(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】酢酸アビラテロン治療の対象となる患者を同定するための生物学的マーカー
(51)【国際特許分類】
A61K 31/56 20060101AFI20220623BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20220623BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220623BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220623BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220623BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
A61K31/56 ZMD
A61K31/573
A61P35/00
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/09 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020066900
(22)【出願日】2020-04-02
(62)【分割の表示】P 2016567485の分割
【原出願日】2015-05-07
【審査請求日】2020-05-01
(32)【優先日】2014-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ソコル リッチー,デボラ.
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウェイミン
(72)【発明者】
【氏名】ゴームリー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】カーケラ,ジャヤプラカッシュ
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,マイケル
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】Clin. Cancer Res.,2011年,vol.17, no.18,pp.5913-5925
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおいて去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)を治療する方法での使用のための、酢酸アビラテロンを含む医薬組成物であって、
前記方法が、CRPCを有し、かつ少なくとも1つのハウスキーピング遺伝子の発現のレベルに対してアンドロゲン制御群の発現の増加したレベルを有するヒトに酢酸アビラテロン及びプレドニゾンを投与することを含み、
少なくとも1つのハウスキーピング遺伝子の発現のレベルに対してアンドロゲン制御群の発現の増加したレベルが、以下:
a)前記ヒトから腫瘍試料を得る工程と、
b)前記腫瘍試料からRNAを単離する工程と、
c)前記RNAからcDNAを合成する工程と、
d)real-time PCR(RT-PCR)を用いて、前記試料のアンドロゲン制御群の単一mRNAバイオマーカーのThreshold Cycle(CT)を測定する工程と、ここで、アンドロゲン制御群の単一mRNAバイオマーカーはアルド・ケト還元酵素ファミリー1メンバーC3(AKR1C3)、FK506結合タンパク質5(FKBP5)、及び増殖細胞核抗原(PCNA)であり、
e)前記試料の少なくとも1つのハウスキーピング遺伝子の幾何平均を計算することによって、前記試料の正規化係数を決定する工程と、
f)工程(d)からのアンドロゲン制御群の単一mRNAバイオマーカーの各々のCTと工程(e)からの正規化係数の間の差を計算することによって、アンドロゲン制御群の単一mRNAバイオマーカーの各々について相対的な発現値を定量化する工程と、
g)工程(f)からのアンドロゲン制御群の単一mRNAバイオマーカーの各々の相対的な発現値をNOT演算することにより、転写産物の発現レベルを計算する工程と、
h)単一mRNAバイオマーカーの各々のzスコアを、
(1)CRPCを有する男性対象の母集団から得られた腫瘍試料からの各単一mRNAバイオマーカーについて転写産物の発現レベルの平均値を求めることによって、各単一mRNAバイオマーカーについて平均の転写産物の発現レベルを計算する工程と、
(2)CRPCを有する男性対象の前記母集団から得られた前記腫瘍試料からの各単一mRNAバイオマーカーについて転写産物の発現レベルの標準偏差を計算する工程と、
(3)工程h(1)からの平均の転写産物の発現レベルを工程(g)からの転写産物の発現レベルから減算し、工程h(2)からの転写産物の発現レベルの標準偏差で除算する工程と、
により計算する工程と、
i)工程(h)からの全ての単一mRNAバイオマーカーのzスコアのメジアンを計算することによってアンドロゲン制御群の集計されたスコアを導き出す工程と、
j)アンドロゲン制御群の集計されたスコアに基づいて、少なくとも1つのハウスキーピング遺伝子の発現のレベルに対してアンドロゲン制御群の発現レベルが増加していることを決定する工程と、
によって決定される、医薬組成物。
【請求項2】
ヒトが、非転移性去勢抵抗性前立腺癌を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのハウスキーピング遺伝子が、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)、β-アクチン(ACTB)又はこれらのいずれかの組み合わせである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
2つ以上のハウスキーピング遺伝子を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ヒトは、細胞毒性化学療法を受けていない、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(配列表)
本出願は、電子的にASCIIフォーマットで提出された配列表を含み、その全体は、
参照文献として本願に援用されるものである。前記ASCIIコピー(2015年6月2
日作成)は、「PRD3334USNP_SL.txt」というファイル名で、サイズは
7,840バイトである。
【0002】
(発明の分野)
本明細書には、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)を有する患者において酢酸アビラテロ
ン(AA)及びプレドニゾンでの治療後の長期生存の見込みを予測する方法が記載されて
いる。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、米国人男性において2番目に多く見られる癌である。また、全人種及びヒ
スパニック系母集団の男性の間で癌死亡の主因のうちの1つとなっている。2010年に
、前立腺癌であると診断された米国人男性は196,038名であったのに対して、前立
腺癌で死亡した米国人男性は28,560名であった(U.S.Cancer Stat
istics Working Group.United States Cance
r Statistics:1999~2010 Incidence and Mor
tality Web-based Report.Atlanta(GA):Depa
rtment of Health and Human Services,Cent
ers for Disease Control and Prevention,a
nd National Cancer Institute;2013)。
【0004】
転移性の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)を有する患者において用いられる多数の治療
剤が、FDAにより認可されてきた。これらの治療選択肢には、ドセタキセル+プレドニ
ゾン、酢酸アビラテロン、カバジタキセル、エンザルタミド、ミトキサントロン、ラジウ
ム-223、シプロイセル-T、コルチコステロイド、及びケトコナゾールがある。結果
として、臨床医及び患者は多数の治療選択肢を与えられ、これらの薬剤の潜在的な順序付
けによって臨床上の意思決定がより複雑になる。特定の患者の部分母集団における生存及
び/又は生活の質の向上に関連する療法の同定方法により、そのような挑戦的な決定が促
進される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書には、CPRCを有する患者においてAA及びプレドニゾンでの治療後の生存
の見込みを予測する方法が記載されている。
【0006】
一般説明及び以下の詳細説明は、あくまで例示的かつ説明的なものであり、添付の請求
項に定義されている本開示の方法を制限するものではない。他の態様は、本明細書に記載
されている詳細説明を考慮することにより、当業者に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の方法は、本開示の一部をなす、添付の実施例に関連して解釈される以下の詳細
な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。当然のことながら、本
開示の方法は、本明細書に記載する及び/又は示す特定の方法、条件又はパラメータに限
定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は実施例を用いて具体的な実施形
態を記載する目的のためだけのものであり、特許請求される方法を制限することを意図す
るものではない。また、添付の請求項を含む明細書において使用される場合、単数形「a
」、「an」、及び「the」は複数を含み、特定の数値への言及は、文脈により明確に
別様に指示されない限り、少なくともこの特定の値を含む。本明細書において使用すると
き、「複数(plurality)」という用語は、2つ以上を意味する。
【0008】
明確化を目的に、別個の実施形態の文脈で本明細書において記述される本開示の方法の
特定の特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせとして提示される場合もある点は
認識されるであろう。逆に、簡略化を目的に、単一の実施形態の文脈で記述される本開示
の方法の様々な特徴はまた、別個に又は任意の部分的な組み合わせとして提示される場合
もある。
【0009】
本明細書には、CPRCを有する患者においてAAでの治療後の生存の見込みを予測す
る方法が記載されており、本方法は、
(a)AAでの治療に先立って得られる患者の腫瘍試料由来のcDNAを遺伝子チップ
と接触させる工程であって、前記遺伝子チップが、少なくとも1つのmRNAバイオマー
カー用プローブを含み、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーが、ANLN、HSD
17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補
助因子群、アンドロゲン制御群、多変量パネル群、又はこれらの任意の組み合わせを含む
、工程と、
(b)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを測定する工程と、
(c)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを参照遺伝子の発現レベ
ルと比較する工程であって、患者試料において、AAでの治療後に、ANLN、HSD1
7B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助
因子群、アンドロゲン制御群、又はこれらの任意の組み合わせの発現レベルが参照遺伝子
の発現レベルに対して増加したことが、前記患者の無増悪生存期間、全生存期間、又はそ
の両方の見込みの増加を示唆し、あるいは、患者試料において、AAでの治療後に、多変
量パネル群の発現レベルが参照遺伝子の発現レベルに対して相対的に減少したことが、前
記患者の無増悪生存期間の見込みの増加を示唆する、工程と、
(d)前記患者を治療上有効量のAA及びプレドニゾンで治療する工程と、を含む。
【0010】
また、本明細書には、CPRCを有する患者においてAAでの治療後の生存の見込みを
予測する方法も開示されており、本方法は、
(a)前記患者の腫瘍試料からRNAを単離する工程と、
(b)RNAからcDNAを合成する工程と、
(c)腫瘍試料由来の少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを測定す
る工程であって、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーが、ANLN、HSD17B
10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子
群、アンドロゲン制御群、多変量パネル群、又はこれらの任意の組み合わせを含み、発現
レベルが定量的RT-PCRで測定される、工程と、
(d)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの、参照遺伝子の発現に対する相対的
な発現を決定する工程であって、患者試料において、AAでの治療後に、ANLN、HS
D17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び
補助因子群、アンドロゲン制御群、又はこれらの任意の組み合わせの発現レベルが参照遺
伝子の発現レベルに対して増加したことが、前記患者の無増悪生存期間、全生存期間、又
はその両方の見込みの増加を示唆し、あるいは、患者試料において、AAでの治療後に、
多変量パネル群の発現レベルが参照遺伝子の発現レベルに対して減少したことが、前記患
者の無増悪生存期間の見込みの増加を示唆する、工程と、
(e)前記患者を治療上有効量のAA及びプレドニゾンで治療する工程と、
を含む。
【0011】
本明細書においてするとき、「患者」という用語は、CRPCを有する任意の哺乳動物
を指し、その試料は本開示の方法で解析することができる。ゆえに、本開示の方法は、人
間の対象及び人間以外の対象に対して適用可能であるが、人間に対して用いるのが最も好
ましい。いくつかの実施形態において、患者試料は、人間の試料である。他の実施形態に
おいて、患者試料は、人間以外の試料である。「患者」及び「対象」は、本明細書におい
て交換可能に使用される。
【0012】
本明細書においてするとき、「去勢抵抗性前立腺癌」(CRPC)という語句は、去勢
治療にもはや応答しなくなった(化学的又は外科的手段による利用可能なアンドロゲン/
テストステロン/DHTの減少)が、アンドロゲン受容体活性化ホルモンに対する依存性
を呈する前立腺癌を指す。
【0013】
当業者に公知であるように、(本明細書中で「AA」と呼ばれる)酢酸アビラテロンは
、精巣、副腎、及び前立腺腫瘍におけるアンドロゲン合成を阻止する17a-ヒドロキシ
ラーゼ/C17、20-リアーゼ(CYP17)阻害剤である。
【0014】
本明細書においてするとき、「生存」という用語は、放射線学的無増悪生存期間(rP
FS)、全生存期間(OS)、又はこれらの組み合わせを指す。本明細書においてすると
き、「放射線学的無増悪生存期間」という語句は、患者がCRPCと共存する、治療中及
び治療後の期間を指すが、ここでCRPCは悪化せず、例えば、骨、軟組織、又はこれら
の任意の組み合わせにおける病変をX線、CT、MRI、又はこれらの任意の組み合わせ
でモニタリングすることによって決定される。本明細書においてするとき、「全生存期間
」という語句は、CRPCであると診断された日又は治療を開始した日のいずれか(すな
わち患者生存中)から原因を問わず亡くなるまでの期間を指す。
【0015】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、患者がCRPCと共存する(治療中及
び治療後)期間の見込みを予測するものであり、ここでCRPCは悪化しない。他の実施
形態では、本開示の方法により、(CRPCであると診断された日又は治療を開始した日
のいずれかからの)患者が生存するであろう期間の見込みが予測される。更に他の実施形
態では、本開示の方法により、両方の見込みが予測される。
【0016】
本明細書においてするとき、「少なくとも1つのmRNAバイオマーカー」という語句
は、腫瘍サブタイプを有する患者の指示薬として使用することができる単一mRNAバイ
オマーカー又はmRNAバイオマーカー群(すなわち、2つ又はそれ以上の関連バイオマ
ーカー)で、AA及びプレドニゾンを用いた療法に対する反応性を改善し得るもの、並び
に/又はCRPCにおけるAA及びプレドニゾンに対する一次耐性(すなわち応答)を予
測し得るものを指す。例示的な単一mRNAバイオマーカーは、表1に記載されており、
ANLN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、及びUBE2Cが
挙げられるが、これらに限定されない。例示的なmRNAバイオマーカー群は、表1に記
載されており、CYP17A1及び補助因子(CYB5A、CYP17A1、CYP3A
5、DUSP5、HNF1A、NR0B1、及びPOR)群、アンドロゲン制御群(AK
R1C3、FKBP5、及びPCNA)、並びに多変量パネル(AR、CYP21A2/
CYP21A1P、HLA-A、IGJ、KRT17、LCN2、及びPCNA)が挙げ
られるが、これらに限定されない。
【0017】
【0018】
ゆえに、いくつかの実施形態において、「少なくとも1つのmRNAバイオマーカー」
とは、ANLN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C
、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない、1つ又は2つ以
上の単一mRNAバイオマーカーを指す。他の実施形態において、「少なくとも1つのm
RNAバイオマーカー」とは、CYP17A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、多
変量パネル、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない、1つ
又は2つ以上のmRNAバイオマーカー群を指す。例えば、本方法のいくつかの態様にお
いて、CYP17A1及び補助因子群は、CYB5A、CYP17A1、CYP3A5、
DUSP5、HNF1A、NR0B1、及びPORを含む。本方法のいくつかの態様にお
いて、アンドロゲン制御群は、AKR1C3、FKBP5、及びPCNAを含む。本方法
のいくつかの態様において、多変量パネルは、AR、CYP21A2/CYP21A1P
、HLA-A、IGJ、KRT17、LCN2、及びPCNAを含む。更に他の実施形態
において、「少なくとも1つのmRNAバイオマーカー」とは、ANLN、HSD17B
10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子
群、アンドロゲン制御群、多変量パネル、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられるが
これらに限定されない、1つ又は2つ以上の単一mRNAバイオマーカー並びに1つ又は
2つ以上のmRNAバイオマーカー群を指す。
【0019】
本明細書においてするとき、「cDNAを遺伝子チップと接触させる」という語句は、
遺伝子発現を評価する目的で、患者の腫瘍試料に由来するcDNAを遺伝子チップと共に
インキュベーションするか又はその遺伝子チップに加える手技を指す。
【0020】
いくつかの実施形態において、遺伝子チップは、少なくとも1つのmRNAバイオマー
カー用プローブを含み、この少なくとも1つのmRNAバイオマーカーは、ANLN、H
SD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及
び補助因子群、アンドロゲン制御群、多変量パネル、又はこれらの任意の組み合わせを含
む。他の実施形態において、遺伝子チップは、少なくとも1つのmRNAバイオマーカー
用プローブから本質的になり、この少なくとも1つのmRNAバイオマーカーは、ANL
N、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17
A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、多変量パネル、又はこれらの任意の組み合わ
せを含む。更に他の実施形態において、遺伝子チップは、少なくとも1つのmRNAバイ
オマーカー用プローブからなり、この少なくとも1つのmRNAバイオマーカーは、AN
LN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP1
7A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、多変量パネル、又はこれらの任意の組み合
わせを含む。
【0021】
当業者に公知であるように、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを
測定するために利用可能な手技には数多くのものがあり、定量的RT-PCR、マイクロ
アレイ、RNA配列決定、ナノストリング、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる
が、これらに限定されない。
【0022】
本明細書においてするとき、「参照遺伝子」とは、GAPDH、Hs99999905
_m1、ACTB、Hs99999903_m1、又はこれらの任意の組み合わせが挙げ
られるがこれらに限定されない、1つ又は2つ以上のハウスキーピング遺伝子を指す。
【0023】
いくつかの実施形態において、参照遺伝子の発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子の
幾何平均を含む。そのような実施形態において、少なくとも1つのmRNAバイオマーカ
ーの発現レベルを参照遺伝子の発現レベルと比較することは、少なくとも1つのmRNA
バイオマーカーの発現レベルをハウスキーピング遺伝子の幾何平均と比較することを含み
得る。例えば、単一mRNAバイオマーカーの発現値は、本明細書中に援用されている「
Schmittgen TD,Livak KJ.Analyzing real-ti
me PCR data by the comparative CT method
.」(Nature Protocols.2008;3:1101~1108)に記載
されている比較CT法を用いて計算することができる。手短に言えば、正規化係数は、ハ
ウスキーピング遺伝子の幾何平均を用いて、各試料に対して計算することができる。全て
の他の転写産物の相対的な発現値は、CTと正規化係数との差分として定量することがで
きる。続いて、発現とCTとの逆相関を考慮に入れるため、相対的な発現値をNOT演算
することにより、転写産物の発現を計算することができる(これは、2^(-ΔCT)の
log2変換に等しい)。
【0024】
他の実施形態において、バイオマーカー群の発現レベルを参照遺伝子の発現レベルと比
較することは、遺伝子単位で正規化することと、バイオマーカー群中のメンバー遺伝子を
集計することと、を含み得る。例えば、上述した比較CT法を使用してバイオマーカー群
の発現レベルを最初に正規化することも可能であるし、バイオマーカー群に関して、集計
されたスコアを、バイオマーカー群中のメンバー遺伝子のzスコアのメジアン(例えば、
試料中の発現から平均発現を減算してから発現の標準偏差で除算して得られた変換値)を
計算することによって導き出すことも可能である。
【0025】
他の実施形態において、バイオマーカーの多変量パネルは、時間事象データの罰則付き
回帰を使用して導き出すことができる。一連のデータを使用して、モデルパラメータを指
定し、かつ交差検証によって、情報提供的な(informative)バイオマーカーを選択する
ことができる。バイオマーカー発現がXの個人について、平均的患者に対して事象を経験
するリスクは、exp(Xβ)により与えられ、式中、βは、モデルを定義する際に使用
されたデータ内の時間事象とバイオマーカー発現との関連に基づいて定義された対数ハザ
ード比であり、expは、指数関数である。この方法では、バイオマーカー発現に基づき
、各個々の患者の相対的リスクを予測することができる。相対的リスクは、患者が生存事
象を経験するか又は患者の低リスク群と高リスク群を示すのに二分され得る確率の連続イ
ンデックスとして評価することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、患者試料において、ANLN、HSD17B10、NUSA
P1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子群、アンドロゲ
ン制御群、又はこれらの任意の組み合わせの発現レベルが参照遺伝子の発現レベルに対し
て増加したことが、rPFS、OS又はこれらの組み合わせの増加を示唆する。
【0027】
本明細書には、CPRCを有する患者においてAAでの治療後の生存の見込みを予測す
る方法が記載されており、本方法は、
(a)AAでの治療に先立って得られる患者の腫瘍試料由来のcDNAを遺伝子チップ
と接触させる工程であって、前記遺伝子チップが、少なくとも1つのmRNAバイオマー
カー用プローブを含み、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーが、ANLN、HSD
17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補
助因子群、アンドロゲン制御群、又はこれらの任意の組み合わせを含む、工程と、
(b)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを測定する工程と、
(c)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを参照遺伝子の発現レベ
ルと比較する工程であって、患者試料において、AAでの治療後に、ANLN、HSD1
7B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助
因子群、アンドロゲン制御群、又はこれらの任意の組み合わせの発現レベルが参照遺伝子
の発現レベルに対して相対的に増加したことが、前記患者の無増悪生存期間、全生存期間
又はその両方の見込みの増加を示唆する、工程と、
(d)前記患者を治療上有効量のAA及びプレドニゾンで治療する工程と、
を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、患者試料において、AAでの治療後に、多変量パネル群の発
現レベルが参照遺伝子の発現レベルに対して減少したことが、前記患者の無増悪生存期間
の見込みの増加を示唆する。
【0029】
本明細書には、CPRCを有する患者においてAAでの治療後の生存の見込みを予測す
る方法が記載されており、本方法は、
(a)AAでの治療に先立って得られる患者の腫瘍試料由来のcDNAを遺伝子チップ
と接触させる工程であって、前記遺伝子チップが、少なくとも1つのmRNAバイオマー
カー用プローブを含み、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーが、多変量パネル群を
含む、工程と、
(b)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを測定する工程と、
(c)少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを参照遺伝子の発現レベ
ルと比較する工程であって、患者試料において、AAでの治療後に、多変量パネル群の発
現レベルが参照遺伝子の発現レベルに対して減少したことが、前記患者の無増悪生存期間
の見込みの増加を示唆する、工程と、
(d)前記患者を治療上有効量のAA及びプレドニゾンで治療する工程と、
を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、患者試料において、ANLN、HSD17B10、NUSA
P1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子群、又はアンド
ロゲン制御群の発現レベルが参照遺伝子の発現レベルに対して増加したことは、AAでの
治療後に前記患者の無増悪生存期間、全生存期間、又はその両方の見込みの増加を示唆し
、患者試料において、AAでの治療後に、多変量パネル群の発現レベルが参照遺伝子の発
現レベルに対して減少したことは、前記患者の無増悪生存期間の見込みの増加を示唆する
。
【0031】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルが、
患者母集団からの少なくとも1つのmRNAバイオマーカーのメジアン発現値に対して増
加又は減少したことにより、rPFS及び/又はOSの増加が示される。例示的なメジア
ン発現値は、本明細書中の表4に記載されている。他の実施形態では、ANLN、HSD
17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補
助因子群、又はアンドロゲン制御群の発現が参照遺伝子に対して任意のレベルで増加した
によって、あるいは多変量パネル群の発現レベルが参照遺伝子に対して減少したことによ
って、rPFS及び/又はOSの増加が示される。例えば、制限することを意図しないが
、表3に例示されているハザード比(HR)は、少なくとも1つのmRNAバイオマーカ
ーの相対的な発現と転帰(例えば、rPFS又はOS)との関連の強度を示す。それゆえ
に、ANLNの相対的な発現の単位増加(unit increase)によって、例えば、rPFS
事象のハザードが16パーセント(すなわち、1-0.84=0.16)減少する。少な
くとも1つのmRNAバイオマーカーの発現値が、log2変換されたため、変化の単位
は、参照遺伝子の発現レベルに対して2倍の差分に等しい。
【0032】
腫瘍試料からRNAを単離する手技としては、数多くのものが公知であり、Qiage
n製のAllPrep DNA/RNAFFPEキット及びAmbion製のRecov
erallキットのような市販のキットが挙げられるが、これらに限定されない。加えて
、単離されたRNAからcDNAを合成する方法(例えば、Life Technolo
gies製のHigh Capacity cDNA Reverse Transcr
iption Kitの使用が挙げられるがこれに限定されない方法)は、当業者に公知
であろう。
【0033】
本明細書においてするとき、「治療(treating)」は、CRPC及び/又は付随症状が
軽減、改善、緩和、逆転、抑制、予防及び/又は排除されるように、患者に対し治療上効
果量のAA及びプレドニゾンを投与することを含む。また、治療には、症状の重篤度及び
/又は頻度の低下、症状及び/又は根元的な原因の排除、症状発生及び/又はその根元的
な原因の予防、並びにCRPCに起因する損傷の改善又は修復が包含される。
【0034】
いくつかの実施形態では、AA(CB7630)及びプレドニゾンが同時投与される。
例えば、AA及びプレドニゾンは、いずれかの順序で又は同時に逐次的に投与され得る。
【0035】
「治療上効果量のAA及びプレドニゾン」は、CRPCのステージ及び重篤度、並びに
患者の健康に関連する他の因子が挙げられるがこれらに限定されない、いくつかの因子に
依存する。治療上効果量の定量方法は、当業者に公知であろう。
【0036】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現増加を
呈する患者は、非転移性又は初期CRPCを有し得る。他の実施形態において、少なくと
も1つのmRNAバイオマーカーの発現増加を呈する患者は、転移性又は後期CRPCを
有し得る。
【実施例】
【0037】
実験計画
COU-AA-302は、医学的に若しくは外科的去勢性無症候性又は中等度症候性の
、細胞毒性化学療法を受けていないmCRPCを有する男性において、AA及びプレドニ
ゾン(AA+P)の効能及び安全性をプラセボ及びプレドニゾン(プラセボ+P)と比較
する第III相多国籍無作為二重盲検プラセボ対照研究である。「Clinical S
tudy Protocol:A Phase 3 Randomized,Doubl
e-blind,Placebo-controlled Study of Abir
aterone Acetate(CB7630)Plus Prednisone i
n Asymptomatic or Mildly Symptomatic Sub
jects with Metastatic Castration Resista
nt Prostate Cancer」(プロトコルCOU-AA-302;Eudr
aCT No.2008-008004-41;09 Jul 2012)において考察
されているように、患者をAA+P又はプラセボ+Pのいずれかを投与されるように1:
1の比率で割り当て、ECOGパフォーマンスステータス(0又は1)に基づいて分類し
た。
【0038】
研究COU-AA-302における全ての対象は、治療群に関係なく、プレドニゾンを
併用投与された。「Clinical Study Report:CSR COU-A
A-302 2012.A Phase 3,Randomized,Double-B
lind,Placebo-Controlled Study of Abirate
rone Acetate Plus Prednisone in Asymptom
atic or Mildly Symptomatic Subjects With
Metastatic Castration-Resistant Prostat
e Cancer」(Issue Date:26 October 2012)を参照
のこと。AA+Pを投与された対象を、本明細書中では「AA群」と呼び、表中では「A
A」と呼ぶ。プラセボ+Pを投与された対象を、本明細書中では「プラセボ群」と呼び、
表中では「プラセボ」と呼ぶ。研究に関する更なる詳細は、COU-AA-302臨床研
究プロトコル又は臨床研究レポートから得ることができる。
【0039】
バイオマーカー試料の採取及び処理
任意選択的にRNA解析に対して同意した対象258名からのホルマリン固定・パラフ
ィン包埋(FFPE)腫瘍試料を採取し、RNA解析用にセントラルラボラトリー(Co
vance,IN)に発送した。対象152名からのFFPE試料は、TaqMan(登
録商標)Low Density Array(TLDA)解析用の十分なRNAを有し
ていた。他の対象106名からの試料は、腫瘍がないか又はRNA収率が低いかのいずれ
かであるため、除外した。TLDAにより評価された試料152個のうち、対象42名か
らの試料は、技術的な失陥がある(検出可能な遺伝子発現がないか、又は腫瘍含量が低い
若しくはRNA入力質量が低い[総RNAが250ngを下回る]試料の顕微解剖により
バッチ作用が誘発される)ため、データ解析から除外した。ITT母集団の一部(10%
)であり、かつ評価項目(rPFS、OS)の少なくとも1つに関する臨床データを有す
る、薬物に曝露された対象110名(バイオマーカー母集団)から得た残りの評価可能な
試料を、解析に含めた。これらの対象から得た試料を、TaqMan(登録商標)アレイ
マイクロ流体カードを使用してmRNA解析に含めた。
【0040】
遺伝子発現のプロファイリング用に、CYP17A1及び補助因子(CYP17、P4
50レダクターゼ、及びシトクロムb5)の他に、AR及びそのスプライス変異体(AR
完全長、AR V7、及びAR567ES)など、96個のmRNAを選択した。また、
アンドロゲンシグナリング、増殖、細胞成長、免疫反応、及びステロイド産生遺伝子をは
じめとする、主要生物学的経路を表す遺伝子も、解析に含めた。
【0041】
試料解析の方法
RNA抽出
FFPE試料由来のRNAは、初めに、メーカーの指示により、Qiagen製のAl
lPrep DNA/RNAFFPEキットを使用して、セントラルラボラトリー(Co
vance Genomics Laboratory,Seattle,WA)により
抽出された。RNA収率が低いことが原因で抽出手技に失敗した試料中のRNA収率を向
上させる目的で、残りの試料に対してはAmbion Recoverallキットを使
用した。メーカーの推奨事項に従ってRNA試料をDNアーゼで処理し、RNA量をRi
boGreenで測定した。
【0042】
cDNAの合成、前置増幅、及びマイクロアレイ
供給メーカーのプロトコルに従い、Life Technologies製のHigh
Capacity cDNA Reverse Transcription Kit
with RNase Inhibitor(カタログ番号4374967)を用いて
、若干の修正を行い(使用反応容積を20μLとする代わりに30μLとして)、cDN
Aの合成を実施した。低収率RNA(総RNA使用量が150ng)の試料のサブセット
を除外して、cDNAの合成に総RNA 250ngを使用したが、その後に、これらの
試料は、バッチ作用があることから、統計解析から除外した。
【0043】
供給メーカーのプロトコルに従い、Life Technologies製のTaqM
an(登録商標)PreAmp Master Mix Kit(カタログ番号4384
267)を使用して、前置増幅を実施した。供給メーカーのプロトコルに従い、RNAの
解析及びラン(run)にApplied Biosystems製のTaqMan(登録
商標)Array Microfluidic Cardsを使用した。このカードを、
ABI 7900 HT Systemでランした。
【0044】
【0045】
【表2-2】
*領域は、プライマー領域を含む標的転写産物中の塩基を示す。
【0046】
データの正規化
未処理の(raw)CT値をフィルター処理して、30より大きい値を除外した。4重反
復試験のCT値を、幾何平均を使用して要約した。発現値は、「Schmittgen
TD,Livak KJ.Analyzing real-time PCR data
by the comparative Ct method.」(Nature P
rotocols.2008;3:1101~1108)に記載されている比較CT法を
用いて計算した。手短に言えば、正規化係数は、ハウスキーピング遺伝子(ACTB及び
GAPDH)の幾何平均を用いて、各試料に対して計算した。全ての他の転写産物の相対
的な発現値を、CTと正規化係数との差分として定量化した。発現及びCTとの逆相関を
考慮に入れるため、相対的な発現値をNOT演算することにより、転写産物の発現を計算
した。これは、2^(ΔCT)のlog2変換に等しい。
【0047】
統計解析
全ての統計検定を、5%有意水準(両側検定)にて解釈した。AA群中の臨床エンドポ
イントとバイオマーカーとの関連の特異性を決定するためには、AA群でP<0.05、
かつプラセボ群でP≧0.2であることが必須とされる。ANOVA(連続変数)又はカ
イ二乗(分類変数)検定を用いて、バイオマーカー母集団とITT母集団との間で人口統
計及びベースライン特性を比較した。
【0048】
セントラルラボラトリーから受領されたバイオマーカーデータを以下の順序で処理した
。
・全てのバイオマーカーについて定量下限(LLOQ)を下回る、4つの試料が除外さ
れた。
・少なくとも95%の試料データが欠落しているか又はLLOQを下回る、7つのバイ
オマーカーも、除外された。
・同じ抽出方法論、レーザーキャプチャ顕微解剖(LCM)方法論、及びRNA入力質
量を用いて生成された、複製試料を有する対象に対しては、平均値を用いた。
・バイオマーカーについてLLOQを下回った結果は、同じバイオマーカーに対して利
用可能な全ての値の最小値の半分により補完(impute)された。次いで、全てのバイオマ
ーカー値をlog2変換した。
・バイオマーカー群の解析用に、バイオマーカー群中の全てのバイオマーカーから正規
化された値のメジアンを使用して、最初に、(全ての対象のバイオマーカー値-平均値)
/(全ての対象の標準偏差)を用いて全ての対象における各バイオマーカーの補完(impu
ted)値及びlog2変換値についてzスコアを計算してから、各群中の全ての遺伝子の
zスコアをメジアン値で集計して、バイオマーカー群の複合スコアを生成することにより
、各対象の複合スコアを決定した。
【0049】
これらのデータと臨床エンドポイント(単独レビューによるrPFS(IND)、調査
的レビューによるrPFS(INV)、及びOS)との関連を、次のように解析した。
・各治療群用及び総バイオマーカー母集団用のモデルにおいてベースラインECOGス
コア(無作為化層別因子)及び各バイオマーカー値(連続)、又はバイオマーカー群(連
続)の複合スコアを使用して、Cox回帰を主な解析方法として実施した。
・RNA抽出方法に対する修正を行うため、各治療群用及び総バイオマーカー母集団用
のモデルにおいてベースラインECOGスコア、RNA抽出方法(Qiagen All
Prep又はAmbion Recoverall)及び各バイオマーカー値(連続)、
又はバイオマーカー群(連続)の複合スコアを使用して、Cox回帰を実施した。
・メジアンによる二分されたバイオマーカーデータ(≧メジアン、又は<メジアン)を
、各治療群に対し及び総バイオマーカー母集団に対し実施されたCox回帰において使用
した。
・Cox回帰を用い、メジアンに基づいてバイオマーカーデータを二分することによっ
て定義されたバイオマーカー部分母集団おいて、治療群の比較を実施した。
・該当するp値(III型)、HR、及び95%信頼区間を、データ表中に各関連につ
いて示してある。
・有意性が最も高い(複数の臨床エンドポイントに対し一貫性のある関連をもつ)バイ
オマーカーに対し、カプラン-マイヤー方法を使用して、rPFS及びOSの分布を推定
した。
【0050】
バイオマーカーの結果
人口統計及びベースライン特性
バイオマーカー母集団は概ね、COU-AA-302研究において全ITT母集団の典
型であった(データは非公開)。ただし、このバイオマーカー母集団では、手術歴のある
対象が高頻度で見られ、北米以外の対象が高い割合で含まれていた。他の人口統計及びベ
ースライン特性には、統計的に有意な差分が観察されなかった。
【0051】
遺伝子発現の頻度
検定された94個のmRNAバイオマーカーのうち、87個の非ハウスキーピングmR
NAが、少なくとも5%の試料中で発現した。検出可能な発現値を有する腫瘍の数は、遺
伝子ごとに異なった(データは非公開)。注目すべきことに、AR完全長は、検定された
全ての腫瘍に検出された一方、AR V7は、試料の65.5%において検出され、AR
567ESの発現は、いずれの対象においても観察されなかった(データは非公開)。C
YP17の検出可能な発現の頻度は、30.9%であった(データは非公開)。
【0052】
バイオマーカーとrPFS(単独レビュー)-単一mRNAバイオマーカーとの関連解
析
単一mRNAバイオマーカー発現値とrPFS(IND)との関連解析を、各治療群内
又は治療群の組み合わせ内でCox回帰を用いて評価した。ベースラインECOGスコア
及び無作為化層化因子を、モデル内に含めた。INDによるrPFSとの一貫性のある関
連を示したバイオマーカー、及び他の臨床エンドポイントは、表3に要約されている。
【0053】
検査された94個のmRNAバイオマーカーのうち8つのバイオマーカーは、プラセボ
群(p≧0.2)中でなくAA群(p<0.05)中のrPFS(IND)との有意な関
連を示し、これは、これらのバイオマーカーの発現が、AAの効能を予測し得ることを示
している(データは非公開)。これらのバイオマーカーには、CYP17補助因子(HN
F1A);AR調節遺伝子(KLK3)、増殖マーカー(ANLN、NUSAP1、UB
E2C);ジヒドロテストステロン(DHT)の「バックドア」合成における酵素である
HSD17B10;C19ステロイドの変換経路における酵素であるSRD5A1;及び
mRNA前駆体スプライシング因子F1が含まれる。多変量Cox回帰モデルでRNA抽
出方法論に対し修正を行った後、ANLN(HR=0.86;p=0.0413)、HS
D17B10(HR=0.78;p=0.0396)、NUSAP1(HR=0.78;
p=0.0272)、及びSRD5A1(HR=0.79;p=0.0360)はAA群
中のrPFS(IND)と有意に関連した状態を維持し、UBE2CはAA群(HR=0
.88;p=0.0584)中のrPFS(IND)と関連する傾向を示した。
【0054】
また、メジアン発現をカットポイントとして使用してバイオマーカー発現を2値変数に
二分して、バイオマーカーとrPFS(IND)との関連をCox回帰を用いて評価した
。その結果は、バイオマーカーデータを連続変数として治療することにより為された解析
に類似していた(データは非公開)。
【0055】
バイオマーカーとrPFS(単独レビュー)-mRNAバイオマーカー群との関連解析
バイオマーカー複合スコアとrPFS(IND)との関連を、ECOGスコアごとに層
化されたCox回帰により評価した。AKR1C3、FKBP5、及びPCNAを含めた
「アンドロゲン制御遺伝子」(バイオマーカー群の1つ)は、RNA方法論に対する修正
の前(HR=0.57[0.37、0.88];p=0.0115)及び修正の後(HR
=0.63[0.39、0.99]、p=0.0467)に、プラセボ群中でなくAA群
中のrPFS(IND)と有意に関連し、これは、AA治療に対する効能との関連を示唆
している。加えて、CYP17A1及び補助因子群(CYB5A、CYP17A1、CY
P3A5、DUSP5、HNF1A、NR0B1、POR;HR=0.43[0.21、
0.89];p=0.0224)も、プラセボ群中でなくAA群中のrPFS(IND)
と有意な関連を示した(表3を参照)。
【0056】
バイオマーカーとrPFS(試験責任医師のレビュー)-単一mRNAバイオマーカー
との関連解析
rPFS(IND)に対する方法と同じ方法を使用して、単一mRNAバイオマーカー
とrPFS(INV)との関連を評価した。12個のバイオマーカーは、プラセボ群中で
なくAA群中のrPFSと関連していた(データは非公開)。これらのうち、5つのバイ
オマーカー-HSD17B10、SF1、UBE2C、NUSAP1、及びSRD5A1
は、rPFS(IND)及びrPFS(INV)の両方と関連していた(表3を参照)。
【0057】
バイオマーカーとrPFS(試験責任医師のレビュー)-mRNAバイオマーカー群と
の関連解析
rPFS(IND)に対する方法と同じ方法を使用して、バイオマーカー群とrPFS
(INV)との関連を評価した。4つのバイオマーカー群は、プラセボ群中でなくAA群
中のrPFと関連していた(データは非公開)。これらのなかで、2つのバイオマーカー
群、アンドロゲン制御遺伝子(HR=0.58;p=0.0220)及び拡散経路モジュ
ール(HR=0.63;p=0.0133)は、rPFS(IND)及びrPFS(IN
V)の両方と関連していた。
【0058】
バイオマーカーとOS-単一mRNAバイオマーカーとの関連解析
rPFS(IND)に対する方法と同じ方法を使用して、単一mRNAバイオマーカー
とOSとの関連を評価した。11個のバイオマーカーは、プラセボ群中でなくAA群中の
OSと関連していた(データは非公開)。これらのなかでSF1は、rPFS(rPFS
IND:HR=0.82;p=0.0214;rPFS INV:HR=0.78;p
=0.0095)及びOS(HR=0.67[0.50、0.89];p=0.0066
)の両方と関連していた。
【0059】
バイオマーカーとOS-mRNAバイオマーカー群との関連解析
rPFS(IND)に対する方法と同じ方法を使用して、バイオマーカー群とOSとの
関連を評価した。5つのバイオマーカー群は、プラセボ群中でなくAA群中のOSと関連
していた(データは非公開)。これらのなかで、2つのバイオマーカー群、アンドロゲン
制御遺伝子(rPFS IND:HR=0.57;p=0.0115;OS:HR=0.
31;p=0.0037)、並びにCYP17A1及び補助因子(rPFS IND:H
R=0.43;p=0.0224;OS:HR=0.20;p=0.0156)は、rP
FS及びOSの両方に関連していた。
【0060】
【表3】
バイオマーカー又はバイオマーカー群は、プラセボアーム(P≧0.2)中でなくAA
群(P<0.05)中のrPFSと関連していた。バイオマーカー発現とAA群中又はプ
ラセボ群中のrPFSとの関連は、Cox回帰を用いて決定された。P値は、関連の有意
性を示す。ハザード比(HR)は、関連の大きさを示す。
【0061】
要約統計量
観察(N)の回数、発現平均偏差及び標準偏差、メジアン発現、第1四分位及び第3四
分位、並びに各バイオマーカーの最小及び最大発現レベルをはじめとする要約統計量を、
表4に示す。
【0062】
【0063】
係数は、バイオマーカー発現のCox回帰モデルと、放射線学的無増悪生存期間までの
時間に対するベースラインECOGステータスと、から導き出されたものである。表5は
、各マーカーのモデルパラメータを示す。これらの値を使用して、バイオマーカーの発現
及びベースラインECOGステータスをrPFSの相対的リスクに変換することができる
。
【0064】
【0065】
多変量AA応答バイオマーカーの最適化及び検証
罰則付き回帰を使用して多変量バイオマーカーパネルを同定し、放射線学的無増悪生存
期間を予測する分類子を定義した。特徴選択及びモデル仕様のためのElastic N
etアプローチを用いて、モデルを定義した。70%-30%スプリットを用いて、デー
タを訓練事例集合とテスト事例集合とに分類した。訓練データの内で10分割交差検証を
用いて、モデルパラメータを定義した。Elastic Netモデルは、2つのパラメ
ータ(α及びλ(lambda))を有する。αは、Elastic Netの罰則であり、モ
デルの複雑さを制限する目的で適用される罰則の具体的な組み合わせを決定する。λは、
複雑さの制限を目的に使用されたパラメータの大きさを決定する、正則化用の罰則である
。交差検証を用いてα及びλを最適化した後、この値を使用して、訓練データに対してC
ox回帰モデルを定義した。このモデルは、訓練事例集合における全ての対象に対する無
増悪生存期間の相対的リスクを予測するのに用いられる。その後、時間依存ROC解析を
用いてモデルの予知力を決定し、放射線学的増悪(radiographic progression)を有する
対象の90%に疾患の再発が観察されたタイムポイント(t=20.48か月)にて、相
対的リスクを、低リスクと高リスクとに関連する2つの群に二分した。このモデル(回帰
係数、タイムポイント及びカットオフからなり、低リスクと高リスクとを区別するモデル
)を適用することによって、単独の検定データにおいて対象の相対的リスクを予測し、予
知力を評価して、分類子の時間事象との関連を評価した。この評価を、プラセボデータに
対して繰り返すことによって、この分類子が、アビラテロンに対する反応を予測するもの
であって、治療とは独立に転帰の前兆となるものではないことを確認した。モデル構築プ
ロセスに用いられる特徴には、試料の50%超にて検出された全ての単一遺伝子マーカー
が含まれ、発現の低い遺伝子は除外された。モデルを、α=0.5かつλ=0.209に
なるように最適化した。これらのパラメータを使用して、表6に記載されているように、
最適化された生存モデルを定義した。
【0066】
【表6】
*βは、関連マーカー用に最適化された回帰係数を示す。
【0067】
表7は、これらのモデルのパフォーマンスを単独の検定データ及びプラセボ群データに
関して説明した予測的メトリクスを記載する。
【0068】
【表7】
データは、使用されたデータセット(すなわち、単独の検定セット又はプラセボデータ
)を示す。
KMは、時間tにおけるカプラン-マイヤー生存評価を示す。
AUCは、時間tにおけるROC曲線下面積を示す。
【0069】
表8は、分類子予測と放射線学的無増悪生存期間までの時間との間の関連を説明した統
計を記載する。
【0070】
【表8】
以下の態様が包含され得る。
[1] CRPCを有する患者においてAAでの治療後の生存の見込みを予測する方法であって、
(a)AAでの治療に先立って得られる前記患者の腫瘍試料由来のcDNAを遺伝子チップと接触させる工程であって、前記遺伝子チップが、少なくとも1つのmRNAバイオマーカー用プローブを含み、前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーが、ANLN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、多変量パネル群、又はこれらの任意の組み合わせを含む、工程と、
(b)前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを測定する工程と、
(c)前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの前記発現レベルを参照遺伝子の発現レベルと比較する工程であって、前記患者試料において、前記ANLN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、又はこれらの任意の組み合わせの前記発現レベルが前記参照遺伝子の前記発現レベルに対して増加したことが、AAでの治療後に、前記患者の無増悪生存期間、全生存期間、又はその両方の見込みの増加を示唆し、あるいは、前記患者試料において、前記多変量パネル群の発現レベルが前記参照遺伝子の前記発現レベルに対して減少したことが、AAでの治療後に、前記患者の無増悪生存期間の見込みの増加を示唆する、工程と、
(d)前記患者を治療上有効量のAA及びプレドニゾンで治療する工程と、
を含む、方法。
[2] CRPCを有する患者においてAAでの治療後の生存の見込みを予測する方法であって、
(a)前記患者の腫瘍試料からRNAを単離する工程と、
(b)前記RNAからcDNAを合成する工程と、
(c)前記腫瘍試料由来の少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの発現レベルを測定する工程であって、前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーが、ANLN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、多変量パネル群、又はこれらの任意の組み合わせを含み、前記発現レベルが定量的RT-PCRで測定される、工程と、
(d)前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの、参照遺伝子の発現に対する相対的な発現を決定する工程であって、前記患者試料において、前記ANLN、HSD17B10、NUSAP1、SF1、SRD5A1、UBE2C、CYP17A1及び補助因子群、アンドロゲン制御群、又はこれらの任意の組み合わせの前記発現レベルが前記参照遺伝子の前記発現レベルに対して増加したことが、AAでの治療後に、前記患者の無増悪生存期間、全生存期間、又はその両方の見込みの増加を示唆し、あるいは、前記患者試料において、前記多変量パネル群の発現レベルが前記参照遺伝子の前記発現レベルに対して減少したことが、AAでの治療後に、前記患者の無増悪生存期間の見込みの増加を示唆する、工程と、
(e)前記患者を治療上有効量のAA及びプレドニゾンで治療する工程と、
を含む、方法。
[3] 前記CYP17A1及び補助因子群が、CYB5A、CYP17A1、CYP3A5、DUSP5、HNF1A、NR0B1、及びPORを含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記アンドロゲン制御群が、AKR1C3、FKBP5、及びPCNAを含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[5] 前記多変量パネル群が、AR、CYP21A2/CYP21A1P、HLA-A、IGJ、KRT17、LCN2、及びPCNAを含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[6] 前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーの前記発現レベルが、患者母集団からの前記少なくとも1つのmRNAバイオマーカーのメジアン発現値に対して増加する、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記患者が、非転移性又は初期CRPCを有する、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。