(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ガラス板構成体
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20220621BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H04R7/02 Z
H04R7/04
(21)【出願番号】P 2019546995
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2018037116
(87)【国際公開番号】W WO2019070004
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2017194637
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 研人
(72)【発明者】
【氏名】秋山 順
(72)【発明者】
【氏名】田原 慎哉
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-100223(JP,A)
【文献】特開平06-325868(JP,A)
【文献】特開2012-079445(JP,A)
【文献】特開2009-204713(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175682(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0108661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C03C 27/00-29/00
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の板と、
前記少なくとも2枚の板のうち、隣接する2枚の板の間に保持された液体層と、
前記液体層を封止するように、前記2枚の板の周囲の少なくとも一部に設けられたシール材と、を備え、
前記2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であるガラス板構成体であって、
前記2枚の板の内面の、前記シール材が配置される部分を除く全面が、前記液体層に接する状態で対向しており、
前記液体層と前記シール材の光屈折率差が、0.015以下である、ガラス板構成体。
【請求項2】
前記光屈折率差が、0.010以下である、請求項1に記載のガラス板構成体。
【請求項3】
前記シール材が、前記2枚の板の周囲の全体に設けられる、請求項1または2に記載のガラス板構成体。
【請求項4】
前記2枚の板の端面と前記シール材の端面が、単一面を構成する、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項5】
前記2枚の板のうち少なくとも1枚の板の周囲の少なくとも一部の端面が、テーパー面を有し、
前記シール材の端面が、前記板のテーパー面と連続した曲面を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項6】
前記ガラス板の比弾性率が、2.5×10
7m
2/s
2以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項7】
前記液体層の25℃における粘性係数が1×10
-4~1×10
3Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mである、請求項1から6のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項8】
前記液体層の厚みが、
前記2枚の板の合計の厚みが1mm以下の場合は、前記2枚の板の合計の厚みの1/10以下であり、
前記2枚の板の合計の厚みが1mm超の場合は、100μm以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項9】
物理強化ガラス板および化学強化ガラス板の少なくともいずれか一方のガラス板を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項10】
前記2枚の板の厚みが、それぞれ0.01~15mmである、請求項1から9のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項11】
前記液体層がジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1から10のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項12】
前記シール材が、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン共重合体系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、線状ポリイミド系樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、反応性アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1から11のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項13】
前記液体層と前記シール材との色差ΔE*abは、5%以下である、請求項1から12のいずれか1項に記載のガラス板構成体。
【請求項14】
請求項1から
13のいずれか1項に記載のガラス板構成体および、前記ガラス板構成体の片面または両面に設置された少なくとも1つの振動子を含む振動板。
【請求項15】
請求項1から
13のいずれか1項に記載のガラス板構成体または請求項
14に記載の振動板を用いた開口部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な視認性および音響性能を有するガラス板構成体に関し、また、ガラス板構成体を用いた振動板および開口部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、スピーカーまたはマイクロフォン用の振動板としてコーン紙や樹脂が用いられている。これらの材料は損失係数が大きく、共振による振動が生じにくいことから、可聴域における音の再現性能が良いと考えられている。しかし、これらは何れも材料における音速値が低いため、高周波で励振した際に、音波周波数に材料の振動が追従しにくく、分割振動が発生しやすい。そのため特に高周波数領域において所望の音圧が出にくい。
【0003】
近年、特にハイレゾ(ハイレゾリューション)音源等で再生が求められる帯域は20kHz以上の高周波数領域であり、ヒトの耳では聞こえにくい帯域とされるものの、臨場感が強く感じられるなど、より感情に迫るものがあることから、該帯域の音波振動を忠実に再現できることが望ましい。
【0004】
そこで、コーン紙や樹脂に代えて、金属、セラミックス、ガラス等の、材料に伝播する音速が速い素材を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Olivier Mal et. al.,“A Novel Glass Laminated Structure for Flat Panel Loudspeakers”AES Convention 124,7343.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スピーカー用の振動板として、1枚のガラスを用いたものや(特許文献1)、ガラスを2枚のガラス板の間にブチラール系樹脂層を有する合わせガラスが知られている(非特許文献1)。
【0008】
特に非特許文献1の様な合わせガラスの如きガラス板構成体を、ディスプレイ等の視認領域に配置することにより、当該視認領域から音を出すことができる。このような態様においては、ガラス板構成体に封止された液体層と、封止のためのシール材の境界をできるだけ目立たたなくすることが望ましい。
【0009】
そこで本発明では、ディスプレイなどに適用された場合に、好ましい視認性を実現するガラス板構成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラス板構成体は、少なくとも2枚の板と、前記少なくとも2枚の板のうち、隣接する2枚の板の間に保持された液体層と、前記液体層を封止するように、前記2枚の板の周囲の少なくとも一部に設けられたシール材と、を備え、前記2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であるガラス板構成体であって、前記液体層と前記シール材の光屈折率差が、0.015以下である。
【0011】
本発明の振動板は、前記ガラス板構成体および、前記ガラス板構成体の片面または両面に設置された少なくとも1つの振動子を含む。
【0012】
本発明の開口部材は、前記ガラス板構成体または前記振動板を用いている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラス板構成体によれば、液体層とシール材の光屈折率差を0.015以下に抑えることにより、両者の境界面の視認を困難にし、あたかも一枚板のガラスに見えるガラス板構成体を実現できる。また、ガラス板構成体の視認領域(の全面)に設けても、視認性を妨げることはない。そして、境界を隠すための縁を設ける必要がなくなり、縁なしガラス板構成体を実現しやすくなり、音響特性のみならずデザインの向上、デザインの自由度の向上、コストの削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るガラス板構成体の一例を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA-A断面図。
【
図2】本発明に係るガラス板構成体の第1の板上に塗布された液体層とシール材の一実施形態を示す概念図。
【
図3】(a)、(b)は、本発明に係るガラス板構成体の製造工程を示す模式図。
【
図4】本発明に係る液体層の種類と波長毎の屈折率を示す表。
【
図5】本発明に係るシール材の種類と波長毎の屈折率を示す表。
【
図6】本発明に係るガラス板構成体のシール材と液体層の境界の視認性の評価を示す実施例データ表。
【
図7】(a)~(f)は、本発明に係るガラス板構成体の種々の形状を示す説明図。
【
図8】本発明に係るガラス板構成体の端面形状を示す断面図、(a)は第1の例、(b)は第2の例、(c)は第3の例。
【
図9】本発明に係る液剤とシール材の組合せを示す表。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態に基づいて、本発明の詳細およびその他の特徴について説明する。なお、以下の図面において、同一又は対応する部材又は部品には、同一又は対応する符号を付すことにより、重複する説明を省略する。また、図面は、特に指定しない限り、部材又は部品間の相対比を示すことを目的としない。よって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、適宜選択可能である。
【0016】
また本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0017】
(ガラス板構成体の概要)
本発明のガラス板構成体は、少なくとも2枚の板と、前記少なくとも2枚の板のうち、隣接する2枚の板の間に保持された液体層と、液体層を封止するように、2枚の板の周囲の少なくとも一部に設けられたシール材と、を備え、2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であるガラス板構成体であって、液体層とシール材の光屈折率差が、0.015以下である。
【0018】
ガラス板構成体の透過率を高めるために、屈折率を整合させることも有用である。即ち、2枚のガラス板構成体に保持されている液体層とシール材との屈折率は近いほど、両者の境界面における反射及び干渉が防止されることから好ましく、ガラス板の視認性を妨げない。そして、液体層とシール材との光屈折率差が、0.015以下が好ましく、0.01以下であることがより好ましい。
【0019】
封止した液体層(液剤)とシール材が異なる物質で、両者の光屈折率に差があり、これがガラス板構成体の一例であるディスプレイの視認領域(の全面)に設けられると、背面から透過した光により、両者の境界が見えてしまい、視認性が阻害される。尚、液体層(液剤)及びシール材の色差はΔE*abが5%以下であることが好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下が特に好ましい。液体層(液剤)及びシール材のヘイズ値の差の割合は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下が特に好ましい。または、ヘイズの絶対値の差の値が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特により好ましい。
【0020】
本発明のガラス板構成体は、両者の屈折率の差を所定値以下に抑えることにより、両者の境界面の視認を困難にすることができる。また、ガラス板構成体の視認領域(の全面)に設けても、視認性を妨げることはない。そして、境界を隠すための縁を設ける必要がなくなり、縁なしガラス板構成体を実現しやすくなり、音響特性のみならずデザインの向上、デザインの自由度の向上、コストの削減が可能となる。
【0021】
また、ガラス板構成体の直線透過率が高いと、透光性の部材としての適用が可能となる。そのため、日本工業規格(JIS R3106-1998)に準拠して求められた可視光透過率が60%以上であることが好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。なお、透光性の部材としては、例えば透明スピーカー、透明マイクロフォン、建築、車両用の開口部材等の用途が挙げられる。
【0022】
2枚の板の間に保持されたシール材が、2枚の板の周囲の全体に設けられている。この構成により、シール材の内側に保持される液体層が漏れることがなく、ガラス板構成体の品質が向上する。尚、ガラス板構成体は、3枚以上の板を有してもよく、その場合においても隣接する2枚の板の間に液体層がシール材により保持される。
【0023】
また、2枚の板の端面とシール材の端面が、単一面を構成することが好ましい。これにより、両者の端面が均一になるため好ましい外観のあるガラス板構成体を提供できる。
【0024】
さらに、2枚の板のうち少なくとも1枚の板の周囲の少なくとも一部の端面が、テーパー面を有し、シール材の端面が、板のテーパー面と連続した曲面を有している。この構成により、板状体の端部における鋭利な角を除去でき安全性が図られ、シール材と板との接触面積が増大するためシール性能を向上させることができる。
【0025】
本発明に係るガラス板構成体は、25℃における損失係数が1×10-2以上であり、かつ、少なくとも1枚の板の板厚方向の縦波音速値が4.0×103m/s以上であることが好ましい。なお、損失係数が大きいとは振動減衰能が大きいことを意味する。
【0026】
損失係数とは、半値幅法により算出したものを用いる。材料の共振周波数f、振幅hであるピーク値から-3dB下がった点(すなわち、最大振幅-3[dB]における点)の周波数幅をWとしたときに、{W/f}で表される値を損失係数と定義する。
共振を抑えるには、損失係数を大きくすればよく、すなわち、振幅hに対し相対的に周波数幅Wは大きくなり、ピークがブロードとなることを意味する。
【0027】
損失係数は材料等の固有の値であり、例えばガラス板単体の場合にはその組成や相対密度等によって異なる。なお、損失係数は共振法などの動的弾性率試験法により測定することができる。
【0028】
縦波音速値とは、物体中を縦波が伝搬する速度をいう。縦波音速値は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により測定することができる。
【0029】
(液体層)
本発明に係るガラス板構成体は、少なくとも2枚(少なくとも一対)の板の間に液体からなる層(液体層)を設けることで、高い損失係数を実現することができる。中でも、液体層の粘性や表面張力を好適な範囲にすることで、より損失係数を高くすることができる。これは、一対の板を、粘着層を介して設ける場合とは異なり、一対の板が固着せず、各々の板としての振動特性を持ち続けることに起因するものと考えられる。
【0030】
液体層は25℃における粘性係数が1×10-4~1×103Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mであることが好ましい。粘性が低すぎると振動を伝達しにくくなり、高すぎると液体層の両側に位置する一対の板同士が固着して1枚の板としての振動挙動を示すようになることから、共振による振動が減衰されにくくなる。また、表面張力が低すぎると板間の密着力が低下し、振動を伝達しにくくなる。表面張力が高すぎると、液体層の両側に位置する一対の板同士が固着しやすくなり、1枚の板としての振動挙動を示すようになることから、共振による振動が減衰されにくくなる。
【0031】
液体層の25℃における粘性係数は1×10-3Pa・s以上がより好ましく、1×10-2Pa・s以上がさらに好ましい。また、1×102Pa・s以下がより好ましく、1×10Pa・s以下がさらに好ましい。
液体層の25℃における表面張力は17mN/m以上がより好ましく、30mN/m以上がさらに好ましい。
【0032】
液体層の粘性係数は回転粘度計などにより測定することができる。液体層の表面張力はリング法などにより測定することができる。
【0033】
液体層は、蒸気圧が高すぎると液体層が蒸発してガラス板構成体としての機能を果たさなくなるおそれがある。そのため、液体層は、25℃、1atmにおける蒸気圧が1×104Pa以下が好ましく、5×103Pa以下がより好ましく、1×103Pa以下がさらに好ましい。
【0034】
液体層の厚みは薄いほど、ガラス構成体の剛性を高く維持できるおよび振動伝達の点から好ましい。具体的には、2枚の板の合計の厚みが1mm以下の場合は、液体層の厚みは、2枚の板の合計の厚みの1/10以下が好ましく、1/20以下がより好ましく、1/30以下がさらに好ましく、1/50以下がよりさらに好ましく、1/70以下がことさらに好ましく、1/100以下が特に好ましい。
また、2枚の板の合計の厚みが1mm超の場合は、液体層の厚みは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がよりさらに好ましく、15μm以下がことさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。
液体層の厚みの下限は、生産性および耐久性の点から0.01μm以上が好ましい。
【0035】
液体層は化学的に安定であり、液体層と液体層の両側に位置する2枚の板とが、反応しないことが好ましい。化学的に安定とは、例えば光照射により変質(劣化)が少ないものであり、少なくとも-20~70℃の温度領域で凝固、気化、分解、変色、ガラスとの化学反応等が生じないものを意味する。
【0036】
液体層の成分としては、具体的には、水、オイル、有機溶剤、液状ポリマー、イオン性液体およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0037】
より具体的には、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ストレートシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル)、変性シリコーンオイル、アクリル酸系ポリマー、液状ポリブタジエン、グリセリンペースト、フッ素系溶剤、フッ素系樹脂、アセトン、エタノール、キシレン、トルエン、水、鉱物油、およびそれらの混合物、等が挙げられる。中でも、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、プロピレングリコールまたはシリコーンオイルを主成分とすることがより好ましい。
【0038】
上記の他に、粉体を分散させたスラリーを液体層として使用することもできる。損失係数の向上といった観点からは、液体層は均一な流体であることが好ましいが、ガラス板構成体に着色や蛍光等といった意匠性や機能性を付与する場合には、該スラリーは有効である。
液体層における粉体の含有量は0~10体積%が好ましく、0~5体積%がより好ましい。
粉体の粒径は沈降を防ぐ観点から10nm~10μmが好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0039】
また、意匠性・機能性付与の観点から、液体層に蛍光材料を含んでもよい。蛍光材料を粉体として分散させたスラリー状の液体層でも、蛍光材料を液体として混合させた均一な液体層でもよい。これにより、ガラス板構成体に光の吸収および発光といった光学的機能を付与することができる。
【0040】
(シール材)
シール材が、一方の板の端面と、液体層の端面と、他方の板の主面に密着している。一方の板の端面および液体層の端面が、他方の板の主面に対して垂直な場合、シール材は、断面視においてL字状に延びた輪郭を有する。このような構成により、ガラス板構成体の強度が向上する。
【0041】
また、シール材がテーパー面を有することが好ましい。これにより、板の端面を加工したのと同じ効果を得ることができる。
【0042】
シール材は、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン共重合体系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、線状ポリイミド系樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、反応性アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0043】
(板及びガラス板)
本発明に係るガラス板構成体においては、液体層を両側から挟むように、少なくとも2枚(少なくとも一対)の板が設けられる。そして、2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板である。このような構成において、何れかの板が共振した場合に、液体層の存在により、他の板が共振しない、又は、他の板の共振の揺れを減衰することができることから、ガラス板構成体は、ガラス板単独の場合と比べて損失係数を高くすることができる。
【0044】
一対の板を構成する2枚の板のうち、一方の板と他方の板の共振周波数のピークトップの値は異なることが好ましく、共振周波数の範囲が重なっていないものがより好ましい。ただし、一方の板および他方の板の共振周波数の範囲が重複する場合や、ピークトップの値が同じであっても、液体層の存在によって、一方の板が共振しても、他方の板の振動が同期しないことで、ある程度共振が相殺されることから、板単独の場合に比べて高い損失係数を得ることができる。
【0045】
すなわち、一方の板の共振周波数(ピークトップ)をQa、共振振幅の半値幅をwa、他方の板の共振周波数(ピークトップ)をQb、共振振幅の半値幅をwbとした時に、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
(wa+wb)/4<|Qa-Qb|・・・(1)
式(1)における左辺の値が大きくなるほど二つの板の共振周波数の差異(|Qa-Qb|)が大きくなり、高い損失係数が得られるようになることから好ましい。
【0046】
そのため、下記の式(2)を満たすことがより好ましく、下記の式(3)を満たすことがより好ましい。
(wa+wb)/2<|Qa-Qb|・・・(2)
(wa+wb)/1<|Qa-Qb|・・・(3)
なお、板の共振周波数(ピークトップ)および共振振幅の半値幅は、ガラス板構成体における損失係数と同様の方法で測定することができる。
【0047】
一方の板と他方の板は、質量差が小さいほど好ましく、質量差がないことがより好ましい。板の質量差がある場合、軽い方の板の共振は重い方の板で抑制することはできるが、重い方の板の共振を軽い方の板で抑制することは困難である。すなわち、質量比に偏りがあると、慣性力の差異により原理的に共振による振動を互いに打ち消せなくなるためである。
【0048】
一方の板/他方の板で表される2枚の板の質量比は0.1~10.0(1/10~10/1)が好ましく、0.5~2.0(5/10~10/5)がより好ましく、1.0(10/10、質量差0)がさらに好ましい。
【0049】
一方の板および他方の板の厚みはいずれも薄いほど、板同士が液体層を介して密着しやすく、また、板を少ないエネルギーで振動させることができる。そのため、スピーカー等の振動板用途の場合には、板の厚みは薄いほど好ましい。具体的には2枚の板の板厚が、それぞれ15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下がさらにより好ましく、1.5mm以下が特に好ましく、0.8mm以下が特により好ましい。一方、薄すぎると板の表面欠陥の影響が顕著になりやすく割れが生じやすくなったり、強化処理しにくくなったりすることから、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。
【0050】
また、共振現象に起因する異音の発生を抑制した建築・車両用開口部材用途においては、一方の板および他方の板の板厚はそれぞれ0.5~15mmが好ましく、0.8~10mmがより好ましく、1.0~8mmがさらに好ましい。
【0051】
一方の板および他方の板の少なくともいずれか一方の板は、損失係数が大きい方が、ガラス板構成体としての振動減衰も大きくなり、振動板用途として好ましい。具体的には、板の25℃における損失係数は1×10-4以上が好ましく、3×10-4以上がより好ましく、5×10-4以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、生産性や製造コストの観点から5×10-3以下であることが好ましい。また、一方の板および他方の板の両方が、上記損失係数を有することがより好ましい。
なお、板の損失係数は、ガラス板構成体における損失係数と同様の方法で測定することができる。
【0052】
一方の板および他方の板の少なくともいずれか一方の板は、板厚方向の縦波音速値が高い方が高周波領域の音の再現性が向上することから、振動板用途として好ましい。具体的には、板の縦波音速値が4.0×103m/s以上が好ましく、5.0×103m/s以上がより好ましく、6.0×103m/s以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、板の生産性や原料コストの観点から7.0×103m/s以下が好ましい。また、一方の板および他方の板の両方が、上記音速値を満たすことがより好ましい。
なお、板の音速値は、ガラス板構成体における縦波音速値と同様の方法で測定することができる。
【0053】
本発明に係るガラス板構成体において、一方の板および他方の板の少なくとも1枚の板はガラス板により構成される。他の1枚の板の素材は任意であり、ガラス以外の金属による金属板、樹脂による樹脂板、セラミックによるセラミック板など、種々のものを採用することができる。意匠性や加工性の観点からは、樹脂板またはその複合材料を用いることが好ましく、樹脂板が、アクリル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET樹脂、FRP材料を用いることが特により好ましい。また、振動特性の観点からは、剛性の高いセラミック材料および金属材料を用いることが好ましく、例えばAl2O3、SiC、Si3N4、AlN、ムライト、ジルコニア、イットリア、YAG等のセラミックスおよび単結晶材料、鋼、アルミニウム、チタン、マグネシウム、炭化タングステン等の金属および合金材料がより好ましい。また、セラミック材料については透光性を有する材料であることが特により好ましい。
【0054】
少なくとも1枚の板を構成するガラス板の組成は特に限定されないが、例えば下記範囲であることが好ましい。
SiO2:40~80質量%、Al2O3:0~35質量%、B2O3:0~15質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、Li2O:0~20質量%、Na2O:0~25質量%、K2O:0~20質量%、TiO2:0~10質量%、かつ、ZrO2:0~10質量%。但し上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0055】
ガラス板の組成はより好ましくは、下記範囲である。
SiO2:55~75質量%、Al2O3:0~25質量%、B2O3:0~12質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、Li2O:0~20質量%、Na2O:0~25質量%、K2O:0~15質量%、TiO2:0~5質量%、かつ、ZrO2:0~5質量%。但し上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0056】
ガラス板のヤング率を密度で除した値である比弾性率は、大きいほど、ガラス板の剛性を高くすることができる。具体的にはガラス板の比弾性率が2.5×107m2/s2以上が好ましく、2.8×107m2/s2以上がより好ましく、3.0×107m2/s2以上がさらにより好ましい。上限は特に限定されないが、ガラス製造時の成形性の観点から4.0×107m2/s2以下であることが好ましい。ヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により測定することができる。
【0057】
ガラス板の比重はいずれも小さいほど、少ないエネルギーでガラス板を振動させることができる。具体的にガラス板の比重は、2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.5以下がさらにより好ましい。下限は特に限定されないが、2.2以上であることが好ましい。
【0058】
(ガラス板構成体)
ガラス板構成体を構成する板の少なくとも1枚および液体層の少なくともいずれか一方に着色することも可能である。これは、ガラス板構成体に意匠性を持たせたい場合や、IRカット、UVカット、プライバシーガラス等の機能性を持たせたい場合に有用である。
【0059】
ガラス板構成体を構成する板のうちガラス板は少なくとも1枚であればよいが、2枚以上のガラス板を用いてもよい。この場合、すべて異なる組成のガラス板を用いてもよく、すべて同じ組成のガラス板を用いてもよく、同じ組成のガラス板と異なる組成のガラス板とを組み合わせて用いてもよい。中でも、異なる組成からなる2種類以上のガラス板を用いることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
ガラス板の質量や厚みについても同様に、すべて異なっても、すべて同一でも、一部が異なっていてもよい。中でも、構成するガラス板の質量が全て同一であることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
【0060】
ガラス板構成体を構成するガラス板の少なくとも1枚に物理強化ガラス板や化学強化ガラス板を用いることもできる。これは、ガラス板構成体の破壊を防ぐのに有用である。ガラス板構成体の強度を高めたい場合には、ガラス板構成体の最表面に位置するガラス板を物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板とすることが好ましく、構成するガラス板の全てが物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板であることがより好ましい。
【0061】
また、ガラス板として、結晶化ガラスや分相ガラスを用いることも、縦波音速値や強度を高める点から有用である。特に、ガラス板構成体の強度を高めたい場合には、ガラス板構成体の最表面に位置するガラス板を結晶化ガラス又は分相ガラスとすることが好ましい。
【0062】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲でコーティングやフィルムを形成してもよい。コーティングの施工やフィルムの貼付は例えば傷付き防止等に好適である。
【0063】
コーティングやフィルムの厚みは、表層のガラス板の板厚の1/5以下であることが好ましい。コーティングやフィルムには従来公知の物を用いることができる。コーティングとしては例えば撥水コーティング、親水コーティング、滑水コーティング、撥油コーティング、光反射防止コーティング、遮熱コーティング、高反射コーティング等が挙げられる。また、フィルムとしては例えばガラス飛散防止フィルム、カラーフィルム、UVカットフィルム、IRカットフィルム、遮熱フィルム、電磁波シールドフィルム、プロジェクター用スクリーンフィルム等が挙げられる。
【0064】
ガラス板構成体の形状は、用途によって適宜設計することができ、平面板状であっても曲面形状でもよい。また、正面視において、四角形状、三角形状、円形状、多角形状などでもよい。
【0065】
低周波数帯域の出力音圧レベルを上げるため、ガラス板構成体にエンクロージャーまたはバッフル板を付与した構造とすることも出来る。エンクロージャーまたはバッフル板の材質は特に限定されないが、本発明のガラス板構成体を用いることが好ましい。
【0066】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲で、フレーム(枠)を設けてもよい。フレームは、ガラス板構成体の剛性を向上させたい場合、あるいは曲面形状を保持したい場合等に有用である。フレームの材質としては従来公知の物を用いることができるが、例えばAl2O3、SiC、Si3N4、AlN、ムライト、ジルコニア、イットリア、YAG等のセラミックスおよび単結晶材料、鋼、アルミニウム、チタン、マグネシウム、炭化タングステン等の金属および合金材料、FRP等の複合材料、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材料、ガラス材料、木材等を用いることが出来る。
用いるフレームの重量は、ガラス板の重量の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0067】
ガラス板構成体とフレームとの間にはシール部材を有することもできる。さらに、ガラス板構成体の外周端部の少なくとも一部を、ガラス板構成体の振動を妨げないシール部材でシールしてもよい。シール部材としては、伸縮性の高いゴム、樹脂、ゲル等を用いることが出来る。
【0068】
シール部材用の樹脂に関しては、アクリル系、シアノアクリレート系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、フェノール系等を用いることができる。硬化方法としては一液型、二液混合型、加熱硬化、紫外線硬化、可視光硬化等が挙げられる。
熱可塑性樹脂(ホットメルトボンド)を用いることも出来る。例として、エチレン酢酸ビニル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系が挙げられる。
【0069】
ゴムに関しては、例えば天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ハイパロン)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム(チオコール)、水素化ニトリルゴムを用いることが出来る。
シール部材の厚さtは、薄すぎると十分な強度が確保されず、厚すぎると振動の支障となる。ゆえにシール部材の厚さは10μm以上かつガラス板構成体の合計厚みの5倍以下であることが好ましく、50μm以上かつガラス板構成体の合計厚みより薄いことがより好ましい。
【0070】
ガラス板構成体の板と液体層との界面における剥離防止等のために、向かい合う板の面の少なくとも一部に本発明の効果を損なわない範囲で上記のシール部材を塗布することができる。この場合、シール部材塗布部の面積は振動の支障とならないように液体層の面積の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0071】
また、シール性能を向上するために、板のエッジ部分を適切な形状に加工することも出来る。例えば少なくとも一方の板の端部をC面取り(板の断面形状が台形形状)またはR面取り(板の断面形状が略円弧状)することにより、シール部材と板の接触面積を増大させ、シール部材と板の接着強度を向上させることが出来る。
【0072】
(振動板、開口部材)
本発明は、上記ガラス板構成体および振動子を含む振動板、上記ガラス板構成体を用いた開口部材に関する。
【0073】
振動板としては、例えば、ガラス板構成体の片面または両面に1個以上の振動素子や振動検出素子(振動子)を設置することにより、スピーカー、マイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等の筺体振動体や筺体スピーカーとして機能させることができる。出力音圧レベルを向上させるためには2個以上の振動素子をガラス板構成体の両面に設置することが望ましい。
【0074】
一般に振動板に対する振動子の位置はガラス構成体の中央部であることが望ましいが、本材料は高音速かつ高減衰性能を有するため、振動子をガラス板構成体の端部に設置してもよい。本発明に係る振動板を用いることにより、従来再現が難しかった高周波領域の音の再生が容易に可能となる。また、ガラス板構成体の大きさ、形状、色調等における自由度が高く、意匠性を施すことが可能であることから、デザイン性にも優れた振動板を得ることができる。また、ガラス板構成体表面または近傍に設置した集音用マイクロフォンまたは振動検出器で音声または振動をサンプリングし、これと同位相あるいは逆位相の振動をガラス板構成体に発生させることによりサンプリングした音声または振動を増幅したり打ち消したりすることができる。
【0075】
このとき、上記のサンプリング点における音声または振動の特性が、ガラス板構成体に伝搬するまでの間に或る音響伝達関数に基づいて変化する場合、および、ガラス板構成体に音響変換伝達関数が存在する場合には、制御フィルタを用いて制御信号の振幅と位相を補正することにより、振動を精度よく増幅したりキャンセルしたりすることが可能となる。上記のような制御フィルタを構成する際、例えば最小二乗法(LMS)アルゴリズムを用いることが出来る。
【0076】
より具体的な構成として、例えば、複層ガラスの全部または少なくとも1枚のガラス板を本発明のガラス板構成体とし、制御対象の音波振動が流入する側の板の振動レベルまたはガラス間に存在する空間の音圧レベルをサンプリングし、これを制御フィルタにより適切に信号補正した上で音波振動が流出する側に設置されたガラス板構成体上の振動素子に出力する構造とすることが出来る。
【0077】
本振動板の用途としては、例えば電子機器用部材として、フルレンジスピーカー、15Hz~200Hz帯の低音再生用スピーカー、10kHz~100kHz帯の高音再生スピーカー、振動板の面積が0.2m2以上の大型スピーカー、振動板の面積が3cm2以下の小型スピーカー、平面型スピーカー、円筒型スピーカー、透明スピーカー、スピーカーとして機能するモバイル機器用カバーガラス、TVディスプレイ用カバーガラス、映像信号と音声信号とが同一の面から生じるディスプレイ、ウェアラブルディスプレイ用スピーカー、電光表示器、照明器具、等に利用することが出来る。また、ヘッドフォン、イヤフォンまたはマイク用の振動板、振動センサーとして用いることが出来る。
【0078】
車両等の輸送機械の内装用振動部材として、車載・機載スピーカーとして用いることができる。例えばスピーカーとして機能するサイドミラー、サンバイザー、インパネ、ダッシュボード、天井、ドア、その他内装パネルとすることが出来る。これらをマイクロフォンおよびアクティブノイズコントロール用振動板として機能させることもできる。
【0079】
その他の用途として、超音波発生装置用振動板、超音波モーター用スライダ、低周波発生装置、液中に音波振動を伝搬させる振動子、およびそれを用いた水槽並びに容器、振動素子、振動検出素子、振動減衰装置用のアクチュエータ用材料として用いることができる。
【0080】
開口部材としては、例えば、建築・輸送機械等に用いられる開口部材が挙げられる。例えば、車両、航空機、船舶、発電機等の駆動部などから発生する騒音の周波数帯で共振しにくいガラス板構成体を用いた場合、それらの騒音に対して特に優れた発生抑制効果を得ることが可能となる。また、ガラス板構成体にIRカット、UVカット、着色等の機能を付与することもできる。
【0081】
開口部材に適用する際には、ガラス板構成体の片面または両面に1個以上の振動素子や振動検出素子(振動子)を設置した振動板を、スピーカーやマイクロフォンとして機能させることもできる。本発明に係るガラス板構成体を用いることにより、従来再現が難しかった高周波領域の音の再生が容易に可能となる。また、ガラス板構成体の大きさ、形状、色調等における自由度が高く、意匠性を施すことが可能であることから、デザイン性にも優れた開口部材を得ることができる。また、ガラス板構成体表面または近傍に設置した集音用マイクロフォンまたは振動検出器で音声または振動をサンプリングし、これと同位相あるいは逆位相の振動をガラス板構成体に発生させることによりサンプリングした音声または振動を増幅したり打ち消したりすることができる。
【0082】
より具体的には、車内スピーカー、車外スピーカー、遮音機能を有する車両用フロントガラス、サイドガラス、リアガラスまたはルーフガラスとして用いることができる。このとき、特定の音波振動のみを透過または遮断できる仕組みとしてもよい。また、音波振動により撥水性、耐着雪性、耐着氷性、防汚性を向上させた車両用窓、構造部材、化粧板として用いることもできる。具体的には、自動車用窓ガラスやミラーのほか、レンズ、センサーおよびそれらのカバーガラスとして用いることができる。
【0083】
建築用開口部材としては、振動板および振動検出装置として機能する窓ガラス、ドアガラス、ルーフガラス、内装材、外装材、装飾材、構造材、外壁、遮音板および遮音壁、および太陽電池用カバーガラスとして用いることが出来る。それらを音響反射(残響)板として機能させてもよい。また、音波振動により上記の撥水性、耐着雪性、防汚性を向上させることもできる。
【0084】
(ガラス板構成体の製造方法)
本発明に係るガラス板構成体は一対の板の間に、液体層と、液体層を封止するシール材とを保持することにより得ることができる。
【0085】
シール材の塗布方法は、ディスペンサーによる塗布、スクリーン印刷、スプレー塗布、スプレッダによる塗布等があるが、塗布厚、塗布線幅の均一性から、ディスペンサーによる塗布が好ましい。
【0086】
液体層の形成についても特に限定されず、例えば、液体層を構成する液体をディスペンサー、スピンコート、ダイコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法により板表面に塗布することができる。
【0087】
(ガラス板構成体の実施形態)
図1は、本発明のガラス板構成体10の一例を示し、
図1(a)は、正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A線に沿った断面図である。
【0088】
ガラス板構成体10は、少なくとも2枚の板である第1の板(一方又は他方の板)11および第2の板(他方又は一方の板)12と、第1の板11および第2の板12の間に保持された液体層20と、液体層20を封止するシール材30とを含む。2枚の板、第1の板11と第2の板12のうち少なくとも1枚の板は、ガラス板により構成されている。
【0089】
シール材30は、第1の板11の主面11aと、第2の板12の主面12aと、液体層20の端面21とに密着している。このような構成により、液体層20がシール材30により封止され、液体層20の漏れが防止されるとともに、第1の板11、液体層20、第2の板12の接合が強化され、ガラス板構成体10の強度が増す。
【0090】
図2に基づいて、シール材30と液体層20となる液剤22の塗布方法を説明する。
【0091】
(シール材塗布)
シール材30は、例えば縦100mm、横100mm、厚さ0.5mmの第1の板11の中心部に、ディスペンサーを用いて端部から1mm間隔をあけ、幅0.5mmで線描画される。
【0092】
(液剤塗布)
ディスペンサーを用いて、第1の板11の中央部分(シール材30に取り囲まれた部分)に液剤(オイル剤)22を
図2に示すように、例えば線幅0.5mm、線間隔4mmでシール材30の塗布線との間隔2mmを保って線描画する。液剤22の吐出量は、貼合後の液層層30の層厚が3μmになるように質量を合わせて塗布する。例えば、シール材30の線内部の領域が縦100mm、横100mmであるところに、厚さ3μmで密度1g/cm
3の液剤22を塗布する場合、塗布量合計0.03gになるように吐出質量をコントロールすればよい。このとき、シール材30と液体層20になる液剤22の線描画はどちらを先に塗布しても良い。
【0093】
100mm×100mm×0.5mm寸法の第1の板11を用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER 400DS-s)を用いて、液剤22として25℃における動粘度3000(mm2/s)のジメチルシリコーンオイル、およびメチルフェニルシリコーンオイルを端部から幅5mmのあそびを設け、一様に塗布した。さらに第1の板11の端部に線幅約0.5mmでシール材(硬化樹脂)30を塗布し、第1の板11と第2の板12を貼合後、シール材30を硬化させる。
【0094】
(貼合工程)
上述の工程を経て、シール材30および液剤22を塗布し、
図3に示すように、塗布した第1の板11と、同種同サイズの未塗布の第2の板12を減圧下で貼合する。減圧貼合の際、圧力は1500Pa以下であれば好ましく、300Pa以下であればより好ましく、さらに100Pa以下であれば好ましく、特に10Pa以下であることが望ましい。貼合後、UV照射や加熱など、使用するシール材30の硬化形態に合わせてシール材30を硬化させる。
【0095】
貼合の際に、内側に塗布した液剤22が伸び広がり、シール材30と接触して内側から力がかかり、シール材30は主に外側に広がる。シール材30は外に広がるが、第1の板11と第2の板12のそれぞれの端面11b、12bで表面張力がはたらき、板11、12から漏れ出ることはない。
【0096】
(実施例)
上述の方法で得られたガラス板構成体10の測定結果に基づく実施例を
図4~
図6に基づいて説明する。
図4は、液剤22であるオイル類の屈折率は多波長アッベ屈折計(DE-M2、株式会社アタゴ製)を用い、486、589、656nmにて測定した結果を示している。
【0097】
図5は、シール材30のリスト及び屈折率を示した表である。用いるシール材30の屈折率は、小平製作所製アプリケータ(YBM5型)を用いてPTFE板上にて薄膜成形し、UV照射にて硬化させた後、(PRISM COUPLER MODEL 2010/M、Metricon corporation製)を用いて測定した。
【0098】
図6は、液体貼合方式のガラス板構成体10を作成し、液体層20とシール材30との境界面での視認の可否についての結果を示す表である。表から、例えばAのシール材30では、ジメチルシリコーンオイル(液剤b)の場合、境界面が目立たず好ましい視認性を実現できているが(表中○印参照)、メチルフェニルシリコーンオイル(液剤c)では、境界面がやや目立っていることが理解できる(表中△印参照)。そして、液体層20のメチルフェニルシリコーンオイルにおいて、シール材30としてC、D、E、Fとの関係が、良好であることも理解される。好ましい屈折率差の値は0.015以下であり、より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下であった。
図9に
図4の液剤および
図5のシール材の組み合わせを図示する。
図9において、波長486、589、656nmにおける液剤とシール材の屈折率差の平均値が、0.005以下を◎、0.010以下を〇、0.015以下を□で示す。
【0099】
ガラス板構成体10の形状は、用途によって適宜設計することができ、平面板状であっても曲面形状でもよい。また、正面視において、
図7に示すように、正方形(
図7(a))、長方形(
図7(b))、直角三角形(
図7(c))、円形(
図7(d))、多角形(
図7(e))、三角形(
図7(f))などでもよい。
【0100】
(端面加工)
端面加工は、鏡面加工でも良い。端面11b、12bの形状は、見映え、接合強度、安全性等を考慮して選択される。
図8(a)に示される第1の例では、第1の板11の端面11b及び第2の板12の端面12bは、単一面を構成する。また、
図8(b)に示される第2の例のように、両端面11b、12bを曲面のテーパー面として、シール材30の端面31が、当該テーパー面と連続した曲面を形成してもよい。そして、
図8(c)に示される第3の例のように、第1の板11の端面11bのみ曲面のテーパー面加工をしてもよい。
【0101】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0102】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2017年10月4日付けで出願された日本特許出願(特願2017-194637)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のガラス板構成体は、液体層とシール材の境界部分が目立たないため、特に縁を必要としないディスプレイに最適である。また、スピーカーやマイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等に用いられる振動板、建築・車両用開口部材等にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
10 ガラス板構成体
11 第1の板
11a 第1の板の主面
11b 第1の板の端面
12 第2の板
12a 第2の板の主面
12b 第2の板の端面
20 液体層
21 液体層の端面
22 液剤
30 シール材
31 シール材の端面