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特許7094745豆乳乳酸発酵食品用乳酸菌スターター及び豆乳乳酸発酵食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】豆乳乳酸発酵食品用乳酸菌スターター及び豆乳乳酸発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220627BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20220627BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20220627BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20220627BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20220627BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20220627BHJP
   C12R 1/46 20060101ALN20220627BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23C11/10
A23L11/00 Z
C12R1:225
C12R1:46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018055659
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019165667
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-26
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02630
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02631
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02632
(73)【特許権者】
【識別番号】595093049
【氏名又は名称】株式会社バイオテックジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 絵里香
(72)【発明者】
【氏名】梁田 健一
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-184320(JP,A)
【文献】特開平11-318371(JP,A)
【文献】特開2005-218390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳乳酸発酵食品の製造に使用される乳酸菌スターターであって、
ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランス(Lactobacillus paracasei tolerans)N-5株(受託番号NITE P-02630)、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエ(Lactococcus lactis hordniae) Lhana株(受託番号NITE P-02631)及びラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)Lpome-3株(受託番号NITE P-02632)からなる群から選択される1以上の乳酸菌株を含むことを特徴とする乳酸菌スターター。
【請求項2】
豆乳に請求項1に記載の乳酸菌スターターを加え、発酵させることを特徴とする豆乳乳酸発酵食品の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌スターターを乳酸菌密度が107~109cell/mlとなるように豆乳に加えることを特徴とする請求項2に記載の豆乳乳酸発酵食品の製造方法。
【請求項4】
前記豆乳が糖を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の豆乳乳酸発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳乳酸発酵食品用乳酸菌スターター及び豆乳乳酸発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、良質な植物性タンパク質を含有する豆乳等の大豆加工食品が注目されている。しかし、豆乳は2-ヘキサノールに由来する青臭み、サポニンに由来する苦味、イソフラボノイドに由来する収斂味等の不快味、不快臭を有するため、消費者から敬遠される原因となっていた。
この問題を解決するため、豆乳を乳酸発酵することにより、豆乳の風味を改善することが提案されている。特許文献1では、特定の乳酸生成菌株を含む混合種菌を用いて豆乳を発酵する豆乳の発酵方法が開示されている。特許文献2では、豆乳をStreptococcus sp.KSM-85-4株(FERM P-16574)で発酵させることを特徴とする大豆発酵食品の製造方法が開示されている。特許文献3では、特定の5種類の乳酸菌株を混合してなることを特徴とする、豆乳乳酸発酵食品の製造に使用される乳酸菌スターターが開示されている。特許文献4では、豆乳を、特定の物性を示す曳糸性菌体外多糖生産能を有するラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリスもしくはストレプトコッカス サーモフィラスを用いて発酵させることを特徴とする曳糸性豆乳発酵物の製法が開示されている。これらの発明により製造される豆乳の乳酸発酵食品は、発酵前の豆乳と比較すると大豆特有の青臭みや苦味、収斂味が軽減されているものの、牛乳を原料として製造されるヨーグルトと比較すると十分に軽減されているとは言えないものであった。
一方で、牛乳を原料として乳酸発酵させたヨーグルトは、pH4.0~4.5であり、強い酸味を有する食品である。豆乳を原料に用いた乳酸発酵食品の場合でも同様である。このような酸味は、一部の消費者の嗜好性に適合しない場合があった。この問題を解決するために各種検討されており、例えば、特許文献5では微細な繊維状セルロースを含有するpH4.6~5.1の酸性乳食品が、特許文献6では全遊離アミノ酸に対するロイシン、イソロイシン及びバリンからなる分岐鎖アミノ酸の割合が20%以上である酵母エキスを有効成分とする酸味低減剤が、特許文献7ではアドバンテームを飲食品に対して甘味の閾値以下の量含有することを特徴とする、酸味がマスキングされた飲食品が提案されている。しかしながら、添加するものにより食味や食感に変化が生じるため、必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平05-184320
【文献】特開平11-318371
【文献】特開2005-218390
【文献】特開2016-178911
【文献】特開2008-220268
【文献】特開2014-200212
【文献】特開2016-93176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大豆特有の青臭みや苦味、収斂味が低減され、特定の酸味マスキング剤等を添加しなくともマイルドな酸味を有する豆乳乳酸発酵食品を製造するためのスターター、及び、該スターターを使用した豆乳乳酸発酵食品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、豆乳乳酸発酵食品の製造に使用される乳酸菌スターターであって、ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランス(Lactobacillus paracasei tolerans)N-5株(受領番号NITE P-02630)、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエ(Lactococcus lactis hordniae) Lhana株(受託番号NITE P-02631)及びラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)Lpome-3株(受託番号NITE P-02632)からなる群から選択される1以上の乳酸菌株を混合してなる乳酸菌スターター及び該乳酸菌スターターを使用した豆乳乳酸発酵食品の製造方法により大豆特有の青臭みや苦味、収斂味が低減され、特定の酸味マスキング剤等を添加しなくともマイルドな酸味を有する豆乳乳酸発酵食品を製造することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]豆乳乳酸発酵食品の製造に使用される乳酸菌スターターであって、ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランス(Lactobacillus paracasei tolerans)N-5株(受託番号NITE P-02630)、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエ(Lactococcus lactis hordniae) Lhana株(受託番号NITE P-02631)及びラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)Lpome-3株(受託番号NITE P-02632)からなる群から選択される1以上の乳酸菌株を混合してなることを特徴とする乳酸菌スターター。
[2]豆乳に請求項1に記載の乳酸菌スターターを加え、発酵させることを特徴とする豆乳乳酸発酵食品の製造方法。
[3]前記乳酸菌スターターを乳酸菌密度が107~109cell/mlとなるように豆乳に加えることを特徴とする前記[2]に記載の豆乳乳酸発酵食品の製造方法。
[4]前記豆乳が糖を含むことを特徴とする、前記[2]又は[3]に記載の豆乳乳酸発酵食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の乳酸菌スターターを用いて製造される豆乳乳酸発酵食品は、通常の豆乳乳酸発酵食品と比較すると大豆特有の不快臭(青臭さ)や不快味(苦味及び収斂味)が抑えられ、飲食しやすい。
また従来のヨーグルトや大豆乳酸発酵食品では、先味(口腔内へ含んだ直後に感じる味)、中味(咀嚼している間に感じる味)、後味(飲み込んだ後に残る味)共に強い酸味があるため、刺激的でカドのある酸味に感じられるところ、本発明の乳酸菌スターターを用いて製造される豆乳乳酸発酵食品は、大豆特有の不快臭及び不快味がなく、中味の酸味が従来のヨーグルトや大豆乳酸発酵食品と同等であるが、先味及び後味の酸味が弱いため、全体的にマイルド且つ清涼感のある酸味と感じられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は豆乳乳酸発酵食品の製造に使用される乳酸菌スターターであって、ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランス(Lactobacillus paracasei tolerans)N-5株(受託番号NITE P-02630)、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエ(Lactococcus lactis hordniae) Lhana株(受託番号NITE P-02631)及びラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)Lpome-3株(受託番号NITE P-02632)からなる群から選択される1以上の乳酸菌株を混合してなることを特徴とする乳酸菌スターターである。
【0009】
本発明において「豆乳乳酸発酵食品」とは豆乳を乳酸発酵して得られるものであり、好ましくはpH6.0未満になるまで発酵させたものである。本発明において豆乳乳酸発酵食品は、流動状(液体、ゲル状など)、非流動状(固体、ゾル状など)のいずれの形態であってもよい。豆乳乳酸発酵食品の形態は豆乳の大豆固形分濃度に依存するが、概ね大豆固形分濃度が8%未満の場合に流動状になり、8%以上で非流動状になる。
【0010】
本発明において「豆乳」とは浸漬大豆に加水して湿式粉砕及び均質化処理して生呉とするか、大豆粉砕物に加水後適当な時間放置して生呉とし、必要に応じてタンパク質濃度の調節を目的として生呉を加熱処理し、次いで固液分離によりオカラを除去して製造される液のことを言う。
豆乳は、大豆又は大豆粉砕物の何れを原料として調製してもよい。大豆から調製する場合、十分に浸漬させた大豆に4~6倍容量の水を加えて湿式粉砕し、必要に応じて均質化処理して生呉とし、そのままおからを絞り取って、又は、数分程度焦げないように攪拌しながら煮沸した後におからを絞り取って豆乳とすることができる。大豆粉砕物から調製する場合、大豆粉砕物に5~8倍容量の水を加え1~2時間放置してからおからを絞り取って、又は、3~5分焦げないように攪拌しながら煮沸した後おからを絞り取って豆乳とすることができる。この様にして調製される豆乳は、何れも本発明の原料として使用することができる。
本発明においては豆乳の大豆固形分濃度は特に限定されるものではない。JAS規格では、豆乳は大豆固形分が8%以上、調製豆乳が6%以上、豆乳飲料が4%以上と規定されている。
また、本発明では、生呉又は脱脂大豆粉砕物或いは全脂大豆粉砕物の水懸濁液を加熱処理したものも広義の豆乳として使用することができる。
【0011】
本発明の乳酸菌スターターに使用する乳酸菌は、ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランスN-5株、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエLhana株及びラクトバチルス・ペントーサスLpome-3株からなる群から選択される1以上である。
まずこれらの乳酸菌について説明する。
本発明の乳酸菌スターターに使用する乳酸菌は、植物又は動物由来のものであり、ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランスN-5株はサワー種、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエLhana株は乳製品、ラクトバチルス・ペントーサス Lpome-3は果実から常法に従い採取されたものであり、以下の菌学的性質を有する。
【0012】
【0013】
以上の菌学的性質について検討したところ、N-5株はラクトバチルス・パラカゼイ・トレランス、Lhana株はラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエ、Lpome-3株はラクトバチルス・ペントーサスに類似の性質を有している。しかし、これらはそれぞれ既知のラクトバチルス・パラカゼイ・トレランス、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエ、ラクトバチルス・ペントーサスの諸性質とは完全に一致しない新規な微生物であるため、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、2018年2月8日付でラクトバチルス・パラカゼイ・トレランスN-5株(受託番号:NITE P-02630)、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエLhana株(受託番号:NITE P-02631)及びラクトバチルス・ペントーサスLpome-3株(受託番号:NITE P-02632)としてそれぞれ寄託している。
【0014】
ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランスN-5株、ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエLhana株及びラクトバチルス・ペントーサスLpome-3株のうち、いずれか1種の乳酸菌株を使用した場合、大豆特有の不快味と不快臭を抑制する効果が顕著であり、また中味の酸味が強く、先味及び後味の酸味が弱くなるため、マイルド且つ清涼感のある酸味になる傾向にある。いずれか2種の乳酸菌株を使用した場合、大豆特有の不快味と不快臭を抑制することができ、また中味の酸味が十分強く、先味及び後味の酸味が弱くなるため、マイルド且つ清涼感のある酸味になる傾向にある。3種の乳酸菌株を使用すると大豆特有の不快味と不快臭を抑制することができ、またマイルド且つ清涼感のある酸味がより一層際立つ傾向にある。
【0015】
本発明の乳酸菌スターターが2種の乳酸菌株を使用する場合、その菌数を基準とする配合比率は好ましくは1:1である。3種の乳酸菌株を使用する場合、ラクトバチルス・パラカゼイ・トレランスN-5株:ラクトコッカス・ラクティス・ホールドニアエLhana株:ラクトバチルス・ペントーサスLpome-3株は好ましくは1:1:1又は2:1:1、さらに好ましくは2:1:1である。
【0016】
本発明において乳酸菌スターターは、原料の豆乳の乳酸発酵を開始するために添加する1以上の乳酸菌から成る菌叢であり、菌叢以外の成分として一般的な培地の成分である炭素源やビタミン、無機塩類などの栄養素を含んでもよく、このような成分として例えば、ブドウ糖、大豆ペプチド、酵母エキス、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、脱脂粉乳などが挙げられる。乳酸菌スターターは、定法に従って製造することができる。例えば、各々の乳酸菌をGYP液体培地に懸濁して25~40℃で6~48時間培養し(好ましくは30~37℃で12~24時間)、遠心分離等の固液分離手段で乳酸菌を回収し、アミノ酸やビタミン等を含有する滅菌済みの脱脂粉乳溶液等に懸濁して各々の乳酸菌スターターとすることができる。2種又は3種の乳酸菌混合スターターであれば、各乳酸菌を脱脂粉乳溶液で懸濁液としたものを適当な割合で混合して得ることができる。このような乳酸菌スターターは、フレッシュカルチャーとしてだけでなく、凍結又は乾燥して使用することができる。
【0017】
本発明の乳酸菌スターターは、乳酸菌密度が107~109cell/mlになるように豆乳に接種するのが好ましく、さらに好ましくは乳酸菌密度は108~5×108cell/mlである。凍結又は乾燥した乳酸菌スターターであれば、生存率を考慮して接種量を適宜調節することができる。
【0018】
本発明の豆乳乳酸発酵食品の製造方法は、豆乳に上述の乳酸菌スターターを加え、発酵させることを特徴とする。豆乳の発酵は、豆乳に乳酸菌スターターを種菌して静置し、好ましくはpH6.0未満、より好ましくはpH5.5以下、さらに好ましくはpH4.0~5.0となるまで発酵させる。発酵温度と発酵時間はpHを測定しながら適宜調節できるが、好ましくは23~37℃で10時間以上、より好ましくは発酵温度を23~37℃で発酵時間を12~20時間、さらに好ましくは発酵温度23~37℃で発酵時間を16~24時間とする。
【0019】
本発明の豆乳乳酸発酵食品の製造方法において、乳酸菌スターターは、乳酸菌密度が107~109cell/mlになるように豆乳に加えることが好ましく、さらに好ましくは乳酸菌密度が108~5×108cell/mlとなるよう加える。凍結又は乾燥した乳酸菌スターターであれば、生存率を考慮して添加量を適宜調節することができる。
【0020】
本発明の豆乳乳酸発酵食品の製造方法において、従属栄養細菌である乳酸菌は、発酵に際して糖類を要求するため、豆乳は糖を含むことが好ましい。このような糖の例として単糖類、二糖類又はオリゴ糖等、具体的にはサリシン、ラフィノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グルコース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マンニトール、リボース、ソルビトール、トレハロース、フルクトース、ラムノース、セロビオース、メレチトース、メリビオース等が挙げられる。好ましくはグルコース、スクロース又はフルクトースであり、より好ましくはグルコース又はスクロースである。糖類は、豆乳100質量部に対して0.5~10質量部溶解させるのが好ましく、より好ましくは1~5質量部である
【0021】
本発明の豆乳乳酸発酵食品の製造方法において、豆乳乳酸発酵食品にはさらに必要に応じて食塩、甘味料等の調味料、香料、着色料、乳化剤、果物等を添加することが出来る。
【実施例
【0022】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
製造例1:豆乳乳酸発酵食品の製造
100質量部の豆乳(キッコーマンソイフーズ社製おいしい無調整豆乳)に、1質量部の乳酸菌スターター(108cells/ml)及び1質量部のグルコースを発酵容器に投入して混合し、30℃で18時間静置して発酵させた。pHを測定した後、得られた豆乳乳酸発酵食品を中心温度が5℃になるまで冷却して保存した。
【0024】
評価例1:豆乳乳酸発酵食品の官能評価
豆乳乳酸発酵食品を室温静置して常温に戻した後、10名の熟練パネラーにより、下記評価表に従って不快臭、不快味及び酸味について評価した。酸味は、先味の酸味(口腔内へ食品を含んだ直後に感じる酸味)、中味の酸味(食品を咀嚼している間に感じる酸味)、後味の酸味(咀嚼した食品を飲み込んだ後に残る酸味)の3項目に分けて評価した。なお、市販の豆乳乳酸発酵食品(マルサンアイ社製の豆乳グルトプレーン)及び発酵前の豆乳の不快臭及び不快味を各々3点及び1点とした。牛乳を乳酸発酵させた市販のヨーグルト(明治社製ブルガリアヨーグルト)の不快臭、不快味及び酸味を5点とした。
【0025】
表1
【0026】
表2
【0027】
表3
【0028】
試験例1:スターターにおける乳酸菌種の検討
表1記載の乳酸菌、乳酸菌の組み合わせにした以外は製造例1に従って豆乳乳酸発酵食品を製造し、評価例1に従って評価した。結果を表1に示す。なお、乳酸菌を組み合わせたスターターであっても、乳酸菌密度は108cells/mlである。
【0029】
表4
菌株名
A:Lactobacillus paracasei tolerans N-5(受託番号NITE P-02630)
B:Lactococcus lactis hordniae Lhana(受託番号NITE P-02631)
C:Lactobacillus pentosus Lpome-3(受託番号NITE P-02632)
市販品名
ア:明治社製 ブルガリアヨーグルト
イ:マルサンアイ社製 豆乳グルト(プレーン)
【0030】
実施例1、3、6では、中味の酸味は弱いものの、不快臭及び不快味が対照例より少なく良好であった。実施例2では、先味、中味及び後味の酸味とも強く、不快臭及び不快味が少なく良好であった。実施例4、5では、不快臭及び不快味とも対照例2よりやや少なく、先味及び後味の酸味が中味の酸味よりも弱く感じられ、マイルド且つ爽やかな酸味であった。実施例7及び8では、不快臭及び不快味が非常に少なく、先味及び後味と中味との酸味差が大きく、マイルド感及び清涼感に優れた酸味がする非常に優れた豆乳乳酸発酵食品であった。なお、対照例1及び2の乳酸発酵食品では、先味から後味に掛けて一貫した強い酸味があり、特に先味の酸味は刺激的に感じられた。
【0031】
試験例2:発酵条件の検討
表4記載の発酵温度、表5記載の発酵時間、表6記載の糖添加とした以外は実施例8(使用した乳酸菌株はA:B:C=6:2:2)に従って豆乳乳酸発酵食品を製造し、評価例1に従って評価した。結果を表4、表5及び表6に示す。
【0032】
表4
【0033】
実施例9及び12では、豆乳の不快臭と不快味が抑制される傾向にあり、酸味は弱いものの中味と先味及び後味との酸味のメリハリがあり良好な豆乳発酵食品であった。実施例8、10~11では、不快臭及び不快味がなく、中味に比して先味及び後味の酸味が低くメリハリがあり、非常に優れた豆乳乳酸発酵食品であった。
【0034】
表5
【0035】
実施例13では、豆乳の不快臭と不快味が改善される傾向にあり、酸味は弱いものの中味と先味及び後味との酸味のメリハリがあり良好な豆乳発酵食品であった。発酵時間が12~24時間である実施例8、14~15では、不快臭と不快味が少なく、中味と先味及び後味との酸味のメリハリがあり、非常に優れた豆乳乳酸発酵食品であった。発酵時間が36時間である実施例16になると、先味と後味の酸味が強くなる傾向にあったが、メリハリのある酸味のする優れた豆乳乳酸発酵食品であった。
【0036】
表6
Glc:ブドウ糖、Suc:ショ糖、Fru:果糖
【0037】
ブドウ糖、ショ糖及び果糖を添加して乳酸発酵させた実施例8、17~24では、不快臭及び不快味のない優れた豆乳乳酸発酵食品が得られ、乳酸菌が資化できる糖類であれば何れも適用できることがわかった。また、豆乳100質量部に対して5質量部の糖を添加した実施例18、21及び24では、糖類の甘味によって中味の酸味が緩和される傾向にあった。