(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物およびパターン構造体
(51)【国際特許分類】
G03F 7/029 20060101AFI20220624BHJP
G03F 7/033 20060101ALI20220624BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20220624BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20220624BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20220624BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20220624BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
G03F7/029
G03F7/033
G03F7/027 502
C08F220/06
C08F220/18
C08F2/44 C
C08F2/50
(21)【出願番号】P 2020512324
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2019015009
(87)【国際公開番号】W WO2019194286
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2018073163
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大場 達也
(72)【発明者】
【氏名】加茂 誠
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187654(JP,A)
【文献】特開2016-095500(JP,A)
【文献】特開2007-249148(JP,A)
【文献】特開2016-157451(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/029
G03F 7/033
G03F 7/027
C08F 220/06
C08F 220/18
C08F 2/44
C08F 2/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ可溶性のバインダーポリマーと、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物であって、
前記バインダーポリマーの酸価が、
113mgKOH/g以上
167mgKOH/g以下であり、
前記光重合開始剤が、
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドまたはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドであり、
前記光重合開始剤の含有量が、前記感光性樹脂組成物の全固形分に対して
0.7質量%以下であり、
前記光重合性化合物の平均I/O値が、
1.21~
1.28の範囲であ
り、
前記バインダーポリマーの含有量が、前記感光性樹脂組成物における全固形分に対し、30~90質量%である、感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記感光性樹脂組成物から前記光重合開始剤のみを除いた固形分の、厚さ0.1mmあたりの全光線透過率が93%以上である、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記バインダーポリマーが、下記式(I)で表される構造単位と、下記式(II)で表される構造単位および下記式(III)で表される構造単位の少なくとも一方の構成単位とを有する重合体である、請求項1または2に記載の感光性樹脂組成物。
【化1】
ここで、前記式(I)中、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。
また、前記式(II)中、R
2は、水素原子またはメチル基を表し、R
3は、炭素数1~30のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。
また、前記式(III)中、R
4は、水素原子またはメチル基を表し、R
5は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、炭素数5以上のシクロアルキル基、または、ハロゲン原子を表し、AOは、オキシアルキレン基を表し、mは、0~5の整数を表し、sは、1~5の整数を表す。mが2~5である場合、複数のR
5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
前記光重合性化合物の少なくとも1種が、エチレン性不飽和結合を分子内に少なくとも3個有し、かつ、下記式(1)で表される構造を分子内に有する化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【化2】
ここで、前記式(1)中、*は、前記化合物に含まれる前記構造以外の構造との結合位置を表す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基を表す。ただし、前記アルキレン基の炭化水素を構成する水素原子は、水酸基またはメチル基に置換されていてもよい。nは、1~20の整数を表す。
【請求項5】
基板と、前記基板上に請求項1~4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を用いて形成された、厚さ50μm以上5mm以下の硬化物とを有する、パターン構造体。
【請求項6】
前記硬化物が、複数の線状のパターン部を構成し、
前記複数の線状のパターン部のうち、隣接するパターン部同士の間に形成されるスペース領域の幅Wが、前記パターン部の高さHよりも小さい、請求項5に記載のパターン構造体。
【請求項7】
前記スペース領域の幅Wに対する、前記パターン部の高さHが、3以上40以下である、請求項6に記載のパターン構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物、およびそれを用いて形成されるパターン構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブ駆動可能な電気光学素子として、液晶素子が広く普及している。液晶素子では、一対の基板の間に封入された液晶分子に電界を印加することにより液晶層の複屈折性を変化させて光の透過状態を制御することができ、バックライトおよびカラーフィルターと組み合わせることで情報や画像を視覚的に表示することができる。
また、別の電気光学素子として、例えば、特許文献1には、調光素子が提案されている。調光素子では、基板間に高分子分散液晶を封入することで、電界印加により散乱状態と透過状態とを切り替えることによってアクティブに光の透過状態を切り替えることができる。
【0003】
近年ではセンシング手法およびセンサー阻止の技術進歩に伴い、可視光以外の受光素子を用いて情報通信やセンシングを行う技術が検討されている。人間には知覚できない遠赤外光や、テラヘツル波およびミリ波などの電磁波を用いたセンサーが実用化され、それらと組み合わせるアクティブ変調素子として、上述した液晶素子、調光素子の原理と同様のアクティブ電磁波デバイスの応用が検討されている(例えば、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-110463号公報
【文献】特開平4-245803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来公知の液晶素子および調光素子は、その利用目的から、基板間に挟まれる変調材料層(例えば、液晶素子における液晶層)の厚み(以下、「ギャップ」とも略す。)が薄く、また、変調材料層領域の素子全面積に占める割合(以下、「占有率」とも略す。)は90%以上である。
しかし、アクティブ変調素子の用途によって、変調材料層のギャップや占有率の設計は変化する。例えば、高周波帯の偏波解消用アクティブパターンリターダーを考えると、対象波長が数μmと長いために、従来の材料で有意な位相差を与えるには、ギャップは1mm程度の厚さが要求され、また、占有率は50%程度でよい。
【0006】
また、従来公知の液晶素子および調光素子では、ギャップを維持するために柱状の樹脂材料または無機微粒子でスペーサーを設けることが検討されてきた。
しかし、厚さ数十μm以上のギャップを設ける場合、特に、変調材料層のアスペクト比(変調材料層に形成するパターンの幅に対するギャップの厚さの比)が高い場合には、従来知られた材料では良好な形状のギャップを形成することができないことが明らかとなった。
【0007】
そこで、本発明は、パターン構造体とした時に、良好な形状で、かつ、高アスペクト比のギャップを形成することができる感光性樹脂組成物およびパターン構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ギャップの形状が正しく形成されない原因を追求した結果、パターン露光の照射光が膜厚方向に十分に行き渡らず、厚さ方向の膜強度に傾斜が生じること、更に、従来の薄膜のパターンに比べより長時間の現像を要することで現像液がパターン部にも浸透し膜質に影響を与えることが原因であることを突きとめた。
【0009】
そこで、本発明者らは、上記原因について鋭意検討した結果、ネガ型の感光性樹脂組成物において、アルカリ可溶性のバインダーポリマーとして、所定の酸価を有するバインダーポリマーを配合し、光重合開始剤として、フォトブリーチング性に優れる化合物を特定量配合し、所定のI/O値を満たす光重合性化合物を配合することにより、パターン構造体とした時に、良好な形状で、かつ、高アスペクト比のギャップ(スペース領域)を形成することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0010】
[1] アルカリ可溶性のバインダーポリマーと、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物であって、
バインダーポリマーの酸価が、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
光重合開始剤が、アシルホスフィンオキサイド化合物またはチタノセン化合物であり、
光重合開始剤の含有量が、感光性樹脂組成物の全固形分に対して1.0質量%以下であり、
光重合性化合物の平均I/O値が、1.1~1.5の範囲である、感光性樹脂組成物。
【0011】
[2] 感光性樹脂組成物から光重合開始剤のみを除いた固形分の、厚さ0.1mmあたりの全光線透過率が93%以上である、[1]に記載の感光性樹脂組成物。
【0012】
[3] バインダーポリマーが、下記式(I)で表される構造単位と、下記式(II)で表される構造単位および下記式(III)で表される構造単位の少なくとも一方の構成単位とを有する重合体である、[1]または[2]に記載の感光性樹脂組成物。
【化1】
ここで、上記式(I)中、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。
また、上記式(II)中、R
2は、水素原子またはメチル基を表し、R
3は、炭素数1~30のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。
また、上記式(III)中、R
4は、水素原子またはメチル基を表し、R
5は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、炭素数5以上のシクロアルキル基、または、ハロゲン原子を表し、AOは、オキシアルキレン基を表し、mは、0~5の整数を表し、sは、1~5の整数を表す。mが2~5である場合、複数のR
5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0013】
[4] 光重合性化合物の少なくとも1種が、エチレン性不飽和結合を分子内に少なくとも3個有し、かつ、下記式(1)で表される構造を分子内に有する化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【化2】
ここで、上記式(1)中、*は、化合物に含まれる構造以外の構造との結合位置を表す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基を表す。ただし、アルキレン基の炭化水素を構成する水素原子は、水酸基またはメチル基に置換されていてもよい。nは、1~20の整数を表す。
【0014】
[5] 基板と、基板上に[1]~[4]のいずれかに記載の感光性樹脂組成物を用いて形成された、厚さ50μm以上5mm以下の硬化物とを有する、パターン構造体。
[6] 硬化物が、複数の線状のパターン部を構成し、
複数の線状のパターン部のうち、隣接するパターン部同士の間に形成されるスペース領域の幅Wが、パターン部の高さHよりも小さい、[5]に記載のパターン構造体。
[7] スペース領域の幅Wに対する、パターン部の高さHが、3以上40以下である、[6]に記載のパターン構造体。
【発明の効果】
【0015】
以下に示すように、本発明によれば、パターン構造体とした時に、良好な形状で、かつ、高アスペクト比のギャップを形成することができる感光性樹脂組成物およびパターン構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明のパターン構造体の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例1で作製したパターン構造体におけるパターン部の電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、比較例1で作製したパターン構造体におけるパターン部の電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、比較例3で作製したパターン構造体におけるパターン部の電子顕微鏡写真である。
【
図5A】
図5Aは、パターン部のテーパー角度を説明するための模式図である。
【
図5B】
図5Bは、パターン部のテーパー角度を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
また、本明細書において、各成分は、各成分に該当する物質を1種単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上の物質を併用する場合、その成分についての含有量とは、特段の断りが無い限り、併用した物質の合計の含有量を指す。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
また、本明細書において、“(メタ)アクリレート”はアクリレート及びメタクリレートを表し、“(メタ)アクリル”はアクリル及びメタクリルを表し、“(メタ)アクリロイル”はアクリロイル及びメタクリロイルを表す。
【0019】
[感光性樹脂組成物]
本発明の感光性樹脂組成物は、アルカリ可溶性のバインダーポリマーと、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物である。
本発明においては、バインダーポリマーの酸価が、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。
また、本発明においては、光重合開始剤が、アシルホスフィンオキサイド化合物またはチタノセン化合物であり、かつ、光重合開始剤の含有量が、感光性樹脂組成物の全固形分に対して1.0質量%以下である。
また、本発明においては、光重合性化合物の平均I/O値が、1.1~1.5の範囲である。
このような感光性樹脂組成物は、光照射によって露光部に重合反応が起こって現像液に対する溶解性が変化し、露光部と未露光部との溶解性の差によってパターン構造を形成することができる。
以下、本発明の感光性樹脂組成物に含まれる各成分を詳細に説明する。
【0020】
〔バインダーポリマー〕
本発明の感光性樹脂組成物に含まれるバインダーポリマー(以下、「バインダー」とも略す。)は、その酸価が100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下となるアルカリ可溶性のバインダーである。
【0021】
ここで、バインダーの酸価は、以下の方法で測定した値を採用する。
(1)固形分濃度(x(%))の樹脂溶液(y(g))をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートによって希釈し、固形分濃度が1質量%~10質量%の試料溶液を作製する。
(2)上記試料溶液に対して、電位差測定装置(平沼産業社製、装置名「平沼自動滴定装置COM-550」)を用いて、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液(力価a)で滴定を行い、滴定終点までに必要な水酸化カリウム・エタノール溶液の量(b(mL))を測定する。
(3)また、水に対して(2)と同様の方法で滴定を行い、滴定終点までに必要な水酸化カリウム・エタノール溶液の量(c(mL))を測定する。
(4)下記式で計算することにより、樹脂エマルジョンの固形分酸価を決定する。
固形分酸価(mgKOH/g)={5.611×(b-c)×a}/{(x/100)×y}
【0022】
バインダーの酸価は、100mgKOH/g以上であることによりアルカリ性溶媒との接触による溶解性に優れたものとなる、
また、バインダーの酸価が200mgKOH/g以下であると、アスペクト比が大きいギャップの形成に際して必要な、従来より強い条件での現像処理においても、形成されたパターン端部の直線性、いわゆるエッジラフネスが良好で、パターン構造体表面が滑らかな構造体を得ることができる。
【0023】
このようなアルカリ可溶性のバインダーとしては、例えば、特開2011-95716号公報の段落[0025]、特開2010-237589号公報の段落[0033]~[0052]に記載された樹脂を用いることができる。
【0024】
感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ可溶性のバインダーポリマーは、下記式(I)で表される構造単位を有し、下記式(II)で表される構造単位か下記式(III)で表される構造単位の少なくとも一方を有する重合体であることができる。
【0025】
【0026】
ここで、上記式(I)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、上記式(I)で表される構造単位は、重合性単量体であるアクリル酸又はメタクリル酸に基づく構造単位である。
【0027】
また、上記式(II)中、R2は水素原子又はメチル基を示し、R3は炭素数1~30のアルキル基またはシクロアルキル基を示す。R3は、炭素数が1~20のアルキル基またはシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が3~8のアルキル基であることが更に好ましい。
【0028】
上記式(II)で表される構造単位は、重合性単量体である(メタ)アクリル酸アルキルに基づく構造単位である。(メタ)アクリル酸アルキルの具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0029】
また、上記式(III)中、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5は炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシル基、アリール基(例えば、フェニル基、トルイル基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基など)、炭素数5以上のシクロアルキル基又はハロゲン原子を示し、AOはオキシアルキレン基を示し、mは0~5の整数を示し、sは1~5の整数を示す。mが2~5である場合、複数のR5は互いに同一でも異なっていてもよい。
ここで、オキシアルキレン基は、[OCnH2n]で表される基であり、nが1~5を示す。具体的には、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等が挙げられる。
また、アラルキル基に含まれるアルキレン基は、炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましい。
また、炭素数5以上のシクロアルキル基は、炭素数が20以下であることが好ましく、炭素数が10以下であることがより好ましい。
【0030】
上記式(III)で表される構造単位は、重合性単量体であるフェニル基及びオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルに基づく構造単位である。フェニル基及びオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、プロポキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、EO変性クミルフェノール(メタ)アクリレート、PO変性クミルフェノール(メタ)アクリレート、EO・PO変性クミルフェノール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
より具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸のランダム共重合体、ベンジル(メタ)アクリレート/アクリル酸のランダム共重合体、シクロヘキシル(メタ)アクリレート(a)/メチル(メタ)アクリレート(b)/(メタ)アクリル酸共重合体(c)のグリシジル(メタ)アクリレート付加物、アリル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸の共重合体、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの共重合体などが例示される。パターン形成性がより良好であるという観点から、カルボキシル基を有するバインダーを含有することが好ましい。カルボキシル基を有するバインダーを含有することで、エッジラフネスが良化する傾向がある。
【0032】
本発明の感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ可溶性のバインダーポリマーの含有量は、感光性樹脂組成物における全固形分に対し、30質量%~90質量%の範囲であることが好ましく、40質量%~80質量%の範囲であることがより好ましく、50質量%~70質量%の範囲であることがさらに好ましい。この範囲であると、厚い塗膜を形成した場合の膜厚の安定性が向上するとともに、現像液への溶解性に優れた塗膜を形成することができる。
【0033】
〔光重合性化合物〕
本発明の感光性樹脂組成物に含まれる光重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を有し、平均I/O値が1.1~1.5の範囲の化合物である。
ここで、「平均I/O値」とは、光重合性化合物ごとに、全光重合性化合物の総質量部に対する当該光重合性化合物の質量部の割合に、当該光重合性化合物のI/O値を乗じて平均したものである。光重合性化合物として単一の化合物を用いる場合は、その光重合性化合物のI/O値を平均I/O値として用いることができる。
【0034】
また、上記I/O値は、(無機性値)/(有機性値)とも呼ばれる各種有機化合物の極性を有機概念的に取り扱った値であり、各官能基にパラメータを設定する官能基寄与法の一つである。上記I/O値としては、詳しくは、有機概念図(甲田善生 著、三共出版(1984)KUMAMOTO PHARMACEUTICAL BULLETIN,第1号、第1~16項(1954年);化学の領域、第11巻、第10号、719~725項(1957年);フレグランスジャーナル、第34号、第97~111項(1979年);フレグランスジャーナル、第50号、第79~82項(1981年);などの文献に詳細に説明されている。上記I/O値は、0に近いほど非極性(疎水性、有機性の大きな)の有機化合物であることを示し、大きいほど極性(親水性、無機性の大きな)の有機化合物であることを示す。
本発明においては、上記I/O値は、“甲田善生ら著、「新版:有機概念図―基礎と応用」、2008年11月、三共出版”に記載された方法によって求めた「無機性(I)/有機性(O)」値である。
【0035】
詳細は不明であるが、本発明者らは、光重合性化合物が特定のI/O値の範囲、すなわち特定の親疎水性のバランスを有することによって、未露光部の現像液に対する溶解性と、露光部における現像液の浸透抑止とが両立でき、高アスペクト比のギャップを形成する場合であっても所望の形状通りパターンが形成できると考えている。
【0036】
本発明においては、形成されるギャップの膨潤を抑制できる理由から、上記光重合性化合物の平均I/O値は、1.10~1.25であることが好ましい。
【0037】
上記光重合性化合物としては、エチレン性不飽和結合を有していればよく、低分子の化合物であっても、オリゴマーであってもよい。
上記光重合性化合物の具体的としては、例えば、特許第4098550号の段落[0023]~[0024]に記載されたエチレン性不飽和二重結合含有モノマーの他、トリシクロデカンジオールジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、および、これらのエチレンオキシ変性体、プロピレンオキシ変性体などの2官能の重合性化合物等が挙げられる。
【0038】
上記光重合性化合物の他の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下、「DPHA」とも略す。)、ジペンタエリスリトール(ペンタ/ヘキサ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレートなどの、少なくとも3個のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物が挙げられ、これらのエチレンオキシ変性体、プロピレンオキシ変性体も、目的に応じて好ましく用いることができる。
また、ウレタン(メタ)アクリレート化合物などのウレタン系モノマーも好ましく用いることができる。
【0039】
本発明においては、形成されるギャップの形状がより良好となる理由から、上記光重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を2個または3個有していることが好ましく、3個有していることがより好ましい。
【0040】
本発明においては、上記光重合性化合物の少なくとも1種が、エチレン性不飽和結合を分子内に少なくとも3個有し、かつ、下記式(1)で表される構造を分子内に有している化合物(以下、「特定モノマー」とも略す。)であることが好ましい。
【化4】
【0041】
上記式(1)中、*は、上記特定モノマーに含まれる上記構造以外の構造との結合位置を表す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基を表す。ただし、アルキレン基の炭化水素を構成する水素原子は、水酸基またはメチル基に置換されていてもよい。nは、1~20の整数を表す。
ここで、Aは、エチレン(-CH2-CH2-)であるときはポリ(エチレンオキシ)と称され、プロピレン(-CH2-CH(CH3)-)であるときはポリ(プロピレンオキシ)と称されることもある。
【0042】
詳細は不明であるが、本発明者らはこうした構造を有していることによりアルキレン基に由来する疎水性とエーテル基に由来する親水性とのバランスから未露光部の溶解性に優れ、かつ、架橋性に優れ露光部の膨潤を強く抑制することでパターン形成性を向上することができると考えている。
【0043】
エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分中に占める割合が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に定めるものではないが、例えば、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。また、後述する無機粒子を配合する場合、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
〔光重合開始剤〕
本発明の感光性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物またはチタノセン化合物である。
また、光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分に対して1.0質量%以下である。
アシルホスフィンオキサイド化合物ならびにチタノセン化合物は、重合開始にかかる励起光照射によって励起光帯域の吸光係数が減少する、いわゆるフォトブリーチング性を有している。
【0045】
一般に光重合開始剤は励起波長の光を照射することによって分子が励起され、開裂反応等によって重合活性種を生成する。重合活性種の生成量は分子に到達する光のエネルギー量に概ね比例するため、十分に重合反応を進行させるためには一定量の光エネルギーを与える必要がある。しかし、ランベルト・ベール則により、照射した光は層内で吸収されて膜厚方向に向かい指数関数的に減衰するため、本発明が目的とする分厚い層では、光入射側の表面から離れて層の内部に入るに従い重合反応が進みにくくなる。その結果、パターンが下細りになる等意図と反するパターンが形成される、パターンの強度が不足してパターン倒れやエッジラフネスの悪化といった不具合を生じると考えられる。
【0046】
本発明者らは検討の結果、フォトブリーチング性を有する光重合開始剤を規定の濃度で添加した場合に、フォトブリーチングが適切に生じ、フォトブリーチング性によって層の内部まで重合反応が十分に進行すると考えている。その結果、パターンの下細り、および、パターン倒れやエッジラフネスの悪化を伴うことなく、意図どおりの形状を有するパターンを形成できると推測している。
【0047】
アシルホスフィンオキサイド化合物の具体例として、市販品としてはLucirin TPO、イルガキュア819(いずれもBASF社製)等が例示され、また、特公昭63-40799号公報、特公平5-29234号公報、特開平10-95788号公報、特開平10-29997号公報等に記載の化合物を挙げることできる。
アシルホスフィンオキサイド化合物は、未露光状態での吸収帯が430nm以下であり、露光によって概ね無色を呈するので、パターン構造体が可視域で無色であることが望ましい用途に好ましく用いることができる。
【0048】
チタノセン化合物の具体例として、市販品としては、イルガキュア784(BASF社製)などが例示され、また、欧州特許出願公開第122223号明細書、特開昭63-41483号公報、特開昭63-41484号公報、特開平2-249号公報、特開平2-291号公報、特開平3-12403号公報、特開平3-27393号公報などに記載の化合物を挙げることができる。
チタノセン化合物は未露光状態での吸収帯が一般に550nm付近まであるため、可視光を露光光源として利用することができる。例えば耐光性のために紫外線吸収剤を含んだ基板等にパターン構造体を設ける必要がある場合、紫外線吸収剤の影響を受けずにパターン露光が行えるため、好ましい。
【0049】
本発明においては、光重合開始剤の含有量は、0.01~1.0質量%であることが好ましく、0.01質量%以上1.0質量%未満であることがより好ましく、0.1~0.7質量%であることが更に好ましい。この範囲であると重合率が高く強靭なパターンが形成でき、かつ、これら光重合開始剤の未反応成分または反応生成物による着色が起こりにくく、感光性樹脂組成物層の深部まで重合反応を完結させることができる。
【0050】
本発明においては、パターン形成が容易となる理由から、本発明の感光性樹脂組成物から上記光重合開始剤のみを除いた固形分の、厚さ0.1mmあたりの全光線透過率が93%以上であることが好ましい。これは、光重合開始剤以外の成分が光吸収性を持たないことにより、光源より入射した光が、吸収または光源側に散乱されることなく膜内部にまで到達するため、本発明の目的である良好なパターン形成に大きく寄与するからである。
ここで、全光線透過率は、本発明の感光性樹脂組成物から上記光重合開始剤のみを除いた組成物を塗布し、乾燥させて固形分化した0.1mm厚の膜(以下、「サンプル膜」と略す。)に対してJIS K 7375:2008に準じた方法で測定した値を採用する。
具体的には、バックグラウンドとして透明な支持体(例えばガラス)を用い、支持体上のサンプル膜の全光線透過率を測定してバックグラウンドを除することによって測定した値を採用する。
【0051】
〔界面活性剤〕
本発明の感光性樹脂組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、又は、両性のいずれでも使用することができるが、好ましい界面活性剤はノニオン系界面活性剤である。界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤が好ましく、フッ素系界面活性剤がより好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、例えば、市販品である、メガファックF142D、同F172、同F173、同F176、同F177、同F183、同F479、同F482、同F554、同F780、同F781、同F781-F、同R30、同R08、同F-472SF、同BL20、同R-61、同R-90(DIC(株)製)、フロラードFC-135、同FC-170C、同FC-430、同FC-431、Novec FC-4430(住友スリーエム(株)製)、アサヒガードAG7105,7000,950,7600、サーフロンS-112、同S-113、同S-131、同S-141、同S-145、同S-382、同SC-101、同SC-102、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC-106(旭硝子(株)製)、エフトップEF351、同352、同801、同802(三菱マテリアル電子化成(株)製)、フタージェント250(ネオス(株)製)が挙げられる。また、上記以外にも、KP(信越化学工業(株)製)、ポリフロー(共栄社化学(株)製)、エフトップ(三菱マテリアル電子化成(株)製)、メガファック(DIC(株)製)、フロラード(住友スリーエム(株)製)、アサヒガード、サーフロン(旭硝子(株)製)、PolyFox(OMNOVA社製)等の各シリーズを挙げることができる。
【0052】
〔溶媒〕
本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じ溶媒を加えてもよい。溶媒で希釈することにより、塗布に適した粘度に調整でき、また、構成成分同士を均一に混合することが可能である。
使用される有機溶剤としては、公知の溶剤を用いることができ、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ブチレングリコールジアセテート類、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、アルコール類、エステル類、ケトン類、アミド類、ラクトン類等が例示できる。
【0053】
溶剤の沸点は、塗布性の観点から、100℃~300℃が好ましく、120℃~250℃がより好ましい。
本発明に用いることができる有機溶剤は、1種単独、又は、2種以上を併用することができる。沸点の異なる溶剤を併用することも好ましい。
【0054】
本発明の感光性樹脂組成物における有機溶剤の含有量は、塗布に適した粘度に調整するという観点から、固形分濃度として好ましくは3~50質量%、より好ましくは20~40質量%となるように添加することができる。
【0055】
〔その他の成分〕
本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、重合禁止剤、酸化防止剤、密着改良剤等のその他の成分を添加することができる。また、“高分子添加剤の新展開((株)日刊工業新聞社)”に記載の各種紫外線吸収剤や、金属不活性化剤等を本発明の感光性樹脂組成物に添加してもよい。
また、本発明の感光性樹脂組成物は、顔料および染料を実質的に含有していないことが好ましい。なお、「実質的に含有していない」とは、感光性樹脂組成物の全固形分に対して0.1質量%未満の量であることをいう。
【0056】
本発明の感光性樹脂組成物は、形成されるギャップの膨潤を抑制できる理由から、I/O値が、0.5~1.5であることが好ましく、0.7~1.0であることがより好ましい。
ここで、感光性樹脂組成物のI/O値は、感光性樹脂組成物に含まれる成分ごとに、I/O値にモル比を乗じた値を算出し、これらを合計した値をいう。
【0057】
[パターン構造体]
本発明のパターン構造体は、基板と、基板上に本発明の感光性樹脂組成物を用いて形成された、厚さ50μm以上5mm以下の硬化物とを有する、パターン構造体である。
硬化物の厚みは、70μm~3mmであることが好ましい。
【0058】
本発明のパターン構造体は、硬化物がパターン部を構成していることが好ましい。
パターン部の形状としては、例えば、線状、ストライプ状、格子状などが挙げられる。
【0059】
本発明のパターン構造体は、硬化物が、複数の線状のパターン部を構成し、複数の線状のパターン部のうち、隣接するパターン部同士の間に形成されるスペース領域の幅Wが、パターン部の高さHよりも小さい(すなわち、H>W)であることが好ましく、スペース領域の幅Wに対するパターン部の高さH、すなわち、アスペクト比(H/W)が3以上40以下であることが好ましい。
このような高アスペクト比の溝は、従来よく知られたレジスト様のパターン形成材料を用いて形成することが困難であるが、本発明の感光性樹脂組成物を利用することにより、好適な形状で設けることが可能である。
【0060】
図1は、本発明のパターン構造体の一例を示す模式的な斜視図である。
図1に示すパターン構造体10は、基板1と、基板1上に設けられた金属膜2と、透明電極2上にストライプ状に設けられたパターン部3とを有し、パターン部3同士の間にスペース領域4が形成された構造体である。
また、
図1中、符号Hは、パターン部の高さを表し、符号Wは、スペース領域の幅を表す。
【0061】
〔基板〕
上記基板としては、無機基板、樹脂基板、樹脂複合材料などが挙げられる。
無機基板としては、例えば、ガラス、石英、シリコン、シリコンナイトライド、及び、それらのような基板上にモリブデン、チタン、アルミ、銅などを蒸着した複合基板が挙げられる。
樹脂基板としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズアゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アイオノマー樹脂、シアネート樹脂、架橋フマル酸ジエステル、環状ポリオレフィン、芳香族エーテル、マレイミドーオレフィン、セルロース、エピスルフィド樹脂等の合成樹脂からなる基板が挙げられる。
【0062】
〔金属膜〕
本発明の感光性樹脂組成物は、蒸着またはスパッタリングにより製膜された金属膜や金属酸化物に対する密着がよいため、本発明のパターン構造体は、上記基板上に、スパッタリングにより製膜された金属膜を有していることが好ましい。
金属としては、チタン、銅、アルミニウム、インジウム、スズ、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、クロム、銀、ネオジウム及びこれらの酸化物又は合金であることが好ましく、モリブデン、チタン、アルミニウム、銅及びこれらの合金であることが更に好ましい。なお、金属や金属酸化物は1種単独で用いても、複数種を併用してもよい。
また、金属膜は、上記金属の酸化物、窒化物、炭化物であってもよい。
【0063】
〔パターン構造体の製造方法〕
本発明のパターン構造体を製造する方法としては、公知の方法を特に制限はなく用いることができるが、以下の(1)~(3)および(5)の工程を含むことが好ましい。
(1)本発明の感光性樹脂組成物を基板上に塗布する塗布工程
(2)塗布された感光性樹脂組成物から溶剤を除去する溶剤除去工程
(3)有機溶剤が除去された感光性樹脂組成物を光によって硬化する硬化工程
(5)現像によって未露光部を除去する現像工程
また、さらに工程(3)と工程(5)の間に、以下の(4)の工程を含むことが好ましい。また、工程(5)の後に、以下の(6)の工程を含むことが好ましい。
(4)光により硬化した硬化物を熱処理する熱処理工程
(6)形成されたパターン構造体に対し、さらに露光または加熱を行うポストキュア工程
【0064】
(1)の塗布工程では、本発明の感光性樹脂組成物を基板上に塗布して溶剤を含む湿潤膜とすることができる。感光性樹脂組成物を基板へ塗布する前にアルカリ洗浄やプラズマ洗浄といった基板の洗浄を行うことができる。更に基板洗浄後にヘキサメチルジシラザン等で基板表面を処理することができる。この処理を行うことにより、感光性樹脂組成物の基板への密着性を向上させることができる。
【0065】
本発明の感光性樹脂組成物を基板へ塗布する方法は特に限定されず、例えば、インクジェット法、スリットコート法、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法、流延塗布法、スリットアンドスピン法、印刷法等の方法を用いることができる。
【0066】
(2)の溶剤除去工程では、塗布された上記の膜から、減圧(バキューム)及び/又は加熱等により、溶剤を除去して基板上に乾燥塗膜を形成させることが好ましい。溶剤除去工程の加熱条件は、好ましくは70~130℃で30~300秒間程度である。
また、上記溶剤除去工程においては、感光性樹脂組成物中の有機溶剤を完全に除去する必要はなく、少なくとも一部が除去されればよい。
【0067】
(3)の硬化工程では、パターン露光により、光重合開始剤よりラジカルを発生させ、重合を行い、有機溶剤が除去された塗布膜をパターン硬化する工程である。工程(3)に用いることができる光照射手段としては、硬化可能であれば特に制限はないが、活性光線による露光光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、LED光源、エキシマレーザー発生装置などを用いることができ、g線(436nm)、i線(365nm)、h線(405nm)などの波長300nm以上450nm以下の波長を有する活性光線が好ましく使用できる。また、必要に応じて長波長カットフィルター、短波長カットフィルター、バンドパスフィルターのような分光フィルターを通して照射光を調整することもできる。また、コリメータやルーバーを通すことにより、照射光の平行度を高めることができる。全光線エネルギーの80%以上が主光線方向から±20°の範囲にあり、±15°の範囲、更には±10°の範囲にあることが好ましい。
露光装置としては、ミラープロジェクションアライナー、ステッパー、スキャナー、プ
ロキシミティ、コンタクト、マイクロレンズアレイ、レーザー露光、など各種方式の露光機を用いることができる。
【0068】
マスクを用いたパターン露光法を採る場合は、パターンがより正確に形成されるため、マスクと塗膜との距離は近い方が好ましいが、本発明のパターン構造体は通常のレジストパターンと異なり、硬化膜部の表面形状が平滑でなければならない場合があり、マスクと塗膜との間は接触させずに露光することが好ましい。塗膜とマスクとの間隔は好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは50μm以上150μm以下とすることができる。この間隔であると、大気の流動に起因する不測の接触が起こらず、かつ、パターンを精密に制御し、好ましいテーパー角度を形成することができる。露光に際し、塗膜およびマスクの間を減圧することにより空気の揺動による接触を予防することもできる。
【0069】
(4)の熱処理工程では、重合反応を完結させ、露光された領域の膜強度を高めるために必要に応じて行われる。(1)の工程にて溶剤を完全に除去していない場合は、この工程において完全に除去することが好ましい。また、真空処理、減圧処理、あるいは150℃以上の加熱処理を行うことにより溶剤以外の揮発成分を完全に除くことで、本発明のパターン構造体を含む各種の製品の耐久性を向上させることができる。
【0070】
(5)の現像工程では、未露光部を現像液に溶解あるいは分散させることによって除去しギャップを形成する、いわゆる現像処理を行う。かかる現像処理の方法としては、例えば浸漬法、揺動法、シャワー法、スプレー法、パドル法等の方法を利用することができる。また、現像処理条件は適宜調節することができ、例えば現像液の種類又は組成、現像液の濃度、現像時間、現像温度等を適宜決定することができる。
【0071】
本発明のパターン構造体の形成に際してはアルカリ現像液を用いることで良好なパターン形状を実現することができる。
このようなアルカリ現像液の有効成分としては、具体的に、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、アンモニア等の無機アルカリ性化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エタノールアミン等の有機アルカリ性化合物等を挙げることができる。
【0072】
アルカリ現像液は、上述したアルカリ性化合物を単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。通常は水に溶解してアルカリ現像液とすることができる。
また、上述したアルカリ性化合物の濃度は、0.001~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましい。
この濃度範囲であると、アスペクト比の高いパターンであっても良好に現像が進行し、かつ、硬化部表面が冒されることによる表面荒れを防止することができる。前述のアルカリ現像液による現像処理がなされた後は、水洗処理を施すことが好ましい。
【0073】
得られた本発明のパターン構造体は、ギャップ部分に任意の成分を充填すること、基材と接する面とは反対側の面でパターン構造体と接するように任意の他の基板を設けて封止すること等ができる。
例えば、パターン構造体のギャップに電磁波により透過性や屈折率異方性、光吸収スペクトル、誘電率が変化する媒体を封入し、外部から電界または磁界を印加することでアクティブに各種の特性が変化できる素子を構成することができる。
また、ギャップに流動性の媒体(空気を含む)を封入し、圧力によってその流動を検知することで動的センサーとして利用することもできる。
特に、従来知られた感光性樹脂組成物では困難であった、厚みが50μm以上でアスペクト比の高く、精密なギャップ形状を必要とするこれらの用途において、本発明の組成物ならびに本発明のパターン構造体は、極めて有用なものである。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中に記載の%及び部は特に断らない限り重量単位である。また、ポリスチレン換算重量平均分子量(以下、Mwという。)は、東ソー株式会社製ゲルパーミィエーションクロマトグラフィー(GPC)(商品名HLC-802A)により、ポリスチレン換算で測定した。
【0075】
<アルカリ可溶性のバインダーポリマーの合成>
アルカリ可溶性のバインダーポリマーとして、下記表1中のモノマー比率で合成した以下の共重合体を準備した。なお、下記表1中、BzMAは、メタクリル酸ベンジルを表し、MAAは、メタクリル酸メチルを表し、AAは、アクリル酸を表す。
【0076】
【0077】
[実施例1]
<感光性樹脂組成物の調製>
感光性樹脂組成物P1として、以下の組成物を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
感光性樹脂組成物P1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・アルカリ可溶性バインダーB1(I/O値:0.55) 60質量部
・光重合性化合物A
(A-GLY-9E、新中村化学(株)製、I/O値:1.24)
40質量部
・光重合開始剤
(イルガキュアTPO、BASF製、I/O値:1.56)
0.5質量部
・界面活性剤
(メガファックF-554、Dic製、I/O値:2.33)
0.1質量部
・溶媒 0.9質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0078】
<パターン構造体の作製>
40×40mmガラス基板上に、上述の感光性樹脂組成物P1をスピンコートにより塗布し、90℃で15分乾燥し、塗膜(乾燥後膜厚:100μm)を形成した。
次いで、この塗膜に対し、プロキシミティ露光機(ウシオ(株)製、UIS-5011)を用いて、マスク露光〔マスクパターン:L(透明部)/S(遮光部)=300μm/30μm〕を行った。露光量は、露光領域平均で100mJ/cm
2とし、マスクと塗膜との間に100μmの間隙を設けた。
パターン露光した塗膜を、小型現像機 AD-1200(MIKASA(株)製)にて、0.05質量%KOH水溶液を用い、シャワー5分間にて現像を行い、未露光部を除去することによって、基板上にパターン部(幅:300μm、高さ:100μm)およびスペース領域(幅:30μm、高さ:100μm、アスペクト比:3.3)が形成されたパターン構造体を作製した。
図2に、実施例1で作製したパターン構造体におけるパターン部の電子顕微鏡写真を示す。
【0079】
[実施例2~7および比較例1~6]
感光性樹脂組成物P1に代えて、下記表2に示す感光性樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてパターン構造体を作製した。
図3に、比較例1で作製したパターン構造体におけるパターン部の電子顕微鏡写真を示し、
図4に、比較例3で作製したパターン構造体におけるパターン部の電子顕微鏡写真を示す。
【0080】
[全光線透過率]
感光性樹脂組成物から光重合開始剤を除いた組成物を調製し、スピンコーターにて溶媒除去後の膜厚が100μmとなるように、アルカリ洗浄したガラス基板上に塗膜を設けた。これを、JIS K 7375:2008に準拠して、ガラス基板をバックグラウンドとして全光線透過率を測定した。結果を下記表2に示す。
【0081】
[I/O値]
感光性樹脂組成物のI/O値を上述した方法で算出した。結果を下記表2に示す。
【0082】
[形態評価]
形成した、パターン構造体の残膜、パターン部の膨潤、パターン部のテーパー角度を測定した。評価基準は以下のとりである。評価結果を下記表3に示す。
【0083】
<残膜>
作製したパターン構造体を切断し、その断面を電子顕微鏡で観察することにより、未露光部における残膜Rを以下の基準で判定した。
A:R<0.05μm
B:0.05μm≦R<0.2μm
C:0.2μm≦R<1μm
D:1μm≦R
【0084】
<膨潤>
作製したパターン構造体の平面部3×3mmの範囲を電子顕微鏡で観察し、パターン部が崩れている面積Sから以下の基準で硬化膜の膨潤を評価した。
A:S<1%
B:1%<S<5%
C:5%<S<20%
D:20%≦S
【0085】
<テーパー角度>
作製したパターン構造体を切断し、その断面を電子顕微鏡で観察し、パターン部のなす角度を画像解析によって計測した、
図5Aおよび
図5Bに示すテーパー角度θを測定し、以下の基準で評価した。なお、θ=0°を基板と垂直な角度と定義する。
A:θ<±3°
B:±3°≦θ<±10°
C:±10°≦θ<±20°
D:±20°≦θ
E:評価不可
【0086】
【0087】
【0088】
表2および表3に示す結果から、光重合開始剤の含有量が感光性樹脂組成物の全固形分に対して1.0質量%より多いと、テーパー角度が大きくなり、ギャップの形状が劣ることが分かった(比較例1)。
また、光重合性化合物の平均I/O値が1.1~1.5の範囲外であると、テーパー角度が大きくなり、ギャップの形状が劣ることが分かった(比較例2~3)。
また、バインダーポリマーの酸価が、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下の範囲外であると、テーパー角度が大きくなり、ギャップの形状が劣ることが分かった(比較例4~5)。
また、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチタノセン化合物のいずれにも該当しない光重合開始剤を用いた場合は、テーパー角度が大きくなり、ギャップの形状が劣ることが分かった(比較例4~5)。
【0089】
これに対し、バインダーポリマーの酸価が、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、また、光重合開始剤が、アシルホスフィンオキサイド化合物またはチタノセン化合物であり、光重合開始剤の含有量が、感光性樹脂組成物の全固形分に対して1.0質量%以下であり、更に、光重合性化合物の平均I/O値が、1.1~1.5の範囲であると、形成されるギャップが、高アスペクト比であるにも関わらず、形状が良好となることが分かった(実施例1~7)。
特に、実施例1と実施例2との対比から、光重合性化合物の平均I/O値が1.10~1.25であると、形成されるギャップの膨潤をより抑制できることが分かった。
また、実施例1、4および5の対比から、光重合性化合物の含有量が、感光性樹脂組成物の全固形分に対して0.2~0.7質量%であると、ギャップの形状がより良好となることが分かった。
また、実施例1と実施例6との対比から、光重合性化合物が、エチレン性不飽和結合を2個または3個有している化合物であると、ギャップの形状がより良好となることが分かった。
また、実施例1と実施例7との対比から、感光性樹脂組成物のI/O値が0.7~1.0であると、形成されるギャップの膨潤をより抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0090】
1 基板
2 金属膜
3 パターン部
4 スペース領域
10 パターン構造体