(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20220623BHJP
H01M 50/541 20210101ALI20220623BHJP
H01M 50/534 20210101ALI20220623BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220623BHJP
H01M 50/35 20210101ALI20220623BHJP
H01M 50/392 20210101ALI20220623BHJP
H01M 50/367 20210101ALN20220623BHJP
H01M 4/14 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
H01M10/12 Z
H01M50/541
H01M50/534
H01M4/62 B
H01M50/35 101
H01M50/392
H01M50/367
H01M4/14 Q
(21)【出願番号】P 2019554069
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2017040943
(87)【国際公開番号】W WO2019097575
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輔
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-108682(JP,A)
【文献】特開2005-166318(JP,A)
【文献】特開2010-272264(JP,A)
【文献】特開2009-021017(JP,A)
【文献】特開2017-162602(JP,A)
【文献】特開2017-160304(JP,A)
【文献】特開2008-277244(JP,A)
【文献】特開2017-092038(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079668(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121510(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/017702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/50-50/598
H01M50/30-50/392
H01M 4/62
H01M10/06-10/22
H01M 4/14- 4/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室を有し、上面が開口している電槽と、
前記セル室に収容された電極群及び電解液と、
前記開口を閉じる蓋と、を備え、
前記電極群は、複数の負極及び複数の正極を有し、前記複数の負極同士は、Pb及びSnを含有する合金で形成されたストラップで接続されており、
前記負極は、ビスフェノール系化合物に由来する構造単位を有する樹脂
と、炭素材料とを含
み、
前記炭素材料がカーボンブラックを含む液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記蓋は、第1の蓋部と、前記第1の蓋部上に設けられた第2の蓋部と、前記第1の蓋部と前記第2の蓋部との間に形成された排気室と、を有し、
前記排気室と前記セル室との間を隔てる前記第1の蓋部の底壁には、前記電解液をセル室内に還流させる還流孔が設けられている、請求項1に記載の液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車においては、大気汚染防止又は地球温暖化防止のため、様々な燃費向上対策が検討されている。燃費向上対策を施した自動車としては、例えば、エンジンの動作時間を少なくするアイドリングストップシステム車(以下、「ISS車」ともいう)、エンジンの動力によるオルタネータの発電を低減する発電制御車等のマイクロハイブリッド車が検討されている。
【0003】
ISS車及びマイクロハイブリッド車では、短時間ではあるが、回生充電等により鉛蓄電池の大電流充電が繰り返される。大電流充電が繰り返されると、電解液中の水の電気分解が起こりやすく、それに伴って、酸素ガス及び水素ガスが発生し、鉛蓄電池内の圧力が上昇するおそれがある。これに対し、圧力を解放するために、鉛蓄電池の蓋に排気栓を設けることがある。この場合、排気栓を通して電解液のミストも電池外に排出されるため、電解液の量が減少してしまい、減少した分の電解液を補給してメンテナンスを行う必要がある。しかし、鉛蓄電池はメンテナンスフリーであることが望ましいため、電解液の減少(減液)を抑制することが求められている。
【0004】
減液を抑制する手段としては、例えば特許文献1に開示されているように、鉛蓄電池の蓋の内部に排気室を設け、発生した電解液のミストを排気室内に留めて液化させ、液化した電解液を電池内に還流させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されているような手段だけでは、必ずしも充分に減液を抑制できない。そこで、本発明は、減液抑制の点で優れた鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一態様において、セル室を有し、上面が開口している電槽と、セル室に収容された電極群及び電解液と、開口を閉じる蓋と、を備え、電極群は、複数の負極及び複数の正極を有し、複数の負極同士は、Pb及びSnを含有する合金で形成されたストラップで接続されている、鉛蓄電池である。
【0008】
蓋は、第1の蓋部と、第1の蓋部上に設けられた第2の蓋部と、第1の蓋部と第2の蓋部との間に形成された排気室と、を有していてよく、排気室とセル室との間を隔てる第1の蓋部の底壁には、電解液をセル室内に還流させる還流孔が設けられていてよい。
【0009】
負極は、フェノール系化合物に由来する構造単位を有する樹脂を含んでいてよい。当該構造単位は、ビスフェノール系化合物に由来する構造単位を含んでいてよい。当該構造単位は、リグニンに由来する構造単位を含んでいてよい。
【0010】
負極は、炭素材料を含んでいてよい。当該炭素材料は、カーボンブラックを含んでいてよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、減液抑制の点で優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した鉛蓄電池の電槽を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示した鉛蓄電池の第1の蓋部の平面図である。
【
図4】
図1に示した鉛蓄電池の第2の蓋部の底面図である。
【
図6】
図1に示した鉛蓄電池の極板群の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、一実施形態の鉛蓄電池の全体構成を示す斜視図である。
図1に示すように、一実施形態において、鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3と、を備える液式鉛蓄電池である。
【0015】
図2は、
図1に示した鉛蓄電池1の電槽2を示す斜視図である。
図2に示すように、電槽2は、例えば、中空の直方体状である。電槽2の底面が長方形状であり、電槽2の上面の略全面が開口している。電槽2は、例えばポリプロピレンで形成されている。本明細書では、電槽2の底面の長辺に沿う方向及び短辺に沿う方向を、それぞれ電槽2の長手方向及び短手方向とする。
【0016】
電槽2の内部は、例えば、電槽2の短手方向に略平行に設けられた5枚の隔壁21によって6区画に分割されている。これにより、電槽2の内部には、電槽2の長手方向に沿って並ぶ第1~第6のセル室22a~22f(以下、これらをまとめて「セル室22」ともいう。)が形成されている。セル室22のそれぞれには、電極群(極板群、詳細は後述する)が収容されている。
【0017】
各電極群は、単電池とも呼ばれており、その起電力は例えば2Vである。自動車用の鉛蓄電池は、例えば直流電圧12Vを昇圧又は降圧して駆動されるため、6個のセル室22のそれぞれに収容された6個の電極群同士が直列に接続されて、2V×6=12Vの起電力を有している。セル室22の数は、6個に限定されるものではなく。鉛蓄電池1の用途に応じて適宜選択される。
【0018】
図2に示すように、隔壁21の両側面(電槽2の短手方向に略平行な面)と、電槽2の隔壁21と略平行な一対の側壁23の内面とには、電槽2の高さ方向(開口面に垂直な方向)に延びる複数のリブ(リブ部)24が設けられていてよい。すなわち、隔壁21の両側面及び側壁23の内面は、それぞれ、平坦部25と、平坦部25から隆起した、電槽2の高さ方向に延びる複数のリブ24と、を有していてよい。リブ24は、セル室22に挿入された電極群を、電極の積層方向において適切に加圧(圧縮)する機能を有する。
【0019】
図1に示すように、蓋3は、第1の蓋部4及び第2の蓋部5から構成される二重蓋構造を有しており、第1の蓋部4と第2の蓋部5との間には複数の排気室D1~D6が形成されている。すなわち、蓋3は、第1の蓋部4と、第2の蓋部5と、第1の蓋部4と第2の蓋部5との間に形成された排気室と、を有する。蓋3は、平面視略矩形状を呈しており、該矩形の4辺に沿う各方向のうち、蓋3の長手方向の一端及び他端を、電槽2の長手方向の一端及び他端にそれぞれ一致させ、蓋3の短手方向の一端及び他端を、電槽2の短手方向の一端及び他端にそれぞれ一致させた状態で、電槽2上に設けられている。蓋3(第1の蓋部4及び第2の蓋部5)は、例えばポリプロピレンで形成されている。
【0020】
蓋3には、第1の蓋部4の上面のうち第2の蓋部5が設けられていない領域に、第1の蓋部4の上面から上方に突出した中空の突出部6が形成されている。この突出部6の一部には、インジケータ取り付け孔7が形成されている。このインジケータ取り付け孔7は、電槽内の電解液の液面レベルを表示するインジケータ(図示せず。)を取り付けるために用いられる。本実施形態では、電槽2に設けられているセル室のうちの一のセル室の上方にインジケータ取り付け孔7が設けられており、該セル室内の電解液の液面レベルを表示するインジケータがインジケータ取り付け孔7に取り付けられるようになっている。本実施形態では、一のセル室内の電解液の液面レベルを代表してインジケータに表示させることにより、他のセル室内の電解液の液面レベルを推測する。
【0021】
蓋3には、第1の蓋部4の上面のうち第2の蓋部5が設けられていない領域に、負極端子8及び正極端子9が形成されている。負極端子8及び正極端子9は、負極柱及び正極柱を介して電槽2に収容された極板群と接続されている。
【0022】
以下、
図3~
図5を参照して、蓋3の詳細を説明する。
図3は第1の蓋部の平面図であり、
図4は第2の蓋部の底面図である。
図5は、
図3のV-V線に沿った断面図であり、第1の蓋部4と第2の蓋部5とを溶着した状態での蓋3の断面図である。
【0023】
図3に示すように、第1の蓋部4は、平面視略矩形状を呈しており、第1の蓋部4の一部には、その上に第2の蓋部5が配置される排気室構成部400が形成されている。排気室構成部400は、その長手方向の一端400a及び他端400bをそれぞれ第1の蓋部4の長手方向の一端4a及び他端4b寄りに位置させ、短手方向の一端400cを第1の蓋部4の短手方向の中央部付近に位置させ、かつ短手方向の他端400dを第1の蓋部4の短手方向(電槽の短手方向)の他端4d付近に位置させた状態で形成されている。排気室構成部400の上面には、その外周縁に沿って伸びる周壁部40が形成され、この周壁部40の内側に第1の蓋部側凹部が形成されている。
図3に示す例では、排気室構成部400の長手方向の一端4a寄りの部分及び他端4b寄りの部分の幅寸法(短手方向の長さ)を拡大するために、排気室構成部400の長手方向の中央寄りの部分よりも短手方向の一端側に突出した突出部401及び402が形成されている。
【0024】
図4に示すように、第2の蓋部5は、排気室構成部400と同様の輪郭形状を有しており、その長手方向の一端5a側及び他端5b側には、それぞれ排気室構成部400の両端の突出部401及び402と同様に短手方向に突出した突出部501及び502が形成されている。また、
図4に示すように、第2の蓋部5の下面にも、その外周縁に沿って伸びる周壁部50が形成され、周壁部50の内側に第2の蓋部側凹部が形成されている。
図4に示す例では、第2の蓋部5の下面に、周壁部50の外側を取り囲む外壁部51が形成されている。
【0025】
第2の蓋部5は、排気室構成部400上に設けられており、第1の蓋部4と第2の蓋部5とは熱溶着により接合されている。具体的には、第2の蓋部5は、第2の蓋部5の長手方向の一端5a及び他端5bをそれぞれ第1の蓋部4の長手方向の一端4a及び他端4bに一致させ、第2の蓋部5の短手方向の一端5c及び他端5dをそれぞれ第1の蓋部4の排気室構成部の短手方向の一端400c及び他端400dに一致させた状態で排気室構成部400上に配置されている。また、排気室構成部400と第2の蓋部5とは、周壁部40と周壁部50とを合わせた状態で接合されており、上記第1の蓋部側凹部及び第2の蓋部側凹部により、第1の蓋部4の排気室構成部400と第2の蓋部5との間に排気室を形成するための空間が形成されている。
【0026】
第1の蓋部4の排気室構成部400と第2の蓋部5との間の空間には、第1~第6のセル室22a~22fの上にそれぞれ位置させて、第1~第6の排気室D1~D6が形成されている(
図3及び
図4参照。)。これらの排気室は、第1の蓋部4の排気室構成部400及び第2の蓋部5の周壁部50の内側に所定の板厚を持って形成された所定パターンの第1の隔壁部42及び52が相互に接合されることにより形成されている。排気室D1~D6は、電槽2内の各セル室22から発生した電解液のミストを内部に留め、排気室内で液化した電解液を各セル室22内に還流させる機能を有している。
【0027】
本実施形態では、両端に配置された第1の排気室D1及び第6の排気室D6の一部を、第1の蓋部4及び第2の蓋部5に設けられた第1の隔壁部42及び52の一部に形成された第2の隔壁部42a及び52aで仕切ることにより、第1の蓋部4の排気室構成部400の長手方向の一端400a側及び他端400b側、並びに、第2の蓋部5の長手方向の一端5a側及び他端5b側に、それぞれ集中排気室E1及びE2が形成されている。
【0028】
各排気室は、第1の蓋部4の長手方向に向いた状態で相対する一対の長手方向内側面Sa及びSbと、第1の蓋部4の短手方向に向いた状態で相対する一対の短手方向内側面Sc及びSdとを有しており、各排気室内に4つのコーナ部C1~C4が形成されている。本明細書においては、説明の便宜上、各排気室の4つの内側面Sa~Sdのうち、第1の蓋部4の長手方向に相対する内側面Sa及びSbを長手方向内側面といい、第1の蓋部4の短手方向に相対する内側面Sc及びSdを短手方向内側面という。
【0029】
第1の蓋部4の長手方向の一端4a寄りに配置された3個の排気室D1~D3においては、第1の蓋部4の一対の長手方向内側面のうち、第1の蓋部4の長手方向の一端4a側に位置する長手方向内側面を一方の長手方向内側面Saとし、第1の蓋部4の長手方向の他端4b側に位置する長手方向内側面を他方の長手方向内側面Sbとしている。また、第1の蓋部4の長手方向の他端4b寄りに配置された他の3個の排気室D4~D6においては、一対の長手方向内側面のうち、第1の蓋部4の長手方向の他端4b側に位置する長手方向内側面を一方の長手方向内側面Saとし、第1の蓋部4の長手方向の一端4a側に位置する長手方向内側面を他方の長手方向内側面Sbとしている。
【0030】
排気室D1~D6は、平面視略正方形状に形成されているが、第1の蓋部4の長手方向の両端に配置された第1の排気室D1及び第6の排気室D6は、それぞれの一部に集中排気室E1及びE2が形成されていることにより、一方の長手方向内側面Saが変形された形状を呈している。
【0031】
上記のように、第1の蓋部4の排気室構成部400と第2の蓋部5との間には、排気室D1~D6と集中排気室E1及びE2とが形成される他、更に後述するように、排気室D1~D6を集中排気室E1及びE2に接続するための各種の流体通路が形成される。これらの流体通路は、第1の蓋部4及び第2の蓋部5にそれぞれ設けられて互いに接合される第1の隔壁部42,52により構成されるが、以下の説明では、主として第1の蓋部4を示す
図3を用いて、第1の蓋部4と第2の蓋部5との間に設けられる流体通路の構成を説明する。排気室、流体通路等を形成するために第1の蓋部及び第2の蓋部にそれぞれ設けられる壁部のパターンは、互いに鏡像の関係にある。
【0032】
図3に示すように、第1の蓋部4の排気室構成部400と第2の蓋部5との間には、第1の長手方向流体通路L1と、第2の長手方向流体通路L2と、第1の短手方向流体通路W1aと、第2の短手方向流体通路W1bとが形成されている。
【0033】
第1の長手方向流体通路L1は、排気室構成部400の短手方向の他端400d側で、排気室D1~D6の外側(排気室D1~D6と周壁部40との間)を排気室構成部400の長手方向に沿って直線的に延びるように設けられている。第1の長手方向流体通路L1の長手方向の一端側及び他端側には、それぞれ排気室構成部400の突出部401及び402に対応する位置で、幅寸法(短手方向の長さ)が拡大された拡大部L11及びL12が形成されている。これらの第1の長手方向流体通路L1の拡大部L11及びL12の端部が、それぞれ第1の排気室D1及び第6の排気室D6と周壁部40との間に形成された流路43及び44を通して、集中排気室E1及びE2に接続されている。
【0034】
第2の長手方向流体通路L2は、排気室構成部400の短手方向の一端400c側で、排気室D1~D6の外側(排気室D1~D6と周壁部40との間)を直線的に延びるように設けられている。第1の短手方向流体通路W1a及び第2の短手方向流体通路W1bは、それぞれ、互いに隣り合う第2,第3の排気室D2,D3間及び第4,第5の排気室D4,D5間を、排気室構成部400の短手方向に延びるように設けられており、第1の長手方向流体通路L1と第2の長手方向流体通路L2との間を接続している。
【0035】
第2の長手方向流体通路L2は、排気室構成部400の長手方向の中央部に設けられた仕切壁部45により、第1の部分L2aと、第2の部分L2bとに仕切られており、第1の長手方向流体通路L1が、第1の短手方向流体通路W1a及び第2の短手方向流体通路W1bを通して、第2の長手方向流体通路L2の第1の部分L2a及び第2の部分L2bにそれぞれ接続されている。
【0036】
図3に示されているように、排気室D1~D6には、各排気室と対応する各セル室22a~22fとの間を区画する各排気室の底壁部を貫通する、電解液注入孔を兼ねる大きさの還流孔hが設けられている。還流孔hは、各排気室の一方の長手方向内側面Saと第2の長手方向流体通路L2側に位置する各排気室の一方の短手方向内側面Scとの間に形成されている第1のコーナ部C1付近に位置し、各排気室内に1つだけ設けられている。排気室D1~D6は、それぞれの底壁部に設けられた還流孔hを通して、第1~第6のセル室22a~22fに接続されている。
【0037】
第1の蓋部4及び第2の蓋部5の各排気室内には、各排気室の他方の長手方向内側面Sbに沿って延びる流体通路形成用壁部46,56が設けられている。この流体通路形成用壁部46,56と長手方向内側面Sbとの間には、排気室構成部400の短手方向に延びる第3の短手方向流体通路W2が形成されている。第3の短手方向流体通路W2の一端は、第1のコーナ部C1の対角位置にある第4のコーナ部C4に開口し、他端は、第2の長手方向流体通路L2内に開口している。
【0038】
第1の蓋部4及び第2の蓋部5の各排気室内には、第3の短手方向流体通路W2の一端の開口部付近(第4のコーナ部C4付近)で流体通路形成用壁部46,56に一体化された第1の障壁部47,57が設けられている。第1の障壁部47,57は、流体通路形成用壁部46,56から各排気室の一方の長手方向内側面Sa側に突出して、該一方の長手方向内側面Saの手前の位置で終端している。第1の障壁部47,57は、第1の蓋部4及び第2の蓋部5に一体化された状態で設けられている。第1の障壁部47,57と一方の短手方向内側面Scとの間には、電解液収容空間Aが形成されている。第1の障壁部47,57の先端の終端位置は、還流孔hの少なくとも一部を電解液収容空間A内に位置させるように設定されている。
【0039】
第1の蓋部4及び第2の蓋部5の各排気室内には、還流孔hよりも第1の障壁部47,57側に寄った位置で各排気室の一方の長手方向対向面Scから突出して、電解液収容空間A内を流体通路形成用壁部46,56側に延びる第2の障壁部48,58が設けられている。この障壁部48,58は、第1の蓋部4及び第2の蓋部5に一体化されて設けられている。第2の障壁部48,58は、各排気室の他方の長手方向内側面Sbと一方の短手方向内側面Scとの間に形成されている第2のコーナ部C2側に傾斜した状態で設けられている。第2の障壁部48,58の先端は、流体通路形成用壁部46,56の手前の位置で終端されている。
【0040】
第1の蓋部4及び第2の蓋部5の各排気室内には、第1の障壁部47,57の先端の手前の位置から排気室の短手方向に沿って第2の障壁部48,58側に突出して、第2の障壁部48,58の手前の位置で終端した第1の突出壁部47a,57aが更に設けられている。各排気室内には、第2の障壁部48,58の先端の手前の位置から各排気室の一方の短手方向内側面Sc側に突出して、一方の短手方向内側面Scの手前の位置で終端した第2の突出壁部48a,58aが更に設けられている。第1の突出壁部47a,57a及び第2の突出壁部48a,58aは、第1の蓋部4及び第2の蓋部5に一体化されて設けられている。
【0041】
第1の蓋部4において、各排気室の底壁部の上面には、第3の短手方向流体通路W2の一端の開口部付近から還流孔hに向かって、徐々に低くなっていくように傾斜がつけられている。第1の長手方向流体通路L1の底面には、第1,第2の短手方向流体通路W1a,W1bと第1の長手方向流体通路L1とが相会する部分に向かって、次第に低くなって行くように傾斜がつけられている。第1,第2の短手方向流体通路W1a,W1bの底面には、第1の長手方向流体通路L1側から第2の長手方向流体通路L2側に向かうに従って次第に低くなっていくように傾斜がつけられている。第2の長手方向流体通路L2の底面には、各排気室に設けられた第3の短手方向流体通路W2の他端の開口部に向かって次第に低くなっていくように傾斜がつけられている。
図3においては、上記の各部の傾斜を矢印で示している。各矢印は、その先端側が後端側よりも低いことを示している。このような構成により、各排気室内の還流孔hから各排気室内に排出された電解液のミストが、第1の障壁部47,57、第2の障壁部48,58、第1の突出壁47a,57a及び第2の突出壁48a,58aに触れて液化した後、各排気室内の底面を伝って各排気室の還流孔hに戻ることができる。
【0042】
図4に示すように、第2の蓋部5の長手方向の一端及び他端には、集中排気室E1及びE2を外部に開放するための排気口65が形成されている。集中排気室E1及びE2内には、防爆フィルタ66が収容されている。第1の長手方向流体通路L1を通して各集中排気室内に流入した排気ガスは、防爆フィルタ66と排気口65とを通して外部に排出されるようになっている。
【0043】
第2の蓋部5には、注液口60が形成されている。注液口60は、各排気室内の還流孔hと整合する位置に設けられている。注液口60の内周には、栓を取り付けるためのネジが形成されている。
【0044】
図5に示すように、蓋3には、溶着部405と、位置決め用リブ406と、が設けられている。溶着部405は、蓋3を電槽2に取り付ける際に電槽でセル室間を区画している隔壁の上端に溶着されて、電槽側の隔壁と共に、セル室間を隔てる壁部を形成する。また、位置決め用リブ406は、溶着部405を電槽2のセル室間の隔壁の上端に溶着する際に、電槽側のセル室間の隔壁の上端の側面に係合して、溶着部405を電槽側の隔壁に対して位置決めする位置決め用リブである。
【0045】
上記の実施形態では、第2の蓋部5に注液孔を設けているが、第2の蓋部5に注液孔を設けず、電解液を注液した後に、第1の蓋部4と第2の蓋部5とを溶着してもよい。
【0046】
上記の実施形態では、各排気室の一対の短手方向内側面Sc及びSdのうち、Scを一方の短手方向内側面とし、Sdを他方の短手方向内側面としたが、Sd及びScをそれぞれ一方の短手方向内側面及び他方の短手方向内側面としてもよい。同様にSbを一方の長手方向内側面とし、Saを他方の長手方向内側面としてもよい。
【0047】
上記の実施形態では、還流孔hを複数の孔の集合体により構成しているが、還流孔hは、単一の孔により構成してもよい。還流孔hを大きめに構成するか、又は還流孔hを構成する孔の数を増やす等して、還流孔hに通気孔としての機能をも持たせることもできる。
【0048】
上記の実施形態では、第1の突出壁部47a,57a、及び、第2の突出壁部48a,58aが設けられていたが、第1の突出壁部47a,57a、及び、第2の突出壁部48a,58aを設けなくてもよい。
【0049】
続いて、セル室22のそれぞれに収容される電極群について説明する。
図6は、電極群を示す斜視図である。
図6に示すように、電極群10は、板状の負極(負極板)11と、板状の正極(正極板)12と、負極11と正極12との間に配置されたセパレータ13と、を備えている。負極11は、負極集電体(負極格子体)14と、負極集電体14に保持された負極活物質15と、を備えている。正極12は、正極集電体(正極格子体)16と、正極集電体16に保持された正極活物質17と、を備えている。なお、本明細書では、化成後の負極から負極集電体を除いたものを「負極活物質」、化成後の正極から正極集電体を除いたものを「正極活物質」とそれぞれ定義する。
【0050】
電極群10は、複数の負極11と正極12とが、セパレータ13を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。すなわち、電極群10は、負極11及び正極12の主面が電槽2の開口面と垂直方向に広がるように、セル室22のそれぞれに収容されている。
【0051】
電極群10において、複数の負極11における各負極集電体14が有する耳部11a同士は、ストラップ(負極側ストラップ)18で接続(例えば集合溶接)されている。同様に、複数の正極12における各正極集電体16が有する耳部12a同士は、ストラップ(正極側ストラップ)19で接続(例えば集合溶接)されている。負極側ストラップ18及び正極側ストラップ19は、それぞれ、負極柱及び正極柱を介して負極端子8及び正極端子9に接続されている。
【0052】
セパレータ13は、例えば袋状に形成されており、負極11を収容している。セパレータ13は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等で形成されている。セパレータ13は、これらの材料で形成された織布、不織布、多孔質膜等にSiO2、Al2O3等の無機系粒子を付着させたものであってよい。
【0053】
負極集電体14及び正極集電体16は、それぞれ、鉛合金で形成されている。鉛合金は、Pbに加えて、Sn、Ca、Sb、Se、Ag、Bi等を含有する合金であってよく、具体的には、例えば、Pb、Sn及びCaを含有する合金(Pb-Sn-Ca系合金)であってよい。
【0054】
負極活物質15は、Pb成分として少なくともPb(単体)を含み、必要に応じて、Pb以外のPb成分(例えばPbSO4)及び添加剤を更に含んでいてよい。負極活物質15は、Pb成分として、好ましくは多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)を含む。
【0055】
Pb成分の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99質量%以下又は98質量%以下であってよい。
【0056】
負極活物質15は、減液を更に抑制できる観点から、好ましくは、添加剤として、フェノール系化合物に由来する構造単位を有する樹脂(以下「フェノール系樹脂」ともいう)を更に含む。すなわち、負極11は、好ましくは、負極活物質15中に、フェノール系化合物に由来する構造単位を有する樹脂を更に含む。フェノール系樹脂は、好ましくは、スルホン酸基(スルホ基)又はスルホン酸塩基を更に有している。この場合、スルホン酸基又はスルホン酸塩基は、フェノール系化合物に由来する構造単位中に含まれていてもよく、フェノール系化合物に由来する構造単位とは別の構造単位中に含まれていてもよい。
【0057】
フェノール系樹脂の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下であってよい。
【0058】
フェノール系化合物に由来する構造単位は、減液を特に抑制できる観点からは、好ましくはビスフェノール系化合物に由来する構造単位を含み、減液の抑制と優れたDCA性能とを両立できる観点からは、好ましくはリグニンに由来する構造単位を含む。すなわち、フェノール系樹脂は、減液を特に抑制できる観点からは、スルホン酸基又はスルホン酸塩基を含むビスフェノール系樹脂(以下「ビスフェノール系樹脂」ともいう)であり、減液の抑制と優れたDCA性能とを両立できる観点からは、好ましくはリグニンスルホン酸又はその塩(以下「リグニンスルホン酸(塩)」ともいう)である。
【0059】
ビスフェノール系樹脂は、フェノール系化合物に由来する構造単位として、ビスフェノール系化合物に由来する構造単位を有している。ビスフェノール系樹脂は、例えば、(a)ビスフェノール系化合物(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)スルホン酸基(スルホ基)を有する化合物(以下「(b)成分」ともいう)と、の反応において、必要に応じてスルホン酸基の水素原子を例えば金属原子で置換することにより得ることができる。(a)成分及び(b)成分の反応において、(c)ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下「(c)成分」ともいう)を更に反応させてもよい。
【0060】
(a)成分としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「ビスフェノールA」ともいう)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及び、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(以下「ビスフェノールS」ともいう)が挙げられる。(a)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(a)成分は、充電受入性に更に優れる観点からは好ましくはビスフェノールAであり、放電特性に更に優れる観点からは好ましくはビスフェノールSである。
【0061】
(a)成分としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ビスフェノールAとビスフェノールSとを併用することが好ましい。この場合、ビスフェノール系樹脂を得るための反応におけるビスフェノールAの含有量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計量を基準として、好ましくは70モル%以上、より好ましくは75モル%以上、更に好ましくは80モル%以上である。ビスフェノールAの含有量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計量を基準として、好ましくは99モル%以下、より好ましくは98モル%以下、更に好ましくは97モル%以下である。
【0062】
(b)成分は、アミノ基及びスルホン酸基を有する化合物であってよい。アミノ基及びスルホン酸基を有する化合物としては、例えば、4-アミノベンゼンスルホン酸(別名スルファニル酸)、アミノエチルスルホン酸(別名タウリン)、及び、5-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸(別名ローレント酸)が挙げられる。
【0063】
(b)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(b)成分は、充電受入性が更に向上する観点から、好ましくは4-アミノベンゼンスルホン酸である。
【0064】
ビスフェノール系樹脂を得るための反応における(b)成分の含有量は、放電特性が更に向上する観点から、(a)成分1モルに対して、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは0.6モル以上、更に好ましくは0.7モル以上、特に好ましくは0.8モル以上である。(b)成分の含有量は、放電特性及びサイクル特性が更に向上しやすい観点から、(a)成分1モルに対して、好ましくは2.0モル以下、より好ましくは1.5モル以下、更に好ましくは1.3モル以下、特に好ましくは1.0モル以下である。
【0065】
(c)成分であるホルムアルデヒドとしては、ホルマリン(例えばホルムアルデヒド37質量%の水溶液)中のホルムアルデヒドを用いてもよい。ホルムアルデヒド誘導体としては、例えば、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン及びトリオキサンが挙げられる。(c)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(c)成分として、ホルムアルデヒドとホルムアルデヒド誘導体とを併用してもよい。
【0066】
(c)成分は、優れたサイクル特性が得られやすい観点から、好ましくはホルムアルデヒド誘導体、より好ましくはパラホルムアルデヒドである。パラホルムアルデヒドは、例えば、下記式(1)で表される構造を有する。
HO(CH2O)n1H …(1)
式(1)中、n1は、2~100の整数を示す。
【0067】
ビスフェノール系樹脂を得るための反応における(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(b)成分の反応性が向上する観点から、(a)成分1モルに対して、好ましくは2モル以上、より好ましくは2.2モル以上、更に好ましくは2.4モル以上である。(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の反応により得られると共にベンゾオキサジン環を有する構造単位を低減しやすい観点から、(a)成分1モルに対して、好ましくは3.5モル以下、より好ましくは3.2モル以下、更に好ましくは3モル以下、特に好ましくは2.8モル未満、極めて好ましくは2.5モル以下である。
【0068】
ビスフェノール系樹脂は、好ましくは、下記式(I)で表される構造単位、及び、下記式(II)で表される構造単位の少なくとも一方を有する。
【0069】
【化1】
式(I)中、X
1は2価の基を示し、Y
1は、2価の芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基を示し、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、金属原子又は水素原子を示し、n11は、1~300の整数を示し、n12は、1~3の整数を示す。ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1~5のアルキル基で置換されていてもよい。
【0070】
【化2】
式(II)中、X
2は2価の基を示し、Y
2は、2価の芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基を示し、R
21、R
22及びR
23は、それぞれ独立に、金属原子又は水素原子を示し、n21は、1~300の整数を示し、n22は、1~3の整数を示す。ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1~5のアルキル基で置換されていてもよい。
【0071】
式(I)で表される構造単位、及び、式(II)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。ビスフェノール系樹脂としては、式(I)で表される構造単位、及び、式(II)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0072】
X1及びX2としては、アルキリデン基(例えばメチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及びsec-ブチリデン基)、シクロアルキリデン基(例えばシクロヘキシリデン基)、フェニルアルキリデン基(例えばジフェニルメチリデン基及びフェニルエチリデン基)等の有機基;スルホニル基などが挙げられる。X1及びX2としては、充電受入性に更に優れる観点からはイソプロピリデン基(-C(CH3)2-)が好ましく、放電特性に更に優れる観点からはスルホニル基(-SO2-)が好ましい。X1及びX2は、フッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。X1又はX2がシクロアルキリデン基である場合、炭化水素環はアルキル基等により置換されていてもよい。
【0073】
Y1又はY2で表される2価の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基及びナフチレン基、2価の脂肪族炭化水素基としては、例えばエチレン基及びトリメチレン基、2価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロヘキシリデン基がそれぞれ挙げられる。Y1及びY2は、充電受入性に更に優れる観点から、好ましくはフェニレン基又はナフチレン基である。Y1及びY2で表される2価の芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基は、それぞれフッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。
【0074】
R11、R12、R13、R21、R22又はR23で表される金属原子は、例えば、ナトリウム原子、カリウム原子、マグネシウム原子又はカルシウム原子である。
【0075】
ビスフェノール系樹脂は、例えば、下記式(III)~(VI)で表される構造単位を有していてもよい。式(III)~(VI)で表される構造単位が生成する理由は、(a)成分のベンゼン環にホルムアルデヒド成分が付加反応をするためと推測される。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0076】
X3、X4、X5及びX6は、それぞれX1及びX2と同義であり、R31、R32、R33、R41、R42、R43、R51、R52、R61及びR62は、それぞれ独立にR21、R22及びR23と同義であり、n31、n41、n51及びn61は、それぞれ独立にn11及びn21と同義であり、n32及びn42は、それぞれ独立にn12及びn22と同義である。ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1~5のアルキル基で置換されていてもよい。
【0077】
ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、サイクル特性が更に向上する観点から、好ましくは20000以上、より好ましくは30000以上、更に好ましくは40000以上、特に好ましくは50000以上である。ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、サイクル特性が更に向上する観点から、好ましくは80000以下、より好ましくは70000以下、更に好ましくは60000以下である。これらの観点から、ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20000~80000、より好ましくは30000~70000、更に好ましくは40000~60000、特に好ましくは50000~60000である。
【0078】
ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。
(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC-2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU-2080
示差屈折率計:RI-2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV-2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO-2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mM)及びトリエチルアミン(200mM)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×106、5.80×105、2.55×105、1.46×105、1.01×105、4.49×104、2.70×104、2.10×104;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×102;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×102;キシダ化学株式会社製)
【0079】
ビスフェノール系樹脂の製造方法は、例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を反応させてビスフェノール系樹脂を得る樹脂製造工程を備えている。ビスフェノール系樹脂は、例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を反応溶媒中で反応させることにより得ることができる。反応溶媒は、好ましくは水(例えばイオン交換水)である。本工程では、反応を促進させるために、有機溶媒、触媒、添加剤等を用いてもよい。
【0080】
樹脂製造工程は、サイクル特性が更に向上する観点から、(b)成分の配合量が(a)成分1モルに対して0.5~2.0モルであり、且つ、(c)成分の配合量が(a)成分1モルに対してホルムアルデヒド換算で2~3.5モルである態様が好ましく、(b)成分の配合量が(a)成分1モルに対して0.5~2.0モルであり、且つ、(c)成分の配合量が(a)成分1モルに対してホルムアルデヒド換算で2~2.5モルである態様がより好ましい。(b)成分及び(c)成分の好ましい配合量は、(b)成分及び(c)成分の配合量のそれぞれについて上述した範囲である。
【0081】
ビスフェノール系樹脂は、充分量のビスフェノール系樹脂が得られやすい観点から、好ましくは、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を塩基性条件(アルカリ性条件)で反応させることにより得られる。塩基性条件に調整するためには、塩基性化合物を用いてもよい。塩基性化合物としては、例えば、水酸化カリウム及び炭酸カリウムが挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。塩基性化合物は、反応性に優れる観点から、好ましくは水酸化カリウムである。
【0082】
反応時の反応溶液が中性(pH=7)である場合、ビスフェノール系樹脂の生成反応が進行しにくい場合があり、反応溶液が酸性(pH<7)である場合、副反応(例えば、ベンゾオキサジン環を有する構造単位の生成反応)が進行する場合がある。そのため、反応時の反応溶液のpHは、ビスフェノール系樹脂の生成反応を進行させつつ副反応が進行することを抑制しやすい観点から、好ましくはアルカリ性であり(7を超え)、より好ましくは7.1以上、更に好ましくは7.2以上である。反応溶液のpHは、ビスフェノール系樹脂における(b)成分に由来する基の加水分解が進行することを抑制する観点から、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9以下である。反応溶液のpHは、例えば株式会社堀場製作所製のツインpHメーター AS-212で測定することができる。pHは、25℃におけるpHとして定義される。
【0083】
上記のようなpHに調整しやすいことから、強塩基性化合物の配合量は、(b)成分1モルに対して、好ましくは1.01モル以上、より好ましくは1.02モル以上、更に好ましくは1.03モル以上である。同様の観点から、強塩基性化合物の配合量は、(b)成分1モルに対して、好ましくは1.1モル以下、より好ましくは1.08モル以下、更に好ましくは1.07モル以下である。強塩基性化合物としては、例えば、水酸化カリウム及び炭酸カリウムが挙げられる。
【0084】
ビスフェノール系樹脂の合成反応では、(a)成分、(b)成分及び(c)成分が反応してビスフェノール系樹脂が得られればよく、例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を同時に反応させてもよく、(a)成分、(b)成分及び(c)成分のうちの2成分を反応させた後に残りの1成分を反応させてもよい。
【0085】
ビスフェノール系樹脂の合成反応は、好ましくは次のように二段階で行われる。第一段階の反応では、例えば、(b)成分、溶媒(水等)及び塩基性化合物を仕込んだ後に撹拌し、(b)成分におけるスルホ基の水素原子をカリウム原子等の金属原子で置換して(b)成分のカリウム塩等の金属塩を得る。これにより、後述の縮合反応において副反応を抑制しやすい。反応系の温度は、(b)成分の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは25℃以上である。反応系の温度は、副反応を抑制しやすい観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。反応時間は、例えば30分間である。
【0086】
第二段階の反応では、例えば、第一段階で得られた反応物に(a)成分及び(c)成分を加えて縮合反応させることによりビスフェノール系樹脂を得る。反応系の温度は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の反応性に優れる観点、及び、副反応生成物が低減される観点から、好ましくは75℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは92℃以上である。反応系の温度は、副反応を抑制しやすい観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは98℃以下、更に好ましくは96℃以下である。反応時間は、例えば5~20時間である。
【0087】
ビスフェノール系樹脂の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下であってよい。
【0088】
リグニンスルホン酸(塩)は、リグニン分解物の一部がスルホン化されたリグニンスルホン酸又はその塩である。リグニンスルホン酸(塩)は、フェノール系化合物に由来する構造単位としてリグニンに由来する構造単位を有すると共に、スルホン酸基又はスルホン酸塩基を有している。リグニンスルホン酸(塩)は、例えば、フェニレン基に隣接したα位の炭素原子にスルホン酸基又はスルホン酸塩基が結合した構造を有している。リグニンスルホン酸の塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩又はカルシウム塩であってよい。
【0089】
リグニンスルホン酸(塩)は、例えば、木材チップを蒸解してセルロースを取り出した後に残った黒液を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等によって中和することにより得ることができる。
【0090】
リグニンスルホン酸(塩)の重量平均分子量は、鉛蓄電池において電極からリグニンスルホン酸(塩)が電解液に溶出することが抑制されて更に優れたサイクル特性が得られる観点から、好ましくは3000以上、より好ましくは7000以上、更に好ましくは8000以上である。リグニンスルホン酸(塩)の重量平均分子量は、電極活物質の分散性に優れる観点から、好ましくは70000以下、より好ましくは50000以下、更に好ましくは40000以下、特に好ましくは30000以下、極めて好ましくは20000以下である。これらの観点から、リグニンスルホン酸(塩)の重量平均分子量は、好ましくは3000~70000、より好ましくは3000~50000、更に好ましくは3000~40000、特に好ましくは7000~30000、極めて好ましくは8000~20000である。リグニンスルホン酸(塩)の重量平均分子量は、ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量と同様の方法により測定することができる。
【0091】
リグニンスルホン酸(塩)の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下であってよい。
【0092】
負極活物質15は、添加剤として、炭素材料を更に含んでいてよい。すなわち、負極11は、負極活物質15中に炭素材料を更に含んでいてよい。炭素材料は、例えば、カーボンブラック、黒鉛等を含んでいてよく、減液を更に抑制できる観点から、好ましくはカーボンブラックを含む。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0093】
炭素材料の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上又は1.5質量%以上であってよく、3.5質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下又は2.0質量%以下であってよい。
【0094】
負極活物質15は、添加剤として、硫酸バリウム、補強用短繊維等を更に含んでいてよい。すなわち、負極11は、負極活物質15中に硫酸バリウム、補強用短繊維等を更に含んでいてよい。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。硫酸バリウムの含有量は、負極活物質の全質量を基準として、例えば、0.5質量%以上であってよく、3.0質量%以下であってよい。補強用短繊維の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、例えば、0.05質量%以上であってよく、0.3質量%以下であってよい。
【0095】
正極活物質17は、Pb成分として少なくともPbO2を含み、必要に応じて、PbO2以外のPb成分(例えばPbSO4)及び添加剤を更に含んでいてよい。
【0096】
Pb成分の含有量は、正極活物質の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99質量%以下又は98質量%以下であってよい。
【0097】
添加剤としては、例えば、炭素材料(炭素繊維を除く)及び補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0098】
負極11同士を接続する負極側ストラップ18は、減液を抑制する観点から、Pb及びSnを含有する合金(以下「Pb-Sn系合金」という)で形成されている。Pbの含有量は、Pb-Sn系合金の全質量を基準として、85質量%以上、90質量%以上、92質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
【0099】
Snの含有量は、合金の強度を向上させ、合金の腐食の抑制できる観点から、Pb-Sn系合金の全質量を基準として、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。Snの含有量は、減液を更に抑制できる観点から、Pb-Sn系合金の全質量を基準として、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
【0100】
Pb-Sn系合金は、Pb及びSnに加えて、As、Se等のその他の成分を更に含んでいてよい。その他の成分の含有量(合計量)は、Pb-Sn系合金の全質量を基準として、0.1質量%以上であってよく、また、1質量%以下であってよい。
【0101】
正極12同士を接続する正極側ストラップ19は、負極側ストラップ18と同様にPb-Sn系合金で形成されていてよく、Pb-Sn系合金以外の鉛合金で形成されていてもよい。正極側ストラップ19は、好ましくは、負極側ストラップ18と同じ合金で形成されている。
【0102】
以上説明した鉛蓄電池1は、アイドリングストップシステム車用、又は、マイクロハイブリッド車用の鉛蓄電池として好適に用いられる。すなわち、本発明の一実施形態は、上述した鉛蓄電池1のアイドリングストップシステム車への応用、又は、マイクロハイブリッド車への応用である。
【0103】
以上説明した鉛蓄電池1は、例えば、電極(負極及び正極)を得る電極製造工程と、電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池1を得る組立工程とを備える製造方法により製造される。
【0104】
電極製造工程では、例えば、負極集電体14に負極活物質ペーストを保持させた後に、熟成及び乾燥することにより未化成の負極11を得ると共に、正極集電体16に正極活物質ペーストを保持させた後に、上述した条件で熟成及び乾燥することにより未化成の正極12を得る。
【0105】
負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、添加剤、溶媒(例えば水又は有機溶媒)及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と添加剤とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。
【0106】
正極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、必要に応じて添加される添加剤、溶媒(例えば水又は有機溶媒)及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。正極活物質ペーストは、化成時間を短縮できる観点から、鉛丹(Pb3O4)を更に含んでいてもよい。
【0107】
鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。
【0108】
熟成は、温度35~85℃、湿度50~98RH%の雰囲気で15~60時間行われてよい。乾燥は、温度45~80℃で15~30時間行われてよい。
【0109】
組立工程では、例えば、得られた負極板及び正極板を、セパレータ13を介して積層し、同極性の電極の集電部をストラップで溶接させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の鉛蓄電池を作製する。次に、未化成の鉛蓄電池に希硫酸を入れて、直流電流を通電して電槽化成する。続いて、化成後の硫酸の比重(20℃)を適切な電解液の比重に調整することで、鉛蓄電池1が得られる。化成に用いる硫酸の比重(20℃)は、1.15~1.25であってよい。化成後の硫酸の比重(20℃)は、好ましくは1.25~1.33、より好ましくは1.26~1.30である。化成条件及び硫酸の比重は、電極の大きさに応じて調整することができる。化成処理は、組立工程において実施されてもよく、電極製造工程において実施されてもよい(タンク化成)。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0111】
<実施例1>
(電槽の準備)
上面が開放された箱体からなり、内部が隔壁によって6つのセル室に区切られた電槽を準備した。
【0112】
(正極の作製)
鉛粉に対して、補強用短繊維としてアクリル繊維0.25質量%(鉛粉の全質量基準)を加えて乾式混合した。次に、得られた鉛粉を含む混合物に対して、水3質量%及び希硫酸(比重1.55)30質量%を加えて1時間混練して正極活物質ペーストを作製した。正極活物質ペーストの作製に際しては、急激な温度上昇を避けるため、希硫酸(比重1.55)の添加は段階的に行った。なお、水及び希硫酸の配合量は、鉛粉及び補強用短繊維の全質量を基準とした配合量である。
【0113】
鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体に、正極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、温度50℃で16時間乾燥して、未化成の正極活物質を有する正極を作製した。
【0114】
(負極の作製)
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。リグニンスルホン酸ナトリウム(日本製紙株式会社製、商品名:バニレックスN)と、ファーネスブラック(キャボット社製、商品名:バルカンXC)との混合物を鉛粉に添加した後に乾式混合した。次に、水を加えた後に混練した。続いて、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、負極活物質ペーストを作製した。なお、リグニンスルホン酸ナトリウム及びファーネスブラックの含有量は、化成後の負極活物質の全質量を基準として、いずれも0.2質量%となるように配合した。
【0115】
鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの負極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後乾燥して、未化成の負極活物質を有する負極を作製した。
【0116】
(電池の組み立て)
袋状に加工したポリエチレン製のセパレータに未化成の負極を挿入した。次に、未化成の正極5枚と、袋状セパレータに挿入された未化成の負極6枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の電極の耳部同士を溶接して極板群を作製した。負極側のストラップには、Pb-Sn系合金(Pb含有量:98質量%、Sn含有量:2質量%)を用いた。
【0117】
この極板群を6つ用意し、電槽に挿入してEN規格の12Vセル電池(ランク性能:370、サイズ:LN2)を組み立てた。この際、蓋としては、
図3~
図5に示す上述した実施形態の排気室を有する蓋を用いた。その後、比重1.230の硫酸溶液を注入し、10.4Aにて20時間の定電流で化成を行った。化成後の電解液(硫酸溶液)の比重を1.28(20℃)に調整した。
【0118】
<実施例2>
負極の作製において、ファーネスブラックに代えて鱗片状黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、商品名:ACB)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。なお、鱗片状黒鉛の含有量は、化成後の負極活物質の全質量を基準として、1.5質量%となるように配合した。
【0119】
<実施例3>
負極の作製において、リグニンスルホン酸ナトリウムに代えてビスフェノール系樹脂(ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、日本製紙株式会社製、商品名:ビスパーズP215)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。なお、ビスフェノール系樹脂の含有量は、化成後の負極活物質の全質量を基準として、0.2質量%となるように配合した。
【0120】
<実施例4>
負極の作製において、リグニンスルホン酸ナトリウムに代えて、実施例3と同じ種類及び量のビスフェノール系樹脂を用いた以外は、実施例2と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0121】
<比較例1>
負極側ストラップに、Pb-Sn系合金に代えてPb-Sb系合金(Pb含有量:98質量%、Sb含有量::2質量%)を用いた以外は、実施例4と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0122】
<特性評価>
以下では、実施例及び比較例の鉛蓄電池について、減液抑制及びDCA性能を評価した。結果を表1に示す。なお、各性能の評価は、比較例1の測定結果を100として相対評価することにより行った。
【0123】
(減液抑制)
雰囲気温度(水槽の温度)60℃において、14.4Vで42日間定電圧の過充電を行った。この充電の前後の鉛蓄電池の質量を測定し、質量差(過充電による減液の量(減液量))を比較することにより、減液抑制を評価した。減液量が小さいほど、減液抑制の点で優れるといえる。
【0124】
(DCA性能)
EN規格であるBS EN50342-6:2015記載のDynamic Charge Acceptance(DCA) testに準じた評価方法でDCA性能評価を行った。換算式により規格化された充電中の平均電流値を比較し、該平均電流値が大きいほど、DCA性能に優れるといえる。
【0125】
【符号の説明】
【0126】
1…鉛蓄電池、2…電槽、3…蓋、4…第1の蓋部、5…第2の蓋部、10…電極群、11…負極、12…正極、22…セル室、400…排気室構成部、D1,D2,D3,D4,D5,D6…排気室、h…還流孔。