(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】洗浄剤、並びにフラットパネルディスプレー基板及び半導体デバイス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11D 7/22 20060101AFI20220621BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20220621BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20220621BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C11D7/22
C08L79/00 A
C08G73/00
H01L21/304 647A
(21)【出願番号】P 2021043612
(22)【出願日】2021-03-17
(62)【分割の表示】P 2017104436の分割
【原出願日】2017-05-26
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 正志
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 慎二
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 明
(72)【発明者】
【氏名】入江 嘉子
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087958(JP,A)
【文献】特開2000-219739(JP,A)
【文献】特開2007-335856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 - 19/00
H01L 21/304
C23G 1/00 - 5/06
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
C08G 73/00 - 73/26
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
B08B 3/00 - 3/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単位を有し、芳香環に対する酸性基の含有率が80mol%以上であるアニリン系ポリマーと、水とを含有する、洗浄剤。
【化1】
式(1)中、R
1~R
4
のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基であり、残りが水素原子である。
【請求項2】
アルカリ金属の含有量が1質量ppm以下である、請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
前記アニリン系ポリマーが、下記一般式(3)で表される構造を有する、請求項1または2に記載の洗浄剤。
【化2】
式(3)中、
R
12
~R
15
のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基であり、残りが水素原子である。R
16
~R
19
のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基であり、残りが水素原子である。R
20
~R
23
のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基であり、残りが水素原子である。R
24
~R
27
のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基であり、残りが水素原子である。また、nは重合度を示す。
【請求項4】
前記アニリン系ポリマーが、ポリ(2-スルホ-5-メトキシ-1,4-イミノフェニレン)およびポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)の少なくとも一方である、請求項3に記載の洗浄剤。
【請求項5】
フラットパネルディスプレー基板用または半導体デバイス基板用である、請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項6】
フラットパネルディスプレー基板の製造工程において、エッチングにより生じた金属の削りカスおよびレジスト膜の少なくとも一方を請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄剤により除去する、フラットパネルディスプレー基板の製造方法。
【請求項7】
半導体デバイス基板の製造工程において、化学的機械的研磨により生じた金属の研磨カスおよび研磨剤の少なくとも一方を請求項1~4のいずれか一項に記載の洗浄剤により除去する、半導体デバイス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレー基板や半導体デバイス基板などを洗浄するのに好適な洗浄剤、並びにフラットパネルディスプレー基板及び半導体デバイス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレー(FPD)の製造工程においては、ガラス等の基板上に配線となる金属膜およびレジスト膜を順次成膜した後、レジスト膜を露光、現像してパターニングすることによりレジストパターンを形成することが行われている。レジストパターンが形成された後、レジストのない部分を選択的にエッチングし、さらにエッチングにより生じた金属の削りカスやレジスト膜を除去することによって、レジストパターンが形成された基板が得られる。
【0003】
半導体デバイスは、シリコンウェハ等の基板上に配線となる金属膜等を成膜した後、研磨剤を用いて化学的機械的研磨(CMP)によって表面の平坦化処理を行い、平坦となった面の上に新たな層を積み重ねることで製造される。
CMP工程後の基板の表面には、CMP工程で用いた研磨剤や金属の研磨カスが残留しやすいことから、基板を洗浄する必要がある。
【0004】
従来、FPD基板や半導体デバイス基板の洗浄には、アニオン性界面活性剤を含む洗浄剤が用いられていた。
しかし、アニオン性界面活性剤を含む洗浄剤は基板上に形成された金属膜を腐食することがあった。また、洗浄時に泡立ちやすく、泡が基板上に残ってしまうという問題もあった。
【0005】
そこで、泡立ちにくい洗浄剤として、例えば特許文献1には、スルファミン酸と、分子内にスルホン酸基を有する、質量平均分子量が1000~2000000のアニオン性界面活性剤と、キレート剤と、水とを含有し、pHが3以下である洗浄剤が開示されている。
また、界面活性剤を含有しない洗浄剤として、例えば特許文献2には、アミノベンゼンスルホン酸と、水混和性有機溶剤と、水とを含有し、pHが6~11である洗浄剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-163609号公報
【文献】特開2009-224782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の洗浄剤では、高分子量のアニオン界面活性剤を用いているので比較的泡立ちにくいものの、必ずしも泡立ち防止性を満足するものではなく、腐食防止性にも劣っていた。また、使用時にpHの制約があった。
一方、特許文献2に記載の洗浄剤は、アニオン界面活性剤を含んでいないので泡立ちにくく、金属に対する腐食性も低いが、使用時にpHの制約があった。
【0008】
また、特許文献1に記載の洗浄剤に含まれるスルファミン酸や、特許文献2に記載の洗浄剤に含まれるアミノベンゼンスルホン酸は、製造時にナトリウムなどのアルカリ金属が混入しやすい。その結果、スルファミン酸やアミノベンゼンスルホン酸はアルカリ金属を含んだ状態で洗浄剤に配合されることとなり、水中に放出されたアルカリ金属が基板上に付着してしまう。
このように、特許文献1、2に記載の洗浄剤は、基板への金属汚染という問題もあった。基板への金属汚染を防止するには、スルファミン酸やアミノベンゼンスルホン酸に混入されたアルカリ金属を除去すればよい。しかし、特にアミノベンゼンスルホン酸は水に溶けにくいためイオン交換樹脂などによる精製が困難であり、混入したアルカリ金属を除去しにくい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、金属に対する腐食性が低く、洗浄時に泡立ちにくく、基板への金属汚染を防止でき、しかも使用時にpHの制約がない洗浄剤、並びにフラットパネルディスプレー基板及び半導体デバイス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)で表される単位を有し、芳香環に対する酸性基の含有率が80mol%以上であるアニリン系ポリマーと、水とを含有する、洗浄剤。
[2] アルカリ金属の含有量が1質量ppm以下である、[1]に記載の洗浄剤。
[3] 前記アニリン系ポリマーが、下記一般式(3)で表される構造を有する、[1]または[2]に記載の洗浄剤。
[4] 前記アニリン系ポリマーが、ポリ(2-スルホ-5-メトキシ-1,4-イミノフェニレン)およびポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)の少なくとも一方である、[3]に記載の洗浄剤。
【0011】
【0012】
式(1)中、R1~R4は、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれ、R1~R4のうちの少なくとも1つは酸性基である。ここで、酸性基とはスルホン酸基またはカルボキシ基である。
式(3)中、R12~R27は、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれ、R12~R27のうち少なくとも1つは酸性基である。また、nは重合度を示す。
【0013】
[5] フラットパネルディスプレー基板用または半導体デバイス基板用である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の洗浄剤。
[6] フラットパネルディスプレー基板の製造工程において、エッチングにより生じた金属の削りカスおよびレジスト膜の少なくとも一方を[1]~[4]のいずれか1つに記載の洗浄剤により除去する、フラットパネルディスプレー基板の製造方法。
[7] 半導体デバイス基板の製造工程において、化学的機械的研磨により生じた金属の研磨カスおよび研磨剤の少なくとも一方を[1]~[4]のいずれか1つに記載の洗浄剤により除去する、半導体デバイス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属に対する腐食性が低く、洗浄時に泡立ちにくく、基板への金属汚染を防止でき、しかも使用時にpHの制約がない洗浄剤、並びにフラットパネルディスプレー基板及び半導体デバイス基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「洗浄」とは、洗浄対象物(例えば金属の削りカスや研磨カス、研磨剤など)を除去することはもちろんのこと、例えばレジスト膜を除去(剥離)することも含む。
また、本発明において「水溶性」および「溶解性」とは、水、または水と水溶性有機溶剤との混合溶剤10g(液温25℃)に、0.1g以上均一に溶解することを意味する。
【0016】
[洗浄剤]
本発明の洗浄剤は、酸性基を有するアニリン系ポリマーと、水とを含有する。
【0017】
<アニリン系ポリマー>
アニリン系ポリマーは、酸性基を有する。アニリン系ポリマーは水溶性であり、水への溶解性に優れる。
ここで、「酸性基」とは、スルホン酸基(-SO3H)またはカルボキシ基(-COOH)である。
なお、スルホン酸基には、スルホン酸基を有する置換基(-R5SO3H)や、スルホン酸基のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または置換アンモニウム塩なども含まれる。
一方、カルボキシ基には、カルボキシ基を有する置換基(-R5COOH)や、カルボキシ基のアルカリ金属塩、アンモニウム塩または置換アンモニウム塩なども含まれる。
前記R5は炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基を表す。
【0018】
アニリン系ポリマーとしては、酸性基を有していれば特に限定されず、公知のアニリン系ポリマーを用いることができる。
具体的には、無置換または置換基を有するポリアニリン、ポリジアミノアントラキノン等のπ共役系ポリマー中の骨格または該π共役系ポリマー中の窒素原子上に、下記(i)~(iii)のいずれかを有しているポリマーが挙げられる。
(i)酸性基
(ii)酸性基のアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは置換アンモニウム塩
(iii)酸性基、酸性基のアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは置換アンモニウム塩のいずれかで置換されたアルキル基もしくはエーテル結合を含むアルキル基
【0019】
これらの中でも、水への溶解性に優れる観点から、ポリアニリン骨格を含むポリマーが好ましい。
特に、高い溶解性を発現できる観点から、下記一般式(2)で表される単位を、ポリマーを構成する全単位(100mol%)中に20~100mol%含有するポリマーが好ましい。
【0020】
【化2】
式(2)中、R
6~R
10は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、-N(R
11)
2、-NHCOR
11、-SR
11、-OCOR
11、-COOR
11、-COR
11、-CHO、および-CNからなる群より選ばれ、R
11は炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。
ただし、R
6~R
10のうちの少なくとも1つは酸性基である。
【0021】
アニリン系ポリマーとしては、前記一般式(2)で表される単位を有するポリマーの中でも、水に対する溶解性により優れる観点から、下記一般式(1)で表される単位を有するポリマーが好ましい。
【0022】
【0023】
式(1)中、R1~R4は、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれ、R1~R4のうちの少なくとも1つは酸性基である。
酸性基としてはスルホン酸基が好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される単位としては、製造が容易な点で、R1~R4のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基であり、残りが水素原子であるものが好ましい。
【0025】
アニリン系ポリマーは、pHに関係なく水への溶解性に優れる観点から、アニリン系ポリマーを構成する全単位(100mol%)のうち、前記一般式(1)で表される単位を10~100mol%含有することが好ましく、50~100mol%含有することがより好ましく、100mol%含有することが特に好ましい。
また、アニリン系ポリマーは、前記一般式(1)で表される単位を1分子中に10以上含有することが好ましい。
【0026】
また、アニリン系ポリマーは、溶解性向上の観点から、芳香環に対する酸性基の含有率が70mol%以上であるものが好ましく、80mol%以上であるものがより好ましく、90mol%以上であるものが特に好ましい。
【0027】
さらに、アニリン系ポリマーは、前記一般式(1)で表される単位以外の構成単位として、溶解性等に影響を及ぼさない限り、置換または無置換のアニリン、チオフェン、ピロール、フェニレン、ビニレン、二価の不飽和基、二価の飽和基からなる群より選ばれる1種以上の単位を含んでいてもよい。
【0028】
アニリン系ポリマーとしては、高い溶解性を発現できる観点から、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0029】
【0030】
式(3)中、R12~R27は、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれ、R12~R27のうち少なくとも1つは酸性基である。また、nは重合度を示す。
【0031】
前記一般式(3)で表される構造を有する化合物の中でも、溶解性に優れる点で、ポリ(2-スルホ-5-メトキシ-1,4-イミノフェニレン)、ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)が特に好ましい。
【0032】
アニリン系ポリマーの質量平均分子量は、3000~1000000が好ましく、5000~80000がより好ましく、10000~70000が特に好ましい。
ここで、アニリン系ポリマーの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算)である。
【0033】
(アニリン系ポリマーの製造方法)
アニリン系ポリマーは公知の方法で製造できる。例えば、酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および置換アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(モノマー)を、塩基性反応助剤の存在下、酸化剤を用いて重合することで得られる。
【0034】
酸性基置換アニリンとしては、例えば酸性基としてスルホン酸基を有するスルホン酸基置換アニリンが挙げられる。
スルホン基置換アニリンとして代表的なものは、アミノベンゼンスルホン酸類であり、具体的には2-アミノベンゼンスルホン酸、3-アミノベンゼンスルホン酸、4-アミノベンゼンスルホン酸、アニリン-2,6-ジスルホン酸、アニリン-2,5-ジスルホン酸、アニリン-3,5-ジスルホン酸、アニリン-2,4-ジスルホン酸、アニリン-3,4-ジスルホン酸などが好ましく用いられる。
【0035】
アミノベンゼンスルホン酸類以外のスルホン基置換アニリンとしては、例えばメチルアミノベンゼンスルホン酸、エチルアミノベンゼンスルホン酸、n-プロピルアミノベンゼンスルホン酸、iso-プロピルアミノベンゼンスルホン酸、n-ブチルアミノベンゼンスルホン酸、sec-ブチルアミノベンゼンスルホン酸、t-ブチルアミノベンゼンスルホン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類;メトキシアミノベンゼンスルホン酸(例えば2-メトキシアニリン-5-スルホン酸、2-メトキシアニリン-3-スルホン酸、3-メトキシアニリン-2-スルホン酸、3-メトキシアニリン-5-スルホン酸等)、エトキシアミノベンゼンスルホン酸、プロポキシアミノベンゼンスルホン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ニトロ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;フルオロアミノベンゼンスルホン酸、クロロアミノベンゼンスルホン酸、ブロムアミノベンゼンスルホン酸等のハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類などを挙げることができる。
これらの中では、溶解性に特に優れるアニリン系ポリマーが得られる点で、アルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、または、ハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類が好ましく、製造が容易な点で、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および置換アンモニウム塩が特に好ましい。
これらのスルホン酸基置換アニリンはそれぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0036】
アニリン系ポリマーの製造に用いられる塩基性反応助剤としては、例えば無機塩基、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類などが用いられる。
塩基性反応助剤としては無機塩基が好ましく、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。
また、無機塩基以外では、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン等の脂式アミン類;ピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン、γ-ピコリン等の環式不飽和アミン類が、塩基性反応助剤として好ましく用いられる。
これらの塩基性反応助剤はそれぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0037】
アニリン系ポリマーの製造に用いられる酸化剤としては、標準電極電位が0.6V以上である酸化剤であれば限定はないが、例えばペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等のペルオキソ二硫酸類;過酸化水素等を用いることが好ましい。
これらの酸化剤はそれぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0038】
重合の方法としては、例えば、酸化剤溶液中にモノマーと塩基性反応助剤の混合溶液を滴下する方法、モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液に酸化剤溶液を滴下する方法、反応容器等にモノマーと塩基性反応助剤の混合溶液と、酸化剤溶液を同時に滴下する方法などが挙げられる。
【0039】
重合後は、通常、遠心分離器等により溶媒を濾別する。さらに、必要に応じて濾過物を洗浄液により洗浄した後、乾燥させて、重合体(アニリン系ポリマー)を得る。
【0040】
アニリン系ポリマーの原料となる酸性基置換アニリン等のモノマーには、製造時にナトリウムなどのアルカリ金属が混入しやすい。これは、アルカリ金属が酸性基のカウンターイオンとしてモノマー中に取り込まれるためと考えられる。そのため、アルカリ金属が混入したモノマーを重合して得られるアニリン系ポリマーにもアルカリ金属が含まれることとなる。このアルカリ金属は、FPD基板や半導体デバイス基板などの洗浄において洗浄液中に放出されて基板上に付着することがあり、基板の金属汚染の原因となる。
【0041】
しかし、本発明に用いるアニリン系ポリマーは水や水溶性有機溶媒への溶解性に優れることから、容易に精製できる。
精製されたアニリン系ポリマーは、アルカリ金属が十分に除去されているので、洗浄剤として用いた際に基板への金属汚染を防止できる。
【0042】
アニリン系ポリマーの精製方法としては特に限定されず、イオン交換法、プロトン酸溶液中での酸洗浄、加熱処理による除去、中和析出などあらゆる方法を用いることができるが、イオン交換法が特に有効である。
イオン交換法を用いることにより、アニリン系ポリマーに混入したアルカリ金属を効果的に除去でき、純度の高いアニリン系ポリマーを得ることができる。
【0043】
イオン交換法としては、陽イオン交換樹脂を用いたカラム式やバッチ式の処理;電気透析法などが挙げられる。
なお、イオン交換法でアルカリ金属を除去する場合は、重合で得られたアニリン系ポリマーを所望の固形分濃度になるように水性媒体に溶解させ、ポリマー溶液としてから陽イオン交換樹脂等に接触させることが好ましい。
ポリマー溶液中のアニリン系ポリマーの濃度としては、工業性や精製効率の観点から、0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0044】
水性媒体としては、水、水溶性有機溶剤、水と水溶性有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は水に可溶な有機溶剤であり、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のピロリドン類;乳酸メチル、乳酸エチル、β-メトキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類などが挙げられる。
【0045】
陽イオン交換樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばオルガノ株式会社製の「アンバーライト」などの強酸型の陽イオン交換樹脂が好ましい。
陽イオン交換樹脂の形態については特に限定されることなく、種々の形態のものを使用でき、例えば球状細粒、膜状や繊維状などが挙げられる。
アニリン系ポリマーに対する陽イオン交換樹脂の量は、アニリン系ポリマー100質量部に対して100~2000質量部が好ましく、500~1500質量部がより好ましい。陽イオン交換樹脂の量が100質量部未満であると、アルカリ金属が十分に除去されにくい。一方、陽イオン交換樹脂の量が2000質量部を超えると、ポリマー溶液に対して過剰量となるため、陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン交換処理した後の、ポリマー溶液の回収が困難となる。
【0046】
ポリマー溶液と、陽イオン交換樹脂の接触方法としては、例えば、容器にポリマー溶液と陽イオン交換樹脂を入れ、攪拌または回転させることで、陽イオン交換樹脂と接触させる方法が挙げられる。
また、陽イオン交換樹脂をカラムに充填し、ポリマー溶液を、好ましくはSV=0.01~20、より好ましくはSV=0.2~10の流量で通過させて、陽イオン交換処理を行う方法でもよい。
ここで、空間速度SV(1/hr)=流量(m3/hr)/濾材量(体積:m3)である。
【0047】
ポリマー溶液と、陽イオン交換樹脂を接触させる時間は、精製効率の観点から、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。
なお、接触時間の上限値については特に制限されず、ポリマー溶液の濃度、陽イオン交換樹脂の量、後述する接触温度などの条件に併せて、適宜設定すればよい。
ポリマー溶液と、陽イオン交換樹脂を接触させる際の温度は、工業的観点から、10~50℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。
【0048】
電気透析法の場合、電気透析法のイオン交換膜は特に限定はされないが、不純物の拡散による浸透をより抑制するために、一価のイオンを選択的に透過する処理が施されたイオン交換膜であって、分画分子量が300以下のものを使用することが好ましい。このようなイオン交換膜としては、例えば株式会社アストム製の「ネオセプタCMK(カチオン交換膜、分画分子量300)」、「ネオセプタAMX(アニオン交換膜、分画分子量300)」などが好適である。また、電気透析法に用いるイオン交換膜として、アニオン交換層、カチオン交換層を張り合わせた構造を持ったイオン交換膜であるバイポーラ膜を用いてもよい。このようなバイポーラ膜としては、例えば株式会社アストム製の「PB-1E/CMB」などが好適である。電気透析における電流密度は限界電流密度以下であることが好ましい。バイポーラ膜での印加電圧は、10~50Vが好ましく、25~35Vがより好ましい。
【0049】
このようにして精製されたアニリン系ポリマーは、アルカリ金属が十分に除去されている。
なお、精製後のアニリン系ポリマーは、水などの水性媒体に溶解した状態である。従って、エバポレータなどで水性媒体を除去すれば固体状のアニリン系ポリマーが得られるが、アニリン系ポリマーは水性媒体に溶解した状態のまま洗浄剤に用いてもよい。
【0050】
洗浄剤中のアニリン系ポリマーの含有量は純分換算(固形分換算)で、洗浄剤の総質量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。アニリン系ポリマーの含有量が0.1質量%以上であれば、FPD基板や半導体デバイス基板などを十分に洗浄できる。
洗浄剤中のアニリン系ポリマーの含有量は純分換算(固形分換算)で、洗浄剤の総質量に対して20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0051】
<水>
水としては、水道水、イオン交換水、純水、蒸留水などが挙げられる。
水性媒体として水を用いてアニリン系ポリマーを精製し、精製後のアニリン系ポリマーを水に溶解した状態のまま用いる場合は、洗浄剤中のアニリン系ポリマーの含有量が上記範囲内となるように、濃縮したり水を加えて希釈したりしてもよい。
【0052】
洗浄剤中の水の含有量は、洗浄剤の総質量に対して80~99.9質量%が好ましく、85~99.5質量%がより好ましく、90~99質量%がさらに好ましい。
なお、洗浄剤に含まれるアニリン系ポリマーおよび水の含有量の合計が、洗浄剤の総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0053】
<任意成分>
洗浄剤は、アニリン系ポリマーおよび水以外の成分(任意成分)を含有してもよい。
任意成分としては、有機溶剤、各種添加剤などが挙げられる。
【0054】
有機溶剤としては、水に可溶な水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤としては、アニリン系ポリマーの精製の説明において、水性媒体として先に例示した水溶性有機溶剤が挙げられる。
洗浄剤中の有機溶剤の含有量は、洗浄剤の総質量に対して1~99質量%が好ましく、3~95質量%がより好ましく、5~90質量%がさらに好ましい。
【0055】
添加剤としては、FPD基板や半導体デバイス基板などの洗浄に用いる洗浄剤に含まれる公知の添加剤が挙げられ、具体的には、酸化防止剤、防錆剤、pH調整剤、緩衝剤、消泡剤、防腐剤、ハイドロトロープ剤などが挙げられる。
なお、FPD基板や半導体デバイス基板などの洗浄時における金属膜の腐食防止や、泡立ち防止を考慮すると、洗浄剤はアニオン界面活性剤等の界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、洗浄剤の総質量に対して、0.1質量%以下を意味する。
【0056】
洗浄剤が任意成分を含有する場合、洗浄剤に含まれるアニリン系ポリマー、水および任意成分の含有量の合計が、洗浄剤の総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0057】
<洗浄剤の製造方法>
本発明の洗浄剤は、上述したアニリン系ポリマーと、水と、必要に応じて任意成分とを混合して製造することができる。
また、上述したように、精製後のアニリン系ポリマーは水性媒体に溶解した状態であることから、水性媒体に溶解した精製後のアニリン系ポリマーをそのまま洗浄剤として用いてもよいし、必要に応じて濃縮したり、水で希釈したり、任意成分を添加したりして、洗浄剤としてもよい。
【0058】
このようにして得られた洗浄剤は、アルカリ金属の含有量が十分に低減されている。洗浄剤中のアルカリ金属の含有量は、洗浄剤の総質量に対して1質量ppm以下が好ましく、0.95質量ppm以下がより好ましく、0.9質量ppm以下がさらに好ましい。洗浄剤中のアルカリ金属の含有量は少ないほど好ましく、下限値は0質量ppmが好ましい。
ここで、洗浄剤中のアルカリ金属の含有量は、高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて金属分析することにより求められる。
【0059】
<作用効果>
以上説明した本発明の洗浄剤は、酸性基を有するアニリン系ポリマーと、水とを含有する。
酸性基を有するアニリン系ポリマーの原料となるモノマーには、製造時にナトリウム等のアルカリ金属が混入しやすい。モノマーは水に溶けにくいため精製しにくく、アルカリ金属を除去しにくい。このアルカリ金属が、FPD基板や半導体デバイス基板などの洗浄において洗浄液中に放出されて基板上に付着することがあり、基板への金属汚染の原因となる。
【0060】
しかし、本発明の洗浄剤に含まれる酸性基を有するアニリン系ポリマーは水溶性であり、水や水溶性有機溶媒への溶解性に優れる。そのため、イオン交換法などによって容易に精製でき、アルカリ金属を十分に除去できる。よって、本発明の洗浄剤は、アルカリ金属の含有量が十分に低減されたものとなりやすく、基板への金属汚染を防止できる。
【0061】
しかも、本発明の洗浄剤は界面活性剤を含有する必要がないので、泡立ちにくく、金属に対する腐食性も低い。
【0062】
また、上述したように従来の洗浄剤は使用時にpHの制約があった。例えば、特許文献2に記載の洗浄剤は、モノマーであるアミノベンゼンスルホン酸を水に溶解させるために、pHを6~11に調整する必要があると考えられる。
しかし、本発明の洗浄剤に含まれる酸性基を有するアニリン系ポリマーは水溶性であるため、pH調整しなくても水に溶解できる。よって、本発明の洗浄剤であれば、アルカリ性はもちろんのこと、酸性の状態でも使用でき、使用時にpHの制約がない。
【0063】
<用途>
本発明の洗浄剤は、電子材料を洗浄するための洗浄剤として用いることができる。
洗浄の対象(被洗浄物)となる電子材料としては、FPD基板、半導体デバイス基板、磁気ディスク基板、フォトマスク基板、太陽電池用基板、プリント基板、電子部品などが挙げられる。これらの中でも、本発明の洗浄剤は、FPD基板や半導体デバイス基板の洗浄剤として好適である。
【0064】
例えば、本発明の洗浄剤をFPD基板用として用いる場合、FPDの製造工程のうち、エッチングにより生じた金属の削りカスやレジスト膜の除去を目的とする洗浄工程で使用する洗浄剤として適用することが好ましい。
本発明の洗浄剤を半導体デバイス基板用として用いる場合、半導体デバイスの製造工程のうち、CMPにより生じた金属の研磨カスや研磨剤の除去を目的とする洗浄工程で使用する洗浄剤として適用することが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例および比較例における各種測定・評価方法は以下の通りである。
【0066】
<測定・評価方法>
(アルカリ金属の含有量の測定)
洗浄剤の総質量に対するナトリウムイオンの含有量をICP-MSを用いて測定した。
【0067】
(腐食防止性の評価)
試験片として、予め脱脂および表面研磨したアルミニウム基材(ISO 7075-T6相当品)を用いた。試験片の質量および材料密度を測定しておいた。
洗浄剤100質量部に試験片を浸漬し、55℃±1℃で7日間保持した後、洗浄剤から試験片を取り出した。試験片に付着した洗浄剤を除去し、試験片を乾燥した後、試験片の質量を測定した。これを浸漬後の試験片の質量とし、下記式(I)より試験片の浸食度を求めた。
X={(W1-W2)×10×365)}/(d×S×T) ・・・(I)
(式(I)中、「X」は試験片の浸食度[mm/年]であり、「W1」は洗浄剤に浸漬する前の試験片の質量[g]であり、「W2」は浸漬後の試験片の質量[g]であり、「d」は洗浄剤に浸漬する前の試験片の材料密度[g/cm2]であり、「S」は試験片の浸漬面積[cm2]であり、「T」は浸漬日数(保持日数)である。)
【0068】
以下の評価基準にて金属に対する腐食防止性を評価した。
○:浸食度が6.25mm/年未満である。
×:浸食度が6.25mm/年以上である。
【0069】
(泡立ち防止性の評価)
30mLのガラス製サンプル瓶に洗浄剤10gを投入し、30秒間激しく振とうさせた後、1分間放置した。放置後の泡の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて泡立ち防止性を評価した。
○:泡が確認できない。
×:泡が確認される。
【0070】
(金属汚染防止性の評価)
被洗浄物として、シリコンウェハを用いた。
洗浄剤100質量部に、被洗浄物を浸漬し、25℃で2時間保持した後、洗浄剤から被洗浄物を取り出した。被洗浄物に付着した洗浄剤を除去し、被洗浄物を乾燥した後に、被洗浄物を超純水100質量部に浸漬し、25℃で12時間保持した。保持後の超純水の総質量に対するナトリウムイオンの含有量をICP-MSを用いて測定し、以下の評価基準にて金属汚染防止性を評価した。
○:超純水中のナトリウムイオンの含有量が1質量ppm未満である。
×:超純水中のナトリウムイオンの含有量が1質量ppm以上である。
【0071】
「実施例1」
<酸性基を有するアニリン系ポリマーの製造>
2-メトキシアニリン-5-スルホン酸100mmolを、4mol/L濃度のトリエチルアミン溶液(溶媒:水/アセトニトリル=5/5)300mLに25℃で溶解し、モノマー溶液を得た。
別途、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを、水/アセトニトリル=5/5の溶液に溶解し、酸化剤溶液を得た。
ついで、酸化剤溶液をモノマー溶液に滴下した。滴下終了後、25℃で12時間さらに攪拌した後、反応生成物を遠心濾過器にて濾別した。さらに、反応生成物をメタノールにて洗浄した後、乾燥させ、粉末状のポリマー(ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸))を15g得た。
【0072】
得られた粉末状のポリマー10質量部を100質量部の水に溶解し、ポリマー溶液を得た。
超純水により洗浄した陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「アンバーライトIR-120B」)を、ポリマー溶液100質量部に対して50質量部となるようにカラムに充填した。
このカラムに、ポリマー溶液を通過させて陽イオン交換処理を行い、ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)を精製した。精製されたポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)は水に溶解した水溶液の状態であり、ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)水溶液の総質量に対するポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)の含有量は、9.1質量%である。
【0073】
<洗浄剤の製造>
ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)水溶液の総質量に対するポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)の含有量が2質量%になるまで水を加えて希釈し、洗浄剤を得た。
得られた洗浄剤の総質量に対するナトリウムイオンの含有量を測定した。結果を表1に示す。
また、得られた洗浄剤について、腐食防止性、泡立ち防止性および金属汚染防止性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0074】
「比較例1」
スルファミン酸(和光純薬工業株式会社製)2質量部と、アニオン界面活性剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製、「ポリナスPS-5」)0.2質量部と、水97.8質量部とを混合し、洗浄剤を得た。
得られた洗浄剤の総質量に対するナトリウムイオンの含有量を測定した。結果を表1に示す。
また、得られた洗浄剤について、腐食防止性、泡立ち防止性および金属汚染防止性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0075】
「比較例2」
4-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部と、水98質量部とを混合し、洗浄剤を得た。
得られた洗浄剤の総質量に対するナトリウムイオンの含有量を測定した。結果を表1に示す。
また、得られた洗浄剤について、腐食防止性、泡立ち防止性および金属汚染防止性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0076】
「比較例3」
4-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム5質量部と水95質量部とを混合し、モノマー分散液を調製した。
得られたモノマー分散液について、実施例1と同様にして陽イオン交換処理を試みたが、析出物が生じてカラムが詰まってしまい、モノマー分散液を回収できなかった。
【0077】
【0078】
表1から明らかなように、実施例1で得られた洗浄剤は、浸食度が6.25mm/年未満であり、金属に対する腐食性が低かった。また、実施例1で得られた洗浄剤は、泡立ちにくかった。さらに、実施例1で得られた洗浄剤は、金属汚染防止性の評価における超純水中のナトリウムイオンの含有量が1質量ppm未満であり、被洗浄物への金属汚染を防止できた。
このように、実施例1で得られた洗浄剤は、金属に対する腐食性が低く、洗浄時に泡立ちにくく、基板への金属汚染を防止できることから、電子材料の洗浄剤として適している。
【0079】
一方、比較例1で得られた洗浄剤は、腐食防止性および泡立ち防止性に劣っていた。また、比較例1で得られた洗浄剤はナトリウムイオンの含有量が220質量ppmと高く、金属汚染防止性にも劣っていた。
比較例2で得られた洗浄剤は、金属に対する腐食性が低く、泡立ちにくかったが、ナトリウムイオンの含有量が300質量ppmと高く、金属汚染防止性にも劣っていた。そこで、モノマーである4-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウムを精製しようと試みたが(比較例3)、4-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウムは水に溶解しにくいため、精製ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の洗浄剤は、FPD基板、半導体デバイス基板等の電子材料の洗浄剤として有用である。