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特許7091602エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20220621BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220621BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220621BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20220621BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01G11/38
H01M4/86 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017009637
(22)【出願日】2017-01-23
(65)【公開番号】P2018120674
(43)【公開日】2018-08-02
【審査請求日】2019-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛岡 広喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
(72)【発明者】
【氏名】長井 駿介
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-185826(JP,A)
【文献】国際公開第2006/033173(WO,A1)
【文献】特開2005-327630(JP,A)
【文献】特開2006-048932(JP,A)
【文献】特開2012-051999(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129459(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02
H01M 4/13
H01M 4/62
H01G 11/38
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
前記正極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、正極活物質と導電剤とバインダ樹脂とを含有する正極合剤層と、を有し、
前記バインダ樹脂が、ニトリル基含有単量体由来の構造単位及び下記式(I)で表される単量体由来の構造単位からなる樹脂であり、
120℃に保持したプロピレンカーボネートに8時間浸漬した際の前記正極合剤層の質量維持率が90%以上であるエネルギーデバイス用電極。
【化1】

(式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R は1価の炭化水素基を示し、nは1~50の整数を示す。)
【請求項2】
前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位及び前記式(I)で表される単量体由来の構造単位からなる樹脂に含有される前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する前記式(I)で表される単量体由来の構造単位の比率が、0.001モル~0.2モルである請求項1に記載のエネルギーデバイス用電極。
【請求項3】
前記ニトリル基含有単量体が、アクリロニトリルを含む請求項1又は請求項2に記載のエネルギーデバイス用電極。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエネルギーデバイス用電極を含むエネルギーデバイス。
【請求項5】
前記エネルギーデバイスが、リチウムイオン二次電池である請求項4に記載のエネルギーデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)等の携帯情報端末の電源として、高エネルギー密度を有する非水電解液系のエネルギーデバイスであるリチウムイオン二次電池が広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、負極の活物質として、リチウムイオンの層間への挿入(リチウム層間化合物の形成)及び放出が可能な多層構造を有する炭素材料が主に用いられる。また、正極の活物質としては、リチウム含有金属複合酸化物が主に用いられる。リチウムイオン二次電池の電極は、これらの活物質、バインダ樹脂、溶媒(N-メチル-2-ピロリドン、水等)などを混練して電極合剤ペーストを調製し、次いで、これを転写ロール等で集電体である金属箔の片面又は両面に塗布し、溶媒を乾燥により除去して合剤層を形成後、ロールプレス機等で圧縮成形して作製される。
【0004】
リチウム含有金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等が多用されており、目的に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0005】
正極用のバインダ樹脂としては、電気化学的な安定性、電解液への耐溶解性等の観点から、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFという)が多用されている。
【0006】
電解液としては、フッ素系アニオンを含む電解質をカーボネート系の溶媒に溶解した溶液が広く用いられており、電解質には、電解液とした際のイオン伝導性及び電気化学的な耐酸化還元性の観点からLiPFが多用されている。
【0007】
近年、リチウムイオン二次電池は、その高いエネルギー密度から、電気自動車、ハイブリッド自動車等の電源、補助電源などとしての使用が広まっている。電気自動車、ハイブリッド自動車等は発進時及び加速時に大きなエネルギーを要し、減速時に発生する大きなエネルギーを効率よく回生させなければならない。そのため、リチウムイオン二次電池には高いエネルギー密度に加え、抵抗が小さいことが要求される。また、自動車は屋外で使用されるため、寒冷時期においても、電気自動車、ハイブリッド自動車等が速やかに発進及び加速されるためには、低温においても抵抗が小さいことが要求される。
【0008】
さらに、リチウムイオン二次電池に使用される正極は強い酸化性を有することから、正極に使用される材料には耐酸化性が要求される。耐酸化性の低い材料を使用した場合、リチウムイオン二次電池の充放電に伴い、材料の酸化分解が起こり、電池の抵抗が増加してしまう。この傾向は、高温環境において、より顕著である。
【0009】
そのため、リチウムイオン二次電池の抵抗の増加を抑制する方法として、電解液への添加剤(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)及び特定の正極活物質(例えば、特許文献3及び特許文献4参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-287491号公報
【文献】特開2004-87459号公報
【文献】特開2011-129498号公報
【文献】特開2015-56222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1~4に開示の技術は、リチウムイオン二次電池を構成する部材の電気化学的な分解を抑制することによって、抵抗の上昇を抑制する手法である。
本発明者らの検討の結果、部材の電気化学的な分解を抑制するのみでは、高温保存時の抵抗上昇が顕著に現れる場合があり、これはリチウムイオン二次電池が高温にさらされた際に、正極合剤層の構造が崩壊することを示唆するものと考えられた。それを裏付けるものとして、抵抗上昇が顕著に現れたリチウムイオン二次電池に使用した電極を高温の電解液に浸漬した結果、浸漬前後で電極質量が減少することが明らかとなった。これは、電極を浸漬した際に正極合剤層の構成成分が正極合剤層から溶出することを意味しており、それが正極合剤層の構造の崩壊を招いたものと推測された。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温にさらされた場合に起こる抵抗上昇が抑制されるエネルギーデバイス用電極及びそれを用いたエネルギーデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、以下のものに関する。
<1> 正極集電体と、
前記正極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、正極活物質と導電剤とバインダ樹脂とを含有する正極合剤層と、を有し、
120℃に保持したプロピレンカーボネートに8時間浸漬した際の前記正極合剤層の質量維持率が90%以上であるエネルギーデバイス用電極。
<2> 前記バインダ樹脂が、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂を含有する<1>に記載のエネルギーデバイス用電極。
<3> 前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が、下記式(I)で表される単量体由来の構造単位をさらに含む<2>に記載のエネルギーデバイス用電極。
【0013】
【化1】
【0014】
(式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は1価の炭化水素基を示し、nは1~50の整数を示す。)
<4> 前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂に含有される前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する前記式(I)で表される単量体由来の構造単位の比率が、0.001モル~0.2モルである<3>に記載のエネルギーデバイス用電極。
<5> 前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が、下記式(II)で表される単量体由来の構造単位をさらに含む<2>~<4>のいずれか1項に記載のエネルギーデバイス用電極。
【0015】
【化2】
【0016】
(式(II)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数が4~30のアルキル基を示す。)
<6> 前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂に含有される前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する前記式(II)で表される単量体由来の構造単位の比率が、0.001モル~0.2モルである<5>に記載のエネルギーデバイス用電極。
<7> 前記ニトリル基含有単量体が、アクリロニトリルを含む<2>~<6>のいずれか1項に記載のエネルギーデバイス用電極。
<8> <1>~<7>のいずれか1項に記載のエネルギーデバイス用電極を含むエネルギーデバイス。
<9> 前記エネルギーデバイスが、リチウムイオン二次電池である<8>に記載のエネルギーデバイス。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温にさらされた場合に起こる抵抗上昇が抑制されるエネルギーデバイス用電極及びそれを用いたエネルギーデバイスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本開示において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、エネルギーデバイスの分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容とエネルギーデバイスの分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分に該当する物質は、複数種含まれていてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は、複数種含まれていてもよい。各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アリル」はアリル及びメタリルの少なくとも一方を意味する。
【0020】
本開示のエネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイスは、非水電解液系のエネルギーデバイスに適用されることが好ましい。非水電解液系のエネルギーデバイスとは、水以外の電解液を用いる蓄電又は発電デバイス(装置)をいう。
【0021】
本開示の技術は、集電体に電極活物質が保持された形態の電極を備える各種のエネルギーデバイスに広く適用され得る。この種のエネルギーデバイスにおいて、本開示のエネルギーデバイス用電極を正極に用いることで、エネルギーデバイスが高温にさらされた場合に起こる抵抗上昇を抑制し得る。以下、主として、正極活物質を含む正極合剤層を有する電極及び該電極を備えるリチウムイオン二次電池を例として本発明をより詳しく説明するが、本発明の適用対象を係る電極又はエネルギーデバイスに限定する意図ではない。
【0022】
<エネルギーデバイス用電極>
本開示のエネルギーデバイス用電極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、正極活物質と導電剤とバインダ樹脂とを含有する正極合剤層と、を有し、120℃に保持したプロピレンカーボネートに8時間浸漬した際の前記正極合剤層の質量維持率が90%以上のものである。
正極集電体がシート状又は箔状である場合、正極合剤層は、正極集電体の厚み方向における一方の面に形成されていても、両方の面に形成されていてもよい。
以下、本開示のエネルギーデバイス用電極の製法、本開示のエネルギーデバイス用電極を構成する要素等について説明する。
【0023】
本開示のエネルギーデバイス用電極は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられる正極合剤層とを有する。正極合剤層を正極集電体上に形成する方法に制限はなく、例えば、次のような方法を用いることができる。
正極活物質と導電剤とバインダ樹脂と必要に応じて用いられるその他の成分を、分散溶媒を用いずに乾式で混合してシート状に成形し、この成形体を正極集電体に圧着することでエネルギーデバイス用電極を形成することができる(乾式法)。または、正極活物質と導電剤とバインダ樹脂と必要に応じて用いられるその他の成分を分散溶媒に溶解又は分散させて正極合剤ペーストとし、これを正極集電体に塗布し、圧延することでエネルギーデバイス用電極を形成することができる(湿式法)。
【0024】
湿式法を適用する場合、正極合剤ペーストの正極集電体への塗布は、例えば、コンマコーターを用いて行うことができる。
塗布は、対向する電極において、正極容量と負極容量との比率(負極容量/正極容量)が1以上になるように行うことが適当である。正極合剤ペーストの片面当たりの塗布量は、例えば、正極合剤層の乾燥質量が、5g/m~500g/mであることが好ましく、50g/m~300g/mであることがより好ましく、100g/m~200g/mであることがさらに好ましい。塗布量が多い程、容量の大きなリチウムイオン二次電池が得られやすく、塗布量が少ない程、出力の高いリチウムイオン二次電池が得られやすい傾向にある。
【0025】
溶媒の除去は、好ましくは50℃~150℃、より好ましくは80℃~120℃で、好ましくは1分間~20分間、より好ましくは3分間~10分間乾燥することによって行われる。
【0026】
圧延は、例えばロールプレス機を用いて行われる。正極合剤層のかさ密度は、例えば、2g/cm~5g/cmであることが好ましく、2.5g/cm~4g/cmであることがより好ましい。さらに、正極内の残留溶媒、吸着水の除去等のため、例えば、100℃~150℃で1時間~20時間真空乾燥してもよい。
【0027】
正極集電体としては、エネルギーデバイスの分野で常用されるものを使用できる。具体的には、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン等を含有するシート、箔などが挙げられる。これらの中でも、電気化学的な観点及びコストから、アルミニウムのシート又は箔が好ましい。
シート及び箔の平均厚さは特に限定されず、例えば、1μm~500μmであることが好ましく、2μm~100μmであることがより好ましく、5μm~50μmであることがさらに好ましい。
【0028】
本開示のエネルギーデバイス用電極は、120℃に保持したプロピレンカーボネートに8時間浸漬した際の正極合剤層の質量維持率が90%以上のものである。正極合剤層の質量維持率は、92%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
正極合剤層の質量維持率が高いことは、浸漬した際に正極合剤層の構成成分中のバインダ樹脂が溶出し難いことを意味する。質量維持率は以下の方法で算出できる。
【0029】
5cm角に切り出したエネルギーデバイス用電極を120℃に設定した真空乾燥機で24時間乾燥した後、質量を測定する。これを「電極の浸漬前質量」とする。耐圧容器に質量を測定したエネルギーデバイス用電極とエネルギーデバイス用電極が十分に浸漬する量のプロピレンカーボネートを加えた後、容器を密閉する。密閉した容器を120℃に保ったオイルバスに浸漬し、8時間保持する。容器から正極を取り出した後、正極をアセトンで洗浄し、室温で24時間乾燥する。乾燥したエネルギーデバイス用電極の質量を測定し、これを「電極の浸漬後質量」とする。得られた「電極の浸漬前質量」及び「電極の浸漬後質量」並びに後述の「正極集電体の質量」を用い、下記式(A)により質量維持率を算出する。
式(A)中の正極集電体の質量は、正極に使用する集電体を5cm角に切り出した際の質量を意味する。
(電極の浸漬後質量-正極集電体の質量) / (電極の浸漬前質量-正極集電体の質量) × 100 式(A)
【0030】
正極活物質としてはエネルギーデバイスの分野で常用されるものを使用でき、リチウム含有金属複合酸化物、オリビン型リチウム塩、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。
【0031】
リチウム含有金属複合酸化物は、リチウムと遷移金属を含む金属複合酸化物を意味する。リチウム含有金属複合酸化物に含まれる遷移金属は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、Co、Ni、Mn等が挙げられる。また、リチウム含有金属複合酸化物に含まれる遷移金属の一部が、当該遷移金属と異なる元素で置換されていてもよい。遷移金属を置換する元素としてはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V、B等が挙げられ、Mn、Al、Co、Ni及びMgが好ましい。遷移金属を置換する元素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
これらの中でも、リチウム含有金属複合酸化物が好ましい。リチウム含有金属複合酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo 1-y(LiCo 1-y中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)、LiNi1-y (LiNi1-y 中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)、LiMn、LiMn2-y (LiMn2-y 中、MはNa、Mg、Sc、Y、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)等が挙げられる。ここで、xは0<x≦1.2の範囲であり、yは0~0.9の範囲であり、zは2.0~2.3の範囲である。また、リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。
また、オリビン型リチウム塩としては、例えば、LiFePOが挙げられる。
カルコゲン化合物としては、例えば、二硫化チタン及び二硫化モリブデンが挙げられる。
正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質としては、安全性の観点から、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含むことがより好ましい。
【0033】
正極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、正極合剤ペーストの分散性、正極合剤層の形成性、正極合剤層のかさ密度、電池性能等の観点から、0.1μm~20μmであることが好ましく、0.5μm~18μmであることがより好ましく、1μm~16μmであることがさらに好ましい。
また、正極活物質のBET比表面積は、特に制限されないが、正極合剤ペーストの分散性、正極合剤層の形成性、正極合剤層のかさ密度、電池性能等の観点から、0.1m/g~4.0m/gであることが好ましく、0.2m/g~2.5m/gであることがより好ましく、0.3m/g~1.5m/gであることがさらに好ましい。
【0034】
正極合剤層に用いてもよい導電剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維及び金属繊維が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック及びサーマルブラックが挙げられる。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛及び人造黒鉛が挙げられる。導電剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
正極合剤層に用いるバインダ樹脂としては、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂及びゴムが挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。ゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム等が挙げられる。
これらの中でも、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂を用いることが好ましい。ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂を用いることで、エネルギーデバイス用電極を120℃に保持したプロピレンカーボネートに8時間浸漬した際の正極合剤層の質量維持率が高くなる傾向にある。
【0036】
ニトリル基含有単量体としては、特に制限はない。ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリル系ニトリル基含有単量体、α-シアノアクリレート、ジシアノビニリデン等のシアン系ニトリル基含有単量体、フマロニトリル等のフマル系ニトリル基含有単量体などが挙げられる。
これらの中では、重合のし易さ、コストパフォーマンス、電極の柔軟性、可とう性、耐酸化性、電解液に対する耐膨潤性等の点で、アクリロニトリルが好ましい。
ニトリル基含有単量体に占めるアクリロニトリルの比率は、例えば、5質量%~100質量%であることが好ましく、50質量%~100質量%であることがより好ましく、70質量%~100質量%であることがさらに好ましい。これらのニトリル基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリルとメタクリロニトリルとを併用する場合、アクリロニトリルの含有率は、ニトリル基含有単量体の全量に対して、例えば、5質量%~95質量%であることが好ましく、50質量%~95質量%であることがより好ましい。
【0038】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂は、電極の柔軟性の観点から、式(I)で表される単量体由来の構造単位をさらに含むことが好ましい。
【0039】
【化3】
【0040】
ここで、Rは水素原子又はメチル基を示す。
nは1~50の整数を示し、2~30の整数であることが好ましく、2~10の整数であることがより好ましい。
は、水素原子又は1価の炭化水素基を示し、例えば、炭素数が1~30である1価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~25である1価の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~12である1価の炭化水素基であることがさらに好ましい。なお、1価の炭化水素基が置換基を有する場合、当該1価の炭化水素基の炭素数には、置換基に含まれる炭素数は含まれないものとする。
【0041】
が水素原子であるか、又は炭素数が1~30である1価の炭化水素基であれば、電解液に対する十分な耐膨潤性を得ることができる傾向にある。ここで、1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基及びフェニル基が挙げられる。Rは、炭素数が1~12のアルキル基又はフェニル基であることが好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても環状であってもよい。
【0042】
で示されるアルキル基及びフェニル基は、一部の水素原子が置換基で置換されていてもよい。Rがアルキル基である場合の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、窒素原子を含む置換基、リン原子を含む置換基、芳香環などが挙げられる。Rがフェニル基である場合の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、窒素原子を含む置換基、リン原子を含む置換基、芳香環、炭素数が3~10の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基などが挙げられる。
【0043】
式(I)で表される単量体としては、市販品を用いても合成品を用いてもよい。市販品として入手可能な式(I)で表される単量体としては、具体的には、例えば、エトキシジエチレングリコールアクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレートEC-A)、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレートMTG-A及び新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルAM-30G)、メトキシポリ(n=9)エチレングリコールアクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレート130-A及び新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルAM-90G)、メトキシポリ(n=13)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルAM-130G)、メトキシポリ(n=23)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルAM-230G)、オクトキシポリ(n=18)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルA-OC-18E)、フェノキシジエチレングリコールアクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレートP-200A及び新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルAMP-20GY)、フェノキシポリ(n=6)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルAMP-60G)、ノニルフェノールEO付加物(n=4)アクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレートNP-4EA)、ノニルフェノールEO付加物(n=8)アクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトアクリレートNP-8EA)、メトキシジエチレングリコールメタクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステルMC及び新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルM-20G)、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステルMTG)、メトキシポリ(n=9)エチレングリコールメタクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステル130MA及び新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルM-90G)、メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルM-230G)並びにメトキシポリ(n=30)エチレングリコールメタクリレート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステル041MA)が挙げられる。
【0044】
これらの中では、アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体と共重合させる場合の反応性等の点から、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(一般式(I)のRが水素原子でRがメチル基でnが3の化合物)がより好ましい。これらの式(I)で表される単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂は、電極の柔軟性の観点から、式(II)で表される単量体由来の構造単位をさらに含むことが好ましい。
【0046】
【化4】
【0047】
ここで、Rは水素原子又はメチル基を示す。Rは、炭素数が4~30のアルキル基を示し、好ましくは炭素数が5~25のアルキル基であり、より好ましくは炭素数が6~20のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数が8~16のアルキル基である。Rで示されるアルキル基の炭素数が4以上であれば、十分な可とう性を得ることができる傾向にある。Rで示されるアルキル基の炭素数が30以下であれば、電解液に対する十分な耐膨潤性を得ることができる傾向にある。なお、Rで示されるアルキル基が置換基を有する場合、当該アルキル基の炭素数には、置換基に含まれる炭素数は含まれないものとする。
で示されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても環状であってもよい。
で示されるアルキル基は、一部の水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、窒素原子を含む置換基、リン原子を含む置換基、芳香環、炭素数が3~10のシクロアルキル基などが挙げられる。例えば、Rで示されるアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基の他、フルオロアルキル基、クロロアルキル基、ブロモアルキル基、ヨウ化アルキル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。
【0048】
式(II)で表される単量体としては、市販品を用いても合成品を用いてもよい。市販品として入手可能な式(II)で表される単量体としては、具体的には、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の炭素数が4~30のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸のエステル類が挙げられる。
【0049】
また、Rがフルオロアルキル基である場合、1,1-ビス(トリフルオロメチル)-2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアクリレート、2,2,3,4,4,4-へキサフルオロブチルアクリレート、ノナフルオロイソブチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキシルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフルオロオクチルアクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ノナデカフルオロデシルアクリレート等のアクリレート化合物、ノナフルオロ-t-ブチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘプタデカフルオロオクチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフルオロオクチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート等のメタクリレート化合物などが挙げられる。
【0050】
式(II)で表されるこれらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂は、正極集電体と正極合剤層との密着性の観点から、カルボキシ基含有単量体由来であってカルボキシ基を含む構造単位を含んでいてもよい。
【0052】
カルボキシ基含有単量体としては、特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル系カルボキシ基含有単量体、クロトン酸等のクロトン系カルボキシ基含有単量体、マレイン酸及びその無水物等のマレイン系カルボキシ基含有単量体、イタコン酸及びその無水物等のイタコン系カルボキシ基含有単量体、シトラコン酸及びその無水物等のシトラコン系カルボキシ基含有単量体などが挙げられる。
【0053】
これらの中では、重合のし易さ、コストパフォーマンス、電極の柔軟性、可とう性等の点で、アクリル酸が好ましい。カルボキシ基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂がカルボキシ基含有単量体としてアクリル酸とメタクリル酸とを併用する場合、アクリル酸の含有率は、カルボキシ基含有単量体の全量に対して、例えば、5質量%~95質量%であることが好ましく、50質量%~95質量%であることがより好ましい。
【0054】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂は、ニトリル基含有単量体由来の構造単位及び必要に応じて含まれる式(I)で表される単量体由来の構造単位、式(II)で表される単量体由来の構造単位及びカルボキシ基含有単量体由来であってカルボキシ基を含む構造単位の他、これらの単量体とは異なるその他の単量体由来の構造単位を適宜組合せることもできる。
【0055】
その他の単量体としては、特に限定されるものではなく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等の炭素数が1~3のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸エステル類、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩などが挙げられる。これらその他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が、式(I)で表される単量体由来の構造単位、式(II)で表される単量体由来の構造単位及びカルボキシ基含有単量体由来であってカルボキシ基を含む構造単位からなる群より選択される少なくとも1種を含む場合、ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する各構造単位の比率は、以下のモル比であることが好ましい。
【0057】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が式(I)で表される単量体由来の構造単位を含む場合、ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する式(I)で表される単量体由来の構造単位の比率は、0.001モル~0.2モルであることが好ましく、0.003モル~0.05モルであることがより好ましく、0.005モル~0.02モルであることがさらに好ましい。
ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する式(I)で表される単量体由来の構造単位の比率が0.001モル~0.2モルの範囲であると、正極集電体、特にアルミニウム箔を用いた正極集電体との接着性及び電解液に対する耐膨潤性に優れ、電極の柔軟性及び可とう性が良好となる傾向にある。
【0058】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が式(II)で表される単量体由来の構造単位を含む場合、ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する式(II)で表される単量体由来の構造単位の比率は、0.001モル~0.2モルであることが好ましく、0.003モル~0.05モルであることがより好ましく、0.005モル~0.02モルであることがさらに好ましい。
ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対する式(II)で表される単量体由来の構造単位の比率が、0.001モル~0.2モルの範囲であると、正極集電体、特にアルミニウム箔を用いた正極集電体との接着性及び電解液に対する耐膨潤性に優れ、電極の柔軟性及び可とう性が良好となる傾向にある。
【0059】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂がカルボキシ基含有単量体由来であってカルボキシ基を含む構造単位を含む場合、ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対するカルボキシ基含有単量体由来であってカルボキシ基を含む構造単位の比率は、0.01モル~0.2モルであることが好ましく、0.02モル~0.1モルであることがより好ましく、0.03モル~0.06モルであることがさらに好ましい。
ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対するカルボキシ基含有単量体由来であってカルボキシ基を含む構造単位の比率が0.01モル~0.2モルの範囲であると、正極集電体、特にアルミニウム箔を用いた正極集電体との接着性及び電解液に対する耐膨潤性に優れ、電極の柔軟性及び可とう性が良好となる傾向にある。
【0060】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂がその他の単量体由来の構造単位を含む場合、ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対するその他の単量体由来の構造単位の比率は、0.005モル~0.1モルであることが好ましく、0.01モル~0.06モルであることがより好ましく、0.03モル~0.05モルであることがさらに好ましい。
【0061】
また、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂におけるニトリル基含有単量体由来の構造単位の含有率は、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂の全量を基準にして、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0062】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂には、電解液に対する耐膨潤性を補完するための架橋成分由来の構造単位、電極の柔軟性及び可とう性を補完するためのゴム成分由来の構造単位等を含んでいてもよい。
【0063】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂を合成するための重合様式としては、沈殿重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられ、特に制限はない。合成のし易さ、回収、精製等の後処理のし易さなどの点で、水中沈殿重合が好ましい。
以下、水中沈殿重合について詳細に説明する。
【0064】
水中沈殿重合を行う際の重合開始剤としては、重合開始効率等の点で水溶性重合開始剤が好ましい。
水溶性重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素等の水溶性過酸化物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジンハイドロクロライド)等の水溶性アゾ化合物、過硫酸塩等の酸化剤と亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の還元剤と硫酸、硫酸鉄、硫酸銅等の重合促進剤とを組合せた酸化還元型(レドックス型)などが挙げられる。
【0065】
これらの中では、樹脂合成のし易さ等の点で過硫酸塩、水溶性アゾ化合物等が好ましい。過硫酸塩の中では、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
なお、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリルを選択し、カルボキシ基含有単量体としてアクリル酸を選択し、式(I)で表される単量体としてメトキシトリエチレングリコールアクリレートを選択して水中沈殿重合を行った場合、単量体(モノマーともいう)の状態では3者ともに水溶性であることから、水溶性重合開始剤が有効に作用し、重合がスムーズに始まる。そして、重合が進むにつれて重合物が析出してくるため、反応系が懸濁状態となり、最終的に未反応物の少ないニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が高収率で得られる。
【0066】
重合開始剤は、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂の合成に使用される単量体の総量に対し、例えば、0.001モル%~5モル%の範囲で使用されることが好ましく、0.01モル%~2モル%の範囲で使用されることがより好ましい。
【0067】
また、水中沈殿重合を行う際には、分子量調節等の目的で、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、メルカプタン化合物、四塩化炭素、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。これらの中では、臭気が少ない等の点で、α-メチルスチレンダイマーが好ましい。
【0068】
水中沈殿重合を行う際には、析出する樹脂の粒子径の調節等のため、必要に応じて、水以外の溶媒を加えることもできる。
水以外の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレア等のウレア類、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン類、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル類、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
水中沈殿重合は、例えば、ニトリル基含有単量体並びに必要に応じて用いられるカルボキシ基含有単量体、式(I)で表される単量体、式(II)で表される単量体及びその他の単量体を溶媒中に導入し、重合温度を、好ましくは0℃~100℃、より好ましくは30℃~95℃として、好ましくは1時間~50時間、より好ましくは2時間~12時間保持することによって行われる。
【0070】
重合温度が0℃以上であれば、重合反応が促進される傾向にある。また、重合温度が100℃以下であれば、溶媒として水を使用したときでも、水が蒸発して重合ができなくなる状態になりにくい傾向にある。
【0071】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂の重量平均分子量は、10000~1000000であることが好ましく、100000~800000であることがより好ましく、250000~700000であることがさらに好ましい。
【0072】
本開示において、重量平均分子量は下記方法により測定された値をいう。
測定対象をN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルタ〔倉敷紡績株式会社製、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)前処理用、クロマトディスク、型番:13N、孔径:0.45μm〕を通して不溶分を除去する。GPC〔ポンプ:L6200 Pump(株式会社日立製作所製)、検出器:示差屈折率検出器L3300 RI Monitor(株式会社日立製作所製)、カラム:TSKgel-G5000HXLとTSKgel-G2000HXL(計2本)(共に東ソー株式会社製)を直列に接続、カラム温度:30℃、溶離液:N-メチル-2-ピロリドン、流速:1.0ml/分、標準物質:ポリスチレン〕を用い、重量平均分子量を測定する。
【0073】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂の酸価は、0mgKOH/g~40mgKOH/gであることが好ましく、0mgKOH/g~10mgKOH/gであることがより好ましく、0mgKOH/g~5mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0074】
本開示において、酸価は下記方法により測定された値をいう。
まず、測定対象1gを精秤した後、その測定対象にアセトンを30g添加し、測定対象を溶解する。次いで、指示薬であるフェノールフタレインを測定対象の溶液に適量添加して、0.1NのKOH水溶液を用いて滴定する。そして、滴定結果より下記式(B)により酸価を算出する(式中、Vfはフェノールフタレインの滴定量(mL)を示し、Wpは測定対象の溶液の質量(g)を示し、Iは測定対象の溶液の不揮発分の割合(質量%)を示す。)。
酸価(mgKOH/g)=10×Vf×56.1/(Wp×I) 式(B)
なお、測定対象の溶液の不揮発分は、測定対象の溶液をアルミパンに約1ml量り取り、160℃に加熱したホットプレート上で15分間乾燥させ、残渣質量から算出する。
【0075】
ニトリル基含有単量体並びに必要に応じて用いられるカルボキシ基含有単量体、式(I)で表される単量体、式(II)で表される単量体及びその他の単量体を重合する際、特にニトリル基含有単量体及び必要に応じて用いられるカルボキシ基含有単量体の重合熱が大きいため、これらの単量体を溶媒中に滴下しながら重合を進めることが好ましい。
【0076】
ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂は、上記のように重合して製造され、通常、溶媒に溶解したワニスの形態で使用される。ワニス状のニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂の調製に用いる溶媒としては、特に制限はなく、例えば、先に述べた水中沈殿重合を行う際に加えることのできる溶媒及び水が使用できる。これらのうちでは、ニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂に対する溶解性等の点で、アミド類、ウレア類、ラクトン類又はそれらを含む混合溶媒が好ましく、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン又はそれらを含む混合溶媒がより好ましい。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上記溶媒の使用量は、常温(25℃)でニトリル基含有単量体由来の構造単位を含む樹脂が溶解状態を保てる必要最低限の量以上であれば、特に制限はない。正極合剤ペーストを調製する際、通常、溶媒を加えながら粘度調節を行うため、必要以上に希釈し過ぎない任意の量とすることが好ましい。
【0078】
<エネルギーデバイス>
本開示のエネルギーデバイスは、本開示のエネルギーデバイス用電極を含む。
本開示のエネルギーデバイスとしては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、太陽電池、燃料電池等が挙げられる。
正極としての本開示のエネルギーデバイス用電極と、エネルギーデバイス用負極と、セパレータと、電解液とを組み合わせることで、本開示のエネルギーデバイスの一例であるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0079】
以下、本開示のエネルギーデバイスをリチウムイオン二次電池に適用した場合について説明する。
リチウムイオン二次電池は、例えば、エネルギーデバイス用正極と、エネルギーデバイス用負極と、エネルギーデバイス用正極とエネルギーデバイス用負極との間に介在するセパレータと、電解液と、を備える。エネルギーデバイス用正極として、本開示のエネルギーデバイス用電極が用いられる。
【0080】
エネルギーデバイス用負極(以下、単に「負極」と称することがある。)は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられた負極合剤層とを有するものである。負極合剤層は、負極活物質と必要に応じてバインダ樹脂及び導電剤の少なくとも一方とを有するものである。
【0081】
負極活物質としては、エネルギーデバイスの分野で常用されるものを使用できる。具体的には、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属化合物、炭素材料、金属錯体、及び有機高分子化合物が挙げられる。負極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、負極活物質としては、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、非晶質炭素、炭素繊維などが挙げられる。
炭素材料の平均粒子径は、0.1μm~60μmであることが好ましく、0.3μm~45μmであることがより好ましく、0.5μm~30μmであることがさらに好ましい。
また、炭素材料のBET比表面積は、1m/g~10m/gであることが好ましい。
【0082】
炭素材料の中でも特に、リチウムイオン二次電池の放電容量をより向上できる観点からは、X線広角回折法における炭素六角平面の間隔(d002)が3.35Å~3.40Åであり、c軸方向の結晶子(Lc)が100Å以上である黒鉛が好ましい。
一方、炭素材料の中でも特に、サイクル特性及び安全性をより向上できる観点からは、X線広角回折法における炭素六角平面の間隔(d002)が3.50Å~3.95Åである非晶質炭素が好ましい。
【0083】
本開示において平均粒子径は、界面活性剤を含んだ精製水に試料を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製SALD-3000J)で測定される体積基準の粒度分布において、小径側からの積算が50%となるときの値(メジアン径(D50))とする。
【0084】
BET比表面積は、例えば、JIS Z 8830:2013に準じて窒素吸着能から測定することができる。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社製:AUTOSORB-1(商品名)を用いることができる。試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、BET比表面積の測定を行う際には、まず加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。
炭素材料の002面の面間隔d002は、X線(CuKα線)を試料に照射し、回折線をゴニオメーターにより測定し得た回折プロファイルより、回折角2θが24°~26°付近に現れる炭素002面に対応する回折ピークより、ブラッグの式を用いて算出することができる。
【0085】
負極に用いる負極集電体としては、エネルギーデバイスの分野で常用されるものを使用できる。具体的には、ステンレス鋼、ニッケル、銅等を含むシート、箔などが挙げられる。シート及び箔の平均厚さは、特に限定されず、例えば、1μm~500μmであることが好ましく、2μm~100μmであることがより好ましく、5μm~50μmであることがさらに好ましい。
【0086】
負極においては、電極の抵抗を低減する観点から、導電剤を用いてもよい。導電剤としては、エネルギーデバイスの分野で常用されるものを使用できる。具体的には、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック及びサーマルブラックが挙げられる。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛及び人造黒鉛が挙げられる。導電剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
負極に用いるバインダ樹脂としては、エネルギーデバイスの分野で常用されるものを使用できる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム及びアクリルゴムが挙げられる。これらバインダ樹脂の中でも特に、リチウムイオン二次電池の特性をより向上できる観点からは、スチレン-ブタジエンゴム及びアクリルゴムが好ましい。
【0088】
負極は、特に制限なく公知の電極の製造方法を利用して製造することができる。例えば、負極活物質、バインダ樹脂並びに必要に応じて導電剤及び溶媒を含む負極合剤ペーストを負極集電体の少なくとも一方の表面上に塗布し、次いで溶媒を乾燥により除去し、必要に応じて圧延して負極集電体表面に負極合剤層を形成することにより製造することができる。
【0089】
負極合剤ペーストに用いられる溶媒としては、特に制限はなく、バインダ樹脂を均一に溶解又は分散できる溶媒であればよい。バインダ樹脂にスチレン-ブタジエンゴムを用いる場合には、バインダ樹脂の分散媒として広く用いられている水が好ましい。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
負極合剤層を製造するための負極合剤ペーストには、負極合剤ペーストの分散安定性及び塗工性を改善するため増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のカルボキシメチルセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性アルギン酸誘導体、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン、ジェランガム、ポリアクリル酸及びそのアルカリ金属塩等のポリアクリル酸誘導体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系共重合体などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロース誘導体が好ましい。
【0091】
負極合剤ペーストの負極集電体への塗布は、例えば、コンマコーターを用いて行うことができる。
塗布は、対向する電極において、正極容量と負極容量との比率(負極容量/正極容量)が1以上になるように行うことが適当である。負極合剤ペーストの片面当たりの塗布量は、例えば、負極合剤層の乾燥質量が、5g/m~300g/mであることが好ましく、25g/m~200g/mであることがより好ましく、50g/m~150g/mであることがさらに好ましい。塗布量が多い程、容量の大きなリチウムイオン二次電池が得られやすく、塗布量が少ない程、出力の高いリチウムイオン二次電池が得られやすい傾向にある。
【0092】
溶媒の除去は、好ましくは50℃~150℃、より好ましくは80℃~120℃で、好ましくは1分間~20分間、より好ましくは3分間~10分間乾燥することによって行われる。
【0093】
圧延は、例えばロールプレス機を用いて行われる。負極合剤層のかさ密度は、例えば、1g/cm~2g/cmであることが好ましく、1.2g/cm~1.8g/cmであることがより好ましく、1.4g/cm~1.6g/cmであることがさらに好ましい。さらに、負極内の残留溶媒、吸着水の除去等のため、例えば、100℃~150℃で1時間~20時間真空乾燥してもよい。
【0094】
セパレータは、正極及び負極間を電子的には絶縁しつつもイオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物等が用いられる。
【0095】
上記樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が用いられる。具体的には、電解液に対して安定で、保液性の優れた材料の中から選ぶのが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート、不織布などを用いることが好ましい。
【0096】
無機物としては、アルミナ、二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩類、ガラスなどが用いられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。
薄膜形状の基材としては、平均孔径が0.01μm~1μmであり、平均厚さが5μm~50μmのものが好適に用いられる。また、例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、バインダ樹脂を用いて複合多孔層としたものをセパレータとして用いることができる。さらに、この複合多孔層を、正極又は負極の表面に形成し、セパレータとしてもよい。あるいは、この複合多孔層を他のセパレータの表面に形成し、多層セパレータとしてもよい。例えば、90%粒子径(D90)が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂をバインダ樹脂として結着させた複合多孔層を正極の表面に形成したものを、セパレータとしてもよい。
【0097】
電解液は、例えば、エネルギーデバイスであるリチウムイオン二次電池としての機能を発揮させるものであれば特に制限はない。電解液としては、水以外の電解液、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類、トリメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2-エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等のオキソラン類、アセトニトリル、ニトロメタン、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素化合物類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、スルホラン等のスルホン類、3-メチル-2-オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類、1,3-プロパンスルトン、4-ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類などの有機溶媒に、LiClO、LiBF、LiI、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、Li[(COB等の電解質を溶解した溶液などが挙げられる。これらの中では、カーボネート類にLiPFを溶解した電解液が好ましい。
電解液は、例えば有機溶媒と電解質とを、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることで調製される。
【0098】
また、リチウムイオン二次電池の特性をより向上できる観点から、電解液にビニレンカーボネート(VC)を含有することが好ましい。
ビニレンカーボネート(VC)を含有する場合の含有率は、電解液全量に対して、0.1質量%~2質量%であることが好ましく、0.2質量%~1.5質量%であることがより好ましい。
【0099】
リチウムイオン二次電池の製造方法については特に制約はなく、公知の方法を利用できる。
例えば、まず、正極と負極の2つの電極を、ポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを介して捲回する。得られたスパイラル状の捲回群を電池缶に挿入し、予め負極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池缶底に溶接する。得られた電池缶に電解液を注入する。さらに予め正極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池の蓋に溶接し、蓋を絶縁性のガスケットを介して電池缶の上部に配置し、蓋と電池缶とが接した部分をかしめて密閉することによってリチウムイオン二次電池を得る。
【実施例
【0100】
以下、実験例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0101】
<樹脂Aの調製>
撹拌機、温度計及び冷却管を装着した0.5リットルのセパラブルフラスコ内に、精製水(和光純薬工業株式会社製)397.2gを加えた後、系内を窒素置換し、72.0℃まで昇温した。系内の水温が72.0℃になっていることを確認後、精製水2.5gに重合開始剤の過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)347.0mgを溶解した溶液を系内に加えた後、250回転/分で撹拌した。次いで、系内にモノマー(ニトリル基含有単量体であるアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)42.8g(0.80モル))を2時間かけて滴下し、1時間かけて反応させた。次いで、精製水7.8gに重合開始剤の過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)420mgを溶解した溶液を系内に加えた後、1時間反応させた。次いで、系内の温度を92.0℃まで昇温し、1時間かけて反応させた。次いで、精製水1.5gに重合開始剤の過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)210mgを溶解した溶液を系内に加えた後、1時間反応させた。上記工程中は、系内を窒素雰囲気で保ち、250回転/分で撹拌を続けた。室温(25℃)に冷却後、反応液を吸引ろ過し、析出した樹脂をろ別した。ろ別した樹脂を精製水(和光純薬工業株式会社製)1000gで洗浄した。洗浄した樹脂を60℃、150Paに設定した真空乾燥機で24時間乾燥して、樹脂Aの粉末を得た。撹拌機、温度計及び冷却管を装着した0.5リットルのセパラブルフラスコ内に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)423gを加え、100±5℃に昇温した後、樹脂Aの粉末27gを加え、300回転/分で5時間撹拌し、樹脂AのNMP溶液とした。
【0102】
<樹脂Bの調製>
モノマーをニトリル基含有単量体であるアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)41.4g(0.78モル)及び式(I)で表される単量体であるメトキシトリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステルAM-30G)1.4g(0.006モル)とした以外は、樹脂Aと同様にして、樹脂BのNMP溶液を得た。
【0103】
<樹脂Cの調製>
モノマーをニトリル基含有単量体であるアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)39.3g(0.74モル)、式(I)で表される単量体であるメトキシトリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステルAM-30G)1.4g(0.006モル)及びカルボキシ基含有単量体であるアクリル酸(和光純薬工業株式会社製)2.1g(0.029モル)とした以外は、樹脂Aと同様にして、樹脂CのNMP溶液を得た。
【0104】
(実施例1)
[正極の作製]
正極の作製を以下のように行った。正極活物質である層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(BET比表面積が0.4m/g、平均粒子径(d50)が6.5μm)に、導電剤としてアセチレンブラック(商品名:HS-100、平均粒子径48nm(デンカ株式会社カタログ値)、デンカ株式会社)と、バインダ樹脂として樹脂Aを順次添加し、混合することにより正極合剤を得た。質量比は、活物質:導電剤:バインダ樹脂=94.0:4.5:1.5とした。さらに正極合剤に対し、分散溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、混練することにより正極合剤ペーストを形成した。この正極合剤ペーストを正極集電体である平均厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、所定密度までプレスにより圧密化して正極を得た。正極合剤層のかさ密度は2.9g/cmとし、正極合剤層の乾燥質量は150g/mとした。
【0105】
[負極の作製]
負極の作製を以下のように行った。金属リチウムの表面を光沢が出るまで磨き、この金属リチウムを負極集電体である銅メッシュに実質的に均等かつ均質に圧着して負極とした。
【0106】
[電池の作製]
得られた正極と負極を、セパレータを介して対向させた後、正極及び負極それぞれに集電用のタブ線を接続し、電極群を得た。得られた電極群をラミネートに入れ、電解液を1000μL注液した後、真空シールし、ラミネート型電池を得た。電解液には、1.0MのLiPFを含むプロピレンカーボネート/ジエチルカーボネート=3/7混合溶液(体積比)に混合溶液全量に対してビニレンカーボネートを1.0質量%添加したものを使用した。セパレータにはポリエチレンの多孔性シートを使用した。
【0107】
(実施例2)
バインダ樹脂として樹脂Bを使用した以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0108】
(実施例3)
バインダ樹脂として樹脂Cを使用した以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0109】
(比較例1)
バインダ樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用した以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製した。
【0110】
<正極の評価>
実施例1~実施例3及び比較例1で作製した正極を、5cm角に切り出した。切り出した正極を120℃に設定した真空乾燥機で24時間乾燥した後、質量を測定した。耐圧容器(商品名:耐圧ボトル、型番:5555-23、アズワン株式会社製)に質量を測定した正極とプロピレンカーボネート(電池研究用、和光純薬工業株式会社製)を50g加え、オイルバスで120℃まで昇温し、120℃で8時間保持した。容器をオイルバスから取り出し、25℃まで冷却した後、容器からプロピレンカーボネートを除去した。プロピレンカーボネートを除去した容器にアセトン(和光一級、和光純薬工業株式会社製)を50g加え、5分静置後、アセトンを除去した。再度アセトンを50g加え、5分静置後、アセトンを除去した。耐圧容器から電極を取り出し、25℃で24時間乾燥した。乾燥した電極の質量を測定した。正極に使用した集電体を5cm角に切り出し、質量を測定した後、上述の式(A)を用いて電極の質量維持率を算出した。
【0111】
<電池の評価>
実施例1~実施例3及び比較例1で作製したラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽内に入れ、充放電装置(東洋システム株式会社製、商品名:TOSCAT-3200)を用いて25℃で、以下の条件で充放電した。4.2V、0.1Cで定電流定電圧(CCCV)充電(充電終止条件:0.01C)を行った後、0.1Cで3.0Vまで定電流(CC)放電した。この充放電を3回繰り返した。なお、0.1Cとは、ラミネート型電池を10時間で充電(放電)しきる電流値である。
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、4.2V、0.1CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を-10℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、0.1Cで3.0VまでCC放電した。
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、4.2V、0.1CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を-10℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、0.5Cで3.0VまでCC放電した。
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、4.2V、0.1CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を-10℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、1.0Cで3.0VまでCC放電した。
下式を用いて、直流抵抗(DCR)を測定し、保存前抵抗とした。
【0112】
【数1】
【0113】
ここでI=(I0.1C+I0.5C+I1.0C)/3、V=(ΔV0.1C+ΔV0.5C+ΔV1.0C)/3であり、I0.1C、I0.5C及びI1.0Cは、それぞれ対応する0.1C、0.5C及び1.0Cでの放電電流値を示し、ΔV0.1C、ΔV0.53C及びΔV1.0Cは、それぞれ対応する放電電流値における放電開始10秒後の電圧変化を示す。
【0114】
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、4.2V、0.5CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を105℃に設定した恒温槽に入れ、48時間保持した後、25℃に設定した恒温槽にいれ、0.5Cで3.0VまでCC放電した。
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、4.2V、0.1CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を-10℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、0.1Cで3.0VまでCC放電した。
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、4.2V、0.1CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を-10℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、0.5Cで3.0VまでCC放電した。
次いで、ラミネート型電池を25℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、4.2V、0.1CでCCCV充電(終止条件:0.01C)した。充電したラミネート型電池を-10℃に設定した恒温槽に入れ、5時間保持した後、1.0Cで3.0VまでCC放電した。
下式を用いて、直流抵抗(DCR)を測定し、保存後抵抗とした。
【0115】
【数2】
【0116】
ここでI=(I0.1C+I0.5C+I1.0C)/3、V=(ΔV0.1C+ΔV0.5C+ΔV1.0C)/3であり、I0.1C、I0.5C及びI1.0Cは、それぞれ対応する0.1C、0.5C及び1.0Cでの放電電流値を示し、ΔV0.1C、ΔV0.5C及びΔV1.0Cは、それぞれ対応する放電電流値における放電開始10秒後の電圧変化を示す。
【0117】
下記式を用いて、保存後抵抗上昇率とした。
【0118】
【数3】
【0119】
得られた結果を表1に示す。表中「-」は、該当する成分を含有しないことを意味する。
【0120】
【表1】
【0121】
電極の質量維持率が90%以上である実施例1~実施例3は、電極の質量維持率が90%未満である比較例1と比較して、保存後抵抗及び保存後抵抗上昇率が小さいことが分かる。この結果は、電池が高温にさらされた際に、正極合剤層の構成成分中のバインダ樹脂が溶出し難く、正極合剤層の構造が維持されていることに起因すると推測する。以上の結果から、本開示によれば、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、正極活物質と導電剤とバインダ樹脂とを含有する正極合剤層と、を有し、120℃に保持したプロピレンカーボネートに8時間浸漬した際の正極合剤層の質量維持率が90%以上であるエネルギーデバイス用電極を用いた場合において、高温にさらされた場合に起こる抵抗上昇が抑制されるエネルギーデバイス用電極及びそれを用いたエネルギーデバイスを提供できることが示唆された。