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特許7094966弾性繊維の製造方法、弾性繊維物品の製造方法、弾性繊維および弾性繊維物品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-24
(45)【発行日】2022-07-04
(54)【発明の名称】弾性繊維の製造方法、弾性繊維物品の製造方法、弾性繊維および弾性繊維物品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/70 20060101AFI20220627BHJP
   D01F 6/94 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
D01F6/70 B
D01F6/94 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019539860
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2018053171
(87)【国際公開番号】W WO2018146192
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】17161361.5
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】P 2017023520
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康之
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特表平01-501716(JP,A)
【文献】特開2013-241701(JP,A)
【文献】特表2006-522862(JP,A)
【文献】国際公開第92/020844(WO,A1)
【文献】米国特許第06096252(US,A)
【文献】特表2007-511675(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115094(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/189993(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/199070(WO,A1)
【文献】特表2010-510402(JP,A)
【文献】特表2002-527633(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080501(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/051114(WO,A1)
【文献】特表2002-503284(JP,A)
【文献】特表2007-531796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/70
D01F 6/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料組成物をノズルから吐出して繊維を形成する工程と;
ノズルから繊維を引き下げる工程と;
巻き取りロールの周りに繊維を巻き取る工程
を含み、
紡糸速度は3,000m/分~10,000m/分に設定され、ここで、紡糸速度はノズルから巻き取りロールまで走行する繊維の走行速度を意味し、
原料組成物は熱可塑性ポリウレタンを含
原料組成物は、5質量%未満の非ポリエーテル架橋剤を含み、そして、
原料組成物は、1個以上のポリエーテルポリオール単位を含有する架橋剤を含む、
弾性繊維の製造方法。
【請求項2】
20マイクロメートル超の直径を有する弾性繊維が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱可塑性ポリウレタンが、10質量%~60質量%の硬質セグメント含有量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタンが、
(a)イソシアネート
(b)ポリオール
および任意に
(c)鎖延長剤
の、任意に
(d)触媒
(e)補助剤
の存在下における、
反応生成物である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ポリオールが、500g/mol~2,000g/mol、好ましくは0.8×103g/mol~1.2×103g/molの数平均分子量を有する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
ポリオールが、ポリオールの総量に対して少なくとも50質量%のポリエーテルポリオールを含む、請求項またはに記載の方法。
【請求項7】
ポリエーテルポリオールが、ポリテトラヒドロフランである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
イソシアネートが、2,2’-、2,4’-および/または4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートである、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
鎖延長剤が、1,4-ブタンジオールである、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
熱可塑性ポリウレタンが、74D以下のショア硬度を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法により製造された弾性繊維を使用することによる、弾性物品の製造方法。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得られる弾性繊維。
【請求項13】
請求項12に記載の弾性繊維を使用することによって得られる弾性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、熱可塑性ポリウレタンを使用することによって弾性繊維を製造するための方法(プロセスとも呼ばれる)、弾性繊維を使用することによって弾性繊維物品を製造するための方法(プロセスとも呼ばれる)、ならびに弾性繊維および弾性繊維物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム状弾性を有する繊維、すなわち弾性繊維(JIS L0204-3)は、従来から、工業用材料および衣料用材料を含む様々な分野で広く使用されてきた。このような弾性繊維の原料としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、TPU)、熱可塑性ポリエーテルエステルアミド(thermoplastic polyether ester amide、TPA)、および熱可塑性ポリオレフィン(thermoplastic polyolefin、TPO)が広く知られている。
【0003】
これらの中でも、特に、TPUを用いた繊維は、例えば、耐薬品性、耐摩耗性、物品の軽量化、および他の材料との接着性などに優れる。TPUは、一般に、有機イソシアネート、長鎖ポリオールおよび鎖延長剤を反応させることによって得られる。TPU繊維の中でも、特に長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオールを使用した場合、耐寒性、耐微生物腐食性および耐加水分性などの耐水性に優れるTPU繊維を得ることができる。
【0004】
しかしながら、TPU繊維は、ナイロン(PA66など)およびポリエステル(PETなど)繊維と比較して、引張弾性率および引張強度などの機械的性質に関して通常十分ではない。さらに、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオールを使用した場合、繊維は、ポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールなどの他の長鎖ポリオールと比較して、テナシティ(tenacity)などの機械的性質が劣る傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオールを使用した場合でも機械的性質が向上するTPUを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特許文献1(特開2005-281901号公報)に開示されているように、例えばテナシティの向上という観点から、450m/分~1,000m/分程度であるTPU繊維の紡糸速度が一般的に好適とみなされている(段落0055、特許文献1)。特許文献2(特開2013-241701号公報)は、弾性繊維用の高速紡糸性樹脂の一例として、ポリウレタン樹脂を開示している。しかしながら、この開示は、ポリエーテルエステル樹脂などの複数の樹脂と一緒に使用できることを示唆しているだけであり、ポリウレタン樹脂の高速紡糸はこれまで研究されていない。さらに、特許文献2は、軟質セグメントの長鎖単位として、アジピン酸および1,4-ブタンジオールから製造されたポリアルキレンエステルポリオールを含むポリエステル系TPUを開示している(特許文献2の段落0060)。
【0007】
特許文献3(WO2004/092241A1)は、TPU繊維およびその溶融紡糸方法を開示している。しかしながら、特許文献3では、特定の架橋剤の使用が必須であり、そのような架橋剤は繊維の望ましい特性を低下させることがある。さらに、特許文献3は、TPU溶融紡糸のための300~1,200m/分での低速紡糸を開示しているに過ぎず(段落0040)、その実施例は480m/分のみの速度を試している。
【0008】
特許文献4(EP0548364A1)は、より高い紡糸速度での溶融紡糸を示している。しかしながら、特許文献4では、ポリウレタン紡糸の難しさが認識されており、ポリエステル樹脂(複合フィラメント)を混和することにより高速紡糸が達成されている。このような複合フィラメントは、紡糸のための複雑なノズルを必要とし、収率が低下する一方でコストが増加する。
【0009】
特許文献5(米国特許出願公開第2005/106982(A1)号)は、紡糸方法およびHuntsman社製ポリウレタンの使用を開示している。しかしながら、Huntsman社製ポリウレタンは、長鎖ポリオールとしてポリエステルポリオールを使用することによって製造される。さらに、特許文献5の方法は、凝集性不織繊維ウェブを製造するためのものである。フィラメント速度は2,800m/分以上であるが、それは最終製品(ウェブ)の中間体として非常に微細なフィラメントを紡糸するためのものであり、ウェブは、はるかに低い速度でロール23によって巻き取られる。
【0010】
特許文献6(米国特許第6096252(A)号)は、TPU繊維およびその紡糸方法を開示している。しかしながら、特許文献6は、2,000m/分以下という低速での一般的な紡糸方法を開示しているに過ぎない。さらに、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオールを主に使用する場合の問題は、特許文献1~6のいずれでも認識されている。
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオールを使用した場合でも、紡糸速度を上げることにより、TPU繊維の機械的性質が飛躍的に向上することを見出し、このように本発明を完成した。
【0012】
具体的には、本発明は、弾性繊維の製造方法に関し、本方法は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、すなわち軟質セグメントと硬質セグメントとを含有するTPUを原料として使用し、2,000m/分以上~10,000m/分、好ましくは2,500m/分以上、より好ましくは3,000m/分以上、特に3,000m/分以上、特に3,500m/分以上、さらには4,000m/分以上の紡糸速度で、TPUを含む原料組成物を溶融紡糸することにより、弾性繊維を製造する方法である。
【0013】
本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
【0014】
TPUの軟質セグメントは、一般に、長鎖ポリオールとイソシアネートとを反応させることによって製造され、原料として使用される長鎖ポリオールは、好ましくは、50質量%以上の含有量で、3,000未満、好ましくは2,000未満の数平均分子量(Mn)を有するポリオールを含むことができる。以下、長鎖ポリオールをポリオールともいう。
【0015】
好ましくは、1種以上の架橋剤が原料組成物に添加される。化学構造内に1個以上のポリエーテル単位を含むポリエーテル架橋剤を使用することが好ましい。代替的または追加的に、非ポリエーテル架橋剤などの他の架橋剤を使用してもよいが、原料組成物の総量を基準として5質量%(5重量%)未満に、非ポリエーテル架橋剤の量を減らすことがより好ましい。
【0016】
TPUの硬度は、特に限定されないが、好ましくは74D以下のショア硬度を有する。加えて、70D以下、好ましくは64D以下のTPUのショア硬度は、弾性回復率およびエネルギー損失をより改善させる。
【0017】
TPUの硬質セグメント含有量は、特に限定されないが、例えば、10質量%~90質量%、好ましくは60質量%未満、さらには50質量%未満である。
【0018】
本発明は、上記方法により得られる弾性繊維、該弾性繊維を使用して弾性繊維物品を製造するための方法、および本製造方法により得られた弾性繊維物品を包含する。
【0019】
本発明によれば、耐薬品性等のTPU繊維の性質を維持しながら、機械的性質が向上したTPU弾性繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】繊維製造装置の一例を示す側面図である。
図2】実験装置を示す部分断面図である。
図3a図3(a)は、繊維の外径変動を示すグラフである。
図3b図3(b)は、繊維の外径変動を示すグラフである。
図3c図3(c)d)は、繊維の外径変動を示すグラフである。
図3d図3(d)は、繊維の外径変動を示すグラフである。
図4】弾性収縮率の測定結果を示すグラフである。
図5a図5(a)は初期ヤング率(初期ヤング率)のグラフである。
図5b図5(b)はタフネス(toughness)のグラフである。
図5c図5(c)は破断点伸びのグラフである。
図5d図5(d)はテナシティを示すグラフである。
図6a図6(a)は、応力-歪み曲線を示すグラフである。
図6b図6(b)は、応力-歪み曲線を示すグラフである。
図6c図6(c)は、応力-歪み曲線を示すグラフである。
図6d図6(d)は、応力-歪み曲線を示すグラフである。
図7a図7(a)は、応力-歪み曲線の立ち上がり部分を示すグラフである。
図7b図7(b)は、応力-歪み曲線の立ち上がり部分を示すグラフである。
図7c図7(c)は、応力-歪み曲線の立ち上がり部分を示すグラフである。
図8図8(a)~図8(d)は、広角X線回折(wide angle X-ray diffraction、WAXD)の回折像を示す。
図9図9(a)~図9(d)は、小角X線散乱(small angle X-ray scattering、SAXS)像を示す。
図10図10(a)は弾性回復率を示すグラフであり、図10(b)はエネルギー損失率を示すグラフである。
図11a図11(a)は弾性回復率を示すグラフである。
図11b図11(b)はエネルギー損失率を示すグラフである。
図12a図12(a)は、試料番号2-1~2-IVの繊維の外径変動を示すグラフである。
図12b図12(b)は、試料番号2-1~2-IVの繊維の外径変動を示すグラフである。
図12c図12(c)は、試料番号2-1~2-IVの繊維の外径変動を示すグラフである。
図12d図12(d)は、試料番号2-1~2-IVの繊維の外径変動を示すグラフである。
図13】弾性収縮率の測定結果を示すグラフである。
図14図14(a)~図14(d)は、応力-歪み曲線を示すグラフである。
図15a図15(a)は初期ヤング率のグラフである。
図15b図15(b)はタフネスのグラフである。
図15c図15(c)は破断点伸びのグラフである。
図15d図15(d)はテナシティを示すグラフである。
図16図16(a)~図16(d)は広角X線回折(WAXD)の回折像を示す。
図17図17(a)~図17(d)は、小角X線散乱(SAXS)の画像を示す。
図18図18(a)、図18(c)および図18(d)は弾性回復率を示し、図18(b)はエネルギー損失率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0022】
本発明の弾性繊維の製造方法は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(thermoplastic polyurethane elastomer、TPU)を含む原料組成物を溶融紡糸する工程を含む。以下、製造プロセス(方法)をさらに詳細に説明する。
【0023】
- 溶融紡糸
溶融紡糸は、押出機等を使用して原料組成物を融点以上の温度に加熱して得られる溶融状態の原料組成物を紡糸ノズルから気相中に(例えば、空気中に、または必要ならば冷却された空気中に)吐出する技術である。ノズルの位置決めは限定されないが、溶融組成物(糸、繊維)が下方に吐出される(引き下げられる)ように、ノズルを下方に向けることが好ましい。吐出された溶融糸は微細化されながら気相中で冷却固化され、次いで、一定の速度で巻き取られる。
【0024】
原料組成物の主成分(エラストマー)を原料組成物の他の成分とは別に溶融させて、溶融した主成分を、ノズルから吐出する直前に他の成分と混合するようにしてもよい。
【0025】
本発明に使用される装置は特に限定されず、その一例を図1に示す。繊維製造装置1は、押出機2と、紡糸ヘッド3と、ワインダー7とを備えている。例えばペレットとして形成された原料組成物またはその主成分は、供給口9から押出機2に供給され、押出機2で溶融された後、紡糸ヘッド3のノズル(紡糸ノズル)から気相中に吐出されて溶融糸となる。
【0026】
架橋剤などの1種以上の添加剤(他の成分)を使用する場合、静的または動的ミキサーなどの少なくとも1台のミキサー、好ましくは静的ミキサーを装置1に装備してもよい。この場合、エラストマーを含む主成分、好ましい一実施形態ではエラストマーからなる主成分は、架橋剤とは別に押出機内で溶融される。架橋剤は、ミキサーを使用して溶融主成分と混合される。次いで、溶融状態の混合組成物(つまり、溶融状態の原料組成物)が、紡糸ヘッド3のノズルから吐出される。原料組成物のエラストマーは、溶融紡糸プロセス中に架橋剤により架橋される。
【0027】
気相は、特に限定されず、不活性ガス雰囲気および空気雰囲気などの各種気相であってよいが、コストの観点から空気雰囲気(空気)である。気相の温度は、原料組成物の融点より低い温度であればよく、コストを考慮すると、-10℃~50℃、より好ましくは10℃~40℃である。
【0028】
吐出された溶融糸は、糸が気相中を走行している間に冷却されながら微細化され、次いで、弾性繊維となって、ワインダー7に巻き取られる。ワインダー7は、特に限定されないが、ワインダー7は通常1個以上のゴデットローラー4および5を有する。
【0029】
好ましい例では、ワインダー7の少なくとも一部、好ましい例では、1個のゴデットローラー4が紡糸ヘッド3の下に配置され、溶融糸が紡糸ヘッド3のノズルからワインダー7へと引き下げられるようになっている。ここで、「引き下げられる」の意味は、鉛直方向と平行の走行方向(鉛直下向き)に特に限定されるわけではない。糸/繊維の走行方向は、好ましい例では、鉛直方向に対して10度以下、好ましくは5度以下の角度で傾斜させることができる。
【0030】
溶融糸(冷却中または冷却後の弾性繊維を含む)は、ゴデットローラー4および5の回転によって走行し、次いで、糸は、ある巻き取り速度(巻き付け速度)、好ましい例では2,500m/分以上で、巻き取りロール6(ボビン)の周りに巻き取られる。結果として、糸(繊維)は、2,500m/分以上の紡糸速度で、紡糸ヘッド3のノズルからワインダー7の巻き取りロール6まで走行する。紡糸速度は、好ましくは3,000m/分以上、特に3,000m/分超、特に3,500m/分以上、さらにより好ましくは4,000m/分以上であってよい。
【0031】
なお、ワインダー7の構成は、上述したものに限定されるわけではないことに留意されたい。本発明では、紡糸速度の制御により繊維特性を向上させるために、少なくとも1個のゴデットローラー4をネルソンローラーとすることが許容され、ローラーと糸との間の滑りによる紡糸速度の変動を抑制することもできる。
【0032】
TPUの弾性繊維は、これまで、一般に数百m/分から1,000m/分未満の速度で紡糸されてきた。本発明では、紡糸速度を上記のように設定することにより、原料組成物のTPUエラストマーの長鎖ポリオール単位としてポリエーテルポリオールを使用する場合でも、TPU弾性繊維の機械的性質を向上させることができる。
【0033】
紡糸速度の上限は特に限定されない。後述するように、紡糸速度の上限は、原料組成物に使用されるTPUに応じて適宜変更され得るが、装置の安定的制御の観点から、10,000m/分以下、好ましくは9,000m/分以下である。
【0034】
本発明において、紡糸速度とは、例えば、紡糸ヘッド3のノズルからワインダー7の第1の巻き取りロール6までの間の速度を意味し、巻き取り速度とほぼ同じである。
【0035】
紡糸速度以外の紡糸条件は、特に限定されないが、以下のように設定することが好ましい。
【0036】
- 紡糸経路長
図1の符号Lは、紡糸経路長、すなわち紡糸ヘッド3のノズルからワインダー7までの距離を示す。溶融樹脂の冷却の観点からは、紡糸経路長Lは、通常50cm以上であり、より好ましくは100cm以上に設定される。紡糸経路長Lを長くすると、空気抵抗応力も大きくなるため、紡糸経路長は、通常800cm以下、好ましくは500cm以下、より好ましくは300cm以下に設定される。
【0037】
- 紡糸温度
紡糸温度は、例えば、押出機2における加熱温度として定義される。紡糸温度は、特に限定されず、原料組成物の融点に応じて適宜変更され得る。曳糸性の観点から、紡糸温度は、通常180℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは235℃以上である。特に、硬度が高い(例えばショア50D以上の)TPUエラストマーを使用する場合は、紡糸温度が高いほど(例えば230℃以上、好ましくは235℃以上)、より高い紡糸速度で紡糸することができる。原料組成物の熱分解を抑制する観点から、紡糸温度は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。
【0038】
紡糸温度を高く設定すると、結晶化速度が抑制され、抑制された結晶化速度の効果により、紡糸ライン上の直径が大きくなる傾向がある。紡糸温度を高く設定すると、破断点伸びが減少し、弾性収縮率Cが小さくなる傾向がある。TPUの特性(ショア硬度、硬質セグメント含有量、および(b)長鎖ポリオールの分子量など)の違いにより、紡糸温度の影響による曳糸性の変動は異なり、したがって、紡糸温度は、TPUの特性に応じて上記の好ましい範囲内で適宜変更することができる。
【0039】
- ノズル径
吐出圧力の観点から、紡糸ヘッド3のノズル径(直径)は、0.2mm以上、好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上、特に好ましくは0.8mm以上である。吐出安定性の観点から、紡糸ヘッド3のノズル径は、通常3.0mm以下、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下、特に好ましくは1.2mm以下である。
【0040】
ノズルの種類は限定されない。例えば、2種以上の成分を別々に吐出する(複合繊維を吐出する)ための複合紡糸ノズルなどの複雑な構造を有するノズルを使用する必要はない。換言すると、本発明は、通常の紡糸ノズル、好ましい一例として、1種の原料組成物のみを吐出するためのノズルを使用することができる。その結果、1種の原料組成物のみから製造された弾性繊維を得ることが可能となる。そのような繊維は、相または島が観察されない断面積を有し、断面積の99%以上が1種の材料のみによって占められている。換言すると、繊維の99体積%以上が1種の原料組成物のみによって占められ、好ましくは、繊維は本質的に1種の原料組成物のみからなる。
【0041】
- 吐出速度
紡糸安定性の観点から、単一ノズル孔(単一孔)当たりの吐出速度は、通常0.2g/分以上、好ましくは0.4g/分以上に設定され、精度制御の観点から、単一ノズル孔当たりの吐出速度は、通常7.0g/分以下、好ましくは5.0g/分以下、より好ましくは3.0g/分以下に設定される。
【0042】
上記のような紡糸条件は、条件間の相互関係、原料組成物に使用するTPUの種類および添加剤の種類、紡糸装置1全体の設計、ならびに物品繊維の特性(繊維直径およびフィラメントの数など)に応じて、任意に選択することができる。次に、本発明に使用される原料組成物について説明する。
【0043】
- 原料組成物
原料は、TPUを含むエラストマー、より好ましくは、本質的にTPUからなるエラストマーを含んでよい。「本質的にからなる」という用語は、エラストマーが、TPUおよび場合により意図しない材料、例えば残渣、汚染物質等を含むことを意味する。換言すると、エラストマーは、TPUを95質量%(重量%)以上、好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、特に99.9質量%以上、さらには100質量%含む。このようなTPUは限定されず、1種以上のTPUがエラストマーとして使用され得る。以下、好ましいTPUについて説明する。
【0044】
- TPU(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)
TPUは一般に、特に限定されないが、(a)イソシアネート、好ましくは有機ジイソシアネート、(b)長鎖ポリオール、好ましくはポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオール、好ましくはポリエーテルポリオール、および、さらに好ましい実施形態では、(c)鎖延長剤(長鎖ポリオールより鎖の長さが短いポリオール、通常、短鎖ジオール)を必須成分として、必要な場合には(d)触媒および/または(e)助剤(補助剤)の存在下で、互いに反応させることにより得られる。短鎖ジオールは鎖延長剤とも呼ばれる。好ましい実施形態において、鎖延長剤は、50g/mol~499g/molの分子量を有する。長鎖ポリオールとも呼ばれるポリオールは、500g/mol~10×10g/molの数平均分子量を有する。反応は、好ましい実施形態において任意の成分(d)および(e)の存在下で、必須成分(a)~(c)全体を一段階で互いに反応させる、一段階反応であるか、または(a)および(b)の2種以上の成分を互いに反応させてプレポリマーを形成し、次いで、好ましくは成分(d)および(e)の存在下で、プレポリマーおよび必須成分の残りを互いに反応させる、複数の段階を有する反応であり得る。
【0045】
TPUの硬度は、(c)鎖延長剤と(a)イソシアネートとを反応させることによって形成された硬質セグメントと、(b)長鎖ポリオールと(a)イソシアネートとを反応させることによって形成された軟質セグメントとの間の比(質量比)によって影響され、硬質セグメントの構造(例えば、イソシアネートの分率)によって影響される。硬質セグメントの一例を次式(1)に示す。
【0046】
[式1]
【化1】
【0047】
式(1)の上半分は(a)イソシアネートおよび(c)鎖延長剤を示し、これらの成分間の反応により、式(1)の下半分に示す硬質セグメント構造が生じる。硬質/軟質セグメント比は、例えば、TPU全体の質量における上記硬質セグメント構造の全質量の割合(硬質セグメント含有量、質量%)によって定義することができる。より具体的には、硬質セグメント含有量は、TPU全体の質量における、鎖延長剤と反応する(c)鎖延長剤の質量と(a)イソシアネートの質量(通常、(a)のモル量は(c)のモル量と同じである)との合計の割合として定義することができる。本発明に使用されるTPUにおいて、硬質セグメント含有量は、例えば、10質量%~90質量%、好ましくは25質量%~75質量%、さらに好ましくは30質量%~60質量%、特に50質量%未満である。
硬質相分率とも呼ばれる硬質セグメント含有量は、以下の式によって計算される。
【0048】
【数1】
【0049】
項目の意味は以下のとおりである。
KVx:鎖延長剤xのモル質量(単位:g/mol)
KVx:鎖延長剤xの質量(単位:g)
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(単位:g/mol)
ges:すべての出発材料の総質量(単位:g)
k:鎖延長剤の数
【0050】
TPUの硬度は特に限定されないが、通常、ショア70~ショア80Dであり、好ましくはショア75A~ショア74Dである。ただし、硬度が高すぎると、高い紡糸速度を達成することが困難となり、弾性回復率およびエネルギー損失率が低下する傾向がある。したがって、これらの特性が必要な場合には、TPUのショア硬度は、74D以下、好ましくは70D以下、さらに好ましくは64D以下に設定される。
【0051】
(a)イソシアネートとしては、一般に知られている芳香族、脂肪族、脂環族および/または芳香脂肪族イソシアネートを使用することができ、好ましくはジイソシアネートが使用される。具体的には、例えば、以下の物質:2,2’-、2,4’-および/もしくは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、2,4-および/もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルジイソシアネート、1,2-ジフェニルエタンジイソシアネートおよび/もしくはフェニレンジイソシアネート、トリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ、ヘプタおよび/またはオクタメチレンジイソシアネート、2-メチルペンタメチレン-1,5-ジイソシアネート、2-エチルブチレン-1,4-ジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-ブチレンジイソシアネート、1-ジイソシアナト-3,3,5-トリメチル-5-イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート(IPDI))、1,4-および/もしくは1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1-メチル-2,4-および/もしくは-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、ならびに/または4,4’-、2,4’-および2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートから選択される1種以上を使用することが可能である。より好ましいイソシアネートは、2,2’-、2,4’-および/もしくは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、2,4-および/もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、ならびに/またはIPDI、特に4,4’-MDIおよび/またはヘキサメチレンジイソシアネートであり、最も好ましいイソシアネートはMDIである。
【0052】
(b)長鎖ポリオールとしては、一般にイソシアネート反応性化合物として知られている化合物を使用することができる。例えば、ポリエステルオール、ポリエーテルオールおよび/またはポリカーボネートジオールを使用することができる。これらは慣習的に「ポリオール」という用語の範囲に含まれる。一般的に使用されるポリオールは、例えば、500g/mol~8,000g/mol、好ましくは600g/mol~6,000g/molの数平均分子量を有する。ただし、後述するように、紡糸速度を上げるために、(b)長鎖ポリオールの数平均分子量は、好ましくは3,000未満、より好ましくは2,000g/mol未満、特に1,500g/mol未満、より具体的には1,200g/Mol以下、さらには1,000以下である。分子量の下限は、好ましくは500、より好ましくは600、特に好ましくは700である。好ましい一実施形態では、ポリオールは、800g/mol~1.2×10g/molの分子量を有する。本出願において言及されているポリオールの分子量は数平均分子量である。
【0053】
TPUの原料として2種以上の(b)長鎖ポリオールを使用する場合、上記のような適切な分子量をそれぞれ有するポリオールの含有量(例えば、3,000g/mol未満)は、(b)長鎖ポリオールの総量100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、特に好ましくは90質量部以上である。適切な分子量を有するポリオールから実質的になる(b)長鎖ポリオールを使用することが最も好ましい。
【0054】
(b)長鎖ポリオールのその他の特性は特に限定されないが、例えば、イソシアネートに関する平均官能価は、好ましくは1.8~2.3、より好ましくは1.9~2.2、特に好ましくは2(ジイソシアネート)である。なお、特に断りのない限り、分子量は、数平均分子量Mn(g/mol)を意味する。
【0055】
分子量以外の化学構造に注目すると、1種または2種以上の(b)長鎖ポリオールを使用することができる。(b)長鎖ポリオール、すなわちポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、またはポリカーボネート系ポリオールのいずれを使用しても、理論的には高い効果が得られると推察される。このようなポリオールの中でも、耐寒性、耐微生物腐食性、および耐水性などの望ましい繊維特性を考慮すると、ポリエーテル系ポリオール(ポリエーテルポリオール)を好ましく使用することができる。
【0056】
ポリエーテル系の(b)長鎖ポリオールを使用する場合、ポリエステルオールおよびポリカーボネートジオールの少なくとも一方を、ポリエーテルオール(ポリエーテルポリオール)と一緒に使用することができる。ただし、(b)長鎖ポリオール(ポリエーテル系TPU)の主成分として、ポリエーテルポリオールを使用することが好ましく、換言すると、(b)長鎖ポリオールの少なくとも50質量%(重量%)は、1種以上のポリエーテルポリオールからなっていてもよい。より好ましくは、(b)長鎖ポリオールは、80重量%以上のポリエーテルポリオール、特に95重量%以上のポリエーテルポリオールを含み、さらには(b)長鎖ポリオールは、本質的にポリエーテルポリオールからなっていてよい。有用なポリエーテルオールの例としては、いわゆる低不飽和ポリエーテルオールが挙げられる。
【0057】
本発明において、低不飽和ポリオールは、特に、不飽和化合物を0.02meg/g未満、好ましくは0.01meg/g未満の含有量で含むポリエーテルアルコールである。このようなポリエーテルアルコールの例としては、テトラヒドロフラン(ポリテトラメチレングリコール、PTMEG)、アルキレンオキシド(特に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、およびこれらの混合物)ならびにアルコール付加物の開環ポリマーが挙げられる。長鎖ポリオール(b)としては、PTMEGを使用して製造されるTPUの可撓性、テナシティおよび耐久性等の観点から、PTMEGが最も好ましい。ただし、耐熱性等が要求される場合、好ましいポリオールはPTMEGのみに限定されない。
【0058】
(c)鎖延長剤は、長鎖ポリオール(b)の分子量よりも小さい分子量を有する短鎖ポリオールであり、具体的には、50~499の分子量を有する二官能性化合物(ジオール)である。(c)鎖延長剤として使用される短鎖ポリオールの例としては、一般に知られている脂肪族、芳香脂肪族、芳香族および/または脂環式化合物が挙げられる。短鎖ポリオールの具体例としては、アルカンジオール(アルキレン基に2~10個の炭素を有する)、特に、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および/またはジ、トリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ、ヘプタ、オクタ、ノナおよび/またはデカアルキレングリコール(3~8個の炭素原子を有する)、ならびに対応するオリゴおよび/またはポリプロピレングリコールが挙げられる。(c)鎖延長剤は、それぞれ単独でまたはそれらの2種以上を組み合わせて、使用することができる。特に好ましい(c)鎖延長剤は1,4-ブタンジオールである。
【0059】
TPUの硬度を調節するために、構成単位成分(b)と構成単位成分(c)のモル比を、比較的広いモル比の範囲で変更することができる。連鎖延長剤(c)の総量に対する成分(b)のモル比は、10:1~1:10であり、特に1:1~1:4の範囲が有用であり、(c)の含有量が多くなるほど、TPUの硬度が高くなる。
【0060】
任意成分である(d)触媒の例は、特に限定されないが、トリメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N,N’-ジメチルピペラジン、2-(ジメチルアミノエトキシ)エタノール、ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、およびこれらの類似体;さらに、特にチタンエステルなどの有機金属化合物;アセチルアセトン酸鉄(III)などの鉄化合物;二酢酸スズ、ジオクチル酸スズ、ジラウリン酸スズなどのスズ化合物;ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートなどの脂肪族カルボン酸のスズジアルキル塩ならびにこれらの等価物である。触媒は、(b)長鎖ポリオール100質量部に対して、通常、0.0001~0.1質量部の量で使用される。
【0061】
任意成分である助剤(e)としては、界面活性剤、核形成剤、滑りおよび離型助剤、染料、顔料、酸化防止剤(例えば、加水分解、光、熱、および変色に関するもの)、難燃剤、補強剤および可塑剤、金属不活性化剤ならびに架橋剤が挙げられる。これらから選択された1種以上を使用することができる。
【0062】
成分(a)~(c)、ならびに任意に(d)および(e)から製造されるTPUとして、市販の製品を使用することもできる。市販品としては、以下の市販の熱可塑性ポリウレタン系エラストマー樹脂:DIC Bayer Polymer Ltd.製Pandex T-1185NおよびT-1190N;日本ミラクトラン株式会社製Miractran;DIC Corp.製Pandex;ダウ・ケミカル日本株式会社製Pellethane;BASFジャパン株式会社製Elastollan;協和発酵株式会社製Estane;大日精化工業株式会社製Lezamine P;三井化学ポリウレタン株式会社製Hiprene;日清紡株式会社製Mobilon;株式会社クラレ製Kuramiron U;旭硝子株式会社製U-Fine;株式会社アプコ製Sumiflex;および東洋紡株式会社製Toyobo Urethaneを使用してよい。原料組成物は、上記TPUエラストマーを主成分として含んでいてよい。ただし、換言すると、さらなる添加剤も原料組成物に使用することができる。添加剤は特に限定されないが、難燃剤、充填剤、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、および光安定剤などの、繊維分野で使用されている添加剤の1種以上を添加して使用することが可能である。必要に応じて、上記の適切なTPU以外のTPU、例えば、非ポリエーテル系TPUを原料組成物に添加することもでき、有機溶媒などの希釈剤を原料組成物に添加することもできる。
【0063】
しかしながら、非ポリエーテル系TPU、特にポリエステル系TPUは、エステル結合が微生物(それに由来する酵素)および加水分解によって容易に切断されるため、耐水性および耐微生物腐食性に劣る。したがって、非ポリエーテル系TPUの量を抑制することがより好ましく、例えば、原料組成物の総量を基準として10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに1質量%以下とすることがより好ましい。ここで、「ポリエステル系TPU」とは、1種以上のポリエステルポリオールを(b)長鎖ポリオールの主成分(例えば、50重量%以上)として使用して製造されたTPUを意味する。「非ポリエーテル系TPU」とは、ポリエーテルポリオール以外のポリオールを(b)長鎖ポリオールの主成分(例えば、50重量%以上)として使用して製造されたTPUを意味する。
【0064】
さらに、ポリエステル樹脂などの他のエラストマー/樹脂も除外されるべきであり、例えば、そのようなエラストマー/樹脂の量は、原料組成物中で1質量%以下であるべきである。
【0065】
添加剤のうち、以下の架橋剤を、TPUエラストマーと一緒に好ましく使用することができる。
【0066】
- 架橋剤
任意の種類の架橋剤を使用することができるが、1種以上の(i)ポリオール;1種以上の(ii)イソシアネート、および任意に他の化合物から製造される反応化合物から選択される、1種以上の架橋剤を使用することが好ましい。最終製品(繊維)の性質を考慮すると、1種以上のポリエーテル架橋剤を好ましく使用することができる。通常、架橋剤の分子量は、上記のTPUエラストマーの分子量よりも低い。
【0067】
ポリエーテル架橋剤は、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも95質量%の(i)ポリオールが1種以上のポリエーテルポリオールから選択される、(i)ポリオールを使用して製造される。換言すると、ポリエーテル架橋剤は、ポリエーテルポリオールから誘導された1個以上の単位(ポリエーテルポリオール単位)を含有する。
【0068】
特に限定されるわけではないが、(i)ポリエーテルポリオールは、テトラヒドロフラン(ポリテトラメチレングリコール、PTMEG)、アルキレンオキシド(特に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、およびこれらの混合物)ならびにアルコール付加物の開環ポリマーから選択されてよい。より好ましくは、(i)ポリエーテルポリオールは、500g/mol~4.0×10g/mol、より好ましくは500g/mol~2.0×10g/mol、特に0.8×10g/mol~1.5×10g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0069】
(ii)ポリイソシアネートは、特に限定されるわけではないが、脂肪族および/または脂環式、ならびに任意に芳香族ジイソシアネートからも選択することができる。例えば、(ii)ポリイソシアネートは、好ましいTPUの(a)イソシアネートについて上で説明した化合物から選択することができる。イソシアネートのうち、架橋剤としては、MDIを好ましく使用することができる。
【0070】
このような架橋剤は、1.5%~20%、好ましくは2%~10%、特に5%~6%のイソシアネート基含有量(NCO含有量)を有することが好ましい。
【0071】
ポリエーテル架橋剤の量は、限定されないが、原料組成物の総量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、さらには5質量%以上に設定することが好ましい。主成分(TPUエラストマー)を他の成分(1種以上の架橋剤および/または1種以上の他の添加剤)とは別に溶融する場合、原料組成物の総量は、主成分と他の成分の量を合計することによって得られる。
【0072】
架橋剤の量の上限は、特に制限されるわけではないが、好ましい実施形態では、上限は、原料組成物の総量を基準として、25質量%以下、20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0073】
少なくとも50質量%の(i)ポリオールが、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクタムポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールなどの非ポリエーテルポリオール(ポリエーテルポリオール以外のポリオール)から選択される、非ポリエーテル架橋剤を使用することも可能である。ただし、そのような非ポリエーテル架橋剤は、最終製品の好ましい特性を悪化させることがある。したがって、非ポリエーテル架橋剤の量を、原料組成物の総量を基準として、5質量%未満、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下に設定することが好ましい。
【0074】
本発明の方法によれば、非ポリエーテル架橋剤の量を減らしても、機械的性質が向上した繊維を、高い製造歩留まりで製造することが可能である。
【0075】
- 最終製品(繊維)
上記の方法により、弾性繊維を得ることができる。弾性繊維の機械的性質および他の性質、例えば形状またはサイズに関する特定の制限はない。例えば、20マイクロメートル超、好ましくは25マイクロメートル以上、より好ましくは30マイクロメートル以上、特に40マイクロメートル以上、さらには50マイクロメートル以上の平均直径を有する弾性繊維を得ることが可能である。平均直径の上限は、限定されないが、1,000マイクロメートル以下、好ましくは300マイクロメートル以下、より好ましくは200マイクロメートル以下であってよい。平均直径は、例えば、繊維の繊度(デニール)および密度から算出して得ることができる。
【0076】
本発明により製造された弾性繊維は、衣料材料繊維、工業用繊維、およびフィルターなどの繊維物品として使用され得る。加えて、本発明により製造された弾性繊維は、自動車の内装に使用される繊維物品にも好適である。
【0077】
以下、TPUを使用した紡糸方法について、実施例を参照しながらさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0078】
A)硬質セグメント含有量の調査
(a)イソシアネートとしてMDI、(b)長鎖ポリオールとしてポリテトラメチレングリコール、(c)鎖延長剤として1,4-ブタンジオールを原料として使用して、複数の種類のTPUを製造した。TPUのそれぞれについて、ショア硬度、HS(硬質セグメント)含有量、および(b)長鎖ポリオールの分子量を下記の表1に記載する。
【0079】
- 高速紡糸弾性繊維の製造
図2は、実施例で使用した溶融紡糸測定装置の構成を概略的に示す図であり、図1における部材と同一の部材には図1と同一の符号を付し、そのような部材の説明は省略している。図2に示す溶融紡糸測定装置を使用することによって、かつ表1に示す紡糸温度および吐出圧力で、各TPUを原料組成物として使用することによって、ノズル(1個の穴、ノズル径1mm)から溶融紡糸を行って繊維を製造した。
【0080】
ここで、繊維構造形成に関する紡糸速度は、ノズル孔とワインダー7(巻き取りロール)との間の速度、すなわち、巻き取りロールの巻き取り速度である。図2に示す紡糸ノズルから巻き取りロールまでの距離は、図1における紡糸経路長Lに対応する。巻き取り速度が最初に0.27km/分、第2段階で0.5km/分、第3段階で1km/分に設定されるように、巻き取り速度を上げ、次いで、1km/分の増分で連続的に繰り返し設定した。このように、最終的に最高速度で巻き取りを行い、最大巻き取り速度を曳糸性として評価した。
【0081】
[表1]
【表1】
【0082】
上記の表1から分かるように、TPUの硬質セグメント含有量の増加およびTPUの硬度の増加に伴い、最大巻き取り速度は低下する傾向がある。紡糸温度が230℃であるとき、試料番号IIは、試料番号Iよりも最大巻き取り速度が遅い。他の試料については、曳糸性を確保できるようになるまで温度を上げることによって紡糸温度を決定した。したがって、試料番号IIについては、紡糸温度が十分ではなく、紡糸温度をより高い温度(例えば、235℃以上)に設定すれば、試料番号IIの最大巻き取り速度はさらに改善されると推定される。実際に、紡糸温度が240℃であったとき、試料番号IIの最大巻き取り速度は6km/分となった。
【0083】
次に、高速紡糸が弾性繊維に与える影響を調べた。
【0084】
- 高速溶融紡糸中の速度変動プロファイルの調査
紡糸ラインに関する速度変動プロファイルを調査するために、弾性樹脂の溶融紡糸中のライン上で外径速度測定を行った。外径測定器(Zimmere OHG、Model 460/A10)を使用して、紡糸ヘッド(ノズル)の吐出ノズル(紡糸ノズル)の10cm下流の位置から、吐出ノズルの260cm下流の位置まで、10cm間隔で、繊維の外径を測定した。サンプリング周波数を1kHzに設定し、測定時間を6秒に設定した。レーザードップラー速度計(TSI、Ls520)を使用して、ノズルの吐出ノズルの20cm下流の位置から、吐出ノズルの280cm下流の位置まで、10cm間隔で、さらに吐出ノズルの285cmおよび289cm下流の位置で、繊維の速度の測定を行った。サンプリング周波数を1kHzに設定し、各位置で2,000ポイントサンプリングが達成されるまで測定を続けた。紡糸温度は上記の表1に示したとおりであった。
【0085】
図3(a)~図3(d)は、TPU試料I~IVの紡糸結果を示す。高硬度TPU(番号I~III)では、低硬度TPU(番号VI)の上流側で繊維径(外径)の縮小が起こり、切り出した後も小さい外径が維持されていた。図3(c)に示すように、紡糸温度を高くすると、TPU(ショア50D以上(例えば、ショア64D))の紡糸速度を向上させることが可能である。
【0086】
図4(a)は、巻き取りロール(ボビン)から繊維を切り出したときの弾性収縮率Cを示す。弾性収縮率Cは、(l-l’)/lから導出され、式中、lは、切り出す前の繊維長(ボビンの周長:72.25cm)を表し、l’は、繊維をボビンから切り出した後の繊維長を表す。例えば、同じ巻き取り速度の条件下で、TPU番号II、IIIおよびIVを互いに比較すると、高いショア硬度を有するTPU番号Iは、特に紡糸温度が十分に高い場合、より低いショア硬度をそれぞれ有するTPU番号II、IIIおよびIVよりも弾性収縮率が低かった。これらのうち、最も高いショア硬度を有するTPU番号Iは、特に小さい弾性収縮率を示し、弾性収縮率は最大約3%であった。したがって、TPUのショア硬度が高いほど、弾性収縮率が小さいことが確認できた。
【0087】
次に、島津製作所製「Autograph AG-1」を使用して、初期ヤング率、破断点タフネス(toughness at break)、破断点伸びおよび破断点テナシティ(tenacity at break)を、決定した。試料として、長さ20mmの各TPU弾性繊維を使用した。試料のそれぞれについて、3箇所の断面積を予め測定し、真円を仮定して得た面積の平均値から算出した面積を、断面積として使用した。試験速度を100%/分(すなわち20mm/分)に設定した。応力の立ち上がり時の応力-歪み曲線の傾きから、初期ヤング率を読み取った。応力-歪み曲線の積分値として、破断点タフネスを得た。これらの試験を試料のそれぞれについて5回ずつ行い、その平均値を使用した。
【0088】
図5(a)は初期ヤング率の測定結果を示し、図5(b)は破断点タフネスの測定結果を示し、図5(c)は破断点伸びの測定結果を示し、図5(d)は破断点テナシティの測定結果を示す。これらの図のそれぞれのグラフにおいて、横座標は巻き取り速度(紡糸速度)を表す。
【0089】
紡糸速度が速くても初期ヤング率の増加率は低く、巻き取り速度2km/分以上の領域で初期ヤング率が低下したTPU番号IIIの場合が見られた(図5(a))。TPU番号IIの紡糸温度を上げることによって、初期ヤング率は、3,000m/分を超える、より高い巻き取り速度で、十分に高いものになる。
【0090】
より低い紡糸温度230℃でのTPU番号IIの破断点テナシティは、巻き取り速度を上げたときでも、わずかに減少した。他のTPU試料のそれぞれでは、2km/分以上の巻き取り速度域でタフネスの低下率が低下した(図5(b))。一方、TPU番号IIの紡糸温度が高くなると(240℃)、TPU番号IIのタフネスは、他のTPU試料と同様に低下した。
【0091】
従来のTPU繊維(1,000m/分未満の紡糸速度)では、破断点伸びは500~1,000%であり、テナシティは50~100MPaであるが、2km/分以上の紡糸速度域では、破断点伸びが特に小さく、テナシティが特に高いことが確認できた(図5(c)、図5(d))。
【0092】
図6(a)~図6(d)に応力-歪み曲線(S-S曲線)を示す。これらの図のうち、図6(c)は、紡糸温度が230℃の場合のTPU IIの結果を示す。これらの図のそれぞれにおいて、横座標は公称歪みを表し、縦座標は公称応力を表す。これらの図のそれぞれにおいて、0.5、1、2、3、4、5および6という数字は、巻き取り速度(km/分)を表す。公称歪みは、長さの変動(ΔI)を元の長さLで除算することによって得られる値である。図6(a)~図6(d)から分かるように、巻き取り速度(紡糸速度)が2km/分以上であるとき、公称歪みを低下させる傾向が顕著に増強されることが確認された。
【0093】
図7(a)~図7(c)は、応力-歪み曲線の立ち上がり部分を示すグラフであり、グラフのそれぞれにおいて、0.5、1、2、3、4、5および6という数字は、図6(a)~図6(d)と同様に、巻き取り速度(km/分)を表す。硬質セグメント含有量が少なく、硬度が低いTPU番号Vでは、約40%以下の公称応力範囲内での巻き取り速度に関係なく、応力-歪み曲線はほぼ同じ曲線をたどった。硬質セグメント含有量が多く硬度が高いTPU番号IIIでは、応力-歪み曲線は互いに異なって変化した。硬質セグメント含有量が多く硬度が高いTPU番号Iでは、降伏点が認められた。
【0094】
- 弾性繊維の広角X線回折(WAXD)および小角X線散乱(SAXS)の調査
高速紡糸弾性繊維の広角X線回折(WAXD)および小角X線散乱(SAXS)を調べるために、X線発生装置(リガク、RMT-18HFVE)を使用して、電圧45kV、電流60mAでX線を出力し、CCDカメラ(リガク、CCD MERCURY)を使用して回折像を得た。広角X線回折(WAXD)では、照射時間10秒、蓄積回数5回により、回折像のそれぞれを得た。小角X線散乱(SAXS)では、照射時間5分、蓄積回数6回により、回折像のそれぞれを得た。
【0095】
TPU番号I~IVを使用することによって製造された弾性繊維について、図8(a)~図8(d)はそれぞれ広角X線回折像を示し、図9(a)~図9(d)はそれぞれ小角X線散乱像を示す。なお、図8および図9において、「km/分」が付された数値は、各弾性繊維の紡糸速度を表している。図8(a)~図8(d)から分かるように、広角X線回折像において、硬質セグメント含有量を増やしても、結晶を示す明確なピークは認められなかった。加えて、図9(a)~図9(d)から分かるように、小角X線散乱像では、像が方位角の点で赤道方向に分裂する傾向は小さかった。
【0096】
- 弾性回復(ヒステリシス)の調査
初期張力(予張力)が存在せず、ASTM-D2731に従って負荷歪みを100%に設定しことを除いて、二倍伸び後(100%伸び後)の弾性回復(ヒステリシス)を以下の手順によって調べ、1回目の伸びと5回目の伸びのそれぞれ、およびエネルギー損失率(1回目の伸び)と弾性回復率(5回目の伸び)を決定した。
【0097】
1.100%/分の歪み速度で、1.0の歪み(初期長さの100%の歪み)を繊維に与え、次いで、同じ速度で、繊維の長さを初期長さに戻させる。
2.上記1の工程を4回(合計5回)繰り返し、第5の工程では、歪みを与えた後、繊維を30秒間保持する。
3.繊維の長さを初期長さに戻させ、最後に繊維が破断するまで繊維を伸ばす(第6の工程)。
【0098】
第6の工程で繊維が破断するまで繊維を伸ばしたとき、応力が上昇し始める歪み規模Eを決定し(図10(a))、歪み規模E(%)および荷重歪みE(%)から、次式に基づいて弾性回復率を決定した。
【0099】

弾性回復率[%]=(E-E)/E×100
【0100】
エネルギー損失率を以下のようにして決定した。最初の歪みサイクルにおいて、歪みを加えるプロセスにおける応力の積分値から、荷重を除くプロセスにおける応力の積分値を引いた。得られた値をエネルギー損失W(すなわち、図10(b)中の0abcd0で囲まれた面積)として解釈し、エネルギー損失率を次式に基づいて決定した。
エネルギー損失率[%]=WL/(W+W)×100
(式中、Wは、図10(b)中のdcbedで囲まれた面積を表す。)
【0101】
図11(a)および図11(b)において、I~Vはそれぞれ表1のTPUの試料番号に対応する。図11(a)および図11(b)から分かるように、硬質セグメント含有量が少なく、硬度が低いほど、弾性回復率が高く(第5の操作)、エネルギー損失が少ないことが確認された。最も高いショア硬度を有するTPU番号Iは、他のTPUと比較して弾性回復率が著しく低かった。しかしながら、TPU番号Iでは、巻き取り速度が高くなるにつれて弾性回復率が大きくなり、エネルギー損失も小さくなることが確認された。
【0102】
巻き取り速度を、特に3,000m/分超に上げることで、複屈折が十分に高くなることが見いだされ、各試料の配向度が高くなることが分かった。さらに、TPUの硬度を、特にショア64D以下に下げることにより、平均屈折率が高くなることが見いだされた。したがって、低い硬度により結晶化度は高くなる。
【0103】
- 硬質セグメント含有量の概要
高速溶融紡糸に使用するTPUの硬質セグメント含有量を多くすると、より高い溶融紡糸速度でも弾性収縮率の小さいTPU弾性繊維を得ることができた。硬質セグメントの含有量がより高いTPU繊維は、ヤング率はより高いが、回復特性は悪化した。さらに、それらのTPU繊維の応力-歪み曲線の立ち上がり部分は互いに異なる。他のTPU繊維と同様に、高い硬質セグメント含有量を有するTPU繊維は、WAXD画像において明確なスポットを示さなかったが、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry、DSC)の結果は、200℃前後で吸熱ピークを示し、それが硬質セグメントの融解に由来するピークであることを示唆した。
【0104】
B)ポリオールの分子量の調査
下記の表2に示すように、軟質セグメントの(b)ポリオール分子量が互いに異なるTPU試料を使用して、「A)硬質セグメント含有量の調査」と同じ条件で、弾性繊維の性質を試験した。
【0105】
[表2]
【表2】
【0106】
各TPU試料2-I~2-Vについて、ゲルパーミッションクロマトグラフィー機器HLC-8820GPC(東ソー製、以下の2個のカラム:TSKgel SuperHZM-Hを使用)を使用して、TPU全体の質量平均分子量(標準ポリスチレン換算)を測定した。結果を表2にも示した。
【0107】
図12(a)~図12(d)はオンライン直径測定の結果を示し、括弧内の試料番号2-1~2-IVおよび2-VのMn値は各図中のポリオールの分子量を示す。図12(a)~図12(d)を比較すると、軟質セグメントの成分としてのポリオールの分子量が大きいほど、凝固位置がノズル(紡糸口金)に近づき、したがって、直径が変化しない領域が広くなった。
【0108】
ショア硬度は低かった(85A)が、分子量3,000以上の(b)長鎖ポリオールを使用した場合、紡糸温度を調整しても2km/分を超える高速紡糸は困難となった。TPU2-IVの全分子量は、他のTPU2-I~2-IIIおよび2-Vのものとそれほど変わらなかったが、TPU2-IVは非常に高い溶融粘度および高速での不十分な紡糸特性を示した。したがって、(b)長鎖ポリオールの好ましい分子量は、繊維特性を改善するためにより高い紡糸速度が要求される場合、3,000未満、より好ましくは2,000未満である。
【0109】
ノズル径が1.0mmから0.5mmに変更されたTPU番号2-Vのオンライン直径測定の結果によって示されるように、ノズル径が大きいほど、溶融延伸率が大きいため、上流側(すなわちノズルに近い側)で配向結晶化による固化が起こることが分かった。
【0110】
TPU番号2-I~番号2-Vを比較するオンライン直径測定の結果によって示されるように、巻き取り速度が十分に速くなると(3km/分)、試料番号2-I、2-IIおよび2-V(ポリオールMn<2,000)が非常に類似した曲線を示すことが分かった。
【0111】
図13は、繊維をボビンから切り出したときの弾性収縮率Cの測定結果を示す。図13において、縦座標は弾性収縮率C、横座標は巻き取り速度、および2-I~2-VはそれぞれTPUの試料番号を表す。弾性収縮率Cの測定結果によれば、軟質セグメント中の長鎖ポリオールの分子量が小さくなるほど、弾性収縮率Cが高くなることが確認された。
【0112】
図14(a)~図14(d)は、応力-歪み曲線の測定結果を示す。これらの図のそれぞれにおいて、横座標は公称歪みを表し、縦座標は公称応力を表す。これらの図のそれぞれにおいて、数字0.5、1…、5および6は巻き取り速度(km/分)を表す。図14(a)~図14(d)に示すように、軟質セグメント中の長鎖ポリオールの分子量が大きくなるほど、繊維テナシティが小さくなる。得られた結果を比較すると、ノズル径の変化は応力-歪み曲線にそれほど影響を及ぼさなかったようである。
【0113】
図15(a)は初期ヤング率の測定結果を示し、図15(b)はタフネスの測定結果を示し、図15(c)は破断点伸びの測定結果を示し、図15(d)はテナシティの測定結果を示す。これらの図のぞれぞれのグラフにおいて、横座標は巻き取り速度(紡糸速度)を表し、2-I~2-IVはそれぞれTPUの試料番号を表す。
【0114】
TPU番号2-IV(長鎖分子量=3,000)は、紡糸速度に対するヤング率の著しい増加を示した(図15(a))。一方、TPU番号2-I~2-III(長鎖分子量<3,000)は、巻き取り速度を増加させることによってテナシティが著しく増加し(図15(d))、紡糸速度2km/分以上の領域で伸びがほとんど減少しなかった(図15(c))。これらのTPUのいくつかでタフネスの減少が観察されたが、減少はごくわずかであった(図15(b))。
【0115】
- 弾性繊維の広角X線回折(WAXD)および小角X線散乱(SAXS)の調査
表2に示したTPUを使用して製造した繊維について、「A)硬質セグメント含有量の調査」と同様に、広角X線回折像および小角X線散乱像を得た。結果を図16(a)~16(d)および図17(a)~図17(d)に示す。
【0116】
図16(a)~図16(d)に示すように、高分子量を有する(b)ポリオールを使用した場合でも広角X線回折は明確なスポットを示さなかった。図9(a)~図9(d)と同様に、図17(a)~図17(d)の小角X線散乱像は、回転速度が高くなるほど2スポット像が4スポット像に近くなり、(b)長鎖ポリオールの分子量が増加するほど赤道方向の回折像が明確になるという傾向を示した。
【0117】
- 弾性回復(ヒステリシス)の調査
「A)硬質セグメント含有量の調査」と同様に、弾性回復率およびエネルギー損失を決定した。結果を図18(a)~図18(d)に示す。図18(a)に示すように、特に「5倍」および「第1と第2」の結果を比較すると、高分子量の(b)長鎖ポリオールは弾性回復率を悪化させた。さらに、図18(b)に示すように、特に(b)長鎖ポリオールがMn>2,000を有する場合に、(b)長鎖ポリオールの分子量が大きいほど、エネルギー損失が大きくなった。
【0118】
- 長鎖ポリオールの分子量の要約
分子量の大きい(b)長鎖ポリオールをTPU繊維に使用した場合、ノズル孔に近い位置で固化が生じたため、結晶化速度が速かったと推測された。しかしながら、WAXDは明確なスポットを示さず、一方、SAXSは赤道方向に沿って明確な回折像を明確に示した。TPU繊維の機械的性質については、高分子量を有する(b)長鎖ポリオールをTPU繊維に使用した場合、初期ヤング率が高くなり、その特性は紡糸速度に依存するが、テナシティ(tenancy)が弱かった。DSC測定によると、TPU試料番号2-IVは、(b)長鎖ポリオール結晶の溶融に由来すると考えられるピーク(10℃付近の吸熱エネルギーピーク)を示した。
【符号の説明】
【0119】
1 装置
2 押出成形機
3 紡糸ヘッド
4 ゴデットローラー
5 ゴデットローラー
6 巻き取りローラー
7 ワインダー
9 供給口
L 紡糸経路長
F 繊維
10 ギアポンプ
11 吐出ノズル(紡糸ノズル)
12 レーザードップラー速度計
13 外径測定器
14 分析機器
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図7c
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12a
図12b
図12c
図12d
図13
図14
図15a
図15b
図15c
図15d
図16
図17
図18