IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノントッキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図1
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図2
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図3
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図4
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図5
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図6
  • 特許-蒸発源及び蒸着装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】蒸発源及び蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20220621BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C23C14/24 B
C23C14/24 A
H05B3/00 345
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018123555
(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公開番号】P2020002436
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0109829(US,A1)
【文献】特開2015-067850(JP,A)
【文献】特開2009-093933(JP,A)
【文献】特開昭64-067518(JP,A)
【文献】特開2011-162867(JP,A)
【文献】特開平06-026926(JP,A)
【文献】特開2012-234909(JP,A)
【文献】特開2006-274336(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203978(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0094347(KR,A)
【文献】特開平06-108236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 -14/58
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
H05B 1/00 - 3/00
H01L 51/50 -51/56
H01L 27/32
H05B 33/00 -33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に蒸着させる物質の材料を収容する坩堝であって蒸発または昇華した前記材料を噴出するノズルが上面側に設けられた坩堝と、
前記坩堝の上面と対向する前記坩堝の底面を加熱するヒータと、
前記ヒータを挟んで、前記坩堝の底面とは反対側に設けられ、前記ヒータからの熱を反射させるリフレクタと、
を備える蒸発源であって、
前記リフレクタは、第1部分と、前記第1部分より熱放射率が高い第2部分と、を有し、
前記第2部分は、前記坩堝の底面の温度分布において平均温度よりも高くなる領域について、前記リフレクタに対して前記坩堝の底面の法線方向に仮想的に投影した場合に仮想的に投影される領域の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする蒸発源
【請求項2】
前記第2部分は、前記リフレクタにおける前記ヒータとの対向面側に形成された表面処理部であることを特徴とする請求項1に記載の蒸発源
【請求項3】
前記第2部分は、前記リフレクタにおける前記ヒータとの対向面の裏側に形成された表面処理部であることを特徴とする請求項1に記載の蒸発源
【請求項4】
前記表面処理部は溶射による処理部であることを特徴とする請求項2または3に記載の蒸発源
【請求項5】
前記表面処理部はブラスト加工による処理部であることを特徴とする請求項2または3に記載の蒸発源
【請求項6】
前記表面処理部は黒色めっき加工による処理部であることを特徴とする請求項2または3に記載の蒸発源
【請求項7】
前記第2部分は、前記リフレクタの両面を貫通する複数の貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項に記載の蒸発源
【請求項8】
前記坩堝と連結部によって内部が繋がって前記坩堝の上面側に設けられ蒸発または昇華した前記材料を拡散し上面側に設けられた前記ノズルによって拡散された前記材料が噴出される拡散室と、
前記坩堝の上面を加熱する上面側のヒータと、
前記上面側のヒータを挟んで、前記坩堝の上面とは反対側に設けられ、前記上面側のヒータの熱を反射させる上面側のリフレクタと、
を更に備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の蒸発源。
【請求項9】
前記上面側のリフレクタは、第1部分と、前記第1部分より熱放射率が高い第2部分と、を有し、
前記上面側のリフレクタの前記第2部分は、前記坩堝の上面の温度分布において平均温度よりも高くなる領域について、前記上面側のリフレクタに対して前記坩堝の上面の法線方向に仮想的に投影した場合に仮想的に投影される領域の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする請求項8に記載の蒸発源。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一つに記載の蒸発源と、
前記蒸発源が内部に配置されるチャンバと、
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着に用いられる蒸発源及び蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着においては、基板に蒸着させる物質の材料を収容する坩堝を加熱することで、当該材料を蒸発または昇華させるための加熱装置が設けられている。加熱装置によって加熱された坩堝の温度分布が不均一になってしまうと、材料の一部が残ってしまったり、全ての材料を加熱させるために余分な電力が必要になったりしてしまう。そこで、坩堝の温度分布の不均一を抑制するために、従来、加熱装置に備えられる発熱体の密度を、位置によって異なるようにするなどの対策が取られている。
【0003】
しかしながら、例えば、坩堝を収容するケースの形状が細長いような場合、ケース内の位置に応じて輻射熱の熱交換にばらつきが生じるため、上記の対策だけでは坩堝の温度分布の不均一を抑制するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/075755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、坩堝における温度分布の均一化の向上を図ることのできる蒸発源及び蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の蒸発源は、
基板に蒸着させる物質の材料を収容する坩堝であって蒸発または昇華した前記材料を噴出するノズルが上面側に設けられた坩堝と、
前記坩堝の上面と対向する前記坩堝の底面を加熱するヒータと、
前記ヒータを挟んで、前記坩堝の底面とは反対側に設けられ、前記ヒータからの熱を反射させるリフレクタと、
を備える蒸発源であって、
前記リフレクタは、第1部分と、前記第1部分より熱放射率が高い第2部分と、を有し、
前記第2部分は、前記坩堝の底面の温度分布において平均温度よりも高くなる領域について、前記リフレクタに対して前記坩堝の底面の法線方向に仮想的に投影した場合に仮想的に投影される領域の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の蒸着装置は、
上記の蒸発源と、
前記蒸発源が内部に配置されるチャンバと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、坩堝における温度分布の均一化の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の実施例1に係る蒸着装置の概略構成図である。
図2図2は本発明の実施例1に係る蒸発源の模式的断面図である。
図3図3はヒータ及びリフレクタと坩堝の温度分布の関係についての説明図である。
図4図4は本発明の実施例1に係るリフレクタの変形例を示す図である。
図5図5は熱放射率と熱抵抗の関係を説明する図である。
図6図6は本発明の実施例2に係るリフレクタの概略構成図である。
図7図7は本発明の実施例3に係る蒸発源の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
(実施例1)
図1図3を参照して、本発明の実施例1に係る加熱装置と、この加熱装置を備える蒸発源と、この蒸発源を備える蒸着装置について説明する。
【0014】
<蒸着装置>
図1を参照して、本実施例に係る蒸着装置10について説明する。図1は本発明の実施例1に係る蒸着装置10の概略構成図である。蒸着装置10は、真空ポンプ200によって、内部が真空(減圧雰囲気)となるように構成されるチャンバ100と、チャンバ100の内部に配置される蒸発源300とを備えている。蒸発源300は、基板20に蒸着させる物質の材料を加熱することで、当該材料を蒸発又は昇華させる役割を担っている。この蒸発源300によって蒸発または昇華された物質が、チャンバ100の内部に設置された基板20に付着することで、基板20に薄膜が形成される。
【0015】
<蒸発源>
図2を参照して、本実施例に係る蒸発源300の全体構成について説明する。図2は本発明の実施例に係る蒸発源300の模式的断面図である。なお、図2においては、一列に並ぶように設けられているノズル350の各中心軸線を含むように、鉛直方向上下に蒸発源300を切断した断面を模式的に示している。
【0016】
蒸発源300は、直方体形状の第1ケース311と、同じく直方体形状の第2ケース312とを備えている。これら第1ケース311及び第2ケース312は、蒸発源内の熱によりチャンバ内の温度が上昇することを防止する役割を担っている。なお、これらのケースは、「冷却ケース」と呼ばれることもある。第2ケース312は、第1ケース311の上面に固定されている。そして、第1ケース311の上部と、第2ケース312の下部には、これらのケース内部を連通させる貫通孔311a,312aがそれぞれ設けられている。また、第1ケース311の内部には、基板20に蒸着させる物質の材料を収容する坩堝321が設けられており、第2ケース312の内部には、蒸発又は昇華した材料を拡散させる拡散室322が設けられている。これらの坩堝321と拡散室322は、連通部323によって内部が繋がっている。そして、拡散室322の上面側には、拡散された材料を噴射するノズル350が複数設けられている。
【0017】
そして、第1ケース311の内部には、坩堝321を取り囲むように設けられ、かつ坩堝321を加熱するヒータが複数設けられている。すなわち、坩堝321の底面に対向し
て配置される第1ヒータ331、坩堝321の側面に対向して配置される第2ヒータ332、及び坩堝321の上面に対向して配置される第3ヒータ333などが設けられている。
【0018】
そして、各ヒータと、第1ケース311の内壁面との間には、それぞれヒータからの熱を反射させるリフレクタが設けられている。言い換えると、各ヒータを挟んで、坩堝321とは反対側には、それぞれリフレクタが設けられている(リフレクタは、ヒータとは間隔をおいて設けられている)。より具体的には、第1ヒータ331と第1ケース311の内壁面との間に配置される第1リフレクタ341、第2ヒータ332と第1ケース311の内壁面との間に配置される第2リフレクタ342、及び第3ヒータ333と第1ケース311の内壁面との間に配置される第3リフレクタ343などが設けられている。なお、特に、図示はしないが、図2中、紙面の手前側及び奥側にも、それぞれ同様にヒータ及びリフレクタが設けられるのが一般的である。
【0019】
また、第2ケース312の内部にも、拡散室322の内部において、蒸発又は昇華した材料の温度が低下して析出してしまわないように、拡散室322の内部を加熱するヒータが複数設けられている。すなわち、拡散室322の底面に対向して配置される第4ヒータ334、拡散室322の側面に対向して配置される第5ヒータ335などが設けられている。
【0020】
そして、各ヒータと、第2ケース312の内壁面との間には、それぞれヒータからの熱を反射させるリフレクタが設けられている。より具体的には、第4ヒータ334と第2ケース312の内壁面との間に配置される第4リフレクタ344、第5ヒータ335と第2ケース312の内壁面との間に配置される第5リフレクタ345などが設けられている。なお、特に、図示はしないが、図2中、紙面の手前側及び奥側にも、それぞれ同様にヒータ及びリフレクタが設けられるのが一般的である。また、拡散室322の上方にも、ヒータ及びリフレクタを設けてもよい。
【0021】
<加熱装置(ヒータ及びリフレクタ)>
特に、図3を参照して、第1ケース311の内部に設けられるヒータとリフレクタについて、より詳細に説明する。ヒータとリフレクタは、蒸発源300に備えられる加熱装置を構成する。なお、ここでは、複数のヒータ及びリフレクタのうち、第1ヒータ331と第1リフレクタ341を例にして説明する。図3(a)は第1ヒータ331の側面図である。図3(b)は第1ヒータ331によって加熱される坩堝321の底面部の温度分布を示したグラフである。ただし、図3(b)においては、第1リフレクタ341の表裏面の熱放射率が均一の場合の温度分布を示している。図3(c)は第1リフレクタ341の側面図である。図3(d)は第1リフレクタ341の平面図である。図3(e)は高熱放射率部を設ける位置についての説明図である。図3(f)は第1ヒータ331によって加熱される坩堝321の底面部の温度分布を示したグラフである。ただし、図3(f)においては、第1リフレクタ341の表裏面の熱放射率が部分的に異なる場合の温度分布を示している。また、図3(a)~(d)及び(f)において、矢印Xは、第1ヒータ331及び第1リフレクタ341の一端側から他端側に向かう方向を示している。
【0022】
第1ヒータ331は、発熱体331bを有している。発熱体331bとしては、シースヒータなど、通電により発熱する部材を好適に適用できる。第1ヒータ331は、例えば、金属板331aと、この金属板331aにおける坩堝321の壁面と対向する位置に設けられる発熱体331bとから構成することができる。そして、発熱体331bは、位置に応じて密度が異なるように配置されている。すなわち、第1ケース311が細長い形状の場合には、第1ケース311の両端付近の方が、第1ケース311の中央付近に比べて温度が低下し易いため、発熱体331bは、両端付近の方が中央付近に比べて密度が高く
なるように配置されている。
【0023】
以上のように構成された第1ヒータ331を用い、かつ、第1リフレクタが一般的な構成の場合(両面の熱放射率が均一な場合)において、坩堝321を加熱した際の坩堝321の底面の温度分布を図3(b)に示している。図示の通り、発熱体331bの密度を変える対策だけでは、温度分布を十分均一にするのは難しく、最高温度差dT1を数℃程度のレベルまで均一化するのは難しい。
【0024】
そこで、本実施例では、第1リフレクタ341には、熱放射率が他の部位(第1部分)に比べて高い高熱放射率部341a(第2部分)が部分的に設けられている。この高熱放射率部341aは、坩堝321の壁面(外壁面)の温度分布において、平均温度よりも高くなる領域の少なくとも一部の温度を低下させる位置に設けられている(図3(c)(d)参照)。より具体的には、高熱放射率部341aは、坩堝321の壁面の温度分布において、平均温度よりも高くなる領域H0について、第1リフレクタ341に対して、坩堝321の壁面の法線方向Nに仮想的に投影した場合に、仮想的に投影される領域H1の少なくとも一部に設けられている(図3(e)参照)。本実施例に係る第1リフレクタ341においては、2か所に設けられた高熱放射率部341aの熱放射率が、他の部位に比べて高くなっている。なお、上記の「平均温度」とは、図3(b)に示す温度分布における平均温度である。
【0025】
この第1リフレクタ341を用いて、第1ヒータ331により坩堝321を加熱した際の坩堝321の底面の温度分布を図3(f)に示している。図示のように、本実施例に係る第1リフレクタ341を採用したことにより、温度分布の均一化が向上し、最高温度差dT2を数℃レベルまで下げることができた。
【0026】
ここで、第1リフレクタ341は金属板により構成されており、高熱放射率部341aは、金属板に表面処理が施された表面処理部により構成される。なお、熱放射率を高めるための表面処理部の例としては、溶射による表面処理部(溶射部)、ブラスト加工による表面処理部(ブラスト加工部)、黒色めっき加工による表面処理部(黒色めっき部としての黒色めっき層)などを好適な例として挙げることができる。また、「溶射(溶かした材料を基材表面に吹き付けてコーティングする技術)」の好適な例としては、アルミナを含むセラミックスを溶射材とする溶射を挙げることができる。これにより、表面処理部としてのアルミナ溶射層が形成される。
【0027】
また、上記の説明では、第1ヒータ331と第1リフレクタ341の場合を例に挙げて説明したが、第2ヒータ332と第2リフレクタ342、及び第3ヒータ333と第3リフレクタ343についても、同様の構成を採用し得る。つまり、第2ヒータ332における発熱体の密度が位置に応じて異なるように構成し、かつ第2リフレクタ342に高熱放射率部を設けることによって、坩堝321の側面の温度分布の均一化を図ることができる。また、第3ヒータ333における発熱体の密度が位置に応じて異なるように構成し、かつ第3リフレクタ343に高熱放射率部を設けることによって、坩堝321の上面の温度分布の均一化を図ることができる。更に、上記の通り、特に図示はしていないが、図2中、紙面の手前側及び奥側に設けるヒータ及びリフレクタにも、同様の構成を採用し得ることは言うまでもない。
【0028】
更に、上記の例においては、高熱放射率部341aが、第1リフレクタ341における第1ヒータ331との対向面側に形成された表面処理部である場合の構成を示した。しかしながら、図4に示すように、高熱放射率部341Xaが、第1リフレクタ341Xにおける第1ヒータ331との対向面の裏側に形成された表面処理部である構成を採用することもできる。なお、図4は本実施例に係るリフレクタの変形例を示す図であり、同図(a)はリフレクタの側面図であり、同図(b)はリフレクタの底面図である。以上のように
構成される第1リフレクタ341Xを採用した場合でも、上記の第1リフレクタ341を採用した場合と同様の作用効果を得ることができる。以下、図5を参照して、その理由を説明する。
【0029】
図5は熱放射率と熱抵抗の関係を説明する図であり、ヒータ330と、リフレクタ340と、ケース(冷却板)310とを、それぞれ単純な平行平板と仮定したモデルを示している。このモデルでは、各部材における対向面の面積Aは全て等しく、隣り合う部材の対向面間の形態係数は全て1とする。また、板の温度は均一であり、表裏に温度差は無いものとする。ここで、電流を正味伝熱量Q、電位をσT(σ:シュテファン・ボルツマン定数、T:温度)に対応させると、対向面間の熱抵抗は、R=(1/ε1+1/ε2-1)/Aとなる。なお、ε1及びε2は、対向面におけるそれぞれの熱放射率である。また、熱抵抗の合成は、電気抵抗の直列接続の場合と同様に計算することができる。ここで、図5に示すモデルのように、ヒータ330とリフレクタ340との間の熱抵抗をR1とし、リフレクタ340とケース310との間の熱抵抗をR2とする。更に、ヒータ330におけるリフレクタ340との対向面の熱放射率をεhとし、リフレクタ340におけるヒータ330との対向面の熱放射率をεr1とし、リフレクタ340におけるケース310との対向面の熱放射率をεr2とし、ケース310におけるリフレクタ340との対向面の熱放射率をεcとする。
【0030】
すると、ヒータ330とリフレクタ340との間の熱抵抗R1は、
R1=(1/εh+1/εr1-1)/A
により計算され、リフレクタ340とケース310との間の熱抵抗R2は、
R2=(1/εc+1/εr2-1)/A
により計算される。
【0031】
そして、ヒータ330とケース310との間の全熱抵抗Rは、
R=R1+R2
=(1/εh+1/εr1-1)/A+(1/εc+1/εr2-1)/A
により計算される。
【0032】
この式から、εr1とεr2のいずれを変更しても、全熱抵抗Rは同様に変化することが分かる。従って、リフレクタ340におけるヒータ330との対向面側の熱放射率を高めても、リフレクタ340におけるケース310との対向面側の熱放射率を高めても、ヒータ330とケース310との間の熱抵抗への影響は同一である。
【0033】
以下、熱量の移動メカニズムを用いて、より具体的に説明する。リフレクタ340におけるヒータ330との対向面側の熱放射率を高めると、ヒータ330とリフレクタ340との間の熱抵抗R1が低下する。これにより、ヒータ330からリフレクタ340に流れる熱量Qが増加する。そのため、ヒータ330の温度は低下し、リフレクタ340の温度は上昇する。すると、リフレクタ340とケース310との温度差が大きくなり、リフレクタ340からケース310に流れる熱量Qが増加する。
【0034】
これに対して、リフレクタ340におけるケース310との対向面側の熱放射率を高めると、ケース310とリフレクタ340との間の熱抵抗R2が低下する。これにより、リフレクタ340からケース310に流れる熱量Qが増加する。そのため、リフレクタ340の温度は低下する。すると、リフレクタ340とヒータ330との温度差が大きくなり、ヒータ330からリフレクタ340に流れる熱量Qが増加する。これにより、ヒータ330の温度が低下する。
【0035】
このように、リフレクタ340におけるヒータ330との対向面側の熱放射率を高めて
も、その裏側の熱放射率を高めても、ヒータ330の温度は低下する。従って、リフレクタ340の一部の熱放射率を高めることで、ヒータ330の一部の温度を低下させて、坩堝321の一部の温度を低下させることができる。これにより、ヒータ330及び坩堝321のうち、他の部位に比べて温度が高くなってしまう部位の温度を低下させて、坩堝321の温度分布の均一化を向上させることができる。
【0036】
<本実施例に係る加熱装置,蒸発源及び蒸着装置の優れた点>
本実施例によれば、例えば、第1リフレクタ341には、熱放射率が他の部位に比べて高い高熱放射率部341aが部分的に設けられている。これにより、坩堝321の底面の温度分布の均一化を向上させることができる。高熱放射率部341aを設ける位置については、上述の通りである。なお、上記の通り、第2ヒータ332と第2リフレクタ342、及び第3ヒータ333と第3リフレクタ343等についても、同様の構成を採用することで、坩堝321の側面や上面の温度分布の均一化を向上させることができる。
【0037】
従って、坩堝321に収容された材料の一部が残ってしまうことを抑制することができ、また、全ての材料を加熱させるための電力消費を抑制することができる。
【0038】
(実施例2)
図6には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、リフレクタに設けられる高熱放射率部が表面処理部の場合について示したが、本実施例では、リフレクタに設けられる高熱放射率部が複数の貫通孔が形成されている部位の場合を示す。リフレクタ以外の構成については実施例1で説明した構成を適用可能であるので、その説明は省略する。
【0039】
図6は本発明の実施例2に係るリフレクタの概略構成図であり、同図(a)はリフレクタの平面図であり、同図(b)はリフレクタの断面図(同図(a)中のAA断面図)である。本実施例に係るリフレクタ341Yにおいても、上記実施例1の場合と同様に、高熱放射率部341Yaが設けられている。この高熱放射率部341Yaを設ける位置に関しては、上記実施例1の場合と同様であるので、その説明は省略する。そして、本実施例に係る高熱放射率部341Yaは、リフレクタ341Yの両面を貫通する複数の貫通孔が形成されている部位によって構成されている。貫通孔が設けられている部位においては、他の部位に比べて熱が逃げ易く、熱放射率が高くなる。
【0040】
以上のように構成されるリフレクタ341Yを採用した場合にも、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。なお、本実施例に係るリフレクタ341Yが、坩堝の底面側、坩堝の側面側、及び坩堝の上面側のいずれにも適用可能であることは、実施例1の場合と同様である。
【0041】
(実施例3)
図7には、本発明の実施例3が示されている。上記実施例1では、蒸発源が坩堝と拡散室とを備える場合の構成について示したが、本実施例では蒸発源には拡散室が設けられていない場合の構成を示す。その他の基本的な構成については、上記実施例1と同一であるので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0042】
図7は本発明の実施例3に係る蒸発源の模式的断面図である。なお、図7においては、一列に並ぶように設けられているノズル350の各中心軸線を含むように、鉛直方向上下に蒸発源300Xを切断した断面を模式的に示している。
【0043】
本実施例に係る蒸発源300Xにおいては、上記実施例1の場合と同様に、直方体形状の第1ケース311を備えているが、上記実施例1の場合とは異なり、第2ケース312
は備えられていない。第1ケース311が熱を遮断する役割を担っている点については、上記実施例1の場合と同様である。そして、この第1ケース311の内部には、上記実施例1の場合と同様に、基板に蒸着させる物質の材料を収容する坩堝321が設けられている。本実施例においては、拡散室が設けられておらず、坩堝321の上面側に、拡散された材料を噴射するノズル350が複数設けられている。
【0044】
第1ケース311の内部において、坩堝321を取り囲むように複数の加熱ヒータ(第1ヒータ331,第2ヒータ332及び第3ヒータ333など)が設けられる点については、上記実施例1の場合と同様である。また、各ヒータと、第1ケース311の内壁面との間に、それぞれヒータからの熱を反射させるリフレクタ(第1リフレクタ341,第2リフレクタ342及び第3リフレクタ343など)が設けられている点についても、上記実施例1の場合と同様である。そして、本実施例においても、各リフレクタに、高熱放射率部が部分的に設けられる。高熱放射率部が設けられる位置については、上記実施例1で説明した通りである。
【0045】
以上のように構成される本実施例に係る蒸発源300Xにおいても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。つまり、坩堝321の壁面の温度分布の均一化を向上させることができる。そして、坩堝321の壁面の温度分布の均一化を向上させることによって、複数のノズル350から噴射させる材料の量の均一化を図ることもできる。そのため、拡散室を設けなくても、基板に形成させる膜厚の均一化を図ることができるといった利点もある。
【0046】
(その他)
上記実施例においては、発熱体の密度が位置に応じて異なる場合の構成を示した。しかしながら、発熱体の密度が位置に応じて異なっていない構成を採用した場合でも、リフレクタに高熱放射率部を設ける構成を採用することで、坩堝の温度分布の均一化を向上させる効果が得られることは言うまでもない。また、上記実施例1においては、表面処理部により構成される高熱放射率部が、リフレクタにおけるヒータとの対向面側に設けられる場合と、リフレクタにおけるヒータとの対向面の裏側に設けられる場合について説明した。しかしながら、表面処理部により構成される高熱放射率部を、リフレクタの両面にそれぞれ設ける構成を採用することもできる。また、上記各実施例においては、リフレクタが1枚の金属板により構成される場合を示した。しかしながら、2枚以上のリフレクタを重ねるようにして設ける構成も採用することができる。この場合には、2枚以上のリフレクタのうち、少なくともいずれか一つのリフレクタに高熱放射率部を設ければよい。
【符号の説明】
【0047】
10…蒸着装置,20…基板,100…チャンバ,300…蒸発源,321…坩堝,330…ヒータ,331…第1ヒータ,331b…発熱体,340…リフレクタ,341…第1リフレクタ,341a…高熱放射率部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7