(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】触媒担体用炭素材料、固体高分子形燃料電池用触媒、固体高分子形燃料電池用触媒層、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220624BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20220624BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20220624BHJP
C01B 32/336 20170101ALI20220624BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220624BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 Z
B01J27/24 M
B01J35/10 301G
C01B32/336
H01M8/10
(21)【出願番号】P 2016099556
(22)【出願日】2016-05-18
【審査請求日】2019-02-20
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】田所 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】西本 工
(72)【発明者】
【氏名】水内 和彦
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】市川 篤
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141810(WO,A1)
【文献】特表2011-514304(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185498(WO,A1)
【文献】特開2006-209999(JP,A)
【文献】中野重和,活性炭に対するポリエチレングリコールの分子量の吸着特性におよぼす影響,日本化学会誌,日本,1976年 6月,1976巻6号,p.1013-1017
【文献】浦野紘平,活性炭に対する分子量の異なるポリエチレングリコールの水中吸着特性,日本化学会誌,日本,1975年 8月,1975巻8号,p.1444-1445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池用の触媒成分を担持可能な触媒担体用炭素材料であって、
質量平均分子量が
4000であるポリエチレングリコール樹脂を用いたポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験により算出される樹脂吸着率Wが30~100質量%であり、
窒素吸着等温線をBJH解析することで得られる直径3~10nmのメソ孔の比容積V
3-10(mL/g)が1.0~2.0mL/gであり、
BET法で評価されるBET比表面積S
BET(m
2/g)が500~1500m
2/gであり、
ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅△Gが30~70cm
-1であることを特徴とする触媒担体用炭素材料。
【請求項2】
酸素含有率O
massが0.2~1.0質量%であることを特徴とする、請求項1記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項3】
窒素含有率N
massが0.25~1.5質量%であることを特徴とする、請求項1または2記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項4】
酸素含有率O
massが0.2~1.0質量%であり、かつ、窒素含有率N
massが0.25~1.5質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項5】
前記樹脂吸着率Wが40~90質量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒担体用炭素材料と、
前記触媒担体用炭素材料に担持された触媒成分と、を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項7】
触媒担持率が10~80質量%であることを特徴とする、請求項6記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項8】
請求項6または7に記載の固体高分子形燃料電池用触媒を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項9】
請求項8記載の固体高分子形燃料電池用触媒層を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
【請求項10】
前記固体高分子形燃料電池は、前記固体高分子形燃料電池用触媒層をカソード側の触媒層として含むことを特徴とする、請求項9記載の固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体用炭素材料、固体高分子形燃料電池用触媒、固体高分子形燃料電池用触媒層、及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一種である固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に配置される一対の触媒層と、各触媒層の外側に配置されるガス拡散層と、各ガス拡散層の外側に配置されるセパレータとを備える。一対の触媒層のうち、一方の触媒層は固体高分子形燃料電池のアノードとなり、他方の触媒層は固体高分子形燃料電池のカソードとなる。なお、通常の固体高分子形燃料電池では、所望の出力を得るために、上記構成要素を有する単位セルが複数個スタックされている。
【0003】
アノード側のセパレータには、水素等の還元性ガスが導入される。還元性ガスは、アノード側のガス拡散層を経由し、アノードに導入される。アノードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質材料(アイオノマー)とを含む。触媒担体は、多孔質炭素材料で構成されることが多い。触媒成分上では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H2→2H++2e- (E0=0V)
【0004】
この酸化反応で生じたプロトンは、アノード内の電解質材料、及び固体高分子電解質膜を通ってカソードに導入される。また、電子は、触媒担体、ガス拡散層、及びセパレータを通って外部回路に導入される。この電子は、外部回路で仕事をした後、カソード側のセパレータに導入される。そして、この電子は、カソード側のセパレータ、カソード側のガス拡散層を通ってカソードに導入される。
【0005】
固体高分子形電解質膜は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。固体高分子電解質膜は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードに導入する。
【0006】
カソード側のセパレータには、酸素ガスあるいは空気等の酸化性ガスが導入される。酸化性ガスは、カソード側のガス拡散層を経由し、カソードに導入される。カソードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質材料(アイオノマー)とを含む。触媒担体は、多孔質炭素材料で構成されることが多い。触媒成分上では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。
O2+4H++4e-→2H2O (E0=1.23V)
【0007】
還元反応で生じた水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池の外部に排出される。このように、固体高分子形燃料電池では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0008】
ところで、近年、触媒成分の利用率、すなわち触媒利用率のさらなる向上が強く求められていた。触媒利用率が高いほど、固体高分子形燃料電池に必要な触媒成分の量を低減することができ、ひいては、固体高分子形燃料電池の低コスト化、高性能化を図ることができるからである。従来では、例えば特許文献1に開示されているように、触媒担体となる炭素材料、すなわち触媒担体用炭素材料の細孔構造、及び表面の極性に着目して、触媒利用率の向上が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、触媒担体用炭素材料の細孔構造及び表面の極性は、触媒利用率を高めるための要素の一種ではあるものの、触媒利用率を支配する要素ではなかった。すなわち、これらの値を所望の範囲内の値に調整しても、触媒利用率にバラ付きが生じる場合があった。
【0011】
ところで、触媒利用率が高いことは、より多くの触媒成分が電極反応(すなわち、上述した酸化反応及び還元反応)に寄与することを意味する。そして、より多くの触媒成分が電極反応に寄与するためには、触媒成分を担持する触媒担体用炭素材料に電解質材料がなるべく均一に被覆している必要がある。触媒担体用炭素材料に電解質材料を均一に被覆させることで、より多くの触媒成分を電解質材料に接触させることができるからである。そして、触媒担体用炭素材料に電解質材料が均一に被覆するためには、触媒担体用炭素材料が電解質材料に対して高い親和性を有することが必要である。
【0012】
このため、近年、触媒利用率を支配するための要素として、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性が着目されている。しかし、電解質材料に対する親和性は、電解質材料の種類によって変動することが多い。すなわち、触媒担体用炭素材料が特定の電解質材料に対して高い親和性を示す場合であっても、その触媒担体用炭素材料が他の電解質材料に対しても高い親和性を示すとは限らない。
【0013】
このため、複数種類の電解質材料に対する親和性を定量的に評価する技術、すなわち、電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価する技術が強く求められていた。
【0014】
しかし、このような技術は何ら提案されていなかった。なお、電解質材料の被覆状態を観察する技術は提案されている。この技術では、触媒層中の電解質材料をRuで染色し、FIB(集束イオンビーム)により触媒層を薄片化する。そして、薄片化された触媒層をTEM-EDXで分析することで、元素分布マップを作成する。そして、このマップ中、Ruが濃化した領域に電解質材料が存在すると評価する。しかし、この技術は、あくまで電解質材料に対する親和性を定性的に評価するだけである。
【0015】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価することが可能な、新規かつ改良された試験方法を提供し、ひいては、固体高分子形燃料電池の特性をさらに向上させることが可能な触媒担体用炭素材料等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するために、電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価する技術について鋭意検討した。上述したように、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性は、電解質材料の種類によって変動することが多い。そこで、本発明者は、まず、これらの電解質材料のモデルとなるモデル樹脂について鋭意検討した。この結果、本発明者は、ポリエチレングリコールに着目した。ポリエチレングリコールは、電解質材料と同様にその構造中に極性部位を持つ。さらに、ポリエチレングリコールは、分子量の大きさとその分布を制御した合成が可能である。このため、ポリエチレングリコールの分子量分布を適切に調整することで、各種の電解質材料に類似する吸着特性(具体的には、触媒担体用炭素材料に対する吸着特性)を示すと推察される。そして、本発明者は、ポリエチレングリコールを用いた樹脂吸着量評価試験、いわゆるポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験を行った。
【0017】
この樹脂吸着量評価試験では、まず、ポリエチレングリコール樹脂、触媒担体用炭素材料、及び水を含む混合液を、95~100℃の範囲で1~10時間撹拌する(第1の工程)。ついで、混合液からポリエチレングリコール樹脂が付着した触媒担体用炭素材料を分離する(第2の工程)。ついで、ポリエチレングリコール樹脂が付着した触媒担体用炭素材料の質量から第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量を減算することで、樹脂吸着量を測定する(第3の工程)。ついで、樹脂吸着量と、第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量とに基づいて、樹脂吸着率W、すなわちポリエチレングリコールの吸着率を算出する(第4の工程)。
【0018】
つぎに、本発明者は、樹脂吸着率Wに影響を与えるパラメータについて鋭意検討した。電解質材料の質量平均分子量は、概ね数万以上である。このような電解質材料が毛鞠状になった場合、その直径は10nm以上となる。一方、触媒担体用炭素材料粒子の表面には、直径が3nm未満の細孔、すなわちミクロ孔が形成される場合がある。しかし、電解質材料粒子(毛鞠状の粒子)は、このような微細な細孔内には入り込めない。このため、電解質材料は、触媒担体用炭素材料粒子の外表面、すなわち、ミクロ孔を除いた部分の表面に付着することになる。
【0019】
そこで、本発明者は、触媒担体用炭素材料粒子の外表面の凹凸形状に着目した。触媒担体用炭素材料粒子に形成される凹凸が多いほど、ポリエチレングリコールとの接触面積が大きくなるからである。具体的には、本発明者は、直径3~10nmのメソ孔の比容積V3-10(mL/g)に着目した。なお、直径の上限を10nmとしたのは、直径が10nmを超えるメソ孔(及びマクロ孔)は、ポリエチレングリコールとの接触面積にそれほど影響を与えないと考えられるからである。
【0020】
この結果、本発明者は、比容積V3-10(mL/g)と樹脂吸着率Wとの間に高い正の相関があることがわかった。すなわち、メソ孔の比容積V3-10(mL/g)を調整することで、樹脂吸着率Wを所望の値に調整できることがわかった。
【0021】
さらに、本発明者は、比容積V3-10(mL/g)を調整する技術として、賦活処理に着目した。まず、本発明者は、触媒担体用炭素材料に一般的に適用される賦活処理を触媒担体用炭素材料に施したが、比容積V3-10(mL/g)はほとんど変動しなかった。そこで、本発明者は、さらに反応性の高い賦活条件で触媒担体用炭素材料を賦活処理した。この結果、比容積V3-10(mL/g)が変動した。したがって、本発明者は、比容積V3-10(mL/g)を調整する技術として、反応性の高い賦活処理を見出した。
【0022】
そして、本発明者は、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)が異なる複数種類の触媒担体用炭素材料を作成した。さらに、複数種類の電解質材料を準備した。そして、これらを用いて固体高分子形燃料電池を作製し、固体高分子形燃料電池の特性を評価した。この結果、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)がある範囲内の値となる場合、電解質材料の種類が変動しても、固体高分子形燃料電池の特性(具体的には、発電性能)が良好になることが判明した。したがって、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)がある範囲内の値となる触媒担体用炭素材料は、様々な種類の電解質材料に対する親和性が高い。そして、このような触媒担体用炭素材料を用いた固体高分子形燃料電池は、電解質材料の種類が変動しても、触媒利用率が高くなる。すなわち、固体高分子形燃料電池の特性が向上する。
【0023】
すなわち、ポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験を行うことで、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)が所望の範囲内の値(具体的な範囲は後述する)となる触媒担体用炭素材料を特定することができる。そして、このような触媒担体用炭素材料は、各種の電解質材料に対する親和性が高い。したがって、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)は、電解質材料に対する親和性を汎用的に特定するパラメータとなりうる。
【0024】
このように、本発明者は、電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価する試験方法として、ポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験を見出した。さらに、本発明者は、電解質材料に対する親和性を汎用的に特定するパラメータ(すなわち、触媒利用率を支配しうるパラメータ)として、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)を見出した。
【0025】
さらに、本発明者は、樹脂吸着率W(言い換えれば、電解質材料に対する親和性)に影響を与える他のパラメータについて検討した。電解質材料は一般的にプロトンを乖離する官能基を有し、この官能基は極性を持つ。本発明者は、触媒担体用炭素材料の表面に極性がある場合、その極性の程度を制御することで、電解質材料との親和性を高めることが可能と推察した。そこで、本発明者は、触媒担体用炭素材料の表面の極性についてさらに検討を進めた。この結果、本発明者は、触媒担体用炭素材料の酸素含有率及び窒素含有率が電解質材料に対する親和性に影響を与えることを見出した。なお、酸素含有率は、触媒担体用炭素材料が有する酸素含有官能基の数に対応する。窒素含有率は、触媒担体用炭素材料が有する含窒素官能基の数に対応する。すなわち、電解質材料に対する親和性は、触媒担体用炭素材料が有する酸素含有官能基及び含窒素官能基の数に影響を受ける。
【0026】
また、触媒担体用炭素材料は、触媒成分が担持される面をある程度有する必要がある。さらに、触媒担体用炭素材料には、耐久性も要求される。本発明者は、これらの知見に基づいて、本発明に想到した。即ち、本発明者は、触媒を担持するために必要な面積を表す指標としてBET比表面積に着目し、その好適な範囲を見出した。また、本発明者は、耐久性、即ち、耐酸化消耗性を高めるためにラマン分光法によるGバンドの半値幅△Gに着目し、その好適な範囲を見出した。Gバンドは炭素材料の結晶質部分の格子振動によるラマン効果であり、その半値幅は結晶子の大きさに対応する。耐酸化消耗性を高めることは結晶子サイズが大きいことに相当するため、△Gにより触媒担体用炭素材料の耐酸化消耗性を調整できると推察される。
【0027】
本発明のある観点によれば、固体高分子形燃料電池用の触媒成分を担持可能な触媒担体用炭素材料であって、質量平均分子量が4000であるポリエチレングリコール樹脂を用いたポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験により算出される樹脂吸着率Wが30~100質量%であり、窒素吸着等温線をBJH(Barrett,Joyner,Hallender)解析することで得られる直径3~10nmのメソ孔の比容積V3-10(mL/g)が1.0~2.0mL/gであり、BET法で評価されるBET比表面積SBET(m2/g)が500~1500m2/gであり、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅△Gが30~70cm-1であることを特徴とする触媒担体用炭素材料が提供される。
【0028】
ここで、酸素含有率Omassが0.2~1.0質量%であってもよい。
【0029】
さらに、窒素含有率Nmassが0.25~1.5質量%であってもよい。
【0030】
さらに、酸素含有率Omassが0.2~1.0質量%であり、かつ、窒素含有率Nmassが0.25~1.5質量%であってもよい。
【0031】
さらに、樹脂吸着率Wが40~90質量%であってもよい。
【0034】
本発明の他の観点によれば、上記の触媒担体用炭素材料と、触媒担体用炭素材料に担持された触媒成分と、を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用触媒が提供される。
【0035】
ここで、触媒担持率が10~80質量%であってもよい。
【0036】
本発明の他の観点によれば、上記の固体高分子形燃料電池用触媒を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用触媒層が提供される。
【0037】
本発明の他の観点によれば、上記の固体高分子形燃料電池用触媒層を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池が提供される。
【0038】
ここで、固体高分子形燃料電池は、固体高分子形燃料電池用触媒層をカソード側の触媒層として含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように本発明に係る評価試験は、電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価することができる。さらに、本発明に係る触媒担体用炭素材料は、固体高分子形燃料電池の特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0042】
<1.ポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験>
上述したように、本発明者は、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価する評価試験として、ポリエチレングリコールを用いた樹脂吸着量評価試験、いわゆるポリエチレングリコール樹脂吸着量評価試験に想到した。そこで、まず、樹脂吸着量評価試験について説明する。
【0043】
(1-1.第1の工程)
本実施形態に係る樹脂吸着量評価試験は、触媒担体用炭素材料のポリエチレングリコールに対する親和性を評価する試験であり、第1~第4の工程に区分される。第1の工程では、ポリエチレングリコール樹脂、触媒担体用炭素材料、及び水を含む混合液を、95~100℃の範囲で1~10時間撹拌する。このように、本実施形態に係る樹脂吸着量評価試験では、各種の電解質材料のモデルとなる樹脂として、ポリエチレングリコールを使用する。ポリエチレングリコールは、各種の電解質材料に類似する吸着特性を示すと推察されるからである。ただし、本発明者がポリエチレングリコールについてさらに詳細に検討したところ、ポリエチレングリコールの質量平均分子量が非常に重要であることがわかった。具体的には、ポリエチレングリコールの質量平均分子量は、1000~20000であることが好ましい。ポリエチレングリコールの質量平均分子量を1000~20000とすることで、評価結果の信頼性がより高くなる。具体的には、本実施形態では、樹脂吸着率Wが30~100質量%となる触媒担体用炭素材料が選択される。そして、ポリエチレングリコールの質量平均分子量が1000~20000となる場合、当該選択された触媒担体用炭素材料は、より安定して高い特性(具体的には、発電性能)を示す。すなわち、当該選択された触媒担体用炭素材料は、各種の電解質材料に対する親和性が安定して高くなる。
【0044】
また、第1の工程では、混合液を水の沸点あるいはそれに近い温度(95~100℃)まで加熱し、撹拌する。すなわち、第1の工程では、ポリエチレングリコールが触媒担体用炭素材料に吸着しにくい環境下での樹脂吸着率Wを算出する。このような処理を行うことで、評価結果の信頼性がより高くなる。
【0045】
(1-2.第2の工程)
第2の工程では、混合液からポリエチレングリコール樹脂が付着した触媒担体用炭素材料を分離する。分離の方法は特に問われないが、例えばろ過等で分離を行ってもよい。
【0046】
(1-3.第3の工程)
第3の工程では、ポリエチレングリコール樹脂が付着した触媒担体用炭素材料の質量から第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量を減算することで、樹脂吸着量を測定する。すなわち、樹脂吸着量評価試験では、樹脂吸着量に基づいて、触媒担体用炭素材料のポリエチレングリコールに対する親和性を評価する。
【0047】
(1-4.第4の工程)
第4の工程では、樹脂吸着量と、第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量とに基づいて、樹脂吸着率W、すなわちポリエチレングリコールの吸着率を算出する。具体的には、樹脂吸着率Wは、樹脂吸着量を第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量で除算することで得られる。
【0048】
樹脂吸着率Wは、電解質材料に対する親和性を評価するパラメータの1つである。本実施形態では、樹脂吸着率Wが30~100質量%となる触媒担体用炭素材料が選択される。
【0049】
<2.触媒担体用炭素材料の構成>
つぎに、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料について説明する。本実施形態に係る触媒担体用炭素材料は、少なくとも以下の要件(a)~(d)を満たす。
(a)上記樹脂吸着量評価試験により算出される樹脂吸着率Wが30~100質量%である。
(b)窒素吸着等温線をBJH解析することで得られる直径3~10nmのメソ孔の比容積V3-10(mL/g)が1.0~2.0mL/gである。
(c)BET法で評価されるBET比表面積SBET(m2/g)が500~1500m2/gである。
(d)ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅△Gが30~70cm-1である。
【0050】
(2-1.要件(a)について)
要件(a)は、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性を規定する要件の1つである。樹脂吸着率Wが30質量%未満となる場合、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性が低すぎて、触媒担体用炭素材料に電解質材料が十分に被覆しない。このため、電極反応に寄与しない触媒成分の数が増える。すなわち、触媒利用率が低下する。一方、樹脂吸着率Wが100質量%を超える場合、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性が高すぎて、触媒担体用炭素材料に電解質材料が過剰に被覆する。この場合、ガス(具体的には、還元性ガス及び酸化性ガス。特に、酸化性ガス。)が電解質材料の層を透過しにくくなる。すなわち、電解質材料中の触媒成分にガスが到達しにくくなる。したがって、この場合にも、電極反応に寄与しない触媒成分の数が増える。すなわち、触媒利用率が低下する。樹脂吸着率Wは、40~90質量%であることが好ましい。なお、「触媒利用率」は、触媒層中触媒成分の総数と、電極反応に利用される触媒成分の数との比である。実験では、触媒成分の目付け量が同じであり、かつ燃料電池の特性が高くなった場合、触媒利用率が高くなったと言える。
【0051】
樹脂吸着率Wは、上述したように、樹脂吸着量評価試験により測定可能である。また、樹脂吸着率Wは、要件(b)のパラメータである比容積V3-10(mL/g)との間に高い正の相関がある。したがって、比容積V3-10(mL/g)を調整することで、樹脂吸着率Wを30~100質量%とすることができる。
【0052】
(2-2.要件(b)について)
要件(b)も、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性を規定する要件の1つである。比容積V3-10(mL/g)が1.0mL/g未満となる場合、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性が低すぎて、触媒担体用炭素材料に電解質材料が十分に被覆しない。このため、電極反応に寄与しない触媒成分の数が増える。すなわち、触媒利用率が低下する。一方、比容積V3-10(mL/g)が2.0mL/gを超える場合、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性が高すぎて、触媒担体用炭素材料に電解質材料が過剰に被覆する。この場合、ガスが電解質材料の層を透過しにくくなる。すなわち、電解質材料中の触媒成分にガスが到達しにくくなる。したがって、この場合にも、電極反応に寄与しない触媒成分の数が増える。すなわち、触媒利用率が低下する。比容積V3-10(mL/g)は、好ましくは1.35~1.95(mL/g)である。
【0053】
ここで、比容積V3-10(mL/g)は、窒素吸着等温線をBJH解析することで得られる。窒素吸着等温線は、窒素ガスの液体窒素温度での窒素吸着測定によって得られる。また、BJH解析は、メソ孔解析の一手法である。すなわち、メソ孔解析の手法は様々であるが、本発明者がこれらの手法について検討したところ、BJH解析により得られる比容積V3-10(mL/g)は、樹脂吸着率Wとの相関が最も高かった。
【0054】
したがって、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)は、電解質材料に対する親和性に寄与するパラメータである。すなわち、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)が上述した範囲内の値となる場合、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性が汎用的に高くなる。具体的には、触媒担体用炭素材料を用いた固体高分子形燃料電池は、電解質材料の種類が変動しても高い特性(具体的には、発電性能)を有する。
【0055】
ここで、比容積V3-10(mL/g)を調整する方法としては、例えば賦活処理が挙げられる。賦活処理の種類は特に問われず、炭素材料の分子構造に欠陥を与える処理であればどのような処理であってもよい。賦活処理の例としては、炭素材料を水蒸気、二酸化炭素などのガス、もしくはこれらのガスを含んだ不活性ガスを流通させた環境下で炭素材料を加熱する処理等が挙げられる。
【0056】
ただし、触媒担体用炭素材料に一般的に適用される賦活処理を触媒担体用炭素材料に施しても、比容積V3-10(mL/g)はほとんど変動しない。すなわち、比容積V3-10(mL/g)を変動させるには、反応性の高い賦活処理を行う必要がある。
【0057】
具体的には、水蒸気を用いた賦活処理では、水蒸気の温度を1050℃以上とする必要がある。温度の好ましい範囲は、1200~1500℃程度である。賦活処理の時間は、例えば0.1~1.0時間であればよい。賦活処理の温度及び時間によって比容積V3-10(mL/g)を調整することができる。なお、通常の賦活処理では、水蒸気の温度は850~1000℃程度である。
【0058】
また、二酸化炭素を用いた賦活処理では、二酸化炭素の温度は1150℃以上とする必要がある。温度の好ましい範囲は、1200~1500℃程度である。賦活処理の時間は、例えば0.1~1.0時間であればよい。賦活処理の温度及び時間によって比容積V3-10(mL/g)を調整することができる。なお、通常の賦活処理では、二酸化炭素の温度は、900~1000℃程度である。
【0059】
従来は、賦活処理を行うにあたって、水蒸気及び二酸化炭素の温度を上記の範囲まで上げることは行われていなかった。その理由は、通常の賦活処理は、炭素材料に主にミクロ孔を導入することを目的として行われており、また、上記の高温で炭素材料を処理すると炭素の消耗割合が高い為コストアップとなってしまうため、このような高温で賦活処理を行うことは想定されていなかったからである。なお、本実施形態では、仮に炭素材料の賦活処理に要するコストが増大したとしても、結果として得られる触媒担体用炭素材料は、触媒利用率を大きく向上させることができる。したがって、固体高分子形燃料電池全体で見れば大きなコストダウンに繋がることになる。
【0060】
また、上記のように反応性の高い賦活処理を行うことで、市販の無多孔質の炭素材料も本実施形態で好適な触媒担体用炭素材料とすることができる。なお、このような無多孔質炭素材料を出発物質とする場合、まず通常の賦活処理を行って炭素材料にミクロ孔を導入した後に、反応性の高い賦活処理を行うことが好ましい。
【0061】
(2-3.要件(c)について)
要件(c)は、触媒成分が担持される面(具体的には、表面積)を確保するための要件である。BET比表面積が500m2/g未満であると触媒成分を十分に担持するための表面積が不足し、十分な発電性能を発揮し得ない場合が生じる可能性がある。一方、BET比表面積が1500m2/gを超える場合、触媒担体用炭素材料の欠陥部位が多くなる。したがって、触媒担体用炭素材料それ自体の強度が低下し、燃料電池用の触媒として使用できなくなる可能性がある。BET比表面積は、好ましくは1100~1300m2/gである。
【0062】
(2-4.要件(d)について)
要件(d)は、触媒担体用炭素材料の耐久性を確保するための要件である。Gバンドの半値幅△Gが30cm-1より小さい場合、触媒担体用炭素材料の結晶性が高くなり過ぎて触媒成分を担持させる工程で触媒金属を高分散に担持させ難くなる可能性がある。一方、Gバンドの半値幅△Gが70cm-1を超える場合、起動・停止といった負荷変動の繰返しに対する十分な耐久性が得られない可能性がある。Gバンドの半値幅△Gは、好ましくは35~50cm-1である。
【0063】
Gバンドの半値幅△Gを上述した範囲内の値とする方法としては、例えば黒鉛化処理が挙げられる。黒鉛化処理では、触媒担体用炭素材料を1600℃以上の高温環境に曝す。炭素材料を黒鉛化処理することで、炭素材料を構成する結晶子が大きく成長する。この結果、炭素材料のGバンドの半値幅が上述した範囲内の値となりうる。加熱温度が1600℃未満となる場合、結晶子の成長が少なくなる場合がある。この結果、Gバンドの半値幅△Gが70cm-1を超えることが多くなる。
【0064】
なお、原料となる炭素材料の種類によっては、1600~1800℃程度の加熱温度では黒鉛化が十分に進まない可能性がある。また、加熱温度が2200℃を超える場合、結晶子が過剰に成長し、Gバンドの半値幅が30cm-1より小さくなる場合が多くなる。このため、黒鉛化処理の加熱処理は、1900~2200℃であることが好ましい。
【0065】
触媒担体用炭素材料は、さらに以下の要件(e)及び(f)のうち、少なくとも一方を満たしていることが好ましく、両方満たしていることが更に好ましい。いずれも、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性に寄与するパラメータである。
(e)酸素含有率Omassが0.2~1.0質量%である。
(f)窒素含有率Nmassが0.25~1.5質量%である。
【0066】
酸素含有率Omassは、触媒担体用炭素材料の総質量に対する酸素原子の質量%であり、触媒担体用炭素材料が有する酸素含有官能基の数に対応する。窒素含有率Nmassは、触媒担体用炭素材料の総質量に対する窒素原子の質量%であり、触媒担体用炭素材料が有する含窒素官能基の数に対応する。すなわち、電解質材料に対する親和性は、触媒担体用炭素材料が有する酸素含有官能基及び含窒素官能基の数に影響を受ける。要件(e)、(f)のうち、少なくとも一方が満たされる場合、触媒担体用炭素材料の電解質材料に対する親和性がさらに向上する。具体的には、触媒担体用炭素材料を用いた固体高分子形燃料電池の特性がさらに向上する。酸素含有率Omassは、好ましくは0.23~0.86質量%である。窒素含有率Nmassは、好ましくは0.30~1.45質量%である。
【0067】
ここで、酸素含有率Omassを調整する処理(以下、このような処理を「酸素導入処理」とも称する)としては、触媒担体用炭素材料を酸化処理した後に不活性雰囲気または真空中で熱処理する処理が挙げられる。酸化処理は、触媒担体用炭素材料に酸素含有官能基を導入できる方法であれば特に制限されない。酸化処理の例としては、触媒担体用炭素材料を硝酸、過酸化水素などで処理する方法が挙げられる。他の例としては、触媒担体用炭素材料を発煙硝酸と塩素酸カリ(KClO3)で酸化するBrodie法、触媒担体用炭素材料を濃硫酸、濃硝酸及び塩素酸カリ(KClO3)(あるいは過塩素酸カリ(KClO4))で酸化するStaudenmaier法、触媒担体用炭素材料を濃硫酸、硝酸ナトリウム(NaNO3)及び過マンガン酸カリ(KMnO4)で酸化するHummers,Offeman法、HNO3処理、HClO4処理、NaClO4処理、酸素プラズマ処理、オゾン処理等が挙げられる。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が好適に用いられる。熱処理の温度及び時間は、酸化処理の強さの程度に応じて調整すればよい。熱処理の温度は、例えば700~1500℃であってもよく、熱処理の時間は、例えば0.5~10時間であってもよい。酸化処理によって触媒担体用炭素材料に酸素含有官能基を導入することができ、酸化処理後の熱処理によって、不要な酸素含有官能基を除去することができる。したがって、酸化処理の強度(例えば、酸濃度等)、熱処理の温度及び時間によって、酸素含有率Omassを調整することができる。
【0068】
また、窒素含有率Nmassを調整する処理(以下、このような処理を「窒素導入処理」とも称する)としては、例えば、窒素ガス雰囲気下で触媒担体用炭素材料を含窒素化合物とともに熱処理する処理が挙げられる。
ここで、含窒素化合物は、触媒担体用炭素材料に含窒素官能基を導入することができる化合物であれば特に制限されない。含窒素化合物の例としては、メラミン、ヘキサメチレンテトラミン等の含窒素複素環式化合物等が上げられる。含窒素複素環式化合物の他の例として、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ピラゾリン及びこれらの誘導体等の5員環型の化合物や、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、テトラジン、ウラシル及びこれらの誘導体等の6員環型の化合物や、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キサンチン、インダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール及びこれらの誘導体等の5員環+6員環型の化合物や、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン及びこれらの誘導体等の6員環+6員環型の化合物等を挙げることができ、更には、テトラフェニルポルフィリン、フタロシアニン、フェナジン、フェノチアジン、アクリジン、タクリン、メラニン等の多環型の化合物等が挙げられる。また、熱処理の温度は、例えば600~1200℃であってもよく、熱処理の時間は、例えば0.5~10時間であってもよい。熱処理の温度及び時間によって、窒素含有率Nmassを調整することができる。
【0069】
窒素導入処理の他の例としては、触媒担体用炭素材料をアンモニアガス中で熱処理した後に不活性雰囲気または真空中で熱処理する処理が挙げられる。触媒担体用炭素材料をアンモニアガス中で熱処理することで、触媒担体用炭素材料に含窒素官能基を導入することができ、その後の熱処理によって不要な含窒素官能基を除去することができる。アンモニアガス中の熱処理の温度は、例えば500~1000℃であってもよく、熱処理の時間は、例えば0.5~10時間であってもよい。不活性雰囲気または真空中で行う熱処理の温度は、例えば700~1100℃であってもよく、熱処理の時間は、例えば0.5~10時間であってもよい。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が好適に用いられる。
【0070】
なお、窒素導入処理は、酸素導入処理の後に行ってもよい。これにより、酸素含有官能基の少なくとも一部(あるいは全部)を含窒素官能基に置換することができる。
【0071】
また、酸素含有率Omass及び窒素含有率Nmassは、例えば不活性ガス融解熱伝導方式の分析機器を用いて測定することができる。
【0072】
<3.触媒担体用炭素材料の製造方法>
つぎに、触媒担体用炭素材料の製造方法について説明する。まず、触媒担体用炭素材料の出発物質を準備する。触媒担体用炭素材料の出発物質は、化学的に安定な炭素材料であることが好ましい。炭素材料の好ましい例としては、カーボンブラックが挙げられる。炭素材料は、他の種類の炭素材料、例えば、黒鉛、炭素繊維、活性炭等、これらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等であってもよい。また、炭素材料は、これらの2種類以上の混合物であってもよい。
【0073】
ついで、上述した賦活処理、黒鉛化処理、酸素導入処理、及び窒素導入処理を適宜組み合わせて行う。そして、処理後の炭素材料について、上述した樹脂吸着量評価試験を行うことで、樹脂吸着率Wを測定する。そして、樹脂吸着率Wが30質量%未満となる場合、賦活処理をさらに行う。これにより、要件(a)~(d)、好ましくは(e)、(f)を満たす触媒担体用炭素材料を作製する。
【0074】
<4.固体高分子形燃料電池>
本実施形態に係る触媒担体用炭素材料は、例えば
図3に示す固体高分子形燃料電池1に適用可能である。固体高分子形燃料電池1は、セパレータ10、20、ガス拡散層30、40、触媒層50、60、及び電解質膜70を備える。
【0075】
セパレータ10は、アノード側のセパレータであり、水素等の還元性ガスをガス拡散層30に導入する。セパレータ20は、カソード側のセパレータであり、酸素ガス、空気等の酸化性ガスをガス拡散凝集相に導入する。セパレータ10、20の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用されるセパレータであればよい。
【0076】
ガス拡散層30は、アノード側のガス拡散層であり、セパレータ10から供給された還元性ガスを拡散させた後、触媒層50に供給する。ガス拡散層40は、カソード側のガス拡散層であり、セパレータ20から供給された酸化性ガスを拡散させた後、触媒層60に供給する。ガス拡散層30、40の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用されるガス拡散層であればよい。ガス拡散層30、40の例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の多孔質炭素材料、金属メッシュや金属ウール等の多孔質金属材料等が挙げられる。なお、ガス拡散層30、40の好ましい例としては、ガス拡散層のセパレータ側の層が繊維状炭素材料を主成分とするガス拡散繊維層となり、触媒層側の層がカーボンブラックを主成分とするマイクロポア層となる2層構造のガス拡散層が挙げられる。
【0077】
触媒層50は、いわゆるアノードである。触媒層50内では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H2→2H++2e- (E0=0V)
【0078】
酸化反応によって生じたプロトンは、触媒層50、及び電解質膜70を通って触媒層60に到達する。酸化反応によって生じた電子は、触媒層50、ガス拡散層30、及びセパレータ10を通って外部回路に到達する。電子は、外部回路内で仕事をした後、セパレータ20に導入される。その後、電子は、セパレータ20、ガス拡散層40を通って触媒層60に到達する。
【0079】
アノードとなる触媒層50の構成は特に制限されない。すなわち、触媒層50の構成は、従来のアノードと同様の構成であってもよいし、触媒層60と同様の構成であってもよいし、触媒層60よりもさらに親水性が高い構成であってもよい。
【0080】
触媒層60は、いわゆるカソードである。触媒層60内では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。酸化反応で発生した水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池1の外部に排出される。
O2+4H++4e-→2H2O (E0=1.23V)
【0081】
このように、燃料電池1では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0082】
触媒層60には、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料が含まれていることが好ましい。すなわち、触媒層60は、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料と、電解質材料と、触媒成分とを含む。これにより、触媒層60内の触媒利用率を高めることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池1の触媒利用率を高めることができる。
【0083】
なお、触媒層60における触媒担持率は特に制限されないが、10~80質量%であることが好ましい。ここで、触媒担持率は、触媒(すなわち、触媒担体用炭素材料に触媒成分を担持させた粒子)の総質量に対する触媒成分の質量%である。触媒担持率がこの範囲内の値となる場合、触媒利用率がさらに高くなる。なお、触媒担持率が10質量%未満となる場合、固体高分子形燃料電池1を実用に耐えるようにするために触媒層60を厚くする必要が生じうる。一方、触媒担持率が80質量%を超える場合、触媒凝集が起こりやすくなる。また、触媒層60が薄くなりすぎて、フラッディングが起こる可能性が生じる。
【0084】
また、触媒層60の厚さは特に制限されないが、5μm超20μm未満であることが好ましい。この場合、触媒層60内に酸化性ガスが拡散しやすく、かつ、フラッディングが生じにくくなる。触媒層60の厚さが5μm以下となる場合、フラッディングが生じやすくなる。触媒層60の厚さが20μm以上となる場合、触媒層60内で酸化性ガスが拡散しにくくなり、電解質膜70近傍の触媒成分が働きにくくなる。すなわち、触媒利用率が低下する可能性がある。
【0085】
電解質膜70は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。電解質膜70は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードである触媒層60に導入する。ここで、電解質材料の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料であればよい。好適な例は固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料、すなわち、電解質樹脂である。電解質樹脂としては、例えば、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等が挙げられる。もちろん、本実施形態に係る電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機-有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。なお、燃料電池1は、常温~150℃の範囲内で作動する燃料電池であってもよい。
【0086】
<5.固体高分子形燃料電池の製造方法>
固体高分子形燃料電池1の製造方法は特に制限されず、従来と同様の製造方法であればよい。ただし、カソード側の触媒担体には本実施形態に係る触媒担体用炭素材料を用いることが好ましい。
【実施例】
【0087】
<1.炭素材料の準備>
触媒担体用炭素材料の出発物質として、ライオン社製のケッチェンブラックEC600JD(以下、「EJ」と略記する。)、新日鐵住金化学社製エスカーボンMCND(以下、「MC」と略記する。)、及び東海カーボン社製トーカブラック#4500(以下、「TC」と略記する。)を用意した。
【0088】
<2.パラメータの測定>
(2-1.樹脂吸着率Wの測定)
ポリエチレングリコール(関東化学社製ポリエチレングリコール4000、質量平均分子量4000)を0.50質量%溶解した蒸留水100mLに触媒担体用炭素材料1.00gを投入し、十分に分散させた。ついで、超音波分散機(エスエムテー社製UH-50)で5分間さらに分散処理した。これにより、混合液を作製した。ついで、混合液を100℃にセットしたオイルバスで加熱しながら磁気回転子で5時間撹拌した(第1の工程)。ついで、分散液を60℃まで急冷した。ついで、分散液を樹脂製メンブレンフィルターで濾過することで、触媒担体用炭素材料を分離した(第2の工程)。ついで、触媒担体用炭素材料をビーカーに採り、500mLの蒸留水を加えて分散させ、触媒担体用炭素材料を洗浄した。分散液を再び濾過した後、触媒担体用炭素材料を90℃で5時間真空乾燥した。ついで、触媒担体用炭素材料(この触媒担体用炭素材料には、ポリエチレングリコールが付着している)の質量を測定した。ついで、測定値から第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量1.00gを減算することで、樹脂吸着量を測定した(第3の工程)。ついで、樹脂吸着量を第1の工程で使用した触媒担体用炭素材料の質量1.00gで除算することで、樹脂吸着率Wを算出した。例えば、第3の工程で得られた測定値が1.54gであれば、樹脂吸着率Wは54質量%である。なお、触媒担体用炭素材料「E30」(表1参照)の樹脂吸着率Wに関しては、上述したポリエチレングリコール4000の他、質量平均分子量が1000(和光純薬工業株式会社製ポリエチレングリコール1000)、20000(和光純薬工業株式会社製ポリエチレングリコール20000)となるポリエチレングリコールを用いて樹脂吸着率Wを算出した。
【0089】
(2-2.比容積V3-10の測定)
触媒担体用炭素材料の試料約50mg測り採り、これを90℃で2時間真空乾燥した。得られた乾燥後の試料を自動ガス吸着測定装置(マイクロトラックベル社製、BELSORP-MAX)にセットし、液体窒素温度における窒素ガスの吸着等温線を測定した。ついで、付属の解析ソフトのBJH解析により、比容積(mL/g)を算出した。
【0090】
(2-3.BET比表面積SBETの測定)
触媒担体用炭素材料の試料約50mgを測り採り、これを90℃で2時間真空乾燥した。得られた乾燥後の試料を自動ガス吸着測定装置(マイクロトラックベル社製、BELSORP-MAX)にセットし、液体窒素温度において窒素ガスの吸着等温線を測定した。ついで、付属の解析ソフトのBET解析により、BET比表面積(m2/g)を算出した。
【0091】
(2-4.Gバンドの半値幅の測定)
触媒担体用炭素材料の試料約3mgを測り採り、レーザラマン分光光度計(日本分光(株)製、NRS-7100型)にセットした。ついで、励起レーザー532nm、レーザーパワー100mW(試料照射パワー:0.1mW)、顕微配置:Backscattering、スリット:100μm×100μm、対物レンズ:×100、スポット径:1μm、露光時間:30sec、観測波数:3200~750cm-1、積算回数:2回の測定条件でGバンドの半値幅(cm-1)を測定した。
【0092】
(2-5.酸素含有率Omass及び窒素含有率Nmassの測定)
分析装置としてLECO製RH402型を用い、C、H、O、Nの通常の不活性ガス融解熱伝導方式を適用して酸素含有率Omass及び窒素含有率Nmass(質量%)を測定した。
【0093】
<3.実験例1>
(3-1.触媒担体用炭素材料の作製)
実験例1では、以下の賦活処理、黒鉛化処理、酸素導入処理、及び窒素導入処理のいずれか1種以上を組み合わせて行うことで、触媒担体用炭素材料を作製した。
【0094】
(3-1-1.二酸化炭素を用いた賦活処理(CO2賦活処理))
CO2フロー雰囲気中で、触媒担体用炭素材料を900~1600℃の温度で、0.2~4時間加熱した。例えば、EJを900℃で3時間CO2賦活処理した場合には、CO2賦活処理後のEJを「EJ-C09/30」と表記する。また、EJを1400℃で0.2時間CO2賦活処理した場合には、CO2賦活処理後のEJを「EJ-C14/02」と表記する。
【0095】
なお、TCは非多孔質炭素であるため、触媒担体用炭素材料としてTCを使用する場合には、通常のCO2賦活処理の後に、上述したCO2賦活処理を行った。ここで、通常のCO2賦活処理では、CO2フロー雰囲気中で、触媒担体用炭素材料を900~1100℃の温度で4時間加熱した。例えば、TCを1000℃で2時間CO2賦活処理した後、1300℃で0.3時間CO2賦活処理した場合には、CO2賦活処理後のTCを「TC-C10/20-C13/03」と表記する。
【0096】
(3-1-2.水蒸気を用いた賦活処理(H2O賦活処理))
アルゴンガスを90℃に保持した蒸留水中に通した。ついで、得られた加湿アルゴンガスを1200~1400℃に保持した触媒担体用炭素材料に5時間接触させた。例えば、EJを1200℃で5時間H2O賦活処理した場合には、H2O賦活処理後のEJを「EJ-H12/05」と表記する。
【0097】
(3-1-3.黒鉛化処理)
触媒担体用炭素材料を黒鉛化炉(進成電炉社製タンマン型黒鉛化炉)にセットし、アルゴンガス流通下で1600~2300℃の温度で1時間熱処理した。例えば、EJを1800℃で黒鉛化処理した場合、黒鉛化処理後のEJを「EJ18」と表記する。
【0098】
(3-1-4.酸素導入処理(硝酸処理))
触媒担体用炭素材料1.0gを69質量%の硝酸水溶液200mLに投入し、充分に撹拌した。次いで、分散液を90℃のオイルバスで2時間加温処理した。以上の工程により酸化処理を行った。ついで、分散液をアルゴンガス雰囲気中で600~1400℃の温度で1時間熱処理した。なお、一部の触媒担体用炭素材料には酸化処理のみを行った。例えば、EJ18を酸化処理した場合には、酸化処理後のEJ18を「EJ18-NA」と表記する。また、EJ18に酸化処理を行った後、700℃で熱処理した場合、熱処理後のEJ18を「EJ18-NA07」と表記する。
【0099】
(3-1-5.窒素導入処理(メラミン処理))
触媒担体用炭素材料1.0gを入れた反応容器にメラミン(関東化学社製、一般試薬)を4.0g投入し、これらを混合した。ついで、窒素ガス流通下で当該混合物を毎分3℃の速度で昇温した。ついで、窒素ガス流通下で混合物を600~1300℃で1時間熱処理した。以上の工程により、窒素導入処理を行った。例えば、EJ18に1000℃で窒素導入処理を行った場合には、熱処理後のEJ18を「EJ18-ML10」と表記する。
【0100】
なお、上述したように、実験例1では、上記の賦活処理、黒鉛化処理、酸素導入処理、及び窒素導入処理のいずれか1種以上を組み合わせて行うことで、触媒担体用炭素材料を作製した。触媒担体用炭素材料を表記する記号は、各処理を行った順で表記される。例えば、「EJ18-C12/02-NA09-ML11」と表記される触媒担体用炭素材料は、以下の工程により作製される。すなわち、まず、EJを1800℃で黒鉛化処理することで、EJ-18を得る。ついで、EJ-18を1200℃で0.2時間CO2賦活処理することで、EJ18-C12/02を得る。ついで、EJ18-C12/02に酸化処理を行う。ついで、酸化処理後のEJ18-C12/02を900℃で熱処理する。これにより、EJ18-C12/02-NA09を得る。ついで、EJ18-C12/02-NA09に1100℃で窒素導入処理を行う。これにより、EJ18-C12/02-NA09-ML11を得る。
【0101】
(3-2.固体高分子形燃料電池の作製)
(3-2-1.白金担持処理)
上記3-1.で作製された触媒担体用炭素材料を蒸留水中に分散させた。ついで、分散液にホルムアルデヒドを加え、分散液を40℃に設定したウォーターバスにセットした。分散液の温度がウォーターバスと同じ40℃になった後、分散液を撹拌しながら分散液中にジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液をゆっくりと注ぎ入れた。ついで、約2時間撹拌を続けた。ついで、分散液を濾過し、得られた固形物を洗浄した。このようにして得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕した。ついで、粉砕物を水素雰囲気中150℃で1時間熱処理した。以上の工程により、触媒担体用炭素材料にPt粒子を担持させた。すなわち、Pt触媒(触媒担体用炭素材料にPt粒子が担持されたもの)を作製した。なお、触媒担持率は、40質量%とした。触媒担持率は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES: Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)により確認した。
【0102】
(3-2-2.塗布インクの調整)
電解質材料としてDupont社製ナフィオンDE2020(登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂)を用意した。ついで、Pt触媒及びナフィオンDE2020を、Ar雰囲気下で触媒担体用炭素材料の質量に対してナフィオンDE2020の固形分の質量が1.25倍となる割合で混合した。ついで、混合物を軽く撹拌した。ついで、超音波でPt触媒を解砕した。ついで、Pt触媒とナフィオンDE2020とを合わせた合計の固形分濃度が1.1質量%となるように混合物にエタノールを加えた。以上の工程により、塗布インクを作製した。
【0103】
(3-2-3.触媒層の作製)
塗布インクにさらにエタノールを加え、白金濃度が0.5質量%となるスプレー用インクを作製した。ついで、白金の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「白金目付量という。)が0.2mg/cm2となるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー用インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレーした。ついで、塗布層をアルゴン中120℃で60分間乾燥した。以上の工程により、触媒層を作製した。
【0104】
(3-2-4.MEAの作製)
ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に形成された触媒層からカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状の触媒層を2つ切り出した。一方の触媒層はアノード用の触媒層となり、他方の触媒層はカソード用の触媒層となる。
【0105】
ついで、アノード及びカソード用の触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接すると共に互いにずれが無いように電解質膜を挟み込んだ。ついで、積層体を120℃、100kg/cm2で10分間プレスした。ついで、積層体を室温まで冷却した。ついで、積層体の各触媒層からテフロンシートのみを注意深く剥ぎ取った。以上の工程により、アノード及びカソードとなる触媒層が電解質膜に定着した触媒層-電解質膜接合体を作製した。
【0106】
次に、カーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺2.5cmの大きさの正方形状カーボンペーパーを2つ切り出した。これらのカーボンペーバーをガス拡散層として使用した。すなわち、これらの正方形状カーボンペーパーの間に、アノード及びカソードとなる各触媒層とこれらの正方形状カーボンペーパーとの間にずれが無いように、上記触媒層-電解質膜接合体を挟んだ。ついで、積層体を120℃、50kg/cm2で10分間プレスした。以上の工程により、MEAを作製した。
【0107】
なお、作製された各MEA中の触媒金属成分、触媒担体用炭素材料、及び電解質材料の目付け量については、以下の工程で確認した。すなわち、プレス前の触媒層付テフロンシートの質量とプレス後に剥がしたテフロンシートの質量との差からナフィオン膜(電解質膜)に定着させた触媒層の質量を測定した。ついで、測定値及び触媒層中の各成分の質量比に基づいて、各成分の目付け量を算出した。
【0108】
(3-3.燃料電池発電性能試験)
作製したMEAをそれぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置を用いて燃料電池の性能を評価した。具体的には、以下の評価を行った。
【0109】
カソードに空気、アノードに純水素を、ガス利用率がそれぞれ40%と70%となるように供給した。それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で圧力調整し、0.2MPa(出口側圧力)に設定した。セル温度は80℃に設定した。ここで、燃料電池に供給する空気と純水素は、それぞれ加湿器を通過した後に、燃料電池に供給されるようにした。したがって、空気及び純水素は、加湿機中の水温に相当する飽和水蒸気を伴って燃料電池に供給される。この際の加湿状態を加湿器の温度で制御することで、空気及び純水素の相対湿度を30%に調整した。そして、このような環境下での発電性能を評価した。
【0110】
具体的には、カソードに空気、アノードに純水素をそれぞれ供給しつつ、燃料電池の負荷を徐々に増やし、燃料電池を1000mA/cm2において1時間運転した。ついで、電流密度を50mA/cm2に固定し、燃料電池をさらに1時間運転した。その後のセル端子間電圧を出力電圧として記録した。この値に基づいて、燃料電池の発電性能を評価した。具体的には、以下の基準で発電性能を評価した。
【0111】
0.70V未満:×(不合格)
0.70V以上0.80V未満:○(合格)
0.80V以上0.90V未満:◎(良)
0.90V以上:◎◎(優良)
【0112】
(3-4.耐久性能試験)
空気及び純水素の加湿状態がセル温度80℃で飽和加湿状態となるように加湿器を制御した。ついで、出力電圧一定の測定モードで、セル端子間電圧を1.0Vに1.5秒間保持した。次いでセル端子間電圧を1.35Vに上昇させて1.5秒間保持した。ついで、セル端子間電圧を1.0Vに戻した。以上のサイクルを3000回繰り返した。その後、上述した発電性能試験を行い、出力電圧を測定した。
【0113】
そして、耐久試験前の出力電圧に対する耐久試験後の出力電圧の比率を出力維持率と定義した。そして、主力維持率を耐久性の評価指標とした。すなわち、出力維持率が80%以上である場合を合格とし、出力維持率が80%に満たない場合を不合格とした。
【0114】
そして、発電性能及び耐久性能を総合判定した。すなわち、発電性能、若しくは、耐久性能が不合格であれば、総合判定は不合格(×)、耐久性能が合格であれば、発電性能の○、◎、◎◎の結果を総合判定結果とした。結果を表1~3に示す。なお、表1~3中、下線が引かれた値は、要件(a)~(f)を満たしていない値である。要件(e)、(f)については、要件(e)、(f)の範囲を超える値に下線を引いた。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
<4.実験例2>
実験例2では、表4に示す触媒担体用炭素材料を用いたこと、及び塗布インクの調整にDupont社製ナフィオンDE2021(登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂。DE2020とはスルホン酸基濃度が異なる)を使用したことを除き、実験例1と同様の処理を行った。結果を表4に示す。なお、DE2021とDE2020は、モノマー構造は同一で、主鎖に対するスルホン酸を含む側鎖の量が異なる樹脂である。すなわち、DE2021とDE2020は、高分子の単位質量当たりの乖離プロトン量が異なる樹脂である。
【0119】
【0120】
<5.考察>
実験例1、2により、以下の点が確認できた。要件(a)~(d)が満たされる場合、良好な判定結果が得られた。したがって、要件(a)~(d)を満たす触媒担体用炭素材料は、電解質材料に対する親和性が高い。すなわち、このような触媒担体用炭素材料を用いた固体高分子形燃料電池は、触媒利用率が高い。ここで、要件(c)、(d)は電解質材料に対する親和性にあまり寄与しないと考えられることから、要件(a)、(b)が電解質材料に対する親和性に大きく寄与する。さらに、実験例2によれば、要件(a)、(b)が満たされる場合、電解質材料が変動しても良好な判定結果が得られた。したがって、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)は、電解質材料に対する親和性を汎用的に特定するパラメータとなりうる。
【0121】
さらに、樹脂吸着率Wと比容積V3-10(mL/g)とは高い正の相関がある。したがって、比容積V3-10(mL/g)を調整することで、樹脂吸着率Wを所望の値に調整することができる。さらに、比容積V3-10(mL/g)は、通常の賦活処理では調整できず、高い反応性の賦活処理によってはじめて調整可能となる。さらに、樹脂吸着率Wは、樹脂吸着量評価試験によって特定可能である。すなわち、樹脂吸着量評価試験を行うことで、樹脂吸着率W及び比容積V3-10(mL/g)を所望の範囲内の値とすることができる。したがって、樹脂吸着量評価試験は、電解質材料に対する親和性を汎用的かつ定量的に評価する試験となる。
【0122】
さらに、触媒担体用炭素材料「E30」では、ポリエチレングリコールの質量平均分子量を変更して樹脂吸着率Wを算出したが、質量平均分子量が1000~20000で変動しても樹脂吸着率Wに大きな変動はなかった。したがって、質量平均分子量が1000~20000となる場合に、樹脂吸着率Wと比容積V3-10(mL/g)とが高い相関を示すと言える。すなわち、評価結果の信頼性がより高くなる。
【0123】
さらに、要件(e)、(f)の一方がさらに満たされる場合、判定結果がさらに良好となり、要件(e)、(f)の両方がさらに満たされる場合、判定結果がさらに良好となった。したがって、酸素含有率Omass及び窒素含有率Nmassも電解質材料に対する親和性を汎用的に特定するパラメータとなりうる。
【0124】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0125】
1 固体高分子形燃料電池
10、20 セパレータ
30、40 ガス拡散層
50、60 触媒層
70 電解質膜