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特許7093509窯業系サイディング材の処理方法、クリンカー原料、セメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】窯業系サイディング材の処理方法、クリンカー原料、セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20220623BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20220623BHJP
   B09B 101/60 20220101ALN20220623BHJP
【FI】
C04B7/38
B09B3/35 ZAB
B09B101:60
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018069436
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177370
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】堀田 佳佑
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-052117(JP,A)
【文献】特開2004-123513(JP,A)
【文献】特開2012-091992(JP,A)
【文献】特開2004-299955(JP,A)
【文献】特開2008-272645(JP,A)
【文献】特開2019-077572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C04B 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するキルン本体部を有するロータリーキルンと、複数のサイクロンを有するプレヒーターとを備えるクリンカー製造設備を用いたセメントの製造方法であって、
窯業系サイディング材が粉砕された粉砕物に散水する散水工程と、
プレヒーターの最下段に位置するサイクロンとキルン本体部との間に形成される窯尻側排ガス流路に散水工程後の粉砕物を供給する(ただし、他のクリンカー原料と混ぜて供給するものを除く)ことで該粉砕物をキルン本体部内へ供給する供給工程と、
を備え、
粉砕物は、平均粒径が4mm以上20mm以下であり、2.36mmのふるいを通過しないものの割合が40質量%以上であり、1.4mmのふるいを通過しないものの割合が50質量%以上であり、
散水工程では、粉砕物の質量に対して5質量%以上10質量%以下の水を粉砕物に散水し、
供給工程では、窯尻側排ガス流路における排ガスの流速が14.2m/s以上18.7m/s以下の位置に散水工程後の粉砕物を供給するセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業系サイディング材の処理方法、及び、窯業系サイディング材から製造されるクリンカー原料に関する。また、本発明は、窯業系サイディング材の粉砕物を用いたセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、二酸化炭素の排出量の削減が求められている。例えば、セメントクリンカーは、石灰石を含む原料がキルン内で焼成されて形成されるものである。このため、石灰石の脱炭酸反応によって製造設備から二酸化炭素が排出されることになる。そこで、焼成に伴う二酸化炭素の排出を抑制するべく、様々な廃棄物を原料の一部として使用することが提案されている。
【0003】
ところで、建築物を解体したときに発生する外壁材や瓦などの建築廃材は、埋め立て処分されることが一般的であった。しかしながら、近年では、資源の有効利用を図るべく、このような建築廃材もリサイクルされることが推奨されている。
【0004】
そこで、建築廃材を上記のようにクリンカー原料の一部として使用することが提案されている。建築廃材をセメントクリンカーの原料の一部として使用する場合には、建築廃材を他のクリンカー原料と共に原料ミルに供給し、ロータリーキルンから排出されて原料ミルへ導入される排ガスによって、建築廃材とクリンカー原料との混合物(以下、原料混合物とも記す)を加熱乾燥しながら粉砕する。そして、粉砕された原料混合物を分級してクリンカー原料とする。得られたクリンカー原料は、プレヒーターを経てロータリーキルンに投入されて焼成される。これにより、セメントの原料となるクリンカーが形成される。
【0005】
ここで、上記のように、原料混合物が原料ミルで粉砕されると、粉塵が生じるため、原料ミルから排出されるガスには、粉塵が含まれることになる。そこで、上記のようなクリンカーの製造設備には、原料ミルの排ガスから粉塵を分離するべく、電気集塵機が設置される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-151748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来から、主成分としてセメントと有機繊維材とを含む窯業系サイディング材が建築資材として知られている。該窯業系サイディング材は、曲げ強度等の物性に優れており、住宅の内壁材、外壁材、屋根材等として使用されている。このような窯業系サイディング材は、所望のサイズに合わせて裁断されて使用される。このため、窯業系サイディング材の端材が廃棄物(建築廃材)として回収される。そして、回収された窯業系サイディング材の廃棄物は、埋め立て処分されることが一般的になっている。このため、窯業系サイディング材の廃棄物についても、リサイクルされることが要求されている。
【0008】
しかしながら、上記のように、窯業系サイディング材をセメントクリンカーの原料の一部として使用する場合、窯業系サイディング材を原料ミルへ供給すると、窯業系サイディング材を構成する有機繊維材が乾燥の熱によって炭化する虞がある。そして、炭化した有機繊維材は、粉塵となって原料ミルから排出されて電気集塵機へ導入されることになる。ここで、電気集塵機は、電荷を帯びた粒子(粉塵)を電極へ引き寄せて排ガスから分離するものであるため、炭化した有機繊維材が電気集塵機に導入されると、電気集塵機の性能が著しく低下する要因となる。
【0009】
そこで、窯業系サイディング材を原料ミルへ供給することなくクリンカー原料として利用することができる窯業系サイディング材の処理方法、該処理方法に使用するクリンカー原料、及び、セメントの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る窯業系サイディング材の処理方法は、回転するキルン本体部を有するロータリーキルンと、複数のサイクロンを有するプレヒーターとを備えるクリンカー製造設備を用いて窯業系サイディング材の処理を行う窯業系サイディング材の処理方法であって、窯業系サイディング材が粉砕された粉砕物に散水する散水工程と、プレヒーターの最下段に位置するサイクロンとキルン本体部との間に形成される窯尻側排ガス流路に散水工程後の粉砕物を供給することで該粉砕物をキルン本体部内へ供給する供給工程と、を備える。
【0011】
斯かる構成によれば、散水工程において窯業系サイディング材の粉砕物に散水することで、窯業系サイディング材を構成する有機繊維材が飛散し難くなる。このため、プレヒーターの最下段に位置するサイクロンとキルン本体部との間に形成される窯尻側排ガス流路に粉砕物を供給する際に粉塵が生じるのを抑制することができる。
また、窯尻側排ガス流路に供給された窯業系サイディング材の粉砕物は、キルン本体部内へ供給されてクリンカー原料として焼成されることになる。つまり、窯業系サイディング材の粉砕物を窯尻側排ガス流路へ供給することで、窯業系サイディング材を原料ミルへ供給することなくクリンカー原料として処理することができる。
【0012】
粉砕物の平均粒径は、4mm以上20mm以下であり、散水工程では、粉砕物の質量に対して5質量%以上30質量%以下の水を粉砕物に散水することが好ましい。
【0013】
斯かる構成によれば、粉砕物の平均粒径が上記の範囲であり、粉砕物に散水される水の量が上記の範囲である。これにより、窯尻側排ガス流路へ粉砕物を供給する際に粉塵が生じるのをより効果的に抑制することができる。また、粉砕物がキルン本体部内で焼成される際に、粉砕物の水分が蒸発することで生じるキルン本体部内の温度変化を抑制することができる。
【0014】
供給工程では、窯尻側排ガス流路における排ガスの流速が5m/s以上25m/s以下の位置に散水工程後の粉砕物を供給することが好ましい。
【0015】
斯かる構成によれば、窯尻側排ガス流路における排ガスの流速が上記の範囲である位置に、平均粒径が上記の範囲である粉砕物を散水工程後に供給する。これにより、粉砕物が気流に乗って最下段のプレヒーター側へ移送されてしまうのが抑制されるため、気流に逆らって粉砕物をキルン本体部内へ効率的に供給することができる。
【0016】
粉砕物は、乾燥状態におけるCaOの含有量が25質量%以上であることが好ましい。
【0017】
斯かる構成によれば、粉砕物は、乾燥状態におけるCaOの含有量が上記の範囲である。これにより、粉砕物をセメントクリンカーの原料として好適に使用することができる。
【0018】
本発明に係るクリンカー原料は、窯業系サイディング材の粉砕物から構成されるクリンカー原料であって、粉砕物は、水分の含有量が10質量%以上30質量%以下である。
【0019】
斯かる構成によれば、窯業系サイディング材の粉砕物の水分の含有量が上記の範囲であることで、窯業系サイディング材の粉砕物が飛散し難くなる。このため、回転するキルン本体部を有するロータリーキルンと、複数のサイクロンを有するプレヒーターとを備えるクリンカー製造設備において、プレヒーターの最下段に位置するサイクロンとキルン本体部との間に形成される窯尻側排ガス流路に粉砕物を供給する際に、粉塵が生じるのを抑制することができる。
【0020】
また、上記のように、窯業系サイディング材の粉砕物を窯尻側排ガス流路へ供給することで、粉砕物は、キルン本体部内へ供給されてクリンカー原料として焼成されることになる。このため、窯業系サイディング材を原料ミルへ供給することなくクリンカー原料として処理することができる。
【0021】
粉砕物は、乾燥状態におけるCaOの含有量が25質量%以上であることが好ましい。
【0022】
斯かる構成によれば、乾燥状態における粉砕物のCaOの含有量が上記の範囲であることで、粉砕物をセメントクリンカーの原料として好適に使用することができる。
【0023】
本発明に係るセメントの製造方法は、回転するキルン本体部を有するロータリーキルンと、複数のサイクロンを有するプレヒーターとを備えるクリンカー製造設備を用いたセメントの製造方法であって、窯業系サイディング材が粉砕された粉砕物に散水する散水工程と、プレヒーターの最下段に位置するサイクロンとキルン本体部との間に形成される窯尻側排ガス流路に散水工程後の粉砕物を供給することで該粉砕物をキルン本体部内へ供給する供給工程と、を備える。
【0024】
本発明に係るセメントの製造方法は、上記のクリンカー原料を用いたものである。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、窯業系サイディング材を原料ミルへ供給することなくクリンカー原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施の形態に係る窯業系サイディング材の処理方法に使用されるクリンカー製造設備の概略図。
図2】同実施形態に係る窯業系サイディング材の処理方法に使用されるクリンカー製造設備が備えるロータリーキルンの窯尻部の近傍を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図1,2を参照しつつ説明する。
【0028】
本実施形態に係る窯業系サイディング材の処理方法は、クリンカー製造設備を用いて窯業系サイディング材を処理するものである。ここで、窯業系サイディング材とは、JIS A 5422に規定されるものをいう。また、窯業系サイディング材は、水硬率HMが0.4以上0.7以下であってもよく、0.5以上0.6以下であってもよい。また、窯業系サイディング材は、塩素成分の含有量が350ppm以下であることが好ましく、250ppm以下であることがより好ましい。また、窯業系サイディング材は、フッ素成分の含有量が500ppm以下であることが好ましく、350ppm以下であることがより好ましい。窯業系サイディング材の主な原料としては、セメント、けい酸質原料、石綿以外の繊維質原料、混和材等が挙げられる。
【0029】
けい酸質原料としては、けい酸カルシウム化合物等が挙げられる。石綿以外の繊維質原料としては、有機繊維、及び、無機繊維等から選択される少なくとも一種が挙げられる。有機繊維としては、木質繊維、セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維、及び、ポリプロピレン繊維等から選択される少なくとも一種が挙げられる。木質繊維は、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。無機繊維としては、ガラス繊維、及び、ロックウール繊維等から選択される少なくとも一種が挙げられる。混和材としては、有機混和材、及び、無機混和材等から選択される少なくとも一種が挙げられる。有機混和材としては、リグニン、メチルセルロース、及び、撥水剤等から選択される少なくとも一種が挙げられる。無機混和材としては、パーライト、炭酸カルシウム、及び、マイカ等から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0030】
クリンカー製造設備100としては、図1に示すように、回転するキルン本体部1を有するロータリーキルン2と、複数のサイクロン3を有するプレヒーター4とを備えるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、クリンカー製造設備100としては、ロータリーキルン2と、プレヒーター4と、仮焼炉5と、クリンカー原料を貯蔵する貯蔵設備6と、プレヒーター4から排出される排ガスが供給されて比較的大きいダストを分離する沈降室7及びスタビライザー8と、比較的細かい粒径のダストを集塵する集塵設備9と、クリンカー原料を粉砕する原料ミル10と、排ガスを大気へ排出する排気設備11(煙突等)とを備えるものが挙げられる。
【0031】
斯かるクリンカー製造設備100では、キルン本体部1におけるクリンカー原料が供給される側(以下、窯尻側とも記す)の端部とプレヒーター4の最下段に位置するサイクロン(以下、最下段サイクロンとも記す)3との間に窯尻側排ガス流路が形成される。本実施形態では、キルン本体部1の窯尻側の端部と最下段サイクロン3との間に仮焼炉5が設置されるため、キルン本体部1の窯尻側の端部と仮焼炉5との間に窯尻側排ガス流路が形成される。
【0032】
具体的には、ロータリーキルン2は、図2に示すように、キルン本体部1におけるクリンカー原料の供給側の端部に連結されて内部に窯尻側排ガス流路を形成する窯尻部2aを更に備える。該窯尻部2aは、仮焼炉5に流体的に連結される。つまり、キルン本体部1の窯尻側の端部と最下段サイクロン3との間に形成される排ガス流路のうち仮焼炉5よりもキルン本体部1側に窯尻側排ガス流路が形成される。
【0033】
図1に戻り、集塵設備9は、供給される排ガス中のダストのうち、比較的粗い粒径のものを集塵する電気集塵機9aと、比較的細かい粒径のものを集塵するバグフィルター9bとを備える。
【0034】
上記のようなクリンカー製造設備100では、ロータリーキルン2(具体的には、窯尻部2a)から排出された排ガスは、仮焼炉5を通過してプレヒーター4に供給され、クリンカー原料と熱交換することによってクリンカー原料を加熱する。そして、斯かる排ガスは、プレヒーター4の最上段のサイクロン3から排出される。
【0035】
プレヒーター4(最上段のサイクロン3)から排出される排ガスは、原料ミル10が稼働している場合には、原料ミル10を通る経路で集塵設備9へ供給される。具体的には、プレヒーター4(最上段のサイクロン3)から排出される排ガスは、沈降室7に供給される。該沈降室7から排出された排ガスは、原料ミル10が稼働している場合には、原料ミル10へ供給される。これにより、原料ミル10内のクリンカー原料が排ガスによって加熱される。そして、原料ミル10から排出される排ガスは、集塵設備9へ供給される。このため、原料ミル10が稼働している場合には、集塵設備9へ供給される排ガスには、ロータリーキルン2から排出されるダストに加え、原料ミル10で発生するダスト(原料の粉砕によって生じるダスト等)が含まれる。
【0036】
また、原料ミル10が稼働していない場合には、プレヒーター4(最上段のサイクロン3)から排出される排ガスは、原料ミル10を通らない経路で集塵設備9へ供給される。具体的には、プレヒーター4(最上段のサイクロン3)から排出される排ガスは、沈降室7に供給される。該沈降室7から排出された排ガスは、スタビライザー8へ供給される。スタビライザー8では、排ガスの温度、水分量が調整されると共に、沈降室7で排ガスから分離されるダストよりも細かい粒径のダストが排ガスから分離される。
【0037】
上記のように、沈降室7およびスタビライザー8で排ガスから分離されたダストは、貯蔵設備6に供給されて貯蔵される。そして、該ダストは、原料ミル10から貯蔵設備6に供給されるクリンカー原料と共に、クリンカー原料として使用される。
【0038】
集塵設備9に供給される排ガスは、初めに電気集塵機9aに供給される。電気集塵機9aでは、集塵設備9に供給される排ガス中のダストのうち、比較的粗い粒径のダストが集塵される。電気集塵機9aから排出された排ガスは、バグフィルター9bに供給される。バグフィルター9bでは、集塵設備9に供給される排ガス中のダストのうち、比較的細かい粒径のダストが集塵される。
【0039】
集塵設備9(具体的には、電気集塵機9a及びバグフィルター9b)で集塵されるダストは、貯蔵設備6に供給されて貯蔵される。そして、該ダストは、原料ミル10から貯蔵設備6に供給されるクリンカー原料と共に、クリンカー原料として使用される。また、集塵設備9(具体的には、バグフィルター9b)から排出される排ガスは、排気設備11を介して放出される。
【0040】
ここで、本実施形態に係る窯業系サイディング材の処理方法は、窯業系サイディング材が粉砕された粉砕物に散水する散水工程と、最下段サイクロン3とキルン本体部1との間に形成される窯尻側排ガス流路に散水工程後の粉砕物を供給することで該粉砕物をキルン本体部1内へ供給する供給工程とを備える。
【0041】
窯業系サイディング材の粉砕物は、乾燥状態において、平均粒径が4mm以上20mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。なお、平均粒径とは、JIS Z 8801-1:2006に規定されたふるいを用いてふるい分け試験を実施し、各ふるいの目開きをd、各ふるい上重量割合をnとして、下記(10)式で表される重量平均径である。また、乾燥状態とは、110℃以上で120分以上加熱した状態である。

Σnd/Σn・・・(10)
【0042】
また、窯業系サイディング材の粉砕物は、乾燥状態において、106mmのふるいを全て通過することが好ましく、53mmのふるいを全て通過することがより好ましい。また、2.36mmのふるいを通過しないものの割合が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、1.4mmのふるいを通過しないものの割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。なお、ふるいは、JIS Z 8801-1:2006に規定されるものである。
【0043】
また、粉砕物は、乾燥状態におけるCaOの含有量が25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。なお、乾燥状態とは、110℃以上で120分以上加熱した状態である。
【0044】
本実施形態に係る窯業系サイディング材の処理方法は、窯業系サイディング材を粉砕する粉砕工程を備えてもよい。該粉砕工程は、散水工程の前に行われてもよく、散水工程と同時に行われてもよい(即ち、粉砕工程を行いつつ散水工程を行ってもよい)。また、粉砕工程では、窯尻側排ガス流路(窯尻部2a内の排ガス流路)の排ガス流速を超える終末速度が得られる(即ち、下記(1)式を満たす)ように窯業系サイディング材が粉砕される。終末速度とは、下記の(2)式に基づいて算出されるものである。(2)式中の「ρs」は窯業系サイディング材の見かけ密度であり、「ρf」は窯尻側排ガス流路(窯尻部2a内の排ガス流路)を流れる排ガスの密度であり、「g」は重力加速度であり、「d」は粒径である。また、下記の(2)式の「0.44」は、抗力係数である。該抗力係数の数値は、窯尻部2a内の排ガス流路の気流が乱流になることから、気流が乱流である場合に一般的に使用される抗力係数の数値(0.44)を採用したものである。
【0045】
より詳しくは、窯尻側排ガス流路の排ガス流速の測定と、窯尻側排ガス流路の排ガス成分の測定とを行う。そして、排ガス成分から排ガスの密度「ρf」を算出する。また、窯業系サイディング材の質量と体積から窯業系サイディング材の見かけ密度「ρs」を算出する。そして、下記(1)式を満たす粒径「d」を下記(1)式、及び、(2)式から算出する。そして、算出された粒径(以下、供給可能最小粒径とも記す)「d」を超える粒径の粉砕物(供給可能最小粒径「d」の粒子を通過させるふるい上に残る粉砕物)の質量割合(換言すれば、下記のふるい目粒度分布)が好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上となるように粉砕工程を行う。なお、ふるいは、JIS Z 8801-1:2006に規定されるものである。
【0046】
【数1】
【0047】
【数2】
【0048】
散水工程では、粉砕物の質量(散水工程の前の質量)に対して5質量%以上30質量%以下の水を粉砕物に散水することが好ましく、10質量%以上20質量%以下の水を粉砕物に散水することがより好ましい。粉砕物に水を散水する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スプリンクラー散水等の方法を採用することができる。散水工程後の粉砕物は、水分の含有量が10質量%以上30質量%以下であることが好ましく、15質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。散水工程後の粉砕物における水分の含有量は、散水工程後の粉砕物の質量(散水後質量)を測定し、散水工程後の粉砕物を110℃で120分間加熱した後の質量(散水前質量)を測定し、下記の(3)式に基づいて算出されるものである。

水分含有量=(散水後質量-散水前質量)÷散水後質量・・・(3)
【0049】
供給工程では、窯尻側排ガス流路の排ガス流速(具体的には、窯尻部2a内の流速)が5m/s以上25m/s以下の位置に散水工程後の粉砕物を供給することが好ましく、10m/s以上20m/s以下の位置に散水工程後の粉砕物を供給することがより好ましい。なお、窯尻部2a内の温度としては、特に限定されるものではなく、例えば、800℃以上1200℃以下であってもよく、900℃以上1100℃以下であってよい。粉砕物を窯尻側排ガス流路に供給する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、窯尻部2aに設けられる開口部(図示せず)から粉砕物を供給する方法を採用することができる。窯尻側排ガス流路に供給された粉砕物は、窯尻側排ガス流路の気流に逆らってキルン本体部1側へ移動してキルン本体部1へ供給される。これにより、粉砕物が他のクリンカー原料と共に焼成されてクリンカーが形成される。つまり、窯業系サイディング材の粉砕物は、クリンカー原料の一部として使用される。換言すれば、セメントの製造方法において、窯業系サイディング材の粉砕物を原料の一部として使用することができる。
【0050】
以上のように、本発明に係る窯業系サイディング材の処理方法、クリンカー原料、及び、セメントの製造方法によれば、窯業系サイディング材を原料ミルへ供給することなくクリンカー原料として利用することができる。
【0051】
即ち、散水工程において窯業系サイディング材の粉砕物に散水することで、窯業系サイディング材を構成する有機繊維材が飛散し難くなる。このため、プレヒーター4の最下段に位置するサイクロン3とキルン本体部1との間に形成される窯尻側排ガス流路に粉砕物を供給する際に粉塵が生じるのを抑制することができる。
【0052】
また、窯尻側排ガス流路に供給された窯業系サイディング材の粉砕物は、キルン本体部1内へ供給されてクリンカー原料として焼成されることになる。つまり、窯業系サイディング材の粉砕物を窯尻側排ガス流路へ供給することで、窯業系サイディング材を原料ミル10へ供給することなくクリンカー原料として処理することができる。
【0053】
また、粉砕物の平均粒径が上記の範囲であり、粉砕物に散水される水の量が上記の範囲である。これにより、窯尻側排ガス流路へ粉砕物を供給する際に粉塵が生じるのをより効果的に抑制することができる。また、粉砕物がキルン本体部1内で焼成される際に、粉砕物の水分が蒸発することで生じるキルン本体部1内の温度変化を抑制することができる。
【0054】
また、窯尻側排ガス流路における排ガスの流速が上記の範囲である位置に、平均粒径が上記の範囲である粉砕物を散水工程後に供給する。これにより、粉砕物が気流に乗って最下段のプレヒーター4側へ移送されてしまうのが抑制されるため、気流に逆らって粉砕物をキルン本体部1内へ効率的に供給することができる。
【0055】
また、粉砕物は、乾燥状態におけるCaOの含有量が上記の範囲である。これにより、粉砕物をセメントクリンカーの原料として好適に使用することができる。
【0056】
なお、本発明に係る窯業系サイディング材の処理方法、及び、クリンカー原料は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよい(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい)ことは勿論である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、キルン本体部1と最下段サイクロン3との間の排ガス流路のうち、キルン本体部1と仮焼炉5との間に窯尻側排ガス流路が形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、クリンカー製造設備100が仮焼炉5を備えない場合には、キルン本体部1と最下段サイクロン3とが窯尻部2aを介して連結されるため、キルン本体部1と最下段サイクロン3との間の排ガス流路の全体が窯尻側排ガス流路を構成してもよい。
【0058】
また、上記実施形態の窯業系サイディング材の処理方法は、散水工程及び供給工程に加えて、粉砕工程を備えてもよいものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、粉砕工程を備えないように構成してもよい。斯かる場合には、窯業系サイディング材の粉砕物を入手し、該粉砕物に対して散水工程及び供給工程を行うようにしてもよい。
【実施例
【0059】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<使用材料>
1.窯業系サイディング材(JIS A 5422に規定されるもの)
2.水(上水道水)
【0061】
<粉砕工程(粉砕物の作成)>
上記の窯業系サイディング材を粉砕して粉砕物を得た。得られた粉砕物の乾燥状態における平均粒径、及び、ふるい目粒度分布は、下記表1に示す。ふるい目粒度分布とは、ふるい上に残る粉砕物の割合(全粉砕物に対する質量割合)である。なお、ふるいは、JIS Z 8801-1:2006に規定されるものである。なお、乾燥状態とは、110℃以上で120分以上加熱した状態である。
窯尻側排ガス流路の排ガス流速は、下記表1に示す。また、各排ガス流速における供給可能最小粒径d(上記の(1)式、(2)式に基づいて算出されるもの)は、下記表1に示す。なお、供給可能最小粒径dの算出で用いる窯業系サイディング材の見かけ密度「ρs」は、1.5t/mであり、窯尻側排ガス流路の排ガス密度「ρf」は、0.29kg/mであった。
【0062】
<散水工程>
各実施例では、粉砕工程で得られた粉砕物に対して、一般用ゴムホースを用いて水を散水した。粉砕物の質量に対する散水した水の質量割合(散水量)は、下記表1に示す。また、比較例1では、散水工程を行わなかった。
【0063】
<供給工程>
散水工程後の粉砕物を窯尻側排ガス流路(具体的には、窯尻部2a内)へ供給した。窯尻側排ガス流路(具体的には、窯尻部2a内)への粉砕物の供給は、既設のベルトコンベアを用いて行った。なお、窯尻側排ガス流路(具体的には、窯尻部2a内)の排ガス流速は、下記表1に示す。
【0064】
<粉塵発生の評価>
散水工程後の粉砕物を供給工程で使用する際の粉塵の発生を評価した。評価方法としては、目視にて粉塵の発生が10秒未満で収まるものを○、10秒以上30秒未満で収まるものを△、30秒以上で収まるものを×として評価した。評価結果については、下記表1に示す。
【0065】
<キルン本体部への供給の評価>
供給工程におけるキルン本体部1への粉砕物の供給状態を評価した。評価方法としては、供給可能最小粒径dを超えるふるい目のふるい上に残る粉砕物の割合が40%以上であるものを○、40%未満であるものを△として評価した。評価結果については、下記表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
<まとめ>
各実施例と比較例1とを比較すると、各実施例の方が、粉塵が発生し難いことが認められる。つまり、本願発明のように、散水工程を行うことで、粉塵の発生を抑制することができる。
また、実施例1,3,5,6,7と実施例2,4,8,9とを比較すると、実施例1,3,5,6,7の方が、粉塵が発生し難いことが認められる。つまり、平均粒径が4mm以上20mm以下である粉砕物において、散水量を5%以上30%以下にすることで、粉塵の発生をより効果的に抑制することができる。
また、実施例1~8と実施例9とを比較すると、実施例1~8の方が、供給評価が良好であることが認められる。つまり、排ガス流速が5m/s以上25m/s以下である排ガス流路に平均粒径が4mm以上20mm以下である粉砕物を供給することでキルン本体部1への粉砕物の供給を効率的に行うことができる。
【符号の説明】
【0068】
1…キルン本体部、2…ロータリーキルン、2a…窯尻部、3…サイクロン、4…プレヒーター、5…仮焼炉、6…貯蔵設備、7…沈降室、8…スタビライザー、9…集塵設備、9a…電気集塵機、9b…バグフィルター、10…原料ミル、11…排気設備、100…クリンカー製造設備
図1
図2