(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブル
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20220621BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220621BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220621BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220621BHJP
H01B 9/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K3/22
C08K3/36
C08L23/26
H01B9/02 Z
(21)【出願番号】P 2019077052
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中橋 正信
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100140(JP,A)
【文献】特開2015-072743(JP,A)
【文献】特開2015-067819(JP,A)
【文献】特開2014-101455(JP,A)
【文献】特表2005-529207(JP,A)
【文献】特表2008-519090(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175076(WO,A1)
【文献】特開2017-050088(JP,A)
【文献】特開2016-100148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
C08L 23/26
C08K 3/22
C08K 3/36
H01B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周に形成された内部半導電層と、前記内部半導電層の外周に形成された絶縁層と、前記絶縁層の外周に形成された外部半導電層と、前記外部半導電層の外周にワイヤーを巻き付けて形成された遮蔽層と、前記遮蔽層の外周に押えテープを巻き付けて形成された押えテープ層と、前記押えテープ層の外周に形成されたシース層と、を備えた送電ケーブルにおいて、
前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有し、
前記ベースポリマは、エチレン酢酸ビニル共重合体と、無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体とを含有し、
前記難燃剤は、水酸化マグネシウムと、シリカとを含有し、
前記ベースポリマ中の酢酸ビニル含有量は40質量%以上であり、
前記無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体の含有量は、前記ベースポリマの5質量%以上30質量%以下であり、
前記水酸化マグネシウムは、シランにより表面処理されており、前記水酸化マグネシウムの含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、80~150質量部であり、
前記シリカは、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下の球状であり、前記シリカの含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、10~80質量部である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブル。
【請求項2】
請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルにおいて、
前記送電ケーブルの外径が30mm以上60mm以下であり、かつ、前記シース層の厚さが2mm以上4mm以下である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブル。
【請求項3】
請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルにおいて、
発煙試験において、光の透過率が65%以上である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い難燃性を有し、燃焼時に発生する有煙量を抑制したノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両などに使用されるケーブルには難燃性、低発煙性、機械特性、低温特性などの特性が要求される。高い難燃性を得るには、ポリオレフィンに、塩素系や臭素系といったハロゲン系難燃剤を添加した材料が用いられている。しかしながら、これらハロゲン系難燃剤を大量に含む物質は、燃焼時に、有毒、有害なガスを多量に発生し、焼却条件によっては猛毒のダイオキシンを発生させる。このことから、火災時の安全性や環境負荷低減の観点からハロゲン物質を含まないノンハロゲン材料(ハロゲンフリー材料)を被覆材料に使用したケーブルが普及してきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、遮水性、耐薬品性および難燃性に優れ、しかも、リサイクル性が良好で、かつ、人体に対する安全性が高く、燃焼時に有害物質を発生することのない、環境保全性に優れたケーブルについての技術が開示されている。具体的には、ケーブルコアの外周に、厚さが0.001mm~0.03mmのアルミテープの片面に熱融着層を有するラミネートテープを熱融着層を外側に向けて添設して遮水層を形成し、この遮水層上にプラスチックシースを被覆し一体に融着させたケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、ケーブルの外被層のような被覆材の研究・開発に従事しており、被覆材であるポリマとして、ノンハロゲン材料を用い、難燃性の他、低発煙性、機械特性および低温特性が良好な樹脂組成物を検討している。
【0006】
例えば、上記特許文献1の技術では、燃焼時に生成する燃え殻が脆弱となるため、電線内部に燃え広がり、内部可燃物の膨張、ガス化、不完全燃焼を招き難燃性や発煙特性を悪化させる問題点がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、難燃性、低発煙性、機械特性、低温特性が良好なノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルは、導体と、前記導体の外周に形成された内部半導電層と、前記内部半導電層の外周に形成された絶縁層と、前記絶縁層の外周に形成された外部半導電層と、前記外部半導電層の外周にワイヤーを巻き付けて形成された遮蔽層と、前記遮蔽層の外周に押えテープを巻き付けて形成された押えテープ層と、前記押えテープ層の外周に形成されたシース層と、を備えた送電ケーブルにおいて、前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有し、前記ベースポリマは、エチレン酢酸ビニル共重合体と、無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体とを含有し、前記難燃剤は、水酸化マグネシウムと、シリカとを含有し、前記ベースポリマ中の酢酸ビニル含有量は40質量%以上であり、前記無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体の含有量は、前記ベースポリマの5質量%以上30質量%以下であり、前記水酸化マグネシウムは、シランにより表面処理されており、前記水酸化マグネシウムの含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、80~150質量部であり、前記シリカは、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下の球状であり、前記シリカの含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、10~80質量部である。
【0009】
(2)前記送電ケーブルの外径が30mm以上60mm以下であり、かつ、前記シース層の厚さが2mm以上4mm以下である。
【0010】
(3)前記送電ケーブルの発煙試験において、光の透過率が65%以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルによれば、難燃性、低発煙性、機械特性、低温特性が良好な送電ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
[構造説明]
図1は、送電ケーブルの構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態の送電ケーブルは、撚り線からなる導体2と、導体2の外周に形成された内部半導電層3と、内部半導電層3の外周に形成された絶縁層4と、絶縁層4の外周に形成された外部半導電層5と、外部半導電層5の外周に半導電性テープを巻き付けて形成された半導電性テープ層6と、半導電性テープ層6の外周にワイヤーを巻き付けて形成された遮蔽層7と、遮蔽層7の外周に押えテープを巻き付けて形成された押えテープ層8と、押えテープ層8の外周に形成されたシース層9とを有する。
【0014】
そして、シース層9には、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が用いられている。
【0015】
導体2は、複数の素線を撚り合わせて形成されている。素線としては、例えば、錫メッキ軟銅線等の線材を用いることができる。導体2は、例えば7000V以上の高電圧を送電する。
【0016】
内部半導電層3および外部半導電層5は、絶縁層4と導体2との間の電界や絶縁層4と遮蔽層7との間の電界の集中を緩和させるために設けられる。内部半導電層3および外部半導電層5は、例えば、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム等のゴムにカーボン等の導電性粉末を分散して導電性を持たせた材料よりなる。内部半導電層3および外部半導電層5は、押出成形により形成される。
【0017】
絶縁層4は、例えばエチレンプロピレンゴム、塩化ビニル、架橋ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素系材料等の材料を押出成形することにより形成される。
【0018】
半導電性テープ層6としては、例えば、ナイロンまたはレーヨン、PET等からなる経糸と緯糸とを編み込んだ基布又は不織布に、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム等のゴムにカーボン等の導電性粉末を分散したものを含浸させることにより形成されたものを用いることができる。半導電性テープ層6としては、例えば厚さ0.1mm以上0.4mm以下、幅30mm以上70mm以下のものを用いることができる。半導電性テープ層6は、外部半導電層5の外周に半導電性テープをケーブル長手方向に沿って螺旋状に例えばテープ幅の1/4以上1/2以下が重なるように重ね巻きして形成される。
【0019】
遮蔽層7は、ワイヤーよりなる。ワイヤーは、例えば錫メッキ軟銅等の導電性材料からなり、例えば直径0.4mm以上0.6mm以下の線材を用いることができる。遮蔽層7は、半導電性テープ層6の外周にワイヤーをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付けることにより形成される。この遮蔽層7は、使用時にグランドに接続される。
【0020】
押えテープ層8は、押えテープよりなる。押えテープとしては、例えば、厚さ0.03mm以上0.2mm以下、幅50mm以上90mm以下のプラスチック又はレーヨンからなるテープを用いることができる。押えテープ層8は、遮蔽層7の外周に押えテープをケーブル軸方向に沿って螺旋状に重ね巻きすることにより形成される。
【0021】
シース層9は、ベースポリマ(樹脂成分)と、難燃剤(金属水酸化物、シリカ)とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物よりなる。
【0022】
ベースポリマは、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と、無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体(以下、単に“マレイン酸変性エチレン共重合体”とも言う)とを含有する。
【0023】
ベースポリマ中のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0024】
ベースポリマ中の無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体は、5質量%以上30質量%以下である。上記マレイン酸変性エチレン共重合体が5質量%未満では低温特性が低下し、30質量%を超えると機械特性(引張特性)が低下する。αオレフィンとしては、ケーブルの可とう性を考慮し、炭素数が3から8のαオレフィンを用いることが好ましい。このようなαオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等があげられ、異性体の適用も可能である。また、αオレフィンは1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ベースポリマ(樹脂成分)中の酢酸ビニル含有量は40質量%以上である。酢酸ビニル含有量が40質量%未満であると、燃え殻が脆化し、良好な難燃性や、低発煙性が得られない。
【0026】
金属水酸化物は、水酸化マグネシウムであり、シランにより表面処理されている。具体的には、シランカップリング剤を用いて表面処理した水酸化マグネシウムである。シランにより表面処理をしていないものを用いると機械特性が低下する。また、シランにより表面処理した水酸化マグネシウムの含有量は、ベースポリマ100質量部に対し、80~150質量部である。難燃性の観点からは80質量部以上が必要であり、低発煙性の観点からは150質量部以下とする必要がある。
【0027】
シリカは、非結晶シリカ、結晶シリカのいずれを用いてもよい。このシリカは燃焼時の燃え殼固化と機械特性向上のために用いられる。シリカの添加がない場合には、燃え殼が固化せず、低発煙化を実現することができない。また、このシリカの形状は球状であり、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である。より好ましい平均粒径は、0.15μm以上0.3μm以下である。このようなシリカを用いることで、難燃性、低発煙性、機械特性のバランスをとることができる。特に、球状とすることによりシリカが水酸化マグネシウムの間に入り込み、水酸化マグネシウムの分散性を良好にする。シリカの平均粒径を0.05μm以上1.0μm以下とすることで、ポリマとの相互作用が適正となり機械特性が向上する。平均粒径が0.05μmより小さいとポリマとの相互作用が強くなり、粘度が大きくなり、加工性(押出性)が悪くなる。また、平均粒径が1.0μmより大きいとポリマとの相互作用が弱くなり機械特性が低下する。シリカの平均粒径は、頻度の累積が丁度50%になる粒子径D50メジアン径(μm)の数値を用いることができる。なお、シリカの形状(球状であるか否か)は、電子顕微鏡にてこれを確認することができる。本実施の形態に係るシリカは、いずれも真球ないしは実質的に真球の粒子状態であることが認められる。このようなシリカは、例えば、火炎加水分解法を用いることで製造することができる。シリカの含有量は、ベースポリマ100質量部に対し、10~80質量部である。シリカの含有量が10質量部未満では水酸化マグネシウムの分散性が低下するため、難燃性、低発煙性が低下する。また、シリカの含有量が80質量部を超えると機械特性が低下する。
【0028】
なお、上記送電ケーブルに使用するノンハロゲン難燃性樹脂組成物には、必要に応じて、他のポリマ(他のEVA、他のマレイン酸等で変性されたポリオレフィン)や架橋剤、架橋助剤、着色剤、滑剤、酸化防止剤など、を配合することもできる。
【0029】
また、本実施の形態に係る送電ケーブルにおいて、外径(直径)は、30mm以上60mm以下であり、シース層の厚さは、2mm以上4mm以下であることが好ましい。
【0030】
そして、上記条件を満たす本実施の形態の送電ケーブルによれば、燃焼時に生成するシース層の燃え殼が適度に強靭で、適度に空孔度を所有している。このような強靭な燃え殼は、燃焼熱の絶縁体などの膨張による応力を緩和し、送電ケーブル内部への炎の侵入を防ぐ断熱層として働く。また、空孔度は、燃焼熱による送電ケーブル内部からのガス成分をシース層側に放出させ不完全燃焼を抑制する。これにより、本実施の形態に係る送電ケーブルは、難燃性、低発煙性が良好となる。
【0031】
ここで、本実施の形態に係る送電ケーブルは、例えば、鉄道車両に配設される特別高圧ケーブル(以下、鉄道車両用特別高圧ケーブルと呼ぶこととする。)として用いることができる。鉄道車両用特別高圧ケーブルは、例えば、鉄道車両の屋根上に配置されたパンタグラフと床下に配置された多圧器とを接続するように、屋根部や壁部に沿って配設される。ここで特別高圧とは、7000V以上の電圧をいう。
【0032】
[製法説明]
次に、送電ケーブル1の製造方法の一例について説明する。
【0033】
導体2の外周に、内部半導電層3、絶縁層4、外部半導電層5を同時に押出成形する。次に、外部半導電層5の外周に半導電性テープをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付けることにより、半導電性テープ層6を形成する。次いで、半導電性テープ層6の外周にワイヤーをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付けることにより、遮蔽層7を形成する。次いで、遮蔽層7の外周に押えテープをケーブル軸方向に螺旋状に沿って巻き付けることにより、押えテープ層8を形成する。次いで、押えテープ層8の外周に、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を押出成形することにより、シース層9を形成する。その後、シース層9の加硫を行う。例えば、連続加硫装置において、150℃以上180℃以下の雰囲気下において、5min以上60minの加硫を行う。このようにして送電ケーブル1を製造することができる。
【0034】
本実施の形態の送電ケーブルによれば、難燃性、低発煙性、機械特性および低温特性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルを得ることができる。
【0035】
[実施例]
以下に、本実施の形態のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルを実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
(材料名)
1)EVA1):ランクセス社製「レバプレン600」(VA量:60%)
2)EVA2):ランクセス社製「レバプレン400」(VA量:40%)
3)酸変性ポリオレフィン3):酸変性エチレン-α-オレフィンコポリマー、三井化学社製「タフマーMH5040」
4)シラン処理水酸化マグネシウム4):ヒューバー社製「マグニフィンH10A」
5)脂肪酸処理水酸化マグネシウム5):ヒューバー社製「マグニフィンH10C」
6)非晶性シリカ6):エボニック社製「エアロジルR972」(球状、粒径0.016μm)
7)非晶性シリカ7):エルケム社製「シディスターT120U」(球状、粒径0.15μm)
8)結晶性シリカ8):ジベルコ社製「シルバーボンド925」(ブロック状、粒径1.6μm)
9)t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート9):化薬アクゾ社製「トリゴノックス117」
10)トリアリルイソシアネート10):日本化成社製「TAIC」
11)カーボン11):旭カーボン社製「アサヒサーマル」
12)ヒドロキステアリン酸リチウム12):日東化成工業社製「LS-6」
(実施例1~9)
錫メッキ軟銅撚線からなる導体上に、内部半導電層としてエチレンプロピレンゴムにカーボンの粉末を分散させた材料、絶縁層としてエチレンプロピレンゴム、外部半導電層としてエチレンプロピレンゴムにカーボンの粉末を分散させた材料を同時に押出成形することによって、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層からなる3層押出被覆線を得た。次いで、3層押出被覆線に半導電性テープをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付け、さらに、ワイヤーをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付け、押えテープ(例えばPETテープとめり込み防止のスフテープ)をケーブル軸方向に螺旋状に沿って巻き付け、コア部を形成した。次いで、コア部にシース層を押出機により被覆し、その後バッチ式加硫を行い、送電ケーブルを得た。シース層の厚さは3.1mm程度であり、送電ケーブルの外径は50.9mm程度であった。シース層を構成するノンハロゲン難燃性樹脂組成物(成分)は、表1に示す配合組成とした。
【0036】
(比較例1~12)
シース層を構成するノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合組成を表1に示すように変えて、実施例1~9の場合と同様にして、送電ケーブルを得た。
【0037】
得られた送電ケーブルについて、酢酸ビニル含有量を算出し、加工性、機械特性、難燃性、発煙性、低温特性を以下のとおり評価した。
【0038】
酢酸ビニル含有量の算出:酢酸ビニル含有量(VA量[%、質量%]とも言う)は、エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルの含有量である。このVA量は、JISK7192に基づいて測定することができる。例えば、酢酸ビニル含有量60%のポリマを85g、酢酸ビニル含有量0%のポリマを15g用いた場合は、「(60%×85/100)+(0%×15/100)=51%」となり、VA量は51%となる。このVA量は40%以上が好ましい。
【0039】
加工性(押出性):押出可能で外観が良好なものを“可”、粘度が高くて押出不可能なものを“不可”、押出可能であるが外観が劣るものを“不可”とした。
【0040】
機械特性(引張特性):機械特性として引張特性を評価した。シース層を剥離し、ダンベル形状に打ち抜いた試験片を形成し、引張強さと伸びを測定した。試験片を引張り、破断するまでの荷重および伸び(Lb)を測定した。上記荷重から引張強さ(単位[MPa])を算出した。また、当初長さLaと伸びLbとから、破断伸び(((Lb-La)/La)×100[%])を算出した。引張強さが10MPa以上のものを合格とした。また、破断伸びが150%以上のものを合格とした。
【0041】
難燃性:EN50266-2-4に基づき、垂直トレイ燃焼試験(VTFT)を行なった。送電ケーブルについて、下端より20分間燃焼させた後、自己消炎させ、下端からの炭化長を測定した。炭化長が250cm以下のものを“合格”とし、炭化長が250cmを超えるものを“不合格”とした。
【0042】
発煙性:EN50268-2に基づき、3mキューブ発煙試験を行った。3mキューブのチャンバー内において、送電ケーブルをアルコール燃料で燃焼させ、その際に発生する煙の濃さを光の透過率により測定した。一般的な判定基準は、透過率60%以上を“可”とすることが多いが、より高いレベルの低発煙性をめざし、ここでは65%以上を“合格”とし、透過率65%未満を“不合格”とした。
【0043】
低温特性(低温伸び、-40℃での伸び):低温特性として-40℃における引張特性を評価した。シース層を剥離し、ダンベル形状に打ち抜いた試験片を形成し、-40℃における伸びを測定した。試験片を引張り、破断するまでの伸び(Lb)を測定した。当初長さLaと伸びLbとから、破断伸び(((Lb-La)/La)×100[%])を算出した。破断伸びが、20%以上のものを合格とした。
【0044】
【0045】
表1に示すように、実施例1~9の送電ケーブルは、酢酸ビニル含有量が40%以上であり、加工性(押出性)、機械特性(引張特性)、難燃性、発煙性、低温特性(低温伸び)のいずれにおいても合格または可であり、良好な送電ケーブルであることが分かった。
【0046】
これに対して、比較例1~12の送電ケーブルは、酢酸ビニル含有量、加工性(押出性)、機械特性(引張特性)、難燃性、発煙性、低温特性(低温伸び)のいずれかに不具合が生じ、送電ケーブルとして問題を含むことが分かった。
【0047】
具体的には、以下のとおりである。
【0048】
比較例1においては、シース層の配合組成物の粘度が高く、加工性(押出性)が不可であり、送電ケーブルを形成することができなかった。これは、実施例1との対比から、シリカとして、球状のものを用いているものの、粒径が0.016μmと小さいものを用いたためと考えられる。これにより、シリカとしては、粒径が0.016μmを超える、具体的には、平均粒径が0.05μm~1.0μm程度、より好ましくは、0.1μm~0.3μm程度のものを用いることが好ましい。
【0049】
比較例2においては、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、シリカとして、ブロック状であり粒径が大きいものを用いたためと考えられる。これにより、シリカとしては、形状が球状であり、上記範囲の粒径のものを用いることが好ましい。
【0050】
比較例3においては、難燃性、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、酢酸ビニル含有量(VA量)が小さいEVAを用いたため、ベースポリマにおけるVA量が小さくなり、基準となる40%を下回る34%となったためと考えられる。これにより、ベースポリマにおけるVA量としては、40%以上のものを用いることが好ましい。
【0051】
比較例4においては、機械特性(引張特性)が不合格であった。具体的には、引張強さが10MPa未満であった。これは、実施例1との対比から、水酸化マグネシウムの表面処理において、シラン処理ではなく、脂肪酸処理が施されているためと考えられる。これにより、水酸化マグネシウムの表面処理としては、シラン処理が施されていることが好ましい。
【0052】
比較例5においては、難燃性、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、シリカの添加量(含有量)が少ないためと考えられる。これにより、シリカの添加量としては、ベースポリマ100質量部に対して5質量部を超える、より好ましくは10質量部(実施例4)以上であることが好ましい。
【0053】
比較例6においては、機械特性(引張特性)が不合格であった。具体的には、破断伸びが、150%未満であった。これは、実施例1との対比から、シリカの添加量が多いためと考えられる。これにより、シリカの添加量としては、ベースポリマ100質量部に対して100質量部未満、より好ましくは80質量部(実施例7)以下であることが好ましい。
【0054】
比較例7においては、難燃性、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、水酸化マグネシウムの添加量が少ないためと考えられる。これにより、水酸化マグネシウムの添加量としては、ベースポリマ100質量部に対して60質量部を超える、より好ましくは80質量部(実施例4)以上であることが好ましい。
【0055】
比較例8においては、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、水酸化マグネシウムの添加量が多いためと考えられる。これにより、水酸化マグネシウムの添加量としては、ベースポリマ100質量部に対して170質量部未満、より好ましくは150質量部(実施例7)以下であることが好ましい。
【0056】
比較例9においては、難燃性、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、水酸化マグネシウムの添加量が少ないためと考えられる。これにより、水酸化マグネシウムの添加量としては、ベースポリマ100質量部に対して50質量部を超える、より好ましくは80質量部(実施例4)以上であることが好ましい。また、比較例9においては、水酸化マグネシウムとシリカの合計添加量が少ない。実施例1~9において、水酸化マグネシウムとシリカの合計添加量は、ベースポリマ100質量部に対して90質量部(実施例4)以上である。
【0057】
比較例10においては、発煙性が不合格であった。これは、実施例1との対比から、水酸化マグネシウムの添加量が多いためと考えられる。これにより、水酸化マグネシウムの添加量としては、ベースポリマ100質量部に対して170質量部未満、より好ましくは150質量部(実施例7)以下であることが好ましい。また、比較例10においては、水酸化マグネシウムとシリカの合計添加量が多い。実施例1~9において、水酸化マグネシウムとシリカの合計添加量は、ベースポリマ100質量部に対して230質量部(実施例7)以下である。
【0058】
比較例11においては、低温特性(低温伸び)が不合格であった。これは、実施例1との対比から、無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体が入っていないためと考えられる。これにより、上記マレイン酸変性エチレン共重合体をベースポリマとして含有し、より好ましくはベースポリマとして5質量%(実施例8)以上含有していることが好ましい。
【0059】
比較例12においては、機械特性(引張特性)が不合格であった。これは、実施例1との対比から、無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体の添加量が多いためと考えられる。これにより、上記マレイン酸変性エチレン共重合体の添加量としては、ベースポリマとして40質量%未満、より好ましくは30質量%(実施例9)以下であることが好ましい。また、比較例12においては、難燃性、発煙性が不合格であった。これは、上記マレイン酸変性エチレン共重合体の添加量が多く、ベースポリマにおけるVA量が小さくなり、基準となる40%を下回る36%となったためと考えられる。
【0060】
(考察)
以上の結果から、シース層のベースポリマ中のエチレン酢酸ビニル共重合体の添加量は、50質量%以上(いわゆる、主成分)であり、酢酸ビニル含有量は40質量%以上とすることが好ましい。なお、高VA量のエチレン酢酸ビニル共重合体を用いた場合には、ベースポリマ中のエチレン酢酸ビニル共重合体の添加量が40質量%程度でも、酢酸ビニル含有量を40質量%以上とすることができる。
【0061】
また、上記結果から、シース層のベースポリマ中の上記マレイン酸変性エチレン共重合体の添加量は、5質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
【0062】
また、上記結果から、シース層の難燃剤である水酸化マグネシウムは、シランにより表面処理されており、上記水酸化マグネシウムの含有量は、ベースポリマ100質量部に対し、80~150質量部とすることが好ましい。
【0063】
また、上記結果から、シース層の難燃剤であるシリカは、平均粒径が0.05μmから1.0μmの球状であり、シリカの含有量は、ベースポリマ100質量部に対し、10~80質量部とすることが好ましい。
【0064】
このようなノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシース層を用いることで、難燃性、低発煙性、機械特性および低温特性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルを得ることができる。
【0065】
特に、高電圧用の送電ケーブルにおいて、シース層の外径が大きく、例えば、30mm以上60mm以下、より好ましくは45mm以上60mm以下であり、かつ、シース層の厚さが厚く、例えば、2mm以上4mm以下、より好ましくは3mm以上4mm以下である場合には、燃焼試験において燃える部分が多く、難燃性や低発煙性を得ることが困難となりやすいが、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いることで、難燃性や低発煙性を得ることができる。
【0066】
本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 送電ケーブル
2 導体
3 内部半導電層
4 絶縁層
5 外部半導電層
6 半導電性テープ層
7 遮蔽層
8 押えテープ層
9 シース層