IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】皮革様シート及び繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20220622BHJP
   D06M 13/152 20060101ALI20220622BHJP
   D06M 13/268 20060101ALI20220622BHJP
   D06P 1/08 20060101ALI20220622BHJP
   D06P 3/52 20060101ALI20220622BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20220622BHJP
【FI】
D06N3/00
D06M13/152
D06M13/268
D06P1/08
D06P3/52
D06M101:32
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019521202
(86)(22)【出願日】2018-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2018020344
(87)【国際公開番号】W WO2018221452
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2017108178
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 道憲
(72)【発明者】
【氏名】安藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】菱田 弘行
(72)【発明者】
【氏名】村手 靖典
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-209551(JP,A)
【文献】特開2009-074197(JP,A)
【文献】米国特許第04604320(US,A)
【文献】特開平04-057978(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
D06M13/00-15/715
D06P1/00-7/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維を含む繊維構造体と、前記繊維構造体の内部空隙に付与された高分子弾性体とを含み、
スルホン酸基を有する多価フェノール誘導体をさらに含む皮革様シート。
【請求項2】
前記アゾ結合を有する青色カチオン染料がC.I.Basic Blue 54を含む請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
記カチオン染料可染性ポリエステル繊維が繊度0.05~1dtexである請求項1または2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
80℃,湿度90%,48時間の条件で湿熱処理したときに、湿熱処理前後の色差(ΔE)が、ΔE≦2である請求項1~3の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項5】
色座標空間(L***色空間)においてL*≦35の表面を有する請求項1~4の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項6】
表面が起毛処理されたスエード調人工皮革である請求項1~5の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項7】
アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維と、スルホン酸基を有する多価フェノール誘導体とを含むことを特徴とする繊維構造体。
【請求項8】
前記アゾ結合を有する青色カチオン染料がC.I.Basic Blue 54を含む請求項7に記載の繊維構造体。
【請求項9】
記カチオン染料可染性ポリエステル繊維が0.05~1dtexの繊度を有する、請項7または8に記載の繊維構造体。
【請求項10】
80℃,湿度90%の条件で48時間湿熱処理したときの色差(ΔE)が、ΔE≦2である表面を有する請求項7~9の何れか1項に記載の繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ結合を有する青色カチオン染料で染色された皮革様シート及び繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工皮革等の皮革様シートに含まれる繊維構造体としては、耐熱性や成形性に優れる点からポリエステル繊維の不織布が好ましく用いられている。従来、ポリエステル繊維を染色するための染料としては発色性に優れる点から分散染料が広く用いられていた。しかしながら、分散染料は熱や圧力、または溶剤の存在下で移行しやすいという問題があった。このような問題を解決するために、カチオン染料に対する可染性を賦与したカチオン染料可染性ポリエステル繊維をカチオン染料で染色することも試みられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、カチオン染料で染色された立毛調人工皮革であって、0.07~0.9dtexの繊度を有するカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布及び不織布の内部に付与された高分子弾性体を含み、L*値≦50、荷重0.75kg/cm,50℃,16時間でのPVCへの色移行性評価における色差級数判定が4級以上、厚さ1mm当たりの引裂強力が30N以上、剥離強力が3kg/cm以上、であるカチオン染料で染色された立毛調人工皮革を開示する。
【0004】
ところで、カチオン染料のうち、青色カチオン染料で染色されたカチオン染料可染性繊維の繊維構造体には欠点があった。具体的には、青色カチオン染料は鮮やかな青色を発色しにくかったり、耐光堅牢性が低かったりして、鮮やかな青色の発色と高い耐光堅牢性を両立させることが困難であった。また、とくに繊度が低い極細繊維は、青色カチオン染料を多く吸尽させなければ鮮やかな青色を発色せず、この場合には褪色しやすくなるという問題があった。
【0005】
青色カチオン染料として、例えば、下記特許文献2は、芳香族ポリアミド繊維を染色するための染料の一例として、アゾ系の青色染料としてC.I.Basic Blue 54を例示している。
【0006】
また、カチオン染料で染色された繊維構造体に関し、下記特許文献3は、チアジン系青色カチオン染料であるC.I.Basic Blue 9で染色され、タンニン酸系化合物で処理された全芳香族ポリアミド繊維構造物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2016/147671号パンフレット
【文献】特開2013-209776号公報
【文献】特開2009-74197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、青色カチオン染料の中でも、C.I.Basic Blue 54のようなアゾ結合を有する青色カチオン染料は、鮮やかな青色の発色性と耐光性とを両立する染料であることを知見している。しかしながらアゾ結合を有する青色カチオン染料は、高温多湿の環境において加水分解されて変色し、徐々に赤味を帯びてくるという問題に気付いた。このため、例えば、高温多湿となる船によるコンテナ輸送や倉庫など、長期保管されるような状況下では、アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色された繊維は変色すると思われる。従って、アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色された皮革様シートや繊維構造体は、発色性と耐光性に優れているものの、実用上、耐湿熱変色性を改善する必要があることに気付いた。
【0009】
本発明は、耐湿熱変色性を向上させた、アゾ結合を有する青色カチオン染料で染色された皮革様シートまたは繊維構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、C.I.Basic Blue 54等のアゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維を含む繊維構造体と、繊維構造体の内部空隙に付与された高分子弾性体とを含み、スルホン酸基を有する多価フェノール誘導体をさらに含む皮革様シートである。このようなアゾ結合を有する青色カチオン染料で染色された皮革様シートは、耐湿熱変色性に優れる。
【0011】
また、アゾ結合を有する青色カチオン染料としてはC.I.Basic Blue 54が発色性にとくに優れるために、鮮やかな青色の発色性、耐光性、耐湿熱変色性を兼ね備えた皮革様シートが得られる点から好ましい。
【0012】
また、繊維構造体を形成する繊維が繊度0.05~1dtexのような極細繊維である場合には、本発明の効果がとくに顕著になる点から好ましい。繊維を染色する場合、細い繊維を用いた場合には太い繊維を用いた場合に比べて繊維の総表面積が大きくなるために、より多くの染料を吸尽させなければ鮮やかな発色が得られにくい。しかし、アゾ結合を有する青色カチオン染料の吸尽量が多い場合には湿熱条件下で変色しやすくなる。そのために、アゾ結合を有する青色カチオン染料で細い繊維を染色した場合には、太い繊維を染色した場合に比べて、湿熱条件下で顕著に変色しやすくなる。本発明によれば、繊度0.05~1dtexのような極細繊維をアゾ結合を有する青色カチオン染料で染色した場合にも、高い耐湿熱変色性を示す。また、繊維としては、ポリエステル繊維であることが堅牢度や形態安定性にとくに優れる点から好ましい。
【0013】
また、皮革様シートは、80℃,湿度90%,48時間の条件で湿熱処理したときに、湿熱処理前後の色差(ΔE)が、ΔE≦2であることが、耐湿熱変色性にとくに優れる点から好ましい。
【0014】
また、皮革様シートは、色座標空間(L***色空間)においてL*≦35の表面を有することが、本発明の効果がとくに顕著になる点から好ましい。
【0015】
また、皮革様シートは、表面が起毛処理されたスエード調人工皮革であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の他の一局面は、アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維と、スルホン酸基を有する多価フェノール誘導体をさらに含む繊維構造体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐湿熱変色性に優れた、アゾ結合を有する青色カチオン染料で染色された皮革様シートまたは繊維構造体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。
【0021】
本実施形態で用いられる繊維構造体としては、カチオン可染性繊維を含む不織布,織物,編物等が挙げられる。これらの中では、不織布、とくには極細繊維の不織布が本発明の効果が顕著に得られる点から好ましい。
【0022】
カチオン染料可染性繊維としては、カチオン染料に易染性または可染性を示すアニオン性基を有する、カチオン可染性ポリエステル繊維が、人工皮革として用いる場合に、堅牢度や形態安定性に優れる。
【0023】
カチオン可染性ポリエステル繊維の具体例としては、例えば、カチオン可染性を付与するアニオン性基を有する単量体成分を共重合単位として含有する、ポリエステル繊維が挙げられる。カチオン可染性を付与するための単量体成分の具体例としては、例えば、5-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)や、5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸,5-エチルトリブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの5-テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸や、5-テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸,5-エチルトリブチルアンモニウムスルホイソフタル酸などの5-テトラアルキルアンモニウムスルホイソフタル酸や、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラアルキルホスホニウム塩等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
カチオン染料可染性繊維の繊度は、特に限定されず、例えば、1dtex超のようなレギュラー繊維であっても、1dtex以下のような極細繊維であってもよい。本発明の効果が顕著になる点から、0.05~1dtex、さらには、0.07~0.5dtex、とくには、0.1~0.4dtexであることが、濃色に着色したときの耐湿熱変色性の向上がより顕著になる点から好ましい。繊維が細い場合には、アゾ結合を有する青色カチオン染料の吸尽量を多くしなければ青色の発色性が充分に得られにくくなり、染料の吸尽量が多い場合には湿熱環境における変色が目立ちやすくなるために、本発明の効果がとくに顕著になる。
【0025】
また、カチオン染料可染性繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の着色剤、耐光剤、防黴剤等を必要に応じて、配合してもよい。
【0026】
本実施形態の皮革様シートとしては、上述した繊維構造体の内部空隙に高分子弾性体を含浸付与して得られる人工皮革や合成皮革等が挙げられる。
【0027】
繊維構造体の内部空隙に含浸付与される高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等が挙げられる。皮革様シート中に含まれる高分子弾性体の割合は特に限定されないが、1~50質量%、さらには5~30質量%程度であることが好ましい。また、皮革様シートは、好ましくは、その表面の繊維がバフィング処理等の起毛処理により立毛された繊維を含むスエード調やヌバック調の立毛調皮革様シートであることが好ましい。
【0028】
本実施形態のカチオン染料可染性繊維を含む皮革様シートまたは繊維構造体は、アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色される。アゾ結合を有する青色カチオン染料は、青色の発色性と耐光性とに優れる。
【0029】
アゾ結合を有する青色カチオン染料の具体例としては、例えば、C.I.Basic Blue 54やC.I.Basic Blue 159等が挙げられる。なお、本実施形態における青色カチオン染料とは、カラーインデックス名(C.I.)において、”Basic Blue”を含む青色カチオン染料を意味する。これらの中では、とくに、C.I.Basic Blue 54が鮮やかな青色の発色性に優れる点から好ましい。
【0030】
本実施形態の皮革様シートまたは繊維構造体を染色する染料には、アゾ結合を有する青色カチオン染料に加えて、その他の染料を組み合わせて配合してもよい。アゾ結合を有する青色カチオン染料以外のカチオン染料としては、例えば、C.I.Basic Blue 3,C.I. Basic Blue 6,C.I. Basic Blue 10,C.I. Basic Blue 12,C.I.Basic Blue75,C.I. Basic Blue 96等のオキサジン系青色カチオン染料や、C.I.Basic Blue 9等のチアジン系青色カチオン染料や、C.I.Basic Yellow 40等のクマリン系染料、C.I.Basic Yellow 21等のメチン系染料,C.I.Basic Yellow 28等のアゾメチン系染料,アゾ系赤色染料であるC.I.Basic Red 29やC.I.Basic Red 46、キサンテン系染料であるC.I.Basic Violet 11 等が挙げられる。
【0031】
染色方法は特に限定されないが、例えば、液流染色機、ビーム染色機、ジッガーなどの染色機を用いて染色する方法が挙げられる。染色加工の条件としては、高圧で染色してもよいが、本実施形態の繊維構造体は常圧で染色可能であるために、常圧で染色することが環境負荷が低く、染色コストを低減できる点からも好ましい。常圧で染色する場合、染色温度としては60~100℃、さらには80~100℃であることが好ましい。また、染色の際に、酢酸や芒硝のような染色助剤を用いてもよい。
【0032】
カチオン染料を用いて染色を行う場合、染料液中のカチオン染料の濃度は、カチオン染料可染性繊維の繊度にもよるが、カチオン染料可染性繊維に対し、0.5~20%owf、さらには、1.0~15%owfであることが、発色性と染料の耐移行性とのバランスに優れる点から好ましい。繊維に吸尽されるカチオン染料の濃度が高すぎる場合には、染着座に固定されずに吸尽されるカチオン染料の量が多くなって染料が移行しやすくなる傾向がある。また、染料に吸尽されるカチオン染料の濃度が低すぎる場合には、濃色に発色させることが困難になる傾向がある。
【0033】
また、本実施形態においては、カチオン染料により染色された皮革様シートまたは繊維構造体を、アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中で洗浄処理することにより、結合力の低いカチオン染料を除去することが好ましい。このような洗浄処理により、結合力の低いカチオン染料が充分に除去されて、染色された皮革様シートや繊維構造体から他の物品に色移りしにくくなる。アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、日成化成(株)製のソルジンR,センカ(株)製のセンカノールA-900,明成化学工業(株)製のメイサノールKHM等が挙げられる。
【0034】
アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中での洗浄処理は、50~100℃、さらには60~80℃の湯浴で行うことが好ましい。また、洗浄時間としては、10~30分間、さらには、15~20分間程度であることが好ましい。また、この洗浄を1回以上、好ましくは2回以上繰り返してもよい。
【0035】
アゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色された皮革様シートまたは繊維構造体に、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与することにより耐湿熱変色性を向上させることができる。このようなアニオン性を有する多価フェノール誘導体としては、酸性染料で染色されたナイロン繊維の湿潤堅牢度向上剤として使用されている、スルホン酸基等のアニオン性基を有する多価フェノール誘導体、さらに具体的には芳香族誘導体スルホン化物のホルマリン縮合物である明成化学工業(株)製のディマフィックスが挙げられる。皮革様シートまたは繊維構造体のアニオン性を有する多価フェノール誘導体の含有量は特に限定されないが、染料付着量に対して70~200%程度であることが耐湿熱変色性が充分に改善される点から好ましい。
【0036】
また、皮革様シートまたは繊維構造体には必要に応じて耐光剤を配合してもよい。耐光剤の具体例としてはベンゾトリアゾール系耐光剤、トリアジン系耐光剤、ベンゾフェノン系耐光剤等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本実施形態のアゾ結合を有する青色カチオン染料を含む染料で染色された皮革様シートまたは繊維構造体は、濃色に染色されていること、具体的には、L***表色系におけるL*値として、L*≦35、さらにはL*≦30であることが、本発明の効果がとくに顕著になる点から好ましい。
【0038】
このようにして、本実施形態のアゾ結合を有する青色カチオン染料を含むカチオン染料で染色された皮革様シートまたは繊維構造体が得られる。本実施形態の皮革様シートまたは繊維構造体は、例えば、80℃,湿度90%、48時間の条件で湿熱処理したときに、色差(ΔE)がΔE≦2、さらにはΔE≦1.4、とくにはΔE≦1のような高い耐湿熱変色性を有することが好ましい。とくに、繊度0.05~1dtexのような極細繊維の繊維構造体を用いた場合であっても、80℃,湿度90%、48時間の条件で湿熱処理したときに、色差(ΔE)がΔE≦2、さらにはΔE≦1.4、とくにはΔE≦1のような高い耐湿熱変色性を有することが好ましい。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。はじめに、実施例で用いた各種染料を以下にまとめて示す。
【0040】
(染料)
・C.I.Basic Blue 54:Nichilon Blue-GL(アゾ結合を有する青色カチオン染料)(日成化成(株)製)
・C.I.Basic Blue 159:Nichilon Blue-AZN(アゾ結合を有する青色カチオン染料)(日成化成(株)製)
・C.I.Basic Blue 3:Nichilon Blue-7G(オキサジン系青色カチオン染料)(日成化成(株)製)
・C.I.Basic Blue 75:Nichilon Blue-350(オキサジン系青色カチオン染料)(日成化成(株)製)
・C.I.Basic Yellow 28:Nichilon Golden Yellow-GL(アゾメチン系黄色カチオン染料)(日成化成(株)製)
・C.I.Basic Red 29:Nichilon Red-GL(アゾ系赤色カチオン染料)(日成化成(株)製)
【0041】
[実施例1]
カチオン染料可染性ポリエステル繊維を島成分とし、水溶性ポリビニルアルコールを海成分とする海島型複合繊維の不織布に自己乳化型水系ポリウレタン樹脂を含浸した後、海成分を抽出することにより、平均繊度0.2dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布を含み、ポリウレタン比率10質量%である人工皮革生機を得た。そして、人工皮革生機をスライスし、表面をバフィング処理することにより、厚み0.78mm、見掛け密度0.49g/cmに仕上げた。
【0042】
そして、人工皮革生機を、表1に示すように、Nichilon Blue-GL 4%owf、Nichilon Golden Yellow-GL 2%owf、Nichlon Red-GL 2%owfを含む染料液で120℃×40分間の条件で染色した。そして、2g/LのソルジンR溶液を用いて70℃×20分間の条件でソーピングを2回行うことにより、濃紺色に着色された人工皮革を得た。
【0043】
そして染色された人工皮革を、アニオン性を有する多価フェノール誘導体(明成化学工業(株)製:ディマフィックスESH、芳香族誘導体スルホン化物のホルマリン縮合物)を浴比1:20、80℃×30分間の条件で6%owf付与し、乾燥した。このようにして、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与されたスエード調の人工皮革を得た。
【0044】
そして、スエード調の人工皮革の色座標、耐湿熱変色性及び耐光性を次のようにして評価した。
【0045】
(色座標)
スエード調の人工皮革のスエード調表面のL*a*b*表色系の座標値を分光光度計(ミノルタ社製:CM-3700)を用いて測色した。値は、試験片から平均的な位置を万遍なく選択して測定された3点の平均値として算出した。
【0046】
(耐湿熱変色性)
スエード調の人工皮革を80℃×90%の湿熱条件下で48時間放置する処理をした後、風乾した。そして、湿熱処理後のスエード調表面の色座標を測色した。そして、スエード調表面の湿熱処理前の色座標と湿熱処理後の色座標との色差ΔE、及び、Δa*,Δb*,ΔL*,を求めた。
【0047】
(耐光性)
Q-PANEL社製 加速耐光試験機QUV/se(45℃、照度0.78W/m)を用いて、スエード調の人工皮革に24時間UV照射した。そして、24時間UV照射後のスエード調表面の色座標を測定した。そして、24時間UV照射前後のスエード調表面の褪色をデータカラー社製の型番600を用いてG37 UV Color Changeモードで級数判定した。
【0048】
結果を下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
[実施例2]
実施例1において、アニオン性の多価フェノール誘導体を6%owf付与した代わりに、12%owf付与した以外は同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
実施例1において、アニオン性の多価フェノール誘導体を6%owf付与した代わりに、3%owf付与した以外は同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
表1に示すように、Nichilon Blue-GL 4%owfのみを含む染料液でロイヤルブルー色に染色した以外は実施例1と同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例5]
表1に示すように、Nichilon Blue-AZN 4%owfのみを含む染料液で黄みを帯びた青色に染色した以外は実施例1と同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
実施例1において、アニオン性の多価フェノール誘導体を付与する工程を省略した以外は同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例2]
実施例4において、アニオン性の多価フェノール誘導体を付与する工程を省略した以外は同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例3]
実施例5において、アニオン性の多価フェノール誘導体を付与する工程を省略した以外は同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例4]
表1に示すように、Nichilon Blue-7G 4%owfを含む染料液で染色し、さらに、アニオン性の多価フェノール誘導体を付与する工程を省略した以外は実施例1と同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例5]
表1に示すように、Nichilon Blue-350 4%owfを含む染料液で染色し、さらに、アニオン性の多価フェノール誘導体を付与する工程を省略した以外は実施例1と同様にして、スエード調の人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0059】
表1を参照すれば、アゾ結合を有する青色カチオン染料であるC.I.Basic Blue 54を含む染料で濃紺色に染色された人工皮革において、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与された実施例1~3の人工皮革の湿熱処理後の色差ΔEは0.8~1.4であり、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与していない比較例1の人工皮革の湿熱処理後の色差ΔE=2.9に比べて顕著に耐湿熱変色性が高かった。同様に、C.I.Basic Blue 54を含む染料でロイヤルブルー色に染色された人工皮革において、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与された実施例4の人工皮革の湿熱処理後の色差ΔEは0.8であり、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与していない比較例2の人工皮革の湿熱処理後の色差ΔE=1.5に比べて顕著に耐湿熱変色性が高かった。
【0060】
また、アゾ結合を有する青色カチオン染料であるC.I.Basic Blue 159を含む染料でL*=37の黄みを帯びた青色に染色された人工皮革においても、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与された実施例5の人工皮革の湿熱処理後の色差ΔEは0.5であり、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与していない比較例3の人工皮革の湿熱処理後の色差ΔE=0.8に比べて耐湿熱変色性が高かった。
【0061】
また、オキサジン系青色カチオン染料であるC.I.Basic Blue 3を含む染料でL*=37のエメラルドグリーン色に染色された比較例4の人工皮革は耐光性が低かった。また、C.I.Basic Blue 75を含む染料でL*=52のターコイズブルー色に染色された比較例5の人工皮革は、濃色の青色を発色しなかった。