IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 名古屋工業大学の特許一覧

特許7093545ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト
<>
  • 特許-ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト 図1
  • 特許-ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト 図2
  • 特許-ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト 図3
  • 特許-ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト 図4
  • 特許-ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト 図5
  • 特許-ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイト
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20220623BHJP
   C04B 35/16 20060101ALI20220623BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220623BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20220623BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALN20220623BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20220623BHJP
【FI】
C04B35/50
C04B35/16
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M8/1246
H01M8/12 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018126484
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2019073430
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017198613
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】福田 功一郎
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126269(JP,A)
【文献】特開2014-148443(JP,A)
【文献】特開昭56-143286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/50
C04B 35/16
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 8/1246
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶であり、板状結晶粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)が3.2以上であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項2】
アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)、及びハロゲン元素を固溶することを特徴とする請求項1に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項3】
請求項2に記載のアルカリ金属元素がKでありハロゲン元素がFであることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項4】
一般式が(La)(Si6-d)(O26-e)(式中、Aは一種類または複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類または複数種類のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)を表し、Cは一種類または複数種類のハロゲン元素を表し、□はSi席の空孔を表す。さらに、8≦a+b+c≦10、0≦e≦1、3a+b+2c-4d+e=28である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項5】
一般式が(La)(Si6-c)(O26-d)(式中、Aは一種類または複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類または複数種類のハロゲン元素を表し、□はSi席の空孔を表す。さらに、8≦a+b≦10、0≦d≦1、3a+b-4c+d=28である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項6】
請求項5に記載の一般式が(La)(Si6-c)(O26-d)(式中、□はSi席の空孔を表す。さらに、8≦a+b≦10、0≦d≦1、3a+b-4c+d=28である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項7】
一般式が(La10-x-y)Si5.5+0.5x+0.25y-0.25z(O26-z)(式中、Aは一種類または複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類または複数種類のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)を表し、Cは一種類または複数種類のハロゲン元素を表す。さらに、0≦x+y≦2、0≦z≦1である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項8】
請求項7に記載の一般式が(La10-x)Si5.5+0.5x-0.25y(O26-y)(式中、0≦x≦1、0≦y≦1である。)であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶に関する製造方法であって、アルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物をフラックスとして用いること、かつ加熱工程の熱処理温度の最高値が1100℃よりも低いことを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のアルカリ金属元素がKでありハロゲン元素がFであって、KFをフラックスとして用いること、かつ加熱工程の熱処理温度の最高値が900℃またはそれ以下であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いてなる結晶配向アパタイト。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いてなる酸化物イオン伝導体。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いてなる固体電解質。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶と、ケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末との混合物に、熱処理を含む工程を施すことを特徴とする結晶配向アパタイト焼結体の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のアパタイトの板状結晶の製造方法において、ケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末がさらに添加物としてBaO、SrO、MgO、Al、Fe、GeOおよびBからなる群より選択される一種類もしくは複数種類の酸化物を含むことを特徴とする結晶配向アパタイト焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法、並びにケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイトに関する。さらには、このようなケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた酸化物イオン伝導体及び固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
アパタイト型の結晶構造を有する希土類ケイ酸塩は、特許文献1および特許文献2において500~700℃程度の中温度領域であっても比較的優れた酸化物イオン伝導性を示すことが報告されている。このようなアパタイト型化合物からなる酸化物イオン伝導体を固体電解質型燃料電池の電解質とした場合、イットリア安定化ジルコニアやスカンジナドープドセリア、ランタンガレート系酸化物を電解質とする燃料電池に比べて運転温度を低温にすることができ、加熱に要するエネルギー等を省力化することができるという利点がある。
【0003】
一方、アパタイト型化合物が有する酸化物イオン伝導特性は、特許文献3および非特許文献1において、ベルヌーイ法やチョコラルスキー法等にて作製された単結晶から、c軸に沿う平行方向に延在する箇所と、c軸に対して直交方向に延在する箇所から切り出した試料の酸化物イオン伝導率を比較すると、c軸に沿う平行方向に延在する箇所から切り出した試料の方が優れているという報告があり、酸化物イオン伝導率はc軸方向に沿う平行方向が高い。そのため、アパタイト型化合物が有する酸化物イオン伝導特性を最大限に発揮させるためには、c軸方向が揃った結晶配向アパタイトを作製して、この結晶配向アパタイトを酸化物イオン伝導体または固体電解質として用いることが好ましい。
【0004】
また、特許文献5及び非特許文献4には、高い酸化物イオン伝導率を有するケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶配向セラミックスの製造方法として、LaSiOを主成分とする第1の層とLaSiを主成分とする第2の層とLaSiOを主成分とする第3の層を、第1の層/第2の層/第3の層の順に接合してなる接合体をアパタイト型の結晶構造を有するランタンケイ酸塩が生成する温度で加熱することによって、第1の層と第2の層の間及び第2の層と第3の層の間で元素拡散を生じさせ、元の接合界面に対してc軸が垂直方向に沿って配向しているランタンケイ酸塩を製造する方法が開示されている。この方法により、酸化物イオン伝導率が高いケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶配向セラミックスを得ることができる。
【0005】
しかし、この特許文献5及び非特許文献4に開示された結晶配向セラミックスの製造方法では、加熱後に生成する積層構造のうち、最も中間に位置するケイ酸ランタンオキシアパタイト多結晶体の層以外の層を除去する必要があるため、クラックの無い高品質な結晶配向アパタイトを効率よく製造することが困難であるという問題があった。
このようなケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶配向アパタイトは、高い酸化物イオン伝導率を有することから、酸化物イオン伝導体または固体電解質として有用であるが、クラックの無い高品質な結晶配向アパタイトを効率よく製造する方法の提示が望まれており、改良の余地が残されていた。
【0006】
一方、特許文献4には、チタン酸ビスマス(BiTi12)からなる板状テンプレート粒子からなる粉末にBiとNaCO、TiOを所定の比率で混合し、この混合物を板状テンプレート粒子が配向するように成形して焼結する方法(以下、「テンプレート粒成長法」と言う場合がある)が開示されている。これによると、チタン酸ビスマス(Bi0.5Na0.5TiO)の板状結晶を用いることで、チタン酸ビスマスの結晶方位が揃った配向多結晶体(結晶配向チタン酸ビスマス)を容易に得ることができる。
また、非特許文献5には、アルカリ土類金属ハロゲン化物のSrClをフラックス(融剤)として用いることで、六方晶系アパタイト(化学式:SrPr(SiOO)の結晶粒子を作製する方法が報告されている。しかし、非特許文献5に報告されたフラックス法を用いた六方晶系アパタイトの単結晶の育成実験では、得られる単結晶はc軸方向に伸長し、かつ(100)面が発達した柱状結晶である。すなわち、従来技術においては(001)面が発達した板状のアパタイト単結晶を効率的に得ることができないため、既述のテンプレート粒成長法を用いて結晶配向アパタイトを作製することが困難であるという問題があった。
【0007】
さらに、非特許文献6には、アルカリハライドのNaClをフラックス(融剤)として用いることで、六方晶系アパタイト(化学式:Sr(POCl)の結晶粒子を作製する方法が報告されている。しかし、非特許文献6に報告されたフラックス法を用いた六方晶系アパタイトの単結晶の育成実験では、得られる単結晶はc軸方向に伸長し、かつ(100)面が発達した柱状結晶である。すなわち、従来技術においては(001)面が発達した板状のアパタイト単結晶を効率的に得ることができないため、既述のテンプレート粒成長法を用いて結晶配向アパタイトを作製することが困難であるという問題があった。
【0008】
一方、非特許文献3には、配向したケイ酸ランタンオキシアパタイト多結晶体の単位胞中のLa席の原子数と単位胞中のSi席の原子数の比([La席の原子数]/[Si席の原子数]の値)を高くすることで、酸化物イオン伝導度を向上させることについて提案されている。しかし、特許文献5で報告された[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値は1.618であり、[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値が1.618よりも大きなケイ酸ランタンオキシアパタイト多結晶体を作製すれば、酸化物イオン伝導度がさらに向上すると期待されており、改良の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-208333号公報
【文献】特開平11-130595号公報
【文献】特開2004-244282号公報
【文献】特開平10-139552号公報
【文献】国際公開第2012/015061号
【非特許文献】
【0010】
【文献】M. Higuchi, Y. Masubuchi, S. Nakayama, S. Kikkawa, K. Kodaira, K., Solid State Ionics 174, 73-80 (2004).
【文献】T. Iwata, E. Bechade, K. Fukuda, O. Masson, I. Julien, E. Champion, P. Thomas, J. Am. Ceram. Soc. 91, 3714-3720 (2008).
【文献】R. Ali, M. Yashima, Y. Matsushita, H. Yoshioka, F. Izumi, J. Solid State Chem. 182, 2846-2851 (2009).
【文献】K. Fukuda, T. Asaka, R. Hamaguchi, T. Suzuki, H. Oka, A. Berghout, E. Bechade, O. Masson, I. Julien, E. Champion, and P. Thomas, Chem. Mater., 23, 5474-5483 (2011).
【文献】井口浩詠、鴨下三奈美、王俊、小森隆史、坂倉輝俊、石澤伸夫、J. Flux Growth 5, 59-62 (2010).
【文献】S. Oishi, M. Mitsuya, T. Suzuki, N. Ishizawa, J. C. Rendon-Angeles, and K. Yanagisawa, Bull. Chem. Soc. Jpn, 74, 1635-1639 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、テンプレート粒成長法による結晶配向アパタイトの作製に好適なケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を提供すること、及び該ケイ酸ランタンオキシアパタイトの製造方法を提供すること、並びに該ケイ酸ランタンオキシアパタイトを用いた結晶配向アパタイトを提供することを目的とする。
また、本発明は、高い酸化物イオン伝導率を有する酸化物イオン伝導体及び固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶であり、板状結晶粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)が3以上であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。その直径とは、板状結晶粒子の発達面と同じ面積を有する円の直径のことである。
(2)アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)、及びハロゲン元素を固溶することを特徴とする前記(1)に記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(3)前記(2)に記載のアルカリ金属元素がKでありハロゲン元素がFであることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(4)一般式が(La)(Si6-d)(O26-e)(式中、Aは一種類または複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類または複数種類のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)を表し、Cは一種類または複数種類のハロゲン元素を表し、□はSi席の空孔を表す。さらに、8≦a+b+c≦10、0≦e≦1、3a+b+2c-4d+e=28である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(5)一般式が(La)(Si6-c)(O26-d)(式中、Aは一種類または複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類または複数種類のハロゲン元素を表し、□はSi席の空孔を表す。さらに、8≦a+b≦10、0≦d≦1、3a+b-4c+d=28である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(6)前記(5)に記載の一般式が(La)(Si6-c)(O26-d)(式中、□はSi席の空孔を表す。さらに、8≦a+b≦10、0≦d≦1、3a+b-4c+d=28である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(7)一般式が(La10-x-y)Si5.5+0.5x+0.25y-0.25z(O26-z)(式中、Aは一種類または複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類または複数種類のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)を表し、Cは一種類または複数種類のハロゲン元素を表す。さらに、0≦x+y≦2、0≦z≦1である。)で表されることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(8)前記(7)に記載の一般式が(La10-x)Si5.5+0.5x-0.25y(O26-y)(式中、0≦x≦1、0≦y≦1である。)であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶である。
(9)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶に関する製造方法であって、アルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物をフラックスとして用いること、かつ熱処理温度の最高値が1100℃よりも低いことを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法である。
(10)前記(9)に記載のアルカリ金属元素がKでありハロゲン元素がFであって、KFをフラックスとして用いること、かつ熱処理温度の最高値が900℃またはそれ以下であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法である。
(11)前記(1)~(8)のいずれかに一つに記載のアパタイトの板状結晶を用いてなる結晶配向アパタイトである。
(12)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いてなる酸化物イオン伝導体である。
(13)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いてなる固体電解質である。
(14)前記(1)~(8)のいずれか1つに記載のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶と、ケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末との混合物に、熱処理を含む工程を施すことを特徴とする結晶配向アパタイト焼結体の製造方法である。
(15)前記(14)に記載のアパタイトの板状結晶の製造方法において、ケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末がさらに添加物としてBaO、SrO、MgO、Al、Fe、GeOおよびBからなる群より選択される一種類もしくは複数種類の酸化物を含むことを特徴とする結晶配向アパタイト焼結体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶であり、板状結晶粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)が3以上であり、より好ましくは5以上であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を提供すること、又はアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)とハロゲン元素を固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を提供すること、及びそのようなアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)とハロゲン元素を固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を得るための製造方法を提供すること、並びに該ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いた結晶配向アパタイトを提供することができる。
また、本発明によれば、高い酸化物イオン伝導率を有する酸化物イオン伝導体及び固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1においてフラックス法で作製した生成物(結晶粒子の集合体)において、CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、10.0°から70.0°の2θ範囲における回折X線のプロフィル強度の測定結果を示すグラフである。
図2】(A)実施例1で得られたKとFを固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(B)(A)にその板状結晶粒子の発達面と同じ面積を有する円の直径を追加した説明図である。
図3】実施例1で得られたKとFを固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶のエネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析の結果を示すグラフである。
図4】実施例1で得られたKとFを固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の電子線プローブ微小部分析装置(EPMA)による元素分析の結果を示すグラフである。使用した分光結晶はTAP及びLDE1L、PETJ、LIFH、TAPLである。
図5】実施例1で得られたKとFを固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の結晶構造モデルを示す。
図6】実施例2において作製した結晶配向アパタイトの配向面において、CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、10.0°から70.0°の2θ範囲における回折X線のプロフィル強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶>
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、結晶粒子の外形が(001)面の発達した板状である。上述の結晶粒子の外形をより詳しく説明すると、該ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、結晶粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)が3以上であり、より好ましくは5以上であることを特徴としている。
【0016】
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、フラックス(融剤)法によって生成することから、その結晶構造中にフラックスを構成する元素の全てまたは一部が固溶していることを特徴としている。例えば、アルカリハライドをフラックスとして用いる場合には、アルカリ元素がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶する。より具体的には、アルカリハライドのフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いる場合には、KがLa席に固溶しFがO席に固溶する。また、例えばアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物をフラックスとして用いる場合には、アルカリ土類金属元素(Mgを含む)がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶する。また、例えばアルカリハライドとアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物の両方をフラックスとして用いる場合には、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素(Mgを含む)の両方がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶する。
【0017】
また、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法は、加熱工程の熱処理温度の最高値が好ましくは1100℃よりも低いことを特徴としている。より好ましくは加熱工程の熱処理温度の最高値が900℃またはそれ以下である。
本発明においては、LaとSiOからなる組成物にアルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物を添加した混合物を、好ましくは1100℃よりも低い温度(より好ましくは900℃またはそれ以下の温度)で加熱し、室温まで冷却することでケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を生成する。より具体的には、LaとSiOからなる組成物にアルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物を添加した混合物を1100℃よりも低い温度に加熱すると、昇温過程でアルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物が融解し、その融液の中にLa成分とSiO成分が溶け込み、La成分とSiO成分、及びアルカリハライド成分又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物成分から構成される融液が生成する。この融液を1100℃よりも低い温度で加熱し続ける過程又はその後の室温までの冷却過程で、アルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物を主成分とするフラックスに対して、ケイ酸ランタンオキシアパタイト成分が過飽和となることでケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶が晶出する。
【0018】
上記の熱処理によって融液からケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶が晶出する一方で、ケイ酸ランタンオキシアパタイト以外の結晶相が晶出することがある。例えば、フラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いて得られる試料を構成する結晶相の種類を、X線粉末回折装置を用いて調べてみると、ケイ酸ランタンオキシアパタイト以外の結晶相として、KLaF(SiOとLaOF、KLaFが晶出することがある(図1においてケイ酸ランタンオキシアパタイトに加えて、KLaF(SiOとLaOFが共存するX線粉末回折パターン示す)。
【0019】
また、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、そのX線粉末回折パターンが示すとおり、回折面指数が002および004の反射が選択配向の効果によって顕著に観測されることから、結晶粒子の外形が(001)面の発達した板状である。
測定条件・使用機材は以下の通りであった。
【0020】
[測定条件・使用機材]
・X線粉末回折装置:スペクトリス(株)パナリティカル事業部、X’Pert PRO Alpha-1
・入射X線:CuKα線(45kV×40mA)
・2θ範囲:10.0°から70.0°
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶だけでなく、ケイ酸ランタンオキシアパタイト以外の結晶相が晶出する場合には、生成物からケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を分離することが好ましい。具体的には、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の結晶サイズは、ケイ酸ランタンオキシアパタイト以外の結晶相の結晶サイズと比較してより大きいものが多いので、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶とケイ酸ランタンオキシアパタイト以外の結晶相は篩を用いて概ね分離することができる。
【0021】
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1の外形は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した(図2(A)に示す)。本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1は発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)は3以上であり、より好ましくは5以上であることを特徴としている。図2(B)において、破線2は板状結晶1の発達面と同じ面積を有する円の直径を示す。ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、テンプレート粒成長法を適用するにあたり、アスペクト比の値が大きければ配向度の高い配向多結晶体を容易に作製できるとの観点から、アスペクト比は3以上より、5以上が好ましい。
テンプレート粒成長法を用いて配向多結晶体を作製するためには、アスペクト比が3以上であり、より好ましくは5以上である板状結晶をテンプレート粒子として用いることが好ましい。そのため、アスペクト比が3以上であり、より好ましくは5以上であるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、テンプレート粒成長法による結晶配向アパタイトの作製に好適であるとの観点から特に有用である。
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の主要な構成元素は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて調べた。例えば、フラックスとしてKFを用いて作製したケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の主要な構成元素はLa、K、Si、Oであることは、元素分析の結果を示すグラフ(図3に示す)から確認できる。すなわち、フラックスの構成成分であるKがLa席に固溶していると考えられる。
測定条件・使用機材は以下の通りであった。
[測定条件・使用機材]
・ 走査型電子顕微鏡:日本電子(株)製、JSM-6010LA
・ エネルギー分散型X線分光器:日本電子(株)製、JED-2300
【0022】
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶に固溶する主要元素はEDSで検出できる一方で、微量元素は電子線プローブ微小部分析装置(EPMA)を用いて検出した。上述のフラックスとしてKFを用いて作製したケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶には、微量のF(1.7wt%程度)が固溶することを元素分析の結果を示すグラフ(図4に示す)から確認した。すなわち、フラックスの構成成分であるFがO席に固溶していると考えられる。
測定条件・使用機材は以下の通りであった。
[測定条件・使用機材]
・電子線プローブ微小部分析装置:日本電子(株)製、JXA-8230
・分光結晶:全元素分析にはTAP、LDE1L、PETJ、LIFH
・分光結晶:フッ素の検出:TAPL
・加速電圧:15kV、プローブ電流:200nA、プローブ径:15μm
【0023】
また、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の結晶構造と組成式は以下のようにして決定した。まず、大きさ約53μm×約41μm×約5μmの上記の板状結晶を顕微鏡下でガラス棒の先端にエポキシ樹脂系接着剤で固定した。ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を固定したガラス棒を、単結晶X線回折装置(50 kV、1 mA)にセットして回折データを収集し、パソコンソフトウエアを用いて結晶構造を決定した(図5に示す)。結晶構造を決定することで、単位胞中の原子の種類と原子の存在割合(表1)を定量的に求めることができ、組成式は(La9.120.88)(Si5.850.15)(O25.620.38)と決定した。ただし、□はSi席の空孔を表す。La席にアルカリ金属元素のKが固溶し、さらにO席にハロゲン元素のFが固溶することが確認できた。単位胞の中にはSi席が6つ存在するので、Si席には2.5%の空孔が生成していることが確認できた。[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値は1.709であり、特許文献5で報告された[La席の原子数]/[Si席の原子数]の最大値(1.618)よりも大きい。
【0024】
本発明において、アルカリハライドをフラックスとして用いる場合には、アルカリ元素がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶すると考えられる。また、アルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物をフラックスとして用いる場合には、La席にアルカリ土類金属元素(Mgを含む)が固溶しハロゲン元素がO席に固溶すると考えられる。また、アルカリハライドとアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物の両方をフラックスとして用いる場合には、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素(Mgを含む)の両方がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶すると考えられる。
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は結晶構造中のSi席に空孔が存在するので、[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値が1.709に達しており特許文献5で報告された[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値の最大値(1.618)よりも大きいことから、高い酸化物イオン伝導率が期待できる。さらに、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶はc軸に垂直な(001)面が発達した板状結晶であることから、テンプレート粒成長法に用いる板状テンプレート粒子として好適であり、酸化物イオン伝導体及び固体電解質として有用である。
【0025】
本発明において、既述のEDSとEPMAを用いた化学分析法と単結晶X線結晶構造解析法から、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶には、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)がLa席に固溶し、さらにハロゲン元素がO席に固溶することが示された。従って、複数種類のアルカリハライドの混合物をフラックスとして用いる場合、又は複数種類のアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物の混合物をフラックスとして用いる場合、又は一種類又は複数種類のアルカリハライドと一種類又は複数種類のアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物の混合物をフラックスとして用いる場合、前記のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の一般式は(La10-x-y)Si5.5+0.5x+0.25y-0.25z(O26-z)(式中、Aは一種類又は複数種類のアルカリ金属元素を表し、Bは一種類又は複数種類のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)を表し、Cは一種類又は複数種類のハロゲン元素を表す。さらに、0≦x+y≦2、0≦z≦1である。)で表される。
【0026】
ここで、上記のxとy及びzの値は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)の種類とハロゲン元素の種類、および原料組成(例えばLa/Si比の値など)、さらには加熱温度などの熱処理条件に応じて決定されると考えられる。
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶について、複数の板状結晶粒子の結晶構造を上記の単結晶X線回折法を用いて精密化した。精密化した結晶構造から化学式を決定してからxとy及びzの値の範囲を求めたところ、x+yは0~2の範囲の数であり、かつzは0~1の範囲の数である。
【0027】
本発明において、アルカリハライドのフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いる場合には、生成するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、一般式が(La10-x)Si5.5+0.5x-0.25y(O26-y)(ただし、xは0~1の範囲の数であり、かつyは0~1の範囲の数である)で表される。
測定条件・使用機材は以下の通りであった。
[測定条件・使用機材]
・単結晶X線回折装置:ブルカー・エイエックス(株)製、D8 VENTURE
・測定温度:室温
・パソコンソフトウエア:APEX3、JANA2006
【0028】
【表1】

(La9.120.88)(Si5.850.15)(O25.620.38)(□はSi席の空孔を表す)の構造パラメータと原子変位パラメータ(×10-2nm
【0029】
一方、任意のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶が本発明の範囲内にあるか否かは、例えば、以下のようにして確認することができる。すなわち、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶はフラックス法によって生成することから、その結晶構造中にフラックスを構成する元素が固溶していれば本発明の範囲内であると考えられる。例えば、アルカリハライドをフラックスとして用いる場合には、アルカリ元素がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶すると推察されることから、該フラックスを構成するアルカリ元素とハロゲン元素を含む化学組成であって、かつ板状結晶であれば本発明の範囲内と考えられる。また、例えばアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物をフラックスとして用いる場合には、アルカリ土類金属元素(Mgを含む)がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶すると推察されることから、該フラックスを構成するアルカリ土類金属元素(Mgを含む)とハロゲン元素を含む化学組成であって、かつ板状結晶であれば本発明の範囲内と考えられる。また、例えばアルカリハライドとアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物の両方をフラックスとして用いる場合には、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素(Mgを含む)の両方がLa席に固溶しハロゲン元素がO席に固溶すると推察されることから、該フラックスを構成するアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素(Mgを含む)さらにハロゲン元素を含む化学組成であって、かつ板状結晶であれば本発明の範囲内と考えられる。
【0030】
また、La席に固溶するアルカリ元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)の単位胞当たりの原子数は、O席に固溶するハロゲン元素の単位胞当たりの原子数よりも多い。そのため、例えばEPMAを用いるなどの方法で求めた化学組成の分析結果では、O席に固溶するハロゲン元素は検出限界以下となり検出されない一方で、La席に固溶するアルカリ元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)のみが検出されることがある。
例えば、アルカリハライドのフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いると、KがLa席に固溶しFがO席に固溶することから、KとFを含む化学組成であって、かつ板状結晶であれば本発明の範囲内と考えられる。
【0031】
アルカリハライド系のフラックスはKFに限定されるものでは無く、LiF、LiCl、LiBr、LiI、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KCl、KBr、KIなどを用いても良い。もしくはこれらのアルカリハライド系の化合物のなかから複数を選択し、それらの混合物をフラックスとして用いても良い。
【0032】
上述の、複数種類のアルカリハライド系の化合物を混合したフラックスは、その融点が各純粋なアルカリハライド系の化合物と比較して低下する傾向にあることから、1100℃よりも低い温度でフラックス法を実施する場合に特に有効である。
例えば、アルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物のフラックスとして塩化バリウム(BaCl)を用いると、BaがLa席に固溶しClがO席に固溶することから、BaとClを含む化学組成であって、かつ板状結晶であれば本発明の範囲内と考えられる。
【0033】
アルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物系のフラックスはBaClに限定されるものでは無く、MgF、MgCl、MgBr、MgI、CaF、CaCl、CaBr、CaI、SrF、SrCl、SrBr、SrI、BaF、BaBr、BaIなどを用いても良い。もしくはこれらのアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物系の化合物のなかから複数を選択し、それらの混合物をフラックスとして用いても良い。
【0034】
上述の、複数種類のアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物系の化合物を混合したフラックスは、その融点が各純粋なアルカリハライド系の化合物と比較して低下する傾向にあることから、1100℃よりも低い温度でフラックス法を実施する場合に特に有効である。
また、フラックスは一種類又は複数種類のアルカリハライドと一種類または複数種類のアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物を任意の組み合せかつ任意の量比で用いても良い。
【0035】
上述の、複数種類のアルカリハライド又は複数種類のアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物を混合したフラックスを用いると、そのフラックスに含まれる複数種類のアルカリ金属元素と複数種類のハロゲン元素が、生成物のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶に固溶する。また、複数種類のアルカリ金属元素はLa席に固溶し、複数種類のハロゲン元素はO席に固溶する。すなわち、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、その結晶構造中にフラックスを構成する複数種類のアルカリ金属元素又は複数種類のアルカリ金属元素及び複数種類のハロゲン元素が固溶していれば本発明の範囲内であると考えられる。
【0036】
<結晶配向アパタイト>
本発明の結晶配向アパタイトは、既述の本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いてなることを特徴としている。
非特許文献5および非特許文献6には六方晶系アパタイトの単結晶を、アルカリハライドをフラックスに用いて育成すると、c軸方向に伸長した柱状結晶が得られることが報告されている。通常のフラックス法では、フラックス成分に富む融液中に原料物質をできるだけ高濃度で溶かし込むために、1100℃又はそれ以上の温度で原料物質とフラックスを加熱する。つまり、通常のフラックス法で六方晶系アパタイトの単結晶を育成すると、加熱温度が1100℃又はそれ以上の温度であるために、c軸方向に伸長した柱状結晶が得られる。こうして得られるケイ酸ランタンオキシアパタイトの柱状結晶は、テンプレート粒成長法には不適切な粒子形状をもつ。一方、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法は、加熱工程の熱処理温度の最高値が好ましくは1100℃よりも低いことを特徴としている。より好ましくは加熱工程の熱処理温度の最高値が900℃またはそれ以下である。
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、高いアスペクト比(アスペクト比が3以上)を有することから、テンプレート粒成長法に用いる板状テンプレート粒子として好適であり、特に有用である。
【0037】
既述のとおり、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、結晶構造中のSi席に空孔が存在するので[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値が1.709に達しており特許文献5で報告された[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値の最大値(1.618)よりも大きいことから、高い酸化物イオン伝導率が期待できる。従って、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶をテンプレート粒子として作製した結晶配向アパタイトは、高い酸化物イオン伝導率が要求される種々のものに適用することができる。
本発明において、アスペクト比が3以上であり、より好ましくは5以上であるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶に対してドクターブレード法または該方法に準ずる方法を適用して該ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶が配向した集合体を作製し、これを加熱して結晶配向アパタイトを作製した。
【0038】
上記の結晶配向アパタイトの配向度は以下のようにして得た。まず、配向多結晶体(結晶配向アパタイト)の配向面の結晶学的な方位を調査する目的で、CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、10.0°から70.0°の2θ範囲における回折X線のプロフィル強度を測定した(図6に示す)。X線粉末回折パターンには回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、結晶配向アパタイトは配向面に垂直な方向に沿ってc軸が配向していることが確かめられた。
該結晶配向アパタイトの配向度は、非特許文献2に記載された方法でロットゲーリングの式から算出することができる。この多結晶体の配向度を求めると0.98となり、高い配向度である。
【0039】
<アパタイト成形体及び結晶配向アパタイト焼結体>
本発明によるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、もしくは本発明によるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶とケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末との混合物を用いて、高配向なケイ酸ランタンオキシアパタイト成形体やケイ酸ランタンオキシアパタイト焼結体を作製することができる。すなわち、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、テープ成形や押出し成形といった板状結晶に剪断力が印加される成形方法を用いて成形体を作製することで、板状結晶が配向された成形体を得ることができる。また、そのような高配向成形体を焼結させることで高配向焼結体を得ることができる。さらに、このケイ酸ランタンオキシアパタイト成形体やケイ酸ランタンオキシアパタイト焼結体には添加物質(例えばBaOなど)を均一に固溶させることが可能なため、添加物質によって付与しようとする所望の特性を最大限に発揮させることができる。なお、ケイ酸ランタンオキシアパタイト粉末が上述した添加物質を含んでいない場合には、上述した混合物の作製に際し添加物質を添加して均一に混合すればよい。
【0040】
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、もしくはケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶とケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末の混合物は、剪断力を用いた手法によりケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶が配向された成形体となる。剪断力を用いた手法の好ましい例としては、テープ成形、押出し成形、ドクターブレード法、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。剪断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、もしくはケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶とケイ酸ランタンオキシアパタイトを主成分とする粉末の混合物にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基材上にシート状に吐出及び成形することが好ましい。吐出口のスリット幅は公知の条件に従い10~400μmとすることが好ましい。なお、分散媒の量は公知の条件に従いスラリー粘度が5000~100000cPとなるような量にすることが好ましく、より好ましくは8000~60000cPである。シート状に成形した配向成形体の厚さは公知の条件に従い5~500μmであることが好ましく、より好ましくは10~200μmである。このシート状の成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さを有する前駆積層体とし、この前駆積層体にプレス成形を施すことが好ましい。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すことが好ましい。
【0041】
上記のようにして得られた成形体は1100℃よりも低い温度、好ましくは900℃またはそれ以下の温度で焼成されて、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの配向した板状結晶を含んでなる結晶配向アパタイト焼結体を形成する。上記焼成温度での焼成時間は特に限定されないが、好ましくは1~1000時間であり、より好ましくは5~100時間である。こうして得られた結晶配向アパタイト焼結体は、板面からのX線粉末回折パターンには回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、板面に垂直な方向に沿ってc軸が配向していることが確かめられる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本実施例では、アルカリハライド系のフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いて得られるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法について説明する。
出発原料として酸化ランタン(La)試薬と酸化ケイ素(SiO)試薬、フッ化カリウム(KF)試薬を、[La:SiO:KF]=[1.00:1.29:42.64]のモル比で秤量し、原料混合粉末を準備した。この原料混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から900℃まで5時間かけて昇温し、引き続き900℃で72時間保持し、さらに600℃まで150時間かけて徐冷し、600℃で電気炉の電源をOFFにして室温に冷却した。試料を坩堝ごと取り出し、KF成分に富む固化物をイオン交換水で溶解してから除去することで粉末状の試料を得た。
【0043】
CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、上記の粉末状の試料の一部から回折X線のプロフィル強度を測定した(図1に示す)。10.0°から70.0°の2θ範囲におけるX線粉末回折パターンには、ケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射に加えて、KLaF(SiOとLaOFに帰属される反射も観測された。すなわち、生成物はケイ酸ランタンオキシアパタイトとKLaF(SiO、LaOFであることが確かめられた。
【0044】
上記のX線粉末回折パターンの反射のうち、ケイ酸ランタンオキシアパタイトとKLaF(SiOに帰属される反射の回折強度は比較的強いが、LaOFに帰属される反射の回折強度は比較的弱い。各結晶相の回折強度から見積もった相組成は、ケイ酸ランタンオキシアパタイトが26モル%、KLaF(SiOが68モル%、LaOFが6モル%である。
上記のX線粉末回折パターンでケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射のうち、回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶粒子は、(001)面の発達した板状であることが確かめられた。
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1の外形は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した(図2(A)に示す)。板状結晶1の発達面の面積は3669.1μmであるので、この発達面と同じ面積を有する円(図2(B)に示す)の直径は68.3μmである。さらに板状結晶1の厚みは7.0μmであるので、板状結晶1の発達面の直径(この直径とは、板状結晶粒子の発達面と同じ面積を有する円の直径のことである)を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)は9.8である。板状結晶1に関する上記の値は、表2の試料番号1に記載されている。
板状結晶1以外のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶(表2の試料番号2から11)について、アスペクト比を求めた結果を表2に示す。表2の試料番号1から11のケイ酸ランタンオキシアパタイトの11個の板状結晶に関して、板状結晶粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)は全て3以上であった。なお、それらの平均値は9.2(表2に示す)であった。すなわち、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、アスペクト比は3以上であり、より好ましくは5以上であることを特徴としている。
【0045】
【表2】

ケイ酸ランタンオキシアパタイトの11個の板状結晶から求めたアスペクト比の値とその平均値
【0046】
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1を走査型電子顕微鏡(SEM)用の試料台にカーボンテープで固定した。電子線照射による帯電を防ぐために、カーボン蒸着装置((株)真空デバイス製、VES-30T)を用いてカーボン蒸着を施し、SEMを用いて結晶粒子の外形を観察した(図2(A)に示す)。さらに主要な構成元素をSEMに付属のエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて検出し、フラックスとしてKFを用いて作製したケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の主要な構成元素はLa、K、Si、Oであることを、元素分析の結果を示すグラフ(図3に示す)から確認した。すなわち、フラックスの構成成分であるKがLa席に固溶していると考えられる。
【0047】
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1に固溶する主要な構成元素(La、K、Si、O)と微量の構成元素(F)は、電子線プローブ微小部分析装置(EPMA)を用いて検出した。ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1はフラックスとしてKFを用いて作製していることから、予想どおりFの固溶が元素分析の結果を示すグラフ(図4に示す)から確認できた。すなわち、フラックスの構成成分であるFがO席に固溶していると考えられる。
【0048】
また、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1の結晶構造と組成式は以下のようにして決定した。まず、適切な大きさ(約41μm×約53μm×約5μm)の板状結晶を顕微鏡下で選び出し、ガラス棒の先端にエポキシ樹脂系接着剤で固定した。このケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶1を固定したガラス棒を、単結晶X線回折装置(50kV×1mA)にセットして回折データを収集し、パソコンソフトウエアを用いて結晶構造を決定した(図5に示す)。結晶構造を決定することで、単位胞中の原子の種類と原子の存在割合(表1に示す)を定量的に求めることができ、組成式は(La9.120.88)(Si5.850.15)(O25.620.38)である。ただし、□はSi席の空孔を表す。La席にアルカリ金属元素のKが固溶し、さらにO席にハロゲン元素のFが固溶することが確認できた。単位胞の中にはSi席が6つ存在するので、Si席には2.5%の空孔が生成していることが確認できた。[La席の原子数]/[Si席の原子数]の値は1.709で十分に高い値である。
【0049】
[実施例2]
アルカリハライド系のフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いて得られるカリウムとフッ素を固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を用いて結晶配向アパタイトを作製した。
フラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いて育成したカリウムとフッ素を固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を、顕微鏡下または肉眼で観察しながら選別し、溶媒を用いて基板上に分散する過程で10個の板状結晶を配向させ、さらに加熱することで結晶配向アパタイトを得た。
CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、上記の結晶配向アパタイトから回折X線のプロフィル強度を測定した。X線粉末回折パターンには回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、配向面に垂直な方向に沿ってc軸が配向していることが確かめられた。
この結晶配向アパタイトの配向度は、下記式(1)に示すロットゲーリングの式から算出することができる。
【0050】
【数1】

式(1)において、ρは、配向していないケイ酸ランタンオキシアパタイトにおいて、回折X線の2θ範囲が10.0°から70.0°の間に出現した全回折反射の強度の合計と、回折面指数が002および004の回折反射の強度の合計を用いて、式(2)によって求められる。
【0051】
【数2】

ただし、式(2)のΣI(hkl)は2θ範囲が10.0°から70.0°の間に出現した全回折反射の強度の合計を表し、式(2)のΣI(00l)は回折面指数が002および004の回折反射の強度の合計を表す。
一方、式(1)中のρは、結晶配向アパタイトにおいて、回折X線の2θ範囲が10.0°から70.0°の間に出現した全回折反射の強度の合計と、回折面指数が002および004の回折反射の強度の合計を用いて、式(3)によって求められる。
【0052】
【数3】

ただし、式(3)のΣI(hkl)は2θ範囲が10.0°から70.0°の間に出現した全回折反射の強度の合計を表し、式(3)のΣI(00l)は回折面指数が002および004の回折反射の強度の合計を表す。以上の式(1)~式(3)を用いて、この結晶配向アパタイトの配向度を求めると0.98となり、極めて高い配向度である。
【0053】
[実施例3]
本発明によるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶と、ケイ酸ランタンオキシアパタイト粉末との混合物を用いて結晶配向アパタイトを作製する。
カリウムとフッ素を固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶を[実施例1]に記載した方法で作製し、顕微鏡下または肉眼で観察しながら選別して、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶のみから成る試料(試料A)を準備する。
【0054】
酸化ランタン(La)試薬と酸化ケイ素(SiO)試薬を[La:SiO]=[9.33:12.00]のモル比で秤量し、原料混合粉末を準備する。この原料混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から1600℃まで3時間かけて昇温し、引き続き1600℃で5時間保持し、さらに600℃まで24時間かけて徐冷し、600℃で電気炉の電源をOFFにして室温に冷却する。坩堝から試料を取り出し、取り出した試料を粉砕して粉末状のケイ酸ランタンオキシアパタイト(化学式はLa9.33Si26)の試料(試料B)を得る。
【0055】
上記の[試料A]5.0重量部と上記の[試料B]95.0重量部を均一に混合する。得られる混合物100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール)15重量部と、可塑剤(ジ(2-エチルヘキシル)フタレート)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30V、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2-エチルヘキサノール)とを混合する。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整する。こうして調製されるスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるようにシート状に成形する。得られるテープを40×40mmの矩形に切断し、30枚の切断テープ片を積層し、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行う。この真空パックを100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、板状の成形体を作製する。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で20時間の条件で脱脂を行う。得られる脱脂体を大気中(より好ましくは加圧酸化雰囲気中)、900℃で25時間の条件で焼成して板状の焼結体を作製する。こうして得られるケイ酸ランタンオキシアパタイト焼結体は、板面からのX線粉末回折パターンには回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、板面に垂直な方向に沿ってc軸が配向していることが確かめられる。
【0056】
[実施例4]
本発明によるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶とケイ酸ランタンバリウムオキシアパタイト粉末との混合物を用いてBaOを固溶する結晶配向アパタイトを作製する。
酸化ランタン(La)試薬と炭酸バリウム(BaCO)試薬、酸化ケイ素(SiO)試薬を[La:BaCO:SiO]=[9.32:0.56:11.74]のモル比で秤量し、原料混合粉末を準備する。この原料混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から1600℃まで3時間かけて昇温し、引き続き1600℃で5時間保持し、さらに600℃まで24時間かけて徐冷し、600℃で電気炉の電源をOFFにして室温に冷却する。坩堝から試料を取り出し、取り出した試料を粉砕して粉末状のケイ酸ランタンバリウムオキシアパタイト(化学式はLa9.32Ba0.28Si5.8726)の試料(試料C)を得る。
【0057】
[実施例3]に記載の[試料A]5.0重量部と上記の[試料C]95.0重量部を均一に混合する。得られる混合物100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール)15重量部と、可塑剤(ジ(2-エチルヘキシル)フタレート)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30V、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2-エチルヘキサノール)とを混合する。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整する。こうして調製されるスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるようにシート状に成形する。得られるテープを40×40mmの矩形に切断し、30枚の切断テープ片を積層し、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行う。この真空パックを100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、板状の成形体を作製する。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で20時間の条件で脱脂を行う。得られる脱脂体を大気中(より好ましくは加圧酸化雰囲気中)、900℃で25時間の条件で焼成して板状の焼結体を作製する。こうして得られるケイ酸ランタンバリウムオキシアパタイト焼結体は、板面からのX線粉末回折パターンには回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、板面に垂直な方向に沿ってc軸が配向していることが確かめられる。
【0058】
[実施例5]
本実施例では、アルカリハライド系のフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いて得られるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法について説明する。
出発原料として酸化ランタン(La)試薬と酸化ケイ素(SiO)試薬、フッ化カリウム(KF)試薬を、[La:SiO:KF]=[1.00:1.29:61.01]のモル比で秤量し、原料混合粉末を準備した。この原料混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から870℃まで1.5時間かけて昇温し、引き続き870℃で0.5時間保持し、さらに770℃まで200時間かけて徐冷し、770℃で電気炉の電源をOFFにして室温に冷却した。試料を坩堝ごと取り出し、KF成分に富む固化物をイオン交換水で溶解してから除去することで粉末状の試料を得た。
【0059】
CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、上記の粉末状の試料の一部から回折X線のプロフィル強度を測定した。10.0°から70.0°の2θ範囲におけるX線粉末回折パターンには、ケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射に加えて、KLaF(SiOに帰属される反射も観測された。すなわち、生成物はケイ酸ランタンオキシアパタイトとKLaF(SiOであることが確かめられた。
【0060】
上記のX線粉末回折パターンの反射のうち、ケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射の回折強度は比較的強いが、KLaF(SiOに帰属される反射の回折強度は比較的弱い。各結晶相の回折強度から見積もった相組成は、ケイ酸ランタンオキシアパタイトが64モル%、KLaF(SiOが36モル%である。
上記のX線粉末回折パターンでケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射のうち、回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶粒子は、(001)面の発達した板状であることが確かめられた。
【0061】
[実施例6]
本実施例では、アルカリハライド系のフラックスとしてフッ化カリウム(KF)を用いて得られるケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶、及びその製造方法について説明する。
出発原料として酸化ランタン(La)試薬と酸化ケイ素(SiO)試薬を[La:SiO] = [9.33:12.00]のモル比で秤量し、原料混合粉末を準備した。この原料混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から1600℃まで2時間かけて昇温し、引き続き1600℃で10時間保持し、さらに電気炉の電源をOFFにして室温に冷却した。得られた試料を粉砕し、La9.33Si26組成のケイ酸ランタンオキシアパタイトの粉末状試料を得た。
【0062】
La9.33Si26組成のケイ酸ランタンオキシアパタイトの粉末状試料とフッ化カリウム(KF)試薬を、[La9.33Si26:KF] = [1.00:284.71]のモル比で秤量し、これらの混合粉末を準備した。この混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から870℃まで1.5時間かけて昇温し、引き続き870℃で0.5時間保持し、さらに770℃まで200時間かけて徐冷し、770℃で電気炉の電源をOFFにして室温に冷却した。試料を坩堝ごと取り出し、KF成分に富む固化物をイオン交換水で溶解してから除去することで粉末状の試料を得た。
【0063】
CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、上記の粉末状の試料の一部から回折X線のプロフィル強度を測定した。10.0°から70.0°の2θ範囲におけるX線粉末回折パターンには、ケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射に加えて、KLaF(SiOに帰属される反射も観測された。すなわち、生成物はケイ酸ランタンオキシアパタイトとKLaF(SiOであることが確かめられた。
【0064】
上記のX線粉末回折パターンの反射のうち、ケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射の回折強度は比較的強いが、KLaF(SiOに帰属される反射の回折強度は比較的弱い。各結晶相の回折強度から見積もった相組成は、ケイ酸ランタンオキシアパタイトが66モル%、KLaF(SiOが34モル%である。
上記のX線粉末回折パターンでケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射のうち、回折面指数が002および004の反射が顕著に観測されることから、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶粒子は、(001)面の発達した板状であることが確かめられた。
【0065】
上記の試料から9個のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶をランダムに選択し、電子線プローブ微小部分析装置(EPMA)用の試料台にカーボンテープで固定した。電子線照射による帯電を防ぐために、カーボン蒸着装置((株)真空デバイス製、VES-30T)を用いてカーボン蒸着を施し、EPMAを用いて化学組成の定量分析を行なった。O原子数(N)とF原子数(N)の合計が26になるとした場合(N+N=26)の、La原子数(NLa)とK原子数(N)、Si原子数(NSi)、O原子数(N)、F原子数(N)を各板状結晶について求めたところ、NLaとNSiの間に相関が認められ、さらにNとNSiの間に相関が認められた。これらの相関関係は次の二つの式で表された。すなわち、NLa= 17.52-1.426NSi、及びN=-1.20+0.243NSiである。
【0066】
また、Si席に生成した空孔数をx(≧0)で表すと、NSi=6-xである。さらに、NLaとN、Nをxを用いて表すと、NLa=8.964+1.426x、N=0.258-0.243x、N=25.742+0.243xとなる。K原子数(N)は、チャージバランスが成立するための条件から、N=0.850-0.035xが得られる。上記のSi席に生成した空孔数、及びLa原子数、K原子数、Si原子数、O原子数、F原子数から、ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の一般式をxを用いて表すことができる。その一般式は(La8.964+1.426x0.850-0.035x)(Si6-x)(O25.742+0.243x0.258-0.243x)である。ただし、□はSi席の空孔を表す。
【0067】
+N=26の場合、ケイ酸ランタンオキシアパタイト結晶中でLa原子とK原子が占有できる席の最大数は10である。すなわち、NLa+N(=9.814+1.391x)≦10であり、x≦0.134である。さらに0≦xであることから、0≦x≦0.134である。
【0068】
当該一般式におけるLa原子数とK原子数の合計(NLa+N)は9.814+1.391xである。さらに0≦x≦0.134であることから、9.814≦NLa+N≦10である。すなわち、当該一般式はLa原子数とK原子数の合計が10以下(N+N=26の場合)であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の化学組成を表す。
【0069】
La原子数とK原子数の合計が10以下であり、かつO席の一部にF原子が占有することを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の化学組成を表す一般式を、より汎用的な形式に書き改めると、(La)(Si6-c)(O26-d)と表すことができる。ただし、□はSi席の空孔を表す。さらに、当該一般式がチャージバランスを満たすための条件から3a+b-4c+d=28である。
【0070】
上記の一般式におけるaの値とbの値、cの値、dの値はEPMA等の化学組成分析装置を用いて決定できるが、概ね8≦a+b≦10、かつ0≦d≦1の範囲である。
【0071】
[比較例]
非特許文献5の合成実験を参考にして、フラックスとして塩化ストロンチウム(SrCl)を用いたケイ酸ランタンオキシアパタイトの柱状結晶の製造方法について説明する。
出発原料として酸化ランタン(La)試薬と酸化ケイ素(SiO)試薬、塩化ストロンチウム(SrCl)試薬を、[La:SiO:SrCl]=[1.0:1.2:3.8]のモル比で秤量し、原料混合粉末を準備した。この原料混合粉末を10ccの白金坩堝に入れ、電気炉中で室温から1100℃まで19時間かけて昇温し、1100℃で10時間保持した後に600℃まで50時間かけて徐冷し、600℃で電気炉の電源をOFFにして室温に冷却した。試料を坩堝ごと取り出し、SrCl成分に富む固化物をイオン交換水で溶解して除去することで粉末状の試料を得た。
【0072】
CuKα線(45kV×40mA)を入射光とするX線粉末回折装置を用いて、上記の粉末状の試料の一部から回折X線のプロフィル強度を測定した。10.0°から70.0°の2θ範囲におけるX線粉末回折パターンには、ケイ酸ランタンオキシアパタイトに帰属される反射に加えて、LaOClに帰属される反射も観測された。すなわち、生成物はケイ酸ランタンオキシアパタイトとLaOClであることが確かめられた。各結晶相の回折強度から見積もった相組成は、ケイ酸ランタンオキシアパタイトが60モル%及びLaOClが40モル%である。
ケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶外形は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、該ケイ酸ランタンオキシアパタイトは平均長が約3μmの柱状結晶であった。
前記のフラックス法における熱処理温度の最高値は1100℃であり、比較的高い温度であることから、c軸方向に伸長した柱状結晶が生成する。すなわち、フラックス法を用いてケイ酸ランタンオキシアパタイトの結晶を1100℃で育成すると、柱状結晶のアパタイトが生成することが示された。
一方、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶の製造方法は、加熱工程の熱処理温度の最高値が好ましくは1100℃よりも低いことを特徴としている。より好ましくは加熱工程の熱処理温度の最高値が900℃またはそれ以下である。
【0073】
以上の実施例・比較例より、本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、板状結晶粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)が3以上であり、より好ましくは5以上であることを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶であること、また、該ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶はアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素(Mgを含む)及びハロゲン元素を固溶することを特徴とするケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶であること、また、該ケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶に関する製造方法は、アルカリハライド又はアルカリ土類金属(Mgを含む)ハロゲン化物をフラックス(融剤)として用いること、かつ熱処理温度の最高値が1100℃よりも低いことを特徴とすることが確認された。さらに、前記のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶は、結晶配向アパタイトの製造に好適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶による結晶配向アパタイトによって、高い酸化物イオン伝導率を有する酸化物イオン伝導体及び固体電解質を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 KとFを固溶するケイ酸ランタンオキシアパタイトの板状結晶
2 板状結晶1の発達面と同じ面積を有する円の直径

図1
図2
図3
図4
図5
図6