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  • 特許-色素沈着抑制用の外用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】色素沈着抑制用の外用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20220621BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 31/255 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/06
A61K8/49
A61K31/255
A61K31/455
A61P17/00
A61P43/00 121
A61Q19/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017246431
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019112337
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 安弓
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-155807(JP,A)
【文献】特開2016-179958(JP,A)
【文献】特開2016-084337(JP,A)
【文献】佐藤製薬株式会社、ペリドール(登録商標)説明文書,2013年09月
【文献】諸富武文 他,ペルガレン軟膏の使用経験,新薬と臨床,1965年01月,第14巻、第1号,1-3頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンスルホン酸ナトリウム、及びニコチン酸ベンジルを含有し、内出血後の色素沈着の改善に使用される、色素沈着抑制用の外用組成物。
【請求項2】
ポリエチレンスルホン酸ナトリウムを0.01~10重量%含む、請求項1に記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
【請求項3】
ニコチン酸ベンジルを0.01~10重量%含む、請求項1又は2に記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
【請求項4】
乳化製剤である、請求項1~3のいずれかに記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
【請求項5】
油中水型の乳化製剤である、請求項1~4のいずれかに記載の色素沈着抑制用の外用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素沈着抑制用の外用組成物に関する。より具体的には、本発明は、皮下での色素沈着、特に皮下の内出血によって生じる色素沈着を効果的に抑制できる色素沈着抑制用の外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のシミ、そばかす、くすみ、黒ずみ、肝斑、老人性色素斑等の色素沈着は、紫外線曝露、ホルモンの異常や物理的な刺激等が原因となってメラニンが過剰に形成され、これが皮膚内に沈着することによって生じることが分かっている。このような皮膚の色素沈着は、特に女性にとって美容上の大きな悩みとなっている。従来、皮膚の色素沈着を抑制して美肌をもたらす成分の探索は精力的に行われており、ビタミンC、ビタミンC誘導体、アルブチン、カミツレエキス等の成分には、皮膚の色素沈着を抑制できることが報告されている。しかしながら、従来、皮膚の色素沈着抑制作用が報告されている成分では、効果が緩慢で十分ではない、安定性が不十分で製剤化が困難である、等の欠点があり、必ずしも消費者ニーズを十分に満足できるものではない。
【0003】
また、皮下で生じる内出血(あざ等)の患部では、ヘモグロビンの蓄積による変色とは別に、メラニンの生成が促進され、治癒後でも色素沈着が残り易いことが知られている。内出血(あざ等)は、日常生活で発症し易い症状であるので、内出血後の色素沈着を抑制し、元の皮膚状態に回復させることは、美容的見地から強く切望されている。従来、内出血の治療には、トリベノシドやビタミンKが有効であることが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、これらの成分には、メラニンを分解する作用が知られておらず、内出血後の色素沈着を効果的に抑制できるとまではいえないのが現状である。
【0004】
このような従来技術を背景として、皮下での色素沈着(特に内出血後の色素沈着)を効果的に抑制できる新たな製剤の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-280609号公報
【文献】特開2004-51627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、色素沈着を効果的に抑制できる色素沈着抑制用の外用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ポリエチレンスルホン酸ナトリウム及びニコチン酸ベンジルを含む外用組成物は、メラニンの分解が促進され、色素沈着を効果的に抑制できることを見出した。特に、当該外用組成物は、内出血患部で生成されるメラニンの分解を促進し、内出血後の色素沈着を効果的に抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ポリエチレンスルホン酸ナトリウム、及びニコチン酸ベンジルを含有する、色素沈着抑制用の外用組成物。
項2. ポリエチレンスルホン酸ナトリウムを0.01~10重量%含む、項1に記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
項3. ニコチン酸ベンジルを0.01~10重量%含む、項1又は2に記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
項4. 乳化製剤である、項1~3のいずれかに記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
項5. 油中水型の乳化製剤である、項1~4のいずれかに記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
項6. 内出血後の色素沈着の抑制に使用される、項1~5のいずれかに記載の色素沈着抑制用の外用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエチレンスルホン酸ナトリウムとニコチン酸ベンジルを併用することにより、両成分の相互作用によって、メラニンの分解を飛躍的に促進し、色素沈着を効果的に抑制することができる。特に、本発明によれば、内出血後の色素沈着を効果的に抑制できるので、内出血患部を治癒後に正常な皮膚外観に回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】脹脛の青あざに実施例1の油中水型乳化製剤を塗布した結果(カラーイメージの像、メラニンを可視化した像、及びメラニンを可視化した像から解析した変動値)を示す図である。
図2】膝裏の青あざに実施例1の油中水型乳化製剤を塗布した結果(カラーイメージの像、メラニンを可視化した像、及びメラニンを可視化した像から解析した変動値)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の外用組成物は、色素沈着抑制のために使用される外用組成物であって、ポリエチレンスルホン酸ナトリウム及びニコチン酸ベンジルを含有することを特徴とする。以下、本発明の外用組成物について詳述する。
【0012】
[ポリエチレンスルホン酸ナトリウム]
本発明の外用組成物は、ポリエチレンスルホン酸ナトリウムを含有する。ポリエチレンスルホン酸ナトリウムは、アポラートナトリウムとも称されることがあり、下記式に示すモノマーがラジカル重合した高分子化合物である。また、ポリエチレンスルホン酸ナトリウムは、CAS登録番号「25053-27-4」としても知られている化合物である。
【化1】
【0013】
本発明で使用されるポリエチレンスルホン酸ナトリウムの粘度特性については、特に制限されないが、好適な一例として、25℃における極限粘度が0.06~0.08ml/gが挙げられる。ここで、25℃における極限粘度は、日本薬局方外医薬品規格の「ポリエチレンスルホン酸ナトリウム」の項の「粘度」の欄に記載されている方法に従って測定される値である。
【0014】
本発明で使用されるポリエチレンスルホン酸ナトリウムについては、化粧料や外用医薬品等に通常用いられるものであればよく、その規格等については、特に制限されないが、日本薬局方外医薬品規格に掲載のものが好ましい。
【0015】
本発明の外用組成物において、ポリエチレンスルホン酸ナトリウムの含有量については、形態、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%が挙げられる。メラニンの分解作用をより一層向上させるという観点から、本発明の外用組成物におけるポリエチレンスルホン酸ナトリウムの含有量として、更に好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%、最も好ましくは0.5~1.5重量%が挙げられる。
【0016】
[ニコチン酸ベンジル]
本発明の外用組成物は、ニコチン酸ベンジルを含有する。ニコチン酸ベンジルとは、血行促進作用、細胞賦活作用等が知られている公知の化合物である。
【0017】
本発明の外用組成物において、ニコチン酸ベンジルの含有量については、形態、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.01~10重量%が挙げられる。メラニンの分解作用をより一層向上させるという観点から、本発明の外用組成物におけるニコチン酸ベンジルの含有量として、好ましくは0.05~5重量%、更に好ましくは0.1~5重量%が挙げられる。
【0018】
また、本発明の外用組成物において、ポリエチレンスルホン酸ナトリウムとニコチン酸ベンジルの比率については、特に制限されず、前述する各成分の含有量を満たす範囲内で適宜設定すればよいが、例えば、ポリエチレンスルホン酸ナトリウム100重量部当たり、ニコチン酸ベンジルが0.1~100重量部、好ましく0.1~30重量部、更に好ましくは0.5~15重量部が挙げられる。
【0019】
[基剤]
ポリエチレンスルホン酸ナトリウムは親水性であるのに対し、ニコチン酸ベンジルは親油性であるので、本発明の外用組成物は、両成分を安定に含有するために、乳化製剤であることが好ましい。本発明の外用組成物を乳化製剤にする場合、油相の基剤成分、及び水相の基剤成分が使用される。以下、各基剤成分について説明する。
【0020】
油相の基剤成分
油相の基剤成分としては、例えば、液状油、固形油、高級アルコール等の油性基剤が含まれる。
【0021】
従来の乳化製剤では、液状油が含まれている場合、乳化安定性が低下したり、粘度が低くなったりする傾向があるが、本発明の外用組成物を乳化製剤とする場合、液状油が含まれていても、ポリエチレンスルホン酸ナトリウムの作用によって優れた乳化安定性を備えることができ、更に、油中水型の乳化製剤の場合には、乳化安定性に加えて、高い粘度(適度な硬さ)を備えさせることができる。このような本発明の効果を鑑みれば、本発明の外用組成物を乳化製剤とする場合、使用される油相の基剤成分の好適な例として、液状油が挙げられる。
【0022】
また、本発明の外用組成物を乳化製剤とする場合、油相の基剤成分として、液状油と共に高級アルコールを組み合わせて使用することにより、乳化安定性の向上、油中水型の乳化製剤の場合には、粘度の向上をより一層効果的に図ることができる。
【0023】
また、従来の乳化製剤では、固形油は、乳化安定性を向上させたり、粘度を向上させたりすることが知られているが、乳化製剤に含まれる固形油は、使用感の低下の一因にもなっている。これに対して、本発明の外用組成物を乳化製剤とする場合、固形油を含有しなくても、優れた乳化安定性を備えることができ、更に油中水型の乳化製剤の場合には、粘度を向上させることもできることから、固形油を含有させないことによる使用感の向上を図ることが可能になっている。このような本願発明の効果を鑑みれば、本発明の外用組成物を乳化製剤とする場合の好適な一態様として固形油を実質的に含んでいないものが挙げられる。
【0024】
以下、油相の基剤成分(液状油、固形油、高級アルコール)について、その種類毎に説明する
【0025】
(液状油)
液状油とは、25℃において液状の形態を保つ油である。本発明で使用される液状油としては、化粧料や外用医薬品等に通常用いられるものであればよく、例えば、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナツツ油、オリーブ油、ホホバ油等の植物油;オレイン酸、インステアリン酸等の脂肪酸;エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ2-エチルへキサン酸グリセリル、オレイン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジバラメトキシケイヒ酸-モノエチルへキサン酸グリセリル等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等のシリコン油;流動パラフィン、スクワレン、スクワラン等の液状炭化水素油等が挙げられる。
【0026】
これらの液状油の中でも、好ましくは、エステル油、液状炭化水素油;更に好ましくはミリスチン酸オクチルドデシル、トリ2-エチルへキサン酸グリセリル、オレイン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセリル、流動パラフィン;特に好ましくはミリスチン酸オクチルドデシル、流動パラフィンが挙げられる。
【0027】
これらの液状油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明の外用組成物を乳化製剤にして液状油を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、乳化製剤の乳化タイプ、形態、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.01~30重量%、好ましくは0.1~20重量%、更に好ましくは1~20重量%が挙げられる。
【0029】
(固形油)
固形油とは、25℃において固形の形態を保つ油である。本発明で使用される固形油としては、通常化粧料や外用医薬品等に用いられるものであればよく、例えば、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、ミツロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、ラノリン、セラックロウ、オゾケライト、セレシン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィン、ワセリン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸セチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸コレステリル、オレイン酸コレステリル、パルミチン酸デキストリン、ステアリン酸イヌリン、水素添加ホホバ油、セレシンワックス、固形パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、シリコーンワックス等の固形油が挙げられる。
【0030】
これらの固形油の中でも、好ましくは、ワセリン、パラフィン、ステアリン酸コレステリル、パルミチン酸デキストリン、マイクロクリスタリンワックス;更に好ましくはワセリン、パルミチン酸デキストリン、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。
【0031】
これらの固形油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明の外用組成物を乳化製剤にして固形油を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、乳化製剤の乳化タイプ、形態、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~50重量%、好ましくは1~30重量%、更に好ましくは5~15重量%が挙げられる。
【0033】
(高級アルコール)
高級アルコールとは、1分子中の炭素原子数が6個以上の1価アルコールである。本発明で使用される高級アルコールにおける1分子中の炭素原子数について、6以上であればよいが、好ましくは6~34、更に好ましくは14~22が挙げられる。
【0034】
本発明で使用される高級アルコールとしては、通常化粧料や外用医薬品等に用いられるものであればよく、例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール、セタノール、オレイルアルコール等の直鎖状高級アルコール;ノステアリルグリセリンエーテル(バチルアルコール)、等の分枝鎖状高級アルコールが挙げられる。
【0035】
これらの高級アルコールの中でも、好ましくは、直鎖状高級アルコール;更に好ましくはセタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール;特に好ましくはセタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールが挙げられる。
【0036】
これらの高級アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
本発明の外用組成物を乳化製剤にして高級アルコールを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、乳化製剤の乳化タイプ、形態、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~50重量%、好ましくは1~30重量%、更に好ましくは3~15重量%が挙げられる。
【0038】
また、本発明の外用組成物を乳化製剤にして、液状油と高級アルコールを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、液状油100重量部当たり、高級アルコールが1~200重量部、好ましくは10~150重量部、更に好ましくは20~100重量部が挙げられる。
【0039】
水相の基剤成分
本発明の外用組成物を乳化製剤にする場合、水相の基剤成分として水が含まれる。発明の外用組成物を乳化製剤にする場場合、水の含有量について、乳化製剤の乳化タイプ、形態、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、30~90重量%、好ましくは40~80重量%、更に好ましくは50~70重量%が挙げられる。
【0040】
[ノニオン性界面活性剤]
本発明の外用組成物を乳化製剤にする場合、乳化形態を形成するためにノニオン性界面活性剤が含まれていることが好ましい。
【0041】
ノニオン性界面活性剤の種類については、乳化製剤の乳化タイプに応じて適宜設定すればよい。具体的には、油中水型の乳化製剤にする場合であれば、主にHLB値が2~8程度(好ましくはHLB値が2~6.5)のノニオン性界面活性剤を使用すればよく、また水中油型の乳化製剤にする場合であれば、主にHLB値が8~17程度(好ましくはHLB値が10~17)のノニオン性界面活性剤を使用すればよい。また、HLB値が2~8のものと、HLB値が8~17のものとを併用して、使用する界面活性剤全体としてのHLB値を調整して使用することもできる。なお、本発明において、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、川上法(HLB値=7+11.7log(親水部の式量の総和/親油部の式量の総和))に従って算出される値である。
【0042】
本発明の外用組成物を乳化製剤にする場合、ノニオン性界面活性剤の含有量については、乳化製剤の乳化タイプ、使用するノニオン性界面活性剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~20重量%、好ましくは1~10重量%、更に好ましくは1~5重量%が挙げられる。
【0043】
以下、本発明で使用されるノニオン性界面活性剤の種類について、油中水型にする場合に主に使用されるもの(HLB値が2~8程度)と、水中油型にする場合に主に使用されるもの(HLB値が8~17程度)に分けて説明する。
【0044】
HLB値が2~8程度のノニオン性界面活性剤
本発明の外用組成物を油中水型の乳化製剤にする場合、主に使用されるノニオン性界面活性剤(HLB値が2~8程度)としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0045】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ステアリン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸ポリグリセリル-2、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、ステアリン酸ポリグリセリル-4、オレイン酸ポリグリセリル-4、トリステアリン酸ポリグリセリル-6、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10、ペンタヒドロキシステアリン酸ポリグリセリル-10、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル-10、ペンタオレイン酸ポリグリセリル-10、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-6、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-10等が挙げられる。
【0046】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ミリスチン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、イソステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
【0047】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0048】
プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、具体的には、ステアリン酸プロピレングリコール、イソステアリン酸プロピレングリコール、オレイン酸プロピレングリコール等が挙げられる。
【0049】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、具体的には、PEG-5水添ヒマシ油等が挙げられる。
【0050】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルとしては、具体的には、PPG-4セテス-1等が挙げられる。
【0051】
これらのHLB値が2~8程度のノニオン性界面活性剤の中でも、好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステル、更に好ましくはオレイン酸ポリグリセリル-2が挙げられる。
【0052】
これらのHLB値が2~8程度のノニオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
(HLB値が8~17程度のノニオン性界面活性剤)
本発明の外用組成物を水中油型の乳化製剤にする場合、主に使用されるノニオン性界面活性剤(HLB値が8~17程度)としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、レシチン誘導体等が挙げられる。
【0054】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、自己乳化型モノステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
【0055】
ポリグセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ラウリン酸ポリグリセリル-6、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、イソステアリン酸ポリグリセリル-10等が挙げられる。
【0056】
ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ステアリン酸PEG-5グリセリル、ステアリン酸PEG-15グリセリル、オレイン酸PEG-5グリセリル、オレイン酸PEG-15グリセリル等が挙げられる。
【0057】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ヤシ脂肪酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0058】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ステアリン酸PEG-6ソルビタン、イソステアリン酸PEG-20ソルビタン等が挙げられる。
【0059】
ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルとしては、具体的には、ラウリン酸ソルベス-6、テトラソルビン酸ソルベス-6、テトラオレイン酸ソルベス-30、テトラオレイン酸ソルベス-60等が挙げられる。
【0060】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、具体的には、PEG-10水添ヒマシ油、PEG-20水添ヒマシ油、PEG-30水添ヒマシ油、等が挙げられる。
【0061】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、具体的には、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。
【0062】
ポリエチレングリコール脂肪酸エステルとしては、具体的には、ラウリン酸PEG-10、ステアリン酸PEG-10、ステアリン酸PEG-25、ステアリン酸PEG-40、ステアリン酸PEG-45、ステアリン酸PEG-55、オレイン酸PEG-10、ジステアリン酸PEG-150、ジイソステアリン酸PEG-8等が挙げられる。
【0063】
レシチン誘導体としては、具体的には、水添レシチン、水添リゾレシチン等が挙げられる。
【0064】
これらのHLB値が8~17程度のノニオン性界面活性剤の中でも、好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、更に好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、より好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、特に好ましくはポリオキシエチレンベヘニルエーテルが挙げられる。
【0065】
これらのHLB値が8~17程度のノニオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
[多価アルコール]
本発明の外用組成物には、保湿性の付与等のために、必要に応じて多価アルコールが含まれていてもよい。
【0067】
多価アルコールとしては、化粧料や外用医薬品等に通常用いられるものであればよく、例えば、エチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールの中でも、好ましくは1,3-ブチレングリコール、グリセリンが挙げられる。
【0068】
これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
本発明の外用組成物に、多価アルコールを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、1~40重量%、好ましくは3~30重量%、更に好ましくは5~20重量%が挙げられる。
【0070】
[その他の成分]
本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、他の薬理成分を含有していてもよい。このような薬理成分としては、例えば、抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン等)、局所麻酔剤(プロカイン、テトラカイン、ブピパカイン、メピパカイン、クロロプロカイン、プロパラカイン、メプリルカイン又はこれらの塩、オルソカイン、オキセサゼイン、オキシポリエントキシデカン、ロートエキス、ペルカミンパーゼ、テシットデシチン等)、抗炎症剤(インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等)、皮膚保護剤(コロジオン、ヒマシ油等)、血行促進成分(ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、カプサイシン、トウガラシエキス等)、ビタミン類(レチノール、レチノールパルミチン酸エステル、トコフェロール、トコフェロール酢酸エステル、トコフェロールニコチン酸エステル、トコフェロールコハク酸エステル、トコフェロールリノレン酸エステル等)、清涼化剤(メントール、カンフル、ボルネオール、ハッカ水、ハッカ油等)、ムコ多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルコサミン等)等が挙げられる。
【0071】
また、本発明の外用組成物は、必要に応じて、前述する成分の他に、製剤化等に必要とされる他の基剤や添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)等の水性基剤;カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等の界面活性剤;防腐剤(メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸等)、着香剤(シトラール、1,8-シオネール、シトロネラール、ファルネソール等)、着色剤(タール色素(褐色201号、青色201号、黄色4号、黄色403号等)、カカオ色素、クロロフィル、酸化アルミニウム等)、粘稠剤(カルボキシビニルポリマー、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラギーナン等)、pH調整剤(リン酸、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)、湿潤剤(dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液、D-ソルビトール液、マクロゴール等)、安定化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エデト酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、DL-アラニン、グリシン、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン、ローズマリー抽出物等)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、粘着剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、保存剤等の添加剤が挙げられる。
【0072】
[製品形態]
本発明の外用組成物は、前述するように乳化製剤であることが好ましい。本発明の外用組成物を乳化製剤にする場合、油中水型又は水中油型のいずれの乳化タイプであってもよいが、好ましくは油中水型が挙げられる
【0073】
本発明の外用組成物の製品形態については、化粧料や外用医薬品等の外用剤として使用されるものであればよく、例えば、クリーム剤、軟膏剤、乳液剤、ゲル剤、油剤、ローション剤、リニメント剤、エアゾール剤等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、クリーム剤、軟膏剤、乳液剤、ローション剤が挙げられる。
【0074】
[製造方法]
本発明の外用組成物は、その製剤形態に応じた公知の手法で製造することができる。例えば、本発明の外用組成物を乳化製剤にする場合であれば、含有させる成分を水溶性成分と油性成分に分けて、水溶性成分を含む水相と、油性成分を含む油相とを調製し、これらを公知の手法に従って乳化させればよい。
【0075】
[用途]
本発明の外用組成物は、色素沈着の抑制(予防や改善等)を目的に、色素沈着抑制が求められる皮膚部位に適用して使用される。
【0076】
本発明の用組成物の抑制対象となる色素沈着の種類については、特に制限されないが、例えば、皮膚のシミ、そばかす、くすみ、肝斑、老人性色素斑、物理的刺激による黒ずみ等が挙げられる。特に、本発明の外用剤は、内出血で生成が促進されるメラニンを効率的に分解でき、内出血後の色素沈着を効果的に抑制できるので、内出血が生じた皮膚患部における色素沈着の抑制に好適に使用される。当該内出血の症状については、特に制限されないが、好ましくはあざ(青色や黄色のあざ)、更に好ましくは青あざである。
【0077】
本発明の外用組成物剤の用量については、特に制限されず、求められる色素沈着抑制効果の程度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、色素沈着抑制が求められる皮膚患部1cm2当たり、ニコチン酸ベンジル量換算で0.02~0.1mg程度に相当する量を適用すればよい。
【実施例
【0078】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
試験例1
1.油中水型乳化製剤の製造
表1に示す組成の油中水型乳化製剤(クリーム剤)を調製した。具体的な製造方法は、以下の通りである。油性成分、界面活性剤、高級アルコール、及び液状油を混合し、80℃で加熱溶解することにより、油相原料を調製した。また、別途、水性成分、多価アルコール、及び水性基剤を混合し、80℃で加熱溶解することにより、水相原料を調製した。80℃に加熱した油相原料に対して、80℃に加熱した油相原料をディスパーをかけながら徐々に添加して乳化を行った。その後、撹拌しながら35℃まで冷却することにより、油中水型乳化製剤を得た。
【0080】
【表1】
【0081】
2.内出血後の色素沈着抑制効果の評価
実施例1の油中水型乳化製剤の内出血の治療効果を評価した。具体的には、被験者が打ち身によって内出血(脹脛の青あざ2cm2程度、及び膝裏の青あざ1cm2程度)を発症した直後から、7日間にわたって、1日2回の頻度で、1回当たり約0.1g(ニコチン酸ベンジル量:約0.042mg/cm2)の油中水型乳化製剤を内出血の患部に塗布した。油中水型乳化製剤の塗布前、塗布開始から4日後、7日後及び12日後に、内出血の患部を皮膚評価デバイス(ANTERA 3D、ガデリウス・メディカル株式会社製)を用いて撮影し、カラーイメージの像、及び画像処理によってメラニンを可視化した像を得た。また、メラニンを可視化した像から、図1及び2に示す点線の円の領域内の変動値を算出した。当該変動値は値が小さい程、患部と正常皮膚部位との色むらが小さいことを表している。変動値は領域内の色素沈着性の均一性情報を数値化したものであり、「0」に近いほどメラニン量が少なく肌の色合いが均一で良いことを示す。
【0082】
結果を図1及び2に示す。図1には脹脛の青あざに油中水型乳化製剤を塗布した場合の結果、図2には膝裏の青あざに油中水型乳化製剤を塗布した場合の結果を示す。図1及び2において、塗布前、塗布開始から4日後、及び7日後の像の中に示す点線の円は、いずれも同一箇所に設定してある。塗布前の内出血患部では、メラニンが多量に生成していたが、塗布開始から4日後にはメラニンが大幅に減少し、塗布開始から7日後には、メラニンを可視化した像からは目視ではメラニンの存在を確認できない程度になっていた。
【0083】
また、ポリエチレンスルホン及びニコチン酸ベンジルを含まない油中水型乳化製剤を用いて同様の試験を行ったところ、試験開始から7日後であっても、内出血患部において多量のメラニンの存在が認められた。
【0084】
以上の結果から、ポリエチレンスルホン酸及びニコチン酸ベンジルを併用することによって、内出血患部で生じたメラニンの分解を促進でき、当該患部において色素沈着を抑制できることが明らかとなった。
図1
図2