(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタ、および電子機器
(51)【国際特許分類】
C04B 35/01 20060101AFI20220621BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220621BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220621BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20220621BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20220621BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20220621BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C04B35/01
C23C14/34 A
C23C14/08 K
H01L21/363
H01L29/78 618B
H01L29/78 613Z
H01L27/06 102A
(21)【出願番号】P 2019510128
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013243
(87)【国際公開番号】W WO2018181716
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2017068069
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017207594
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017237754
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018016727
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 一吉
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 絵美
(72)【発明者】
【氏名】霍間 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】笘井 重和
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-045263(JP,A)
【文献】特開2011-119711(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017966(WO,A1)
【文献】特開2017-178740(JP,A)
【文献】特開2014-214359(JP,A)
【文献】国際公開第2011/061936(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032422(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098060(WO,A1)
【文献】HLASEK, T., et al.,Influence of gallium on infrared luminescence in Er3+ doped Yb3Al5-yGayO12 films grown by the liquid,Journal of Luminescence,2015年,Vol.164,PP.90-93,ISSN:0022-2313, DOI:10.1016/j.jlumin.2015.03.030
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/01
C23C 14/34
C23C 14/08
H01L 21/363
H01L 29/786
H01L 21/8234
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
In元素、Y元素、Ga元素、Al元素、およびO元素を主たる構成元素とする酸化物焼結体であって、In
2O
3で表されるビックスバイト結晶相と、Y
3Ga
5O
12結晶相およびY
3Ga
4AlO
12結晶相とを含む酸化物焼結体。
【請求項2】
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-1)から(1-3)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-1)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-2)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-3)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-4)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-4)
で含有する請求項1に記載の酸化物焼結体。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【請求項3】
Ga元素を下記式(1-5)に規定する範囲の原子比で、
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-5)
含有する請求項1または請求項2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
In元素、Y元素、Ga元素、Al元素、正4価の金属元素およびO元素を主たる構成元素とする酸化物焼結体であって、In
2O
3で表されるビックスバイト結晶相と、Y
3Ga
4AlO
12結晶相を含む酸化物焼結体。
【請求項5】
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-1)から(1-3)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-1)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-2)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-3)
で含有し、
Al元素を下記式(1-4)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-4)
で含有し、
かつ、正4価の金属元素を下記式(1-6)に規定する範囲の原子比
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005 ・・・(1-6)で含有する、
請求項4に記載の酸化物焼結体。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。式中、Xは、酸化物焼結体中のX元素の原子数を示す。)
【請求項6】
相対密度が95%以上である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
バルク抵抗が30mΩ・cm以下である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の酸化物焼結体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の酸化物焼結体と、バッキングプレートとを含むスパッタリングターゲット。
【請求項9】
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-7)から(1-9)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-7)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-8)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-9)
で含有し、かつ、Al元素を含有し、
前記式(1-7)中、[In/(In+Y+Ga)]が0.90以上の場合には、[Al/(In+Y+Ga+Al)]は、0.020以上0.07以下であり、前記式(1-7)中、[In/(In+Y+Ga)]が0.90
未満の場合には、[Al/(In+Y+Ga+Al)]は、0.005以上0.030以下である、酸化物半導体薄膜。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【請求項10】
Ga元素を下記式(1-11)に規定する範囲の原子比で、
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-11)
含有する請求項9に記載の酸化物半導体薄膜。
【請求項11】
正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-12)に規定する範囲の原子比で含有する請求項9または請求項10に記載の酸化物半導体薄膜。
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005 ・・・(1-12)
(式中、Xは、酸化物半導体薄膜中のX元素の原子数を示す。)
【請求項12】
In
2O
3で表されるビックスバイト結晶相を含む請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の酸化物半導体薄膜。
【請求項13】
前記In
2O
3で表されるビックスバイト結晶相の格子定数が10.083×10
-10m以下である請求項12に記載の酸化物半導体薄膜。
【請求項14】
請求項9から請求項13のいずれか一項に記載の酸化物半導体薄膜を含む薄膜トランジスタ。
【請求項15】
請求項14に記載の薄膜トランジスタを含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット化合物、酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタ、電子機器、およびイメージセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタに用いられるアモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a-Si)に比べて高いキャリヤー移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板等への適用が期待されている。
【0003】
上記酸化物半導体(膜)の形成に当たっては、スパッタリングターゲットをスパッタリングするスパッタリング法が好適に用いられている。これは、スパッタリング法で形成された薄膜が、イオンプレーティング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法で形成された薄膜に比べ、膜面方向(膜面内)における成分組成や膜厚等の面内均一性に優れており、スパッタリングターゲットと同じ成分組成の薄膜を形成できるためである。
【0004】
特許文献1には、In2O3で構成されるビックスバイト結晶相と、A3B5O12結晶相(式中、Aは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群から選ばれる一以上の元素であり、Bは、AlおよびGaからなる群から選ばれる一以上の元素である)を含む酸化物焼結体に関する記載がある。また、酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタに関する記載も有る。
【0005】
一方でさらなる高性能なTFTへの強い要求があり、高移動度で、CVD等での特性変化の小さい材料への要望は大きい。
【0006】
酸化物半導体の材料としては、酸化亜鉛または酸化亜鉛を含む材料が知られている。電子キャリヤー濃度が1018/cm3未満である非晶質酸化物(酸化物半導体)で形成された薄膜トランジスタが開示されている(特許文献2乃至4)。
また、酸化物半導体を光電変換素子と組み合わせた固体撮像装置やイメージセンサーについても開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2015/098060号公報
【文献】特開2006-165527号公報
【文献】特開2006-165528号公報
【文献】特開2006-165529号公報
【文献】特開2017-135410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新たな酸化物系で構成される、酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、薄膜トランジスタ(以下、TFTということがある)に用いたときに優れたTFT性能が発揮される酸化物半導体薄膜を提供することである。
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタ、電子機器、ガーネット化合物、およびイメージセンサーが提供される。
【0010】
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-1)から(1-3)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-1)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-2)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-3)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-4)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-4)
で含有する酸化物焼結体。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【0011】
Ga元素を下記式(1-5)に規定する範囲の原子比で、
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-5)
含有する上記に記載の酸化物焼結体。
【0012】
正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-6)に規定する範囲の原子比で含有する上記に記載の酸化物焼結体。
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005 ・・・(1-6)
(式中、Xは、酸化物焼結体中のX元素の原子数を示す。)
【0013】
In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方とを含む上記に記載の酸化物焼結体。
【0014】
In元素、Y元素、Ga元素、Al元素、およびO元素を主たる構成元素とする酸化物焼結体であって、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方とを含む酸化物焼結体。
【0015】
In元素、Y元素、Ga元素、Al元素、正4価の金属元素およびO元素を主たる構成元素とする酸化物焼結体であって、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga4AlO12結晶相を含む酸化物焼結体。
【0016】
相対密度が95%以上である上記に記載の酸化物焼結体。
【0017】
バルク抵抗が30mΩ・cm以下である上記に記載の酸化物焼結体。
【0018】
上記に記載の酸化物焼結体と、バッキングプレートとを含むスパッタリングターゲット。
【0019】
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-7)から(1-9)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-7)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-8)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-9)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-10)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-10)
で含有する酸化物半導体薄膜。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【0020】
Ga元素を下記式(1-11)に規定する範囲の原子比で、
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-11)
含有する上記に記載の酸化物半導体薄膜。
【0021】
正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-12)に規定する範囲の原子比で含有する上記に記載の酸化物半導体薄膜。
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005 ・・・(1-12)
(式中、Xは、酸化物半導体薄膜中のX元素の原子数を示す。)
【0022】
In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む上記に記載の酸化物半導体薄膜。
【0023】
前記In2O3で表されるビックスバイト結晶相の格子定数が10.083×10-10m以下である上記に記載の酸化物半導体薄膜。
【0024】
上記に記載の酸化物半導体薄膜を含む薄膜トランジスタ。
【0025】
上記に記載の薄膜トランジスタを含む電子機器。
【0026】
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されるガーネット化合物。
【0027】
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されるガーネット化合物の格子定数が、11.93×10-10m以上、12.20×10-10m以下であることを特徴とするガーネット化合物。
【0028】
Lnが、Yb元素である上記に記載のガーネット化合物。
【0029】
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されるガーネット結晶相を含む酸化物焼結体。
【0030】
In元素、Ga元素、Al元素およびLn元素を含み、格子定数が、11.93×10-10m以上、12.20×10-10mのガーネット結晶相を含む酸化物焼結体。
(ただし、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0031】
Lnが、Yb元素である上記に記載のガーネット結晶相を含む酸化物焼結体。
【0032】
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されるガーネット結晶相と、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む酸化物焼結体。
【0033】
In元素、Ga元素、Al元素およびLn元素を含み、格子定数が、11.93×10-10m以上、12.20×10-10m以下であるガーネット結晶相、およびIn2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む酸化物焼結体。
(ただし、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0034】
Lnが、Yb元素である上記に記載の酸化物焼結体。
【0035】
上記に記載の酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲット。
【0036】
In元素、Ga元素、およびLn元素を、原子比が下記の式(2-1)から(2-3)を満たす範囲で含有する酸化物焼結体。
0.75≦In/(In+Ga+Ln)≦0.96・・・(2-1)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln)≦0.10・・・(2-2)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln)≦0.15・・・(2-3)
(式中、In、Ga、Lnは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Ga元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0037】
Yb3Ga5O12で表されるガーネット結晶相、および、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む上記に記載の酸化物焼結体。
【0038】
In元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素を、原子比が下記の式(2-4)から(2-7)を満たす範囲で含有する酸化物焼結体。
0.70≦In/(In+Ga+Ln+Al)≦0.95・・・(2-4)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-5)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-6)
0.01≦Al/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-7)
(式中、In、Ga、Ln、Alは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0039】
Sn元素を100~10000ppm含む上記に記載の酸化物焼結体。
【0040】
前記酸化物焼結体が一般式(I)で表されるガーネット結晶相、および、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む、上記に記載の酸化物焼結体。
Ln3(Ga5-XAlX)O12・・・一般式(I)
(式中、Xは、0<X<5である。)
【0041】
In元素、Sn元素およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-8)から(2-10)を満たす酸化物焼結体。
0.55≦In/(In+Sn+Ln)≦0.90・・・(2-8)
0.05≦Sn/(In+Sn+Ln)≦0.25・・・(2-9)
0.05≦Ln/(In+Sn+Ln)≦0.20・・・(2-10)
(式中、In、Sn、Lnは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Sn元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0042】
前記酸化物焼結体がSnO2で表されるルチル結晶相、および、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む、上記に記載の酸化物焼結体。
【0043】
In元素、Ga元素、およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-1)から(2-3)を満たす酸化物半導体薄膜。
0.75≦In/(In+Ga+Ln)≦0.96・・・(2-1)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln)≦0.10・・・(2-2)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln)≦0.15・・・(2-3)
(式中、In、Ga、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Ga元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0044】
In元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-4)から(2-7)を満たす酸化物半導体薄膜。
0.70≦In/(In+Ga+Ln+Al)≦0.95・・・(2-4)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-5)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-6)
0.01≦Al/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-7)
(式中、In、Ga、Ln、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0045】
Sn元素を100~10000ppm含む上記に記載の酸化物半導体薄膜。
【0046】
In元素、Sn元素およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-8)から(2-10)を満たす酸化物半導体薄膜。
0.55≦In/(In+Sn+Ln)≦0.90・・・(2-8)
0.05≦Sn/(In+Sn+Ln)≦0.25・・・(2-9)
0.05≦Ln/(In+Sn+Ln)≦0.20・・・(2-10)
(式中、In、Sn、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0047】
上記に記載の酸化物半導体薄膜を含む薄膜トランジスタ。
上記に記載の薄膜トランジスタを含む電子機器。
【0048】
光電変換素子と、
前記光電変換素子にソースまたはドレインの一方が電気的に接続されたn型の転送トランジスタと、
前記転送トランジスタのソースまたはドレインの他方に電気的に接続された信号電荷蓄積部と、
前記転送トランジスタのソースまたはドレインの他方、および前記信号電荷蓄積部に電気的に接続されたゲートを備えるp型の増幅トランジスタと、
前記信号電荷蓄積部に電気的に接続されたソースまたはドレインを備えるn型のリセットトランジスタと、
を備え、
前記転送トランジスタおよび前記リセットトランジスタは、
チャネル形成領域が、酸化物半導体薄膜を有し、
前記酸化物半導体薄膜は、In元素、Sn元素、およびGa元素から選ばれた1種以上の元素と、Al元素、Y元素、ランタノイド元素Lnから選ばれた1種以上の元素と、を含有することを特徴とするイメージセンサー。
【0049】
前記酸化物半導体薄膜がZn元素を含まないことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
【0050】
前記酸化物半導体薄膜は非晶質であることを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
【0051】
前記酸化物半導体薄膜は結晶質であることを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
【0052】
前記酸化物半導体薄膜の原子組成比が下記式(3-1)および式(3-2)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.60≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.98 ・・・(3-1)
0.02≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.40 ・・・(3-2)
(式中、In、Sn、Ga、Al、Y、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素、Ga元素、Al元素、Y元素およびランタノイド元素Lnの原子数を示す。)
【0053】
前記酸化物半導体薄膜は、In元素、Sn元素、Ga元素、およびAl元素を含み、
原子組成比が下記式(3-3)から式(3-6)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.01≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(3-3)
0.01≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.40 ・・・(3-4)
0.55≦In/(In+Ga+Sn)≦0.98 ・・・(3-5)
0.05≦Al/(In+Ga+Sn+Al)≦0.30 ・・・(3-6)
(式中、In、Sn、Ga、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【0054】
前記酸化物半導体薄膜は、In元素、Sn元素、Ga元素、およびAl元素を含み、
原子組成比が下記式(3-7)から式(3-10)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.01≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(3-7)
0.01≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(3-8)
0.20≦In/(In+Ga+Sn)<0.55 ・・・(3-9)
0.05≦Al/(In+Ga+Sn+Al)≦0.30 ・・・(3-10)
(式中、In、Sn、Ga、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【0055】
前記酸化物半導体薄膜は、In元素、Sn元素、Ga元素、およびLn元素を含み、
原子組成比が下記式(3-11)から(3-14)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.01≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(3-11)
0.01≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.40 ・・・(3-12)
0.55≦In/(In+Ga+Sn)≦0.98 ・・・(3-13)
0.03≦Ln/(In+Ga+Sn+Ln)≦0.25 ・・・(3-14)
(式中、In、Sn、Ga、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素、Ga元素およびランタノイド元素Lnの原子数を示す。)
【0056】
前記酸化物半導体薄膜は、In元素、Sn元素、Ga元素、Al元素およびY元素を含み、
原子組成比が下記式(3-15)および式(3-16)を満たすことを特徴とする上記に記載のイメージセンサー。
0.03≦(Al+Ga+Y)/(In+Y+Al+Ga)<0.50・・・(3-15)
0.05≦[(Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]/[(Y+Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]≦0.75 ・・・(3-16)
(式中、In、Sn、Ga、Al、Yは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素、Ga元素、Al元素およびY元素の原子数を示す。)
【0057】
前記酸化物半導体薄膜の原子組成比が下記式(3-17)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.0001≦(Al+Y)/(In+Al+Y)≦0.1・・・(3-17)
(式中、In、Al、Yは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Al元素およびY元素の原子数を示す。)
【0058】
前記酸化物半導体薄膜の原子組成比が下記式(3-18)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.01≦(Y+Ln+Al+Ga)/(In+Y+Ln+Al+Ga)≦0.5・・・(3-18)
(式中、In、Ga、Al、Y、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Ga元素、Al元素、Y元素およびランタノイド元素Lnの原子数を示す。)
【0059】
前記酸化物半導体薄膜は、
酸化インジウムを主成分とし、単一の結晶方位を有する表面結晶粒子を含むことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
【0060】
前記酸化物半導体薄膜は、
ガリウム元素が酸化インジウムに固溶しており、
全金属原子に対するインジウム元素とガリウム元素の含有率が80原子%以上であり、
In2O3で表されるビッグスバイト構造を有し、
原子組成比が下記式(3-19)を満たすことを特徴とする、上記に記載のイメージセンサー。
0.001≦Ga/(Ga+In)≦0.10・・・(3-19)
(式中、In、Gaは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素およびGa元素の原子数を示す。)
【0061】
本発明によれば、新たな酸化物系で構成される、酸化物焼結体、スパッタリングターゲット、薄膜トランジスタ(以下、TFTということがある)に用いたときに優れたTFT性能が発揮される酸化物半導体薄膜を提供することができる。
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】第1の実施形態に係るターゲットの形状を示す斜視図。
【
図2】第1の実施形態に係るターゲットの形状を示す斜視図。
【
図3】第1の実施形態に係るターゲットの形状を示す斜視図。
【
図4】第1の実施形態に係るターゲットの形状を示す斜視図。
【
図5】第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを示す概略断面図。
【
図6】第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを示す概略断面図。
【
図7】量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)の模式図(縦断面図)
【
図8】量子トンネル電界効果トランジスタの他の例を示す縦断面図。
【
図9】
図8において、p型半導体層とn型半導体層の間に酸化シリコン層が形成された部分のTEM(透過型電子顕微鏡)写真。
【
図10】量子トンネル電界効果トランジスタの製造手順を説明するための縦断面図。
【
図11】量子トンネル電界効果トランジスタの製造手順を説明するための縦断面図。
【
図12】量子トンネル電界効果トランジスタの製造手順を説明するための縦断面図。
【
図13】量子トンネル電界効果トランジスタの製造手順を説明するための縦断面図。
【
図14】量子トンネル電界効果トランジスタの製造手順を説明するための縦断面図。
【
図15】第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを用いた表示装置を示す上面図。
【
図16】VA型液晶表示装置の画素に適用することができる画素部の回路を示す図。
【
図17】第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを用いた固体撮像素子の画素部の回路を示す図。
【
図18】CMOSイメージセンサーの単位セルの等価回路の構成を示す図。
【
図19】第4の実施形態に係るイメージセンサーの単位セルの縦断面図。
【
図21】第4の実施形態に係るイメージセンサーの単位セルの縦断面図であって、フォトダイオードとして有機ダイオードを用いた場合を示す図。
【
図22】フォトダイオードの動作について説明する図であって、出力部の電流と電圧の関係を示す図。
【
図23】単位セルの動作を示すタイミングチャート。
【
図28】ガラス基板上に酸化物半導体薄膜を形成した状態を示す縦断面図。
【
図29】
図28の酸化物半導体薄膜上にSiO
2膜を形成した状態を示す図。
【
図39】実施例2-10の焼結体のXRDチャート。
【
図40】実施例2-11の焼結体のXRDチャート。
【
図41】実施例2-12の焼結体のXRDチャート。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0064】
また、図面において、大きさ、層の厚さ、又は領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。なお図面は、理想的な例を模式的に示したものであり、図面に示す形状又は値などに限定されない。
【0065】
また、本明細書にて用いる「第1」、「第2」、「第3」という序数詞は、構成要素の混同を避けるために付したものであり、数的に限定するものではないことを付記する。
また、本明細書等において、「電気的に接続」には、「何らかの電気的作用を有するもの」を介して接続されている場合が含まれる。ここで、「何らかの電気的作用を有するもの」は、接続対象間での電気信号の授受を可能とするものであれば、特に制限を受けない。例えば、「何らかの電気的作用を有するもの」には、電極や配線をはじめ、トランジスタなどのスイッチング素子、抵抗素子、インダクタ、キャパシタ、その他の各種機能を有する素子などが含まれる。
【0066】
また、本明細書等において、「膜」または「薄膜」という用語と、「層」という用語とは、場合によっては、互いに入れ替えることが可能である。
また、本明細書等において、トランジスタが有するソースやドレインの機能は、異なる極性のトランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合などには入れ替わることがある。このため、本明細書等においては、ソースやドレインの用語は、入れ替えて用いることができるものとする。
また、本明細書等の酸化物焼結体及び酸化物半導体薄膜において、「化合物」という用語と、「結晶相」という用語は、場合によっては、互いに入れ替えることが可能である。
まず、第1の実施形態について説明する。
【0067】
<第1の実施形態の背景>
まず、第1の実施形態の背景を簡単に説明する。
従来の、酸化インジウム(In2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、および酸化イットリウム(Y2O3)を焼結して得られる酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタ法によって得られる酸化物半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタの移動度は、半導体薄膜の成膜条件にもよるが、成膜時の酸素濃度が1%近傍では25cm2/V・s程度であり、成膜時の酸素濃度が20%近傍では10cm2/V・s以下となり、更なる高移動度のTFTが望まれている。
【0068】
上記課題を解決するため、本発明者らは、酸化インジウム(In2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)に、酸化アルミニウム(Al2O3)を添加した焼結体を製造した。この焼結体に研削加工を施してターゲット材(ターゲット素材)とし、これをバッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットを製造した。このスパッタリングターゲットを用いて成膜した薄膜に、CVD処理を施し、熱処理を行うことにより、高移動度の薄膜トランジスタが得られることを見出した。また、酸化アルミニウムは絶縁体であり、添加すると焼結体のバルク抵抗が上がると考えられていたが、一定の組成範囲で添加することにより、逆にバルク抵抗が下がることも見出した。
以上が、第1の実施形態の背景である。
【0069】
<酸化物焼結体の構造>
次に、第1の実施形態に係る酸化物焼結体の構造について説明する。
第1の実施形態の一態様の酸化物焼結体(以下、第1の実施形態の第1の酸化物焼結体という)は、
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-1)から(1-3)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-1)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-2)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-3)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-4)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-4)
で含有することを特徴とする。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
【0070】
式(1-1)から(1-4)を満たす範囲でIn元素、Y元素、Ga元素、およびAl元素を含有する酸化物焼結体とすることにより、この焼結体をターゲットとして製造した酸化物半導体薄膜が、高移動度で、CVD等での特性変化の小さい半導体薄膜になる。よって、各元素を添加する好ましい理由は後述する酸化物半導体薄膜で記載した理由と同様である。
また、Al元素を式(1-4)の範囲とすることにより、焼結体のバルク抵抗を下げることができる。
【0071】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体の一態様では、Ga元素を下記式(1-5)に規定する範囲の原子比で、
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-5)
で含有することが好ましい。
【0072】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体の一態様では、
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-1A)から(1-3A)に規定する範囲の原子比
0.82≦In/(In+Y+Ga)≦0.94 ・・・(1-1A)
0.03≦Y /(In+Y+Ga)≦0.09 ・・・(1-2A)
0.03≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.09 ・・・(1-3A)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-4A)に規定する範囲の原子比
0.01≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.06 ・・・(1-4A)
で含有することがより好ましい。
【0073】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体の一態様では、
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-1B)から(1-3B)に規定する範囲の原子比
0.84≦In/(In+Y+Ga)≦0.92 ・・・(1-1B)
0.04≦Y /(In+Y+Ga)≦0.08 ・・・(1-2B)
0.04≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.08 ・・・(1-3B)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-4B)に規定する範囲の原子比
0.01≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.06 ・・・(1-4B)
で含有することがより好ましい。
【0074】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体は、本質的に、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素および酸素(O)元素からなっていてもよい。この場合、不可避不純物を含んでいてもよい。本発明の酸化物焼結体の、例えば、70%質量以上、80質量%以上、または90質量%以上が、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素および酸素(O)元素であってもよい。また、本発明の酸化物焼結体は、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素および酸素(O)元素のみからなっていてもよい。なお、不可避不純物とは、意図的に添加しない元素であって、原料や製造工程で混入する元素を意味する。以下の説明でも同様である。
【0075】
不可避不純物の例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属(Li、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba等など)、水素(H)元素、ホウ素(B)元素、炭素(C)元素、窒素(N)元素,フッ素(F)元素、ケイ素(Si)元素、および塩素(Cl)元素である。
【0076】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体は、正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-6)に規定する範囲の原子比で含有することが好ましい。
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005 ・・・(1-6)
(式中、Xは、酸化物焼結体中のX元素の原子数を示す。)
【0077】
正四価以上の金属元素Xの酸化物を含むことにより、焼結体のバルク抵抗を低減でき、スパッタ中のプラズマによる加熱によるターゲットの割れを防止することができる。正四価以上の金属Xの酸化物としては、X=Si、Ge,Sn、Ti,Zr、Hf、Ce、Wなどから選ぶことができる。
正四価以上の金属元素Xの酸化物は、SnO2、CeO2から選ばれる1種以上の金属酸化物であることが好ましい。
【0078】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体は、正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-6A)に規定する範囲の原子比で含有することが好ましい。
0.00008≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.003 ・・・(1-6A)
下記式(1-6B)に規定する範囲の原子比で含有することが、さらに好ましい。
0.0001≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.001 ・・・(1-6B)
である。
【0079】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体は、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方とを含むことが好ましい。
【0080】
第1の実施形態の別の態様の酸化物焼結体(以下、第1の実施形態の第2の酸化物焼結体という)は、In、Y、Ga、Al、およびOを主たる構成元素とする酸化物焼結体であって、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方とを含むことを特徴とする。
【0081】
第1の実施形態の第2の酸化物焼結体は、第1の酸化物焼結体における原子比組成に限定されない。本発明の第1の酸化物焼結体の原子比組成に合致していなくても、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方とを含んでいれば、本発明の第2の酸化物焼結体である。
【0082】
第1の実施形態の第2の酸化物焼結体における「In元素、Y元素、G元素a、Al元素、およびO元素を主たる構成元素とする」とは、本質的に、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素および酸素(O)元素からなっていてもよいし、酸化物焼結体の、例えば、70%質量以上、80質量%以上、または90質量%以上が、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素および酸素(O)元素であってもよいし、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素および酸素(O)元素のみからなり、残部が不可避不純物のみからなってもよいことを意味する。
不可避不純物の例としては、上述の通りである。
【0083】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体は、酸化インジウム(In2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)を、In元素、Y元素、およびGa元素の割合が下記式(1-1)から(1-3)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-1)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-2)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-3)
となるように混合し、
さらに、酸化アルミニウム(Al2O3)を、Al元素の割合が下記式(1-4)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-4)
となるように、混合した原料を焼結することによって製造できる。
【0084】
第1の実施形態の第1および第2の酸化物焼結体は、酸化インジウム(In2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)および酸化アルミニウム(Al2O3)を混合した原料を焼結することによって製造できる。得られた焼結体のうち、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方とを含むものが本発明の第2の酸化物焼結体である。
【0085】
第1の実施形態の第1の酸化物焼結体の一態様では、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含み、さらにY3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方を含む酸化物焼結体であることが好ましい。Y3Ga5O12結晶相およびまたはY3Ga4AlO12結晶相を含むことにより、より緻密な焼結体となる。
【0086】
第1の実施形態の別の態様の酸化物焼結体(以下、第1の実施形態の第3の酸化物焼結体という)は、In、Y、Ga、Al、正4価の金属元素およびO元素を主たる構成元素とする酸化物焼結体であって、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga4AlO12結晶相を含む酸化物焼結体を含む。
第3の酸化物焼結体の組成は、第1および第2の酸化物焼結体の組成に限定されない。
【0087】
第1の実施形態の第3の酸化物焼結体における「In、Y、Ga、Al、正4価の金属およびOを主たる構成元素とする」とは、本質的に、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素、正4価の金属元素および酸素(O)元素からなっていてもよいし、酸化物焼結体の、例えば、70%質量以上、80質量%以上、または90質量%以上が、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素、正4価の金属元素および酸素(O)元素であってもよいし、インジウム(In)元素、イットリウム(Y)元素、ガリウム(Ga)元素、アルミニウム(Al)元素、正4価の金属元素および酸素(O)元素のみからなり、残部が不可避不純物のみからなってもよいことを意味する。
不可避不純物の例としては、上述の通りである。
【0088】
第1の実施形態の第3の酸化物焼結体は、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)を、In元素、Y元素、およびGa元素の割合が下記式(1)から(3)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-1)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-2)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-3)
となるように混合し、
さらに、酸化アルミニウム(Al2O3)を、Al元素の割合が下記式(1-4)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-4)
および、正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-6)に規定する範囲の原子比、
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005 ・・・(1-6)
となるように、混合した原料を焼結することによって製造できる。
【0089】
第1の実施形態の第3の酸化物焼結体は、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)および酸化錫(SnO2)を混合した原料を焼結することによって製造できる。得られた焼結体のうち、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Y3Ga4AlO12結晶相の両方とを含むものが第1の実施形態の第3の酸化物焼結体である。
【0090】
第1の実施形態の第1から第3の酸化物焼結体は、相対密度が95%以上であることが好ましい。相対密度が95%以上であれば、焼結体およびターゲットの製造中に割れやクラック等が発生せず安定に製造できるという利点が得られる。相対密度は、96%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。酸化物焼結体の相対密度は、実施例に記載の方法に従って求めることができる。
【0091】
In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含み、さらにY3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12結晶相のいずれか一方または両方を含む、上記本発明の酸化物焼結体は、相対密度が95%以上となり易いため特に好ましい。
【0092】
第1の実施形態の第1から第3の酸化物焼結体は、バルク抵抗が30mΩ・cm以下であることが好ましい。バルク抵抗が30mΩ・cm超では、異常放電を誘発したり、スパッタ中にターゲット表面が加熱されるため、導電性が低いと、熱伝導性も低くなり、熱応力によりヘアーラインクラックが発生したりターゲットが割れたりする場合がある。
以上が、第1の実施形態の第1から第3の酸化物焼結体の説明である。
【0093】
次に、第1の実施形態の第1から第3の酸化物焼結体の製造方法について説明する。
第1の実施形態に係る酸化物焼結体が製造できるものであれば、製造方法は特に限定しないが、以下の(a)から(c)の工程を含む製法を例示できる。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程。
(b)混合物を成型して成型体を調製する工程。
(c)成型体を焼結する工程。
【0094】
(1)工程(a):配合工程
配合工程は、酸化物焼結体の原料を混合する工程である。
原料としては、In化合物の粉末、Y化合物の粉末、Ga化合物の粉末、およびAl化合物の粉末を用いる。正4価の金属酸化物を添加する場合は、正4価の金属酸化物の粉末も用いる。Alの化合物としては、例えば、酸化物、および水酸化物が挙げられる。YおよびGaの化合物としては、酸化物が挙げられる。焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、いずれも酸化物が好ましい。
【0095】
原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2N以上であることにより、酸化物焼結体の耐久性が確保でき、液晶ディスプレイに用いた際に不純物が酸化物半導体膜中に偏析することや、不純物がゲート絶縁膜や層間絶縁膜中に入り、酸化物半導体が作動しなくなり焼き付けが起こる可能性を低減できる。
原料粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、2μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上、1.5μm以下である。原料粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布装置等で測定することができる。
【0096】
原料の混合、成型方法は特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。また、混合する際にはバインダーを原料混合物に添加してもよい。
原料の混合は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルまたは超音波装置等の公知の装置を用いて行うことができる。粉砕時間等の条件は、適宜調整すればよいが、6時間以上、100時間以下が好ましい。
【0097】
(2)工程(b):成型工程
成型工程は、原料混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成型して成型体とする工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成型する。仮焼工程を設けた場合には、得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、プレス成型により所望の形状に成型することができる。
【0098】
成型体の平均厚みは5.5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、8mm以上がさらに好ましく、12mm以上が特に好ましい。5.5mm以上だと、成型体の厚さ方向の温度勾配が減少し、表面と深部の結晶型の組合せの変動が生じにくくなることが期待できる。
【0099】
本工程で用いることができる成型処理としては、例えば、プレス成型(一軸プレス)、金型成型、鋳込み成型、および射出成型等も挙げられる。焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成型するのが好ましい。
【0100】
また、プレス成型(一軸プレス)後に、冷間静水圧(CIP)、または熱間静水圧(HIP)等で成型するように、2段階以上の成型工程を設けてもよい。
冷間静水圧、または静水圧加圧装置を用いる場合、面圧78.5MPa(800kgf/cm2をSI単位に換算)以上、392.4MPa(4000kgf/cm2をSI単位に換算)以下で0.5分以上、60分以下保持することが好ましい。面圧196.2MPa以上、294.3MPa以下で、2分以上、30分以下保持することがより好ましい。前記範囲内であると、成型体内部の組成むら等が減り、均一化されることが期待される。面圧を78.5MPa以上とすることによりで、焼結後の密度が低くなり、抵抗も低くなる。面圧392.4MPa以下とすることにより、装置を大型化せずに成型できる。保持時間が0.5分以上であると、焼結後の密度と抵抗が高くなるのを防止できる。60分以下であると時間が掛かりすぎ不経済となるのを防げる。
成型処理では、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成型助剤を用いてもよい。
【0101】
(3)工程(c):焼結工程
焼結工程は、上記成型工程で得られた成型体を焼成する必須の工程である。
焼結温度は好ましくは1200℃以上、1650℃以下、より好ましくは1350℃以上、1600℃以下、さらに好ましくは1400℃以上、1600℃以下、よりさらに好ましくは1450℃以上、1600℃以下である。
焼結時間は好ましくは10時間以上、50時間以下、より好ましくは12時間以上、40時間以下、さらに好ましくは13時間以上、30時間以下である。
焼結温度が1200℃以上、焼結時間が10時間以上であると、焼結が十分進行し、ターゲットの電気抵抗が十分下がり、異常放電が生じ難くなる。焼成温度が1650℃以下、焼成時間が50時間以下であると、著しい結晶粒成長により平均結晶粒径の増大や、粗大空孔の発生を防ぐことができ、焼結体強度の低下や異常放電が生じ難くなる。
【0102】
常圧焼結法では、成型体を大気雰囲気、または酸素ガス雰囲気にて焼結する。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば20体積%以上、80体積%以下の雰囲気であることが好ましい。昇温過程を酸素ガス雰囲気とすることで、焼結体密度を高くすることができる。
【0103】
さらに、焼結に際しての昇温速度は、800℃から焼結温度までを0.1℃/分以上、2℃/分以下とすることが好ましい。
第1の実施形態にかかる焼結体において800℃から上の温度範囲は、焼結が最も進行する範囲である。この温度範囲での昇温速度が0.1℃/分以上であると、過度な結晶粒成長を抑制でき、高密度化を達成できる。昇温速度が2℃/分以下であることにより、成型体に温度分布が生じ、焼結体が反ったり割れたりするのを抑制できる。
800℃から焼結温度における昇温速度は、好ましくは0.5℃/分以上、2.0℃/分以下、より好ましくは1.0℃/分以上、1.8℃/分以下である。
【0104】
<スパッタリングターゲット>
次に、第1の実施形態に係るスパッタリングターゲットについて、
図1~
図4を参照して説明する。
酸化物焼結体は、研削加工され、バッキングプレートに接合されてスパッタリングターゲットとして供される。このスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ法により酸化物半導体を成膜することができる。
【0105】
第1の実施形態の一態様のスパッタリングターゲット(以下、本発明のターゲットという)は、上記本発明の第1から第3の酸化物焼結体(以下、併せて、本発明の酸化物焼結体という)と、バッキングプレートとを含む。本発明の第1の実施形態のスパッタリングターゲットは、上記本発明の酸化物焼結体と、必要に応じて酸化物焼結体に設けられる、バッキングプレート等の冷却および保持用の部材とを含むことが好ましい。
本発明の第1の実施形態ターゲットを構成する酸化物焼結体(ターゲット材)は、上記本発明の酸化物焼結体に研削加工を施したものであるから、ターゲット材は、物質としては、第1の実施形態の酸化物焼結体と同一である。従って、第1の実施形態の酸化物焼結体についての説明はターゲット材にもそのまま当てはまる。
【0106】
酸化物焼結体の形状は特に限定されないが、
図1の符号801に示すような板状でもよく、
図2の符号801Aに示すような円筒状でもよい。板状の場合、平面形状は、
図1(A)の符号1に示すような矩形でもよく、
図3の符号801Bに示すように円形でもよい。酸化物焼結体は一体成型でもよく、
図4に示すように、複数に分割した酸化物焼結体(符号801C)をバッキングプレート803に各々固定した多分割式でもよい。
バッキングプレート803は、酸化物焼結体の保持や冷却用の部材である。材料は銅等の熱伝導性に優れた材料が好ましい。
【0107】
スパッタリングターゲットは、例えば以下の工程で製造される。
(d)酸化物焼結体の表面を研削する工程。
(e)酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングする工程。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0108】
(4)工程(d):研削工程
研削(加工)工程は、焼結体を、スパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工する工程である。
焼結体表面は、高酸化状態の焼結部が存在したり、面が凸凹であることが多く、また、所定の寸法に切断加工する必要がある。
焼結体の表面は0.3mm以上研削するのが好ましい。研削する深さは、0.5mm以上研削するのが好ましく、2mm以上が特に好ましい。0.3mm以上研削することにより、表面付近の結晶構造の変動部分を除去できる。
【0109】
酸化物焼結体を例えば、平面研削盤で研削して平均表面粗さRaが5μm以下の素材とするのが好ましい。さらにスパッタリングターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが1000×10-10m以下としてもよい。鏡面加工(研磨)は、機械的な研磨、化学研磨、およびメカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、公知の研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液は水)で#2000番以上にポリッシングしてもよく、遊離砥粒ラップ(研磨材はSiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えて、ラッピングしてもよい。研磨方法はこれらの方法に限定されない。研磨材は、#200番、もしくは#400番、さらには#800番のものが挙げられる。
【0110】
研削工程後の酸化物焼結体は、エアーブローや流水洗浄等で清浄するのが好ましい。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。なお、エアーブローや流水洗浄では清浄力に限界があるので、さらに超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄は、周波数が25kHz以上、300kHz以下の間で、多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数が25kHz以上、300kHzの間で、25kHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて、超音波洗浄を行なうのが良い。
【0111】
(5)工程(e):ボンディング工程
工程(e)は、研削後の焼結体を、金属インジウムなどの低融点金属で、バッキングプレートにボンディングする工程である。
以上がスパッタリングターゲットの説明である。
【0112】
<酸化物半導体薄膜>
次に、第1の実施形態に係る酸化物半導体薄膜について、説明する。
第1の実施形態の一態様の酸化物半導体薄膜(以下、本発明の酸化物半導体薄膜という)は、
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-7)から(1-9)に規定する範囲の原子比
0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96 ・・・(1-7)
0.02≦Y /(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-8)
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15 ・・・(1-9)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-10)に規定する範囲の原子比
0.005≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.07 ・・・(1-10)
で含有することを特徴とする。
(式中、In、Y、Ga、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Y元素、Ga元素およびAl元素の原子数を示す。)
Gaは、下記式(1-11)に規定する範囲の原子比で含有するのが好ましい。
0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10 ・・・(1-11)
【0113】
第1の実施形態の酸化物半導体薄膜は、上記本発明のターゲットを用いて、スパッタ法により製造することができる。スパッタ法によって得られる酸化物半導体薄膜の原子比組成は、ターゲット材の原子比組成を反映する。
【0114】
酸化物半導体薄膜の原子比組成が上記範囲以外では、薄膜トランジスタを形成する工程で使用されるCVD成膜装置での処理の際に、薄膜トランジスタの半導体部分(本発明の酸化物半導体薄膜)のキャリヤー濃度が上昇し、その後のアニール処理によってもキャリヤー濃度が低下せず、TFTとして作動しなくなる場合があった。そのため、従来はCVD装置の成膜温度を低下させて、キャリヤー濃度の上昇を抑え、TFT特性の発現を行っていたが、CVD装置の成膜温度を低減させたことにより、耐久性の乏しい半導体薄膜しか得られず、TFT特性も劣ったものとなる場合があった。
【0115】
第1の実施形態の一態様の酸化物半導体薄膜は、スパッタによって成膜されたときにアモルファス状態であり、加熱処理(アニール処理)後に結晶状態になることが好ましい。
【0116】
第1の実施形態態様の酸化物半導体薄膜は、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含むことが好ましい。結晶化により、酸化物半導体薄膜の密度が向上するためである。また、酸化物半導体薄膜中に酸化インジウム(In2O3)結晶が生成すると、インジウム原子が整然と並ぶため、In-Inイオン間のs軌道の重なりが大きくなり、キャリヤーの散乱が抑えられ、本発明の酸化物半導体薄膜をTFTに用いたときに、TFTの移動度が向上する。
【0117】
また、非晶質に比べて、結晶は安定に存在するために、CVD処理や、長時間のTFTの駆動、光照射等による劣化にも強く、安定したTFT駆動が得られるようになる。
また、In2O3で表されるビックスバイト結晶相には、イットリウム(Y)元素およびガリウム(Ga)元素のいずれか1以上が置換型固溶していると好ましい。
【0118】
In2O3で表されるビックスバイト構造にY元素が置換型固溶していることは、焼結体中の酸化インジウムのビックスバイト構造の格子定数が、酸化インジウムのみの格子定数より大きくなっていることにより確認できる。
【0119】
In2O3で表されるビックスバイト構造にGa元素が置換型固溶していることは、酸化物半導体薄膜中の酸化インジウムのビックスバイト構造の格子定数が、酸化インジウムのみの格子定数より小さくなっていることにより確認できる。
【0120】
第1の実施形態の一態様の薄膜トランジスタ(以下、本発明の薄膜トランジスタという)は、本発明の酸化物半導体薄膜を含むことを特徴とする。
第1の実施形態の一態様の薄膜トランジスタの形状は、特に限定されないが、バックチャンネルエッチ型トランジスタ、エッチストッパー型トランジスタ、トップゲート型トランジスタ等が好ましい。
【0121】
第1の実施形態の酸化物半導体薄膜において、イットリウム(Y)元素は、酸素欠損の発生を抑える効果と、酸化物半導体薄膜のバンドギャップを大きくする効果が有る。Y元素の割合[Y/(In+Y+Ga)(原子比)]は、0.02≦Y/(In+Y+Ga)≦0.10であることが好ましい。0.02未満では、酸素欠損を抑える効果が小さく半導体にならない場合があったり、結晶の格子定数が通常のIn2O3で表されるビックスバイト結晶相の結晶格子定数より小さくなりすぎたりする。また、0.10超では、酸素欠損がなくなり絶縁膜となる場合があったり、結晶の格子定数がIn2O3で表されるビックスバイト結晶相の格子定数より大きくなりすぎたり、TFTの移動度が小さくなったりする場合がある。より好ましくは、0.03≦Y/(In+Y+Ga)≦0.09、さらに好ましくは、0.04≦Y/(In+Y+Ga)≦0.08である。
【0122】
第1の実施形態の酸化物半導体薄膜において、ガリウム(Ga)元素は、酸素欠損の発生を抑える効果と、酸化物半導体薄膜のバンドギャップを大きくする効果と、半導体薄膜(In2O3)の格子定数を小さくする効果が有る。Ga元素の割合[Ga/(In+Y+Ga)(原子比)]は、0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.15であることが好ましい。0.02未満では、酸素欠損を抑える効果が小さく半導体にならない場合があったり、結晶の格子定数がIn2O3で表されるビックスバイト結晶相の格子定数より小さくならなかったりする。また、0.15超では、酸素欠損がなくなり絶縁膜となる場合があったり、結晶化しなくなったり、TFTの移動度が小さくなったりする場合がある。より好ましくは、0.02≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.10、さらに好ましくは、0.03≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.09、よりさらに好ましくは、0.04≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.08である。
【0123】
なお、Y元素とGa元素は、いずれも酸素欠損の発生を抑える効果と、酸化物半導体薄膜のバンドギャップを大きくする効果が共通するが、両方とも必須である理由は以下の通りである。
【0124】
Ga元素のイオン半径は、In元素のイオン半径よりもかなり小さいため、Gaのみの添加で、In2O3を結晶化させた場合、ヒューム=ロザリーの法則により、固溶する範囲は狭く、12原子%程度になる。また、GaにはIn2O3の格子定数を小さくする効果もある。
【0125】
Y元素のイオン半径は、In元素のイオン半径より大きい。ただし、GaとInのイオン半径の差ほどYとInのイオン半径の差は大きくない、また、Y酸化物自体もビッグスバイト構造をとる。そのため、Y元素を添加すると、全組成域においてIn2O3と固溶体を生成する。Y元素の添加量が多くなるほど、Yが固溶したIn2O3の格子定数は大きくなる。
【0126】
Ga元素とY元素の両方を添加して固溶させると、In2O3結晶の格子定数を小さくするGaと、大きくするYの効果が相殺される。そのため、格子定数を大きく変化させることなく、安定して結晶化させることができる。Ga元素の添加量を調整することによりIn2O3の格子定数を純In2O3の格子定数より小さくすることができる。格子定数が小さくなると、In-Inイオン間の距離も小さくなり、s軌道の重なりが大きくなるため、TFTにした時の移動度が大きくなる。
【0127】
第1の実施形態の半導体薄膜において、インジウム(In)元素は、半導体薄膜の移動度を担う元素である。Inの割合[In/(In+Y+Ga)(原子比)]は、0.80≦In/(In+Y+Ga)≦0.96が好ましい。0.80未満では、酸化インジウムが結晶化しなかったりして半導体薄膜の移動度の低下が起こる場合がある。0.96以上では、酸素欠損の量が増えすぎて、半導体化せず、導体になる場合がある。より好ましくは、0.82≦In/(In+Y+Ga)≦0.94、さらに好ましくは、0.84≦In/(In+Y+Ga)≦0.92である。
【0128】
特にガリウム(Ga)元素の添加により、半導体薄膜(In2O3)の格子定数を小さくすることができ、ベースの原料酸化物のみの場合の酸化インジウムの格子定数より小さくすることができる。結晶酸化インジウムの格子定数が小さくなることにより、インジウムイオンの原子間距離は小さくなり、特にIn元素のs軌道の重なりが大きくなることにより、移動度が向上する効果を与えていると思われる。
第1の実施形態の一態様の酸化物半導体薄膜は、In2O3で表されるビックスバイト結晶相の格子定数が10.083×10-10m以下であることが好ましい。格子定数は、実施例に記載の方法で求めることができる。格子定数の下限値は、通常10.020×10-10m以上であり、好ましくは10.025×10-10m以上、より好ましくは10.030×10-10m以上である。
【0129】
第1の実施形態の半導体薄膜において、アルミニウム(Al)元素は、酸素欠損の発生を抑える効果と、酸化物半導体薄膜のバンドギャップを大きくする効果が有る。特にアルミニウムの添加により、絶縁膜形成時のCVD処理によるキャリヤーの増大を抑え、その後の熱処理で半導体特性を調整する場合に調整しやすくなる効果、具体的には、従来よりも低温の熱処理でもキャリヤー濃度を下げやすくなる効果がある。また、酸化アルミニウム自体は、酸素の拡散係数が低く、ベースの原料酸化物のみの場合よりも酸化インジウム内の酸素の拡散速度を小さくできると考えられる。CVD工程で酸化物半導体薄膜内の酸素欠損が増えてキャリヤー濃度が上がり、その酸素欠損をCVD工程の後の熱処理により酸素欠損を潰してキャリヤーを酸化物半導体の表面から低減する効果がある。これにより、ゲート絶縁膜近傍の酸化物半導体薄膜内部のチャネル部のキャリヤー濃度が高く保たれ、高移動度化を実現しているものと思われる。
【0130】
よって、酸化インジウムの割合が多い酸化物半導体薄膜の場合、アルミニウム元素の量を比較的多くしないと酸化物半導体薄膜内部のゲート絶縁膜近傍の酸素欠損が全て消失してしまって、高移動度化しなかったりする場合がある。一方、酸化インジウムの割合が少ない酸化物半導体薄膜の場合、アルミニウム元素の量を比較的少なくしないと酸化物半導体薄膜内部のゲート絶縁膜近傍の酸素欠損だけでなく、内部の多くの酸素欠損が残ることになり、半導体化せず導通化したり、閾値電圧(Vth)がマイナスにシフトし、ノーマリーオン状態になる等の不都合を引き起こす場合がある。
【0131】
例えば、In元素の割合[In/(In+Y+Ga)(原子比)]が0.90以上の場合には、Al元素の割合[Al/(In+Y+Ga+Al)(原子比)]は、0.020以上、好ましくは、0.025以上が好ましい。上限は0.07以下であることが好ましい。Al元素の割合が0.07超になると酸化インジウムが結晶化しなくなり、高移動度の酸化物半導体薄膜が得られなくなる場合がある。好ましくは0.06以下である
【0132】
例えば、In元素の割合[In/(In+Y+Ga)(原子比)]が0.90以下では、Al元素の割合[Al/(In+Y+Ga+Al)(原子比)]は、0.030以下、好ましくは、0.025以下が好ましい。下限は0.005以上であることが好ましい。好ましくは、0.01以上である。
【0133】
第1の実施形態の一態様の酸化物半導体薄膜は、
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-7A)から(1-10A)に規定する範囲の原子比
0.82≦In/(In+Y+Ga)≦0.94 ・・・(1-7A)
0.03≦Y /(In+Y+Ga)≦0.09 ・・・(1-8A)
0.03≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.09 ・・・(1-9A)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-10A)に規定する範囲の原子比
0.01≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.06 ・・・(1-10A)
で含有することが好ましい。
【0134】
第1の実施形態の一態様の酸化物半導体薄膜は、
In元素、Y元素、およびGa元素を下記式(1-7B)から(1-10B)に規定する範囲の原子比
0.84≦In/(In+Y+Ga)≦0.92 ・・・(1-7B)
0.04≦Y /(In+Y+Ga)≦0.08 ・・・(1-8B)
0.04≦Ga/(In+Y+Ga)≦0.08 ・・・(1-9B)
で含有し、
かつ、Al元素を下記式(1-10B)に規定する範囲の原子比
0.01≦Al/(In+Y+Ga+Al)≦0.06 ・・・(1-10B)
で含有することがより好ましい。
【0135】
第1の実施形態の一態様の酸化物半導体薄膜は、正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-12)に規定する範囲の原子比で、含有するのが好ましい。
0.00005≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.005・・・(1-12)
(式中、Xは、酸化物半導体薄膜中のX元素の原子数を示す。)
X/(In+Y+Ga+Al+X)が、0.00005以上とすることにより、酸化物半導体薄膜を結晶化させた場合にキャリヤー濃度が下り過ぎ、10-12/cm3以下になると移動度が低下したり、絶縁体となり半導体として作動しなくなったりするのを防止できる。X/(In+Y+Ga+Al+X)が、0.005以下であることにより、キャリヤーが発生しすぎて、導体化してしまい、TFTが作動しなくなるのを防止できる。
【0136】
第1の実施形態の酸化物半導体薄膜の一態様では、正四価以上の金属Xの酸化物を下記式(1-12A)に規定する範囲の原子比で含有するのが好ましい。
0.00008≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.003 ・・・(1-12A)
第1の実施形態の酸化物半導体薄膜の一態様では、正四価以上の金属元素Xの酸化物を下記式(1-12B)に規定する範囲の原子比で含有するのが、さらに好ましい。
0.0001≦X/(In+Y+Ga+Al+X)≦0.001 ・・・(1-12B)
【0137】
酸化物半導体薄膜中の各金属元素の含有量(原子比)は、ICP(Inductive Coupled Plasma)測定またはXRF(X-ray Fluorescence)測定により、各元素の存在量を測定することで求めることができる。ICP測定は誘導プラズマ発光分析装置を用いることができる。XRF測定は薄膜蛍光X線分析装置(AZX400、リガク社製)を用いることができる。
【0138】
また、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS分析を用いても誘導プラズマ発光分析と同等の精度で酸化物半導体薄膜中の各金属元素の含有量(原子比)を分析できる。誘導プラズマ発光分析装置または薄膜蛍光X線分析装置で測定した金属元素の原子比が既知の標準酸化物薄膜の上面に、ソース・ドレイン電極をTFT素子と同様の材料をチャネル長で形成したものを標準材料とし、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS(IMS 7f-Auto、AMETEK社製)により酸化物半導体層の分析に行い各元素の質量スペクトル強度を得、既知の元素濃度と質量スペクトル強度の検量線を作製する。次に、実TFT素子の酸化物半導体薄膜部分を、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS分析によるスペクトル強度から、前述の検量線を用いて、原子比を算出すると、算出された原子比は、別途薄膜蛍光X線分析装置または誘導プラズマ発光分析装置で測定された酸化物半導体薄膜の原子比の2原子%以内であることが確認できる。
【0139】
上記構成を有することによって、高移動度で、CVD等での特性変化の小さい本発明の酸化物半導体薄膜が得られる。
第1の実施形態の酸化物半導体薄膜を用いることによって、高性能な薄膜トランジスタが得られる。
【0140】
<薄膜トランジスタ>
次に、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタの構造について説明する。
第1の実施形態に係る薄膜トランジスタは、第1の実施形態に係る酸化物半導体薄膜を備え、トランジスタとして機能するものであれば、特に構造は限定しない。
具体的な薄膜トランジスタの形状としては、バックチャンネルエッチ型トランジスタ、エッチストッパー型トランジスタ、およびトップゲート型トランジスタなどが挙げられる。
【0141】
具体的な薄膜トランジスタの例を
図5および
図6に示す。
図5に示すように、薄膜トランジスタ810は、シリコンウエハ820、ゲート絶縁膜830、酸化物半導体薄膜840、ソース電極850、ドレイン電極860、および層間絶縁膜870、870Aを備える。
【0142】
シリコンウエハ820はゲート電極である。ゲート絶縁膜830はゲート電極と酸化物半導体薄膜840の導通を遮断する絶縁膜であり、シリコンウエハ820上に設けられる。
酸化物半導体薄膜840はチャネル層であり、ゲート絶縁膜830上に設けられる。酸化物半導体薄膜840は第1の実施形態に係る酸化物半導体薄膜が用いられる。
【0143】
ソース電極850およびドレイン電極860は、ソース電流およびドレイン電流を酸化物半導体薄膜840に流すための導電端子であり、酸化物半導体薄膜840の両端近傍に接触するように、各々設けられる。
層間絶縁膜870は、ソース電極850およびドレイン電極860と、酸化物半導体薄膜840の間の接触部分以外の導通を遮断する絶縁膜である。
層間絶縁膜870Aは、ソース電極850およびドレイン電極860と、酸化物半導体薄膜840の間の接触部分以外の導通を遮断する絶縁膜である。層間絶縁膜870Aは、ソース電極50とドレイン電極860の間の導通を遮断する絶縁膜でもある。層間絶縁膜870Aは、チャネル層保護層でもある。
【0144】
図6に示すように、薄膜トランジスタ810Aの構造は、薄膜トランジスタ810と同様であるが、ソース電極850およびドレイン電極860を、ゲート絶縁膜830と酸化物半導体薄膜840の両方に接触するように設けている点が異なる。ゲート絶縁膜830、酸化物半導体薄膜840、ソース電極850、およびドレイン電極860を覆うように、層間絶縁膜70Bが一体に設けられている点も異なる。
【0145】
ドレイン電極860、ソース電極850およびゲート電極を形成する材料に特に制限はなく、一般に用いられている材料を任意に選択することができる。
図5および
図6で挙げた例では、シリコンウエハを基板として用いており、シリコンウエハが電極としても作用するが、電極材料はシリコンに限定されない。
例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、ZnO、およびSnO
2等の透明電極や、Al、Ag、Cu、Cr、Ni、Mo、Au、Ti、およびTa等の金属電極、またはこれらを含む合金の金属電極や積層電極を用いることができる。
また、
図5および
図6において、ガラス等の基板上にゲート電極を形成してもよい。
【0146】
層間絶縁膜870、870A、870Bを形成する材料にも特に制限はなく、一般に用いられている材料を任意に選択できる。層間絶縁膜870、870A、870Bを形成する材料として、具体的には、例えば、SiO2、SiNx、Al2O3、Ta2O5、TiO2、MgO、ZrO2、CeO2、K2O、Li2O、Na2O、Rb2O、Sc2O3、Y2O3、HfO2、CaHfO3、PbTiO3、BaTa2O6、SrTiO3、Sm2O3、およびAlN等の化合物を用いることができる。
【0147】
第1の実施形態に係る薄膜トランジスタがバックチャネルエッチ型(ボトムゲート型)の場合、ドレイン電極、ソース電極およびチャネル層上に保護膜を設けることが好ましい。保護膜を設けることにより、TFTの長時間駆動した場合でも耐久性が向上しやすくなる。なお、トップゲート型のTFTの場合、例えばチャネル層上にゲート絶縁膜を形成した構造となる。
【0148】
保護膜または絶縁膜は、例えばCVDにより形成することができるが、その際に高温度によるプロセスになる場合がある。また、保護膜または絶縁膜は、成膜直後は不純物ガスを含有していることが多く、加熱処理(アニール処理)を行うことが好ましい。加熱処理で不純物ガスを取り除くことにより、安定した保護膜または絶縁膜となり、耐久性の高いTFT素子を形成しやすくなる。
【0149】
第1の実施形態に係る酸化物半導体薄膜を用いることにより、CVDプロセスにおける温度の影響、およびその後の加熱処理による影響を受けにくくなるため、保護膜または絶縁膜を形成した場合であっても、TFT特性の安定性を向上させることができる。
【0150】
薄膜トランジスタは、以下の特性を有するのが好ましい。
薄膜トランジスタの移動度は1.0cm2/V・s以上、が好ましい。1.0cm2/V・s以上とすることにより、液晶ディスプレイを駆動できる。
【0151】
飽和移動度は、ドレイン電圧を20V印加した場合の伝達特性から求められる。具体的に、伝達特性Id-Vgのグラフを作成し、各Vgのトランスコンダクタンス(Gm)を算出し、飽和領域の式により飽和移動度を求めることにより、算出できる。Idはソース・ドレイン電極間の電流、Vgはソース・ドレイン電極間に電圧Vdを印加したときのゲート電圧である。
【0152】
閾値電圧(Vth)は、-3.0V以上、3.0V以下が好ましく、-2.0V以上、2.0V以下がより好ましく、-1.0V以上、1.0V以下がさらに好ましい。閾値電圧(Vth)が-3.0V以上であると、高移動度の薄膜トランジスタができる。閾値電圧(Vth)が3.0V以下であると、オフ電流が小さく、オンオフ比の大きな薄膜トランジスタができる。
【0153】
閾値電圧(Vth)は、伝達特性のグラフよりId=10-9AでのVgで定義できる。
on-off比は106以上、1012以下が好ましく、107以上、1011以下がより好ましく、108以上、1010以下がさらに好ましい。on-off比が106以上であると、液晶ディスプレイの駆動ができる。on-off比が1012以下であると、コントラストの大きな有機ELの駆動ができる。また、オフ電流を10-12A以下にでき、CMOSイメージセンサーの転送トランジスタやリセットトランジスタに用いた場合、画像の保持時間を長くしたり、感度を向上させたりできる。
【0154】
on-off比は、Vg=-10VのIdの値をOff電流値とし、Vg=20VのIdの値をOn電流値として、比[On電流値/Off電流値]を決めることにより、求められる。
Off電流値は、10-10A以下が好ましく、10-11A以下がより好ましく、10-12A以下がさらに好ましい。Off電流値が10-10A以下であると、コントラストの大きな有機ELの駆動ができる。また、CMOSイメージセンサーの転送トランジスタやリセットトランジスタに用いた場合、画像の保持時間を長くしたり、感度を向上させたりできる。
薄膜トランジスタの半導体層に用いられる、第1の実施形態に係る酸化物半導体薄膜の欠陥密度が、5.0×1016cm-3以下が好ましく、1.0×1016cm-3以下がより好ましい。欠陥密度の減少により、薄膜トランジスタの移動度がさらに高くなり、光照射時の安定性、熱に対する安定性が高くなり、TFTが安定して作動するようになる。
【0155】
<量子トンネル電界効果トランジスタ>
第1の実施形態に係る酸化物半導体薄膜は、量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)に用いることもできる。
【0156】
図7に、第1の実施形態に係る、量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)の模式図(縦断面図)を示す。
量子トンネル電界効果トランジスタ501は、p型半導体層503、n型半導体層507、ゲート絶縁膜509、ゲート電極511、ソース電極513、およびドレイン電極515を備える。
【0157】
p型半導体層503、n型半導体層507、ゲート絶縁膜509、およびゲート電極511は、この順番に積層されている。
ソース電極513は、p型半導体層503上に設けられる。ドレイン電極515はn型半導体層507上に設けられる。
p型半導体層503は、p型のIV族半導体層であり、ここではp型シリコン層である。
n型半導体層507は、ここでは第1の実施形態に係る、n型の酸化物半導体薄膜である。ソース電極513およびドレイン電極515は導電膜である。
【0158】
図7では図示していないが、p型半導体層503上には絶縁層が形成されてもよい。この場合、p型半導体層503とn型半導体層507は、絶縁層を部分的に開口した領域であるコンタクトホールを介して接続されている。
図7では図示していないが、量子トンネル電界効果トランジスタ501は、その上面を覆う層間絶縁膜を備えてもよい。
【0159】
量子トンネル電界効果トランジスタ501は、p型半導体層503とn型半導体層507により形成されたエネルギー障壁をトンネリングする電流を、ゲート電極511の電圧により制御する、電流のスイッチングを行う量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)である。この構造では、n型半導体層507を構成する酸化物半導体のバンドギャップが大きくなり、オフ電流を小さくすることができる。
【0160】
図8に、第1の実施形態の他の態様に係る量子トンネル電界効果トランジスタ501Aの模式図(縦断面図)を示す。
量子トンネル電界効果トランジスタ501Aの構成は、量子トンネル電界効果トランジスタ501と同様であるが、p型半導体層503とn型半導体層507の間に酸化シリコン層505が形成されている点が異なる。酸化シリコン層が有ることにより、オフ電流を小さくできる。
酸化シリコン層505の厚みは、10nm以下であるのが好ましい。10nm以下とすることにより、トンネル電流が流れなかったり、形成されるエネルギー障壁が形成しにくかったり障壁高さが変化したりするのを防止でき、トンネリング電流が低下したり、変化したりするのを防げる。好ましくは、8nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下、さらにより好ましくは1nm以下である。
図9にp型半導体層503とn型半導体層507の間に酸化シリコン層505が形成された部分のTEM写真を示す。
【0161】
量子トンネル電界効果トランジスタ501および501Aも、n型半導体層507はn型酸化物半導体である。
【0162】
n型半導体層507を構成する酸化物半導体は、非晶質でもよい。非晶質であることにより、蓚酸などの有機酸でエッチング可能となり、他の層とのエッチング速度の差が大きくなり、配線などの金属層への影響もなく、良好にエッチングできる。
【0163】
n型半導体層507を構成する酸化物半導体は、結晶質でもよい。結晶質であることにより、非晶質の場合よりもバンドギャップが大きくなり、オフ電流を小さくできる。仕事関数も大きくできることから、p型のIV族半導体材料とn型半導体層507により形成されるエネルギー障壁をトンネリングする電流を制御しやすくなる。
【0164】
量子トンネル電界効果トランジスタ501の製造方法は、特に限定しないが、以下の方法を例示できる。
まず、
図10に示すように、p型半導体層503上に絶縁膜505Aを形成し、絶縁膜505Aの一部をエッチング等で開口してコンタクトホール505Bを形成する。
次に、
図11に示すように、p型半導体層503および絶縁膜505A上にn型半導体層507を形成する。この際、コンタクトホール505Bを介してp型半導体層503とn型半導体層507を接続する。
【0165】
次に、
図12に示すように、n型半導体層507上に、ゲート絶縁膜509およびゲート電極511をこの順番に形成する。
次に、
図13に示すように、絶縁膜505A、n型半導体層507、ゲート絶縁膜509およびゲート電極511を覆うように、層間絶縁膜519を設ける。
【0166】
次に、
図14に示すように、p型半導体層503上の絶縁膜505Aおよび層間絶縁膜519の一部を開口してコンタクトホール519Aを形成し、コンタクトホール519Aにソース電極513を設ける。
さらに、
図14に示すように、n型半導体層507上のゲート絶縁膜509および層間絶縁膜519の一部を開口してコンタクトホール519Bを形成し、コンタクトホール519Bにドレイン電極515を形成する。
以上の手順で量子トンネル電界効果トランジスタ501を製造できる。
【0167】
なお、p型半導体層503上にn型半導体層507を形成した後で、150℃以上、600℃以下の温度で熱処理を行うことで、p型半導体層503とn型半導体層507の間に酸化シリコン層505を形成できる。この工程を追加することにより、量子トンネル電界効果トランジスタ501Aを製造できる。
【0168】
<薄膜トランジスタの用途>
第1の実施形態に係る薄膜トランジスタは、電界効果型トランジスタ、論理回路、メモリ回路、および差動増幅回路等の各種の集積回路にも適用でき、それらを電子機器等に適用することができる。さらに、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタは、電界効果型トランジスタ以外にも静電誘起型トランジスタ、ショットキー障壁型トランジスタ、ショットキーダイオード、および抵抗素子にも適応できる。
第1の実施形態に係る薄膜トランジスタは、表示装置および固体撮像素子等に好適に用いることができる。
以下、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを表示装置および固体撮像素子に用いる場合について、説明する。
【0169】
まず、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを電子機器としての表示装置に用いる場合について、
図15~17を参照して説明する。
図15は、本発明の一態様の表示装置の上面図である。
図16は、第1の実施形態の一態様の表示装置の画素部に、液晶素子を適用する場合の画素部の回路を説明するための回路図である。また、
図17は、第1の実施形態の一態様の表示装置の画素部に、有機EL素子を適用する場合の画素部の回路を説明するための回路図である。
【0170】
画素部に配置するトランジスタは、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを用いることができる。第1の実施形態に係る薄膜トランジスタはnチャネル型とすることが容易なので、nチャネル型トランジスタで構成できる駆動回路の一部を、画素部のトランジスタと同一基板上に形成する。画素部や駆動回路に第1の実施形態に示す薄膜トランジスタを用いることにより、信頼性の高い表示装置を提供できる。
【0171】
アクティブマトリクス型表示装置の上面図の一例を
図15に示す。表示装置の基板300上には、画素部301、第1の走査線駆動回路302、第2の走査線駆動回路303、信号線駆動回路304が形成される。画素部301には、複数の信号線が信号線駆動回路304から延伸して配置され、複数の走査線が第1の走査線駆動回路302、および第2の走査線駆動回路303から延伸して配置される。走査線と信号線との交差領域には、各々、表示素子を有する画素がマトリクス状に設けられる。表示装置の基板300は、FPC(Flexible Printed Circuit)等の接続部を介して、タイミング制御回路(コントローラ、制御ICともいう)に接続される。
【0172】
図15では、第1の走査線駆動回路302、第2の走査線駆動回路303、信号線駆動回路304は、画素部301と同じ基板300上に形成される。そのため、外部に設ける駆動回路等の部品の数が減るので、コストの低減を図ることができる。また、基板300外部に駆動回路を設けた場合、配線を延伸させる必要が生じ、配線間の接続数が増える。同じ基板300上に駆動回路を設けた場合、その配線間の接続数を減らすことができ、信頼性の向上、または歩留まりの向上を図ることができる。
【0173】
また、画素の回路構成の一例を
図16に示す。ここでは、VA型液晶表示装置の画素部に適用することができる画素部の回路を示す。
【0174】
この画素部の回路は、一つの画素に複数の画素電極を有する構成に適用できる。それぞれの画素電極は異なるトランジスタに接続され、各トランジスタは異なるゲート信号で駆動できるように構成されている。これにより、マルチドメイン設計された画素の個々の画素電極に印加する信号を、独立して制御できる。
【0175】
トランジスタ316のゲート配線312と、トランジスタ317のゲート配線313には、異なるゲート信号を与えられるように分離されている。一方、データ線として機能するソース電極またはドレイン電極314は、トランジスタ316とトランジスタ317で共通に用いられる。トランジスタ316とトランジスタ317は、第1の実施形態に係るトランジスタを用いることができる。これにより、信頼性の高い液晶表示装置を提供できる。
【0176】
トランジスタ316には、第1の画素電極が電気的に接続され、トランジスタ317には、第2の画素電極が電気的に接続される。第1の画素電極と第2の画素電極とは分離されている。第1の画素電極と第2の画素電極の形状は、特に限定しない。例えば、第1の画素電極は、V字状とすればよい。
【0177】
トランジスタ316のゲート電極はゲート配線312と接続され、トランジスタ317のゲート電極はゲート配線313と接続されている。ゲート配線312とゲート配線313に異なるゲート信号を与えて、トランジスタ316とトランジスタ317の動作タイミングを異ならせ、液晶の配向を制御できる。
【0178】
また、容量配線310と、誘電体として機能するゲート絶縁膜と、第1の画素電極または第2の画素電極と電気的に接続する容量電極とで、保持容量を形成してもよい。
【0179】
マルチドメイン構造は、一画素に第1の液晶素子318と第2の液晶素子319を備える。第1の液晶素子318は第1の画素電極と対向電極とその間の液晶層とで構成され、第2の液晶素子319は第2の画素電極と対向電極とその間の液晶層とで構成される。
【0180】
画素部は、
図16に示す構成に限定されない。
図16に示す画素部にスイッチ、抵抗素子、容量素子、トランジスタ、センサー、または論理回路を追加してもよい。
【0181】
画素の回路構成の他の一例を
図17に示す。ここでは、有機EL素子を用いた表示装置の画素部の構造を示す。
【0182】
図17は、適用可能な画素部320の回路の一例を示す図である。ここではnチャネル型のトランジスタを1つの画素に2つ用いる例を示す。第1の実施形態の酸化物半導体薄膜は、nチャネル型のトランジスタのチャネル形成領域に用いることができる。当該画素部の回路は、デジタル時間階調駆動を適用できる。
【0183】
スイッチング用トランジスタ321および駆動用トランジスタ322は、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを用いることができる。これにより、信頼性の高い有機EL表示装置を提供することができる。
【0184】
画素部の回路の構成は、
図17に示す構成に限定されない。
図17に示す画素部の回路にスイッチ、抵抗素子、容量素子、センサー、トランジスタまたは論理回路を追加してもよい。
以上が第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを表示装置に用いる場合の説明である。
【0185】
次に、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを固体撮像素子に用いる場合について、
図18を参照して説明する。
【0186】
CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサーは、信号電荷蓄積部に電位を保持し、その電位を、増幅トランジスタを介して、垂直出力線に出力する固体撮像素子である。CMOSイメージセンサーに含まれるリセットトランジスタ、および/または転送トランジスタにリーク電流があると、そのリーク電流によって充電または放電が起こり、信号電荷蓄積部の電位が変化する。信号電荷蓄積部の電位が変化すると、増幅トランジスタの電位も変わってしまい、本来の電位からずれた値となり、撮像された映像が劣化してしまう。
【0187】
第1の実施形態に係る薄膜トランジスタをCMOSイメージセンサーのリセットトランジスタ、および転送トランジスタに適用した場合の動作の効果を説明する。増幅トランジスタは、薄膜トランジスタまたはバルクトランジスタのどちらを適用しても良い。
【0188】
図18は、CMOSイメージセンサーの画素構成の一例を示す図である。画素は光電変換素子であるフォトダイオード10、転送トランジスタ1、リセットトランジスタ20、増幅トランジスタ30および各種配線で構成されており、マトリクス状に複数が配置されてセンサーを構成する。増幅トランジスタ30と電気的に接続される選択トランジスタを設けても良い。トランジスタ記号に記してある「OS」は酸化物半導体(Oxide Semiconductor)を、「Si」はシリコンを示しており、それぞれのトランジスタに適用すると好ましい材料を表している。以降の図面についても同様である。
【0189】
フォトダイオード10は、転送トランジスタ1のソース側に接続されており、転送トランジスタ1のドレイン側には信号電荷蓄積部15(FD:フローティングディフュージョンとも呼ぶ)が形成される。信号電荷蓄積部15にはリセットトランジスタ20のソース、および増幅トランジスタ30のゲートが接続されている。別の構成として、リセット電源線3110を削除することもできる。例えば、リセットトランジスタ20のドレインをリセット電源線3110ではなく、電源線VDDまたは垂直出力線3120につなぐ方法がある。
なお、また、フォトダイオード10に本発明の酸化物半導体薄膜を用いても良く、転送トランジスタ1、リセットトランジスタ20に用いられる酸化物半導体薄膜と同じ材料を用いてよい。
以上が、第1の実施形態に係る薄膜トランジスタを固体撮像素子に用いる場合の説明である。
【0190】
次に、第2の実施形態について説明する。
まず、第2の実施形態の概要について、簡単に説明する。
特許文献1に記載のように、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群から選ばれる一以上の元素Aと、AlおよびGaからなる群から選ばれる一以上の元素Bと、Inを含む酸化物焼結体が、In2O3で構成されるビックスバイト結晶相と、A3B5O12結晶相を有する場合があることは公知である。
【0191】
これに対して本発明者らは、InGaAlYb系、InSnGaAlYb系の酸化物焼結体の結晶構造を確認したところ、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Yb3Ga5O12とYb3Al5O12(A3B5O12結晶相)のどちらでもない新規なガーネット化合物が生成する場合があることを確認した。
このガーネット化合物の正確な構造式については不明である。しかしながら、本発明者らは、このガーネット化合物の格子定数がYb3Ga5O12の格子定数とYb3Al5O12の格子定数との間にあることを確認したため、構造式は、Yb3(Ga
5-XAlX)O12(0<X<5)で表すことができる。
また、本発明者らは、このガーネット化合物が生成した酸化物焼結体をターゲットとして用いてスパッタリングを行った所、クラックが発生し難いことを確認した。
以上が第2の実施形態の概要である。
【0192】
次に、第2の実施形態の詳細について説明する。
<ガーネット化合物>
まず、第2の実施形態に係るガーネット化合物について、説明する。
第2の実施形態の第1の態様に係るガーネット化合物は、
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されることを特徴とする。
【0193】
第2の実施形態の第2の態様に係るガーネット化合物は、
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表され、格子定数が、11.93×10-10m以上、12.20×10-10m以下であることを特徴とする。
第1および第2の態様の条件を満たすことにより、ターゲットに用いた場合にクラックが発生し難い。
第1および第2の態様において、LnはYb元素であるのが好ましい。Ybは天然の存在量がLnの中では多く、天然資源として豊富に存在するためである。
ガーネット化合物は、Ln、Ga、Alの酸化物を焼結することにより、得られる。
以上が、第2の実施形態に係るガーネット化合物の説明である。
【0194】
<酸化物焼結体>
次に、第2の実施形態に係る酸化物焼結体について、説明する。
第2の実施形態の第1の態様に係る酸化物焼結体は、
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されるガーネット結晶相を含むことを特徴とする。
【0195】
第2の実施形態の第2の態様に係る酸化物焼結体は、
In元素、Ga元素、Al元素およびLn元素を含み、格子定数が、11.93×10-10m以上、12.20×10-10m以下のガーネット結晶相を含むことを特徴とする。
(ただし、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0196】
第1および第2の態様の条件を満たすことにより、酸化物焼結体をターゲットに用いた場合に、スパッタリングの際にクラックが発生し難い。
第2の実施形態の第1および第2の態様ではLnが、Yb元素であるのが好ましい。理由は第1および第2の態様のガーネット化合物と同様である。
【0197】
第2の実施形態の第3の態様に係る酸化物焼結体は、
一般式(I):
Ln3(Ga5-XAlX)O12 (I)
(式中、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。Xは、0<X<5である。)で表されるガーネット結晶相と、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む。
【0198】
第2の実施形態の第4の態様に係る酸化物焼結体は、
In元素、Ga元素、Al元素およびLn元素を含み、格子定数が、11.93×10-10m以上、12.20×10-10m以下であるガーネット結晶相、およびIn2O3で表されるビックスバイト結晶相を含むことを特徴とする。
(ただし、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0199】
ガーネット結晶層を含むことにより、酸化物焼結体をターゲットに用いた場合に、スパッタリングの際にクラックが発生し難い。
焼結体がビックスバイト結晶相を含むことにより、当該焼結体をターゲットとしてスパッタリングにより生成された酸化物半導体薄膜の膜密度が向上する。
第2の実施形態の第3および第4の態様ではLnが、Yb元素であるのが好ましい。理由は第1および第2の態様のガーネット化合物と同様である。
【0200】
ガーネット化合物を含む酸化物焼結体は、Ln、Ga、Alの酸化物を焼結することにより、得られる。
得られるガーネット化合物の結晶相は、焼結原料の組成により変化する。
【0201】
例えば、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび、酸化ランタノイドとして酸化イッテルビウムを原料とした場合、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、Yb3Ga5O12結晶相およびまたはYb3Al5O12結晶相と異なるガーネット結晶相が出現し、ガーネット結晶相は、一般式
Yb3(Ga5-XAlX)O12 (I‘)
(式中 Xは、0<X<5である。)であるガーネット化合物を含む酸化物焼結体として得られる。
【0202】
第2の実施形態の第5の態様に係る酸化物焼結体は、
In元素、Ga元素、およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-1)から(2-3)を満たす。
0.75≦In/(In+Ga+Ln)≦0.96・・・(2-1)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln)≦0.10・・・(2-2)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln)≦0.15・・・(2-3)
(式中、In、Ga、Lnは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Ga元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0203】
式(2-1)から(2-3)を満たす範囲でIn、Ga、およびLnを含有することにより、この焼結体をターゲットとして製造した酸化物半導体薄膜が、高移動度で、CVD等での特性変化の小さい半導体薄膜になる。
【0204】
好ましくは、各元素の原子比が下記の式(2-1A)から(2-3A)を満たす。
0.80≦In/(In+Ga+Ln)≦0.96・・・(2-1A)
0.05≦Ga/(In+Ga+Ln)≦0.08・・・(2-2A)
0.03≦Ln/(In+Ga+Ln)≦0.15・・・(2-3A)
【0205】
第5の態様に係る酸化物焼結体は、酸化物焼結体がYb3Ga5O12で表されるガーネット結晶相、および、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含むことが好ましい。
ガーネット結晶相を含むことにより、酸化物焼結体をターゲットに用いた場合に、スパッタリングの際にクラックが発生し難い。
ビックスバイト結晶相を含むことにより、当該焼結体をターゲットとしてスパッタリングにより生成された酸化物半導体薄膜の膜密度が向上する。
【0206】
第2の実施形態の第6の態様に係る酸化物焼結体は、
In元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-4)から(2-7)を満たす。
0.70≦In/(In+Ga+Ln+Al)≦0.95・・・(2-4)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-5)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-6)
0.01≦Al/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-7)
(式中、In、Ga、Ln、Alは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0207】
式(2-4)から(2-6)を満たすことにより、この焼結体をターゲットとして製造した酸化物半導体薄膜が、高移動度で、CVD等での特性変化の小さい半導体薄膜になる。
式(2-7)を満たすことにより、焼結体のバルク抵抗を下げることができる。
【0208】
第6の態様に係る酸化物焼結体は、好ましくは、各元素の原子比が下記の式(2-4A)から(2-7A)を満たす。
0.76≦In/(In+Ga+Ln+Al)≦0.90・・・(2-4A)
0.05≦Ga/(In+Ga+Ln+Al)≦0.08・・・(2-5A)
0.03≦Ln/(In+Ga+Ln+Al)≦0.08・・・(2-6A)
0.02≦Al/(In+Ga+Ln+Al)≦0.08・・・(2-7A)
【0209】
第2の実施形態の第6の態様に係る酸化物焼結体は、Sn元素を100~10000ppm含んでもよい。
Sn元素を含むことにより、焼結体のバルク抵抗を低減でき、スパッタ中のプラズマによる加熱によるターゲットの割れを防止できる。
【0210】
第6の態様に係る酸化物焼結体は、好ましくは、一般式(I)で表されるガーネット結晶相、および、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む、
Ln3(Ga5-XAlX)O12・・・一般式(I)
(式中、Xは、0<X<5である。)
理由は第3または第4の態様の酸化物焼結体と同じである。
なお、第2の実施形態の酸化物焼結体の組成の測定方法は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
以上が、第2の実施形態に係る酸化物焼結体の説明である。
【0211】
次に、第2の実施形態の酸化物焼結体の製造方法について説明する。
第2の実施形態に係る酸化物焼結体が製造できるものであれば、製造方法は特に限定しないが、第1の実施形態と同様に、以下の(a)から(c)の工程を含む製法を例示できる。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程。
(b)混合物を成型して成型体を調製する工程。
(c)成型体を焼結する工程。
【0212】
(1)工程(a):配合工程
配合工程は、酸化物焼結体の原料を混合する工程である。
原料としては、In化合物の粉末、Ga化合物の粉末、Ln化合物の粉末、および必要に応じてAl化合物の粉末を用いる。化合物としては、例えば、酸化物、および水酸化物が挙げられる。焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、いずれも酸化物が好ましい。
なお、原料として酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化イッテルビウムを用いる場合、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含む酸化物焼結体として得られる。この場合、酸化ガリウムおよび酸化イッテルビウムは、In2O3で表されるビックスバイト結晶相に固溶している物と考えられる。酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化イッテルビウムにおいて、酸化ガリウム、酸化イッテルビウムの添加量を増量して行くと、Yb3Ga5O12で表されるガーネット結晶相を有する酸化物焼結体が得られる。
【0213】
原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2N以上であることにより、酸化物焼結体の耐久性が確保でき、液晶ディスプレイに用いた際に不純物が酸化物半導体膜中に偏析することや、不純物がゲート絶縁膜や層間絶縁膜中に入り、酸化物半導体が作動しなくなり焼き付けが起こる可能性を低減できる。
原料粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、2μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上、1.5μm以下である。原料粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布装置等で測定することができる。
【0214】
原料の混合、成型方法は特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。また、混合する際にはバインダーを原料混合物に添加してもよい。
原料の混合は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルまたは超音波装置等の公知の装置を用いて行うことができる。粉砕時間等の条件は、適宜調整すればよいが、6時間以上、100時間以下が好ましい。
【0215】
(2)工程(b):成型工程
成型工程は、原料混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成型して成型体とする工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成型する。仮焼工程を設けた場合には、得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、プレス成型により所望の形状に成型することができる。
【0216】
成型体の平均厚みは5.5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、8mm以上がさらに好ましく、12mm以上が特に好ましい。5.5mm以上だと、成型体の厚さ方向の温度勾配が減少し、表面と深部の結晶型の組合せの変動が生じにくくなることが期待できる。
【0217】
本工程で用いることができる成型処理としては、例えば、プレス成型(一軸プレス)、金型成型、鋳込み成型、および射出成型等も挙げられる。焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成型するのが好ましい。
【0218】
また、プレス成型(一軸プレス)後に、冷間静水圧(CIP)、または熱間静水圧(HIP)等で成型するように、2段階以上の成型工程を設けてもよい。
冷間静水圧、または静水圧加圧装置を用いる場合、面圧78.5MPa(800kgf/cm2をSI単位に換算)以上、392.4MPa(4000kgf/cm2をSI単位に換算)以下で0.5分以上、60分以下保持することが好ましい。面圧196.2MPa以上、294.3MPa以下で、2分以上、30分以下保持することがより好ましい。前記範囲内であると、成型体内部の組成むら等が減り、均一化されることが期待される。面圧を78.5MPa以上とすることによりで、焼結後の密度が低くなり、抵抗も低くなる。面圧392.4MPa以下とすることにより、装置を大型化せずに成型できる。保持時間が0.5分以上であると、焼結後の密度と抵抗が高くなるのを防止できる。60分以下であると時間が掛かりすぎ不経済となるのを防げる。
成型処理では、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成型助剤を用いてもよい。
【0219】
(3)工程(c):焼結工程
焼結工程は、上記成型工程で得られた成型体を焼成する必須の工程である。
焼結温度は好ましくは1200℃以上、1650℃以下、より好ましくは1350℃以上、1600℃以下、さらに好ましくは1400℃以上、1600℃以下、よりさらに好ましくは1450℃以上、1600℃以下である。
焼結時間は好ましくは10時間以上、50時間以下、より好ましくは12時間以上、40時間以下、さらに好ましくは13時間以上、30時間以下である。
焼結温度が1200℃以上、焼結時間が10時間以上であると、焼結が十分進行し、ターゲットの電気抵抗が十分下がり、異常放電が生じ難くなる。焼成温度が1650℃以下、焼成時間が50時間以下であると、著しい結晶粒成長により平均結晶粒径の増大や、粗大空孔の発生を防ぐことができ、焼結体強度の低下や異常放電が生じ難くなる。
【0220】
常圧焼結法では、成型体を大気雰囲気、または酸素ガス雰囲気にて焼結する。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば20体積%以上、80体積%以下の雰囲気であることが好ましい。昇温過程を酸素ガス雰囲気とすることで、焼結体密度を高くすることができる。
【0221】
さらに、焼結に際しての昇温速度は、800℃から焼結温度までを0.1℃/分以上、2℃/分以下とすることが好ましい。
第2の実施形態にかかる焼結体において800℃から上の温度範囲は、焼結が最も進行する範囲である。この温度範囲での昇温速度が0.1℃/分以上であると、過度な結晶粒成長を抑制でき、高密度化を達成できる。昇温速度が2℃/分以下であることにより、成型体に温度分布が生じ、焼結体が反ったり割れたりするのを抑制できる。
800℃から焼結温度における昇温速度は、好ましくは0.5℃/分以上、2.0℃/分以下、より好ましくは1.0℃/分以上、1.8℃/分以下である。
【0222】
<スパッタリングターゲット>
次に、第2の実施形態に係るスパッタリングターゲットについて説明する。
第2の実施形態に係るガーネット化合物、および当該ガーネット化合物を含む酸化物焼結体は、研削加工され、バッキングプレートに接合されてスパッタリングターゲットとして供される。このスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ法により酸化物半導体を成膜することができる。
【0223】
ターゲットの形状、構造は特に限定されないが、第1の実施形態と同様のもを例示できる。
図1の符号801に示すような板状でもよく、
図2の符号801Aに示すような円筒状でもよい。板状の場合、平面形状は、
図1(A)の符号1に示すような矩形でもよく、
図3の符号801Bに示すように円形でもよい。酸化物焼結体は一体成型でもよく、
図4に示すように、複数に分割した酸化物焼結体(符号801C)をバッキングプレート803に各々固定した多分割式でもよい。
バッキングプレート803は、酸化物焼結体の保持や冷却用の部材である。材料は銅等の熱伝導性に優れた材料が好ましい。
【0224】
スパッタリングターゲットは、第1の実施形態と同様に、例えば以下の工程で製造される。
(d)酸化物焼結体の表面を研削する工程。
(e)酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングする工程。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0225】
(4)工程(d):研削工程
研削(加工)工程は、焼結体を、スパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工する工程である。
焼結体表面は、高酸化状態の焼結部が存在したり、面が凸凹であることが多く、また、所定の寸法に切断加工する必要がある。
焼結体の表面は0.3mm以上研削するのが好ましい。研削する深さは、0.5mm以上研削するのが好ましく、2mm以上が特に好ましい。0.3mm以上研削することにより、表面付近の結晶構造の変動部分を除去できる。
【0226】
酸化物焼結体を例えば、平面研削盤で研削して平均表面粗さRaが5μm以下の素材とするのが好ましい。さらにスパッタリングターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが1000×10-10m以下としてもよい。鏡面加工(研磨)は、機械的な研磨、化学研磨、およびメカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、公知の研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液は水)で#2000番以上にポリッシングしてもよく、遊離砥粒ラップ(研磨材はSiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えて、ラッピングしてもよい。研磨方法はこれらの方法に限定されない。研磨材は、#200番、もしくは#400番、さらには#800番のものが挙げられる。
【0227】
研削工程後の酸化物焼結体は、エアーブローや流水洗浄等で清浄するのが好ましい。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。なお、エアーブローや流水洗浄では清浄力に限界があるので、さらに超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄は、周波数が25kHz以上、300kHz以下の間で、多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数が25kHz以上、300kHzの間で、25kHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて、超音波洗浄を行なうのが良い。
【0228】
(5)工程(e):ボンディング工程
工程(e)は、研削後の焼結体を、金属インジウムなどの低融点金属で、バッキングプレートにボンディングする工程である。
以上がスパッタリングターゲットの説明である。
【0229】
<酸化物半導体薄膜>
次に、第2の実施形態に係る酸化物半導体薄膜について説明する。
第2の実施形態の第1の態様の酸化物半導体薄膜は、In元素、Ga元素、およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-1)から(2-3)を満たす。
0.75≦In/(In+Ga+Ln)≦0.96・・・(2-1)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln)≦0.10・・・(2-2)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln)≦0.15・・・(2-3)
(式中、In、Ga、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Ga元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0230】
インジウム(In)元素は、酸化物半導体薄膜の移動度を担う元素である。式(2-1)の下限未満では、酸化インジウムが結晶化しない等の理由で、酸化物半導体薄膜の移動度の低下が起こる場合がある。上限を超えると、酸素欠損の量が増えすぎて、半導体化せず、導体になる場合がある。
【0231】
ガリウム(Ga)元素は、酸素欠損の発生を抑える効果と、酸化物半導体薄膜のバンドギギャップを大きくする効果がある。式(2-1)の下限未満では、酸素欠損を抑える効果が小さく半導体にならない場合があったり、結晶の格子定数がIn2O3で表されるビックスバイト結晶相の格子定数より小さくならなかったりする恐れがある。また、上限を超えると、酸素欠損がなくなり絶縁膜となる場合があったり、結晶化しなくなったり、TFTの移動度が小さくなったりする場合がある。
【0232】
Ln元素は、酸素欠損の発生を抑える効果があり、さらに酸化物半導体薄膜の耐CVD性を向上させる効果もあると考えられる。式(2-3)の下限未満では、その効果が充分に発現しない恐れがある。上限を超えると、効果が強くなり過ぎ、酸化物半導体薄膜が絶縁膜化する恐れがある。
【0233】
好ましくは、各元素の原子比が下記の式(2-1A)から(2-3A)を満たす。
0.80≦In/(In+Ga+Ln)≦0.96・・・(2-1A)
0.05≦Ga/(In+Ga+Ln)≦0.08・・・(2-2A)
0.03≦Ln/(In+Ga+Ln)≦0.15・・・(2-3A)
【0234】
第2の実施形態の第2の態様の酸化物半導体薄膜は、In元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-4)から(2-7)を満たす。
0.70≦In/(In+Ga+Ln+Al)≦0.95・・・(2-4)
0.03≦Ga/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-5)
0.01≦Ln/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-6)
0.01≦Al/(In+Ga+Ln+Al)≦0.10・・・(2-7)
(式中、In、Ga、Ln、Alは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Ga元素、Ln元素およびAl元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
In、Ga、Lnを添加する効果は、第1の態様と同様である。
【0235】
アルミニウム(Al)元素は、酸素欠損の発生を抑える効果と、酸化物半導体薄膜のバンドギャップを大きくする効果が有る。特にアルミニウムの添加により、絶縁膜形成時のCVD処理によるキャリヤーの増大を抑え、その後の熱処理で半導体特性を調整する場合に調整しやすくなる効果、具体的には、従来よりも低温の熱処理でもキャリヤー濃度を下げやすくなる効果がある。また、酸化アルミニウム自体は、酸素の拡散係数が低く、ベースの原料酸化物のみの場合よりも酸化インジウム内の酸素の拡散速度を小さくできると考えられる。CVD工程で酸化物半導体薄膜内の酸素欠損が増えてキャリヤー濃度が上がり、その酸素欠損をCVD工程の後の熱処理により酸素欠損を潰してキャリヤーを酸化物半導体の表面から低減する効果がある。これにより、ゲート絶縁膜近傍の酸化物半導体薄膜内部のチャネル部のキャリヤー濃度が高く保たれ、高移動度化を実現しているものと思われる。その効果を発現させるためには、式(2-7)の下限を満たす必要がある。また、式(2-7)の上限を超えると、酸素欠損がなくなり絶縁膜となる恐れがある。
【0236】
第2の態様の酸化物半導体薄膜は、Sn元素を100~10000ppm含んでもよい。酸化物半導体薄膜を形成するためのターゲットのバルク抵抗を下げることができるので、得られる酸化物半導体薄膜のキャリヤー濃度を一定に制御し易い。これにより、CVD処理やその後のアニール工程でTFT特性が影響を受けにくくなり、特性が安定した酸化物半導体薄膜が得られる。
【0237】
酸化物半導体薄膜中の各金属元素の含有量(原子比)は、第1の実施形態と同様に、各元素の存在量を測定することで求めることができる。ICP測定は誘導プラズマ発光分析装置を用いることができる。
第2の実施形態に係る酸化物半導体薄膜の製造条件は特に限定しないが、第1の実施形態と同様に、第2の実施形態に係る酸化物焼結体をターゲットとしてスパッタ法により製造するのが好ましい。
【0238】
<薄膜トランジスタ>
次に、第2の実施形態に係る薄膜トランジスタの構造について説明する。
第2の実施形態に係る薄膜トランジスタは、第2の実施形態に係る酸化物半導体薄膜を備え、トランジスタとして機能するものであれば、特に構造は限定しない。第2の実施形態の酸化物半導体薄膜を用いることによって、高性能な薄膜トランジスタが得られる。
詳細は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0239】
<薄膜トランジスタの用途>
第2の実施形態に係る薄膜トランジスタは、電界効果型トランジスタ、論理回路、メモリ回路、および差動増幅回路等の各種の集積回路にも適用でき、それらを電子機器等に適用することができる。さらに、本実施形態に係る薄膜トランジスタは、電界効果型トランジスタ以外にも静電誘起型トランジスタ、ショットキー障壁型トランジスタ、ショットキーダイオード、および抵抗素子にも適応できる。
第2の実施形態に係る薄膜トランジスタは、表示装置および固体撮像素子等に好適に用いることができる。
具体的な構造は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
<量子トンネル電界効果トランジスタ>
第2の実施形態に係る酸化物半導体薄膜は、量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)に用いることもできる。
具体的な構造は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
以上が第2の実施形態の説明である。
【0240】
次に、第3の実施形態について説明する。
まず、第3の実施形態の概要について、簡単に説明する。
特許文献3に記載のように、In元素およびSn元素を含む酸化物焼結体、および当該酸化物焼結体をターゲットとして製膜した酸化物半導体薄膜(ITO薄膜)は公知である。
これに対して、本出願人は、ITOに、さらにLn元素を添加した焼結体を試作した。その結果、Lnを添加しているにも関わらず、焼結体中にはLnの化合物が生成されなかった。さらに、In元素とSn元素も、各々が酸化物(In2O3とSnO2)を形成するのみであり、In元素とSn元素の両方を含む化合物は生成しなかった。
次に、この焼結体をターゲットとして酸化物半導体薄膜の成膜を行った所、クラックが発生しないことを見出し、本発明をするに至った。
以上が、第3の実施形態の概要である。
【0241】
次に、第3の実施形態に係る酸化物焼結体について、具体的に説明する。
第3の実施形態に係る酸化物焼結体は、In元素、Sn元素およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-8)から(2-10)を満たす。
0.55≦In/(In+Sn+Ln)≦0.90・・・(2-8)
0.05≦Sn/(In+Sn+Ln)≦0.25・・・(2-9)
0.05≦Ln/(In+Sn+Ln)≦0.20・・・(2-10)
(式中、In、Sn、Lnは、それぞれ酸化物焼結体中のIn元素、Sn元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
【0242】
式(2-8)から(2-10)を満たすことにより、成膜時にクラック等が発生し難い焼結体となる。
さらに、この焼結体をターゲットとして製造した酸化物半導体薄膜が、高移動度で、CVD等での特性変化の小さい半導体薄膜になる。
【0243】
第3の実施形態に係る酸化物焼結体は、好ましくは、各元素の原子比が下記の式(2-8A)から(2-10A)を満たす。
0.62≦In/(In+Sn+Ln)≦0.84・・・(2-8A)
0.08≦Sn/(In+Sn+Ln)≦0.23・・・(2-9A)
0.08≦Ln/(In+Sn+Ln)≦0.15・・・(2-10A)
【0244】
第3の実施形態に係る酸化物焼結体は、酸化物焼結体がSnO2で表されるルチル結晶相、および、In2O3で表されるビックスバイト結晶相を含むのが好ましい。
ルチル結晶相を含むことにより、焼結体のバルク抵抗を低減でき、スパッタ中のプラズマによる加熱によるターゲットの割れを防止することができる。
ビックスバイト結晶相を含むことにより、当該焼結体をターゲットとしてスパッタリングにより生成された酸化物半導体薄膜の膜密度が向上する。
【0245】
第3の実施形態に係る酸化物焼結体は、In、Sn、Lnの酸化物を焼結することにより得られる。
例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化イッテルビウムを原料として焼結すると、In2O3で表されるビックスバイト結晶相と、SnO2で表されるルチル結晶相を含む酸化物焼結体が得られる。
【0246】
次に、第3の実施形態の酸化物焼結体の製造方法について説明する。
第3の実施形態に係る酸化物焼結体が製造できるものであれば、製造方法は特に限定しないが、第1の実施形態と同様に、以下の(a)から(c)の工程を含む製法を例示できる。
(a)原料化合物粉末を混合して混合物を調製する工程。
(b)混合物を成型して成型体を調製する工程。
(c)成型体を焼結する工程。
【0247】
(1)工程(a):配合工程
配合工程は、酸化物焼結体の原料を混合する工程である。
原料としては、In化合物の粉末、化合物の粉末、Sn化合物の粉末、およびLn化合物の粉末を用いる。化合物としては、例えば、酸化物、および水酸化物が挙げられる。焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、いずれも酸化物が好ましい。
【0248】
原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2N以上であることにより、酸化物焼結体の耐久性が確保でき、液晶ディスプレイに用いた際に不純物が酸化物半導体膜中に偏析することや、不純物がゲート絶縁膜や層間絶縁膜中に入り、酸化物半導体が作動しなくなり焼き付けが起こる可能性を低減できる。
原料粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、2μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上、1.5μm以下である。原料粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布装置等で測定することができる。
【0249】
原料の混合、成型方法は特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。また、混合する際にはバインダーを原料混合物に添加してもよい。
原料の混合は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルまたは超音波装置等の公知の装置を用いて行うことができる。粉砕時間等の条件は、適宜調整すればよいが、6時間以上、100時間以下が好ましい。
【0250】
(2)工程(b):成型工程
成型工程は、原料混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成型して成型体とする工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成型する。仮焼工程を設けた場合には、得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、プレス成型により所望の形状に成型することができる。
【0251】
成型体の平均厚みは5.5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、8mm以上がさらに好ましく、12mm以上が特に好ましい。5.5mm以上だと、成型体の厚さ方向の温度勾配が減少し、表面と深部の結晶型の組合せの変動が生じにくくなることが期待できる。
【0252】
本工程で用いることができる成型処理としては、例えば、プレス成型(一軸プレス)、金型成型、鋳込み成型、および射出成型等も挙げられる。焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成型するのが好ましい。
【0253】
また、プレス成型(一軸プレス)後に、冷間静水圧(CIP)、または熱間静水圧(HIP)等で成型するように、2段階以上の成型工程を設けてもよい。
冷間静水圧、または静水圧加圧装置を用いる場合、面圧78.5MPa(800kgf/cm2をSI単位に換算)以上、392.4MPa(4000kgf/cm2をSI単位に換算)以下で0.5分以上、60分以下保持することが好ましい。面圧196.2MPa以上、294.3MPa以下で、2分以上、30分以下保持することがより好ましい。前記範囲内であると、成型体内部の組成むら等が減り、均一化されることが期待される。面圧を78.5MPa以上とすることによりで、焼結後の密度が低くなり、抵抗も低くなる。面圧392.4MPa以下とすることにより、装置を大型化せずに成型できる。保持時間が0.5分以上であると、焼結後の密度と抵抗が高くなるのを防止できる。60分以下であると時間が掛かりすぎ不経済となるのを防げる。
成型処理では、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成型助剤を用いてもよい。
【0254】
(3)工程(c):焼結工程
焼結工程は、上記成型工程で得られた成型体を焼成する必須の工程である。
焼結温度は好ましくは1200℃以上、1650℃以下、より好ましくは1350℃以上、1600℃以下、さらに好ましくは1400℃以上、1600℃以下、よりさらに好ましくは1450℃以上、1600℃以下である。
焼結時間は好ましくは10時間以上、50時間以下、より好ましくは12時間以上、40時間以下、さらに好ましくは13時間以上、30時間以下である。
焼結温度が1200℃以上、焼結時間が10時間以上であると、焼結が十分進行し、ターゲットの電気抵抗が十分下がり、異常放電が生じ難くなる。焼成温度が1650℃以下、焼成時間が50時間以下であると、著しい結晶粒成長により平均結晶粒径の増大や、粗大空孔の発生を防ぐことができ、焼結体強度の低下や異常放電が生じ難くなる。
【0255】
常圧焼結法では、成型体を大気雰囲気、または酸素ガス雰囲気にて焼結する。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば20体積%以上、80体積%以下の雰囲気であることが好ましい。昇温過程を酸素ガス雰囲気とすることで、焼結体密度を高くすることができる。
【0256】
さらに、焼結に際しての昇温速度は、800℃から焼結温度までを0.1℃/分以上、2℃/分以下とすることが好ましい。
第3の実施形態にかかる焼結体において800℃から上の温度範囲は、焼結が最も進行する範囲である。この温度範囲での昇温速度が0.1℃/分以上であると、過度な結晶粒成長を抑制でき、高密度化を達成できる。昇温速度が2℃/分以下であることにより、成型体に温度分布が生じ、焼結体が反ったり割れたりするのを抑制できる。
800℃から焼結温度における昇温速度は、好ましくは0.5℃/分以上、2.0℃/分以下、より好ましくは1.0℃/分以上、1.8℃/分以下である。
なお、第3の実施形態の酸化物焼結体の組成の測定方法は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0257】
<スパッタリングターゲット>
次に、第3の実施形態に係るスパッタリングターゲットについて説明する。
第3の実施形態に係るガーネット化合物、および当該ガーネット化合物を含む酸化物焼結体は、研削加工され、バッキングプレートに接合されてスパッタリングターゲットとして供される。このスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ法により酸化物半導体を成膜することができる。
【0258】
ターゲットの形状、構造は特に限定されないが、第1の実施形態と同様のもを例示できる。
図1の符号801に示すような板状でもよく、
図2の符号801Aに示すような円筒状でもよい。板状の場合、平面形状は、
図1(A)の符号1に示すような矩形でもよく、
図3の符号801Bに示すように円形でもよい。酸化物焼結体は一体成型でもよく、
図4に示すように、複数に分割した酸化物焼結体(符号801C)をバッキングプレート803に各々固定した多分割式でもよい。
バッキングプレート803は、酸化物焼結体の保持や冷却用の部材である。材料は銅等の熱伝導性に優れた材料が好ましい。
【0259】
スパッタリングターゲットは、第1の実施形態と同様に、例えば以下の工程で製造される。
(d)酸化物焼結体の表面を研削する工程。
(e)酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングする工程。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0260】
(4)工程(d):研削工程
研削(加工)工程は、焼結体を、スパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工する工程である。
焼結体表面は、高酸化状態の焼結部が存在したり、面が凸凹であることが多く、また、所定の寸法に切断加工する必要がある。
焼結体の表面は0.3mm以上研削するのが好ましい。研削する深さは、0.5mm以上研削するのが好ましく、2mm以上が特に好ましい。0.3mm以上研削することにより、表面付近の結晶構造の変動部分を除去できる。
【0261】
酸化物焼結体を例えば、平面研削盤で研削して平均表面粗さRaが5μm以下の素材とするのが好ましい。さらにスパッタリングターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが1000×10-10m以下としてもよい。鏡面加工(研磨)は、機械的な研磨、化学研磨、およびメカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、公知の研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液は水)で#2000番以上にポリッシングしてもよく、遊離砥粒ラップ(研磨材はSiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えて、ラッピングしてもよい。研磨方法はこれらの方法に限定されない。研磨材は、#200番、もしくは#400番、さらには#800番のものが挙げられる。
【0262】
研削工程後の酸化物焼結体は、エアーブローや流水洗浄等で清浄するのが好ましい。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。なお、エアーブローや流水洗浄では清浄力に限界があるので、さらに超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄は、周波数が25kHz以上、300kHz以下の間で、多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数が25kHz以上、300kHzの間で、25kHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて、超音波洗浄を行なうのが良い。
【0263】
(5)工程(e):ボンディング工程
工程(e)は、研削後の焼結体を、金属インジウムなどの低融点金属で、バッキングプレートにボンディングする工程である。
以上がスパッタリングターゲットの説明である。
以上が、第3の実施形態に係る酸化物焼結体の説明である。
【0264】
次に、第3の実施形態に係る酸化物半導体薄膜について、説明する。
第3の実施形態に係る酸化物半導体薄膜は、In元素、Sn元素およびLn元素を含み、各元素の原子比が下記の式(2-8)から(2-10)を満たす。
0.55≦In/(In+Sn+Ln)≦0.90・・・(2-8)
0.05≦Sn/(In+Sn+Ln)≦0.25・・・(2-9)
0.05≦Ln/(In+Sn+Ln)≦0.20・・・(2-10)
(式中、In、Sn、Lnは、それぞれ酸化物半導体薄膜中のIn元素、Sn元素およびLn元素の原子数を示す。また、Lnは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた一種以上の金属元素を表す。)
In、Lnを添加する効果は第1の態様と同様である。
【0265】
Snは、酸化物半導体薄膜の耐薬品性を向上させる効果を有する。その効果を得るためには式(2-10)の下限を満たす必要がある。また、上限を満たすことにより、エッチングによる半導体薄膜のアイランド形成ができる。
【0266】
酸化物半導体薄膜中の各金属元素の含有量(原子比)は、第1の実施形態と同様に、各元素の存在量を測定することで求めることができる。ICP測定は誘導プラズマ発光分析装置を用いることができる。
第3の実施形態に係る酸化物半導体薄膜の製造条件は特に限定しないが、第1の実施形態と同様に、第3の実施形態に係る酸化物焼結体をターゲットとしてスパッタ法により製造するのが好ましい。
【0267】
<薄膜トランジスタ>
次に、第3の実施形態に係る薄膜トランジスタの構造について説明する。
第3の実施形態に係る薄膜トランジスタは、第3の実施形態に係る酸化物半導体薄膜を備え、トランジスタとして機能するものであれば、特に構造は限定しない。第3の実施形態の酸化物半導体薄膜を用いることによって、高性能な薄膜トランジスタが得られる。
詳細は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
<薄膜トランジスタの用途>
第3の実施形態に係る薄膜トランジスタは、電界効果型トランジスタ、論理回路、メモリ回路、および差動増幅回路等の各種の集積回路にも適用でき、それらを電子機器等に適用することができる。さらに、本実施形態に係る薄膜トランジスタは、電界効果型トランジスタ以外にも静電誘起型トランジスタ、ショットキー障壁型トランジスタ、ショットキーダイオード、および抵抗素子にも適応できる。
第3の実施形態に係る薄膜トランジスタは、表示装置および固体撮像素子等に好適に用いることができる。
具体的な構造は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
<量子トンネル電界効果トランジスタ>
第3の実施形態に係る酸化物半導体薄膜は、量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)に用いることもできる。
具体的な構造は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
以上が第3の実施形態に係る酸化物半導体薄膜の説明である。
【0268】
次に、第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態は、亜鉛を含有しない酸化物半導体を用いたイメージセンサーである。
まず、第4の実施形態の背景を説明する。
イメージセンサーは、1つの固体撮像素子ごとに複数の薄膜トランジスタを配置する構造である。そのため、イメージセンサーの高感度化および省電力化のためには、薄膜トランジスタのリーク電流がなるべく少ないことが求められる。
酸化物半導体において、リーク電流を少なくするためには、特許文献2から特許文献5に記載のように、亜鉛の添加が効果的である。
しかしながら、亜鉛はシリコン中に拡散しやすい性質を持っている。そのため、亜鉛を含む酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタでイメージセンサーを構成すると、亜鉛の拡散により、他の薄膜トランジスタが汚染され、所望の特性が得られなくなる可能性があった。
第4の実施形態は上記課題に鑑みてなされたものであり、亜鉛を含有しなくてもリーク電流が少ない酸化物半導体を用いたイメージセンサーを提供することを目的とする。
まず、
図18から
図23を参照して、第4の実施形態に係るイメージセンサーの単位セルの等価回路の構成について、簡単に説明する。なお、本明細書で説明する各図において、各構成要素や領域の大きさ、および層の厚さ等は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
第4の実施形態では、イメージセンサーとして、CMOSイメージセンサーを説明する。以下の説明では、CMOSイメージセンサーを、単に「イメージセンサー」と称して説明することがある。
【0269】
[イメージセンサー]
図18および
図19に示すように、イメージセンサーの単位セル100は、フォトダイオード10と、フォトダイオード10にソース電極3が電気的に接続された転送トランジスタ1を備える。転送トランジスタ1のドレイン電極4に電気的に接続された信号電荷蓄積部15と、転送トランジスタ1および信号電荷蓄積部15に電気的に接続されたゲート電極34を備える増幅トランジスタ30も備える。さらに、ドレイン電極23、および信号電荷蓄積部15に電気的に接続されたソース電極22を備えるリセットトランジスタ20も備える。
転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20はn型であり、増幅トランジスタ30はp型である。
転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20は
図19および
図20に示す構成であり、チャネル形成領域は、特定の元素を含む酸化物半導体薄膜2、21を含む。この酸化物半導体薄膜2、21の詳細については後述する。
また、第4の実施形態では、増幅率をより向上させる観点から、増幅トランジスタ30として、チャネル形成領域に単結晶シリコン半導体を用いたバルクトランジスタを適用するのが好ましい。
なお、以下の説明では、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20を特に区別しないときは、これらを総称して「薄膜トランジスタ」と称することがある。また、増幅トランジスタ30を「バルクトランジスタ」と称することがある。
図18では1つの単位セル100のみを図示しているが、イメージセンサーは、複数の単位セル100がマトリクス状に配置されている。
イメージセンサは、信号電荷蓄積部15に電位を保持し、その電位を増幅トランジスタ30を介して垂直出力線3120に出力する固体撮像素子である。
【0270】
フォトダイオード10は、光電変換素子である。
図19に示すフォトダイオード10は無機ダイオードであり、所謂埋込み型フォトダイオードである。フォトダイオード10は、単結晶シリコン基板200の表面に不純物をドーピングして、n型領域12とp型領域11とを順に形成することにより、設けられる。フォトダイオード10は、表面にp型領域11を形成することで、表面で電荷が発生するので暗電流、すなわちノイズを低減し易い構造となっている。また、フォトダイオードに酸化物半導体薄膜2、21と同じ材料の酸化物半導体薄膜を用いても良く、転送トランジスタ1、リセットトランジスタ20に用いられる酸化物半導体薄膜と同じ材料を用いてよい。
フォトダイオードが有機ダイオードの場合、詳細は変形例として後述するが、
図21に示すように、例えばフォトダイオード110は、単結晶シリコン基板200上に、コンタクト金属層113と、n型有機半導体領域112と、p型有機半導体領域111とをこの順に形成することにより、設けられる。
フォトダイオード10は、光が照射されないときは、
図22のAに示すように、通常のダイオードと同じ電圧電流特性を示す。光が照射されると、特に逆バイアス印加時において、
図22のBに示すように、光照射なしに比較して大きな電流が流れる。
【0271】
転送トランジスタ1は、フォトダイオード10と信号電荷蓄積部15との間の電流のオン/オフのためのn型トランジスタである。
図20に示すように、転送トランジスタ1は、酸化物半導体薄膜2、ソース電極3、ドレイン電極4、およびゲート電極5を備える。
酸化物半導体薄膜2はチャネル領域であり、単結晶シリコン基板200上にゲート絶縁膜32を介して設けられる。
ソース電極3およびドレイン電極4は、酸化物半導体薄膜2を面方向に挟むように、酸化物半導体薄膜2の両端に電気的に接続された電極である。ソース電極3またはドレイン電極4の一方が、フォトダイオード10に電気的に接続される。ここではフォトダイオード10の出力部(p型領域)にソース電極3が電気的に接続される。
ゲート電極5は、ゲート絶縁膜6を介して酸化物半導体薄膜2の上方(単結晶シリコン基板200とは反対側)に設けられた電極である。
【0272】
信号電荷蓄積部15は、フォトダイオード10の電荷を一時的に蓄積する容量成分であり、ゲート絶縁膜32を誘電体として容量を形成している。信号電荷蓄積部15は、ソース電極3またはドレイン電極4の他方(フォトダイオード10に接続されていない方)に、電気的に接続される。ここでは、転送トランジスタ1のドレイン電極4に電気的に接続される。
図19では、転送トランジスタ1のドレイン電極4が、リセットトランジスタ20のソース電極22を兼ねており、信号電荷蓄積部15はドレイン電極4の下方に形成されている。
【0273】
増幅トランジスタ30は、フォトダイオード10から流れる電流を増幅する素子であり、n型領域31A、31B、ソース電極33A、ドレイン電極33B、およびゲート電極34を備えるバルクトランジスタである。
n型領域31A、31Bは、単結晶シリコン基板200の表面に不純物をドーピングすることにより形成された領域であり、互いに単結晶シリコン基板200の面方向に離間するように設けられる。第4の実施形態では、単結晶シリコン基板200として、p型単結晶シリコン基板を用いるため、n型領域31Aとn型領域31Bで挟まれた領域はp型領域である。よって、増幅トランジスタはp型のトランジスタである。
ソース電極33A、ドレイン電極33Bは、n型領域31A、31Bにそれぞれゲート絶縁膜32を貫通するように接続される。
ゲート電極34は、n型領域31Aとn型領域31Bとで挟まれた領域の上方(単結晶シリコン基板200とは反対側)に設けられた電極であり、ここではゲート絶縁膜32上に設けられる。ゲート電極34は、転送トランジスタ1のソース電極3またはドレイン電極4の他方(フォトダイオード10に接続されていない方)、ここではドレイン電極4、および信号電荷蓄積部15に電気的に接続される。ゲート電極34上にはゲート絶縁膜6が設けられる。また、増幅トランジスタ30は、単結晶シリコン基板200上に設けられた絶縁領域40で囲まれており、この絶縁領域40によって他の素子と電気的に絶縁される。
増幅トランジスタ30のソース電極33Aは垂直出力線3120に接続される(
図1参照)。ドレイン電極33Bは電源端子VDDに接続される。ゲート電極34は図示しない転送スイッチ線に接続され、読み出しパルスが入力される。
【0274】
リセットトランジスタ20は、信号電荷蓄積部15の電荷をリセットするn型のトランジスタであり、酸化物半導体薄膜21、ソース電極22、ドレイン電極23、およびゲート電極24を備える。
酸化物半導体薄膜21、ソース電極22、ドレイン電極23、およびゲート電極24の配置および機能は、酸化物半導体薄膜2、ソース電極3、ドレイン電極4、およびゲート電極5と同様であるため、説明を省略する。
ソース電極22は信号電荷蓄積部15に接続される。ここでは、ソース電極22は転送トランジスタ1のドレイン電極4を兼ねている。
ドレイン電極23は配線25を介してリセット電源線3110に接続される(
図18参照)。ゲート電極24は図示しないリセット線に接続され、リセットパルスが入力される。
また、転送トランジスタ1、リセットトランジスタ20、および増幅トランジスタ30は絶縁膜41で覆われる。
以上が、第4の実施形態に係るイメージセンサーの単位セル100の等価回路の構成の説明である。
【0275】
次に、
図18、
図22、および
図23を参照して単位セル100の動作について説明する。
まず、
図18および
図22、および
図23を参照して、単位セルから垂直信号線に信号が出力される動作を説明する。
【0276】
まず、電源端子VDDに電源電圧が供給される。続いて、リセットトランジスタ20(
図18および
図23中、RST)のゲート電極24にリセットパルスが入力され、リセットトランジスタ20がオンする。信号電荷蓄積部15(
図18および
図23中、FD)はリセット電源の電位に充電される。
【0277】
その後、リセットトランジスタ20はオフになり、信号電荷蓄積部15はリセット電源の電位に保持される(
図23の期間T1)。期間T1において、リセットトランジスタ20および転送トランジスタ1(
図18および
図23中、TRF)にリーク電流がほとんど流れなければ、次の転送トランジスタ1の動作まで電位は保持される。
【0278】
次に、転送トランジスタ1がオンすると、信号電荷蓄積部15から電流がフォトダイオードに流れて、信号電荷蓄積部15の電位が低下する(期間T2)。転送トランジスタ1がオフすると、オフした時点での電位が信号電荷蓄積部15に保持される(期間T3)。期間T3において、リセットトランジスタ20および転送トランジスタ1にリーク電流がほとんど流れなければ、次のリセットトランジスタ20の動作まで電位が保持される。期間T3において、電位の低下により増幅トランジスタ30がオンになり、垂直出力線3120に電位が出力される。その後、電源端子VDDへの電源電圧の供給が遮断される。
【0279】
垂直出力線3120に出力される信号の電位は、フォトダイオード10に照射された光の強度と照射時間によって異なる。そのため、単位セル100は、フォトダイオード10に入射する光の強度を電気信号として出力できる。
【0280】
次に、フォトダイオード10に光が照射された場合の単位セル100の動作について
図22および
図23を用いて説明する。
【0281】
まず、転送トランジスタ1がオフの状態でフォトダイオード10に光が照射されると、フォトダイオード10に電流経路がないため、フォトダイオード10の出力部の電位は
図5のc点における値となる。
【0282】
図23の期間T0にリセットトランジスタ20がオンし、期間T1に示すように、信号電荷蓄積部15がリセット電源電位Vresに保持されたあと、期間T2で転送トランジスタ1がオンすると、フォトダイオード10の出力部の電位はリセット電源電位となり、フォトダイオードのカソードの出力部の電位は
図22のd点に移動する。
【0283】
信号電荷蓄積部15から転送トランジスタ1を介して、放電電流がフォトダイオード10に流れると、信号電荷蓄積部15の電位が低下する。期間T3で転送トランジスタ1がオフしたところで、放電は止まる。期間T3でのフォトダイオード10の出力部の電位をe点とすると、d点とe点の間の電位差が、フォトダイオード10に光が照射されたことにより生じた電位差になり、光の強度に対応する。
【0284】
このように、単位セル100の動作においては、期間T1およびT3のように、一定の電位を保持する期間が存在する。
そのため、リセットトランジスタ20および転送トランジスタ1のチャネル領域にオフ電流の低い酸化物半導体薄膜21、2を用いれば、信号電荷蓄積部15からチャネル領域を介したリーク電流を少なくでき、期間T1およびT3の保持期間中に極めて高い電位保持機能を作用させることができる。これにより、単位セル100の高感度化および省電力化が実現できる。
【0285】
<酸化物半導体薄膜>
次に、第4の実施形態に係るイメージセンサーに用いられる、特定の元素を含む酸化物半導体薄膜2、21の構成について説明する。
酸化物半導体薄膜2、21は、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域(半導体層)として用いられる。
まず、酸化物半導体薄膜2、21の好ましい特性について説明する。
【0286】
酸化物半導体薄膜2、21のキャリヤー密度は、1.0×1016cm-3以下が好ましく、1.0×1015cm-3以下がより好ましい。キャリヤー密度の下限は、好ましくは1.0×1014cm-3以上である。
キャリヤー密度を上記範囲にすると、薄膜トランジスタのキャリヤー移動度が高くなる。これにより、光照射時の安定性、熱に対する安定性が高くなり、TFTが安定して作動するようになる。
キャリヤー密度はホール効果測定方法により測定することができる。
【0287】
薄膜トランジスタの飽和移動度は、1.0cm2/V・s以上、50.0cm2/V・s以下が好ましい。
飽和移動度が1.0cm2/V・s以上であると、薄膜トランジスタを安定して駆動でき、イメージセンサーの感度・データの取り込み速度を上げることができる。
飽和移動度が50.0cm2/V・s以下であると、容易にオフ電流を10-12A以下にでき、また、オンオフ比(on-off比)を108以上に設定することができる。これにより、薄膜トランジスタを安定して駆動でき、イメージセンサーの感度・データの取り込み速度を上げることができ、さらに、データの保存時間も長くできることから、イメージセンサーの性能向上を図ることができる。
【0288】
飽和移動度は、ドレイン電圧を20Vに設定した場合の伝達特性から求められる。具体的に、伝達特性Id-Vgのグラフを作成し、各Vgのトランスコンダクタンス(Gm)を算出し、飽和領域の式により飽和移動度を求める。Idはソース・ドレイン電極間の電流、Vgはソース・ドレイン電極間に電圧Vdを印加したときのゲート電圧である。
【0289】
閾値電圧(Vth)は、-3.0V以上、+3.0以下が好ましく、-2.5以上、+2.5V以下がより好ましい。閾値電圧が-3.0V以上、+3.0以下であると、オフ電流が小さく、オンオフ比の大きな薄膜トランジスタができる。
【0290】
閾値電圧(Vth)は、伝達特性のグラフよりId=10-9AでのVgと定義する。
on-off比は106以上、1012以下が好ましく、107以上、1011以下がより好ましく、108以上、1010以下がさらに好ましい。
on-off比が106以上であると、液晶ディスプレイの駆動ができる。
on-off比が1012以下であると、コントラストの大きな有機ELの駆動ができる。また、on-off比が1012以下であると、画像の保持時間を長くしたり、イメージセンサーの感度を向上させたりすることができる。
【0291】
on-off比は、Vg=-10VのIdの値をOff電流値とし、Vg=20VのIdの値をOn電流値として比[On/Off]を決めることにより、求められる。
Off電流値は、10-11A以下が好ましく、10-12A以下がより好ましい。
Off電流値が10-11A以下であると、画像の保持時間を長くしたり、イメージセンサーの感度を向上させたりすることができる。
【0292】
酸化物半導体薄膜2,21のバンドギャップは、好ましくは3.0eV以上、より好ましくは3.2eV以上、さらに好ましくは3.4eV以上である。
バンドギャップは、分光光度計 UV-3100PC(島津製作所)を用いて以下の方法により測定することができる。
ガラス基板上に酸化物半導体薄膜を成膜してバンドギャップ測定用のサンプルを準備する。このサンプルを加熱処理して透過スペクトルを測定し、横軸の波長をエネルギー(eV)に、縦軸の透過率を以下の式に変換する。
式:透過率=(αhν)2
ここで、α、h、νは以下の通りである。
α:吸収係数
h:プランク定数
ν:振動数
変換したグラフにおいて、吸収が立ち上がる部分にフィッティングし、グラフがベースラインと交わるところのエネルギー値(eV)を、バンドギャップとして算出する。
【0293】
薄膜トランジスタのリーク電流は、好ましくは1×10-11A以下であり、より好ましくは1×10-12A以下であり、さらに好ましくは9×10-13A以下である。
ここでいうリーク電流とは、L/Wを200/1000とした素子(チャネル長:L[μm]、チャネル幅:W[μm])でのリーク電流をいう。
【0294】
次に、酸化物半導体薄膜2、21の組成について説明する。
第4の実施形態における酸化物半導体薄膜2、21は、In元素(インジウム)、Sn元素(スズ)、およびGa元素(ガリウム)から選ばれた1種以上の導電性酸化物と、Al元素(アルミニウム)、Y元素(イットリウム)、ランタノイド元素Lnから選ばれた1種以上の酸化物を含む。
ここで、ランタノイド元素Lnとは、ランタノイド元素(原子番号51から71、すなわちランタンからルテチウムまでの15の元素)から選ばれる少なくとも1種の元素をいう。
【0295】
インジウム元素は、酸化物半導体薄膜の移動度を担う効果を有する。
スズは、耐薬品性を有する。また、導電膜にも使用されることから、酸化物半導体薄膜の移動度に影響を及ぼすことは少なく、高価なインジウムの添加量を減らす効果も有する。
ガリウム元素は、酸化インジウムの結晶化を抑えたり、酸素欠損の発生を抑える効果と、得られる酸化物半導体薄膜のバンドギャップを大きくする効果を有する。
アルミニウム元素、イットリウム元素、およびランタノイド元素は、酸素との結合力が大きく、酸素欠損によるキャリヤー発生を抑える効果が有り、TFT製造工程での様々な熱負荷、CVD成膜での還元負荷等による酸素欠損が発生することに起因するキャリヤー密度の増加を抑える込む効果を有する。
また、アルミニウム元素およびランタノイド元素は、酸化物半導体薄膜を非晶質化する作用も有する。
したがって、上記の元素(In、Sn、Ga、Al、Y、およびLn)を選択することで、真性または実質的に真性な半導体となり、半導体特性(キャリヤー密度、飽和移動度、閾値電圧、on-off比、バンドギャップ、およびリーク電流の少なくとも1以上、以下同様である。)を、前述の好ましい範囲に調整し易い。これにより、酸化物半導体薄膜2、21を、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域に用いることで、リーク電流が少ない酸化物半導体を用いたイメージセンサーが実現される。
【0296】
酸化物半導体薄膜2、21は、当該酸化物半導体薄膜2、21とほぼ同じ原子組成比を有するスパッタリングターゲットをスパッタすることによって得られる。酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットをスパッタして形成された薄膜の原子組成比は、用いたスパッタリングターゲットの原子組成比とほぼ一致する。
酸化物半導体薄膜2、21を形成するための酸化物焼結体は、例えば、酸化インジウム、酸化ガリウム、および酸化スズをベースの原料とし、この原料に酸化アルミニウム、酸化イットリウム、およびランタノイドを添加して焼成することによって得られる。
なお、酸化物半導体薄膜は、上記以外の元素を含んでもよい。その場合、上記以外の元素を含む酸化物をベースの原料に添加し、あとは上記と同様の方法で酸化物半導体薄膜を得ることができる。なお、上記以外の元素には不可避不純物も含まれる。不可避不純物とは、意図的に添加しない元素であって、原料や製造工程で混入する元素を意味する。
不可避不純物の例としては、上述の通りである。
【0297】
酸化物半導体薄膜中の各金属元素の含有量(原子比)は、ICP(Inductive Coupled Plasma)測定またはXRF(X-rayFluorescence)測定により、各元素の存在量を測定することで求めることができる。ICP測定は誘導プラズマ発光分析装置を用いることができる。XRF測定は薄膜蛍光X線分析装置(AZX400、リガク社製)を用いることができる。
また、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS分析を用いても誘導プラズマ発光分析と同等の精度で酸化物半導体薄膜中の各金属元素の含有量(原子比)を分析できる。誘導プラズマ発光分析装置または薄膜蛍光X線分析装置で測定した金属元素の原子比が既知の標準酸化物薄膜の上面に、ソース・ドレイン電極をTFT素子と同様の材料をチャネル長で形成したものを標準材料とし、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS(IMS 7f-Auto、AMETEK社製)により酸化物半導体層の分析を行い各元素の質量スペクトル強度を得、既知の元素濃度と質量スペクトル強度の検量線を作製する。次に、実TFT素子の酸化物半導体薄膜部分を、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS分析によるスペクトル強度から、前述の検量線を用いて、原子比を算出すると、算出された原子比は、別途薄膜蛍光X線分析装置または誘導プラズマ発光分析装置で測定された酸化物半導体薄膜の原子比の2原子%以内であることが確認できる。
【0298】
また、酸化物半導体薄膜に含まれる各元素の原子組成比は、酸化物半導体薄膜を形成する際に使用するスパッタリングターゲットの各元素の存在量を調整することで制御できる。
【0299】
酸化物半導体薄膜2、21は、Zn元素を含まないことが好ましい。
これは、Zn元素はイオン半径が小さく、高温で熱処理する場合やスパッタリン法で成膜する場合に、他の薄膜トランジスタ内に拡散し、特性を変化させる場合があるためである。Zn元素を含まないことにより、Zn元素が拡散して他の薄膜トランジスタの特性を変化させることを防止できる。
【0300】
酸化物半導体薄膜2、21は、非晶質でもよく、結晶質でもよい。
非晶質とは、X線回折でハローパターンが観測され特定の回折線を示さないものをいう。結晶質とは、X線回折により結晶ピークを確認できるものをいう。具体的には、XRDで、2θで30°以上、40°以下にピークが現れるものをいう。
酸化物半導体薄膜2、21が非晶質であることにより、表面平滑性に優れた酸化物半導体薄膜が得られる。特に非晶質膜は、蓚酸などの弱酸のエッチング液でパターンニングできるので、配線金属を溶解したり、劣化させたりすることがない点で有用である。
また、酸化物半導体薄膜2、21が非晶質であることにより、200℃以下の低温アニールでもTFT特性を発現することも可能であるため、耐熱性の劣る有機平坦化膜などを用いた積層型のトランジスタ構成を採用する場合には有用である。
【0301】
また、酸化物半導体薄膜2、21が結晶質であることにより、信頼性および耐久性に優れた薄膜トランジスタが得られ易い。また、成膜直後の薄膜を非晶質として成膜した後、例えば蓚酸などの弱酸のエッチング液によりパターンニングを行い、その後、アニールにより結晶化させてもよい。これにより、表面平滑性に優れた、結晶質の酸化物半導体薄膜が得られる。
【0302】
第4の実施形態における酸化物半導体薄膜2、21は、さらに以下の要件を満たすことが好ましい。好ましい酸化物半導体薄膜2、21としては、以下の第1態様から第9態様の酸化物半導体薄膜が挙げられる。
【0303】
(第1態様)
第1態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Aとも称する)は、原子組成比が下記式(3-1)および下記式(3-2)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Aを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0304】
0.60≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.98
・・・(3-1)
0.02≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.40
・・・(3-2)
式(3-1)において、(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)を0.60以上とすることにより、酸化物半導体薄膜の移動度が小さくなりすぎるのを防ぎ、イメージセンサーの画質や感度を良好に保つことができる。0.98以下とすることにより、酸化物半導体薄膜が導電化し、半導体特性を失う事を防止でき、また、酸化物半導体薄膜のオフ電流を低減することができるので、イメージセンサーの画質や感度を向上させることができる。
式(3-1)において、(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)は、より好ましくは0.65以上0.95以下であり、さらに好ましくは0.70以上0.95以下である。
式(3-2)において、(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)を0.02以上とすることにより、酸化物半導体薄膜が導電化し、半導体特性を失う事を防止でき、酸化物半導体薄膜のオフ電流を低減することができるので、イメージセンサーの画質や感度を向上させることができる。また、0.40以下とすることにより、酸化物半導体薄膜が絶縁膜化するのを防ぎ、イメージセンサーの画質や感度を良好に保つことができる。
式(3-2)において、(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)は、より好ましくは0.05以上0.35以下であり、さらに好ましくは0.05以上0.30以下である。
【0305】
特に酸化物半導体薄膜Aが結晶質である場合には、式(3-1)および式(3-2)は、下記式(3-1´)および式(3-2´)を満たすことが好ましい。
【0306】
0.75≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.98
・・・(3-1´)
0.02≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.25
・・・(3-2´)
式(3-1´)において、(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)を0.75以上とすることにより、酸化物半導体薄膜の移動度が小さくなりすぎるのを防ぎ、イメージセンサーの画質や感度を良好に保つことができる。式(3-1´)の上限値の意義は式(3-1)と同様である。
式(3-2´)において、(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)を0.25以下とすることにより、酸化物半導体薄膜が絶縁膜化するのを防ぎ、イメージセンサーの画質や感度を良好に保つことができる。式(3-2´)の下限値の意義は式(2)と同様である。
式(3-1´)において、(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)は、より好ましくは0.80以上0.98以下である。
式(3-2´)において、(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)は、より好ましくは0.02以上0.20以下である。
【0307】
酸化物半導体薄膜Aが非晶質である場合には、酸化物半導体薄膜Aは、半導体特性をより向上させる観点から、さらに式(3-X)から式(3-Z)を満たすことが好ましい。
0.35≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.65 ・・・(3-Y)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.65 ・・・(3-Z)
式(3-X)において、インジウムの含有量を0.35以上とすることにより、移動度の低下を防げる。
式(3-X)において、In/(In+Sn+Ga)は、より好ましくは0.50以上1.00以下であり、さらに好ましくは0.40以上1.00以下である。
式(3-Y)において、スズの含有量を0.65以下とすることにより、エッチングによる酸化物半導体薄膜のアイランド形成ができる。
式(3-Y)において、Sn/(In+Sn+Ga)は、より好ましくは0.00以上0.50以下であり、さらに好ましくは0.00以上0.45以下である。
式(3-Z)において、ガリウムの含有量を0.65以下とすることにより、酸素欠損が少なくなり過ぎて、酸化物半導体薄膜が絶縁化するのを防げる。
式(3-Z)において、Ga/(In+Sn+Ga)は、より好ましくは0.00以上0.50以下であり、さらに好ましくは、0.00以上0.30以下である。
【0308】
すなわち、酸化物半導体薄膜Aが非晶質である場合、酸化物半導体薄膜Aは、原子組成比が式(3-1A)から式(3-2A)および式(3-X1)から式(3-Z1)を満たすことがより好ましく、式(3-1B)から式(3-2B)および式(3-X2)から式(3-Z2)を満たすことがさらに好ましい。
0.65≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.95
・・・(3-1A)
0.05≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.35
・・・(3-2A)
0.50≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X1)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.50 ・・・(3-Y1)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.50 ・・・(3-Z1)
【0309】
0.70≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.95
・・・(3-1B)
0.05≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.30
・・・(3-2B)
0.40≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X2)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.45 ・・・(3-Y2)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.30 ・・・(3-Z2)
【0310】
酸化物半導体薄膜Aが結晶質である場合には、酸化物半導体薄膜Aは、半導体特性をより向上させる観点から、さらに原子組成比が式(3-X3)から式(3-Z3)を満たすことが好ましい。
0.60≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X3)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.40 ・・・(3-Y3)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.40 ・・・(3-Z3)
式(3-X3)において、インジウムの含有量を0.60以上とすることにより、移動度の低下を防げる。
式(3-X3)において、In/(In+Sn+Ga)は、より好ましくは0.70以上1.00以下であり、さらに好ましくは0.80以上1.00以下である。
式(3-Y3)において、スズの含有量を0.40以下とすることにより、エッチングによる酸化物半導体薄膜のアイランド形成ができる。
式(3-Y3)において、Sn/(In+Sn+Ga)は、より好ましくは0.00以上0.30以下であり、さらに好ましくは0.00以上0.20以下である。
式(3-Z3)において、ガリウムの含有量を0.40以下とすることにより、酸素欠損が少なくなり過ぎて、酸化物半導体薄膜が絶縁化するのを防げる。
式(3-Z3)において、Ga/(In+Sn+Ga)は、より好ましくは0.00以上0.30以下であり、さらに好ましくは、0.00以上0.20以下である。
【0311】
すなわち、酸化物半導体薄膜Aが結晶質である場合、酸化物半導体薄膜Aは、原子組成比が式(3-1C)から式(3-2C)および式(3-X3)から式(3-Z3)を満たすことが好ましく、式(3-1D)から式(3-2D)および式(3-X4)から式(3-Z4)を満たすことがより好ましく、式(3-1E)から式(3-2E)および式(3-X5)から式(3-Z5)を満たすことがさらに好ましい。
0.75≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.98
・・・(3-1C)
0.02≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.25
・・・(3-2C)
0.60≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X3)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.40 ・・・(3-Y3)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.40 ・・・(3-Z3)
【0312】
0.80≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.98
・・・(3-1D)
0.02≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.20
・・・(3-2D)
0.70≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X4)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.30 ・・・(3-Y4)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.30 ・・・(3-Z4)
【0313】
0.80≦(In+Sn+Ga)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.98
・・・(3-1E)
0.02≦(Al+Y+Ln)/(In+Sn+Ga+Al+Y+Ln)≦0.20
・・・(3-2E)
0.80≦In/(In+Sn+Ga)≦1.00 ・・・(3-X5)
0.00≦Sn/(In+Sn+Ga)≦0.20 ・・・(3-Y5)
0.00≦Ga/(In+Sn+Ga)≦0.20 ・・・(3-Z5)
【0314】
(第2態様)
第2態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Bとも称する)は、In元素、Sn元素、Ga元素、およびAl元素を含み、原子組成比が下記式(3-3)から下記式(3-6)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Bを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0315】
0.01≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(3-3)
0.01≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.40 ・・・(3-4)
0.55≦In/(In+Ga+Sn)≦0.98 ・・・(3-5)
0.05≦Al/(In+Ga+Sn+Al)≦0.30 ・・・(3-6)
【0316】
式(3-3)において、ガリウム元素の含有量を0.01以上とすることにより、酸素欠損を抑える効果が発現し、半導体薄膜になる。また、ガリウムの含有量を0.30以下とすることにより、酸素欠損が少なくなり過ぎて、酸化物半導体薄膜が絶縁化するのを防げる。
式(3-3)において、Ga/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.02以上0.27以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.23以下である。
式(3-4)において、スズ元素の含有量を0.01以上とすることにより、耐薬品性が発現する。また、スズ元素の含有量を0.40以下とすることにより、エッチングによる酸化物半導体薄膜のアイランド形成ができる。
式(3-4)において、Sn/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.02以上0.35以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.30以下である。
式(3-5)において、インジウム元素の含有量を0.55以上とすることにより、移動度の低下を防げる。また、インジウム元素の含有量を0.98以下とすることにより、酸素欠損の量が増えすぎて、導体になるのを防げる。
式(3-5)において、In/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.60以上0.96以下であり、さらに好ましくは0.60以上0.94以下である。
式(3-6)において、アルミニウム元素の含有量を0.05以上とすることにより、酸化物半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタの移動度を十分な値にできる。また、アルミニウムの含有量を0.30以下とすることにより、移動度が小さくなり過ぎるのを防ぐことができる。
式(3-6)において、Al/(In+Ga+Sn+Al)は、より好ましくは0.08以上0.22以下である。
【0317】
酸化物半導体薄膜Bは、非晶質であることが好ましい。具体的には、酸化物半導体薄膜Bは、スパッタによって成膜されたときにアモルファス状態(非晶質)であり、加熱処理後もアモルファス状態であることが好ましい。その理由は以下の通りである。
酸化物半導体薄膜Bに酸化インジウム結晶が生成すると、その結晶にスズがドーピングされITOと同様に導電化する場合がある。酸化インジウム結晶が微結晶の場合は、アモルファス状の部分と微結晶が混在することになり、それらの界面でキャリヤーが散乱され移動度が低下する場合がある。また、アモルファス状の部分と微結晶の間に酸素欠損等が生じると光吸収の色中心を生成する場合があり、TFTの光安定性が損なわれる場合がある。
【0318】
酸化物半導体薄膜Bは、原子組成比が式(3-3A)から式(3-5A)および式(3-6)を満たすことがより好ましく、式(3-3B)から式(3-5B)および式(3-6B)を満たすことがさらに好ましい。
0.02≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.27 ・・・(3-3A)
0.02≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.35 ・・・(3-4A)
0.60≦In/(In+Ga+Sn)≦0.96 ・・・(3-5A)
0.05≦Al/(In+Ga+Sn+Al)≦0.30 ・・・(3-6)
【0319】
0.03≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.23 ・・・(3-3B)
0.03≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(3-4B)
0.60≦In/(In+Ga+Sn)≦0.94 ・・・(3-5B)
0.08≦Al/(In+Ga+Sn+Al)≦0.22 ・・・(3-6B)
【0320】
(第3態様)
第3態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Cとも称する)は、In元素、Sn元素、Ga元素、およびAl元素を含み、原子組成比が下記式(3-7)から下記式(3-10)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Cを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0321】
0.01≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(3-7)
0.01≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(3-8)
0.20≦In/(In+Ga+Sn)<0.55 ・・・(3-9)
0.05≦Al/(In+Ga+Sn+Al)≦0.30 ・・・(3-10)
【0322】
式(3-7)において、ガリウム元素の含有量を0.01以上とすることにより酸素欠損を抑える効果が発現し、スパッタした膜が半導体薄膜になる。また、ガリウムの含有量を0.50以下とすることにより、酸素欠損が少なくなり過ぎて、膜が絶縁体化するのを防げる。
式(3-7)において、Ga/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.02以上0.45以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.40以下である。
【0323】
式(3-8)において、スズ元素の含有量を0.01以上とすることにより、耐薬品性が発現する。また、スズ元素の含有量を0.50以下とすることにより、エッチングによる酸化物半導体薄膜のアイランド形成ができる。
式(3-8)において、Sn/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.02以上0.45以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.40以下である。
【0324】
式(3-9)において、インジウム元素の含有量を0.20以上とすることにより、移動度の低下を防ぐことができる。また、インジウム元素の含有量を0.55未満とすることにより、スパッタで成膜した膜が結晶化したり、酸素欠損の量が増えすぎて、導体になるのを防げる。式(3-9)において、In/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは、0.25以上0.55未満であり、さらに好ましくは0.30以上0.55未満である。
【0325】
式(3-10)において、アルミニウム元素の含有量を0.05以上とすることにより、酸化物半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタの移動度を十分な値にできる。さらに、得られる酸化物半導体薄膜は、低温アニールでも安定したTFT特性を発現する。また、アルミニウムの含有量を0.30以下とすることにより、移動度が小さくなり過ぎるのを防ぐことができる。
式(3-10)において、Al/(In+Ga+Sn+Al)は、より好ましくは0.05以上0.25以下であり、さらに好ましくは0.08以上0.22以下である。
【0326】
(第4態様)
第4態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Dとも称する)は、In元素、Sn元素、Ga元素、およびLn元素を含み、原子組成比が下記式(3-11)から下記式(3-14)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Dを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
0.01≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(3-11)
0.01≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.40 ・・・(3-12)
0.55≦In/(In+Ga+Sn)≦0.98 ・・・(3-13)
0.03≦Ln/(In+Ga+Sn+Ln)≦0.25 ・・・(3-14)
【0327】
式(3-11)において、ガリウム元素の含有量を0.01以上とすることにより、酸素欠損を抑える効果が発現し、半導体薄膜になる。また、ガリウムの含有量を0.30以下とすることにより、酸素欠損が少なくなり過ぎて、酸化物半導体薄膜が絶縁化するのを防げる。
式(3-11)において、Ga/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.02以上0.25以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.20以下である。
式(3-12)において、スズの含有量を0.01以上とすることにより、耐薬品性が発現する。また、スズ元素の含有量を0.40以下とすることにより、エッチングによる酸化物半導体薄膜のアイランド形成ができる。
式(3-12)において、Sn/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.02以上0.35以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.30以下である。
式(3-13)において、インジウム元素の含有量を0.55以上とすることにより、移動度の低下を防げる。また、インジウム元素の含有量を0.98以下とすることにより、酸素欠損の量が増えすぎて、導体になるのを防げる。
式(3-13)において、In/(In+Ga+Sn)は、より好ましくは0.60以上0.96以下であり、さらに好ましくは0.60以上0.94以下である。
式(3-14)において、ランタノイド元素の含有量を0.03以上とすることにより、酸化物半導体薄膜を非晶質化する効果が発現される。また、ランタノイド元素の含有量を0.25以下とすることにより、酸素欠損の量が増えすぎて、導体になるのを防げる。
また、ランタノイドの添加は、酸化物半導体薄膜のバンドギャップを向上させる効果が有り、光耐性の高い酸化物半導体薄膜および薄膜トランジスタが得られ易い。
式(3-14)において、Ln/(In+Ga+Sn+Ln)は、より好ましくは0.03以上0.25以下である。
【0328】
酸化物半導体薄膜Dは、非晶質であることが好ましい。具体的には、酸化物半導体薄膜Dは、スパッタによって成膜されたときにアモルファス状態(非晶質)であり、加熱処理後もアモルファス状態であることが好ましい。その理由は、前述した酸化物半導体薄膜Bが非晶質であることが好ましい理由と同様である。
【0329】
酸化物半導体薄膜Dは、原子組成比が式(3-11A)から式(3-14A)を満たすことがより好ましく、式(3-11B)から式(3-13B)および式(3-14A)を満たすことがさらに好ましい。
0.02≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.25 ・・・(3-11A)
0.02≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.35 ・・・(3-12A)
0.60≦In/(In+Ga+Sn)≦0.96 ・・・(3-13A)
0.03≦Ln/(In+Ga+Sn+Ln)≦0.25 ・・・(3-14A)
【0330】
0.03≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.20 ・・・(3-11B)
0.03≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(3-12B)
0.60≦In/(In+Ga+Sn)≦0.94 ・・・(3-13B)
0.03≦Ln/(In+Ga+Sn+Ln)≦0.25 ・・・(3-14A)
【0331】
(第5態様)
第5態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Eとも称する)は、In元素、Sn元素、Ga元素、Al元素およびY元素を含み、原子組成比が下記式(3-15)および下記式(3-16)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Eを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0332】
0.03≦(Al+Ga+Y)/(In+Y+Al+Ga)<0.50
・・・(3-15)
0.05≦[(Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]/[(Y+Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]≦0.75
・・・(3-16)
【0333】
ここで、酸化物半導体薄膜Eは、In2O3で構成されるビックスバイト構造を主成分とし、前記ビックスバイト構造に、Yが固溶し、かつ、AlおよびGaのいずれか一方、またはAlとGaの両方が固溶しているスパッタリングターゲット(酸化物焼結体)をスパッタして形成されたものであることが好ましい。上記スパッタリングターゲットは、焼結体のバルク抵抗が低く焼結体強度も大きく、さらに熱膨張係数が小さく熱伝導度が大きいためスパッタ時に熱による割れ等の発生が少なく安定してスパッタリングができる。
「主成分」とは、全体(ここでは酸化物焼結体)に含まれる成分のうち、50質量%以上を占める成分をいう。なお、主成分は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。第4の実施形態において特に断らない限り「主成分」の定義は同様とする。
【0334】
式(3-15)において、(Al+Ga+Y)/(In+Y+Al+Ga)を0.03以上とすることにより、YやAlおよび/またはGaを添加する効果が発現される。また、(Al+Ga+Y)/(In+Y+Al+Ga)を0.50未満とすることにより、酸化物半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタの移動度を十分な値にできる。
式(3-15)において、(Al+Ga+Y)/(In+Y+Al+Ga)は、より好ましくは0.04以上0.40以下であり、さらに好ましくは0.05以上0.35以下である。
【0335】
式(3-16)において、[(Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]/[(Y+Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]を0.05以上とすることにより、ビックスバイト構造に、Yが固溶し、かつ、AlおよびGaのいずれか一方、またはAlとGaの両方が固溶している酸化物半導体薄膜が得られやすい。また、[(Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]/[(Y+Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]を0.75以下とすることにより、移動度が高く、安定したトランジスタ特性が得られ易い。
【0336】
式(3-16)において、[(Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]/[(Y+Al+Ga)/(In+Al+Ga+Y)]は、より好ましくは0.06以上0.74未満であり、さらに好ましくは0.10以上0.74以下であり、さらに好ましくは0.15以上0.74以下であり、さらに好ましくは0.15以上0.73である。
【0337】
酸化物半導体薄膜Eは、Sn元素を含んでもよく、YAlO3で表されるペロブスカイト構造を含んでもよい。
酸化物半導体薄膜EがSn元素を含む場合、Sn元素の含有量[(Sn)/(In+Y+Al+Ga+Sn)]は、質量単位で、好ましくは500ppm以上10000ppm以下であり、より好ましくは700ppm以上8000ppm以下であり、さらに好ましくは1000ppm以上7000ppm以下である。
Sn元素を含むことにより、酸化物半導体薄膜Eを形成するためのスパッタリングターゲットのバルク抵抗を下げることができるので、得られる酸化物半導体薄膜Eのキャリヤー濃度を一定に制御し易い。これにより、CVD処理やその後のアニール工程でTFT特性が影響を受けにくくなり、特性が安定した薄膜トランジスタが得られる。
【0338】
(第6態様)
第6態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Fとも称する)は、原子組成比が下記式(3-17)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Fを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0339】
0.0001≦(Al+Y)/(In+Al+Y)≦0.1・・・(3-17)
ここで、酸化物半導体薄膜Fは、酸化インジウムを主成分とし、正3価の金属酸化物を含有するスパッタリングターゲット(酸化物焼結体)をスパッタして形成されたものであることが好ましい。これにより、半導体特性に優れた薄膜トランジスタが実現され易い。
正3価の金属酸化物としては、例えば、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロニウム、酸化ホルニウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテリビウムおよび酸化ルテチウムから選択される1種または2種以上の酸化物が挙げられる。
また、酸化物半導体薄膜Fは、結晶質であることが好ましい。これにより、TFTの耐久性を高くできる。
【0340】
式(3-17)において、(Al+Y)/(In+Al+Y)を0.0001以上とすることにより、酸素欠損の低減効果が発現され、キャリヤー密度が2×1016cm-3以下の薄膜トランジスタが得られ易い。また、(Al+Y)/(In+Al+Y)を0.1以下とすることにより、膜の結晶性が高まり、酸素欠損量が多くなり過ぎず、TFTが安定して作動するようになる。
式(3-17)において、(Al+Y)/(In+Al+Y)は、より好ましくは0.0005以上0.05以下であり、さらに好ましくは0.001以上0.05以下である。
【0341】
(第7態様)
第7態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Gとも称する)は、原子組成比が下記式(3-18)を満たすことが好ましい。Lnはランタノイド元素を表す。
酸化物半導体薄膜Gを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0342】
0.01≦(Y+Ln+Al+Ga)/(In+Y+Ln+Al+Ga)≦0.5
・・・(3-18)
【0343】
ここで、酸化物半導体薄膜Gは、In2O3で構成されるビックスバイト構造と、A3B5O12構造(式中、Aは、ScおよびLn(Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLu)からなる群から選ばれる一以上の元素であり、Bは、AlおよびGaからなる群から選ばれる一以上の元素である。)を含むスパッタリングターゲット(酸化物焼結体)をスパッタして形成されたものであることが好ましい。上記スパッタリングターゲットは、抵抗を低く抑制できるため、放電安定性に優れたターゲットとなる。
A3B5O12構造は、ガーネットまたはガーネット構造と呼ぶことができる。
酸化物半導体薄膜GがIn2O3構造およびガーネット構造を有することは、X線回折測定装置(XRD)により確認できる。
ガーネット構造は、電気的に絶縁性であるが、導電性の高いビックスバイト構造に海島構造として分散することで、上記スパッタリングターゲットの電気抵抗を低くすることができる。
A3B5O12構造におけるAは、薄膜トランジスタにおいてより大きなOn/Off特性を得るという観点から、Y,Ce,Nd,Sm,Eu,およびGdからなる群から選ばれる一以上の元素が好ましく、Y、Nd、Sm、およびGdからなる群から選ばれる一以上の元素がより好ましい。AおよびBは、それぞれ1種単独でもよく2種以上でもよい。
【0344】
式(3-18)において、(Y+Ln+Al+Ga)/(In+Y+Ln+Al+Ga)を0.01以上とすることにより、キャリヤー密度が高くなり過ぎず、薄膜トランジスタを安定して駆動できる。また、(Y+Ln+Al+Ga)/(In+Y+Ln+Al+Ga)を0.5以下とすることにより、酸化物半導体薄膜Gを形成するためのスパッタリングターゲットの抵抗が高くなり過ぎないため、酸化物半導体薄膜Gを形成する際に、放電が安定になり、パーティクルの発生も抑制される。
式(3-18)において、(Y+Ln+Al+Ga)/(In+Y+Ln+Al+Ga)は、より好ましくは、0.015以上0.40以下であり、さらに好ましくは0.02以上0.30以下である。
【0345】
(第8態様)
第8態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Hとも称する)は、酸化インジウムを主成分とし、単一の結晶方位を有する表面結晶粒子を含むことが好ましい。
「単一の結晶方位を有する表面結晶粒子を含む」とは、結晶方位が制御された状態をいう。通常は、電子線後方散乱回折法(EBSD)で観察したときに、当該酸化物半導体薄膜の表面の結晶状態がファセット状である結晶粒子が観察されれば、「単一の結晶方位を有する表面結晶粒子を含む」と言える。ファセット状か放射状かは、EBSD測定により容易に判別できる。
酸化物半導体薄膜Hを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
【0346】
酸化物半導体薄膜Hは、結晶質であることが好ましい。
単一の結晶方位を有する表面結晶粒子を含む結晶質薄膜は、結晶が安定であり、TFT製造工程での様々な熱負荷、酸化負荷、還元負荷等によるキャリヤー密度の変動を抑え込むことができる。当該結晶質薄膜(第4の実施形態では酸化物半導体薄膜)をチャネル領域とする薄膜トランジスタは高い飽和移動度を達成できる。
酸化インジウムが、酸化物半導体薄膜中に50質量%以上含まれる場合、薄膜トランジスタ(TFT)を構成した場合の飽和移動度を高くすることができる。
【0347】
また、酸化物半導体薄膜H中におけるファセット状の結晶形態は、平均結晶粒径としては、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、また、平均粒径の上限値としては、通常10μm以下である。結晶粒子はそれぞれが単一な結晶方位を有している。平均結晶粒径が、0.5μm以上であると、微結晶となりにくい。また、平均結晶粒径が10μm以下であると、内部に結晶転移を起こしにくくなる。
粒径は、EBSDにより表面形態を確認しフェレー径(結晶に外接する長方形の短辺とする)を計測することにより求める。
平均結晶粒径は、膜の中央部(対角線の交点)を中心とした枠内で観察されるファセット結晶の粒径を測定し、その平均値を相加平均にて算出したものである。枠のサイズは、通常5μm×5μmであるが、膜のサイズや、粒径のサイズにより適宜調整する。枠内のファセット状結晶の数は、5個以上である。5個に満たない場合は、枠のサイズを拡大して観察を行う。膜全体を観察しても5個未満の場合は、計測可能な結晶を計測することにより算出する。放射状の結晶形態の場合、粒径としては、通常1μm~20μm程度の粒径を有しているが、特に10μmを超える結晶では、その粒径内は単一な結晶方位を示さず、中心部や結晶端部より放射状に結晶方位が変化する結晶を有している。
表面の結晶状態がファセット状である結晶粒子が占める面積は、50%以上が好ましく、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%以上である。結晶状態がファセット状である結晶粒子が酸化物半導体薄膜の表面を占める面積が50%以上であれば、安定したキャリヤー密度が達成できる。ファセット状でない結晶形態としては、放射状の結晶形態の他、アモルファス状もしくは微細な結晶粒等が挙げられる。上記ファセット状の結晶状態の粒子が占める面積以外の部分は、これらの形態の粒子が占めている。
【0348】
酸化物半導体薄膜Hは、正3価の金属酸化物を含有することも好ましい。正3価の金属酸化物としては、前述と同様のものが挙げられる。
【0349】
(第9態様)
第9態様の酸化物半導体薄膜(以下、酸化物半導体薄膜Iとも称する)は、ガリウムが酸化インジウムに固溶しており、全金属原子に対するインジウムとガリウムの含有率が80原子%以上であり、In2O3で表されるビッグスバイト構造を有し、原子組成比が下記式(3-19)を満たすことが好ましい。
酸化物半導体薄膜Iを、転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20のチャネル形成領域として用いることで、リーク電流の低減効果が得られる。
0.001≦Ga/(Ga+In)≦0.10・・・(3-19)
【0350】
酸化物半導体薄膜Iは、結晶質であることが好ましい。
式(3-19)において、Ga/(Ga+In)を0.001以上とすることにより、酸化インジウム結晶の格子定数の変化が比較的大きくなり、ガリウムを添加する効果が発現さ
れる。また、Ga/(Ga+In)を0.10以下とすることにより、InGaO3等の析出を抑制できる。InGaO3等の析出を抑制することで、結晶質の酸化物半導体薄膜Iが得られ易い。
式(3-19)において、Ga/(Ga+In)は、より好ましくは0.005以上0.08以下であり、さらに好ましくは0.01以上0.05以下であり、さらに好ましくは0.02以上0.04以下である。
【0351】
以上が第4の実施形態に係るイメージセンサーに用いられる、酸化物半導体薄膜2、21の構成の説明である。
【0352】
次に、第4の実施形態に係るイメージセンサーに用いられる、酸化物半導体薄膜2、21の製造方法について説明する。
なお、第4の実施形態では、埋め込み型のフォトダイオードおよびnチャネル型のバルクトランジスタを用いる構成であるため、基板としてp型単結晶シリコン基板を用いるが、pウェルを形成すればn型単結晶シリコン基板を用いることもできる。
まず、光電変換素子であるフォトダイオード10を作製する方法は、一般的な方法を用いることができるため、ここでは省略する。
【0353】
次に酸化物半導体薄膜2、21をチャネル領域とする薄膜トランジスタの作製方法について、
図19を参照して説明する。
【0354】
第4の実施形態では、既に単結晶シリコン基板200に設けられている図示しないバルクトランジスタのゲート絶縁膜32上に薄膜トランジスタを形成する。そのため、薄膜トランジスタの下地膜として、バルクトランジスタのゲート絶縁膜32を用いることができる。ただし、ゲート絶縁膜32とは別に絶縁層を成膜し、下地膜としても良い。
【0355】
酸化物半導体薄膜と接する絶縁層(第4の実施形態ではゲート絶縁膜32)は、酸化シリコン層、酸化窒化シリコン層、酸化アルミニウム層、または酸化窒化アルミニウム層などの酸化物絶縁層を用いると好ましい。絶縁層の形成方法としては、プラズマCVD法またはスパッタ法等を用いることができるが、絶縁層中に水素が大量に含まれないようにするためには、簡便な方法であるスパッタ法で絶縁層を成膜することが好ましい。
【0356】
絶縁層として、スパッタ法により酸化シリコン層を形成する例を説明する。単結晶シリコン基板200を処理室へ搬送し、高純度酸素を含むアルゴンをスパッタガスとして導入し酸化シリコンターゲットを用いて高周波(RF)スパッタ法で、単結晶シリコン基板200に絶縁層として、酸化シリコン層を成膜する。また単結晶シリコン基板は室温でもよいし、加熱されていてもよい。
【0357】
例えば、石英(好ましくは合成石英)をターゲットとして用い、基板温度を室温(25℃)、基板およびターゲット間の距離(T-S間距離)を70mm、圧力0.4Pa、高周波(RF)電源1.5kW、酸素およびアルゴン(酸素流量4sccm:アルゴン流量36sccm=O2濃度が10体積%に相当)雰囲気下で高周波(RF)スパッタ法により酸化シリコン層を成膜する。酸化シリコン層の膜厚は100nmとする。その後、350℃にて、1時間空気中でアニールする。なお、石英に代えてシリコンを、酸化シリコン層を成膜するためのターゲットとして用いることができる。このとき、スパッタガスとしては、酸素100体積%または、酸素を50体積%以上含むアルゴンの混合ガスを用いて行う。
【0358】
スパッタ法には、スパッタ用電源に高周波電源を用いるRFスパッタ法、直流電源を用いるDCスパッタ法、およびパルス的にバイアスを与えるパルスDCスパッタ法がある。RFスパッタ法は主に絶縁膜を成膜する場合に用いられ、DCスパッタ法は主に導電膜を成膜する場合に用いられる。
【0359】
また、材料の異なるターゲットを複数設置できる多元スパッタ装置もある。多元スパッタ装置は、同一チャンバーで異なる材料膜を積層成膜することも、同一チャンバーで複数種類の材料を同時に放電させて成膜することもできる。
【0360】
また、チャンバー内部に磁石機構を備えたマグネトロンスパッタ法を用いるスパッタ装置や、グロー放電を使わずマイクロ波を用いて発生させたプラズマを用いるECRスパッタを用いるスパッタ装置がある。
【0361】
また、スパッタ法を用いる成膜方法として、成膜中にターゲット物質とスパッタガス成分とを化学反応させてそれらの化合物薄膜を形成するリアクティブスパッタ法や、成膜中に基板にも電圧をかけるバイアススパッタ法もある。
【0362】
絶縁層は積層構造でもよく、例えば、基板側から窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層、窒化アルミニウム層、または窒化酸化アルミニウム層などの窒化物絶縁層と、上記酸化物絶縁層との積層構造としてもよい。
【0363】
例えば、酸化シリコン層と基板との間に水素および水分が除去された高純度窒素を含むスパッタガスを導入しシリコンターゲットを用いて窒化シリコン層を成膜する。この場合においても、酸化シリコン層と同様に、処理室内の残留水分を除去しつつ窒化シリコン層を成膜することが好ましい。
【0364】
窒化シリコン層を形成する場合も、成膜時に基板を加熱してもよい。
絶縁層として窒化シリコン層と酸化シリコン層とを積層する場合、窒化シリコン層と酸化シリコン層を同じ処理室において、共通のシリコンターゲットを用いて成膜することができる。先に窒素を含むスパッタガスを導入して、処理室内に装着されたシリコンターゲットを用いて窒化シリコン層を形成し、次にスパッタガスを、酸素を含むガスに切り替えて同じシリコンターゲットを用いて酸化シリコン層を成膜する。窒化シリコン層と酸化シリコン層とを大気に曝露せずに連続して形成することができるため、窒化シリコン層の表面に水素や水分などの不純物が吸着することを防止することができる。
【0365】
次いで、絶縁層上(第4の実施形態ではゲート絶縁膜32上)に、好ましくは膜厚15nm以上150nm以下の酸化物半導体薄膜をスパッタ法で形成する。
【0366】
なお、酸化物半導体薄膜をスパッタ法により成膜する前に、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタを行い、絶縁層の表面に付着しているゴミを除去することが好ましい。逆スパッタとは、アルゴン雰囲気下で基板側にRF電源を用いて電圧を印加し、イオン化したアルゴンを基板に衝突させて表面を改質する方法である。なお、アルゴンに代えて窒素、ヘリウム、または酸素などを用いてもよい。
【0367】
酸化物半導体薄膜は酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いてスパッタ法により成膜する。酸化物焼結体としては、成膜する酸化物半導体薄膜と同じ組成の焼結体を用いることができる。
例えば、二元型酸化物焼結体、三元型酸化物焼結体、四元型酸化物焼結体、および五元型酸化物焼結体などの酸化物焼結体を用いることができる。
【0368】
二元型酸化物焼結体としては、In-Al-Oや、In-Y-O、In-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)などの酸化物焼結体を用いることができる。
【0369】
三元型酸化物焼結体としては、In-Ga-Al-Oや、In-Ga-Y-O、In-Ga-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)、In-Sn-Al-Oや、In-Sn-Y-O、In-Sn-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)、In-Al-Y-O、In-Al-Lu-OやIn-Y-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)などの酸化物焼結体を用いることができる。
【0370】
四元型酸化物焼結体としては、In-Ga-Sn-Al-Oや、In-Ga-Sn-Y-O、In-Ga-Sn-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)、In-Ga-Al-Y-O、In-Ga-Al-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)、In-Ga-Y-Ln-O(ここで、Lnは、La,N
d,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)などの酸化物焼結体を用いることができる。
【0371】
五元型酸化物焼結体であれば、In-Ga-Sn-Al-Y-Oや、In-Ga-Sn-Al-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)、In-Ga-Sn-Y-Ln-O(ここで、Lnは、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuから選ばれる1種以上の金属元素を示す)などの酸化物焼結体を用いることができる。
【0372】
酸化物半導体薄膜を成膜する際に用いるスパッタガスは水素、水、水酸基または水素化物などの不純物がppm程度の濃度またはppb程度の濃度まで除去された高純度ガスを用いることもできるし、水素、または水などを添加して、キャリヤー濃度を極限まで低下することも好ましい。
【0373】
成膜条件の一例としては、基板温度を室温(25℃)、基板およびターゲット間の距離を110mm、直径4インチのスパッタリングターゲットを用いて、圧力0.4Pa、直流(DC)電源0.5kW、酸素およびアルゴン(全ガス流量を40sccmとして、酸素流量1sccm以上、15sccm以下に適宜制御して)雰囲気下の条件が適用される。なお、パルス直流(DC)電源を用いて、パルスの周波数として、1kHz以上、300kHz以下、好ましくは、10kHz以上、180kHz以下、15kHz以上、150kHz以下において、Duty:80%以下(好ましくは、60%以下、さらに好ましくは40%以下)として成膜すると、異常放電の発生が抑制でき、成膜時に発生するノジュール(表面黒色異物)や粉状物質(パーティクル、ゴミともいう)が軽減でき、膜厚分布も均一となるために好ましい。また、パルスDCスパッタ法で成膜する場合、DCスパッタ法で成膜する場合のスパッタリングターゲットのバルク抵抗を小さく(好ましくは5mΩcm以下)する必要がなく、10mΩcm以上、100mΩcm以下のバルク抵抗を有するスパッタリングターゲットも好適に使用できるメリットもある。酸化物半導体薄膜は好ましくは15nm以上150nm以下とする。なお、適用する酸化物半導体材料により適切な厚みは異なり、材料に応じて適宜厚みを選択すればよい。
酸化物半導体の膜密度は、6.5g/cm3以上とするとよい。膜密度は、好ましくは、6.6g/cm3以上とするとよく、さらに好ましくは6.8g/cm3以上である。このようにすると、各元素の欠損が少ない膜を形成でき、デバイスのチャネル層として用いたときに信頼性に優れ安定な特性を得ることができる。なお、酸化物半導体層は請求項の範囲内であればよく、膜密度は好ましい範囲に限定されるものではない。
また、膜の相対密度比(理論密度対する膜密度の比率)は、好ましくは、80%以上とするとよく、より好ましくは、90%以上とよく、さらに好ましくは95%以上である。このようにすると、緻密性が高い膜となりデバイスのチャネル層として用いたときに酸素や水素の拡散が少なく、熱、薬液、プラズマ等の影響に対して変化が起こりにくく安定な特性を得ることができる。なお、酸化物半導体層は請求項の範囲内であればよく、膜の相対密度は好ましい範囲に限定されるものではない。
【0374】
次いで、酸化物半導体薄膜を第1のフォトリソグラフィ工程およびエッチング工程により島状の酸化物半導体薄膜2、21に加工する(
図19参照)。
【0375】
島状の酸化物半導体薄膜を形成するためのレジストマスクはインクジェット法で形成してもよい。インクジェット法ではフォトマスクを使用しないため、製造コストを低減できる。また、ここでの酸化物半導体薄膜のエッチングは、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよく、両方を用いてもよい。
第4の実施形態では、メタルマスクを用いたマスクパターンにより島状の酸化物半導体薄膜を形成する。
【0376】
ドライエッチングに用いるエッチングガスとしては、塩素を含むガス(塩素系ガス、例えば塩素(Cl2)、塩化硼素(BCl3)、塩化珪素(SiCl4)、四塩化炭素(CCl4)など)が好ましい。
【0377】
また、フッ素を含むガス(フッ素系ガス、例えば四弗化炭素(CF4)、六弗化硫黄(SF6)、三弗化窒素(NF3)、トリフルオロメタン(CHF3)など)、臭化水素(HBr)、酸素(O2)、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスを添加したガス、などを用いることができる。
【0378】
ドライエッチング法としては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法を用いることができる。所望の加工形状にエッチングできるように、エッチング条件(コイル型の電極に印加される電力量、基板側の電極に印加される電力量、基板側の電極温度等)を適宜調節する。
【0379】
ウェットエッチングに用いるエッチング液としては、蓚酸水溶液や、燐酸と酢酸と硝酸とを混ぜた溶液、アンモニア過水(31質量%過酸化水素水:28質量%アンモニア水:水=5:2:2)などを用いることができる。また、ITO-07N(関東化学社製)を用いてもよい。
【0380】
また、ウェットエッチング後のエッチング液はエッチングされた材料とともに洗浄によって除去される。その除去された材料を含むエッチング液の廃液を精製し、含まれる材料を再利用してもよい。当該エッチング後の廃液から酸化物半導体薄膜に含まれるインジウム等の材料を回収して再利用することにより、資源を有効活用しコストを低減できる。
【0381】
所望の形状にエッチングできるように、材料に合わせてエッチング条件(エッチング液、エッチング時間、温度等)を適宜調節する。
【0382】
第4の実施形態では、酸化物半導体薄膜2、21に対して大気下、窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス雰囲気下で第1の加熱処理を行う。
第1の加熱処理の温度(アニール温度)は低い方が良いが、一般的には、成膜直後のままではTFT特性を発現しないことが多いため、50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは、130℃以上、150℃以上が良い。その場合、非晶質のまま使用しても良いし、非晶質中にIn2O3構造で表されるビックスバイト型の微結晶を含んでいても良いし、全体が微結晶状態でも良い。さらに、制御された温度域で結晶化させることにより、結晶表面の結晶方位が一方方向にのみ成長したファセット型の結晶を含んでいても良い。
光電変換素子や増幅トランジスタの特性に影響を与えない温度が良い。好ましくは、500℃以下、より好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。制御された温度域での結晶化法としては、結晶核が生成すると考えられる150℃以上、250℃以下の間の昇温速度を10℃/分以下とすることが良い。また、150℃以上、250℃以下の間の一定温度で、一定時間保持し、結晶核を生成させてから、昇温し、結晶を成長させることもできる。よって、150℃以上、250℃以下の間の加熱時間を10分以上の時間を掛けて昇温するか、および/または、150℃以上、250℃以下の間の温度で10分以上保持すれば良い。
第4の実施形態では、加熱処理装置の一つである電気炉に基板を導入し、酸化物半導体薄膜に対して大気下350℃において30分の加熱処理を行う。加熱処理温度からの降温時には、雰囲気を酸素に切り替えても良い。この第1の加熱処理によって酸化物半導体薄膜2、21の緻密化や、必要に応じて結晶化を行うことができる。
【0383】
加熱処理装置は電気炉に限られず、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を備えていてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Annealing)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Annealing)装置等のRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて加熱処理を行う装置である。気体には、アルゴンなどの希ガス、または窒素のような、加熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0384】
例えば、第1の加熱処理として、GRTA装置を用いて、150℃以上500℃以下の高温に加熱した不活性ガス中に基板を入れ、数分間加熱した後に基板を不活性ガス中から取り出してもよい。GRTA装置を用いると短時間での高温加熱処理が可能となる。
【0385】
また、第1の加熱処理の条件、または酸化物半導体薄膜の材料によっては、酸化物半導体薄膜が結晶化し、微結晶層または多結晶層となる場合もある。例えば、結晶化率が90%以上、または80%以上の微結晶の酸化物半導体薄膜となる場合もある。また、第1の加熱処理の条件、または酸化物半導体薄膜の材料によっては、結晶成分を含まない非晶質の酸化物半導体薄膜となる場合もある。また、非晶質の酸化物半導体薄膜の中に微結晶部(粒径100nm以上、2μm以下(代表的には500nm以上、1μm以下))が混在する酸化物半導体薄膜となる場合もある。ここでいう粒径とは、薄膜の表面と平行に、およびまたは、薄膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した時の結晶粒子の大きさを意味する。
【0386】
また、酸化物半導体薄膜2、21の第1の加熱処理は、島状の酸化物半導体薄膜に加工する前の酸化物半導体薄膜に行うこともできる。
【0387】
酸化物半導体薄膜2、21に対する緻密化や結晶化の効果を奏する加熱処理は、酸化物半導体薄膜を成膜後、もしくは、酸化物半導体薄膜上にソース電極およびドレイン電極を積層させた後、ソース電極およびドレイン電極上にゲート絶縁層や、保護膜を形成した後、のいずれで行っても良い。
【0388】
次に、導電層を形成後、フォトリソグラフィ工程にて導電層上にレジストマスクを形成し、選択的にエッチングを行って、転送トランジスタ1のソース電極3およびドレイン電極4、リセットトランジスタのソース電極22およびドレイン電極23を形成した後、レジストマスクを除去する。
なお、トップゲート型薄膜トランジスタの場合には、形成されたソース電極、ドレイン電極の端部がテーパであると、上に積層するゲート絶縁層の被覆性が向上するため好ましい。
【0389】
第4の実施形態では、ソース電極3、ドレイン電極4を、メタルマスクを用いてスパッタ法により膜厚50nmのパターン形成したチタン膜を形成する。
【0390】
なお、導電層のエッチングの際に、酸化物半導体薄膜2、21の一部が除去されて、その下の絶縁層が露出しないようにそれぞれの材料およびエッチング条件を適宜調節する。
【0391】
第4の実施形態では、エッチャントとして蓚酸水溶液を用いることができる。
次に、保護膜を形成する場合には、例えば、マイクロ波(2.45GHz)を用いた高密度プラズマCVDは、緻密で絶縁耐圧の高い高品質な保護膜や絶縁層を形成できるので好ましい。高純度化された酸化物半導体薄膜と高品質ゲート絶縁層(保護膜)とが密接することにより、界面準位を低減して界面特性を良好なものとすることができるからである。ゲート絶縁層として良質な絶縁層を形成できるものであれば、スパッタ法やプラズマCVD法など他の成膜方法を適用することができる。また、成膜後の熱処理によってゲート絶縁層の膜質、酸化物半導体薄膜との界面特性が改質される絶縁層であっても良い。いずれにしても、ゲート絶縁層としての膜質が良好であることは勿論のこと、酸化物半導体薄膜との界面準位密度を低減し、良好な界面を形成できるものであれば良い。
【0392】
また、薄膜トランジスタおよびバルクトランジスタ上に保護絶縁層や、平坦化のための平坦化絶縁層を設けてもよい。例えば、保護絶縁層として酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸化窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層、または酸化アルミニウム層を単層、または積層して形成することができる。
【0393】
また、平坦化絶縁層としては、ポリイミド、アクリル、ベンゾシクロブテン、ポリアミド、エポキシ等の、耐熱性を有する有機材料を用いることができる。また上記有機材料の他に、低誘電率材料(low-k材料)、シロキサン系樹脂、PSG(リンガラス)、BPSG(リンボロンガラス)等を用いることができる。なお、これらの材料で形成される絶縁膜を複数積層させることで、平坦化絶縁層を形成してもよい。
【0394】
なお、シロキサン系樹脂とは、シロキサン系材料を出発材料として形成されたSi-O-Si結合を含む樹脂に相当する。シロキサン系樹脂は置換基としては有機基(例えばアルキル基やアリール基)を有していても良い。また、有機基はフルオロ基を有していても良い。
【0395】
平坦化絶縁層の形成法は、特に限定されず、その材料に応じて、スパッタ法、SOG法、スピンコート法、ディップ法、スプレー塗布法、液滴吐出法(インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等)などの方法や、ドクターナイフ、ロールコーター、カーテンコーター、ナイフコーター等の器具を用いることができる。
【0396】
このように、第4の実施形態では、酸化物半導体薄膜2、21が、In元素、Sn元素、およびGa元素から選ばれた1種以上の導電性酸化物と、Al元素、Y元素、ランタノイド元素Lnから選ばれた1種以上の酸化物を含む。
そのため、亜鉛を含有しなくてもリーク電流が少ない酸化物半導体をイメージセンサーに用いることができる。
また、第4の実施形態のイメージセンサーは、特定の元素を含む酸化物半導体薄膜2、21を用いた薄膜トランジスタ(転送トランジスタ1およびリセットトランジスタ20)と、増幅トランジスタ30としてバルクトランジスタとを組み合わせて構成することにより、リーク電流の低減効果がより発現される。これにより、信号電荷蓄積部15における電位保持機能に優れ、ダイナミックレンジの広いイメージセンサーが実現される。
【0397】
<第4の実施形態の変形例>
変形例に係るイメージセンサーについて説明する。なお、前述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
変形例に係るイメージセンサーは、フォトダイオードとして有機光電変換素子を用いたこと以外は
図19に示すイメージセンサーの構成と同様である。
図21は、変形例に係るイメージセンサーの単位セルの縦断面図である。
図21に示すように、フォトダイオード110は、単結晶シリコン基板200の上に、コンタクト金属層113と、n型有機半導体領域112と、p型有機半導体領域111とを順に積層した有機光電変換素子である。このフォトダイオード110の出力部(p型領域)に転送トランジスタ1のソース電極3が接続される。
コンタクト金属層113は、増幅トランジスタ30のゲート絶縁膜32に設けられている。コンタクト金属層113を通して、単結晶シリコン基板200およびp型有機半導体領域111は電気的に接続される。
変形例に係るイメージセンサーでは、フォトダイオード110により発生した電荷が転送トランジスタ1を介して信号電荷蓄積部15に蓄えられる。信号電荷蓄積部15は、増幅トランジスタ30のゲート電極34と電気的に接続されており、フォトダイオード110の信号を効率的に増幅できるように構成されている。
このように、フォトダイオードは有機ダイオードでもよく、無機ダイオードを用いた場合と同等の効果が発現される。
【0398】
<他の態様>
第4の実施形態における転送トランジスタ1、リセットトランジスタ20、および増幅トランジスタ30は、トップゲート型であるが、逆スタガ構造などのボトムゲート型でも良い。
第4の実施形態では、フォトダイオード10(光電変換素子)に光を照射する必要があるため、転送トランジスタ1のソース電極3をフォトダイオード10に接続させる例を説明したが、例えばソース電極を透光性導電材料で形成し、光電変換素子との接続の状態を変えた形態でも良い。
第4の実施形態では、増幅トランジスタ30としてバルクトランジスタを用いた例を説明したが、増幅トランジスタのチャネル形成領域は特に限定されず、第4の実施形態の酸化物半導体薄膜2、21を用いてもよく、また、単結晶シリコン半導体以外の公知の半導体層を用いても良い。ただし、増幅トランジスタは、より増幅率の高いシリコン半導体を用いたバルクトランジスタであることが好ましい。
また、例えば、増幅トランジスタと電気的に接続される選択トランジスタを設けても良い。選択トランジスタのチャネル形成領域には、第4の実施形態の酸化物半導体薄膜2、21を用いてもよいし、シリコン半導体や、その他の公知の半導体層を用いても良い。
また、基板はSOI基板であっても良い。「SOI基板」には、シリコンウエハなどの半導体基板に限らず、ガラス基板や石英基板、サファイヤ基板、金属基板などの非半導体基板も含まれる。つまり、絶縁体基板上に半導体材料からなる層を有するものも、広く「SOI基板」に含まれる。
また、転送トランジスタ1、リセットトランジスタ20、および増幅トランジスタ30の構造は第4の実施形態に限定されず、例えば、ゲート電極端にサイドウォールを設けたLDD(Lightly Doped Drain)構造やソース領域およびドレイン領域の一部に低抵抗のシリサイド等を形成した構造であっても良い。
また、増幅トランジスタの上部に絶縁層を設け、その上に薄膜トランジスタを設けても良い。例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタ、増幅トランジスタ、および必要に応じて選択トランジスタの少なくとも1以上を増幅トランジスタの上部に設けても良い。これにより、一画素につき必要なトランジスタの面積を縮小することができる。その結果、集積度の向上、フォトダイオードの受光面積の増加、およびノイズの低減といった効果が得られる。
本発明は以上の説明に限定されず、本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は第4の実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0399】
<イメージセンサーの用途>
第4の実施形態に係るイメージセンサーは、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。例えば、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末など、画像情報を取得する手段を有する電子機器に用いることができる。
【0400】
また、上記実施形態に係るイメージセンサーに用いた酸化物半導体薄膜は、量子トンネル電界効果トランジスタ(FET)に用いることもできる。構造および製法は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
以上が第4の実施形態の説明である。
【実施例】
【0401】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例には限定されない。
(実施例1)
[酸化物焼結体の製造および特性評価]
<酸化物焼結体の製造>
表1または表2に示す割合(原子比)となるように酸化イットリウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化インジウム粉末、および酸化アルミニウム粉末、酸化スズ粉末、酸化セリウム粉末を秤量し、ポリエチレン製のポットに入れて、乾式ボールミルにより72時間混合粉砕し、混合粉末を作製した。
この混合粉末を金型に入れ、49MPa(500kg/cm2をSI単位に換算)の圧力でプレス成型体とした。この成型体を196MPa(2000kg/cm2をSI単位に換算)の圧力で冷間静水圧加圧成形(CIP)により緻密化を行った。次に、この成型体を常圧焼成炉に入れ、大気雰囲気下で、350℃で3時間保持した後に、昇温速度100℃/時間にて昇温し、1460℃にて、36時間保持し、その後、放置して冷却し、酸化物焼結体を得た。
【0402】
<酸化物焼結体の特性評価>
得られた酸化物焼結体について、下記物性を評価した。結果を表1に示す。
(1)XRDによる結晶相
得られた焼結体について、X線回折測定装置Smartlabにより、以下の条件で、焼結体のX線回折(XRD)を測定した。さらに、得られたXRDチャートをJADE6により分析し、焼結体中の結晶相を求めた。さらに、ピーク強度比から、組成を質量%で求めた。
【0403】
・装置:Smartlab(株式会社リガク製)
・X線:Cu-Kα線(波長1.5418×10-10m)
・2θ-θ反射法、連続スキャン(2.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリットDS(発散スリット)、SS(散乱スリット)、RS(受光スリット):1mm
【0404】
(2)相対密度(%)
ここで「相対密度」とは、アルキメデス法により測定される酸化物焼結体の実測密度を、酸化物焼結体の理論密度で除した値の百分率であることを意味する。本発明において、理論密度は以下のように算出されるものである。
理論密度=酸化物焼結体に用いた原料粉末の総重量/酸化物焼結体に用いた原料粉末の総体積
【0405】
例えば、酸化物焼結体の原料粉末として酸化物A、酸化物B、酸化物C、酸化物Dを用いた場合において、酸化物A、酸化物B、酸化物C、酸化物Dの使用量(仕込量)をそれぞれa(g)、b(g)、c(g)、d(g)とすると、理論密度は、以下のように当てはめることで算出できる。
理論密度=(a+b+c+d)/((a/酸化物Aの密度)+(b/酸化物Bの密度)+(c/酸化物Cの密度)+(d/酸化物Dの密度)) なお、各酸化物の密度は、密度と比重はほぼ同等であることから、化学便覧 基礎編I日本化学編 改定2版(丸善株式会社)に記載されている酸化物の比重の値を用いた。
【0406】
(3)バルク抵抗(mΩ・cm)
得られた焼結体のバルク抵抗(mΩ・cm)を、抵抗率計ロレスタ(三菱化学株式会社製)を使用して、四探針法(JIS R1637)に基づき測定した。
測定箇所は酸化物焼結体の中心および酸化物焼結体の四隅と中心との中間点の4点、計5箇所とし、5箇所の平均値をバルク抵抗値とした。
【0407】
表1に、酸化インジウム、酸化イットリウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウム系の焼結体(実施例1-1から1-4、比較例1-1、1-2)の試験結果を示す。実施例1-1、実施例1-2、比較例1-1、1-2のXRDチャートを
図24から
図27に示す。表2に、酸化インジウム、酸化イットリウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、正四価の金属酸化物系の焼結体(実施例1-5、1-6)の試験結果を示す。
【0408】
【0409】
【0410】
表1に示すように、実施例1-1から実施例1-4は、第1の実施形態で規定するIn、Y、Ga、Alの原子比を満たしており、且つ、In2O3結晶相、Y3Ga5O12結晶相およびY3Ga4AlO12相結晶を含んでおり、バルク抵抗が30mΩcm以下であった。これに対して比較例1はAlの原子比が上限外れ、比較例2は下限外れであり、バルク抵抗が30mΩcmを超えていた。
表2に示すように、実施例1-5、実施例1-6は、第1の実施形態で規定するIn、Y、Ga、Alの原子比を満たしており、且つ、In2O3結晶相およびY3Ga4AlO12相結晶を含んでおり、バルク抵抗が30mΩcm以下であった。
【0411】
[薄膜トランジスタの製造、酸化物半導体薄膜の特性評価、および薄膜トランジスタの性能評価]
<酸化物半導体薄膜の製造>
まず、
図28に示すように、酸化物薄膜(符号83)のみをガラス基板(符号81)に載せた試料を作製し、特性を測定、評価した。具体的な手順は以下の通りである。
まず、実施例1から実施例5、比較例1、および比較例2で製造した酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いて、表2の「製造条件」に示す条件でスパッタリングによって、ガラス基板上にて50nmの薄膜(酸化物半導体層)を形成した。スパッタガスとして、高純度アルゴンに高純度酸素1体積%を混合した混合ガスを用い、スパッタリングを行った。
【0412】
次に、得られた試料を大気中にて350℃、30分間加熱処理し、処理後の薄膜の特性を評価した。具体的な評価項目および評価方法は以下の通りである。
【0413】
・ホール効果測定
ホール効果測定用サンプルをホール効果・比抵抗測定装置(ResiTest8300型、東陽テクニカ社製)にセットし、室温においてホール効果を評価し、キャリヤー密度および移動度を求めた。
【0414】
・酸化物半導体薄膜の結晶特性
スパッタ後(膜堆積直後)の加熱していない膜、および加熱直後の膜の結晶質をX線回折(XRD)測定によって評価した。膜が非晶質であるか否かは、XRDで、2θで30°以上、40°以下にピークが現れるか否かで判断した。結果を表2に示す。
<結晶構造の規定>
XRDによって結晶と判断した膜に関して、以下の条件で得られたXRDチャートをJADE6により分析し、焼結体中の結晶相を同定した。
・装置:Smartlab(株式会社リガク製)
・X線:Cu-Kα線(波長1.5418×10-10m)
・2θ-θ反射法、連続スキャン(2.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリットDS(発散スリット)、SS(散乱スリット)、RS(受光スリット):1mm
【0415】
・In2O3結晶の格子定数(10-10m)
XRDにより得られた結晶ピークを用いて、JCPDSカードIn2O3(PDF#06-0416)を出発点としたJADE6による格子定数精密化処理により算出した。
【0416】
・酸化物半導体薄膜のバンドギャップ
石英基板上に成膜し、酸化物半導体薄膜と同様に熱処理した薄膜サンプルの透過スペクトルを測定し、横軸の波長をエネルギー(eV)に、縦軸の透過率を
(αhν)2
(ここで、
α:吸収係数
h:プランク定数
v:振動数
である。)
に変換したあと、吸収が立ち上がる部分に直線をフィッティングし、その直線がベースラインと交わるところのeV値を算出し、バンドギャップとした。結果を表2に示す。
結果を表2の「薄膜」の「成膜+加熱処理(SiO2形成前)」に示す。
【0417】
次に、加熱処理後の酸化物半導体薄膜の上に、基板温度300℃で化学蒸着法(CVD)により、SiO
2膜(保護絶縁膜;層間絶縁膜、
図29の符号85)を形成して
図29に示す試料を作製した。形成後の薄膜のキャリヤー密度と移動度を、「(1)ホール効果測定」と同様の条件で評価した。結果を表2の「薄膜」の「SiO
2形成直後」に示す。
【0418】
次に、SiO2膜を成膜した試料を、後アニールとして350℃、1時間加熱処理を行い、加熱処理後の薄膜のキャリヤー密度と移動度を「SiO2形成直後」と同様の条件で評価した。結果を表2の「薄膜」の「SiO2形成+加熱処理」に示す。
なお、得られた酸化物薄膜は、用いたターゲットと同じ原子比組成を有していた。
【0419】
<薄膜トランジスタの製造>
次に、酸化物薄膜を備える薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、特性を測定、評価した。具体的な手順は以下の通りである。
(1)成膜工程
実施例1~5および比較例1、2で製造した酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングによって、熱酸化膜(ゲート絶縁膜)付きのシリコンウエハー(ゲート電極)上に、メタルマスクを介して50nmの薄膜(酸化物半導体層)を形成した。スパッタガスとして、高純度アルゴンに高純度酸素1体積%を混合した混合ガスを用い、スパッタリングを行った。
【0420】
(2)ソース・ドレイン電極の形成
メタルマスクを用いてスパッタ成膜により、酸化物半導体層にチタン金属からなるソース・ドレイン電極を付けた後、得られた積層体を大気中にて350℃、30分間加熱処理した。完成した薄膜トランジスタ(TFT)の特性を評価した。具体的な評価項目および評価条件は以下の通りである。
【0421】
・飽和移動度(cm2/V・sec)
飽和移動度は、ドレイン電圧に5V印加した場合の伝達特性から求めた。具体的には、伝達特性Id-Vgのグラフを作成し、各Vgのトランスコンダクタンス(Gm)を算出し、線形領域の式により飽和移動度を導いた。Gmは∂(Id)/∂(Vg)によって表され、Vgは-15~25Vまで印加し、その範囲での最大移動度を飽和移動度と定義した。本明細書において特に断らない限り、飽和移動度はこの方法で評価した。上記Idはソース・ドレイン電極間の電流、Vgはソース・ドレイン電極間に電圧Vdを印加したときのゲート電圧である。
【0422】
・閾値電圧(Vth)
閾値電圧(Vth)は、伝達特性のグラフよりId=10-9AでのVgと定義した。結果を表2に示す。
【0423】
・Off電流値およびon-off比
on-off比は、Vg=-10VのIdの値をOff電流値とし、Vg=20VのIdの値をOn電流値として比[On/Off]を決めた。結果を表2に示す。
結果を表3の「TFT」の「成膜+加熱処理(SiO2形成前)」に示す。
【0424】
(3)保護絶縁膜の形成
上記(2)における加熱処理後の酸化物半導体薄膜の上に、基板温度300℃で化学蒸着法(CVD)により、SiO2膜(保護絶縁膜;層間絶縁膜)を形成し、その後、後アニールとして350℃、1時間加熱処理を行った。
SiO2膜成膜後の加熱処理を行ったTFTの特性を「成膜+加熱処理(SiO2形成前)」と同じ条件で評価した。結果を表3の「TFT」の「SiO2形成+加熱処理」に示す。
【0425】
【0426】
表3に示すように、実施例1-Aから実施例1-Eは、CVDでSiO2を製膜し、さらに加熱した後でもTFTの移動度が20cm2/V・secを超えていた。
一方で、比較例1-Aおよび比較例1-Bは、CVDでSiO2を製膜し、さらに加熱するとTFTの薄膜が導通してしまい、トランジスタとしての特性が得られなかった。
【0427】
(実施例2)
<酸化物焼結体の製造>
表4から表8に示した割合となるように酸化物粉末を秤量し、ポリエチレン製ポットに入れて、乾式ボールミルにて72時間混合粉砕し、混合粉末を作製した。
この混合粉末を金型に入れて、78.4MPa(800kg/cm2をSI単位に換算)の圧力でプレス成型体とした。この成型体を98MPa(1000kg/cm2をSI単位に換算)の圧力でCIPにより緻密化した。次にこの成型体を常圧焼成炉に設置し、酸素流通下で、350℃で3時間保持した後に、50℃/時間にて昇温し、1450℃または1480℃にて、36時間焼成し、その後、放置して冷却して酸化物焼結体を得た。
【0428】
<不純物濃度(H、C、N、F、Si、Cl)の測定>
得られた焼結体中の不純物濃度(H、C、N、F、Si、Cl)は、セクタ型ダイナミック二次イオン質量分析計SIMS分析(IMS 7f-Auto、AMETEK CAMECA社製)を用いて定量評価を行った。
具体的には、まず一次イオンCs+を用い、14.5kVの加速電圧で測定対象の焼結体表面から20μmの深さまでスパッタを行う。その後、ラスター100μm□、測定エリア30μm□深さ1μm分を一次イオンでスパッタしながら不純物(H、C、N、F、Si、Cl)の質量スペクトル強度を積分した。
【0429】
さらに質量スペクトルから不純物濃度の絶対値を算出するため、それぞれの不純物をイオン注入によってドーズ量を制御して焼結体に注入し不純物濃度が既知の標準試料を作製した。標準試料についてSIMS分析によって不純物(H、C、N、F、Si、Cl)の質量スペクトル強度を得て、不純物濃度の絶対値と質量スペクトル強度の関係式を検量線とした。
最後に、測定対象の焼結体の質量スペクトル強度と検量線を用い、測定対象の不純物濃度を算出し、これを不純物濃度の絶対値(atom・cm-3)とした。
【0430】
<不純物濃度(B、Na)の測定>
得られた焼結体の不純物濃度(B、Na)についても、SIMS分析(IMS 7f-Auto、AMETEK CAMECA社製)を用いて定量評価を行った。一次イオンをO2
+,一次イオンの加速電圧を5.5kV、それぞれの不純物の質量スペクトルの測定をすること以外は、H、C、N、F、Si、Clの測定と同様の評価により測定対象の不純物濃度の絶対値(atom・cm-3)を得た。
【0431】
<酸化物焼結体の評価>
得られた酸化物を、実施例1と同じ条件で、XRDによる結晶相、相対密度、バルク抵抗を求めた。
さらに、得られた酸化物をターゲットに加工し、以下の条件で成膜耐久評価試験を行った。
【0432】
(成膜耐久評価試験)
まず、酸化物焼結体を、研削研磨して、4インチφ×厚さ5mmのスパッタリングターゲットに加工し、インジウムろうを用いて銅製のバッキングプレートにボンディングした。
【0433】
次に、バッキングプレートをDCマグネトロンスパッタ装置に取り付け、400WのDCスパッタリングを連続5時間実施した。DCスパッタリング後のターゲット表面の状態、具体的にはクラックの有無と黒色異物(ノジュール)の有無を目視で確認した。
【0434】
以上の結果を表4から表8に示す。実施例2-1~2-12のXRDチャートを
図30から
図41に示す。実施例2-1~2-3、実施例2-5~実施例2-12が第2の実施形態に対応する試料である。実施例2-4、実施例2-4-1から実施例2-4-3、及び比較例2-4-4は第3の実施形態に対応する試料である。
【0435】
【0436】
【0437】
【0438】
【0439】
【0440】
実施例は、第2の実施形態の要件のいずれかを満たしており、スパッタリング後のターゲットに異常が観察されなかった。
比較例は、第2の実施形態の要件のいずれも満たさず、スパッタリング後のターゲットにクラックが発生した。
【0441】
実施例2-4、実施例2-4-1から実施例2-4-3、及び比較例2-4-4以外はガーネット化合物が生成された。クラックが抑制されたのは、これが原因と考えられる。
実施例2-4、実施例2-4-1から実施例2-4-3、及び比較例2-4-4ではガーネット化合物は生成されず、ビックスバイト結晶相と酸化スズ結晶相のみが生成された。Ln元素(ここではイッテルビウム元素)を含む化合物も、In元素とSn元素の両方を含む化合物も生成せず、クラックも生じなかった。これは以下の理由と考えられる。
【0442】
スズ元素は酸化インジウムに固溶することが知られているが、酸化イッテルビウムを添加すると、酸化インジウムにイッテルビウム元素が固溶し、スズ元素が固溶できなくなる。そのため、Ln元素を含む化合物も、In元素とSn元素の両方を含む化合物も、生成しなかったものと考えられる。
【0443】
酸化インジウムにイッテルビウム元素が固溶したことは、酸化インジウムの格子定数が純粋な酸化インジウムの格子定数より大きな値であることから推察できる。一方で、酸化スズの存在量も、当初の組成より大きくなっていることから、立方晶相にインジウム元素およびまたはイッテルビウム元素が固溶していることも考えられる。酸化スズの格子定数は、5.12817×10-10mであった。
【0444】
(実施例3)
<酸化物焼結体およびターゲットの強度試験>
まず、第4の実施形態の構成要件を満たす酸化物焼結体を製造してターゲットに加工した。具体的な手順は以下の通りである。
【0445】
まず、実施例3-1から実施例3-27として、インジウム元素、スズ元素、元素、サマリウム元素、イットリウム元素、イッテルビウム元素、およびアルミニウム元素を含む組成の試料を用意した。また、比較例3-1、3-2として、サマリウム元素、イットリウム元素、イッテルビウム元素、およびアルミニウムのいずれも含まない試料を用意した。なお、実施例3-16、3-17、3-21~3-24、比較例3-1は、実施例2における実施例2-1~2-6、および比較例2-1と同じ組成である。
【0446】
各元素の原料は、以下の組成を有し、純度99.99質量%の酸化物粉末を用いた。
インジウム:In2O3
スズ:SnO2
ガリウム:Ga2O3
サマリウム:Sm2O3
イットリウム:Y2O3
イッテルビウム:Yb2O3
アルミニウムAl2O3
【0447】
次に、原料粉末を秤量し、ポリエチレン製のポットに入れて、乾式ボールミルにより72時間混合粉砕し、混合粉末を作製した。
この混合粉末を金型に入れ、49MPa(500kg/cm2をSI単位に換算)の圧力でプレス成型体とした。この成型体を196MPa(2000kg/cm2をSI単位に換算)の圧力でCIPにより緻密化を行った。次に、この成型体を常圧焼成炉に設置して、大気雰囲気下で、350℃で3時間保持した後に、100℃/時間にて昇温し、1480℃にて、42時間焼結した。その後、放置冷却して酸化物焼結体を得た。
【0448】
得られた酸化物焼結体について、以下の条件で酸化物半導体薄膜を製造し、特性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0449】
(1)成膜工程
得られた酸化物焼結体を研削研磨して、4インチφ×5mmtのスパッタリングターゲットを製造した。作製したスパッタリングターゲットを用いて、パルスDCスパッタ法によって、
図28に示すように、ガラス基板81(日本電気硝子株式会社製ABC-G)上に、膜厚50nmの酸化物半導体薄膜83のみを成膜したサンプルを製造した。
成膜条件は表1から表5に示す通りである。
【0450】
(2)熱処理工程
次に、得られたサンプルを表1から表5に示す条件で熱処理した。
【0451】
次に、製造した酸化物半導体薄膜について下記評価を行った。
<ホール効果測定>
まず、ガラス基板81および酸化物半導体薄膜83からなるサンプルから、平面形状が1cm角の正方形となるように試料を切り出した。次に、切り出した試料の4隅に金(Au)を、2mm×2mm以下の大きさ位になるように、メタルマスクを用いてイオンコーターで成膜した。次にAu金属上にインジウムはんだを乗せて、接触を良くしてホール効果測定用サンプルとした。
【0452】
ホール効果測定用サンプルをホール効果・比抵抗測定装置(ResiTest8300型、東陽テクニカ社製)にセットし、室温においてホール効果を評価し、キャリヤー密度および移動度を求めた。
また、得られたサンプルの酸化物半導体薄膜について、誘導プラズマ発光分析装置(ICP-AES、島津製作所社製)で分析した結果、得られた酸化物半導体薄膜の原子組成比が、酸化物半導体薄膜の製造に用いた酸化物焼結体の原子組成比と同じであることを確認した。
【0453】
<酸化物半導体薄膜の結晶特性>
ガラス基板81および酸化物半導体薄膜83からなるサンプルについて、スパッタ後(成膜直後)の加熱していない膜、および成膜後にさらに加熱処理した後の膜の結晶性をX線回折(XRD)測定によって評価した。
膜が非晶質であるか否かは、XRDで、2θで30°以上、40°以下にピークが現れるか否かで判断した。
膜の表面の結晶状態がファセットであるか否かは、EBSD法により確認した。
【0454】
<結晶構造の規定>
XRDによって結晶と判断した膜に関して、以下の条件で得られたXRDチャートをJADE6により分析し、焼結体中の結晶相の同定、及び各ピークの面指数を同定した。
・装置:Smartlab(株式会社リガク製)
・X線:Cu-Kα線(波長1.5418×10-10m)
・2θ-θ反射法、連続スキャン(2.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°・スリットDS(発散スリット)、SS(散乱スリット)、RS(受光スリット):1mm
【0455】
<膜密度の測定>
表14に示す実施例3-28から実施例3-32、および比較例3-3については、以下の手順で膜密度の測定を行った。
まず、ガラス基板81基板および酸化物薄膜83からなるサンプルについて、大気中350℃で1時間アニールした後に、XRR(X-ray Reflectometer)を用い、以下の条件で反射率の測定を行った。
【0456】
得られたスペクトルを用いて、膜厚、密度をパラメーターとしてフィッテングを行い膜密度として求めた。測定装置は(株)リガク製の全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLab、測定条件はCu-Kα1線(波長1.5406×10-10m、グラファイトモノクロメータにて単色化)を用いて、2θ反射率測定、測定範囲2θ=0°~8°、サンプリング間隔:0.01°で測定を行った。
【0457】
<薄膜トランジスタの製造>
さらに、酸化物半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタを以下の手順で製造した。
以下の薄膜トランジスタは、ゲート電極を形成しなかったこと以外は
図20に示す転送トランジスタ1と同様の構成である。
(1)成膜工程
ゲート絶縁膜32付きのゲート電極としての単結晶シリコン基板200上に、メタルマスクを介して酸化物半導体薄膜2を形成した。その他の条件は、前記ガラス基板81上に酸化物半導体薄膜83を形成したときの条件(半導体薄膜の(1)成膜条件)と同様にした。
【0458】
(2)ソース・ドレイン電極の形成
次に、コンタクトホール形状のメタルマスクを用いて、チタン金属をスパッタリングし、ソース電極3およびドレイン電極4として膜厚50nmのチタン膜を成膜した。得られた積層体を大気中にて加熱処理し、薄膜トランジスタを製造した。加熱処理の条件は、前記ガラス基板81上に酸化物半導体薄膜83を形成したときの条件と同様の条件で行った。
【0459】
<薄膜トランジスタの評価>
加熱処理した後の薄膜トランジスタを用いて飽和移動度および閾値電圧を測定した。飽和移動度および閾値電圧の測定は、測定用針をチタン膜に接触させて行った。
【0460】
<飽和移動度>
飽和移動度は、ドレイン電圧を20Vに設定した場合の伝達特性から求めた。具体的に、伝達特性Id-Vgのグラフを作成し、各Vgのトランスコンダクタンス(Gm)を算出し、飽和領域の式により飽和移動度を導いた。なお、Gmは∂(Id)/∂(Vg)によって表され、Vgは-15Vから25Vまで印加し、その範囲での最大移動度を飽和移動度と定義した。本発明において特に断らない限り、飽和移動度はこの方法で評価した。上記Idはソース・ドレイン電極間の電流、Vgはソース・ドレイン電極間に電圧Vdを印加したときのゲート電圧である。
【0461】
<閾値電圧(Vth)>
閾値電圧(Vth)は、伝達特性のグラフよりId=10-9AでのVgと定義した。
【0462】
<on-off比、Off電流>
on-off比は、Vg=-10VのIdの値をOff電流値とし、Vg=20VのIdの値をOn電流値として比[On/Off]を決めた。
【0463】
<PBTS、NBTS>
表14に示す実施例3-28から実施例3-32、および比較例3-3については、PBTS、NBTS(信頼性)も求めた。
PBTS、NBTS(信頼性)は、それぞれVg=20V、20Vを薄膜トランジスタに3600秒印可した時の伝達特性から求めた。具体的に、0秒と3600秒後の伝達特性における閾値電圧の差をΔVthと定義した。
【0464】
<薄膜トランジスタ中の酸化物半導体エリアの結晶構造の同定>
さらに、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製「HF-2000」)を用い、得られたTFTの酸化物半導体エリアの結晶性を評価した。具体的には、酸化物半導体をイオンミリング法により薄片化し、さらにこれを透過型電子顕微鏡により、加速電圧は200kVで10nmエリアの電子回折パターンを観測することで、結晶の空間群と回折パターンの面指数を明らかにした。
以上の結果を表9から表14に示す。
【0465】
【0466】
【0467】
【0468】
【0469】
【0470】
【0471】
表9から表14に示すように、第4の実施形態の要件のいずれかを満たす実施例3-1から実施例3-27では、酸化物半導体薄膜および薄膜トランジスタのいずれも、半導体としての特性が得られていた。
【0472】
また、実施例3-1、3-10、3-16、3-18、3-19、3-21、3-23、3-24、3-28~32については、加熱処理後の酸化物半導体薄膜の表面の結晶状態がファセット状であることが確認された。XRDによる薄膜結晶構造解析の結果から、2θで30°以上、40°以下に(222)面、(400)面に対応する結晶性ピークを有するビックスバイト構造であることを確認し、さらに式(3-20)~(3-23)の関係式を満たす面に対応する結晶性ピークを観測した。
(hkl)面:h+k+l=2n1(n1は自然数)・・式(3-20)
(0kl)面:k=2n2、l=2n3(n2、n3は異なる自然数)・・式(3-21)
(hhl)面:h=n4、l=2n5 (n4、n5は異なる自然数)・・式(3-22)
(h00)面:h=2n6(n6は自然数)・・式(3-23)
また、薄膜トランジスタ作成後の酸化物半導体エリアの電子回折パターンを観察し、得られたパターンと面指数から解析を行った結果、空間群Ia-3(No.206)の立方晶系の結晶を有することが確認された。電子回折パターンにおいては、式3-20~3-23の関係式を満たす面からの回折点を確認した。
【0473】
比較例3-1、3-2は、第4の実施形態の要件のいずれかを満たさないものであり、薄膜が導電体になってしまったため、薄膜および薄膜トランジスタのいずれも、半導体としての特性が不十分であった。
以上の結果から、第4の実施形態に係る組成範囲の酸化物焼結体を用いて成膜した酸化物半導体薄膜は、従来は導体化するインジウム、スズ、ガリウムの組成範囲であっても、Al元素、Y元素、ランタノイド元素Lnから選ばれた1種以上の酸化物を添加することにより、半導体化することが分かった。
また、実施例3-1から実施例3-27の酸化物半導体薄膜を有する薄膜トランジスタは、比較例1の酸化物薄膜を有する薄膜トランジスタに比べ、リーク電流が低減されていた。
【0474】
比較例3-3は、第4の実施形態の要件のいずれかを満たさないものであり、かつ膜密度が実施例3-28~32と比較して低かった。また、比較例3-3は実施例3-28~34と比較して、信頼性(PBTS、NBTS)が悪く不十分な結果となった。以上の結果から、膜密度を上げることで、各元素の欠損が少ない膜を形成でき、デバイスのチャネル層として用いたときに信頼性に優れ安定な特性を得ることができることが分かった。
【0475】
したがって、実施例3-1から実施例3-32の薄膜トランジスタを備えることにより、電位保持機能(例えば電位保持時間)に優れ、長期に安定性の高いイメージセンサーの実現が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0476】
本発明の酸化物焼結体は、スパッタリングターゲット材として有用である。
本発明の酸化物半導体薄膜は、薄膜トランジスタ等の酸化物半導体薄膜として有用である。
【符号の説明】
【0477】
1 :転送トランジスタ
2 :酸化物半導体薄膜
3 :ソース電極
4 :ドレイン電極
5 :ゲート電極
6 :ゲート絶縁膜
10 :フォトダイオード
11 :p型領域
12 :n型領域
15 :信号電荷蓄積部
20 :リセットトランジスタ
21 :酸化物半導体薄膜
22 :ソース電極
23 :ドレイン電極
24 :ゲート電極
25 :配線
30 :増幅トランジスタ
31A :n型領域
31B :n型領域
32 :ゲート絶縁膜
33A :ソース電極
33B :ドレイン電極
34 :ゲート電極
40 :絶縁領域
41 :絶縁膜
50 :ソース電極
51 :原子番号
70B :層間絶縁膜
81 :ガラス基板
83 :酸化物半導体薄膜
100 :単位セル
110 :フォトダイオード
111 :p型有機半導体領域
112 :n型有機半導体領域
113 :コンタクト金属層
200 :単結晶シリコン基板
300 :基板
301 :画素部
302 :第1の走査線駆動回路
303 :第2の走査線駆動回路
304 :信号線駆動回路
310 :容量配線
312 :ゲート配線
313 :ゲート配線
314 :ドレイン電極
316 :トランジスタ
317 :トランジスタ
318 :第1の液晶素子
319 :第2の液晶素子
320 :画素部
321 :スイッチング用トランジスタ
322 :駆動用トランジスタ
501 :量子トンネル電界効果トランジスタ
501A :量子トンネル電界効果トランジスタ
503 :p型半導体層
505 :酸化シリコン層
505A :絶縁膜
505B :コンタクトホール
507 :n型半導体層
509 :ゲート絶縁膜
511 :ゲート電極
513 :ソース電極
515 :ドレイン電極
519 :層間絶縁膜
519A :コンタクトホール
519B :コンタクトホール
803 :バッキングプレート
810 :薄膜トランジスタ
810A :薄膜トランジスタ
820 :シリコンウエハ
830 :ゲート絶縁膜
840 :酸化物半導体薄膜
850 :ソース電極
860 :ドレイン電極
870 :層間絶縁膜
870A :層間絶縁膜
870B :層間絶縁膜
3110 :リセット電源線
3120 :垂直出力線