)、保持性(湿潤環境における粘膜に対する付着性)が十分ではなかった。
【0011】
また、特許文献2に記載された口腔内付着フィルム製剤は、口腔粘膜に適用して含水させた際の引っ掻き耐性(摩擦を加えた際の粘膜への残存性)は水準に達しているものの、粘膜の伸縮に対する追随性が低く、保持性(湿潤環境における粘膜に対する付着性)が十分ではなかった。
【0012】
そこで、本発明は、保持性および引っ掻き耐性に優れたゲルを形成できる生体適合性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、以下の構成の本発明を完成させた。
【0014】
(1) 重量平均分子量100万以上のアルギン酸塩と、アルミニウム化合物と、カルボキシビニルポリマーと、油性基材とを含み、水を実質的に含まない生体適合性材料。
(2) 糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、(1)に記載の生体適合性材料。
(3) 糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種が、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロースおよびラクトースからなる群から選択される少なくとも1種である、(2)に記載の生体適合性材料。
(4) アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムおよびアルギン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、(1)~(3)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(5) アルギン酸塩の重量平均分子量が200万以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(6) アルギン酸塩の重量平均分子量が300万以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(7) アルギン酸塩の重量平均分子量が400万以上である、(1)~(6)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(8) アルギン酸塩が粒子状であり、アルギン酸塩の粒子の平均粒径が50μm以上300μm未満である、(1)~(7)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(9) アルギン酸塩の平均粒径が110μm以上200μm未満である、(8)に記載の生体適合性材料。
(10) アルミニウム化合物が乳酸アルミニウムである、(1)~(9)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(11) アルミニウム化合物の含有量が、生体適合性材料の全質量に対して、0.1質量%~5.0質量%である、(1)~(10)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(12) アルミニウム化合物の含有量が、生体適合性材料の全質量に対して、1.0質量%~4.5質量%である、(1)~(11)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(13) カルボキシビニルポリマーの0.5質量%濃度水溶液のpH7.5での粘度が20000cP以下である、(1)~(12)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(14) アルギン酸塩の含有量が、生体適合性材料の全質量に対して、5.0質量%~35.0質量%である、(1)~(13)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(15) アルギン酸塩の含有量が、生体適合性材料の全質量に対して、10.0質量%~30.0質量%である、(1)~(14)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(16) カルボキシビニルポリマーの含有量に対するアルギン酸塩の含有量の比の値が0.5~5.5である、(1)~(15)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(17) カルボキシビニルポリマーの含有量に対するアルギン酸塩の含有量の比の値が1.0~5.5である、(1)~(16)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(18) 油性基材が、ゲル化炭化水素を含む、(1)~(17)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(19) 油性基材の含有量に対する、アルギン酸塩の含有量の比の値が、0.20~0.50である、(1)~(18)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(20) 生体保護用である、(1)~(19)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(21) 粘膜保護剤である、(1)~(20)のいずれかに記載の生体適合性材料。
(22) 口腔粘膜保護剤である、(21)に記載の生体適合性材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保持性および引っ掻き耐性に優れたゲルを形成できる生体適合性材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、「~」を用いて表される範囲には「~」の両端を含むものとする。例えば、「A~B」で表される範囲にはAおよびBを含む。
【0017】
[生体適合性材料]
本発明の生体適合性材料は、重量平均分子量100万以上のアルギン酸塩と、アルミニウム化合物と、カルボキシビニルポリマーと、油性基材とを含み、水を実質的に含まない。
本明細書において、生体適合性材料とは、生体表面(例えば、皮膚、粘膜(例えば、口腔内の粘膜)、目、歯、舌、爪、および、毛髪等)に良好に付着する材を意味する。また、後述するように、本発明の生体適合性材料が水を吸収することにより架橋構造が形成されるため、本発明の生体適合性材料より形成されるゲルは生体表面に対してより強固に付着し得る。本発明の生体適合性材料は、生体に対して悪影響を及ばす、生体によく馴染む。
生体表面は、健常な状態であっても、創傷または潰瘍を有していてもよい。
【0018】
後述するように、本発明の生体適合性材料は、水と接触することで架橋構造を形成し得る。水は、生体表面(例えば、口腔内表面)に存在するものを利用してもよく、付着性を促進する目的で添加してもよい。本発明の生体適合性材料が水と接触して架橋構造を有するゲルを形成した際には、形成されたゲルの生体表面に対する付着性は、架橋構造を形成する前の生体適合性材料の生体表面に対する付着性よりもより強固となる。
さらに、本発明の生体適合性材料より形成されるゲルは、被付着面である生体表面を、外部刺激から保護する機能を有することが好ましい。この目的を達するため、本発明の生体適合性材料より形成されるゲルは一定以上の物理的強度を有することが好ましい。また、本発明の生体適合性材料より形成されるゲルは、非接着面表面に潤滑性を有してもよい。
なお、生体とは、ヒトまたはヒト以外の動物(例えば、哺乳類)が挙げられる。ヒト以外の動物としては、例えば、霊長類、齧歯類(マウス、ラットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、および、ウマが挙げられる。
【0019】
〈重量平均分子量100万以上のアルギン酸塩〉
《アルギン酸塩の重量平均分子量》
アルギン酸塩の重量平均分子量は、100万以上であれば特に限定されないが、好ましくは200万以上であり、より好ましくは300万以上であり、さらに好ましくは350万以上であり、いっそう好ましくは400万以上である。アルギン酸塩の重量平均分子量が400万以上であると、引っ掻き耐性がより優れたものとなる。
上記アルギン酸塩の重量平均分子量が100万未満では、組成物の引っ掻き耐性が十分でなく、粘膜に対する残存性が低いものとなる。
アルギン酸塩の重量平均分子量の上限は特に限定されないが、好ましくは1000万以下であり、より好ましくは500万以下であり、さらに好ましくは450万以下である。
【0020】
アルギン酸塩の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いて測定できる。
以下に、アルギン酸塩の重量平均分子量を測定する際のGPC測定条件を記載する。
GPC測定条件
・カラム: TSKgel G6000+G4000+G2500 PWXL
・溶離液: 0.2mol/L 硝酸ナトリウム
・流速: 0.7mL/min
・注入量:50μL
・試料濃度:0.1%
・分析時間:60分
・検出: RI(Refractive Index:示差屈折)
【0021】
《アルギン酸塩の粒子の平均粒径》
アルギン酸塩は粒子状であってもよい。
アルギン酸塩の粒子の平均粒径は、特に限定されないが、50μm以上300μm未満であることが好ましく、110μm以上200μm未満であることがより好ましい。アルギン酸塩の平均粒径が110μm以上200μm未満であると、引っ掻き耐性がより優れたものとなる。
【0022】
アルギン酸塩の粒子の平均粒径は、湿式・乾式粒度分布測定装置(LS13320,ベックマン・コールター社製)を用いて測定した平均径である。
【0023】
《アルギン酸塩の種類》
アルギン酸塩はアルギン酸の塩であれば特に限定されないが、アルギン酸の1価金属塩またはアンモニウム塩が好ましく、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムおよびアルギン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、アルギン酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0024】
アルギン酸塩を構成する1価カチオンの定量・定性分析は、イオンクロマトグラフ法によって行うことができる。
・測定条件
カラム: イオン交換樹脂(内径4.0mm、長さ25cm)
移動相: メタンスルホン酸溶液(20mmol/L)
流量:1.0mL/min
試料注入量:25μL
カラム温度:40℃
サプレッサ:電気透析形
検出器:電気伝導度検出器(30℃)
【0025】
《アルギン酸塩の含有量》
本発明の生体適合性材料中のアルギン酸塩の含有量は、特に限定されないが、本発明の生体適合性材料の全質量に対して、5.0質量%~35.0質量%であることが好ましく、10.0質量%~30.0質量%であることがより好ましい。アルギン酸塩の含有量が本発明の生体適合性材料の全質量に対して10.0質量%~30.0質量%であると、生体適合性材料をゲル化させた際の引っ掻き耐性がより優れたものとなる。
【0026】
〈アルミニウム化合物〉
《アルミニウム化合物の種類》
アルミニウム化合物はアルミニウムを含む化合物であれば特に限定されないが、水溶性のアルミニウム化合物が好ましく、アルミニウムのカルボン酸塩がより好ましく、アルミニウムのヒドロキシカルボン酸塩がさらに好ましく、乳酸アルミニウムがいっそう好ましい。アルミニウム化合物が乳酸アルミニウムであると、生体適合性材料をゲル化させた際の保持性がより優れたものとなる。
【0027】
上記水溶性のアルミニウム化合物の例は、塩化アルミニウム(AlCl3)、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)、アンモニウムミョウバン(AlNH4(SO4)2・12H2O)、カリウムミョウバン(AlK(SO4)2・12H2O)、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、グリコール酸アルミニウム(ヒドロキシ酢酸アルミニウム)、乳酸アルミニウム、リンゴ酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、クエン酸アルミニウムおよびイソクエン酸アルミニウムであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
上記アルミニウムのカルボン酸塩の例は、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、グリコール酸アルミニウム(ヒドロキシ酢酸アルミニウム)、乳酸アルミニウム、リンゴ酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、クエン酸アルミニウムおよびイソクエン酸アルミニウムであるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
上記アルミニウムのヒドロキシカルボン酸の例は、グリコール酸アルミニウム(ヒドロキシ酢酸アルミニウム)、乳酸アルミニウム、リンゴ酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、クエン酸アルミニウムおよびイソクエン酸アルミニウムであるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
《アルミニウム化合物の含有量》
本発明の生体適合性材料中のアルミニウム化合物の含有量は、特に限定されないが、本発明の生体適合性材料の全質量に対して、0.1質量%~5.0質量%であることが好ましく、1.0質量%~4.5質量%であることがより好ましい。アルミニウム化合物の含有量が本発明の生体適合性材料の全質量に対して1.0質量%~4.5質量%であると、生体適合性材料をゲル化させた際の保持性がより優れたものとなる。
【0031】
〈カルボキシビニルポリマー〉
カルボキシビニルポリマーは、カルボキシ基を有する水溶性のビニルポリマーであり、具体的には、アクリル酸および/またはメタクリル酸を主鎖として、架橋構造を有するポリマーである。架橋構造としては、アリルショ糖またはペンタエリスリトールのアリルエーテル等による架橋構造が挙げられる。
本発明の生体適合性材料は、水と接触させることによりゲル化するが、アルギン酸塩がアルミニウムイオンにより架橋して形成されるアルギン酸ゲルのネットワークと、カルボキシビニルポリマーのネットワークとによって、優れた引っ掻き耐性および保持性を達成する。
【0032】
カルボキシビニルポリマーの粘度は、特に限定されないが、pH7.5に調整した0.5質量%水溶液(25℃)において、20000cP以下であることが好ましく、2000cP~20000cPであることがより好ましい。カルボキシビニルポリマーの0.5質量%水溶液(25℃)のpH7.5での粘度が20000cP以下であると、生体適合性材料をゲル化させた際の引っ掻き耐性および保持性がより優れたものとなる。
【0033】
カルボキシビニルポリマーの粘度は、カルボキシビニルポリマーの0.5質量%濃度の水溶液を、レオメータ(MCR301,アントンパール社製)において、shere rate 1(1/s)、GAP 0.05mm、25℃で測定した値である。
【0034】
本発明の生体適合性材料において、カルボキシビニルポリマーは、市販品を使用することができる。カルボキシビニルポリマーの市販品としては、具体的には、Lubrizol Advanced Materials社製の「カーボポール971」、「カーボポール974」、「カーボポール980」および「カーボポール981」、富士フイルム和光純薬株式会社製の「ハイビスワコー103」、「ハイビスワコー104」および「ハイビスワコー105」、東亞合成株式会社製の「ジュンロンPW-120」、「ジュンロンPW-121」および「ジュンロンPW-312S」、住友精化株式会社製の「AQUPEC HV-501E」、「AQUPEC HV-505E」および「AQUPEC HV805」、ならびに3Vシグマ社製の「シンタレンK」および「シンタレンL」が挙げられる。
【0035】
本発明の生体適合性材料において、カルボキシビニルポリマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
《アルギン酸塩とカルボキシビニルポリマーの含有量比》
本発明の生体適合性材料において、カルボキシビニルポリマーの含有量に対するアルギン酸塩の含有量の比(質量比)の値[アルギン酸塩の含有量/カルボキシビニルポリマーの含有量]は、特に限定されないが、0.5~5.5であることが好ましく、1.0~5.5であることがより好ましい。[アルギン酸塩の含有量/カルボキシビニルポリマーの含有量]が0.5~5.5の範囲内であると、形成されるゲルの保持性がより優れたものとなり、1.0~5.5の範囲内であると、保持性に加えて、引っ掻き耐性がより優れたものとなる。
【0037】
〈油性基材〉
本発明の生体適合性材料は、油性基材を含む。本発明の生体適合性材料が油性基材を含むことにより、生体適合性材料の展着性がより優れたものとなる。
油性基材とは、水と交じり合わない成分を意味する。
油性基材の粘度は特に制限されないが、本発明の生体適合性材料をゲル化させた際の密着性がより優れる点で、100~1000000cPが好ましく、1000~100000cPがより好ましい。粘度の測定は、粘弾性測定装置(MCR302)を使用して、測定温度25℃にて、せん断速度1(1/s)で測定する。
油性基材としては、通常の油性軟膏に用いる原料が挙げられ、例えば、炭化水素類(好ましくは、ゲル化炭化水素)、ワックス類、植物油、動物油、中性脂質、合成油脂、ステロール誘導体、モノアルコールカルボン酸エステル類、オキシ酸エステル類、多価アルコール脂肪酸エステル類、シリコーン類、高級アルコール類、高級脂肪酸類、および、フッ素系油剤類が挙げられる。
油性基材は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
2種以上の油性基材を用いる場合、炭化水素類(好ましくは、ゲル化炭化水素)と流動パラフィンとの組み合わせが好ましい。
なお、ゲル化炭化水素としては、医薬品添加物規格の「ゲル化炭化水素」に適合するものを使用でき、より具体的には、流動パラフィンをポリエチレンでゲル化したゲル化炭化水素を好適に使用できる。
なお、ゲル化炭化水素としては、プラスチベース(大正富山医薬品株式会社製)、または、ハイコールジェル(カネダ株式会社製)が好ましい。
【0038】
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン(ミネラルオイル)、重質流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、α-オレフィンオリゴマー、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、ポリブテン、スクワラン、オリーブ由来スクワラン、スクワレン、ワセリン、および、固形パラフィンが挙げられる。
なお、ワセリンとしては、日本薬局方またはそれに準ずる規格の「ワセリン」「白色ワセリン」または「黄色ワセリン」に適合するものから選択するのが好ましい。
【0039】
ワックス類としては、例えば、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、みつろう、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、および、エチレン・プロピレンコポリマーが挙げられる。
【0040】
植物油としては、大豆油、ゴマ油、オリーブ油、やし油、パーム油、こめ油、綿実油、ひまわり油、コメヌカ油、カカオ脂、コーン油、べに花油、および、なたね油が挙げられる。
動物油としては、ミンク油、タートル油、魚油、牛油、馬油、豚油、および、鮫スクワランが挙げられる。
中性脂質としては、トリオレイン、トリリノレイン、トリミリスチン、トリステアリン、および、トリアラキドニンが挙げられる。
合成油脂としては、例えば、リン脂質、および、アゾンが挙げられる。
ステロール誘導体としては、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、フィトステロール、コール酸、および、コレステリルリノレートが挙げられる。
モノアルコールカルボン酸エステル類としては、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ヘキシルデシル、イソステアリン酸オクチルドデシル、および、パリミチン酸セチルが挙げられる。
オキシ酸エステル類としては、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、および、モノイソステアリン酸水添ヒマシ油が挙げられる。
多価アルコール脂肪酸エステル類としては、トリオクタン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、および、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルが挙げられる。
シリコーン類としては、ジメチコン(ジメチルポリシロキサン)、高重合ジメチコン(高重合ジメチルポリシロキサン)、シクロメチコン(環状ジメチルシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン)、および、フェニルトリメチコンが挙げられる。
高級アルコール類としては、セタノール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セトステアリルアルコール、および、ステアリルアルコールが挙げられる。
高級脂肪酸類としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、および、パルミトレイン酸が挙げられる。
フッ素系油剤類としては、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン、および、パーフルオロポリエーテルが挙げられる。
【0041】
本発明の生体適合性材料中の油性基材の含有量は、特に限定されないが、本発明の生体適合性材料の全質量に対して、40質量%~80質量%であることが好ましく、50質量%~70質量%であることがより好ましい。油性基材の含有量がこの範囲内であると、本発明の生体適合性材料が油性基材を含むことによる効果がより発揮されることとなる。
また、本発明の生体適合性材料において、油性基材の含有量に対する、アルギン酸塩の含有量の比(質量比)の値[アルギン酸塩の質量/油性基材の質量]は特に制限されないが、0.10~0.70の場合が多く、形成されるゲルの引っ掻き耐性がより優れ、かつ、生体適合性材料の展着性がより優れる点で、0.10~0.50が好ましく、0.20~0.50がより好ましく、0.20~0.40がさらに好ましい。
【0042】
本発明の生体適合性材料は、実質的に水を含まない。実質的に水を含まないとは、本発明の効果に影響を及ぼさない程度の少量の水(例えば、原料中に含まれる微量の水分)を含むことは許容範囲にあるという意味である。具体的には、「実質的に水を含まない」とは、本発明の生体適合性材料中の水の含有量が、本発明の生体適合性材料の全質量に対して、5質量%以下であることを意味する。なかでも、3質量%以下であることが好ましい。下限は特に制限されないが、0質量%が挙げられる。
本発明の生体適合性材料が水を実質的に含まない場合、本発明の生体適合性材料を生体に適用した際に、形成されるゲルの付着性がより向上し、保護性能も向上する。また、本発明の生体適合性材料の保存安定性もより向上する。
本発明の生体適合性材料中における水の含有量の測定方法としては、カールフィッシャー水分測定法が好ましい。測定条件としては、JIS K0068:2001に記載がある。
【0043】
本発明の生体適合性材料は、上述した成分以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0044】
〈糖アルコールおよび糖〉
本発明の生体適合性材料は、糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。本発明の生体適合性材料が糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種を含むと、生体適合性材料をゲル化させた際の引っ掻き耐性がより優れたものとなる。
【0045】
《糖アルコールの種類》
糖アルコールは、アルドースまたはケトースのカルボニル基が還元された構造を有する有機化合物であり、具体的には、エリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトールを挙げることができ、エリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、キシリトールがより好ましい。
【0046】
《糖の種類》
糖は特に限定されないが、例えば、単糖類または二糖類であり、具体的には、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロースおよびラクトースを挙げることができ、グルコースおよびガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、トレハロースがより好ましい。
【0047】
上記糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種は、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、およびラクトースからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0048】
《糖アルコールおよび糖の含有量》
本発明の生体適合性材料が糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合の本発明の生体適合性材料中の糖アルコールおよび糖の合計含有量は、特に限定されないが、本発明の生体適合性材料の全質量に対して、0.5質量%~20.0質量%であることが好ましく、5.0質量%~15.0質量%であることがより好ましい。糖アルコールおよび糖の合計含有量がこの範囲内であると、本発明の生体適合性材料が糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種を含むことによる効果がより発揮されることとなる。
【0049】
〈生体適合性材料の製造方法〉
本発明の生体適合性材料は、重量平均分子量100万以上のアルギン酸塩と、アルミニウム化合物と、カルボキシビニルポリマーと、油性基材と、を混合することにより製造できる。必要に応じて、脱水処理を実施してもよい。
【0050】
混合の方法は特に限定されず、粉末成分を混合する際に用いられる、従来公知の方法を用いることができる。
例えば、生体適合性材料を構成する成分のうち、一部の成分を事前に混合して、その後、残りの成分と混合するような、段階的な混合方法を実施してもよい。なかでも、糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種を使用する場合は、重量平均分子量100万以上のアルギン酸塩と、アルミニウム化合物と、カルボキシビニルポリマーと、糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種とを混合して混合物を得た後、得られた混合物と油性基材とを混合することが好ましい。上記手順によれば、成分がより均一に分散された生体適合性材料を得ることができる。
上記混合物と油性基材とを混合する際には、混合物と油性基材とを一括で混合してもよいし、混合物を複数回に分けて油性基材に添加して混合してもよい。
なお、各成分を混合した後、得られた生体適合性材料に対して脱気処理を施して、生体適合性材料から水を除去することが好ましい。
【0051】
〈生体適合性材料の機能〉
本発明の生体適合性材料を水と接触させることにより、架橋構造を有するゲルが形成される。より具体的には、本発明の生体適合性材料を水と接触させると、アルギン酸塩とアルミニウム化合物とが架橋して形成される架橋構造を含むゲルが形成される。また、本発明の生体適合性材料が糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、アルギン酸塩とアルミニウム化合物とが架橋して形成される第1架橋構造と、カルボキシビニルポリマーと糖アルコールおよび糖からなる群から選択される少なくとも1種とが架橋して形成される第2架橋構造との2種の架橋構造を含むゲルが形成される。つまり、本発明の生体適合性材料が水を吸収することにより、架橋構造が自発的に形成される。
【0052】
本発明の生体適合性材料は、生体表面上に適用され、ゲルを形成し得る。ゲルを形成する方法としては、本発明の生体適合性材料を生体表面上に配置して、生体表面上に配置された生体適合性材料と水とを接触させることにより、生体表面上にゲルを形成する方法が挙げられる。
本発明の生体適合性材料を配置する生体表面としては、口腔内の粘膜表面が好適に挙げられる。
【0053】
本発明の生体適合性材料の粘度は特に制限されないが、100000~600000cPの場合が多く、本発明の生体適合性材料の展着性がより優れる点で、20000~500000cPが好ましい。粘度の測定は、粘弾性測定装置(MCR302)を使用して、測定温度25℃にて、せん断速度1(1/s)で測定する。
【0054】
本発明の生体適合性材料の形態(性状)は特に制限されないが、例えば、軟膏状、クリーム状、および、半固体状が挙げられる。
【0055】
〈生体適合性材料の用途および使用方法〉
本発明の生体適合性材料の用途としては、生体保護用途が挙げられるが、これに限定されるものではない。
具体的には、本発明の生体適合性材料は、例えば、粘膜保護剤として、より詳細には、口腔粘膜保護剤として利用され得る。
また、本発明の生体適合性材料は、創傷被覆材、薬剤徐放基材、口腔内湿潤材、および止血材などの用途もある。
【0056】
本発明の生体適合性材料を粘膜に対して使用する場合、本発明の生体適合性材料を粘膜上に配置し、水または水を含む溶液を添加すれば、ゲル化して、形成されるゲルが粘膜により強固に付着する。つまり、本発明の生体適合性材料の使用方法(または、ゲルの製造方法)として、本発明の生体適合性材料を粘膜上に配置して、粘膜上に配置された生体適合性材料と水とを接触させることにより、粘膜上にゲルを形成する方法が挙げられる。
特に、口腔粘膜に対して本発明の生体適合性材料を適用する場合、本発明の生体適合性材料を口腔粘膜に付着させれば、唾液中の水分によって、本発明の生体適合性材料がゲル化するため、取扱が簡便である。また、仮に、唾液量が少ない場合には、本発明の生体適合性材料を口腔粘膜に付着させた後、水、または人工唾液をスプレーするなどして、水分を供給すればよい。
【0057】
本発明の生体適合性材料を口腔粘膜に付着させると、唾液中の水分により上記架橋構造の形成が開始すると同時に、口腔粘膜表面のムチンとアルギン酸塩とが水素結合により接着する。このようなメカニズムにより、本発明の生体適合性材料により形成されるゲルは、優れた引っ掻き耐性および優れた保持性を発揮するものと考えられるが、これのみに限定されるわけではない。
【0058】
本発明の生体適合性材料が薬剤徐放基材として用いられる場合、徐放される薬剤の種類は特に制限されず、公知の薬剤が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1~30、比較例1~10]
〈生体適合性材料の調製〉
表1に示す各成分を表1に示す含有量で混合して、実施例1~30および比較例1~10の生体適合性材料を調製した。
実施例1~30および比較例1~10にて調製された生体適合性材料中における水の含有量は、いずれの場合も、生体適合性材料全質量に対して、3質量%以下であった。つまり、実施例のいずれの生体適合性材料も実質的に水を含まなかった。
なお、以下、代表的に実施例1の生体適合性材料の製造手順を記載する。他の実施例および比較例においても、各成分の使用量を調整して同様の手順で製造を行った。
【0061】
(実施例1)
アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製,キミカアルギンI-S)324g、乳酸アルミニウム(株式会社武蔵野化学研究所製)36g、キシリトール(三菱商事フードテック株式会社,キシリットP)180g、カルボキシビニルポリマー(Lubrizol製、CARBOPOL 971PNF)180gを、均一に粉体混合し、三等分した。
流動パラフィン(カネダ株式会社製,ハイコールM-352)3500gと、軟膏基剤プラスチベース(大正製薬株式会社製)3500gとを均一に混合し、ナイロンメッシュ(株式会社NBCメッシュテック製,N-NO.230T)にてろ過した。得られた混合物1080gを、ハイビスディスパーミックス3D-5型(株式会社プライミクス製)に仕込み、20℃、プラネタリーミクサー5rpmの設定(ホモディスパー不使用)にて撹拌しつつ(以降同撹拌条件にて撹拌を継続)、三等分した粉体を逐次添加した。それぞれの粉体の添加には1分間かけ、添加後は1分間撹拌した。
最後の添加終了後の1分間経過した後、系内を真空脱気しさらに20分間撹拌を継続し、実施例1の生体適合性材料(1800g)を得た。得られた生体適合性材料は、アルミニウムチューブ(関西チューブ製)に7gずつ充填し、室温にて使用まで保管した。
【0062】
〈性能評価〉
《擬似生体膜の作製》
TDAB(テトラドデシルアンモニウムブロミド,富士フイルム和光純薬株式会社製;50mg)、ポリ塩化ビニル(富士フイルム和光純薬株式会社製;800mg)、およびDOPP(ジ-n-オクチルホスホナート,富士フイルム和光純薬株式会社製;0.6mL)をTHF(テトラヒドロフラン、富士フイルム和光純薬株式会社製;10mL)に溶解したものをシャーレで室温乾燥し、脂質膜(約200μm厚)を得た。
次に、寒天(カリコリカン(登録商標)、伊那食品工業社製;0.5g)およびジェランガム(ケルコゲル(登録商標)、CPケルコ社製;0.1g)を蒸留水(49.4g)からなるハイドロゲルに、作製した脂質膜を貼り合わせた。
続いて、脂質膜表面をMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー(LIPIDURE(登録商標)-CM5206、日油社製)でコートして、疑似生体膜を得た。
【0063】
《引っ掻き耐性の評価》
作製した擬似生体膜上に、調製した生体適合性材料を塗布し(1cmΦ、500μm厚)、人工唾液(サリベート(登録商標)、帝人ファーマ社製)を噴霧した後、1分間静置してサンプルをゲル化させ、評価用サンプルを作製した。
作製した評価用サンプルを摩耗試験機(表面性測定機 トライボギア TYPE:14 FW、新東科学社製)で繰り返し摩耗し、サンプルが擬似生体膜から剥離または溶解するまでの回数(往復)を計測し、以下の基準により引っ掻き耐性を評価した。なお、摩耗試験機のヘッドには三角消しゴムの芯(Ain CLIC,ぺんてる社製)をセットし、荷重30g、振幅30mm、速度6000mm/minの条件で試験を行った。
(引っ掻き耐性の評価基準)
700回以上耐えた・・・S
500回以上700回未満で剥離した・・・A
100回以上500回未満で剥離した・・・B
100回未満で剥離した・・・C
評価結果を表1の「評価」欄に示す。
【0064】
《保持性の評価》
作製した擬似生体膜上に、調製した生体適合性材料を塗布し(1cmΦ、500μm厚)、人工唾液(サリベート(登録商標)、帝人ファーマ社製)を噴霧した後、1分間静置してサンプルをゲル化させ、評価用サンプルを作製した。
作製した評価用サンプルをシャーレに入れ、評価用サンプルが浸かるまで人工唾液(サリベート(登録商標)、帝人ファーマ社製)で満たした。このシャーレを恒温振とう器(アズワン 小型振盪恒温器 1-6142-01)(37℃)の中に入れ、中速(目盛6)で振とうさせた。この試験で擬似生体膜から評価用サンプルが剥離または溶解により消失するまでの時間を計測し、以下の基準により保持性を評価した。
(保持性の評価基準)
4時間以上保持した・・・S
2時間以上4時間未満で消失した・・・A
1時間以上2時間未満で消失した・・・B
1時間未満で消失した・・・C
評価結果を表1の「評価」欄に示す。
【0065】
《展着性の評価》
粘弾性測定装置(MCR302)を使用して、調製した生体適合性材料の粘度を測定温度25℃にて、せん断速度1(1/s)で測定し、以下の基準により展着性を評価した。
(展着性の評価基準)
せん断速度1s-1における粘度値が500,000cP以下・・・A
せん断速度1s-1における粘度値が500,000cPを超える・・・B
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1中の成分I~成分III、および、成分Vは以下に記載するものである。なお、Mwは重量平均分子量を表す。
【0071】
〈成分I〉
・アルギン酸塩(1)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-S(キミカ社製) Mw=405万 粒子の平均粒径=174μm
・アルギン酸塩(2)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-S(キミカ社製) Mw=405万 粒子の平均粒径=138μm
・アルギン酸塩(3)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-S(キミカ社製) Mw=405万 粒子の平均粒径=51μm
・アルギン酸塩(4)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-8(キミカ社製) Mw=390万 粒子の平均粒径=60μm
・アルギン酸塩(5)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-5(キミカ社製) Mw=304万 粒子の平均粒径=102μm
・アルギン酸塩(6)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-3(キミカ社製) Mw=275万 粒子の平均粒径=64μm
・アルギン酸塩(7)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンI-1(キミカ社製) Mw=78万 粒子の平均粒径=117μm
・アルギン酸塩(8)
アルギン酸ナトリウム キミカアルギンULV-L3(キミカ社製) Mw=5万 粒子の平均粒径=78μm
【0072】
〈成分II〉
・アルミニウム化合物(1)
乳酸アルミニウム
・アルミニウム化合物(2)
AlK(NH4)(SO4)2・12H2O
・カルシウム化合物
乳酸カルシウム
・鉄(II)化合物
乳酸鉄(II)
【0073】
〈成分III〉
・カルボキシビニルポリマー(1)
Carbopol(登録商標) 971PNF(Lubrizol Advanced Materials社製)
0.5質量%水溶液のpH7.5、25℃における粘度 15700cP
・カルボキシビニルポリマー(2)
AQUPEC(登録商標) HV805(住友精化株式会社製)
0.5質量%水溶液のpH7.5、25℃における粘度 56400cP
・ポリアクリル酸Na
ポリアクリル酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0074】
〈成分V〉
・プラスチベース(大正製薬株式会社製)
・流動パラフィン(カネダ株式会社製,ハイコールM-352)
・ハイコールジェル(カネダ株式会社製)
・白色ワセリン(東洋製薬化成株式会社製)
・オリーブ油(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0075】
[結果の説明]
実施例1~30の生体適合性材料は、引っ掻き耐性および保持性のいずれも評価がS~Bであり、引っ掻き耐性および保持性のいずれも優れていた。
これに対し、比較例1~10の生体適合性材料は、引っ掻き耐性および保持性の少なくとも一方の評価がCであり、引っ掻き耐性および保持性の少なくとも一方が劣っていた。
【0076】
アルギン酸塩の重量平均分子量が400万以上である実施例1、実施例5、および実施例6は、アルギン酸塩の重量平均分子量が400万未満である実施例2、実施例3、および実施例4に比べて、引っ掻き耐性がより優れていた。
【0077】
アルギン酸塩の粒子の平均粒径が110μm以上200μm未満の範囲内である実施例1および実施例5は、アルギン酸塩の粒子の平均粒径が110μm以上200μm未満の範囲外である実施例2~4および実施例6に比べて、引っ掻き耐性がより優れていた。
【0078】
アルギン酸塩の含有量が生体適合性材料の全質量に対して10.0質量%~30.0質量%の範囲内である実施例1および実施例8は、アルギン酸塩の含有量が生体適合性材料の全質量に対して10.0質量%未満である実施例7に比べて、引っ掻き耐性がより優れていた。
【0079】
アルミニウム化合物として乳酸アルミニウムを用いた実施例1は、アンモニウムミョウバン(Na(NH4)(SO4)2・12H2O)を用いた実施例9に比べて、保持性がより優れていた。
【0080】
アルミニウム化合物の含有量が生体適合性材料の全質量に対して1.0質量%~4.5質量%の範囲内である実施例1および実施例11は、範囲外である実施例10に比べて、保持性がより優れていた。
【0081】
カルボキシビニルポリマーの0.5質量%水溶液(25℃)のpH7.5での粘度が20000cP以下である実施例1は、粘度が20000cP超である実施例12に比べて、引っ掻き耐性および保持性のいずれもがより優れていた。
【0082】
糖アルコールを含む実施例1および実施例13~15、ならびに糖を含む実施例17~21は、糖アルコールおよび糖のいずれも含まない実施例16に比べて、引っ掻き耐性がより優れていた。
【0083】
カルボキシビニルポリマーの含有量に対するアルギン酸塩の含有量の比(質量比)の値[アルギン酸塩の含有量/カルボキシビニルポリマーの含有量]が0.5~5.5の範囲内である実施例1、実施例7、実施例8、実施例10、実施例11、および実施例23~24は、保持性がより優れ、1.0~5.5の範囲内である実施例1、実施例8、実施例10、実施例11、および実施例23~24は、保持性に加えて引っ掻き耐性もより優れていた。
【0084】
実施例26~28の比較より、油性基材として、ゲル化炭化水素と流動パラフィンとの組み合わせ、または、ゲル化炭化水素と植物油との組み合わせを用いた場合、より優れた効果が得られることが確認された。
実施例29~30と他の実施例との比較より、油性基材の含有量が、本発明の生体適合性材料の全質量に対して、50質量%~70質量%である場合、より優れた効果が得られることが確認された。
実施例1と実施例7と、実施例29と実施例30との比較より、油性基材の含有量に対する、アルギン酸塩の含有量の比の値が、0.20~0.50である場合、より優れた効果が得られることが確認された。
【0085】
[実施例31:口内炎モデルマウスによる口内炎保護効果の確認(その1)]
本発明の生体適合性材料の口内炎保護機能を確認する目的で、口内炎モデルマウスを用いた動物実験を行った。ここでいう口内炎モデルマウスとは、人為的に口内炎を作製したマウスであり、このようなマウスは痛みにより十分な餌を摂ることができず、体重減少または餓死に至ることが知られている(参照:「伊藤毒性病理学」高橋道人・福島昭治 編,丸善出版(平成25年7月30日出版)(ISBN 978-4-621-08642-1 C 3047),6.標的器官の毒性病理,6.4.口腔,舌,咽頭,P195「6.4.5障害が及ぼす影響」)。
以下、口内炎の程度を変え、それぞれ、生存数、体重変化により、口内炎への保護効果を確認した。
【0086】
6週齢のマウス(C57BL/6)をJackson Laboratoriesより購入し、1週間の検疫期間を含む予備飼育の後、一般状態に異常が見られなかったもの(8頭)を選択し、A群およびB群の2群(各4頭)に無作為に分けた。
各群のマウスはイソフルランにて麻酔し、舌および口腔内粘膜表面を2mmろ紙に滲出した20%酢酸水溶液に1分間暴露した後、リン酸緩衝生理食塩水にて洗浄することで口内炎を作製した。
A群のマウスに対しては、1日2回、創傷部(口内炎)に本発明の実施例1の生体適合性材料(300μg)を塗布しつつ、8日間飼育した。
B群のマウスに対しては、本発明の生体適合性材料をリン酸緩衝生理食塩水に代えた以外は同様に、8日間飼育した。
A群(実施例)のマウスの生存数は3頭であり、B群(比較例)のマウスの生存数は1頭であった。この結果より、本発明の生体適合性材料が、口腔粘膜保護剤として有効に機能していることが確認された。
【0087】
[実施例32:口内炎モデルマウスによる口内炎保護効果の確認(その1)]
6週齢のマウス(C57BL/6)をJackson Laboratoriesより購入し、1週間の検疫期間を含む予備飼育の後、一般状態に異常が見られなかったもの(6頭)を選択し、C群およびD群の2群(各3頭)に無作為に分けた。
各群のマウスはイソフルランにて麻酔し、舌および口腔内粘膜表面を2mmろ紙に滲出した10%酢酸水溶液に1分間暴露した後、リン酸緩衝生理食塩水にて洗浄することで口内炎を作製した。
C群のマウスに対しては、1日2回、創傷部(口内炎)に本発明の実施例1の生体適合性材料(300μg)を塗布しつつ、8日間飼育した。また、各マウスの体重を毎日測定し、それらの平均値を求めた。
D群のマウスに対しては、本発明の生体適合性材料をリン酸緩衝生理食塩水に代えた以外は同様に、8日間飼育した。また、各マウスの体重を毎日測定し、それらの平均値を求めた。
C群(実施例)、D群のマウスとも死亡例は無かった。C群のマウスは、10%酢酸水溶液処理を施した翌日より体重増加が確認され、8日間経過時点で平均3gの体重増加を認めた。一方、D群のマウスでは8日間の飼育期間中で明確な体重増加は認められなかった。
【0088】
以上の実施例31および32に示す動物実験より、本発明の生体適合性材料は口内炎状態の粘膜を保護する機能に優れることが確認できた。
【0089】
[実施例33]
アスタキサンチンの口腔内徐放基材としての性能を評価した。
実施例1の処方のプラスチベースと流動パラフィンの含有量をそれぞれ30質量部から25質量部に変更し、これらに代えてASTOTS-S(富士フイルム)を10質量部添加した以外は実施例1と同様にして、暗赤色の生体適合性材料Aを得た。
保持性の評価系を用い、口腔内環境を模した条件での生体適合性材料Aのアスタキサンチンの徐放性能を評価した。その結果、人口唾液中に浸漬した直後より3時間に渡り、人工唾液がアスタキサンチンに由来する赤色に着色し続ける現象が確認できた。
この結果から、本発明の生体適合性材料は口腔内のような環境に置いて、アスタキサンチン等の成分を徐放させる機能を有することが示された。