(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】造形装置、制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/386 20170101AFI20220621BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220621BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220621BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220621BHJP
B22F 10/00 20210101ALI20220621BHJP
B22F 12/00 20210101ALI20220621BHJP
【FI】
B29C64/386
B33Y30/00
B33Y50/02
B33Y10/00
B22F10/00
B22F12/00
(21)【出願番号】P 2018118660
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100110607
【氏名又は名称】間山 進也
(72)【発明者】
【氏名】山本 典弘
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215641(JP,A)
【文献】特開2016-175404(JP,A)
【文献】特開2018-001655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00、40/00、50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形物を造形する造形装置であって、
造形から所定時間経過後の造形層の平面形状を測定する測定手段と、
前記造形層を造形してから所定時間経過後における、当該造形層の形状の変位量を予測する予測手段と、
前記測定手段により測定された前記造形層の平面形状データと、前記予測手段により予測された変位量とに基づいて、前記造形層に続いて
前記造形層の上に続いて造形される第2の造形層の造形データを補正する補正手段と
を含む、造形装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記平面形状データと前記変位量とを比較することで求まる差分ベクトルを算出し、前記差分ベクトルに基づいて、造形層の造形データの補正量を算出することを特徴とする、請求項1に記載の造形装置。
【請求項3】
予測された変位量を格納する変位量記憶手段をさらに含み、
前記予測手段は、変位量をあらかじめ予測し、
前記変位量記憶手段は、所定のタイミングで前記変位量を出力することを特徴とする、請求項1または2に記載の造形装置。
【請求項4】
立体造形物を造形する造形装置であって、
造形層の平面形状を測定する測定手段と、
前記造形層を造形してから所定時間経過後における、当該造形層の形状の変位量を予測する予測手段と、
前記測定手段により測定された前記造形層の平面形状データと、前記予測手段により予測された変位量とに基づいて、前記造形層に続いて造形される造形層の造形データを補正する補正手段と、
第1の造形層の形状と、前記第1の造形層に続いて造形される第2の造形層の形状とを比較する比較手段とを含み、
前記比較手段が比較した結果、各造形層の形状の差分が所定の閾値よりも大きい場合には、前記補正手段は、前記第1の造形層の造形データを補正した補正量をクリアすることを特徴とする、造形装置。
【請求項5】
前記比較手段が比較した結果、各造形層の形状の相関値が所定の閾値よりも小さい場合には、前記補正手段は、前記第1の造形層の造形データを補正した補正量をクリアすることを特徴とする、請求項4に記載の造形装置。
【請求項6】
あらかじめ算出した補正量を記憶する補正量記憶手段をさらに含み、
前記補正手段は、前記比較手段が比較した結果に応じて、前記補正量記憶手段に格納される補正量に基づいて補正することを特徴とする、請求項4または5に記載の造形装置。
【請求項7】
立体造形物を造形する造形装置の動作を制御する制御装置であって、
造形層を造形してから所定時間経過後における、当該造形層の形状の変位量を予測する予測手段と、
造形から所定時間経過後の造形層の平面形状を測定する測定手段により測定された造形層の平面形状と、前記予測手段により予測された変位量とに基づいて、前記造形層の
上に続いて造形される造形層の造形データを補正する補正手段を含む、制御装置。
【請求項8】
立体造形物を造形する方法であって、
造形から所定時間経過後の造形層の平面形状を測定するステップと、
前記造形層を造形してから所定時間経過後における、当該造形層の形状の変位量を予測するステップと、
前記測定するステップにおいて測定された前記造形層の平面形状と、前記予測するステップにおいて予測された前記変位量とに基づいて、造形データを補正し、前記造形層の
上に続いて補正した造形データを使用して次の造形層を造形するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置、制御装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
入力されたデータに基づいて、立体造形物を造形する造形装置(いわゆる「3Dプリンタ」)が開発されている。立体造形を行う方法は、例えば、FFF(Fused Filament Fabrication、熱溶解フィラメント製造法)、SLS(Selective Laser Sintering、粉末焼結積層造形法)、MJ(Material Jetting、マテリアルジェッティング)、EBM(Electron Beam Melting、電子ビーム溶解法)、SLA(Stereolithography Apparatus、光造形法)など、種々の方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、所望の立体造形物が造形できない場合があり、造形処理を補正する必要がある。
【0004】
造形処理を補正する技術として、特開2016-215641号公報(特許文献1)では、立体造形物の形成に先立って形成されるキャリブレーションマーカを検出して画像歪みを計測する技術が開示されている。特許文献1によれば、当該画像歪みに基づいて補正を行うことで、立体造形物の造形精度を向上できる。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、立体造形物の造形後の温度低下に伴って生じる収縮などの影響を考慮しておらず、依然として所望の立体造形物が造形できない場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、所望の立体造形物を造形する造形装置、制御装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の実施形態によれば、立体造形物を造形する造形装置であって、
造形層の平面形状を測定する測定手段と、
前記造形層を造形してから所定時間経過後における、当該造形層の形状の変位量を予測する予測手段と、
前記測定手段により測定された前記造形層の平面形状データと、前記予測手段により予測された変位量とに基づいて、前記造形層に続いて造形される造形層の造形データを補正する補正手段と
を含む、造形装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、所望の立体造形物を造形する造形装置、制御装置および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態における立体造形システム全体の概略構成を示す図。
【
図2】本実施形態の造形装置に含まれるハードウェア構成を示す図。
【
図3】本実施形態の造形装置に含まれるソフトウェアブロック図。
【
図4】時間の経過に伴って立体造形物の形状が変形する例を説明する図。
【
図6】本実施形態における補正ベクトル出力部の詳細なデータフローを示す図。
【
図7】本実施形態の造形装置が造形する立体造形物の一例を示す図。
【
図9】他の実施形態におけるデータフローを示す図。
【
図10】造形装置が実行する処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、各実施形態をもって説明するが、本発明は後述する各実施形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜その説明を省略するものとする。また、以下の説明では、主としてFFF方式の造形装置で以て本発明を説明するが、実施形態を限定するものではない。
【0011】
また、以下では、説明の便宜上、立体造形物の高さ方向をz軸方向とし、z軸に直交する面をxy平面として説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態における立体造形システム全体の概略構成を示す図である。
図1(a)に示すように、立体造形システムには、立体造形物を造形する造形装置100が含まれる。造形装置100は、例えば情報処理端末150から、造形したい立体造形物の形状データが送信され、当該形状データに基づいて、立体造形物を造形する。また、情報処理端末150は、造形装置100が実行する処理を制御する制御装置として動作してもよい。なお、造形装置100の中に、情報処理端末150の機能が組み込まれていてもよい。
【0013】
図1(b)に示すように、xy平面と平行に移動可能なヘッド110から、ステージ120上に造形材料140が吐出され、xy平面に造形層が造形される。1次元の線描を、同一平面内に描画することで、立体造形物のうち1層分の造形層を造形する。1層目の造形層が造形されると、ステージ120は、z軸に沿う方向に1層分の高さ(積層ピッチ)だけ下がる。その後、1層目と同様にヘッド110が駆動して、2層目の造形層を造形する。造形装置100は、これらの動作を繰り返すことで、造形層を積層し、立体造形物を造形する。なお、ヘッド110がxy平面を移動し、ステージ120がz軸方向を移動する構成を例に説明したが、上述した構成は本実施形態を限定するものではなく、これ以外の構成であってもよい。
【0014】
また、本実施形態の造形装置100は、造形中の造形層もしくは造形後の立体造形物の形状を測定するためのセンサ130を具備する。センサ130は、造形層のxy平面を測定してもよい。
図1(c)に示すように、好ましい実施形態では、センサ130は、造形中として、例えばヘッド110による造形動作に連動して、造形層の形状を測定してもよい。また、立体造形物の測定は、1層の造形層が造形されるごとに行ってもよい。なお、立体造形物の測定をどのタイミングで、どの範囲で行うかは、任意に選択することができ、特に実施形態を限定するものではない。
【0015】
次に、造形装置100のハードウェア構成について説明する。
図2は、本実施形態の造形装置100に含まれるハードウェア構成を示す図である。造形装置100は、CPU201と、RAM202と、ROM203と、記憶装置204と、インターフェース205と、造形ユニット206と、形状センサ207と、周辺環境センサ208とを含んで構成される。各ハードウェアは、バスを介して接続されている。
【0016】
CPU201は、造形装置100の動作を制御するプログラムを実行し、所定の処理を行う装置である。RAM202は、CPU201が実行するプログラムの実行空間を提供するための揮発性の記憶装置であり、プログラムやデータの格納用、展開用として使用される。ROM203は、CPU201が実行するプログラムやファームウェアなどを記憶するための不揮発性の記憶装置である。
【0017】
記憶装置204は、造形装置100を機能させるOSや各種アプリケーション、設定情報、各種データなどを記憶する、読み書き可能な不揮発性の記憶装置である。インターフェース205は、造形装置100と他の機器とを接続する装置である。インターフェース205は、例えば、情報処理端末150や、ネットワーク、外部記憶装置などと接続することができ、インターフェース205を介して、造形動作の制御データや、立体造形物の形状データなどを受信することができる。
【0018】
造形ユニット206は、造形手段として、造形データに基づいて造形層を造形する装置である。造形ユニット206は、ヘッド110や、ステージ120などを含んで、造形方式に応じて構成される。例えば、FFF方式における造形ユニット206は、造形材料140を溶融する加熱機構や、造形材料140を吐出するノズルなどを含む。SLS方式における造形ユニット206は、レーザ光源などを含む。
【0019】
形状センサ207は、造形中の造形層もしくは造形後の立体造形物の形状を測定する装置である。形状センサ207は、造形層のxy平面を測定してもよい。また、形状センサ207は、立体造形物のx軸、y軸およびz軸方向の寸法などを測定してもよい。形状センサ207の例としては、赤外線センサ、カメラ、および3D計測センサ(例えば、光切断プロファイルセンサ)などが挙げられる。
【0020】
周辺環境センサ208は、造形装置100の周囲の環境データを測定する装置である。周辺環境センサ208の例としては、温度センサ、湿度センサなどが挙げられる。
【0021】
次に、本実施形態における各ハードウェアによって実行される機能手段について、
図3を以て説明する。
図3は、本実施形態の造形装置100に含まれるソフトウェアブロック図である。
【0022】
造形装置100は、データ入力部310、造形データ生成部320、造形ユニット制御部330、造形物形状測定部340、変位形状予測部350、周辺環境データ取得部360、補正ベクトル出力部370、補正部380、FF(フィードフォワード)補正ベクトル記憶部390を含む。
【0023】
データ入力部310は、立体造形物を造形するための形状データなどの入力を受け付ける手段である。形状データは、一例として、情報処理端末150などで作成され、インターフェース205を介して、データ入力部310に入力される。
【0024】
造形データ生成部320は、データ入力部310に入力された形状データを立体造形物の高さ方向に対して分割し、複数の造形層の造形データ(いわゆるスライスデータ)を生成する手段である。造形データは、造形される立体造形物を積層ピッチ単位で分割することで、積層される各層を造形するための造形層の形状を示すデータとして生成される。造形データは、各層のxy平面座標において、造形するかしないかを示す二値データとすることができる。また、好ましい実施形態では、単に各座標での造形の有無だけでなく、各座標における造形量や造形材料140の吐出量などをパラメータとして含んでもよい。なお、
図3では、造形データ生成部320は造形装置100に含まれているが、情報処理端末150に含まれてもよい。この場合、情報処理端末150で生成された造形データが、造形装置100に送信され、造形処理が実行される。
【0025】
造形ユニット制御部330は、造形データに基づいて、造形ユニット206が造形する動作を制御する手段である。造形ユニット制御部330は、造形データに基づいてヘッド110の位置やステージ120の高さを調整することで、造形の速度、積層ピッチなどの種々のパラメータやアルゴリズムを制御しながら造形できる。また、造形ユニット制御部330は、造形データに基づいて造形量を制御することができる。例えば、FFF方式では、造形材料140の吐出量を制御でき、SLS方式では、レーザの強度を制御できる。なお、造形ユニット制御部330は、造形データ生成部320が出力した造形データに基づいて造形ユニット206を制御しても良いし、補正部380によって造形形状が補正された造形データ(補正造形データ)に基づいて造形ユニット206を制御してもよい。
【0026】
造形物形状測定部340は、測定手段として、形状センサ207を制御し、造形中の造形層もしくは造形後の立体造形物の形状として、寸法や高さなどの測定データを測定する手段である。造形物形状測定部340は、測定した結果を測定データとして取得する。
【0027】
変位形状予測部350は、造形されてから所定時間が経過した後の造形層の形状の変位量を予測する手段である。変位形状予測部350は、造形材料の物性や周囲温度などの各種条件に基づき、造形データから予測される造形層の形状の変位量を求める。また、変位形状予測部350は、形状の変位量の時間的変化をシミュレーションによって求めることもでき、変位量-時間特性を出力できる。変位形状予測部350が予測した変位量予測データは、補正ベクトル出力部370に出力される。
【0028】
また、変位量予測データは、立体造形物を造形する前にダミー造形を行うことで、変位量の予測精度を向上することができ、ダミー造形を複数回繰り返すことで、さらに変位量の予測精度を向上できる。なお、造形装置100は、出力される変位量予測データをあらかじめ求めておき、種々の記憶手段に格納したうえで、適宜出力される構成であってもよい。
【0029】
周辺環境データ取得部360は、周辺環境センサ208を制御し、造形装置100周辺の温度や湿度などの環境データを取得する手段である。取得した周辺環境データは、変位形状予測部350に出力され、変位量を予測するシミュレーションのパラメータとして用いられる。
【0030】
補正ベクトル出力部370は、算出手段として、下層の測定データと、変位量予測データとに基づいて算出される、上層の補正ベクトルを出力する。補正ベクトル出力部370は、1層下の造形層の変位量予測データを出力する予測データ出力遅延部371と、測定データと変位量予測データとを比較して差分ベクトルを算出する変位量算出部372とを含む。さらに、補正ベクトル出力部370は、差分ベクトルに基づいて補正ベクトルを算出する補正量算出部373と、補正ベクトルを次層の変位量予測データに対応付けて出力する補正量変換部374とを含む。なお、補正ベクトル出力部370に含まれる上記の各機能ブロックの詳細については後述する。
【0031】
補正部380は、補正ベクトルに基づいて、収縮後の造形層の形状が所望の形状となるように造形データを補正する手段である。これによって、収縮後の造形層の形状の精度を向上できる。
【0032】
FF補正ベクトル記憶部390は、シミュレーションやダミー造形によってあらかじめ算出された補正ベクトルを記憶する手段である。例えば各造形層の層間の形状が急峻に変化する場合には、フィードバック制御では適切に補正できないことがある。このような場合には、FF補正ベクトル記憶部390に格納される補正ベクトルによって、フィードフォワード制御による補正をすることで、立体造形物の形状に応じて適切に補正することができ、所望の立体造形物を造形することができる。
【0033】
以上説明した各機能手段によって、精度の高い立体造形物を造形することができる。なお、上述したソフトウェアブロックは、CPU201が本実施形態のプログラムを実行することで、各ハードウェアを機能させることにより、実現される機能手段に相当する。また、各実施形態に示した機能手段は、全部がソフトウェア的に実現されても良いし、その一部または全部を同等の機能を提供するハードウェアとして実装することもできる。
【0034】
時間の経過による立体造形物の形状変化について
図4を以て説明する。
図4は、時間の経過に伴って立体造形物の形状が変形する例を説明する図である。
【0035】
図4(a)にはステージ120上に造形された立体造形物の温度が低下することで、収縮する過程を示す側面図である。立体造形物の形状は、造形後からの時間経過に伴い、造形層の温度が低下することで造形層が収縮する。
図4では、造形直後の立体造形物の形状を破線で示し、収縮途中の立体造形物の形状を薄い色で示し、収縮後の(最終的な)立体造形物の形状を濃い色で示している。
【0036】
図4(b)は、
図4(a)に対応する上面図である。
図4(b)の矢線は造形直後の立体造形物の形状と、収縮途中の立体造形物の形状との差を示す差分ベクトルであり、立体造形物の外形の変位量を示している。一般に造形直後の立体造形物の形状は、造形ユニット制御部330に入力される造形データの形状と一致する。また、収縮途中や収縮後の立体造形物の形状は、造形物形状測定部340によって測定することができる。
【0037】
ところで、造形層の収縮は、
図4(b)に示すように、層内で一様ではなく、偏って収縮する場合がある。また、造形層の収縮が治まり、形状が安定するまでには時間がかかる。そこで、変位形状予測部350は、各造形層の造形データと周辺環境条件とに基づいて、
図4(c)に示す変位量特性をシミュレーションした変位量予測データを出力する。
図4(c)の横軸は造形してからの経過時間を示し、縦軸は造形直後の形状からの変位量の予測値を示している。変位量予測データは、温度低下による収縮が飽和するまで変位量を予測したデータを含む。
【0038】
本実施形態では、造形後から一定時間が経過した時刻(測定時刻tとして参照する)において測定された立体造形物の形状の測定データと、変位量予測データから導出されるtにおける収縮途中の立体造形物の変位量予測データとを比較して、差分ベクトルを算出する。これによって、立体造形物の形状が安定するまで待つことなく、次層の造形データを適切に補正できるので、効率的に立体造形物の造形精度を向上できる。
【0039】
本実施形態の補正処理について説明する。
図5は、本実施形態におけるデータフローを示す図である。
図5に示すように、立体造形物が第n-1層まで造形された場合について考える。このとき造形物形状測定部340は、第n-1層のxy平面の形状を測定する。造形物形状測定部340は、測定したデータを第(n-1)層測定データとして補正ベクトル出力部370に出力する。
【0040】
変位形状予測部350は、造形データ生成部320が生成した各層の造形データを取得し、当該造形データに基づいて造形した場合の形状をシミュレーションすることで、変位量-時間特性を予測する。シミュレーションは、温度、湿度、造形材料140の物性など種々の造形条件に基づいて行う。シミュレーション結果は、各層ごとに変位量予測データとして補正ベクトル出力部370および補正部380に出力される。
【0041】
補正ベクトル出力部370は、変位量予測データと平面形状の測定データとを比較することで、補正ベクトルデータを算出し、補正部380に出力する。補正部380では、変位量予測データと補正ベクトルに基づいて、造形ユニット206の動作を制御するための補正造形データを生成し、造形ユニット制御部330に出力する。造形ユニット制御部330は、補正造形データに基づいて造形ユニット206の動作を制御することで、所望の形状の立体造形物を造形する。
【0042】
上述した補正ベクトル出力部370での処理について
図6~
図8を以て説明する。
図6は、本実施形態における補正ベクトル出力部370の詳細なデータフローを示す図である。
図6に示すように、補正ベクトル出力部370は、予測データ出力遅延部371と、変位量算出部372と、補正量算出部373と、補正量変換部374とを含んで構成される。
【0043】
図7は、本実施形態の造形装置100が造形する立体造形物の一例を示す図であり、本実施形態では、
図7に示す形状の立体造形物を造形する場合における補正の例について説明する。
図7(a)は、造形装置100によって造形される、所望の立体造形物(以下、「モデルM」として参照する)の形状である。本実施形態のモデルMは、一例として、錐台形状の下部モデルM
aと直方体形状の中央部モデルM
bおよび上部モデルM
cから構成されているものとする。造形装置100のデータ入力部310には、モデルMの形状を示すデータが入力され、造形データ生成部320において、モデルMを高さ方向に対して積層ピッチ単位で分割したスライスデータを生成する。
【0044】
図7(b)は、モデルMを分割したスライスデータの各層の形状を示している。本実施形態のモデルMは、
図7(b)に示すように、下部モデルM
aと、中央部モデルM
bと、上部モデルM
cとをそれぞれ5層ずつに分割したものとし、各層のスライスデータは、L
1~L
15として生成されるものとする。以下、
図7のモデルMを造形する場合における補正処理の例を説明する。
【0045】
図8は、本実施形態における補正を説明する図である。
図8(a)は、第(n-1)層の造形層を測定し、差分ベクトルを求める例を示している。また、
図8(b)は、第n層の形状を補正する例を示している。以下では、
図6~
図8を適宜参照して補正処理について説明する。
【0046】
図6に示すように、変位形状予測部350が出力した第n層変位量予測データは、予測データ出力遅延部371に入力される。予測データ出力遅延部371は、入力された各層の変位量予測データを一時的に記憶し、所定のタイミングで変位量算出部372に対して出力する手段である。また、造形物形状測定部340が出力した第(n-1)層測定データは、変位量算出部372に入力される。
【0047】
変位量算出部372では第(n-1)層変位量予測データと第(n-1)層測定データとに基づいて、予測値の誤差を示す第(n-1)層差分ベクトルを算出する。なお、差分ベクトルの算出には同じ層について比較する必要があることから、予測データ出力遅延部371で変位量予測データを1層分遅延させて、変位量算出部372に出力する。これによって、変位量算出部372において比較対象となる造形層を一致させることができ、適切に差分ベクトルを算出することができる。
【0048】
なお、造形された立体造形物の形状は温度低下によって収縮するものであり、形状の測定は収縮している過程で行われ得る。したがって、変位量算出部372は、入力された変位量予測データから、測定時刻tに対応する時刻の変位量を抽出して、比較対象とする。このようにして測定時刻tを対応させることで、適切な補正を行うことができ、効率的に立体造形物の造形精度を向上できる。
【0049】
図8(a)は、変位量算出部372が、第(n-1)層変位量予測データに基づく形状と第(n-1)層測定データとを比較して、第(n-1)層差分ベクトルを抽出した例を示す図である。
図8(a)の実線は、測定時刻tにおける造形層の輪郭形状を示している。また、
図8(a)の破線は、
図4(c)に示したような変位量予測データに基づいて算出される、造形層の測定時刻tに対応する時点での輪郭形状を示している。
図8(a)の矢線は差分ベクトルを示しており、差分ベクトルは以下のようにして求めることができる。
【0050】
まず変位量算出部372は、測定した造形層の輪郭形状を構成する点および変位量予測データに基づく輪郭形状を構成する点を抽出する。その後、造形層の輪郭形状を構成する各点に対応する、変位量予測データに基づく輪郭形状を構成する各点を求める。そして、上記のようにして求めた対応する各点について、位置ベクトルの差を求めることで差分ベクトルを算出することができる。なお、各輪郭形状について対応する点を求める方法の例としては、ICP(Iterative Closest Point)のような点群データの位置合わせアルゴリズムを用いることができるが、特に限定するものではない。
【0051】
また、計算量を抑制するために、差分ベクトルの算出には、抽出した点の全てを使用しなくてもよい。例えば、抽出された点の一部を使用して、点間の形状を補完してもよく、
図8(a)に示すように、輪郭形状を構成する点P
1~P
10について差分ベクトルを算出してもよい。
【0052】
変位量算出部372は、上述のようにして算出した第(n-1)層差分ベクトルを補正量算出部373に出力する。補正量算出部373は、
図7に示すように乗算器373aと、記憶領域373bと、加算器373cとを含んで構成される。乗算器373aは、差分ベクトルに一定の係数αを乗じる。記憶領域373bは、前回補正時、すなわち第(n-2)層補正時の補正量を記憶するメモリである。なお、記憶領域373bには第(n-2)層以前の補正量を蓄積してもよい。加算器373cは、第(n-1)層に関する乗算器373aの出力値と、第(n-2)層補正量とを加算することで、第(n-1)層補正ベクトルを出力する。
【0053】
なお、補正量算出部373を構成する各演算装置はシリアルに構成されてもよいが、上述した各演算は、差分ベクトルの数に対応する回数を行うことから、
図7に示すように並列で構成されてもよい。また、
図7に示す構成では、積分制御によって補正ベクトルを算出する構成となっているが特に実施形態を限定するものではなく、例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御やPI制御などの他の制御方法によって補正ベクトルを算出してもよい。
【0054】
補正量変換部374には、変位形状予測部350が出力した第n層変位量予測データと、予測データ出力遅延部371が出力した第(n-1)層変位量予測データと、補正量算出部373が出力した第(n-1)層補正ベクトルとが入力される。補正量変換部374は、入力された上記の各種データに基づいて、第n層を補正するか否かを判定し、補正する場合には第(n-1)層補正ベクトルを第n層の形状データに対応した補正ベクトルに変換し、補正部380に出力する。補正量変換部374は、以下のようにして第n層補正ベクトルを求める。
【0055】
まず、補正量変換部374は、第(n-1)層変位量予測データに基づく形状と、第n層変位量予測データに基づく形状とを比較し、それぞれの形状を構成する点を対応付ける。各点の対応付けは、変位量算出部372の処理と同様に、ICPなどによって行うことができる。点P
1~P
10に対応する点は、
図8(b)に示すように、点P’
1~P’
10として抽出される。なお、
図8(b)は、第n層の形状を補正する例を示す図である。
図8(b)において、濃い色で示す領域は第n層変位量予測データに基づく形状であり、実線で示す領域は第n層の補正形状である。
【0056】
補正量変換部374は、tにおける変位量の予測値に基づいて、第(n-1)層補正ベクトルを第n層補正ベクトルに変換する。補正部380は、第n層予測形状における最終的な変位量予測値(収縮後の形状)に、第n層補正ベクトルを対応付けた形状データを第n層補正造形データとして出力する。
【0057】
ところで、上述したようなフィードバック制御による補正処理は、第(n-1)層の形状と、第n層の形状とが同一であったり、類似していたりする場合には有効である。例えば、
図7(b)のL
1~L
5のように形状が緩やかに変化する場合や、L
6~L
10やL
11~L
15のように同一形状の造形層を積層する場合などに有効である。一方で、例えばL
5とL
6のような、層間の形状の変化が顕著である場合には、適切に補正されないことがある。すなわち各層の形状が円形であるL
1~L
5の造形層の収縮プロセスと、形状が矩形であるL
6の造形層の収縮プロセスとが異なる蓋然性が高いことから、L
1~L
5において蓄積したデータでL
6以降の造形層を補正しても適切に補正できず、所望の立体造形物とならない。そこで、補正量変換部374は、第(n-1)層の形状と、第n層の形状とを比較し、各層の形状の差分の大小に基づいて上記の補正を行うか否か選択することが好ましい。
【0058】
具体的には、補正量変換部374は、入力された第n層変位量予測データに基づく形状と、第(n-1)層変位量予測データに基づく形状とを比較する。比較の結果、各層の対応点間の距離が所定の閾値よりも小さい場合には、第(n-1)層補正ベクトルに基づいて第n層補正ベクトルを出力する。一方で、各層の対応点間の距離が閾値よりも大きい場合には、第(n-1)層までに蓄積した補正量を第n層の補正に反映せず、補正ベクトルをゼロとして出力する。また、各層の対応点間の距離が閾値よりも大きい場合には、補正量変換部374は、補正量算出部373に対してクリアコマンドを出力するように構成されてもよい。クリアコマンドを受領した記憶領域373bは、蓄積されている第(n-1)層までの補正量をクリアする。これによって、層間の形状変化量が大きい場合には、以前の造形層の補正ベクトルを用いずに補正することができるので、造形層を適切に補正することができる。
【0059】
また、層間の形状変化量が大きい場合であっても、図形形状が類似している場合には、第(n-1)層補正ベクトルに基づいて第n層補正ベクトルを出力してもよい。例えば、L10とL11とでは、各造形層とも矩形であり形状が相似していることから、L10までの造形層の補正ベクトルを、L11の造形層に適用できる蓋然性が高い。
【0060】
そこで補正量変換部374は、第(n-1)層の形状と第n層の形状とを比較して、両者の相関値を算出する。形状の相関値が閾値よりも大きい場合には第(n-1)層補正ベクトルに基づいて第n層補正ベクトルを出力する。一方で、形状の相関値が閾値よりも小さい場合には、第(n-1)層までに蓄積した補正量を第n層の補正に反映せず、補正ベクトルをゼロとして出力する。また、形状の相関値が閾値よりも小さい場合には、補正量変換部374は、補正量算出部373に対してクリアコマンドを出力し、記憶領域373bに蓄積されている第(n-1)層までの補正量をクリアするように構成されてもよい。これによって、層間の形状変化量が大きくても各層の形状の相関に基づいて、造形層を適切に補正することができる。
【0061】
また、上述したような、各層間の形状の変化が顕著な場合には、
図6に示したようなフィードバック制御によらずに補正してもよい。例えば、他の好ましい実施形態における造形装置100は、フィードフォワード制御による補正を行ってもよく、
図9に示すように、補正部380に対してFF補正ベクトルを出力可能に構成されたFF補正ベクトル記憶部390を含んで構成されてもよい。
【0062】
図9は、他の実施形態におけるデータフローを示す図である。FF補正ベクトルは、通常のフィードバック制御における伝達特性をGとした場合におけるG
-1となる特性を持つベクトルであり、シミュレーションやダミー造形などによって予め求めておくことができる。
【0063】
各層間の形状の変化が顕著であって、フィードバック制御による補正が適切でない場合には、FF補正ベクトル記憶部390は、補正部380に対してFF補正ベクトルを出力する。補正部380は、第n層補正ベクトルと、FF補正ベクトルとに基づいて、第n層造形データを補正する。
【0064】
このように、造形層の形状に応じて、フィードバック制御による補正とフィードフォワード制御による補正とを適宜選択して実行することで、立体造形物の形状や、周辺環境の変化などに対応した補正ができる。
【0065】
次に、造形装置100が実行するここまでに説明してきた処理についてまとめる。
図10は、造形装置100が実行する処理のフローチャートである。造形装置100は、ステップS1000から処理を開始する。ステップS1001でn=0として設定し、ステップS1002では、nの値を1だけインクリメントする。
【0066】
ステップS1003において、造形ユニット制御部330は造形ユニット206を制御し、第n層目の造形層を造形する。ステップS1004では、全ての造形層を造形したか否かによって処理を分岐する。全ての造形層を造形した場合(YES)、すなわちステップS1003で造形した造形層が最上部の造形層である場合には、ステップS1009に進み、造形処理を終了する。全ての造形層を造形していない場合(NO)、すなわち造形されていない造形層が存在する場合には、ステップS1005に進む。
【0067】
ステップS1005では、造形物形状測定部340は、ステップS1003で造形した第n層目の造形層の形状を測定する。ステップS1006において、補正ベクトル出力部370は、第n層の造形層の形状と、第n+1層の造形層の形状とを比較し、その差分が閾値よりも小さいか否かによって処理を分岐する。求めた差分が閾値よりも小さい場合には(YES)、ステップS1007に進む。また、求めた差分が閾値よりも大きい場合には(NO)、ステップS1008に進む。
【0068】
ステップS1007では、ステップS1005で測定したデータに基づいて、補正ベクトル出力部370は、フィードバック制御による第n+1層の補正値を算出する。また、算出した補正値に基づいて補正部380は、第n+1層の造形データを補正する。その後ステップS1002に戻り、全ての造形層を造形するまで、ステップS1002以降の各処理を繰り返す。
【0069】
ステップS1008では、第n層の補正量を第n+1層に反映させないために、補正量算出部373の記憶領域373bに格納されている補正量のデータをクリアする。また、ステップS1008では、上述したように、FF補正ベクトル記憶部390が補正部380に対してFF補正ベクトルを出力することで、フィードフォワード制御による補正を行ってもよい。その後、ステップS1002に戻り、全ての造形層を造形するまで、ステップS1002以降の各処理を繰り返す。
【0070】
造形装置100は、
図10に示す処理を行うことで、立体造形物の形状や、周辺環境の変化などに対応した補正ができ、所望の立体造形物を造形することができる。
【0071】
以上、説明した本発明の各実施形態によれば、所望の立体造形物を造形する造形装置、制御装置および方法を提供することができる。
【0072】
上述した本発明の各実施形態の各機能は、C、C++、C#、Java(登録商標)等で記述された装置実行可能なプログラムにより実現でき、本実施形態のプログラムは、ハードディスク装置、CD-ROM、MO、DVD、フレキシブルディスク、EEPROM、EPROM等の装置可読な記録媒体に格納して頒布することができ、また他装置が可能な形式でネットワークを介して伝送することができる。
【0073】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
100…造形装置、110…ヘッド、120…ステージ、130…センサ、140…造形材料、150…情報処理端末、201…CPU、202…RAM、203…ROM、204…記憶装置、205…インターフェース、206…造形ユニット、207…形状センサ、208…周辺環境センサ、310…データ入力部、320…造形データ生成部、330…造形ユニット制御部、340…造形物形状測定部、350…変位形状予測部、360…周辺環境データ取得部、370…補正ベクトル出力部、371…予測データ出力遅延部、372…変位量算出部、373…補正量算出部、373a…乗算器、373b…記憶領域、373c…加算器、374…補正量変換部、380…補正部、390…FF補正ベクトル記憶部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】