(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】車両用合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220621BHJP
H05B 3/86 20060101ALI20220621BHJP
H05B 3/20 20060101ALI20220621BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20220621BHJP
H05B 3/03 20060101ALI20220621BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20220621BHJP
B60S 1/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C03C27/12 M
H05B3/86
H05B3/20 327B
H05B3/10 A
H05B3/03
B60J1/00 H
B60S1/02 300
(21)【出願番号】P 2019549319
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2018038679
(87)【国際公開番号】W WO2019078258
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017203150
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西岡 恒久
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0251527(US,A1)
【文献】特開2006-168728(JP,A)
【文献】特表2010-534588(JP,A)
【文献】特開平9-207718(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204291(WO,A1)
【文献】特開2017-212148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
H05B 3/86
B60J 1/00
B60S 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ガラス板、前記第1ガラス板に対向する第2ガラス板、および前記第1ガラス板と前記第2ガラス板とを接着する中間膜を有する、車両用合わせガラスであって、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に、運転者が車外を視認する可視領域を所定方向に挟む第1母線および第2母線、前記可視領域に設けられ前記第1母線と前記第2母線とによって電圧を印加され発熱する複数本の電熱線、ならびに前記可視領域を基準として前記第2母線とは反対側に配設される第3母線を有し、
前記第3母線と前記第1母線とは、情報取得装置が車外の情報を取得する情報取得領域を前記所定方向に挟んで設けられ、
少なくとも1本の前記電熱線は、前記情報取得領域に設けられ、前記第3母線と前記第1母線とによって電圧を印加され発熱する、車両用合わせガラス。
【請求項2】
前記情報取得領域と前記可視領域との間に、前記第1母線が設けられる、請求項1に記載の車両用合わせガラス。
【請求項3】
前記情報取得領域と前記可視領域との間に、前記第3母線が設けられる、請求項1に記載の車両用合わせガラス。
【請求項4】
少なくとも1本の前記電熱線は、前記第3母線から前記第1母線を経由して、前記第2母線まで伸びている、請求項2に記載の車両用合わせガラス。
【請求項5】
少なくとも1本の前記電熱線は、前記第1母線から前記第3母線を経由して、前記第2母線まで伸びている、請求項3に記載の車両用合わせガラス。
【請求項6】
前記第1母線は2つの第1母線分割片からなり、2つの前記第1母線分割片は互いに対向するように配置され、2つの前記第1母線分割片の間に、前記電熱線が固定される、請求項1~5のいずれかに記載の車両用合わせガラス。
【請求項7】
前記第2母線は2つの第2母線分割片からなり、2つの前記第2母線分割片は互いに対向するように配置され、2つの前記第2母線分割片の間に、前記電熱線が固定される、請求項1~6のいずれかに記載の車両用合わせガラス。
【請求項8】
前記第3母線は2つの第3母線分割片からなり、2つの前記第3母線分割片は互いに対向するように配置され、2つの前記第3母線分割片の間に、前記電熱線が固定される、請求項1~7のいずれかに記載の車両用合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用の窓ガラスとして、合わせガラスが用いられている(例えば特許文献1参照)。
図1は、従来例による車両用合わせガラスの可視領域の加熱構造を車外側から見た正面図である。
図1において、図面の簡略化のため、第1電熱線151の本数を実際の本数よりも少なく図示する。
図2は、従来例による車両用合わせガラスの断面図である。
図3は、従来例による車両用合わせガラスの情報取得領域の加熱構造を車外側から見た正面図である。
図1および
図3において、左側が運転席側であり、右側が助手席側である。また、
図1および
図3において、斑点模様で示す領域は第1遮光膜102の設置領域(以下、「遮光領域」とも呼ぶ。)を表す。
図1では
図2および
図3に示す情報取得領域106の加熱構造の図示を省略し、
図3では
図1および
図2に示す可視領域105の加熱構造の図示を省略する。
【0003】
車両用合わせガラス101は、
図2に示すように、第1ガラス板110、第1ガラス板110に対向する第2ガラス板120、および第1ガラス板110と第2ガラス板120とを接着する中間膜130を有する。第1ガラス板110は第2ガラス板120よりも車外側に設けられ、第2ガラス板120が第1ガラス板110よりも車内側に設けられる。車両用合わせガラス101は、一般的に、車外側に向けて凸の湾曲形状を有する。
【0004】
車両用合わせガラス101は、第1ガラス板110、中間膜130および第2ガラス板120をこの順で重ねて重合体を作製し、作製した重合体をオートクレーブなどで加圧、加熱することにより作製される。重合体を作製する前に、第1ガラス板110および第2ガラス板120は、熱処理され、曲げ成形される。尚、重合体は、第2ガラス板120、中間膜130、第1ガラス板110をこの順で重ねたものであってもよい。
【0005】
車両用合わせガラス101は、
図1に示すように、第1ガラス板110と第2ガラス板120との間に、可視領域105を所定方向(例えば上下方向)に挟む第1母線141および第2母線142、ならびに可視領域105に設けられる複数本の第1電熱線151を有する。可視領域105は、運転者が車外を視認する領域であり、例えば、第1遮光膜102の開口部と重なる領域である。第1母線141、第2母線142および第1電熱線151は、導電性であって、絶縁性の中間膜130に固定されたうえで、絶縁性の第1ガラス板110と絶縁性の第2ガラス板120の間に挟み込まれる。
【0006】
第1母線141は、車両用合わせガラス101の上辺部に設けられる。一方、第2母線142は、車両用合わせガラス1の下辺部に設けられる。第1母線141および第2母線142は、第1ガラス板110に設けられる第1遮光膜102によって車外側から隠される。尚、第1母線141および第2母線142は、第2ガラス板120に設けられる第2遮光膜によって車内側から隠されてもよい。
【0007】
第1母線141は、第1リード母線171を介して、電源180の第1極(例えば負極)に接続される。一方、第2母線142は、第2リード母線172を介して、電源180の第2極(例えば正極)に接続される。第1母線141と第2母線142との間に電圧を印加すると、第1電熱線151に電流が流れ、ジュール熱が発生する。これにより、車両用合わせガラス101の表面に付いた曇り(水滴)や氷が除去される。
【0008】
ところで、車両用合わせガラス101には、
図2に示すように、車外の情報を取得する情報取得装置190が取り付けられることがある。情報取得装置190としては、カメラ、レーダ、レインセンサ、ライトセンサ、車載通信装置などが挙げられる。カメラは、車外からの可視光線や赤外線などの光線を受光し、車外の画像を取得する。カメラにより撮像された画像は、例えば歩行者や障害物の検知などに用いられる。レーダは、レーザまたは電波を用いて車外の物体までの距離を検出する。レインセンサは、車両用合わせガラス101に付着した水滴の量を検出する。レインセンサの検出結果は、ワイパーを自動的に作動、停止させるのに用いられる。ライトセンサは、車外の明るさを検出する、ライトセンサの検出結果は、車外を照らすライトを自動的に点灯、消灯させるのに用いられる。車載通信装置は、道路に設置されたインフラ装置と双方向通信を行い、道路交通情報を取得する。情報取得装置190で取得された情報は、車両の運転に用いられる。
【0009】
情報取得装置190は、車両用合わせガラス101の車内側に設けられ、車両用合わせガラス101の情報取得領域106を介して車外の情報を取得する。情報取得領域106は、情報取得装置190が車外の情報を取得する領域であり、例えば第1遮光膜102の開口部と重なる領域である。情報取得領域106は、
図3に示すように、例えば、可視領域105の上辺の凹部に設けられる。
【0010】
情報取得装置190は、上述の如く、車両用合わせガラス101の車内側に設けられ、車両用合わせガラス101の情報取得領域106を介して車外の情報を取得する。そのため、情報取得領域106に曇りや氷などが付着すると、情報取得装置190が車外の情報を正確に取得できない虞がある。
【0011】
特許文献2では、
図2に示すように、第2ガラス板120の車内側の表面に、第2電熱線152が設けられる。第2電熱線152は、
図3に示すようにS字状に形成され、情報取得領域106を3か所において横切るように設けられている。第2電熱線152の両端に電圧を印加することで、第2電熱線152が発熱するので、情報取得領域106の曇りや氷などを除去できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】日本国特開平9-207718号公報
【文献】国際公開第2016/129699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図1~
図3に示すように、車両用合わせガラス101の可視領域105を加熱する第1電熱線151の両端に電圧をかける2つの母線141、142と、車両用合わせガラス101の情報取得領域106を加熱する第2電熱線152の両端に電圧をかける2つの母線とが、別々に設けられる場合、配線が煩雑であった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、加熱構造の配線を簡易化できる、車両用合わせガラスの提供を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
第1ガラス板、前記第1ガラス板に対向する第2ガラス板、および前記第1ガラス板と前記第2ガラス板とを接着する中間膜を有する、車両用合わせガラスであって、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に、運転者が車外を視認する可視領域を所定方向に挟む第1母線および第2母線、前記可視領域に設けられ前記第1母線と前記第2母線とによって電圧を印加され発熱する複数本の電熱線、ならびに前記可視領域を基準として前記第2母線とは反対側に配設される第3母線を有し、
前記第3母線と前記第1母線とは、情報取得装置が車外の情報を取得する情報取得領域を前記所定方向に挟んで設けられ、
少なくとも1本の前記電熱線は、前記情報取得領域に設けられ、前記第3母線と前記第1母線とによって電圧を印加され発熱する、車両用合わせガラスが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、加熱構造の配線を簡易化できる、車両用合わせガラスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、従来例による車両用合わせガラスの可視領域の加熱構造を車外側から見た正面図である。
【
図2】
図2は、従来例による車両用合わせガラスの断面図である。
【
図3】
図3は、従来例による車両用合わせガラスの情報取得領域の加熱構造を車外側から見た正面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態による車両用合わせガラスの加熱構造を車外側から見た正面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態による車両用合わせガラスの断面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態による中間膜に対し第1母線分割片、第2母線分割片、第3母線分割片を固定した状態を示す正面図である。
【
図7】
図7は、
図6の中間膜に対し電熱線を固定した状態を示す正面図である。
【
図8】
図8は、
図7の中間膜に対し第1母線分割片、第2母線分割片、第3母線分割片を固定した状態を示す正面図である。
【
図9】
図9は、
図8の電熱線の余剰部分を切除した状態を示す正面図である。
【
図10】
図10は、
図9の中間膜に対し第1リード母線、第2リード母線および第3リード母線を固定した状態を示す正面図である。
【
図11】
図11は、第1変形例による車両用合わせガラスの加熱構造を車外側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。尚、以下の説明において、「上」および「下」は、車両用合わせガラスを車両の窓枠に取付けたときの「鉛直方向上」および「鉛直方向下」を表す。
図4において、左側が運転席側であり、右側が助手席側である。また、
図4において、斑点模様で示す領域は第1遮光膜2および第2遮光膜3の設置領域(以下、「遮光領域」とも呼ぶ。)を表す。また、
図4において、図面の簡略化のため、電熱線51の本数を、実際の本数よりも少なく図示する。
【0019】
車両用合わせガラス1は、
図5に示すように、第1ガラス板10、第1ガラス板10に対向する第2ガラス板20、および第1ガラス板10と第2ガラス板20とを接着する中間膜30を有する。第1ガラス板10が第2ガラス板20よりも車外側に設けられ、第2ガラス板20が第1ガラス板10よりも車内側に設けられる。尚、車両用合わせガラス1を構成するガラス板の枚数は3枚以上でもよい。車両用合わせガラス1を構成するガラス板の枚数が3枚以上の場合は、中間膜の枚数は2枚以上でもよい。
【0020】
第1ガラス板10は、無機ガラスおよび有機ガラスのいずれでもよい。無機ガラスとしては、例えばソーダライムガラスなどが挙げられる。また、無機ガラスは、未強化ガラス、強化ガラスのいずれでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスは、物理強化ガラス(例えば風冷強化ガラス)、化学強化ガラスのいずれでもよい。一方、有機ガラスとしては、ポリカーボネートなどの透明樹脂が挙げられる。第2ガラス板20について同様である。なお、第1ガラス板10、第2ガラス板20の板厚は特に限定されないが、0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。第1ガラス板10、第2ガラス板20の板厚は同じでもよく、異なっていてもよい。
【0021】
第1ガラス板10は、車外側に向けて凸に形成される。第1ガラス板10の曲げ成形としては、重力成形、またはプレス成形などが用いられる。第1ガラス板10が物理強化ガラスである場合は、曲げ成形において均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。第1ガラス板10が化学強化ガラスである場合は、曲げ成形の後、イオン交換法などによってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。第2ガラス板20について同様である。
【0022】
第1ガラス板10の車内側の外周部には、車外側から配線などを隠す第1遮光膜2が設けられる。第1遮光膜2は、第1ガラス板10の車内側の表面に塗布された黒色セラミックスのペーストを焼成してなる。その焼成は、第1ガラス板10の曲げ成形のための熱処理と同時に行われてよい。
【0023】
一方、第2ガラス板20の外周部には、車内側から配線などを隠す第2遮光膜3が設けられる。第2遮光膜3は、第2ガラス板20の車内側の表面に塗布された黒色セラミックスのペーストを焼成してなる。その焼成は、第2ガラス板20の曲げ成形のための熱処理と同時に行われてよい。
【0024】
尚、車両用合わせガラス1は、本実施形態では第1遮光膜2および第2遮光膜3の両方を有するが、いずれか一方のみを有してもよい。また、第1遮光膜2は、第1ガラス板10の車外側の表面に設けられてもよい。同様に、第2遮光膜3は、第2ガラス板20の車外側の表面に設けられてもよい。
【0025】
中間膜30は、一般的な樹脂、例えばポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの熱可塑性樹脂により形成される。中間膜30は、加熱されると、接着性を発現する。中間膜30は、単層構造、複数層構造のいずれでもよい。
【0026】
車両用合わせガラス1は、第1ガラス板10、中間膜30および第2ガラス板20をこの順で重ねて重合体を作製し、作製した重合体をオートクレーブなどで加圧、加熱することにより作製される。重合体を作製する前に、第1ガラス板10および第2ガラス板20は、熱処理され、曲げ成形される。尚、重合体は、第2ガラス板20、中間膜30、第1ガラス板10をこの順で重ねたものであってもよい。
【0027】
車両用合わせガラス1は、表面に付いた曇り(例えば水滴)や氷を除去するため、加熱構造を有する。以下、本実施形態の車両用合わせガラス1の右側(助手席側)半分の加熱構造について説明する。本実施形態の車両用合わせガラス1の左側(運転席側)半分の加熱構造は、従来の車両用合わせガラス101の左側半分の加熱構造と同様であるので説明を省略する。
【0028】
尚、本施形態の車両用合わせガラス1の左側半分の加熱構造は、従来の車両用合わせガラス101の左側半分の加熱構造と同様であるが、本実施形態の車両用合わせガラス1の右側(助手席側)半分の加熱構造と同様に構成されてもよい。加熱構造は、情報取得領域6の位置や形状、数等に応じて適宜選択される。情報取得領域6の数は複数でもよい。第1変形例(
図11)において、同様である。
【0029】
車両用合わせガラス1は、
図4に示すように、第1ガラス板10と第2ガラス板20との間に、可視領域5を第1方向(例えば上下方向)に挟む第1母線41および第2母線42、ならびに可視領域5に設けられる複数本の電熱線51を有する。可視領域5は、運転者が車外を視認する領域であり、例えば、第1遮光膜2の開口部および第2遮光膜3の開口部と重なる領域である。可視領域5には、第1母線41と第2母線42とにより電圧を印加され発熱する電熱線51が設けられる。電熱線51の線幅は、第1母線41の線幅および第2母線42の線幅よりも狭い。第1母線41、第2母線42としては、銅やアルミニウムなどが好適に用いられる。電熱線51としてはタングステンなどが好適に用いられる。
【0030】
第1母線41は、
図4に示すように、車両用合わせガラス1の上辺部に設けられ、第1遮光膜2によって車外側から隠され、第2遮光膜3によって車内側から隠される。第1母線41は、
図5に示すように、板厚方向に2つの第1母線分割片411、412に分割され、2つの第1母線分割片411、412の間に電熱線51の上端部を挟み込んで固定する。2つの第1母線分割片411、412の互いに対向する面には不図示の半田層などが設けられ、半田層によって電熱線51の上端部が固定される。なお、半田層に限られず、導電性材料からなる接着層であってもよい。
【0031】
一方、第2母線42は、
図4に示すように、車両用合わせガラス1の下辺部に設けられ、第1遮光膜2によって車外側から隠され、第2遮光膜3によって車内側から隠される。第2母線42は、
図5に示すように、板厚方向に2つの第2母線分割片421、422に分割され、2つの第2母線分割片421、422の間に電熱線51の下端部を挟み込んで固定する。2つの第2母線分割片421、422の互いに対向する面には不図示の半田層などが設けられ、半田層によって電熱線51の下端部が固定される。
【0032】
第1母線41は、
図4に示すように、第1リード母線71を介して、直流電源80の第1極(例えば負極)に接続される。一方、第2母線42は、第2リード母線72を介して、直流電源80の第2極(例えば正極)に接続される。これにより、電熱線51に電圧が印加され、電熱線51に電流が流れ、ジュール熱が発生する。第1リード母線71、第2リード母線72としては、銅やアルミニウムなどが好適に用いられる。
【0033】
尚、本実施形態では、直流電源80の第1極が負極であり、直流電源80の第2極が正極であるが、逆でもよい。つまり、直流電源80の第1極が正極であり、直流電源80の第2極が負極であってもよい。また、直流電源80の負極の代わりに、アース電極が用いられてもよい。アース電極としては、車体などが用いられる。第1母線41と第2母線42との間に電圧を印加できればよい。
【0034】
電熱線51は、
図4に示すように、第1方向に直交する第2方向(例えば車幅方向)に間隔をおいて複数本設けられる。複数本の電熱線51は、略平行に配置される。尚、電熱線51は、離れて見ると直線状に形成されるが、拡大して見ると波線状に形成されてよい。
【0035】
ところで、車両用合わせガラス1には、
図5に示すように、車外の情報を取得する情報取得装置90が取り付けられることがある。情報取得装置90としては、カメラ、レーダ、レインセンサ、ライトセンサ、車載通信装置などが挙げられる。カメラは、車外からの可視光線や赤外線などの光線を受光し、車外の画像を取得する。カメラにより撮像された画像は、例えば歩行者や障害物の検知などに用いられる。レーダは、レーザまたは電波を用いて車外の物体までの距離を検出する。レインセンサは、車両用合わせガラス1に付着した水滴の量を検出する。レインセンサの検出結果は、ワイパーを自動的に作動、停止させるのに用いられる。ライトセンサは、車外の明るさを検出する、ライトセンサの検出結果は、車外を照らすライトを自動的に点灯、消灯させるのに用いられる。車載通信装置は、道路に設置されたインフラ装置と双方向通信を行い、道路交通情報を取得する。情報取得装置90で取得された情報は、車両の運転に用いられる。
【0036】
情報取得装置90は、車両用合わせガラス1の車内側に設けられ、車両用合わせガラス1の情報取得領域6を介して車外の情報を取得する。情報取得領域6は、情報取得装置90が車外の情報を取得する領域であり、例えば第1遮光膜2の開口部および第2遮光膜3の開口部と重なる領域である。情報取得領域6は、
図4に示すように、例えば、可視領域5の上辺の凹部に設けられる。
【0037】
情報取得装置90は、上述の如く、車両用合わせガラス1の車内側に設けられ、車両用合わせガラス1の情報取得領域6を介して車外の情報を取得する。そのため、情報取得領域6に曇りや氷などが付着すると、情報取得装置90が車外の情報を正確に取得できない虞がある。
【0038】
そこで、本実施形態の車両用合わせガラス1は、
図4に示すように、可視領域5を基準として第2母線42とは反対側に配設される第3母線43を有する。第3母線43と第1母線41とは、情報取得領域6を第1方向に挟んで設けられる。情報取得領域6と可視領域5との間には、例えば、第1母線41が設けられる。第1母線41は、可視領域5の上辺と、可視領域5の上辺の凹部に設けられる情報取得領域6の間を通るように、クランク状に形成される。少なくとも1本の電熱線51は、情報取得領域6に設けられ、第1母線41と第3母線43とにより電圧を印加され、発熱する。第3母線43としては、第1母線41、第2母線42と同様に銅やアルミニウムなどが好適に用いられる。
【0039】
第3母線43は、
図4に示すように、第1母線41と同様に、車両用合わせガラス1の上辺部に設けられ、第1遮光膜2によって車外側から隠され、第2遮光膜3によって車内側から隠される。第3母線43は、
図5に示すように、板厚方向に2つの第3母線分割片431、432に分割され、2つの第3母線分割片431、432の間に電熱線51の上端部を挟み込んで固定する。2つの第3母線分割片431、432の互いに対向する面には不図示の半田層などが設けられ、半田層によって電熱線51の上端部が固定される。
【0040】
第3母線43は、第3リード母線73等を介して、直流電源80に電気的に接続される。第3リード母線73としては、第1リード母線71、第2リード母線72と同様に銅やアルミニウムなどが好適に用いられる。第3母線43と第2母線42とは、同じ直流電源80の同じ正極に電気的に接続されてよい。この場合、第3母線43の電位が第2母線42の電位よりも低くなるように、第3母線43と直流電源80との間には降圧型DC/DCコンバータ74が設けられてよい。降圧型DC/DCコンバータ74は、入力電圧に比べて出力電圧を降下させる。降圧型DC/DCコンバータとしてはリニアレギュレータ、降圧型スイッチングレギュレータなどが好適に用いられる。これにより、第3母線43と第1母線41間に過剰な電圧がかかることを防止できる。第3母線43と第1母線41間の距離は、第2母線42と第1母線41間の距離に比べて短いためである。
【0041】
ところで、可視領域5および情報取得領域6のうち、情報取得領域6のみに曇りや氷などが付着することがある。情報取得領域6は
図5に示すように情報取得装置90や情報取得装置90を収容するカバー91などで覆われ、カバー91の内部は換気困難なためである。また、情報取得領域6における曇りや氷などの有無は、運転者から視認困難である。
【0042】
そこで、車両用合わせガラス1の加熱状態を切り換えるため、切換スイッチ45が用いられてよい。切換スイッチ45は、例えば、車両用合わせガラス1の加熱状態を、可視領域5および情報取得領域6の両方を同時に加熱する状態と、可視領域5および情報取得領域6のうち情報取得領域6のみを加熱する状態との間で切り換える。可視領域5に曇りや氷などが付着していない場合に可視領域5の加熱を中止でき、消費電力を低減できる。
【0043】
可視領域5および情報取得領域6の両方を同時に加熱する場合、切換スイッチ45は、第2母線42と直流電源80とを電気的に接続してよい。これにより、第2母線42と第1母線41との間に電圧を印加すると共に、第3母線43と第1母線41との間に電圧を印加することができる。その結果、可視領域5および情報取得領域6の両方において、電熱線51に電流が流れ、ジュール熱が生じる。
【0044】
一方、可視領域5および情報取得領域6のうち情報取得領域6のみを加熱する場合、切換スイッチ45は、第2母線42と直流電源80とを電気的に切断してよい。これにより、第2母線42と第1母線41との間に電圧を印加することなく、第3母線43と第1母線41との間に電圧を印加することができる。その結果、可視領域5および情報取得領域6のうち情報取得領域6のみにおいて、電熱線51に電流が流れ、ジュール熱が生じる。
【0045】
図4および
図5に示すように、可視領域5および情報取得領域6の両方に設けられる少なくとも1本の電熱線51は、第3母線43から第1母線41を経由して、第2母線42まで伸びている。すなわち、可視領域5および情報取得領域6の両方に設けられる少なくとも1本の電熱線51は、第3母線43から第2母線42までの間で分断されることなく設けられる。可視領域5および情報取得領域6の両方に設けられる少なくとも1本の電熱線51を分断することなく、第1母線41から第3母線43を経由して、第2母線42まで設けられるため、電熱線51を可視領域5と情報取得領域6に別々に設ける必要がなく、また、一部の電熱線51を分断する工程を設けることなく、一度の工程で全ての電熱線51を設けることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の車両用合わせガラス1は、可視領域5を基準として第2母線42とは反対側に配設される第3母線43を有する。第3母線43と第1母線41とは、情報取得領域6を第1方向に挟んで設けられる。少なくとも1本の電熱線51は、情報取得領域6に設けられ、第1母線41と第3母線43とにより電圧を印加され、発熱する。これにより、情報取得領域6の曇りや氷を除去でき、情報取得領域6を介して車外の情報を正確に取得できる。また、第1母線41が情報取得領域6と可視領域5の両方に共通の母線として用いられるため、母線の数を減らすことができ、配線を簡易化できる。
【0047】
図6~
図10は、一実施形態による車両用合わせガラスの製造方法を示す図であって、一実施形態による中間膜に対する第1母線や第1電熱線などの固定方法を示す図である。
【0048】
先ず、
図6に示すように、中間膜30の表面(例えば車内側の表面)に、第1方向(
図6中上下方向)に間隔をおいて第1母線分割片411、第2母線分割片421および第3母線分割片431を固定する。この固定は、第1母線分割片411、第2母線分割片421および第3母線分割片431を、加熱しながら、中間膜30の表面に押し付けることで行われる。
【0049】
次いで、
図7に示すように、中間膜30の表面に、第2方向(
図7中左右方向)に間隔をおいて並ぶ複数本の電熱線51を固定する。この固定は、電熱線51を、加熱しながら、中間膜30の表面に押し付けることで行われる。各電熱線51は、第1方向(
図7中上下方向)に延びている。
【0050】
次いで、
図8に示すように、予め中間膜30に固定された第1母線分割片411に、電熱線51を挟んで第1母線分割片412を固定する。2つの第1母線分割片411、412の互いに対向する面には不図示の半田層などが設けられ、半田層によって電熱線51が固定される。すなわち、
図5に示すように、第1母線41は2つの第1母線分割片411、412からなり、第1母線分割片411、412は互いに対向するように配置され、2つの第1母線分割片411、412の間に、電熱線51が固定されている。
【0051】
また、
図8に示すように、予め中間膜30に固定された第2母線分割片421に、電熱線51を挟んで第2母線分割片422を固定する。2つの第2母線分割片421、422の互いに対向する面には不図示の半田層などが設けられ、半田層によって電熱線51が固定される。すなわち、
図5に示すように、第2母線42は2つの第2母線分割片421、422からなり、第2母線分割片421、422は互いに対向するように配置され、2つの第2母線分割片421、422の間に、電熱線51が固定されている。
【0052】
さらに、
図8に示すように、予め中間膜30に固定された第3母線分割片431に、電熱線51を挟んで第3母線分割片432を固定する。2つの第3母線分割片431、432の互いに対向する面には不図示の半田層などが設けられ、半田層によって電熱線51が固定される。すなわち、
図5に示すように、第3母線43は2つの第3母線分割片431、432からなり、第3母線分割片431、432は互いに対向するように配置され、2つの第3母線分割片431、432の間に、電熱線51が固定されている。
【0053】
次いで、
図9に示すように、電熱線51の余剰部分を切除する。
【0054】
最後に、
図10に示すように、中間膜30の表面(例えば車内側の表面)に、第1リード母線71、第2リード母線72および第3リード母線73を固定する。この固定は、第1リード母線71、第2リード母線72および第3リード母線73を、加熱しながら、中間膜30の表面に押し付けることで行われる。
【0055】
その後、中間膜30は、重合体の作製に供される。重合体は、
図10に示す中間膜30を、第1遮光膜2が設けられた第1ガラス板10と、第2遮光膜3が設けられた第2ガラス板20とで挟んで作製する。作製した重合体をオートクレーブなどで加圧、加熱することにより、車両用合わせガラス1が作製される。
【0056】
以上、車両用合わせガラスの実施形態などについて説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0057】
図11は、第1変形例による車両用合わせガラスの加熱構造を車外側から見た正面図である。上記実施形態では、
図4に示すように、情報取得領域6と可視領域5との間に、第1母線41が設けられる。この第1母線41は、可視領域5の上辺と、可視領域5の上辺の凹部に設けられる情報取得領域6の間を通るように、クランク状に形成される。そのため、第1母線41と第2母線42間の距離が、第2方向(車幅方向)の位置に応じて変動する。これに対し、本変形例では、
図11に示すように、情報取得領域6と可視領域5との間に、第3母線43が設けられる。そのため、第1母線41と第2母線42間の距離が、第2方向の位置に関係なく一定である。以下、相違点について主に説明する。
【0058】
図11に示すように、本変形例では、第1母線41と第2母線42間の距離が、第2方向の位置に関係なく一定である。そのため、第2方向に間隔をおいて並ぶ複数本の電熱線51の、第1母線41と第2母線42間の抵抗値が同じである。従って、第1母線41と第2母線42とにより複数本の電熱線51に電圧を印加すると、複数本の電熱線51に同じ電流値の電流を流すことができ、第1母線41と第2母線42で挟まれる領域(つまり、情報取得領域6および可視領域5)を均一に加熱できる。
【0059】
可視領域5および情報取得領域6の両方を同時に加熱する場合、切換スイッチ45は、第2母線42と直流電源80とを電気的に接続し、且つ第3母線43と直流電源80とを電気的に切断してよい。第1母線41と第2母線42との間に第3母線43が設けられ、第1母線41と第2母線42とを電気的に接続する少なくとも1本の電熱線51が途中で第3母線43と交わる。そのため、第1母線41と第2母線42との間に電圧を印加して電熱線51に電流を流すと、第1母線41から第3母線43までの距離と第3母線43から第2母線42までの距離との比に応じた電位が第3母線に生じる。第3母線43の電位は、第1母線41の電位と第2母線42の電位との中間の電位になる。第1母線41と第3母線43との間に電位差が生じると共に、第3母線43と第2母線42との間に電位差が生じる。その結果、可視領域5および情報取得領域6の両方において、電熱線51に電流が流れ、ジュール熱が生じる。
【0060】
一方、可視領域5および情報取得領域6のうち情報取得領域6のみを加熱する場合、切換スイッチ45は、第2母線42と直流電源80とを電気的に切断し、且つ第3母線43と直流電源80とを電気的に接続してよい。これにより、第2母線42と第1母線41との間に電圧を印加することなく、第3母線43と第1母線41との間に電圧を印加することができる。その結果、可視領域5および情報取得領域6のうち情報取得領域6のみにおいて、電熱線51に電流が流れ、ジュール熱が生じる。
【0061】
このとき、第3母線43は、降圧型DC/DCコンバータ74を介して直流電源80の正極に電気的に接続されてよい。降圧型DC/DCコンバータ74は、入力電圧に比べて出力電圧を降下させる。これにより、第3母線43と第1母線41間に過剰な電圧がかかることを防止できる。
【0062】
図11に示すように、本変形例では、可視領域5および情報取得領域6の両方に設けられる少なくとも1本の電熱線51は、第1母線41から第3母線43を経由して、第2母線42まで伸びている。すなわち、可視領域5および情報取得領域6の両方に設けられる少なくとも1本の電熱線51は、第1母線41から第2母線42までの間で分断されることなく設けられる。可視領域5および情報取得領域6の両方に設けられる少なくとも1本の電熱線51を分断することなく、第1母線41から第3母線43を経由して、第2母線42まで設けられるため、電熱線51を可視領域5と情報取得領域6に別々に設ける必要がなく、また、一部の電熱線51を分断する工程を設けることなく、一度の工程で全ての電熱線51を設けることができる。
【0063】
尚、上記実施形態では、
図4に示すように、第1母線41の形状と第2母線42の形状とが異なるが、同じでもよい。つまり、
図4において、第2母線42の形状を、第1母線41の形状と同じ形状(例えばクランク状)にしてもよい。これにより、第1母線41と第2母線42間の距離を、第2方向の位置に関係なく、一定とすることができる。
【0064】
本出願は、2017年10月20日に日本国特許庁に出願された特願2017-203150号に基づく優先権を主張するものであり、特願2017-203150号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0065】
1 車両用合わせガラス
2 第1遮光膜
3 第2遮光膜
5 可視領域
6 情報取得領域
10 第1ガラス板
20 第2ガラス板
30 中間膜
41 第1母線
42 第2母線
43 第3母線
51 電熱線