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特許7094896グラフェン組成物、その製造方法及び導電膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】グラフェン組成物、その製造方法及び導電膜
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20220627BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220627BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20220627BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220627BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20220627BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20220627BHJP
【FI】
C01B32/19
H01M4/96 B
H01B1/24 A
H01B13/00 Z
H01B5/14 Z
H01B1/24 B
H01M4/62 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018563371
(86)(22)【出願日】2018-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2018001258
(87)【国際公開番号】W WO2018135540
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017007979
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 浩史
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0239741(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0153730(US,A1)
【文献】特開2016-215194(JP,A)
【文献】特開2015-189612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/98
H01B 1/00-1/24
H01B 13/00-13/34
H01B 5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)平均厚さが0.3~30nmである、単層のグラフェン又は2層以上のグラフェン、
(b)平均直径が500nm以下の気泡、及び
(c)水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を含むグラフェン組成物。
【請求項2】
前記(b)成分の数密度が1700個/ml以上である請求項1に記載のグラフェン組成物。
【請求項3】
前記(a)成分の平均長径が、2~100μmである請求項1又は2に記載のグラフェン組成物。
【請求項4】
前記(b)成分及び前記(c)成分を除いた全グラフェン組成物に対し、厚さが0.3~30nmである、単層のグラフェン又は2層以上のグラフェンの個数比率が70%以上である請求項1~3のいずれかに記載のグラフェン組成物。
【請求項5】
分散体である請求項1~4のいずれかに記載のグラフェン組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤が、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、1-メトキシ-2-プロピル アセテート又はN,N-ジメチルホルムアミドである請求項1~5のいずれかに記載のグラフェン組成物。
【請求項7】
前記(c)成分が有機溶剤である請求項1~6のいずれかに記載のグラフェン組成物。
【請求項8】
前記(c)成分が水である請求項1~5のいずれかに記載のグラフェン組成物。
【請求項9】
黒鉛、
平均直径が500nm以下の気泡、及び
水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、
前記混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、請求項1~8のいずれかに記載のグラフェン組成物を得る、グラフェン組成物の製造方法。
【請求項10】
黒鉛、
平均直径が500nm以下の気泡、及び
有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、
前記混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、
処理後の混合液について、前記溶剤を、水に置換し、請求項8に記載のグラフェン組成物を得る、グラフェン組成物の製造方法。
【請求項11】
前記機械的なせん断処理のせん断ギャップが2μm~5mmである請求項9又は10に記載のグラフェン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン組成物、その製造方法及び導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、電子特性、光学特性、熱的特性、化学的特性、さらには機械的特性において、既存の材料には見られない特異的な性質を示すことに加え、特に、積層数により性質が異なることから、近年、大きく注目されており、様々な分野で研究開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、多層グラフェン、ノニオン性基を有する重合体、及びケトン系有機溶剤を含むグラフェン分散液が記載されている。
また、特許文献2には、グラフェンを円筒形状に丸め、カーボンナノチューブとして使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-199623号公報
【文献】特開2011-241501号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、導電性に優れる導電膜を得ることができ、分散性に優れるグラフェン組成物、その製造方法及び導電膜を提供することである。
【0006】
本発明者らは、グラフェンを、1層又は2層以上で、かつ、そのまま平板状で、分散材や重合体等を用いずに、組成物を得ることができれば、導電性の高い導電膜が得られるものと考えた。しかしながら、分散材や重合体を用いない場合、グラフェンは非常に凝集しやすいことが分かった。
そこで、本発明者らが、鋭意研究を行った結果、平均直径が500nm以下の気泡を用いて、1層又は2層以上で、かつ、そのまま平板状のグラフェンを形成することで、グラフェンの凝集を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、以下のグラフェン組成物等が提供される。
1.(a)平均厚さが0.3~30nmである、単層のグラフェン又は2層以上のグラフェン、
(b)平均直径が500nm以下の気泡、及び
(c)水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を含むグラフェン組成物。
2.前記(b)成分の数密度が1700個/ml以上である1に記載のグラフェン組成物。
3.前記(a)成分の平均長径が、2~100μmである1又は2に記載のグラフェン組成物。
4.前記(b)成分及び前記(c)成分を除いた全グラフェン組成物に対し、厚さが0.3~30nmである、単層のグラフェン又は2層以上のグラフェンの個数比率が70%以上である1~3のいずれかに記載のグラフェン組成物。
5.分散体である1~4のいずれかに記載のグラフェン組成物。
6.前記有機溶剤が、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、1-メトキシ-2-プロピル アセテート又はN,N-ジメチルホルムアミドである1~5のいずれかに記載のグラフェン組成物。
7.前記(c)成分が有機溶剤である1~6のいずれかに記載のグラフェン組成物。
8.前記(c)成分が水である1~5のいずれかに記載のグラフェン組成物。
9.黒鉛、
平均直径が500nm以下の気泡、及び
水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、
前記混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、1~8のいずれかに記載のグラフェン組成物を得る、グラフェン組成物の製造方法。
10.黒鉛、
平均直径が500nm以下の気泡、及び
有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、
前記混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、
処理後の混合液について、前記溶剤を、水に置換し、8に記載のグラフェン組成物を得る、グラフェン組成物の製造方法。
11.前記機械的なせん断処理のせん断ギャップが2μm~5mmである9又は10に記載のグラフェン組成物の製造方法。
12.1~8のいずれかに記載のグラフェン組成物を用いて作製した導電膜。
13.1~8のいずれかに記載のグラフェン組成物を用いて作製した放熱シート。
【0008】
本発明によれば、導電性に優れる導電膜を得ることができ、分散性に優れるグラフェン組成物、その製造方法及び導電膜が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグラフェン組成物は、(a)平均厚さが0.3~30nmである、単層のグラフェン又は2層以上のグラフェン(以下、「(a)成分」ともいう。)、(b)平均直径が500nm以下の気泡(以下、「(b)成分」ともいう。)及び(c)水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤(以下、「(c)成分」ともいう。)を含む。
【0010】
これにより、公知の分散材や重合体を含まなくても、分散性に優れたグラフェン組成物を得ることができ、得られる導電膜の導電性を向上させることができる。
【0011】
本発明のグラフェン組成物は、分散体であることが好ましい。分散体とは、例えば、(a)成分が沈降せず、分散したものである。
【0012】
グラフェンは、一般的に、炭素原子同士のsp2結合により形成される炭素六角網平面構造の層であり、1層の単層グラフェンでもよく、2層以上積層したグラフェン(多層グラフェン)でもよい。
【0013】
(a)成分の形状は、導電性及び熱伝導性等の観点から、平板状であることが好ましい。平板状のシートが変形した形態、例えば、波板状、皺状、らせん状、碗状、折り重ね状等の形状でもよい。
【0014】
(a)成分の平均層数は1~100層が好ましく、分散性の観点から、1~80層がより好ましく、1~30層がさらに好ましく、1~10層が特に好ましく、1~5層が最も好ましい。
(a)成分の平均厚さは、0.3~30nmであり、分散性の観点から、0.3~24nmが好ましく、0.3~9nmがより好ましく、0.3~3nmがさらに好ましく、0.3~1.5nmが特に好ましい。
また、(b)成分及び(c)成分を除いた全グラフェン組成物に対し、厚さが0.3~30nmである、単層のグラフェン又は2層以上のグラフェンの個数比率は、分散性及び均一性の観点から、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。
上記範囲内であることで、透明性、導電性、熱伝導性、キャパシター特性等の性能を発揮できる。
【0015】
(a)成分の平均厚さは、例えば電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により求めることができる。
【0016】
(a)成分の平均長径は、0.1~500μmであることが好ましく、1~100μmがより好ましく、2~100μmがさらに好ましく、2~50μmが特に好ましく、2~40μmが最も好ましい。
上記範囲内であることで、凝集を抑制し分散性を維持できる。
【0017】
(a)成分の平均長径は、例えば偏光顕微鏡を用いて測定することができる。(a)成分の長径は、(a)成分の最も長くなる寸法をいう。
【0018】
(a)成分の炭素純度は、95質量%以上であることが好ましく、96~100質量%がより好ましく、97~100質量%がさらに好ましい。
95質量%以上であることにより、得られる導電膜の導電性を向上できる。
【0019】
(a)成分の含有量は、全グラフェン組成物中、0.01~60質量%が好ましく、0.05~50質量%がより好ましい。
また、(a)成分の含有量は、(b)成分及び(c)成分を除いて、95質量%以上であることが好ましく、96質量%以上がより好ましく、97質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、99質量%以上が最も好ましい。
上記範囲内であることにより、得られる導電膜の導電性を向上できる。
【0020】
(b)成分の平均直径は、500nm以下であり、薄層のグラフェンの生成と分散化の観点から、10~400nmが好ましく、10~300nmがより好ましい。
【0021】
(b)成分の数密度は、1700個/ml以上であることが好ましく、2000~40億個/mlがより好ましい。
1700個/ml以上であることにより、薄層のグラフェンを生成できる。
【0022】
(b)成分の平均直径及び数密度は、例えばナノ粒子トラッキング解析法により、NS500(NanoSight社製)を用いて、また、レーザー回折・散乱法により、SALD7100HH(株式会社島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0023】
(b)成分のガス種としては、大気、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水素ガス等が挙げられる。単一ガスで用いてもよく、混合ガスで用いてもよい。(c)成分に対し、過飽和状態になりやすいガス種が好ましい。大量で微細な気泡を折出発生させることができるためである。
【0024】
(c)成分は、水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤であり、作製上の容易さの観点から、水及び有機溶剤の混合溶剤が好ましい。
【0025】
(c)成分の室温(20~25℃)雰囲気の表面張力は、20~74mN/mが好ましく、30~50mN/mがより好ましい。
【0026】
混合溶剤は、水:有機溶剤が、質量比で、7:1~1:7が好ましく、6:2~2:6であることにより、薄層のグラフェンの生成と分散化がしやすくなる。
【0027】
有機溶剤としては、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、1-メトキシ-2-プロピル アセテート又はN,N-ジメチルホルムアミド、1,3-プロパンジオール、トルエン、テトラリン、テトラデカン、エチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。イソプロピルアルコール、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0028】
有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
(c)成分は、疎水性表面への成膜の観点からは、有機溶剤が好ましい。また、(c)成分は、親水性表面への成膜の観点からは、水が好ましい。
グラフェン組成物の調製において、(c)成分として、(b)成分を含有する水と有機溶剤との混合溶剤を用いて調製した後、水を有機溶剤に置換してもよい。また、グラフェン組成物の調製において、(c)成分として、(b)成分を含有する水と有機溶剤との混合溶剤を用いて調製した後、有機溶剤を水に置換してもよい。
【0030】
(c)成分の含有量は、全グラフェン組成物中、40~99.99質量%が好ましく、50~99.95質量%がより好ましい。
上記範囲内であることにより、得られる導電膜の導電性を向上できる。
【0031】
本発明のグラフェン組成物は、本質的に、(a)成分、(b)成分及び(c)成分からなっており、本発明の効果を損なわない範囲で他に不可避不純物を含んでもよい。
本発明のグラフェン組成物の、例えば、80~100質量%、90~100質量%、95~100質量%、98~100質量%又は100質量%が、(a)成分、(b)成分及び(c)成分からなっていてもよい。
【0032】
本発明のグラフェン組成物の製造方法の一態様では、黒鉛、平均直径が500nm以下の気泡、及び水、有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、上述のグラフェン組成物を得ることができる。
【0033】
また、本発明のグラフェン組成物の製造方法の他の態様では、黒鉛、平均直径が500nm以下の気泡、及び水と有機溶剤との混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、処理後の混合液について、さらに水を、有機溶剤に置換することで、溶剤が有機溶剤である上述のグラフェン組成物を得ることができる。
【0034】
また、本発明のグラフェン組成物の製造方法の他の態様では、黒鉛、平均直径が500nm以下の気泡、及び有機溶剤、又は水及び有機溶剤の混合溶剤である溶剤を混合し、混合液を得て、混合液に、超音波処理、機械的なせん断処理、又は超音波処理及び機械的なせん断処理を行い、処理後の混合液について、溶剤を、水に置換することで、溶剤が水である上述のグラフェン組成物を得ることができる。
【0035】
平均直径が500nm以下の気泡は、上述の(b)成分と同様である。
溶剤は、上述の(c)成分と同様である。
水、有機溶剤、混合溶剤は上述の通りである。
【0036】
黒鉛は、公知のものを用いることができる。黒鉛として、天然黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛、膨張化黒鉛、膨張黒鉛等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
黒鉛の配合量は、上述の(a)成分の含有量と同様であることが好ましい。
【0037】
混合の方法は、特に限定されず、例えば、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー、超音波分散機、遊星ミル、ボールミル、リアクター、3本ロール等の混合機を用いて混合する方法が挙げられる。これにより、混合液を得ることができる。
【0038】
上述の混合の前に、平均直径が500nm以下の気泡、及び溶剤の一部又は全部を予備混合し、上述の混合に用いてもよい。また、上述の混合の前に、溶剤の一部又は全部を用いて、平均直径が500nm以下の気泡を予備製造し、上述の混合に用いてもよい。予備混合及び予備製造において、溶剤が混合溶剤の場合、溶剤の一部としては、水が好ましい。
【0039】
平均直径が500nm以下の気泡を製造する方法としては、細孔吹き出し攪拌方式、加圧溶解方式、せん断方式、旋廻液流式等が挙げられる。好ましくは、微細な気泡を大量に発生できる加圧溶解方式である。加圧溶解方式として、具体的には、ウルトラファインバブル発生装置FZ1N-02(IDEC株式会社製)等により、公知の条件で行うことができる。
【0040】
超音波処理は、混合液に超音波振動が加えられる装置等により行うことが好ましい。超音波処理の時間は、30秒間~20分間が好ましく、1~15分間がより好ましい。
超音波処理の周波数は、20~80kHzが好ましく、30~50kHzがより好ましい。
【0041】
機械的なせん断処理は、せん断ミキサー、石臼式粉砕機、グラインダー、薄膜旋回型高速ミキサー等により行うことが好ましい。中でも、薄膜旋回型高速ミキサーで行うことがより好ましい。
【0042】
機械的なせん断処理のせん断ギャップは、2μm~5mmであることが好ましく、2μm~2mmがより好ましい。
上記範囲内である場合、より短時間でできる。
【0043】
薄膜旋回型高速ミキサーを用いる場合、機械的なせん断処理のミキサータービン速度は、1~100m/sが好ましく、1~40m/sがより好ましい。
薄膜旋回型高速ミキサーを用いる場合、機械的なせん断処理の時間は、例えば5~180秒間である。
【0044】
本発明のグラフェン組成物の製造方法の他の態様において、水への置換、又は有機溶剤への置換は、公知の方法を用いることができ、例えば蒸留、パーベーパレーション、デカンテーション、液液抽出2相分離カラム等により行うことができる。
【0045】
本発明の導電膜は、上述のグラフェン組成物を用いて作製することができる。
例えば、上述のグラフェン組成物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の基板上に、公知の方法で塗布して、乾燥し、本発明の導電膜を得ることができる。
乾燥方法は、公知の方法を用いることができる。乾燥温度は、例えば60~100℃である。乾燥時間は、例えば1~30分間である。
本発明の導電膜の膜厚は、例えば0.5~200μmである。
【0046】
本発明の導電膜は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、携帯電話、タッチパネル等の表示素子、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、燃料電池、太陽電池等の電極、電磁波吸収シート、樹脂の帯電防止シートなどに用いることができる。
また、本発明の導電膜は、デバイス内部に発生する熱を効率的に放熱する放熱シート、放熱グリース等に用いてもよい。
【実施例
【0047】
製造例1
純水を、ウルトラファインバブル(UFB)発生装置FZ1N-02(IDEC株式会社製)を用いて、以下の条件で処理して、500nm以下の気泡を含む、UFB発生装置で処理した水(UFB水)を得た。
【0048】
気泡水流量 約4.0L/分
溶解圧力 300kPa±5%
繰り返しパス回数:3回
得られたUFB水を、ナノ粒子トラッキング解析法により、NS500(NanoSight社製)を用いて測定した結果、直径100nmの気泡が1億個/mL以上の数密度で存在していることが確認できた。また、直径100nmの気泡の総気泡数や気泡サイズは、製造後3日間は大きな変化がなく、直径100nmの気泡は水中に安定に存在していた。
【0049】
実施例1
(グラフェン組成物の製造)
鱗片状黒鉛X-100(平均厚さ約2μm、伊藤黒鉛工業株式会社製)0.8g、製造例1で得られたUFB水20g及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)60gを混合(マグネティックスターラーで1分間撹拌)し、混合液を得た。
得られた混合液を約10ml毎、薄膜旋回型高速ミキサー フィルミックス 30-L型(プライミクス株式会社製、せん断ギャップ2mm)を用いて、ミキサータービン速度10m/sで30秒間処理し、グラフェン組成物を得た。
【0050】
得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、グラフェン粒子が沈降せず分散した状態(分散体)で、グラフェン組成物全体が均一に黒色化していた。
【0051】
(グラフェンの厚さの測定)
得られたグラフェン組成物について、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)SU8220(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、200nm×200nmの視野領域において、4個のグラフェンの厚さを測定し、算術平均し、グラフェンの平均厚さを求めた。また、4個のグラフェンのうち、厚さが0.3~30nmのグラフェンの個数比率を求めた。結果を表1に示す。
【0052】
(グラフェンの長径の測定)
得られたグラフェン組成物について、偏光顕微鏡BX-51(オリンパス株式会社製)を用いて、81μm×87μmの視野領域において、4個のグラフェンの長径(最も長くなる外径)を測定し、算術平均し、グラフェンの平均長径を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
(500nm以下の気泡についての測定)
上述のグラフェン組成物を、Whatman GD/Xシリンジフィルター(GF/B 1.0μm)(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)でろ過し、ナノ粒子トラッキング解析法により、NS500(NanoSight社製)を用いて測定した結果、直径100nmの気泡が1億個/mL以上の数密度で存在していることが確認できた。結果を表1に示す。
【0054】
(導電膜の製造)
上述のグラフェン組成物を、PETフィルム基板上に塗布し、100℃で10分間乾燥し、膜厚32μmの導電膜を得た。導電膜の膜厚は、LEXT OLS3500(オリンパス株式会社製)を用いて、5点を測定し、算術平均して求めた。
【0055】
(導電膜外観の評価)
得られた導電膜の外観を、目視により評価した。ヒビがなかった場合をAとした。ヒビが入った場合をBとした。導電膜を形成できなかった場合をCとした。結果を表1に示す。
【0056】
(導電性の測定)
得られた導電膜について、抵抗率計ロレスタ(三菱化学株式会社製)を使用して、四探針法(JISR1637)に基づき、シート抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
実施例2
ミキサータービン速度を30m/sにした以外、実施例1と同様にして、グラフェン組成物及び導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、グラフェン粒子が沈降せず分散した状態(分散体)で、グラフェン組成物全体が均一に黒色化していた。
【0058】
実施例3
UFB水を60gに変更し、NMP60gをイソプロピルアルコール(IPA)20gに変更した以外、実施例1と同様にして、グラフェン組成物及び導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、グラフェン粒子が沈降せず分散した状態(分散体)で、グラフェン組成物全体が均一に黒色化していた。
【0059】
実施例4
UFB水を60gに変更し、NMP60gをIPA20gに変更した以外、実施例2と同様にして、グラフェン組成物及び導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、グラフェン粒子が沈降せず分散した状態(分散体)で、グラフェン組成物全体が均一に黒色化していた。
【0060】
実施例5
0.8gのX-100、製造例1で得られたUFB水30g及びNMP50gを混合(マグネティックスターラーで1分間撹拌)し、混合液を得た。得られた混合液を、ASU-6D(アズワン株式会社製)を用いて、周波数43kHzの条件で、5分間超音波処理した。
超音波処理後の混合液に対し、フィルミックス 30-L型のせん断ギャップを3μmに改良し、ミキサータービン速度1m/sで60秒間処理し、グラフェン組成物を得た。
得られたグラフェン組成物を、実施例1と同様にして、評価した。また、得られたグラフェン組成物を用いて、実施例1と同様にして、導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、グラフェン粒子が沈降せず分散した状態(分散体)で、グラフェン組成物全体が均一に黒色化していた。
【0061】
比較例1
UFB水に代えて、純水を用いた以外、実施例1と同様にして、グラフェン組成物及び導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、黒鉛粒子の多くが沈降していた。
尚、導電膜を成膜できなかったため、導電膜の膜厚及び導電性は測定できなかった。
【0062】
比較例2
UFB水に代えて、純水を用いた以外、実施例2と同様にして、グラフェン組成物及び導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、黒鉛粒子の多くが沈降していた。
尚、導電膜を成膜できなかったため、導電膜の膜厚及び導電性は測定できなかった。
【0063】
比較例3
フィルミックス 30-L型での処理を行わなかった以外、実施例1と同様にして、グラフェン組成物及び導電膜を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、黒鉛粒子の半数が沈降し、残り半数が液面に浮いていた。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例6
実施例3と同様にして、混合及びフィルミックス 30-L型での処理を行った。フィルミックス 30-L型での処理後の混合液について、溶剤を水に置換し、グラフェン組成物を得た。
得られたグラフェン組成物を目視で観察したところ、グラフェン粒子が分散した状態で、グラフェン組成物全体が均一に黒色化していた。
【0066】
得られたグラフェン組成物を、実施例1と同様にして、評価した。また、得られたグラフェン組成物を用いて、実施例1と同様にして、導電膜を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。