(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】全身性強皮症治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220624BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220624BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220624BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220624BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61P17/00
A61P43/00 121
A61K45/00
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2021549013
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036156
(87)【国際公開番号】W WO2021060425
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019174734
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】深澤 毅倫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】青野 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】松戸 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由利子
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】Chin. J. Microbiol. Immunol., (2017), 37, [2], p.105-111
【文献】Arthritis Res. Ther., (2014), 16, [1], Article.R4
【文献】Arthritis Res. Ther., (2014), 16, [6], Article.4223
【文献】Front. Pharmacol., (2019.08.06), 10, Article.872
【文献】Clin. Exp. Rheumatol., (2014), 32, [Suppl.81], p.S156-S164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロダルマブを有効成分として含有する、全身性強皮症治療用の医薬組成物
であり、
ブロダルマブの1回投与量が210mgであり、1日目、1週後、2週後に皮下投与され、以降、2週間に1回皮下投与される、医薬組成物。
【請求項2】
前記全身性強皮症が、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
患者のスキンスコア(mRSS)を、投与開始後12週までに治療前より3以上低下させるための、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
患者のスキンスコア(mRSS)を、投与開始後24週までに治療前より5以上低下させるための、請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
患者のスキンスコア(mRSS)を、投与開始後52週までに治療前より7以上低下させるための、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
治療前のスキンスコア(mRSS)が20以上30未満である患者に用いるための、請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ブロダルマブ以外の第2の治療剤と組み合わせて用いるための、請求項1から
6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記第2の治療剤が、副腎皮質ステロイド、抗線維化薬、免疫抑制剤、プロトンポンプ阻害剤、プロスタサイクリン誘導体、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、エンドセリン受容体拮抗剤および2型カンナビノイド受容体拮抗剤からなる群から選ばれる少なくとも1以上である、請求項
7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてIL-17経路阻害剤を含む、全身性強皮症の治療のための医薬組成物に関する。本発明は、IL-17経路阻害剤を用いた、全身性強皮症のための治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性強皮症は、皮膚や内臓の硬化を特徴とし、慢性に経過する疾患である。全身性強皮症は、皮膚硬化が顔面を除いて四肢近位(上腕、大腿)又は体幹に及ぶ「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」(dcSSc)と、皮膚硬化が四肢遠位(前腕、下腿)や顔面に限局する「限局皮膚硬化型全身性強皮症」(lcSSc)の2型に分類される。びまん皮膚硬化型全身性強皮症患者では、発症6年以内に皮膚硬化が進行し、皮膚硬化の進行に一致して肺、消化管、腎及び心臓等の臓器病変や関節屈曲拘縮が進行する。また、重篤な皮膚硬化の70%が発症3年以内に生じると報告されている。
【0003】
全身性強皮症は発病機構が不明で、皮膚硬化に対する確立された治療法はなく、長期療養を必要とする進行性の疾患である。そのため、主な治療は、対症療法や疾患の進行を抑制する薬剤の使用が一般的である。更に、患者それぞれの疾患の進行度により病変部位(臓器)が異なるため、治療法も患者ごとの症状により選択される。各臓器に対する代表的な治療法として、副腎皮質ステロイド少量内服(皮膚硬化に対して)、シクロホスファミド(肺線維症に対して)、プロトンポンプ阻害剤(逆流性食道炎に対して)、プロスタサイクリン誘導体(血管病変に対して)、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(強皮症腎クリーゼに対して)、及びエンドセリン受容体拮抗剤(肺高血圧症に対して)等が挙げられる。皮膚硬化に対しては、副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤を使った薬物療法が一般的に行われるが、これらの薬物療法では長期投与による副作用が懸念されることから、新たな治療法の確立が期待されている。
【0004】
全身性強皮症において、皮膚線維化及び病態進展にTh17細胞及びTh17細胞より産生されたIL-17Aが関与している可能性が示唆されている。全身性強皮症患者の血中Th17細胞数及びIL-17A濃度は健康成人に比べて高く、皮膚硬化と有意な相関が認められている(非特許文献1-4)。ブレオマイシン誘発マウス全身性強皮症モデルにおいてもTh17細胞数及びIL-17A濃度の上昇と皮膚及び肺の炎症及び硬化の相関性が確認されている(非特許文献5、6)。全身性強皮症患者の病変部皮膚においてはIL-17RAのmRNAおよびタンパク質の発現量が上昇していることが知られている。(非特許文献7)
【0005】
ブロダルマブは、ヒトIL-17RAに結合し、IL-17A、IL-17F、IL-17A/Fヘテロダイマー、およびIL-17E(IL-25)の生物活性を阻止する、IgG2モノクローナル抗体である(非特許文献8-10)。日本において、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬および乾癬性紅皮症の適応症に対する治療薬として承認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Arthritis Rheum、2000年、第43巻、p2455-2463
【文献】Eur Cytokine Netw、2012年、第23巻、p128-139
【文献】Arthritis Res Ther、2013年、第15巻、R151
【文献】Arthritis Res Ther、2014年、第16巻、R4
【文献】Clin Exp Rheumatol、2016年、第34巻、Suppl 100 p14-22
【文献】Arthritis Rheum、2012年、第64巻、p3726-3735
【文献】Human Immunology、2015年、第76巻、p22-29
【文献】Immunity、2008年、第28巻、第4号、p.454-467
【文献】J Allergy Clin Immunol、2007年、第120巻、第6号、p.1324-1331
【文献】J Immunol、2005年、第175巻、第1号、p.404-412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、進行性の皮膚硬化を伴っても良い全身性強皮症の治療のために有用な新規技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[45]を提供する。
[1] IL-17経路阻害剤を有効成分として含有する、全身性強皮症治療用の医薬組成物。
[2] IL-17経路阻害剤を有効成分として含有する、進行性の皮膚硬化を伴う全身性強皮症治療用の医薬組成物。
[3] IL-17経路阻害剤が、IL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストより選ばれるいずれか1以上である、[1]または[2]の医薬組成物。
[4] IL-17経路阻害剤が、抗体または抗体断片である、[1]―[3]のいずれかの医薬組成物。
[5] 前記抗体が、抗IL-17RA抗体、抗IL-17A抗体、抗IL-17A/F抗体、抗IL-23p40サブユニット抗体および/または抗IL-23p19サブユニット抗体であり、特にブロダルマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ネタキマブ、ビメキズマブ、ウステキヌマブ、チルドラキズマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ、ブラジクマブおよびグセルクマブからなる群より選ばれるいずれか1以上である、[4]の医薬組成物。
[6] 前記抗体が、ブロダルマブである、[5]の医薬組成物。
[7] 前記全身性強皮症が、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)である、[1]-[6]のいずれかの医薬組成物。
[8] 患者のスキンスコア(mRSS)を、投与開始後12週までに治療前より3以上低下させるための、[1]-[7]の医薬組成物。
[9] 患者のスキンスコア(mRSS)を、投与開始後24週までに治療前より5以上低下させるための、[1]-[8]のいずれかの医薬組成物。
[10] 患者のスキンスコア(mRSS)を、投与開始後52週までに治療前より7以上低下させるための、[1]-[9]のいずれかの医薬組成物。
[11] 治療前のスキンスコア(mRSS)が20以上30未満である患者に用いるための、[1]-[10]のいずれかの医薬組成物。
[12] 前記IL-17経路阻害剤の1回投与用量が、70mg、140mg、210mg、または280mgである、[1]-[11]のいずれかの医薬組成物。
[13] 前記IL-17経路阻害剤の1回投与量が210mgであり、1日目、1週後、2週後に皮下投与され、以降、2週間に1回皮下投与される、[1]-[12]のいずれの医薬組成物。
[14] IL-17経路阻害剤以外の第2の治療剤と組み合わせて用いるための、[1]-[13]のいずれかの医薬組成物。
[15] 前記第2の治療剤が、副腎皮質ステロイド、抗線維化薬、免疫抑制剤、プロトンポンプ阻害剤、プロスタサイクリン誘導体、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、エンドセリン受容体拮抗剤および2型カンナビノイド受容体拮抗剤からなる群から選ばれる少なくとも1以上である、[14]の医薬組成物。
[16]IL-17経路阻害剤を有効成分として含有する、全身性強皮症治療用の医薬組成物であり、
前記全身性強皮症が、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)であり、
前記IL-17経路阻害剤がブロダルマブであり、その1回投与量が210mgであり、1日目、1週後、2週後に皮下投与され、以降、2週間に1回皮下投与される、医薬組成物。
【0010】
[17] 全身性強皮症の治療に用いるための、IL-17経路阻害剤。
[18] 進行性の皮膚硬化を伴う全身性強皮症の治療に用いるための、IL-17経路阻害剤。
[19] IL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストより選ばれるいずれか1以上である、[17]または[18]のIL-17経路阻害剤。
[20] 抗体または抗体断片である、[17]-[19]のいずれかのIL-17経路阻害剤。
[21] 抗IL-17RA抗体、抗IL-17A抗体、抗IL-17A/F、抗IL-23p40サブユニット抗体および/または抗IL-23p19サブユニット抗体またはそれらの断片であり、特にブロダルマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ネタキマブ、ビメキズマブ、ウステキヌマブ、チルドラキズマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ、ブラジクマブおよびグセルクマブからなる群より選ばれるいずれか1以上の抗体またはその断片である、[20]のIL-17経路阻害剤。
[22] ブロダルマブである、[21]のIL-17経路阻害剤。
[23] 前記全身性強皮症が、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)である、[17]-[22]のいずれかのIL-17経路阻害剤。
【0011】
[24] 全身性強皮症治療用の医薬組成物の製造のための、IL-17経路阻害剤の使用。
[25] 進行性の皮膚硬化を伴う全身性強皮症治療用の医薬組成物の製造のための、IL-17経路阻害剤の使用。
[26] IL-17経路阻害剤が、IL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストより選ばれるいずれか1以上である、[24]または[25]の使用。
[27] IL-17経路阻害剤が、抗体または抗体断片である、[24]-[26]のいずれかの使用。
[28] 前記抗体が、抗IL-17RA抗体、抗IL-17A抗体、抗IL-17A/F抗体、抗IL-23p40サブユニット抗体および/または抗IL-23p19サブユニット抗体であり、特にブロダルマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ネタキマブ、ビメキズマブ、ウステキヌマブ、チルドラキズマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ、ブラジクマブおよびグセルクマブからなる群より選ばれるいずれか1以上である、[27]の使用。
[29] 前記抗体が、ブロダルマブである、[28]の使用。
[30] 前記全身性強皮症が、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)である、[24]-[29]のいずれかの使用。
【0012】
[31] 対象にIL-17経路阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を投与する手順を含む、全身性強皮症の治療方法。
[32] 対象にIL-17経路阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を投与する手順を含む、進行性の皮膚硬化を伴う全身性強皮症の治療方法。
[33] IL-17経路阻害剤が、IL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストより選ばれるいずれか1以上である、[31]または[32]の治療方法。
[34] IL-17経路阻害剤が、抗体または抗体断片である、[31]-[33]のいずれかの治療方法。
[35] 前記抗体が、抗IL-17RA抗体、抗IL-17A抗体、抗IL-17A/F抗体、抗IL-23p40サブユニット抗体および/または抗IL-23p19サブユニット抗体またはそれらの断片であり、特にブロダルマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ネタキマブ、ビメキズマブ、ウステキヌマブ、チルドラキズマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ、ブラジクマブおよびグセルクマブからなる群より選ばれるいずれか1以上である、[34]の治療方法。
[36] 前記抗体が、ブロダルマブである、[35]の治療方法。
[37] 前記全身性強皮症が、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)である、[31]-[36]のいずれかの治療方法。
[38] 前記対象におけるスキンスコア(mRSS)が、投与開始後12週までに治療前より3以上低下する、[31]-[37]の治療方法。
[39] 前記対象におけるスキンスコア(mRSS)が、投与開始後24週までに治療前より5以上低下する、[31]-[38]のいずれかの治療方法。
[40] 前記対象におけるスキンスコア(mRSS)が、投与開始後52週までに治療前より7以上低下する、[31]-[39]のいずれかの治療方法。
[41] 前記対象の治療前のスキンスコア(mRSS)が20以上30未満である、[31]-[40]のいずれかの治療方法。
[42] 前記IL-17経路阻害剤の1回投与用量が、70mg、140mg、210mg、または280mgである、[31]-[41]のいずれかの治療方法。
[43] 前記IL-17経路阻害剤の1回投与量が210mgであり、1日目、1週後、2週後に皮下投与され、以降、2週間に1回皮下投与される、[31]-[42]のいずれかの治療方法。
[44] IL-17経路阻害剤以外の第2の治療剤を投与する手順をさらに含む、[31]-[43]のいずれかの治療方法。
[45] 前記第2の治療剤が、副腎皮質ステロイド、抗線維化薬、免疫抑制剤、プロトンポンプ阻害剤、プロスタサイクリン誘導体、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、エンドセリン受容体拮抗剤および2型カンナビノイド受容体拮抗剤からなる群から選ばれる少なくとも1以上である、[44]の治療方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、進行性の皮膚硬化を伴っても良い全身性強皮症の治療のために有効な新規技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】治療開始後の各患者のスキンスコア(mRSS:modified Rodnan total skin thickness score)の変化を示すグラフである。縦軸は、mRSSを示す(治療開始時を0とする)。横軸は、ブロダルマブの初回投与からの期間(週)を示す。
【
図2】治療開始後の各患者のmRSSの変化の平均値を示すグラフである。縦軸は、mRSSを示す(治療開始時を0とする)。横軸は、ブロダルマブの初回投与からの期間(週)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
本発明は、IL-17経路阻害剤を有効成分として含有する、進行性の皮膚硬化を伴っても良い全身性強皮症患者の治療用医薬組成物に関する。
【0017】
また、本発明には、進行性の皮膚硬化を伴っても良い全身性強皮症の患者にIL-17経路阻害剤を投与する手順を含む、全身性強皮症患者の治療方法も含まれる。
【0018】
全身性強皮症は、皮膚や内臓の硬化を特徴とし、慢性に経過する疾患である。全身性強皮症は、皮膚硬化が顔面を除いて四肢近位(上腕、大腿)又は体幹に及ぶ「びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)」と、皮膚硬化が四肢遠位(前腕、下腿)や顔面に限局する「限局皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)」の2型に分類される。
【0019】
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象となる全身性強皮症は、びまん皮膚硬化型全身性強皮症と限局皮膚硬化型全身性強皮症のどちらかに限定されるわけではないが、びまん皮膚硬化型全身性強皮症が好ましい。
【0020】
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象となる全身性強皮症患者は、皮膚硬化の症状の他に、肺、消化管、腎または心臓における臓器病変あるいは関節屈曲拘縮の症状を伴う患者であっても良い。
【0021】
全身性強皮症の皮膚硬化の重症度は、公知の方法により評価できる。例えば、modified Rodnan total skin thickness score(mRSS)は、日本皮膚科学会ガイドライン記載された、以下の方法により評価できる。
身体を17の部位(両手指、両手背、両前腕、両上腕、顔、前胸部、腹部、両大腿、両下腿、両足背)に分け、皮膚の硬化程度を各部位について0から3までの4段階で評価し(0=正常、1=軽度、2=中等度、3=高度、総計0から51までのスキンスコアとする。評価する際は、皮膚を両拇指ではさみ、皮膚の厚さと下床との可動性を観察する。皮膚が下床との可動性をまったく欠く場合を3、明瞭な皮膚硬化はないがやや厚ぼったく感じられるものを1とし、その中間を2と判定する。皮膚硬化の重症度は、日本ではmRSSの総計により、0(normal:0)、1~9(mild:1)、10~19(moderate:2)、20~29(severe:3)、30以上(very severe:4)に分類される(日本皮膚科学会雑誌、126(10)、1831-1896、2016)。mRSSの測定法はJ Rheumatol,1993;20(11):p 1892-1896とJ Rheumatol,1995;22:p1281-1285にも開示がある。
【0022】
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象となる皮膚硬化の重症度は、特に限定されないが、mRSSが10以上が好ましく、20以上がより好ましく、20以上30未満が最も好ましい。すなわち、皮膚硬化の重症度は、中等度以上が好ましく、重度以上がより好ましく、中等度から重度であることが最も好ましい。
【0023】
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象は、既存治療で効果不十分な全身性強皮症の患者であっても良い。
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象は、既存治療で効果不十分な、皮膚硬化を有する全身性強皮症の患者であっても良い。
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象は、中等症から重症の皮膚硬化を有する全身性強皮症の患者であっても良い。
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象は、発症初期の皮膚硬化を有する全身性強皮症の患者であっても良い。発症初期とは、発症後6年以内を指す。
本発明の医薬組成物又は治療方法の対象は、可逆性の皮膚硬化を有する全身性強皮症の患者であっても良い。可逆性の皮膚硬化とは、皮膚の状態が浮腫および硬化を示し、萎縮に至っていない状態を指す。
【0024】
皮膚硬化の改善は、公知の方法により確認すればよい。例えば、本発明の医薬組成物の投与後にmRSSを経時的に測定し、治療前に比してのmRSSの低下を確認することで、皮膚硬化の改善を確認することができる。
【0025】
皮膚硬化の症状の改善は、医薬組成物の投与又は治療方法の開始から特定の期間後に、mRSSが治療前に比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上低下していることをいう。mRSSは、本発明の医薬組成物の投与又は治療方法の開始から8週までに2以上、12週までに3以上、16週までに3以上、20週までに4以上、24週までに5以上、40週までに6以上、52週までに7以上低下させられ得る。
【0026】
本発明の医薬組成物及び治療方法は、皮膚硬化の症状の他に、肺、消化管、腎または心臓における臓器病変あるいは関節屈曲拘縮の症状から選ばれる少なくとも1の症状を改善又は治療することができる。また、本発明の医薬組成物及び治療方法は、全身性又は局所性の線維化に基づいた諸症状の改善又は治療をすることができる。各症状の改善は、公知の手法によって評価できる。例えば、肺における線維化による肺機能の改善は、スパイロメーターによる肺機能をスコア化することで評価できる。消化管における逆流性食道炎の症状の改善は、F-スケール問診票を用いて患者症状をスコア化することで評価できる。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「投与」とは、一回投与または複数回投与(以下、「連投」とも記載する)を意味する。
【0028】
本発明において用いられるIL-17経路阻害剤の1回あたりの投与量は、特に限定されず、各阻害剤の添付文書等を参照して臨床応用できる用量で用いればよい。具体的には、IL-17経路阻害剤がブロダルマブである場合、1回投与用量は、70mg以上であることが好ましく、140mg以上であることがより好ましく、210mgであることが最も好ましい。投与量は、前記治療剤の連投中に、適宜増加してもよいし低減してもよい。1回投与用量は、典型的には、70mg、140mg、210mg、または280mgである。
【0029】
医薬組成物の投与間隔は、特に限定されないが、例えば、1日目(以下、0週目とも記載する)、1週目及び2週目に投与し、かつ以降は2週間に1回または4週間に1回投与する。投与間隔は、適切に延長されてもよく、または短縮されてもよい。投与間隔は、1日目、1週目、2週目に投与し、以降は2週間に1回投与とすることが望ましい。
投与量及び投与間隔は、特に好ましくは、1回投与量を210mgとし、1日目、1週後、2週後、以降は2週間に1回投与とされる。
【0030】
医薬組成物の投与期間は、特に限定されないが、例えば、投与開始後8、10、12、16、20、24、36、48または52週間とでき、あるいは52週間より長く投与することもできる。投与期間は、52週間より長くすることが好ましい。投与期間中に休薬期間を含めてもよい。
【0031】
本発明におけるIL-17経路阻害剤は、IL-17RAとIL-17RAリガンド(IL-17A、IL-17F、IL-17A/F、IL-17E等)との間の相互作用を阻害し、生理活性シグナルを遮断し得る物質を広く含む。以下、IL-17RAとIL-17RAリガンドとの間の相互作用を阻害し、生理活性シグナルを遮断するものを「IL-17RAアンタゴニスト」と称する。
IL-23は、IL-17RAリガンドを産生するTh17細胞を誘導することが知られており、IL-17経路の上流に位置する(Nature Reviews Drug Discovery 2015,volume14,p11-12)。よって、本発明のIL-17経路阻害剤には、IL-23とIL-23Rとの相互作用を阻害し、生理活性シグナルを遮断し得る物質も含まれる。以下、IL-23とIL-23Rとの相互作用を阻害し、生理活性シグナルを遮断するものを「IL-23Rアンタゴニスト」と称する。
IL-17RAアンタゴニストは、例えば、IL-17RAとIL-17RAリガンドとの結合を阻害する活性を有するアンタゴニスト、IL-17RAリガンドの結合により開始されるIL-17RA活性化を阻害する活性を有するアンタゴニスト、またはIL-17RAとヘテロダイマーを形成する受容体との間の会合を阻害する活性を有するアンタゴニストであってよい。
IL-23Rアンタゴニストは、例えば、IL-23RとIL-23との結合を阻害する活性を有するアンタゴニスト、IL-23のサブユニットであるp19とp40の会合を阻害する活性を有するアンタゴニストであって良い。
【0032】
IL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストは、例えば、低分子、抗体又は該抗体断片、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。IL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストは、好ましくは抗体または抗体断片である。
【0033】
IL-17RAアンタゴニストとしての抗体の具体例は、抗IL-17RA抗体、抗IL-17A抗体、抗IL-17F抗体、抗IL-17A/F抗体、抗IL-17E抗体及びそれらの断片が挙げられる。
【0034】
IL-17RAアンタゴニストとしての低分子の具体例は、ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ阻害剤が挙げられる。ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ阻害剤としては、ビドフルディムスが挙げられる。
【0035】
IL-23Rアンタゴニストとしての抗体の具体例としては、抗IL-23p40サブユニット抗体および抗IL-23p19サブユニット抗体が挙げられる。
【0036】
抗IL-23p40サブユニット抗体の具体例には、ウステキズマブが挙げられる。抗IL-23p19サブユニット抗体の具体例には、チドラキズマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ、ブラジクマブおよびグセルクマブが挙げられる。
【0037】
IL-17経路阻害剤は、好ましくはIL-17RAアンタゴニストおよびIL-23Rアンタゴニストであり、より好ましくはIL-17RAアンタゴニストである。IL-17RAアンタゴニストは、好ましくは抗IL-17RA抗体であるブロダルマブ、抗IL-17A抗体であるネタキマブ、セクキヌマブまたはイキセキズマブ、抗IL-17A/F抗体であるビメキズマブであり、最も好ましくはブロダルマブである。
【0038】
本発明の医薬組成物又は治療方法は、第2の治療剤又は第2の治療方法と組み合わせて用いることができる。
第2の治療剤は、例えば、副腎皮質ステロイド、抗線維化薬、免疫抑制剤、プロトンポンプ阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、エンドセリン受容体拮抗剤プロスタサイクリン誘導体又は2型カンナビノイド受容体拮抗剤である。
副腎皮質ステロイドとしては、例えば、ブレドニゾロンが挙げられる。
抗線維化薬としては、例えば、ピルフェニドンおよびニンテダニブが挙げられる。
免疫抑制剤としては、例えば、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン、ミゾリビンおよびメトトレキサートが挙げられる。
プロトンポンプ阻害剤としては、例えば、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールおよびエソメプラゾールが挙げられる。
アンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、例えば、カプトプリル、エナラプリル、アラセプリル、イミダプリルおよびテモカプリルが挙げられる。
エンドセリン受容体拮抗剤としては、例えば、ボセンタン、アンブリセンタンおよびマシテンタンが挙げられる。
プロスタサイクリン誘導体としては、例えば、イロプロスト、ベラプロスト、トレプロスチニル、エポプロステノール又はクリンプロストが挙げられる。
2型カンナビノイド受容体拮抗剤としては、例えばレナバサムが挙げられる。
第2の治療方法としては、例えば、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)または光線療法が挙げられる。
本発明の医薬組成物又は治療方法では、IL-17経路阻害剤は、2種類以上が組み合わせて用いられてもよい。
本発明の医薬組成物及び治療方法において、IL-17経路阻害剤と第2の治療剤を用いる場合、患者に対して同時又は別時に投与することができる。従って、本発明の医薬組成物又は治療方法には、第2の治療剤と併用する態様も含まれる。
【0039】
本発明で用いる抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれか一つであってもよく、好ましくは単一のエピトープに結合するモノクローナル抗体である。
【0040】
抗体は、ハイブリドーマから生産されるモノクローナル抗体であってもよいし、または遺伝子組換え技術によって作製された遺伝子組換え抗体であってもよい。遺伝子組換え抗体の例は、マウス抗体、ラット抗体、ヒトキメラ抗体(以下、単に「キメラ抗体」と称する)、ヒト化抗体(ヒト型相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)移植抗体ともいう)、およびヒト抗体を含む。ヒトにおいて免疫原性を低下させるために、好ましくはキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体が使用される。
【0041】
具体的には、本発明に用いられるモノクローナル抗体としては、以下の(A)~(F)から選ばれる抗体及び該抗体断片が挙げられる。
(A)抗体の重鎖可変領域(VHと表記する)のCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体の軽鎖可変領域(VLと表記する)のCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;
(B)抗体のVHが配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体のVLが配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;
(C)抗体の重鎖(H鎖)が配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のL鎖が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;
(D)前記(A)~(C)から選ばれるいずれか1の抗体と競合して、IL-17RAに結合する抗体;
(E)前記(A)~(C)から選ばれるいずれか1の抗体が結合するIL-17RAに存在するエピトープに結合する抗体;及び
(F)前記(A)~(C)から選ばれるいずれか1の抗体が有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、該抗体と同等の結合特異性並びに結合活性を有する抗体。
【0042】
本発明においては、抗体のVHのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体のVLのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体、または抗体のVHが配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体のVLが配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体の一実施形態は、抗ヒトIL-17RAヒトモノクローナル抗体AMH14/AML14(特許文献1)および遺伝子組換え抗ヒトIL-17RAヒト抗体ブロダルマブである。
【0043】
本発明において、「モノクローナル抗体」とは、単一クローンの抗体産生細胞により分泌される抗体を指し、ただ1つのエピトープ(抗原決定基)を認識し、かつモノクローナル抗体を構成するアミノ酸配列(一次構造)が均一である抗体をいう。
【0044】
「エピトープ」とは、モノクローナル抗体が結合のために認識する、単一のアミノ酸配列;アミノ酸配列からなる立体構造;糖鎖、糖脂質、多糖脂質、アミノ基、カルボキシル基、リン酸および硫酸等の修飾残基が結合したアミノ酸配列;および該修飾残基が結合したアミノ酸配列からなる立体構造をいう。「立体構造」とは、天然に存在するタンパク質が有する立体構造であり、細胞内または細胞膜上に発現されているタンパク質で構成される立体構造をいう。
【0045】
本発明において抗体分子はイムノグロブリン(以下、Igと表記する)とも称される。ヒト抗体は、分子構造間の差異に応じて、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびIgMのアイソタイプに分類される。アミノ酸配列の相同性が比較的高いIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を総称してIgGとも称する。
本発明に用いられる抗体クラスとしては、IgGクラスが好ましく、IgG1、IgG2、IgG4及び当該アイソタイプ抗体のFc領域に1つ又は2つ以上のアミノ酸残基置換が加えられたFc改変体から選ばれるIgGクラスがより好ましい。
【0046】
本発明において抗体分子は重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)と呼ばれるポリペプチドより構成される。
【0047】
さらに、H鎖はN末端側よりVHおよびH鎖定常領域(CHとも表記される)により構成され、L鎖はN末端側よりVLおよびL鎖定常領域(CLとも表記される)によりそれぞれ構成される。
【0048】
「キメラ抗体」は、ヒト以外の動物由来の抗体のVHおよびVLと、ヒト抗体のCHおよびCLとから構成される抗体を指す。可変領域が由来する動物の種類は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等のハイブリドーマの作製に使用しうる動物であれば特に限定されない。
【0049】
「ヒト化抗体」は、非ヒト動物抗体由来のVHおよびVLのCDRを、ヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植することにより得られる抗体(ヒト型CDR移植抗体)である。
【0050】
「ヒト抗体」は、ヒト体内に天然に存在し得る抗体又はヒト遺伝子によってコードされるアミノ酸配列からなる抗体を意味する。ヒト抗体は、遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な手法に基づき作製される、ヒト抗体ファージライブラリーまたはヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体も含む。
【0051】
本発明においては、抗体断片のタイプは特に限定されず、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、ダイアボディ、dsFv、CDRを含有するペプチド等が挙げられる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、有効成分としてのIL-17経路阻害剤のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合され、かつ製剤学の技術分野において周知の任意の方法により製造された医薬製剤として提供するのが好ましい。医薬製剤の具体例は、有効成分として140mg/mLの遺伝子組換え抗ヒトIL-17RAヒト抗体ブロダルマブを含み、かつ添加剤として10mmol/LのL-グルタミン酸、3%(w/v)のL-プロリン、および0.010%(w/v)のポリソルベート20等を用いて調剤される、医薬製剤等を包含する。また、医薬製剤は、140mg/mLの遺伝子組換え抗ヒトIL-17RAヒト抗体ブロダルマブを含み、さらに添加剤として30mmol/LのL-グルタミン酸、2.4%(w/v)のL-プロリン、および0.01%(w/v)のポリソルベート20を含む、pH4.8の医薬製剤も包含する。医薬製剤は、例えば、国際公開第2011/088120号に記載された方法により生産され得る。
【0053】
本発明の医薬組成物又は治療方法におけるIL-17経路阻害剤の投与経路は、治療に際して最も効果的な経路とされるのが好ましい。投与経路の具体例は、経口投与、または、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内若しくは静脈内等の非経口投与を含み、皮下または静脈内投与が好ましく、皮下投与がより好ましい。投与形態の例は、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等を含み、かつ注射剤が好ましい。
【0054】
本発明の治療剤の投与装置は、治療の間に適切に選択され得る。投与装置としては、プレフィルドシリンジおよび自動注射器が例示されるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0055】
[試験例1:組換え抗ヒトIL-17RAヒト抗体ブロダルマブの全身性強皮症患者を対象とした第I相臨床試験]
(1)試験概要
組換え抗ヒトIL-17RAヒト抗体ブロダルマブの、中等度~重度の皮膚硬化を有する全身性強皮症患者を対象とした第I相臨床試験(以下、単に「臨床試験」とも称する)の概要を表1に提示する。臨床試験の被験者として、表2に示した条件を満たす全身性強皮症患者を選択し、ブロダルマブを投与した際の安全性および有効性等を評価した。各被験者には、210mgのブロダルマブを1日目、1週目、および2週目、そして以降は50週目まで2週間に1回皮下投与した。
【0056】
ブロダルマブは、特許文献1に記載の抗体可変領域アミノ酸配列を有する、CHO細胞由来の組換えヒト抗体として、定法に従って作製された。
【0057】
【0058】
【0059】
(2)試験結果
臨床試験に参加した被験者について、皮膚硬化の程度を示すスキンスコア(mRSS)をブロダルマブの初回投与から経時的に測定した。得られた結果を
図1及び
図2に示す。mRSSは、全身17か所の皮膚を医師が両拇指でつまむことにより、それぞれの部位について皮膚硬化の程度を0~3の4段階で評価(0=正常、1=軽度、2=中等度、3=高度、総計は0~51)された。mRSSによる皮膚の重症度は、総計が0=normal、1~9=mild、10~19=moderate、20~29=severe、30以上=very severeと分類された。
【0060】
臨床試験に参加した被験者の情報を表3に提示する。表に示されるように、中等度~重度の皮膚硬化を有する全身性強皮症患者8例のうち7例が、重度(mRSS 20~29)の皮膚硬化であった。
【0061】
【0062】
図1に示すように、中等度~重度の皮膚硬化を有する全身性強皮症患者8例のすべてで、投与開始後12週時点のmRSSが、ベースライン(治療開始時のmRSS)から3以上低下した。同様に、投与開始後24週時点ではmRSSがベースラインから5以上低下し、投与開始後52週時点ではmRSSがベースラインから7以上低下した。ブロダルマブによる治療によって、中等度~重度の皮膚硬化を有する全身性強皮症患者において、顕著なスキンスコアの低下が治療開始後12週、24週あるいは52週という早い段階で得られることが示された。
【0063】
全身性強皮症における皮膚硬化に従来適用されている副腎皮質ステロイドによる治療(デキサメタゾン静注パルス療法)では、mRSSのベースラインから4.5の低下(平均値)を得るために6か月の期間を要するとされている(Rhcumatol lnt,1994, 14, 91-94)。また、免疫抑制剤であるシクロホスファミドによる従来治療においても、治療開始12か月後におけるmRSSのベースラインからの低下は3.6にとどまり(N Engl J Med, 2006, 354, 2655-66)、同じく免疫抑制剤であるアザチオプリンによる従来治療では、治療開始18か月後においても皮膚硬化の改善がみられないことが報告されている(Cin Rhcumatol, 2006, 25, 205-212)。
一方、ブロダルマブによる治療では、重度の皮膚硬化を有する7名の患者を含む、中等度~重度の皮膚硬化を有する全身性強皮症患者のすべてにおいて、治療開始後12週、24週あるいは52週でmRSSの顕著な低下を達成できた。この結果は、ブロダルマブが、中等度~重度の皮膚硬化を伴う全身性強皮症に適用されて、従来の薬剤に比してきわめて早期の段階で治療効果を奏し得るものであることを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号1:ブロダルマブ_HCDR1のアミノ酸配列
配列番号2:ブロダルマブ_HCDR2のアミノ酸配列
配列番号3:ブロダルマブ_HCDR3のアミノ酸配列
配列番号4:ブロダルマブ_LCDR1のアミノ酸配列
配列番号5:ブロダルマブ_LCDR2のアミノ酸配列
配列番号6:ブロダルマブ_LCDR3のアミノ酸配列
配列番号7:ブロダルマブ_VHのアミノ酸配列
配列番号8:ブロダルマブ_VLのアミノ酸配列
配列番号9:ブロダルマブ_H鎖のアミノ酸配列
配列番号10:ブロダルマブ_L鎖のアミノ酸配列
【配列表】