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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】熱物性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20220624BHJP
   G01K 11/12 20210101ALI20220624BHJP
【FI】
G01N25/18 H
G01N25/18 E
G01K11/12 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018025000
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019138869
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000192383
【氏名又は名称】アドバンス理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】中村 芳明
(72)【発明者】
【氏名】島田 賢次
(72)【発明者】
【氏名】池内 賢朗
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-300086(JP,A)
【文献】特開2000-346818(JP,A)
【文献】米国特許第04875175(US,A)
【文献】御手洗 光裕他,2ω法に基づいた薄型板材料に適用可能な熱伝導率測定法の開発,第64回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],公益社団法人応用物理学会,2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
G01K 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が未知である薄板上に、熱伝導率が未知である第2薄膜と、第1薄膜と、を順に積層して形成された試料に対して、
(a)前記第1薄膜の表面に対する周期的な加熱による前記第1薄膜の表面上の温度応答を測定することにより、前記第1薄膜の表面上の温度変化の振幅A及び位相差θを求める工程と、
(b)前記第1薄膜の熱伝導率λ,体積比熱容量C及び膜厚d、前記第2薄膜の熱伝導率λ,体積比熱容量C及び膜厚d、並びに、前記薄板の熱伝導率λ,体積比熱容量C及び膜厚dを含み、前記第1薄膜の表面上の温度変化の時間依存性を示す第1関数を導出する工程と、
(c)前記振幅A及び前記位相差θを含む前記第1薄膜の表面上の温度変化の時間依存性を示す第2関数と、前記第1関数と、に基づいて、前記薄板の熱伝導率λと、前記第2薄膜の熱伝導率λと、を求める工程と、を含み、
前記薄板は、前記第2薄膜に面する面と、前記第2薄膜に面する面の反対の面である裏面を有し、
前記第1関数は、前記第1薄膜の加熱に伴う熱流の少なくとも一部が前記第1薄膜から前記薄板の前記裏面方向へと流れ、前記裏面で垂直に反射し前記第1薄膜方向へ流れる一次元伝熱モデルを用いて導出される、ことを特徴とする熱物性測定方法。
【請求項2】
前記工程(a)における前記第1薄膜の温度応答は、複数の周波数ωの電気的又は光学的な周期的な加熱による前記第1薄膜の表面上の温度変化を、サーモリフレクタンス法により測定することを特徴とする請求項1に記載の熱物性測定方法。
【請求項3】
前記第1薄膜の表面に対する周期的な加熱は、前記薄板の前記裏面側に断熱層を形成して行われる、請求項1または2記載の熱物性測定方法。
【請求項4】
前記第1関数は、下記(式3)、(式4)、(式5)で表され、
前記第2関数は、下記(式7)で表されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の熱物性測定方法。
【数1】
【数2】
【数3】
ただし、m=1(第1薄膜)、m=2(第2薄膜)、m=3(薄板)であり、前記第1
薄膜と前記第2薄膜の間の界面熱抵抗及び前記第2薄膜と前記薄板の間の界面熱抵抗を0[m ・K・W -1 ]とする。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板及び薄板上の薄膜の厚さ方向の熱物性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の厚さ方向における熱伝導率(熱拡散率)の測定方法として、定常法(JIS A 1412)やフラッシュ法(JIS R 1611)が知られている。また、薄膜の厚さ方向における物性の測定方法として、特許文献1に開示された、2ω法を用いた測定方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-300086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高熱伝導率を有する薄板(例えば厚さ200μmのシリコンウエハ)の厚さ方向の熱伝導率を評価する方法が求められている。しかし、定常法やフラッシュ法は、測定原理及び測定機器の構成上、高熱伝導率を有する薄板の厚さ方向の熱伝導率を測定することが困難である。
【0005】
特許文献1の測定方法は、厚さが半無限として仮定された基板上に形成された薄膜の熱物性を測定することを目的としている。すなわち、特許文献1の測定方法は、基板の裏面まで熱が到達しないことを条件とした伝熱モデルである。このため、特許文献1の測定方法は、上述した厚さが有限である薄板の熱伝導率の測定には適用できない。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、薄板の厚さ方向の熱物性値を精度よく求めることができる熱物性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る熱物性測定方法は、上述した課題を解決するために、熱伝導率が未知である薄板上に、熱伝導率が未知である第2薄膜と、第1薄膜と、を順に積層して形成された試料に対して、(a)前記第1薄膜の表面に対する周期的な加熱による前記第1薄膜の表面上の温度応答を測定することにより、前記第1薄膜の表面上の温度変化の振幅A及び位相差θを求める工程と、(b)前記第1薄膜の熱伝導率λ,体積比熱容量C及び膜厚d、前記第2薄膜の熱伝導率λ,体積比熱容量C及び膜厚d、並びに、前記薄板の熱伝導率λ,体積比熱容量C及び膜厚dを含み、前記第1薄膜の表面上の温度変化の時間依存性を示す第1関数を導出する工程と、(c)前記振幅A及び前記位相差θを含む前記第1薄膜の表面上の温度変化の時間依存性を示す第2関数と、前記第1関数と、に基づいて、前記薄板の熱伝導率λと、前記第2薄膜の熱伝導率λと、を求める工程と、を含み、前記薄板は、前記第2薄膜に面する面と、前記第2薄膜に面する面の反対の面である裏面を有し、前記第1関数は、前記第1薄膜の加熱に伴う熱流の少なくとも一部が前記第1薄膜から前記薄板の前記裏面方向へと流れ、前記裏面で垂直に反射し前記第1薄膜方向へ流れる一次元伝熱モデルを用いて導出される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薄板の厚さ方向の熱物性値を精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る熱物性測定方法を実施するための熱物性測定装置を示す構成図。
図2】試料を説明するための平面図。
図3図2のIII-III線に沿う断面図。
図4】XYステージに設置された試料の平面図。
図5図4のV-V線に沿う断面図。
図6図4のVI-VI線に沿う断面図。
図7】(A)は本発明の実施形態に係る熱物性測定方法を適用した場合の測定結果を示すグラフ、(B)は比較例としての熱物性測定方法を適用した場合の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る熱物性測定方法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。本実施形態においては、本発明に係る熱物性測定方法を、図1に示す熱物性測定装置1で測定する方法に適用した例を説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る熱物性測定方法を実施するための熱物性測定装置1を示す構成図である。
【0012】
熱物性測定装置1は、ケース2で区画された測定室3を有している。測定室3は、内部の空気を抜くことにより真空状態になっている。測定室3の内部底面には、XYステージ23が設けられている。XYステージ23は、例えば銅からなる。XYステージ23は、治具23aを有している。治具23aは、銅からなり、試料40(薄板裏面41a)との断熱層3aを形成する。
【0013】
XYステージ23は、平坦な表面に試料40を保持する。このXYステージ23は、試料40を移動する移動手段の一例である。XYステージ23は、測定室3の外部に配置された移動制御装置25に接続されている。移動制御装置25を駆動すると、XYステージ23は、試料40を保持した状態で水平面内において移動する。
【0014】
測定室3の外部には、交流電源21が設けられている。交流電源21は、プローブ24、24に接続されている。プローブ24、24と試料40とが接触した後に交流電源21を起動すると、試料40に周波数(角周波数)ωの交流電圧が印加される。
【0015】
測定室3の内部上方には、レーザ照射装置12及び光検出装置13が配置されている。このレーザ照射装置12は、照射手段の一例である。レーザ照射装置12は、レーザ光源4と、集光レンズ5と、プリズムと、ロックインアンプと、パワーアンプと、を有している。レーザ光源4を起動して発光させると、そのレーザ光はプリズムにより照射光と参照光に分けられる。照射光が集光レンズ5で集光された後、レーザ光はXYステージ23の表面の所定位置にスポット状に照射される。照射後の反射光と参照光はプリズムを介して別々の検知器により検知され、検知された信号の差はロックインアンプの信号入力端子に送られる。
【0016】
光検出装置13は、光検出手段の一例である。光検出装置13は、集光レンズ6と、光学フィルタ7と、受光装置8と、を有している。反射光は、集光レンズ6で集光され、光学フィルタ7で光学的なノイズが除去された後に、受光装置8に受光される。受光装置8は、PINフォトダイオード及びI-V増幅器を備えている。反射光は、このPINフォトダイオードで電流に変換され、I-V増幅器で電圧変換された後に増幅され、反射光の強度に応じた大きさの電圧が生成される。受光装置8は、測定室3の外部に配置された測定装置22に接続されている。反射光の強度に応じた電圧は、測定装置22に出力される。
【0017】
測定装置22は測定手段の一例である。測定装置22は、同期検波器33と、信号発生器34と、演算装置35と、を有している。反射光の強度に応じた大きさの電圧は、同期検波器33に出力される。同期検波器33には、信号発生器34から周波数2ωの正弦波交流信号が出力されている。この交流信号が反射光の強度に応じた大きさの電圧と乗算されることにより、反射光の強度に応じた大きさの電圧から、周波数2ωの成分が抽出され、演算装置35に出力される。演算装置35は、入力された電圧から、その電圧に応じた金属薄膜43の温度を求める。
【0018】
図2は、試料40を説明するための平面図である。
図3は、図2のIII-III線に沿う断面図である。
【0019】
試料40は、薄板41と、絶縁薄膜42と、金属薄膜43と、を有している。試料40は、熱伝導率が未知である薄板41上に、熱伝導率が未知である第2薄膜としての絶縁薄膜42と、第1薄膜としての金属薄膜43と、を順に積層して形成されている。
薄板41は、例えば、厚さ200μm以下のシリコン製基板(シリコンウエハ)、厚さ10~100μmのSUS(Steel Use Stainless)製(及びそれに相当する熱拡散率を有する材料)の薄板、厚さ20μm程度のカーボングラファイト製のシート等である。絶縁薄膜42は、薄板41の表面に形成され、薄板41へ電気を流さないために絶縁性を有している。また、絶縁薄膜42は、計測感度を向上するために熱伝導率の低い材料からなる。絶縁薄膜42は、例えば厚さ0.6μmのポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)からなる。金属薄膜43は、絶縁薄膜42の表面に形成され、交流電圧の印加及び温度変化の検出に用いられる。金属薄膜43は、例えば長さ4mm、幅2mm、厚さ0.2μmの金からなる。
【0020】
かかる構成の熱物性測定装置1を用いて、薄板の熱伝導率を求める方法(熱物性測定方法)について、以下で説明する。
薄板の熱伝導率を求める方法は、(a)金属薄膜43の表面に対する周期的な加熱による金属薄膜43の表面上の温度応答を測定することにより、金属薄膜43の表面上の温度変化の振幅A及び位相差θを求める工程と、(b)金属薄膜43の熱伝導率λ1,体積比熱容量C1及び膜厚d1、絶縁薄膜42の熱伝導率λ2,体積比熱容量C2及び膜厚d2、並びに、薄板41の熱伝導率λ3,体積比熱容量C3及び膜厚d3を含み、薄板41が有限であることを考慮した金属薄膜43の表面上の温度変化の時間依存性を示す第1関数を導出する工程と、(c)振幅A及び位相差θを含む金属薄膜43の表面上の温度変化の時間依存性を示す第2関数と、第1関数と、に基づいて、薄板41の熱伝導率λ3と、絶縁薄膜42の熱伝導率λ2とを求める工程と、を含む。
以下、上記工程(a)から工程(c)を具体的に説明する。
【0021】
試料40を測定室3内に入れ、薄板41を下側、金属薄膜43を上側にしてXYステージ23の表面に置く。薄板41は治具23a上に置かれるため、薄板41の裏面41a側の一部は治具23aと接し、他部は断熱層3aと接している。断熱層3aは、金属薄膜43の照射光が照射される範囲に対応する位置に設けられる。断熱層3aは、例えばケース2内(測定室3内)を真空状態にすることにより形成される。
【0022】
ここで、図4は、XYステージ23に設置された試料40の平面図である。図5は、図4のV-V線に沿う断面図である。次に、金属薄膜43の長さ方向両端部に、プローブ24、24が立てられ、プローブ24、24が金属薄膜43の表面に接触する。交流電源21が起動され、金属薄膜43に周波数ωの交流電圧が印加される。
【0023】
ここで、図6は、図4のVI-VI線に沿う断面図である。金属薄膜43の電気抵抗により、金属薄膜43にジュール熱が発生する。このジュール熱は交流電圧により交流的に発生する。ジュール熱により、金属薄膜43は昇温するが、熱流70は金属薄膜43から絶縁薄膜42を通って薄板41へと伝わる。このため、金属薄膜43の温度変化は、薄板41と絶縁薄膜42の熱伝導状態に依存する。尚、断熱層3aに面している薄板41の裏面41aに到達した熱流70は、薄板41の裏面41aで反射する。
【0024】
次に、レーザ光源4を発光させ、XYステージ23の表面(金属薄膜43)に向けてレーザ光80を照射する。このときレーザ光80の金属薄膜43表面におけるスポット径は、金属薄膜43の幅の十分の一以下(例えば100μm)としている。XYステージ23を水平移動させ、金属薄膜43のほぼ中心となる所定位置にレーザ光80を照射する。
【0025】
こうして照射されたレーザ光80は、金属薄膜43で反射されるが、金属薄膜43の反射率は、金属薄膜43の温度により変化する。その反射率の変化により、反射光の強度も変化する。反射光は、測定室3の内部上方に配置された光検出装置13方向に反射されるようになっている。光検出装置13は、受信した反射光の温度に応じて変化する強度に応じた大きさの電圧を生成する。
【0026】
金属薄膜43は、図示しない冷却器により、温度が所定温度以上には上昇せずにほぼ一定の温度で安定し、熱系が定常状態になるようになっている。熱系が定常状態になり、金属薄膜43の温度がほぼ一定値で安定したら、演算装置35は金属薄膜43の温度を求める。
【0027】
演算装置35は、得られた金属薄膜43の温度に基づいて、試料40について熱伝導状態を解析する。この試料40においては金属薄膜43の幅は広く、しかも、レーザ光80が照射されて温度変化が測定される箇所は、金属薄膜43のごく狭い領域であって、しかも金属薄膜43のほぼ中心の領域である。このため、この測定箇所においては、ジュール熱の熱流70は金属薄膜43から薄板41の裏面41a方向へと鉛直方向に流れる(また裏面41aで垂直に反射し金属薄膜43方向へ流れる)と考えてよく、熱流70は一次元的に流れるとすることができる。このため、試料40の熱伝導状態の解析には、一次元伝熱モデルを用いることができる。
【0028】
各層のパラメータを以下の通りとする。ここでは、金属薄膜43と絶縁薄膜42の界面熱抵抗及び絶縁薄膜42と薄板41の間の界面熱抵抗を0[m・K・W-1]としている。尚、λ及びλが未知となる。
【0029】
【表1】
【0030】
周期的な加熱は、ここでは、金属薄膜43上に周波数f[Hz」で電圧を強度変調することにより、一様に通電加熱を行う場合を想定して説明する。すなわち、複数の周波数ωの電気的又は光学的な周期的な加熱による金属薄膜43の表面上の温度変化を、サーモリフレクタンス法により測定する場合を想定して説明する。
金属薄膜43に加えられる単位時間当たりの熱量Q(t)[W]は、周波数2f[Hz]に依存するので、角周波数2ω[s-1]で加えられる単位時間当たりの熱量Q(t)[W]は次式の通りとなる。
【0031】
【数1】
【0032】
尚、qは、0以外の定数であり、ω=2πfとする。
【0033】
各層41~43の周波数2f[Hz]における熱拡散長の逆数をk[m-1]とすると、kは次式で表される。
【数2】
n=1(金属薄膜)、n=2(絶縁薄膜)、n=3(薄板)
【0034】
ここで、薄板が有限であることを考慮した金属薄膜43の表面上の温度変化の時間依存性を示す第1関数としての、1次元伝熱モデルによる表面上の温度変化の時間依存性T(0,t)
[K]は次式となる。
【数3】
【数4】
【数5】
m=1(金属薄膜)、m=2(絶縁薄膜)、m=3(薄板)
【0035】
上記(式3)を簡略化すると下記(式6)となる。
【数6】
尚、x及びy中には、未知数であるλ及びλが含まれている。
【0036】
一方、表面上の温度は、振幅A[K]及び位相差θ[deg]を用いると、振幅A及び位相差θを含む金属薄膜43の表面上の温度変化の時間依存性T(0,t)[K]を示す第2関数としての式である以下の式になる。
【数7】
【0037】
(式7)と(式3)とを比較すると、以下の(式8)及び(式9)の関係が成立する。
【数8】
【数9】
【0038】
そして、既知の量λ,C,C,C,d,d,dを(式3)に代入した値でフィッティングすることにより、λ,λを求めることができる。
具体的には、複数の周波数fに対して、それぞれ、金属薄膜43の表面上の温度応答を測定することにより、金属薄膜43の表面上の温度変化の振幅A及び位相差θを測定し、各周波数において振幅A及び位相差θをそれぞれ求める(工程(a))。そして、第1関数及び第2関数に基づいて、薄板41の熱伝導率λと、絶縁薄膜42の熱伝導率λと、を求める(工程(b)、工程(c))。また、フィッティングは、求められた振幅Aの値が、(式8)の関係と近似又は最小となるように、補正又は近似させることにより行う。更に、振幅Aに加えて、位相差θの値が、(式9)の関係と近似又は最小となるように、フィッティングを行う。より、精度を高めることができるからである。
尚、近似や最小とする方法については、最小二乗法等の公知の方法を用いることができる。
【0039】
上記のようにフィッティングすることにより、薄板41の熱伝導率λを極めて誤差を少なくして測定することができる。
【0040】
本実施形態における熱物性測定方法は、例えば厚さ10から100μmのSUS又はSUSに相当する熱拡散率(4×10-6[m2・s-1])を有する材料からなる高熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率の評価に好適に用いられる。また、本実施形態における熱物性測定方法は、カーボングラファイトシートの厚さ方向の熱伝導率の評価にも好適に用いられる。カーボングラファイトシートにおいては、面内方向の熱拡散率が、厚さ方向の熱拡散率に比べて100倍大きいため、面内方向の熱拡散率が注目されている。その一方で、20μm程度の厚さ方向に関する熱拡散率を求めるための測定方法がない。このため、カーボングラファイトシートをデバイスの放熱に用いる際の放熱設計において、本実施形態における熱物性測定方法を用いて求められたシートの厚さ方向の実測データを用いることは、有用である。
【0041】
上述した装置は、本発明の一実施の形態に過ぎず、周期的に加熱して温度応答を測定できるものであれば、測定装置及び測定方法については特に制限されるものではないが、サーモリフレクタンス法によることが好ましい。
また、本実施形態では、試料40表面におけるレーザ光80のスポット径を100μmとしているが、本発明のレーザ光のスポット径はこれに限られるものではなく、金属薄膜43の幅の十分の一以下になっていればよい。
【0042】
また、XYステージ23を設けて、試料40をレーザ照射装置12や光検出装置13に対して移動させることにより、試料40表面でレーザ光80を照射する位置を変えているが、本発明はこれに限られるものではなく、試料40は動かさないままでレーザ照射装置12や光検出装置13を移動させることで、レーザ光80を照射する位置を変えてもよい。
【実施例
【0043】
次に、本発明の一実施例として、上記発明の実施の形態で説明した装置を利用して以下の表2で示す条件で測定を行った結果を説明する。
尚、薄板の寸法は、長さ7mm、幅5mmであり、金属薄膜は絶縁薄膜上の中央部に長さ4mm×幅2mmで成膜した。
【0044】
【表2】
【0045】
この金属薄膜上に周波数fで電圧を強度変調することにより一様に周期的に通電加熱を行って、温度応答を測定することにより、その振幅A及び位相差θを測定した。
【0046】
図7(A)は測定結果を本発明の実施形態に係る熱物性測定方法の伝熱モデルでフィッティングを適用した場合を示すグラフであり、(B)は測定結果を比較例としての伝熱モデルでフィッティングを適用した場合の測定結果を示すグラフである。比較例としての伝熱モデルは、特許文献1に開示された熱物性測定方法を用いて行った。
【0047】
ここでは、測定結果から各周波数における振幅A及び位相差θを算出し、図7(A)、(B)においては、振幅Aを「○」、位相差θを「△」でプロットした。左側の縦軸は(2ω)-1/2=0.0154で規格化した振幅Aとし、右側の縦軸は位相差θとした。尚、図7の横軸は、(2ω)-1/2[s1/2]である。
【0048】
各プロットされた値を、表2の各パラメータを用いて上記実施形態で説明した1次元伝熱モデルに基づいてフィッティングを行った。図7(A)、(B)においては、振幅A(○)をフィッティングした結果を実線で示し、位相差θ(△)をフィッティングした結果を点線で示した。
【0049】
比較例としての熱物性測定方法を用いた場合、200から10000Hzの範囲(ω-1/2>0.012)においては、図7(B)に示す測定結果は、理論的に成立しないものであった。低周波数であるため熱流が薄板の裏面まで到達し、薄板が半無限として仮定されている比較例としての伝熱モデルは、実施例で用いた厚さを無視できない(厚さが有限の)薄板には適用できないことがわかった。
【0050】
これに対し、本発明に係る熱物性測定方法を用いた場合、200から10000Hzの範囲(ω-1/2>0.012)においては、図7(A)に示す測定結果は、計算値と一致した。試料を再度セットし、複数回測定を行い、得られた測定結果に基づいてフィッティングした。その結果、薄板の熱伝導率λSiが147[W・m-1・K-1]、絶縁薄膜の熱伝導率λPMMAが0.17[W・m-1・K-1]となり、λSiは理論値である148[W・m-1・K-1]と10%以内で一致した。
【符号の説明】
【0051】
1 熱物性測定装置
2 ケース
3 測定室
3a 断熱層
4 レーザ光源
5、6 集光レンズ
7 光学フィルタ
8 受光装置
12 レーザ照射装置
13 光検出装置
21 交流電源
22 測定装置
23 XYステージ
23a 治具
24、24 プローブ
25 移動制御装置
33 同期検波器
34 信号発生器
35 演算装置
40 試料
41 薄板
42 絶縁薄膜
43 金属薄膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7