(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】バッター生地加熱食品用ミックス、バッター生地加熱食品、及びバッター生地加熱食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20220623BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20220623BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20220623BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20220623BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
A21D13/60
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2018023399
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】白取 真希子
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-000165(JP,A)
【文献】特開2001-346503(JP,A)
【文献】特開2012-254052(JP,A)
【文献】特開2016-158596(JP,A)
【文献】特開平11-332454(JP,A)
【文献】特開平09-220049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理小麦粉を含有する原料粉を含むバッター生地加熱食品用ミックスであって、
前記加熱処理小麦粉の31.7質量%スラリーの温度20℃における粘度V
12rpmが、400~
900mPa・sであり、
前記粘度V
12rpm、及び前記加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cp(質量%)が、式(I):
V
12rpm≦260×Cp-2000 (I)
を満た
し、
前記加熱処理小麦粉の原料小麦粉が、きたほなみ系統の小麦から得られた小麦粉であることを特徴とするバッター生地加熱食品用ミックス。
【請求項2】
前記乾燥質量に基づくたん白質含量Cpが、8.5~14.0質量%である請求項1又は2に記載のバッター生地加熱食品用ミックス。
【請求項3】
前記加熱処理小麦粉のチキソ係数T
(H)の、前記
加熱小麦粉の原料小麦粉のチキソ係数T
(U)に対する比率(T
(H)/T
(U))が、1.1以上である請求項1
又は2に記載のバッター生地加熱食品用ミックス。
【請求項4】
前記加熱処理小麦粉の含有量が、前記原料粉の質量に基づいて、2~100質量%である請求項1~
3のいずれか1項に記載のバッター生地加熱食品用ミックス。
【請求項5】
加熱処理小麦粉を含有するバッター生地加熱食品であって、
前記加熱処理小麦粉の31.7質量%スラリーの温度20℃における粘度V
12rpmが、400~
900mPa・sであり、
前記粘度V
12rpm、及び前記加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cp(質量%)が、式(I):
V
12rpm≦260×Cp-2000 (I)
を満た
し、
前記加熱処理小麦粉の原料小麦粉が、きたほなみ系統の小麦から得られた小麦粉であることを特徴とするバッター生地加熱食品。
【請求項6】
加熱処理小麦粉を含有する原料粉を含むバッター生地を、焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理によって加熱するバッター生地加熱食品の製造方法であって、
前記加熱処理小麦粉の31.7質量%スラリーの温度20℃における粘度V
12rpmが、400~
900mPa・sであり、
前記粘度V
12rpm、及び前記加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cp(質量%)が、式(I):
V
12rpm≦260×Cp-2000 (I)
を満た
し、
前記加熱処理小麦粉の原料小麦粉が、きたほなみ系統の小麦から得られた小麦粉であることを特徴とするバッター生地加熱食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のバッター生地加熱食品用ミックスを用いる請求項
6に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッター生地を焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理して得られるバッター生地加熱食品を製造するためのバッター生地加熱食品用ミックスに関し、特にバッター生地の加熱時の火抜けが改善され、得られるバッター生地加熱食品の食感及び口溶けが良好となるバッター生地加熱食品用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
バッター生地(小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材を含む原料に水を加えて均一にした、食品の製造に用いる流動性を有する生地のことを称する)を焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理して得られるバッター生地加熱食品としては、ホットケーキ、スポンジケーキ、マフィン、ドーナツ、蒸しケーキ、蒸しパン、お好み焼、たこ焼、チヂミ、もんじゃ焼等が挙げられる。一般に、これらのバッター生地加熱食品では、歯切れが良く、ふんわりとした食感の製品が得易い小麦粉として、比較的たん白質含量が低い小麦粉(例えば、薄力粉)が使用される。この場合、加熱時に骨格となり得るたん白質の含量が少ないため、食したときにくちゃつきが残り、口溶けのよい食感が得難い(この状態を「火抜けが悪い」と称する)。また、特に焼成する場合、火抜けが悪いと加熱食品の表面と内層とで熱の通りのバランスが悪く、表面の加熱が好適に見えても内層の加熱は足りず、生焼けの部分が残り易い傾向がある。このような「火抜けが悪い」状態を改善するため、従来から、バッター生地の材料として卵等のたん白素材を配合する等の工夫が行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1では、生地の成形性(焼き菓子生地の伸展性を高め、成形時の作業性を上げること)、焼成時の火通り及び焼成後のひび割れ(焼成時の火抜けを改善し、表面の焦げ、焼成後のひび割れをなくすこと)、風味・食感・口溶け(食感の硬さを改善し、サク味のある軽い食感を持たせ、風味・口溶けの悪さも改善すること)が改善された栄養的付加価値の高い焼き菓子の製造法を目的とし、焼き菓子生地に大豆蛋白含有素材、タピオカ澱粉およびトレハロースを用いることを特徴とする焼き菓子の製造法が開示されている。また、特許文献2では、焼成による火抜けが良く、個包装後のひび割れを防止し、サクサクとした食感の良好な焼き菓子を提供することを目的とし、油中水型エマルジョンを加熱、溶解後、掻き取り式連続冷却捏和装置を用いて平均冷却速度5℃/分以上20℃/分以下で冷却捏和することにより得られる製菓用油中水型乳化油脂組成物を用いて、焼き菓子類を焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-009176号公報
【文献】特開2001-346514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、大豆蛋白含有素材を配合するため、焼き菓子の風味への影響が大きく、特許文献2では、油中水型乳化油脂組成物を得るための製法上の制約や、ミックスへの配合上の制約が大きい。したがって、特許文献1及び2の技術は、上述のような一般的なバッター生地加熱食品において、火抜けを改善する手段としては適用し難い。
【0006】
したがって、本発明の目的は、バッター生地加熱食品を製造するためのバッター生地加熱食品用ミックスであって、バッター生地の加熱時の火抜けが改善され、得られるバッター生地加熱食品の食感及び口溶けが良好となるバッター生地加熱食品用ミックスを提供することにある。さらに、本発明の目的は、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バッター生地加熱食品用ミックスに適した材料について種々の検討を行なった結果、特定の物性の加熱処理小麦粉を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、加熱処理小麦粉を含有する原料粉を含むバッター生地加熱食品用ミックスであって、前記加熱処理小麦粉の31.7質量%スラリーの温度20℃における粘度V12rpmが、400~900mPa・sであり、前記粘度V12rpm、及び前記加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cp(質量%)が、式(I):
V12rpm≦260×Cp-2000 (I)
を満たし、前記加熱処理小麦粉の原料小麦粉が、きたほなみ系統の小麦から得られた小麦粉であることを特徴とするバッター生地加熱食品用ミックスによって達成される。上記の特性を有する加熱処理小麦粉を、バッター生地加熱食品に用いることで、バッター生地の加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を製造することができる。なお、本発明において、「バッター生地加熱食品」とは、バッター生地を焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理を行なうことで得られる加熱食品を意味し、例えば、ホットケーキ、スポンジケーキ、マフィン、鯛焼、今川焼、パウンドケーキ、ドーナツ、蒸しケーキ、蒸しパン、お好み焼、たこ焼、チヂミ、もんじゃ焼等が挙げられる。また、「スラリー」とは、小麦粉等の原料粉に水を加えて均一にした流体を意味する。さらに、粘度V12rpmは、前記31.7質量%スラリーの調製直後の、20℃におけるB型粘度計の12rpmの測定値(mPa・s)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、バッター生地の加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を容易に製造することができるバッター生地加熱食品用ミックス、及び食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】加熱処理小麦粉、及び原料小麦粉(加熱処理小麦粉の原料として用いた小麦粉)の乾燥質量に基づくたん白質含量Cpに対するスラリーの粘度V
12rpmの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[バッター生地加熱食品用ミックス]
本発明のバッター生地加熱食品用ミックスは、加熱処理小麦粉を含有する原料粉を含み、前記加熱処理小麦粉の31.7質量%スラリーの温度20℃における粘度V
12rpmが、400~1500mPa・sであり、前記粘度V
12rpm、及び前記加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cp(質量%)が、式(I):
V
12rpm≦260×Cp-2000 (I)
を満たすことを特徴とする。一般に、小麦粉は、たん白質含量が高いほど、スラリーの粘度が高くなり、バッター生地加熱食品に用いた場合、火抜けが悪く、重い食感になる傾向がある。したがって、バッター生地加熱食品に用いる小麦粉は、バッター生地の粘度を抑え、加熱後に歯切れが良く、ふんわりとした食感の製品が得易い小麦粉として、比較的たん白質含量が低い小麦粉が使用される。しかしながら、上述の通り、加熱時に骨格となるたん白質の含量が少ないと、火抜けが悪く、食したときにくちゃつきが残り、口溶けのよい食感が得難い。また、特に焼成する場合、火抜けが悪いと加熱食品の表面と内層とで熱の通りのバランスが悪く、表面の加熱が好適に見えても内層の加熱は足りず、生焼けの部分が残り易い傾向がある。本発明においては、バッター生地加熱食品の原料粉に、前記粘度V
12rpm、及び前記たん白質含量Cpが上記式(I)を満たす加熱処理小麦粉を含有させることで、バッター生地の加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を製造できることが見出された。従来からスポンジケーキ、ホットケーキ等のバッター生地加熱食品に、加熱処理小麦粉を使用する技術が開発されている(例えば、特開平11-332454号公報、特開2001-346503号公報等)。式(I)は、
図1に示した通り、種々の加熱処理小麦粉の前記たん白質含量Cpに対する前記粘度V
12rpmの関係をプロットして、上記目的が達成され得る範囲を選択するものである。後述する実施例に示す通り、式(I)を満たす加熱処理小麦粉は、式(I)を満たさない従来の加熱処理小麦粉(比較例)と比較して、バッター生地加熱食品に用いた場合にバッター生地の加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られる。この機作は明確ではないが、上記物性の加熱処理小麦粉は、比較的たん白質含量が高くても、バッター生地の粘度が高くならない傾向があるため、バッター生地の粘度を上昇させずに加熱時の骨格となるたん白質を補うことができるためと考えられる。
【0012】
本発明において、加熱処理小麦粉は、上述の通り、前記粘度V12rpmは、400~1500mPa・sである。これによりバッター生地加熱食品のバッター生地を調製する場合に適切な粘度が得られる。得られるバッター生地を、さらに適切な粘度にするため、本発明において、加熱処理小麦粉は、前記粘度V12rpmが、500~1200mPa・sであることが好ましく、500~1000mPa・sであることがさらに好ましく、500~900mPa・sであることが特に好ましい。
【0013】
本発明において、加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cpの範囲は、式(I)を満たせば、特に制限はない。加熱処理小麦粉を、バッター生地加熱食品のバッター生地に用いた場合に、バッター生地の加熱時に骨格となるたん白質の含量を適度に向上させ、火抜けを改善し、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得るために、乾燥質量に基づくたん白質含量Cpの範囲が、8.5~14.0質量%であることが好ましく、9.5~14.0質量%であることがより好ましく、10.5~13.5質量%であることがさらに好ましい。加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cpは、常法に従って測定することができる。
【0014】
また、本発明において、前記加熱処理小麦粉のチキソ係数T(H)の、前記加熱処理小麦粉の原料として用いた小麦粉(以下、原料小麦粉と称する)のチキソ係数T(U)に対する比率(T(H)/T(U))が、1.1以上であることが好ましい。本発明において、チキソ係数は、本発明者らが流体の滑らかさの指標として設計したパラメータであり、スラリーのB型粘度計の6rpmの測定値(V6rpm)に対する、30rpmの測定値(V30rpm)の比率(V30rpm/V6rpm)である。さらに具体的には、上述の通り各小麦粉試料から調製した31.7質量%スラリー(温度20℃)について、B型粘度計を用いて30rpmでV30rpmを測定した後、6rpmでV6rpmを測定し、比率(V30rpm/V6rpm)を算出することができる。なお、本発明におけるチキソ係数Tは、上記の算出方法から理解できるように、粘度のずり速度依存性の指標とするものであり、所定のずり速度を印加した時間の経過が影響する本来のチキソ性の程度を示すものではない。チキソ係数Tが1.0の流体は、水や液状油等に代表される、一般にニュートン流体といわれるものである。また、チキソ係数Tが1.0より小さい流体は、一般に擬塑性流体といわれ、マヨネーズやケチャップ様の流体であり、チキソ係数Tが1.0より大きい流体は、一般にダイラタント流体といわれ、片栗粉と水との1:1混合物等で認められる。
【0015】
一般に、小麦粉の場合、未処理時でも加熱処理後でも、チキソ係数Tは、1.0未満であり、通常約0.4~約0.9である。その中でもチキソ係数Tが比較的低い小麦粉は、バッター生地加熱食品のバッター生地に用いた場合にぶりぶりとした物性を示し、加熱後に歯切れ良く、ふんわりとした食感のバッター生地加熱食品を得難いため、通常、バッター生地加熱食品用ミックスの原料として不向きと考えられている。したがって、加熱処理小麦粉の原料としても、未処理時のチキソ係数T(U)が高めの小麦粉を選択するのが一般的である。本発明においては、未処理時のチキソ係数T(U)が比較的低い小麦粉を加熱処理し、加熱処理後のチキソ係数T(H)は高めの小麦粉、すなわち、加熱処理小麦粉のチキソ係数T(H)が、原料小麦粉のチキソ係数T(U)から比較的大きく変化する小麦粉を選択して、その比率(T(H)/T(U))が、1.1以上になるように加熱処理した加熱処理小麦粉を用いることで、バッター生地加熱食品のバッター生地に用いた場合に、さらに火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られることが見出された。後述する実施例に示す通り、チキソ係数の比率(T(H)/T(U))は、原料小麦粉の選定、及び加熱処理条件によって調整できる。チキソ係数の比率(T(H)/T(U))は、1.1~1.4が好ましい。また、本発明において、原料小麦粉のチキソ係数T(U)は、0.4~0.6が好ましく、加熱処理小麦粉のチキソ係数T(H)は、0.5~0.7が好ましい。
【0016】
本発明の加熱処理小麦粉において、原料小麦粉としては、上記の物性を有する加熱処理小麦粉を製造できれば、特に制限はない。例えば、北海道産「きたほなみ」等から得られた小麦粉を選択することができる。
【0017】
本発明において、加熱処理小麦粉の加熱処理条件は、上記の物性の加熱処理小麦粉が得られれば、特に制限はない。後述する実施例に示す通り、本発明の加熱処理小麦粉を得るためには、粘度V12rpmが低くなるような条件が好ましい。ただし、加熱処理条件によっては、加熱処理小麦粉に強い着色やこげ臭が生じ、バッター生地加熱食品に影響する場合がある。したがって、加熱処理条件は、上記のような原料小麦粉から、上記の物性の加熱処理小麦粉が得られ、且つ上記のような問題が生じないように適宜調整する。
【0018】
本発明の加熱処理小麦粉を製造する方法は、特に制限はなく、常法に従って実施することができる。例えば、湿熱加熱機やパドルドライヤー等の加熱装置を用いて、原料小麦粉を、品温60~150℃の条件下で2~120分間加熱することで実施することができる。
【0019】
本発明のバッター生地加熱食品用ミックスにおいて、前記加熱処理小麦粉の含有量は、上述の効果が得られれば、特に制限はない。さらに火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を得られる点で、前記加熱処理小麦粉の含有量は、前記原料粉の質量に基づいて、2~100質量%含むことが好ましい。なお、ホットケーキ、スポンジケーキ、マフィン、鯛焼、今川焼、パウンドケーキ、ドーナツ、蒸しケーキ、蒸しパン等の菓子・パン類においては、前記加熱処理小麦粉の含有量は、前記原料粉の質量に基づいて、5~100質量%がより好ましく、30~100質量%がさらに好ましく、50~100質量%が特に好ましい。また、お好み焼、たこ焼、チヂミ、もんじゃ焼等においては、前記加熱処理小麦粉の含有量は、前記原料粉の質量に基づいて、2.5~50質量%がより好ましく、5~50質量%がさらに好ましく、10~50質量%が特に好ましい。
【0020】
本発明のバッター生地加熱食品用ミックスにおいて、前記加熱処理小麦粉以外の材料については、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はない。例えば、原料粉として薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、米粉、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、ホワイトソルガム粉、トウモロコシ粉等の穀粉類;コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉等の澱粉、及びこれらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工澱粉等の澱粉類が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、バッター生地加熱食品に合わせて、その他の副資材を適宜含有させることができる。副資材としては、例えば、砂糖、ぶどう糖、デキストリン、オリゴ糖等の糖質;液状油、固形脂、粉末油脂、加工油脂等の油脂;卵白粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材;重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、卵黄粉、全卵粉、色素、香料、香辛料、種々の品質改良剤等が挙げられる。
【0021】
[バッター生地加熱食品]
本発明のバッター生地加熱食品は、加熱処理小麦粉を含有するバッター生地加熱食品であって、前記加熱処理小麦粉が、上述の物性を有する加熱処理小麦粉であることを特徴とする。本発明のバッター生地加熱食品は、加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好で、風味も良いバッター生地加熱食品である。なお、本発明のバッター生地加熱食品における好ましい態様は、本発明のバッター生地加熱食品用ミックスの説明で記載した通りである。本発明のバッター生地加熱食品は、後述するバッター生地加熱食品の製造方法によって製造することができる。
【0022】
[バッター生地加熱食品の製造方法]
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、加熱処理小麦粉を含有する原料粉を含むバッター生地を、焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理等の方法によって加熱するバッター生地加熱食品の製造方法であって、前記加熱処理小麦粉が、上述の物性を有する加熱処理小麦粉であることを特徴とする。本発明におけるバッター生地を加熱する方法は、特に制限はなく、上記の加熱方法のいずれかの方法を用いることができるが、火抜けの改善効果が良好に発揮される、バッター生地を焼成する加熱方法が好ましい。前記加熱処理小麦粉は、バッター生地加熱食品の製造時に、単独で、又は上記の他の材料とともに配合しても良く、前述の通り、本発明のバッター生地加熱食品用ミックスとして用いてもよい。容易にバッター生地加熱食品を製造できる点で、本発明のバッター生地加熱食品用ミックスを用いることが好ましい。これにより、上述の通り、バッター生地の加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を製造することができる。なお、本発明のバッター生地加熱食品の製造方法における好ましい態様は、本発明のバッター生地加熱食品用ミックスの説明で記載した通りである。本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、常法に従って実施することができる。例えば、まず、上述の物性を有する加熱処理小麦粉を含む、バッター生地調製用材料、又は本発明のバッター生地加熱食品用ミックスを適切な加水率で、水と混合しバッター生地を調製する。加水率は特に制限はなく、バッター生地加熱食品の種類に応じて、適宜調整することができる。次いで、得られたバッター生地に、必要に応じて加工成形した卵類、野菜類、果物類、畜肉類、魚介類等の具材を、必要に応じて混合し(具材は水と同時、又は水の前に混合してもよい)、型に入れてオーブンで焼成する、鉄板、銅板等に流して焼成する、フライ油に投入して油ちょうする、型に入れて蒸し器で蒸し調理する、型に入れて電子レンジ調理する等によって加熱する。これにより、所望のバッター生地加熱食品を製造することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.加熱処理小麦粉の粘度、たん白質含量の関係
表1に示した各原料小麦粉(A~C:きたほなみ(北海道産)、D:ウエスタン・ホワイト(北米産)、E:オーストラリア・スタンダード・ホワイト(豪州産))を、恒温恒湿機IW222(ヤマト科学株式会社製)を用いて、密閉条件下、90℃で加熱処理して、加熱処理小麦粉を製造し、以下の通り、各試料の物性を測定した。各原料小麦粉、及び加熱処理小麦粉の物性を表1に示す。
(1)乾燥質量に基づくたん白質含量Cp(質量%)
各試料について、ケルダール法によって定量した窒素含量に、窒素-たん白質換算係数(5.70)を乗じて、たん白質含量を求め、乾燥法によって水分を測定し、乾燥質量に基づくたん白質含量(質量%)を算出した。
(2)粘度、及びチキソ係数
まず、各試料が31.7質量%(乾燥質量に基づく)になるように温度20℃の水を加え(例えば、14.5質量%水分の試料であれば、100gに対して170gの水を加える)、ホイッパーにて右回転10回、左回転10回の撹拌を4回繰り返してスラリーを調製した。その直後に、B型粘度計を用いて、ローター(No.3)の回転数を12rpmに設定し、温度20℃で粘度V12rpm(mPa・s)を測定した。また、上記と同様に新たに調製したスラリーについて、ローターの回転数を30rpmに設定した以外は同様に粘度V30rpm(mPa・s)を測定した後、ローターの回転数を6rpmに設定した以外は同様に粘度V6rpm(mPa・s)を測定した。各試料のチキソ係数Tは、6rpmの測定値(V6rpm)に対する、30rpmの測定値(V30rpm)の比率(V30rpm/V6rpm)を算出することで求めた。さらに、上記のように算出したチキソ係数について、加熱処理小麦粉のチキソ係数T(H)の、原料小麦粉のチキソ係数T(U)に対する比率(T(H)/T(U))を算出した。
【0024】
【0025】
2.バッター生地加熱食品の製造、及び評価
(1)ホットケーキ
バッター生地加熱食品としてホットケーキを選択して、各試料の評価を行なった。具体的には、まず、表2及び表3に示した配合でバッター生地を調製し、各生地40gを180℃に加熱したホットプレートに流し、2分間焼成後、反転してさらに2分間焼成し、ホットケーキを製造した。得られたホットケーキの食感(口に入れて直ぐに感じる食感)、及び口溶け(口残りの感じ)について、10名のパネラーにより、下記の評価基準で評価した。結果を表2及び表3に示す。
(i)食感(口に入れて直ぐに感じる食感)
5:軽い食感で、非常に良好
4:やや軽い食感で、良好
3:普通
2:やや重い食感で、悪い
1:重い食感で、非常に悪い
(ii)口溶け(口残りの感じ)
5:非常に良好
4:良好
3:普通
2:ややくちゃつきが感じられ、やや悪い
1:くちゃつきがあり、悪い
【0026】
【0027】
表2に示した通り、参考例1の小麦粉の代わりに各加熱処理小麦粉A~Eを100質量%置き換えて、ホットケーキを製造した結果、加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cp、及び粘度V
12rpmの違いによって、ホットケーキの食感及び口溶けの評価に差が認められた。特に、加熱処理小麦粉A~Cを用いた実施例1~3は、加熱処理小麦粉Dを用いた比較例1、加熱処理小麦粉Eを用いた比較例2よりも食感及び口溶けが著しく改善された。なお、比較例2は、表面の加熱色は好適であったが、内層に生焼け部分が確認された。
図1に示した通り、各加熱処理小麦粉の乾燥質量に基づくたん白質含量Cpに対するスラリーの粘度V
12rpmの関係をプロットしたところ、直線V
12rpm=260×Cp-2000を境にして、評価が良好な加熱処理小麦粉と、評価が劣る加熱処理小麦粉とを分けられることが示唆された。したがって、上記式(I)(V
12rpm≦260×Cp-2000)を満たす加熱小麦粉を用いることで、ホットケーキの焼成時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なホットケーキが得られることが示唆された。また、加熱処理小麦粉A~Cの物性から、粘度V
12rpmは、特に500~800mPa・sであることが好ましく、乾燥質量に基づくたん白質含量Cpは、特に10.5~13.5質量%であることが好ましいことが示唆された。さらに、加熱処理小麦粉のチキソ係数T
(H)の、原料小麦粉のチキソ係数T
(U)に対する比率(T
(H)/T
(U))については、1.1以上であることが好ましいことが示唆された。
【0028】
【0029】
表3においては、ホットケーキの原料粉における加熱処理小麦粉の含有量の影響を調べた。表3に示した通り、加熱処理小麦粉A又は加熱処理小麦粉Bを2~50質量%含有する実施例4~10のホットケーキは、参考例1のホットケーキと比較して、食感及び口溶けが良好であった。したがって、ホットケーキの原料粉における前記加熱処理小麦粉の含有量は、前記原料粉の質量に基づいて、2~100質量%であることが好ましいことが示唆された。
【0030】
(2)スポンジケーキ
バッター生地加熱食品としてスポンジケーキを選択して、各試料の評価を行なった。具体的には、まず、表4に示した配合でバッター生地を調製し、各生地350gを6号のデコ型に入れ、180℃に加熱したオーブンで、30分間焼成し、スポンジケーキを製造した。焼成後1日経過したスポンジケーキの食感(口に入れて直ぐに感じる食感)、及び口溶け(口残りの感じ)について、上記(1)と同様に評価した。結果を表4に示す。
【0031】
【0032】
表4に示した通り、参考例2の小麦粉の代わりに加熱処理小麦粉Aを50質量%、100質量%置き換えて、スポンジケーキを製造した結果、スポンジケーキの食感及び口溶けが著しく改善された。したがって、スポンジケーキ等の焼き菓子においても、上記物性の加熱処理小麦粉を用いることで、ホットケーキの場合と同様に、焼成時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好な菓子を製造することができるものと示唆された。
【0033】
(3)お好み焼
バッター生地加熱食品としてお好み焼を選択して、各試料の評価を行なった。具体的には、まず、表5及び表6に示した配合のミックス100gに、水100g、卵1個、みじん切りしたキャベツ200gを混合してお好み焼用バッター生地を調製し、200℃に加熱したホットプレートに、前記生地の1/2を丸く流し、5分間焼成し、反転させて蓋をして、さらに5分間焼成しお好み焼を製造した。得られたお好み焼の食感(口に入れて直ぐに感じる食感)、及び口溶け(口残りの感じ)について、上記(1)と同様に評価した。結果を表5及び表6に示す。
【0034】
【0035】
表5に示した通り、参考例3の小麦粉の代わりに各加熱処理小麦粉A、加熱処理小麦粉B、加熱処理小麦粉D及び加熱処理小麦粉Eを20質量%置き換えて、お好み焼を製造した。その結果、加熱処理小麦粉Aを用いた実施例13、及び加熱処理小麦粉Bを用いた実施例14は、参考例3よりも食感及び口溶けが著しく改善された。また、加熱処理小麦粉Dを用いた比較例3、加熱処理小麦粉Eを用いた比較例4よりも食感及び口溶けが良好であった。この結果は、ホットケーキの場合と同様であり、お好み焼においても、上記物性の加熱小麦粉を用いることで、お好み焼の焼成時の火抜けが良く、食感及び口溶けが良好なお好み焼が得られることが示唆された。
【0036】
【0037】
表6においては、お好み焼の原料粉における加熱処理小麦粉の含有量の影響を調べた。表6に示した通り、加熱処理小麦粉A又は加熱処理小麦粉Bを2~100質量%含有する実施例15~22のお好み焼は、参考例3のお好み焼と比較して、食感及び口溶けが良好であった。したがって、お好み焼の原料粉における前記加熱処理小麦粉の含有量は、前記原料粉の質量に基づいて、2~100質量%であることが好ましいことが示唆された。
【0038】
以上により、バッター生地加熱食品に、上記物性の加熱小麦粉を用いることで、火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好なバッター生地加熱食品を製造することができることが示された。
【0039】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、バッター生地の加熱時の火抜けが改善され、食感及び口溶けが良好で、風味も良いバッター生地加熱食品を容易に製造することができるバッター生地加熱食品用ミックス、及び食感及び口溶けが良好で、風味も良いバッター生地加熱食品を提供することができる。