(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】溶液の混合方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/38 20060101AFI20220621BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
G01N1/38
G01N35/02 D
(21)【出願番号】P 2018098438
(22)【出願日】2018-05-23
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2017222065
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】二宮 秀治
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-241066(JP,A)
【文献】特開平03-041363(JP,A)
【文献】特開平08-224453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引によって長尺な配管内へ溶液を配した後に、前記配管内から溶液を吐出することにより溶液の濃度を均一化する溶液の混合方法であって、
前記配管は、長手方向の途中に混合部を少なくとも1以上有し、かつ、前記配管の一端に設けられた吸引口の側を末端、前記配管のもう一端の側を基端としたとき、前記混合部は、前記混合部と連通する末端側の配管の内径r1とも、前記混合部と連通する基端側の配管の内径r2とも異なる内径Rを有し、
前記吸引口からの吸引によって、複数種類の液体からなり濃度が不均一な溶液を
容器内から前記基端側の配管内に到達させる際、吸引される液量は
前記容器内の溶
液の体積の50%以上とする吸引工程と、
前記吸引工程後、前記溶液を前記吸引口から吐出する吐出工程と、
を有
し、
前記混合部の内径Rが、前記末端側の配管の内径r1の2倍以上、かつ、前記基端側の配管の内径r2の2倍以上であり、
前記混合部の内部における長手方向の長さが、前記末端側の配管の内径r1の4倍以上、かつ、前記基端側の配管の内径r2の4倍以上であり、
前記混合部の内部空間の体積は、前記溶液の体積の20%以下であり、
前記吐出工程後の溶液に対して再び前記吸引工程および前記吐出工程を行い、
末端側から基端側に向かって長手方向に見た時に、前記末端側の配管の内径r1が一定であり、且つ、前記混合部の内径Rが一定であり、且つ、前記基端側の配管の内径r2が一定である、溶液の混合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の混合方法に属する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、試料中の元素濃度を高精度に定量分析する場合には、ICP発光分光分析法や原子吸光光度法、ICP質量分析法を用いる場合が多い。これらの分析法を用いるには、その試料の形態を液体とすることが必要である。固体試料なら、酸やアルカリを用いて分解あるいは溶解して液体とする。液体となった試料溶液は、前述の分析法に供するが、定量的な測定を行うためには、最適な濃度範囲があるため、高濃度の場合には希釈する必要がある。
【0003】
従来、試料の希釈作業は、手作業で行われている。正確であるが、1本ずつ手作業で行う必要があるため、人手がかかるため効率化が課題となっている。近年、シリンジポンプの性能が向上したことにより自動希釈装置が普及し、希釈作業の効率化に寄与している。自動希釈装置では、試料溶液、酸等の薬剤、水等の溶媒を一定量吸引し、同じ容器に吐出することにより、希釈液を調製している。
【0004】
液体を混合する方法として、例えば特許文献1では、吸引プローブに2つの内部区間を設け、吸引開口に近接する第1の内部区間と、第1の内部区間の末端に位置して第1の内部区間の直径よりも大きな直径を有する第2の内部区間とを吸引プローブに設けることが記載されている(特許文献1の[要約])。そして、複数種類の液体を第1の内部区間に吸引後、全ての液体を吸引によって第2の内部区間に移動させたうえで、第2の内部区間内にて撹拌を行うことが記載されている(特許文献1の
図1~4、[0017]~[0025])。
【0005】
特許文献2では、容器からの吸引高さと容器への吐出高さを変え、吐出による撹拌作用を利用して混合している。この方法では尿中の血球や細胞など有形物の破損を考慮した混合方法であることが記載されている。
【0006】
特許文献3では、所定の場所に液体を入れ、吸引ノズルを液中に入れたまま吸引と吐出を繰り返して混合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-62437号公報
【文献】特開平5-40123号公報
【文献】特開2008-241508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が得た知見によれば、上記の従来技術においては、撹拌力に改善の余地がある。種類が異なる2以上の液体を混合して一つの溶液を調製する際に、両液体の密度差は大きいことが多い。例えば、塩酸溶液と水やアルカリ塩溶液と水などの水系溶液同士、エタノールと水などの水系溶液と水可溶性有機系溶液、エタノールとクロロホルムなどの有機系溶液同士などの組み合わせが例示される。
【0009】
密度差が大きい液体を上記の従来技術にて混合すると、溶液中の均一化が十分ではなく、各々の液体の濃度に偏りが生じることもあるという知見が得られた。なお、特許文献1の記載の技術では第2の内部区間に溶液を5~20回上下させることにより溶液の撹拌が行われるが(特許文献1の[0027])、その上下運動をわざわざ行う必要があり、作業の効率化が求められる。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑み、混合対象となる複数の液体の種類問わずに溶液の濃度を効率的に均一化する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の知見に基づき、上記課題を解決するための手段を検討した。その結果、配管内にて内径を変化させた部分である混合部を設けたうえで、配管内に配された複数種類の液体からなり濃度が不均一な溶液がこの混合部を越えるくらいに吸引を行い、その後吐出を行うことで、配管内において、溶液の流れに変化をもたらす(例えば乱流を発生させる)ことにより、優れた撹拌力を効果的に発現させるという手法を本発明者は想到した。
【0012】
上記の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
吸引によって長尺な配管内へ溶液を配した後に、前記配管内から溶液を吐出することにより溶液の濃度を均一化する溶液の混合方法であって、
前記配管は、長手方向の途中に混合部を少なくとも1以上有し、かつ、前記配管の一端に設けられた吸引口の側を末端、前記配管のもう一端の側を基端としたとき、前記混合部は、前記混合部と連通する末端側の配管の内径r1とも、前記混合部と連通する基端側の配管の内径r2とも異なる内径Rを有し、
前記吸引口からの吸引によって、複数種類の液体からなり濃度が不均一な溶液を前記基端側の配管内に到達させる際、吸引される液量は溶液全部の体積の50%以上とする吸引工程と、
前記吸引工程後、前記溶液を前記吸引口から吐出する吐出工程と、
を有する、溶液の混合方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記混合部の内径Rが、前記末端側の配管の内径r1の2倍以上、かつ、前記基端側の配管の内径r2の2倍以上である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、
前記混合部の内部における長手方向の長さが、前記末端側の配管の内径r1の4倍以上、かつ、前記基端側の配管の内径r2の4倍以上である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれかに記載の発明において、
前記混合部の内部空間の体積は、溶液全部の体積の20%以下である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれかに記載の発明において、
前記吐出工程後の溶液に対して再び前記吸引工程および前記吐出工程を行う。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、混合対象となる複数の液体の種類問わずに溶液の濃度を効率的に均一化する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】本実施形態の配管を使用する様子を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0020】
まず、本実施形態を実施するための器具について説明する。本実施形態において使用する器具は長尺な配管であり、吸引によって長尺な配管内へ溶液を配した後に、配管内から溶液を吐出することにより溶液の濃度を均一化するという機能を奏するものである。この機能を奏するのならば、上記配管以外の構成には特に限定は無く、液体の混合および撹拌に使用される構成を適宜採用しても構わない。例えば器具の材質については混合対象となる溶液の種類に応じて決定すればよい。材質の具体例は後述する。
以下、あくまで一つの具体例を記載する。
【0021】
本実施形態における配管は、長手方向の途中に処理部としての混合部を有し、かつ、配管の一端に設けられた吸引口の側を末端、配管のもう一端の側を基端としたとき、混合部は、混合部と連通する末端側の配管の内径r1とも、混合部と連通する基端側の配管の内径r2とも異なる内径Rを有する。この配管の概略斜視図が
図1であり、この配管の概略断面図が
図2である。図中の符合1は配管、符号2は末端側の配管、符号21は吸引口、符号3は混合部、符号4は基端側の配管を示す。以降、説明の便宜上、文章中での符号は省略する。
【0022】
上記の通り、配管の末端は開口しており、この開口が吸引口となる。そして配管の別の一端すなわち基端も同様に開口しており、この開口においてシリンジポンプ等の吸引ポンプ(不図示)と配管が接続され、吸引の際には該吸引ポンプを使用する。
【0023】
そして、配管の長手方向の途中に混合部が設けられている。混合部の位置としては配管の長手方向の途中であれば特に限定は無いが、
図1においては中央部分に位置している。
【0024】
混合部は、末端側においても基端側においても配管と連通している。そして、混合部と連通する末端側の配管の内径r1とも、混合部と連通する基端側の配管の内径r2とも異なる内径Rが混合部に設定されている(条件1)。このとき、内径Rは混合部における内部の最大径を指す。
【0025】
このように内径を設定した理由としては、以下の通りである。
後述の吸引工程により、複数種類の液体からなり濃度が不均一な溶液を基端側の配管内に到達させ、且つ、後述の吐出工程により溶液を吸引口から吐出することにより、
図2の実線矢印に示すように、配管内において、溶液の流れに変化をもたらす。この流れの変化は、吸引工程および吐出工程において、溶液が、内径が異なる部分を往復することにより乱流等が発生してもたらされるものと推察される。これにより、優れた撹拌力を効果的に発現させることが可能となる。
【0026】
なお、末端側の配管と混合部との連通部分においては、長手方向に見た時に、内径が不連続に変化している。例えば、末端側の配管だと、末端側から基端側に向かって長手方向に見た時に、内径r1が略一定である一方、混合部との連通部分以降すなわち混合部においては急激に(すなわち不連続的に)内径が変化する。更に、末端側から基端側に向かって長手方向に見た時に、混合部においては内径Rが略一定である一方、基端側の配管との連通部分においては急激に(すなわち不連続的に)内径が変化し、以降の基端側の配管においては略一定の内径r2を有する。なお、r1とr2は、上記の(条件1)を満たすのならば任意の値でよく、
図1、2に示すようにr1=r2としてもよい。
【0027】
本実施形態における混合部は、両端の配管の内径から急激に(すなわち不連続的に)内径が変化した部分である。混合部の内径は、
図2に示すように、両端の配管の内径に比べ、大きくなっているのが好ましい。なお、混合部の内部に、例えば羽根、邪魔板、突起により形成され凸部、またはビーズ等の小球を設け、混合部の内部での流れの変化(例えば乱流等)を生じさせてもよい。
【0028】
両端の配管の内径に比べて混合部の内径を大きくする理由としては、混合部内にて複数種類の液体の混合ないし撹拌を促進するためである。一具体例を挙げると、配管内の複数種類の液体すなわち溶液の流速は、末端側の配管から混合部内に溶液が侵入した際に急激に低下し、その後、溶液が混合部から基端側の配管内へと到達すると上昇する。溶液は、混合部と配管との連通部分を連続的に通過するため、液体の流速差が生じ、流れの変化(例えば乱流等)を生じさせることになる。この流れの変化が混合を促進する撹拌力を生み、さらには吸引および吐出という計2回、混合部に対して溶液を往復して通過させることにより、より効果的な混合をもたらすことが可能となる。
【0029】
なお、混合部と両端の配管の連通部分は、
図1、2に示すように断面視で段差状に設定してもよいし、テーパーをつけて不連続ではあるが内径の変化度合いを多少緩くしても構わない。それに伴い、混合部の空間の形状を楕円球状にしても構わないし、
図1、2に示すように円柱状にしても構わず、空間の形状は任意でよい。
【0030】
流速差を利用した混合を効果的に生じさせるためには、混合部の内径Rは、末端側の配管の内径r1の2倍以上、かつ、基端側の配管の内径r2の2倍以上であるのが好ましい。こうすることにより、混合する際の撹拌力を十分に発揮可能な流速差を確保することが可能となる。
【0031】
また、流速差を利用した混合を効果的に生じさせるためには、混合部の内部における長手方向の長さLが、末端側の配管の内径r1の4倍以上、かつ、基端側の配管の内径r2の4倍以上であるのが好ましい。こうすることにより、流速差による圧力を受け止めることが可能な空間を混合部によって確保することが可能となり、混合する際の撹拌力を十分に発揮可能となる。
【0032】
その一方で、混合部の内部空間の体積は、溶液全部の体積の20%以下であるのが好ましい。こうすることにより、確実に混合部に溶液を満たすことが可能となる。先ほども述べたように、本発明は、配管内の内径が異なる部分を往復することにより溶液に対して乱流等を発生させることにより、優れた撹拌力を効果的に発現させている。溶液の流れに変化を効果的にもたらすためには、配管内、特に混合部が溶液で満たされていることが好ましい。そのため、混合部の内部空間の体積を、溶液全部の体積に比べて意図的に小さくするのも好ましい。そうすることにより、配管を使用後に洗浄するスペースを少なくすることができ、次の測定の際に異物混入の機会を少なくすることが可能となる。
【0033】
但し、混合部の内部空間の体積を大きくした場合であっても、混合部の基端側の配管内にまで溶液を到達させるくらいの吸引を行うことにより、配管内の内径が異なる部分を往復させられるため、本発明の効果は奏する。
【0034】
混合部は、配管の一部分であって他の部分と比べて内径を異ならせた部分であってもよい。なお、配管の長手方向の途中に、別部材としての混合部を設けることを妨げないが、その場合であっても内径についての上記の(条件1)を満たす必要がある。
【0035】
上記の配管を用い、本実施形態に係る溶液の混合方法を行う。本方法においては大きく分けて主に以下の2つの工程を有する。
・吸引口からの吸引によって、複数種類の液体からなり濃度が不均一な溶液を基端側の配管内に到達させる際、吸引される液量は溶液全部の体積の50%以上とする吸引工程
・吸引工程後、溶液を吸引口から吐出する吐出工程
【0036】
ここで、混合対象となる複数種類の液体としては特に限定は無い。例えば、本発明の課題の欄にて述べたように、塩酸溶液と水やアルカリ塩溶液と水などの水系溶液同士、エタノールと水などの水系溶液と水可溶性有機系溶液、エタノールとクロロホルムなどの有機系溶液同士などの組み合わせが例示される。以下、水系溶液同士を主として例示するが、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0037】
水系溶液同士のうち、例えば塩酸溶液といった酸溶液と水という異なる液体を混合して一つの溶液を調製する際に、両液体の密度差は大きいことが多く、一つの溶液内において酸濃度の偏りが生じることもある。ところが、本実施形態に係る溶液の混合方法ならば、配管内の内径が異なる部分を往復することにより溶液に対して乱流等を発生させることにより、優れた撹拌力を効果的に発現させることが可能となる。しかも、作業としては吸引・吐出を行えば済み、作業の効率化が図れる。そのため、少なくとも酸溶液と水を含む複数種類の液体を混合対象とすると、本発明の効果が更に際立つ。なお、複数種類の液体間での最大の密度差が相対で10%以上である溶液を混合する際に、本実施形態の手法は非常に効果的である。
【0038】
また、酸溶液と水以外の他の種類の液体も混合対象としてもよく、水と、互いに異なる2種以上の液体とを混合対象としてもよい。
【0039】
ところで、酸溶液と水とを混合する場合、水は希釈液という立場になる。複数種類の液体のうちの一つが希釈液(例えば水)であり、別の一つが被希釈液(例えば酸溶液)である場合、希釈倍率が2.5倍のときに調製された被希釈液中の元素濃度が計算濃度からの偏りとして相対で1%以下となる程度に濃度を均一化するのが好ましい。ここで示す元素濃度には化学分析における分析元素が含まれる。例えば本実施形態を用いない後述の比較例1では40.5mg/Lとなっており、偏りが相対で1%を超える(±0.4mg/L超の)誤差を生み出している。その一方、実施例だと希釈倍率が2.5倍のときに理論上の計算濃度が40mg/Lのところ測定濃度は40.1mg/Lとなっている。そのため、本実施形態においては、計算濃度からの偏りが相対で1%以下となるまで濃度を均一化するのが好ましい。
【0040】
次に、吸引工程前の準備として、
図3に示すように、上記配管および溶液が入った容器を配置する。
図3は、本実施形態の配管を使用する様子を示す概略斜視図である。本実施形態においては、配管の吸引口を天地の地の方向に向け、配管を天地方向に沿って配置する。そして容器内の溶液に、配管の吸引口を接触させる。
【0041】
なお、本実施形態においては配管を天地方向に沿って配置したがそれには限定されない。例えば溶液と接触する部分(配管の最末端)のみが天地方向に沿った配管である一方で、それ以外の部分は水平方向に沿った配管を使用しても構わない。つまり、配管の最末端から基端に向かって見た時に90度屈曲した配管を用いても構わない。そのとき、水平方向に沿った部分の配管は、
図1を90度傾けた状態となる。
【0042】
その際、配管内の気泡抜きのために、末端側の配管、混合部、基端側の配管を水平方向から30度以上傾けて配置しても良い。また、混合部と両端の配管の連通部分にテーパーをつけておけば、溶液が混合部を満たす際に気泡を上方の基端側の配管から除去しやすくなり、好ましい。
【0043】
吸引工程において、混合対象となる複数種類の液体を種類ごとに順次配管内に吸引しても構わないし、後述の実施例のように予め複数種類の液体を混合して得た溶液を配管内に吸引しても構わない。順次配管内に吸引する場合であっても、最後の液体を吸引口から吸引する際には、配管内にて各液体が一つとなった溶液を、基端側の配管内に到達するまで吸引する必要がある。好ましくは、溶液が基端側の配管内に到達するまで容器から溶液を吸引し続ける。これにより、混合部が溶液で確実に満たされ、流れの変化を生じさせやすくなる。
【0044】
その際、吸引される液量は溶液全部の体積の50%以上とする。溶液全部の体積の50%以上を吸引工程により吸引し、以下の吐出工程にて吸引口から吐出することにより、濃度の均一化が図れる。例えば後述の実施例のように、予め複数種類の液体を混合して得た溶液全部の体積の50%以上を吸引工程により吸引して基端側の配管内に到達させ、その後、吸引された溶液を吐出すれば、上述の通り混合部によって効果的な混合をもたらすことが可能となり、しかも、吸引された溶液を吸引残りの溶液に対して吐出することにより、結果として溶液全体の濃度の均一化を効率的に行える。また、複数種類の液体を種類ごとに順次配管内に吸引する場合は、最後に吸引する液体の吸引残りに対し、それまで吸引していた複数種類の液体を吐出することにより、溶液全体の濃度の均一化を効率的に行える。
【0045】
先に述べた吸引ポンプによって吸引工程を行い、その後、上記吸引工程にて基端側の配管内に到達した溶液を吸引口から吐出する吐出工程を行う。この吐出工程は、吸引ポンプによって負圧となった状態を解除することにより実現可能である。
【0046】
吸引工程および吐出工程により、溶液が、内径が異なる部分を往復することにより乱流等が発生してもたらされ、優れた撹拌力を効果的に発現させることが可能となる。
【0047】
上記の吸引工程および吐出工程を経ることにより濃度が均一化された溶液を得ることができるが、好ましくは、吐出工程後の溶液に対して再び吸引工程および吐出工程を行う。こうすることにより、さらなる濃度の均一化を図ることが可能となる。
【0048】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0049】
例えば本実施形態における末端側の配管、混合部、基端側の配管の材質としては特に限定は無いが、溶液の種類に応じて以下の材質を選択してもよい。
<酸を含む水系溶液>
ガラス、ふっ素樹脂、シリコン樹脂、塩ビ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メチルペンテン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂
<アルカリを含む水系溶液>
SUS、クロロプレンゴム、シリコン樹脂、塩ビ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メチルペンテン樹脂、アクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂
<水と水可溶性有機系溶液>
SUS(アルカリ~中性)、ガラス、シリコン樹脂、ナイロン樹脂、ふっ素樹脂、ポリ エーテルエーテルケトン樹脂
<有機系溶液>
金属、SUS、ガラス、ふっ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂
【0050】
例えば、本実施形態における複数種類の液体からなり濃度が不均一な溶液は、測定用の試料であってもよいし、それ以外の用途に供されるものであってもよい。
【0051】
また、本実施形態においては溶液の混合方法としての例を掲載したが、上記の配管を使用し、上記の吸引工程と吐出工程とを行い、濃度が均一化された溶液を調製(作製)する方法としても本発明の技術的思想を適用可能である。
【0052】
また、本実施形態に係る溶液の混合方法を、各特許文献に記載のように自動化しても構わない。本実施形態は、上記のように内径が他とは異なる混合部を有する配管を用いて吸引および吐出を行うことにより実施可能であり、作業の自動化の妨げとなるものは無く、作業を自動化することが可能である。
【0053】
また、本実施形態においては末端側の配管、混合部、基端側の配管が1セットである場合について述べたが、さらに多く(2以上の)の上記セットを設けても構わない。例えば、末端側の配管、混合部、基端側の配管、さらにこの基端側の配管に連通する別の混合部、そして該混合部と連通する別の基端側の配管を有する構成を採用しても構わない。
【実施例】
【0054】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、用いた装置、配管、試薬類は本発明の効果を示すために用いたものであり、本発明の技術的範囲がそれに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
硝酸ランタン(La:100mg/L)を水に溶解した液体試料を、GILSON社製GX271型自動希釈装置により、2.5倍~20倍に希釈した。上記液体試料以外の液体としては、和光純薬製64%硫酸を20容積%とし、残りを水とした。この希釈は、硫酸、液体試料、水の順に、ポリプロピレン製10ml試験管に添加し、溶液全部の体積量を10mlとすることにより行った。なお、希釈倍率を2.5倍、5倍、10倍の各々の場合について試験を行った。本明細書においては容積%は体積%と同義とみなす。
【0056】
その後、試験管内の溶液の濃度を均一化すべく、溶液の50容積%を配管にて吸引し、その後、吐出する操作を1回行った。
【0057】
なお、添加および吸引、吐出に用いた配管としては、両端が開口したPFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)製の内径2mm、長手方向の長さ200mmおよび3000mmの2つの配管を用意した。そして2つの配管に挟まれる形で、同じくPFA製の内径4mm、長手方向の長さ8mmの空間(混合部)を別部材として設けた。なお、混合部の内部空間の体積は、溶液全部の体積の20%以下とした。そして、吸引ポンプを基端側の配管の一端に取り付け、末端側の配管の一端を吸引口とし、溶液を吸引した。
【0058】
上記の吸引・吐出を経たあとの溶液に対し、ICP発光分光分析法(アジレントテクノロジー社製5100型)によってLaの濃度測定を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
[比較例1]
比較例1として、実施例1の条件の内、上記の混合部が無い配管によって、溶液の90容積%を吸引および吐出による混合を実施した。それ以外は実施例1と同様とする。結果を表2に示す。
【表2】
【0060】
[比較例2]
比較例2として、実施例1の条件の内、吸引および吐出を行わなかった。すなわち、硫酸、液体試料、水の順に、ポリプロピレン製10ml試験管に添加し、試験管を手動で数回撹拌した。結果を表3に示す。
【表3】
【0061】
[結果]
一般的に、希釈倍率が低いほど、被希釈体の占める割合が多くなるため、希釈混合の際の濃度の不均一さが際立ち、計算濃度に対する測定濃度の誤差が大きくなる傾向にある。それにもかかわらず実施例1だと、希釈倍率が2.5倍のときに計算濃度からの偏りが1%以下となるまで濃度を均一化することができていた。
【0062】
その一方、比較例1だと、希釈倍率が5倍、10倍のように比較的高い希釈倍率のときは良好な結果を示していたが、希釈倍率が2.5倍のときには計算濃度からの偏りが1%を超えていた。
【0063】
また、比較例2だと、測定濃度が計算濃度に比べて大きく相違していた。なお、希釈倍率が2.5倍のときに測定濃度が26.4mg/Lとなり小さい値となっているが、これはICP発光分光分析法(アジレントテクノロジー社製5100型)にて直接測定した部分すなわち溶液において光が照射された部分においてはLaがあまり存在していなかったためであり、濃度の偏在化が生じていることの証でもある。
【符号の説明】
【0064】
1…配管
2…末端側の配管
21…吸引口
3…混合部
4…基端側の配管