(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ニッケル粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/26 20060101AFI20220621BHJP
C22B 23/06 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B22F9/26 C
C22B23/06
(21)【出願番号】P 2018136832
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-162134(JP,A)
【文献】特開2014-138918(JP,A)
【文献】特開2015-061951(JP,A)
【文献】特開2017-145511(JP,A)
【文献】特開2018-070997(JP,A)
【文献】国際公開第2015/081368(WO,A1)
【文献】佐藤忠正,固体抽出に関する最近の研究,化学工学,日本,1957年04月01日,21巻、4号,p.206-209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00 - 9/30
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケル水溶液と中和剤とを混合して、水酸化ニッケルを含む中和後スラリーを生成する第一工程と、
前記第一工程で得られた水酸化ニッケルを、混合部を複数段連結させた装置に供給し、硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させてニッケルアンミン錯体水溶液を得る第二工程と、
前記第二工程で得られたニッケルアンミン錯体水溶液に水素ガスを接触させてニッケル粉末と還元後溶液とを得る還元工程とを含
み、
前記装置は、混合部を複数段連結させた固液分離装置であり、
前記第二工程では、
前記水酸化ニッケルを最上流にある第1段混合部に供給するとともに、前記硫酸アンモニウム水溶液を最下流にある最終段混合部に供給し、
第n段混合部では、その1つ上段の第n-1段混合部より供給された未反応の水酸化ニッケルを含む固体分を、その1つ下段の第n+1段混合部にて固液分離して得られた液体分により撹拌混合し、
前記最終段混合部では、その1つ上段の混合部から供給された未反応の水酸化ニッケルを含む固体分を、前記硫酸アンモニウム水溶液により撹拌混合し、得られた液体分をその1つ上段の混合部に供給し、
前記第1段混合部では、前記第一工程で得られた水酸化ニッケルを、その1つ下段の第2段混合部にて固液分離して得られた液体分により撹拌混合し、得られた液体分を回収することで前記ニッケルアンミン錯体水溶液を得る
ニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
前
記混合部は、シックナーで
ある
請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
前記第二工程では、前記水酸化ニッケルと向流で接触させる前記硫酸アンモニウム水溶液に、前記還元工程で得られた前記還元後溶液を用いる
請求項1又は2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
前記第二工程で得られた錯化後スラリーをニッケルアンミン錯体水溶液と錯化後澱物とに固液分離し、該ニッケルアンミン錯体水溶液を前記還元工程に供給する第三工程を有する
請求項1乃至3のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項5】
前記第三工程で得られた前記錯化後澱物に対して水洗及び/又は酸洗浄を行う洗浄工程を有し、
前記洗浄工程で得られた洗浄後液を前記第一工程に返送する
請求項4に記載のニッケル粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉の製造方法に関するものであり、水酸化ニッケルからニッケルアンミン錯体水溶液を得た後、そのニッケルアンミン錯体水溶液に対して水素還元処理を施すことでニッケル粉を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルアンミン錯体水溶液は、水素還元を行うことで、例えば特許文献1に示すように微細なニッケル粉を得ることができるなど、有用な原料に利用できる。このようなニッケルアンミン錯体水溶液は、例えば、硫酸ニッケル水溶液にアンモニアガスやアンモニア水を用いることで得ることができる。
【0003】
アンモニアガスやアンモニア水から得られたニッケルアンミン錯体水溶液を原料として用いて水素還元することでニッケル粉を得る方法では、ニッケル粉と同時に生成する硫酸根がアンモニアと結合して、硫酸アンモニウム水溶液が生成する。したがって、生成した硫酸アンモニウム水溶液の硫酸根を系外に排出しなければ、反応系の液のバランスが取れなくなったり、製品のニッケル粉の硫黄品位が上昇したりするなどの問題が生じる。
【0004】
硫酸根を系外に払い出す方法としては、従来、晶析法を用いて硫酸アンモニウムの結晶粉末として分離して払い出し、反応液には新規にアンモニアを加える方法や、あるいは、硫酸アンモニウム水溶液に消石灰や水酸化ナトリウムなどの中和剤を加えてアンモニア水と石膏及び芒硝(硫酸ナトリウム水和物)を生成させ、硫酸根を石膏及び芒硝の形態で系外へ排出し、一方、アンモニア水を系内にリサイクルする方法などが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの方法を用いるには、設備投資が高くなり、また悪臭物質であるアンモニアによる自然環境や作業環境へのリスクが高くなるなどの問題がある。また、発生するアンモニアを含んだ排水を処理する手間とコストも無視できない。
【0006】
このため、アンモニアの使用量を可能な限り低減させてニッケルアンミン錯体水溶液を製造し、そしてそのニッケルアンミン錯体水溶液を用いてニッケル粉を製造する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル粉を効率よく製造することができるニッケル粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、水酸化ニッケルからニッケルアンミン錯体を得るに際して、水酸化ニッケルを、混合部を複数段連結させた装置に供給し、硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させることで、高品質なニッケル粉を効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1)本発明の第1は、硫酸ニッケル水溶液と中和剤とを混合して、水酸化ニッケルを含む中和後スラリーを生成する第一工程と、前記第一工程で得られた水酸化ニッケルを、混合部を複数段連結させた装置に供給し、硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させてニッケルアンミン錯体水溶液を得る第二工程と、前記第二工程で得られたニッケルアンミン錯体水溶液に水素ガスを接触させてニッケル粉末と還元後溶液とを得る還元工程とを含む、ニッケル粉の製造方法である。
【0011】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記装置は、シックナーを複数段連結させた固液分離装置であり、前記第二工程では、前記水酸化ニッケルを最上流にある第1段シックナーに供給するとともに、前記硫酸アンモニウム水溶液を最下流にある最終段シックナーに供給し、第n段シックナーでは、供給された固体分を、第n+1段シックナーにて分離した液体分により撹拌混合し、最終段シックナーでは、その前段のシックナーから供給された固体分を前記硫酸アンモニウム水溶液により撹拌混合し、第1段シックナーにて固液分離することによって前記ニッケルアンミン錯体水溶液を得る、ニッケル粉の製造方法である。
【0012】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記第二工程では、前記水酸化ニッケルと向流で接触させる前記硫酸アンモニウム水溶液に、前記還元工程で得られた前記還元後溶液を用いる、ニッケル粉の製造方法である。
【0013】
(4)本発明の第4は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記第二工程で得られた錯化後スラリーをニッケルアンミン錯体水溶液と錯化後澱物とに固液分離し、該ニッケルアンミン錯体水溶液を該還元工程に供給する第三工程を有する、ニッケル粉の製造方法である。
【0014】
(5)本発明の第5は、第4の発明において、前記第三工程で得られた前記錯化後澱物に対して水洗及び/又は酸洗浄を行う洗浄工程を有し、前記洗浄工程で得られた洗浄後液を前記第一工程に返送する、ニッケル粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニッケル粉を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ニッケル粉の製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
【
図2】第一工程で得られた水酸化ニッケルを硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させてニッケルアンミン錯体水溶液を得る第二工程の流れを示すフロー図であり、混合部を5段連結させた固液分離装置を用いた場合を一例としたときのフロー図である。
【
図3】シックナーを複数段(5段)連結させた固液分離装置を用いて、第一工程で得られた水酸化ニッケルを硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させてニッケルアンミン錯体水溶液を得る流れを説明するための図である。
【
図4】還元工程にてアンモニア水を添加する態様としたときのニッケル粉の製造方法の流れを示すフロー図である。
【
図5】第三工程を設けない態様としたときのニッケル粉の製造方法の流れを示すフロー図である。
【
図6】第一工程における中和剤として消石灰を用い、第三工程を経て回収された錯化後澱物を洗浄する洗浄工程を設けた態様としたときのニッケル粉の製造方法の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
本実施の形態に係るニッケル粉の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液に中和剤を添加して水酸化ニッケルを生成させ、その水酸化ニッケルからニッケルアンミン錯体の水溶液を得た後、そのニッケルアンミン錯体を水素還元することによってニッケル粉を製造する方法である。
【0019】
具体的に、このニッケル粉の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液と中和剤とを混合して、水酸化ニッケルを含む中和後スラリーを生成する第一工程と、水酸化ニッケルに硫酸アンモニウム水溶液を混合して錯形成反応を生じさせ、ニッケルアンミン錯体水溶液を含む錯化後スラリーを得る第二工程と、ニッケルアンミン錯体水溶液に水素ガスを接触させてニッケル粉末と還元後溶液とを得る還元工程と、を含む。
【0020】
このとき、第二工程においては、水酸化ニッケルからニッケルアンミン錯体を得るに際して、水酸化ニッケルを、混合部を複数段連結させた装置に供給し、硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させることによってニッケルの錯形成反応を生じさせることを特徴としている。
【0021】
本発明者らの研究により、第一工程で得られた水酸化ニッケルを、混合部を複数段連結させた装置にて硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させることにより、得られるニッケルアンミン錯体水溶液中のニッケル濃度が上昇して、ニッケル粉を効率よく製造することができることが見出された。
【0022】
ニッケルアンミン錯体の形成に際して用いる硫酸アンモニウム水溶液としては、好ましくは、還元工程にてニッケルアンミン錯体を水素還元することで生成する硫酸アンモニウム水溶液を用いる。このように、還元工程における処理で得られる硫酸アンモニウム水溶液を、第二工程におけるニッケルアンミン錯体の形成の反応に繰り返して用いることで、さらに効率的にニッケル粉を製造することができる。
【0023】
以下、より具体的に、本発明によるニッケル粉の製造方法を説明する。
図1は、ニッケル粉の製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態に係るニッケル粉の製造方法においては、硫酸ニッケル水溶液に中和剤を添加して水酸化ニッケルを生成させる第一工程と、水酸化ニッケルからニッケルアンミン錯体を形成させる第二工程と、得られたスラリーからニッケルアンミン錯体水溶液を固液分離する第三工程と、ニッケルアンミン錯体水溶液を水素還元してニッケル粉を生成させる還元工程と、を有する。
【0025】
[第一工程]
第一工程では、硫酸ニッケル水溶液と中和剤とを混合して、水酸化ニッケルを含む中和後スラリーを生成する。なお、中和後スラリーは、例えば、中和剤に消石灰を用いた場合には、水酸化ニッケルと石膏スラリーとが混合したスラリーであり、中和剤に水酸化ナトリウムを用いた場合には、水酸化ニッケルのスラリーとなる。
【0026】
具体的に、第一工程では、硫酸ニッケル水溶液を例えば中和反応槽に所定量装入し、そこに中和剤を添加することによって、硫酸ニッケル水溶液のpHを、例えば7.0以上8.5以下程度、好ましくは8.0程度となるように調整する。この中和剤を用いた中和処理により、硫酸ニッケル水溶液から水酸化ニッケルを生成させ、その水酸化ニッケルを含む中和後スラリーを得る。
【0027】
(硫酸ニッケル水溶液)
ここで、原料に用いる硫酸ニッケル水溶液は、特に限定されないが、ニッケルを浸出させた硫酸溶液を用いることができる。
【0028】
例えば、ニッケル及びコバルトの混合硫化物、粗硫酸ニッケル、ニッケルなどから選ばれる一種、又は複数の混合物からなる工業中間物などのニッケル含有物、あるいはニッケルメタルのスクラップなどを、硫酸により溶解してニッケル浸出液とし、これを、溶媒抽出法、イオン交換法、中和などの浄液工程を施すことにより不純物元素を除去して得られた硫酸ニッケル水溶液を利用することができる。また、第一工程で用いる硫酸ニッケル水溶液は、後述する洗浄工程で得られる洗浄後液を含んでいてもよい。
【0029】
なお、硫酸ニッケル水溶液におけるニッケル濃度は、溶解度や液量の過大な増加を抑制して適正な設備規模で処理を進めるようにする観点から、概ね100g/L以上150g/L以下、好ましくは120g/L前後に設定することが好ましい。
【0030】
(中和剤)
中和剤としては、消石灰(水酸化カルシウム)を用いることができる。なお、消石灰はスラリーの形態にして用いることが好ましい。具体的に、消石灰は、工業用の市販品を用いることができ、特に限定されない。例えば、市販の消石灰を、水を用いて150g/L程度のスラリー濃度に調整して使用する。
【0031】
なお、中和剤としてカルシウム化合物を用いる場合、消石灰に限られず、例えば炭酸カルシウムなども利用することができる。
【0032】
また、中和剤として、水酸化ナトリウムを用いることもできる。水酸化ナトリウムは、工業用の市販品を用いることができ、特に限定されない。また、中和剤の水酸化ナトリウムとしては、搬送性が良好で添加量を調整しやすいという観点から、水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0033】
水酸化ナトリウムの他にも、水酸化カリウムなどの水溶性のアルカリ、さらに水酸化マグネシウムや酸化マグネシウムなどの溶解性のアルカリを用いてよい。これらは、スラリー化する手間を省くことができ、また、中和澱物の生成量が減少するなど、取り扱いがより容易であることから好ましい。
【0034】
第一工程において、中和反応の反応温度としては、40℃以上80℃以下程度とすることが好ましく、より好ましくは50℃以上60℃以下程度とすることにより、前後の工程の加温のための熱エネルギーのロスがなく、より効率的な処理を行うことができる。
【0035】
なお、工業的なプロセスの実施に際しては、液が増えすぎないように液バランスを保つことが望まれる。よって、第一工程では、中和して得られた水酸化ニッケルを含む中和後スラリーの全量又は一部の濾過を行って水酸化ニッケルを分離し、これを後述の第二工程に供給することが好ましい。つまり、第二工程では、「中和後スラリー」に硫酸アンモニウム水溶液を添加するのではなく、「水酸化ニッケル」に硫酸アンモニウム水溶液を添加する形態をとることが好ましい。
【0036】
[第二工程]
第二工程では、第一工程で得られた水酸化ニッケルを用いて、ニッケルの錯形成反応を生じさせてニッケルアンミン錯体の溶液を得る。このとき、水酸化ニッケルを、混合部を複数段連結させた装置に供給し、硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させることによってニッケルアンミン錯体水溶液を得る。
【0037】
ここで、ニッケルアンミン錯体を生成させるに際して、硫酸アンモニウム水溶液を用いることにより、アンモニアガスやアンモニア水を用いて錯形成反応を行っていた従来に比べて、設備コストや作業環境を改善させることができる。
【0038】
そして特に、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液との混合を、混合部を複数段連結させた装置を用いて向流で接触させて行うことにより、錯形反応を経て得られるニッケルアンミン錯体水溶液の濃度を有効に上昇させることができ、ニッケル粉をより効率よく製造することができる。
【0039】
具体的には、装置として、シックナーを上流から下流にかけて連続的に複数段連結させた固液分離装置を用いることができる。そして、水酸化ニッケルを最上流にある第1段シックナーに供給するとともに、硫酸アンモニウム水溶液を最下流にある最終段シックナーに供給して、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを向流で接触させる。
【0040】
このような装置を用いた混合においては、第n段シックナー(最終段シックナーを除く)では、供給された固体分(第1段シックナー(n=1)の場合には、第一工程から供給された水酸化ニッケル)を、第n+1段シックナーにて分離した液体分により撹拌混合する。また、最終段シックナーでは、その前段のシックナーから供給された固体分を硫酸アンモニウム水溶液により撹拌混合する。そして、このような向流接触による撹拌混合を経て、第1段シックナーにて固液分離することによってニッケルアンミン錯体水溶液を得る。この第1段シックナーから分離されたニッケルアンミン錯体水溶液が、後工程(後述する第三工程や還元工程)に供給される錯体水溶液となる。
【0041】
図2は、第一工程で得られた水酸化ニッケルを硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させてニッケルアンミン錯体水溶液を得る第二工程の流れを示すフロー図であり、混合部を5段連結させた固液分離装置を用いた場合を一例としたときのフロー図である。また、
図3は、シックナーを複数段(5段)連結させた固液分離装置を用いて、水酸化ニッケルを硫酸アンモニウム水溶液と向流で接触させてニッケルアンミン錯体水溶液を得る流れを説明するための模式図である。
【0042】
図2における「第1段溶解」では、
図3における「第1段シックナー」に示すように最上流にある第1段シックナーの撹拌槽内に、第一工程で得られた水酸化ニッケル(固体分)を含む中和後スラリーを供給するとともに、第2段溶解液(液体分)を装入して、それらを撹拌混合する。第1段シックナーに装入される「第2段溶解液」とは、次段の第2段シックナーにて固液分離された液体分(オーバーフロー液)であり、最下流にある最終段の第5段シックナーに装入された「硫酸アンモニウム水溶液」と、第2段シックナー~第5段シックナーの撹拌槽における錯形成反応より得られた「ニッケルアンミン錯体水溶液」とを含む。
【0043】
このように、「第1段シックナー」においては、第一工程から供給された中和後スラリーに含まれる水酸化ニッケルが、第2段溶解液に含まれる硫酸アンモニウムと撹拌混合されて錯形成反応が生じる。錯形成反応後の第1段混合液には、錯形成反応により生成したニッケルアンミン錯体水溶液(液体分)と、錯形成反応しなかった残りの水酸化ニッケルを含む第1段溶解残(固体分)と、が含まれることとなる。
【0044】
そして、第1段シックナーでは、錯形成反応後の第1段混合液を固液分離し、ニッケルアンミン錯体水溶液(液体分)と、第1段溶解残(固体分)と、を分離する。分離された水酸化ニッケルを含む第1段溶解残(固体分)は、沈降分離槽の下部から抜き出されてポンプを介して次段の第2段シックナーの撹拌槽に移送される。一方で、沈降分離槽からオーバーフローしたニッケルアンミン錯体水溶液は回収され、後工程(後述する第三工程や還元工程)に供給される。
【0045】
次に、
図2における「第2段溶解」では、
図3における「第2段シックナー」の撹拌槽内に、その前段の第1段シックナーの沈降分離槽の下部から抜き出された水酸化ニッケルを含む第1段溶解残(固体分)を供給するとともに、
図3における次段の「第3段シックナー」から分離された第3段溶解液(液体分)を装入して、それらを撹拌混合する。このようにして、第1段溶解残に含まれる「水酸化ニッケル」が、第2段溶解液に含まれる「硫酸アンモニウム」と撹拌混合されて錯形成反応が生じる。錯形成反応後の第2段混合液には、錯形成反応により生成したニッケルアンミン錯体水溶液(液体分)と、錯形成反応しなかった残りの水酸化ニッケルを含む第2段溶解残(固体分)と、が含まれることとなる。なお、シックナーの段数が2段である場合には、第3段溶解液の代わりに硫酸アンモニウム水溶液(新規)が装入される。
【0046】
そして、第2段シックナーでは、錯形成反応後の第2段混合液を固液分離し、第2段溶解液(液体分)と、第2段溶解残(固体分)と、を分離する。分離された第2段溶解残(固体分)は、沈降分離槽の下部から抜き出されてポンプを介して次段の「第3段シックナー」の撹拌槽に移送される。一方で、沈降分離槽からオーバーフローした第2段溶解液(液体分)は、前段の「第1段シックナー」の撹拌槽に接続された配管等を経由して、その撹拌槽内に装入される。
【0047】
以後、第3段シックナー、第4段シックナーにおいても、同様の手順によって水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とが接触することで、ニッケルアンミン錯体水溶液が生成される。すなわち、第n段シックナー(最終段シックナーを除く)では、供給された固体分を、第n+1段シックナーにて分離した第n+1段溶解液(液体分)により撹拌混合し、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とが接触することで、ニッケルアンミン錯体水溶液が生成される。
【0048】
また、最下流にある第5段(最終段)シックナーでは、その撹拌槽内に、その前段の「第4段シックナー」の沈降分離槽の下部から抜き出された水酸化ニッケルを含む溶解残(固体分)を供給するとともに、新規の硫酸アンモニウム水溶液を装入して撹拌混合する。水酸化ニッケルは、装入された硫酸アンモニウムとの混合により錯形成反応する。沈降分離槽からオーバーフローした溶解液は、前段の「第4段シックナー」の撹拌槽に接続された配管等を経由して、その撹拌槽内に装入される。溶解液は、硫酸アンモニウム水溶液及びニッケルアンミン錯体水溶液を含む。
【0049】
以上のように、複数段のシックナーが連結された固液分離装置を用いて、水酸化ニッケルを最上流にある第1段シックナーに供給するとともに、硫酸アンモニウム水溶液を最下流にある最終段シックナーに供給して、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウムとを向流で接触させることにより、「第1段シックナー」にて固液分離して得られるニッケルアンミン錯体水溶液が濃縮精製されることとなる。これにより、錯化後スラリー中のニッケルアンミン錯体水溶液の濃度を有効に高めることができ、このようなニッケルアンミン錯体水溶液を後工程に供給することで、ニッケル粉を効率よく製造することができる。
【0050】
なお、
図2、
図3の具体例では、シックナーを5段連結させた固液分離装置を用いて水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを混合する場合について説明したが、このような固液分離装置に限定されず、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを向流で接触させることができる装置であれば、同様の効果を奏する。
【0051】
混合部の段数(
図3の例ではシックナーの段数)としては、複数段であれば特に制限はされないが、3段以上が好ましく、4段以上であることがより好ましい。2段以上の複数段であることにより、錯化後スラリー中のニッケルアンミン錯体水溶液の濃度を効果的に上昇させることができ、好ましくは3段以上であることで、ニッケルアンミン錯体水溶液の濃度をより効果的に高めることができる。なお、混合部の段数の上限値としては、6段を超える段数にしても、錯化後スラリー中のニッケルアンミン錯体水溶液の濃度はそれ以上に上昇せず、また設備が複雑化する可能性がある。そのため、6段以下が好ましい。
【0052】
錯化後スラリーは、第一工程において中和剤に消石灰を用いた場合には、硫酸ニッケルアンミン錯体と石膏スラリーとが混合したスラリーとなり、中和剤に水酸化ナトリウムを用いた場合には、硫酸ニッケルアンミン錯体のスラリーとなる。
【0053】
最終段の混合部(シックナー)に装入される硫酸アンモニウム水溶液としては、硫酸アンモニウム濃度が200g/L以上600g/L以下程度のものを用いることが好ましい。硫酸アンモニウム濃度が200g/L以上であることにより、より多くの水酸化ニッケルを溶解させることができ、ニッケルの複塩が析出する可能性を軽減することができる。また、硫酸アンモニウム濃度が600g/L以下であることにより、後工程の還元工程において硫酸アンモニウムが析出する可能性を軽減することができる。
【0054】
第二工程において、錯形成反応の反応温度としては、40℃以上90℃以下程度とすることが好ましく、60℃以上80℃以下程度とすることがより好ましい。錯形成反応の反応温度が40℃以上であることにより、工業的に適用することができる程度の反応速度を維持することができる。一方、錯形成反応の反応温度が90℃を超えても反応速度は変わらず、エネルギーのロスが大きくなる。錯形成反応の反応温度が90℃以下であることによりエネルギーのロスを小さくすることができる。なお、錯形成反応の反応温度は全てのシックナーの撹拌槽において同様である。
【0055】
ここで、第二工程において、最終段の混合部(シックナー)に装入する硫酸アンモニウム水溶液に関しては、後述する還元工程で得られる還元後溶液である硫酸アンモニウム水溶液を回収して、繰り返し利用することが好ましい。このように、還元工程にて得られる硫酸アンモニウム水溶液を再利用することにより、コスト的にも作業的にもより効率的な処理を実現することができる。
【0056】
なお、プロセスの立ち上げ時や、連続操業に伴うアンモニアバランスの変化によって繰り返し量が不足する場合には、従来通り別途用意した試薬などから新規に調製したものを補充して用いればよい。
【0057】
[第三工程]
第三工程として、第二工程における錯形成反応により生じたニッケルアンミン錯体水溶液を含む錯化後スラリーを固液分離する。このようにして、錯化後スラリーを固液分離することにより、ニッケルアンミン錯体水溶液と錯化後澱物とが得られ、その得られたニッケルアンミン錯体水溶液を還元工程に供給する。
【0058】
ここで、第一工程において中和剤として消石灰を用いた場合には、上述したように、錯化後スラリーを固液分離して得られる錯化後澱物は、主として、原料の硫酸ニッケルに由来する硫酸根を含む、中和剤の消石灰に基づく石膏などの中和澱物である。そのため、第三工程として、錯化後スラリーに対して固液分離処理を施す工程を設けることによって、沈澱物を分離除去したニッケルアンミン錯体水溶液を回収することができ、そのような不純物を低減させたニッケルアンミン錯体水溶液を次工程に供給することができる。これにより、還元工程にて生成するニッケル粉に、硫黄などが巻き込まれて含まれることを抑制することができ、品質をより向上させることができる。
【0059】
固液分離の方法としては、特に制限されない。例えば、タンクフィルターを用いる減圧濾過や、フィルタープレスを用いる加圧濾過などが挙げられ、これら濾過機による濾過の前に、デカンテーションによる分離を行ってもよい。
【0060】
また、第一工程において中和剤として、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの溶解性のアルカリを用いた場合には、石膏などの中和澱物は生成されない。そのため、必ずしも固液分離処理のための第三工程や後述する洗浄工程を設ける必要はない。
【0061】
図4は、第三工程を設けない態様としたときのニッケル粉の製造方法の流れを示すフロー図である。
図4に示すように、第一工程において中和剤として、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの溶解性のアルカリを用いた場合には、第一工程で得られる中和澱物の生成量が極めて少ないことから、第二工程で得られる硫酸ニッケルアンミン錯体水溶液を直ちに還元工程に供給してもよい。
【0062】
ただし、上述した溶解性のアルカリからなる中和剤を用いた中和によっても、他の不純物成分からなる水酸化物が生成することがある。そのため、還元工程にて生成させるニッケル粉の品質を維持、あるいは向上させる観点から、固液分離処理を行ってニッケルアンミン錯体水溶液のみを確実に還元工程に供給してもよい。
【0063】
[還元工程]
還元工程では、得られたニッケルアンミン錯体水溶液に、水素ガスを接触させて水素還元し、ニッケル粉を生成させる。具体的には、先ず、高温高圧用反応容器などの反応容器にニッケルアンミン錯体水溶液を装入し、所定の温度、圧力の条件で、還元用の水素ガスを連続的に供給することによって水素還元し、ニッケル粉と還元後溶液である硫酸アンモニウム水溶液とからなるスラリーを生成させる。
【0064】
還元工程における反応温度は、特に制限されないが、130℃以上250℃以下程度であることが好ましく、150℃以上200℃以下程度であることがより好ましい。反応温度が130℃以上にすることにより、還元効率が向上し、一方で、250℃以下であることにより、熱エネルギーのロスを軽減することができる。
【0065】
また、反応時における反応容器の内部の圧力条件は、特に制限されないが、1.0MPa以上5.0MPa以下程度であることが好ましく、2.0MPa以上4.0MPa以下程度であることがより好ましい。内部圧力が1.0MPa以上であることにより、還元効率が向上し、一方で、5.0MPa以下であることにより水素ガスのロスは低下する。
【0066】
また、還元工程における水素還元処理では、反応容器に収容したニッケルアンミン錯体水溶液に、種晶としてのニッケル粉を添加することが好ましい。このように種晶を添加した状態で水素還元処理を行うことで、金属ニッケルへの還元率を高めることができ、また、得られるニッケル粉の粒径を制御することができる。
【0067】
具体的に、種晶として添加するニッケル粉としては、例えば、平均粒径が0.1μm以上300μm以下程度のものを用いることができる。また、10μm以上200μm以下程度の粒径のものを用いることがより好ましい。種晶のニッケル粉の粒径が0.1μm以上であることにより、種晶としての効果が効果的に発揮することができる。一方で、種晶のニッケル粉の粒径が300μm以下であることにより経済的に有利となる。
【0068】
また、種晶としてのニッケル粉は、市販品のニッケル粉を用いることができ、また、公知の方法により化学的に析出させたニッケル粉を分級して用いることができる。さらに、この製造方法により製造されたニッケル粉を繰り返して用いてもよい。なお、この種晶としてのニッケル粉は、原料であるニッケルアンミン錯体水溶液と共にスラリーポンプなどの供給装置を用いて連続して反応容器に供給するとよい。
【0069】
また、還元工程における水素還元処理では、ニッケルアンミン錯体水溶液に、分散剤を添加することが好ましい。このように分散剤を添加して水素還元処理を行うことで、金属ニッケルへの還元率を高めることができ、また、得られるニッケル粉の表面をより平滑化させることができる。さらに、凝集などを防止して、ほぼ均一な粒径のニッケル粉を製造することが可能となる。
【0070】
具体的に、分散剤としては、特に制限されないが、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアニオン系の官能基を有するポリマーや、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのノニオン系の官能基を有するポリマーを用いることができる。
【0071】
ここで、還元工程における水素還元処理では、ニッケルアンミン錯体水溶液にアンモニア水を予め添加することが好ましい。このように、ニッケルアンミン錯体水溶液にアンモニア水を予め添加しておき、その水溶液に対して水素還元処理を施すことで、ニッケルの還元率を向上させることができる。具体的に、
図5は、ニッケルアンミン錯体水溶液にアンモニア水を予め添加し、そのニッケルアンミン錯体水溶液に対して水素還元処理を行う態様を示した製造方法のフロー図である。
【0072】
ニッケルアンミン錯体水溶液に対して水素ガスを用いて還元処理を行うと、還元後の溶液(還元後液)は、次第にpHが低下することが知られている。本発明者らは、このような還元後液のpHの低下により、生成したニッケル粉が再溶解してニッケル還元率が低下することを見出した。このことから、ニッケルアンミン錯体水溶液にアンモニア水を添加し、次いでその水溶液に対して水素還元処理を施すようにすることによって、還元後液のpHの低下を抑えることができ、ニッケル還元率の低下、すなわちニッケル粉の回収量の低下を抑制することができる。
【0073】
また、添加するアンモニア水の量を少量とすることにより、手間やコストを増大させることなく、効率的な処理によりニッケル粉を製造することができる。なお、アンモニア水の添加量としては、例えば、溶液中のアンモニア濃度が1g/L以上10g/L以下程度となるようにすることが好ましい。溶液中のアンモニア濃度が1g/L以上であることにより、ニッケル粉回収量の低下を抑制する効果が効果的に得られ、一方で、10g/L以下の割合で添加することにより、薬剤のロスを抑制することができる。
【0074】
(ニッケル粉の取り出しについて)
還元工程で得られた反応容器内の反応後スラリーは、例えば降圧槽などに排出されて固液分離されることによって、ニッケル粉が回収されるとともに、還元後溶液である硫酸アンモニウム水溶液が取り出される。ここで取り出された硫酸アンモニウム水溶液は、上述したように、第二工程における錯形成反応のための硫酸アンモニウム水溶液として再利用することが好ましい。具体的に、取り出した硫酸アンモニウム水溶液を循環させ、水酸化ニッケルに添加するようにする。
【0075】
従来では、ニッケルを回収するにあたり、還元後溶液の硫酸アンモニウム水溶液の中に残留した未反応のニッケルアンミン錯体水溶液からニッケルを回収することが必要であった。そのため、硫酸アンモニウムの回収処理や硫酸アンモニウムからアンモニア水を回収する処理の前段に、ニッケルを回収する処理を実行しなければならず、設備コストや操業コストが増加するという問題があった。これに対し、還元工程で発生する硫酸アンモニウム水溶液の全量を、第二工程の錯形成反応用の溶液として繰り返し用いるようにすることで、別途の設備を用意してニッケルを回収する作業などが不要となり、コストを有効に低減させることができ、効率的な操業が可能となる。
【0076】
[洗浄工程]
必須の態様ではないが、第三工程で固液分離により錯化後澱物が回収される場合には、回収した錯化後澱物に対して水洗及び/又は酸洗浄を行う工程(洗浄工程)を設け、洗浄後の洗浄後液を第一工程に返送することが好ましい。
【0077】
第三工程を経て回収される錯化後澱物には、ニッケルアンミン錯体水溶液が付着していることから、その錯化後澱物を水洗及び/又は酸洗浄することにより、錯化後澱物中のニッケルを低減させることができる。そして、洗浄処理により得られた洗浄後液を第一工程に返送することにより、ニッケルの回収ロスを低減させることができる。
【0078】
洗浄工程における洗浄処理としては、水洗処理、硫酸溶液等を用いた酸洗処理を行うことができる。また、錯化後澱物中のニッケルを効率よく洗浄回収させる観点から、水洗と酸洗浄とを組み合わせて、複数回の洗浄処理を行うことが好ましい。
【0079】
図6は、第一工程にて中和剤として消石灰を用いる態様としたときのニッケル粉の製造方法の流れを示すフロー図である。
図6に示すように、例えば、第一工程で中和剤として消石灰を用いた場合には、上述したように、消石灰に基づく石膏スラリーが生成され、第三工程における固液分離処理により錯化後澱物として回収される。そして、この回収された錯化後澱物である石膏を洗浄する洗浄工程を設けることにより、その石膏に付着したニッケルアンミン錯体溶液を除去回収して、石膏中のニッケル濃度を低減させることができる。その後、洗浄後の洗浄液(洗浄後液)を第一工程に返送することにより、ニッケルをプロセス中に戻すことができ、ニッケルの回収ロスを低減させることができる。
【0080】
洗浄工程における洗浄時の石膏スラリー濃度は、特に制限されないが、石膏を流動させるために10g/L以上500g/L以下程度が好ましく、このようなスラリー濃度であることにより効率的な処理が可能となる。
【0081】
また、第三工程を経て回収される錯化後澱物において、一部のニッケルアンミン錯体が複塩として結晶化している場合には、洗浄工程において、薄い硫酸溶液により酸洗浄することが好ましい。このときの硫酸溶液の硫酸濃度としては、特に制限されないが、1%以上10%以下程度であることが好ましい。硫酸濃度が1%以上であることにより、洗浄効果が効果的に得られ、一方、10%以下であることにより、薬剤のロスを抑制することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[実施例]
ニッケル酸化鉱石を公知の方法により高温高圧下で酸浸出し、その後、得られたニッケル浸出液に対して硫化処理を施してニッケル硫化物を生成させた。そして、そのニッケル硫化物を、液温を50℃に維持しながら硫酸を供給してニッケル濃度が120g/Lになるように溶解することによって、硫酸ニッケル水溶液を得た。
【0084】
得られた硫酸ニッケル水溶液を1リットル分取し、これにスラリー濃度が150g/Lの消石灰スラリーを添加して、スラリーのpHが8.0になるように60分間撹拌しながら維持して中和処理を施した。得られた中和後スラリーをさらに濾過して、水酸化ニッケルを得た(第一工程)。なお、最終的な消石灰スラリーの添加量は1.26リットルになった。
【0085】
次に、シックナーを2段連結させた固液分離装置(
図3参照)を用い、第一工程で得られた水酸化ニッケルと、硫酸アンモニウム水溶液とを向流で接触させ、ニッケルアンミン錯体水溶液を生成させた(第二工程)。具体的には、シックナーを2段連結させた固液分離装置において、最上流にある第1段シックナーに水酸化ニッケル55g(Dry換算値)を供給するとともに、最下流にある第2段シックナーに硫酸アンモニウム水溶液を供給した。
【0086】
第1段シックナーの撹拌槽内では、供給された水酸化ニッケルと、次段の第2段シックナーにて固液分離された液体分である第2段溶解液200gに水を加えて全液量を500mlとした溶液とを撹拌混合させた。なお、撹拌混合においては、温度80℃として1時間撹拌させた。その後、第1段シックナーにて固液分離を施し、ニッケルアンミン錯体水溶液(液体分)と第1段溶解残(固体分)とを得た。固液分離して得られた液体分であるニッケルアンミン錯体水溶液は、ニッケル濃度は30g/Lであった。
【0087】
第1段シックナー溶解残渣(第1段溶解残)を、次段であって最下流にある第2段シックナーに移送し、供給した硫酸アンモニウム200g(水を加えて全液量を500mLとした)と撹拌混合させた。なお、撹拌混合においては、温度80℃として1時間撹拌させた。その後、第2段シックナーにて固液分離を施し、第2段溶解液(液体分)と溶解残渣(固体分)とを得た。なお、上述したように、分離した第2段溶解液は、第1段シックナーに装入して、供給された水酸化ニッケルとの撹拌混合に用いた。
【0088】
このようにして水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを向流で接触させ、第1段シックナーにて固液分離して得られたニッケルアンミン錯体水溶液を、次工程の還元工程に供した。上述したように、還元工程に供給したニッケルアンミン錯体水溶液のニッケル濃度は30g/Lであり、後述する比較例の操作にて得られたニッケルアンミン錯体水溶液よりも、高濃度のものが得られた。
【0089】
次に、得られたニッケルアンミン錯体水溶液1リットルを高温高圧反応容器に装入し、種晶として別途用意したニッケル粉を40g、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムを濃度0.17g/Lとなるように添加して、温度を185℃に昇温し、内部圧力を3.5MPaに維持した条件で、撹拌しながら水素ガスを供給して1時間反応させた(還元工程)。反応終了後、反応容器から反応後スラリーを取り出し、生成したニッケル粉を固液分離して回収した。
【0090】
[比較例]
比較例では、実施例と同様にして第一工程にて水酸化ニッケルを得たのち、その水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを単一の撹拌槽にて撹拌混合し、ニッケルアンミン錯体水溶液を生成させた。
【0091】
具体的には、第一工程で得られた水酸化ニッケル55g(Dry換算値)と、硫酸アンモニウム200gとを撹拌槽に供給して、さらに水を加えて全液量を500mlとした。そして、温度80℃で1時間撹拌混合した。その後、固液分離を施して、ニッケルアンミン錯体水溶液と溶解残渣とを得た。固液分離して得られたニッケルアンミン錯体水溶液は、ニッケル濃度が24g/Lであった。
【0092】
得られたニッケルアンミン錯体水溶液を還元工程に供給し、実施例と同様にして水素ガスを接触させることによってニッケル粉末を得た。
【0093】
以上の実施例、比較例の結果からわかるように、ニッケルアンミン錯体水溶液を生成させる第二工程において、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを単に混合させた比較例では、ニッケルアンミン錯体水溶液のニッケル濃度が24g/Lに留まったのに対し、水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを向流で接触させることによって反応させた実施例では、ニッケルアンミン錯体水溶液のニッケル濃度は30g/Lにも上昇し、高濃度化した。このことから、実施例のニッケル粉の製造方法では、ニッケル粉を得る前提となるニッケルアンミン錯体水溶液のニッケル濃度を有効に高めることができたため、ニッケル粉を効率よく得ることができた。
【0094】
なお、本実施例では、シックナー(混合部)を2段連結させた固液分離装置によって水酸化ニッケルと硫酸アンモニウム水溶液とを向流で接触させたが、混合部の段数をさらに増やすことにより、ニッケルアンミン錯体水溶液のニッケル濃度を一層に高めることができ、ニッケル粉をさらに効率よく得ることができることが推認される。