(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体、その製造方法、そこから形成されたリチウム二次電池用ニッケル系活物質、及びそれを含む正極を含んだリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220624BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220624BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220624BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2019118515
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2019-06-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0073588
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】尹 弼相
(72)【発明者】
【氏名】玄 章鉐
(72)【発明者】
【氏名】梁 祐榮
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】木下 直哉
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0159128(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0026267(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状構造体を複数個具備する二次粒子を含み、
前記粒子状構造体が、多孔性コア部、及び前記多孔性コア部上に放射形に
多層に配置される一次粒子を具備するシェル部を含み、
前記一次粒子は、厚みと長さとの比率が1:2ないし1:20であり、
前記シェル部は、前記粒子状構造体の中心から表面までの総距離のうちの、前記粒子状構造体の最外郭から30ないし50%の長さに対応する領域を参照しており、
前記多孔性コア部は、前記粒子状構造体の中心から最外郭までの総距離のうち、中心から50ないし70%の長さに対応する領域を参照しており、
前記二次粒子の表面を構成する一次粒子の50%以上において、一次粒子の長軸が(100)面または(110)面の法線方向に配置され、
前記二次粒子は、複数の放射形中心を含むリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項2】
前記二次粒子が、多中心等方配列に配置される粒子状構造体からなることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項3】
前記二次粒子の表面を構成する一次粒子が、長軸が二次粒子表面の法線方向であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項4】
前記一次粒子は、プレート粒子を含み、
前記プレート粒子の長軸が放射形に配列されることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項5】
前記二次粒子の大きさは、5ないし25μmであることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項6】
前記リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体は、下記化学式1で表示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体:
[化学式1]
Ni
1-x-y-zCo
xMn
yM
z(OH)
2
化学式1で、Mは、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)及びアルミニウム(Al)からなるグループのうちから選択される元素であり、
x≦1-x-y-z、y≦1-x-y-z、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1である。
【請求項7】
前記リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体において、ニッケル含量は、遷移金属の総含量を基準にし、33モル%ないし95モル%であり、マンガン含量及びコバルト含量に比べて多いか、あるいはそれと同じであることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項8】
前記リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体は、Ni
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2、Ni
0.7Co
0.15Mn
0.15(OH)
2、Ni
0.7Co
0.1Mn
0.2(OH)
2、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2、Ni
1/3Co
1/3Mn
1/3(OH)
2、Ni
0.8Co
0.1Mn
0.1(OH)
2またはNi
0.85Co
0.1Al
0.05(OH)
2であることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体。
【請求項9】
請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法であって、
供給原料を第1供給速度で供給して撹拌し、前駆体シードを形成する第1段階と、
前記第1段階で形成された前駆体シードに供給原料を第2供給速度で供給して撹拌し、前駆体シードを凝集させて成長させる第2段階と、
前記第2段階で成長された前駆体粒子に供給原料を第3供給速度で供給して撹拌し、前駆体粒子の成長を調節する第3段階と、を含み、
前記供給原料は、錯化剤、pH調節剤及びニッケル系活物質前駆体形成用金属原料を含み、
前記ニッケル系活物質前駆体形成用金属原料の第2供給速度は、第1供給速度より速く、第3供給速度は、第2供給速度より速く、
前記第1段階、第2段階及び第3段階に行くほど、反応混合物の撹拌速度が順次低下するリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法。
【請求項10】
前記ニッケル系活物質前駆体形成用金属原料の第2供給速度は、第1供給速度を基準に、10ないし50%増大し、第3供給速度は、第2供給速度を基準に、10ないし50%増大することを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法。
【請求項11】
前記ニッケル系活物質前駆体形成用金属原料は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、フッ化ニッケル、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、フッ化マンガン、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及びフッ化コバルトからなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法。
【請求項12】
前記第1段階において撹拌動力は、1.5kW/m
2以上4kW/m
2以下であり、第2段階において撹拌動力は、1kW/m
2以上3kW/m
2以下であり、第3段階において撹拌動力は、0.5kW/m
2以上2kW/m
2以下であることを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法。
【請求項13】
前記第1段階、第2段階及び第3段階に行くほど、反応混合物のpHが低下するか、あるいは維持されることを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体から得られたリチウム二次電池用ニッケル系活物質。
【請求項15】
請求項14に記載のリチウム二次電池用ニッケル系活物質を含む正極、負極、及びそれらの間に介在された電解質を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体、その製造方法、そこから形成されたリチウム二次電池用ニッケル系活物質、及びそれを含む正極を含んだリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用電子機器、通信機器などの発展により、高エネルギー密度のリチウム二次電池への開発必要性が高い。しかし、高エネルギー密度のリチウム二次電池は、安全性が低下してしまい、それに対する改善が必要である。該リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物、リチウムコバルト酸化物などが使用される。ところで、そのような正極活物質を利用する場合、充放電時、二次粒子サイズによるリチウムイオンの移動距離が決まり、そのような物理的な距離により、充放電効率が高くなかった。また、該リチウム二次電池の充放電が反復されることにより、一次粒子に生じるクラックにより、リチウム二次電池の長期寿命が低下し、抵抗が増大し、容量特性が満足すべきレベルに達することができず、それに対する改善が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン利用率が向上されたリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体を提供することである。
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、また、前述のニッケル系活物質前駆体の製造方法を提供することである。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、また、前述のニッケル系活物質前駆体から得られたニッケル系活物質、及びそれを含んだ正極を含むリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面により、
粒子状構造体を複数個具備する二次粒子を含み、
前記粒子状構造体が、多孔性コア部、及び前記多孔性コア部上に放射形に配置される一次粒子を具備するシェル部を含み、
前記二次粒子は、複数の放射形中心を含むリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体が提供される。
【0007】
他の側面により、
供給原料を第1供給速度で供給して撹拌し、前駆体シード(seed)を形成する1段階と、
前記1段階で形成された前駆体シードに供給原料を第2供給速度で供給して撹拌し、前駆体シードを凝集させて成長させる2段階と、
前記2段階で成長された前駆体粒子に供給原料を第3供給速度で供給して撹拌し、前駆体粒子の成長を調節する3段階と、を含み、
前記供給原料は、錯化剤、pH調節剤及びニッケル系活物質前駆体形成用金属原料を含み、
前記ニッケル系活物質前駆体形成用金属原料の第2供給速度は、第1供給速度より速く、第3供給速度は、第2供給速度より速い前記リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体の製造方法が提供される。
【0008】
さらに他の側面により、ニッケル系活物質前駆体から得られたリチウム二次電池用ニッケル系活物質が提供される。
【0009】
さらに他の側面により、リチウム二次電池用ニッケル系活物質を含む正極を含むリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体を利用すれば、正極活物質と電解液との界面において、リチウム拡散が容易になり、活物質内部への拡散が容易なニッケル系活物質を得ることができる。また、リチウムの挿入及び脱離が容易であり、リチウムイオンの拡散距離が短いニッケル系活物質を得ることができる。そのような正極活物質を利用して製造されたリチウム二次電池は、リチウムの利用率が向上され、充放電による活物質の崩れが抑制され、容量及び寿命の特性が増大する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一具現例によるニッケル系活物質前駆体が含む二次粒子の概略図である。
【
図2A】
図1の二次粒子が含む粒子状構造体の概略的な部分透視図である。
【
図2B】
図1の二次粒子が含む粒子状構造体のさらに具体的な部分透視図である。
【
図3】一具現例によるニッケル系活物質B、及び従来のニッケル系活物質Aに係るリチウムイオンの移動距離を比較して示した概略図である。
【
図4】例示的な具現例によるリチウム二次電池の模式図である。
【
図5】
図5は、製造例1のニッケル系活物質前駆体の、3~4つの放射状の中心を含む多中心の構造を有する二次粒子の断面SEM画像である。
【
図6】
図6は、製造例2のニッケル系活物質前駆体の、3~4つの放射状の中心を含む多中心の構造を有する二次粒子の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例によるリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体、その製造方法、そこから形成されたニッケル系活物質、及びそれを含む正極を具備したリチウム二次電池について詳細に説明する。以下では、例示として提示されるものであり、それにより、本発明が制限されるものではなく、本発明は、特許請求の範囲の範疇によってのみ定義される。
【0013】
本明細書において、用語「粒子状構造体」は、複数の一次粒子が凝集して形成された粒子形態の構造体を意味する。
【0014】
本明細書において、用語「等方配列(isotropical arrangement)」は、物体を観察する方向が異なっても、その性質が変わらない配列であり、方向性を知ることができない配列を意味する。
【0015】
本明細書において、用語「多中心(multicenter)」は、1つの粒子内において、複数の中心を有することを意味する。該多中心粒子は、粒子表面から粒子中心にリチウムイオンが移動しなければならない長さが短縮される。リチウムイオンの移動距離が短縮されるので、内部抵抗が低下し、充放電効率及び長寿命に有利な粒子構造になる。
【0016】
本明細書において、用語「放射形中心」は、
図2A及び
図2Bに図示されているように、多孔性コア部と、多孔性コア部上に放射形に配列される一次粒子を具備するシェル部と、を含む粒子状構造体の中心を意味する。
【0017】
本明細書において、「放射形」は、
図2A及び
図2Bに図示されているように、シェル部が具備する一次粒子の長軸が、粒子状構造体の表面に垂直である方向、または垂直である方向と±30°までの方向をなすように配列される形態を意味する。
【0018】
本明細書において、粒子の「大きさ」は、粒子が球形である場合、平均径を示し、粒子が非球型である場合には、平均長軸長を示す。平均粒径は平均粒径(D50)であり、これは50%での累積粒径分布に対応する粒径として定義され、これは試料の50%がそれより下にある粒径を表す。粒子の大きさは、粒子サイズ分析機(PSA:particle size analyzer)を利用して測定することができる。
【0019】
本明細書において、用語「気孔サイズ」は、気孔が球形または円形である場合、該気孔サイズは、気孔の平均径、または気孔の開口幅(opening width)を意味する。該気孔が楕円形であるような非球形または非円形である場合、該気孔サイズは、平均長軸長を意味する
【0020】
本明細書において、用語「不規則多孔性気孔」は、気孔サイズ及び形態が規則的ではなく、均一性がない気孔を意味する。該不規則多孔性気孔を含むコア部は、シェル部と異なり、非定形粒子を含み、そのような非定形粒子は、シェル部と異なり、規則性なしに配列される。
【0021】
以下の図面において、同一参照符号は、同一構成要素を指し、図面上において、各構成要素の大きさは、説明の明瞭さ及び便宜さのために誇張されている。また、以下で説明される実施例は、単に例示的なものに過ぎず、そのような実施例から、多様な変形が可能である。また、以下で説明する層構造において、「上部」や「上」と記載された表現は、接触して真上にあるものだけではなく、非接触で上にあるものも含む。
【0022】
一具現例によるリチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体は、粒子状構造体を複数個具備する二次粒子を含み、該粒子状構造体が、多孔性コア部、及び多孔性コア部上に放射形に配置される一次粒子を具備するシェル部を含み、該二次粒子は、複数の放射形中心を含む。
【0023】
図1を参照すれば、リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体は、複数の粒子状構造体100を具備する二次粒子200を含む。
図2A及び
図2Bを参照すれば、粒子状構造体100が、多孔性コア部10、及び多孔性コア部10上に放射形に配置される一次粒子30を具備するシェル部20を含む。
図1、
図2A及び
図2Bを参照すれば、二次粒子200は、複数の粒子状構造体100を含み、1つの粒子状構造体100は、1つの放射形中心を含む。従って、二次粒子200は、複数の放射形中心を含む。
【0024】
図1、
図2A、及び
図2Bを参照すれば、二次粒子200が、複数の粒子状構造体100の組立体として、複数の放射形中心を含むので、1つの粒子状構造体からなる一般的な二次粒子に比べ、充放電時のリチウムイオンの拡散距離が短縮される。従って、そのような二次粒子200からなるニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。また、粒子状構造体100のコア部10が多孔性であり、コア部10上に、一次粒子30が放射形に配置され、シェル部20を構成するので、充放電時の一次粒子30の体積変化を効果的に受容する。従って、充放電時、二次粒子200の体積変化による二次粒子200の亀裂を抑制する。
【0025】
図2A及び
図2Bを参照すれば、「シェル部20」は、粒子状構造体100の中心から表面までの総距離のうちの、最外郭から30ないし50長さ%、例えば、40長さ%の領域、または粒子状構造体100の表面から、2μm以内の領域を意味する。「コア部10」は、粒子状構造体100の中心から最外郭までの総距離のうち、中心から50ないし70長さ%、例えば、60長さ%の領域、または粒子状構造体100の表面から2μm以内の領域を除いた残り領域を意味する。粒子状構造体100の中心は、例えば、粒子状構造体100の幾何学的中心(geometrical center)である。
図2A及び
図2Bにおいて、粒子状構造体100が完全な球形に図示されているが、粒子状構造体100は、球形に限定されるものではなく、球形または非球形である。非球形粒子状構造体100は、例えば、楕円形、正六面体形、直方体計のような多様な形態を有することができるが、それらに限定されるものではない。
図2A及び
図2Bにおいて、粒子状構造体100が完全な粒子形態を有するが、そのような粒子状構造体100が複数個組み立てられて得られる
図1の二次粒子200においては、粒子状構造体100の一部が、他の粒子状構造体と重複されることにより、粒子状構造体100は、部分的な粒子形態を有する。
【0026】
図1、
図2A及び
図2Bを参照すれば、二次粒子200は、多中心を有し、等方配列に配置される複数の粒子状構造体100からなる。二次粒子200が、複数の粒子状構造体100を含み、粒子状構造体100ごとに中心に該当する多孔性コア部10を含むので、二次粒子200は、多中心を有する。従って、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、二次粒子200の内部の複数のそれぞれの中心から二次粒子200の表面まで、リチウムイオンが移動する経路が短縮される。結果として、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易となる。また、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、二次粒子200が含む複数の粒子状構造体100が、一定方向性なしに配置される等方配列配置を有するので、二次粒子200が配置される具体的な方向に係わりなく、均一なリチウムイオンの利用が可能である。
図3を参照すれば、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、1つの粒子状構造体からなる二次粒子Aにおいて、リチウムイオンの第1移動距離L1は、二次粒子の半径に該当するが、複数の粒子状構造体からなる二次粒子Bにおいて、リチウムイオンの第2移動距離L2は、粒子状構造体の半径に該当するので、第2移動距離L2が第1移動距離L1に比べてさらに短い。従って、ニッケル含量を増加させなくても、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易になり、放電容量が増加する。
【0027】
図1、
図2A及び
図2Bを参照すれば、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の長軸31が二次粒子200の表面の法線方向でもある。例えば、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の長軸31が、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の(100)面または(110)面の法線方向に配置される。二次粒子200の表面を構成する一次粒子の50%以上、50%ないし90%、60%ないし90%、70%ないし80%において、一次粒子の長軸31が二次粒子200の表面の法線方向でもある。例えば、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の50%以上、50%ないし90%、60%ないし90%、70%ないし80%において、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の長軸31が、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の(100)面または(110)面の法線方向に配置される。二次粒子200の表面を構成する一次粒子の長軸31が、二次粒子200の表面の法線方向である場合、例えば、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の長軸31が、二次粒子200の表面を構成する一次粒子の(100)面または(110)面の法線方向に配置される、あるいは二次粒子200の表面を構成する一次粒子の長軸31の方向が[100]方向または[110]方向である場合、ニッケル系活物質と電解液との界面において、リチウム拡散が容易であり、ニッケル系活物質内部へのリチウムイオンの拡散も容易である。従って、そのような二次粒子200からなるニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。
【0028】
図1を参照すれば、二次粒子200は、例えば、複数の粒子状構造体100が組み立てられる形態により、球形または非球形である。二次粒子200の最頻度粒子の球形化度は、0.850ないし0.980、または0.880ないし0.950である。そのような球形化度を有するニッケル系活物質前駆体、及びそこから得られるニッケル系活物質がそのような範囲の球形化度を有することにより、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。
【0029】
図2Bを参照すれば、例示的な1つの一次粒子30は、短軸と長軸とを有する非球形粒子である。短軸は、一次粒子30の任意の両末端の距離が最も短い地点を連結した軸であり、長軸は、一次粒子30の任意の両末端の距離が最長である地点を連結した軸である。一次粒子30の短軸と長軸との比は、例えば、1:2ないし1:20、1:3ないし1:20、または1:5ないし1:15である。一次粒子30がそのような範囲の短軸と長軸との比を有することにより、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。
【0030】
図2Bを参照すれば、一次粒子30は、非球形粒子であり、例えば、プレート粒子(plate particle)を含む。該プレート粒子は、互いに離隔されて対向する2個の表面を有する粒子であり、2個の表面間の距離である厚みに比べ、表面の長さが長い。該プレート粒子の表面長は、表面を定義する2個の長さのうちさらに長い方の値である。表面を定義する2個の長さは、互いに異なっていても同じであってもよく、厚みに比べて大きい。該プレート粒子の厚みが短軸長であり、表面長が長軸長である。該プレート粒子が有する表面の形態は、三面体、四面体、五面体、六面体のような多面体であるか、あるいは円形、楕円形でもあるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、プレート粒子の表面形態として使用することができるものであるならば、いずれも可能である。該プレート粒子は、例えば、ナノディスク、四角形ナノシート、五角形ナノシート、六角形ナノシートである。該プレート粒子の具体的な形態は、二次粒子が製造される具体的な条件によっても異なる。該プレート粒子の対向する2個の表面が互いに平行ではなく、表面と側面との角度も、多様に変形され、表面と側面とのコーナーも、ラウンド状でもあり、表面及び側面が、それぞれ平面または曲面でもある。該プレート粒子の長軸が、粒子状構造体100の多孔性コア10部上に放射形に配列され、シェル部20を構成する。該プレート粒子の短軸長と長軸長との比は、例えば、1:2ないし1:20、1:3ないし1:20、または1:5ないし1:15である。例示的な1つのプレート粒子の平均厚は、100ないし250nm、または100nmないし200nmで、平均表面長は、250nmないし1,100nm、または300nmないし1,000nmである。該プレート粒子の平均表面長は、平均厚対比で、2ないし10倍である。該プレート粒子がそのような範囲の厚み、平均表面長、及びそれらの比率を有することにより、該プレート粒子が、多孔性コア部上に放射形に配置されることがさらに容易になり、結果として、該プレート粒子を含むニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。
【0031】
図1を参照すれば、ニッケル系活物質前駆体において、二次粒子200の大きさは、例えば、5μmないし25μm、または8μmないし20μmである。二次粒子200がそのような範囲の大きさを有することにより、ニッケル系活物質前駆体において、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。
図1、
図2A及び
図2Bを参照すれば、ニッケル系活物質前駆体において、粒子状構造体100の大きさは、例えば、2μmないし7μm、3μmないし6μm、3μmないし5μm、または3μmないし4μmである。粒子状構造体100がそのような範囲の大きさを有することにより、複数の粒子状構造体100が組み立てられて等方配列配置を有することが容易になり、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質において、リチウムイオンの利用がさらに容易になる。
【0032】
図2A及び
図2Bを参照すれば、粒子状構造体100が含む多孔性コア部10において、気孔の大きさは、150nmないし1μm、150nmないし550nm、または200nmないし800nmである。また、粒子状構造体100が含むシェル部20の気孔サイズは、150nm未満、100nm以下、または20ないし90nmである。粒子状構造体100が含む多孔性コア部10の気孔度(porosity)は、5ないし15%、または5ないし10%である。また、粒子状構造体100が含むシェル部20の気孔度は、1ないし5%、または1ないし3%である。粒子状構造体100がそのような範囲の気孔サイズ及び気孔度を有することにより、ニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質の容量特性がすぐれる。例示的な1つの粒子状構造体100において、シェル部20の気孔度は、多孔性コア部10の気孔度に比べて低く制御される。例えば、多孔性コア部10における気孔サイズ及び気孔度は、シェル部20における気孔サイズ及び気孔度に比べて大きくて不規則的に制御される。粒子状構造体100の多孔性コア部10及びシェル部20での気孔度が、そのような範囲及び関係を満足するとき、シェル部20の緻密度が、多孔性コア部10比べて増大することにより、粒子状構造体100と電解液との副反応が効果的に抑制される。
【0033】
例示的な1つの粒子状構造体100において、多孔性コア部10には、閉じた気孔が存在し、シェル部20には、閉じた気孔及び/または開かれた気孔が存在する。閉じた気孔は、電解質などが含まれ難いのに比べ、開かれた気孔は、粒子状構造体100の気孔内部に電解質などを含む。また、粒子状構造体100の多孔性コア部10には、不規則多孔性気孔が存在することができる。該不規則多孔性構造を含むコア部10は、シェル部20と同様に、プレート粒子を含み、コア部10のプレート粒子は、シェル部20と異なり、規則性なしに配列されている。
【0034】
前記ニッケル系活物質前駆体は、下記化学式1で表示される化合物でもある。
[化学式1]
Ni1-x-y-zCoxMnyMz(OH)2
【0035】
前記化学式1で、Mは、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)及びアルミニウム(Al)からなるグループのうちから選択される元素であり、x≦1-x-y-z、y≦1-x-y-z、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1、0<1-x-y-z<1である。そのように、化学式1のニッケル系活物質前駆体においては、ニッケル含量は、コバルト含量に比べて多いか、あるいはそれと同じであり、ニッケル含量は、マンガン含量に比べて多いか、あるいはそれと同じである。前記化学式1において、0<x≦1/3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.05、1/3≦1-x-y-z≦0.95でもある。一具現例によれば、化学式1において、xは、0.1ないし0.3であり、yは、0.05ないし0.3であり、zは、0でもある。
【0036】
前記ニッケル系活物質前駆体は、例えば、Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2、Ni0.7Co0.15Mn0.15(OH)2、Ni0.7Co0.1Mn0.2(OH)2、Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2、Ni1/3Co1/3Mn1/3(OH)2、Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)2またはNi0.85Co0.1Al0.05(OH)2でもある。
【0037】
他の一具現例によるニッケル系活物質前駆体の製造方法は、供給原料を第1供給速度で供給して撹拌し、前駆体シード(seed)を形成する第1段階と、前記第1段階で形成された前駆体シードに、供給原料を第2供給速度で供給して撹拌し、前駆体シードを成長させる第2段階と、前記第2段階で成長された前駆体シードに、供給原料を第3供給速度で供給して撹拌し、前駆体シード成長を調節する第3段階と、を含み、該供給原料は、錯化剤、pH調節剤及びニッケル系活物質前駆体形成用金属原料を含み、該ニッケル系活物質前駆体形成用金属原料の第2供給速度は、第1供給速度より速く、第3供給速度は、第2供給速度より速い。
【0038】
第1段階、第2段階及び第3段階において、該金属原料の供給速度を順次に上昇させることにより、前述の新たな構造を有するニッケル系活物質前駆体が得られる。第1段階、第2段階及び第3段階において、反応温度は、40~60℃であり、撹拌動力は、0.5~6.0kW/m2であり、pHは、10ないし12範囲であり、反応混合物が含む錯化剤の含量は、0.3ないし0.6M、例えば、0.35ないし0.45Mの範囲である。そのような範囲において、前述の構造にさらに符合するニッケル系活物質前駆体が得られる。撹拌動力は、撹拌速度に比例する。
【0039】
第1段階において、錯化剤及びpH調節剤を含み、pHが制御された水溶液を含む反応器に、金属原料、錯化剤を一定速度で投入しながらpHを制御し、前駆体シードを形成及び成長させる。第1段階において、前駆体粒子の成長速度が0.30±0.05μm/hrでもある。第1段階において、反応混合物の撹拌動力は、1.5kW/m2以上4kW/m2以下、または3.0kW/m2であり、pHは、10.0ないし12.0範囲でもある。例えば、第1段階において、金属原料の供給速度は、0より大きいないし10.0L/hr、例えば、5.0L/hrであり、錯化剤の供給速度は、金属原料の投入速度対比で、0.1ないし0.6倍、例えば、0.12倍である。反応混合物の温度は、40ないし60℃、例えば、50℃であり、反応混合物のpHは、10.5ないし11.50である。
【0040】
第2段階において、反応条件を変更し、第1段階で生成された前駆体シードを成長させる。第2段階において、前駆体シードの成長速度は、第1段階の前駆体シードの成長速度と同一でありか、あるいはそれより20%以上増大させる。第2段階において、金属原料の供給速度は、第1段階の金属原料の供給速度と比較し、1.2倍以上、例えば、1.2倍ないし2.5倍であり、反応混合物での錯化剤濃度は、第1段階での錯化剤濃度を基準にし、0.05M以上、例えば、0.05ないし0.15M増大されるように供給することができる。第2段階において、反応混合物の撹拌動力は、1kW/m2以上3kW/m2以下、または2.5kW/m2であり、pHは、10.5ないし11.0の範囲でもある。第2段階で得られる前駆体粒子の平均粒径(D50)は、9ないし12μm、例えば、約10μmでもある。
【0041】
第3段階において、前駆体シードに対して、粒子の成長速度を調節し、リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体を得る。第2段階において、前駆体粒子の平均粒径(D50)が9ないし12μm、例えば、約10μmに達すれば、第3段階を進める。第3段階においては、前駆体粒子の成長速度を第2段階より2倍以上、例えば、3倍以上増大させることができる。そのために、第2段階を経た反応器内部の反応生成物の一部を除去し、反応器内部において、反応生成物の濃度を希釈させる。反応器内部から除去された生成物は、他の反応器でも使用される。第3段階において、金属原料の供給速度は、第2段階の金属原料の供給速度と比較し、1.1倍以上、例えば、1.1倍ないし1.5倍であり、反応混合物での錯化剤濃度は、第2段階での錯化剤濃度と同一であるか、あるいは第2段階での錯化剤濃度を基準にし、0.05M以上、例えば、0.05ないし0.15M増大されるように供給することができる。第3段階において、沈殿物が急速成長し、ニッケル系活物質前駆体が得られる。第3段階において、反応混合物の撹拌動力は、0.5kW/m2以上2kW/m2以下、または2kW/m2であり、pHは10.5ないし11の範囲でもある。
【0042】
該前駆体製造方法において、第1段階、第2段階及び第3段階に進むにつれ、金属原料の供給速度は、順次に増大することができる。例えば、金属原料の第2段階での供給速度は、第1段階での供給速度を基準に、10ないし50%増大し、第3段階での供給速度は、第2段階での供給速度を基準に、10ないし50%増大することができる。そのように、金属原料の供給速度を漸次増大させるにより、前述の構造にさらに符合するニッケル系活物質前駆体が得られる。
【0043】
前駆体製造方法において、金属原料は、ニッケル系活物質前駆体の組成を考慮し、それに対応する金属前駆体を利用することができる。該金属原料は、例えば、金属カーボネート、金属サルファイト、金属ナイトレート、金属クロリド、金属フッ化物などであるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、金属前駆体として使用されるものであるならば、いずれも可能である。ニッケル(Ni)含有化合物として、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及びフッ化ニッケルからなる群から選択された1種以上を利用することができる。例えば、金属(M)含有化合物として、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、フッ化マンガン、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及びフッ化コバルトからなる群から選択された1種以上を利用することができる。
【0044】
前駆体製造方法において、第1段階、第2段階、第3段階に進むにつれ、反応器において、反応混合物の撹拌動力が順次に低下される。第1段階において撹拌動力は、1.5kW/m2以上4kW/m2以下であり、第2段階において撹拌動力は、1kW/m2以上3kW/m2以下であり、第3段階において撹拌動力は、0.5kW/m2以上2kW/m2以下でもある。そのように、撹拌動力が漸次低減されることにより、前述の構造にさらに符合するニッケル系活物質前駆体が得られる。また、該前駆体製造方法において、第1段階、第2段階、第3段階に進むにつれ、反応器において反応混合物の撹拌速度は、順次に低減される。そのように、撹拌速度が漸次低減されることにより、前述の構造にさらに符合するニッケル系活物質前駆体が得られる。
【0045】
前駆体製造方法において、第1段階、第2段階及び第3段階に進むにつれ、反応器において、反応混合物のpHは、維持されるか、あるいは順次低減される。例えば、第1段階ないし第3段階での反応混合物のpHは、反応温度が50℃であるとき、10.0ないし11.50の範囲でもある。例えば、第3段階での反応混合物のpHは、反応温度が50℃であるとき、第1段階の反応混合物のpHと同一であるか、あるいは第1段階の反応混合物のpHに比べ、0.5ないし1.5、または0.5ないし1.0低い。例えば、反応温度50℃において、第2段階での反応混合物のpHは、第1段階での反応混合物のpHと同一であるか、あるいは第1段階での反応混合物のpHに比べ、0.5ないし1.0低く、第3段階での反応混合物のpHは、第2段階での反応混合物のpHと同一であるか、あるいは第2段階での反応混合物のpHに比べ、0.35ないし0.55低い。そのように、反応混合物のpHが維持されるか、あるいは順次低減されることにより、前述の構造にさらに符合するニッケル系活物質前駆体が得られる。
【0046】
前駆体製造方法において、第2段階での反応混合物が含む錯化剤の濃度は、第1段階での反応混合物が含む錯化剤の濃度に比べ、上昇されるか、あるいは維持され、第3段階での反応混合物が含む錯化剤の濃度は、第2段階での反応混合物が含む錯化剤の濃度に比べ、上昇されるか、あるいは維持される。
【0047】
該ニッケル系活物質前駆体粒子の成長速度制御のために、粒子を成長させる金属原料の投入量を、第1段階対比で第2段階において、15ないし35%、例えば、約25%上昇させ、第3段階においては、第2段階対比で、20ないし35%、例えば、約33%上昇させることができる。また、第2段階においては、該錯化剤(e.g., アンモニア水(水酸化アンモニウム))投入量を、第1段階の該錯化剤(e.g., アンモニア水)投入量を基準にし、10ないし30%、例えば、約20%増加させ、粒子の緻密度を上昇させることができる。
【0048】
pH調節剤は、反応器内部において、金属イオンの溶解度を低め、金属イオンが水酸化物として析出されるようにする役割を行う。該pH調節剤は、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)などである。pH調節剤は、例えば、水酸化ナトリウムである。
【0049】
錯化剤は、共沈反応において、沈殿物の形成反応速度を調節する役割を行う。該錯化剤は、水酸化アンモニウム(NH4OH)、クエン酸(citric acid)、アクリル酸、酒石酸、グリコール酸などである。該錯化剤の含量は、一般的なレベルで使用される。該錯化剤は、例えば、アンモニア水である。
【0050】
他の一具現例によるニッケル系活物質は、前述のニッケル系活物質前駆体から得られる。該ニッケル系活物質は例えば、下記化学式2で表示される化合物である。
[化学式2]
Lia(Ni1-x-y-zCoxMnyMz)O2
【0051】
前記化学式2で、Mは、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、タングステン(W)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)及びアルミニウム(Al)からなるグループのうちから選択される元素であり、1.0≦a≦1.3、x≦1-x-y-z、y≦1-x-y-z、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1、0<1-x-y-z<1でもある。
【0052】
化学式2で表示される化合物は、ニッケル含量がコバルト含量に比べて多く、ニッケル含量がマンガン含量に比べて多い。前記化学式2において、1.0≦a≦1.3、0<x≦1/3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.05、1/3≦(1-x-y-z)≦0.95でもある。
【0053】
化学式2でaは、例えば、1ないし1.1であり、xは、0.1ないし0.3であり、yは、0.05ないし0.3であり、zは、0でもある。
【0054】
該ニッケル系活物質において、例えば、ニッケル含量は、遷移金属総含量を基準にし、33モル%ないし95モル%、例えば、50ないし90モル%、例えば、60ないし85モル%でもある。該遷移金属総含量は、前記化学式2において、ニッケル、コバルト、マンガン及びMの総含量を示す。
【0055】
該ニッケル系活物質は、例えば、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.7Co0.15Mn0.15O2、LiNi0.7Co0.1Mn0.2O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2またはLiNi0.85Co0.1Al0.05O2でもある。
【0056】
該ニッケル系活物質は、リチウムが結晶構造内に配置され、水酸化物が酸化物に変更されたものを除いては、前述のニッケル系活物質前駆体と、実質的に類似/同一の粒子構造及び特性を有することができる。
【0057】
該ニッケル系活物質が含む二次粒子は、多中心を有し、等方配列に配置される複数の粒子状構造体からなるので、二次粒子表面から中心部までのリチウムイオン及び電子の移動距離が短くなるので、リチウムイオンの挿入、脱離が容易になり、電子の伝達が容易になる。また、該ニッケル系活物質が含む粒子状構造体は、多孔性コア部、及び多孔性コア部上に放射形に配置される一次粒子を具備することにより、充放電時、ニッケル系活物質の体積を効果的に受容するので、ニッケル系活物質のストレスが低減される。従って、前述のニッケル系活物質前駆体から得られるニッケル系活物質は、ニッケル含量を増加させなくても、同一組成対比で、容量特性にさらにすぐれる。
【0058】
ニッケル系活物質前駆体からニッケル系活物質を製造する方法は、特別に限定されるものではなく、例えば、乾式でもある。
【0059】
該ニッケル系活物質は、例えば、リチウム前駆体及びニッケル系活物質前駆体を一定モル比で混合し、それを600ないし800℃で、一次熱処理(低温熱処理)する段階を含んで製造することができる。
【0060】
該リチウム前駆体は、例えば、水酸化リチウム、フルオロ化リチウム、炭酸リチウム、またはその混合物を使用する。該リチウム前駆体と該ニッケル系活物質前駆体との混合比は、例えば、前記化学式2のニッケル系活物質を製造することができるように、化学量論的に調節される。
【0061】
該混合は、乾式混合でもあり、ミキサなどを利用して実施することができる。該乾式混合は、ミリングを利用して実施することができる。該ミリング条件は、特別に限定されるものではないが、出発物質として使用した前駆体の微粉化のような変形がほとんどないように実施することができる。ニッケル系活物質前駆体と混合するリチウム前駆体のサイズを事前に制御することができる。該リチウム前駆体のサイズ(平均粒径)は、5ないし15μm、例えば、約10μm範囲である。そのようなサイズを有するリチウム前駆体を、ニッケル系活物質前駆体と300ないし3,000rpmでミリングを実施することにより、要求される混合物を得ることができる。該ミリング過程において、ミキサ内部温度が30℃以上に上がる場合には、ミキサ内部温度を常温(25℃)範囲に維持するように冷却過程を経ることができる。
【0062】
低温熱処理は、酸化性ガス雰囲気下で実施される。該酸化性ガス雰囲気は、酸素または空気のような酸化性ガスを利用し、例えば、前記酸化性ガスは、酸素または空気の10ないし20体積%と、不活性ガス80~90体積%とからなる。該低温熱処理は、リチウム前駆体及びニッケル系活物質前駆体の反応が進められながら、緻密化温度以下の範囲で実施することができる。該緻密化温度は、結晶化が十分になされ、活物質が提供する充電容量を具現することができる温度である。該低温熱処理は、例えば、600ないし800℃、具体的には、650ないし800℃で実施される。該低温熱処理時間は、熱処理温度などによって可変的であるが、例えば、3ないし10時間である。
【0063】
該ニッケル系活物質の製造方法は、低温熱処理後、反応器内部からの排気を抑制し、酸化性ガス雰囲気で遂行される二次熱処理(高温熱処理)段階を追加することができる。該高温熱処理は、例えば、700ないし900℃で実施される。高温熱処理時間は、高温熱処理温度などによって可変的であるが、例えば、3ないし10時間である。
【0064】
他の一具現例によるリチウム二次電池は、前述のリチウム二次電池用ニッケル系活物質を含む正極、負極、及びそれら間に介在された電解質を含む。
【0065】
リチウム二次電池の製造方法は、特別に限定されるものではなく、当該技術分野で使用される方法であるならば、いずれも可能である。該リチウム二次電池は、例えば、下記の方法によっても製造される。
【0066】
正極及び負極は、集電体上に、正極活物質層形成用組成物及び負極活物質層形成用組成物をそれぞれ塗布して乾燥させて作製される。
【0067】
正極活物質形成用組成物は、正極活物質、導電剤、バインダ及び溶媒を混合して製造されるが、前記正極活物質として、一具現例による正極活物質を利用する。
【0068】
該バインダは、活物質と導電剤などとの結合、及び活物質において、集電体に対する結合の助けとなる成分であり、正極活物質の総重量100重量部を基準に、0.5ないし50重量部で添加される。そのようなバインダの非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、多様な共重合体などを挙げることができる。
【0069】
該導電剤は、正極活物質の総重量100重量部を基準にし、0.5ないし50重量部を使用する。該導電剤としては、当該電池に化学的変化を誘発せずに、導電性を有したものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックのようなカーボン系物質;炭素ファイバや金属ファイバなどの導電性ファイバ;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカ;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用される。
【0070】
該溶媒の含量は、正極活物質の総重量100重量部を基準にし、10ないし300重量部を使用する。該溶媒の含量が前記範囲であるとき、正極活物質層を形成するための作業が容易である。該溶媒の非制限的な例として、N-メチルピロリドンなどを使用する。
【0071】
前述のバインダ、導電剤及び溶媒の含量は、一般的なレベルである。
【0072】
該正極集電体は、3ないし500μmの厚みであり、当該電池に化学的変化を誘発せずに、高い導電性を有するものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、熱処理炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面を、カーボン・ニッケル・チタン・銀などで表面処理したものなどが使用される。該集電体は、その表面に、微細な凹凸を形成し、正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態が可能である。
【0073】
それと別途に、負極活物質、バインダ、導電剤、溶媒を混合し、負極活物質層形成用組成物を準備する。前記負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質が使用される。前記負極活物質の非制限的な例として、黒鉛・炭素のような炭素系材料、リチウム金属及びその合金、シリコンオキサイド系物質などを使用することができる。
【0074】
該バインダは、負極活物質の総重量100重量部を基準に、0.5ないし50重量部で添加される。そのようなバインダの非制限的な例は、正極と同一種類を使用することができる。
【0075】
該導電剤は、負極活物質の総重量100重量部を基準にし、0ないし5重量部を使用する。該導電剤の含量が前記範囲であるとき、最終的に得られる電極の伝導度特性にすぐれる。例えば、導電性の良好な黒鉛を負極活物質として用いる場合には、負極活物質層において導電剤を省略してもよい。
【0076】
該溶媒の含量は、負極活物質の総重量100重量部を基準にし、10ないし300重量部を使用する。該溶媒の含量が前記範囲であるとき、負極活物質層を形成するための作業が容易である。該溶媒の非制限的な例として、水、N-メチルピロリドンなどを使用する。
【0077】
前述の導電剤及び溶媒は、正極製造時と同一種類の物質を使用することができる。
【0078】
該負極集電体としては、一般的に、3ないし500μm厚に作られる。そのような負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せずに、導電性を有したものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、熱処理炭素、銅やステンレススチールの表面を、カーボン・ニッケル・チタン・銀などで表面処理したもの、アルミニウム・カドミウム合金などが使用される。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成し、負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体のように、多様な形態でも使用される。
【0079】
そのような過程によって作製された正極と負極との間に分離膜を介在させる。
【0080】
該分離膜は、気孔径が0.01~10μmであり、厚みは、一般的に、5~300μmであるものを使用する。具体的な例として、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、またはガラスファイバで作られたシートや不織布などが使用される。該電解質として、ポリマーなどの固体電解質が使用される場合には、固体電解質が分離膜を兼ねることもできる。
【0081】
リチウム塩含有非水系電解質は、非水電解液とリチウム塩とからなる。該非水電解質としては、非水電解液、有機固体電解質、無機固体電解質などが使用される。
【0082】
前記非水電解液としては、非制限的な例を挙げれば、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、N,N-ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、ピロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非陽子性有機溶媒が使用される。
【0083】
該有機固体電解質としては、非制限的な例を挙げれば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリプロピレンオキサイド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデンなどが使用される。前記無機固体電解質としては、非制限的な例を挙げれば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N-LiI-LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4-LiI-LiOH、Li3PO4-Li2S-SiS2などが使用される。
【0084】
該リチウム塩は、前記非水系電解質に溶解されやすい物質であり、非制限的な例を挙げれば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、(FSO2)2NLi、リチウムクロロボレート、低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウムおよびイミドなどが使用される。
【0085】
図4は、一具現例によるリチウム二次電池の代表的な構造を概略的に図示した断面図である。
【0086】
図4を参照すれば、リチウム二次電池1は、正極3、負極2及び分離膜4を含む。前述の正極3、負極2及び分離膜4が巻き取られたり折り畳まれたりし、電池ケース5に収容される。次に、前記電池ケース5に有機電解液が注入され、キャップ(cap)アセンブリ6に密封され、リチウム二次電池1が完成される。前記電池ケース5は、円筒状、角形、薄膜型などでもある。例えば、前記リチウム二次電池1は、大型薄膜型電池でもある。前記リチウム二次電池は、リチウムイオン電池でもある。
【0087】
正極と負極との間に分離膜が配置され、電池構造体が形成される。前記電池構造体がバイセル構造に積層された後、有機電解液に含浸され、得られた結果物がパウチに収容されて密封されれば、リチウムイオンポリマー電池が完成される。また、前記電池構造体は、複数個積層されて電池パックを形成し、そのような電池パックが高容量及び高出力が要求される全ての機器に使用される。例えば、ノート型パソコン、スマートフォン、電気車両(EV:electric vehicle)などにも使用される。また、前記リチウム二次電池は、高温で保存安定性、寿命特性及び高率特性にすぐれるので、電気車両に使用される。例えば、プラグインハイブリッド車(PHEV:plug-in hybrid electricvehicle、PHEV)などのハイブリッド車にも使用される。
【0088】
以下の実施例及び比較例を介してさらに詳細に説明する。ただし、該実施例は、例示するためのものであり、それらだけに限定されるものではない。
【0089】
製造例1:ニッケル系活物質前駆体の製造(6:2:2):3ステップ方法
共浸法を介して、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2)を合成した。下記製造過程において、ニッケル系活物質前駆体を形成する金属原料としては、硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)、硫酸コバルト(CoSO4・7H2O)及び硫酸マンガン(MnSO4・H2O)を6:2:2モル比になるように、溶媒である蒸溜水に溶解させて混合溶液を準備した。また、錯化合物形成のために、アンモニア水(NH4OH)と、沈澱剤としての水酸化ナトリウムと、を準備した。
【0090】
1段階:供給速度5.0L/hr、撹拌動力1.5kW/m
3
、NH
4
OH 0.35M、pH10.5~11.0
撹拌器が装着された反応器に、濃度が0.35mol/L(M)であるアンモニア水を入れた。撹拌動力1.5kW/m3、反応温度50℃を維持しながら、2mol/L(M)で、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を5.0L/hrで、0.35mol/L(M)で、アンモニア水を0.53L/hrで投入した。次に、水酸化ナトリウムを、pH維持のために投入した。反応器内の反応混合物のpHは、10.5~11.0に維持した。そのようなpH範囲で、6時間撹拌し、第1段階反応を実施した。
【0091】
2段階:供給速度6.5L/hr、撹拌動力1.0kW/m
3
、NH
4
OH 0.40M、pH10.5~11.0
反応を始めて5時間後、反応器内撹拌動力を1.0kW/m3に低下させ、反応温度50℃を維持しながら、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を6.5L/hr、0.40mol/L(M)で、アンモニア水を0.77L/hrで投入した。反応器内の反応混合物のpHを10.5~11.0に維持した。反応器内粒子の平均粒径D50がおよそ11μmに達するまで16時間撹拌し、第2段階反応を進めた。
【0092】
3段階:供給速度8.50L/hr、撹拌動力0.5kW/m
3
、NH
4
OH 0.40M、pH10.5~11.0
第2段階反応を実施した後、反応器内粒子の平均粒径(D50)が、およそ11μmに達すれば、反応器内撹拌動力を0.5kW/m3に低下させ、反応温度約50℃を維持しながら、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を8.50L/hr、0.40mol/L(M)で、アンモニア水を1.03L/hrで投入し、NaOHは、pH維持のために投入した。反応器内の溶液のpHは、10.5~11.0に維持した。そのようなpH範囲で5時間撹拌し、第3段階反応を実施した。次に、反応器内のスラリー溶液を濾過し、高純度の蒸溜水で洗浄した後、熱風オーブンで24時間乾燥させ、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2)を得た。
【0093】
製造例2:ニッケル系活物質前駆体の製造(7:1.5:1.5)
製造例1において、金属原料として硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)、硫酸コバルト(CoSO4・7H2O)及び硫酸マンガン(MnSO4・H2O)の6:2:2モル比の代わりに、7:1.5:1.5モル比になるように、混合溶液を準備し、下記のような方法により、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.7Co0.15Mn0.15(OH)2)を合成した。
【0094】
1段階:供給速度5.0L/hr、撹拌動力3.0kW/m
3
、NH
4
OH 0.35M、pH11.0~11.5
撹拌器が装着された反応器に、濃度が0.35mol/L(M)であるアンモニア水を入れた。撹拌動力3.0kW/m3、反応温度50℃を維持しながら、2mol/L(M)で、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を5.0L/hrで、0.35mol/L(M)で、アンモニア水を0.53L/hrで投入した。次に、水酸化ナトリウムを、pH維持のために投入した。反応器内の反応混合物のpHは、11.0~11.5に維持した。そのようなpH範囲で6時間撹拌し、第1段階反応を実施した。
【0095】
2段階:供給速度6.50L/hr、撹拌動力2.5kW/m
3
、NH
4
OH 0.40M、pH10.5~11.00
第1段階反応を始めて6時間後、反応器内撹拌動力を2.5kW/m3に低下させ、反応温度50℃を維持しながら、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を6.50L/hr、0.40mol/L(M)で、アンモニア水を0.77L/hrで投入した。反応器内の反応混合物のpHは、10.5~11.0に維持した。反応器内粒子の平均粒径D50がおよそ10μmに達するまで16時間撹拌し、第2段階反応を進めた。
【0096】
3段階:供給速度8.50L/hr、撹拌動力2.0kW/m
3
、NH
4
OH 0.45M、pH10.5~11.0
第2段階反応を実施した後、反応器内粒子の平均粒径(D50)がおよそ10μmに達すれば、反応器内撹拌動力を2.0kW/m3で低下させ、反応温度約50℃を維持しながら、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を8.50L/hr、0.45mol/L(M)で、アンモニア水を1.15L/hrで投入し、NaOHは、pH維持のために投入した。反応器内の反応混合物のpHは、10.5~11.0に維持した。そのようなpH範囲で6時間撹拌し、第3段階反応を実施した。次に、反応器内のスラリー溶液を濾過し、高純度の蒸溜水で洗浄した後、熱風オーブンで24時間乾燥させ、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.7Co0.15Mn0.15(OH)2)を得た。
【0097】
比較製造例1:ニッケル系活物質前駆体の製造(6:2:2):1ステップ方法
下記比較製造過程において、ニッケル系活物質前駆体を形成する金属原料としては、硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)、硫酸コバルト(CoSO4・7H2O)及び硫酸マンガン(MnSO4・H2O)を6:2:2モル比になるように、溶媒である蒸溜水に溶解させて混合溶液を準備し、錯化合物形成のために、アンモニア水(NH4OH)と、沈澱剤としての水酸化ナトリウムとを準備した。
【0098】
撹拌器が装着された反応器に、濃度が0.50mol/Lであるアンモニア水を付加し、撹拌速度1.5kW、反応温度50℃を維持しながら、2mol/L(M)で、金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)を6.00L/hr、0.50mol/L(M)で、アンモニア水を1.4L/hrの速度で同時に投入し、NaOHは、pH維持のために投入した。反応器内の反応混合物は、pH11.4~11.6に維持した。そのようなpH範囲で33時間撹拌した後、反応が定常状態になれば、オーバーフロー(overflow)される反応結果物を収集した。
【0099】
収集された反応結果物を洗浄した後、150℃で、24時間熱風乾燥を実施し、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2)を製造した。
【0100】
比較製造例2:ニッケル系活物質前駆体の製造
製造例1において、第2段階で金属原料(硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合溶液)の供給速度を6.50L/hrの代わりに、4.50L/hrにし、反応器内部のアンモニア水濃度を、0.40mol/Lから0.30mol/Lになるようにしたことを除いては、製造例1と同一方法により、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2)を製造した。しかし、第2段階において、多量の微粉が発生し、粒子サイズをそれ以上成長させることができなかった。
【0101】
比較製造例3:ニッケル系活物質前駆体の製造
製造例1において、第2段階において、撹拌動力を、1.0kW/m3の代わりに、3.0kW/m3にしたことを除いては、製造例1と同一方法により、ニッケル系活物質前駆体(Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2)を製造した。しかし、第2段階において、多量の微粉が発生し、粒子サイズをそれ以上成長させることができなかった。
【0102】
実施例1:ニッケル系活物質の製造
製造例1によって製造されたニッケル系活物質前駆体である複合金属ヒドロキシド(Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2)及び水酸化リチウム(LiOH)を、乾式で1:1モル比で混合し、それに対して、酸素雰囲気で約700℃で6時間熱処理を実施し、ニッケル系活物質(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を得た。そのように得たニッケル系活物質の内部は、多孔性構造を有し、外部は、放射形配列構造を有した。そのようなニッケル系活物質に対し、空気雰囲気で約800℃で6時間熱処理を実施し、一次粒子の放射形中心を、少なくとも2個以上分散させ、一次粒子凝集体が多中心等方配列に配置された二次粒子を含むニッケル系活物質(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を得た。
【0103】
実施例2:ニッケル系活物質の製造
製造例1のニッケル系活物質前駆体の代わりに、製造例2のニッケル系活物質前駆体を使用したことを除いては、実施例1と同一方法によって実施し、ニッケル系活物質を製造した。
【0104】
比較例1:ニッケル系活物質の製造
製造例1によって製造されたニッケル系活物質前駆体の代わりに、比較製造例1によって製造されたニッケル系活物質前駆体を使用したことを除いては、実施例1と同一方法によって実施し、ニッケル系活物質を製造した。
【0105】
製作例1:コインセル(coin cell)製造
正極活物質として、実施例1によって得たニッケル系活物質(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を利用し、コインセルを次のように製造した。
【0106】
実施例1によって得たニッケル系活物質(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)96g、ポリフッ化ビニリデン2g、及び溶媒であるN-メチルピロリドン47g、導電剤であるカーボンブラック2gの混合物を、ミキサ機を利用して気泡を除去し、均一に分散された正極活物質層形成用スラリーを製造した。
【0107】
前記過程によって製造されたスラリーを、ドクターブレードを使用し、アルミニウム箔上にコーティングし、薄い極板状に作った後、それを135℃で3時間以上乾燥させた後、圧延過程と真空乾燥過程とを経て正極を作製した。
【0108】
前記正極と、相対極としてのリチウム金属対極とを使用し、2032タイプのコインセルを製造した。前記正極とリチウム金属対極の間には多孔質ポリエチレン(PE)フィルムからなる分離膜(厚み:約16μm)を介在して、電解液を入れ込んで2032タイプコインセルを作製した。前記電解液として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:5の体積比で混合された溶媒に溶解された1.1M LiPF6が含まれた溶液を使用した。
【0109】
製作例2:コインセル製造
実施例1のニッケル系活物質の代わりに、実施例2のニッケル系活物質を使用したことを除いては、製作例1と同一方法によって実施し、コインセルを製造した。
【0110】
比較製作例1:コインセル製造
実施例1のニッケル系活物質の代わりに、比較例1のニッケル系活物質を使用したことを除いては、製作例1と同一方法によって実施し、コインセルを作製した。
【0111】
評価例1:電子走査顕微鏡(SEM)分析
製造例1、製造例2及び比較製造例1によって製造されたニッケル系活物質前駆体に対する電子走査顕微鏡分析を実施した。該電子走査顕微鏡は、マゼラン400L(magellan 400L、FEI社)を利用し、サンプル断面は、JEOL社のCP2を利用し、6kV、150μA、4時間ミリングして前処理を実施した。そして、該電子走査顕微鏡分析は、350V条件で実施した。
【0112】
SEM分析結果によれば、
図5及び
図6に示すように、製造例1及び製造例2によって製造されたニッケル系活物質前駆体において、二次粒子がそれぞれ3個あるいは4個の放射形中心を含む多中心構造であった。粒子状構造体が、多孔性コア部と、多孔性コア部上に一次粒子が放射形に配列した構造を含むシェル部と、を有し、複数の粒子状構造体がそれぞれ含む放射形中心が等方配列されることにより、ニッケル系活物質前駆体の二次粒子をなしていることを確認した。しかし、比較製造例1のニッケル系活物質前駆体は、1つの二次粒子が1つの中心のみを含んでいる。
【0113】
製造例1、製造例2及び比較製造例1によって製造されたニッケル系活物質前駆体を一部破断し、その断面に対するSEM分析を実施した。該分析結果、製造例1及び製造例2のニッケル系活物質前駆体において、一次粒子がプレート粒子を含むということを確認した。
【0114】
評価例2:組成分析
製造例1、製造例2及び比較製造例1によって製造されたニッケル系活物質前駆体の組成を、誘導結合プラズマ分光法(ICP)を利用して分析し、その結果を下記表1に示した。
【0115】
【0116】
表1から分かるように、製造例1及び比較製造例1のニッケル系活物質前駆体は、Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2の組成を有し、製造例2のニッケル系活物質前駆体は、Ni0.7Co0.15Mn0.15(OH)2の組成を有するということを確認した。
【0117】
評価例3:初期充放電効率(I.C.E:initial charge efficiency)
【0118】
製作例1,2及び比較製作例1によって製造されたコインセルに対し、25℃で、0.1Cで1回充放電を実施し、化成(formation)を進めた。次に、0.1Cで充放電を1回実施し、初期充放電特性を確認した。充電時には、CC(constant current)モードで始め、その後、CV(constant voltage)に変え、4.3V、0.05Cでカットオフされるようにセッティングし、放電時には、CCモードで、3.0Vでカットオフされるようにセッティングした。下記数式1により、初期充放電効率(I.C.E)を測定して表2に示した。
[数式1]
初期充放電効率[%]=[最初サイクル放電容量/最初サイクル充電容量]×100
【0119】
【0120】
表2から分かるように、製作例1及び製作例2によって製造されたコインセルは、比較製作例1の場合と比較し、0.1Cで充放電効率(初期特性)が向上された。
【0121】
評価例4:充放電特性(律速性能)
製作例1、製作例2及び比較製作例1によって製造されたコインセルに対し、定電流(0.2C)及び定電圧(4.3V、0.05Cカットオフ)の条件で充電させた後、10分間休止(rest)させ、1回目サイクルから9回目サイクルまで、各サイクルごとに放電時に、定電流条件下で、電流量をそれぞれ0.1C、0.1C、0.1C、0.2C、0.33C、0.5C、1C、2C及び3Cに変更しながら、3.0Vになるまで放電させた。すなわち、充放電サイクル回数が増加するとき、放電速度を、それぞれ0.1C、0.1C、0.1C、0.2C、0.33C、0.5C、1C、2C及び3Cに増大させることにより、コインセルの高率放電特性(rate capability)を評価した。下記数式2により、高率放電特性を測定して表3に示した。
[数式2]
高率放電特性[%]=(セルを特定定電流の速度で放電させるときの放電容量)/(セルを0.1Cの速度で放電させるとき(3回目サイクル)の放電容量)×100
【0122】
【0123】
表3から分かるように、製作例1及び製作例2によって製造されたコインセルは、比較製作例1の場合と比較し、優れた非容量を持ち、同様の高率特性高率放電特性を示した。
【0124】
評価例5:高温寿命特性
製作例1、製作例2及び比較製作例1によって製造されたコインセルにおいて、高温寿命を次のように評価した。まず、0.1Cで1回充放電を実施して化成を進めた。次に、0.1Cで充放電を1回実施し、初期充放電特性を確認し、45℃で1Cで50回充放電を反復しながら、サイクル特性を測定した。充電時には、CCモードで始め、その後、CVに変え、4.3V、0.05Cでカットオフされるようにセッティングし、放電時には、CCモードで3.0Vでカットオフされるようにセッティングした。その測定結果を表4に示した。
【0125】
【0126】
表4に示された製作例1及び製作例2によって製造されたコインセルは、比較製作例1の場合と比較し、優秀な高温寿命特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の、リチウム二次電池用ニッケル系活物質前駆体、その製造方法、それから形成されたリチウム二次電池用ニッケル系活物質、及びそれを含む正極を含むリチウム二次電池は、例えば、バッテリ関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 リチウム電池
2 負極
3 正極
4 分離膜
5 電池ケース
6 キャップアセンブリ
10 コア部
20 シェル部
30 一次粒子
31 一次粒子の長軸
100 粒子状構造体
200 二次粒子