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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】遺伝子組換え作物の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20220620BHJP
   C12Q 1/6858 20180101ALI20220620BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6858 Z
C12N15/29
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018507059
(86)(22)【出願日】2017-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2017000885
(87)【国際公開番号】W WO2017163546
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2019-05-31
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2016060669
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野間 聡
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】西 真名美
(72)【発明者】
【氏名】宮武 聖子
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1477109号明細書(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1475497号明細書(CN,A)
【文献】J.Agric.Food.Chem.,2013,Vol.61,p.10293-10301
【文献】Food Hyg.Saf.Sci.,2012,Vol.53,No.5,p.203-210
【文献】J.Agric.Food Chem.,2009,Vol.57,p.26-37
【文献】新農業展開ゲノムプロジェクト:DREB遺伝子等を活用した環境ストレスに強い作物の開発,新農業展開ゲノムプロジェクト,2014年,Vol.518,p.1-44
【文献】Glycine max dehydration responsive element binding protein(DREB1) mRNA,complete cds, database Genbank[online],2003年 6月 2日,AF514908
【文献】Gossypium hirsutum dehydration responsive element binding protein(DREB1) mRNA,complete cds, database Genbank[online],2003年 8月 1日,AF509502
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 3/00
C12N 15/00 - 15/90
Pubmed
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換え作物をポリメラーゼ連鎖反応によって検出する遺伝子組換え作物の検出方法であって、
前記遺伝子組換え作物がダイズ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え小麦であり、
植物である小麦、又は小麦から得られる食品素材である被検試料中の核酸又は前記被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、ダイズ由来のDREB遺伝子の部分配列を特異的に増幅可能なプライマーペアを用いて、前記ダイズ由来のDREB遺伝子の部分配列を有する核酸を増幅する工程と、
前記増幅された核酸を検出又は定量する工程と、
を含み、
前記プライマーペアが、
配列番号1に記載の塩基配列を含む核酸と、
配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸とからなる、遺伝子組換え作物の検出方法。
【請求項2】
前記増幅された核酸の検出又は定量に、配列番号5に記載の塩基配列を含み、蛍光標識、放射性物質標識又はビオチン標識されている核酸プローブを用いる、請求項1に記載の遺伝子組換え作物の検出方法。
【請求項3】
植物である小麦、又は小麦から得られる食品素材において、ダイズ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え小麦を、ポリメラーゼ連鎖反応によって検出又は定量するための試薬キットであって、
配列番号1に記載の塩基配列を含む核酸と、
配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸とからなるプライマーペアを含み、且つ
核酸プローブとして、配列番号5に記載の塩基配列を含み、蛍光標識、放射性物質標識又はビオチン標識されている核酸プローブを更に含む、試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換え作物の検出方法及び遺伝子組換え作物検出用の試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術を利用して開発された遺伝子組換え作物が食品として利用されるようになっている。日本においても、トウモロコシ、ダイズ、ナタネ、綿実(ワタ)、ジャガイモ等の多くの遺伝子組換え作物について、安全性審査を経て、輸入や販売が認められている。また、遺伝子組換え作物やそれを原料とする食品について表示制度が設けられており、指定された遺伝子組換え作物及びその加工食品については、その表示が義務づけられている(非特許文献1,2)。
他方、海外においては、遺伝子組換え作物と非遺伝子組換え作物が近い場所で栽培される、または同じ加工工場内で使用される場合がある。そのため、微量の遺伝子組換え作物及びそれ由来の加工食品が混入し、非遺伝子組換え作物の原料及び非遺伝子組換え作物のみを使用した加工食品であっても遺伝子組換え作物由来の組換えDNAが検出される可能性がある。
【0003】
農産物やそれを使用した食品等の被検試料中の遺伝子組換え作物の検出方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)によって組換えDNAを検出する方法や、酵素結合免疫吸着法によって組換え蛋白質を検出する方法等があるが、一般的にPCRによる検出が行われており、非特許文献3にも、PCRを用いた遺伝子組換え作物の検査分析が記載されている。
PCRで被検試料中に遺伝子組換え作物が混入しているか否かを調べるには、遺伝子組換え技術によって導入された組換えDNAの部分塩基配列を増幅する方法が一般的であるが、導入された組換えDNAの種類が不明である場合、標的とする組換えDNAを代えて複数回PCRを行い、遺伝子組換え作物が含まれていないことを確認する必要がある。しかし、そのような方法は手間がかかり、実用的ではない。
そのため、農産物やそれを使用した食品等について、遺伝子組換え作物が含まれるか否かに関する表示を適切に行うためには、信頼性と実用性の高い遺伝子組換え作物の検出技術の開発が望まれる。
【0004】
また、遺伝子組換え技術により農産物に導入する外来遺伝子として、環境ストレス耐性に必要な遺伝子群の発現を制御するDehydration responsive element binding protein(以下「DREB」という)遺伝子が知られている。このDREB遺伝子を農産物内で過剰発現させることにより、乾燥、塩、低温等の環境ストレスに対する耐性が向上することが報告されている。例えば、特許文献1には、低温等のストレス耐性を形質導入するために有用な新規のポリヌクレオチド(構造遺伝子領域およびその発現制御領域)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「遺伝子組換えに関する表示に係る加工食品品質表示基準第7条第1項及び生鮮食品品質表示基準第7条第1項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準」(平成12年3月31日農林水産省告示第517号)
【文献】「食品衛生法施行規則及び乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令等の施行について」(平成13年3月15日厚生労働省食発第79号)
【文献】JAS分析試験ハンドブック 遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル改訂第2版
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-223757号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、以下の(1)~(4)を提供するものである。
(1)遺伝子組換え作物をPCRによって検出する方法であって、被検試料中の核酸又は前記被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、ダイズ由来のDREB遺伝子の部分配列を特異的に増幅可能なプライマーペアを用いて、前記ダイズ由来のDREB遺伝子の部分配列を有する核酸を増幅する工程と、前記増幅された核酸を検出する工程と、を含む遺伝子組換え作物の検出方法(以下、第1発明というときはこの発明をいう)。
(2)遺伝子組換え作物をPCRによって検出する方法であって、被検試料中の核酸又は前記被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、ワタ由来のDREB遺伝子の部分配列を特異的に増幅可能なプライマーペアを用いて、前記ワタ由来のDREB遺伝子の部分配列を有する核酸を増幅する工程と、前記増幅された核酸を検出する工程と、を含む遺伝子組換え作物の検出方法(以下、第2発明というときはこの発明をいう)。
【0008】
(3)ダイズ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物を、PCRによって検出又は定量するための試薬キットであって、配列番号1に記載の塩基配列を含む核酸、配列番号1に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、又は配列番号3に記載の塩基配列を含む核酸にハイブリダイズする核酸と、配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸、配列番号2に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、又は配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸にハイブリダイズする核酸とからなるプライマーペアを含む、試薬キット(以下、第3発明というときはこの発明をいう)。
(4)ワタ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物を、PCRによって検出又は定量するための試薬キットであって、配列番号6に記載の塩基配列を含む核酸、配列番号6に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、又は配列番号8に記載の塩基配列を含む核酸にハイブリダイズする核酸と、配列番号7に記載の塩基配列を含む核酸、配列番号7に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、又は配列番号9に記載の塩基配列を含む核酸にハイブリダイズする核酸とからなるプライマーペアを含む、試薬キット(以下、第4発明というときはこの発明をいう)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ダイズ由来のDREB遺伝子及びワタ由来のDREB遺伝子それぞれのDNA配列の一部を並べた図である。
図2】本発明の実施例1の結果を示す図である。
図3】本発明の実施例1の結果を示す図である。
図4】本発明の実施例2の結果を示す図である。
図5】本発明の実施例2の結果を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0010】
現在、DREB遺伝子等を活用した環境ストレスに強い作物の開発が世界的に行われており、今後DREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物の生産が拡大することが予想される。したがって、DREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物の検出技術が重要となる。しかし、DREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物を、高い信頼性と実用性を持って検出可能な方法は未だ提供されていなかった。特許文献1にも、DREB遺伝子を特異的に検出する方法については記載されていない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、DREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物を、高い信頼性と実用性を持って検出可能な方法及び試薬キットを提供することにある。
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明(第1及び第2発明)は、遺伝子組換え作物を検出する方法である。即ち、植物である作物、その作物から得られる食品素材、又は作物や食品素材を用いて得られる加工食品等の被検試料中に含まれる、組換えDNAが導入された遺伝子組換え作物を検出する方法である。
植物である作物としては、穀物粒、ジャガイモ、てんさい、パイナップル等が挙げられる。穀物粒としては、例えば、麦類(小麦、大麦、エンバク、ライ麦、ハトムギ等)、コメ、トウモロコシ、マイロ、アワ、ヒエ等のイネ科植物、ダイズ、小豆、落花生、エンドウマメ、インゲンマメ等のマメ科植物の種子が挙げられ、特に麦類であることが好ましい。その作物から得られる食品素材としては、作物が小麦である場合、薄力粉、中力粉、全粒粉、準強力粉、強力粉、デュラム小麦粉等が挙げられ、作物が小麦以外の穀物粒である場合、ライ麦粉、米粉等が挙げられる。作物やその作物から得られる食品素材を使用して得られる加工食品としては、作物が小麦である場合、パンや麺類、作物がダイズである場合、豆腐等が挙げられる。
【0013】
本発明において検出する組換えDNAは、DREB遺伝子である。DREB遺伝子は、作物の環境ストレス耐性を向上させ得るものであり、今後DREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物の生産が拡大することが予想される。したがって、今後、遺伝子組換え作物の検出にDREB遺伝子を使用すれば、比較的簡便に遺伝子組換え作物を検出できるようになる可能性がある。なお、遺伝子組換え作物であるか否かの判定に、DREB遺伝子の検査に加えて、DREB遺伝子以外の組換えDNAの検査を行うことも好ましい。
【0014】
第1発明においては、被検試料中のダイズ由来のDREB遺伝子をPCRによって検出する。この検出は、被検試料中の核酸又は前記被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、ダイズ由来のDREB遺伝子の部分配列を特異的に増幅可能なプライマーペアを用いて、PCRにより、ダイズ由来のDREB遺伝子の部分配列を有する核酸を増幅し、その増幅された核酸を検出又は定量する。
第2発明においては、被検試料中のワタ由来のDREB遺伝子をPCRによって検出する。この検出は、被検試料中の核酸又は前記被検試料から抽出した核酸を鋳型とし、ワタ由来のDREB遺伝子の部分配列を特異的に増幅可能なプライマーペアを用いて、PCRにより、ワタ由来のDREB遺伝子の部分配列を有する核酸を増幅し、その増幅された核酸を検出又は定量する。
【0015】
図1に、ダイズ由来のDREB遺伝子及びワタ由来のDREB遺伝子それぞれのDNA配列の一部を並べて示した。
図1に示すように、DREB遺伝子は、ダイズ由来のDREB遺伝子とワタ由来のDREB遺伝子のDNA配列が似ているため、第1発明においては、ダイズ由来のDREB遺伝子に特異的なDNA配列部分にプライマーを設計し、第2発明においては、ワタ由来のDREB遺伝子に特異的なDNA配列部分にプライマーを設計することが好ましい。
【0016】
したがって、第1及び第3発明において、好ましいプライマーペアは、以下の(1)~(3)である。
(1)配列番号1に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸とからなるもの。配列番号1に記載の塩基配列は、配列番号13に記載のダイズ由来のDREB遺伝子の全塩基配列中、図1にR1で示す領域の塩基配列であり、配列番号2に記載の塩基配列は、配列番号13に記載のダイズ由来のDREB遺伝子の全塩基配列中、図1にR2で示す領域の相補鎖の塩基配列である。
(2)配列番号1に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸と、配列番号2に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸とからなるもの。
(3)配列番号1に記載の塩基配列と相補である配列番号3に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸と、配列番号2に記載の塩基配列と相補である配列番号4に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸とからなるもの。
【0017】
また、ダイズ由来のDREB遺伝子とワタ由来のDREB遺伝子に共通なDNA配列部分にプライマーを設計することで、ダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子の部分配列を有する核酸を同時に増幅することも可能である。本発明は、ダイズ由来のDREB遺伝子及びワタ由来のDREB遺伝子をそれぞれ特異的に、かつ同時に増幅させるプライマーペアを用いたPCRによって、ダイズ由来又はワタ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物を検出又は定量するものであってもよい。
【0018】
上記(1)のプライマーペアにおける、配列番号1に記載の塩基配列を含む核酸、上記(2)のプライマーペアにおける、配列番号1に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、及び上記(3)のプライマーペアにおける、配列番号1に記載の塩基配列と相補である配列番号3に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸は、それらのうちの何れか1以上と、上記(1)のプライマーペアにおける、配列番号2に記載の塩基配列を含む核酸、上記(2)のプライマーペアにおける、配列番号2に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、及び上記(3)のプライマーペアにおける、配列番号2に記載の塩基配列と相補である配列番号4に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸のうちの何れか1以上とを組み合わせて用いることもできる。本願の請求項2,8等の表現には、このような組み合わせからなるプライマーペアも含まれる。
【0019】
同様に、第2及び第4発明において、好ましいプライマーペアは、以下の(4)~(6)である。
(4)配列番号6に記載の塩基配列を含む核酸と、配列番号7に記載の塩基配列を含む核酸とからなるもの。配列番号6に記載の塩基配列は、配列番号14に記載のワタ由来のDREB遺伝子の全塩基配列中、図1にR6で示す領域の塩基配列であり、配列番号7に記載の塩基配列は、配列番号14に記載のワタ由来のDREB遺伝子の塩基配列中、図1にR7で示す領域の相補鎖の塩基配列である。
(5)配列番号6に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸と、配列番号7に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸とからなるもの。
(6)配列番号6に記載の塩基配列と相補である配列番号8に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸と、配列番号7に記載の塩基配列と相補である配列番号9に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸とからなるもの。
【0020】
上記(4)のプライマーペアにおける、配列番号6に記載の塩基配列を含む核酸、上記(5)のプライマーペアにおける、配列番号6に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、及び上記(6)のプライマーペアにおける、配列番号6に記載の塩基配列と相補である配列番号8に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸は、それらのうちの何れか1以上と、上記(4)のプライマーペアにおける、配列番号7に記載の塩基配列を含む核酸、上記(5)のプライマーペアにおける、配列番号7に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む核酸、及び上記(6)のプライマーペアにおける、配列番号7に記載の塩基配列と相補である配列番号9に記載の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸のうちの何れか1以上とを組み合わせて用いることもできる。本願の請求項5,10等の表現には、このような組み合わせからなるプライマーペアも含まれる。
【0021】
上述した、配列番号1,3,6又は8に記載の塩基配列中の少なくとも80%の連続した塩基配列を含む各核酸は、配列番号1,3,6又は8に記載の塩基配列中の85%以上の連続した塩基配列を含む核酸であることが好ましく、配列番号1,3,6又は8に記載の塩基配列中の90%以上の連続した塩基配列を含む核酸であることが更に好ましい。
また、プライマーとして用いる核酸は、塩基数が10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、15以上が更に好ましい。
【0022】
上記(3)又は(6)のプライマーペアに関し、ストリンジェントな条件下とは、増幅対象のDNA配列と特異的なハイブリッドが形成され、かつ増幅対象でないDNA配列と非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。また、(3)又は(6)のプライマーペアを構成する一対の核酸は、それぞれ相補の塩基配列にハイブリダイズした状態でプライマーとして機能する。ストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。当業者であれば、当該技術分野において公知の各種プライマー設計方法及びハイブリダイゼーション条件に関する技術常識、並びに通常用いられる実験手段を通じて得られる経験則を基に、選択されたプライマーに適切な条件を容易に見つけ出し、実施することができる。
【0023】
このようなプライマーペアを用いてPCRを行うことにより、第1発明においては、図1に示すダイズ由来のDREB遺伝子のDNA配列のうち、配列番号11に記載の部分配列(図2参照)を特異的に増幅させることができ、第2発明においては、図1に示すワタ由来のDREB遺伝子のDNA配列のうち、配列番号12(図3参照)に記載の部分配列を特異的に増幅させることができる。
ここでいう特異的とは、第1及び第3発明においては、ダイズ由来のDREB遺伝子中の部分配列のみを増幅させることを意味し、第2及び第4発明においては、ワタ由来のDREB遺伝子中の部分配列のみを増幅させることを意味する。したがって、被験試料に含まれる、ダイズ由来のDREB遺伝子が導入されたダイズ以外の遺伝子組換え作物又はワタ由来のDREB遺伝子が導入されたワタ以外の遺伝子組換え作物をそれぞれ特異的に検出することができる。なお、第1及び第3発明において増幅させる部分配列は、配列番号11であることが好ましいが、それに制限されるものではなく、ダイズ由来のDREB遺伝子のDNA配列の他の領域を増幅させてもよい。また、第2及び第4発明において増幅させる部分配列も、配列番号12であることが好ましいが、それに制限されるものではなく、ワタ由来のDREB遺伝子のDNA配列の他の領域を増幅させてもよい。
【0024】
本発明において、被検試料は、例えばそのまま又は粉砕して核酸抽出に供してもよく、洗浄し乾燥させた後破砕して核酸抽出に供してもよい。被検試料から抽出して分析に用いる核酸は、通常はDNAである。DNAは公知の任意の方法によって抽出してもよいが、現在は多数のDNA抽出キットが市販されており、これらを用いて抽出することができる。例えばDNeasy Plant Maxi kit(QIAGEN社製)を用いて、Kopellらの方法(Kopell, E. et al.; Mitteilungen aus dem Gebiete der Lebensmitteluntersuchung und Hygiene, 88, 164、出版社:Neukomm & Zimmermann)にしたがって、被検試料からDNAを抽出してもよい。抽出したDNAは、吸光度の測定などにより濃度を算出し、PCRに好適な濃度まで希釈して用いることが好ましい。
【0025】
本発明において、PCRは、使用するプライマーやDNAポリメラーゼを考慮して、常法にしたがって行うことができる。その際に、PCR緩衝液、dNTP、及びMgCl2等の試薬は調製してもよいし、市販のPCRキットを用いてもよい。また、PCR条件は、例えば95℃15秒、60℃30秒、及び72℃30秒を1サイクルとして35サイクル行い、最後に終了反応として72℃7分間という条件が使用可能であるが、用いるプライマーのTm値、増幅すべき領域の長さ、及び鋳型DNAの濃度等を考慮して、適宜変更することができる。
【0026】
増幅された核酸(以下「PCR産物」という)は、特定のDNA断片を同定する任意の方法で検出できる。同定する方法としては、例えばアガロースゲル電気泳動、アクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、ハイブリダイゼーション、及び免疫学的方法等がある。一般的に、PCR産物は電気泳動パターンによって同定される。例えばエチジウムブロミドを含む0.8%のアガロースゲルによる電気泳動を行い、PCR産物をバンドとして検出してもよい。
【0027】
また、PCR産物は、プライマーペア及び核酸プローブの存在下でリアルタイムPCRを行い、PCR増幅の過程で同定することもできる。また、リアルタイムPCRで使用する核酸プローブは蛍光標識、放射性物質標識、及びビオチン標識されたものを用いることができる。本発明で使用する核酸プローブは、例えば、配列番号5又は配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端を蛍光物質としてFAMで修飾し、3’末端をクエンチャーとしてTAMRA又はMGBで修飾したものである。また、配列番号5又は配列番号10に記載の塩基配列に代えて、配列番号5又は配列番号10に記載の塩基配列と相補の塩基配列からなる核酸プローブや、配列番号5若しくは配列番号10又はこれらと相補の塩基配列に対して80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上の相同性を有する塩基配列を含み、蛍光標識、放射性物質標識又はビオチン標識されている核酸プローブを用いることもできる。
【0028】
第3発明及び第4発明は、それぞれ第1発明及び第2発明で使用したプライマーペアを含む試薬キットである。プライマーペアを構成する核酸は常法にしたがって製造することができる。また、試薬キットはプライマーペアと他の試薬とを含んでいてもよい。例えば、試薬キットはdNTP、MgCl2、DNAポリメラーゼ(例えばTaqDNAポリメラーゼ)、緩衝液(例えばTris-HCl)、グリセロール、DMSO、ポジティブコントロール用DNA、ネガティブコントロール用DNA、及び蒸留水等を包含してもよい。試薬キットは、PCRによる増幅産物の核酸の検出又は定量に使用するための、蛍光標識、放射性物質標識又はビオチン標識されている核酸プローブを含んでいてもよい。試薬キットに含まれる試薬は、それぞれ独立に梱包されていてもよいし、混合された上で梱包されていてもよい。試薬キット中のそれぞれの試薬濃度に特に制限はなく、本発明に係るPCRが実施可能な濃度範囲であればよい。また、試薬キットには、好適なPCR条件等の情報がさらに添付されていてもよい。
【実施例
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0030】
〔実施例1:PCR及びアガロースゲル電気泳動によるダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子の検出〕
(方法)
下記の3種の被検試料からそれぞれ抽出したDNAを鋳型とし、下記のプライマーペアを用いてPCRを行った。その後、アガロースゲル電気泳動により各試料における増幅の有無を調べた。
(試料)
小麦:国内産小麦
ダイズ:市販の国内産ダイズの乾燥種子
ワタ:市販のワタの乾燥種子
各試料をMulti Beads Shocker(安井器械株式会社)で破砕した後、DNeasy Plant Maxi kit(QIAGEN社製)を用いてDNAを抽出した。
【0031】
(プライマーペア)
PCRに使用するプライマーを設計するために、遺伝子配列データベース(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を使用した。
ダイズ由来のDREB遺伝子のDNA配列としてaccession number AF514908(配列番号13)を使用し、配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸と配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸とからなるプライマーペアを設計した。
ワタ由来のDREB遺伝子のDNA配列としてaccession number AF509502(配列番号14)を使用し、配列番号6に記載の塩基配列を有する核酸と配列番号7に記載の塩基配列を有する核酸とからなるプライマーペアを設計した。
プライマーの合成は、Operon社に委託した。
【0032】
(PCRによるダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子の検出)
各試料から抽出したDNAを鋳型にPCRを行った。ダイズ由来のDREB遺伝子の検出には配列番号1及び配列番号2のプライマーを使用した。また、ワタ由来のDREB遺伝子の検出には配列番号6及び配列番号7のプライマーを使用した。
3種の被験試料のそれぞれについて、PCRの反応ミックスを調整した。1μlのDNA(20 ng/μl)、0.5μl(2.5U)のAmpliTaq Gold(Applied Biosystems)、2.5μlの2 mM dNTP、2.5μlの25 mM MgCl2、0.15μlの50μM各プライマー、2.5μlの10×PCR Buffer IIを添加し、さらに、反応ミックスの液量が25μlとなるよう、蒸留水を添加した。
PCRにおいては、95℃10分のDNAポリメラーゼ活性化ステップを実施した後、95℃15秒の変性ステップ、60℃30秒のアニーリングステップ及び72℃30秒のDNA伸長ステップを含むサイクルを35回繰り返し、その後、72℃5分のDNA伸長最終ステップを行った。
【0033】
PCR終了後、PCR反応溶液5μlをE-Gel EX(インビトロジェン)にて電気泳動を行い、UVで増幅を確認した。
増幅が確認されたPCR産物を精製した後、BigDye Terminators v1.1 Cycle Sequencing Kit(ライフテクノロジーズジャパン)を使用してサイクルシーケンス反応を行った。シーケンス反応物を精製した後、Applied Biosystems3500ジェネティックアナライザ(ライフテクノロジーズジャパン)にてDNA配列を調べた。
【0034】
(結果)
ダイズ由来のDREB遺伝子の検出結果を図2に示した。図2に示すように、ダイズから抽出したDNAのみ予想された長さ(91bp)のバンドが検出され、ワタ及び小麦から抽出したDNAではバンドは検出されなかった。さらに、ダイズで検出されたバンドのDNA配列は、ダイズ由来のDREB遺伝子の増幅領域の配列であった。
ワタ由来のDREB遺伝子の検出結果を図3に示した。図3に示すように、ワタから抽出したDNAのみ予想された長さ(94bp)のバンドが検出され、ダイズ及び小麦から抽出したDNAではバンドは検出されなかった。さらに、ワタで検出されたバンドのDNA配列は、ワタ由来のDREB遺伝子の増幅領域の配列であった。なお、図2及び図3の「4.TE」はネガティブコントロールである。
【0035】
これらの結果より、配列番号1、2及び配列番号6、7のプライマーペアを用いてPCRを行うことで、ダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子をそれぞれ特異的に増幅できることがわかった。したがって、これらのプライマーペアを使用すれば、それぞれダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子が導入された、ダイズ以外及びワタ以外の遺伝子組換え作物を検出することができる。また、これらのプライマーペアは小麦では増幅しないことから、ダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え小麦を検出することができる。
【0036】
〔実施例2:リアルタイムPCRによるダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子の検出〕
(方法)
実施例1で使用したものと同じ3種の被検試料からそれぞれ抽出したDNAを鋳型とし、下記のプライマーペア及び核酸プローブを用いてリアルタイムPCRを行った。
(プライマーペア)
ダイズ由来のDREB遺伝子においては、実施例1で使用した配列番号1、2に記載の塩基配列を有する核酸からなるプライマーペアを用いた。
ワタ由来のDREB遺伝子においては、実施例1で使用した配列番号6、7に記載の塩基配列を有する核酸からなるプライマーペアを用いた。
(核酸プローブ)
ダイズ由来のDREB遺伝子においては、プライマーペア(配列番号1、2)の間のDNA配列に配列番号5の核酸プローブを設計した。この核酸プローブは5’末端をFAMで標識、3’末端をクエンチャーとしてTAMRAで修飾した。
ワタ由来のDREB遺伝子においては、プライマーペア(配列番号6、7)の間のDNA配列に配列番号10の核酸プローブを設計した。この核酸プローブは5’末端をFAMで標識、3’末端をクエンチャーとしてMGBで修飾した。
核酸プローブの合成は、Applied Biosystems社に委託した。
【0037】
(リアルタイムPCRによるダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子の検出)
各試料から抽出したDNAを鋳型にリアルタイムPCRを行った。ダイズ由来のDREB遺伝子の検出には配列番号1及び配列番号2のプライマー、配列番号5のオリゴヌクレオチドを含む蛍光標識された核酸プローブを使用した。また、ワタ由来のDREB遺伝子の検出には配列番号6及び配列番号7のプライマー、配列番号10のオリゴヌクレオチドを含む蛍光標識された核酸プローブを使用した。3種の被験試料のそれぞれについて、リアルタイムPCRの反応ミックスを調整した。2.5μlのDNA(20 ng/μl)、12.5μlのTaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、0.25μlの50μM各プライマー、0.5μlの10μM核酸プローブを添加し、さらに、反応ミックスの液量が25μlとなるよう、蒸留水を添加した。
リアルタイムPCRにおいては、7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用した。50℃2分に続いて95℃10分の変性ステップを実施した後、95℃15秒の変性ステップ及び60℃1分のアニーリング及びDNA伸長ステップを含むサイクルを45サイクル繰り返した。
リアルタイムPCR終了後、各試料において、FAM由来の蛍光強度が指数関数的に増加しているか確認した。
【0038】
(結果)
ダイズ由来のDREB遺伝子の検出結果を図4に示した。図4に示すように、ダイズから抽出したDNAのみ指数関数的に増加した蛍光強度が検出され、ワタ及び小麦から抽出したDNAでは検出されなかった。
ワタ由来のDREB遺伝子の検出結果を図5に示した。図5に示すように、ワタから抽出したDNAのみ指数関数的に増加した蛍光強度が検出され、ダイズ及び小麦から抽出したDNAでは検出されなかった。
【0039】
これらの結果より、配列番号1、2のプライマーペアと配列番号5のオリゴヌクレオチドを含む蛍光標識された核酸プローブ、及び配列番号6、7のプライマーペアと配列番号10のオリゴヌクレオチドを含む蛍光標識された核酸プローブを用いてリアルタイムPCRを行うことで、ダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子をそれぞれ特異的に検出できることがわかった。したがって、これらのプライマーペア及び核酸プローブのセットを使用すれば、リアルタイムPCRにおいてもそれぞれダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子が導入された、ダイズ以外及びワタ以外の遺伝子組換え作物を検出することができる。また、これらのプライマーペア及び核酸プローブのセットは小麦では増幅しないことから、ダイズ由来及びワタ由来のDREB遺伝子が導入された遺伝子組換え小麦を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の遺伝子組換え作物の検出方法及び試薬キットによれば、農産物やそれを使用した食品等の被検試料中に含まれる、DREB遺伝子が導入された遺伝子組換え作物を、高い信頼性及び実用性を持って検出可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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