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  • 特許-ゼオライト粉体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ゼオライト粉体
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/76 20060101AFI20220621BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220621BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B01J29/76 A ZAB
B01D53/94 222
F01N3/08 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018060119
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019171243
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大西 良治
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 武士
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081809(JP,A)
【文献】特開2016-147801(JP,A)
【文献】特開2016-169139(JP,A)
【文献】特開2012-196663(JP,A)
【文献】特表2010-524677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
C01B 33/20-39/54
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属が担持された8員環ゼオライトを含むゼオライト粉体であって、
8員環ゼオライトがAFX型ゼオライトであり、
ゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量のモル比が0.90以上であるゼオライト粉体。
【請求項2】
ゼオライト骨格を構成するAlに対するゼオライト骨格を構成するSiのモル比が、4.0以上、10.0以下である、請求項1に記載のゼオライト粉体。
【請求項3】
ゼオライト粉体中のAlに対する遷移金属のモル比が0.25以上、0.50以下である、請求項1又は2に記載のゼオライト粉体。
【請求項4】
遷移金属が銅である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゼオライト粉体。
【請求項5】
ゼオライト粉体中の全Al量に対する、ゼオライト粉体中の全Si量のモル比が、4.0以上、10.0以下である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゼオライト粉体。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項に記載のゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に排ガス浄化用触媒としての触媒活性及び耐久性(触媒活性維持率)に優れたゼオライト粉体と、このゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒に関する。
本発明のゼオライト粉体は、ディーゼルエンジン自動車の排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元して無害化する選択的接触還元(Selective catalytic reduction;以下、「SCR」とする。)触媒として有用である。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、触媒、吸着材、分離材等の諸種の用途に用いられている。特に、8員環ゼオライト(酸素8員環ゼオライト)は、その小さな細孔径を利用した低級オレフィン製造用の触媒や排ガス浄化用触媒として、特に自動車排ガスのSCR触媒として実用化されている。
【0003】
一般的なSCR触媒は、コージエライト等のセラミックス製のハニカムに粒径数μm程度の銅担持ゼオライトを付着させてなり、排ガス中のNOxは、ハニカム細孔内を通り、その表面に付着しているゼオライトの細孔中で還元反応して分解される。
【0004】
従来、この排ガス浄化用触媒用のゼオライトについては、活性、耐久性等を向上させるべく、種々検討がなされている。
例えば、特許文献1には、Cu担持AFX型8員環ゼオライトよりなるSCR触媒が提案されている。
特許文献2には、高結晶性AFX型ゼオライトの製法が提案されている。
特許文献3には(004)面の格子面間隔dが4.84Å以上5.00Å以下で、アルミナに対するシリカのモル比が10以上32以下であるAFX型ゼオライトが記載されている。
非特許文献1には銅担持八員環ゼオライトを、排ガス浄化触媒として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第2517775号明細書
【文献】特開2016-169139号公報
【文献】特開2016-147801号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Japan 2018年、Vol.91,No.3,355-361頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のゼオライトは、ディーゼルエンジン自動車の排ガス用浄化触媒としての活性及び触媒の耐久性が低いという課題がある。
【0008】
本発明は上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、排ガス浄化用触媒としての触媒活性及び触媒活性維持率に優れたゼオライト粉体と、このゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく検討を重ね、遷移金属が担持された8員環ゼオライトを含むゼオライト粉体において、ゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量の割合が所定値以上であるゼオライト粉体が、触媒活性及び触媒活性維持率に優れることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
遷移金属が担持された8員環ゼオライトを含むゼオライト粉体であって、ゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量のモル比が0.70以上であるゼオライト粉体。
【0011】
[2] ゼオライト骨格を構成するAlに対するゼオライト骨格を構成するSiのモル比が、4.0以上、10.0以下である、[1]に記載のゼオライト粉体。
【0012】
[3] ゼオライト粉体中のAlに対する遷移金属のモル比が0.25以上、0.50以下である、[1]又は[2]に記載のゼオライト粉体。
【0013】
[4] 遷移金属が銅である、[1]ないし[3]のいずれかに記載のゼオライト粉体。
【0014】
[5] ゼオライト粉体中の全Al量に対する、ゼオライト粉体中の全Si量のモル比が、4.0以上、10.0以下である、[1]ないし[4]のいずれかに記載のゼオライト粉体。
【0015】
[6] 8員環ゼオライトがAFX型ゼオライトである、[1]ないし[5]のいずれかに記載のゼオライト粉体。
【0016】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載のゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒。
【発明の効果】
【0017】
本発明のゼオライト粉体は、排ガス浄化用触媒としての触媒活性及び耐久性(触媒活性維持率)に優れるため、このゼオライト粉体を排ガス浄化用触媒に用いて、長期に亘り、安定かつ効率的な排ガスの浄化処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1、実施例2及び比較例1で製造したゼオライト粉体のXRDパターンのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0020】
[ゼオライト粉体]
本発明のゼオライト粉体は、遷移金属が担持された8員環ゼオライトを含むゼオライト粉体であって、ゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量のモル比が0.70以上であることを特徴とする。
【0021】
<メカニズム>
ゼオライト粉体中には、「ゼオライト」と、「ゼオライト以外の化合物(ゼオライト合成の際に製造されたAl水酸化物、Al酸化物等)」が含まれる。
「ゼオライト骨格」を構成しないAl酸化物、Al水酸化物等が、ゼオライト細孔内に多量に存在すると、当該ゼオライト粉体を排ガス浄化用触媒として使用した際に、ゼオライト細孔内にNOxが入りにくくなり(拡散しにくくなり)、排ガス浄化用触媒として性能が不十分となる。また、ゼオライト粉体を排ガス浄化用触媒として使用する際には、触媒活性点を構成するために遷移金属をゼオライトに担持させる必要があるが、遷移金属担持の際に、ゼオライト細孔内に存在するAl水酸化物、Al酸化物等により遷移金属の担持が阻害されて、性能(触媒活性及び活性維持率)のよい排ガス浄化用触媒が得られにくくなる。
【0022】
そこで、本発明では、ゼオライト粉体中に含有されるAl水酸化物、Al酸化物等の量を減らすこと、即ち、ゼオライト粉体中に含有されるAl全量に対するゼオライト骨格を構成するAlの割合を大きくすることにより、ゼオライト骨格外に存在するAlに阻害されずに、遷移金属を最適な位置に担持し易くすると共に、ゼオライト細孔内にNOxを拡散しやすくし、良好な性能を有する排ガス浄化用触媒を提供する。
【0023】
<8員環ゼオライト>
本発明のゼオライト粉体に含まれる8員環ゼオライト(以下、「本発明の8員環ゼオライト」と称す場合がある。)の酸素8員環とは、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、12員環ゼオライトとみなす。
【0024】
8員環ゼオライトには、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでABW、ACO、AEI、AEN、AFN、AFT、AFX、ANA、APC、APD、ATN、ATT、ATV、AWO、AWW、BCT、BIK、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DFT、EAB、EDI、EPI、ERI、ESV、GIS、GOO、IHW、ITE、ITW、JBW、KFI、LEV、LTA、MER、MON、MTF、NSI、OWE、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RWR、SAS、SAT、SAV、SIV、THO、TSC、UEI、UFI、VNI、YUG、ZON構造のものが挙げられるが、好ましくはAEI型、CHA型、AFX型、LEV型、DDR型、LTA型、RHO型であり、より好ましくは排ガス成分に対して適切な細孔径を有するという観点から、CHA型、AEI型、AFX型であり、特に好ましくはAFX型である。
なお、ゼオライトが8員環ゼオライトであること、特にAFX型ゼオライトであることは、後述の実施例の項に記載の通り、X線回折により調べることができる。
【0025】
<Al比>
本発明のゼオライト粉体は、ゼオライト粉体中のAl量に対するゼオライト骨格を構成するAl量のモル比(以下、「Al比」と称する場合がある。)が0.70以上であることを特徴とする。このAl比が0.70未満では、NOxの細孔内拡散性、遷移金属の担持性の向上効果を十分に得ることができず、排ガス浄化用触媒としての触媒活性、触媒活性維持率に優れたゼオライト粉体とすることができない。
【0026】
Al比は高い程好ましく、特に0.80以上、とりわけ0.90以上であることが好ましい。一方、本発明のゼオライト粉体のAl比は測定誤差がない場合理論的には1以下であるが、通常1未満である。
【0027】
なお、Al比は、後述の実施例の項に記載の方法で求めることができる。また、本発明のAl比を満たすゼオライト粉体を製造するには、後述のゼオライト粉体の製造方法において
・仕込みの際のAlの量を減らす(原料の溶解速度を上げる)
・仕込みのアルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物の量を増やす(溶液の塩基性を上げる)
・反応温度を上げる(一気に反応させる)
といった工夫を行って、ゼオライト骨格中により多くのAlを取り込むようにすればよい。
【0028】
<骨格Si/Al比・全体Si/Al比>
本発明のゼオライト粉体は、ゼオライト骨格を構成するAlに対するゼオライト骨格を構成するSiのモル比(以下、「骨格Si/Al比」と称する場合がある。)が4.0以上、10.0以下であることが好ましい。骨格Si/Al比が10.0以下であれば、ゼオライトに適切な酸量が存在することになり良好な触媒活性が得られる傾向があり、一方、4.0以上であれば、骨格が安定化し、触媒活性の維持率を向上させることができる。
この観点から骨格Si/Al比は4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましく、特に5.5以上であることが好ましい。一方、9.0以下であることがより好ましく、8.0以下であることがさらに好ましく、特に7.0以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明のゼオライト粉体は、ゼオライト粉体中の全Al量に対するゼオライト粉体中の全Si量のモル比(以下、「全体Si/Al比」と称する場合がある。)が4.0以上、10.0以下であることが好ましい。全体Si/Al比が10.0以下であるとゼオライト中に適切な酸量が存在し、良好な触媒活性が得られる傾向があり、4.0以上であれば、ゼオライト骨格が安定化し、触媒活性の維持率を向上させることができる。
この観点から全体Si/Al比は4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましく、特に5.5以上であることが好ましい。一方、9.0以下であることがより好ましく、8.0以下であることがさらに好ましく、特に7.0以下であることが好ましい。
【0030】
なお、ゼオライト粉体の骨格Si/Al比、全体Si/Al比は後述の実施例の項に記載の方法で求めることができる。ゼオライト粉体の骨格Si/Al比、全体Si/Al比を上記範囲とするには、後述のゼオライト粉体の製造方法において、Al源とSi源を上記範囲の骨格Si/Al比及び全Si/全Al質量比のゼオライト粉体が得られるように用いればよい。
【0031】
<M/Alモル比>
本発明のゼオライト粉体は、ゼオライト粉体中のAlに対する遷移金属(以下「M」と記載する場合がある。)のモル比(以下、「M/Alモル比」と称す場合がある。)が0.25以上、0.50以下であることが好ましい。M/Alモル比が0.25以上であると良好な触媒活性を示し、0.50以下であると遷移金属がゼオライト中に最適に配置され安定化する傾向がある。この観点から、M/Alモル比は0.26以上、特に0.27以上であることが好ましく、0.47以下、特に0.45以下であることが好ましい。
【0032】
なお、ゼオライト粉体のM/Alモル比は、後述の実施例の項に記載の方法で求めることができる。ゼオライト粉体のM/Alモル比を上記範囲とするには、後述のゼオライト粉体の製造方法において、上記範囲のM/Alモル比のゼオライト粉体が得られるように、遷移金属を担持させればよい。
【0033】
なお、本発明のゼオライト粉体の8員環ゼオライトに担持される遷移金属としては、特に限定されるものではないが、吸着材用途や触媒用途での特性の点から、通常、鉄、コバルト、マグネシウム、亜鉛、銅、パラジウム、イリジウム、白金、銀、金、セリウム、ランタン、プラセオジウム、チタン、ジルコニウム等の周期表第3-12族の遷移金属が挙げられ、好ましくは鉄、コバルト、銅などの周期表第8、9、11族、より好ましくは8、11族の遷移金属である。8員環ゼオライトに担持される遷移金属は、これらの1種であってもよく、2種以上の遷移金属を組み合わせてゼオライトに担持させてもよい。これらの遷移金属のうち、特に好ましくは、鉄及び/又は銅であり、とりわけ好ましくは銅である。
【0034】
なお、本発明のゼオライト粉体の遷移金属の担持量は、無水状態下でのゼオライト粉体の質量に対する遷移金属の質量割合として、通常2.0%以上、6.5%以下であり、好ましくは2.25%以上、より好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは2.75%以上であり、好ましくは6.25%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは5.75%以下である。ゼオライト粉体中の遷移金属の担持量が上記下限値以上であれば、触媒活性が良好となり、遷移金属の担持量が上記上限以下であれば、高温水熱下での耐久性が良好となる。
【0035】
<ゼオライト粉体の製造方法>
本発明のゼオライト粉体の製造方法には特に制限はないが、(1)シリカ源(以下「Si源」と称す場合がある。)、(2)アルミナ源(以下「Al源」と称す場合がある。)、(3)有機構造規定剤(SDA)、(4)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(5)水からなる原料混合物を、水熱処理して得られる8員環ゼオライトに、遷移金属を担持して製造する方法が好ましい。
【0036】
有機構造規定剤としては、8員環構造のゼオライトが得られる限りにおいて、特段の制限はなく、テトラメチルアンモニウム水酸化物(TMAOH)、テトラエチルアンモニウム水酸化物(TEAOH)やテトラプロピルアンモニウム水酸化物(TPAOH)、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムカチオン、N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン、N,N-ジメチル-9-アゾニアビシクロ[3.3.1]ノナン、N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン、N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン、N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウムカチオン、N,N-ジメチル-2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジニウムカチオン、N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウムカチオン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウムカチオン、N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウムカチオン、2,6-ジメチル-1-アゾニウム[5.4]デカンカチオン、N-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウムカチオン、1,3-ビス(1-アダマンチル)イミダゾリウムカチオン、1,1‘-(1,4-ブタニジイル)ビス-4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンカチオン、N、N‘-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンカチオン等が挙げられる。これらの中でも、最適な位置にAlが配置されることから、N、N‘-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンカチオン、具体的には、N、N‘-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンハイドライドを用いることが好ましい。
【0037】
これらの有機構造規定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
本発明で用いるシリカ源としては、Y型ゼオライト、ケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、シリコンアルコキシド、石英など、好ましくはケイ酸ナトリウム、Y型ゼオライトが挙げられる。
本発明で用いるアルミナ源としては、Y型ゼオライト、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなど、好ましくは水酸化アルミニウム、Y型ゼオライトが挙げられる。
なお、Y型ゼオライトを使用して、シリカ源とアルミナ源の両者を兼ねてもよい。
【0039】
アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物としては、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、例えば、LiOH、NaOH、KOH、CsOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)又はBa(OH)、好ましくはNaOHが挙げられる。KOHの場合は純度85%以上、その他の場合は95%以上のものを使用し、脱イオン水で5~50%に希釈して用いるか、又は予め希釈されたものを使用する。シリカ源及びアルミナ源中のシリカ(SiOに換算)100モルに対してアルカリ金属水酸化物の量を通常10~70モル、好ましくは15~65モル、さらに好ましくは20~60モル、特に好ましくは25~55モルとなるようにする。アルカリ金属水酸化物の量がこの範囲であることで、本発明に係るAl比を有する8員環ゼオライトが得やすい傾向がある。
また、用いる水は高純度の水、例えば、イオン交換水(脱イオン水)が好ましい。
【0040】
シリカ源とアルミナ源の比率は、本発明に係るゼオライト粉体が得られる限りにおいて特段の制限はないが、アルミナ源の量を比較的少なくすることで、ゼオライト粉体中のAlに対するゼオライト骨格を構成するAlのモル比が大きなゼオライト粉体が得られやすい傾向がある。
具体的には、シリカ源及びアルミナ源中のシリカ(SiOに換算)100モルに対して、アルミナ(Alに換算)の量を通常2~10モル、好ましくは3~8モルとなるようにする。
また、シリカ(SiO)100モルに対して、有機構造規定剤(SDA)を通常1~20モル、好ましくは2~10モル、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を10~50モル、好ましくは20~40モル、水を1000~4000モル、好ましくは1500~3500モルの割合で用いる。
【0041】
水熱処理は以下の条件で行われる。
水熱処理温度は、本発明に係るゼオライト粉体が得られる限りにおいて特段の制限はないが、比較的高温条件下で水熱処理を行うことで、ゼオライト粉体中のAlに対する、ゼオライト骨格を構成するAlのモル比を大きくすることができる。
具体的には、水熱処理温度は通常100~190℃、好ましくは110~180℃である。水熱処理時間は通常6~120時間、好ましくは12~96時間である。この水熱処理温度が低すぎると縮合が進まず、一方この温度が高すぎて通常有機構造規定剤(SDA)などの有機物が分解すると、8員環構造のゼオライトが得られにくい傾向がある。また、水熱処理時間が短いと結晶化が不十分になり、一方長いと別の相(例えば、ANA相)が副生することがある。
水熱反応は好ましくはオートクレーブを用いて行う。
水熱反応終了後、固液分離、洗浄、乾燥を行うことにより、8員環構造のゼオライトが得られる。
【0042】
このようにして得られたAFX型ゼオライトはその後焼成してもよい。焼成は、通常、マッフル炉又は管状炉を用いて、O:N=0:100~100:0、好ましくは20:80~30:70の雰囲気、通常は空気雰囲気中にて、通常500~700℃、好ましくは550~650℃で、通常4~8時間、好ましくは5~7時間行う。
【0043】
このようにして得られた8員環ゼオライトに、遷移金属を担持する方法としては、特に限定されないが、一般的に用いられるイオン交換法、含浸担持法、沈殿担持法、固相イオン交換法、CVD法、噴霧乾燥法等、好ましくはイオン交換法、固相イオン交換法、含浸担持法、噴霧乾燥法により遷移金属を担持させることが好ましい。
【0044】
遷移金属原料としては特に限定されず、通常、前述の遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物、臭化物等の無機酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩、ペンタカルボニル、フェロセン等の有機金属化合物などが使用される。これらのうち、水に対する溶解性の観点からは無機酸塩、有機酸塩が好ましく、より具体的には硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩酸塩等が好ましい。場合によってはコロイド状の酸化物、あるいは微粉末状の酸化物を用いてもよい。遷移金属原料としては、金属種、或いは化合物種の異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0045】
8員環ゼオライトに遷移金属を担持させた後は、好ましくは300~900℃、より好ましくは350~850℃、さらに好ましくは400~800℃で、1秒~24時間、好ましくは10秒~8時間、さらに好ましくは30分~4時間程度焼成することが好ましい。この焼成は必ずしも必要ではないが、焼成を行うことにより、ゼオライトの骨格構造に担持させた遷移金属の分散性を高めることができ、触媒活性の向上に有効である。
【0046】
[排ガス浄化用触媒]
本発明のゼオライト粉体の用途としては特に制限はないが、触媒活性、触媒活性維持率に優れることから、自動車等の排ガス浄化処理用触媒、特にディーゼルエンジン自動車排気ガスのSCR触媒として好適に用いられる。
【0047】
本発明のゼオライト粉体を排ガス浄化用触媒として用いる場合、本発明のゼオライト粉体はそのまま粉末状で用いてもよく、また、シリカ、アルミナ、粘土鉱物等のバインダーと混合し、造粒や成形を行って使用することもできる。また、塗布法や、成形法を用いて所定の形状に成形して用いることもでき、好ましくはハニカム状に成形して用いることができる。
【0048】
本発明のゼオライト粉体を含む触媒の成形体を塗布法によって得る場合、通常、ゼオライト粉体とシリカ、アルミナ等の無機バインダーとを混合し、スラリーを作製し、コージェライト等の無機物で作製された成形体の表面に塗布し、焼成することにより作成され、好ましくはこの際にハニカム形状の成形体に塗布することによりハニカム状の触媒を得ることができる。
【0049】
本発明のゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒の成形体を成形する場合、通常、ゼオライト粉体をシリカ、アルミナ等の無機バインダーやアルミナ繊維、ガラス繊維等の無機繊維と混練し、押出法や圧縮法等の成形を行い、引き続き焼成を行うことにより作成され、好ましくはこの際にハニカム形状に成形することによりハニカム状の触媒を得ることができる。
【0050】
本発明のゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒は、窒素酸化物を含む排ガスを接触させて窒素酸化物を浄化するSCR触媒として有効である。該排ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよく、例えば炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物、水が含まれていてもよい。また、炭化水素、アンモニア、尿素等の窒素含有化合物等の公知の還元剤を使用してもよい。具体的には、本発明のゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒により、ディーゼル自動車、ガソリン自動車、定置発電・船舶・農業機械・建設機械・二輪車・航空機用の各種ディーゼルエンジン、ボイラー、ガスタービン等から排出される多種多様の排ガスに含まれる窒素酸化物を浄化することができる。
【0051】
本発明のゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒を使用する際の、触媒と排ガスの接触条件としては特に限定されるものではないが、排ガスの空間速度は通常100/h以上、好ましくは1000/h以上であり、通常500000/h以下、好ましくは100000/h以下であり、温度は通常100℃以上、好ましくは150℃以上、通常700℃以下、好ましくは500℃以下で用いられる。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
以下の実施例及び比較例において得られたゼオライト又はCu担持AFX型ゼオライト触媒の分析及び性能評価は以下の方法により行った。
【0054】
<ゼオライトの構造解析>
ゼオライト構造は、X線回折法(X-ray diffraction、以下 XRD)により決定した。なお、各ゼオライト構造のXRDパターンは、IZAのホームページにてデータ化されたものを参照した。(ただし、実際に作製されたゼオライトを測定する場合には、ゼオライトの成長方向や、構成する元素の比、吸着した物質、欠陥の存在、乾燥状態などの影響を受け、各ピークの強度比やピーク位置に若干のずれを生じるため、IZAの規定に記載された構造の各パラメーターと全く同じ数値が得られるわけではなく、10%程度の幅は許容される。
AFX構造のゼオライトの主だったピークとしては、例えば、CuKα線を用いた場合、2θ=7.4°±0.2°に100面のピーク、2θ=8.6°±0.2°に101面のピーク、2θ=11.5°±0.2°に102面のピーク、2θ=12.8°±0.2°に110面のピーク、2θ=17.7°±0.2°に004面のピーク、2θ=25.9°±0.2°に220面のピークなどが挙げられる。)
【0055】
(試料の調製)
めのう乳鉢を用いて人力で粉砕したゼオライト試料約100mgを同一形状のサンプルホルダーに充填し、試料量が一定となるようにした。
【0056】
(装置仕様及び測定条件)
粉末XRD測定装置仕様及び測定条件は以下の通りである。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
<ゼオライト粉体の全体Si/Al比と遷移金属(Cu)担持量>
標準試料であるゼオライト粉体中の全体Si/Al比、担持された遷移金属(Cu)の担持量の分析は以下の通りとした。
ゼオライト試料を塩酸水溶液で加熱溶解させた後、ICP分析によりケイ素原子及び、アルミニウム原子の含有量(質量%)と遷移金属(Cu)原子の担持量(質量%)を求めた。そして、標準試料中の分析元素の蛍光X線強度と分析元素の原子濃度との検量線を作成した。この検量線により、蛍光X線分析法(XRF)でゼオライト試料中のケイ素原子及びアルミニウム原子の含有量(質量%)と遷移金属(Cu)原子の含有量(質量%)を求めた。ICP分析は、株式会社堀場製作所製ULTIMA 2Cを用いて行った。XRFは、株式会社島津製作所製EDX-700を用いて行った。
【0060】
<ゼオライト骨格中のSi/Al量の測定>
本発明の製造方法により得られたゼオライト粉体の、ゼオライト骨格中に存在するSi/Al比を算出するためには、固体29Si-DD/MAS-NMR及び固体29Si-CP/MAS-NMRによる分析により測定した。
なお、固体29Si-DD/MAS-NMRスペクトルのピークの帰属については、ピークトップが-110ppm付近のピークをQ4(0Al)、-105ppmのピークをQ4(1Al)、-100ppmのピークをQ4(2Al)として波形分離を行い、Si/Al比を算出した。その際、固体29Si-CP/MAS-NMRにおいて、Q3ピークを示したサンプルは、Q3を含めて波形分離を行い、Si/Al比を算出した。
具体的な計算式としては、以下のとおりである。ここで、AQ4(nAl)はスペクトルにおけるQ4(nAl)のピーク面積比である。
Si/Al=ΣAQ4(nAl)/Σ0.25n・AQ4(nAl) (n=0~4)
【0061】
なお、固体29Si-DD/MAS-NMR及び固体29Si-CP/MAS-NMRの測定条件及び波形分離は下記の通りとした。
【0062】
(固体29Si-CP/MAS-NMR測定条件)
装置:Varian社製Varian NMR Systems 400WB
プローブ:7.5mm HX CP/MAS用プローブ
観測核:29Si
測定法:VACP(Variable Amplitude Cross Polarization)法
29Si共鳴周波数:79.43MHz
H共鳴周波数:399.84MHz
29Si90°パルス幅:5μs
Hデカップリング周波数:50kHz
MAS回転数:5kHz
待ち時間:3s
スペクトル幅:30.5kHz
測定温度:室温
積算回数:3600回
【0063】
(固体29Si-DD/MAS-NMRの測定条件)
装置:Varian社製Varian NMR Systems 400WB
プローブ:7.5mmHX CP/MAS用プローブ
観測核:29Si
測定法:DD(Dipolar Decoupling)/MAS(Magic Angle Spinning)法
29Si共鳴周波数:79.43MHz
H共鳴周波数:399.84MHz
29Si90°パルス幅:5μs
Hデカップリング周波数:50kHz
MAS回転数:5kHz
待ち時間:600s
スペクトル幅:30.5kHz
測定温度:室温
積算回数:16回
【0064】
(波形分離解析)
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ローレンツ波形とガウス波形の混合波形により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメーターとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行なった。
【0065】
<初期触媒活性の評価>
調製したゼオライト粉体をプレス成形後、破砕して篩を通し、0.6~1.0mmに整粒した。整粒したゼオライト粉体1mlを常圧固定床流通式反応管に充填し、触媒層とした。触媒層に下記表3の組成のガスを空間速度SV=200000/hで流通させながら、触媒層を加熱した。
200℃において、出口NO濃度が一定となったとき、
NO浄化率(%)
={(入口NO濃度)-(出口NO濃度)}/(入口NO濃度)×100
の値によって、触媒試料の窒素酸化物除去活性を評価した。
【0066】
【表3】
【0067】
<触媒活性維持率の評価>
調製した触媒試料に、以下の水蒸気処理による高温水蒸気耐久試験を行った後に、プレス成形・破砕して篩を通し、0.6~1.0mmに整粒した。高温水蒸気耐久性試験を行った触媒試料について上記と同様に触媒活性の評価を行った。
(水蒸気処理)
触媒試料の充填層に、800℃、10体積%の水蒸気を空間速度SV=3000/hで5時間通じた。
【0068】
[実施例1]
三角フラスコ中で、80.0gのN、N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンヨウ化物(関東化学製)と、500gの水と、イオン交換樹脂として400gのSA10A OH型(三菱ケミカル製)を混合した。
この混合液を室温で48時間撹拌した(イオン交換)。これを濾過し、濾液に対しエバポレータを用いて水溶液で238.5gになるまで減圧濃縮することで、N、N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン水酸化物の水溶液を得た。0.01M塩酸水溶液で滴定した結果、濃度は0.575mmol/g、イオン交換率95.7%であった。
【0069】
27.0gの水と、有機構造規定剤(SDA)として、1.7gのN、N’-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン水酸化物と、アルカリ金属水酸化物として、0.76gのNaOH(和光純薬製 試薬特級)を混合して撹拌し、溶解させて透明溶液とした。
【0070】
この溶液に、Al源及びSi源として、Y型ゼオライト(CBV760 Si/Alモル比=30、Zeolyst)3.0gを加えて反応前混合物を得た。最終的な混合物の割合はSiO:Al:NaOH:SDA:HO=1:0.33:0.38:0.1:30(モル比)であった。
【0071】
この反応前混合物をフッ素樹脂内筒の入った200mlのステンレス製オートクレーブに仕込み、静置した状態にて170℃で24時間反応させた(水熱合成)。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した後、得られたゼオライト粉体のXRDを測定したところ、格子面間隔表示で、表4に示すような位置にピーク及び相対強度を有するXRDパターンを示すAFX型のゼオライト1が合成できたことを確認した。このゼオライト1を含むゼオライト粉体1のXRDパターンを図1に示す。XRF分析による全体Si/Al比は6.5であった。
【0072】
【表4】
【0073】
ゼオライト粉体1中の有機物を除去するために、上記のゼオライト粉体1を600℃の空気気流下で6時間焼成した。
次に焼成したゼオライト粉体1中のNaイオンを除去するために、1Mの硝酸アンモニウム水溶液に分散させ、80℃で撹拌し、2時間イオン交換を行った。
濾過によりゼオライトを回収し、イオン交換水での洗浄を3回行った。その後、前記のイオン交換と洗浄を更に繰り返し1回行った。
得られたゼオライト粉を100℃で12時間乾燥して、NH型のゼオライトを含む粉体を得た。
得られたNH型のゼオライトを含むゼオライト粉体を500℃の空気気流下で2時間焼成しH型のゼオライト粉体1Aを得た。
【0074】
1.2gの酢酸銅(II)(1水和物)(キシダ化学製)を36.0gの水に溶解して、酢酸銅水溶液を得た。上記ゼオライト粉体1Aをこの酢酸銅(II)水溶液中に分散させ、50℃で2時間イオン交換を行った。濾過によりゼオライト(ゼオライト1B)を回収し、イオン交換水での洗浄を3回行った。
得られたゼオライト粉体1Bを100℃で12時間乾燥した後、空気中にて500℃で2時間焼成することにより、Cu担持AFX型ゼオライト触媒1を得た。
XRF分析による触媒1のCuの担持量は4.1質量%であった。なお、XRF分析による全体Si/Al比は6.5であった。固体29Si-DD/MAS-NMRおよび固体29Si-CP/MAS-NMR測定結果の波形分離から算出した骨格Si/Al比は6.1であった。
【0075】
[比較例1]
18.0gの水と、実施例1で用いた有機構造規定剤と、アルカリ金属水酸化物として、0.20gのNaOH(和光純薬製 試薬特級)を混合して撹拌し、溶解させて透明溶液とした。
この溶液に、Al源及びSi源として、Y型ゼオライト(HSZ-350HUA、Si/Alモル比=10、東ソー)3.51gを加えて反応前混合物を得た。最終的な混合物の割合はSiO:Al:NaOH:SDA:HO=1:0.1:0.1:0.1:20(モル比)であった。
【0076】
この反応前混合物を耐圧容器に入れ、160℃のオーブン中で静置させた状態で、10日間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した後、得られたゼオライト粉のXRDを測定したところ、格子面間隔表示で、表5に示すような位置にピーク及び相対強度を有するXRDパターンを示すAFX型のゼオライト2が合成できたことを確認した。このゼオライト2を含むゼオライト粉体2のXRDパターンを図1に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
ゼオライト粉体1の代りにゼオライト粉体2を用いた以外は、実施例1と同様にイオン交換、Cuの担持を行って、同様にCu担持量4.0質量%のCu担持AFX型ゼオライトを含む触媒2を得た。なお、XRF分析による全体Si/Al比は5.3であった。固体29Si-DD/MAS-NMRおよび固体29Si-CP/MAS-NMR測定結果の波形分離から算出した骨格Si/Al比は9.5であった。
【0079】
[比較例2]
22.5gの水と、有機構造規定剤(SDA)として、Sachem社製1,1’-(1,4-butanydiyl)bis-4-aza-1-azoniabicyclo[2.2.2]octane水酸化物の20%水溶液7.84gと、アルカリ金属水酸化物として、0.22gのNaOH(和光純薬製 試薬特級)と、キシダ化学製けい酸ナトリウム3号を8.60g混合して撹拌した。
この溶液に、Al源及びSi源として、Y型ゼオライト(CBY100、Si/Alモル比=5.1、Zeolyst)0.78gを加えて反応前混合物を得た。最終的な混合物の割合はSiO:Al:NaOH:SDA:HO=1:0.33:0.7:0.1:25(モル比)であった。
【0080】
この反応前混合物を耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中で静置させた状態で、6日間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した後、得られたゼオライト粉のXRDを測定したところ、格子面間隔表示で、表6に示すような位置にピーク及び相対強度を有するXRDパターンを示すAFX型のゼオライト3が合成できたことを確認した。このゼオライト粉体3のXRDパターンを図1に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
ゼオライト粉体1の代りにゼオライト粉体3を用いた以外は、実施例1と同様にイオン交換、Cuの担持を行って、同様にCu担持量3.8質量%のCu担持AFX型ゼオライトを含む触媒3を得た。XRF分析による全体Si/Alモル比は4.0であった。固体29Si-DD/MAS-NMRおよび固体29Si-CP/MAS-NMR測定結果の波形分離から算出した骨格Si/Al比は7.1であった。
【0083】
実施例1及び比較例1,2で得られたCu担持AFX型ゼオライト触媒1~3の分析結果と初期触媒活性及び触媒活性維持率の評価結果を表7に示す。また、実施例1、比較例1及び2により得られたゼオライト粉体のAl比を、全体Si/Al比の値及び骨格Si/Al比の値から算出した。得られた結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
表7より分かるように、ゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量のモル比は1.06であった。当該モル比が1を超えた結果となったのは、当該測定法により算出したモル比は最大10%程度の誤差が生じた結果であると思われる。一方、比較例1及び比較例2に係るゼオライト粉体のゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量のモル比の結果も最大10%程度の誤差を含む可能性があるが、誤差を考慮しても本発明に規定されるように、比較例においてはAl比は最大でも0.7未満であり、高い触媒活性及び高い活性維持率を得られていない。以上の結果から、本発明に係るゼオライト粉体を用いることで、排ガス処理において高い触媒活性及び高い活性維持率を達成することができることが分かる。
図1