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特許7095272エナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法
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  • 特許-エナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】エナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20220628BHJP
   F26B 3/30 20060101ALI20220628BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20220628BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220628BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01B13/16 Z
F26B3/30
H01B13/16 B
B05C9/14
B05C11/10
C09D201/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017242176
(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公開番号】P2019110029
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 秀太
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-134951(JP,A)
【文献】特開2011-108602(JP,A)
【文献】実開昭55-059412(JP,U)
【文献】特開2012-160304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
F26B 3/30
H01B 13/00
B05C 9/14
B05C 11/10
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に塗布されたエナメル線塗料を乾燥炉で乾燥させることにより、溶剤に樹脂成分を含まないようにして前記溶剤を前記エナメル線塗料から蒸発させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で蒸発した前記溶剤を回収する回収工程と、
を含み、
前記乾燥工程では、前記導体に塗布された前記エナメル線塗料に対して、前記溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長を持つ光を照射することで、前記エナメル線塗料に含まれる前記溶剤を蒸発させ、
前記乾燥工程で蒸発させた前記溶剤は、ブロアによって吸引されることで前記乾燥炉の溶剤蒸気吐出口から溶剤回収部へ導入され、前記溶剤回収部に導入された溶剤は、水溶液となって分離部に導入され、前記分離部に導入された水溶液は、前記溶剤と水とに分離される、
エナメル線塗料の溶剤回収方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、前記ピーク波長を、0.8~3.5μmの範囲に設定する請求項1に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、前記光を、前記ピーク波長に合致するピーク波長を持つ光に設定する請求項1又は請求項2に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、前記光を、近赤外線に設定する請求項1~3のいずれか1項に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
【請求項5】
導体に塗布されたエナメル線塗料に対して溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を照射する照射光源を内蔵し、前記エナメル線塗料を乾燥させる乾燥炉を有し、前記乾燥炉により、前記溶剤に樹脂成分を含まないようにして前記溶剤を前記エナメル線塗料から蒸発させる焼付炉と、前記焼付炉で蒸発した前記溶剤を回収する溶剤回収部と、を備え、
前記乾燥炉で蒸発させた前記溶剤は、ブロアによって吸引されることで前記乾燥炉の溶剤蒸気吐出口から前記溶剤回収部へ導入され、前記溶剤回収部に導入された溶剤は、水溶液となって分離部に導入され、前記分離部に導入された水溶液は、前記溶剤と水とに分離される、
エナメル線塗料の溶剤回収装置。
【請求項6】
前記焼付炉は、前記照射光源を、前記光を反射する一対の反射部材の間に配置して備えた前記乾燥炉と、前記乾燥炉の下流に設けられ、前記樹脂を硬化して前記導体に焼き付ける硬化炉とを備えた請求項5に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
【請求項7】
前記溶剤回収部は、低温凝集部を含む請求項5に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
【請求項8】
前記溶剤回収部は、吸着濃縮部を含む請求項5に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
【請求項9】
前記溶剤回収部は、水スクラバー部を含む請求項5に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
【請求項10】
前記溶剤回収部は、低温凝集部、吸着濃縮部及び水スクラバー部の少なくとも2つを組み合わせた構成を有する請求項5に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
【請求項11】
導体に塗布されたエナメル線塗料を乾燥炉で乾燥させることにより、溶剤に樹脂成分を含まないようにして前記溶剤を前記エナメル線塗料から蒸発させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後に前記エナメル線塗料中の樹脂を硬化させて前記導体の周囲に皮膜を形成する硬化工程と、
を含むエナメル線の製造方法であって、
前記乾燥工程で蒸発した前記溶剤を回収する回収工程を含み、
前記乾燥工程では、前記導体に塗布された前記エナメル線塗料に対して、前記溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長を持つ光を照射することで、前記エナメル線塗料に含まれる前記溶剤を蒸発させ、
前記乾燥工程で蒸発させた前記溶剤は、ブロアによって吸引されることで前記乾燥炉の溶剤蒸気吐出口から溶剤回収部へ導入され、前記溶剤回収部に導入された溶剤は、水溶液となって分離部に導入され、前記分離部に導入された水溶液は、前記溶剤と水とに分離される、
エナメル線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル線の製造時にエナメル線塗料から溶剤を回収するエナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメル線塗料の溶剤回収方法としては、例えば、樹脂及び溶剤を含むエナメル線塗料が塗布された導体を誘導加熱方式によって加熱する方法がある(特許文献1参照)。この誘導加熱方式を使用してエナメル線塗料から溶剤を回収する方法では、焼付炉の上流側に配置された誘導加熱装置による導体の加熱によって当該塗料中の溶剤を気化させ、この気化された溶剤を、ガラスあるいはセラミックの液化部材に接触させて冷却することによって溶剤を凝縮して溶剤を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-108602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されたエナメル線塗料の溶剤回収方法では、導体の加熱によって導体に塗布されたエナメル線塗料に含まれた樹脂と溶剤とがともに加熱されるため、低分子量の樹脂成分が発生してしまう。低分子量の樹脂成分は、溶剤を回収する工程で除去されず、回収した溶剤に混合物として含まれるおそれがある。回収した溶剤に低分子量の樹脂成分が含まれると、例えば、回収した溶剤を含むエナメル線塗料を用いてエナメル線を製造する場合に、エナメル線の皮膜に発泡や膨れ等の外観不良が生じることがある。
【0005】
よって、本発明の目的は、混合物としての樹脂成分の少ない溶剤を回収することができるエナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]~[13]のエナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法を提供する。
【0007】
[1]導体に塗布されたエナメル線塗料を乾燥させることによって前記エナメル線塗料から樹脂成分を含まないようにして溶剤を蒸発させる乾燥工程と、前記乾燥工程で蒸発した前記溶剤を回収する回収工程と、を含むエナメル線塗料の溶剤回収方法。
[2]前記乾燥工程は、前記導体に塗布されたエナメル線塗料に、前記溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を照射する[1]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
[3]前記乾燥工程は、前記ピーク波長を、0.8~3.5μmの範囲に設定する[2]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
[4]前記乾燥工程は、前記光を、前記ピーク波長に合致するピーク波長を持つ光に設定する[2]又は[3]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
[5]前記乾燥工程は、前記光を、近赤外線に設定する[2]~[4]のいずれか1項に記載のエナメル線塗料の溶剤回収方法。
[6]導体に塗布されたエナメル線塗料に、前記溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を照射する照射光源と、前記照射光源を内蔵し、前記エナメル線塗料を乾燥させることによって前記エナメル線塗料から樹脂成分を含まないようにして前記溶剤を蒸発させる焼付炉と、前記焼付炉で蒸発した前記溶剤を回収する溶剤回収部とを備えたエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[7]前記焼付炉は、前記照射光源を、前記光を反射する一対の反射部材の間に配置して備えた乾燥炉と、前記乾燥炉の下流に設けられ、前記樹脂を硬化して前記導体に焼き付ける硬化炉とを備えたエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[8]前記溶剤回収部は、前記乾燥炉に接続されているブロアを含む[7]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[9]前記溶剤回収部は、低温凝集部を含む[6]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[10]前記溶剤回収部は、吸着濃縮部を含む[6]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[11]前記溶剤回収部は、水スクラバー部を含む[6]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[12]前記溶剤回収部は、低温凝集部、吸着濃縮部及び水スクラバー部の少なくとも2つを組み合わせた構成を有する[6]に記載のエナメル線塗料の溶剤回収装置。
[13]導体に塗布されたエナメル線塗料を乾燥させることによって前記エナメル線塗料から樹脂成分を含まないようにして溶剤を蒸発させる乾燥工程と、前記乾燥工程後に前記エナメル線塗料中の樹脂を硬化させて前記導体の周囲に皮膜を形成する硬化工程と、を含むエナメル線の製造方法であって、前記乾燥工程で蒸発した前記溶剤を回収する回収工程を含むエナメル線の製造方法。
なお、[1]、[6]、及び[13]において、「樹脂成分を含まないようにして」とは、「樹脂成分を全く含まない」ことを意味するものではない。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置、並びにエナメル線の製造方法によれば、混合物としての樹脂成分の少ない溶剤を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係るエナメル線塗料の溶剤回収装置の一例を示す概略図である。
図2図1の溶剤回収装置の塗料塗布部及び焼付炉を示す上面図である。
図3図1の焼付炉に含まれる乾燥炉の一実施形態を示す概略図((a)は導体進行方向に垂直な断面図、(b)は(a)のB-Bの断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔エナメル線塗料の溶剤回収方法〕
本発明の実施の形態に係るエナメル線塗料の溶剤回収方法は、導体に塗布したエナメル線塗料中の溶剤を、当該溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を焼付炉に含まれる乾燥炉内で直接あるいは反射させて当該塗料に当てることにより蒸発させ、蒸発させた溶剤を溶剤回収部によって回収するものである。
以下に述べる実施の形態によれば、混合物としての樹脂成分の少ない溶剤を回収することができる効果に加えて、エナメル線塗料中の溶剤をエナメル線の外観を損なうことなく、短時間で蒸発させることができ、且つ、蒸発した溶剤を高収率に回収し、白金、パラジューム等の触媒の使用を不要にすることが可能な効果を有したエナメル線塗料の溶剤回収方法及び溶剤回収装置を提供することができる。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係るエナメル線塗料の溶剤回収装置の一例を示す概略図であり、図2は、図1のエナメル線製造装置の塗料塗布部及び溶剤回収装置の焼付炉を示す上面図である。
【0012】
図1に示されるように、ボビン100に巻きつけられた導体1がプーリ11a,11b,11cを介して焼鈍炉12に供給され、焼鈍が行われる。その後、導体1は、プーリ11d,11e,ターンプーリ13を介して塗料塗布部14へ導かれ、導体1の外周にエナメル線塗料が塗布され、塗布されたエナメル線塗料が乾燥及び硬化されることによって、導体1の外周に所望の厚さからなる皮膜を有するエナメル線2となる。
【0013】
エナメル線2は、焼付炉10を構成する乾燥炉15及び硬化炉16中を走行し、エナメル線塗料中の溶剤の蒸発(すなわちエナメル線塗料の乾燥)及びエナメル線塗料中の樹脂の硬化(すなわち皮膜の焼付)が行われる。焼付炉10を構成する乾燥炉15及び硬化炉16は、図2に示されるように別体であることが好ましい。乾燥炉15によって蒸発した溶剤蒸気は、溶剤蒸気吐出口15aを介してブロア158によって吸引され、後述する溶剤回収部154に導入される。
溶剤回収部154に導入された溶剤は、後述するように、例えば、溶剤の水溶液となって分離部155に導入され、分離部155によって溶剤156と水157に分離される。
【0014】
なお、乾燥炉15において、エナメル線塗料中の溶剤が蒸発してエナメル線塗料が乾燥する工程は、乾燥工程に相当し、また、硬化炉16において、エナメル線塗料中の樹脂が硬化して皮膜が焼付く工程は、硬化工程に相当する。
更に、溶剤回収部154に導入された溶剤を水溶液とし、この水溶液を分離部155において溶剤156と水157に分離した後、当該溶剤を回収する工程は、回収工程に相当する。
【0015】
図2に示されるように、エナメル線2は、下流側のターンプーリ13bを介して上流側のターンプーリ13aに戻り、塗料塗布部14によるエナメル線塗料の塗布、乾燥炉15によるエナメル線塗料中の溶剤の蒸発、及び硬化炉16によるエナメル線塗料中の樹脂の硬化が所望の皮膜厚さとなるまで繰り返し行われる。
【0016】
エナメル線塗料中の樹脂の硬化の方法は、特に限定されるものではなく、熱風等により加熱することで行なうことができる。なお、前述したように、乾燥炉15及び硬化炉16によって、焼付炉10を構成する。また、乾燥炉15は、蒸発炉としての機能を有するが、ここでは乾燥炉として称呼する。
【0017】
一方、エナメル線塗料中の溶剤の蒸発は、前述の通り、乾燥炉15中で、導体1に塗布したエナメル線塗料中の溶剤を、当該溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を、乾燥炉15内で直接あるいは反射させて当てることにより行われる。ただし、光を直接当てることは必須でない。
【0018】
図3(a),(b)は図1及び図2の乾燥炉15の一実施形態を示す概略図((a)はエナメル線2の進行方向に垂直な断面図)である。
【0019】
本発明の乾燥炉の一実施の形態である乾燥炉15には近赤外線ヒータ151が設置されており、乾燥炉15の内壁面には近赤外線ヒータ151が発する近赤外線(照射光)を反射する反射膜152が設けられている。これにより、乾燥炉15の炉開口部153を走行するエナメル線2の全周囲に対し、近赤外線ヒータ151からの近赤外線を当てることができる。反射光は、1回反射に限らず、多重反射した光であっても良い。
【0020】
反射膜152は、例えば、金、銀、アルミ等の反射率の高い材質で形成されたものであることが好ましく、蒸着等の方法により設けることができる。乾燥炉の内壁前面に設けることが好ましい。エナメル線2の周方向の全方位に光を当てることができれば、反射膜に替えて或いは追加(併用)して、その他の反射部材を設けても良い。
【0021】
エナメル線塗料中の溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を照射する光源としては、上記の近赤外線ヒータの他に、例えば、半導体レーザ光、LED(発光ダイオード)、高輝度放電ランプ、EL(エレクトロルミネセンス)ライトであってもよい。
【0022】
近赤外線は、近赤外線ヒータ151のみならず、石英管とタングステンフィラメントで赤外線を発生し、冷却により遠赤外線領域をカットすることで近赤外線のみを照射することができる波長制御ヒータを用いて照射することもできる。
【0023】
近赤外線ヒータ151は、エナメル線2の進行方向に対し垂直な方向に、複数個(例えば12個)、配列されている。また、近赤外線ヒータ151は、エナメル線2の進行方向に対し平行な方向に、走行するエナメル線2を挟むように互いに対向する位置(図3(a)、図3(b)では走行するエナメル線2の上下)に1つずつ50~1280cmの長さのものが設けられている。近赤外線ヒータ151の長さ・設置個数は、適宜設定すればよく、これらに限定されるものではない。
【0024】
図1に示すように、焼付が終了したエナメル線2は、プーリ11f,11iを介して巻取機17に巻き取られる。
【0025】
なお、上記ピーク波長は、0.8~3.5μmの範囲内であることが好ましく、1.2~3.4μmの範囲内であることがより好ましく、2.2~3.1μmの範囲内であることが更に好ましく、2.3~3.0μmの範囲内であることが最も好ましい。
【0026】
エナメル線2に当てる上記光は、上記ピーク波長に合致するピーク波長を持つ光であることが好ましく、かつ、それ以外にピーク波長を持たない光であることがより好ましい。塗料中の溶質である樹脂には吸収が無く、溶媒である溶剤にのみ吸収のある光を当てることにより、エナメル線塗料の表面の皮張りを抑制し、作業性が向上する。導体に塗布されたエナメル線塗料の表面の皮張りは、樹脂の架橋反応等の硬化反応が一因であるが、樹脂を加熱しないように溶剤のみが吸収する波長の光を照射することにより、樹脂の硬化反応を抑制でき、皮張りを抑制することができる。
【0027】
また、溶剤のみが吸収する波長の光を照射することにより、溶剤を低温で効率よく乾燥させることができる。このため、従来のように、短時間で乾燥させる場合に乾燥温度を高温にする必要が無く、溶剤の沸騰、突沸現象で生じる発泡を抑制することができる。これによって、発泡のリスクが減るため、導体の外周に形成した皮膜の外観が良好になる。
【0028】
また、溶剤分子を選択的に加熱することで、塗料中の低分子量の樹脂成分の発生を抑制することが出来るため、混合物としての樹脂成分の少ない溶剤が回収できる。
【0029】
以上の実施の形態において、例えば、エナメル線塗料(例えばポリイミド塗料)中の溶剤としてN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いた場合、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)は、4μm未満において波長2.3μm及び3.0μmに吸収ピークを有しているため、2.3μm前後(2.3±0.2μm)又は3.0μm前後(3.0±0.2μm)にピーク波長を持つ光を照射することが好ましく、2.3μm又は3.0μmにピーク波長を持つ光を照射することがより好ましく、かつそれら以外にピーク波長を持たない光を照射することがより好ましい。このとき、塗料中に溶けているポリアミック酸(硬化後にポリイミドとなる)には3.3μm以上にしか吸収が無いため、上記ピーク波長を持つ光を選ぶことにより、ポリアミック酸の閉環反応を抑制できるので、エナメル線塗料の表面を皮張りしにくくすることができる。
【0030】
また、上記光をエナメル線2に直接に当てるだけでなく、閉鎖タイプ(密閉タイプ)の乾燥炉10内で上記光を反射させて、エナメル線2の周方向の全方位から反射光を当てることにより、ムラなく均一に溶剤を蒸発させることができ、高速度で塗膜を乾燥させることができる。なお、エナメル線2の周方向の全方位から反射光が当てられていればよく、上記光を直接に当てることは必須ではない。
【0031】
これにより、塗布した塗料が、重力等によって塗料が垂れ下がることなく、皮膜厚が均一且つ寸法精度の高い、外観及び品質の良好なものが製造設備タイプによらずに竪型でも横型でも製造可能である。
【0032】
また、平角エナメル線であっても、コーナー部に塗布した塗料が、表面張力等によって流れる前に不動化し、同様に皮膜厚が均一且つ寸法精度の高い、外観及び品質の良好なものが製造設備タイプによらずに竪型でも横型でも製造可能である。
【0033】
溶剤回収部154としては、例えば、低温凝集方式、吸着濃縮方式、水スクラバー方式を用いることができる。低温凝集方式とは、溶剤蒸気を含むガスを冷媒の流れる管やラジエータ等の凝縮器と接触させて、冷却することにより、溶剤蒸気の露点以下とし、排ガス中の溶剤分を凝集させる方式である。この方式を低温凝集部として用いて実施の形態を実施する。
【0034】
吸着濃縮方式とは、活性炭のような溶剤吸着物質に溶剤蒸気を含むガスを通すことにより、溶剤分子が、吸着物質に吸着する。この吸着物質を搬送した後、再加熱することで、溶剤分子を分離し、再度高温で多量の溶剤分子を含んだ気体を得て、凝縮器等を利用して溶剤を採取する方式である。この方式を吸着濃縮部として用いて実施の形態を実施する。
【0035】
水スクラバー方式とは、溶剤蒸気を含むガスを純度の高い水中に通すことで、ガス中の溶剤を水中に溶解させる方式である。この方式を水スクラバー部として用いて実施の形態を実施する。
【0036】
上記した何れの方式を用いても回収された溶剤は、水分等を含むため、分離部155において目的に応じた濃縮、蒸留等の処理をして再利用することが好ましく、これによって溶剤156、水157に分離される。また、上記した3方式のうちの個々の回収方法に限定するものでなく、2つ以上の方式を併用しても良い。
例えば、溶剤回収部154として、上流側から、吸着濃縮部、低温凝集部、及び水スクラバー部を直列に配置して溶剤を回収するのが好ましい。また、吸着濃縮部、低温凝集部、及び水スクラバー部から2つ選んで溶剤回収部154を構成しても良く、また、1つだけ選んで溶剤回収部154を構成しても良い。
【0037】
本実施の形態において使用される導体1の素材は、銅、銅合金等、特に限定されることなく使用できる。また、導体1の形状としては、丸線、平角線、異形状の線等が挙げられるが、特に平角線の場合に従来方法に比べてメリットがある。
【0038】
平角エナメル線に塗布すると従来の方法では、乾燥させる速度が遅く、短時間で乾燥させることができないことにより、塗膜(平角導体に塗布したエナメル線塗料)が乾燥する前に流れてしまう。特に平角導体の角部に塗布したエナメル線塗料が角部の周辺へと流れてしまうため、皮膜の付き回りが悪くなる。つまり、皮膜の厚さが均一にならなかった。これに対して、本発明の実施形態に係る方法によれば、短時間で、かつ好ましい実施形態では低温で乾燥できるため、塗膜が流れるのを抑制した状態で乾燥させることができる。このため、皮膜の付き回りが悪くなるのを抑制することができる。このように、本発明の実施形態では、乾燥速度を速くすることができるため、塗膜が垂れにくくなり、良好な皮膜状態の太線や平角線が製造できるようになる。
【0039】
本実施の形態において使用されるエナメル線塗料としては、エナメル線に使用可能なものであれば特に限定されることなく用いることができる。前述したように、例えば、エナメル線塗料中の溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、クレゾール、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、エナメル線塗料中の樹脂としては、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。
塗料中の溶剤は単一種にする方が好ましく、単一種の皮膜を形成する方が好ましい。これは、回収後、蒸留等で分離する工程が簡略化され、安価に溶剤を再利用できるためである。しかしながら、クレゾールとN,N-ジメチルアセトアミドのように反応してしまう溶剤は同一の溶剤回収装置内に導入すべきでない。これらの溶剤を同一エナメル線上に塗装する場合は、乾燥炉内に仕切りを設け、個別のブロアによって吸引し、個別の溶剤回収部に導入することが好ましい。乾燥炉1台に対して1台の溶剤回収部とする必要はなく、複数の溶剤回収部を直列、または並列に接続してもよく、複数の乾燥炉から1台の溶剤回収部に導入してもよい。
【0040】
本発明の実施の形態に係るエナメル線塗料の溶剤回収装置は、これまで述べてきたように、エナメル線塗料中の溶剤が吸収する波長のうち4μm未満のピーク波長に合致する波長を持つ光を前記エナメル線に照射する照射光源を内蔵した乾燥炉を備え、前記乾燥炉は、前記光を反射する部材を備え、前記乾燥炉は、ブロアを介して、溶剤回収部に接続されている。
【0041】
前述したように、本発明の実施形態においては、図2に示す如く、別々の乾燥炉15と硬化炉16からなる焼付炉10とし、乾燥炉15に上記照射光源と反射部材と溶剤蒸気吐出口15aを設け、乾燥炉15で蒸発した蒸気を溶剤蒸気吐出口15aからブロア158を介して、溶剤回収部154へ導入する構成としてもよく、一方、ブロア158が溶剤回収部154の出口側に配置してもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、焼付炉を横型炉としたが、縦型炉としてもよい。
【0043】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、エナメル線塗料中の溶剤を短時間で蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させても外観が良好な皮膜を形成することができ、効率的に溶剤を回収でき、製造設備のタイプによらずに高速度なエナメル線溶剤の回収方法及び回収装置を提供することができる。すなわち、熱風等を利用してエナメル線塗料を乾燥させる場合に比べ、短時間で溶剤を蒸発させてエナメル線塗料を乾燥でき、混合物としての樹脂成分の少ない高品質の溶剤を回収できるため、製造コストダウンが可能となる。また、溶剤に光を吸収させることにより溶剤分子を振動させて溶剤を揮散させることにより溶剤を均一的に蒸発させてエナメル線塗料を乾燥させることを可能としたため、熱を利用する場合に比べて、発泡や皮張り等を抑制できる。そして、エナメル線の周方向の全方位から反射光を当てることにより、ムラなく均一に溶剤を蒸発させることができ、高速度で塗膜を乾燥させることができるため、平角エナメル線であっても、皮膜厚が均一且つ寸法精度の高い、外観及び品質の良好なものが製造設備タイプによらずに竪型でも横型でも製造可能である。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず種々に変形実施が可能である。例えば、本発明の効果を奏する限りにおいて、乾燥炉15において、熱風(好ましくは低温・低風速)を併用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
100:ボビン、1:導体、2:エナメル線、10:焼付炉、11(11a~11i):プーリ、12:焼鈍炉、13(13a,13b):ターンプーリ、14:塗料塗布部、15:乾燥炉、15a:溶剤蒸気吐出口、16:硬化炉、17:巻取機、150:エナメル線溶剤の回収装置、151:近赤外線ヒータ、152:反射膜、153:炉開口部、154:溶剤回収部、155:分離部、156:溶剤、157:水、158:ブロア
図1
図2
図3