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特許7094926熱硬化性シリコーン樹脂組成物及び光半導体装置用ダイアタッチ材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】熱硬化性シリコーン樹脂組成物及び光半導体装置用ダイアタッチ材
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220627BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220627BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220627BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/01
C08L83/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019159965
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021038309
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達哉
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、及び(D)成分、
(A-1)1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン、
(A-2)下記式(1)
(R SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (1)
(式中、Rは炭素数2~8のアルケニル基、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0<a<0.15、0<b<0.6、0<c<0.7であり、但し、a+b+c=1を満足する数である。)で示され、1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有し、重量平均分子量Mwが4,000~9,000であり、分散度Mw/Mnが2.0以上である分岐状オルガノポリシロキサン、
(B-1)下記式(2)
(HR SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (2)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、0<d<0.6、0≦e<0.4、0<f<0.6であり、但し、d+e+f=1を満足する数である。)
で示されるケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に2個以上有する25℃で液状の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、重量平均分子量Mwが1,500~6,000であり、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(B-2)下記式(3)
(R SiO1/2(HRSiO2/2(R SiO2/2(3)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、xおよびyは0.60≦(x/(x+y))≦0.95である正数であり、30≦x+y≦120である。)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)下記式(4)
(MeSiO3/2(EpSiO3/2(EpMeSiO2/2(MeSiO2/2(ViMeSiO2/2(R1/2 (4)
(式中、Meはメチル基であり、Epはエポキシ基を有する1価の有機基であり、Viはビニル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0≦m<0.35、0≦n<0.35、0≦p<0.35、0.15≦(n+pm+n+p+q+r+s)≦0.35であり、0.4≦q<0.7、0<r<0.1、0≦s<0.05であり、但し、m+n+p+q+r+s=1となる数である。)で示される分岐状オルガノポリシロキサンからなる接着助剤成分であって、該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,500~6,000であり、エポキシ当量が250~500g/eqである接着助剤成分、
(D)0価の白金錯体と、+2価白金錯体および/または+4価の白金錯体との組み合わせからなり、前記(A-1)~前記(C)成分の合計100質量部に対する添加量としての0価の白金錯体中の白金元素量t(ppm)、+2価の白金錯体中の白金元素量u(ppm)、+4価の白金錯体中の白金元素量v(ppm)が、0<t<3、5<u+v<30を満たすものである付加反応触媒、
を必須成分として含有するものであることを特徴とする熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)成分において、+2価の白金錯体がビス(アセチルアセトナト)白金(II)であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)成分において、+4価の白金錯体が(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(IV)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
更に、(E)希釈剤として、大気圧(1013hPa)下での沸点が200℃以上350℃未満の範囲であり、且つ25℃で液体の炭化水素化合物を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A-1)成分の直鎖状オルガノポリシロキサンが、下記式(5)
【化1】
(式中、Rは独立に炭素数2~8のアルケニル基又は炭素数1~12のアルキル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基である。k>0の整数であり、直鎖状オルガノポリシロキサンのJIS Z 8803:2011に記載の方法で測定した25℃の動粘度を10~1,000,000mm/sとする数である。)
で示されるアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B-1)成分において、JIS K 7117-1:1999に記載の方法で測定した25℃での前記(B-1)成分の粘度が10Pa・s以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B-1)成分が、HR SiO1/2単位源、R SiO1/2単位源、及びSiO4/2単位源の共加水分解縮合物であって、前記SiO4/2単位源がテトラアルコキシシランの部分加水分解物であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A-2)、(B-1)及び(B-2)成分のRにおいて、全てのRの90モル%以上がメチル基であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物からなる光半導体装置用ダイアタッチ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性シリコーン樹脂組成物、及び、該樹脂組成物からなる光半導体装置用ダイアタッチ材に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体(LED)は、電球や蛍光灯などの従来の発光装置と比較して、消費電力が少なく、また長寿命であるといった利点から近年急速に普及している。光半導体装置を作製する場合、先ず光半導体基板上の所定位置にダイアタッチ材と呼ばれる光半導体チップの基板への固定化を目的とする硬化性の樹脂組成物が塗布される。ダイアタッチ材の塗布方法は、シリンジに充填された樹脂を、シリンジ先端に取り付けたニードルから圧力をかけて吐出し基板上へ転写するディスペンス法と、樹脂皿上に薄膜状態で広げた樹脂に転写ピンを押し付けた後、基板上へ樹脂の付着したピンを押し付け転写するスタンピング法の2つの方法が一般的である。そして、塗布した樹脂組成物の上部に、底部の多くがサファイアで形成されるLEDチップを圧着するダイボンド工程が行われ、その後、上記樹脂組成物を硬化される工程を経て、多くが金により形成される光半導体チップの電極パッド部と、基板上の多くは銀により形成される導電性のリードフレーム部位とを金ワイヤにて接合するワイヤボンディング工程が行われるものである。ワイヤボンディング工程では、キャピラリー先端部に形成される金ボールを、超音波をかけながら電極パッド部に押しつけるが、この際、LEDチップが基板上に十分に固定化されていない場合、押し付け時に超音波が周囲へと拡散してしまい、金ワイヤが十分な強度で接合できないといった問題が発生する。また、後工程を経てLED装置を作製した後、点灯動作中にLEDチップが基板から浮いてしまうと、発熱体であるLEDチップから基板への放熱が十分に行えず、動作不良を引き起こすおそれがある。このため、ダイアタッチ材にはLEDチップを基板に十分に固定化するために、高強度且つ高接着性の硬化物を付与できる硬化性の樹脂組成物が用いられる。
【0003】
また、照明用途に多く使用される高出力青色LED装置には、ダイアタッチ材として耐熱性及び耐光性の付与といった観点から、メチルシリコーン系等の付加硬化性シリコーン樹脂組成物が多く用いられているが、使用する付加硬化性シリコーン樹脂組成物や光半導体チップの種類、また樹脂組成物の硬化条件などの諸要因により、樹脂組成物硬化時に光半導体チップの金電極パッド部に汚染物が形成されることが報告されている。電極パッド部に汚染物がある場合、後のワイヤボンディング工程で悪影響を及ぼすことから問題となっている。このような汚染物は、付加硬化性シリコーン樹脂組成物中に含まれる低分子シロキサンが原因とされており、特にはケイ素原子結合水素原子(ヒドロシリル基)を有する低分子シロキサンが、硬化時に加熱されることで揮散し、加水分解反応などによって電極パッド部に被膜を形成したり、ゲル化して汚染物として付着したりすることが問題になっている。樹脂組成物中のヒドロシリル基を有する低分子シロキサン含有量を減らすことで、加熱硬化時に付着するLEDチップ電極パッド部への汚染物量を減らすことができ、ワイヤボンディング性が向上することが知られている。
【0004】
また、ダイアタッチ材は通常、LEDチップの基板への固定化を補強するために、チップ周囲にフィレット部を形成する量で基板上へ転写およびチップの圧着が行われる。この際、樹脂の留まり性が低い場合、フィレット部がチップ圧着直後より周囲へ薄く広がってしまう。そのような場合、樹脂の表面積が大きくなることから、硬化時に樹脂組成物中のSiH基(ヒドロシリル基)を有する低分子シロキサンがより揮発しやすくなり、LEDチップ電極パッド部への汚染物付着性が高くなる。
【0005】
更に、メチルシリコーン系等の付加硬化性シリコーン樹脂組成物は、従来のエポキシ樹脂と比較すると、樹脂の極性等の理由により、基板との接着性に劣る。特に、ダイアタッチ材の被着体であるLEDチップ底部のサファイアと銀リードフレーム部位とでは、後者との接着性が悪いという傾向が大きい。通常、LEDパッケージには、リフレクタと呼ばれる白色樹脂がリードフレームにモールド成型されるが、ポリフタルアミド等の熱可塑性樹脂を用いる場合と比較して、成型金型との接着性がより一層高いエポキシモールディングコンパウンド(以下、「EMC」という)をリフレクタ部材に用いる場合には、離形性を向上させるために、ワックスが所定量添加されるのが一般的である。EMCにて成型されたLEDパッケージは、酸や塩基による化学エッチング工程或いは、ブラスト洗浄による物理エッチング工程等を経るが、モールド工程でリードフレームに滲み出したワックス成分が十分にエッチング工程で除去されていない場合には、リードフレーム部位とダイアタッチ材との接着性が悪化してしまう。
【0006】
特開2013-254893号公報(特許文献1)では、金電極部上にNiまたはTaを含む金属保護層を設けたLEDチップを用いることで、電極汚染性が高い付加硬化性シリコーン樹脂からなるダイアタッチ材を使用した場合においても、良好なワイヤボンディング性が発現できることを報告している。しかしながらこのような保護層を有するLEDチップは、保護層がない一般的なLEDチップと比較して製造コストが高くなるため、ダイアタッチ材自体に電極汚染性が低いものが求められている。
【0007】
また、特開2016-122828号公報(特許文献2)では、EMCで成型されたLEDパッケージの銀リードフレーム上に硫黄系光沢剤を使用することで、LED装置の発光効率が向上することを報告しているが、このように銀表面上に光沢剤を用いる場合、ダイアタッチ材の接着性が低下するおそれがあり、ダイアタッチ材には、基材との接着性がより一層高いことが求められる。
【0008】
例えば、特開2008-255227号公報(特許文献3)では、付加硬化性シリコーン樹脂組成物において、樹脂組成物中に含有される低分子シロキサン成分に、D3、D4に代表される無官能の低分子シロキサン以外にも、反応性基であるSiH基を含有する低分子シロキサンが多く含まれていることを報告している。特に重合度が10以下でありSiH基を一分子中に1個以上有する低分子シロキサン化合物をシリコーン樹脂組成物全体の一定質量%以下とすることで、加熱硬化の際に周囲への汚染物の付着を抑えることが可能であると記載されているが、実施例における付加硬化性シリコーン樹脂組成物は、JIS K 6249に規定され、タイプAデュロメータで測定された硬化物の硬さが32~66と軟らかいため、LED装置用ダイアタッチ材として用いる場合の接着強度には懸念がある。
【0009】
また、特開2012-12434号公報(特許文献4)では、JIS K 6253に規定されるタイプDデュロメータ硬さが30~70であり、オルガノハイドロジェンシロキサン成分が側鎖にヒドロシリル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン、及び末端にヒドロシリル基を有する分岐状オルガノポリシロキサンの併用系である付加硬化性シリコーン樹脂組成物が、光透過性と接着性の耐久性に優れることを報告しているが、LED装置用ダイアタッチ材として用いる場合、硬化時のLED体チップ上の金パッド部への汚染性という点について言及したものではない。
【0010】
このように、従来の付加硬化性シリコーン樹脂組成物では、特にLED装置用ダイアタッチ材として使用した場合に、硬化時のLEDチップ電極パッド部への汚染が付着し、ワイヤボンディング性が低下するという問題や、リフレクタ部材で成型された光半導体基板上の銀リードフレーム部位との接着性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-254893号公報
【文献】特開2016-122828号公報
【文献】特開2008-255227号公報
【文献】特開2012-012434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬化時においてLEDチップ上の金パッド部への汚染性が低く、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの接着性に優れる熱硬化性シリコーン樹脂組成物、及び、該組成物からなる光半導体装置用ダイアタッチ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、下記(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、及び(D)成分、
(A-1)1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン、
(A-2)下記式(1)
(R SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (1)
(式中、Rは炭素数2~8のアルケニル基、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0<a<0.15、0<b<0.6、0<c<0.7であり、但し、a+b+c=1を満足する数である。)で示され、1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有し、重量平均分子量Mwが4,000~9,000であり、分散度Mw/Mnが2.0以上である分岐状オルガノポリシロキサン、
(B-1)下記式(2)
(HR SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (2)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、0<d<0.6、0≦e<0.4、0<f<0.6であり、但し、d+e+f=1を満足する数である。)
で示されるケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に2個以上有する25℃で液状の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、重量平均分子量Mwが1,500~6,000であり、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(B-2)下記式(3)
(R SiO1/2(HRSiO2/2(R SiO2/2(3)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、xおよびyは0.60≦(x/(x+y))≦0.95である正数であり、30≦x+y≦120である。)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)下記式(4)
(MeSiO3/2(EpSiO3/2(EpMeSiO2/2(MeSiO2/2(ViMeSiO2/2(R1/2 (4)
(式中、Meはメチル基であり、Epはエポキシ基を有する1価の有機基であり、Viはビニル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0≦m<0.35、0≦n<0.35、0≦p<0.35、0.15≦(n+pm+n+p+q+r+s)≦0.35であり、0.4≦q<0.7、0<r<0.1、0≦s<0.05であり、但し、m+n+p+q+r+s=1となる数である。)で示される分岐状オルガノポリシロキサンからなる接着助剤成分であって、該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,500~6,000であり、エポキシ当量が250~500g/eqである接着助剤成分、
(D)0価の白金錯体と、+2価白金錯体および/または+4価の白金錯体との組み合わせからなり、前記(A-1)~前記(C)成分の合計100質量部に対する添加量としての0価の白金錯体中の白金元素量t(ppm)、+2価の白金錯体中の白金元素量u(ppm)、+4価の白金錯体中の白金元素量v(ppm)が、0<t<3、5<u+v<30を満たすものである付加反応触媒、
を必須成分として含有するものであることを特徴とする熱硬化性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0014】
このような熱硬化性シリコーン樹脂組成物であれば、硬化時においてLEDチップ上の金パッド部への汚染性が低く、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの接着性に優れる。
【0015】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、前記(D)成分において、+2価の白金錯体がビス(アセチルアセトナト)白金(II)であることができ、+4価の白金錯体が(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(IV)であることができる。
【0016】
このような(D)成分であると、熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化反応を好ましいものとすることができる。
【0017】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、更に、(E)希釈剤として、大気圧(1013hPa)下での沸点が200℃以上350℃未満の範囲であり、且つ25℃で液体の炭化水素化合物を含有することができる。
【0018】
このような(E)成分は、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物の粘度を調整することができ、作業性を向上させることができる。
【0019】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、前記(A-1)成分の直鎖状オルガノポリシロキサンが、下記式(5)
【化1】
(式中、Rは独立に炭素数2~8のアルケニル基又は炭素数1~12のアルキル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基である。k>0の整数であり、直鎖状オルガノポリシロキサンのJIS Z 8803:2011に記載の方法で測定した25℃の動粘度を10~1,000,000mm/sとする数である。)
で示されるアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンであることができる。
【0020】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、このような(A-1)成分が好適である。
【0021】
また、本発明では、前記(B-1)成分において、JIS K 7117-1:1999に記載の方法で測定した25℃での前記(B-1)成分の粘度が10Pa・s以上であることが好ましい。
【0022】
(B-1)成分が上記の粘度を満たすと、オルガノハイドロジェンポリシロキサン自体の揮発性が低いため、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化時に周囲への汚染物付着をより抑制することができる。
【0023】
また、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、前記(B-1)成分が、HR SiO1/2単位源、R SiO1/2単位源、及びSiO4/2単位源の共加水分解縮合物であって、前記SiO4/2単位源がテトラアルコキシシランの部分加水分解物であることが好ましい。
【0024】
上記SiO4/2単位源にテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を用いると、重量平均分子量が大きくなり、また揮発性のヒドロシリル基含有低分子シロキサンの含有量が少ないオルガノハイドロジェンポリシロキサンを得ることができるため、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物がより好ましいものとなる。
【0025】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、前記(A-2)、(B-1)及び(B-2)成分のRにおいて、全てのRの90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0026】
このような熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の耐変色性が優れる。
【0027】
また、本発明は、上記熱硬化性シリコーン樹脂組成物からなる光半導体装置用ダイアタッチ材も提供する。
【0028】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化時のLEDチップ上の金パッド部への汚染性が低く、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの良好な接着性を与えることができ、このため電気電子部品用途に好適に用いることができるため、光半導体装置用ダイアタッチ材として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物によれば、LED用ダイアタッチ材として使用した際、硬化時の光半導体チップ上の金パッド部への汚染性が低くなり、良好なワイヤボンディング性を与えることができ、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの接着性に優れるため信頼性が高くなり、それ故、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物はLED用ダイアタッチ材として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記(A-1)~(D)成分を含有する熱硬化性シリコーン樹脂組成物を、光半導体装置用ダイアタッチ材として使用した場合、硬化時におけるLEDチップ上の金パッド部への汚染性が低く、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの接着性に優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0031】
即ち、本発明は、
下記(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、及び(D)成分、
(A-1)1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン、
(A-2)下記式(1)
(R SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (1)
(式中、Rは炭素数2~8のアルケニル基、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0<a<0.15、0<b<0.6、0<c<0.7であり、但し、a+b+c=1を満足する数である。)で示され、1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有し、重量平均分子量Mwが4,000~9,000であり、分散度Mw/Mnが2.0以上である分岐状オルガノポリシロキサン、
(B-1)下記式(2)
(HR SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (2)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、0<d<0.6、0≦e<0.4、0<f<0.6であり、但し、d+e+f=1を満足する数である。)
で示されるケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に2個以上有する25℃で液状の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、重量平均分子量Mwが1,500~6,000であり、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(B-2)下記式(3)
(R SiO1/2(HRSiO2/2(R SiO2/2(3)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、xおよびyは0.60≦(x/(x+y))≦0.95である正数であり、30≦x+y≦120である。)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)下記式(4)
(MeSiO3/2(EpSiO3/2(EpMeSiO2/2(MeSiO2/2(ViMeSiO2/2(R1/2 (4)
(式中、Meはメチル基であり、Epはエポキシ基を有する1価の有機基であり、Viはビニル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0≦m<0.35、0≦n<0.35、0≦p<0.35、0.15≦(n+pm+n+p+q+r+s)≦0.35であり、0.4≦q<0.7、0<r<0.1、0≦s<0.05であり、但し、m+n+p+q+r+s=1となる数である。)で示される分岐状オルガノポリシロキサンからなる接着助剤成分であって、該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,500~6,000であり、エポキシ当量が250~500g/eqである接着助剤成分、
(D)0価の白金錯体と、+2価白金錯体および/または+4価の白金錯体との組み合わせからなり、前記(A-1)~前記(C)成分の合計100質量部に対する添加量としての0価の白金錯体中の白金元素量t(ppm)、+2価の白金錯体中の白金元素量u(ppm)、+4価の白金錯体中の白金元素量v(ppm)が、0<t<3、5<u+v<30を満たすものである付加反応触媒、
を必須成分として含有するものであることを特徴とする熱硬化性シリコーン樹脂組成物である。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、上記(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、及び(D)成分を必須成分として含有するものである。
【0034】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物によれば、LED用ダイアタッチ材として使用した際、硬化時の光半導体チップ上の金パッド部への汚染性が低くなり、良好なワイヤボンディング性を与えることができ、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの接着性に優れるため信頼性が高くなる。
【0035】
このような効果が発現する理由として、上記特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを特定の組み合わせで使用することにより、通常の熱硬化性シリコーン樹脂組成物に用いられるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いた場合と比べて、得られる熱硬化性シリコーン樹脂組成物中にヒドロシリル基を有する揮発性の低分子シロキサン含有量が少ないこと、所定の硬化時間内にLEDチップを十分に固定化できる強度で硬化が進行すること、及び硬化性が良いながらも樹脂中の接着寄与成分が基材と十分に馴染むようなバランスが保たれていることなどが考えられる。
【0036】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、上記(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、及び(D)成分を必須成分として含有するが、これら以外に、必要に応じてその他の成分を含むことができる。以下、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を構成する成分について説明する。
【0037】
<(A-1)直鎖状オルガノポリシロキサン>
(A-1)成分は1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。アルケニル基以外の基については特に限定されないが、アルキル基を挙げることができる。(A-1)成分としては、ケイ素原子に結合するアルケニル基を分子鎖両末端にのみ有する直鎖状オルガノポリシロキサンであることが好ましく、特に下記一般式(5)で表されるものが好適である。
【化2】
(式中、Rは独立に炭素数2~8のアルケニル基又は炭素数1~12のアルキル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基である。k>0の整数であり、直鎖状オルガノポリシロキサンのJIS Z 8803:2011に記載の方法で測定した25℃の動粘度を10~1,000,000mm/sとする数である。)
【0038】
上記式(5)中、Rの炭素数2~8、特に2~6のアルケニル基として具体的には、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などが例示され、また、炭素数1~12、特に1~10のアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基等が例示できる。上記Rのアルケニル基としては、特にビニル基が好ましく、また、アルキル基としては、得られる付加硬化性シリコーン樹脂組成物(熱硬化性シリコーン樹脂組成物)より作製されるシリコーン硬化物の、高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の耐変色性を考慮すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0039】
また、Rの炭素数1~12、特に1~10のアルキル基としては、上述したRのアルキル基として例示したものと同様の基が例示でき、これらの中でも特にメチル基が上記と同様の理由により好ましい。
【0040】
上記式(5)で表される、アルケニル基を両末端にのみ含有する直鎖状オルガノポリシロキサンは、アルケニル基を側鎖に有するオルガノポリシロキサンと比較して、反応性に優れ、また、樹脂硬化物が伸びに優れるため、クラックなどを発生し難いという利点がある。
【0041】
(A-1)成分の直鎖状オルガノポリシロキサンは、その動粘度が25℃で10~1,000,000mm/sの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10~100,000mm/sの範囲内である。25℃の動粘度が上記範囲よりも低いと、得られる硬化物の強度が低くなる場合があり、25℃の動粘度が上記範囲よりも高いと、組成物の粘度が高くなることで塗布性が低下する場合がある。また、(A-1)成分が2種類以上の混合物である場合には、その混合物の動粘度が25℃で10~1,000,000mm/sの範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、動粘度はJIS Z 8803:2011に記載の方法で、25℃においてオストワルド粘度計により測定した値である。
【0042】
(A-1)成分としては、具体的には、以下のものが例示できる。
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、kは上記と同じである。)
【0043】
<(A-2)分岐状オルガノポリシロキサン>
(A-2)成分は、下記式(1)で表され、1分子中に2個以上の炭素数2~8のアルケニル基を有し、重量平均分子量Mwが4,000~9,000であり、分散度Mw/Mnが2.0以上である分岐状オルガノポリシロキサンである。
(R SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (1)
(式中、Rは炭素数2~8のアルケニル基、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0<a<0.15、0<b<0.6、0<c<0.7であり、但し、a+b+c=1を満足する数である。)
【0044】
上記式(1)中、Rの炭素数2~8、特に2~6のアルケニル基として、具体的には、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などが例示され、特にビニル基が好ましい。
【0045】
上記式(1)中、Rの炭素数1~12、特に1~10のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基等が例示できる。上記Rのアルキル基としては、得られる付加硬化性シリコーン樹脂組成物より作製されるシリコーン硬化物の、高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の耐変色性を考慮すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0046】
このように、RSiO1/2単位(M単位)にのみアルケニル基を有する分岐状オルガノポリシロキサンは、アルケニル基をRSiO2/2単位(D単位)またはRSiO3/2単位(T単位)に有するオルガノポリシロキサンと比較して、ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの反応性に優れるため、硬化時にヒドロシリル基含有の低分子シロキサンが周囲へ飛散して汚染物となることを抑制することができる。
【0047】
上記(A-2)成分の重量平均分子量Mwは、4,000~9,000の範囲にあり、特に好ましくは5,000~8,000の範囲である。上記分岐状オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が上記範囲内であると、(C)成分との極性に差が生じやすくなることから樹脂組成物の硬化時に基材との十分な接着性を与えることができる。上記分岐状オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が上記範囲より低い場合、十分な接着性が得られない恐れがあり、上記分岐状オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が上記範囲より高い場合、作業性が低下するおそれがある。なお、本発明で言及する重量平均分子量Mwとは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指すこととする。
【0048】
上記(A-2)成分の分散度Mw/Mnは2.0以上であり、好ましくは2.5以上である。分散度Mw/Mnが2.0を下回る場合、作業性が低下するおそれがある。なお、前記Mnとは下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0049】
[測定条件]
・展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
・流量:0.6mL/min
・検出器:示差屈折率検出器(RI)
・カラム:TSK Guardcolomn SuperH-L
・TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
・TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
・TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
・カラム温度:40℃
・試料注入量:20μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)
【0050】
また、上記式(1)中のR SiO1/2単位の上記含有率aは、シロキサン単位の合計a+b+c=1に対して0<a<0.15の範囲であり、好ましくは0.05≦a≦0.1の範囲である。また、R SiO1/2単位の上記含有率bは、シロキサン単位の合計a+b+c=1に対して0<b<0.6であり、好ましくは0.3≦b<0.5の範囲である。更に、SiO4/2単位の上記含有率cは、シロキサン単位の合計a+b+c=1に対して0<c<0.7であり、好ましくは0.4≦c≦0.6の範囲である。
【0051】
上記(A-2)成分は、各単位源となる化合物を上記範囲内の含有率で混合し、例えば酸存在下で共加水分解縮合を行うことによって容易に合成することができる。
【0052】
ここで、上記R SiO1/2単位源は、下記構造式で表されるトリオルガノクロロシラン、トリオルガノアルコキシシラン及びヘキサオルガノジシロキサン等の有機ケイ素化合物が例示できるが、使用できるR SiO1/2単位源はこれらに限定されない。
【化6】
【化7】
【化8】
【0053】
ここで、上記R SiO1/2単位源は、下記構造式で表されるトリオルガノクロロシラン、トリオルガノアルコキシシラン及びヘキサオルガノジシロキサン等の有機ケイ素化合物が例示できるが、使用できるR SiO1/2単位源はこれらに限定されない。
【化9】
【化10】
【化11】
【0054】
ここで、上記SiO4/2単位源は、下記構造式で表されるテトラクロロシランやテトラアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物が例示できるが、使用できるSiO4/2単位源はこれらに限定されない。
【化12】
【化13】
【0055】
上記(A-1)成分と(A-2)成分の熱硬化性シリコーン樹脂組成物中の配合量は、質量比で(A-1):(A-2)=55:45~85:15の範囲であることが好ましく、特に好ましくは60:40~80:20の範囲である。(A-1)成分の配合量が上記範囲内であれば、得られるシリコーン硬化物の強度や硬さが必要十分なものになるため好ましい。
【0056】
<(B-1)分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
本発明の(B-1)成分は、下記式(2)で表されるものであり、ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に2個以上有する25℃で液状の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、該ポリシロキサンの重量平均分子量は1,500~6,000であり、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
(HR SiO1/2(R SiO1/2(SiO4/2 (2)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、0<d<0.6、0≦e<0.4、0<f<0.6であり、但し、d+e+f=1を満足する数である)
ここで、25℃で液状とは、回転粘度計で25℃において粘度測定が可能な流動性を有することを指す。
【0057】
上記(B-1)成分は架橋剤として作用するものであり、上記(A-1)成分及び(A-2)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基(特に好ましくはビニル基)と、(B-1)成分中のケイ素原子に結合する水素原子(ヒドロシリル基)とが付加反応することにより、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物からシリコーン硬化物が形成される。
【0058】
上記式(2)中、Rはそれぞれ上記と同じである。上記Rのアルキル基としては、得られる付加硬化性シリコーン樹脂組成物より作製されるシリコーン硬化物の、高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の耐変色性を考慮すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0059】
このような分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、M単位上にのみヒドロシリル基を有するため反応性が高く、低分子を問わず硬化時のヒドロシリル基含有のシロキサンが周囲へ飛散して汚染物を形成するのを抑えることができる。またSiO4/2単位(Q単位)を含有するため得られる硬化物の強度を向上させることができる。
【0060】
また、上記式(2)中のHR SiO1/2単位の上記含有率dは、シロキサン単位の合計d+e+f=1に対して0<d<0.6の範囲であり、好ましくは0.2≦d≦0.5の範囲である。また、R SiO1/2単位の上記含有率eは、シロキサン単位の合計d+e+f=1に対して0≦e<0.4であり、好ましくは0≦e≦0.3の範囲である。更に、SiO4/2単位の上記含有率fは、シロキサン単位の合計d+e+f=1に対して0<f<0.6であり、好ましくは0.45≦f≦0.55の範囲である。
【0061】
また、(B-1)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、重量平均分子量が1,500以上6,000以下の範囲であり、2,500以上5,000以下の範囲であることが好ましい。上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が1,500未満の場合、周囲への汚染物付着の度合いが高くなるおそれがあり、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重量平均分子量が6,000を超える場合、作業性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0062】
上記(B-1)成分は、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下であり、2.5質量%以下であることが好ましく、更には1質量%以下であることが好ましい。上記ヒドロシリル基含有低分子有機ケイ素化合物含有量が上記の値を超えると、硬化時にヒドロシリル基含有低分子有機ケイ素化合物が揮発し、周囲へ付着物を形成することを低く抑えることができない。なお、ヒドロシリル基含有低分子有機ケイ素化合物含有量は0質量%でもよい。
【0063】
なお、本発明で言及するケイ素原子数1~10のヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物の含有量とは、下記条件で測定したガスクロマトグラフィーによって定量された該有機ケイ素化合物の含有量を指すこととする。
【0064】
[測定条件]
・装置:GC-2014((株)島津製作所製)
・カラム:品名…HP-5MS(アジレント・テクノロジー(株)製、内径:0.25mm、長さ:30m、充填材:〔(5%-フェニル)-メチルポリシロキサン〕
・検出器:FID検出器(検出器温度:300℃)
・試料:試料1.0gを10mLのn-テトラデカン/アセトン標準溶液(濃度:20μg/mL)に溶解させたものをサンプルとした。
・注入量:1μL
・オーブン温度:50℃-280℃/23分-280℃/17分
・キャリアガス:種類…ヘリウム、線速…34.0cm/s
【0065】
また、上記(B-1)成分の液状の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、JIS K 717-1:1999に記載の方法で測定した25℃の粘度が10Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは200Pa・s以上である。(B-1)成分が上記の粘度を満たす場合、オルガノハイドロジェンポリシロキサン自体の揮発性が低いため、硬化時に周囲への汚染物付着を抑制することができる。なお、本発明においては、液状物質とは、回転粘度計で25℃において粘度測定が可能な流動性を有するものを指し、特には25℃における粘度が10,000Pa・s以下のものである。
【0066】
更に、(B-1)成分の分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのヒドロシリル基量は0.1~2mol/100g、特に0.2~0.9mol/100gであることが好ましい。
【0067】
上記(B-1)成分は、上記(A-2)成分と同様に、各単位源となる化合物を上記範囲内の含有率で混合し、例えば酸存在下で共加水分解縮合を行うことによって容易に合成することができる。
【0068】
ここで、HR SiO1/2単位源は、下記構造式で表されるテトラメチルジシロキサン等の有機ケイ素化合物が例示できるが、使用できるHR SiO1/2単位源はこれに限定されない。
【0069】
【化14】
【0070】
ここで、R SiO1/2単位源は、上記(A-2)成分中におけるR SiO1/2単位源と同様の有機ケイ素化合物が例示できる。
【0071】
上記SiO4/2単位源としては特に限定されないが、上記(A-2)成分中におけるSiO4/2単位源と同様の有機ケイ素化合物が例示できる。中でも、テトラアルコキシシランの部分加水分解物を原料として用いることが好ましく、下記構造式で表されるテトラメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物が特に好ましい。
【0072】
【化15】
【0073】
テトラアルコキシシランの部分加水分解物としては、市販品を使用してもよく、例えば、メチルポリシリケートとしてMシリケート51(製品名:多摩化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0074】
このように、(B-1)成分が、HR SiO1/2単位源、R SiO1/2単位源、及びSiO4/2単位源の共加水分解縮合物であって、前記SiO4/2単位源がテトラアルコキシシランの部分加水分解物であることが好ましい。
【0075】
上記SiO4/2単位源にテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を用いると、重量平均分子量が大きくなり、また揮発性のヒドロシリル基含有低分子シロキサンの含有量が少ないオルガノハイドロジェンポリシロキサンを得ることができる。
【0076】
なお、上記SiO4/2単位源にテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を用いる場合、該部分加水分解縮合物中に含まれるテトラアルコキシシラン等のモノマー分の含有量が少ないことが好ましい。モノマー分の含有量は10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。該加水分解縮合物中にモノマー分が多いと、上記(B-1)成分中に揮発性のヒドロシリル基含有低分子シロキサンが多く含まれるため、硬化時の周囲への汚染性が高くなるおそれがある。
【0077】
<(B-2)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
本発明の(B-2)成分は、下記式(3)で表され、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下である直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
(R SiO1/2(HRSiO2/2(R SiO2/2 (3)
(式中、Rはそれぞれ上記と同じであり、xおよびyは0.60≦(x/(x+y))≦0.95である正数であり、30≦x+y≦120である。)
【0078】
上記(B-2)成分は、上記(B-1)成分と同様に架橋剤として作用するものであり、上記(A-1)成分及び(A-2)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基(特に好ましくはビニル基)と、(B-2)成分中のケイ素原子に結合する水素原子(ヒドロシリル基)とが付加反応することにより、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物からシリコーン硬化物が形成される。
【0079】
上記式(3)中のHRSiO2/2単位の含有量xおよびR SiO2/2単位の含有量yの関係は、0.60≦(x/(x+y))≦0.95の範囲であり、好ましくは0.70≦(x/(x+y))≦0.90の範囲である。また30≦x+y≦120の範囲であり、好ましくはまた40≦x+y≦110の範囲である。
【0080】
上記式(3)中、Rはそれぞれ上記と同じである。上記Rのアルキル基としては、得られる付加硬化性シリコーン樹脂組成物より作製されるシリコーン硬化物の、高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の耐変色性を考慮すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0081】
このような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、D単位上にケイ素原子に結合した水素原子を有するシロキサン単位を豊富に含むため、付加硬化反応時の立体障害により、硬化性を調整することができる。また、基材との濡れ性が高く、立体障害によってアルケニル基との付加硬化反応に組み込まれず残存したヒドロシリル基が、付加反応触媒によってヒドロキシシリル基へと変換され、基材との接着性向上に寄与することができる。
【0082】
上記(B-2)成分は、上記(B-1)成分と同様にヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物の含有量が5質量%以下であり、好ましくは2.5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。上記ヒドロシリル基含有低分子シロキサン含有量が5質量%を超えると、硬化時にヒドロシリル基含有低分子シロキサンが揮発し、周囲へ付着物を形成しやすくなるため好ましくない。なお、ヒドロシリル基含有低分子シロキサン含有量は0質量%でもよい。
【0083】
更に、(B-2)成分の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのヒドロシリル基量は0.7~1.5mol/100g、特に1.0~1.4mol/100gであることが好適である。
【0084】
(B-2)成分の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、具体的には、以下のものが例示できる。
【化16】
(式中、x、yは上記と同じである。)
【0085】
上記(B-1)成分と(B-2)成分との熱硬化性シリコーン樹脂組成物中の配合量は、質量比で(B-1):(B-2)=95:5~70:30の範囲であることが好ましく、特に好ましくは90:10~75:25の範囲である。(B-1)成分の配合量が前記上限値以下であれば、硬化反応の進行が早くなりすぎず基材の接着性が十分に発現するため好ましく、(B-1)成分の配合量が前記下限値以上であれば、所定の硬化時間でシリコーン硬化物が十分な硬さで得られるため好ましい。
【0086】
また、(B-1)成分と(B-2)成分とを合計した配合量は、熱硬化性シリコーン樹脂組成物全体におけるケイ素原子に結合したアルケニル基の合計1モルに対して、上記(B-1)成分と(B-2)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計が1.0~2.0モルの範囲であることが好ましく、特に好ましくは1.1~1.5モルの範囲である。(B-1)成分及び(B-2)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計量が上記範囲内であると、硬化反応が円滑に進行し、基材との接着性が高い状態でシリコーン硬化物を得ることができる。
【0087】
なお、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物において、上記(A-2)、(B-1)及び(B-2)成分のRにおいて、全てのRの90モル%以上、好ましくは95モル%以上がメチル基であることが好適である。この範囲内であれば高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の耐変色性が優れるものである。
【0088】
<(C)接着助剤>
(C)成分の接着助剤は、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化時の基材との接着性を発現させるために配合されるものであり、下記式(4)で表され、重量平均分子量が1,500~6,000であり、エポキシ当量が250~500g/eqである分岐状オルガノポリシロキサンである。
(MeSiO3/2(EpSiO3/2(EpMeSiO2/2(MeSiO2/2(ViMeSiO2/2(R1/2 (4)
(式中、Meはメチル基であり、Epはエポキシ基を有する1価の有機基であり、Viはビニル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、0≦m<0.35、0≦n<0.35、0≦p<0.35、0.15≦(n+pm+n+p+q+r+s)≦0.35であり、0.4≦q<0.7、0<r<0.1、0≦s<0.05であり、但し、m+n+p+q+r+s=1となる数である。)
【0089】
上記式(4)中、Epで表されるエポキシ基を有する1価の有機基として具体的には、3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、5,6-エポキシヘキシル基、7,8-エポキシオクチル基等の有機基が例示でき、特にEpとしてはシリコーン樹脂組成物に配合した状態における保存安定性の観点から、3-グリシドキシプロピル基が好ましい。
【0090】
このように、重量平均分子量が大きく、エポキシ当量が小さな分岐状オルガノポリシロキサンは、(A-2)成分との極性差が大きいため、硬化時に基材との界面に移行しやすいことから良好な接着性を発現させることができる。また、D単位上にビニル基を有するため、付加硬化反応でシリコーン樹脂組成物中に組み込まれることから、硬化後のブリードアウトを抑制することができ、更にはM単位上にビニル基を有するものと比較して組成物中にマイルドに組み込まれることから、基材と十分に馴染む余地を与えることができる。更に、ジメチルシロキサン単位を多く含有することから、上記(A-1)~(B-2)成分からなるベース樹脂への相溶性が良くなり、また、高温条件下や波長450nmの青色光下に長時間放置した際の変色性を低く抑えることができる。
【0091】
また、上記式(4)中のMeSiO3/2単位の上記含有率mは、シロキサン単位の合計m+n+p+q+r+s=1に対して0≦m<0.35の範囲であり、特に好ましくは0≦m≦0.3の範囲である。またEpSiO3/2単位の上記含有率nは、シロキサン単位の合計m+n+p+q+r+s=1に対して0≦n<0.35の範囲であり、特に好ましくは0≦n≦0.3の範囲である。更にEpMeSiO2/2単位の上記含有率pは、シロキサン単位の合計m+n+p+q+r+s=1に対して0≦p<0.35の範囲であり、特に好ましくは0≦p≦0.3の範囲である。また更に、MeSiO2/2単位の上記含有率qは、シロキサン単位の合計m+n+p+q+r+s=1に対して0.4≦q<0.7であり、特に好ましくは0.45≦q≦0.65の範囲である。また更に、ViMeSiO2/2単位の上記含有率rは、シロキサン単位の合計m+n+p+q+r+s=1に対して0<r<0.1であり、特に好ましくは0<r≦0.08の範囲である。更に、R1/2単位の上記含有率sは、シロキサン単位の合計m+n+p+q+r+s=1に対して0≦s<0.05であり、特に好ましくは0≦s≦0.03の範囲である。
【0092】
また、上記式(4)の重量平均分子量は1,500~6,000の範囲であり、好ましくは2,000~5,000の範囲である。重量平均分子量が上記範囲を超える場合、シリコーン樹脂硬化物の外観が濁る恐れがあり、重量平均分子量が上記範囲を下回る場合、十分な基材との接着性が得られない恐れがある。
【0093】
更に、上記式(4)のエポキシ当量は250~500g/eq範囲にあり、好ましくは300~450の範囲である。エポキシ当量が上記範囲を超える場合、十分な基材との接着性が得られない恐れがあり、エポキシ当量が上記範囲を下回る場合、シリコーン樹脂硬化物の外観が濁る恐れがある。
【0094】
上記(C)成分は、各単位源となる化合物を上記範囲内の含有率で混合し、例えば塩基存在下で共加水分解縮合を行うことによって容易に合成することができる。
【0095】
ここで、上記EpSiO3/2単位源及びEpMeSiO2/2単位源は、下記構造式で表される有機ケイ素化合物が例示できるが、使用できるEpSiO3/2単位源及びEpMeSiO2/2単位源はこれらに限定されない。
【0096】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0097】
(C)成分の配合量は、熱硬化性シリコーン樹脂組成物全体100質量部に対して0.5~10質量部の範囲であることが好ましく、特に好ましくは1~8質量部の範囲である。(C)成分の配合量が0.5質量部以上であれば、基材との接着性に優れるため好ましく、10質量部以下であれば、シリコーン樹脂硬化物の外観が濁ることなく透明となるため好ましい。
【0098】
<(D)付加反応触媒>
(D)成分の付加反応触媒は、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物の付加硬化反応を進行させるために配合されるものである。
【0099】
(D)成分は、0価の白金錯体と、+2価白金錯体および/または+4価の白金錯体との組み合わせからなり、(A-1)~(C)成分の合計100質量部に対する添加量としての0価の白金錯体中の白金元素量t(ppm)、+2価の白金錯体中の白金元素量u(ppm)、+4価の白金錯体中の白金元素量v(ppm)は、0<t<3、5<u+v<30の範囲を満たす。0価の白金錯体は、熱硬化反応の立ち上がりに寄与するものであり、白金(0)のテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、白金(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体などが例示できる。+2価白金錯体および+4価の白金錯体は加熱により配位子が外れ活性が発現するのが0価の白金錯体と比較して遅く、上記0価の白金錯体と組み合わせることで、0価の白金錯体単体で用いる場合と比較してより硬化性を制御することが可能である。+2価白金錯体としてはビス(アセチルアセトナト)白金(II)が例示でき、また+4価の白金錯体としては(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(IV)が例示できる。0価の白金錯体中の白金元素量t(ppm)、+2価の白金錯体中の白金元素量u(ppm)、及び+4価の白金錯体中の白金元素量v(ppm)が上記範囲外であると、硬化の立ち上がりが良好でなく、温和に硬化反応が進行しないため、光半導体装置用ダイアタッチ材として用いる場合、硬化時における金電極パッド部への汚染が多く、基材との接着性を十分に発現させることが不可能となる。
【0100】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、上述した(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)及び(C)成分、(D)成分を必須成分として含有するものであるが、必要に応じて、(E)希釈剤等を含有することができる。
【0101】
<(E)希釈剤>
(E)成分の希釈剤は、大気圧(1013hPa)下での沸点が200℃以上350℃未満の範囲である25℃で液体の炭化水素化合物である。(E)成分の希釈剤は、脂肪族炭化水素化合物であることが好ましい。
【0102】
(E)成分の希釈剤は、本発明の熱硬化性シリコーン組成物の粘度を調整するために配合されるものであり、その配合量は、熱硬化性シリコーン樹脂組成物全体100質量部に対して0.5~10質量部の範囲であることが好ましく、特に好ましくは1~8質量部の範囲である。(E)成分の配合量が上記上限より低いと、加熱硬化時に一部の溶剤が残存し、得られる樹脂硬化物の強度が低下することもなく、上記下限より高いと、作業性も良好である。
【0103】
また、(E)成分の大気圧下(1013hPa)での沸点は、200℃以上350℃未満であり、好ましくは、220℃以上330℃以下の範囲である。(E)成分の沸点が上記下限以上であると、基板上に塗布された樹脂へのLEDチップのダイボンド工程において作業性が低下するおそれがなく、溶剤揮発による増粘からチップの底部に十分な範囲で樹脂が広がらなくなることもない。また、(E)成分の上記沸点が上記上限以下であると、加熱硬化時に一部の溶剤が残存せず、得られる樹脂硬化物の強度が低下することもない。
【0104】
更に、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物の付加阻害となるおそれがあるため、(E)成分は脱硫処理されていることが好適であり、特に硫黄分が1ppm未満であることがより好適である。また、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物との相溶性の点から、(E)成分のアニリン点は特に100℃以下であることが好適である。
【0105】
(E)成分の希釈剤としては、単一の炭化水素化合物であっても、複数の化合物の混合物であっても良い。混合物を用いる場合は、沸点の上下限値(初溜点~終点(または乾点))が上記好ましい沸点範囲内であればよい。前記希釈剤としては、市販品を用いることができる。具体的には、TOTAL社「Hydroseal G232H」(沸点238~261℃)、「Hydroseal G240H」(沸点255~282℃)、「Hydroseal G250H」(沸点258~326℃)、「Hydroseal G270H」(沸点258~287℃)、「Hydroseal G3H」(沸点277~321℃)、「Hydroseal G400H」(沸点305~347℃)、エクソンモービル社「ExxsolTM D95」(沸点222~242℃)、「ExxsolTM D110」(沸点248~265℃)、「ExxsolTM D130」(沸点279~313℃)、「IsoperTM M」(沸点224~254℃)、出光興産社「IP2028」(沸点213~262℃)が例示でき、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0106】
このような炭化水素化合物からなる希釈剤は、シリコーン樹脂との相溶性が高く、またシリコーン樹脂と比較して表面張力が高いことから、チップ圧着後の樹脂留まり性を向上させることができる。樹脂留まり性が高い場合、樹脂部の表面積を小さく保つことができることから、硬化時の樹脂組成物中のヒドロシリル基を有する低分子シロキサンが飛散するリスクを低くすることができる。また、チップ周囲のフィレットが圧着直後の形状で保つことができることから、チップの補強効果が低下することを抑制できる。
【0107】
<その他の成分>
また、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物には、上述した(A)~(E)成分以外にも、必要に応じて、各種の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0108】
[無機充填材]
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物には、得られる硬化物の強度を向上させる目的や、チキソ性を付与しダイアタッチ材の塗布作業性を向上させる目的で、無機充填材を適宜配合することができる。無機充填材としては、例えば、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン等が例示できる。特には、得られる硬化物の透明性の観点から、無機充填材としてヒュームドシリカを用いることが好適である。
【0109】
無機充填材を配合する場合、熱硬化性シリコーン樹脂組成物全体100質量部に対する無機充填材の配合量は、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1~10質量部の範囲とすることができる。特に、無機充填材としてヒュームドシリカを用いる場合には、付加硬化性シリコーン樹脂との馴染み性といった観点より、シリカ表面が疎水性基で処理されていることが好適である。疎水性基としては、具体的には、トリメチルシリル基やジメチルシリル基などのシロキサン系が挙げられる。
また、表面処理することによって、前記(C)成分に含まれるエポキシ基とヒュームドシリカ表面のヒドロキシシリル基との相互作用を抑え、保存安定性を改善する効果もある。このため、ヒュームドシリカとしては、十分に表面処理がされているものが好ましく、具体的には、比表面積が150m/g以上250m/g以下、好ましく170m/g以上230m/g以下であるヒュームドシリカを用いることが好ましい。上記シロキサン系の官能基で表面処理されたヒュームドシリカとしては、市販品として、日本アエロジル社のトリメチルシリル基で表面処理されたR812(比表面積230~290m/g)及びRX300(比表面積180~220m/g)、ジメチルシリル基で表面処理されたR976(比表面積225~275m/g)、R976S(比表面積215~265m/g)等が挙げられる。
【0110】
[硬化抑制剤]
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物には、硬化速度を調整する等の目的で硬化抑制剤を配合することができる。硬化抑制剤としては、例えば、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンやヘキサビニルジシロキサン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン等のビニル基含有オルガノポリシロキサン、エチニルシクロヘキサノールや3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコール類及びそのシラン変性物やシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール、トリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート及びこれらの混合物からなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。硬化抑制剤を配合する場合は、シリコーン樹脂組成物全体100質量部に対して、好ましくは0.001~1.0質量部、特に好ましくは0.005~0.5質量部添加することができる。
【0111】
[耐熱性向上剤]
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物には、高温環境下での耐クラック性を向上する目的で耐熱性向上剤を配合することができる。耐熱性向上剤は、180℃以上などの高温環境下において進行するシリコーン樹脂の酸化劣化に対して、例えばジメチルシロキサン鎖長の切断などにより樹脂硬さの向上を抑制する効果を有する。耐熱性向上剤としては、例えば、トリス(2-エチルヘキサン酸)セリウム(III)、トリアルコキシセリウム(III)、及びセリウム(III)のシロキサン変性体などが挙げられる。
【0112】
耐熱性向上剤の配合量は、熱硬化性シリコーン樹脂組成物全体100質量部に対して、金属元素の質量単位で0.1~100ppmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1~50ppmの範囲である。耐熱性向上剤の配合量が上記範囲内であれば、高温環境下での耐クラック性が低下するおそれがなく、シリコーン樹脂硬化物の着色による光透過率低下が大きくなるおそれもない。また、ダイアタッチ材の塗布方法がスタンピング法の場合には、樹脂皿上に薄膜状態でおかれるため、加水分解性が低い耐熱性向上剤を使用することが好適である。
【0113】
<硬化方法>
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、用途に応じて、基板上に塗布した後、硬化させることができ、好ましくは温度100~200℃、より好ましくは温度150~170℃の範囲で加熱硬化を行うことができる。加熱温度が上記範囲内であれば、基材と樹脂硬化物との接着強度が低下するおそれがなく、急激な溶剤の揮発による気泡の発生や樹脂の劣化が進行してしまうおそれもない。なお、上記加熱硬化時間は1~4時間で良く、また、ステップ硬化の方式を採用しても良い。
【0114】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、上記特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを特定の組み合わせで使用することにより、硬化時のLEDチップ上の金パッド部への汚染性が低く、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの良好な接着性を与えることができ、このため電気電子部品用途に好適に用いることができ、具体的には、光半導体装置用ダイアタッチ材として好適に使用することができる。
【実施例
【0115】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、部とは「質量部」のことであり、Meは「メチル基」、Viは「ビニル基」、Ep’は「γ-グリシドキシプロピル基」をそれぞれ示す。また、SiVi基量はケイ素原子に結合したビニル基の量を指す。
【0116】
[合成例1]
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(b1-1)
(HMeSi)Oで示されるオルガノジシロキサン:6mol、メチルポリシリケート(製品名:Mシリケート51、多摩化学工業(株)製、モノマー分4.3質量%以下):3molのイソプロピルアルコール溶液中に、塩酸水溶液を滴下し、室温(25℃)で5時間撹拌した。トルエンを加えて希釈、廃酸分離し、有機層が中性になるまで水洗を行った。有機層を脱水後、150℃減圧下にて溶剤をストリップ操作にて留去し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(b1-1)を25℃の粘度が1,200Pa・sである無色透明の液状物質として得た。得られた(b1-1)は、構成するシロキサン単位がHMeSiO1/2単位50モル%、SiO4/2単位50モル%で示され、GPC測定による重量平均分子量Mwは3,500であり、ヒドロシリル基量は0.72mol/100gであった。また、(b1-1)中のケイ素原子数1~10のヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物の含有量を測定した結果、0.34質量%であった。
【0117】
[合成例2]
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(b1-2)
(HMeSi)Oで示されるオルガノジシロキサン:6mol、(MeO)Siで示されるテトラアルコキシシラン:12molのイソプロピルアルコール溶液中に、塩酸水溶液を滴下し、室温(25℃)で5時間撹拌した。トルエンを加えて希釈、廃酸分離し、有機層が中性になるまで水洗を行った。有機層を脱水後、150℃減圧下にて溶剤をストリップ操作にて留去し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(b1-2)を25℃の粘度が280Pa・sである無色透明の液状物質として得た。得られた(b1-2)は、構成するシロキサン単位がHMeSiO1/2単位52モル%、SiO4/2単位48モル%で示され、GPC測定による重量平均分子量Mwは3,100であり、ヒドロシリル基量は0.74mol/100gであった。また、(b1-2)中のケイ素原子数1~10のヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物の含有量を測定した結果、28.4質量%であった。
【0118】
<(A-1)成分>
(a1-1):下記式
(ViMeSiO1/2(MeSiO2/250
で示され、SiVi基量が0.045mol/100gであり、25℃の動粘度が55mm/sであり、25℃で液体のオルガノポリシロキサン
【0119】
<(A-2)成分>
(a2-1):シロキサン単位が、ViSiO1/2単位が6.2モル%、MeSiO1/2単位が45.8モル%、SiO4/2単位48.0モル%で示され、SiVi基量が0.198mol/100gであり、GPC測定による重量平均分子量Mwが7,500であり、分散度Mw/Mnが3.0であり、25℃で固体のオルガノポリシロキサン
(a2-2):シロキサン単位が、ViSiO1/2単位が6.2モル%、MeSiO1/2単位が45.8モル%、SiO4/2単位48.0モル%で示され、SiVi基量が0.195mol/100gであり、GPC測定による重量平均分子量Mwが3,800であり、分散度Mw/Mnが1.8であり、25℃で固体のオルガノポリシロキサン
【0120】
<(B-1)成分>
(b1-1):上記合成例1で得たオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(b1-2):上記合成例2で得たオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0121】
<(B-2)成分>
(b2-1):下記式
(MeSiO1/2(HMeSiO2/236(MeSiO2/212
で表され、ヒドロシリル基量が1.13mol/100gであり、ケイ素原子数1~10のヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物の含有量が0.01質量%であり、25℃の動粘度が45mm/sであり、25℃で液体のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(b2-2):下記式
(MeSiO1/2(HMeSiO2/286(MeSiO2/210
で表され、ヒドロシリル基量が1.35mol/100gであり、ケイ素原子数1~10のヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物の含有量が0.01質量%であり、25℃の動粘度が140mm/sであり、25℃で液体のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(b2-3):下記式
(MeSiO1/2(HMeSiO2/238
で表され、ヒドロシリル基量が1.55mol/100gであり、ケイ素原子数1~10のヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物の含有量が0.02質量%であり、25℃の動粘度が23mm/sであり、25℃で液体のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0122】
<(C)成分>
(c-1):シロキサン単位が、Ep’SiO3/2単位が29モル%、MeSiO2/2単位が64モル%、ViMeSiO2/2単位が6モル%、MeO1/2単位が1モル%で示され、GPC測定による重量平均分子量Mwが2,400であり、SiVi基量が0.05mol/100gであり、エポキシ当量が330g/eqであり、25℃の粘度が350mm /sであり、25℃における性状が液体であるオルガノポリシロキサン
(c-2):シロキサン単位が、MeSiO3/2単位が25モル%、Ep’MeSiO2/2単位が22モル%、MeSiO2/2単位が47モル%、ViMeSiO2/2単位が5モル%、MeO1/2単位が1モル%で示され、GPC測定による重量平均分子量Mwが3,100であり、SiVi基量が0.05mol/100gであり、エポキシ当量が435g/eqであり、25℃の動粘度が360mm/sであり、25℃における性状が液体であるオルガノポリシロキサン
(c-3):シロキサン単位が、MeSiO3/2単位が20モル%、Ep’MeSiO2/2単位が9モル%、MeSiO2/2単位が65モル%、ViMeSiO2/2単位が5モル%、MeO1/2単位が1モル%で示され、GPC測定による重量平均分子量Mwが1,900であり、SiVi基量が0.05mol/100gであり、エポキシ当量が850g/eqであり、25℃の動粘度が105mm/sであり、25℃における性状が液体であるオルガノポリシロキサン
【0123】
<(D)成分>
(d-1):白金の含有量が2質量%であり、SiVi基量が1.15mol/100gである、白金(0)のテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン錯体のテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン溶液
(d-2):白金の含有量が1質量%であるビス(アセチルアセトナト)白金(II)のトルエン溶液
(d-3):白金の含有量が1質量%である(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(IV)のトルエン溶液
【0124】
<(E)成分>
(e-1):TOTAL社製炭化水素溶剤「Hydroseal G240H」
〔大気圧(1013hPa)下での沸点:255~282℃〕
【0125】
<無機充填材>
(f-1):日本アエロジル社製ヒュームドシリカ「RX300」
【0126】
〔実施例1~4,比較例1~8〕
実施例1~4及び比較例1~8の付加硬化性シリコーン樹脂組成物(熱硬化性シリコーン樹脂組成物)を表1に示した配合比(数値は質量部)により調製し、該組成物の硬さ、硬化時非汚染性、ワイヤボンディング性、接着性を下記に示す試験方法により評価した。各測定結果について表1に示した。
【0127】
(a)硬さ
付加硬化性シリコーン樹脂組成物を、熱風循環式乾燥機を使用して150℃で3時間加熱することにより、シリコーン硬化物を作製した。該シリコーン硬化物をJIS K 6253-3:2012に準拠し、タイプDデュロメータを用いて測定した。
【0128】
(b)硬化時非汚染性
付加硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化時の汚染性を、金めっき板を使用した以下の方法により評価した。
付加硬化性シリコーン樹脂組成物1.0gを、電解めっき法により金めっきを施した面積2cmの金めっき板とともに、容積30cmのアルミニウム製の密封容器中に、シリコーン樹脂と金めっき板とが接触しないように配置し、熱風循環式乾燥機を使用して150℃で3時間加熱した。加熱後、容器が密封された状態で該容器を25℃まで冷却し、容器の中から金めっき板を取り出した後、金めっき板表面の汚染物の付着具合を肉眼により観察した。
なお、硬化時の非汚染性は、金めっき板表面に付着した汚染物の割合が、金めっき板表面の全面積の5%未満であるものを「良(○)」、5%以上25%未満であるものを「可(△)」、25%以上であるものを「不可(×)」として評価した。
【0129】
(c)ワイヤボンディング性
付加硬化性シリコーン樹脂組成物のワイヤボンディング性を、以下の方法により評価した。
リードフレーム部が銀めっきであり、リフレクタ部材がEMCであり、成型後に化学エッチングにより洗浄されたSMD型3030パッケージの各キャビティ中央部に樹脂を所定量塗布し、LEDチップ(GeneLite社製:B2424(610μm□))をダイボンドした後、アルミ製袋に密封状態で入れ、熱風循環式乾燥機を使用して150℃で3時間加熱硬化した。その後、袋が密封された状態で該容器を常温(25℃)まで冷却し、袋の中からリードフレームを取り出した。その後、LEDチップ上の電極とリードフレーム表面とを、直径30μmの金線ワイヤを用いてワイヤボンダ((株)新川製、UTC-1000super)により接合し、LEDチップ電極上にある1stボール部(p側・n側電極合計100個)のボールシェア強度測定をJESD22-B116に記載の方法で、ボンドテスター(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製:Dage4000)により行った。
なお、ワイヤボンディング性は、ワイヤボンディング操作を試みた合計100個の電極において、1stボール部が形成できず、ワイヤボンディングができなかった電極の個数(ワイヤボンディング不可数)、及び1stボール部が形成でき、ボールシェア強度測定を行った全1stボール部のボールシェア強度の平均値より評価した。その際、ボールシェア強度の評価は、熱硬化性エポキシ樹脂銀ペースト(製品名:X-43-5603-7AQ、信越化学工業(株)製)を用いた場合のボールシェア強度の平均値を100%とした時に、実施例1~4及び比較例1~8で示した付加硬化性シリコーン樹脂組成物を用いた場合のボールシェア強度の平均値が何%に相当するか算出し、評価した。
【0130】
(d)接着性
リードフレーム部が銀めっきであり、リフレクタ部材がEMCであり、成型後に化学エッチングにより洗浄されたSMD型3030パッケージの各キャビティ中央部に樹脂を所定量塗布し、LEDチップ(GeneLite社製:B2424(610μm□))をダイボンドした後、熱風循環式乾燥機を使用して150℃で3時間加熱硬化した。加熱後、取り出したパッケージを25℃まで冷却し、ボンドテスター(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製:Dage4000)にてLEDチップと銀めっきとの接着強度を各樹脂について試験数50で測定し、平均接着強度を算出した。測定後、銀めっき表面を顕微鏡にて観察し、銀めっき側との平均樹脂残りが面積比で70%以上であるものを「樹脂残り 良(○)」、40%以上70%未満であるものを「可(△)」、40%未満であるものを「不可(×)」として破壊形態を評価した。
【0131】
【表1】
【0132】
上記評価試験の結果、本発明(実施例1~4)の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化時の光半導体チップ上の金パッド部への汚染性が低く、リフレクタ部材で成型された基板上の銀リードフレームとの接着性に優れることが分かった。
一方、アルケニル基を有する分岐状オルガノポリシロキサンが、本発明で規定する重量平均分子量、分散度よりも小さいものである比較例1の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、接着性が劣り、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが、ヒドロシリル基を含有するケイ素原子数1~10の有機ケイ素化合物を5質量%超で含有するものである比較例2と、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが、式(3)のx,yを満たさないものである比較例3の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化時非汚染性、ワイヤボンディング性が劣るものであった。また、(D)成分が0価の白金錯体のみである比較例5、8の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、接着性が劣り、+2価白金錯体又は+4価の白金錯体のみである比較例6、7の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化時非汚染性、ワイヤボンディング性が劣るものであった。エポキシ当量が本発明の上限値を超える接着助剤を含む比較例4、8では、十分な基材との接着性が得られなかった。
このように、本発明の範囲外である比較例1~8の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化時非汚染性及び接着性の両者を同時に満足するものでなかった。従って、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、光半導体装置用ダイアタッチ材として極めて有用であることが確認された。
【0133】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。