(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ビスマレイミド化合物とその中間体、並びに、樹脂組成物、樹脂フィルム、プリプレグ、積層板、プリント配線板及び半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
C07D 207/452 20060101AFI20220628BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20220628BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220628BHJP
B32B 15/14 20060101ALI20220628BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C07D207/452
C08G73/00
B32B15/08 J
B32B15/14
B32B15/088
(21)【出願番号】P 2018025385
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】森田 高示
(72)【発明者】
【氏名】土川 信次
(72)【発明者】
【氏名】入野 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】波多野 豊平
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05314513(US,A)
【文献】特表2001-501230(JP,A)
【文献】特開2018-012248(JP,A)
【文献】特開昭52-024289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 207/00
C08G 73/00
B32B 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるビスマレイミド化合物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、炭素数2
~7のアルキル基を表す。R
1~R
4は、それぞれ同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。nは、
3~6の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のnが
4である、請求項1に記載のビスマレイミド化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のR
1~R
4が直鎖状アルキル基である、請求項
1又は2に記載のビスマレイミド化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のR
1~R
4がいずれも同一のアルキル基である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のビスマレイミド化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)中のR
1
~R
4
がn-プロピル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のビスマレイミド化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスマレイミド化合物を含有してなる樹脂組成物。
【請求項7】
さらにアミン化合物を含有してなる、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の樹脂組成物を用いて形成される樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の樹脂組成物を含有してなるプリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板。
【請求項11】
請求項9に記載のプリプレグ又は請求項10に記載の積層板を含有してなるプリント配線板。
【請求項12】
請求項11に記載のプリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージ。
【請求項13】
下記一般式(5)で示されるマレアミン酸化合物。
【化2】
(一般式(5)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、炭素数2
~7のアルキル基を表す。R
1~R
4は、それぞれ同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。nは、
3~6の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマレイミド化合物とその中間体、並びに、樹脂組成物、樹脂フィルム、プリプレグ、積層板、プリント配線板及び半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される通信端末のデータ通信量は増加の一途を辿っており、データ量の伝送を短時間で行うために、通信周波数の高周波数化が進んでいる。通信周波数を高くするためには伝送損失を抑制する必要があり、低誘電率及び低誘電正接を有する材料が必要とされている。
このような低誘電率及び低誘電正接を有する材料として、これまでに、多孔質ポリイミド膜(特許文献1参照)、シアナト基を有する樹脂(特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-042718号公報
【文献】特開2015-106628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の多孔質ポリイミド膜は、樹脂中に空隙を有するため、空隙に外部から異物が侵入することで絶縁信頼性が不足する懸念がある。また、特許文献2に記載のシアナト基を有する樹脂は、耐吸湿性が必ずしも十分とはいえず、さらなる改善の余地がある。このように、低誘電率及び低誘電正接とその他の特性とを両立させることは通常容易ではないため、まずは低誘電率及び低誘電正接を有する新たな材料を数多く開発し、その中から有望な材料を選択できるような状況にすることが重要である。
【0005】
本発明は、こうした現状に鑑み、低誘電率化を可能とするビスマレイミド化合物とその中間体、該ビスマレイミド化合物を含有してなる樹脂組成物、さらに、該樹脂組成物を用いて得られる、樹脂フィルム、プリプレグ、積層板、プリント配線板及び半導体パッケージを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するビスマレイミド化合物であれば上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記[1]~[13]に関する。
[1]下記一般式(1)で示されるビスマレイミド化合物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、炭素数2以上のアルキル基を表す。R
1~R
4は、それぞれ同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。nは、2以上の整数である。)
[2]前記一般式(1)中のnが3以上の整数である、上記[1]に記載のビスマレイミド化合物。
[3]前記一般式(1)中のR
1~R
4が炭素数2~100のアルキル基である、上記[1]又は[2]に記載のビスマレイミド化合物。
[4]前記一般式(1)中のR
1~R
4が直鎖状アルキル基である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のビスマレイミド化合物。
[5]前記一般式(1)中のR
1~R
4がいずれも同一のアルキル基である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のビスマレイミド化合物。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載のビスマレイミド化合物を含有してなる樹脂組成物。
[7]さらにアミン化合物を含有してなる、上記[6]に記載の樹脂組成物。
[8]上記[6]又は[7]に記載の樹脂組成物を用いて形成される樹脂フィルム。
[9]上記[6]又は[7]に記載の樹脂組成物を含有してなるプリプレグ。
[10]上記[9]に記載のプリプレグと金属箔とを含有してなる積層板。
[11]上記[9]に記載のプリプレグ又は上記[10]に記載の積層板を含有してなるプリント配線板。
[12]上記[11]に記載のプリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージ。
[13]下記一般式(5)で示されるマレアミン酸化合物。
【化2】
(一般式(5)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、炭素数2以上のアルキル基を表す。R
1~R
4は、それぞれ同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。nは、2以上の整数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のビスマレイミド化合物によれば、樹脂組成物の硬化物の低誘電率化を達成できるため、積層板、プリント配線板及び半導体パッケージの低誘電率化が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、数値範囲の下限値および上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値および上限値と任意に組み合わせられる。
本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
【0010】
[ビスマレイミド化合物]
本発明のビスマレイミド化合物は、下記一般式(1)で示される。
【化3】
(一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、炭素数2以上のアルキル基を表す。R
1~R
4は、それぞれ同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。nは、2以上の整数である。)
【0011】
当該構造を有する本発明のビスマレイミド化合物[以下、ビスマレイミド化合物(1)と称することがある。]であれば、樹脂組成物の硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化が可能となる。当該効果が得られる正確な理由は必ずしも明らかではないが、従来知られていたビスマレイミド化合物に比べ、ビスマレイミド化合物(1)の自由体積(物質が実際に占める体積と、原子半径等から計算される空間占有体積との差)が大きいことに一因があるものと推察する。
【0012】
前記R1~R4が表す炭素数2以上のアルキル基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基等が挙げられる。該アルキル基は、直鎖状アルキル基であってもよいし、分岐鎖状アルキル基であってもよいが、低誘電率化及び低誘電正接化の観点からは、好ましくは直鎖状アルキル基である。また、該アルキル基としては、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、好ましくは炭素数2~100のアルキル基、より好ましくは炭素数2~50のアルキル基、さらに好ましくは炭素数2~30のアルキル基、特に好ましくは炭素数2~7のアルキル基、最も好ましくはn-プロピル基である。いずれも、自由体積の大きさが低誘電率化及び低誘電正接化に寄与しているものと推察する。
R1~R4は、それぞれ同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。つまり、R1~R4は、全て同一のアルキル基であってもよいし、全てが異なるアルキル基であってもよいし、又は、任意の組み合わせにおいてのみ同一のアルキル基であって、その他は異なるアルキル基であってもよい。低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、R1~R4としては、いずれも同一のアルキル基であることが好ましい。
また、R1~R4は、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、直鎖部位の炭素数の最大長さがそれぞれ同一であることが好ましい。R1~R4それぞれの直鎖部位の炭素数の最大長さが同一であることにより、自由体積が均一になる傾向があるためであると推察する。
【0013】
nは、括弧で囲まれたメチレン基の繰り返し数を表しており、2以上の整数である。nは、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、好ましくは2~100の整数、より好ましくは3以上の整数、さらに好ましくは3~50の整数、特に好ましくは3~30の整数、最も好ましくは3~10であり、3~6であってもよい。
例えばnが4である場合、前記一般式(1)は下記一般式(1’)に相当し、当該一般式(1’)で示されるビスマレイミド化合物が好ましい。
【化4】
(一般式(1’)中、R
1~R
4及びnは、前記説明の通りである。)
【0014】
以上より、最も好ましい本発明のビスマレイミド化合物の一態様として、以下の4,9-ビスマレイミド-4,9-ジ(n-プロピル)ドデカンが挙げられる。
【化5】
【0015】
[樹脂組成物]
本発明は、前記本発明のビスマレイミド化合物(1)[前記の好ましい態様を含む。]を含有してなる樹脂組成物も提供する。本発明の樹脂組成物は、ビスマレイミド化合物(1)を含有してなるものであるため、その硬化物は低誘電率を有する。なお、「含有してなる」とは、各成分をそのまま含有していることは勿論のこと、含有させた後に形態が変化した状態、例えば一部又は全部の成分が化学反応を起こした状態も含む。
本発明の樹脂組成物は、さらにアミン化合物を含有してなるものであることが好ましい。該アミン化合物としては、第一級アミノ基を有するアミン化合物であることが好ましい。また、モノアミン化合物及びジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記アミン化合物は、脂肪族アミン(脂環式アミンを含む。)であってもよいし、芳香族アミンであってもよい。
前記脂肪族アミンとしては、その構造中に芳香族環を有さない限り特に制限はなく、例えば、脂肪族モノアミン、脂肪族ジアミン、脂環式モノアミン、脂環式ジアミン等が挙げられる。脂肪族モノアミン及び脂肪族ジアミン中の脂肪族基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。脂肪族モノアミンとしては、ジアリルアミン等が挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0017】
前記芳香族アミンとしては、その構造中のどこかに芳香族環を有している限り特に制限はなく、一部に脂肪族炭化水素基を有するものも含まれる。芳香族アミンとしては、例えば、芳香族モノアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。
前記芳香族モノアミンとしては、下記一般式(X1)で示される芳香族モノアミンであってもよい。
【化6】
(一般式(X1)中、R
11は、水酸基、カルボキシ基及びスルホン酸基から選択される酸性置換基を表す。R
12は、炭素数1~5のアルキル基又はハロゲン原子を表す。tは1~5の整数、uは0~4の整数であり、且つ、1≦t+u≦5を満たす。但し、tが2~5の整数の場合、複数のR
11は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、uが2~4の整数の場合、複数のR
12は同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0018】
R11が示す酸性置換基としては、溶解性及び反応性の観点から、好ましくは水酸基、カルボキシ基であり、耐熱性も考慮すると、より好ましくは水酸基である。
tは1~5の整数であり、低誘電率化の観点から、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1である。
R12が示す炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該アルキル基としては、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
R12が示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
uは0~4の整数であり、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。
但し、1≦t+u≦5を満たすようにt及びuが選択される。
【0019】
前記芳香族モノアミン化合物の具体例としては、例えば、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、p-アミノ安息香酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、3,5-ジヒドロキシアニリン、3,5-ジカルボキシアニリン等が挙げられる。
【0020】
前記芳香族ジアミンとしては、下記一般式(X2)で示される芳香族モノアミンであってもよい。
【化7】
(一般式(X2)中、Xは、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基もしくはそれらを組み合わせた基、又は-O-を表す。R
13及びR
14は、各々独立に、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基又はスルホン酸基を示す。v及びwは、各々独立に、0~4の整数である。vが2~4の整数の場合、複数のR
13は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、wが2~4の整数の場合、複数のR
14は同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0021】
Xが表す脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、イソプロピリデン等が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、イソプロピリデン基が好ましい。
Xが表す芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
Xが表す、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基を組み合わせた基としては、例えば、下記構造の基(*は結合部位である。)が挙げられる。
【化8】
【0022】
これらの中でも、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基を組み合わせた基としては、下記構造の基(*は結合部位である。)が好ましい。
【化9】
【0023】
R13及びR14が示す炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。該アルキル基としては、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
v及びwは、それぞれ独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0024】
芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス[1-(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、1,4-ビス[1-(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、3,3’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0025】
(アミン化合物の含有量)
本発明の樹脂組成物がアミン化合物を含有してなるものである場合、アミン化合物の含有量は、アミン化合物が有する第1級アミノ基当量[-NH2基当量と記す]の総和と、ビスマレイミド化合物(1)のマレイミド基当量との関係が、下記式を満たすことが好ましい。
0.1≦〔マレイミド基当量〕/〔-NH2基当量の総和〕≦10
〔マレイミド基当量〕/〔-NH2基当量の総和〕を0.1以上とすることにより、ゲル化しない傾向及び耐熱性が低下しない傾向にあり、また、10以下とすることにより、耐熱性が低下しない傾向にあるため、好ましい。
同様の観点から、より好ましくは、
1≦〔マレイミド基当量〕/〔-NH2基当量の総和〕≦9 を満たし、より好ましくは、
2≦〔マレイミド基当量〕/〔-NH2基当量の総和〕≦8 を満たす。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、耐熱性及び難燃性等の観点から、さらに硬化促進剤を含有してなるものであることが好ましい。
前記硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒;トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン化合物;メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、イソシアネートマスクイミダゾール(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂と2-エチル-4-メチルイミダゾールの付加反応物等)等のイミダゾール化合物;第3級アミン化合物;第4級アンモニウム化合物;トリフェニルホスフィン等のリン系化合物;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等の有機過酸化物;マンガン、コバルト、亜鉛等の金属のカルボン酸塩などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、ガラス転移温度及び保存安定性の観点から、イミダゾール化合物、有機過酸化物、カルボン酸塩が好ましく、有機過酸化物がより好ましい。該有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。
樹脂組成物が硬化促進剤を含有してなるものである場合、その含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物に含まれる全樹脂成分(つまり無機充填材及び有機溶剤を含まない全成分)に対して0.01~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%がさらに好ましく、0.1~3質量%が特に好ましい。硬化促進剤の含有量をこのような範囲にすることで、硬化性及び保存安定性が良好となる傾向にある。
【0027】
また、本発明の樹脂組成物は、通常の電子機器のプリント配線板用の絶縁樹脂組成物に配合し得る成分を含有してなるものとすることができる。当該成分としては、例えば、熱硬化性樹脂、エラストマー、無機充填材、有機充填材、難燃剤、機能性樹脂、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、密着性向上剤及び有機溶剤等が挙げられる。これらのうちの1種を含有していてもよいし、2種以上を含有していてもよい。
【0028】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
前記エラストマーとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリル、エポキシ変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、フェノール変性ポリブタジエン及びカルボキシ変性アクリロニトリル等が挙げられる。
【0029】
前記無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、マイカ、カオリン、ベーマイト、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー等のクレー、ガラス短繊維、ガラス粉及び中空ガラスビーズ等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0030】
前記有機充填材としては、例えば、シリコーンパウダー、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、並びにポリフェニレンエーテル等の有機物粉末などが挙げられる。
前記難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、リン酸エステル系化合物、ホスファゼン、赤リン等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛等の無機難燃助剤;などが挙げられる。
その他、機能性樹脂、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、密着性向上剤及び有機溶剤等については、通常の電子機器のプリント配線板用の絶縁樹脂組成物に配合し得るものを使用できる。
【0031】
(ビスマレイミド化合物(1)の製造方法)
本発明のビスマレイミド化合物(1)の製造方法は特に制限されるものではないが、以下の製造方法を利用することが、常圧下で実施できる点で工業的に好ましい。
下記一般式(2)
【化10】
(一般式(2)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、炭素数2以上のアルキル基を表す。R
1~R
4は、同一のアルキル基であってもよいし、互いに異なるアルキル基であってもよい。nは、2以上の整数である。)
で示されるジオール化合物を、酸触媒(例えば、硫酸)の存在下でクロロアセトニトリルと反応させることによって、下記一般式(3)
【化11】
(一般式(3)中、R
1~R
4及びnは、前記一般式(2)中のものと同じである。)
で示されるクロロアセトアミド化合物を得る工程[I]、及び
該クロロアセトアミド化合物をチオウレアと反応させることにより、下記一般式(4)
【化12】
(一般式(4)中、R
1~R
4及びnは、前記一般式(2)中のものと同じである。)
で示されるジアミン化合物を製造する工程[II]、
該ジアミン化合物をマレイミド化してビスマレイミド化合物(1)を得る工程[III]、
を有する製造方法。
【0032】
(工程[I])
工程[I]は、前記一般式(2)で示されるジオール化合物[以下、ジオール化合物(2)と称する。]から前記一般式(3)で示されるクロロアセトアミド化合物[以下、クロロアセトアミド化合物(3)と称する。]を得る工程である。
工程[I]で使用するジオール化合物(2)中のR1~R4及びnは、前記一般式(1)中の定義と同じであり、且つ好ましい態様も同じである。
酸触媒としては、強酸が好ましく、硫酸がより好ましい。
酸触媒の使用量としては、特に制限されるものではないが、反応性の観点から、ジオール化合物(2)1モルに対して、好ましくは1~15モル、より好ましくは2~10モルである。
クロロアセトニトリルの使用量としては、特に制限されるものではないが、転化率の観点から、ジオール化合物(2)1モルに対して、好ましくは0.7~10モル、より好ましくは1~7モルである。
工程[I]は、酢酸等の溶媒の存在下に実施することが好ましい。
【0033】
工程[I]の実施態様としては、特に制限されるものではないが、次の実施態様が好ましい。具体的には、ジオール化合物(2)、クロロアセトニトリル及び溶媒を混合した混合液へ、好ましくは5℃以下(より好ましくは-10~5℃、さらに好ましくは-10~0℃)で酸触媒をゆっくり添加(好ましくは滴下)し、添加終了後、得られた反応混合液を常温付近に戻して攪拌を続ける実施態様である。工程[I]は常圧下で実施できる。
酸触媒の添加時間に特に制限は無いが、反応熱によって混合液の温度が急激に高まらないように調整しながらゆっくり添加することが好ましい。好ましくは15分以上かけて酸触媒を添加し、より好ましくは20分以上かけて酸触媒を添加する。
酸触媒の添加終了後、得られた混合液を常温付近、例えば5~40℃(好ましくは10~30℃)に戻してから攪拌を続けて十分に反応をさせる。
反応終了後、例えば、得られた反応溶液を氷水中へ注ぐことによって、クロロアセトアミド化合物(3)が固化する。ろ過等の通常の分離方法によってクロロアセトアミド化合物(3)を分離取得し、適宜、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水等によって洗浄した後、乾燥させることによって、クロロアセトアミド化合物(3)が得られる。
こうして得られるクロロアセトアミド化合物(3)は、必要に応じて、有機化合物の公知の精製手段によって精製することで純度を高めることができる。
【0034】
(工程[II])
工程[II]は、クロロアセトアミド化合物(3)から前記一般式(4)で示されるジアミン化合物[以下、ジアミン化合物(4)と称する。]を得る工程である。
チオウレアの使用量としては、特に制限されるものではないが、転化率の観点から、クロロアセトアミド化合物(3)1モルに対して、好ましくは0.7~10モル、より好ましくは1~7モル、さらに好ましくは1~4モルである。
工程[II]は、溶媒の存在下に実施することが好ましい。溶媒としては、酢酸とエタノールの混合溶媒等が好ましい。
【0035】
工程[II]の実施態様としては、特に制限されるものではないが、次の実施態様が好ましい。具体的には、クロロアセトアミド化合物(3)、チオウレア及び溶媒を混合し、加熱還流して反応させる実施態様である。工程[II]は常圧下で実施できる。
反応終了後、必要に応じて得られた反応溶液を濃縮した後、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液を加えることによって、好ましくは反応溶液のpHを14以上に調整する。次いで、ジエチルエーテル等の抽出溶媒を用いて有機物を抽出し、抽出液を、適宜、飽和食塩水等で洗浄することが好ましい。得られた抽出液を乾燥させることによって、ジアミン化合物(4)が得られる。
こうして得られるジアミン化合物(4)は、必要に応じて、有機化合物の公知の精製手段によって精製することで純度を高めることができる。
【0036】
(ジアミン化合物(4)のその他の製造方法)
上記によるジアミン化合物(4)の製造方法の他にも、前記一般式(2)で示されるジオール化合物を高圧化でアンモニアと反応させることにより、ジアミン化合物(4)を製造することもできる。当該方法を利用する場合には、耐圧設備が必要となる。
また、前記ジオール化合物(2)の代わりに、原料としてジニトロ化合物を使用し、ニトロ基をアミノ基に変換する方法により、ジアミン化合物(4)を製造することもできる。
【0037】
(工程[III])
工程[III]は、ジアミン化合物(4)をマレイミド化する工程である。
ジアミン化合物(4)をマレイミド化する方法は特に制限されず、アミン化合物をマレイミド化する公知の方法を採用することができる。例えば、(i)ジアミン化合物(4)と無水マレイン酸とからマレアミン酸化合物を形成し、該マレアミン酸化合物の脱水閉環イミド化反応を行なう方法、(ii)前記マレアミン酸化合物のモノエステルを閉環イミド化反応させる方法、(iii)ジアミン化合物(4)と無水マレイン酸とを一段階で脱水反応させる方法等が挙げられる。これらの中でも、得られるビスマレイミド(1)の収率及び純度の観点から、方法(i)が好ましい。
【0038】
前記方法(i)を利用したビスマレイミド(1)の製造方法について以下に詳述する。
ジアミン化合物(4)と無水マレイン酸との反応によって、ビスマレイミド(1)の製造における中間体として、下記一般式(5)で示されるマレアミン酸化合物[以下、マレアミン酸化合物(5)と称する。]が得られる。当該反応は常圧下で実施できる。
【0039】
【化13】
(上記式中、R
1~R
4及びnは、前記一般式(2)中のものと同じである。)
【0040】
当該反応は、ジアミン化合物(4)と無水マレイン酸とをゆっくり混合することによって、反応熱によって過剰に温度が上昇することを避けることが好ましい。同様の目的から、反応器を氷浴につけた状態で反応させることも好ましい。
特に制限されるものではないが、ジアミン化合物(4)1モルに対する無水マレイン酸の使用量は、ジアミン化合物(4)を十分に消費させる観点から、好ましくは0.8~10モル、より好ましくは1~5モル、さらに好ましくは1~3モルである。
当該反応は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒の存在下で行なうことが好ましい。
【0041】
前記マレアミン酸化合物(5)が形成された反応混合液を、有機化合物の公知の分離手段によって分離することにより、マレアミン酸化合物(5)を取得できる。例えば、前記マレアミン酸化合物(5)が形成された反応混合液を水中へ流し込むことによって固体を析出させ、該固体をろ取し、適宜乾燥させることによって、マレアミン酸化合物(5)を取得できる。
こうして得られるマレアミン酸化合物(5)は、必要に応じて、有機化合物の公知の精製手段によって精製することで純度を高めることができる。
【0042】
マレアミン酸化合物(5)の好ましい一例としては、下記構造のものが挙げられる。
【化14】
【0043】
こうして得られるマレアミン酸化合物(5)を脱水閉環イミド化反応させることにより、本発明のビスマレイミド化合物(1)が得られる。
脱水閉環イミド化反応の実施方法に特に制限はないが、マレアミン酸化合物(5)を無水酢酸と酢酸ナトリウムの存在下で反応させることによって、マレアミン酸化合物(5)が有する窒素原子がカルボキシル基の炭素原子へ求核反応を開始し、次いで水(H2O)が脱離するため、脱水閉環イミド化反応を実施できる。この場合、酢酸ナトリウムの使用量は、マレアミン酸化合物(5)1モルに対して、好ましくは0.5~3モル、より好ましくは0.7~2モルである。また、反応は、反応溶液を還流させながら実施することが好ましい。
無水酢酸と酢酸ナトリウムの存在下で反応させる方法において、反応終了後、酢酸エチル等の有機溶媒と水とを添加して攪拌し、適宜、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和し、次いで分液をする。水層を酢酸エチル等の有機溶媒で抽出し、全ての有機層を合わせ、それから飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させる。溶媒を留去した後、必要に応じて、有機化合物の公知の精製手段によって精製することで、本発明のビスマレイミド化合物(1)が得られる。当該方法が好ましいが、特にこの方法に制限されるものではない。
【0044】
(原料合成方法)
前記工程[I]で原料として使用するジオール化合物(2)は、下記一般式(A)
【化15】
(一般式(A)中、R
A1及びR
A2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表す。nは、前記一般式(2)中のものと同じである。)
で示されるジアルキルエステル化合物[以下、ジアルキルエステル化合物(A)と称する。]をグリニャール試薬と反応させることによって得ることができる。
【0045】
前記一般式(A)中、RA1及びRA2が表す炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、エチル基がより好ましい。
【0046】
前記原料合成に用いるグリニャール試薬は公知の方法、例えば、ハロゲン化アルキルとマグネシウムとの反応等を利用して調製できる。
グリニャール試薬の調製に用いることができるハロゲン化アルキルとしては、例えば、臭化アルキル、ヨウ化アルキル等が挙げられる。
ハロゲン化アルキルのアルキル基部位は、前記ビスマレイミド化合物(1)及びジオール化合物(2)中のR1~R4に相当する。つまり、ジアルキルエステル化合物(A)にグリニャール試薬を反応させることによって、R1~R4を導入する。この点から、ハロゲン化アルキルのアルキル部位の好ましい態様は、R1~R4に関する前記説明と同様である。
グリニャール試薬の調製方法に特に制限はなく、公知の方法で実施すればよい。例えば、乾燥したマグネシウム粉末に、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の有機溶媒を加え、ハロゲン化アルキルをゆっくりと添加(好ましくは滴下)した後、攪拌を続けることでグリニャール試薬を調製できる。
【0047】
グリニャール反応の終了後、必要に応じて氷浴を用いて反応溶液を冷却した後、塩化アンモニウムを添加してから攪拌を続けると固体が生成する。この固体をろ過等の通常の分離手法によって分離除去してから、有機層へ塩酸を加えて混ぜ、水層をエーテル等の有機溶媒で抽出する。そして、有機層を全て合わせてから、適宜飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水等で洗浄し、得られた有機層を乾燥させた後、有機溶媒を留去することによって、ジオール化合物(2)を得ることができる。
こうして得られるジオール化合物(2)は、必要に応じて、有機化合物の公知の精製手段によって精製することで純度を高めることができる。
【0048】
[プリプレグ]
本発明は、本発明の樹脂組成物を含有してなるプリプレグも提供する。
プリプレグの製造方法に特に制限はなく、公知のプリプレグの製造方法を採用することができる。例えば、樹脂組成物を繊維基材に含浸又は塗布した後、加熱等により半硬化(Bステージ化)させることにより製造してもよく、樹脂組成物を離型フィルムに塗布した後、加熱等により半硬化(Bステージ化)させて樹脂組成物をフィルム状に形成して樹脂フィルムを得、該樹脂フィルムを繊維基材にラミネートすることにより製造してもよい。このように、本発明は、本発明の樹脂組成物を用いて形成される樹脂フィルムも提供する。
半硬化(Bステージ化)させる際の加熱温度は、溶剤除去の工程と同時に行うため、有機溶剤の除去効率が良好である有機溶剤の沸点以上の温度が好ましく、具体的には、好ましくは80~200℃、より好ましくは140~180℃である。
【0049】
プリプレグ全体の厚さは、内層回路の厚さ等に応じて適宜調整すればよいが、成形性及び作業性の観点から、10~700μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、10~250μmがさらに好ましく、10~150μmが特に好ましい。
【0050】
[積層板]
本発明は、本発明のプリプレグを含有してなる積層板も提供する。
具体的には、本発明のプリプレグの両面に回路形成用の金属箔を設置することによって、積層板(金属箔が設置された積層板は、特に金属張積層板と称される。)が得られる。該金属箔の金属としては、銅、金、銀、ニッケル、白金、モリブデン、ルテニウム、アルミニウム、タングステン、鉄、チタン、クロム、又はこれらの金属元素のうちの少なくとも1種を含む合金であることが好ましい。合金としては、銅系合金、アルミニウム系合金、鉄系合金が好ましい。銅系合金としては、銅-ニッケル合金等が挙げられる。鉄系合金としては、鉄-ニッケル合金(42アロイ)等が挙げられる。これらの中でも、金属としては、銅、ニッケル、42アロイがより好ましく、入手容易性及びコストの観点からは、銅がさらに好ましい。金属箔の厚みとしては、特に制限されないが、3~210μmであってもよく、好ましくは5~140μmである。
【0051】
[プリント配線板]
本発明は、本発明のプリプレグ又は本発明の積層板を含有してなるプリント配線板も提供する。
本発明のプリント配線板は、前記金属張積層板に配線パターンを形成することによって、プリント配線板を製造することができる。配線パターンの形成方法としては特に限定されるものではないが、サブトラクティブ法、フルアディティブ法、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)又はモディファイドセミアディティブ法(m-SAP:modified Semi Additive Process)等の公知の方法が挙げられる。
【0052】
[半導体パッケージ]
本発明は、本発明のプリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体パッケージも提供する。本発明の半導体パッケージは、本発明のプリント配線板の所定の位置に、半導体チップ、メモリ等を搭載して製造することができる。
【実施例】
【0053】
次に、下記の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0054】
製造例1〔アジピン酸ジエチルの製造〕
冷却管を取り付けた内容積2Lの三口フラスコにアジピン酸200g及びエタノール1,200mLを加え、0℃で硫酸20mLをゆっくりと加えた。反応溶液を還流させながら終夜撹拌した後、溶液を1/3程度にまで濃縮し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液400mLに反応混合物を徐々に注いだ。pHが中性であることを確認し、水層を酢酸エチル400mLで3回抽出し、全ての有機層を合わせて、飽和炭酸水素ナトリウム600mL、飽和食塩水600mLで洗浄した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥した後、溶媒を留去することで、アジピン酸ジエチル260gを得た。なお、アジピン酸ジエチルの同定は、NMR分析によって行なった。
【0055】
(アジピン酸ジエチルの同定)
1H-NMR(500MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:4.13(q、4H、J=7.3Hz)、2.34-2.31(m、4H)、1.68-1.65(m、4H)、1.26(t、6H、J=7.3Hz)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:177.3、60.2、 33.9、 24.4、 14.2
【0056】
製造例2〔4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジオールの製造〕
玉栓、冷却管、滴下ロート及び三方コックを取り付けた内容積5Lの三口フラスコに、マグネシウム107gを加えてよく乾燥させた。窒素置換をしたのち、乾燥したテトラヒドロフラン(THF)300mLをマグネシウムの表面が隠れるぐらいまで加えた後、臭化プロピル20mLを加え、グリニャール反応の開始を確認した。
THF1,700mLを加えた後、臭化プロピル364mLを穏やかに還流する程度の速度で滴下した。滴下終了後、反応溶液を還流しながら終夜撹拌した。
水浴を用いて反応溶液を室温に冷やし、製造例1で合成したアジピン酸ジエチル133mLを1時間かけて滴下した。滴下終了後、反応溶液を還流しながら終夜撹拌した。反応終了後、氷浴を用いて反応溶液を冷却した後、塩化アンモニウム200mLを加え、反応溶液に固体が生成するまでよく撹拌した。固体を吸引ろ過で濾別し、得られた有機層に1N塩酸2,000mLを加えて水層と有機層とに分離させ、水層をエーテル1,000mLで2回抽出した。得られた有機層を合わせて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液2,000mL及び飽和食塩水2,000mLで洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、有機溶媒を留去することで、4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジオール155gを得た。なお、4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジオールの同定は、NMR分析によって行なった。
【0057】
(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジオールの同定)
1H-NMR(500MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:1.43-1.36(m、6H)、1.32-1.25(m、6H)、0.90(t、6H、J=8.0Hz)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:74.4、41.7、 39.2、 24.1、 16.7、 14.7
【0058】
実施例1
(工程[I])
フラスコに、製造例2で得た4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジオール29g、クロロアセトニトリル25mL、酢酸50mLを加え、フラスコを氷浴につけてから、硫酸32mLを30分かけて滴下した。滴下終了後、溶液を室温に戻し、終夜撹拌した。
反応終了後、氷水400mL中に反応溶液を注ぎ、生成した固体を吸引ろ過した。得られた固体を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液200mLで2回、水200mLで2回洗浄し、空気中で2日乾燥して、N,N’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(2-クロロアセトアミド)34gを得た。なお、生成物の同定は、NMR分析によって行なった。
【0059】
(N,N’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(2-クロロアセトアミド)の同定)
1H-NMR(500MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:5.99(br、2H)、3.91(s、4H)、1.70-1.60(m、12H)、1.25-1.19(m、12H)、0.90(t、12H、J=6.0Hz)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:164.4、59.6、 42.9、 37.7、 35.3、 23.7、16.5、 14.4
【0060】
(工程[II])
フラスコに上記工程[I]で製造したN,N’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(2-クロロアセトアミド)25g、チオウレア10g、エタノール350mL及び酢酸70mLを加え、一昼夜、加熱還流した。
反応終了後、1/3まで加熱濃縮を行い、6N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを14以上にした。その後、ジエチルエーテル250mLで3回有機物を抽出し、抽出液を合わせて飽和食塩水500mLで3回洗浄した。抽出液を固体の水酸化ナトリウムで乾燥後、溶液を除去することで、4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジアミン15gを得た。なお、生成物の同定は、NMR分析によって行なった。
【0061】
(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジアミンの同定)
1H-NMR(500MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:1.20-1.18(m、28H)、0.89-0.08(m、12H)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:53.6、42.7、 40.3、 23.2、 16.7、 14.8
【0062】
(工程[III];前記方法(i))
(1)ジアミン化合物(4)からマレアミン酸化合物(5)の製造
乾燥した2口フラスコに玉栓及び三方コックを取り付け、窒素置換した。そこに、4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジアミン10gと乾燥したDMF40mLを加えた。2口フラスコを氷浴につけてから、無水マレイン酸7g加え、終夜撹拌させた。
反応終了後、ビーカーに水500mLを用意し、そこへ反応混合物を流し込み、1時間撹拌した。固体を吸引濾過し、水50mLによって6回洗浄した。80℃のホットプレート上で終夜乾燥させ、下記構造の(2Z,2’Z)-4,4’-((4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(アザンジイル))ビス(4-オキソ-2-ブテン酸)15gを得た。なお、生成物の同定は、NMR分析によって行なった。
【化16】
【0063】
((2Z,2’Z)-4,4’-((4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(アザンジイル))ビス(4-オキソ-2-ブテン酸)の同定)
1H-NMR(500MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:8.40(s,2H)、6.44(d,2H,J=12.5Hz)、6.18(d,2H,J=12.5Hz)、3.39(br,2H)、1.56-1.59(m,12H)、1.12-1.17(m,12H)、0.82-0.87(t,12H,J=7.1Hz)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:165.6、165.0、 133.1、 132.8、 59.8、 36.6、34.1、 23.1、 16.0、 14.4
【0064】
(2)マレアミン酸化合物(5)からビスマレイミド(1)の製造
乾燥させた3口フラスコに、冷却管、玉栓及び三方コックを取り付け、窒素置換した。次に、(2Z,2’Z)-4,4’-((4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(アザンジイル))ビス(4-オキソ-2-ブテン酸)5gと無水酢酸50mL及び酢酸ナトリウム820mgを加え、還流条件下で終夜撹拌した。
反応終了後、水50mLと酢酸エチル50mLとを加え、30分撹拌させた。撹拌後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mLを加え、10分程撹拌させ、分液を行った。水層を酢酸エチル50mLによって2回抽出し、有機層を全て合わせて、飽和炭酸水素ナトリウム50mL、飽和食塩水50mLで順に洗浄した。その後、得られた有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、乾燥させた。溶媒を留去し、残渣をヘキサン200mLで数回洗浄した後、ショートカラム(シリカゲル約40g、ヘキサン:酢酸エチル=8:2、約800mL)を行い、粗1,1’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)を得た。溶媒を留去し、得られた固体にヘキサン200mLを加え、終夜撹拌させた。固体を濾過した後、デシケーターで乾燥させることで、下記構造の1,1’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)1gを得た。なお、生成物の同定は、NMR分析によって行なった。
【化17】
【0065】
(1,1’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)の同定)
1H-NMR(500MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:6.48(s,4H)、1.96-1.93(m,12H)、1.21-1.15(m,12H)、0.89(t,12H,J=7.4Hz)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:173.0、133.6、 67.7、 36.6、 34.4、 31.6、24.1、 17.0、 14.4
【0066】
以上の様にして得たビスマレイミド化合物(1)に相当する1,1’-(4,9-ジプロピルドデカン-4,9-ジイル)ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)6.0gと、アミン化合物である3,3'-ジエチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン(日本化薬株式会社製)3.6gと、過酸化物として(1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、日油株式会社製)0.06gとを、乳鉢を用いて室温で10分間混ぜて樹脂組成物を得た。
(誘電特性の評価方法)
下側に銅箔を配置した厚さ1mmのテフロン(登録商標)板であって、長さ15cm及び幅5cmがくり抜かれたテフロン(登録商標)板のそのくり抜かれた部分に前記樹脂組成物を入れ、その上に銅箔を配置した。その後、230℃、60分、1.0MPaのプレス条件で成型し、両側の銅箔を過硫酸アンモニウムで除去することによって、評価用樹脂板を作製した。
該評価用樹脂板を長さ100mm及び幅2mmに切り出し、ネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジーA株式会社製、商品名:E8364B)と1GHz用空洞共振器(株式会社関東電子応用開発製)を用いて、空洞共振摂動法にて1GHzの比誘電率を測定した。比誘電率が低いほど、誘電特性に優れることを示す。結果を表1に示す。
【0067】
比較例1
ビスマレイミド化合物「BMI」(4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ケイ・アイ化成株式会社製)5.0gと、アミン化合物として3,3'-ジエチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン(日本化薬株式会社製)3.7gと、有機過酸化物として(1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、日油株式会社製)0.05gを、乳鉢を用いて室温で10分間混ぜて樹脂組成物を得た。この際、ビスマレイミド化合物とアミン化合物の前記混合量は、実施例1で使用したビスマレイミド化合物(1)とアミン化合物の官能基の当量比とほぼ同じになるように調整されたものである。
該樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして誘電特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1より、実施例1の樹脂組成物では、比較例1の樹脂組成物よりも比誘電率が小さくなった。誘電正接についても同様の傾向になるものと推察される。
比較例1で用いたビスマレイミドよりも、本発明のビスマレイミド化合物(1)の自由体積が大きいことが、このような結果が得られた一因であると考える。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のビスマレイミド化合物(1)を用いると誘電特性を向上させることができるため、プリント配線板及び半導体パッケージの材料として有用である。