(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】樹脂微粒子の製造方法、及び樹脂微粒子の製造装置
(51)【国際特許分類】
C08J 3/14 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
C08J3/14 CEW
C08J3/14 CFD
(21)【出願番号】P 2018058449
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】森谷 樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡彦
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184429(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083489(WO,A1)
【文献】特開2009-102457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(但し、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を除く)を、前記樹脂の良溶媒に溶解させて得られる樹脂溶液を、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔から前記樹脂の貧溶媒である液中に
液滴として直接吐出し、樹脂微粒子を形成する粒子形成工程を含むことを特徴とする樹脂微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びポリ乳酸(PLA)の少なくともいずれかである請求項1に記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記吐出孔の内径が、50μm以下である請求項1から2のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂溶液に振動を付与し、前記樹脂溶液を、前記吐出孔から前記液中に
液滴として直接吐出する請求項1から3のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記振動が、1kHz以上である請求項4に記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂溶液が前記貧溶媒である前記液中に
液滴として直接吐出される際に、前記液に対して0.01MPa以上の圧力を付与する請求項1から5のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂溶液が前記貧溶媒である前記液中に
液滴として直接吐出される際に、0.5m/s以上2.0m/s以下の流速で前記液を流動させる請求項1から6のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項8】
循環されている前記貧溶媒中に、前記樹脂溶液を前記吐出孔から
液滴として直接吐出する請求項1から7のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項9】
循環されている前記貧溶媒中に含まれる前記良溶媒を前記貧溶媒から除去する良溶媒除去処理を含む請求項8に記載の樹脂微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂微粒子の製造方法、及び樹脂微粒子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーナノ粒子は、ナノテクノロジー分野において注目されている機能性材料の一つであり、医薬分野やエレクトロニクス分野をはじめ幅広く応用が検討されている。
【0003】
例えば、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)のナノ粒子がドラッグデリバリーシステム(DDS)に応用されており、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のナノ粒子が塗料用樹脂として使用されている。
【0004】
上述したいずれのナノ粒子の製造方法としては、水中エマルジョン溶媒拡散法(EDS法)を用いた製造方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。EDS法は、有機物ポリマーを良溶媒である有機溶媒に溶解させ、その後、水などの貧溶媒中に拡散させることでナノ粒子を得る方法である。
【0005】
また、ESD法以外のナノ粒子の製造方法としては、インクジェットヘッドから樹脂溶液を気相中に噴射し、乾燥させることにより粒子を得る製造方法が提供されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境負荷が小さく、生産効率に優れる樹脂微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂微粒子の製造方法は、
樹脂(但し、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を除く)を、前記樹脂の良溶媒に溶解させて得られる樹脂溶液を、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔から前記樹脂の貧溶媒である液中に吐出し、樹脂微粒子を形成する粒子形成工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、環境負荷が小さく、生産効率に優れる樹脂微粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、液柱共鳴液滴吐出手段の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、樹脂微粒子の製造装置の一例の概略図である。
【
図3A】
図3Aは、樹脂微粒子の製造装置の他の一例の概略図である。
【
図3B】
図3Bは、樹脂微粒子の製造装置の他の一例の概略図である。
【
図4】
図4は、樹脂微粒子の製造装置の他の一例の概略図である。
【
図5】
図5は、
図4の樹脂微粒子の製造装置の溶液吐出手段付近の拡大図である。
【
図6】
図6は、樹脂微粒子の製造装置の他の一例の概略図である。
【
図7】
図7は、実施例1にて作製した粒子の粒度分布を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、環境負荷が小さく、生産効率に優れる樹脂微粒子の製造方法について検討したところ、以下の知見を得た。
上記特許文献1及び2に記載の技術では、溶媒拡散法に用いる良溶媒が一般的に有機溶媒であり、微小な樹脂粒子を得るために、樹脂溶液の濃度を1質量%以下にしている。特に、粒子径が100nm以下の微粒子を得るためには、さらに樹脂溶液の濃度を低くする必要があり、ナノ粒子の製造に多量の有機溶媒が必要となり、環境に与える負荷が大きく、生産効率も悪いという問題がある。
また、上記特許文献3の技術では、樹脂溶液を気相中に噴射し、乾燥させ、固化させるため、得られる粒子の粒子径が数μm程度であり、粒子径が100nm以下の微粒子を製造することが不可能であるという問題がある。
【0011】
本発明者らは、検討を重ねた結果、例えば、高濃度の樹脂溶液を用いても粒子径が100nm未満の樹脂微粒子を得ることができ、製造時における環境負荷が小さく、生産効率に優れる樹脂微粒子の製造方法とするために、以下の構成の樹脂微粒子の製造方法が有効であることを見出した。
(樹脂微粒子の製造方法)
本発明の樹脂微粒子の製造方法は、樹脂(但し、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を除く)を、樹脂の良溶媒に溶解させて得られる樹脂溶液を、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔から樹脂の貧溶媒である液中に吐出し、樹脂微粒子を形成する粒子形成工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
樹脂微粒子の製造方法は、本発明の樹脂微粒子を製造する方法として好適である。
【0012】
本発明の樹脂微粒子の製造方法は、良溶媒と貧溶媒との表面張力差を用いた相互拡散による球形化手段である水中エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)に分類される方法である。
樹脂を用いたESD法では、樹脂を溶解させた溶液を、樹脂の貧溶媒である水、もしくは、水性有機溶剤中に投入し、相互に接触させることで、樹脂を含んだ溶液が拡散され、樹脂が貧溶媒と接触することによって、結晶化して球形微粒子が得られる。
【0013】
<粒子形成工程>
粒子形成工程は、樹脂溶液を、1つ以上の吐出孔から、樹脂の貧溶媒である液中に吐出し、樹脂微粒子を形成する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液流動処理、液循環処理を含むことが好ましい。
【0014】
-樹脂溶液-
樹脂溶液としては、樹脂が当該樹脂の良溶媒に溶解している溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
樹脂溶液は、樹脂を当該樹脂の良溶媒に溶解させて得られる。
【0015】
--樹脂--
樹脂としては、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)以外の樹脂であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、生分解性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
生分解性樹脂としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。
【0016】
---ポリ乳酸(PLA)---
ポリ乳酸(PLA)は、乳酸の重合体である。
以下、「ポリ乳酸」を「PLA」と称することがある。
【0017】
ポリ乳酸(PLA)の重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5,000以上100,000以下が好ましく、10,000以上70,000以下がより好ましく、10,000以上50,000以下が更に好ましく、10,000以上30,000以下が特に好ましい。
【0018】
ポリ乳酸(PLA)は、例えば、ラクチドモノマーを開環重合により製造することができる。
【0019】
ポリ乳酸(PLA)は、市販品であってもよい。市販品は、例えば、和光純薬工業(株)又は多木化学(株)から購入することができる。
【0020】
樹脂微粒子においてポリ乳酸(PLA)がPLA以外の第二成分を含有する場合、樹脂の全量に対するPLA含有量は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50質量%以上が好ましく、50質量%以上99質量%以下がより好ましく、75質量%以上99質量%以下が更に好ましく、80質量%以上99質量%以下が特に好ましい。
【0021】
---ポリフッ化ビニリデン(PVDF)---
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、1,1-ジフルオロエチレンの重合体である。
以下、「ポリフッ化ビニリデン」を「PVDF」と称することがある。
【0022】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、例えば、1,1-ジルフオロエチレンモノマーをラジカル重合により製造することができる。
【0023】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、市販品であってもよい。市販品は、例えば、和光純薬工業(株)又は多木化学(株)から購入することができる。
【0024】
樹脂微粒子においてポリフッ化ビニリデン(PVDF)がPLA以外の第二成分を含有する場合、樹脂の全量に対するPVDF含有量は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ナノ粒子製造の安定性から50質量%以上が好ましく、50質量%以上99質量%以下がより好ましく、75質量%以上99質量%以下が更に好ましく、80質量%以上99質量%以下が特に好ましい。
【0025】
--良溶媒--
良溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコール、ケトン、エーテル、アセトニトリル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
アルコールとしては、例えば、炭素数1~4のアルコールなどが挙げられる。炭素数1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。
ケトンとしては、例えば、炭素数3~6のケトンなどが挙げられる。炭素数3~6のケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
エーテルとしては、例えば、炭素数2~6のエーテルなどが挙げられる。炭素数2~6のエーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。
これらは、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶媒としては、アルコールとケトンとを併用した溶媒が好ましく、エタノールとアセトンとを併用した溶媒がより好ましい。
【0026】
ここで、本発明において、「良溶媒」とは、樹脂の溶解度が大きい溶媒を意味する。「貧溶媒」とは、樹脂の溶解度が小さい溶媒又は樹脂を溶解しない溶媒を意味する。
例えば「良溶媒」及び「貧溶媒」は、温度25℃における溶媒100gに溶解し得る樹脂の質量で規定することができる。本発明においては、「良溶媒」は、樹脂を0.1g以上溶解し得る溶媒であることが好ましい。一方、「貧溶媒」は、樹脂を0.05g以下しか溶解し得ない溶媒であることが好ましい。
【0027】
樹脂溶液中の樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アセトンとエタノールとの混合溶媒を用いた時の濃度(含有量)として、5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。濃度が、5.0質量%以下であると、凝集が生じて粒度分布が悪くなることを防ぐことができる。
なお、樹脂溶液中の樹脂の含有量を調整することによって、製造される樹脂微粒子の粒子径をある程度制御することができる。
【0028】
--貧溶媒--
貧溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水が好ましい。また、作製した樹脂微粒子の安定性を更に確保するために、貧溶媒には安定剤が含有されていてもよい。
【0029】
安定剤としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。また、添加する安定剤の濃度は5質量%以下であることが好ましい。
【0030】
貧溶媒である液としては、例えば、PVA水溶液などが挙げられる。
【0031】
<<吐出孔>>
吐出孔としては、1,000μm未満の内径の孔を有すれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
内径は、1.0μm以上1,000μm未満が好ましく、1.0μm以上500μm以下がより好ましく、1.0μm以上50μm以下がさらに好ましい。
孔が真円でない場合には、孔は、直径1,000μm未満の真円に相当する面積を有していればよい。なお、吐出孔の内径としては、面積円相当径にて算出される値である。
【0032】
吐出孔は、貧溶媒中に入っていてもよいし、入っていなくてもよいが、入っていることが、吐出孔における樹脂溶液の乾燥を防止し、吐出孔における樹脂溶液の乾燥による吐出不良を防止できる点で好ましい。言い換えれば、吐出孔は、貧溶媒と接触していることが好ましい。
貧溶媒中に、吐出孔を入れる距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0mm以上10mm以下が好ましく、2.0mm以上5.0mm以下がより好ましい。言い換えれば、吐出孔を、貧溶媒に1.0mm以上10mm以下没入させることが好ましく、2.0mm以上5.0mm以下没入させることがより好ましい。
【0033】
<<<溶液吐出手段>>>
吐出孔は、例えば、溶液吐出手段に形成されている。
溶液吐出手段としては、例えば、以下の手段などが挙げられる。
(i)インクジェットノズルのような、平面板上に空いている孔から溶液に圧力をかけて吐出する平面板ノズル吐出手段
(ii)SPG膜のような不定形な形状に空いている孔から溶液に圧力をかけて吐出させる吐出手段
(iii)溶液に振動を付与して、液滴として孔から吐出する吐出手段
【0034】
上記(iii)の吐出手段としては、例えば、膜振動タイプ吐出手段、レイリー分裂タイプ吐出手段、液振動タイプ吐出手段、液柱共鳴タイプ吐出手段などが挙げられる。さらに、同時に溶液に圧力をかけて吐出しても良く、これらの手段を組み合わせてもよい。
膜振動タイプ吐出手段としては、例えば、特開2008-292976号公報に記載の吐出手段が挙げられる。
レイリー分裂タイプ吐出手段としては、例えば、特許第4647506号公報に記載の吐出手段が挙げられる。
液振動タイプ吐出手段としては、例えば、特開2010-102195号公報に記載の吐出手段が挙げられる。
その中でも、液柱共鳴法を利用した液柱共鳴タイプ吐出手段に圧力を加える手段がより好ましい。
【0035】
液柱共鳴法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液柱共鳴液室内に収容された樹脂溶液に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、定在波の腹となる領域に定在波の振幅方向に形成された吐出孔から樹脂溶液を吐出することなどが挙げられる。
液柱共鳴法としては、後述する液柱共鳴液滴吐出手段により好適に行うことができる。
【0036】
<<液流動処理>>
液流動処理としては、樹脂溶液が貧溶媒である液中に吐出される際に、液を流動させる処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液の流速は、0.5m/s以上2.0m/s以下が好ましく、1.0m/sがより好ましい。
液流動処理を行うことにより、樹脂微粒子の合着を抑制することができる。
【0037】
液を流動させる液流動手段としては、例えば、液を撹拌する撹拌部材などが挙げられる。撹拌部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、撹拌翼などが挙げられる。
【0038】
<<液循環処理>>
粒子形成工程においては、循環されている液中に、樹脂溶液を、吐出孔から液中に吐出することが、樹脂微粒子同士の合着を防止する点で好ましい。
そのために、液を循環させる液循環処理をすることが好ましい。
液循環処理では、例えば、液について、循環部材としてのポンプを用いて、循環経路を有する貧溶媒収容部材内を循環させる。
【0039】
<<<良溶媒除去処理>>>
液を循環させる場合には、液に樹脂の良溶媒が蓄積される。液において良溶媒が蓄積されると、樹脂微粒子同士の合着が発生しやすくなる。その点において、循環されている液に含まれる良溶媒を液から除去する良溶媒除去処理を行うことが好ましい。
良溶媒除去処理としては、液からは良溶媒を除去することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液を加熱すること及び液を減圧させることの少なくともいずれかにより、良溶媒を蒸発させて液から除去する方法などが挙げられる。
【0040】
<その他の工程>
その他の工程としては、例えば、良溶媒除去工程、ろ過滅菌工程などが挙げられる。
【0041】
<<良溶媒除去工程>>
良溶媒除去工程は、作製した樹脂微粒子から良溶媒を取り出す工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂微粒子を含んだ液を減圧処理にかけることで、樹脂の良溶媒のみを揮発させて、樹脂微粒子を含んだ懸濁液を得る方法などが挙げられる。
【0042】
<<ろ過滅菌工程>>
ろ過滅菌工程としては、良溶媒除去工程後の懸濁液を、滅菌フィルターにてろ過を行う工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ろ過に供される懸濁液は、貧溶媒により希釈してもよいし、希釈しなくてもよい。
ろ過を行う前には、懸濁液に超音波を印加することが好ましい。そうすることで、懸濁液中の樹脂微粒子の凝集が解消され、樹脂微粒子がフィルターを通過しやすくなる。
【0043】
滅菌フィルターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナイロンメンブレンフィルターなどが挙げられる。
滅菌フィルターのろ過精度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm以上0.45μm以下が好ましい。
滅菌フィルターは市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、LifeASSURTM ナイロンメンブレンフィルターカートリッジ(ろ過精度、0.1μm)などが挙げられる。
【0044】
(樹脂微粒子の製造装置)
本発明の樹脂微粒子の製造装置は、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)以外の樹脂が樹脂の良溶媒に溶解している樹脂溶液を収容する樹脂溶液収容器と、樹脂溶液収容器と接続され、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔を有する溶液吐出手段と、樹脂の貧溶媒である液を収容する貧溶媒収容部材と、を有し、液流動手段を有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0045】
本発明の樹脂微粒子の製造装置について以下に説明するが、本発明の樹脂微粒子の製造方法において説明した用語と同じ用語は、以下において詳細な説明がない場合、本発明の樹脂微粒子の製造方法において説明した用語と同じ意味を有し、その用語の例示、及び好ましい態様は、樹脂微粒子の製造方法において説明した例示、及び好ましい態様がそれぞれ挙げられる。
【0046】
<樹脂溶液収容器>
樹脂溶液収容器としては、樹脂溶液を収容する容器である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、可とう性があってもよいし、可とう性がなくてもよい。
樹脂溶液収容器の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂溶液収容器は、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
樹脂溶液収容器の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂溶液収容器は、密閉容器であってもよいし、非密閉容器であってもよい。
【0047】
樹脂溶液において、樹脂は、樹脂の良溶媒に溶解している。
【0048】
<溶液吐出手段>
溶液吐出手段としては、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
溶液吐出手段は、樹脂溶液収容器と接続されている。溶液吐出手段と、樹脂溶液収容器とを接続する方法としては、樹脂溶液収容器から溶液吐出手段に樹脂溶液を供給しうる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、管(パイプ、チューブ等)などが挙げられる。
【0049】
溶液吐出手段は、樹脂溶液に振動を付与する振動付与部材を有することが好ましい。
振動としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、周波数としては1kHz以上が好ましく、150kHz以上がより好ましく、300kHz以上500kHz以下がさらに好ましい。振動が1kHz以上であると、吐出孔から噴射された液柱を再現よく液滴化することができ、150kHz以上であると生産効率を向上させることができる。
【0050】
振動付与部材を有する溶液吐出手段としては、例えば、インクジェットなどが挙げられる。インクジェットとしては、例えば、液柱共鳴法、膜振動法、液振動法、レイリー分裂法、サーマル法などを用いた手段などが挙げられる。
【0051】
<貧溶媒収容部材>
貧溶媒収容部材としては、樹脂の貧溶媒である液を収容する部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、可とう性があってもよいし、可とう性がなくてもよい。
貧溶媒収容部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、貧溶媒収容部材は、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
【0052】
貧溶媒収容部材中の貧溶媒は、樹脂微粒子を製造する際には、撹拌されていてもよいし、撹拌されていなくてもよいが、撹拌されていることが好ましい。
【0053】
溶液吐出手段の吐出孔は、貧溶媒収容部材中の貧溶媒中に入っていてもよいし、入っていなくてもよいが、入っていることが、吐出孔における樹脂溶液の乾燥を防止し、吐出孔における樹脂溶液の乾燥による吐出不良を防止できる点で好ましい。言い換えれば、溶液吐出手段の吐出孔は、貧溶媒収容部材中の貧溶媒と接触していることが好ましい。
貧溶媒収容部材中の貧溶媒中に、溶液吐出手段の吐出孔を入れる距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0mm以上10mm以下が好ましく、2.0mm以上5.0mm以下がより好ましい。言い換えれば、溶液吐出手段の吐出孔を、貧溶媒収容部材中の貧溶媒に1.0mm以上10mm以下没入させることが好ましく、2.0mm以上5.0mm以下没入させることがより好ましい。
【0054】
貧溶媒収容部材は、液を循環可能な循環経路を有することが好ましい。液を循環可能な循環経路としては、例えば、配管のみから構成される循環経路であってもよいし、配管と、タンクとを有する循環経路であってもよい。
【0055】
<<良溶媒除去部材>>
液を循環させる場合には、液に樹脂の良溶媒が蓄積される。液において良溶媒が蓄積されると、樹脂微粒子同士の合着が発生しやすくなる。その点において、循環されている液に含まれる良溶媒を液から除去する良溶媒除去部材を有することが好ましい。
良溶媒除去部材としては、液からは良溶媒を除去することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液を加熱する加熱部、液を減圧する減圧部などが挙げられる。加熱部及び減圧部の少なくともいずれかを用いると、良溶媒を蒸発させて液から除去することができる。
【0056】
<液流動手段>
液流動手段としては、貧溶媒収容部材内の貧溶媒である液を流動させる手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液を撹拌する撹拌部材などが挙げられる。
【0057】
液流動手段を用いることにより、樹脂微粒子の合着を抑制することができる。
【0058】
溶液吐出手段の一態様である液柱共鳴液滴吐出手段について以下に説明する。
図1は、液柱共鳴液滴吐出手段11の概略断面図である。液柱共鳴液滴吐出手段11は、液共通供給路17及び液柱共鳴液室18を有する。液柱共鳴液室18は、長手方向の両端の壁面のうち一方の壁面に設けられた液共通供給路17と連通されている。また、液柱共鳴液室18は、両端の壁面と連結する壁面のうち一つの壁面に液滴21を吐出する吐出孔19と、吐出孔19と対向する壁面に設けられ、かつ液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生する振動発生手段20とを有する。なお、振動発生手段20には、図示していない高周波電源が接続している。また、液柱共鳴吐出手段11から吐出した液滴21を搬送する気流を供給する気流通路12を設けていてもよい。
【0059】
樹脂溶液14は、図示されない液循環ポンプにより液供給管を通って、液柱共鳴液滴形成ユニットの液共通供給路17内に流入し、液柱共鳴液滴吐出手段11の液柱共鳴液室18に供給される。そして、樹脂溶液14が充填されている液柱共鳴液室18内には、振動発生手段20によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波において振幅の大きな部分であって圧力変動が大きい、定在波の腹となる領域に配置されている吐出孔19から液滴21が吐出される。この液柱共鳴による定在波の腹となる領域は、定在波の節以外の領域であり、定在波の圧力変動が液を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域が好ましく、圧力定在波の振幅が極大になる位置(速度定在波としての節)から極小になる位置に向かって±1/4波長の領域がより好ましい。
【0060】
定在波の腹になる領域であれば、吐出孔が複数で開口されていても、それぞれからほぼ均一な液滴を形成することができ、更には効率的に液滴の吐出を行うことができ、吐出孔の詰まりも生じ難くなる。なお、液共通供給路17を通過した樹脂溶液14は図示されない液戻り管を流れて樹脂溶液14に戻される。液滴21の吐出によって液柱共鳴液室18内の樹脂溶液14の量が減少すると、液柱共鳴液室18内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用し、液共通供給路17から供給される樹脂溶液14の流量が増加する。そして、液柱共鳴液室18内に樹脂溶液14が補充される。そして、液柱共鳴液室18内に樹脂溶液14が補充されると、液共通供給路17を通過する樹脂溶液14の流量が元に戻る。
【0061】
液柱共鳴液滴吐出手段11における液柱共鳴液室18は、金属、セラミックス、シリコーンなどの駆動周波数において液体の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ材質により形成されるフレームがそれぞれ接合されて形成されている。また、
図1に示すように、液柱共鳴液室18の長手方向の両端の壁面間の長さLは、液柱共鳴原理に基づいて決定される。更に、液柱共鳴液室18は、生産性を飛躍的に向上させるために1つの液滴形成ユニットに対して複数配置されていることが好ましい。液柱共鳴液室18の数としては、特に制限はなく、1個以上2,000個以下が好ましい。また、液柱共鳴液室毎に、液供給のための流路が液共通供給路17から連通接続されており、液共通供給路17には複数の液柱共鳴液室18と連通している。
【0062】
また、液柱共鳴液滴吐出手段11における振動発生手段20は所定の周波数で駆動できるものであれば特に制限はないが、圧電体を弾性板9に貼りあわせた形態が好ましい。周波数としては、生産性の点から、150kHz以上がより好ましく、300kHz以上500kHz以下がさらに好ましい。弾性板は、圧電体が接液しないように液柱共鳴液室の壁の一部を構成している。圧電体は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスなどが挙げられ、一般に変位量が小さいため積層して使用されることが多い。この他にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電ポリマーや、水晶、LiNbO3、LiTaO3、KNbO3等の単結晶などが挙げられる。更に、振動発生手段20は、1つの液柱共鳴液室毎に個別に制御できるように配置されていることが好ましい。また、上記の1つの材質のブロック状の振動部材を液柱共鳴液室の配置にあわせて、一部切断し、弾性板を介してそれぞれの液柱共鳴液室を個別制御できるような構成が好ましい。
【0063】
さらに、吐出孔19の開口を多数設けることができ、生産効率が高くなる点から、吐出孔19を液柱共鳴液室18内の幅方向に設ける構成を採用することが好ましい。また、吐出孔19の開口配置によって液柱共鳴周波数が変動するため、液柱共鳴周波数は液滴の吐出を確認して適宜決定することが望ましい。
【0064】
液柱共鳴における液滴形成のメカニズムについては、例えば、特開2011-194675号公報の段落〔0011〕~〔0020〕を参照されたい。
【0065】
次に、本発明の樹脂微粒子の製造装置の一例を、図を用いて説明する。
図2は、樹脂微粒子の製造装置の一例を示す概略図である。樹脂製造装置1は、主に、樹脂溶液収容器13、溶液吐出手段2、及び貧溶媒収容部材61を有する。溶液吐出手段2には、樹脂溶液14を収容する樹脂溶液収容器13と、樹脂溶液収容器13に収容されている樹脂溶液14を液供給管16を通して溶液吐出手段2に供給し、更に液戻り管22を通って樹脂溶液収容器13に戻すために液供給管16内の樹脂溶液14を圧送する液循環ポンプ15とが連結されており、樹脂溶液14を随時溶液吐出手段2に供給できる。
溶液吐出手段2は、例えば、
図1に示す液柱共鳴液滴吐出手段11を備えている。
【0066】
樹脂溶液14は、溶液吐出手段2から、貧溶媒収容部材61に収容された貧溶媒62中に液滴21として吐出される。
液滴21が貧溶媒62と接することにより、樹脂溶液が拡散され、樹脂が貧溶媒と接触することによって、結晶化して球形微粒子が得られる。
【0067】
次に、本発明の樹脂微粒子の製造装置の他の一例を、
図3A及び
図3Bを用いて説明する。
図3A及び
図3Bは、撹拌部材を備える樹脂微粒子の製造装置の一例である。
図3A及び
図3Bの樹脂微粒子の製造装置1は、ガラス容器である貧溶媒収容部材61内の貧溶媒62に樹脂溶液を吐出する場合の概略図である。
図3Aにおいては、溶液吐出手段2の吐出部は、貧溶媒62に浸漬されておらず、
図3Bにおいては、溶液吐出手段2の吐出部は、貧溶媒62に浸漬された状態で、貧溶媒62に樹脂溶液を吐出する。
図3A及び
図3Bの樹脂微粒子の製造装置1は、撹拌翼51を有する撹拌部材50を備える。撹拌翼51は、貧溶媒収容部材61内の貧溶媒62に浸っている。
溶液吐出手段2により貧溶媒62に樹脂溶液を吐出する際に、撹拌翼51を回転させ、貧溶媒61を撹拌することにより、液滴21から形成される樹脂微粒子同士の合着を防ぐことができる。
【0068】
次に、本発明の樹脂微粒子の製造装置の更に他の一例を、図を用いて説明する。
樹脂溶液が貧溶媒に接することで形成される樹脂微粒子同士の合着を防ぐ方法としては、溶液吐出手段の吐出部に貧溶媒の流れを付与することが最も好ましい。その点において、
図4及び
図5の態様が好ましい。
図4は、溶液吐出手段の吐出部に貧溶媒の流れを付与できる樹脂微粒子の製造装置の一例の模式図である。
図4の樹脂微粒子の製造装置は、溶液吐出手段2と、貧溶媒収容部材61と、撹拌部材50と、ポンプ31とを有する。
貧溶媒収容部材61は、液を循環可能な循環経路を有し、循環経路の途中には、貧溶媒収容部材61の一部としてのタンク63を備える。
図5は、
図4における溶液吐出手段2付近(破線部)の拡大図である。
タンク63内部に投入された貧溶媒62は、ポンプ31によって溶液吐出手段2を通り貧溶媒収容部材61内を循環される。その際、溶液吐出手段2の吐出孔から樹脂溶液が貧溶媒62中に吐出される。貧溶媒62である液に流れが付与されることにより液滴21により形成される樹脂微粒子の合着が抑制される。溶液吐出手段2の吐出孔における貧溶媒62の流速は0.3m/s以上が好ましく、1.0m/sがより好ましい。
タンク63に撹拌翼51を有する撹拌部材50が備えられており、撹拌翼51により貧溶媒62である液を撹拌させることで、樹脂微粒子の合着がより抑制できる。
【0069】
次に、本発明の樹脂微粒子の製造装置の更に他の一例を、図を用いて説明する。
液中の良溶媒の量が増加すると、樹脂微粒子の合着が増え粒子径は粗大化しやすくなる。これを防止するには、液から良溶媒を除去し、液中の良溶媒の量を少なく維持することが好ましい。
図6は、良溶媒を除去する良溶媒除去部材を備える樹脂微粒子の製造装置の一例の概略図である。
図6の樹脂微粒子の製造装置は、溶液吐出手段2と、貧溶媒収容部材61と、撹拌部材50と、ポンプ31と、良溶媒除去部材としての加熱部33及び減圧部36(真空ポンプ)とを有する。
溶液吐出手段2付近の構成は、
図4及び
図5と同じである。
貧溶媒収容部材61は、液を循環可能な循環経路を有し、循環経路の途中には、貧溶媒収容部材61の一部としてのタンク63を備える。
タンク63内部に投入された貧溶媒62は、ポンプ31によって溶液吐出手段2を通り貧溶媒収容部材61内を循環される。その際、溶液吐出手段2の吐出孔から樹脂溶液が貧溶媒62中に吐出される。貧溶媒62である液に流れが付与されることにより液滴21により形成される樹脂微粒子の合着が抑制される。
更に、タンク63に加熱部33及び減圧部36を備えることで、貧溶媒62である液中に含まれる良溶媒を除去できる。例えば、加熱部33により貧溶媒62である液を加熱しながら、減圧部36により液を減圧する。そうすると、貧溶媒よりも沸点が低い良溶媒は、蒸発する。蒸発した良溶媒は、凝縮器35により恐縮され、回収管37を通じて回収される。
【0070】
本発明の樹脂微粒子の製造方法及び製造装置により製造される樹脂微粒子としては、以下の特性を有する。
【0071】
<樹脂微粒子の特性>
<<平均体積基準粒径>>
樹脂微粒子の平均体積基準粒径は、100nm以下であり、10nm以上50nm以下が好ましく、10nm以上40nm以下がより好ましく、10nm以上30nm以下が特に好ましい。
【0072】
樹脂微粒子の平均体積基準粒径は、動的光散乱法による濃厚系アナライザー(「FPAR-1000」、大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
<樹脂溶液作製>
ポリフッ化ビニリデン(PVDF、KYNAR ADS2、アルケマ社製)5質量部を、アセトンとテトラヒドロフラン(THF、和光純薬工業社製)をそれぞれ497.5質量部混合した良溶媒にスターラーを用いて溶解させ、樹脂溶液1を得た。
また、ポリビニルアルコール(PVA、363170,Aldrich社製)1.5質量部をイオン交換水498.5質量部に溶解させて、PVDFの貧溶媒である0.3質量%PVA水溶液を作製し、
図2Aに示すガラス製の貧溶媒収容部材24内に投入した。
【0075】
<樹脂微粒子作製>
樹脂溶液を
図2aに示す樹脂微粒子の製造装置を用いて、撹拌装置23の回転速度を200rpmとした貧溶媒(0.3質量%PVA水溶液)中に投入し、樹脂微粒子(PVDF微粒子)が形成された液を得た。この時、貧溶媒の温度は、25℃であった。
ノズル径 :50μm
ノズル孔の数 :384個
吐出手段 :平面板ノズル
送液圧力 :0.03MPa
溶液吐出方式 :加圧(圧縮空気)
駆動周波数 :0kHz
圧電体への印加電圧 :0V
ノズルの貧溶媒への没入深さ :3.0mm
【0076】
<良溶媒除去>
次に、液を200rpmで撹拌しながら、-50kPa、24時間減圧処理によって良溶媒(アセトン及びエタノール)を除去して、樹脂微粒子が入った懸濁液(PVDF微粒子懸濁液)を得た。
【0077】
<粒度分布評価>
得られたPVDF微粒子懸濁液について、濃厚系アナライザー(「FPAR-1000」、大塚電子株式会社製)による動的光散乱法を用いて平均体積基準粒径を測定した。結果を、表2に示す。また、粒度分布を、
図7に示す。
測定に供するPVDF微粒子懸濁液におけるPVDF微粒子の濃度を0.1質量%に調整した。1回あたりの積算時間は180秒とし、Contin法での平均体積基準粒径(nm)を求めた。3回測定した値の平均値を本発明における平均体積基準粒径(nm)とした。
【0078】
<生産効率評価>
下記評価基準により生産効率を評価した。
【0079】
〔評価基準〕
○:樹脂溶液濃度が0.5質量%以上、かつ製造された樹脂微粒粒子の平均体積基準粒径
が100nm以下
×:樹脂溶液濃度が0.5質量%未満、又は製造された樹脂微粒粒子の平均体積基準粒径
が100nm以上
【0080】
<総合評価>
上記の各評価のうち、最も低い判定結果を、総合評価とした。結果を表2に示す。
【0081】
(実施例2)
実施例1において、樹脂溶液のPVDF濃度を0.5質量%から1.0質量%に、イオン交換水のみの貧溶媒に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂微粒子(PVDF微粒子)を得た。
実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
【0082】
(実施例3)
実施例1において、樹脂をPVDFからポリ乳酸(PLA、RESOMER R203H、SIGMA ALDRICH社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂微粒子(PLA微粒子)を得た。
実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
【0083】
(実施例4)
実施例1において、下記吐出条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂微粒子(PVDF微粒子)を得た。
実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
ノズル径 :10μm
ノズル孔の数 :384個
吐出手段 :平面板ノズル
送液圧力 :0MPa
溶液吐出方式 :液柱共鳴
駆動周波数 :320kHz
圧電体への印加電圧 :10V
ノズルの貧溶媒への没入深さ :3.0mm
【0084】
(実施例5)
実施例4において、樹脂をポリ乳酸(PLA)に変更した以外は、実施例4と同様にして樹脂微粒子(PLA微粒子)を得た。
実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
【0085】
(実施例6)
実施例1において、樹脂をポリ乳酸(PLA)に変更し、吐出手段を平面板ノズルから2流体ノズル(装置:6552-1/8JACミニ型、スプレーイングシステムジャパン株式会社製)に変更し、下記吐出条件にした以外は、実施例1と同様にして、樹脂微粒子(PLA微粒子)を得た。結果を表2に示す。
ノズル径 :500μm
液滴化用エアー圧力 :0.1MPa
【0086】
(実施例7)
実施例1において、樹脂をポリ乳酸(PLA)に変更し、吐出手段を平面板ノズルから膜振動ノズル(消臭パフパフの膜振動ノズル、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社製)に変更し、下記吐出条件にした以外は、実施例1と同様にして、樹脂微粒子(PLA微粒子)を得た。実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
吐出孔の形状 :真円
ノズル径 :5μm
ノズル孔の数 :85個
印加電圧 :20.0V
駆動周波数 :52kHz
ノズルプレートの外径 :8.0mm
ノズルプレートの平均厚み :20μm
ノズルプレートの材質 :ニッケル板
【0087】
(比較例1)
実施例1において、溶液吐出方式を液柱共鳴法から内径1.0mmのテフロン(登録商標)チューブに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂微粒子(PDVF微粒子)を得た。実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
【0088】
(比較例2)
比較例1において、樹脂溶液のPDVF濃度を0.5質量%から0.1質量%に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、PDVF微粒子を得た。実施例1と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
【0089】
(比較例3)
実施例3において、溶液吐出手段を平面板ノズルから内径1.0mmのテフロン(登録商標)チューブに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、樹脂微粒子(PLA微粒子)を得た。実施例3と同様の方法により、樹脂微粒子を評価した。結果を表2に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例1から7においては、樹脂溶液濃度、ノズル径によって多少の平均体積基準粒径の変化はみられるが、いずれの条件においても平均体積基準粒径が100μm未満の微小なナノ粒子を調製することができた。また、貧溶媒にPVAなどの添加物を加えることなく、100nm以下の樹脂微粒子を得ることができた。一方、比較例1から3においては、同一樹脂溶液濃度の樹脂溶液から調製される樹脂微粒子の平均体積基準粒径が、実施例と比較して顕著に粗大化していた。例えば、実施例1と比較例1とを比較すると、調整された粒子の平均体積基準粒径は約2.3倍の差が生じた。また、比較例の溶液吐出手段において、100nm以下のナノ粒子を調製する場合には、樹脂溶液の濃度を0.1質量%まで低下させる必要があった。本発明では、樹脂溶液の濃度を1質量%以上にしても100nm以下のナノ粒子を調製することができ、樹脂を溶解する有機溶媒の使用量を1/10以下まで減らすことができるため、生産効率の向上と環境負荷低減に貢献することができる。
【0093】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1> 樹脂(但し、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を除く)を、前記樹脂の良溶媒に溶解させて得られる樹脂溶液を、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔から前記樹脂の貧溶媒である液中に吐出し、樹脂微粒子を形成する粒子形成工程を含むことを特徴とする樹脂微粒子の製造方法である。
<2> 前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びポリ乳酸(PLA)の少なくともいずれかである前記<1>に記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<3> 前記吐出孔が、50μm以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<4> 前記樹脂溶液に振動を付与し、前記樹脂溶液を、前記吐出孔から前記液中に吐出する前記<1>から<3>のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<5> 前記振動が、1kHz以上である前記<4>に記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<6> 前記樹脂溶液が前記貧溶媒である前記液中に吐出される際に、前記液に対して0.01MPa以上の圧力を付与する前記<1>から<5>のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<7> 前記樹脂溶液が前記貧溶媒である前記液中に吐出される際に、0.5m/s以上2.0m/s以下の流速で前記液を流動させる前記<1>から<6>のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<8> 循環されている前記貧溶媒中に、前記樹脂溶液を前記吐出孔から吐出する前記<1>から<7>のいずれかに記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<9> 循環されている前記貧溶媒中に含まれる前記良溶媒を前記貧溶媒から除去する良溶媒除去処理を含む前記<8>に記載の樹脂微粒子の製造方法である。
<10> 樹脂(但し、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を除く)が前記樹脂の良溶媒に溶解している樹脂溶液を収容する樹脂溶液収容器と、
前記樹脂溶液収容器と接続され、1,000μm未満の内径の孔を有する1つ以上の吐出孔を有する溶液吐出手段と、
前記樹脂の貧溶媒である液を収容する貧溶媒収容部材と、を有することを特徴とする樹脂微粒子の製造装置である。
【0094】
<1>から<9>に記載の樹脂微粒子の製造方法、及び<10>に記載の樹脂微粒子の製造装置によれば、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 樹脂微粒子の製造装置
2 溶液吐出手段
9 弾性板
11 液柱共鳴液滴吐出手段
13 樹脂溶液収容器
14 樹脂溶液
19 吐出孔
20 振動発生手段
21 液滴
61 貧溶媒収容部材
62 貧溶媒
【先行技術文献】
【特許文献】
【0096】
【文献】特許第4856752号公報
【文献】特許第6007992号公報
【文献】特開2013-212494号公報