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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】剥離層形成用組成物及び剥離層
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20220621BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220621BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20220621BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20220621BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220621BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220621BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220621BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20220621BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08G73/10
C09D179/08 A
C09D5/20
B32B27/00 L
B32B27/34
B05D7/24 302X
B05D5/00 A
B05D3/02 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019509990
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012809
(87)【国際公開番号】W WO2018181496
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017067349
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葉 鎮嘉
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158988(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129546(WO,A1)
【文献】特開平03-121132(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217413(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/10
C09D 179/08
C09D 5/20
B32B 27/00
B32B 27/34
B05D 7/24
B05D 5/00
B05D 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を含む重量平均分子量5,000以上のポリアミック酸と、有機溶剤とを含有する剥離層形成用組成物。
【化1】
[(式中、X1は、フェニル基又はビフェニル基を表し、Z1は、下記式[Z2]で表される基であり、n1は自然数を表す。)
【化3】
(式中、Y1は、単結合、-O-又は-NH-を表し、
5は、ベンゼン環及びシクロヘキサン環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、
nは1~3の整数を表し、nが2以上の場合、Y5同士は同一でも異なっていてもよく、
6は、炭素数1~18のアルキル基を表す。)]
【請求項2】
上記Z1が、下記式[Z3]、[Z4]又は[Z5]で表される基である請求項1記載の剥離層形成用組成物。
【化4】
(式中、Y6は、互いに独立して、炭素数1~18のアルキル基を表す。)
【請求項3】
上記有機溶剤が、式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1又は2記載の剥離層形成用組成物。
【化5】
(式中、R1及びR2は、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル基を表し、R3は、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基を表し、hは、自然数を表す。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物を用いて形成される剥離層。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物を基体上に塗布し、焼成することを含む剥離層の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物を基体上に塗布し、焼成して剥離層を形成する工程、
上記剥離層上に、被剥離体を形成する工程、及び
上記被剥離体を、上記剥離層から剥離する工程
を含む被剥離体の製造方法。
【請求項7】
請求項4記載の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項4記載の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるタッチパネルセンサーの製造方法。
【請求項9】
上記樹脂基板が、ポリイミド樹脂基板である請求項又は記載の製造方法。
【請求項10】
フレキシブル電子デバイスに適用される積層体であって、
基体と、
上記基体上に形成される剥離層と、
上記剥離層上に形成される樹脂基板と
を有し、上記剥離層が請求項1~3のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物により形成され、かつ、上記樹脂基板と上記剥離層との密着力が、上記剥離層と上記基体との密着力より大きいことを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離層形成用組成物及び剥離層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには曲げるという機能付与や薄型化及び軽量化といった性能が求められている。このことから、従来の重く脆弱で曲げることができないガラス基板に代わって、軽量なフレキシブルプラスチック基板を用いることが求められる。
特に、新世代ディスプレイでは、軽量なフレキシブルプラスチック基板(以下、樹脂基板と表記する)を用いたアクティブマトリクス型フルカラーTFTディスプレイパネルの開発が求められている。この新世代ディスプレイに関する技術は、フレキシブルディスプレイや、フレキシブルスマートフォン、ミラーディスプレイ等の様々な分野への転用が期待されている。
【0003】
そこで、樹脂フィルムを基板とした電子デバイスの製造方法が各種検討され始めており、新世代ディスプレイでは、既存のTFT設備を転用可能なプロセスで製造検討が進められている。例えば、特許文献1、2及び3では、ガラス基板上にアモルファスシリコン薄膜層を形成し、その薄膜層上にプラスチック基板を形成した後に、ガラス面側からレーザーを照射して、アモルファスシリコンの結晶化に伴い発生する水素ガスによりプラスチック基板をガラス基板から剥離する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献4では、特許文献1~3開示の技術を用いて被剥離層(特許文献4において「被転写層」と記載される)をプラスチックフィルムに貼りつけて液晶表示装置を完成させる方法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1~4で開示された方法、特に特許文献4で開示された方法では、レーザー光を透過させるために透光性の高い基板を使用することが必須であること、基板を通過させ、更にアモルファスシリコンに含まれる水素を放出させるのに十分な、比較的大きなエネルギーのレーザー光の照射が必要とされること、レーザー光の照射によって被剥離層に損傷を与えてしまう場合があること、という問題がある。しかも、剥離層が大面積である場合には、レーザー処理に長時間を要するため、デバイス作製の生産性を挙げることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-125929号公報
【文献】特開平10-125931号公報
【文献】国際公開第2005/050754号
【文献】特開平10-125930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フレキシブル電子デバイスの樹脂基板に損傷を与えることなく剥離することができる剥離層を形成するための剥離層形成用組成物及び当該剥離層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、樹脂基板の製造において、基体上に形成される剥離層を、特定の構造を有するポリアミック酸、及び有機溶媒を含む剥離層形成用組成物を用いて形成することにより、基体との優れた密着性、及びフレキシブル電子デバイスとして用いられる樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性とを有する剥離層が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表される構造単位を含む重量平均分子量5,000以上のポリアミック酸と、有機溶剤とを含有する剥離層形成用組成物、
【化1】
[(式中、X1は、フェニル基又はビフェニル基を表し、Z1は、下記式[Z1]で表される基であり、n1は自然数を表す。)
【化2】
(式[Z1]中、
1は、単結合又は結合基を表し、
2は、単結合、炭素数1~15のアルキレン基若しくは-CH2-CH(OH)-CH2-を表すか、又はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、上記環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよく、
3は、単結合又は炭素数1~15のアルキレン基を表し、
4は、単結合を表すか、又はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基、又は炭素数17~30のステロイド骨格を有する2価の有機基を表し、上記環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよく、
5は、ベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよく、
nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、Y5同士は同一でも異なっていてもよく、
6は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフッ化アルコキシ基を表し、
2及びY3におけるアルキレン基、並びに、上記環状基上の置換基又はY6におけるアルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、直鎖状、枝分かれ状、若しくは環状の何れか又はそれらの組み合わせであってもよく、
またY2及びY3におけるアルキレン基、並びに、Y6におけるアルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、結合基同士が隣り合わない限り1~3の結合基で中断されていてもよく、
さらにY2、Y4若しくはY5が2価の環状基を表すか、又はY4がステロイド骨格を有する2価の有機基を表すか、又はY2が-CH2-CH(OH)-CH2-を表すか、又はY2若しくはY3がアルキレン基を表すか、又はY6がアルキル基若しくはフッ化アルキル基を表すとき、該2価の環状基、該ステロイド骨格を有する2価の有機基、該-CH2-CH(OH)-CH2-、該アルキレン基、該アルキル基及び該フッ化アルキル基は、それらに隣接する基と結合基を介して結合していてもよく、
そして上記結合基は、-O-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-NH-、-NHCO-、-NH-CO-O-及び-NH-CO-NH-からなる群から選ばれる基を表し、
但し、Y2~Y6がそれぞれ表すところの単結合、炭素数1~15のアルキレン基、ベンゼン環、シクロヘキサン環、複素環、ステロイド骨格を有する2価の有機基、-CH2-CH(OH)-CH2-、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基及び炭素数1~18のフッ化アルコキシ基の炭素数の合計は6~30である。)]
2. 上記Z1が、下記式[Z2]で表される基である1の剥離層形成用組成物、
【化3】
(式中、Y1は、単結合、-O-又は-NH-を表し、
5は、ベンゼン環及びシクロヘキサン環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、
nは1~3の整数を表し、nが2以上の場合、Y5同士は同一でも異なっていてもよく、
6は、炭素数1~18のアルキル基を表す。)
3. 上記Z1が、下記式[Z3]、[Z4]又は[Z5]で表される基である2の剥離層形成用組成物、
【化4】
(式中、Y6は、互いに独立して、炭素数1~18のアルキル基を表す。)
4. 上記有機溶剤が、式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1つを含む1~3のいずれかの剥離層形成用組成物、
【化5】
(式中、R1及びR2は、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル基を表し、R3は、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基を表し、hは、自然数を表す。)
5. 1~4のいずれかの剥離層形成用組成物を用いて形成される剥離層、
6. 1~4のいずれかの剥離層形成用組成物を基体に塗布し、焼成することを含む剥離層の製造方法、
7. 1~4のいずれかの剥離層形成用組成物を基体上に塗布し、焼成して剥離層を形成する工程、
上記剥離層上に、被剥離体を形成する工程、及び
上記被剥離体を、上記剥離層から剥離する工程
を含む被剥離体の製造方法、
8. 5の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造方法、
9. 5の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるタッチパネルセンサーの製造方法、
10. 上記樹脂基板が、ポリイミド樹脂基板である7又は8の製造方法、
11. フレキシブル電子デバイスに適用される積層体であって、
基体と、
上記基体上に形成される剥離層と、
上記剥離層上に形成される樹脂基板と
を有し、上記剥離層が1~4のいずれかの剥離層形成用組成物により形成され、かつ、上記樹脂基板と上記剥離層との密着力が、上記剥離層と上記基体との密着力より大きいことを特徴とする積層体
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の剥離層形成用組成物を用いることで、基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する剥離層を再現性よく得ることができる。本発明の剥離層形成用組成物を用いることで、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、基体上に形成された樹脂基板や、更にその上に設けられる回路等に損傷を与えることなく、当該回路等とともに当該樹脂基板を、当該基体から分離することが可能となる。したがって、本発明の剥離層形成用組成物は、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造プロセスの簡便化やその歩留り向上等に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明の剥離層形成用組成物は、下記式(1)で表される構造単位を含む重量平均分子量5,000以上のポリアミック酸と、有機溶剤とを含むものである。
【0012】
【化6】
【0013】
上記式(1)において、X1は、フェニル基又はビフェニル基を表し、Z1は、下記式[Z1]で表される基を表し、n1は自然数を表す。
【0014】
【化7】
【0015】
上記式[Z1]において、Y1は単結合又は結合基を表し、Y2は単結合、炭素数1~15のアルキレン基若しくは-CH2-CH(OH)-CH2-を表すか、又はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、上記環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよく、Y3は単結合又は炭素数1~15のアルキレン基を表し、Y4は単結合を表すか、又はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基、又は炭素数17~30であってステロイド骨格を有する2価の有機基を表し、上記環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよく、Y5はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよく、nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、Y5同士は同一でも異なっていてもよく、Y6は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフッ化アルコキシ基を表し、Y2及びY3におけるアルキレン基、並びに、上記環状基上の置換基又はY6におけるアルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、直鎖状、枝分かれ状、若しくは環状の何れか又はそれらの組み合わせであってもよく、またY2及びY3におけるアルキレン基、並びに、Y6におけるアルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、結合基同士が隣り合わない限り1~3の結合基で中断されていてもよく、さらにY2、Y4若しくはY5が2価の環状基を表すか、又はY4がステロイド骨格を有する2価の有機基を表すか、又はY2が-CH2-CH(OH)-CH2-を表すか、又はY2若しくはY3がアルキレン基を表すか、又はY6がアルキル基若しくはフッ化アルキル基を表すとき、該2価の環状基、該ステロイド骨格を有する2価の有機基、該-CH2-CH(OH)-CH2-、該アルキレン基、該アルキル基及び該フッ化アルキル基は、それらに隣接する基と結合基を介して結合していてもよく、そして上記結合基は、-O-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-NH-、-NHCO-、-NH-CO-O-及び-NH-CO-NH-からなる群から選ばれる基を表し、但し、Y2~Y6がそれぞれ表すところの単結合、炭素数1~15のアルキレン基、ベンゼン環、シクロヘキサン環、複素環、ステロイド骨格を有する2価の有機基、-CH2-CH(OH)-CH2-、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基及び炭素数1~18のフッ化アルコキシ基の炭素数の合計は6~30である。
【0016】
ここで、本発明において、剥離層とは、樹脂基板が形成される基体(ガラス基体等)直上に設けられる層である。その典型例としては、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、上記基体と、ポリイミド樹脂やアクリル樹脂等の樹脂からなるフレキシブル電子デバイスの樹脂基板との間に当該樹脂基板を所定のプロセス中において固定するために設けられ、かつ、当該樹脂基板上に電子回路等の形成した後において当該樹脂基板が当該基体から容易に剥離できるようにするために設けられる剥離層が挙げられる。
【0017】
本発明で用いるポリアミック酸は、上記の構造を有する限り特に限定されるものではないが、下記特定の構造を有するジアミンを含むジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させることで得ることができるものである。即ち、ここで得られるポリアミック酸は、側鎖にZ1を有するものである。
【0018】
本発明において、上記Z1は、下記式[Z1]で表される基を指す。
【0019】
【化8】
【0020】
式[Z1]中、Y1は単結合又は結合基を表す。上記結合基は、-O-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-NH-、-NHCO-、-NH-CO-O-及び-NH-CO-NH-からなる群から選ばれる基を表す。
【0021】
式[Z1]中、Y2は単結合、炭素数1~15のアルキレン基又は-CH2-CH(OH)-CH2-を表す。
また、上記Y2としては、ベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基が挙げられ、これら環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0022】
上記炭素数1~15のアルキレン基としては、後述する炭素数1~18のアルキル基のうち炭素数1~15のアルキル基から水素原子を1つ除去した2価の基が挙げられ、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン基等が挙げられる。
【0023】
上記複素環の具体例としては、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、ピラゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、プリン環、チアジアゾール環、ピリダジン環、ピラゾリン環、トリアジン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、ピラジン環、ベンズイミダゾール環、シンノリン環、フェナントロリン環、インドール環、キノキサリン環、ベンゾチアゾール環、フェノチアジン環、オキサジアゾール環、アクリジン環等が挙げられ、より好ましいのは、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラゾリン環、カルバゾール環、ピリダジン環、ピラゾリン環、トリアジン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、ピラジン環、ベンズイミダゾール環が好ましい。
【0024】
上記炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基が挙げられ、上記炭素数1~3のアルコキシ基としては、上記炭素数1~3のアルキル基の具体例として挙げた基に酸素原子-O-が結合した基を挙げることができる。また、上記炭素数1~3のフッ化アルキル基及び炭素数1~3のフッ化アルコキシ基としては、上記炭素数1~3のアルキル基及び炭素数1~3のアルコキシ基のうち任意の水素原子がフッ素原子で置換された基を挙げることができる。
【0025】
上記のベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基のなかでは、合成の容易さの点から、ベンゼン環及びシクロへキサン環から選ばれる2価の環状基が好ましい。
【0026】
上記式[Z1]中、Y3は単結合又は炭素数1~15のアルキレン基を表す。上記炭素数1~15のアルキレン基としては、上記で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0027】
上記式[Z1]中、Y4は単結合を表すか、又はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、これら環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。上記複素環並びに置換基として挙げたアルキル基等は、前述のY2で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0028】
さらに、上記Y4として、炭素数17~30であってステロイド骨格を有する2価の有機基であってもよい。その好ましい例は、コレステリル、アンドロステリル、β-コレステリル、エピアンドロステリル、エゴステリル、エストリル、11α-ヒドロキシメチルステリル、11α-プロゲステリル、ラノステリル、メストラニル、メチルテストロステリル、ノレチステリル、プレグレノロニル、β-シトステリル、スチグマステリル、テストステリル、及び酢酸コレステロ-ルエステル等から選ばれる構造から水素原子を2個取り去った構造を有する2価の有機基である。より具体的には、例えば、下記に示される2価の有機基を挙げることができる。
【0029】
【化9】
(式中、*は結合位置を表す。)
【0030】
これらのなかでも、合成の容易さの点から、上記Y4はベンゼン環及びシクロへキサン環から選ばれる2価の環状基、並びに炭素数17~30であってステロイド骨格を有する2価の有機基であることが好ましい。
【0031】
式[Z1]中、Y5はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。これらのなかでも、Y5はベンゼン環及びシクロへキサン環から選ばれる2価の環状基であることが好ましい。上記複素環並びに置換基として挙げたアルキル基等は、前述のY4で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0032】
式[Z1]中、nは0~4の整数を表し、nが2以上の場合、Y5同士は同一の基であっても異なる基であってもよい。なかでも、原料の入手性や合成の容易さの点から、nは1~3が好ましく、2~3がより好ましい。
【0033】
式[Z1]中、Y6は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフッ化アルコキシ基を表す。
なかでも、上記Y6は炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~10のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基及び炭素数1~10のフッ化アルコキシ基であることが好ましい。より好ましくは、Y6は炭素数1~12のアルキル基及び炭素数1~12のアルコキシ基である。特に好ましくは、Y6は炭素数1~9のアルキル基及び炭素数1~9のアルコキシ基である。
なお、Y4がステロイド骨格を有する2価の有機基である場合は、Y6は水素原子が好ましい。
【0034】
上記式[Z1]中の定義において挙げたアルキレン基、アルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、直鎖状、枝分かれ状、若しくは環状の何れか又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0035】
炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基、n-ヘプチル基、1-メチル-n-ヘキシル基、2-メチル-n-ヘキシル基、3-メチル-n-ヘキシル基、1,1-ジメチル-n-ペンチル基、1,2-ジメチル-n-ペンチル基、1,3-ジメチル-n-ペンチル基、2,2-ジメチル-n-ペンチル基、2,3-ジメチル-n-ペンチル基、3,3-ジメチル-n-ペンチル基、1-エチル-n-ペンチル基、2-エチル-n-ペンチル基、3-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-1-エチル-n-ブチル基、1-メチル-2-エチル-n-ブチル基、1-エチル-2-メチル-n-ブチル基、2-メチル-2-エチル-n-ブチル基、2-エチル-3-メチル-n-ブチル基、n-オクチル基、1-メチル-n-ヘプチル基、2-メチル-n-ヘプチル基、3-メチル-n-ヘプチル基、1,1-ジメチル-n-ヘキシル基、1,2-ジメチル-n-ヘキシル基、1,3-ジメチル-n-ヘキシル基、2,2-ジメチル-n-ヘキシル基、2,3-ジメチル-n-ヘキシル基、3,3-ジメチル-n-ヘキシル基、1-エチル-n-ヘキシル基、2-エチル-n-ヘキシル基、3-エチル-n-ヘキシル基、1-メチル-1-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-2-エチル-n-ペンチル基、1-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、2-メチル-2-エチル-n-ペンチル基、2-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、3-メチル-3-エチル-n-ペンチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基等が挙げられる。
【0036】
炭素数1~18のアルコキシ基としては、上記炭素数1~18のアルキル基に酸素原子(-O-)が結合した基を挙げることができる。その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、c-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、c-ブトキシ、n-ペントキシ、c-ペントキシ、n-ヘキソキシ、n-デシルオキシ、n-ペンタデシルオキシ、n-オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
【0037】
炭素数1~18のフッ化アルキル基としては、上記アルキル基における少なくとも1つの水素原子をフッ素原子で置換した基が挙げられる。その具体例としては、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル、ノナフルオロブチル、4,4,4-トリフルオロブチル、ウンデカフルオロペンチル、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンチル、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル、トリデカフルオロヘキシル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキシル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロヘキシル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル等が挙げられる。
【0038】
炭素数1~18のフッ化アルコキシ基としては、上記炭素数1~18のフッ化アルキル基に酸素原子(-O-)が結合した基が挙げられる。その具体例としては、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、ペンタフルオロエトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ、ヘプタフルオロプロポキシ、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エトキシ、ノナフルオロブトキシ、4,4,4-トリフルオロブトキシ、ウンデカフルオロペンチルオキシ、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンチルオキシ、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルオキシ、トリデカフルオロヘキシルオキシ、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキシルオキシ、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロヘキシルオキシ、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0039】
上記Y2及びY3におけるアルキレン基、並びに、上記環状基上の置換基又はY6におけるアルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、直鎖状、枝分かれ状、若しくは環状の何れか又はそれらの組み合わせであってもよい。
また、Y2及びY3におけるアルキレン基、並びに、Y6におけるアルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基及びフッ素含有アルコキシ基は、結合基同士が隣り合わない限り1~3の結合基で中断されていてもよい。
【0040】
さらに、Y2、Y4若しくはY5が2価の環状基を表すか、又はY4がステロイド骨格を有する2価の有機基を表すか、又はY2が-CH2-CH(OH)-CH2-を表すか、又はY2若しくはY3がアルキレン基を表すか、又はY6がアルキル基若しくはフッ化アルキル基を表すとき、該2価の環状基、該ステロイド骨格を有する2価の有機基、該-CH2-CH(OH)-CH2-、該アルキレン基、該アルキル基及び該フッ化アルキル基は、それらに隣接する基と結合基を介して結合していてもよい。
また上記結合基は、-O-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-NH-CO-O-及び-NH-CO-NH-からなる群から選ばれる基を表す。
【0041】
なお、Y2~Y6がそれぞれ表すところの単結合、炭素数1~15のアルキレン基、ベンゼン環、シクロヘキサン環、複素環、ステロイド骨格を有する2価の有機基、-CH2-CH(OH)-CH2-、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフッ化アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基及び炭素数1~18のフッ化アルコキシ基の炭素数の合計は6~30であり、例えば6~20である。
これらのうち、剥離性等の特性を考慮すると、上記Z1は、炭素数7~18のアルキル基を含む基であることが好ましく、炭素数8~15のアルキル基を含む基であることがより好ましい。
【0042】
上記Z1の好ましい態様としては、例えば、炭素数6~20程度の炭化水素基が挙げられる。炭素数6~20の炭化水素基としては、直鎖状、枝分かれ状若しくは環状の炭素数6~20のアルキル基又は芳香族基を含む炭素数6~20の炭化水素基が挙げられる。
【0043】
上記Z1のより好ましい態様としては、例えば、上記Y1、Y2及びY4が単結合であり、Y3が単結合又は炭素数1~15のアルキレン基であり、nが0であり、Y6が炭素数1~18のアルキル基であり、Y3とY6の炭素数の合計が6~20であるアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、前述のアルキル基のうち、炭素数の合計が6~20であるアルキル基(a-1)が挙げられる。
【0044】
上記Z1の別の好ましい態様としては、例えば、上記Y1~Y4が単結合であり、nが2~3であり、Y5がベンゼン環及びシクロヘキサン環から選ばれる2価の環状基であり、Y6が炭素数1~18のアルキル基である基(a-2)が挙げられる。このような基(a-2)としては、下記式(a-2-1)~(a-2-7)で表される基が挙げられる。
【0045】
【化10】
(式中、Y6は、炭素数1~18のアルキル基である。)
【0046】
上記Z1の更に別の好ましい態様としては、例えば、上記Y1~Y3が単結合であり、Y4が炭素数17~30であってステロイド骨格を有する2価の有機基であり、nが0であり、Y6が水素原子である基(a-3)が挙げられる。このような基(a-3)としては、例えば、下記式(a-3-1)~(a-3-8)で表される基が挙げられる。
【0047】
【化11】
(式中、*は結合位置を表す。)
【0048】
上記Z1としては、剥離性の観点から下記式[Z2]で表される基が特に好ましい。
【化12】
【0049】
式中、Y1は、単結合、-O-又は-NH-を表し、Y5は、ベンゼン環、シクロヘキサン環からなる群から選ばれる2価の環状基を表し、nは1~3の整数を表し、nが2以上の場合、Y5同士は同一でも異なっていてもよく、Y6は、炭素数1~18のアルキル基を表す。
【0050】
更には、上記Z1は、下記式[Z3]、[Z4]及び[Z5]で表される基が特に好ましい。
【0051】
【化13】
【0052】
式中、Y6は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基を表す。
【0053】
上記式(1)で表されるポリアミック酸は、上述したとおり、特定の構造を有するジアミンを含むジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させることで得ることができるものである。以下、本発明で用いるポリアミック酸の合成に使用できるジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物成分について詳細に説明する。
【0054】
上記ポリアミック酸の合成に使用できるジアミンとしては、下記式(B1)で表されるジアミンを挙げることができ、下記式(B1-1)及び式(B1-2)で表されるジアミンが好ましい。本発明では、より弱い力で剥離を可能とする式(B1-2)で表されるジアミンがより好ましい。
【0055】
【化14】
(式中、Z1は上記と同じ。)
【0056】
【化15】
(式中、Z1は上記と同じ。)
【0057】
特に好ましい具体例としては、1,3-ジアミノ-4-〔4-(トランス-4-(トランス-4-n-ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシ〕ベンゼン、1-(トランス-4-ノルマルヘプチルシクロヘキシル)-2,4-ジアミノベンゼン、1-(トランス-4-ノルマルヘプチルシクロヘキシル)-3,5-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノ-4-{4-〔トランス-4-(トランス-4-n-ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル〕フェノキシ}ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-{4-〔4-(トランス-4-n-ペンチルシクロヘキシル)フェニル〕フェノキシ}ベンゼン等が挙げられる。
【0058】
式(1)において、上記したように、X1は、フェニル基又はビフェニル基である。
【0059】
1がとりうるフェニル基及びビフェニル基は、本発明で用いるポリアミック酸を合成する際に、以下のような芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することで合成が可能である。
すなわち、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0060】
中でも、得られる膜の剥離層としての機能を向上させる観点から、下記式(C1)~(C6)のいずれかで示される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記式(C1)~(C5)のいずれかで示される芳香族テトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
【0061】
【化16】
【0062】
本発明で用いる式(1)で表されるモノマー単位を有するポリアミック酸の重量平均分子量は、5,000以上である必要があり、好ましくは15,000以上、より好ましくは20,000以上、より一層好ましくは30,000以上である。一方、本発明で用いるポリアミック酸の重量平均分子量の上限値は、通常2,000,000以下であるが、樹脂組成物の粘度が過度に高くなることを抑制することや柔軟性の高い樹脂薄膜を再現性よく得ること等を考慮すると、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは200,000以下である。
【0063】
本発明で用いるポリアミック酸は、式(1)で表されるモノマー単位を、50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、より一層好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、含有する。このようなモノマー単位の含有量であるポリアミック酸を用いることで、剥離膜に適した特性を持つ樹脂薄膜を再現性よく得ることができる。
【0064】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の剥離層形成用組成物が含むポリアミック酸は、式(1)で表されるモノマー単位のみからなるポリマー、すなわち、式(1)で表されるモノマー単位が100モル%で含有されるポリマーである。このとき、このようなポリアミック酸におけるモノマー単位は、それが式(1)で表される限り、特定の1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。後者の場合、ポリアミック酸が含む式(1)のモノマー単位の数は、好ましくは2~4であり、より好ましくは2~3である。
【0065】
本発明で用いるポリアミック酸は、式(1)で表されるモノマー単位以外にも、他のモノマー単位を含んでもよい。このような他のモノマー単位の含有量は、50モル%未満である必要があり、40モル%未満であることが好ましく、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがより一層好ましく、10モル%未満であることがさらに好ましい。
【0066】
このような他のモノマー単位としては、例えば式(2)のモノマー単位が挙げられる。
【0067】
【化17】
【0068】
式(2)において、X2は、テトラカルボン酸二無水物由来の4価の有機基を表し、Yaは、ジアミン由来の2価の有機基を表し、nは自然数を表す。
【0069】
このような他のモノマー単位を与えるジアミンとしては、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、5-メチル-1,3-フェニレンジアミン、4-メチル-1,3-フェニレンジアミン、2-(トリフルオロメチル)-1,4-フェニレンジアミン、2-(トリフルオロメチル)-1,3-フェニレンジアミン及び4-(トリフルオロメチル)-1,3-フェニレンジアミン、ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジフェニルエーテル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、5-アミノ-2-(3-アミノフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンといったジアミンが挙げられる。
【0070】
また、テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸の様な芳香族テトラカルボン酸、それらの二無水物及びその誘導体等や、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、2,3,5-トリカルボキシ-2-シクロペンタン酢酸、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸、3,5,6-トリカルボキシ-2-ノルボルナン酢酸の様な脂環式テトラカルボン酸、それらの二無水物及びその誘導体等や、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸の様な脂肪族テトラカルボン酸、その二無水物及びその誘導体等の化合物を挙げることができる。さらに、上述のフッ素を有する有機基を持つ手テトラカルボン酸成分としては、トリフルオロメチル基やヘキサフルオロイソプロピリデン基を有する、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロイソプロピリデン、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸、それらの二無水物及びその誘導体等の化合物が挙げられるが、これら化合物に限定されるものではない。
また、上記テトラカルボン酸成分としては、テトラカルボン酸及びその誘導体から1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。
【0071】
本発明の好ましい態様によれば、本発明で用いるポリアミック酸は、酸二無水物としての芳香族テトラカルボン酸二無水物と、式(B1)で表されるジアミンを含むジアミン成分とを反応させることで得ることができる。
【0072】
上記反応において、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、上記式(B1)で表されるジアミンを含むジアミン成分の仕込み比(モル比)は、所望するポリアミック酸の分子量やモノマー単位の割合等を勘案して適宜設定することができるが、ジアミン成分1に対して、通常、酸無水物成分が0.7~1.3程度とすることができ、好ましく0.8~1.2程度である。
【0073】
上述した反応に用いる有機溶媒は、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されないが、その具体例としては、m-クレゾール、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-イソプロポキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-sec-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。なお、有機溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
特に、反応に用いる有機溶媒は、上述したジアミン、テトラカルボン酸二無水物、ジカルボン酸、ポリアミック酸及びポリアミドをよく溶解することから、式(S1)で表されるアミド類、(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0075】
【化18】
【0076】
式中、R1及びR2は、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル基を表す。R3は、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基を表す。hは、自然数を表すが、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0077】
炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1又は2のアルキル基がより好ましい。
【0078】
反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよく、通常0~100℃程度であるが、得られるポリアミック酸のイミド化を防いでポリアミック酸単位の高含有量を維持するためには、好ましくは0~70℃程度であり、より好ましくは0~60℃程度であり、より一層好ましくは0~50℃程度である。
反応時間は、反応温度や原料物質の反応性に依存するため一概に規定できないが、通常1~100時間程度である。
【0079】
以上説明した方法によって、目的とするポリアミック酸を含む反応溶液を得ることができる。
【0080】
本発明においては、通常、上記反応溶液をろ過した後、そのろ液をそのまま、又は希釈若しくは濃縮して得られる溶液を、本発明の剥離層形成用組成物として用いることができる。このようにすることで、得られる剥離層の密着性、剥離性等の悪化の原因となり得る不純物の混入を低減できるだけでなく、効率よく剥離層形成用組成物を得ることができる。
希釈や濃縮に用いる溶媒は、特に限定されるものではなく、例えば、上記反応の反応溶媒の具体例と同様のものが挙げられ、それらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
上記具体例の中でも、平坦性の高い樹脂薄膜を再現性よく得ることを考慮すると、用いる溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトンが好ましい。
【0082】
ポリアミック酸の剥離層形成用組成物の総質量に対する濃度は、作製する薄膜(剥離層)の厚みや組成物の粘度等を勘案して適宜設定するものではあるが、通常0.5~30質量%程度、好ましくは5~25質量%程度である。
【0083】
また、剥離層形成用組成物の粘度は、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定するものであるが、特に0.05~5μm程度の厚さの樹脂薄膜を再現性よく得ること目的とする場合、通常、25℃で10~10,000mPa・s程度、好ましくは20~1,000mPa・s程度、より好ましくは、20~200mPa・s程度である。ここで、粘度は、市販の液体の粘度測定用粘度計を使用して、例えば、JIS K7117-2に記載の手順を参照して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。好ましくは、粘度計としては、円錐平板型(コーンプレート型)回転粘度計を使用し、好ましくは同型の粘度計で標準コーンロータとして1°34’×R24を使用して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。このような回転粘度計としては、例えば、東機産業株式会社製TVE-25Hが挙げられる。
【0084】
なお、本発明に係る剥離層形成用組成物は、ポリアミック酸と有機溶媒のほかに、種々の成分を有してもよい。例えば、架橋剤(以下、架橋性化合物ともいう。)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0085】
上記架橋性化合物としては、例えば、エポキシ基を2個以上含有する化合物、アミノ基の水素原子がメチロール基、アルコキシメチル基又はその両方で置換された基を有する、メラミン誘導体、ベンゾグアナミン誘導体又はグリコールウリルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
以下に、架橋性化合物の具体例を挙げるが、これに限定されない。
エポキシ基を2個以上含有する化合物としては、エポリードGT-401、エポリードGT-403、エポリードGT-301、エポリードGT-302、セロキサイド2021、セロキサイド3000(以上、株式会社ダイセル製)等のシクロヘキセン構造を有するエポキシ化合物;エピコート1001、エピコート1002、エピコート1003、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009、エピコート1010、エピコート828(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製(現:三菱化学株式会社製、jER(登録商標)シリーズ))等のビスフェノールA型エポキシ化合物;エピコート807(ジャパンエポキシレジン株式会社製)等のビスフェノールF型エポキシ化合物;エピコート152、エピコート154(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製(現:三菱化学株式会社製、jER(登録商標)シリーズ))、EPPN201、EPPN202(以上、日本化薬株式会社製)等のフェノールノボラック型エポキシ化合物;ECON-102、ECON-103S、ECON-104S、ECON-1020、ECON-1025、ECON-1027(以上、日本化薬株式会社製)、エピコート180S75(ジャパンエポキシレジン株式会社(現:三菱化学株式会社製、jER(登録商標)シリーズ)製)等のクレゾールノボラック型エポキシ化合物;V8000-C7(DIC株式会社製)等のナフタレン型エポキシ化合物;デナコールEX-252(ナガセケムテックス株式会社製)、CY175、CY177、CY179、アラルダイトCY-182、アラルダイトCY-192、アラルダイトCY-184(以上、BASF社製)、エピクロン200、エピクロン400(以上、DIC株式会社製)、エピコート871、エピコート872(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製(現:三菱化学株式会社製、jER(登録商標)シリーズ))、ED-5661、ED-5662(以上、セラニーズコーティング株式会社製)等の脂環式エポキシ化合物;デナコールEX-611、デナコールEX-612、デナコールEX-614、デナコールEX-622、デナコールEX-411、デナコールEX-512、デナコールEX-522、デナコールEX-421、デナコールEX-313、デナコールEX-314、デナコールEX-312(以上、ナガセケムテックス株式会社製)等の脂肪族ポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
【0087】
アミノ基の水素原子がメチロール基、アルコキシメチル基又はその両方で置換された基を有する、メラミン誘導体、ベンゾグアナミン誘導体又はグリコールウリルとしては、トリアジン環1個当たりメトキシメチル基が平均3.7個置換されているMX-750、トリアジン環1個当たりメトキシメチル基が平均5.8個置換されているMW-30(以上、株式会社三和ケミカル製);サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350、サイメル370、サイメル771、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712等のメトキシメチル化メラミン;サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル212、サイメル253、サイメル254等のメトキシメチル化ブトキシメチル化メラミン;サイメル506、サイメル508等のブトキシメチル化メラミン;サイメル1141のようなカルボキシ基含有メトキシメチル化イソブトキシメチル化メラミン;サイメル1123のようなメトキシメチル化エトキシメチル化ベンゾグアナミン;サイメル1123-10のようなメトキシメチル化ブトキシメチル化ベンゾグアナミン;サイメル1128のようなブトキシメチル化ベンゾグアナミン;サイメル1125-80のようなカルボキシ基含有メトキシメチル化エトキシメチル化ベンゾグアナミン;サイメル1170のようなブトキシメチル化グリコールウリル;サイメル1172のようなメチロール化グリコールウリル(以上、三井サイアナミッド株式会社製(現:日本サイテックインダストリーズ株式会社)等が挙げられる。
【0088】
以上説明した本発明の剥離層形成用組成物を基体に塗布して加熱することで、高い耐熱性と、適度な柔軟性と、適度な線膨張係数とを有するポリイミドからなる薄膜(剥離層)を得ることができる。
【0089】
基体(基材)としては、例えば、ガラス、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属(シリコンウェハ等)、木材、紙、スレート等が挙げられ、ガラス又はシリコンウェハを含むものが好ましい。特に、本発明に係る剥離層形成用組成物から得られる剥離層がそれに対する十分な密着性を有することから、ガラスがより好ましい。なお、基体表面は、単一の材料で構成されていてもよく、2以上の材料で構成されていてもよい。2以上の材料で基体表面が構成される態様としては、基体表面のうち、ある範囲はある材料で構成され、その余の表面はその他の材料で構成されている態様、基体表面全体にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状にある材料がその他の材料中に存在する態様等がある。
【0090】
塗布する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられる。
【0091】
また、本発明の剥離層形成用組成物中に含むポリアミック酸をイミド化させる方法としては、基体上に塗布した組成物をそのまま加熱する熱イミド化、及び、組成物中に触媒を添加し加熱する触媒イミド化が挙げられる。
【0092】
ポリアミック酸の触媒イミド化は、本発明の剥離層形成用組成物中に触媒を添加し、攪拌することにより触媒添加組成物を調製した後、基体へ塗布、加熱することで樹脂薄膜(剥離層)が得られる。触媒の量はアミド酸基の0.1~30モル倍、好ましくは1~20モル倍である。また触媒添加組成物中に脱水剤として無水酢酸等を加えることもでき、その量はアミド酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。
【0093】
イミド化触媒としては三級アミンを用いることが好ましい。三級アミンとしては、ピリジン、置換ピリジン類、イミダゾール、置換イミダゾール類、ピコリン、キノリン、イソキノリンなどが好ましい。
【0094】
熱イミド化及び触媒イミド化時の加熱温度は、通常50~550℃の範囲内で適宜決定されるが、好ましくは200℃以上、また、好ましくは450℃以下である。加熱温度をこのようにすることで、得られる膜の脆弱化を防ぎつつ、イミド化反応を十分に進行させることが可能となる。加熱時間は、加熱温度によって異なるため一概に規定できないが、通常5分~5時間である。また、イミド化率は、50~100%の範囲であればよい。
【0095】
本発明における加熱態様の好ましい一例としては、得られる樹脂薄膜の耐熱性と使用装置の汎用性を考慮すると、塗布した組成物を50~150℃で5分間~2時間加熱した後に、そのまま段階的に加熱温度を上昇させて最終的に200~300℃で30分間~2時間加熱する手法が挙げられる。特に、80~120℃で5~30分間、次いで、230~300℃で30分間~1時間加熱することが好ましい。
【0096】
加熱に用いる器具としては、例えば、ホットプレート、オーブン等が挙げられる。加熱雰囲気は、空気下であっても不活性ガス下であってもよく、また、常圧下であっても減圧下であってもよい。
【0097】
剥離層の厚さは、通常0.01~10μm程度、好ましくは0.05~5μm程度であり、加熱前の塗膜の厚さを調整して所望の厚さの樹脂薄膜を実現する。
【0098】
以上説明した剥離層は、基体、特にガラスの基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する。それ故、本発明に係る剥離層は、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、当該デバイスの樹脂基板に損傷を与えることなく、当該樹脂基板を、その樹脂基板上に形成された回路等とともに、基体から剥離させるために好適に用いることができる。
【0099】
以下、本発明の剥離層を用いたフレキシブル電子デバイスの製造方法の一例について説明する。
本発明に係る剥離層形成用組成物を用いて、前述の方法によって、ガラス基体上に剥離層を形成する。この剥離層の上に、樹脂基板を形成するための樹脂溶液を塗布し、この塗膜を加熱することで、本発明に係る剥離層を介して、ガラス基体に固定された樹脂基板を形成する。この際、剥離層を全て覆うようにして、剥離層の面積と比較して大きい面積で、樹脂基板を形成する。上記樹脂基板としては、フレキシブル電子デバイスの樹脂基板として代表的なポリイミド樹脂やアクリル樹脂からなる樹脂基板等が挙げられ、それを形成するための樹脂溶液としては、ポリイミド溶液、ポリアミック酸溶液及びアクリルポリマー溶液が挙げられる。当該樹脂基板の形成方法は、常法に従えばよい。
【0100】
次に、本発明に係る剥離層を介して基体に固定された当該樹脂基板の上に、所望の回路を形成し、その後、例えば剥離層に沿って樹脂基板をカットし、この回路とともに樹脂基板を剥離層から剥離して、樹脂基板と基体とを分離する。この際、基体の一部を剥離層とともにカットしてもよい。
【0101】
この場合、被剥離体は、一層であっても複数層であってもよい。種々のデバイスを作製するには、複数層であるのが現実的である。
なお、被剥離体層のうち剥離層の直上の層(通常は、樹脂基板)は、用いる剥離層に依存するが、該剥離層との剥離性を良いもの、換言すると用いる剥離層との密着性が良くないもの、を用いるのがよい。
【0102】
また、本発明は、以下の被剥離体の製造方法を提供する。
本発明の剥離層形成用組成物を基体上に塗布し、焼成して剥離層を形成する工程、
上記剥離層上に、被剥離体を形成する工程、及び
上記被剥離体を、上記剥離層から剥離する工程
を含む被剥離体の製造方法を提供する。
【0103】
上記の製造方法において、剥離層を形成する際の焼成条件は、上述した条件を採用できる。
また、「被剥離体」は一層であっても複数層であってもよい。なお、「被剥離体」のうち剥離層の直上の層(通常は、樹脂基板)は、用いる剥離層に依存するが、該剥離層との剥離性を良いもの、換言すると用いる剥離層との密着性が良くないもの、であるのがよい。
【0104】
更に、本発明は、フレキシブル電子デバイスに適用される積層体であって、
基体と、
上記基体上に形成される剥離層と、
上記剥離層上に形成される樹脂基板と
を有し、上記剥離層が本発明の剥離層形成用組成物により形成され、かつ、上記樹脂基板と上記剥離層との密着力が、上記剥離層と上記基体との密着力より大きいことを特徴とする積層体を提供する。
なお、ここでいう密着力の大きさは、例えば、後述する実施例で示したクロスカット試験等により確認することができる。
【実施例
【0105】
以下、合成例、比較合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
[1]化合物の略語
NMP:N-メチルピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
PCH7AB:1-(トランス-4-ノルマルヘプチルシクロヘキシル)-2,4-ジアミノベンゼン
m-PCH7AB:1-(トランス-4-ノルマルヘプチルシクロヘキシル)-3,5-ジアミノベンゼン
PBCH5DAB:1,3-ジアミノ-4-{4-〔トランス-4-(トランス-4-n-ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル〕フェノキシ}ベンゼン
BPTP:ビス(4-アミノフェノキシ)テレフタレート
CBDA:シクロブタン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BODAxx:ビシクロ[2.2.2]オクタ-2-exo,3-exo,5-exo,6-exo-テトラカルボン酸-2,3:5,6-二無水物
【0106】
[2]重量平均分子量及び分子量分布の測定
ポリマーの重量平均分子量(以下Mwと略す)及び分子量分布は、日本分光株式会社製GPC装置(カラム:Shodex(登録商標) KF803L及びKF805L)を用い、溶出溶媒としてジメチルホルムアミドを流量1mL/分、カラム温度50℃の条件で測定した。なお、Mwはポリスチレン換算値とした。
【0107】
[3]ポリマーの合成
<合成例S1 フィルム用ポリイミド(S1)の合成>
窒素の注入口/排出口、メカニカルスターラー及び冷却器を取り付けた250mLの反応三口フラスコ内に、TFMB 25.61g(0.08mol)を入れた。その後、γ-ブチロラクトン173.86gを添加し、攪拌を開始した。TFMBが溶媒中に完全に溶解した後、その後すぐに、攪拌したBODAxx10g(0.04mol)、CBDA 7.84g(0.04mol)及びγ-ブチロラクトン43.4gを添加し、窒素下140℃に加熱した。その後、1-エチルピペリジン0.348gを溶液内に添加し、窒素下で7時間180℃に加熱した。最終的に加熱を停止し、反応溶液を10%まで希釈し、終夜攪拌を維持した。ポリイミド反応溶液をメタノール2,000g中に添加して30分間攪拌し、その後ポリイミド固体をろ過することによりポリイミドを精製した後、該ポリイミド固体をメタノール2,000g中で30分間攪拌し、ポリイミド固体をろ過した。このポリイミド固体の攪拌及びろ過の精製手順を3回繰り返した。ポリイミド中のメタノール残留物を150℃下の真空オーブンの8時間の乾燥により除去し、最終的に、乾燥した31.16gのポリイミドS1を得たが、ポリイミドS1の質量パーセント収率は74%(Mw=169,802、Mn=55,308)であった。
【0108】
<合成例L1 ポリアミック酸(L1)の合成>
PBCH5DAB 4.022g(9.253mmol)をNMP 44gに溶解し、PMDA 1.977g(9.068mmol)を添加した後、窒素雰囲気下、23℃で2時間反応させた。得られたポリマーのMwは10,400、分子量分布1.89であった。
【0109】
<合成例L2 ポリアミック酸(L2)の合成>
m-PCH7AB 3.842g(10.10mmol)をNMP 44gに溶解し、PMDA 2.158g(9.8934mmol)を添加した後、窒素雰囲気下、23℃で2時間反応させた。得られたポリマーのMwは173,900、分子量分布4.19であった。
【0110】
<合成例L3 ポリアミック酸(L3)の合成>
PCH7AB 3.842g(10.10mmol)をNMP 44gに溶解し、PMDA 2.158g(9.8934mmol)を添加した後、窒素雰囲気下、23℃で2時間反応させた。得られたポリマーのMwは12,100、分子量分布1.85であった。
【0111】
<合成例L4 ポリアミック酸(L4)の合成>
PCH7AB 1.974g(5.1883mmol)とBPTP 1.807g(5.1883mmol)をNMP 44gに溶解し、PMDA2.218g(10.17mmol)を添加した後、窒素雰囲気下、23℃で2時間反応させた。得られたポリマーのMwは53,700、分子量分布1.89であった。
【0112】
<比較合成例 ポリアミック酸(HL1)の合成>
TFMB 2.86g(0.0089mol)をNMP 35.2gに溶解し、CBDA 1.944g(0.00991mol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは69,200、分子量分布2.2であった。得られた溶液は、PGMEに可溶であった。
【0113】
[4]樹脂基板形成用組成物の調製
合成例S1で得られたポリイミドS1をγ―ブチロラクトンに15質量%となるように溶解させ、樹脂基板形成用組成物として用いた。
【0114】
[5]剥離層形成用組成物の調製
[実施例1-1]
合成例L1で得られた反応液に、BCSとNMPを加え、ポリマー濃度が5質量%、BCSが20質量%となるように希釈し、剥離層形成用組成物L1を得た。
【0115】
[実施例1-2~1-4]
合成例L1で得られた反応液の代わりに、それぞれ合成例L2~L4で得られた反応液を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、剥離層形成用組成物L2~L4を得た。
【0116】
[比較例1-1]
MA-STゾル(日産化学工業株式会社製のシリカゾル)20gにγ-ブチロラクトン14gを加え、エバポレータでメタノールを減圧留去し、シリカゾルのγ-ブチロラクトン溶液20gを作製した。一方、合成例S1で得られたポリイミドS1 3gをγ-ブチロラクトン溶液67gで溶解させ、ポリイミドS1のγ-ブチロラクトン溶液を作製した。その後、この2つの溶液を23℃で2時間攪拌し、剥離層形成用組成物HL1を得た。
【0117】
[6]剥離層及び樹脂基板の作製
[実施例2-1]
スピンコータ(条件:回転数3,000rpmで約30秒)を用いて、実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1を、ガラス基体としての100mm×100mmガラス基板(以下同様)の上に塗布した。
そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて120℃で5分間加熱し、その後、オーブンを用いて、空気存在下、240℃で60分間加熱し、ガラス基板上に厚さ約0.1μmの剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
【0118】
バーコーター(ギャップ:250μm)を用いて、ガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物を塗布した。そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて120℃で10分間加熱し、その後、オーブンを用いて、空気存在下、250℃で60分間加熱し、剥離層上に厚さ約20μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0119】
[実施例2-2~2-4]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、それぞれ実施例1-2~1-4で得られた剥離層形成用組成物L2~L4を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付きガラス基板を作製した。
【0120】
[比較例2-1]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、比較例1-1で得られた剥離層形成用組成物HL1を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付きガラス基板を作製した。
【0121】
[7]剥離性の評価
上記実施例2-1~2-4及び比較例2-1で得られた剥離層付きガラス基板について、剥離層とガラス基板との剥離性を、樹脂基板・剥離層付きガラス基板について、剥離層と樹脂基板との剥離性を、下記手法にて確認した。
<樹脂薄膜のクロスカット試験剥離性評価>
実施例2-1~2-4及び比較例2-1で得られた剥離層付きガラス基板上の剥離層をクロスカット(縦横1mm間隔、以下同様)し、100マスカットを行った。すなわち、このクロスカットにより、1mm四方のマス目を100個形成した。
そして、この100マスカット部分に粘着テープを張り付けて、そのテープを剥がし、以下の基準(5B~0B,B,A,AA)に基づき、剥離の程度を評価した。結果を表1に示す。
<判定基準>
5B:0%剥離(剥離なし)
4B:5%未満の剥離
3B:5~15%未満の剥離
2B:15~35%未満の剥離
1B:35~65%未満の剥離
0B:65%~80%未満の剥離
B:80%~95%未満の剥離
A:95%~100%未満の剥離
AA:100%剥離(すべて剥離)
【0122】
<樹脂基板の初期剥離力の評価>
実施例2-1~2-4及び比較例2-1で得られた樹脂基板・剥離層付きガラス基板の樹脂基板を、カッターを用いて25mm幅の短冊状にカットした。そして、カットした樹脂基板の先端にセロハンテープを張り付け、これを試験片とした。この試験片を、(株)アトニック製プッシュプルテスターを用いて剥離角度が90°となるように剥離試験を行い、下記の基準(5B~0B,B,A,AA)に基づいて剥離力を評価した。結果を表1に示す。
<判定基準>
5B:0%剥離(剥離なし)
4B:5%未満の剥離
3B:5~15%未満の剥離
2B:15~35%未満の剥離
1B:35~65%未満の剥離
0B:65%~80%未満の剥離
B:80%~95%未満の剥離
A:95%~100%未満の剥離
AA:100%剥離(すべて剥離)
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示されるとおり、実施例2~1~2-4の剥離層は、ガラス基板との密着性に優れる一方で、樹脂基板との剥離性にも優れることが確認された。
一方、比較例2-1の剥離層は、ガラス基板との密着性に優れるが、樹脂基板との剥離性に劣っていることが確認された。